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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 E3
管理番号 1340214 
審判番号 不服2017-15373
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-17 
確定日 2018-05-22 
意匠に係る物品 野球用プロテクター 
事件の表示 意願2017- 3241「野球用プロテクター」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1手続の経緯
平成29年 2月20日 意匠登録出願
平成29年 7月13日付け 拒絶理由通知書
平成29年 7月25日 意見書提出
平成29年 8月28日付け 拒絶査定
平成29年10月17日 審判請求書提出

第2 本願意匠
本願は、物品の部分について意匠登録を受けようとする出願であり、その意匠は、願書及び願書に添付した図面代用写真の記載によれば、意匠に係る物品を「野球用プロテクター」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形態」ともいう。)は、願書及び願書に添付した図面代用写真の記載のとおりとしたものであって、「赤色で示された部分を除く部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものです。(以下、「本願意匠」という(別紙第1参照)。また本願の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を以下、「本願意匠部分」という。)

第3 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、本願意匠が、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので、意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって、具体的には、以下のとおりである。
「胴体部の上部左右の肩部と、胴体部の下部左右及び胴体部の下部中央に湾曲した凸部とを有する本願意匠と略同形状の外郭形状を有する野球用プロテクターは、例えば、下記意匠1?3のように、本願出願前より、周知の一般的なものです。
また、プロテクターの胴体前面部の表面を滑らかな面で構成した(区画された凸部を有さない)プロテクターも例えば、下記意匠4?6のように、本願出願前より、周知の一般的ものです。
そうしてみると、本願出願前周知の下記意匠1?3の野球用プロテクターの胴体前面部の表面を、本願出願前周知の下記意匠4?6のプロテクターのように、滑らかな面状となるように構成したに過ぎない本願意匠は、当業者であれば、容易に創作することができたものです。

【意匠1】
電気通信回線の種類 インターネット
掲載確認日(公知日) 2007年11月12日
受入日 特許庁意匠課受入2007年11月16日
掲載者 株式会社エスエスケイ
表題 野球 プロテクター用品 その他プロテクター用品
エスエスケイ ソフト用プロテクター
掲載ページのアドレス http://shop.webleague.net/top/840/syohin.php?shid=67147
に掲載された「プロテクター」の本願意匠に相当する部分の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HJ19066831号)

【意匠2】
電気通信回線の種類 インターネット
掲載確認日(公知日) 2008年 4月30日
受入日 特許庁意匠課受入2008年 5月 9日
掲載者 株式会社エスエスケイ
表題 野球 プロテクター用品 軟式野球キャッチャーズ
プロテクター エスエスケイ 軟式用プロテクター
H型
掲載ページのアドレス http://shop.webleague.net/top/840/syohin.php?shid=93055
に掲載された「野球用プロテクター」の本願意匠に相当する部分の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HJ20003440号)

【意匠3】
電気通信回線の種類 インターネット
掲載確認日(公知日) 2009年 2月 9日
受入日 特許庁意匠課受入2009年 2月13日
掲載者 株式会社エスエスケイ
表題 タイトルなし
掲載ページのアドレス http://www.ssksports.com/news/makernews_img/00934.jpg
に掲載された「野球用プロテクター」の本願意匠に相当する部分の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HJ20060062号)

【参考意匠1】
実用新案登録第3035772号
に掲載されたプロテクターの意匠(特に、図1参照。)

【参考意匠2】
実用新案登録第3084380号
に掲載されたプロテクターの意匠(特に、図2参照。)

【参考意匠3】
平成 2年実用新案出願公開第121063号
に掲載されたプロテクターの意匠(特に、第1図参照)」

なお、上記の拒絶理由通知の文中に「意匠4?6」とあるのは、拒絶理由通知記載の参考意匠1ないし3を指すものと認められる。

第4 請求人の主張の要点
これに対し、請求人は、審判を請求し、本願意匠の創作非容易性についておおむね以下のとおり主張した。
1 本願意匠が登録されるべき理由
原査定は下記の諸点において、その理由が不備であり、取消をまぬがれ難い処である。
すなわち、本願意匠は、
(A)(正面図から明らかなように)胴体前面部がパンケーキのようにふっくらとした丸みを有し、パンパンに張った膨出面状で美しく滑らかな印象を与える点。
(B)胴体前面部が全く皺や凹溝や縫い目が省略され、全面にわたってパンパンに張った滑らかな膨出面から成り、シンプルにして力強さを感じる点。
(C)外端縁が、曲率半径の小さな弯曲凸面をもって形成され、中央領域の膨出面と滑らかに連続して、厚みと力強さのある独特の美感を与える点。等を特徴としている。
これに対し、意匠1は、
(1-a)前面部が複数本の溝によって20個以上の凸部に分割されており、ごつごつとした印象を与える点。
(1-b)特に、身体に沿うように変形するような複雑な印象を与える点。等を特徴としている。
また、意匠2は、
(2-a)前面部が複数本の溝によって30個以上の凸部に分割されており、ごつごつとした印象を与える点。
(2-b)特に、凸部間の溝が不規則的な方向に配設されており、複雑な印象を与える点。
等を特徴としている。
また、意匠3は、
(3-a)前面部が複数本の溝によって10個以上の凸部に分割されており、ごつごつとした印象を与える点。
(3-b)特に、身体に沿うように変形するような複雑な印象を与える点。
等を特徴としている。
また、意匠4(参考意匠1)は、
(4-a)前面部周囲に多数の皺が寄っており、たるんで醜い印象を与える点。
(4-b)外周縁が直角に切断されており複雑な印象を与える点。
等を特徴としている。
また、意匠5(参考意匠2)は、
(5-a)前面部(図1参照)が縦方向の複数本の直線状ステッチ(縫い目)を有し、薄っぺらで弱々しく煩雑な印象を与える点。
等を特徴としている。(なお、図2は裏側を示しているので、関係ない。しかも、多数の皺が寄っている。)
また、意匠6(参考意匠3)は、
(6-a)前面がぺたんとした平坦状で薄っぺらかつ弱々しい印象を与える点。
等を特徴としている。
このように、本願意匠は上記(A)(B)(C)の特徴を有し、引例意匠1ないし6とは“外観”を全く相違し、それに伴う“美感”も別異のものである。
特に、意匠1ないし3は、本願と同一物品に係る意匠であって、「野球用プロテクター」が、従来から全て、「複数本の溝によって区画形成された複数の凸部に分割されていた事実」を、証明している。
しかも、野球においてキャッチャーが使用する「野球用プロテクター」は、その前面の外皮は、全て、人工皮革又は天然牛皮であって、皺が全く発生しない素材であり、その縫製も特別な機械・器具を使用して作業せねばならない。
引用意匠4ないし6のように薄い布地を表生地に用いる空手等の格闘技用のプロテクター及びインサイドプロテクターとは、製造業者も販売ルートも相違し、意匠に係る物品が異なり、意匠を相互に転用する商慣行も存在しない。
したがって、ありふれた手法によって、本願意匠を創作することはできない。

2 むすび
したがって、本願意匠は、引用意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠ということはできないと確信する。

第5 当審の判断
請求人の主張を踏まえ、本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性、すなわち、本願意匠が容易に創作することができたか否かについて、検討し、判断する。
1 本願意匠
本願意匠の意匠に係る物品は「野球用プロテクター」であって、本願意匠は、胴当て部、肩覆い部、背当て部及び係止ベルトからなり、本願意匠部分は,胴当て部の縁部を除く衝撃吸収部である前面部分がその位置、大きさ及び範囲のものであり、本願意匠部分の形態は、(ア)正面視で、上部を略U字状に大きく切り欠いて、左右に肩掛片を形成し、その外側の脇は緩やかに内方に湾曲して、下半部を左右及び下に張り出した前掛状とし、その右端部、下端中央部及び左端部を略弧状に張り出させ、(イ)前面全体は、周縁から中央に向けて緩やかに丸みを帯びて前方に膨出しているものであって、(ウ)全体が明るめの暗調子で現されているものである。

2 引用意匠
(1)意匠1(別紙第2参照)
意匠に係る物品は「プロテクター」であって、その縁部を除く胴当て部は、正面視で、上部を略U字状に大きく切り欠いて、左右に肩掛片を形成し、その外側の脇は緩やかに内方に湾曲して、下半部を左右及び下に張り出した厚みのある前掛状とし、その右端部、下端中央部及び左端部を略弧状に張り出させたものであって、縦方向に僅かに外方に傾いた直状の溝部を肩掛片外側から下端まで、2本設けて、前面を大まかに3分し、中央ブロックは下方がやや先細の長方形状とし、左右ブロック部は外側を略円弧状とする略半円状で、さらに縦に2分する直状溝部を設け、横方向に、ごく緩やかな下向きの弧を描く溝部を複数本、等間隔に端から端まで通して設けて(大半が略横長長方形状の)分割された多数の凸部を形成し、全体が紺色(暗調子)で現されているものである。
(2)意匠2(別紙第3参照)
意匠に係る物品は「軟式野球キャッチャーズプロテクター」であって、その縁部を除く胴当て部は、正面視で、上部を略U字状に大きく切り欠いて、左右に肩掛片を形成し、その外側の脇は緩やかに内方に湾曲して、下半部を左右及び下に張り出した厚みのある前掛状とし、その右端部、下端中央部及び左端部を略弧状に張り出させたものであって、前面は、肩掛片は上方寄りに水平方向の直状溝部を、左右脇に鉛直方向の直状溝部を、肩掛片と胴部の境近辺に斜め外方に斜状溝部を設け、その余の胴部は、横方向にごく緩やかな下向きの弧を描く溝部を複数本、下方に行くにしたがって幅狭に端から端まで通して設け、両脇からは斜め内方に略四角形状と略三角形状に折れ曲がった溝部を設け、両脇から斜め内方に斜状溝部を設けて分割し、多数の種々の形状の凸部を形成し、全体が紺色(暗調子)で現されているものである。
(3)意匠3(別紙第4参照)
意匠に係る物品は「プロテクター」であって、その縁部を除く胴当て部は、正面視で、上部を略U字状に大きく切り欠いて、左右に肩掛片を形成し、その外側の脇は緩やかに内方に湾曲して、下半部を左右及び下に張り出した厚みのある前掛状とし、その右端部、下端中央部及び左端部を略弧状に張り出させたものであって、縦方向に僅かに外方に傾いた直状の溝部を肩掛片外側から下端まで、2本設けて、前面を大まかに3分し、中央ブロックは下方がやや先細の長方形状とし、左右ブロックは斜め下方が略円弧状の略半円状で、横方向は、上端の溝部は水平方向に、それより下は、ごく緩やかな下向きの弧を描く溝部を複数本、下方に行くにしたがって幅狭に設けて、分割し、(およそ半ばが略横長長方形状の)多数の凸部を形成し、全体が紺色(暗調子)で現されているものである。
(4)意匠4(参考意匠1)(別紙第5参照)
意匠に係る物品は「空手の防具」であって、前面上端に、低い角凸状部が形成され、側方が下方延出された略倒コの字状の厚みのある防具であって、突状部の角部に係着具を配して成り、表面は凹凸のないほぼ平滑なもので、全体に明暗調子は現されていない。
(5)意匠5(参考意匠2)(別紙第6参照)
意匠に係る物品は「格闘技用エアーテックプロテクター」であって、正面視で、中央の胴部と左右の側面部及び係止ベルトからなり、胴部は上端が浅いU字状に刳れ、下端が円弧状の略縦長長円形状であって、側面部は略縦長長方形状の厚みのあるプロテクターであって、前面は凹凸のないほぼ平滑なもので、全体に明暗調子は現されていない。
(6)意匠6(参考意匠3)(別紙第7参照)
意匠に係る物品は「インサイドプロテクター」であって、前身頃(プロテクター本体)部、後身頃部、肩パッド部及び締結ベルト部から成るベスト状プロテクターであって、前身頃部は、上部を略U字状に切り欠いて、左右肩掛片を形成し、その外側の両脇は緩やかに内方に湾曲しつつ、下方外側に向けて広がり、下端はごく緩やかに湾曲して厚みのあるもので、正面視で左上には、肩パッド部を取付け、後見頃部は上部を略U字状に切り欠いた下方が先細の略長方形状の網状体であって、その下方両脇には締結ベルト部を配しており、前身頃部の前面は下端寄り横方向に設けられたスライドファスナー部を除いて凹凸のないほぼ平滑なもので、全体に明暗調子は現されていない。

3 本願意匠部分の創作容易
物品の部分に係る創作容易性の判断については、当該部分の形態が、当該意匠登録出願前に公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かを判断すると共に、当該部分の用途及び機能を考慮し、「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形態の中において、その位置、大きさ及び範囲とすることが、当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断することにより行うべきところ、
本願意匠部分の用途及び機能は、「野球用プロテクター」として、主に前面において、ボールなどから身を守る用途であって、衝突時の衝撃を緩和する機能に係るものと認められ、野球用プロテクターの物品分野において、ごく普通の用途及び機能であるから、本願意匠部分の創作容易性を判断するに当たって、本願意匠の用途及び機能を特段、考慮すべきということはできない。
次に、位置、大きさ及び範囲について検討すると、その大きさについては、本願意匠部分は身体の胴部の主に前面を覆う程度の大きさであると推認されるから、野球用プロテクターの物品分野においてよく見受けられる程度の大きさであり、その全体の中の位置及び範囲についても胴当て部の前面のほとんど全面であるから、ごく普通に見受けられる程度の位置及び範囲と認められる。
そして、本願意匠部分の形態について、
意匠1ないし意匠6に基づいて、「野球用プロテクター」の物品分野において周知の創作手法から容易に本願意匠が創作できたかについて検討すると、胴当て部を上記1の(ア)の前掛け状の形状とすることは、「野球用プロテクター」の物品分野でよく見受けられる形状(例えば、意匠1ないし意匠3)であるから、(ア)の形状とすることが格別の創作であるとすることはできず、また、上記1の(ウ)についても「野球用プロテクター」の物品分野において、よく見られる明るめの暗調子であって格別の創作であるということはできない。
しかしながら、上記1の(イ)の形状については、本願出願前に公然知られた形態である意匠1ないし意匠6のいずれにも表されておらず、前面部が凹凸のないほぼ平滑な形状であるものは、意匠4ないし意匠6(参考意匠1ないし3)に認められるものの、前面全体を、凹凸のないものとした上に、周縁から中央に向けて緩やかに丸みを帯びて前方に膨出している形状とすることが、「野球用プロテクター」の物品分野において本願意匠出願前にありふれた手法であったとする証拠はなく、本願意匠部分の独自の特徴であるといえる。

4 小括
よって、本願意匠部分の用途及び機能とすること、また、「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形状の中において、その位置、大きさ及び範囲とすることが、ごく普通に見受けられる程度のもので、形態については、上記のとおり、1の(ア)及び(ウ)の形態がよく見受けられるものであるとしても、1の(イ)の形状とすることが、「野球用プロテクター」の物品分野において本願意匠出願前にありふれた手法であったとする証拠はないから、1の(ア)、(イ)及び、(ウ)からなる本願意匠部分は、「野球用プロテクター」の物品分野において、当業者であれば、容易に創作することができたということはできない。
したがって、本願意匠部分は、当業者であれば、公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、意匠法第3条第2項が規定する、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものに該当しないので、原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2018-05-10 
出願番号 意願2017-3241(D2017-3241) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (E3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 佳孝 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 竹下 寛
渡邉 久美
登録日 2018-06-01 
登録番号 意匠登録第1607666号(D1607666) 
代理人 中谷 武嗣 

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