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審決分類 審判    D3
管理番号 1342068 
審判番号 無効2017-880004
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-05-08 
確定日 2018-07-13 
意匠に係る物品 放熱フィン付き検査用照明器具 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1567961号「放熱フィン付き検査用照明器具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1567961号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照。)は,平成28年(2016年)9月26日に意匠登録出願(意願2016-20562)されたものであって,審査を経て同年12月22日に意匠権の設定の登録がなされ,平成29年(2017年)1月30日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 平成29年 5月 8日
・審判事件答弁書提出 平成29年 7月14日
・審判事件弁駁書提出 平成29年10月 2日
・口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成29年11月10日
・口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成29年11月27日
・口頭審理 平成29年12月11日


第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は,請求の趣旨を
「登録第1567961号意匠の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,概要以下のとおりの主張をして(「弁駁書」及び「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,後記4に掲げた甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。

1 請求の理由
(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,甲第1号証又は甲第2号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(2)本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠登録第1567961号の意匠公報(別紙第1参照)に記載のとおり,意匠に係る物品を「放熱フィン付き検査用照明器具」とし,その形態は,
基本的構成態様が,
(A)前端面に発光面(光導出ポート)が設けられ,後端部側周面から電源ケーブルが引き出されたケーシングの後方部材において,
(B)該ケーシングの後端面中心から後方に延伸する支持軸体が設けられており,
(C)該支持軸体の中間部分には,中心軸を合致させ,かつ,互いに間隔をあけて配置された複数枚の同径円盤状をなす中間フィンが設けられており,
(D)該支持軸体の後端部分には,該中間フィンと同径であり,中心軸を合致させた,該中間フィンよりも厚い円盤状をなす1枚の後端フィンが配置されている,
ものであり,
具体的構成態様が,
(E)中間フィン及び後端フィンは,互いに略等しい間隔で配置されており,その間隔寸法は,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約28%であり,
(F)中間フィン及び後端フィンの径は,ケーシングの最大径と略等しく,
(G)中間フィンの枚数は2枚であり,
(H)中間フィンの厚みは,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約12%であるとともに,後端フィンは,中間フィンに比べて約1.4倍の厚みであり,
(I)後端フィンは,その後端面の縁に面取りが施してあり,
(J)支持軸体は同一径であり,その径はフィンの約1/3であり,
(K)中間フィン及び後端フィンには,その前端面の縁に面取りが施してあり,
(L)中間フィン及び後端フィンの外周面には,約60°の範囲に亘って円弧の一部を直線状に切り取ったフラット面が設けてあり,
(M)後端フィンには中心及びその左右の計3箇所にねじ穴が設けてある,
ものである。
なお,前記構成態様の説明で用いた各部の名称が,本件登録意匠の願書に添付された図面においてどの部位に対応するのかを,第1図(別紙第2参照)に図示する。
イ 先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
(ア)甲第1号証(意匠登録第1224780号意匠公報(写し))
出 願 平成16年 4月12日
登 録 平成16年10月22日
(意匠登録第1224615号の関連意匠)
公報発行 平成16年12月 6日
意匠権者 シーシーエス株式会社(請求人)
甲第1号証の意匠(以下「甲1意匠」ともいう。)は,本件登録意匠の出願前に公知となった先行意匠であって,意匠に係る物品を「検査用照明器具」とし,その形態を願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとした部分意匠である(別紙第3参照)。
すなわち,その形態は,基本的構成態様が,
(a1)前端面に発光面(光導出ポート)が設けられ,後端部側周面から電源ケーブルが引き出されたケーシングの後方部材において,
(b1)該ケーシングの後端面中心から後方に延伸する支持軸体が設けられており,
(c1)該支持軸体の中間部分には,中心軸を合致させ,かつ,互いに間隔をあけて配置された複数枚の同径円盤状をなす中間フィンが設けられており,
(d1)該支持軸体の後端部分には,該中間フィンと同径であり,中心軸を合致させた,該中間フィンよりも厚い円盤状をなす1枚の後端フィンが配置されている,
ものであり,
具体的構成態様が,
(e1)中間フィン及び後端フィンは,互いに略等しい間隔で配置されており,その間隔寸法は,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約18%であり,
(f1)中間フィン及び後端フィンの径は,ケーシングの最大径と略等しく,
(g1)中間フィンの枚数は5枚であり,
(h1)中間フィンの厚みは,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約5%であるとともに,後端フィンは,中間フィンに比べて約2倍の厚みとなっており,
(i1)後端フィンは,その後端面の縁に面取りが施してあり,
(j1)支持軸体は同一径であり,その径はフィンの約1/5である,
ものである。
(イ)甲第2号証(意匠登録第1224615号意匠公報(写し))
出 願 平成16年 4月12日
登 録 平成16年10月22日
公報発行 平成16年12月 6日
意匠権者 シーシーエス株式会社(請求人)
甲第2号証の意匠(以下「甲2意匠」ともいう。)は,本件登録意匠の出願前に公知となった先行意匠であって,意匠に係る物品を「検査用照明器具」とし,その形態を願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとした部分意匠である(別紙第4参照)。
すなわち,その形態は,基本的構成態様が,
(a2)前端面に発光面(光導出ポート)が設けられ,後端部側周面から電源ケーブルが引き出されたケーシングの後方部材において,
(b2)該ケーシングの後端面中心から後方に延伸する支持軸体が設けられており,
(c2)該支持軸体の中間部分には,中心軸を合致させ,かつ,互いに間隔をあけて配置された複数枚の同径円盤状をなす中間フィンが設けられており,
(d2)該支持軸体の後端部分には,該中間フィンと同径であり,中心軸を合致させた,該中間フィンよりも厚い円盤状をなす1枚の後端フィンが配置されている,
ものであり,
具体的構成態様が,
(e2)中間フィン及び後端フィンは,互いに略等しい間隔で配置されており,その間隔寸法は,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約18%であり,
(f2)中間フィン及び後端フィンの径は,ケーシングの最大径と略等しく,
(g2)中間フィンの枚数は2枚であり,
(h2)中間フィンの厚みは,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約5%であるとともに,後端フィンは,中間フィンに比べて約2倍の厚みとなっており,
(i2)後端フィンは,その後端面の縁に面取りが施してあり,
(j2)支持軸体は同一径であり,その径はフィンの約1/5である,
ものである。
ウ 本件登録意匠と先行意匠(甲1意匠及び甲2意匠)との対比
(ア)物品の対比
本件登録意匠に係る物品は,「放熱フィン付き検査用照明器具」である一方,甲1意匠及び甲2意匠に係る物品は「検査用照明器具」であり,これらはいずれも検査用照明器具に関するものであるから,同一の物品である。
(イ)形態の対比
共通点及び相違点は以下のとおりである。
a 共通点
本件登録意匠は,基本的構成態様(A),(B),(C),(D)において,先行意匠(甲1意匠及び甲2意匠)と共通する。
また,本件登録意匠は,具体的構成態様において,
・「中間フィン及び後端フィンは,互いに略等しい間隔で配置されている」点,
・「中間フィン及び後端フィンの径は,ケーシングの最大径と略等しい」点,
・「支持軸体が同一径である」点,及び,
・「後端フィンの後端面の縁に面取りが施してある」点
において先行意匠(甲1意匠及び甲2意匠)と共通する。
また,本件登録意匠は,「中間フィンの枚数は2枚」である点において,先行意匠のうちの甲2意匠と共通する。
b 相違点
(i)本件登録意匠において,「その間隔寸法は,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約28%」であるのに対し,先行意匠では約18%である点,
(ii)本件登録意匠において,「中間フィンの厚みは,中間フィン及び後端フィンの円弧直径の約12%である」のに対し,先行意匠では約5%である点,
(iii)本件登録意匠において,「後端フィンは,中間フィンに比べて約1.4倍の厚み」であるのに対し,先行意匠では約2倍である点。
(iv)本件登録意匠において,「支持軸体の径はフィンの約1/3」であるのに対し,先行意匠では約1/5倍である点。
(v)本件登録意匠において,「中間フィン及び後端フィンには,その前端面の縁に面取りが施してある」のに対し,先行意匠では面取りが施されていない点。
(vi)本件登録意匠において,「中間フィン及び後端フィンの外周面には,約60°の範囲に亘って円弧の一部を直線状に切り取ったフラット面が設けてある」のに対し,先行意匠ではフラット面が設けられていない点。
(vii)本件登録意匠において,「後端フィンには中心及びその左右の計3箇所に,後端フィンの円弧直径の約14%の径のねじ穴が設けてある」のに対し,先行意匠ではねじ穴が設けられていない点。
(viii)本件登録意匠において,「中間フィンの枚数は2枚」であるのに対し,先行意匠のうちの甲1意匠では中間フィンが5枚である点。
エ 本件登録意匠と先行意匠との類否判断
(ア)新HLVシリーズ
請求人は,第2世代高輝度スポット照明などと銘打って,はるかに高輝度で,ほとんどの光ファイバー型照明器具に代替することが可能な新HLVシリーズを開発し,少なくとも2004年8月にはその展示販売を始めた。
この新HLVシリーズが,先行意匠(甲1意匠,甲2意匠)に対応する製品であり,その特徴は,電源ケーブルをケーシングの側周面から引き出すという構造を始めて採用したことにより,ケーシング後端面に,部品やケーブル収容機能のない,放熱のみに特化したフィン構造体を設けたことにある。
このことによって,放熱機能が一挙に向上し,飛躍的な高輝度化が可能となった。
従前のLVシリーズ及び旧HLVシリーズにおいては,ヘッドの後端から光ファイバー束が出ているという光ファイバー型照明器具の形態に引っ張られ,光ファイバー束に代わるものとして電源ケーブルを設けなければならないという固定観念があったせいか,電源ケーブルがケーシング後端面から引き出されており,それがゆえに,ケーシング後端面には,効果的な放熱構造体は設けられていない。
しかし,発熱源であるLEDは,ケーシング後端面の裏側(ケーシング後板の前面)に取り付けられているため,本来ならば,このケーシング後端面から放熱するのが最も効果的である。
これに対し,請求人は,「目から鱗」的な発想から,ケーシングの側周面から電源ケーブルを引き出せばよいことに初めて想到し,そのことによって,ケーシングの後端面に,放熱のみに特化したフィン構造体を設けることが可能になった(逆に,ケーシング後端面にフィン構造体を設けたいという要求から,ケーシング側周面から電源ケーブルを引き出す構造に想到したともいえる。)。
このフィン構造体が,本件登録意匠や先行意匠の基本的構成態様で説明した後方部材(支持軸体,中間フィン及び後端フィン)に相当する。
このフィン構造体によって,ケーシング後板の前面(その後面がケーシング後端面)に取り付けられているLEDからの熱が,支持軸体を介して速やかに,かつ効率的に各フィンに伝えられ,放熱される。
そして,このフィン構造体の優れた放熱機能によって,前述したように,高輝度LEDの搭載が可能となり,スポット照明において,飛躍的な高輝度化が実現されたわけである。
さらに,請求人は,このフィン構造体に対し,高い放熱機能だけでなく,業界の需要者が機能美を感じるような,非常に魅力的な独特のデザインを与えた。
すなわち,このフィン構造体は,後端部側周面から電源ケーブルが出ているというケーシング形態が前提となるものであるが,この電源ケーブルをケーシング側周面から引き出す構成によって,その引出位置近傍が,部品収容機能のあるケーシングの終端である印象を需要者が受けるようにした。
そして,このようにケーシングの存在や位置を需要者に明確に認識できる構成としたうえで,このケーシングの後端から後方に延びるフィン構造体を設けることによって,このフィン構造体に対し,これがケーシング(あるいはケーシング側周面の溝によって形成されているフィン様の突条)とは機能的に別個独立に設けられたものであって,放熱特化機能を有する,いわばロケットブースターのごときイメージを,需要者をして抱かせしめたのである。
さらに具体的にいえば,請求人は,このフィン構造体において,複数枚の薄い中間フィンを並べたことにより,需要者に,前述した放熱機能の高さを感じさせることに成功し,その一方で,この複数枚の中間フィンの最後尾に,より厚い後端フィンを設けることによって,需要者に堅牢性を印象付けたのである。
また,これら中間フィン及び後端フィンは,ケーシングの外径とほぼ同径の円盤状をなすとともに一定ピッチで並べられているので,需要者は,ケーシングとのデザイン的な一体感を感じるとともに,その?体感によって,ケーシングからの伝熱がスムーズになされるようなイメージをも抱くこととなる。
すなわち,甲1意匠,甲2意匠が具現化されている,新HLVシリーズにおけるフィン構造体の形態は,スポット照明のケーシング形態のうちの,後端部側周面から電源ケーブルが出ているという形態を前提としたときに,“放熱が良さそう”とか,“高輝度を期待できそう”などといった印象を需要者に抱かせる,極めて魅力的で斬新な,まさしく機能美ともいうべきデザインである。
そして,スポット照明業界の需要者であればこそ理解できる新HLVシリーズあるいは甲1意匠,甲2意匠のデザインの魅力性の中枢が,前述した構成にあり,この構成こそ,前記基本的構成態様であることに 疑義を挟む余地はない。
したがって,需要者は,この基本的構成態様が共通するか否かによってデザイン(形態)の類否を判断していると考えられる。
(イ)本件登録意匠と先行意匠との類否
本件登録意匠は,破線によって具体的に示される形態,すなわちケーシングにおいて,その後端部側周面から電源ケーブルが出ているという形態が前提となって初めてその美観が見出されるものであり,本件登録意匠の要部は,まさしく前述した基本的構成態様((A)ないし(D))にあるというべきである。
しかして,本件登録意匠はこの要部において先行意匠と共通する。
他方,本件登録意匠は,各フィンの厚み,ピッチ,フィンの前端に設けられた面取り,フラット面,支持軸体の径などの具体的構成態様において,先行意匠と異なる点はある(前記(i)?(viii))。
しかしながら,それらの差異は,需要者が看たときの印象,すなわち,前述したように,後方部材(フィン構造体)に対し抱く,いわばロケットブースターのごとき放熱特化機能イメージ,複数枚の薄い中間フィンが並ぶことによる高放熱機能に対する期待感,厚い後端フィンによる堅牢感,ケーシングの外径とほぼ同径の円盤状をなすとともにそれらが一定ピッチで並べられていることによるケーシングとの一体感等までをも変えるものではなく,微差の範囲をでないのは明らかである。
したがって,本件物品の取引,流通の実態に応じた需要者による客観的な判断からすれば,本件登録意匠と先行意匠とが類似することは明らかである。
(3)むすび
本件登録意匠は,甲第1号証又は甲第2号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2 「審判事件弁駁書」における主張
(1)後記第3の1(1)についての反論
被請求人は,要するに,審査において登録査定がなされたのだから,それに対し,同一証拠を根拠になされた無効審判は成立しないということを主張したいのであろうが,無効審判は,審査の続審という位置付けではないうえ,その存在意義は,審査の瑕疵を是正するためにあるのだから,被請求人の主張には根拠がない。
(2)後記第3の1(2)についての反論
ア 後記第3の1(2)ア及びイについて
被請求人は,後記第3の1(2)ア及びイにおいて,本件登録意匠と甲1意匠及び甲2意匠との一致点及び相違点を述べているようである。
その中で被請求人は,本件登録意匠及び甲1意匠,甲2意匠の基本的構成態様(要部)について,不明確であるなどと主張し,別の記載案を提示しているが,その根拠が不明である。
請求人は前記1で基本的構成態様(要部)の根拠を需要者・取引者の観点から説明しているのだから,被請求人はこれを否定する以上,はっきりとした根拠を示すべきであろう。例えば,なぜケーシングは不明確なのか,需要者・取引者であれば,ケーシングの存在を外観から当然に看取できるのだから,被請求人がケーシングを不明確とする理由が判然としない。
具体的構成態様については,被請求人は図面から看取できる態様を事細かに述べたものと思われるが,本件登録意匠と甲1意匠及び甲2意匠との類否を判断するにあたって,さして重要であるとは思えない。本来図面で特定されるべき意匠の具体的態様は,文章化しようとすれば,種々の表現法が考えられようが,被請求人がこの表現にこだわる意味が分からない。
イ 後記第3の1(2)ウについて
(ア)被請求人は,後記第3の1(2)ウにおいて,被請求人が主張する共通点を備えた先行意匠(乙2意匠)があるから,その共通点は特徴とはいえず,それ以外の部分で甲1意匠及び甲2意匠と差異を有する本件登録意匠は,甲1意匠及び甲2意匠と非類似であるということを主張していると思われる。
しかしながら,この論法はあまりに大雑把である。
請求人は,被請求人が主張する共通点を要部などとは言っていない。たしかに,被請求人のいう共通点があることは認める。
(イ)乙2意匠についての被請求人の主張の誤りを具体的に説明する。
乙2意匠は,請求人が,旧HLVシリーズと新HLVシリーズとの間に開発した中間開発品であり,意匠出願されて登録されたものである。
この乙2意匠においては,ケーシングの後端部に,円盤状のフィン様のものが設けられている。このフィン様のものは,後側の1枚の分厚いフィンと,それよりも薄い前側の1枚のフィンとを備えている。
一方,乙2意匠の使用状態を示す正面図をみれば,電源ケーブルが前記フィン様のものを軸方向に貫通して,その後ろから引き出されている。そして,右側面図,参考A-A線拡大断面図において,フィン様のものに貫通孔が形成されていることから,この貫通孔が,電源ケーブルを保持・挿通させるためのケーブル貫通孔であることは,需要者からして明らかに看取できる。
そうすると,需要者からみれば,乙2意匠におけるフィン様のものは,電源ケーブルの基端部を収容・保持していることから,ケーシングの一部と看取されるべきものである。
また,このように,フィン様のものに電源ケーブルが挿通保持されていることが外観で把握される以上,放熱性やそれに基づく高輝度性に対して,需要者は大きな期待感を抱くことはできず,また,実際にも思ったほどの放熱機能の向上を図ることはできていない。そのために機能的にもデザイン的にも,このような中途半端なものとなっている。
すなわち,乙2意匠において,フィン様のものはケーシングの一部をなすものというべきであり,本件登録意匠のようにケーシングの後方に,フィン構造体(後方部材)が設けられた形態は,この乙2意匠には一切開示されていない。そして,この点は,本件物品業界の需要者・取引者であるからこそ看取できるものある。
このように,公知意匠である乙2意匠は,本件登録意匠の要部とは異なる形態を有し,本件登録意匠の要部が,需要者・取引者にとって類否判断の基準となる形態であることを否定するものではない。
したがって,本件登録意匠は,その要部が共通する甲各意匠に類似であるというべきである。
(3)後記第3の1(3)について
前記「後記第3の1(1)についての反論」と同様である。

3 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)はじめに
被請求人は,後記第3の2において縷々主張しているが,その前提として,類否判断の主体を本件物品業界における需要者・取引者(以下,需要者等ともいう。)を看者とするのではなく,例えば広く社会の一般消費者を看者としているようである。後記第3の1もそうであったが,その誤った認識を前提としているため,被請求人の主張や反論は根本的に誤っており,また意味の不明な点も散見される。
(2)被請求人陳述要領書に対する反論
ア 後記第3の2(1)に対して
被請求人は「同一証拠はすでに客観的な美観の類否判断がされていることを申し述べたのである。」などと主張しているが,被請求人は審査において,本件物品業界の説明も需要者等の観点も説明してはいない。これらを伏せた状態での審査が客観的であるかどうかは疑問である。
イ 後記第3の2(2)アに対して
(ア)本件物品業界において,需要者等は,ケーシングという概念を当然に有しており,そのケーシングを自然に意識しながら照明装置を看,その類否を判断するのである。その理由は,前記1で請求人が述べたとおりである。
(イ)また,被請求人は,自身の主張する基本的構成態様と具体的構成態様とが客観的に妥当である旨を説明するが,なぜ「客観的に妥当」なのか,その理由が判然としない。
部分意匠において全体との関係を考慮しなければならないのは,種々の判決でも取り入れられていることであるから,要部記載中に全体意匠との関係を示す記載はむしろあるべきである。
ウ 後記第3の2(2)イに対して
被請求人は,カタログの商品紹介写真を引き合いに出し,これには電源ケーブルが捨象されているから需要者等は電源ケーブルに意匠的関心をもたない旨を主張する。
しかしながら,この主張からも,被請求人が本件物品業界を理解していないか,あるいは意図的に理解をずらしていることがわかる。この種の検査用照明装置は,工業用の,いわゆるBtoB製品であり,このような照明装置の導入や選定には,技術者や開発者等が担当となるから,彼らこそが,本件物品業界における需要者等に該当する。
彼らは,設計者の観点から,表紙の写真だけではなく,その図面や仕様を詳細に検討する。例えば,明るさや耐久性のみならず,自社製品に組み込むなどの目的から,全体寸法はどうか,取り回しのうえでケーブルの引き出しはどうかなどを検討する。
そして,彼らは,そのような検討の過程で,その製品にある機能美を意識し,その機能美に基づいた美感を看取するのである。
つまり,本件物品は工業用製品なのであるから,需要者等は,単なるデザインではなく,機能美にこそ,より惹かれるのであって,その需要者等がカタログの商品紹介写真のみによって類否判断などするはずがない。
したがって,商品紹介写真を美感の基準とする被請求人の主張は明らかに誤りである。被請求人は,本件物品を家庭用電灯などのようなBtoC製品と勘違いしているのではなかろうか。少なくとも,被請求人が本件物品業界及びその需要者・取引者の実態を把握していないのは明らかであり,その誤った認識に基づいた被請求人の主張は失当といわざるをえない。
後記第3の2(2)イ(イ)についても,本件物品業界の需要者等の理解欠如によるものである。この部分での被請求人の主張は,本件物品業界の需要者等が電源ケーブルに意匠的関心を持たないという誤った理解に基づくものであるから,失当である。
エ 後記第3の2(3)に対して
被請求人は,「放熱フィンの厚みの違い,放熱フィンの間隔の違い,軸体の太さの違い,テーパーの有無,フラット面の有無,ねじ穴の有無等の相違点が大きい」と主張する。
しかしながら,被請求人は,後記第3の2(2)イにおいて,商品紹介写真が美感の基準であると説明している。
そこで,この商品紹介写真をみるに,上述した各相違点が確実に看取できるとは到底思えない。
このように,被請求人の主張に矛盾が生じており,本件登録意匠の要部を被請求人がどのように捉えているのかが理由も含めて判然としないのである。
したがって,後記第3の2(2)イの被請求人の主張も誤りといわざるを得ない。

4 請求人が提出した証拠
請求人は,以下の甲第1号証ないし甲第15号証(全て写しである。)を,審判請求書の添付書類として提出した。
甲第1号証 意匠登録第1224780号意匠公報(写し)
本件登録意匠がその出願前,公然知られた意匠であったこ
とを証するため。
甲第2号証 意匠登録第1224615号意匠公報(写し)
本件登録意匠がその出願前,公然知られた意匠であったこ
とを証するため。
甲第3号証 被請求人カタログ(一部写し)
本件物品が「スポット照明」と称されていること。
被請求人が請求人の警告によって旧型品の製造販売を中止
したこと。
甲第4号証 請求人カタログ(一部写し) 作成:平17.6
本件物品が「スポット照明」と称されていること。
新HLVシリーズの形態・内部構造の説明。
甲第5号証 請求人カタログ(写し) 作成:平14.12
スポット照明が開発される前は光ファイバー型であるハロ
ゲンランプが用いられていたこと。
甲第6号証 請求人カタログ(一部写し) 作成:平12
LVシリーズの形態・構造の説明。
甲第7号証 請求人価格表(写し) 作成:平7.11.1
遅くとも1995年11月にはLVシリーズを展示・販売
していたこと。
甲第8号証 請求人カタログ(一部写し) 作成:平16.1
旧HLVシリーズの形態・構造の説明。
甲第9号証 請求人価格表(写し) 作成:平14.1.15
遅くとも2002年1月には旧HLVシリーズを展示・販
売していたこと。
甲第10号証 意匠登録第1180103号意匠公報(写し)
旧HLVシリーズの意匠登録。
甲第11号証 適時開示情報(写し) 作成:平16.7.28
2004年8月に新HLVシリーズを販売開始したこと。
甲第12号証 報道向け資料(写し) 作成:平22.5.26
2010年6月にHLV2シリーズを販売開始したこと。
甲第13号証 請求人カタログ(一部写し) 作成:平23.7
HLV2シリーズの形態・構造の説明。
甲第14号証 警告書(写し) 作成:平28.8.23
請求人意匠権(意匠登録第1224780号及び意匠登録
第1224615号)に基づいて,被請求人製品IHVB
及びIHVCに警告したこと。
甲第15号証 回答書(写し) 作成:平28.10.31
前記警告に対し,被請求人が直ちに販売を停止すると回答
したこと。


第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,審判事件答弁書を提出し,答弁の趣旨を
「請求人の請求をいずれも棄却する,
審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由として,概要以下のとおりの主張をして(「口頭審理陳述要領書」の内容を含む。),その主張事実を立証するため,後記3に掲げた乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。

1 答弁の理由
(1)前記第2の「1 請求の理由」中,本件登録意匠の無効の理由の要点((1)の記載部分)は,否認する。
甲第1号証及び甲第2号証は,本件登録意匠の出願(平成28年9月26日)の後,平成28年9月28日に提出した早期審査に関する事情説明書(乙第1号証)の先行意匠調査の中に含まれている。従って,本件登録意匠は,甲第1号証又は甲第2号証との間で,客観的な美感の類否判断がされた上で,登録査定がなされたものである。
よって,前記第2の「1 請求の理由」中,本件登録意匠を無効とすべき理由((2)の記載部分)に対して,ことこまかに答弁する必要性は,本来ないものである。
(2)上記を前提に,前記第2の「1 請求の理由」中,本件登録意匠を無効とすべき理由((2)の記載部分)に対して,答弁する。
ア 前記第2の「1 請求の理由」中,本件登録意匠の要旨についての答弁
請求人は,本件登録意匠を基本的構成態様と具体的構成態様に大別し,基本的構成態様を(A)?(D)の項目,具体的構成態様を(E)?(M)の項目に分けている。このように意匠の形態を各項目に分けることは重要なことであり,かつ,分け方に個性が出ることは理解するものではあるが,請求人のような分け方は,不明確である。特に,「ケーシング」という用語は,定義がないうえに,徒に基本的構成態様と具体的構成態様を不明確化するため不必要である。また,請求人の具体的構成態様に述べている数値は,不正確すぎる。
基本的構成態様は,以下のように修正するのが妥当と考える。
(A)前端面に光放射面が設けられた検査用照明器具の後方部分に放熱部(部分意匠)が設けられている。
(B)該放熱部には,後方に延伸する軸体が設けられている。
(C)該軸体には,互いに等しい間隔をあけて配置された前面形状が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(D)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは,他のフィンよりも厚い。
各部の形態(具体的構成態様)は,以下のように修正するのが妥当と考える。なお,(F)の項目は省略している。
(E)複数枚のフィンの間隔は,フィンにおける軸体直交方向の最長長さの約19.0%,最短長さの約20.3%である。
(G)フィンの枚数は計3枚であり,そのうち,終端のフィンが1枚,他のフィンが2枚である。
(H)複数枚のフィンのうち,他のフィンの厚みは,フィンにおける軸体直交方向の最長長さの約11.9%,最短長さの約12.7%であるとともに,終端のフィンは,他のフィンに比べて約1.4倍の厚みである。
(I)複数枚のフィンのうち,終端のフィンは,後面の縁の一部に面取り(厚みの約14.3%)が施してあり,一部は面取りを施していない。
(J)軸体は同一径で後方に延伸し,その直径は,フィンにおける軸体直交方向の最長長さの約38.1%,最短長さの約40.6%である。
(K)全てのフィンには,前面の縁にテーパー(終端のフィンの厚みの約42.9%,他のフィンの厚みの約60.0%)が設けられている。
(L)全てのフィンの外周面はフラット面と円弧面を有しており,円弧面の中心から約300°の範囲が円弧面である。
(M)終端のフィンの後面には,ねじ穴がフラット面に平行に計2箇所に設けてある。
イ 前記第2の「1 請求の理由」中,先行意匠が存在する事実及び証拠の説明について答弁
(ア)請求人は,甲第1号証の意匠(甲1意匠)を基本的構成態様と具体的構成態様に大別し,基本的構成態様を(a1)?(d1)の項目,具体的構成態様を(e1)?(j1)の項目に分けている。前記「本件登録意匠の要旨」と同様に,請求人のような分け方は,不明確である。
基本的構成態様は,以下のように修正するのが妥当と考える。
(a1) 前端面に光放射面が設けられた検査用照明器具の後方部分に放熱部(部分意匠)が設けられている。
(b1)該放熱部には,後方に延伸する軸体が設けられている。
(c1)該軸体には,互いに等しい間隔をあけて配置された前面形状が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(d1)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは,他のフィンよりも厚い。
各部の形態(具体的構成態様)は,以下のように修正するのが妥当と考える。なお,(f1)の項目は省略している。
(e1)複数枚のフィンの間隔は,フィンにおける直径の約12.5%である。
(g1)フィンの枚数は計6枚であり,そのうち,終端のフィンが1枚,他のフィンが5枚である。
(h1) 複数枚のフィンのうち,他のフィンの厚みは,フィンにおける軸体直交方向の直径の約4.8%であるとともに,終端のフィンは,他のフィンに比べて約2倍の厚みである。
(i1)複数枚のフィンのうち,終端のフィンは,後面の縁の全てに面取り(厚みの約10.0%)が施してある。
(j1)軸体は同一径で後方に延伸し,その直径は,フィンの約20.8%である。
(kl)全てのフィンには,前面の縁にテーパーが設けられていない。
(l1)全てのフィンの外周面は円柱側面である。
(m1)終端のフィンの後面には,ねじ穴が設けられていない。
(イ)請求人は,甲第2号証の意匠(甲2意匠)を基本的構成態様と具体的構成態様に大別し,基本的構成態様を(a2)?(d2)の項目,具体的構成態様を(e2)?(j2)の項目に分けている。前記「本件登録意匠の要旨」と同様に,請求人のような分け方は,不明確である。
基本的構成態様は,以下のように修正するのが妥当と考える。
(a2)前端面に光放射面が設けられた検査用照明器具の後方部分に放熱部(部分意匠)が設けられている。
(b2)該放熱部には,後方に延伸する軸体が設けられている。
(c2)該軸体には,互いに等しい間隔をあけて配置された前面形状が同一の複数枚のフィンが設けられている。
(d2)該複数枚のフィンのうち終端のフィンは,他のフィンよりも厚い。
各部の形態(具体的構成態様)は,以下のように修正するのが妥当と考える。なお,(f2)の項目は省略している。
(e2)複数枚のフィンの間隔は,フィンにおける直径の約12.5%である。
(g2)フィンの枚数は計3枚であり,そのうち,終端のフィンが1枚,他のフィンが2枚である。
(h2)複数枚のフィンのうち,他のフィンの厚みは,フィンにおける軸体直交方向の直径の約4.8%であるとともに,終端のフィンは,他のフィンに比べて約2倍の厚みである。
(i2)複数枚のフィンのうち,終端のフィンは,後面の縁の全てに面取り(厚みの約10.0%)が施してある。
(j2)軸体は同一径で後方に延伸し,その直径は,フィンの約20.8%である。
(k2)全てのフィンには,前面の縁にテーパーが設けられていない。
(l2)全てのフィンの外周面は円柱側面である。
(m2)終端のフィンの後面には,ねじ穴が設けられていない。
ウ 前記第2の「1 請求の理由」中,本件登録意匠と先行意匠(甲1意匠及び甲2意匠)との対比についての答弁
(i)本件登録意匠と先行意匠とは同一の物品である。
(ii)共通点
(イ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した基本的構成態様(A)?(D),(a1)?(d1),(a2)?(d2)において共通する
(ロ)本件登録意匠と先行意匠のうちの甲2意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(G),(g2)において共通する
(ハ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(I),(i1),(i2)のうちの面取りの大きさ,後面の縁の一部に面取りを施していない,ことは共通しないが,終端のフインは,後面の縁に面取りが施してあること,において共通する。
(ニ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(J),(j1),(j2)のうちの軸体の直径は共通しないが,軸体は同一径で後方に延伸していること,において共通する。
(iii)相違点
(ホ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(E),(el),(e2)において相違する。
(へ)本件登録意匠と先行意匠のうちの甲1意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(G),(g1)において相違する。
(ト)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(H),(h1),(h2)において相違する。
(チ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(I),(i1),(i2)のうちの終端のフィンは後面の縁に面取りが施してあることは上記した通り共通するが,面取りの大きさ,後面の縁の一部に面取りを施していない,ことは相違する。
(リ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(J),(j1),(j2)のうちの「軸体は同一径で後方に延伸」が上記した通り共通するが,軸体の直径は相違する。
(ヌ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(K),(kl),(k2)において相違する。
(ル)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(L),(l1),(l2)において相違する。
(ワ)本件登録意匠と先行意匠とは,被請求人が修正した各部の形態(具体的構成態様)(M),(m1),(m2)において相違する。
(iv)先行意匠よりも前の先行意匠群の中には,本件登録意匠と先行意匠との上記の共通点を備えるものが少なくない。
例えば,請求人が,平成14年7月26日に出願し,平成15年4月18日に登録となり平成15年6月16日に発行された意匠登録第1175712号の意匠(乙第2号証の意匠(以下「乙2意匠」という。)。別紙第5参照。)は,以下に示すものである。
乙2意匠は,上記の共通点(イ),(ハ),(ニ)を備えている。共通点(ロ)については,本件登録意匠と甲第2号証の意匠がフィンの枚数が計3枚であるのに対し,乙2意匠が計2枚である。しかし,フィンの枚数が類否の判断に影響しないことは,請求人が甲第1号証についても類似を申し立てていることを見ても,明らかである。従って,先行意匠よりも前の先行意匠群の中の1つであるこの乙2意匠は,本件登録意匠と先行意匠との共通点の全てを実質的に備えているものである。
乙2意匠は,上記の共通点(イ),(ハ),(ニ)以外にも,相違点(ヌ),(ル)の先行意匠の方の形態を備えており,つまり,乙2意匠は,全てのフィンには前面の縁にテーパーが設けられておらず,全てのフィンの外周面は円柱側面である。
よって,本件登録意匠と先行意匠との上記の共通点は,先行意匠の特徴的な形態とは言えない。また,上記の先行意匠群から見ると,先行意匠の創作的価値の程度はおのずと知られるものである。
エ 前記第2の「1 請求の理由」中,本件登録意匠と先行意匠との類否判断についての答弁
(ア)前記第2の1(2)エ(ア)には,新しいHLVシリーズ(新HLVシリーズ)のことが述べられている。電源ケーブルを側周面から引き出す構造のことが述べられているが,電源ケーブルを側周面から引き出す構造は検査用照明器具の分野ではありふれたものである。例えば,請求人の特開2003-240721号公報は検査用照明装置であって,側周面から電源ケーブル(フロントページの図の符号14)を引き出す構造が記載されている(乙第3号証。別紙第6(乙第3号証の一部抜粋)参照。)。
また,需要者から見た美感が述べられている。この部分は請求人が極めて主観的に述べた部分であり難解であるが,請求人の新しいHLVシリーズ(新HLVシリーズ)で後部に放熱構造体を設けたことは,被請求人のIHVシリーズと同じことであるから,請求人が述べていることは需要者にとって新たな美感とはならない。また,電源ケーブルを側周面から引き出す構造をしきりと請求人は言っているが,それは先行意匠の部分意匠以外の破線部分である(しかも,そのような構造は前述の通り検査用照明器具の分野ではありふれたものである)から,電源ケーブルの導出位置を云々する価値はない。
(イ)前記第2の1(2)エ(イ)では,本件登録意匠と先行意匠との類否が述べられている。
本件登録意匠と先行意匠とは,基本的構成態様が共通点となっているが,その共通点は,全て,先行意匠群との共通点である(前記ウ(エ))。これは,本件登録意匠も先行意匠も先行意匠群も,放熱のための基本形状がタワー型に属するものであることが大きい。放熱のためのタワー型の基本形状は,誰もが共有することができる知識である。
一方,各部の形態(具体的構成態様)については,上述したように本件登録意匠と先行意匠との相違点はすこぶる多い。本件登録意匠と先行意匠が非類似であることは,需要者の観点から明らかである。
(3)前記第2の「1 請求の理由」中,むすび((3)の記載部分)は,否認する。

2 「口頭審理陳述要領書」における主張
(1)前記第2の2(1)について
請求人は,「同一証拠を根拠になされた無効審判は成立しないということを主張したいのであろう」と述べている。被請求人は,請求人が審判請求書において同一証拠を根拠にしていることを述べていないので,前記1(1)において,請求人が同一証拠を根拠にしており,同一証拠はすでに客観的な美観の類否判断がされていることを申し述べたのである。
(2)前記第2の2(2)について
ア 前記第2の2(2)アについて
ケーシングは,被請求人が前記1(2)アにおいて,「「ケーシング」という用語は,定義がないうえに,徒に基本的構成態様と具体的構成態様を不明確化する」と述べているように,明らかに不明確である。本件登録意匠,甲第1号証,甲第2号証,いずれもケーシングという用語によって意匠を説明するものではない。需要者は,外観は観察するが,ケーシングなる概念に拘って観察しなければならないものではない。例えば,甲第1号証及び甲第2号証において,需要者は,放熱フィンの長い領域において,ケーシングなるものとそうでない部分とを特定の段で切り分けて観察しなければならないものではない。
被請求人が前記1(2)アとイにおいて示した基本的構成態橡と具体的構成態様は,需要者が観察するままの外観を示したものである。被請求人は,請求人による審判請求書における基本的構成態橡と具体的構成態橡を修正したのであり,被請求人が修正した基本的構成態様と具体的構成態橡にこだわるつもりはない。しかし,基本的構成態様と具体的構成態様は,明確であり客観的であり妥当であるべきである。
イ 前記第2の2(2)イについて
(ア)請求人が主張する基本的構成態様の(A)の「電源ケーブルが引き出されたケーシング」を含め部分意匠以外の部分は,要部を構成するものと言えないことは明らかである。
また,請求人は,甲第4号?甲第13号にかけて,請求人の商品カタログのいろいろ提出しているが,そのカタログの商品紹介写真を見ても,電源ケーブル部分は捨象されている(照明器具本体部分の写真を意図的に掲載している。)。
そのこと自体から,照明器具の意匠についていえば,需要者は,その機能及び本体部分の全体形状にこそ着目するが,電源ケーブルが本体部分のどの位置から引き出されているのかという点に意匠的関心を持たないものである。それは原告自身が,そのカタログで証明しているのである。部分意匠から自ら排除した部分(登録を求めた部分意匠以外の部分)の詳細な構成を基本的構成態様に取り込んで議諭すべきではないことは明白である。
請求人は,請求人が主張する極めて恣意的な基本的構成態様と具体的構 成態様に拘泥すべきでない。
(イ)前記第2の2(2)イ(イ)について
乙2意匠について,上記のように「電源ケーブルが引き出されたケーシング」は,部分意匠以外の部分であり,また,需要者が意匠的関心を持たないものであるから,要部を構成するものとは言えない。従って,前記1(2)ウで述べた被請求人の主張は妥当なものである。
(3)前記第2の2(3)について
前記(1)及び(2)で述べているように,前記1(3)で述べていることは妥当である。
被請求人による前記1(2)ウにおいて,被請求人は本件登録意匠と甲第1号証及び甲第2号証との共通点及び相違点を述べている。本件登録意匠と甲第1号証及び甲第2号証は,放熱フィン(終端のフィン及び他のフィン)の厚みの違い,放熱フィンの間隔の違い,軸体の太さの違い,テーパの有無,フラット面の有無,ねじ穴の有無等の相違点が大きく,それらからもたらされる意匠の美観が異なる。本件登録意匠と甲第1号証及び甲第2号証との共通点は,甲第1号証及び甲第2号証より前の先行意匠群(公知意匠)との共通点である。

3 被請求人が提出した証拠
被請求人は,以下の乙第1号証ないし乙第5号証(全て写しであると認められる。)を,審判事件答弁書の添付書類として提出した。
乙第1号証 早期審査に関する事情説明書(平成28年9月28日提出)
乙第2号証 意匠登録第1175712号公報
乙第3号証 特開2003-240721号公報
乙第4号証 書籍「熱設計完全入門」の抜粋写し
乙第5号証 回答書(平成28年11月25日付け)の写し


第4 口頭審理
当審は,本件審判について,平成29年(2017年)12月11日に口頭審理を行い,審判長は,同日付けで審理を終結した。(平成29年12月11日付け「第1回口頭審理調書」)


第5 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠の認定は,以下のとおりである(別紙第1参照)。
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「放熱フィン付き検査用照明器具」(以下「本物品」ともいう。)であり,願書の【意匠に係る物品の説明】には,「本物品は,内蔵する発光体の光を光放射面から放射するものであり,光放射面の反対側には,放熱のために,軸体に複数のフィンが設けられた部分を有する。」と記載されている。
また,本件登録意匠は,部分意匠として意匠登録を受けようとするものであり,願書の【意匠の説明】には,「実線で表した部分(当審注:以下「本件実線部分」という。)が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」と記載され,「参考断面図は,A-A線で示す切断面での,部分意匠の部分のみの断面図である。」との記載から,「参考断面図」には,A-A線で示す切断面における部分意匠の範囲が示されている。
(2)本件実線部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件実線部分は,放熱フィン付き検査用照明器具のうち,正面右上の3つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体に成形された部分である。本件実線部分は,本物品の放熱に係る用途及び機能を有しており,正面視全幅の約1/3以上の横幅を占める大きさ及び範囲を占めており,正面視右上に位置するものである。
(3)本件実線部分の形態
本件実線部分の形態は,以下のとおりである。
ア 全体の構成態様
正面から見て,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい3つのフィン部が等間隔に設けられて一体になったものであり,中間のフィン部は同形同大であり,最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は,中間フィン部とほぼ同形であるが,幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。
イ 各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は,「下部を切り欠いた円形状」であり,後フィン部の後端面において,切り欠き部の両端の点が後フィン部の中心(正確には仮想円の中心)と結んで成す角度は約48°であり,すなわち,切り欠き部を除いた円弧の内角が312°(=360°-48°)となっている。底面から見て,各フィン部の下部に表された切り欠き部の最大縦幅は,各フィン部の最大縦幅の約1/2である。
ウ 各フィン部の平面形状
各フィン部は,左側面側外周寄りに傾斜面が形成されており,平面から見た傾斜面の幅(厚み)は,中間フィン部においては傾斜していない周面の幅(厚み)よりも大きく,傾斜面幅:周面幅は約5:3であり,後フィン部においては両者がほぼ同幅であり,傾斜面幅:周面幅:面取り幅が約5:5:1.5となっている。
また,平面から見た中間フィン部の最大横幅:最大縦幅は約1:9であり,後フィン部のそれは約1:6である。すなわち,後フィン部の厚みは中間フィン部の約1.5倍である。
エ 軸体と各フィン部の構成比
平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は,約5:13である。また,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比は,約3:2である。
オ ねじ穴部
右側面から見て,後フィン部の後端面には,左端寄り及び右端寄りに,2つの同大の円形状ねじ穴部が設けられており,ねじ穴部の径は後フィン部の最大横幅の約1/7である。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は,次の2つである。
(1)無効理由1
本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証(別紙第3参照)の意匠(以下「甲1意匠」という。)に類似するので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定により無効とされるべきである。
(2)無効理由2
本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証(別紙第4参照)の意匠(以下「甲2意匠」という。)に類似するので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,同項柱書の規定により無効とされるべきである。

3 無効理由1の判断
本件登録意匠が,甲1意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲1意匠
甲1意匠の認定は,以下のとおりである(別紙第3参照)。
ア 意匠に係る物品
甲1意匠の意匠に係る物品は,甲第1号証の記載によれば「検査用照明器具」であり,甲第1号証の【意匠に係る物品の説明】には,この検査用照明器具は「工場等において製品の傷やマーク等の検出(これらを総称して検査という)に用いられるもので,LEDや光学素子を内蔵し(図示しない),先端の光導出ポートから光を照射する」と記載されている。
また,甲1意匠において本件実線部分と対比される部分は,実線で表された本件実線部分に相当する部分(以下「甲1相当部分」という。)である。
イ 甲1相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
甲1相当部分は,検査用照明器具のうち,正面右上の6つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。甲1相当部分は,検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有すると推認され,正面視全幅の約1/3の横幅を占める大きさ及び範囲を占めており,正面視右上に位置するものである。
ウ 甲1相当部分の形態
甲1相当部分の形態は,以下のとおりである。
(ア)全体の構成態様
正面から見て,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい6つのフィン部が等間隔に設けられて一体になったものであり,中間のフィン部は同形同大であり,最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は,中間フィン部とほぼ同形であるが,幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。
(イ)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
(ウ)各フィン部の平面形状
平面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は約1:24であり,後フィン部のそれは約1:12である。すなわち,後フィン部の厚みは中間フィン部の約2倍である。
(エ)軸体と各フィン部の構成比
平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は,約1:5である。また,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比は,約3:1である。
(2)本件登録意匠と甲1意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「放熱フィン付き検査用照明器具」であり,甲1意匠の意匠に係る物品は「検査用照明器具」であるから,本件登録意匠と甲1意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件実線部分と甲1相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件実線部分と甲1相当部分(以下「両部分」ともいう。)は,共に検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有し,正面視全幅の約1/3以上の横幅を占める大きさ及び範囲を占めており,正面視右上に位置するものである。したがって,本件実線部分と甲1相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
ウ 本件実線部分と甲1相当部分の形態
本件実線部分と甲1相当部分には,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)共通点
(A)全体の構成態様についての共通点
正面から見て,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部が等間隔に設けられて一体になったものであり,中間のフィン部は同形同大であり,最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は,中間フィン部とほぼ同形であるが,幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。
(イ)差異点
(a)各フィン部の右側面形状についての差異点
本件実線部分の右側面から見た各フィン部の外周は,「下部を切り欠いた円形状」であり,切り欠き部を除いた円弧の内角が312°となっており,底面から見た切り欠き部の最大縦幅が各フィン部の最大縦幅の約1/2であるが,甲1相当部分では,右側面から見た各フィン部の外周は円形状である。
(b)各フィン部の平面形状についての差異点
本件実線部分の各フィン部は,左側面側外周寄りに傾斜面が形成されており,平面から見た傾斜面幅:周面幅は,中間フィン部においては約5:3であり,後フィン部においては両者がほぼ同幅であるが,甲1相当部分にはそのような傾斜面は形成されていない。
(c)ねじ穴部の有無についての差異点
本件実線部分の後フィン部の後端面には,左端寄り及び右端寄りに,2つの同大の円形状ねじ穴部(径が後フィン部の約1/7)が設けられているが,甲1相当部分には,そのようなねじ穴部は無い。
(d)軸体と各フィン部の構成比についての差異点
平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が,本件実線部分では約5:13であるが,甲1相当部分では約1:5である。また,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比は,本件実線部分では約3:2であるが,甲1相当部分では約3:1である。
(e)中間フィン部に対する後フィン部の厚みの程度の差異点
平面から見た後フィン部の厚みは,本件実線部分では中間フィン部の約1.5倍であるが,甲1相当部分では約2倍である。
(f)フィン部の数についての差異点
本件実線部分のフィン部の数は3つ(中間フィン部が2つ)であるが,甲1相当部分のそれは6つ(中間フィン部が5つ)である。
(3)本件登録意匠と甲1意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記(2)アで認定したとおり,本件登録意匠と甲1意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件実線部分と甲1相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
前記(2)イで認定したとおり,本件実線部分と甲1相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
ウ 「放熱フィン付き検査用照明器具」の意匠の類否判断
「放熱フィン付き検査用照明器具」の使用状態においては,物品の全体が露出しており,使用者は全方向から物品を観察することとなり,特に,本件実線部分のフィン部と軸体は,物品上部の軸方向の約1/3以上を占めることから,使用者を含む物品の需要者は,フィン部と軸体の細部に亘って全方向から詳細に観察するということができる。したがって,本件実線部分と甲1相当部分の類否判断においては,使用者を中心とする需要者(取引者なども含まれる。)の視点から,フィン部と軸体の形状を評価することとする。
エ 本件実線部分と甲1相当部分の形態の共通点の評価
共通点(A)で指摘した,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部を等間隔に設けて,最後部のフィン部の形状について,中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)を中間フィン部に比べて大きくし,後端面の外周角部を面取りした構成態様は,検査用照明機器の物品分野の意匠において,本願の出願前に広く知られている(例えば,被請求人が提出した乙第2号証の意匠(以下「乙2意匠」という。)。後記カ(イ)a及び別紙第5参照)ことから,需要者は特にその態様に注視するとはいい難い。したがって,共通点(A)が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
オ 本件実線部分と甲1相当部分の形態の差異点の評価
これに対して,本件実線部分と甲1相当部分の形態の差異点については,以下のとおり評価される。
まず,差異点(a)で指摘した各フィン部の右側面形状についての差異,すなわち,「下部を切り欠いた円形状」(本件実線部分)と円形状(甲1相当部分)の差異は,本件実線部分の切り欠き部を除いた円弧の内角が312°であり,底面から見た切り欠き部の最大縦幅が各フィン部の最大縦幅の約1/2であるから,そのような切り欠き部の有無に係る両部分の差異は需要者が一見して気付く差異であるというべきであり,この差異は異なる美感を需要者に与えているから,差異点(a)が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,差異点(b)で指摘した,本件実線部分の各フィン部の左側面側外周寄りに形成された傾斜面は,その幅(厚み)が中間フィン部においては周面幅よりも大きいことから,そのような傾斜面が形成されていない甲1相当部分と比べて異なった視覚的印象を需要者に与えており,上述したように需要者がフィン部と軸体の細部を全方向から詳細に観察することを踏まえると,傾斜面の有無の差異が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
そして,差異点(c)で指摘した,本件実線部分に見られるねじ穴部は,その径が後フィン部の最大横幅の約1/7であることから,需要者が本件実線部分の後フィン部を右側面(又は右側面斜め方向)から見た際に容易に気付くものであるから,ねじ穴部の有無の差異は,全方向から観察される両部分の差異として,本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に一定程度の影響を及ぼすということができる。
他方,軸体と各フィン部の構成比についての差異点(d)については,平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比には様々な例が見られ,例えば,本件実線部分に見られる約5:13の比は,上記乙2意匠における比(約5:12。後記カ(イ)a参照。)とほぼ同様であるから,需要者が本件実線部分の比に特に注目するとはいい難い。そして,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比が約3:2(本件実線部分)であるか,約3:1(甲1相当部分)であるかの差異は,軸体の横幅が中間フィン部の最大横幅に比べて大きいという共通点に包摂される差異であり,需要者に別異の視覚的印象を与えるほどの差異であるとはいい難い。したがって,差異点(d)が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また,中間フィン部に対する後フィン部の厚みの程度の差異点(e)は,平面から見た後フィン部の厚みが中間フィン部の約1.5倍(本件実線部分)であるか,約2倍(甲1相当部分)であるかの差異であって,後フィン部の厚みが中間フィン部に比べて大きいという共通点に包摂される差異であり,約1.5倍の比率は2倍の比率よりも小さいため,本件実線部分に見られる構成が,甲1相当部分に比べて独特の美感を需要者に与えているとはいい難い。したがって,差異点(e)が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
さらに,フィン部の数についての差異点(f)については,検査用照明機器の物品分野の意匠においてフィン部の数には様々な例が見られ,例えば,甲1意匠では6つであり,甲2意匠(後記4(1)参照)では3つである。そうすると,需要者はフィン部の数に特に注目するとはいい難い。したがって,差異点(f)が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そうすると,差異点(a)及び差異点(b)は本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に大きな影響を及ぼし,差異点(c)も一定程度の影響を及ぼすことから,差異点(d)ないし差異点(f)の影響が小さいとしても,本件実線部分と甲1相当部分の形態の差異点を総合すると,差異点が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく,本件実線部分と甲1相当部分を別異のものと印象付けるものであるということができる。
カ 請求人の主張について
(ア)電源ケーブルをケーシング側周面から引き出す構成について
請求人は,「新HLVシリーズが,先行意匠(甲1意匠,甲2意匠)に対応する製品であり,その特徴は,電源ケーブルをケーシングの側周面から引き出すという構造を始めて採用したことにより,ケーシング後端面に,部品やケーブル収容機能のない,放熱のみに特化したフィン構造体を設けたことにある。」「電源ケーブルをケーシング側周面から引き出す構成によって,その引出位置近傍が,部品収容機能のあるケーシングの終端である印象を需要者が受けるようにした。」と指摘し,「このようにケーシングの存在や位置を需要者に明確に認識できる構成としたうえで,このケーシングの後端から後方に延びるフィン構造体を設けることによって,このフィン構造体に対し,これがケーシング(あるいはケーシング側周面の溝によって形成されているフィン様の突条)とは機能的に別個独立に設けられたものであって,放熱特化機能を有する,いわばロケットブースターのごときイメージを,需要者をして抱かせしめた」と主張する。
しかし,請求人のいうケーシングは,甲1相当部分以外の部分(又は甲2相当部分以外の部分)であり,換言すると,本件登録意匠について部分意匠として意匠登録を受けようとする部分に相当する部分以外の部分である。そうすると,ケーシング側周面における電源ケーブルの「引出位置近傍」の形態や,「ケーシング側周面の溝によって形成されているフィン様の突条」の形態は,いずれも甲1相当部分(又は甲2相当部分)の形態ではなく,その部分の形態が需要者に与える印象などを前提にして,本件実線部分と甲1相当部分の形態の類否を判断することはできない。したがって,請求人の上記主張を採用することはできない。
(イ)乙2意匠について
a 乙2意匠の認定
当審における乙2意匠の認定は,以下のとおりである(別紙第5参照)。
(a)意匠に係る物品
乙2意匠の意匠に係る物品は,乙第2号証の記載によれば「検査用照明器具」であり,乙第2号証の【意匠に係る物品の説明】には,「この物品は,工場等において,製品に光を照射して製品の外観や傷等の検査に用いる照明器具であ」ると記載されている。
(b)乙2意匠の右端部の形態
乙2意匠の右端部の形態は,以下のとおりである。
α 右端部の構成態様
正面から見て,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい2つのフィン部が設けられて一体になったものであり,右側の最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は,左側の中間フィン部とほぼ同形であるが,幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。
β 各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
γ 各フィン部の平面形状
平面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は約1:23であり,後フィン部のそれは約1:10である。すなわち,後フィン部の厚みは中間フィン部の約9/4倍である。
δ 軸体と各フィン部の構成比
平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は,約5:12である。また,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比は,約9:4である。
ε 貫通孔について
各フィン部には,右側面視上端寄りに円形の貫通孔が設けられており,「使用状態を示す正面図」によれば,この貫通孔にはケーブルが挿入される。
b 乙2意匠についての請求人の主張
請求人は,「乙2意匠においては,ケーシングの後端部に,円盤状のフィン様のものが設けられている。このフィン様のものは,後側の1枚の分厚いフィンと,それよりも薄い前側の1枚のフィンとを備えている。」「フィン様のものに貫通孔が形成されていることから,この貫通孔が,電源ケーブルを保持・挿通させるためのケーブル貫通孔であることは,需要者からして明らかに看取できる。」と指摘し,「需要者からみれば,乙2意匠におけるフィン様のものは,電源ケーブルの基端部を収容・保持していることから,ケーシングの一部と看取されるべきものである。」「本件登録意匠のようにケーシングの後方に,フィン構造体(後方部材)が設けられた形態は,この乙2意匠には一切開示されていない。」と主張する。
しかし,乙2意匠の各フィン部に貫通孔が設けられているとしても,前記aのとおり,乙2意匠は,径の小さい軸体と,それよりも径が大きい2つのフィン部から成るものであり,このフィン部は本件実線部分と同様に放熱に係る用途及び機能を有していると推認されるから,乙2意匠には本件登録意匠のようなフィン構造体が設けられた形態が開示されていないとの請求人の主張を首肯することはできない。
キ 以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠は,意匠に係る物品が共通し,本件実線部分と甲1相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲も共通するが,本件実線部分と甲1相当部分の形態においては,共通点が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さく,これに対して,本件実線部分と甲1相当部分の形態の差異点を総合すると,差異点が本件実線部分と甲1相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく,本件実線部分と甲1相当部分を別異のものと印象付けるものであるから,本件登録意匠は,甲1意匠に類似するということはできない。
(4)小括
本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証の意匠(甲1意匠)に類似しないので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由1には,理由がない。

4 無効理由2の判断
本件登録意匠が,甲2意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲2意匠
甲2意匠の認定は,以下のとおりである(別紙第4参照)。
ア 意匠に係る物品
甲2意匠の意匠に係る物品は,甲第2号証の記載によれば「検査用照明器具」であり,甲第2号証の【意匠に係る物品の説明】には,この検査用照明器具は「工場等において製品の傷やマーク等の検出(これらを総称して検査という)に用いられるもので,LEDや光学素子を内蔵し(図示しない),先端の光導出ポートから光を照射する」と記載されている。
また,甲2意匠において本件実線部分と対比される部分は,実線で表された本件実線部分に相当する部分(以下「甲2相当部分」という。)である。
イ 甲2相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
甲2相当部分は,検査用照明器具のうち,正面右上の3つのフィン部及びそれを繋ぐ軸体が一体になった部分である。甲2相当部分は,検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有すると推認され,正面視全幅の約1/5の横幅を占める大きさ及び範囲を占めており,正面視右上に位置するものである。
ウ 甲2相当部分の形態
甲2相当部分の形態は,以下のとおりである。
(ア)全体の構成態様
正面から見て,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい3つのフィン部が等間隔に設けられて一体になったものであり,中間のフィン部は同形同大であり,最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は,中間フィン部とほぼ同形であるが,幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。
(イ)各フィン部の右側面形状
右側面(又は右側面斜め方向)から見た各フィン部の外周は円形状である。
(ウ)各フィン部の平面形状
平面から見た中間フィン部の横幅:縦幅は約1:24であり,後フィン部のそれは約1:12である。すなわち,後フィン部の厚みは中間フィン部の約2倍である。
(エ)軸体と各フィン部の構成比
平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比は,約1:5である。また,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比は,約3:1である。
(2)本件登録意匠と甲2意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「放熱フィン付き検査用照明器具」であり,甲2意匠の意匠に係る物品は「検査用照明器具」であるから,本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
本件実線部分と甲2相当部分(以下「両部分」ともいう。)は,共に検査用照明器具の放熱に係る用途及び機能を有し,正面視右上に位置するものである。また,横幅が正面視全幅の約1/3以上である本件実線部分と,約1/5である甲2相当部分は,意匠全体に占める大きさ及び範囲が同一ではないが,この差異はフィン部の数に起因するものであり,検査用照明機器の物品分野の意匠においてフィン部の数には様々な例が見られるから(例えば,甲1意匠では6つであり,甲2意匠では3つである。),本件実線部分の大きさ及び範囲と,甲2相当部分の大きさ及び範囲は,どちらも検査用照明機器の物品分野においてありふれている点で共通する。
したがって,本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
ウ 本件実線部分と甲2相当部分の形態
本件実線部分と甲2相当部分には,以下の共通点と差異点が認められる。
(ア)共通点
(A)全体の構成態様についての共通点
正面から見て,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部が等間隔に設けられて一体になったものであり,中間のフィン部は同形同大であり,最後部のフィン部(以下「後フィン部」という。)は,中間フィン部とほぼ同形であるが,幅(厚み)が中間フィン部に比べて大きく,後端面の外周角部が面取りされている。
(B)フィン部の数についての共通点
フィン部の数は6つであり,そのうち,中間フィン部は5つである。
(イ)差異点
(a)各フィン部の右側面形状についての差異点
本件実線部分の右側面から見た各フィン部の外周は,「下部を切り欠いた円形状」であり,切り欠き部を除いた円弧の内角が312°となっており,底面から見た切り欠き部の最大縦幅が各フィン部の最大縦幅の約1/2であるが,甲2相当部分では,右側面から見た各フィン部の外周は円形状である。
(b)各フィン部の平面形状についての差異点
本件実線部分の各フィン部は,左側面側外周寄りに傾斜面が形成されており,平面から見た傾斜面幅:周面幅は,中間フィン部においては約5:3であり,後フィン部においては両者がほぼ同幅であるが,甲2相当部分にはそのような傾斜面は形成されていない。
(c)ねじ穴部の有無についての差異点
本件実線部分の後フィン部の後端面には,左端寄り及び右端寄りに,2つの同大の円形状ねじ穴部(径が後フィン部の約1/7)が設けられているが,甲2相当部分には,そのようなねじ穴部は無い。
(d)軸体と各フィン部の構成比についての差異点
平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比が,本件実線部分では約5:13であるが,甲2相当部分では約1:5である。また,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比は,本件実線部分では約3:2であるが,甲2相当部分では約3:1である。
(e)中間フィン部に対する後フィン部の厚みの程度の差異点
平面から見た後フィン部の厚みは,本件実線部分では中間フィン部の約1.5倍であるが,甲2相当部分では約2倍である。
(3)本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記(2)アで認定したとおり,本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
前記(2)イで認定したとおり,本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲は共通する。
ウ 「放熱フィン付き検査用照明器具」の意匠の類否判断
「放熱フィン付き検査用照明器具」の使用状態においては,物品の全体が露出しており,使用者は全方向から物品を観察することとなり,特に,本件実線部分のフィン部と軸体は,物品上部の軸方向の約1/3以上を占めることから,使用者を含む物品の需要者は,フィン部と軸体の細部に亘って全方向から詳細に観察するということができる。したがって,本件実線部分と甲2相当部分の類否判断においては,使用者を中心とする需要者(取引者なども含まれる。)の視点から,フィン部と軸体の形状を評価することとする。
エ 本件実線部分と甲2相当部分の形態の共通点の評価
共通点(A)で指摘した,横向き円柱状の軸体に,それよりも径が大きい複数のフィン部が等間隔に設けて,最後部のフィン部の形状について,中間フィン部とほぼ同形として幅(厚み)を中間フィン部に比べて大きくし,後端面の外周角部を面取りした構成態様は,検査用照明機器の物品分野の意匠において,本願の出願前に広く知られている(例えば,被請求人が提出した乙第2号証の意匠(以下「乙2意匠」という。)。前記3(3)カ(イ)a及び別紙第5参照)ことから,需要者は特にその態様に注視するとはいい難い。したがって,共通点(A)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
また,フィン部の数についての共通点(B)については,検査用照明機器の物品分野の意匠においてフィン部の数には様々な例が見られるから,需要者がフィン部の数が3つであることに特に注目するとはいい難いので,共通点(B)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
そうすると,本件実線部分と甲2相当部分の形態の共通点はいずれも両部分の類否判断に及ぼす影響が小さく,共通点があいまった視覚的印象を考慮しても,共通点が両部分の類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
オ 本件実線部分と甲2相当部分の形態の差異点の評価
これに対して,本件実線部分と甲2相当部分の形態の差異点については,以下のとおり評価される。
まず,差異点(a)で指摘した各フィン部の右側面形状についての差異,すなわち,「下部を切り欠いた円形状」(本件実線部分)と円形状(甲2相当部分)の差異は,本件実線部分の切り欠き部を除いた円弧の内角が312°であり,底面から見た切り欠き部の最大縦幅が各フィン部の最大縦幅の約1/2であるから,そのような切り欠き部の有無に係る両部分の差異は需要者が一見して気付く差異であるというべきであり,この差異は異なる美感を需要者に与えているから,差異点(a)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,差異点(b)で指摘した,本件実線部分の各フィン部の左側面側外周寄りに形成された傾斜面は,その幅(厚み)が中間フィン部においては周面幅よりも大きいことから,そのような傾斜面が形成されていない甲2相当部分と比べて異なった視覚的印象を需要者に与えており,上述したように需要者がフィン部と軸体の細部を全方向から詳細に観察することを踏まえると,傾斜面の有無の差異が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。
そして,差異点(c)で指摘した,本件実線部分に見られるねじ穴部は,その径が後フィン部の最大横幅の約1/7であることから,需要者が本件実線部分の後フィン部を右側面(又は右側面斜め方向)から見た際に容易に気付くものであるから,ねじ穴部の有無の差異は,全方向から観察される両部分の差異として,本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に一定程度の影響を及ぼすということができる。
他方,軸体と各フィン部の構成比についての差異点(d)については,平面から見た軸体の縦幅と各フィン部の最大縦幅の比には様々な例が見られ,例えば,本件実線部分に見られる約5:13の比は,上記乙2意匠における比(約5:12。前記3(3)カ(イ)a参照。)とほぼ同様であるから,需要者が本件実線部分の比に特に注目するとはいい難い。そして,軸体の横幅(=各フィン部の間隔):中間フィン部の最大横幅の比が約3:2(本件実線部分)であるか,約3:1(甲2相当部分)であるかの差異は,軸体の横幅が中間フィン部の最大横幅に比べて大きいという共通点に包摂される差異であり,需要者に別異の視覚的印象を与えるほどの差異であるとはいい難い。したがって,差異点(d)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
また,中間フィン部に対する後フィン部の厚みの程度の差異点(e)は,平面から見た後フィン部の厚みが中間フィン部の約1.5倍(本件実線部分)であるか,約2倍(甲2相当部分)であるかの差異であって,後フィン部の厚みが中間フィン部に比べて大きいという共通点に包摂される差異であり,約1.5倍の比率は2倍の比率よりも小さいため,本件実線部分に見られる構成が,甲2相当部分に比べて独特の美感を需要者に与えているとはいい難い。したがって,差異点(e)が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。
そうすると,差異点(a)及び差異点(b)は本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に大きな影響を及ぼし,差異点(c)も一定程度の影響を及ぼすことから,差異点(d)及び差異点(e)の影響が小さいとしても,本件実線部分と甲2相当部分の形態の差異点を総合すると,差異点が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく,本件実線部分と甲2相当部分を別異のものと印象付けるものであるということができる。
カ 請求人の主張について
前記3(3)カと同じである。
キ 以上のとおり,本件登録意匠と甲2意匠は,意匠に係る物品が共通し,本件実線部分と甲2相当部分の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲も共通するが,本件実線部分と甲2相当部分の形態においては,共通点が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は小さく,これに対して,本件実線部分と甲2相当部分の形態の差異点を総合すると,差異点が本件実線部分と甲2相当部分の類否判断に及ぼす影響は大きく,本件実線部分と甲2相当部分を別異のものと印象付けるものであるから,本件登録意匠は,甲2意匠に類似するということはできない。
(4)小括
本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証の意匠(甲2意匠)に類似しないので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由2には,理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであって,請求人の主張する2つの無効理由には理由がないので,本件登録意匠の登録は,意匠法第48条第1項の規定によって無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2017-12-27 
出願番号 意願2016-20562(D2016-20562) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (D3)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 佐々木 朝康 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 渡邉 久美
小林 裕和
登録日 2016-12-22 
登録番号 意匠登録第1567961号(D1567961) 
代理人 齊藤 真大 
代理人 上村 喜永 
代理人 西村 竜平 
代理人 藤河 恒生 
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