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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) B1
管理番号 1336223 
判定請求番号 判定2017-600025
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 判定 
判定請求日 2017-06-30 
確定日 2018-01-19 
意匠に係る物品 作業用上衣 
事件の表示 上記当事者間の登録第1551951号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面代用写真及びその説明により示された「作業用上衣」の意匠は,登録第1551951号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
請求人(以下「請求人」という。)は,イ号意匠(判定請求書のイ号意匠の図面及び説明により示された意匠)は,登録第1551951号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,甲第1ないし18号証及び添付書類として本件登録意匠の原簿謄本を提出した。

1 判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「作業用上衣」(登録第1551951号,意匠登録原簿謄本,甲第1号証参照,以下「本件登録意匠」という)の意匠権者である。
請求人は,平成29年3月7日付で株式会社KAZEN東京に対して該会社が現在販売しているイ号意匠(甲第2号証)の「レディススクラブ」 (品番058-28,以下「イ号物件」という)が登録第1537394号意匠の意匠権を侵害するおそれがある旨の照会書(甲第3号証)を送付したが,株式会社KAZEN東京が属するグループの一会社である株式会社アプロンワールドより平成29年3月14日付けで回答がなされ,その後の回答も全て該会社によりなされた(甲第4号証)。
したがって,株式会社KAZEN東京は,株式会社アプロンワールドの指示の下,イ号物品を販売していると見受けられるため,本件において,株式会社アプロンワールドを本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)とした。
請求人は,平成29年4月18日付け第3照会書でイ号意匠が本件登録意匠と同一又は類似する旨主張したが(甲第5号証),結局,被請求人は平成29年6月12日付け書簡において,意匠の類否判断につきセカンドオピニオン,サードオピニオンで確認するよう提案があったため(甲第6号証),特許庁による判定を求めた次第である。

2 本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成27年(2015)11月 5日(意願2015-24726号)
登録 平成28年(2016) 5月13日(登録第1551951号)

3 本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「作業用上衣」とし,該物品は主に看護師等の医療従事者が着用するものであり,その構成態様は以下のとおりである(甲第7号証参照)。
(1)基本的構成態様
首元をV字状とし,首回り1の中程やや下方から衿2を有する前あき半袖の上衣であり,前あき部に正面視,縦線状に表れてなる袷部3,その内側にスライドファスナーを設け,該袷部の上端に2個のボタン4,4を配してなるものである。
(2)具体的構成態様
(ア)衿2のうち,正面視,右衿部2aはボタン4,4を起点として円弧状にカーブした後,やや右寄りに傾斜して直線状に右肩へのび,背中側で衿部2bが水平方向に帯状に表れ,左衿部2cは線Lを中心に2つボタンと左右対称の位置を起点として円弧状にカーブした後,やや左寄りに傾斜して直線状に左肩へのびるものである。
(イ)衿2には,その縁部に紐状のライン5,5を一体的に設けている。
(ウ)正面視,両袖の下方からそれぞれ2本のライン6,6が一旦,円弧状に窄まり,その後,ほぼ平行に裾まで直線状に表れてなる。
(エ)正面視,下方左右両側に腰ポケット7,7,右袖近傍に胸ポケット8,左腰ポケット上方近傍にサイドポケット9,左脇下に脇ポケット10をそれぞれ設けてなる。
(オ)背面視,両袖の下方からそれぞれ2本のライン11,11が一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れ,該ラインと脇身頃で囲まれた範囲の全面に細かいドット模様を表してなると共に,右脇身頃中程にループ13を設けてなる。

4 イ号意匠の説明
イ号意匠は,意匠に係る物品を「作業用上衣」の一種である「レディススクラブ」とし,該物品は女性看護師が着用するものであり,その構成態様は以下のとおりである(甲第7号証)。
(1)基本的構成態様
首元をV字状とし,首回り14の中程やや下方から衿15を有する前あき半袖の上衣であり,前あき部に正面視,縦線状に表れてなる袷部16,その内側にスライドファスナーを設け,該袷部の上端に2個のボタン17,17を配してなるものである。
(2)具体的構成態様
(ア)衿15のうち,右衿部15aはボタン17,17を起点として緩やかな円弧状にカーブした後,やや右寄りに傾斜して直線状に右肩へのび,背中側で衿部15bが水平方向に帯状に表れ,左衿部15cは線Lを中心に2つボタン17,17と左右対称の位置を起点として緩やかな円弧状にカープした後,やや左寄りに傾斜して直線状に左肩へのびるものである。
(イ)衿15には,その縁部に上衣の生地色(白)とは異なる深い紺色の紐状ライン18,18を一体的に設けてなる。
(ウ)首元には,そのV字状のカット部を覆う下向き三角形状の胸あて部19を設け,該胸当て部は上衣の生地色(白)と異なる深い紺色をしてなる。
(エ)正面視,下方左右両側に腰ポケット20,20を,右袖近傍に胸ポケット21,左袖右横にも胸ポケット22を設けてなる。
(オ)正面視,両袖の下方からそれぞれ2本の縫い目が垂下し,両腰ポケットで隠れた後,該ポケットの下辺から裾まで直線状に表れ,且つ該縫い目に沿って両袖下と両腰ポケットの間の脇身頃で,帯状部23,23が表れ,該帯状部は上衣の生地色(白)と異なる深い紺色をしてなる。
(カ)背面視,両袖の下方から2本の縫い目24,24が一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れ,且つ左右脇身頃に背骨に向かつて山形状に向き合い,その下端が腰ポケットに隠れてなる略四角形状部2525が表れ,該略四角形状部は上衣の生地(白色)と異なる深い紺色をしてなる。

5 本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(1)両意匠の共通点
(ア)本件登録意匠は意匠に係る物品が「作業用上衣」であるのに対し,イ号意匠も「作業用上衣」の一種である看護師が着用する「スクラブ」である点で,両者は一致している。
(イ)基本的構成態様において,両意匠は,何れも首元をV字状とし,首回り中程やや下方から衿を有する前あき半袖の上衣であり,前あき部に正面視,縦線状に表れてなる袷部,その内側にスライドファスナーを設け,該袷部の上端に2個のボタンを配してなる点で共通する。
(ウ)具体的構成態様において,本件登録意匠は正面視,左右衿部が円弧状にカーブした後,水平方向に対し約75度傾斜して直線状に右又は左肩へのびるのに対し(甲第8号証),イ号意匠も緩やかな円弧状にカーブした後,水平方向に対し約75度傾斜して直線状に右又は左肩にのび(甲第9号証),しかも衿の縁部には紐状のラインを一体的に設けている点。
正面視,下方左右両側に腰ポケット,右袖近傍に胸ポケットを設けてなる点,背面視,両袖の下方から2本のライン若しくは縫い目が一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れてなる点で共通する。
(2)両意匠の差異点
(a)首元は,本件登録意匠がV字状にカットされ,V字状のカット部には胸当て部がないのに対し,イ号意匠は首元のV字状のカット部を覆う胸当て部を設けている点で異なる。
(b)左右衿部は,本件登録意匠が円弧状にカーブしてなるのに対し,イ号意匠が本件登録意匠よりも緩やかな円弧状にカーブしてなる点で異なる。
(c)正面視,イ号意匠には本件登録意匠にあるサイドポケットや脇ポケットがなく,本件登録意匠にない左袖右横の胸ポケットがある点で異なる。
(d)正面視,イ号意匠は本件登録意匠にはない両袖下と両腰ポケット間の左右の脇身頃に帯状部が表れてなる点で異なる。
(e)背面視,本件登録意匠は,両袖の下方から裾に向けて表れた2本のラインと左右脇身頃で囲まれた範囲の全面に細かいドット模様を表してなるのに対し,イ号意匠は,左右脇身頃に背骨に向かって山形状に向き合い,その下端部が腰ポケットに隠れてなる略四角形状部が表れ,該略四角形状部には上衣の生地と異なる色で着色されてなる点で,異なる。

6 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
甲第10号証:フォーク株式会社作成「2013Catalogue Vo1.10 FOLK」,第47頁所載の品番「7014SC/ジップスクラブ」
甲第11号証:フォーク株式会社作成メディカルウェアカタログ「FOLK2014VOL.11」,第13頁所載の品番「7014SC/ジップスクラブ」,第17頁所載の品番「7025SC/メンズジップスクラブ」
甲第12号証:住商モンブラン株式会社作成の「2014MEDICALUNIFORM モンブラン」,品番「CHM301-0709」,「CHM301-0209」,「ジャケット(男女兼用半袖)WSR」,品番「ジャケット(レディス半袖)WSR」
甲第13号証:第1491399号意匠公報(平成26年3月3日発行),正面図
甲第14号証:特開2014-132129号公報(平成26年7月17日公開),図1,図2
甲第15号証:フォーク株式会社作成メディカルウェアカタログ「FOLK2014VOL.11」,第14頁所載の品番「2018EW/レディスジップスクラブ」,第15頁所載の品番「7024SC/レディスジップスクラブ」
甲第16号証:チトセ株式会社2014年12月作成の「Medical wear Catalogue2014」の第18頁,第19頁所載の品番「MZ-0053(スクラブ兼用)
甲第17号証:ナガイレーベン株式会社1987年作成のカタログ中,第32頁所載の品番「OR-8202」の男子手術下着(上衣)
甲第18号証:実用新案登録第3126378号公報(平成18年10月26日公開),図2
(2)本件登録意匠の要部
(ア)昨今,医療機関の機能分化が進み,一般病院は急性期や慢性期,リハビリなど,クリニックは自由診療や在宅支援などの様々な機能に特化する傾向にあり,このように多様化・細分化されつつある市場において,本物品に係る看護師用ユニフォームに対するニーズもそれぞれに変化している。
例えば,急性期病棟においては,よりハードな動きが看護師に求められ,最近では,ER(救急救命室)やOR(手術室)で着用されていたスクラブタイプのユニフォーム(甲第17号証)が,シンプルで動きやすいという理由から看護師に普及し始めている。
上記先行周辺意匠でも,看護師用のユニフォームとして,甲第10号証乃至第12号証,第16号証所載の上衣のように「スクラブ」若しくは「ジャケット」として販売されている。
一方で,看護師は患者にやさしさと厳しさを持って接し,信頼関係で結ばれることが医療,看護の根幹にあり,そのためキッチリとした印象を患者に醸し出すチュニックタイプの看護師用ウェア(甲第18号証)も求められていることは従前と変わりない。
そこで,本件登録意匠は,動きやすい特長を持つスクラブに,患者に信頼感や安心感を与えるチュニックの持つイメージ(キッチリ感)を付加することを目的として創作したものである。
すなわち,本件登録意匠は,首元がV字状の前あき半袖の上衣(スクラブ)において,首回りの一部にコンパクトな衿を設けることで,チュニックのイメージであるキッチリ感も付加したものであり,これが本件登録意匠の創作ポイントと言うべきところである。
(イ)上記先行周辺意匠中,首回りの一部に衿を設けたものとして甲第15号証所載の「レディスジップスクラブ」のように衿を大きく肩に沿って寝かしたものは開示されている。
しかし,本件登録意匠は,甲第8号証に示すとおり,正面視,左右衿部の幅(T1)又は(T2)が肩幅(T)の15%程度占めるに過ぎず,且つ円弧状にカーブした後,約75度と急な傾斜の直線状に表れてなるため,衿が全体としてコンパクトな印象を醸し出すものであり,このようなコンパクトな衿は看護師用ユニフォームとして「チュニック」のキッチリ感を強調したものであり,この種物品分野において,全く見られない極めて斬新なものである。
(ウ)加えて,看護師等は,肩からストラップをかけ,例えばPHS,部屋の出入室用カード,ペン等をぶら下げて当番制で業務にあたることから,交代後に他人の肌に触れたストラップが自分の肌に触れないように細心の注意を払うのが常である。
してみれば,本件登録意匠の首回りに設けた衿は,看護師等が着用時にストラップを首にかけても直接,肌に触れることがなく,衛生面を保つことができるという機能上も重要な部分でもあることから,需要者(看護師等)が特に注意を払う部分と言えるのである。
(エ)以上より,本件登録意匠の構成態様中,首元がV字状の前あき半袖の上衣において,首回りの一部に設けたコンパクトな衿は,創作ポイントであると共に先行周辺意匠には見られない斬新なものであり,且つ需要者(看護師等)が特に注意を払う衿の部分でもあることから,本件登録意匠の要部と言えるのである。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討すると,
(ア)両意匠の共通点は,基本的構成態様に係るものであり,両意匠の形態全体を支える骨格的なところであり,特に「首元がV字状の前あき半袖の上衣において,首回りの一部に設けたコンパクトな衿」は,本件登録意匠の要部であり,同時に看者(需要者)に対し「スクラブ」なのに「チュニック」のようなキッチリ感も醸し出す部分でもあり,これにより両意匠の共通感を強く印象づけているのである。
しかも具体的構成態様において,衿の縁部を紐状のラインで一体的に形成し,且つ該左右の衿部の起点が何れも左右対称の位置にあり,円弧状にカーブした後,左右肩に至る傾斜の角度もほぼ一致する等,コンパクトな衿の細部の形状,位置まで共通しているのである。
してみれば,基本的構成態様が具体的構成態様の共通点と相まって,両意匠の類否判断におよぼす影響は極めて大きいと評価することができる。
これに対し,上記の差異点は微細なものか,或いはこの種物品分野において,イ号意匠がありふれた常套的な手法を施しただけのものに過ぎないため,それぞれが類否判断に与える影響は僅かであるというべきである。
(イ)すなわち,両意匠の差異点(a)は,胸当て部の有無の違いに過ぎず,この種物品分野では,胸当て部により着用者の胸元が見えないようにV字のカット部分を覆うことは常套的な手法であり,意匠の類否判断に与える影響は微弱なものである。
むしろイ号意匠が胸当て部の色彩を濃い紺色として上衣と異なる色彩とすることで,胸元のV字状を一層強調することになるのである。
(ウ)差異点(b)は,衿の形状に係るものであるが,両意匠は何れも円弧状にカーブした後,直線状に右(左)肩にのびる構成とし,甲第8号,第9号証に示したとおり肩幅に対する左右衿幅の占める割合は,本件登録意匠が約15%であるのに対し,イ号意匠も約16%と,殆ど違いがなく,意匠全体からみれば極めて微細な差異に過ぎない。
(エ)差異点(c)は,正面視,イ号意匠の左袖の右横の胸ポットは,斜め直線状に表れているに過ぎず,またポケット入口周縁を生地と同色の白糸で縫い付けているため,全体として目立ちにくい部分の細かな差異に過ぎない。
(オ)差異点(d)は,この種物品分野において,正面視,脇身頃に上衣と異なる色の帯状部を表すことは,配色を替えることで,使用者の着用時のシルエットをすっきり,スマートにみせるありふれた手法に過ぎない。
このことは,例えば,甲第10号証乃至第12号証,第16号証のカタログ所載のスクラブ(ジャケット)にイ号意匠と同様な帯状部が脇身頃に沿って異なる色で表れており,また甲第14号証の段落【0021】で「脇身頃6,7は,前身頃1,後身頃2と異なる色の布地を用いると体裁上良好なものに仕立てられる。」旨の記述及び図1,図2から裏付けることができる。
してみれば,本件登録意匠は,両袖下から円弧状に窄まる2本のラインで看者にスマート感を与えるのに対し,イ号意匠は,ありふれた手法として帯状部の色を上衣の色と異なる色とすることで,看者にスマート感を与える点て,両意匠は,結局,同じ印象を看者に与えるものであることから,該差異点が両意匠を別異のものと認識させる要因になり得ないことは明らかである。
(カ)差異点(e)は,そもそも背面であるため正面に比べ,使用者が着用時に目にすることはなく,使用者自身が特に注意を向ける部分ではない。
しかも両意匠は,左右の脇身頃において,ドット模様又は他の色を付して上衣の色と配色を替えるありふれた手法により,正面と同様,着用時のシルエットをスマートにみせようとしたものであり,何れも看者に同じスマート感を与えるものに過ぎないのである。
してみれば,看者が特にイ号意匠の略四角形状部に注意を向け,本件登録意匠と異なる印象を持つとは考えられないものである。
(キ)両意匠の上記差異点が相侯った効果を考慮しても,イ号意匠は,意匠全体として本件登録意匠と別異とする程の特徴を発揮するとは考えられず,これら差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は瓊末な程度のものである。
(ク)よって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態においても,その共通点が両意匠の類否判断に与える影響が大きく,共通点が生じさせる効果が差異点のそれを凌駕し,意匠全体として需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠とイ号意匠とは類似するものである。

7 むすび
以上のとおり,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

8 証拠方法
(1)本件登録意匠の構成態様に関するもの
甲第1号証:登録第1551951号の意匠公報
(2)イ号意匠が,被請求人の実施に係るものである,との証明に関するもの
甲第2号証:被請求人の属するグループの一会社,KAZEN(株式会社KAZEN東京)作成のカタログ「KAZEN/MEDICAL/2017 Vol.35」表紙,第3頁,第40頁,第41頁,背表紙の各写し
甲第3号証:請求人による平成29年3月7日付け照会書
甲第4号証:株式会社KAZEN東京が属するグループの一会社である被請求人(株式会社アプロンワールド)よる平成29年3月14日付け回答書
甲第5号証: 請求人作成による平成29年4月18日付け第3照会書
甲第6号証:被請求人による平成29年6月12日付け書簡
(3)本件登録意匠とイ号意匠との対比に関するもの
甲第7号証:本件登録意匠とイ号意匠との対比図
(4)本件登録意匠の「衿」の構成態様の説明に関するもの
甲第8号証:本件登録意匠の「衿」の拡大説明図
(5)イ号意匠の「衿」の構成態様の説明に関するもの
甲第9号証:イ号意匠の「衿」の拡大説明図
(6)本件登録意匠の先行周辺意匠に関するもの
甲第10号証:フォーク株式会社作成「2013Catalogue Vol.10 FOLK」の表紙,第47頁,背表紙の各写し
甲第11号証:フォーク株式会社作成メディカルウェアカタログ「FOLK2014VOL.11」の表紙,第13頁,第17頁,背表紙の各写し
甲第12号証:住商モンブラン株式会社作成の「2014MEDICALUNIFORM モンブラン」の表示,品番「CHM301-0709」,「CHM301-0209」掲載頁,「ジャケット(男女兼用半袖)WSR」,品番「ジャケット(レディス半袖)WSR」掲載頁の各写し
甲第13号証:意匠登録第1491399号公報の写し
甲第14号証:特開2014-132129号公開特許公報の写し
甲第15号証:フォーク株式会社作成メディカルウェアカタログ「FOLK2014VOL.11」の表紙,第14,第15頁,背表紙 の各写し
甲第16号証:チトセ株式会社2014年12月作成の「Medical wear Catalogue2014」の表紙,第18頁,第19頁,背表紙の各写し
甲第17号証:ナガイレーベン株式会社1987年作成のカタログの第32頁の写し
甲第18号証:登録第3126378号実用新案公報の写し


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
I 答弁の趣旨
イ号意匠及びその説明書に示す意匠は,登録第1551951号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。本件判定請求は成り立たない。との判定を求める。

II 答弁の理由
1 イ号意匠に関する手続の経緯
被請求人は,請求人より甲第3号証の照会書を受領したので,本件登録意匠と本件登録意匠との類否について慎重に検討したところ,非類似であるとの結論に至ったので,この結論の妥当性を確認するため,イ号意匠について平成29年4月6日に法第4条第2項の規定の適用を受けた意匠登録出願を行なったところ(乙第1号証),同年7月6日に登録査定を受け(乙第2号証),既にイ号意匠は登録されているものである(意匠登録第1585324号,乙第3号証)。
このように,イ号意匠が新規な意匠であって,本件登録意匠と類似しないことは,既に特許庁において確認済みの事実である。

2 両意匠の構成について
A 基本的構成態様について
(1)衿ぐりの態様について
請求人はイ号意匠の構成について,基本的構成態様が「首元をV字状とし,(中略)てなるものである。」としているが,誤りである。
「意匠」はいうまでもなく「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」をいうものであり(法第2条第1項),模様,色彩も形状と結合して初めて「意匠」と観念されるものであることから明らかなように,「意匠」を成り立たせる基本は「形状」にある。
したがって,「意匠」の「基本的構成態様」という場合は,その意匠を成り立たせる基本的な「形状」の構成態様,換言すれば「形伏」の骨格的態様をいうものでなければならない。
そして,その「形状」は「物品の外形」をいうものであるから(工業所有権法逐条解説乙第4号証および乙第5号証),イ号意匠の基本的構成態様という場合は,イ号意匠を成り立たせるところの基本となる形状(外形)をいうものでなければならない。
しかるところ,請求人は本件登録意匠の基本的構成態様として,判定請求書第3頁(1)において,「首元」という,一般の辞典(広辞苑など)は無論,服飾辞典にもみられない独自の概念を持ち出して,イ号意匠の「首元はV字状」という,物品の形状(外形)とは離れた態様を形状と把握,認定している。
請求人のいう「首元」の意味は不明であるが,本判定請求前の請求人の主張に鑑みれば「首回り」の態様についていうものと推測されるところ(甲第3号証 第1照会書),衣服において首回りの態様は,衿ぐりの形状,ネックラインで認識されるのが通常である(乙第6号証および乙第7号証)。すなわち,本件において首回りの形状は衿ぐりの形状,ネックラインの形状となる。
そして,衿ぐりの形状,ネックラインの形状は,本件登録意匠はV字状であるが,イ号のそれは乙第1号証中の「着用した状態の参考正面図」及び「着用した状態の参考正面拡大図」を見れば明らかなようにラウンド状である。
このように,両者ともに衿ぐりの形状,ネックラインとしては典型的な形状のものであるが,基本の形状が相違するのである。

(2)イ号意匠の基本的構成態様
以上を整理し,イ号意匠の基本的構成態様について述べれば以下の通りである。
衿ぐりをラウンド状とし,首回り14の中程やや下方から衿15を有する前あき半袖の上衣で有り,前あき部に正面視,縦線状に表れてなる袷部16,その内側にスライドファスナーを設け,該袷部の上端に2個のボタン17,17を配して成るものである。
B 具体的構成態様について
(1)衿の態様について
請求人はイ号意匠の衿の態様について,判定請求書第4頁19行目以降において,「衿15のうち,右衿部15aはボタン17,17を起点として緩やかな円弧状にカーブした後,やや右寄りに傾斜して直線状に右肩へのび,背中側で衿部15bが水平方向に帯状に表れ,左衿部15cは線Lを中心に2つボタン17,17と左右対称の位置を起点として円弧状にカーブした後,やや左寄りに傾斜して直線状に左肩へのびるものである」と認定している。
しかし,乙第1号証の「首回り周辺の拡大図」に示されるように,イ号意匠の衿は起点から背中側にかけて全体が円弧状に表れており,直線的要素は存在しない。この点は,請求人が提出した甲第8号証および甲第9号証において角度αおよびβを示すために引いた補助線のうち,斜め上方へのびた直線と衿端部の接し具合を見れば明らかである。すなわち甲第8号証の本件登録意匠においては斜め上方へのびた直線と衿端部がほぼ並行である一方,甲第9号証のイ号意匠においては斜め上方へのびた直線と衿端部は衿の中間部分において部分的に重なり合っているに過ぎない。しかも,本件登録意匠の補助線は衿の外形ラインの外側に接して表す一方,イ号意匠については衿縁部の紐状ラインに重ねて表した上で,共に直線状の構成というもので,牽強付会の理論といわなければならない。
この点を明確にするために重複部分に目印をつけた甲第8号証と甲第9号証を乙第8号証および乙第9号証として提出する。
したがって,イ号意匠の衿の具体的態様は「衿15のうち,右衿部15aはボタン17,17を起点として緩やかに円弧状にカーブしながら,背中側で衿部15bが水平方向に帯状に表れ,左衿部15cは線Lを中心に2つボタン17,17と左右対称の位置を起点として緩やかな円弧状にカーブしながら左肩へのびる」ものである。
(2)脇身頃について
請求人は,本件登録意匠の身頃について,判定請求書第4頁(ウ)において「正面視,両袖の下方からそれぞれ2本のライン6,6が一旦,円弧状に窄まり,その後,ほぼ平行に裾まで直線状に表れてなる」とし,かつ(オ)において「背面視,両袖の下方からそれぞれ2本のライン11,11が一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れ,該ラインと脇身頃で囲まれた範囲の全面に細かいドット模様を表わしてなる」とし,
一方,イ号意匠の脇身頃については,判定請求書第5頁(オ)において「正面視,両袖の下方からそれぞれ2本の縫い目が垂下し,両腰ポケットで隠れた後,該ポケットの下辺から裾まで直線状に表れ,且つ該縫い目に沿って両袖下と両腰ポケットの間の脇身頃で,帯状部23,23が表れ,該帯状部は上衣の生地色(白)と異なる深い紺色をしてなる。」とし,かつ,(カ)において「背面視,両袖の下方から2本の縫い目24,24が一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れ,且つ左右脇身頃に背骨に向かって山形状に向き合い,その下端が腰ポケットに隠れてなる略四角形状部25,25が表れ,該略四角形状部は上衣の生地(白色)と異なる深い紺色をしてなる。
と認定している。
しかし,「脇みごろ(脇身頃)」とは,「身ごろを縦方向に切り替えた場合のわき側の部分」をいうのであって(JIS0112「衣料の部品・寸法用語」3. a)1)1103),本件登録意匠にあってはライン6,6が前身頃を縦に切り替えた線であり,ライン11,11が後身頃を縦に切り替えた線であるので,本件登録意匠は,「正面視で両袖の下方で円弧状に窄まり,その後,ほぼ平行に裾まで直線状に表れてなる両前脇身頃と,背面視で両袖の下方で一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れ,前面に細かいドット模様を表わしてなる後脇身頃からなる」と認定すべきものである。なお,前脇身頃と後脇身頃が別体であることは側面図中央の切り替え線の存在から明らかである。
一方,イ号意匠の脇身頃は乙第1号証「着用した状態の右側面図」からも明らかなように,「正面視,背面視ともに両脇下からほぼ直線状にライン20,20ないし24,24を垂下させ,これを切り替え線として,略倒直角台形を二つ上下に組み合わせて脇身頃を形成し,上側略倒直角台形を紺色とした」ものである。
3 類否判断
A 本件登録意匠の要部について
請求人は,判定請求書第9頁(イ)において,衿ぐりがV字状の前あき半袖の上衣(スクラブ)において衿を有する先行公知意匠として甲第15号証を提示した上で,「本件登録意匠は,甲第8号証に示すとおり,正面視,左右衿部の幅(T1)又は(T2)が肩幅(T)の15%程度占めるに過ぎず,且つ円弧状にカーブした後,約75度と急な傾斜の直線状に表れてなるため,衿が全体としてコンパクトな印象を醸し出すものであり,このようなコンパクトな衿は看護師用ユニフォームとして『チュニック』のキッチリ感を強調したものであり,この種物品分野において,全く見られない極めて斬新なもの」であるから,本件登録意匠の要部は「首元がV字状の前あき半袖の上衣において,首回りの一部に設けたコンパクトな衿」が本件登録意匠の要部であると主張する(判定請求書第10頁(エ))。
上記請求人主張中の「15%」という数字は,甲第8号証上のT1(T2)(図面上12mm)がT(図面上85mm)に占める比率であると推測される。そこで,甲第15号証に表わされた意匠における同様の比率を計算するために乙第10号証および乙第11号証を提出する。乙第10号証および乙第11号証は,甲第15号証の第2頁にある型番「2018EW-7」の現物を撮影したものである。乙第10号証のV1は12mmであり,Vは85mmであるから,その比率も約15%である。
また,通常「衿幅」という場合は,後部台衿幅と後部上衿幅の和をいうものであるが(乙第12号証),この「衿幅」を対比しても,本件登録意匠の衿幅が肩幅に占める比率が19.5%(甲第7号証中の後部台衿幅3mm+後部上衿幅5mmの和÷肩幅41mm)であるのに対し,乙第10号証および乙第11号証の比は19.4%(乙第10号証中の後部台衿幅7.5mm+乙第11号証中の後部上衿幅9mmの和÷肩幅85mm)であって,ほとんど変わらない。
このように,衿の大きさ(衿幅)に着目するかぎり,請求人が主張する「首元がV字状の前あき半袖の上衣において,首回りの一部に設けたコンパクトな衿」は本件登録意匠の出願前より公知だったのであり,本件登録意匠の要部足り得ないのは明らかである。
本件登録意匠において「衿が全体としてコンパクトな印象を醸し出」しているのは,衿部の大きさという概括的な態様に依るものではなく,請求人が自認するように,衿部の具体的な構成態様,すなわち,「円弧状にカーブした後,約75度と急な傾斜の直線状に表れてなるため」である。
このように,本件登録意匠は「首元がV字状の前あき半袖の上衣において,首回りの一部に設けたコンパクトな衿」といった公知意匠が存在していながら登録を認められたものであるから,「円弧状にカーブした後,約75度と急な傾斜の直線状に表れてなる」衿部や,前脇身頃および後脇身頃といった具体的構成態様から生じる全体印象こそが新規なものとして評価され登録に至ったものというべきである。
なお,請求人の主張する「キッチリ感」は,甲第15号証第3頁左側中程において「襟付きジップスクラブなら,カジュアルさの中にきちんと感も演出できます」と謳われているように,本件登録意匠出願前の公知意匠において,すでに「きちんと感」として強調されているところである。
B 本件登録意匠とイ号意匠の類否
(1)共通点の評価
請求人は,判定請求書第6頁(イ)において,両意匠が基本的構成態様において共通し,さらに(ウ)で,「具体的構成態様において,本件登録意匠は正面視,左右衿部が円弧状にカーブした後,水平方向に対し約75度傾斜して直線状に右又は左肩へのびるのに対し,イ号意匠も緩やかな円弧状にカーブした後,水平方向に対し約75度傾斜して直線状に右又は左肩にのび,しかも,衿の縁部には紐状のラインを一体的に設けている点,正面視,下方左右両側に腰ポケット,右袖近傍に胸ポケットを設けてなる点,背面視,両袖の下方から2本のライン若しくは縫い目が一旦,円弧状に窄まり,その後,裾にむけて徐々に幅拡がりに表れてなる点て共通する」と主張する。
しかし,前記の通り,請求人が類似性主張の根拠とする共通点の把握,認定には誤りがある。すなわち,そもそも両意匠の基本的構成態様は異なるものであり,また,衿の具体的態様についても両意匠の衿の構成態様は異なる。さらに,背面視(脇身頃)にかかる共通点の把握,認定にも誤りがある。
そうすると,本件登録意匠とイ号意匠の構成上の共通点は,「衿の縁部を紐状のラインで一体的に設けている点」と「正面視,下方左右両側に腰ポケット,右袖近傍に胸ポケットを設けてなる点」のみとなる。
しかし,前者については乙第13号証ないし乙第16号証,後者についても乙第17号証ないし乙19号証に示すとおり,両意匠にのみ共通するものではない。よって,これらは意匠の類否判断において大きな影響を与えるような共通点とはいえない。
(2)差異点の評価
一方,本件登録意匠とイ号意匠は前記の通り,基本的構成態様において「V字状」か「ラウンド状かという差異がある。そして,請求人も主張するように,基本的構成態様は形態全体を支える骨格的なところであり,この基本的態様における上記差異点が需要者に与える影響は極めて大きいものである。
また,衿部の態様について,本件登録意匠の衿部は「円弧状にカーブした後,約75度と急な傾斜の直線状に表れてなる」一方,イ号意匠の衿部は「緩やかに円弧状にカーブ」したものである。そして,衿について「看護師等が着用時にストラップを首にかけても直接,肌に触れることがなく,衛生面を保つことができるという機能上も重要な部分でもあることから,需要者(看護師等)が特に注意を払う部分」であるのは請求人の主張の通りである(判定請求書第10頁)。こうした重要な部分において,直線を基調とするものか曲線を基調とするものかという顕著な相違がある。
さらに,請求人が「胸当て部」と称する部分について(そもそも「胸当て」とは「胸に当てる防具。胸の部分に当てて衣服の汚れを防ぐ布製のもの」をいうのであって(乙第20号証),イ号意匠にはそのような部分は存在しないのであるが,善解するに,イ号意匠のラウンド状の衿ぐりに合せて設けられた暗調子部を指すものと推測されるので,以下,該部分を念頭に答弁する。),請求人は「この種物品分野では,胸当て部により着用者の胸元が見えないようにV字のカット部分を覆うことは常套的な手法」と主張しているが,この主張を裏付ける証拠は何ら提出されていない。
むしろ,被請求人が知る限りにおいて,医療用ユニフォームの物品分野において,ラウンド状の衿ぐりに合せて上端を円弧状とし下方を三角形状とした暗調子部を設けたものは,被請求人がイ号意匠と並んで展開する「Pansy(登録商標)」シリーズのみであって(乙第21号証),他には見られない特徴的な構成である。そして,この暗調子部は被服という物品特性を考慮した場合に正面の最も目立つ場所に位置しているのであるから,該暗調子部が需要者の印象形成に与える影響は非常に大きいものとなる。
加えて脇身頃においては,本件登録意匠の脇身頃は前身頃と後身頃双方に設けられ,後側の脇身頃は「ドット模様」というこの種物品分野ではあまり一般的でない装飾模様を広範な面積に配している。これに対して,イ号意匠の脇身頃は略倒直角台形を二つ上下に組み合わせて形成し,上側略倒直角台形を紺色とした斬新な構成であるから,脇身頃における差異点も看過すべきものではない。「ドット模様」は特異な構成であるところ,装飾的効果を高めるために「ドット模様」という目立つ模様としたものと考えるのが自然であろう。美的効果の大きい効果の大きい効果を構成しておきながら,その効果を否定するような論は自己矛盾以外にない。
(3)本件登録意匠とイ号意匠の類否
上記のように,両意匠の共通点は,本件登録意匠の出願前に既に公知であった意匠にも認められるものであって,両意匠にのみ共通するものではなく,意匠の類否判断において大きな影響を与えるような共通点とはいえない。
一方,両意匠の差異点は,類否判断に重大な影響を与える基本的構成態様におけるものや,需要者が特に注意を払う部分におけるもの,同種物品分野においてこれまで見られなかったものであって,そうした差異点が与える印象の相違は,共通点を凌駕するに十分なものである。
よって,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態において,差異点が共通点を凌駕し,それが両意匠の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないというべきである。
4 むすび
以上の通り,イ号意匠は本件登録意匠とは非類似の意匠であるので,「本件の請求は成り立たない。」旨の判定を下されることを希求するものである。

III 証拠方法
(1)乙第1号証…意願2017-7320の願書の写し
(2)乙第2号証…意願2017-7320の登録査定の写し
(3)乙第3号証…意願2017-7320(意匠登録第1585324号)の登録証の写し
(4)乙第4号証…工業所有権法逐条解説第1154頁の写し
(5)乙第5号証…工業所有権法逐条解説第867頁の写し
(6)乙第6号証…学校法人杉野学園発行「増補新版図解服飾用語辞典」第141頁の写し
(7)乙第7号証…岩波書店発行「広辞苑〔第5版〕第2068頁の写し
(8)乙第8号証…甲第8号証に付記したもの
(9)乙第9号証…甲第9号証に付記したもの
(10)乙第10号証…甲第15号証の実物の写真(正面側)
(11)乙第11号証…甲第15号証の実物の写真(背面側)
(12)乙第12号証…インターネットにおいて「衿幅」を示す記事の写し
(http://www.listerouge-japan.com/styles/styles.php)
(13)乙第13号証…アイトス株式会社2014年版商品カタログの第141頁の写し
(14)乙第14号証…オンワード商事株式会社の商品カタログの第16頁の写し
(15)乙第15号証…フォーク株式会社の2015年版商品カタログの第110頁の写し
(16)乙第16号証…請求人の2012年版商品カタログの第137頁の写し
(17)乙第17号証…フォーク株式会社の2013年版商品カタログの第96頁の写し
(18)乙第18号証…アイトス株式会社2014年版商品カタログの第21頁の写し
(19)乙第19号証…フォーク株式会社の2015年商品カタログの第94頁の写し
(20)乙第20号証…岩波書店発行「広辞苑〔第5版〕第2064頁の写し
乙第21号証…被請求人の2017年版商品カタログの第20頁の写し1.答弁の趣旨


第3 請求人の弁駁
I 弁駁の理由
1 イ号意匠に係る登録意匠
被請求人は,イ号意匠について,平成29年4月6日に意匠登録出願,同日付け早期審査に関する事情説明書及び特徴記載書を提出し,同年4月12日に新規性の喪失の例外証明書提出書及び上申書を提出し,御庁より同年6月30日起案の登録査定謄本及び審査官通知書が送達され,イ号意匠は登録第1585324号として同年8月10日に登録を受けたものである(甲第19号証)。
しかるに被請求人は,上記早期審査に関する事情説明書において(甲第20号証),先行意匠調査の(i)日本国登録意匠公報として,4件の登録意匠公報をあげているが,そのうち2件が請求人の意匠(登録第1537394号意匠「甲第21号証」,登録第1523136号意匠「甲第22号証」)でありながら,本件登録意匠の意匠公報をあげていない。
また,審査官通知書においても(甲第23号証),審査官は,イ号意匠の新規性,創作非容易性等の参考資料として以下の資料をあげているが,本件登録意匠の意匠公報をあげていない。
1)意匠登録第1548881号公報(甲第24号証)
2)アンジェクラブ Care & Comfort wear,ange club vol.5の第14頁に所載されたレディスジップスクラブ「7014SC-6」(甲第25号証)
3)メディカルウェアカタログ[フォーク]FOLK2014 VOL.11の第15頁に所載された業務用ユニフォーム「7014SC」(甲第26号証)
4)NaHalu NAGAILEBENの第75頁に所載された看護服(甲第27号証)
5)株式会社アシックスのホームページ掲載されたゲームシャツ長袖「XS1125」(甲第28号証)
してみれば,イ号意匠は本件登録意匠との類否を検討されることなく,登録を受けたものであり,イ号意匠が登録されたことで本件登録意匠との非類似性が認められたものではなく,被請求人主張の「本件登録意匠と類似しないことは,既に御庁において確認済みの事実である。」と結論付けるのは早計である。
また,イ号意匠に係る登録意匠は,先行意匠である本件登録意匠に類似するものであり,その登録は無効にされるべきものであるから,本件においてもイ号意匠の登録意匠を前提に本件登録意匠とイ号意匠の類否を決すべきではない。
なお,請求人は,後日,イ号意匠の意匠登録に対して無効審判を請求する考えであることを付言する。

2 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
本件登録意匠は,物品「作業用上衣」に係る全体意匠であるから,意匠の類否判断において「作業用上衣」全体を観察しなければならない。また,該物品は医療従事者等が着用する作業用上衣であり,その需要者は看護師,介護士等であるから,これらの者の視覚を通じて起させる美感に基づき類否判断を行わなければならない(意匠法第24条第2項)。
これらの判断手法を踏まえて被請求人の答弁を検討し,本件登録意匠がイ号意匠と同一又は類似するものであることを以下のとおり詳述する。
(1)両意匠の基本的構成態様の検討
1)被請求人は,イ号意匠について,衿ぐりの形状,ネックラインがラウンド状であるとし(判定請求答弁書第3頁第27行),両意匠の基本的構成態様が異なることを主張する。
しかるに,イ号意匠に係る物品(以下「イ号物品」)は,甲第29号証の説明図から明らかなとおり,そもそも首元がV字状にカットされ,そのV字状部を埋めるように上衣本体と別体の胸当て部(被請求人主張の「暗調子部」)を縫着したに過ぎないのである。
2)また,この種物品分野において,首元がV字状にカットされ,そのV字状部を埋める上衣本体と別体の胸当て部を縫着してなるものは,以下のとおり既に公知である。
(A)イ号意匠の審査で審査官が参照した資料のうち,甲第27号証のNaHalu NAGAILEBENの第75頁に所載された「HC28016947」の看護服(平成28年11月18日御庁情報・研修館受入)は,現物を写した説明図(甲第30号証)によれば,首元のV字状部に上衣本体と別体の胸当て部を縫着してなるものである。
(B)平成26年10月17日御庁情報・研修館受入のカタログ「Profeeling」第60頁(甲第31号証)所載の「半袖ニットシャツ」(品番PK390)は,首元のV字状部に上衣本体と別体の胸当て部を設けてなるものである。
(C)株式会社トンボヘルスケア事業本部,2016(平成28年)8月作成の「KIRAKUVO1.21/2016-2017」第:L02頁(甲第32号証)所載のケアスクラブ(品番CR152)は,首元の略V字状部に上衣本体と別体の胸当て部を設けてなるものである。
3)イ号意匠の胸当て部は,上記のとおり上衣本体と別体である上に,その色彩を上衣全体の白色と異なる紺色とすることにより,全体として胸当て部と上衣本体の境界線が依然,V字状に表れてなるものである。
4)加えて,被請求人が御庁に提出した甲第20号証の早期審査に関する事情説明書の添付物件中,平成28年12月発行の製品カタログの第40頁および第41頁(資料1ないし資料5)では,イ号物品は「レディススクラブ」と記載され,商品「スクラブ」として販売している。
すなわち,看護師等の医療現場では,看護師等は,「スクラブ」と言えば,「半袖で首元がVネックになっている上衣」として一般的に認識している実情があるのである。
このことは,例えば,甲第33号証,第34号証の「Uniform Plus」の病院訪問記事の中で,「スクラブは半袖で首元がVネックになっている。もとは手術用だが米国では1990年代にメディカルウェアとして広く認知され,医療ドラマなどを通じて日本でも知られるようになった。」として紹介されていることからも窺い知ることができる。
5)小括
被請求人主張のとおりイ号意匠の基本的構成態様に胸当て部を含めても,結局,両意匠は,その基本的構成態様中,胸当て部以外の構成要素が共通しているのである。
また,イ号意匠の構成態様として,上衣の首回りのうち,首元のV字状にカットされた部分に胸当て部を設けても,該胸当て部の紺色と上衣全体の白色との色彩違いにより,胸当て部と上衣本体の境界線が依然,V字状に表れてなるものである。しかも胸当て部が上衣本体と別体からなり,この種物品分野では公知なものであることから,特に需要者が注意を払う部分とは言えない。
そうして,イ号物品が一般に首元がV字状の半袖上衣として認識されている「スクラブ」として流通されている事情を総合的に勘案すれば,イ号意匠の基本的構成態様に胸当て部を含めるか,含めないかに関係なく,需要者は両意匠を全体としてみれば,「首元がV字状の半袖上衣」という共通した美感を想起し,同時にこれは「作業用上衣」の基本骨格に係るものであるから,意匠の類否判断に大きな影響を与えると言えるのである。
(2)両意匠の衿の構成態様の検討
1)衿について,被請求人は「『看護師等が着用時にストラップを首にかけても直接,肌に触れることがなく,衛生面を保つことができるという機能上も重要な部分でもあることから,需要者(看護師等)が特に注意を払う部分』であるのは請求人の主張の通りである」旨主張する(判定請求答弁書第8頁第12行から第15行)。
してみれば,衿の構成態様は,需要者が特に注意を払う部分であることから,意匠の類否判断を左右する部分であることは明らかである。
2)被請求人は,イ号意匠の「衿」の構成態様について,「乙第1号証の「首回り周辺の拡大図」に示されるように,イ号意匠の衿は起点から背中側にかけて全体が円弧状に表れており,直線的要素は存在しない。」旨を主張する(判定請求答弁書第4頁第11行から第12行)。
3)しかるに,本件登録意匠は全体意匠であり,「衿」の部分を範囲とする部分意匠ではない。そうすると本件登録意匠とイ号意匠を対比する場合も,イ号意匠の「衿」の構成態様は上衣の全体観察により特定すべきである。
この点,被請求人は,乙第1号証の願書添付の正面図ではなく,上衣が部分的に表れているに過ぎない「首回り周辺の拡大図」を用いて「衿」の構成態様を主張しており,このような主張は全体観察を無視したものである。
請求人は,イ号意匠に係る意匠公報中,正面図を抽出し,これと本件登録意匠の正面図を対比させた対比図を甲第35号証として提出する。
同号証に基づいてイ号意匠を全体観察すれば,イ号意匠の衿は,右衿部がボタンを起点として緩やかな円弧状にカーブを描いた後,該衿部の中程から右肩までの範囲で直線状を認めることができ,他方,左衿部も右衿部と同様に緩やかな円弧状にカーブした後,該衿部の中程から左肩までの範囲で直線状を認めることができ,そうであるなら被請求人の「直線的要素は存在しない。」旨の主張は無理がある。
4)そうして,両意匠の衿は,いずれも上衣を全体からみれば,正面視,左右衿部の幅の肩幅に対する割合をほぼ同じ程度とし,且つ円弧状にカーブした後,約75度に傾斜する直線状とが渾然一体となった構成態様からなり,該構成態様より需要者にコンパクトな衿という共通の美感をもたらすのである。
5)小括
以上により両意匠の衿は,その構成態様がほぼ共通し,これにより需要者に同様の衿のコンパクト感を与えるものであり,同時にこの種物品の需要者が注意を払う重要な部分であるから,衿の上記構成態様の共通点は意匠の類否判断を左右するものであることは明らかである。
(3)胸当て部,脇身頃の構成態様の検討
1) 被請求人は,イ号意匠の審査において,平成29年4月6日付け「特徴記載書」を提出しているが,その中の【意匠の特徴】の項において,「看護師用ユニホームの意匠においては,脱ぎ着しやすいように,首回りや衿元,前立て形状やそれらの位置関係を如何にまとまりよく構成するかが創作の重要なポイントの一つである」とした上で,「右前身頃と左前身頃の合わせ位置を正面視中央からやや右側へずらした上で,ファスナーと首回りに設けたボタンでこれらを合わせる構成とし,該ボタン前後を起点に衿を設けたものは,従来より存在していた」として公知意匠をあげ,これにより本件登録意匠の特徴を成すものでない。」旨主張する(甲第36号証)。
2) そうすると,両意匠の差異点である,イ号意匠の胸当て部は,甲第30号乃至第32号証にあるとおり,既に公知なものであるから,意匠の類否判断に影響を与えるものでない。このことは,上記被請求人の論法によっても「暗調子部,すなわち胸当て部が従来より存在していたからイ号意匠の特徴を成すものでない」と結論付けることができるのである。
3) また,被請求人は,イ号意匠の脇身頃に表れた紺色の上側略倒直角台形が斬新なものであると主張するが(判定請求答弁書第9頁第4行から第11行),そもそも被請求人の上記特徴記載書によれば,脇身頃は,創作の重要なポイントである「首回りや衿元,前立て形状やそれらの位置関係」とは異なる部分であることから,脇身頃は創作の重要なポイントになり得ないところである。
しかもこの種物品分野において,正面ポケットの上方側で脇身頃に沿って上衣と異なる色の略四角形状部を設けてなるものが甲第10号証乃至第12号証,第16号証のカタログ所載のスクラブ(ジャケット)等で公知になっており,加えてイ号意匠の略倒直角台形状と,これら公知意匠に表れた略四角形状部とは類似したものであり,特に斬新なものとは言えないから,両意匠の脇身頃の差異点が意匠の類否判断に影響を与えるものでないことは明らかである。
4) さらに,被請求人は,本件登録意匠の後側脇身頃の「ドット模様」が特異な構成であり,装飾的効果を高めるためのものである旨も主張する。
しかるに,御庁において,本件登録意匠と同一の構成で,後側脇身頃の「ドット模様」のないものが,本件登録意匠の関連意匠として登録されているのである(登録第1552106号,甲第37号証)。
このことは,本件登録意匠の「ドット模様」が意匠の類否判断に影響を与えるものでないことを裏付けているのである。
(4)まとめ
以上のとおり,本件登録意匠とイ号意匠の共通点は意匠の類否判断に大きな影響を与えるものであるのに対し,両意匠の差異点は被請求人の答弁を勘案しても,意匠の類否判断を左右するとは考えられない。
してみれば,両意匠の共通点は差異点を凌駕し,意匠全体として需要者に共通の美感を想起せしめるものであるから,本件登録意匠はイ号意匠と同一又は類似するものである。

3 むすび
以上のとおり,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

II 証拠方法
(1)甲第19号証:登録第1585324号意匠公報
(2)甲第20号証:被請求人提出の平成29年4月6日付け早期審査に関する事情説明書の写し
(3)甲第21号証:登録第1537394号意匠公報
(4)甲第22号証:登録第1523136号意匠公報
(5)甲第23号証:平成29年6月30日起案の審査官通知書の写し
(6)甲第24号証:登録第1548881号意匠公報
(7)甲第25号証:「アンジェクラブ Care & Comfort wear,ange club vol.5」のカタログ表紙,同第14頁の写し
(8)甲第26号証:「メディカルウェアカタログ[フォーク]FOLK2014 VOL.11」表紙,同第15頁の写し
(9)甲第27号証:「NaHalu NAGAILEBEN」カタログの表紙,同第75頁の写し
(10)甲第28号証:株式会社アシックスのホームページのゲームシャツ長袖「XS1125」が掲載されたページの写し
(11)甲第29号証:イ号意匠の「胸当て部」(暗調子部)を裏面から写した説明図
(12)甲第30号証:「NaHalu NAGAILEBEN」のカタログ第75頁に所載された看護服(HC28016947)の現物に係る「胸当て部」を表裏面から写した説明図
(13)甲第31号証:平成26年10月17日御庁情報・研修館受入のカタログ「Profeeling」の表紙,同第60頁の写し
(14)甲第32号証:株式会社トンボヘルスケア事業本部,2016(平成28年)8月作成の「KIRAKUvol.21/2016-2017」の表紙,第102頁,裏表紙の各写し
(15)甲第33号証:ダイセン株式会社発行月刊「Uniform Plus2014Apr.vol.76」の表紙,同第4,第5頁の各写し
(16)甲第34号証:ダイセン株式会社発行月刊「Uniform Plus2015Apr.vol.88」の表紙,同第5頁の各写し
(17)甲第35号証:本件登録意匠とイ号意匠の正面図の対比図
(18)甲第36号証:被請求人提出の平成29年4月6日付け特徴記載書の写し
(19)甲第37号証:登録第1552106号意匠公報


第4 被請求人の上申書
本件,判定請求については,被請求人は9月4日付にて,イ号意匠は本件意匠に類似するものではなく,本件判定請求は成り立たない旨の答弁をし,その主張を立証するために乙第1号証ないし乙第21号証を提出している。その中には,イ号意匠が既に意匠登録されたことを示す乙第1号証ないし乙第3号証が含まれている。
今般,上記全体意匠の登録に加え,イ号意匠の特徴部分について意匠登録を受けようとする部分意匠についても登録査定が送達されたので,イ号意匠が本件意匠に類似しないことを示す追加の証拠としてここに提出する。
なお,乙第23号証に示されたとおり,追加の部分意匠の意匠登録出願は,全体意匠の審査を担当された審査官とは異なる審査官により審査されている。特許庁において複数の審査官が何れもイ号意匠(およびその部分意匠)と類似する先行公知意匠は存在しないと判断した事実を考慮すれば,被請求人の主張の妥当性は明白と思料する。

【証拠方法】
乙第22号証…意願2017-12199の願書の写し
乙第23号証…意願2017-12199の登録査定の写し


第5 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1551951号の意匠)は,平成27年(2015年)11月5日に意匠登録出願され,平成28年(2016年)5月13日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,その願書の記載によれば,意匠に係る物品を「作業用上衣」とし,その形態は,願書及び願書に添付された図面に表されたとおりのものである。(別紙第1参照)(請求人が提出した甲第1号証)
本件登録意匠は,医療従事者等が着用するための「作業用上衣」であって,その形態については,以下のとおりである。
すなわち,本件登録意匠は,全体を胴部,左右袖部,襟部とから構成した正面視右寄りに開閉部を設けた半袖の上衣であって,右側の襟部付近から斜め下方向に身頃が重なる袷部分を設け,その部分を止める円形ボタンを左右に2個配したもので,正面中央の襟刳りを略V字状とし,細いパイピング飾りを外縁に施した丸襟を設けたもので,胴部の正面左右及び背面左右に略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線を左右対称に設け,さらに正面側の下方左右には略大型台形状のポケットを設け,正面右側の胴部には袷部から袖部に向かって斜め上方向に縁部を有する口部が斜め帯状に表れている胸ポケットを設け,左側上部には袖部の下側に反転した略逆「J」字状の切替え線内に左端に向かってやや下降する斜め線状に表れているポケットを設け,左側の腰付近の位置に反転した略逆「J」字状の切替え線を横切って水平方向に縁部を有する口部が横長帯状に表れているポケットを設け,胴部の背面左右の略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線の外側端部寄りまでドット模様を施し,背面右側の腰部付近に縦細帯状のベルト通しを設けたものである。襟部の細いパイピング飾り,正面右側の胸ポケットと正面腰部付近のポケットの縁部にもドット模様を施したものである。袖部は正面左右及び背面左右に肩部からタックを設け,袖口に向かって窄まった円筒形状のものである。

2 イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書に添付されたイ号意匠の図面及び説明に示されたとおりのものである。(請求人が提出したイ号意匠の図面及び説明 別紙第2参照)
そして,請求人はイ号意匠が被請求人の実施に係るものであることを証明するため,甲第2号証のカタログを提出している。
イ号意匠の図面及びその説明によれば,意匠に係る物品を,看護師等が着用する作業用上衣の一種である「レディススクラブ」とし,その形態は,図面に表されたとおりのものである。
なお,イ号意匠を本件登録意匠と対比するため,イ号意匠の向きを本件登録意匠の向きに合わせて,以下,両意匠(以下,本件登録意匠とイ号意匠を「両意匠」という。)を対比して観察する。
すなわち,イ号意匠は,全体を胴部,左右袖部,襟部とから構成した正面視右寄りに開閉部を設けた半袖の上衣であって,右側の襟部付近から斜め下方向に身頃が重なる袷部分を設け,右肩寄りにその部分を止める円形ボタンを左右に2個配したもので,正面中央の襟刳りを略V字状とし,その略V字状の奥に暗調子の略三角形状の布部分を設け,細いパイピング飾りを外縁に施した丸襟を設けたもので,胴部の正面左右に縦方向の切替え線を設け,胴部の背面左右に略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線を左右対称に設け,さらに正面側の下方左右には略大型長方形状のポケットを設け,正面右側の胴部には袷部から袖部に向かう位置にやや小さめの略縦長長方形状の胸ポケットを設け,正面左側の胴部上部には袖部に向かうやや肩寄りの位置に左端に向かってやや下降する斜めの細帯状のポケットを設け,胴部の背面左右の略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線から腰部を通って斜めに前身頃まで太帯状の暗調子とし,正面側の下方は左右の略大型長方形状のポケットに隠れ,背面側は略ひし形状としたものである。襟部の細いパイピング飾りも暗調子としたものである。袖部は袖口に向かってやや窄まった円筒形状のものである。

3 両意匠の対比
(1)両意匠の意匠に係る物品
意匠を対比すると,まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は「作業用上衣」であり,イ号意匠は「レディススクラブ」であるが,いずれも医療用の作業に用いられ,看護師等が着用する作業用の上衣に係るものであり,意匠に係る物品は共通する。
そして,両意匠の形態については,主として以下の共通点と差異点が認められる。
(2)両意匠の形態の共通点
(A)全体を胴部,左右袖部,襟部とから構成した正面視右寄りに開閉部を設けた半袖の上衣であって,右側の襟部付近から斜め下方向に身頃が重なる袷部分を設け,その部分を止める円形ボタンを左右に2個配した点,
(B)正面中央の襟刳りを略V字状とし,細いパイピング飾りを外縁に施した丸襟を設けた点,
(C)胴部の正面左右に縦方向の切替え線を設け,胴部の背面左右に略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線を左右対称に設けた点,
(D)正面側の下方左右には大型のポケットを設け,正面視右側の胴部上部には袷部から袖部に向かう位置に胸ポケットを設け,左側の上部には左に向かってやや下降する斜めのポケットを設けた点,
(E)袖部は袖口に向かってやや窄まった円筒形状のものである点,
において主に共通する。
(3)両意匠の形態の差異点
一方,両意匠には,
(ア)正面中央の襟刳りについて,本件登録意匠は,緩やかな弧状による略V字状であるのに対して,イ号意匠は,直線的な略V字状で,その略V字状の奥に暗調子の略三角形状の布部分を設けている点,
(イ)胴部の模様について,本件登録意匠は,背面左右の略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線の外側端部寄りまでドット模様を施しているのに対して,イ号意匠は,胴部の背面左右の略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線から腰部を通って斜めに前身頃まで太帯状の暗調子とし,正面側の下方は左右の略大型長方形状のポケット部分に隠れ,背面側は略ひし形状としたものである点,
(ウ)正面側の下方左右の大型のポケットの態様について,本件登録意匠は,略台形状で,大型のポケットの左右両端と正面左右の縦方向の切替え線とが重なるため大型のポケットの形状が目立たないのに対して,イ号意匠は,略長方形状で,大型のポケットの形状が目立つ点,
(エ)正面側の大型のポケット以外のポケットの位置や形状について,本件登録意匠は,正面視右側の上部に袷部から袖部に向かって斜め上方向に縁部を有する口部が斜め帯状に表れている切り込み式の胸ポケットを設け,左側の上部には袖部の下側に反転した略逆「J」字状の切替え線内に左端に向かってやや下降する斜め線状に口部が表れているポケットを設け,左側の腰付近の位置に反転した略逆「J」字状の切替え線を横切って水平方向に縁部を有する口部が横長帯状に表れている切り込み式のポケットを設けているのに対し,イ号意匠は,正面視右側の上部には袷部から袖部に向かう位置にやや小さめの略縦長長方形状の貼り付け式の胸ポケットを設け,左側の上部には袖部に向かうやや肩寄りの位置に左端に向かってやや下降する斜めの細帯状の切り込み式のポケットを設けている点,
(オ)襟の形状について,本件登録意匠は,襟の高さがやや低く,正面中央寄りの左右の端部が略隅丸四角形状であるのに対して,イ号意匠は,襟の高さが本件登録意匠よりやや高く,正面中央寄りの左右の端部が略半月形状である点,
(カ)襟部の飾りとポケットの模様について,本件登録意匠は,襟部の細いパイピング飾り,正面右側の胸ポケットと正面腰部付近の水平方向のポケットの縁に同様のドット模様を施しているのに対して,イ号意匠は,襟部の細いパイピング飾りのみを暗調子とし,ポケットには模様がない点,
(キ)袖部のタックについて,本件登録意匠は,正面側と背面側の左右にタックがあり,袖部が立体的に形成されているのに対して,イ号意匠は,タックがなく平面的である点,
に主な差異がある。

4 類否判断
そこで,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠等を参酌し,新規な態様や需要者の注意を最も惹き易い部分を考慮した上で,共通点と差異点が意匠全体として両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,検討する。
(1)意匠に係る物品
両意匠は,意匠に係る物品が共通する。
(2)形態の共通点の評価
まず,両意匠における形態の共通点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
共通点(A)について,全体を胴部,左右袖部,襟部とから構成した正面視右寄りに開閉部を設けた半袖の上衣であって,右側の襟部付近から斜め下方向に身頃が重なる袷部分を設けた態様は,本件登録意匠の出願前に既に見受けられ(例えば,特許庁意匠課公知資料番号第HC26014375号の業務用ユニフォームの意匠(参考意匠1:別紙第3参照)),この種の作業用上衣の分野においては,ありふれた態様といえるもので,両意匠のみに共通する新規な構成態様とはいえず,また,その部分を止める円形ボタンを左右に2個配した点も,その点のみで両意匠を特徴付ける格別の特徴ともいうことができず,両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は小さいものと言わざるを得ない。
次に,共通点(B)について,正面中央の襟刳りを略V字状とし,細いパイピング飾りを外縁に施した丸襟を設けた点についても,この種の作業用上衣の分野においても,丸襟を設けることは,広く知られたありふれた態様といえるものであり,また,正面中央の襟刳りを略V字状とし,細いパイピング飾りを外縁に施した正面中央の襟刳りを略V字状とすることも医療用の上着の分野では,本件登録意匠の出願前に既に見受けられ(例えば,前記参考意匠1:別紙第3参照),この種の作業用上衣の分野において,ありふれた態様といえるもので,両意匠のみに共通する新規な構成態様とはいえないものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものと言わざるを得ない。
また,共通点(C)について,この種の作業用上衣の分野において,胴部の正面左右に縦方向の切替え線を設け,胴部の背面左右に略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線を左右対称に設けた態様は,本件登録意匠の出願前に既に見受けられ(例えば,意匠登録第1523136号の意匠(参考意匠2:別紙第4参照)),両意匠のみに共通する特徴とはいえず,ありふれた態様の中での部分的な共通点に留まる範囲といえ,両意匠の印象を左右するほどのものとはいえないから,共通点(C)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものというほかない。
そして,共通点(D)について,正面側の下方左右には大型のポケットを設け,正面右側の胴部には袷部から袖部に向かう位置に胸ポケットを設け,左側上部に左に向かってやや下降する斜めのポケットを設けた態様が共通しているが,両意匠と同様に,正面下方左右に大型のポケットを設け,正面視右側の胴部上部に袷部から袖部に向かう位置に胸ポケットを設け,左側上部に左に向かってやや下降する斜めのポケットを設けた態様は,他にも見られるありふれた態様といえるものであり,両意匠のみに共通する態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
さらに,共通点(E)について,袖部が袖口に向かってやや窄まった円筒形状のものである態様については,他にも普通に見られるありふれた態様といえるものであり,両意匠のみに共通する態様とはいえず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
そうすると,共通点全体として両意匠の類否判断に与える影響を考慮しても,両意匠の類否判断を決定付けるに至るということはできない。
(3)形態の差異点の評価
次に,両意匠の形態における差異点が類否判断に及ぼす影響について検討する。
すなわち,まず,差異点(ア)の襟刳りにおける形状の差異と暗調子の略三角形状の布部分の有無について,引用意匠には暗調子の略三角形状の布部分があり,直線的な略V字状であるのに対して,そのような布部分のない緩やかな弧状による略V字状の本件登録意匠の態様は,すっきりとした柔らかい印象を与えるもので,襟刳りの印象を異ならせるものといえ,いずれも特段の特徴ではないが,この種の作業用上衣の分野において,襟付近の態様は,需要者の注意を強く惹く部分であるから,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
次に,差異点(イ)の胴部の模様の差異について,胴部の模様部分は面積の大きな部分で,背面左右の略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線の外側端部寄りまでドット模様を施している本件登録意匠は,全体が緩やかで柔らかい印象であるのに対して,胴部の背面左右の略逆「J」字状と反転した略逆「J」字状の切替え線から腰部を通って斜めに前身頃まで太帯状の暗調子とし,正面側の下方は左右の略大型長方形状のポケット部分に隠れ,背面側は略ひし形状としたイ号意匠は,シャープで硬い印象を与えるものであり,この種の作業用上衣を使用する場合には,需要者が,その模様の具体的な形状についても注意を払うものであるから,いずれも当該模様を観察した場合の印象が少なからず異なり,その差異が両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。
また,差異点(ウ)の正面側の下方左右の大型のポケットの態様について,略台形状で大型のポケットの形状が目立たない本件登録意匠は,シャープですっきりした印象であるのに対して,イ号意匠は,略長方形状で大型のポケットの形状が目立つもので,どっしりした安定した印象であり,部分的な差異ではあるが,大型のポケットは需要者の注意を惹く部分といえ,この点における差異が両意匠の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そして,差異点(エ)の大型のポケット以外のポケットの位置や形状についても,正面視右側の上部に袷部から袖部に向かって斜め上方向に縁部を有する口部が斜め帯状に表れている切り込み式の胸ポケットを設け,左側の上部には袖部の下側に反転した略逆「J」字状の切替え線内に左端に向かってやや下降する斜め線状に口部が表れているポケットを設け,左側の腰付近の位置に反転した略逆「J」字状の切替え線を横切って水平方向に縁部を有する口部が横長帯状に表れている切り込み式のポケットを設けている本件登録意匠は,略S字状の配置で,その結果として正面左右の切替え線が目立つ態様であるのに対して,イ号意匠は,正面視右側の上部には袷部から袖部に向かう位置にやや小さめの略縦長長方形状の貼り付け式の胸ポケットを設け,左側の上部には袖部に向かうやや肩寄りの位置に左端に向かってやや下降する斜めの細帯状の切り込み式のポケットを設けていて,大型のポケット以外のポケットが目立たず,切替え線も模様によって明確になっている点で本件登録意匠とは異なり,両意匠のポケットの位置と形は,需要者にとって印象が異なるものといえ,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
また,差異点(オ)の襟の形状について,丸襟とすることは,従来から普通に見受けられる態様ではあるが,イ号意匠は丸みが強く,高さもあり目立つものといえ,襟の高さがやや低く,正面中央寄りの左右の端部が略隅丸四角形状である本件登録意匠の態様とは印象が異なり,部分的な態様ではあるが,需要者の注意を惹く部分といえ,この点における差異が両意匠の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そしてまた,差異点(カ)の襟部の飾りとポケットの模様について,襟部の細いパイピング飾り,正面右側の胸ポケットと正面腰部付近の水平方向のポケットの縁に同様のドット模様を施している本件登録意匠の態様は,胸ポケットや水平方向のポケットがアクセントとなり,襟部と合わせたデザインであるのに対して,襟部の細いパイピング飾りのみを暗調子とし,ポケットに模様がないイ号意匠は,襟部のみが強調されたものとなっているため,明らかにその印象が異なるものといえ,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。
さらに,差異点(キ)の袖部のタックの有無について,タックのあるものもないものも,いずれの態様も普通に見られるありふれた態様といえるものであるが,正面側と背面側の左右にタックがあり,袖部が立体的に形成されている本件登録意匠は,平面的なイ号意匠の態様とは,見た目の印象が異なるもので,僅かではあるが,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
そうすると,差異点に係る態様が相まって生じる視覚的な効果は,両意匠の類否判断を決定付けるものである。
(4)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態において,差異点が共通点を凌駕し,それが両意匠の意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しないものと認められる。
したがって,本件登録意匠とイ号意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態については,イ号意匠は本件登録意匠の特徴的な態様を有さず,共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから,両意匠は,全体として需要者に与える美感が異なるものであって,類似するということはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2018-01-11 
出願番号 意願2015-24726(D2015-24726) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (B1)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 木本 直美 
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 正田 毅
斉藤 孝恵
登録日 2016-05-13 
登録番号 意匠登録第1551951号(D1551951) 
代理人 原田 雅章 
代理人 山崎 和香子 
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 
代理人 金井 倫之 
代理人 齋藤 宗也 
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