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審決分類 審判 判定   属する(申立成立) H7
管理番号 1334440 
判定請求番号 判定2017-600026
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 判定 
判定請求日 2017-07-03 
確定日 2017-11-06 
意匠に係る物品 インクカートリッジ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1514611号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「インクカートリッジ」の意匠は,登録第1514611号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び,理由

1.請求の趣旨
判定請求人は,「イ号意匠及び,その説明書に示す意匠は,登録第1514611号意匠及び,これに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,以下の通り主張した。

2.請求の理由

(1)判定請求の必要性
本件判定請求人(セイコーエプソン株式会社)は,本件判定請求に係る登録意匠「インクカートリッジ」(別紙1,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
請求人は,イ号意匠に係るインクカートリッジが国内で販売され請求人の意匠権が侵害されているとの認識に至り,その救済のための手段を検討中であるが,侵害の成否をめぐって被請求人との対立が予想されるため,特許庁による判定を求める。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成24年(2012年) 1月12日(意願2014-8709)

登録査定 平成26年(2014年)11月 7日

設定登録 平成26年(2014年)11月28日(登録第1514611号)

公報発行 平成27年(2015年)1月5日

判定請求 平成29年(2017年) 7月 3日

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,登録第1514611号の願書及び,図面に記載のとおり,意匠に係る物品を「インクカートリッジ」とし,実線で表された部分を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本件部分」という。)としたものである。

ア 本件部分の用途及び,機能について
本件部分は,インクカートリッジの筐体の外郭及び,外郭近傍の一部分であって,インクカートリッジ正面・背面視における上辺の外郭形状と,基板設置部側の一側辺の外郭形状を概ね決するものである。

イ 本件部分の位置,大きさ,範囲について
本件部分は筐体の正面及び,背面の外縁部と,外縁部よりやや内側に入ったところに位置しており,より詳細には下記(ア)?(カ)を含む細幅状の範囲を占めている。
(ア)筐体の正面右縁部及び,背面左縁部のうち上部略1/5を占める部分,
(イ)同正面上縁部及び,背面上縁部の全長に渡る部分,
(ウ)同正面上縁部及び,背面右縁部のうち上部略4/7を占める部分,
(エ)(ウ)の下方かつ,筐体表面と,それより一段奥まった位置に形成された基板設置部との境界部であって,筐体全高の略2/7を占める部分,
(オ)(エ)の下端から下方に続く部分であって,筐体全高の略1/7を占める部分,
(カ)同正面下縁左部及び,背面下縁右部において,筐体全長の略1/13を占める部分。

ウ 本件部分の形態等について
本件部分は,以下の態様を備えている。
(あ)上記(ア)は,細幅の垂直直線状をなすものであって,上記(イ)に対し直角に形成されている。
(い)(イ)は,細幅の水平直線状をなす。
(う)上記(ウ)は,細幅の垂直直線状をなすものであって,(イ)に対し直角に形成されている(以下「第1垂直部」という。)。
(え)上記(エ)は,細幅の傾斜直線状をなすものであって,(ウ)との交角が鈍角をなすように形成されている(以下,「傾斜部」という。)。
(お)上記(オ)は,細幅の垂直直線状をなし,(エ)との交角が鈍角をなすように形成されている(以下「第2垂直部」という。)。
(か)上記(カ)は,細幅の水平直線状をなすものであって,(オ)に対し直角に形成されている。
(き)第2垂直部は,第1垂直部及び,傾斜部よりも短く形成されている。
(く)(ア)?(カ)について,図面上,色彩は施されていない。また願書及び,図面中に,素材(透光性等)に関する言及はない。

(4)イ号意匠の説明
イ号意匠は,別紙2の写真に示すとおりであり,意匠に係る物品は「インクカートリッジ」である。

ア イ号意匠における本件部分に相当する部分の認定
イ号意匠における本件部分に相当する部分(以下「本件相当部分」という。)は,下記(A)?(F)と認定できる。
(A)は,筺体の正面右縁部及び,背面左縁部のうち上部略1/ 5を占める部分であって,本件部分の(ア)の幅に相当する幅を有する部分である。
(B)は,筺体の正面上縁部及び,背面上縁部の全長に渡る部分であって,本件部分の(イ)の幅に相当する幅を有する部分である。
(C)は,筺体の正面左縁部及び,背面右縁部のうち上部略4/7を占める部分であって,本件部分の「第1垂直部」の幅に相当する幅を有する部分である。
(D)は,上記(C)の下方かつ,基板表面と,それより一段奥まった位置に形成された基板設置部との境界部であって,筺体全高の略2/7を占め,本件部分の「傾斜部」の幅に相当する幅を有する部分である。
(E)は,上記(D)の下端から下方に続く部分であって,筺体全高の略1/7を占め,本件部分の「第2垂直部」の幅に相当する幅を有する部分である。
(F)は,筺体の正面下縁左部及び,背面下縁右部において,筺体全長の略1/13を占める部分であって,本件部分の(カ)の幅に相当する幅を有する部分である。

イ 本件相当部分の用途及び,機能について
本件相当部分は,インクカートリッジの筺体の外郭及び,外郭近傍の一部分であって,インクカートリッジ正面・背面視における上辺の外郭形状と,基板設置部側の一側辺の外郭形状を概ね決するものである。
なお,上記(B)に形成された凹部は,近傍にある鈎状突出部を操作する際に指を引っ掛けやすくする効果があると考えられる。

ウ 本件相当部分の形態等について
本件相当部分は,以下の態様を備えている。

(a)上記(A)は細幅の垂直直線状をなすものであって,上記(B)に対し直角に形成されている。
(b)(B)は,正面左端部及び,背面右端部近傍に略円弧状の凹部が形成されており,その他の部分は細幅の水平直線状をなしている。なお当該凹部と水平直線状部の間には細いスリットが形成されている。
(c)上記(C)は,細幅の垂直直線状をなすものであって,(B)に対し直角に形成されている。なお上端部近傍には小孔が形成されている。
(d)上記(D)は,細幅の傾斜直線状をなすものであって,(C)との交角が鈍角をなすように形成されている。
(e)上記(E)は,細幅の垂直直線状をなし,(D)との交角が鈍角をなすように形成されている。
(f)上記(F)は,細幅の水平直線状をなすものであって,(E)に対し直角に形成されている。
(g)(E)は,(C)及び,(D)よりも短く形成されている。
(h)(A)?(F)は,乳白色で透光性を有している。

(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 意匠に係る物品について
両意匠は,意匠に係る物品が「インクカートリッジ」で一致している。なお,イ号意匠においては,筺体下部にカバーを有しているが,いずれも「インクカートリッジ」としての機能及び,用途を有する点に相違はなく,物品の類否を左右するものではない。

イ 本件部分及び,本件相当部分の機能及び,用途について
共通点:本件部分及び,本件相当部分(以下「当該部分」という)の機能及び,用途について,両部分は,インクカートリッジ正面・背面視における上辺外郭形状と,基板設置部側の一側辺の外郭形状を概ね決するものである点において共通している。

差異点:本件相当部分に形成された凹部が近傍にある鈎状突出部を操作する際に指を引っ掛けやすくする効果かおるのに対し,本件部分にはこれに相当する効果を有する部分がない。

ウ 当該部分の位置,大きさ,範囲について
両意匠は,当該部分の位置,大きさ,範囲において共通している。イ号意匠は本件部分を,ほぼそのまま含んでいる。

エ 当該部分の形態について
当該部分の形態について,下記の共通点,差異点が認められる。
共通点
共通点1:(A)について,細幅の垂直直線状をなすものであって,(B)に対し直角に形成されている点。
共通点2:(B)について,細幅の水平直線状部を有する点。
共通点3:(C)について,細幅の垂直直線状部を有し,(B)に対し直角に形成されている点。
共通点4:(D)について,細幅の傾斜直線状をなすものであって,(C)との交角が鈍角をなすように形成されている点。
共通点5:(E)について,細幅の垂直直線状をなし,(D)との交角が鈍角をなすように形成されている点。
共通点6:(F)について,細幅の水平直線状をなすものであって,(E)に対し直角に形成されている点。
共通点7:(E)が,(C)及び,(D)よりもそれぞれ短く形成されている点。

差異点
差異点1:本件部分は,(イ)が全体として細幅の水平直線状をなすのに対し,本件相当部分(B)のうち正面左端部及び,背面右端部近傍に略円弧状の凹部が形成され,当該凹部と水平直線状部の間に細いスリットが形成されている点。
差異点2:本件部分は,(ウ)に孔等は形成されていないのに対し,本件相当部分(C)の上端部近傍には小孔が形成されている点。
なお,本件部分は,(ア)?(カ)に,図面上,色彩は施されておらず,また,願書及び,図面において素材(透光性等)に関する言及がないのに対し,本件相当部分の(A)?(F)は,乳白色で透光性を有している。

(6)イ号意匠が本件登録意匠及び,これに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
ア 本件登録意匠に関する先行周辺意匠
本件登録意匠の出願前には,下記の登録意匠(公報)が公知であった。
・意匠登録第1307477号(甲第1号証)
・意匠登録第1310065号(甲第2号証)
・意匠登録第1333613号(甲第3号証)
・意匠登録第1354469号(甲第4号証)
・意匠登録第1306719号(甲第5号証)
また先願意匠として下記の意匠が存在していた。
・意匠登録第1440867号(甲第6号証)
(なお資料1として,甲第1?4号証及び,甲第6号証の代表図の一覧を提出する)

イ 本件登録意匠の要部
本件登録意匠と,上記の公知意匠,先願意匠(甲第1?6号証)とを対比すると,下記の態様が,従来にはない新規なものであると認められる。

横長箱形状の一隅を斜めに切り欠いて基板設置部を設けたカートリッジの筺体において,筺体正面及び筺体背面における基板設置部が設けられた側の側部に,「第1垂直部(ウ)」,「傾斜部(エ)」,「第2垂直部(オ)」が,互いの交角が鈍角をなすように組み合わされ,それら全体がクランクS字状のエッジラインを形成し,「第1垂直部」は筺体正面及び筺体背面の側辺のラインをなし,「傾斜部」は基板設置部の内側において,基板設置面と略平行なラインをなし,「第2垂直部」は「第1垂直部」及び,「傾斜部」よりも短いラインをなす態様。

筺体正面及び筺体背面の側部の形態は,需要者によるインクカートリッジの外郭像の認識を左右する重要な部分であるから,そのような部分に設けられるエッジラインは,需要者の注意を強く惹く部分となる。
また,このエッジラインは,プリンターとのインターフェースとなる基板設置部の近傍に設けられるものであることから,より需要者の注意を惹きやすい部分である。
以上より,上記の態様が,本件登録意匠全体の基調を決する要部であるというべきである。

ウ 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
両意匠の共通点について
・当該部分の位置,大きさ,範囲について
上記のとおりイ号意匠は本件部分を,ほぼそのまま含んでおり,当該部分の位置,大きさ,範囲の共通性は極めて顕著であって,この点が類否判断に与える影響は大きいというべきである。

・当該部分の機能及び用途について
当該部分の機能及び用途のうち,インクカートリッジ正面・背面視における上辺外郭形状と,基板設置部側の一側辺の外郭形状を概ね決するという点の共通性は,インクカートリッジの外観形状を特徴付けるものであって,当該部分の主たる役割といえることから,類否判断において重視すべきである。

・当該部分の形態について
共通点1?7は,インクカートリッジ正面・背面視における上辺と,基板設置部側の側辺の外郭形状を概ね決する部分であって,需要者の注意を惹き,両意匠の骨格的形態に強い共通性を付与するものである。
よって,共通点1?7は両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
とりわけ共通点3?5は,本件登録意匠の要部をなすクランクS字状のエッジラインを形成するものであって,新規かつ視覚的に顕著なものであり,需要者の注意を強く惹くことから,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

両意匠の差異点について
・当該部分の位置,大きさ,範囲について
当該部分の位置,大きさ,範囲について差異点は認められない。

・当該部分の機能及び用途について
当該部分に形成された凹部により指を引っ掛けやすくする効果の有無は,当該部分全体として見た場合に,限られた一部分における付加的なものに過ぎないものであって,類否判断に与える影響は微弱である。

・当該部分の形態について
差異点1及び,差異点2は,限られた一部分における軽微な差異に過ぎないものであって,上記共通点のもとに埋没し,両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
なお,色彩に関しては,本件登録意匠のような無着色の線図で表された意匠は,色を限定していない意匠と把握すべきであり,かかる意匠との対比で,色は実質的差異といえないと解すべきである(平成24年(ワ)3162等)。
透光性については,本件登録意匠は願書及び図面において素材に関して何ら言及しておらず素材を特定したものではない。さらに,第5号証に一例を示すように,この種のインクカートリッジにおいては,筺体に透明素材を用いたものが従来から知られていることから,イ号意匠において透光素材を用いた点は特段新規な特徴となるものではない。
以上より,色彩及び素材は,本件の類否判断において考慮されるべきではない。

両意匠の類否
以上に述べたとおり,共通点が本件登録意匠の要部にあたり,両意匠に強い共通感を付与しているのに対し,差異点はいずれも軽微な要素に過ぎない。
よって,両意匠を全体的に対比観察した場合,共通点が差異点を遥かに凌駕し,需要者の視覚を通じて共通の美感を与えており,イ号意匠は本件登録意匠に類似するというべきである。

(7)むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

(8)証拠方法
・甲第1号証:意匠登録第1307477号の公報
・甲第2号証:意匠登録第1310065号の公報
・甲第3号証:意匠登録第1333613号の公報
・甲第4号証:意匠登録第1354469号の公報
・甲第5号証:意匠登録第1306719号の公報
・甲第6号証 意匠登録第1440867号の公報
・甲第7号証 意匠登録第1447367号の公報
・甲第8号証 意匠登録第1458503号の公報

第2 判定被請求人の答弁
特許庁より被請求人に対し,平成29年8月10日に判定請求書を送達し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,被請求人からの応答はなかった。

第3 当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1514611号)は,願書及び,願書に添付された図面の記載によれば,意匠に係る物品を「インクカートリッジ」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)を,願書及び,願書に添付した図面に表されたとおりとしたもので,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本件部分」という。)を実線で,それ以外を破線で表している。一点鎖線は意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分の境界のみを示すものである。」としたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)本件部分の形態
本件部分は,正面視,横長長方形状の下端部左隅を斜めに切り欠いた扁平な筺体の,正背面部の周縁の部分であって,
具体的には,正面部においては,右辺上端部から反時計回りに,左辺の左下隅部を外周縁のやや内側として下辺左隅部まで連続する周縁部とし,背面部においては,左辺上端部から時計回りに下辺右隅部まで連続する周縁部であって,
ア 右辺上端部は,右辺全体の高さの約5分の1の高さとし,
イ 上辺は,上辺全体とし,
ウ 左辺は,上端部から左辺全体の高さの約半分の高さまで垂下し,その下端部を約125度の角度に屈曲して左辺全体の高さの約8割の高さまで延ばし,その端部を再び下端部まで垂下させ,全体として略クランク状に屈曲したものとし,
エ 下辺左隅部は,下辺全体の長さの約12分の1の長さとしたものである。

また,背面部の本件部分については,正面部の本件部分を左右反転した形態である。

なお,本件部分は,正面部の上辺左端部と左辺上端部の接する角部周辺の稜線部及び,背面部の上辺右端部と右辺上端部の接する角部周辺の稜線部が,それぞれ破線で表され,1つの閉じられた領域で表されていないものであるが,本件登録意匠の,意匠の説明中の「登録を受けようとする部分を示す参考図において、薄墨を施した部分が、部分意匠として登録を受けようとする部分である。」との説明と,添付図面の「登録を受けようとする部分を示す参考図」により,本件部分は,この通りのものと推認しても差し支えないものであるから,上記の通り本件部分の形態を認定する。

2.イ号意匠
本件判定請求の対象であるイ号意匠は,判定請求書と同時に提出された別紙2のイ号意匠の写真の写しにより示されたものであって,意匠に係る物品は「インクカートリッジ」であると認められ,その形態を,イ号意匠の写真の写しにより表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第2参照)
なお,本件部分と対比され,類否判断の対象になるイ号意匠の部分は,イ号意匠における本件部分に相当する部分(以下「イ号部分」という。)であり,イ号部分の形態は,請求人が提出したイ号意匠の写真に現されたとおりのものである

(1)イ号部分の形態
イ号部分は,正面視,横長長方形状の下端部左隅を斜めに切り欠いた扁平な筺体の,正背面部の周縁の部分であって,
具体的には,正面部においては,右辺上端部から反時計回りに,左辺の左下隅部を外周縁のやや内側として下辺左隅部まで連続する周縁部とし,背面部においては,左辺上端部から時計回りに下辺右隅部まで連続する周縁部であって,
ア 右辺上端部は,右辺全体の高さの約5分の1の高さとし,
イ 上辺は,上辺全体であって,左端部から,全体の約9分の1の長さの位置に,小さな切り込みを1つ形成し,その左側を略湾曲状に凹ませたものとし,
ウ 左辺は,上端部から左辺全体の高さの約半分の高さまで垂下し,その下端部を約125度の角度に屈曲して左辺全体の高さの約8割の高さまで延ばし,その端部を再び下端部まで垂下させ,全体として略クランク状に屈曲したものとし,さらに,上端部近傍に横長長円形状のスリットの一部が含まれたものとし,
エ 下辺左隅部は,下辺全体の長さの約12分の1の長さとしたものである。

また,背面部のイ号部分については,正面部の本件部分を左右反転した形態である。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠は「インクカートリッジ」であり,イ号意匠も「インクカートリッジ」であるから,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。

(2)本件部分とイ号部分の用途及び,機能並びに,位置,大きさ及び,範囲
本件部分とイ号部分(以下「両部分」という。)は,正面視,横長長方形状の下端部左隅を斜めに切り欠いた扁平な筺体の,正背面部の周縁の部分であって,正面部においては,右辺上端部から反時計回りに下辺左隅部まで連続する周縁部と,背面部においては,左辺上端部から時計回りに下辺右隅部まで連続する周縁部であって,イ号部分も同様であるので,両部分の用途及び,機能並びに,位置,大きさ及び,範囲は共通する。

(3)両部分の形態
両部分の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点がある。

ア 共通点
両部分は,正面視,横長長方形状の下端部左隅を斜めに切り欠いた扁平な筺体の,正背面部の周縁の部分であって,正面部においては,右辺上端部から反時計回りに,左辺の左下隅部を外周縁のやや内側として下辺左隅部まで連続する周縁部とし,
(ア)右辺上端部は,右辺全体の高さの約5分の1の高さである点,
(イ)上辺は,上辺全体である点,
(ウ)左辺は,上端部から左辺全体の高さの約半分の高さまで垂下し,その下端部を約125度の角度に屈曲して左辺全体の高さの約8割の高さまで延ばし,その端部を再び下端部まで垂下させ,全体として略クランク状に屈曲したものである点,
(エ)下辺左隅部は,下辺全体の長さの約12分の1の長さとしたものである点。

また,背面部についても,正面部を左右反転した形態であるから,同様である。

イ 差異点
一方,両部分には,以下の差異点がある。

正面部については,
(あ)上辺について,本件部分は,水平な直線状であるのに対し,イ号部分は,左端部から,全体の約9分の1の長さの位置に,小さな切り込みを1つ形成したものである点,
(い)上辺について,本件部分は,水平な直線状であるのに対し,イ号部分は,左端部近くを略湾曲状に凹ませたものである点,
(う)左辺について,本件部分は,直線状で何も形成していないのに対し,イ号部分は,上端部近傍に横長長円形状のスリットの一部が含まれたものである点。

また,背面部についても,正面部を左右反転した形態であるから,同様である。

4.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
(1)意匠に係る物品
両意匠は,共に「インクカートリッジ」であるから,意匠に係る物品は,一致する。

(2)両部分の用途及び,機能並びに位置,大きさ及び,範囲
前記認定したとおり,両部分の用途及び,機能並びに位置,大きさ及び,範囲は共通する。

(3)両部分の形態の評価
ア 共通点の評価
共通点について,上記3.(3)アに記載のとおり,正面部においては,右辺上端部から反時計回りに,左辺の左下隅部を外周縁のやや内側として下辺左隅部まで連続する周縁部であって,具体的な点として,(ア)ないし(エ)において共通し,背面部においても同様であり,これらは,両部分全体に亘る共通点であり,両部分を重ね合わせるとほぼ一致するもので,とりわけ,(ウ)の左辺を,全体として略クランク状に屈曲したものである点は,先行意匠には見られない両部分のみの特徴であり,看者が特に注意を惹くというべきであるから,この共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。

イ 差異点の評価
まず,上記3.(3)イに記載の,正面部(あ)について,すなわち,本件部分の上辺は,水平な直線状であるのに対し,イ号部分の上辺は,左端部から,全体の約9分の1の長さの位置に,小さな切り込みを1つ形成したものである点は,背面部も同様であって,この切り込み自体が極小さなものであり,さほど目立つものではなく,両部分を全体として観察した際に,共に上辺を水平状とした中に包摂される程度の微弱な差異というべきであるから,この差異点が,両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。

次に,同,正面部(い)について,すなわち,本件部分の上辺は,水平な直線状であるのに対し,イ号部分の上辺は,左端部近くを略湾曲状に凹ませたものである点は,背面部も同様であって,イ号意匠のように,上辺の端部近くを略湾曲状に凹ませた態様のものが,この物品分野において既に存在しているところであるから(参考意匠:日本国特許庁発行の意匠公報(発行日:平成16年(2004年)2月16日)に掲載された,意匠登録第1197347号(意匠に係る物品,プリンター用インクタンク),別紙第3参照),この態様をイ号意匠のみがもつ特徴であると高く評価することはできず,この差異が両意匠の印象を大きく異ならせているとまではいえないので,この差異点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

さらに,同,正面部(う)について,すなわち,正面部の左辺において,本件部分は,直線状で何も形成していないのに対し,イ号部分は,上端部近傍に横長長円形状のスリットの一部が含まれたものである点についてであるが,イ号部分は,筐体に形成される横長長円形状のスリットが,当該部位を横断して小孔状に現れているにすぎず,この差異は,背面部も同様であって,辺全体を,略クランク状に屈曲した共通する態様に埋没する程度の僅かな差異にとどまるものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

なお,本件登録意匠は,線図により表された形状のみの意匠であり,イ号意匠は,乳白色の透光性を有する意匠と認められるところ,本件登録意匠は,色彩を限定しない意匠と解されるものであるから,色彩の有無については,両意匠の差異点には該当せず,検討から除外する。

5.小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,両部分の用途及び,機能,並びに位置,大きさ,及び,範囲も共通するものであり,両部分の形態においても,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいのに対して,差異点が相まって生じる視覚的効果を考慮しても,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点が与える共通の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本件登録意匠とイ号意匠は類似するものである。

第5 むすび

以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって,結論のとおり判定する
別掲
判定日 2017-10-26 
出願番号 意願2014-8709(D2014-8709) 
審決分類 D 1 2・ 2- YA (H7)
最終処分 成立 
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 江塚 尚弘
内藤 弘樹
登録日 2014-11-28 
登録番号 意匠登録第1514611号(D1514611) 
代理人 仲井 智至 
代理人 西田 圭介 
代理人 渡辺 和昭 
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