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審決分類 審判    B1
審判    B1
管理番号 1343076 
審判番号 無効2016-880020
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-10-18 
確定日 2018-08-02 
意匠に係る物品 コート 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1537464号「コート」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1537464号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1537464号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして,平成27年(2015年)1月30日に意匠登録出願(意願2015-1810)されたものであって,審査を経て同年10月9日に意匠権の設定の登録がなされ,同年11月9日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 平成28年10月18日
・答弁書提出 平成28年12月26日
・審判事件弁駁書提出 平成29年 3月 1日
・審尋回答書提出(請求人) 平成29年 4月 3日
・審尋回答書提出(被請求人) 平成29年 4月28日
・答弁書(2)提出 平成29年 4月28日
・口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成29年 6月28日
・口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成29年 7月12日
・口頭審理陳述要領書(2)提出(請求人) 平成29年 7月14日
・口頭審理 平成29年 7月26日


第2 無効理由
1.無効理由1
請求人は,無効理由1として,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた意匠(甲第3号証の1ないし3に掲載された意匠)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張している。
2.無効理由2
また,無効理由2として,本件登録意匠は,その出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(甲第11号証に掲載された意匠)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張している。
3.無効理由3
そして,無効理由3として,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた意匠,頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(甲第13号証に掲載された意匠)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張している。
4.無効理由4
さらに,無効理由4として,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた一又は複数の意匠(甲第3号証の1ないし3に掲載された意匠,甲第4号証に掲載された意匠,甲第7号証に掲載された意匠,甲第10号証に掲載された意匠,甲第11号証に掲載された意匠,甲第13号証に掲載された意匠,甲第14号証に掲載された意匠)に基づいて,いわゆる当業者が容易に創作できた意匠であり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張している。


第3 請求人の主張の概要
1.本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠登録第1537464号の意匠登録公報(甲第1号証の1)に示されるように,意匠に係る物品を「コート」とし,その形態は,基本的構成態様が以下の通りである。なお,構成態様の説明において,各部の名称が明確となるように,参考資料1?参考資料3(甲第1号証の2)を添付した。また,左右の方向は,便宜上,コート前面に対面して視認した状態を基準としている。
(a)両側面上部に形成された袖ぐり部と,胴体を包むための,前面上側中央部に開口する襟ぐり部と,を有し,前面中央に上下方向に左右前身頃を合わせるための前合わせ部が形成されている略袋状の胴体部と,前記襟ぐり部に取り付けられた,首と頭を適宜覆うための頭巾状のフード部と前記袖ぐり部に取付けられた,左右の腕をそれぞれ覆うための略円筒状の2つの袖部と,から構成される長袖のフード付きコートである。
(b)胴体部は,胴体を包む本体部分である胴体本体部と,前面腰部左右に,長手方向が胴体部の中心線と垂直な方向となるように配置された2つの略矩形の布部材を有しており,この布部材は,その上縁部が胴体本体部に縫い付けられて,フラップ状となっている。
(c)胴体部は,背面腰部に,長手方向が胴体部の中心線と略垂直な方向となるように配置された帯状の太い飾りベルトを有しており,この飾りベルトは,その両端部が胴体本体部の両側部(後述する背側切り替え線)に縫い込まれ,その中央部が下方に弛むような長さとなっている。
(d)フード部は,その本体部分であるフード本体部の上縁周り(以下フード周りという。)に太紐状のファーを有する。
(e)袖部は,その本体部分である袖本体部の袖口周りに,正面視略横長長方形状のファーを有する。
(f)胴体部は,上方から下方にかけて,着用者のバスト部分に位置する胸部と,ウェスト部分に位置する胴部と,ヒップ部分及び腿部分に位置する腰部とを有し,その輪郭(シルエット)は,胸部と腰部に膨らみを持たせつつ,胴部を絞ったデザインである。また,腰部は,正面視において,ヒップ部分に位置する鉛直方向中央部が左右に膨らんでおり,裾方向(下方向)に向かって徐々に窄まった形状(いわゆるコクーン型)となっている。
そして,具体的態様は以下のとおりである。
(g)胴体部には,前面略中央に,前合わせ部の縁部分が上下方向に延びる直線として表れており,これに平行な直線状のステッチが正面視左側に一本施されている。
(h)胴体部には,前面両側部に,上下方向に延びる前側切り替え線があり,腰部において,フラップ状の布部材により分断されている。また,胴体部の胸部前面左右には,後方に向かって徐々に斜め下方に前側切り替え線まで延びる短い直線状のダーツ線が表れている。
(i)胴体部には,背面中央に,上下方向に延びる直線である背中央切り替え線があり,背面両側部に,上下方向に延びる背側切り替え線がある。
(j)胴体部の襟ぐり部は,略楕円形状の開口部(ラウンドネック)である。
(k)フード部は,背面視においてその横幅が肩口に及ばず,側面視において膨らみの少ないコンパクトなものである。
(l)フード部のファーは,フードに略環状となるように取り付けられている。
(m)袖部のファーは,袖口周りに略環状となるように取り付けられている。
(n)袖部の袖丈は,胴体部の身丈の約75%の長さとなっている。
(o)胴体部の布部材と飾りベルトとは,側面視において,腰部の略同じ高さに位置するように配設されている。
(p)襟ぐり部からのフード部を,また,両袖部からファーを分離し,分離した両袖部のファーを繋げて首回り(ネック)に取り付けた態様においては,両袖部のファーはその一端部を帯状に繋げたものであり,付衿(以下ティペットという。)として,他端部が喉側で衿羽となるように略環状に取り付けられていると推定される(甲第1号証の1)。
(q)フード周り及び袖口周りのファーには,紺色のコート本体(フード本体部,袖本体部及び胴体本体部,フラップ状の布部材,飾りベルト)とは異なる系統の配色がなされている(いわゆるツートンカラーである。)。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)無効理由1について
(A)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
(A1)先行公知意匠イについて(甲第3号証の1ないし3)
先行公知意匠イは,株式会社ベイクルーズが,同社のブランド「IENA」において販売している「ダブルフェイスメルトンノーカラーフードツキコート」(品番13020900390040)という商品(以下IENA商品という。)の意匠である。
(A2)証拠の説明(先行公知意匠イ)
・甲第3号証の1
甲第3号証の1は,株式会社ベイクルーズが所属するベイクルーズグループの通販サイトであるスタイルクルーズのウェブサイトであり,IENA商品が掲載されている。
・甲第3号証の2
甲第3号証の2は,甲第3号証の1のウェブサイトにおいて表示することができる各画像(甲第3号証の1 1頁目中央左側の「カラー」と記載されている部分及び「その他のイメージ」と記載されている部分に掲載されているものの一部)を拡大して印刷したものである。なお,IENA商品は,カラーのみが異なる3色展開がなされている商品である。
・甲第3号証の3
甲第3号証の3は,スタイルクルーズのウェブサイトにおいて,「この商品を紹介しているブログ」と紹介されているウェブサイト(甲第3号証の1 1頁下)である。
(A3)証拠の説明(先行公知意匠イの先行周辺意匠)
(B)本件登録意匠の出願日と意匠イの公知日との関係
IENA商品は,遅くとも,2013年(平成25年)12月18日には販売されており(甲第3号証の1?3),本件登録意匠の意匠出願日は平成27年1月30日であるから,IENA商品の意匠イは,先行公知意匠である。
(C1)先行公知意匠イの要旨
先行公知意匠イは,物品が「コート」であり,その形態は,基本的構成態様が以下の通りである。なお,本登録意匠に合わせて,左右前身頃(前合わせ部)を閉じた状態として認定する。
(イ-a)両側面上部に形成された袖ぐり部と,胴体を包むための,前面上側中央部に開口する襟ぐり部と,を有し,前面中央に上下方向に左右前身頃を合わせるための前合わせ部が形成されている略袋状の胴体部と,前記襟ぐり部に取り付けられた,首と頭を適宜覆うための頭巾状のフード部と,前記袖ぐり部に取付けられた,左右の腕をそれぞれ覆うための略円筒状の2つの袖部と,から構成される長袖のフード付きコートである。
(イ-b)胴体部は,胴体を包む本体部分である胴体本体部と,前面腰部左右に,長手方向が胴体部の中心線と垂直な方向となるように配置された2つの略矩形の布部材を有しており,この布部材は,その上縁部が胴体本体部に縫い付けられて,フラップ状となっている。
(イ-c)胴体部は,背面腰部に,長手方向が胴体部の中心線と略垂直な方向となるように配置された帯状の太い飾りベルトを有しており,この飾りベルトは,その両端部が胴体本体部の両側部(後述する背側切り替え線)に縫い込まれ,その中央部が下方に弛むような長さとなっている。
(イ-f)胴体部は,上方から下方にかけて,着用者のバスト部分に位置する胸部と,ウェスト部分に位置する胴部と,ヒップ部分及び腿部分に位置する腰部とを有し,その輪郭(シルエット)は,胸部と腰部に膨らみを持たせつつ,胴部を絞ったデザインである。また,腰部は,正面視において,ヒップ部分に位置する鉛直方向中央部が左右に膨らんでおり,裾方向(下方向)に向かって徐々に窄まった形状(いわゆるコクーン型)となっている。
そして,具体的態様は以下のとおりである。
(イ-g)胴体部には,前面略中央に,前合わせ部の縁部分が上下方向に延びる直線として表れており,これに平行な直線状のステッチが正面視左側に一本施されている。
(イ-h)胴体部には,前面両側部に,上下方向に延びる前側切り替え線があり,腰部において,フラップ状の布部材により分断されている。また,胴体部の胸部前面左右には,後方に向かって徐々に斜め下方に前側切り替え線まで延びる短い直線状のダーツ線が表れている。
(イ-i)胴体部には,背面中央に,上下方向に延びる直線である背中央切り替え線があり,背面両側部に,上下方向に延びる背側切り替え線がある。
(イ-j)胴体部の襟ぐり部は,略楕円形状の開口部(ラウンドネック)である。
(イ-k)フード部は,背面視においてその横幅が肩口に及ばず,側面視において膨らみの少ないコンパクトなものである。
(イ-n)袖部の袖丈は,胴体部の身丈の約75%の長さとなっている。
(イ-o)胴体部の布部材と飾りベルトとは,側面視において,腰部の略同じ高さに位置するように配設されている。
(イ-s)袖部の袖口周りに周方向の袖口切り替え線がある。
なお,フード部は取り外し可能な構成となっており,ノーカラーで着用可能であることも記載されている(甲第3号証の2)。
(C2)本件登録意匠と先行公知意匠イの意匠に係る物品の対比
両意匠とも「コート」であり,意匠に係る物品は同一である。
(C3)本件登録意匠と先行公知意匠イの形態の共通点及び差異点について
先行公知意匠イ(IENA商品)は,本件登録意匠と異なりフード周り及び袖口周りのファーを備えていないことから,先行公知意匠イの構成態様と本件登録意匠の構成態様とは,上記に記載した,フード周り及び袖口周りのファーに関する構成態様の有無が差異点である。しかし,コート本体(フード本体部,袖本体部及び胴体本体部,フラップ状の布部材,飾りベルト)の構成態様については,袖口切り替え線の有無以外すべて共通している。
具体的には,両意匠の共通点は,上記「1.本件登録意匠の要旨」のa,b,c,f,g,h,i,j,k,n,oに示した構成態様と,上述の「(C1)先行公知意匠イの要旨」のイ-a,イ-b,イ-c,イ-f,イ-g,イ-h,イ-i,イ-j,イ-k,イ-n,イ-oに示した構成態様である。
・両意匠の差異点は,
上記「1.本件登録意匠の要旨」のd,e,l,m,p,qに示した構成態様の有無と,「(C1)先行公知意匠イの要旨」のイ-sの有無である。
(C4)本件登録意匠と先行公知意匠イの形態の共通点及び差異点の評価
上述のように,先行公知意匠イと本件登録意匠とは,フード本体部,袖本体部,胴体本体部,布部材,飾りベルト,前合わせ部,襟ぐり部,切り替え線,ダーツ線の形状や配置等の構成態様が共通する。特に,コートの輪郭(シルエット)において,胴体本体部の胴部がいわゆるコクーン型であるという特徴も共通している。すなわち,両意匠のコート本体(フード本体部,袖本体部及び胴体本体部,フラップ状の布部材,飾りベルト)の構成態様は,袖口切り替え線の有無という微差以外全く同一である。
先行公知意匠イと本件登録意匠の差異点は,フード周り及び袖口周りのファーに関する構成態様である。しかし,本件登録意匠の出願時において,上述のように,このような構成態様のフード周りや袖口周りのファーを有するコート(先行公知意匠)は数多く存在しており,例えば,先行周辺意匠ニa,ニb,ニc,ニd,ニeのように,本件意匠が出願される以前の2013年発行の雑誌の(甲第4号証)や2010年更新のブログ(甲第5号証,甲第6号証),2013年更新のブログ(甲7号証)においても紹介されている。つまり,フード周りや袖口周りのファーを有するコートの形態や,コートからこれらのファーを取り外したフードや袖口の形態は公知となっている。このように,コートがフード周りや袖口周りのファーを有する構成であったり,それらのファーが取り外し可能であったりすることは,本件登録意匠の出願前に様々なコートで採用されている態様であり,需要者にとってありふれたものであるので,意匠の要部とはなりえない。
よって,両意匠は,意匠全体としても需要者に対して同一又は共通の美感を想起させるものであり,先行公知意匠イと本件登録意匠とは類似する。
(C5)本件登録意匠と先行公知意匠イの意匠に係る物品及び形態の共通点及び差異点の評価に基づく類否の結論
このように,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,形態が類似するので,全体として類似する意匠である。
(D)小括
したがって,本件登録意匠は,先行公知意匠イの存在により,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

(2)無効理由2について
(A)先行公知意匠ロについて(甲第11号証)
意匠ロは,被請求人である株式会社アルページュが,同社のブランド「Apuweiser-riche」において販売している「5WAYコクーンコート」(商品番号24421971)という商品(以下被請求人商品Aという。)を,ビジューブローチを付けずに略正面から視認した状態を示す意匠である。
(B)先行公知意匠ロの要旨
先行公知意匠ロは,物品が「コート」であり,その形態は,基本的構成態様が以下の通りである。なお,先行公知意匠ロの形態は,略正面である一方向から写した画像のみから認識される。よって,インターネットアーカイブWayBack Machineにより表示される画像(拡大し輝度を上げて表示したもの)のみから認識される意匠について,本登録意匠に合わせて,左右前身頃(前合わせ部)を閉じた状態として認定する。
(ロ-a)両側面上部に形成された袖ぐり部と,胴体を包むための,前面上側中央部に開口する襟ぐり部と,を有し,前面中央に上下方向に左右前身頃を合わせるための前合わせ部が形成されている略袋状の胴体部と,前記襟ぐり部に取り付けられた,首と頭を適宜覆うための頭巾状のフード部と,前記袖ぐり部に取付けられた,左右の腕をそれぞれ覆うための略円筒状の2つの袖部と,から構成される長袖のフード付きコートである。
なお,フード部が取り外し可能か否かは不明である。
(ロ-b)胴体部は,胴体を包む本体部分である胴体本体部と,前面腰部左右に,長手方向が胴体部の中心線と垂直な方向となるように配置された2つの略矩形の布部材を有しており,この布部材は,その上縁部が胴体本体部に縫い付けられて,フラップ状となっている。(前面腰部右側にもフラップ状の布部材が表れている。)
(ロ-e)袖部は,その本体部分である袖本体部の袖口周りに,正面視略横長長方形状のファーを有する。なお,ファーが取り外し可能か否かは不明である。
そして,具体的態様は以下のとおりである。
(ロ-g)胴体部には,前面略中央に,前合わせ部の縁部分が上下方向に延びる直線として表れており,これに平行な直線状のステッチが正面視左側に一本施されている。(ステッチが前合わせ部の縁部分の下部左側に一部表れている。)
(ロ-h)胴体部には,前面両側部に,上下方向に延びる前側切り替え線があり,腰部において,フラップ状の布部材により分断されている。(前面左側部にも前面右側部と同様の切り替え線があると推定される。)なお,胴体部の胸部前面左右には,後方に向かって徐々に斜め下方に前側切り替え線まで延びる短い直線状のダーツ線は確認できない。
(ロ-m)袖部のファーは,袖口周りに略環状となるように取り付けられている。
(ロ-n)袖部の袖丈は,胴体部の身丈の約75%の長さとなっている。
(B1)本件登録意匠と先行公知意匠ロの意匠に係る物品の対比
両意匠とも「コート」であり,意匠に係る物品は同一である。
(B2)本件登録意匠と先行公知意匠ロの形態の共通点及び差異点について
先行公知意匠ロは,本件登録意匠と異なりフード部のファーを備えていないことから,先行公知意匠ロは,上記に記載した本件登録意匠の構成態様のうちフード周りのファーに関するもの,及び,襟ぐり部に関するものが主な差異点である。また,先行公知意匠ロは一方向からの画像のみにより認識される意匠であるため,その背面側の構成態様などが不明である。しかし,被請求人が,被請求人商品Aは本件登録意匠の実施品とフード周りのファーが存在しないという相違点以外,同一の形態であると主張しているように(甲第12号証),先行公知意匠ロの構成態様は,本件登録意匠を正面から視認した際の主な構成態様と共通している。
(B3)本件登録意匠と先行公知意匠ロの形態の共通点及び差異点の評価
上述のように,先行公知意匠ロと本件登録意匠とは,フード本体部,袖本体部,胴体本体部,布部材,前合わせ部,切り替え線の形状や配置等の構成態様が共通する。すなわち,先行公知意匠ロの形態と,本件登録意匠からフード周りのファーを除いた意匠を正面から視認した形態とは,一部不明な構成態様があるものの主な構成態様が同一である。
先行公知意匠ロと本件登録意匠の主な差異点は,フード周りのファーに関する構成態様である。しかし,上記に記載したように,本件登録意匠の出願時において,上述のような構成態様のフード周りのファーを有するコートは需要者にとってもありふれたものであり,意匠の要部とはなりえない。
よって,両意匠は,意匠全体としても需要者に対して同一又は共通の美感を想起させるものであり,先行公知意匠ロと本件登録意匠とは類似する。
(B4)本件登録意匠と先行公知意匠ロの意匠に係る物品及び形態の共通点及び差異点の評価に基づく類否の結論
このように,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,形態が類似するので,全体として類似する意匠であるといえる。
(C)小括
したがって,本件登録意匠は,先行公知意匠ロの存在により,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

(3)無効理由3について
(A)先行公知意匠ハについて(甲第13号証の1及び甲第13号証の2)
意匠ハは,被請求人である株式会社アルページュが,同社のブランド「Apuweiser-riche」において販売している「コクーンコート」(商品番号24422350)という商品(以下被請求人商品Bという。)の意匠である。
(B)本件登録意匠の出願日等と意匠ハの公知日との関係
被請求人は,本件登録意匠の出願にあたり,被請求人商品A(「5WAYコクーンコート」(商品番号24421971))に係る意匠ロ(甲第9号証及び甲第10号証)について,新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書を提出している(甲第2号証)。また,被請求人商品B(「コクーンコート」(商品番号24422350)は,本件登録意匠の意匠出願日(平成27年1月30日)以前である平成26年8月1日から,被請求人により販売されており(甲第8号証,甲第12号証),意匠ハ(甲第13号証)は,被請求人の行為に起因して公知意匠(意匠法第3条第1項第2号)となっている。ここで,被請求人商品Bに係る意匠ハと被請求人商品Aに係る意匠ロとは,被請求人が自認しているようにフード周りのファーの有無という相違点がある(甲第12号証)ので,形態が同一ではないことは明らかである。
ところで,新規性の喪失の例外について規定する意匠法第4条は,平成11年に改正されており,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願の「証明する書面」(新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書)には,この規定の適用を受けようとする公開意匠すべてについて記載することが必要である。しかしながら,本件登録意匠の出願にあたり,出願前の公開意匠である被請求人商品Bの意匠ハについては,新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書に記載されていない。よって,被請求人商品Bの意匠ハは,新規性の喪失の例外規定の適用を受けることができず,先行公知意匠である。
(B1)先行公知意匠ハの要旨
被請求人商品Bは,物品が「コート」である。被請求人が本件登録意匠の実施品であると主張しているように(甲12号証),本件登録意匠に係るコートにビジューブローチを取り付けたものである。よって,ビジューブローチを除いた先行公知意匠ハの意匠の形態の構成態様は,本件登録意匠の形態の構成態様(a)?(q)と同一である。なお,ビジューブローチの構成態様は,以下の通りである。
(ハ-r)胴体部は,前合わせ部上端にビジューブローチを有する。
(B2)本件登録意匠と先行公知意匠ハの意匠に係る物品の対比
両意匠とも「コート」であり,意匠に係る物品は同一である。
(B3)本件登録意匠と先行公知意匠ハの形態の共通点及び差異点について
先行公知意匠ハ(被請求人商品B)は,本件登録意匠と異なりビジューブローチを備えていることから,先行公知意匠ロの構成態様と本件登録意匠の構成態様とは,上記に記載した(ハ-r)の構成態様のみが差異点であり,上記に記載した構成態様はすべて共通している。
(B4)本件登録意匠と先行公知意匠ハの形態の共通点及び差異点の評価
上述のように,先行公知意匠ハからビジューブローチを外した意匠と,本件登録意匠とは,形態の構成態様が同一であり,差異点はない。
また,先行公知意匠ハにおいて,ビジューブローチは付け外し可能な構成となっている。
よって,両意匠は,意匠全体としても需要者に対して同一又は共通の美感を想起させるものであり,先行公知意匠ハと本件登録意匠とは類似する。
(B5)本件登録意匠と先行公知意匠ハの意匠に係る物品及び形態の共通点及び差異点の評価に基づく類否の結論
よって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,形態が類似するので,全体として類似する意匠であるといえる。
(C)小括
したがって,本件登録意匠は,先行公知意匠ハの存在により,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。
(D)被請求人の主張に対する弁駁
(D1)新規性の喪失の例外規定の適用について
(ア)被請求人の主張
被請求人は,被請求人商品Aと被請求人商品Bについて,「両商品の意匠は実質同一の意匠であり,新規性喪失の例外の適用を受けることができる意匠です。」と主張している。
(イ)実質同一の意匠について
しかしながら,被請求人は,被請求人商品Bの広告等において,被請求人商品Bは被請求人商品Aと異なり,袖とフードの両方にファーをつけたことを特徴(限定ポイント)として強調していることに鑑みると,両意匠を実質的同一と認定するのには無理があることは明らかである。
よって,被請求人の「両商品の意匠は実質同一の意匠」であるという主張には理由がない。なお,披請求人商品Aと被請求人商品Bとの差異はフード周りのファーのみであるのに対し,あえて「袖とフードの両方にファーをつけました」との宣伝文句を使用しているのは,袖とフードにファーのない他の商品(例えば,IENA商品など)を意識したものであるかと推測することができる。
(D2)新規性の喪失の例外適用の要件について
また,被請求人が引用する判例(乙第9号証)は,新規性の喪失の例外規定の趣旨を示したに過ぎず,特に異論はないが,具体的な適用の要件を示すために引用する判例(乙第10号証)は,平成11年法意匠法が適用される以前に出願された意匠に関するものであり,本件登録意匠の新規性の喪失の例外規定の適用の要件についての判断の根拠とすることはできない。
意匠審査便覧42.44(特許庁ウェブサイト「意匠審査便覧」)の(説明)には,「平成11年に改正された意匠法第4条第2項は,意匠登録出願前の公開意匠と当該意匠登録出願の意匠との同一又は類似を問わずに,「証明する書面」に記載された公開意匠が然るべき要件を満たしたときに意匠法第3条第1項又は第2項の規定により拒絶されないよう明示的に規定したものである。しかるに,この規定の反射的効果として意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする公開意匠すべてにつき「証明する書面」に記載することが必要となったものである。」と記載されている。
本件登録意匠は,平成27年1月30日に出願されたものであるので,出願前に公開された被請求人商品Aの意匠と被請求人商品Bの意匠(先行公知意匠ハ)の両方について意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるためには,被請求人商品Bの意匠についても「証明する書面」に記載することが必要である。
しかしながら,「証明する書面」には,被請求人商品Bの意匠の記載がない。よって,被請求人の主張は失当である。
(D3)被請求人の「本件登録意匠(意匠登録第1537464号)の態様と同様の袖周りとフード周りの両方にファーのついたコートが,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるための証明書に添付されたコートに含まれる」との主張に対する反駁
(D3-1)「意匠の同一」と「創作容易性」とは異なる概念であることについて
「意匠の同一・類似・非類似」と「創作非容易性」とは,それぞれ異なる条文(「第3条第1項」と「第3条第2項」)で規定されているように,全く異なる概念であり,被請求人商品Bが被請求人商品Aから「創作容易」であったとしても,被請求人商品Aと被請求人商品Bとが「同一の意匠」であることの根拠とはならない。
(D3-2)新規性喪失の例外規定の適用
被請求人は,「証明する書面」に記載された被請求人商品Aの最初の公開日である2014年8月1日(甲第2号証)には,被請求人商品Bの商品開発の完了していることをもって,また,被請求人商品Aの最初の公開日前に取引先に発注済みであることをもって,被請求人商品Bの公開意匠が,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けられる旨の主張をしている。
しかしながら,新規性喪失の例外規定の適用において,商品開発の完了時期は適用判断の要件とはなっておらず,当を得ないものである。
(D3-3)平成11年改正法とその趣旨
被請求人は,商品開発の経緯を新規性喪失の例外規定の適用の根拠としている。しかし,意匠法第4条の平成11年改正法については,「平成11年改正意匠法意匠審査の運用基準」(甲第39号証)の「1.改正の趣旨」の「1.2旧法での問題点(2)」には,「産業界の商品開発の実態をみると,同時期に発売する商品については,数種類の類似する意匠を同時に創作するケースが多く見られるが,それらの公開時期は必ずしも同時でない場合もある。」とあり,平成11年改正意匠法第4条は,同じデザインコンセプトのもので創作されたバリエーションの意匠を適切に保護するために改正されたものである。公開した意匠が意匠登録出願の意匠と同一,類似,非類似に関わらず所定の要件を満たす場合,所定の手続を行うことにより,手続を行った全ての公開意匠について,改正法4条2項の規定の適用が受けられるように要件を緩和したものであり,この改正によって,「意匠登録を受ける権利を有する者」を救済するとともに,「第三者」に不要な負担を強いることを避けるようにしたものである。
ここで,本件登録意匠において,「被請求人商品A」と「被請求人商品B」とは,同時期(2014年秋冬商品)に販売する商品として開発され,「被請求人商品Aに係る意匠」と「被請求人商品Bに係る公開意匠」と「本件登録意匠」とは,同じデザインコンセプトのもとで創作された,「同一の意匠」ではないバリエーションの意匠であり,「被請求人商品A」と「被請求人商品B」は,異なる時期に販売が開始されている。
すると,本事案は,まさに上述の「1.2旧法での問題点(2)」の事案に該当するものであり,所定の手続がなされていない被請求人商品Bの公開意匠について,意匠法第4条第2項の規定の適用を認めるのは,法改正の趣旨に反するものであると思料する。
(E)答弁書(2)について
被請求人は,被請求人商品B(商品B)「【Arpege story限定】コクーンコート」(商品番号24422350)の意匠(公知意匠ハ)について,被請求人商品A(商品A)「5Wayコクーンコート」(商品番号24421971)が「証明する書面」に記載されており,被請求人商品Bは被請求人商品Aと同一の商品であり,形態が実質的同一であるので,被請求人商品Bについても意匠法第4条第2項の規定の適用が受けられる旨の主張をしている。
(E1)間接事実Gについて
ここで,「商品Aと商品Bは,同一の商品である」という被請求人の上記主張に対して,被請求人商品Aと被請求人商品Bが異なる商品であること(間接事実G)を客観的証拠(甲第45号証)により,立証して主張する。
甲第45号証は,被請求人商品Aと被請求人商品Bが異なる商品として販売されていた事実(間接事実G)を立証するものである。
(E2)甲第45号証について
甲第45号証は,インターネットアーカイブWayback Machineによる,被請求人の通販サイト「Arpege story」のホームページのヘッダー「Arpege story」下のトップメニューの「Apuweiser-riche」にリンクされている,ブランド「Apuweiser-riche」の公式通販サイトの2014年分の保存記録(1頁)と,このウェブサイトで2014年10月25日に公開されていたものとして記録・提供されているものの抜粋(2頁から4頁)である。
3頁中央に「Ranking人気ランキングアイテム」が紹介されており,被請求人商品A「5WAYコクーンコート」(商品番号2421971)が3位,被請求人商品B「【Arpege story限定】コクーンコート」が2位であり,被請求人商品Aと被請求人商品Bとが同時に別商品としてランクインしている。
(E3)小括
このように,被請求人商品A「5WAYコクーンコート」(商品番号2421971)と,被請求人商品B【Arpege story 限定】コクーンコート(商品番号24422350)とは同一の商品でなく,異なる商品である。また,両商品A,Bの意匠はフード周りのファーの有無の違いがあり,同一ではない。よって,被請求人商品Bの意匠(先行公知意匠ハ)は,「証明する書面」に記載された被請求人商品Aと「同一の意匠」ではないので,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けることはできない。
(F)追加した証拠に基づいた新たな主張について
陳述要領書(1)に示したように,被請求人は,「新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」に記載した公開意匠である「5WAYコクーンコート」(被請求人商品X(商品番号24421970))のサイトのインターネット画像に,袖周りとフード周りの両方にファーを取り付けた画像が掲載されていないのは,本件商品の販売時が,2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを付けた商品の宣伝時期として早すぎるため,袖周りとフード周りの両方にファーを取り付けた状態の画像を,営業上,単に,掲載(紹介)しなかったに過ぎない(回答書)と主張している。
しかしながら,フード周りにファーを備えていない被請求人商品Xは,袖口周りとフード周りの両方にファーのついた「フェイクムートンコート」と同時に先行予約販売が行われている(甲第47号証の3)。
(G)答弁書への弁駁
「組み合わせ形態の意匠」との認定について
意匠は,「意匠に係る物品」と「意匠に係る物品の形態」により認定されるものであるが,被請求人は,「意匠に係る物品」と「意匠に係る物品の形態」とを混同した状態で,本件登録意匠を認定していると思料する。被請求人の主張する「5通りの着方」というのは意匠の形態を示すものではなく,物品の用途・機能(コートの使い方)である。意匠法において,意匠は,一意匠一出願の原則のもと,一組の図面及びその他必要な図に表された意匠を構成する線や彩色などにより,1つの意匠の形態が特定されるのであって,被請求人が主張する計5通りという組み合わせの数が保護されたり,各組み合わせ(各使用方法)における形態が個別に保護されたりするものではない。
よって,被請求人の主張は失当である。

(4)無効理由4について
(A)先行公知意匠イ,ロ,ハ,ニa,ニe,ホa,ホbについて(甲第3号証の1ないし3,甲第11号証,甲第13号証の1及び甲第13号証の2,甲第4号証,甲第7号証)
(A1)証拠の説明
・甲第4号証
甲第4号証は,雑誌「AneCan」2013年12月号の表紙及び誌面の写しであり,2枚目右側の「襟&袖チェンジコート部門」には,「レッセ・パッセのフードコート」の意匠(以下先行周辺意匠ニaという。)及び「バナーバレットのAラインコート」の意匠(以下先行周辺意匠ニbという。)が掲載されている。「レッセ・パッセのフードコート」(先行周辺意匠ニa)は,フード,フード周り及び袖口周りのファーを有するコートである。フード,フード周りのファー,袖口周りのファーの取り外しが可能であり,それぞれを取り外した状態の形態が掲載されている。「バナーバレットのAラインコート」(先行周辺意匠ニb)は,首回り(ネック)及び袖口周りにファーを有するコートである。襟ぐり部のファー,袖口周りのファーなどの取り外しが可能であり,それぞれを取り外した状態の形態が掲載されている。なお,当該誌面(甲第4号証2?4枚目)には,これらのコート以外にも,多数のフード周りにファーを有するコートや首回り(ネック)にファーを有するコートが掲載されている。
・甲第7号証
甲第7号証は,「eponge エポンジュ」というブログの「ビットダッフルコート」と題する記事であり,フード周り及び袖口周りに取り外し可能なファーを有する「ビットダッフルコート」の意匠(以下先行周辺意匠ニeという。)が紹介されている。なお,この「ビットダッフルコート」(先行周辺意匠ニe)は,被請求人である株式会社アルページュが,同社のブランド「JUSGRITTY」において販売していた商品(以下,被請求人商品Dという。)である。
・甲第14号証
甲第14号証は,株式会社オンワード樫山の「Feroux」のウェブサイトであり,「超人気 5Wayドーリーコート」と題する記事において,オンワード商品(先行公知意匠ホa)(以下オンワード商品という。)が紹介されている。先行公知意匠ホaは,株式会社オンワード樫山が,同社のブランド「Feroux」において販売した「5Wayドーリーコート」という商品の意匠である。
・甲第10号証
甲第10号証は,被請求人が,平成28年3月18日付けで提出した「証拠説明書(1)」に添付した「原告の平成26年秋冬版のカタログ」(当該訴訟の甲第8の1号証)であり,4頁上側(カタログの26頁)に被請求人商品C(以下被請求人商品Cという。)が掲載されている。先行公知意匠ホbは,被請求人が,同社のブランド「Apuweiser-riche」において販売した「ビジュー付2Wayツイード切替ダウンコート」という商品の意匠である。
(B)本件登録意匠の出願日と意匠ニa,意匠ニe,意匠ホa,ホbの公知日との関係
・意匠ニa
意匠ニaが掲載された雑誌「AneCan」2013年12月号は,2013年(平成25年)11月7日に小学館から発行されており(甲第4号証),本件登録意匠の意匠出願日は平成27年1月30日であるから,レッセ・パッセの商品の意匠ニa「フードコート」は,先行公知意匠である。
・先行公知意匠ニeについて
意匠ニeが紹介されたブログ「eponge エポンジュ」の「ビットダッフルコート」と題する記事は,2013年(平成25年)9月19日こ更新されており(甲第7号証),本件登録意匠の意匠出願日は平成27年1月30日であるから,商品「ビットダッフルコート」の意匠ニeは,先行公知意匠である。
・先行公知意匠ホaについて
オンワード商品は,2010年(平成22年)11月12日に更新された「超人気 5Wayドーリーコート」と題する記事において紹介されており,本件登録意匠の意匠出願日は平成27年1月30日であるから,オンワード商品の意匠ホaは,先行公知意匠である。
・先行公知意匠ホbについて
被請求人商品Cは,被請求人商品Aと同様,2014年(平成26年)8月1日より販売が開始されたものである(甲第8号証「証拠説明書(1)」4頁の立証趣旨欄)と推定され,平成26年8月22日からのカタログフェアに先駆けて配布されたものであり(甲第14号証),本件登録意匠の意匠出願日は平成27年1月30日であるから,被請求人商品Cの意匠ホbは,先行公知意匠である。
(C)先行公知意匠ニa,ニe及び先行公知意匠ホa,ホbの要旨
・先行公知意匠ニa,ニeについて
先行公知意匠ニa,ニeは,物品が「コート」であり,フード部及び袖部にファー(フード周り及び袖口周りのファー)を有し,これらのファーに関する形態は以下の通りである。
(ニa,ニe-d)フード部は,その本体部分であるフード本体部の上縁周りに,太紐状のファーを有する。
(ニa,ニe-e)袖部は,その本体部分である袖本体部の袖口周りに,正面視略横長長方形状のファーを有する。
(ニa,ニe-l)フード部のファーは,フードに略環状となるように取り付けられる。
(ニa,ニe-m)袖部のファーは,袖口周りに略環状となるように取り付けられていると推定される。
(ニa-q)フード周り及び袖口周りのファーには,オフホワイトのコートの本体部分とは異なるホワイトの配色がなされている(いわゆるツートンカラーである。)。
(ニe-q)フード周り及び袖口周りのファーには,薄いキャメルのコートの本体部分より濃い目の配色がなされている(いわゆるツートンカラーである。)
なお,袖口周りのファーは取り外し可能であり,ファーを取り外した形態についても公知となっている。
・先行公知意匠ホa,ホbについて
先行公知意匠ホa,ホbは,物品が「コート」であり,袖部にファー(袖口周りのファー)を有し,このファーに関する形態は以下の通りである。
(ホa,ホb-e)袖部は,その本体部分である袖本体部の袖口周引に,正面視略横長長方形状のファーを有する。
(ホa,ホb-m)袖部のファーは,袖口周りにおいて略環状となるように取り付けられていると推定される。
(ホa,ホb-p)両袖部からファーを分離し,分離した両袖部のファーを繋げて首回り(ネック)に取り付けた態様においては,両袖部のファーはその一端部を帯状に繋げたものと推定され,ティペットとして,他端部が喉側で衿羽となるように略環状に取り付けられている。
(ホa,ホb-q)袖口周りのファーには,コートの本体部分とは異なる系統の配色がなされている(いわゆるツートンカラーである。)。
・その他
なお,袖口周りのファーをティペットとして使用することは,上記「Sweet Happy Life」というブログの「PEYTON PLACEのフォックスファーコート」と題する記事(甲第5号証)内にも記載されており,2010年(平成22年)11月20日の時点において,当業者にとってありふれた手法となっている。
(C1)創作容易-1
本件登録意匠は,先行公知意匠イに対し,袖口周り及びフード周りにファーを付属させただけのものであり,上述のように,袖口周り及びフード周りにファーを付属させるデザインは,女性用コートにおいて一般的な手法であるから,本件登録意匠の出願時において先行公知意匠イに基づき本件登録意匠を容易に創作することができたことは明らかである。
具体的には,本件登録意匠は,先行公知意匠イに,先行公知意匠ニaと先行公知意匠ニe(被請求人商品D)のいずれかのフード周りのファーの意匠,先行公知意匠ホaと先行公知意匠ホbのいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,先行公知意匠イ,先行公知意匠ニa(又は先行公知意匠ニe),先行公知意匠ホa(又は先行公知意匠ホb)を当業者にとってありふれた手法により,寄せ集めたにすぎない意匠である。
特に,先行公知意匠イは,袖部の袖口周りに周方向の袖口切り替え線があり(イ-s),この袖口切り替え線に代えて袖口周りにファーを有する構成(被告の先行公知意匠ロ)とし,さらにフード周りにファーを取り付けた構成(本件登録意匠)とすることは,当業者にとってありふれた手法(一般的手法)であり,本件登録意匠は,先行公知意匠イ等に基づいて,容易に創作することのできた意匠である。
(C2)創作容易-2
本件登録意匠は,先行公知意匠ロに,先行公知意匠イの飾りベルトの意匠,先行公知意匠ニaと先行公知意匠ニe(被請求人商品D)のいずれかのフード周りのファーの意匠,先行公知意匠ホaと先行公知意匠ホbのいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,先行公知意匠イ,先行公知意匠ニa(又は先行公知意匠ニe),先行公知意匠ホa(又は先行公知意匠ホb)を当業者にとってありふれた手法により,寄せ集めたにすぎない意匠である。よって,本件登録意匠は,先行公知意匠ロ等に基づいて,容易に創作することのできた意匠である。
(C3)創作容易-3
本件登録意匠は,先行公知意匠ハからその構成要素であるビジューブローチを取り除いたものと同一の形態である。先行公知意匠ハから構成要素(ビジューブローチ)を減じた構成とすることは,当業者にとってありふれた手法であることはいうまでもない。よって,本件登録意匠は,先行公知意匠ハに基づいて,容易に創作することのできた意匠である。
(D)小括
本件登録意匠は,その出願前に公知となっていた意匠(先行公知意匠イ,ロ,ハ,ニa,ニe,ホa,ホb等)に基づいて,いわゆる当業者が容易に創作できた意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当しないとしても,同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

3.請求人が提出した証拠
請求人は,甲第1号証ないし51号証を,審判請求書,弁駁書,回答書,口頭審理陳述要領書,口頭審理陳述要領書(2)の添付書類として提出した。(別紙第4参照)


第4 被請求人の主張の概要
1.無効理由について
(1)無効理由1(先行公知意匠イ)(甲第3号証の1ないし3)
「先行公知意匠イ」は,本件登録意匠の基本形態から,ファー,フード,及び袖口のファーを全て取り外した使用状態の意匠であり,本件登録意匠において,その形態に相当する意匠は,「変化する形態3」の意匠であり,請求人の無効理由1(先行公知意匠イ)は,本件登録意匠を構成する変化する形態中の一つの態様,すなわち,「変化する形態3」について,その類似性を主張するにとどまるものであり,変化する意匠の類否判断の手法として,不適切なものである。
なお,請求人は,本件登録意匠と先行公知意匠に見られる差異について,「先行公知意匠イと本件登録意匠の差異点は,フード周り及び袖口周りのファーに関する構成態様である。しかし,本件登録意匠の出願時において,上述のように,このような構成態様のフード周りや袖口周りのファーを有するコート(先行公知意匠)は数多く存在しており,例えば,先行周辺意匠二a,ニb,ニc,ニd,ニeのように,本件意匠が出願される以前の2013年発行の雑誌の(甲第4号証)や2010年更新のブログ(甲第5号証,甲第6号証),2013年更新のブログ(甲7号証)においても紹介されている。つまり,フード周りや袖口周りのファーを有するコートの形態や,コートからこれらのファーを取り外したフードや袖口の形態は公知となっている。このように,コートがフード周りや袖口周りのファーを有する構成であったり,それらのファーが取り外し可能であったりすることは,本件登録意匠の出願前に様々なコートで採用されている態様であり,需要者にとってありふれたものであるので,意匠の要部とはなりえない(審判請求書)。」と主張している。
しかしながら,「意匠が類似するか否かは,全体的観察に基づいて両意匠が看者に対して異なる美感を与えるか否かによって判断すべきであり,両意匠に共通する構成の中に,当該物品に一般的な形状が含まれているとしても,そのことから当然に,意匠を観察する場合にその一般的な形状を除外ないし捨象して意匠の類否を判断すべきであるということにはならない。意匠法にいう意匠とは,意匠の創作として秩序立てられた1つの全体形態としてのまとまりをいうのであるからたとえ,当該物品に一般的な形状であっても,その部分を含めた全体が意匠としてのまとまりを形成している場合には,当該部分を含めた全体としての両意匠の構成態様を対比し,類否の判断を行うべきである(平成13年(行ケ)第275号「電気ギター」 東京高裁平成13年11月13日判決言渡,乙第7号証)。」との判示を鑑みると,請求人が主張する「コートがフード周りや袖口周りのファーを有する構成であったり,それらのファーが取り外し可能であったりすることは,本件登録意匠の出願前に様々なコートで採用されている態様であり,需要者にとってありふれたものであるので,意匠の要部とはなりえない。」との主張は,当を得ないものである。すなわち,請求人も認める「フード周り及び袖口周りのファーに関する構成態様」の相違は,両意匠の基本的構成態様に係る大きな差異であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいと思料する。
また,請求人が摘示する「先行周辺意匠ニa,ニb,ニc,ニd,ニe」は,画像が小さく不鮮明な例示であり,本件登録意匠との全体形状及び具体的な形状の対比ができないものである。

(2)無効理由2(甲第11号証)
請求人は,本件登録意匠の無効の理由2として「意匠ロは,被請求人である株式会社アルページュが,同社のブランド『Apuwiser-riche』において販売している『5WAYコクーンコート』(商品番号24421971)という商品(以下被請求人商品Aという。)を,ビジューブローチを付けずに略正面から視認した状態を示す意匠である。」(審判請求書)と述べ,本件登録意匠と意匠ロの差異について,「先行公知意匠ロと本件登録意匠の主な差異点は,フード周りのファーに関する構成態様である。しかし,本件登録意匠の出願時において,上述のような構成態様のフード周りのファーを有するコートは需要者にとってもありふれたものであり,意匠の要部とはなりえない。よって,両意匠は,意匠全体としても需要者に対して同一又は共通の美感を想起させるものであり,先行公知意匠ロと本件登録意匠とは類似する。」(審判請求書)と主張している。
しかしながら,意匠ロは,フード付きのコートの袖にファーが付いた意匠であり,本件登録意匠の変化する形態1ないし4のいずれの形態にも該当しない形態の意匠であり,本件登録意匠に類似する意匠ではない。
本件登録意匠の「新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」には,公開した意匠として「5WAYコクーンコート」の意匠,アドレスが掲載されており,本件登録意匠が新規性喪失の例外の適用を受ける公開意匠である「5WAYコクーンコート」が掲載されている(乙第2号証)。
敷衍すると,先行公知意匠ロは,被請求人のブランドである「Apuweiser-riche」のアイキャッチとして単に使用したものであり,被請求人の「5WAYコクーンコート」の形態の全容,すなわち,基本形態(フードとフードのファーと袖口のファーを取り付けた使用状態),変化する形態1(フードとフードのファーのみの使用状態),変化する形態2(袖口のファーのみを取り付けた使用状態),変化する形態3(フードのみの使用状態)及び変化する形態4(フードのファー,フード,及び袖口のファーを全て取り外した使用状態)が公開されたものではない。また,先行公知意匠ロは,本件登録意匠のいずれの形態にも該当しない意匠であり,本件登録意匠の無効理由にはならない先行公知意匠である。
また,先行公知意匠ロが,新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書に記載された公開日である2014年8月1日以前の2014年(平成26年)7月18日に公開されたものであるとしても,そのことは,「そもそも甲号意匠が不特定者に公然知られた状態になったといえるためにはその一部が視認されただけでは足りず,意匠の全体が視認されなければならないというべきであり,仮に,原告の主張するように意匠のうち最も特徴的な部分が視認されれば足りると解したとしても,前記認定の本件登録意匠の形態からすれば,本件登録意匠においては正面の形態のみならず,裏面にある反射フード上部から上方に突出する突片も本件登録意匠の美観を形作る上において無視することはできない形状というべきであるから,正面の形状のみをもって本件登録意匠の最も特徴的な部分であるとすることはできないというべきであり,」(平成23年(行ケ)第10129号「照明器具用反射板」知財高裁平成23年11月21日判決言渡,乙第8号証)と判示されていることを考慮すれば,平成26年7月18日時点における被請求人のインターネットのサイトに,先行公知意匠ロが,たとえ掲載されているとしても,それは,本件登録意匠の一部の形態であり,本件登録意匠が不特定者に公然知られた状態になったということにはならないと思料する。

(3)無効理由3(甲第13号証の1及び甲第13号証の2)
請求人は,「意匠ハは,被請求人である株式会社アルページュが,同社のブランド『Apuwiser-riche』において販売している『コクーンコート』(商品番号24422350)という商品(以下,被請求人商品Bという。)の意匠である。」(審判請求書)と述べている。
そして,請求人は,「被請求人商品B(「コクーンコート」(商品番号24422350))は,本件登録意匠の意匠出願日(平成27年1月30日)以前である平成26年8月1日から,被請求人により販売されており(甲第8号証,甲第12号証),意匠ハ(甲第13号証)は,被請求人の行為に起因して公知意匠(意匠法第3条第1項第2号)となっている。ここで,被請求人商品Bに係る意匠ハと被請求人商品Aに係る意匠ロとは,被請求人が自認しているようにフード周りのファーの有無という相違点がある(甲第12号証)ので,形態が同一ではないことは明らかである。」(審判請求書)と述べ,更に,「新規性の喪失の例外について規定する意匠法第4条は,平成11年に改正されており,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願の『証明する書面』(新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書)には,この規定の適用を受けようとする公開意匠すべてについて記載することが必要である。しかしながら,本件登録意匠の出願にあたり,出願前の公開意匠である被請求人商品Bの意匠ハについては,新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書に記載されていない。よって,被請求人商品Bの意匠ハは,新規性の喪失の例外規定の適用を受けることができず,先行公知意匠である。」(審判請求書)と述べている。
しかしながら,被請求人商品Aと被請求人商品Bは,いずれも,被請求人が,Arpege story「5WAYコクーンコート」として,平成26年8月1日から広告・宣伝及びその販売を開始した一連の商品であり,その商品の意匠は実質同一の意匠であり,先行公知意匠とは成り得ない意匠である。
また,請求人は,新規性喪失の例外適用を受けるためには,「新規性の喪失の例外について規定する意匠法第4条は,平成11年に改正されており,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願の『証明する書面』(新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書)には,この規定の適用を受けようとする公開意匠すべてについて記載することが必要である。」と述べている。
しかしながら,「意匠法4条2項は,新規性の判断を,出願時を基準に,厳格に運用すると,出願人に酷な場合が生じる場合があるため,これを救済するために設けられた例外規定であるから,その適用範囲は立法趣旨に従って限定的に解釈されるべきである。証拠及び弁論の全趣旨によれば,同条項が『意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する』場合を新規性喪失の例外事由としたのは,意匠を考案した者は,常に意匠登録の出願をするわけではなく,実際には,ひとまず,販売,展示,見本の頒布等により売行きを打診してみて,一般の需要の有無を確かめた後に,需要があるものについて意匠登録を出願するのが通常であるのに,このような販売,展示,見本の頒布等の行為によって新規性を喪失すると取り扱うことは,意匠の実情に合わず,意匠の考案者に酷であるので,このような場合に,新規性を失わないものとするためであると認められる。」(平成12年 (行ヶ)第331号「おろし器」東京高裁平成12年11月28日判決言渡,乙第9号証)というものである。
さらに請求人は,「意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願の『証明する書面』(新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書)には,この規定の適用を受けようとする公開意匠すべてについて記載することが必要である。」とも主張しているが,被請求人商品Aと被請求人商品Bは,いずれも,被請求人が,「5WAYコクーンコート」として,平成26年8月1日から広告・宣伝及びその販売を開始した一連の商品であり,その両商品の意匠は実質同一の意匠であり,新規性喪失の例外の適用を受けることができる意匠である。
このことは,「意匠を公開した後,同条2項の規定により,その意匠を新規性喪失の例外として登録出願するまでの間に,この意匠と同一の範囲と解される意匠を自ら反復して公開した場合,例えば,本件におけるように,端子盤を製造販売することにより意匠を公開した後,その登録出願までの間に,その製品についてのカタログ等にそれと同一の範囲の意匠を掲載して頒布した場合であっても,最初に公開した意匠について,同条3項に規定する書面(同条2項の規定の適用を受ける旨の書面及び証明書)を提出すれば足りるものと解するのが相当である。(平成7年(行ケ)第159号「端子盤」知財高裁平成8年2月28日判決言渡,乙第10号証)」と判示されていることからも明らかである。
また,前記判決は,公開された意匠と意匠登録出願された意匠の実質同一性について,「新規性を登録要件とする原則のもとにおいては,一度展示や販売などを行えば,それは新規性を喪失したものとなり登録を受けることができないが,この原則を貫くと,出願に係る意匠につき,出願したものと公開したものとが同一であっても,公開された意匠が存在することを理由として登録を受けえない等,出願人にとって一面酷に過ぎるような場合が生じ,上記の取引社会の実情にそぐわない面も生ずることがある。そこで,意匠法4条2項は,同条1項と並べて,上記のような一定の条件のもとに新規性喪失の例外を認めているものと解される。この新規性喪失の例外を設けた立法趣旨に照らせば,意匠の「同一」と「類似」とが別個の概念であることを前提としても,同条における,「意匠登録出願前に公然知られた意匠」又は「意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠」との同一性の要件のうち,審決のいう形態上の「同一」とは,法律上の概念として,単に物理的に形態が完全に一致するものだけではなく,形態において微差があっても,同条の立法趣旨に適した限度において社会通念上,意匠の表現として同一の範囲と理解されるものをいうと解するのが相当である。」(平成7年(行ケ)第159号「端子盤」知財高裁平成8年2月28日判決言渡,乙第10号証)とも判示されており,請求人が引用する意匠ハは,先行公知意匠と成り得ない意匠である。

(I)ファーが着脱自在で,袖周りとフード周りの両方にファーが付くものが普通であること(審尋に対する回答)
被請求人は,本件登録意匠の意匠登録出願に際して,新規性喪失の例外の規定の適用を受けている。その公開意匠は,「新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」に記載の公開意匠であり,そのサイトに掲載されている本件登録意匠が新規性喪失の例外の適用を受ける公開意匠である「5WAYコクーンコート」においては,袖回りとフード周りの両方にファーを取り付けた態様は掲載されていないが,本件登録意匠の5Wayコクーンコートとしての開発商品は,公開時期である2014年8月1日において,本件登録意匠の商品開発は,既に完了している。
新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」に記載の公開意匠のインターネット画像に,袖周りとフード周りの両方にファーを取り付けたコートは掲載されていないが,それは,本件商品の販売時が,2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを付けた商品の宣伝時期として早すぎるため,ファーを取り付けた状態の画像を紹介しなかったに過ぎない。その後,秋口になって,フードにファーを付けた商品を販売したものである。
この種の物品,すなわち,ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーを付けることは,当業者において常識的なことである。その間接事実としては,例えば,小学館発行の「AneCan」2013年12月号(乙第18号証)の68頁左上に記載の「ファー付きコート」(間接事実1)及び230頁に掲載の「ファー付きダウンコート」(間接事実2),及び,角川春樹事務所発行の「美人百科」2011年9月号(乙第19号証)に掲載の「ファー付きコート」(間接事実3)及び同2012年2月号(乙第20号証)に掲載の「ファー付きコート」(間接事実4),さらには,請求人が提出する甲第4号証の2(雑誌「AneCan」2013年12月号の誌面の写し拡大)に掲載された「フードコート」(間接事実5)に見られるとおり,袖周りとフード周りの両方にファーを取り付けたコートの意匠は一般的なものであり,ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーをセットで付けることは,当業者においてごく普通の常識的な創作手法である。
また,請求人は,コートに付け替え可能なファーが付いていることは普通であることを自認しており,その先行周辺意匠の例として,甲第7号証を提出しているが,それらの「ファー付きコート」は,袖周りとフード周りの両方にファーを取り付けたコートであることからも推認できる。

(II)「新規性喪失の例外の規定を受ける証明書」に記載の公開意匠について
新規性喪失の例外の規定を受ける証明書」に記載の公開意匠について,フードにファーを取り付けたインターネット画像が,そのサイトに掲載されていないのは,本件商品の販売時が,2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを付けた商品の宣伝時期として早すぎるため,ファーを取り付けた状態の画像を紹介しなかったに過ぎない。その後,秋口になって,フードにファーを付けて商品として販売したものである。
敷衍すると,新規性喪失の例外の規定の適用を受けた請求人のサイトに掲載の意匠には,そのDetail(アイテム詳細)において,本件登録意匠の意匠に係る物品の説明に記載した態様について,請求人が,本件登録意匠の使用方法とする,使用方法6「コート本体+フード+袖口周りのファー+フード周りのファー」,使用方法7「コート本体+フード+フード周りのファー」に関する使用態様が掲載されていないが,それは,先にも述べたとおり,フードにファーを取り付けた画像が掲載されていないのは,本件商品の意匠の販売時が2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを取り付けた状態の画像を,営業上,単に,掲載しなかったに過ぎない。
すなわち,本件登録意匠の商品開発は,2014年8月1日には完成している。本件登録意匠に係る「5WAYコクーンコート」は,一般向けの販売は秋口を予定していたが,特定の顧客に対してはその譲渡を行っている。その譲渡予定の「Arepegestory限定コクーンコート」を,2014年7月1日(2014AW,職出月日7/1)に,被請求人(意匠権者)株式会社アルページュから取引先「日鉄住金物産」に発注している(間接事実6,乙第21号証)。
ところで,本件登録意匠の開発経過について言及すると,10代から20代の若い女性においては,カジュアルなコートとエレガンスのコートの両方を,一つのコートで着こなすというニーズがあり,そのような市場,需要者の購買動機を背景として,被請求人は,本件登録意匠の基本コンセプトであるエレガンス要素を損なわないようにしつつ,カジュアルスタイルにも対応できるコートの開発を試みたものである。
具体的には,ダッフルコート等のカジュアルスタイルにマッチするコートを参考にし,従来のエレガンススタイルのコートには用いられないことが通常であったデザインを取り入れ,その一方で,エレガンススタイルの要素を損なわないコートの創作を企画した。したがって,本件登録意匠は,ファーの付け替えによって,一つのコートで,エレガンスにも,カジュアルにも着こなすことができるところに意匠的特徴が表出されている。
袖及びフードのファーについて説明すると,一般に,ファーはエレガンススタイルの要素を強めるものであるが,これを取り外しできるようにして,カジュアルスタイルにも対応できるようにした。また,フードについては,一般に,ファーの付かないシンプルなフードは,カジュアル要素を強めるので,カジュアルスタイルにも対応できるよう,ファーは取り外し可能にデザインにした。
このような商品開発におけるデザインにおいて,コートの袖のみにファーをとり付け,フードにファーを付けないということはあり得ない。

(III)意匠の認定及び類否判断の手法について(答弁書(2))
請求人は,答弁書「2.答弁の理由」への弁駁において,「意匠法において,意匠は,一意匠一出願の原則のもと,一組の図面及びその他必要な図に表された意匠を構成する線や彩色などにより,1つの意匠の形態が特定されるのであって,被請求人が主張する計5通りという組み合わせの数が保護されたり,各組み合わせ(各使用方法)における形態が個別に保護されたりするものではない。よって,被請求人の主張は失当である。」(弁駁書)と主張している。
しかしながら,被請求人は,計5通りという「組み合わせの数」が保護されたり,また,各組み合わせ(各使用方法)における形態が「個別に保護」されると主張したことは一切ない。
敷衍すると,意匠法6条4項のいわゆる動的意匠(変化する意匠)は,その変化する形態の全てを含んで一つの意匠と捉えられるものであり,変化する形態の個々に意匠権が個別に発生するものではないことは自明のことである。変化する形態は,変化する形状,模様又は色彩が一体となった意匠であり,したがって,変化する形態を構成する一の形態に個別に意匠権が発生するものではなく,その反面その個別の一の形態に,同一又は類似の公知意匠が存在していても,その公知意匠によって,その登録が無効とされることにはならない。その他の変化する形態を含めた意匠全体が,変化する形態の意匠(以下「変化する意匠」ともいう。)として,公知意匠との類否判断がなされるものであり,その意匠権は,変化する形態の総体として,その登録意匠の範囲が定められるものである(意24条1項)。

(IV)使用態様について
請求人は,「被請求人は,本件登録意匠の要旨の[基本的構成態様](B)において,物品の使用態様を挙げているが,物品の使用方法を示すものであり形態を示すものではないので,基本的構成態様とはなりえない。」(弁駁書)と主張している。
しかしながら,披請求人は,本件登録意匠の使用方法を基本的構成態様としているのではなく,使用態様に基づき変化する形態そのものを本件登録意匠の基本的構成態様としているものであり,請求人の主張は当を得ないものである。
敷衍すると,基本的構成態様は,意匠の全体的な骨格を成す態様であり,意匠は物品と一体不可分のものであるので,その物品が有する用途,機能に基づく動き,すなわち,その態様は基本的構成態様を成すことは必然であり,請求人の「使用方法は,基本的構成態様とは成り得ない。」というのは当を得ていない。

(V)5通りに変化する形態(使用態様)について
被請求人は,前記,請求人の主張に関して,請求人が本件登録意匠の「使用方法1」として挙げる「コート本体+フード+袖口周りのファー」の使用態様を示す図面は,本件登録意匠の願書添付の図面(図面代用写真)には記載されていないが,需要者がそのような着方(使用)をすることは,本件登録意匠の「新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」に添付した「5WAYコクーンコート」の意匠に掲載されており,本件登録意匠の使用態様の範囲であるので,請求人の主張を認める。
また,請求人は,「袖口周りのファーは,ティペットとして使用することもできる。」と述べているが,本件登録意匠の「意匠に係る物品の説明」において,「『ネックにファーを取り付けた状態の斜視図』は,両袖のファーを繋げて首回り(ネック)に取り付けたものである。」と記載しており,袖口のファーをティペット(Tippet:毛皮やレース等でできた襟巻,肩掛け)として使用するのは,本件登録意匠の使用態様の範囲であるので,請求人の主張を認める。
しかしながら,被請求人は,「意匠に係る物品の説明」の欄において,本件登録意匠の基本形態を含めて5通りの使用態様を図面代用写真によって,願書に添付し,基本形態及び変化する形態1ないし4を,主たる使用態様として説明したものである。したがって,本件登録意匠の使用態様が,「5通り」であること(5通りに限定すること)を本件登録意匠の意匠的特徴としたものではない。

(VI)意匠登録出願の図面について
請求人は,「本件登録意匠は,意匠が各構成部品に分離することができるものであるので,同法同条様式第6備考18,『意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き』の第3部1.分離する部分を有するものの場合などに基づいて,作成するべきであると思料する。」(弁駁書)と述べている。
しかしながら,本願意匠は,「変化する意匠」であり,「分離する意匠」ではない。もとより,分離するファーに係る部品の意匠,フードに係る部品の意匠について,意匠登録を受けるものでもない。請求人が主張するような図面を提出することは,ファーやフード等の構成物品について,あたかも意匠権が発生しているような誤認が生じる虞があり,本件登録意匠(意匠に係る物品「コート」)を,「分離する部分を有するものの場合」のように作成することは不適切である(乙第16号証)。

(VII)無効理由3(本件登録意匠と公知意匠ハ)の類否
本件登録意匠は,平成27年2月26日提出の「新規性喪失の例外の適用を受ける証明書」に記載のとおり,適法に,新規性喪失の例外の適用を受けている。以下に,その理由を述べる。
(ア)被請求人の商品Bの販売時期について
請求人は,「被請求人が当該訴訟にて提出した証拠の甲第7号証の2(甲第13号証)の説明には,赤文字の『“限定ポイント“』の下に「アプの大人気5WAYコートに袖とフードの両方にファーをつけました。」との記載がある。このことより,被請求人商品Bは,5WAYコート(被請求人商品Aの5WAYコクーンコート)が大人気となった後に販売されたものであったことが推認される。」(弁駁書)と主張している。
しかしながら,商品Aと商品Bは,商品Aの販売時期においてはフードファーを付けていないが,商品Bは,それに,フードのファーを取り付けたものであり,実質的に同一の商品(5WAYコクーンコート)である。
(イ)商品Aに係る意匠と商品Bに係る意匠の実質同一性について
被請求人は,本件登録意匠の意匠登録出願に際して,新規性喪失の例外の規定の適用を受けている。その公開意匠は,「新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」に記載の公開意匠(乙第2号証)であり,そのサイトに掲載されている本件登録意匠が新規性喪失の例外適用を受ける公開意匠である「5WAYコクーンコート」においては,フードにファーを取り付けた態様は掲載されていないが,本件登録意匠の5Wayコクーンコートとしての開発商品(商品A)は,2014年8月1日時点において,本件登録意匠の商品開発(意匠の創作)は完了している。
被請求人の商品「5WAYコクーンコート」は,被請求人は,本件登録意匠の基本コンセプトであるエレガンス要素を損なわないようにしつつ,カジュアルスタイルにも対応できるコートの開発を試みたものであり,(b)袖及びフードのファーについては,一般に,ファーはエレガンススタイルの要素を強めるものであるが,これを取り外しできるようにして,カジュアルスタイルにも対応できるようにした。また,フードについては,一般に,ファーの付かないシンプルなフードは,カジュアル要素を強めるので,カジュアルスタイルにも対応できるよう,ファーは取り外し可能にデザインしたものである。
この種の物品,すなわち,ファーつきのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーを付けることは,当業者において常識的のことであり,フードにファーをつけていない商品Aとフードにファーをつけた商品Bは,同一の商品であり,形態においては実質同一の意匠である。
(ウ)ファーが着脱自在で,袖周りとフード周りの両方にファーが付くことが普通であること
小学館発行の「AneCan」2013年12月号の68頁左上に記載の「ファー付きコート」及び230頁に記載の「ファー付きダウンコート」(乙第18号証),及び,角川春樹事務所発行の「美人百科」2011年9月号(乙第19号証)及び2012年2月号に記載のフード付きコート(乙第20号証),さらには,請求人が提出する甲第4号証の2に記載のファーの付け替えができる「フード付きコート」の意匠に見られるとおり,ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーをセットで付けることは,当業者においてごく普通の常識的な創作である。
(エ)「新規性喪失の例外の規定を受ける証明書」に記載の公開意匠について
新規性喪失の例外の規定を受ける証明書」に記載の公開意匠について,フードにファーを取り付けたインターネット画像が,そのサイトに掲載されていないのは,本件商品Aの販売時が,2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを付けた商品の宣伝時期として早すぎるため,ファーを取り付けた状態の画像を紹介しなかったに過ぎない。その後,秋口になって,商品Aのフードにファーを付けて商品Bとして販売したものであり,商品Aと商品Bは,実質同一の商品であり,新規性喪失の例外の規定を受ける証明書には,商品Aと商品Bは,実質同一の商品であることから,最初の公表意匠である商品Aの意匠について,新規性喪失の適用を受けたものであり,請求人の「被請求人商品Bの意匠についても『証明する書面』に記載することが必要である。」との前記主張には理由がない。
(オ)コート本体+フード+袖口周りのファー+フード周りのファーが,本件登録意匠の公開時において,その商品開発(創作)が完成していたことを先にも述べたが,本件登録意匠のフードにファーを取り付けた画像が掲載されていないのは,本件商品Aの意匠の販売時が2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを取り付けた状態の画像を,営業上,単に,掲載しなかったに過ぎない。しかしながら,本件登録意匠の商品開発は,2014年8月1日には完成している。本件登録意匠に係る「5WAYコクーンコート」は,一般向けの販売は秋口を予定していたが,特定の顧客に対してはその譲渡を行っている。その譲渡予定の「Arepegestory限定コクーンコート」を,2014年7月1日(2014AW,職出月日7/1)に,被請求人(意匠権者)株式会社アルページュから取引先「日鉄住金物産」に発注している(乙第21号証)。
(カ)新規性喪失の例外の適用要件について
請求人は,「被請求人が引用する判例(乙第9号証)は,新規性の喪失の例外規定の趣旨を示したに過ぎず,特に異論はないが,具体的な適用の要件を示すために引用する判例(乙第10号証)は,平成11年法意匠法が適用される以前に出願された意匠に関するものであり,本件登録意匠の新規性の喪失の例外規定の適用の要件についての判断の根拠とすることはできない。」(弁駁書)と主張している。
しかしながら,公開された意匠と意匠登録出願された意匠の実質同一性について,乙第10号証(平成7年(行ケ)第159号「端子盤」知財高裁平成8年2月28日判決言渡)の判旨は,「新規性を登録要件とする原則のもとにおいては,一度展示や販売などを行えば,それは新規性を喪失したものとなり登録を受けることができないが,この原則を貫くと,出願に係る意匠につき,出願したものと公開したものとが同一であっても,公開された意匠が存在することを理由として登録を受けえない等,出願人にとって一面酷に過ぎるような場合が生じ,上記の取引社会の実情にそぐわない面も生ずることがある。(中略)この新規性喪失の例外を設けた立法趣旨に照らせば,意匠の「同一」と「類似」とが別個の概念であることを前提としても,同条における,「意匠登録出願前に公然知られた意匠」又は「意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠」との同一性の要件のうち,審決のいう形態上の「同一」とは,法律上の概念として,単に物理的に形態が完全に一致するものだけではなく,形態において微差があっても,同条の立法趣旨に適した限度において,社会通念上,意匠の表現として同一の範囲と理解されるものをいうと解するのが相当である。」と判示しているものであり,平成10年意匠法の改正後(創作容易性の要件の引き上げ(意3条2項)において,国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩が,創作非容易性の判断の対象(引例意匠)となったことに起因するものであり,新規性の喪失の例外規定の適用の要件についてその制度の趣旨が変更されるものではない。
また,「意匠を公開した後,同条2項の規定により,その意匠を新規性喪失の例外として登録出願するまでの間に,この意匠と同一の範囲と解される意匠を自ら反復して公開した場合,例えば,本件におけるように,端子盤を製造販売することにより意匠を公開した後,その登録出願までの間に,その製品についてのカタログ等にそれと同一の範囲の意匠を掲載して頒布した場合であっても,最初に公開した意匠について,同条3項に規定する書面(同条2項の規定の適用を受ける旨の書面及び証明書)を提出すれば足りるものと解するのが相当である。(平成7年(行ケ)第159号「端子盤」知財高裁平成8年2月28日判決言渡,乙第10号証)」と判示されていることからも明らかである。
以上のとおり,請求人の無効理由3にはその理由が存在しないが,仮に,先行公知意匠ハが,本件登録意匠を構成する基本形態及び変化する形態1ないし4のいずれかの形態の先行公知意匠に成り得たとしても,登録意匠の要部とは,登録意匠のうち,物品の性状,用途使用態様などからみて,取引者及び需要者の注意を強く引く部分をいうのであり,公知意匠の組合せあるいは公知意匠と新規な意匠との組合せにより意匠が創作されることもあり得ることからしても,単に公知の意匠であるというだけで,登録意匠の要部となり得ないとする理由はないと思料する。
前記の被請求人の主張は,「取鍋事件」(平成16年(ワ)第24626号,東京地裁平成19年3月23日判決言渡,乙第11号証)において判示されていることからも明らかである。

(VIII)請求人の口頭審理陳述要領書に記載の弁駁に対する意見(口頭審理陳述要領書)
(A)商品Aの意匠と商品Bの意匠が「実質同一意匠」であること
「被請求人商品B「【Arperge story限定】コクーンコ一ト」(商品番号24422350)は,披請求人のブランド「Apuweiser-riche」の各店舗において一般販売された被請求人の商品A「5WAYコクーンコート(商品番号2421971)と異なり,オンラインショップ以外では,被請求のブランド「Arpege story」の1店舗と期間限定2店舗(具体的には,アルページュストーリーのリアルショップであるルミネ新宿店と,有楽町マルイ店とジェイアール名古屋タカシマヤ店とに,11/12(水)?11/18(火)の期間だけ出店されたAneCanとコラボしたArpege stroryの2店舗)のみで,限定販売された商品である。なお,この事実は,後述する証拠(甲第46号証4頁)によっても裏付けられる。
(6月28日付け口頭審理陳述要領書)
以上より,ブランド「Apuweiser-riche」の商品である被請求人商品A「5Wayコクーンコート」(所品番号24421971)がブランド「Apuweiser-riche」の各店舗において一般販売されたのに対し,被請求人商品B「【Arpege story】限定コクーンコート」(商品番号24422350)は,ブランド「Apuweiser-riche」の店舗のみで,限定販売されていたことになる。
「Apuweiser-riche」は,被請求人の店舗のブランドであり,「Arpegestrory限定コクーンコート」は展開する商品のブランド(品名ブランド)であり,商品販売に際しての,使用目的,使用方法が異なることは,商品の販売上におけるブランド展開として普通のことであり,商品Aの意匠と商品Bの意匠が「実質同一意匠」であることを否定する根拠とはならない。
本件登録意匠は,そのファイル記録(乙第2号証)の新規性の喪失の例外規定の適用を受ける証明書には,「1.公開した意匠」として「別紙(添付)に掲載のArpegestory「5wayコクーンコート」と記載しており,その別紙には,最上段にApuweiser-richerアプワイザー・リッシュ「ArpegeStrory」と記載されており,商品Aは,2014年8月1日時点において,Apuweiser-riche「アプワイザー・リッシュ」の店舗において,「Arpegestory」という商品名で「5wayコクーンコート」とし,そのDetailを示して,商品の販売をしていたことは明白であり,請求人の主張は当を得ていない。
また,「ArpegeStrory限定コクーンコート」の発注書(乙第21号証)に,フードにファーが付いたコートを品名「Arpege Strory限定コクーンコート」として,2014年7月1日に発注しており,本件登録意匠の品名ブランドは,Arpege stroryであり,商品Aの意匠と商品Bの意匠は同じ商品であり,「実質同一意匠」である。
(B)意匠法の平成11年改正に伴う新規性喪失の例外規定について
商品Aの意匠と商品Bの意匠は,「実質同一意匠」であり,請求人が提出する甲43号証に記載の「Q1-11.私が創作した意匠を複数回にわたって公開しましたが,それぞれについて証明する必要がありますか? A1-11.それぞれの公開された意匠について証明する必要があります。ただし,意匠登録を受ける権利を有する者が,同一の意匠を複数回にわたって公開した場合には,最先の公開について新規性を喪失した公開事実について証明すれば足ります。」と記載されており,意匠Bは,意匠Aと実質同一の意匠であり,その意匠Aについては,本件登録意匠に係る意匠登録出願の願書の【特記事項】に,「意匠法第4条2項の規定の適用を受けようとする意匠」であることを宣明し,添付物件として,「新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」を添付し,公開した意匠,すなわち,「Arpege story 5wayコクーンコート」について,新規性喪失の例外規定の適用を受けている。
本件登録意匠の「証明する書面」に記載された意匠について
被請求商品Aと被請求人商品Bは,実質同一の意匠であり,フード周りにファーをつけた商品を,秋口から冬に向けて「商品展開」したものである。商品を販売する店舗,販売する際のキャッチコピー,販売方法等は,新規性喪失の例外規定の適用を受ける公開意匠の実質同一性に直接的に影響を及ぼすものではない。意匠の実質同一性は,意匠の創作による形態の価値の共通性が,その判断根拠となるものである。以下に,そのことについて述べる。
(C)ファーが着脱自在で,袖回りとフード周りの両方にファーが付くものが普通であること
被請求人は,本件登録意匠の意匠登録出願に際して,新規性喪失の例外の規定の適用を受けています。その公開意匠は,「新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」に記載の公開意匠(乙第2号証)であり,そのサイトに掲載されている本件登録意匠が新規性喪失の例外の適用を受ける公開意匠である「5wayコクーンコート」においては,フードにファーを取り付けた態様は掲載されていませんが,本件登録意匠の5wayコクーンコートとしての開発商品(商品A)は,2014年8月1日時点において,本件登録意匠の商品開発(意匠の創作)は完了している。
被請求人は,本件登録意匠の基本コンセプトであるエレガンス要素を損なわないようにしつつ,カジュアルスタイルにも対応できるコートの開発を試みたものであり,袖及びフードのファーについては,一般に,ファーはエレガンススタイルの要素を強めるものであるが,これを取り外しできるようにして,カジュアルスタイルにも対応できるようにした。また,フードについては,一般に,ファーの付かないシンプルなフードは,カジュアル要素を強めるので,カジュアルスタイルにも対応できるよう,ファーは取り外し可能にデザインにしたものである。
この種の物品,すなわち,ファー付きのコートにおいて,袖にファーをつけた場合,フードにもファーをつけることは,当業者において常識的のことであり,フードにファーを付けていない商品Aとフードファーをつけた商品Bは,同一の商品であり,形態においては実質的な同一の意匠である。
例えば,小学館発行の「AneCan」2013年12月号の68頁左上に記載の「ファー付きコート」及び230頁に記載の「ファー付きダウンコート」(乙第18号証),及び,角川春樹事務所発行の「美人百科」2011年9月号(乙第19号証)及び2012年2月号に記載のフード付きコート(乙第20号証),さらには,請求人が提出する甲第4号証の2に記載のファーの付け替えができる「フード付きコート」の意匠に見られるとおり,ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーをセットで付けることは,当業者においてごく普通の常識的な創作である。
この点について,請求人は,「被請求人が,間接事実1?5,甲第7号証等に基づいて主張する「袖周りとフード周りの両方にファーを取り付けたコートの意匠は一般的なものであ」ること(被請求人の回答書)及び「ファーが着脱自在で,袖周りとフード周りの両方にファーが付くものが普通であること」(被請求人の回答書)については,請求人の審判請求書における主張「コートがフード周りや袖口周りのファーを有する構成であったり,それらのファーが取り外し可能であったりすることは,本件登録意匠の出願前に様々なコートで採用されている態様であり,需要者にとってありふれたものである」(審判請求書)と同内容であると考え,同意する。」(口頭審理陳述要領書)と述べている。
その一方,請求人は,「間接事実1?5,甲第7号証に基づいて,「ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーをセットで付けることは,当業者においてごく普通の常識的な創作手法である」と主張しているが,この主張についてそのまま同意することはできない。なぜなら,間接事実1?5,甲第7号証は,被請求人の主張を立証する客観的証拠とは言えないからである。つまり,間接事実1?5,甲第7号証のコートは,袖周り及びフード周りにセットでファーが付いていることについては異論がないが,これらのコートがどのように創作されたか(まず,袖にファーを付けることを想定したのちに,フードにファーをセットで付けたのか,フードにファーを付けることを想定したのちに,袖にファーをセットで付けたのか,それとも,袖とフードの両方にセットで付けたのか)については,市場に流通している完成品を見た限りではわからないからである。よって,被請求人の示す証拠は,各商品がどのように創作されたかを示す創作過程について,何ら証明するのではない。」((6月28日付け)口頭審理陳述要領書)と主張している。
しかしながら間接事実1?5,甲第7号証に基づいて,「ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーをセットで付けることは,当業者においてごく普通の常識的な創作手法である」ことは,1)袖にファーを付けることを想定したのちにフードにファーをセットで付けること,2)フードにファーを付けることを想定したのちに袖にファーをセットで付けること,それとも,3)先後を問わず袖とフードの両方にセットで付けることは,服飾のデザインにおいて,1)ないし3)は,いずれにおいても,常識的な創作手法であり,その創作の結果として,間接事実1?5,甲第7号証のコートの意匠ができたものであり,1)ないし3)のデザインプロセスの相違は,「ファーが着脱自在で,袖回りとフード周りの両方にファーが付くものが普通であること」の立証に影響を及ぼすものではない。
なお,請求人は,前記の主張をする一方,「しかしながら,請求人は,被請求人の(主張7)(b)が,「袖ファー付きのコート(フード付き)に,フードにもファーをセットで付けることは,当業者においてごく普通の常識的な創作手法である」という意味において,同意する。なお,ファーを有するコートの創作容易性に関する請求人の主張について,以下に述べる。」((6月28日付け)口頭審理陳述要領書)と述べているが,意匠法3条1項3号新規性の判断と意匠法3条2項の創作非容易性の判断において,相互に矛盾する判断は許されないと思料する。
(D)「新規性喪失の例外の規定を受ける証明書」に記載の公開意匠について
新規性喪失の例外の規定を受ける証明書」に記載の公開意匠について,フードにファーを取り付けたインターネット画像が,そのサイトに掲載されていないのは,本件商品Aの販売時が,2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを付けた商品の宣伝時期として早すぎるため,ファーを取り付けた状態の画像を紹介しなかったに過ぎない。その後,秋口になって,商品Aのフードにファーを付けて商品Bとして販売したものであり,商品Aと商品Bは,実質同一の商品であり,新規性喪失の例外の規定を受ける証明書には,商品Aと商品Bは,実質同一の商品であることから,最初の公開意匠である商品Aの意匠について,新規性喪失の適用を受けたものである。
敷衍すると,新規性喪失の例外の規定の適用を受けた請求人のサイトに掲載の意匠には,そのDetail(アイテム詳細)において,本件登録意匠の意匠に係る物品の説明に記載した態様において,請求人が,本件登録意匠の使用方法とする,使用方法6「コート本体+フード+袖口周りのファー+フード周りのファー」,使用方法7「コート本体+フード+フード周りのファー」に関する使用態様が掲載されていないが,それは先にも述べたとおり,フードにファーを取り付けた画像が掲載されていないのは,本件商品Aの意匠の販売時が2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを取り付けた状態の画像を,営業上,単に,掲載しなかったに過ぎない。
(E)被請求人の主張に対する弁駁に対する意見
請求人は,「被請求人商品B「【Arpege story限定】コクーンコート」(商品番号24422350)が,「5WAYコクーンコートとしての開発商品」であることについては同意できない。」
「被請求人商品B「【Arpege story 限定】コクーンコート」(商品番号24422350)は,上述したように,使用方法の総数が7通りであり,被請求人の主張する「(使用方法)5」は,被請求人商品Aと被請求人商品Bとで異なっている。また,実際の商品購入サイト(甲第13号証など)において,その正式な商品名が「5WAYコクーンコート」とされていないことから,「5WAYコクーンコート」として開発された品ではないことは明白である。また,被請求人によって示された取引先「日鉄住金物産」への発注書(間接事実6)においても,品名は「Arpege story限定コクーンコート(商品番号24422350)であり,「5WAYコクーンコート」ではない。」(口頭審理陳述要領書24頁18行から25頁2行)と主張している。
しかしながら,請求人は,続けて「なお,被読求人商品B「Arpege story限定コクーンコート(商品番号24422350)の商品販売において,「限定ポイントアプの大人気5WAYコートに袖とフードの両方にファーをつけました。」(甲第13号証)と記載している事実,及び,「Apuweise-riche Official Blog」(甲第31号証の2)において,「Arpegestory限定のポイント フードにもFOXファーがついたのはArpegestoryだけ」として,「【Arpegestory限定5】5WAYコクーンコート」に,「【Arpegestory限定】コクーンコート」(商品番号24422350)のリンクを張っていることから,「同じデザインコンセプトで開発された商品である可能性は否定しない。」(口頭審理陳述要領書)と述べている。
すなわち,被請求人は,秋口から,5Wayコクーンコートの袖とフードの両方にファーをつけたコートを本格的に商品展関しているが,本件登録意匠の商品開発は,2014年8月1日には,既に,完成しており,その間接事実6(乙21号証)として,被請求人から取引先「日鉄住金物産」に対して,5WAYコートに袖とフードの両方にファーをつけたコートの発注書を示している。
この発注書(間接事実6)に対して,請求人は,「被請求人自身が作成した書類であり,客観的証拠とは言えず,これらの主張が立証されたとは言えない。」(口頭審理陳述要領書)と主張しているが,その発注書には,発注先日鉄住金物産の担当者名,また,発注したコートの品名,品番,規格,色彩,縫製等の仕様が具体的かつ詳細に記載されたものであり,間接事実の証拠として成り立つものである。
(F)無効理由3(本件登録意匠と公知意匠ハ)について
被請求人は,本件登録意匠の基本コンセプトであるエレガンス要素を損なわないようにしつつ,カジュアルスタイルにも対応できるコートの開発を試みたものであり,(b)袖及びフードのファーについては,一般に,ファーはエレガンススタイルの要素を強めるものであるが,これを取り外しできるようにして,カジュアルスタイルにも対応できるようにした。また,フードについては,一般に,ファーの付かないシンプルなフードは,カジュアル要素を強めるので,カジュアルスタイルにも対応できるよう,ファーは取り外し可能にデザインにしたものである。
この種の物品,すなわち,ファー付きのコートにおいて,袖にファーを付けた場合,フードにもファーを付けることは,当業者において常識的のことであり,フードにファーを付けていない商品Aとフードファーをつけた商品Bは,同一の商品であり,形態においては実質同一の意匠である。
(G)間接事実Gについて
請求人は,間接事実Gについて,「甲第45号証は,被請求人商品Aと被請求人商品Bが異なる商品として販売されていた事実(間接事実G)を立証するものである。」(口頭審理陳述要領書)と述べ,「甲第45号証は,インターネットアーカイブWayback Machineによる,被請求人の通販サイト「Arpege story」のホームページのヘッダー「Arperge story」下のトップメニューの「Apuweiser-riche」にリンクされている,ブランド「Apuweipser-riche」の公式通販サイトの2014年分の保存記録(1頁)と,このウェブサイトで2014年10月25日(甲第45号証2/3右上に記載:被請求人記載)に公開されたものとして記録・提供されているものの抜粋(2頁から4頁)である。」(口頭審理陳述要領書)と主張しているが,本件登録意匠が,新規性喪失の例外規定の適用を受ける2014年8月1日の後」のものである。
また,請求人が主張する「販売態様,販売方法」の態様の相違が,商品A(商品番号2421271)と商品B(商品番号24422350)の意匠の実質同一性を否定する根拠とはならない。
なお,公知事実の証明において,インターネットの他人の保存記録を,証拠として使用することについては,道義上,また,その証拠力に疑義があることを述べておく。
(H)請求人の回答書に対する反論
請求人は,甲第31号証ないし甲第36号証を示して,「被請求人のフード周りにファーのついたコート(商品番号24422350)は,被請求人により,本件登録意匠の出願前(平成27年1月30日前)の2011年(当審注:2014年)(平成26年)10月24日から先行予約販売が開始され,2014年11月7日から本格的な11月限定商品であることが証明された。」(回答書)と主張している。
しかしながら,フード周りにファーのついたコートの意匠(意匠B:商品番号24422350)は,平成24年8月1日において既に完成しており,その意匠を,その後,本格的に広告,宣伝,販売を行ったものであり,請求人の提示する証拠は,本件登録意匠に関する一連の実施品,すなわち,実質同一の意匠である。
なお,請求人が提示する証拠は,インターネットアーカイブWayback Machineによる保存記録であり,それらの証拠は,その証拠力に疑義があるものである。

(IX)まとめ
以上のとおり,本件登録意匠(意匠登録第1537464号,乙第1号証)は,本件登録意匠の出願前に公然知られた意匠(甲第3号証の1?3),その出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(甲第11号証)及びその出願前に公然知られた意匠,頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(甲第13号証)に類似する意匠ではなく,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する意匠ではない。

(4)無効理由4(甲第3号証の1ないし3,甲第4号証,甲第7号証,甲第10号証,甲第11号証,甲第13号証,甲第14号証)
(4-1)創作容易-1について
請求人は,「本件登録意匠は,先行公知意匠イに対し,袖口周り及びフード周りにファーを付属させただけのものであり,上述のように,袖口周り及びフード周りにファーを付属させるデザインは,女性用コートにおいて一般的な手法であるから,本件登録意匠の出願時において先行公知意匠イに基づき本件登録意匠を容易に創作することができたことは明らかである。具体的には,本件登録意匠は,先行公知意匠イに,先行公知意匠ニaと先行公知意匠ニe(被請求人商品D)のいずれかのフード周りのファーの意匠,先行公知意匠ホaと先行公知意匠ホbのいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,先行公知意匠イ,先行公知意匠ニa(又は先行公知意匠ニe),先行公知意匠ホa(又は先行公知意匠ホb)を当業者にとってありふれた手法により,寄せ集めたにすぎない意匠である。」(審判請求書)と主張している。
しかしながら,本件登録意匠は,下記のとおり,「基本形態」に「変化する形態1」ないし「変化する形態4」を組み合わせた意匠的特徴を有する意匠であり,「先行公知意匠イに,先行公知意匠ニaと先行公知意匠ニe(被請求人商品D)のいずれかのフード周りのファーの意匠,先行公知意匠ホaと先行公知意匠ホbのいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,先行公知意匠イ,先行公知意匠ニa(又は先行公知意匠ニe),先行公知意匠ホa(又は先行公知意匠ホb)を当業者にとってありふれた手法により,単に,寄せ集めたにすぎない意匠ではなく」,請求人の無効理由4は,当を得ないものである。
敷衍すると,先行公知意匠ニbの「バナーバレットのAラインコート」,先行公知意匠ニaの「レッセパッセのフードコート」,先行公知意匠ホaの「5wayコート」,のいずれの意匠にも,本件登録意匠の意匠的特徴を構成する「フードのファー,フード,及び袖口のファーを適宜取り外しできる態様」は見られず,本件登録意匠の「変化する態様」については,いずれの先行公知意匠にも示唆されていない。
なお,「寄せ集めの意匠」とは,複数の公然知られた意匠を組み合わせて一の意匠を構成したにすぎない意匠であるが(意匠の審査基準23.5.2),具体的に,どの意匠とどの意匠を組み合わせれば,本件登録意匠に係る基本形態(フードとフードのファーと袖口のファーを取り付けた使用状態),変化する形態1(フードとフードのファーのみの使用状態,変化する形態2(袖口のファーのみを取り付けた使用状態),変化する形態3(フードのみの使用状態)及び変化する形態4(フードのファー,フード,及び袖口のファーを全て取り外した使用状態の意匠が,容易に創作することができるのか不明である。
(4-2)創作容易-2について
請求人は,「本件登録意匠は,先行公知意匠ロに,先行公知意匠イの飾りベルトの意匠,先行公知意匠ニaと先行公知意匠ニe(被請求人商品D)のいずれかのフード周りのファーの意匠,先行公知意匠ホaと先行公知意匠ホbのいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,先行公知意匠イ,先行公知意匠ニa(又は先行公知意匠ニe),先行公知意匠ホa(又は先行公知意匠ホb)を当業者にとってありふれた手法により,寄せ集めたにすぎない意匠である。よって,本件登録意匠は,先行公知意匠ロ等に基づいて,容易に創作することのできた意匠である。」(審判請求書)と主張している。
しかしながら,本件登録意匠は,前記のとおり,「基本形態」に「変化する形態1」ないし「変化する形態4」を組み合わせた意匠的特徴の意匠であり,「先行公知意匠ロに,先行公知意匠イの飾りベルトの意匠,先行公知意匠ニaと先行公知意匠ニe(被請求人商品D)のいずれかのフード周りのファーの意匠,先行公知意匠ホaと先行公知意匠ホbのいずれかの袖口周りのファーの意匠を,単に,組み合わせたものではなく,先行公知意匠イ,先行公知意匠ニa(又は先行公知意匠ニe),先行公知意匠ホa(又は先行公知意匠ホb)を当業者にとってありふれた手法により,単に,寄せ集めたにすぎない意匠ではない。したがって,請求人の無効理由4(創作容易-2)は,当を得ないものである。
(4-3)創作容易-3について
請求人は,「本件登録意匠は,先行公知意匠ハからその構成要素であるビジューブローチを取り除いたものと同一の形態である先行公知意匠ハから構成要素(ビジューブローチ)を減じた構成とすることは,当業者にとってありふれた手法であることはいうまでもない。よって,本件登録意匠は,先行公知意匠ハに基づいて,容易に創作することのできた意匠である。」(審判請求書)と主張しているが,先行公知意匠ハは,本件登録意匠に係る意匠登録出願が,新規性喪失の適用を受けた意匠と実質的に同一の商品の意匠であり,創作容易の判断に関係性を有する意匠ではなく,請求人の無効理由4(創作容易-3)は,当を得ないものである。
(4-4)本件登録意匠の創作性
仮に,本件登録意匠の構成態様の一部が,被告が主張するように本件登録意匠の出願時前において公知の形態であったとしても,本件登録意匠は,基本形態と他の変化する形態の組合せにも創作性が存在するものであって,かかる創作性を有する変化する形態の創作性が,創作非容易性の判断から除外されるものではないと思料する。
すなわち,本件登録意匠は,基本形態(フードとフードのファーと袖口のファーを取り付けた使用状態),変化する形態1(フードとフードのファーのみの使用状態),変化する形態2(袖口のファーのみを取り付けた使用状態),変化する形態3(フードのみの使用状態),変化する形態4(フードのファー,フード,及び袖口のファーを全て取り外した使用状態)を合わせた5通りの構成態様が含まれるところに意匠的特徴を有するものであり,請求人の提示する本件登録意匠に関係性を有する先行公知意匠等に,そのような関係性を有する意匠は見られない。
なお,請求人が提示する先行公知意匠ホbは,「5wayコート」と銘打っているが,その基本形態は,コートの合わせ部に大きなボタンを縦に4個設けた長袖ミディアム丈のコートであり,フードはなく,襟を付け替えるという変化する形態の意匠であり,本件登録意匠の変化する形態とは明らかに相違する意匠である。

(4-5)まとめ
本件登録意匠は,その出願前に公然知られた一又は複数の意匠(甲第3号証の1?3,甲第4号証,甲第7号証,甲第10号証,甲第11号証,甲第13号証,甲第14号証)に基づいて,当業者が容易に創作できた意匠ではなく,意匠法第3条第2項の規定に該当しない意匠であり,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に規定する無効理由は存在しないので,答弁の趣旨に記載の審決を求める。

2.被請求人が提出した証拠
被請求人は,乙第1号証ないし24号証を,答弁書,回答書,答弁書(2),口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。(別紙第4参照)


第5 口頭審理
本件審判について,当審は,平成29年7月26日に口頭審理を行った。(平成29年7月26日付口頭審理調書)(口頭審理において,審判長は,両者に対して審理を終結する旨を告知した。)


第6 当審の判断
1.本件登録意匠(別紙第1参照)
本件登録意匠(意匠登録第1537464号の意匠)は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして,平成27年(2015年)1月30日に意匠登録出願され,平成27年10月9日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「コート」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」ともいう。)は,願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたとおりのものである。
本件登録意匠は,フードやファーを有する女性用の「コート」であって,その形態については,以下のとおりである。
すなわち,全体がコート本体部(以下「コート本体部」を単に「本体部」という。),フード部,袖部により構成されたもので,袖部の両先端部及びフード部の開口部周縁に沿ってファーが設けられたものである。
本体部は,全体を略筒状とし,膝丈くらいまでのミディアム丈で,本体部の左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったもので,正面側が重なる前合わせで,合わせ部の内側が外側から見えない比翼仕立てであって,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のポケットのフラップ(以下単に「フラップ」という。)を配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖で,ファーを含めた先端部が背面側のベルト部より下方まで延び,袖口に,ファーを含めた袖全体の長さの約1/6の長さのボリュームのあるファーを設けたもので,フード部は襟口付近から背面側に突出するように側面視略三角形状に設けられ,フード部の開口部周縁に沿ってボリュームのあるファーが設けられ,フード部,フード部のファー,袖口のファーはそれぞれ取り外して使用することができるものであり,全てを取り外した状態で使用することもできるものである。また,袖口のファーは取り外して襟に取り付けることができるものである。
そして,その色彩は,本体部と袖部及びフード部が紺色で,フード部のファーと,袖口のファーはいずれも焦げ茶色である。
「フードを外した状態の斜視図」「ネックにファーを取り付けた状態の斜視図」が示されている。

2.無効理由1について
審判請求書によれば,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた甲第3号証の1ないし3の意匠(請求人が「先行公知意匠イ」という意匠)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に該当し,意匠登録を受けることができないものである,というものである。
(1)証拠の説明
甲第3号証の1は,株式会社ベイクルーズが所属するベイクルーズグループの通販サイトである「スタイルクルーズ」のウェブサイトであり,「IENA」の商品が掲載されている。甲第3号証の2は,甲第3号証の1のウェブサイトにおいて表示することができる各画像を拡大して印刷したものである。なお,「IENA」の商品は,カラーのみが異なる3色(ブラック,ベージュ及びネイビー)で展開がなされている商品である。甲第3号証の3は,「スタイルクルーズ」のウェブサイトにおいて,「この商品を紹介しているブログ」と紹介されているウェブサイトである。
甲第3号証の1ないし3には,株式会社ベイクルーズが,同社のブランド「IENA」において販売している「ダブルフェイスメルトンノーカラーフードツキコート」(品番13020900390040)という商品が表されている。
甲15号証の2によれば,インターネットアーカイブ社の「Wayback Machine」で記録,提供されている,IENAの公式ブログ「BAYCREW’S GROUP DAILY BLOG」のブログで2014年1月11日に公開されていたものとして記録,提供されているものの抜粋で,「December 2013(37)」との記載があることから,甲第3号証の1ないし3の意匠が本件登録意匠の出願前より公開されていたことが認められる。
(2)甲第3号証の1ないし3の意匠
甲第3号証の1ないし3の意匠は,意匠に係る物品が「コート」と認められ,その形態については,全体が本体部,フード部,袖部により構成されたもので,袖部の両先端部付近に切替え線が設けられたものである。
本体部は,全体を略筒状とし,膝上くらいまでの短めの丈で,本体部の左右の輪郭が直線的で,正面側が重なる前合わせで,合わせ部の内側が外側から見えない比翼仕立てであって,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖で,先端部が背面側のベルト部より下方まで延び,フード部は背面側に突出するように襟口付近から側面視略三角形状に設けられ,フード部は取り外して使用することができるものである。その色彩は,ブラック,ベージュ,及びネイビーである。
(3)本件登録意匠と甲第3号証の1ないし3の意匠との対比及び類否判断
甲第3号証の1ないし3の意匠は,膝上くらいまでの短めの丈で,本体部の左右の輪郭が直線的で,袖口にもフードにもファーが設けられていないものであるのに対し,本件登録意匠は,膝丈くらいまでのミディアム丈で,本体部の左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったもので,袖口にもフードにもファーが設けられているものである点で異なり,これら差異点がもたらす印象は,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配したという共通点が醸し出す印象を大きくしのいでおり,見る者に両意匠が別異であると認識させるものであるので,本件登録意匠と甲第3号証の1ないし3の意匠とは,類似しないものと判断する。
したがって,無効理由1には理由がない。

3.無効理由2について
審判請求書によれば,本件登録意匠は,その出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第11号証の意匠(請求人が「先行公知意匠ロ」という意匠)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に該当し,意匠登録を受けることができないものである,というものである。
(1)証拠の説明
甲第11号証は,インターネットアーカイブ社の「Wayback Machine」で記録,提供されている,株式会社アルページュの通販サイト「Arpege story」のウェブサイトの2014年分の保存記録と,2014年7月18日に公開されていたものとして記録・提供されているものの抜粋であって,その「Arpege story」のウェブサイトの頁の上側黒枠内には,被請求人の商品を略正面から視認した状態を示した商品写真が掲載されているものと認められるところ,当該写真からは,フード付きのコートであって,そのフード部にはファーが付いていないコートの正面側からの形態が視認できるのみであるから,そこからは,コートの背面の態様やフード部の形状についてまでは視認することができず,また,当該フード部が取り外せるかどうか,袖口のファーを襟に付け替えることができるかどうかについては定かでない。
(2)甲第11号証の意匠
上記(1)のとおり,甲第11号証によれば,甲第11号証の意匠は,意匠に係る物品が「コート」と認められ,その形態については,以下のものであることが認定できる。
全体が本体部,フード部,袖部により構成されたもので,袖部の両先端部にはファーが設けられているが,フード部の開口部周縁にはファーが設けられていないものである。
本体部は,全体を略筒状とし,膝丈くらいまでのミディアム丈の前合わせで,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖である。フード部の大きさは視認できず,フード部が取り外し可能かどうか認定できず,正面側からの視認によっては,フード部にはファーがついていない。
(3)本件登録意匠と甲第11号証の意匠との対比及び類否判断
上記のとおり,甲第11号証の意匠は,膝丈くらいまでのミディアム丈の前合わせで,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖であって,袖部の両先端部にはボリュームのあるファーが設けられている点で,本件登録意匠と,共通している。しかし,背面視において本件登録意匠には背面のベルト部やフード部があり,フード部にはボリュームのあるファーが設けられているのに対して,甲第11号証の意匠は,背面のベルト部の有無やフード部の形状については不明である点で,差異がある。そして,その差異点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており,両意匠は,意匠全体として視覚的印象を異にするというべきであるから,本件登録意匠は甲第11号証の意匠に類似しているとはいえない。
したがって,無効理由2には理由がない。

4.無効理由3について
(1)本件登録意匠が甲第13号証の意匠に類似するか否かについて
審判請求書によれば,請求人は,本件登録意匠は,甲第13号証の意匠(請求人が「先行公知意匠ハ」という意匠)に類似する意匠であって,意匠法第3条第1項第3号に該当し,意匠登録を受けることができない,というものである。
(ア)証拠の説明
請求人は,平成29年4月3日付けの回答書により,甲第13号証を拡大した甲第13号証の2を提出し,甲第13号証を甲第13号証の1とした。
甲第13号証の1及び甲第13号証の2は,被請求人株式会社アルページュがインターネットにより,販売のためにその商品の写真を掲載した頁の画面をプリントアウトしたものの写しであって,そこには,同社のブランド「Apuweiser-riche」の「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)という商品名の商品が掲載されている。そのカラーバリエーションの欄には,白,オフ白及び紺の3色のコートが掲載されている。
また,甲第13号証の1の1頁右下には,「雑誌掲載情報『美人百花』2014年11月発売号掲載」,「雑誌掲載情報『AneCan』2014年11月発売号掲載」との記載がされている。
請求人は,平成29年4月3日付けの回答書により,甲第13号証の1及び甲第13号証の2の意匠が本件登録意匠の出願前に公開された間接事実を示す証拠として,甲第36号証の1及び甲第36号証の2を提出した。
甲第36号証の1は,インターネットアーカイブ「Wayback Machine」による,被請求人商品「【Arpege story限定】コクーンコート」の商品紹介のウェブサイトの2014年の保存記録(1頁)と,2014年11月29日に公開されていたものとして記録,提供されているものの抜粋(2頁)であって,その第2頁には,甲第13号証の1と同じ「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)が掲載されている。そして,当該頁の「Detail アイテム詳細」に示されている各画像はクリックすることにより,上側のコートを着ている女性の画像に替えてそこに掲載された画像を拡大表示させることができるもので,それらの画像は,甲第13号証の1のものと同じ画像であると認めることができる。
そして,甲第36号証の2は,甲第36号証の1の2頁の一部を拡大したもの(1頁から2頁)と,甲第36号証の1の2頁下の「Detail アイテム詳細」の縦3列横5列の画像のうち上列左端の1つと最下列右側の3つを除いた11の画像を大きく表示させたものである。
さらに,請求人は,平成29年6月28日付けの口頭審理陳述要領書により,「Apuweiser-riche」のアルページュストーリー限定商品の括りで,ネイビーの被請求人商品が,アルページュストーリー限定の「5wayコクーンコート」として紹介されているとして,甲第46号証を提出した。
甲第46号証は,2014年11月7日に小学館発行の雑誌「AneCan」2014年12月号の別冊付録の表紙(甲第46号証の1頁),誌面02頁,05頁(甲第46号証の2頁,3頁),裏表紙(甲第46号証の4頁)及び誌面05頁を拡大したもの(甲第46号証の5頁)である。
甲第46号証の2頁上側には,「Apuweiser-richeの限定アイテムで作る冬のリッチコーデ8」とあり,甲第46号証の3頁及び5頁には,「Apuweiser-riche」のアルページュストーリー限定商品の括りで,ネイビーの被請求人商品が,アルページュストーリー限定の「5wayコクーンコート」として紹介されている。
そして,甲第46号証の1頁右上には,小学館発行の雑誌「AneCan」2014年12月号の発行・発売日が2014年11月7日であることが記載されている。当該記載は,甲第13号証の1の1頁右下の「雑誌掲載情報「AneCan」2014年11月発売号掲載」との記載と符合する。また,その誌面05頁を拡大した甲第46号証の5頁には,右上に「5wayコクーンコート」とあり,「大ヒットコートのフードにもファーがついた!」と記載されている。
上記で認定したとおり,甲第36号証の2により示された「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)が掲載されたウェブサイトの内容が甲第13号証の1及び2の内容と一致するのであるから,当審は,甲第36号証の1及び甲第36号証の2によれば,本件登録意匠の出願前に「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)が掲載されたウェブサイトが公開されている事実(間接事実)により,甲第13号証の1及び甲第13号証の2に表された意匠が本件登録意匠の出願前にインターネットで公開されたものであると認める。
そこで,甲第13号証の1及び甲第13号証の2の意匠,甲第36号証の1及び甲第36号証の2の「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)の商品に係る意匠のうち,「白」と「紺」は正面からの一態様のみであるため,全方向を表し,変化の態様も表した「DETAILアイテム詳細」の「オフ白」と記載されているオフホワイトの商品に係る意匠を無効理由3の引用意匠(以下「引用意匠」という。)として認定し,以下,本件登録意匠と対比し,類否について判断する。
(イ)引用意匠(甲第13号証の1及び甲第13号証の2,甲第36号証の1及び甲第36号証の2:別紙第2参照)
引用意匠の形態については,以下のとおりのものであると認める。
すなわち,全体が本体部,フード部,袖部により構成されたもので,袖部の両先端部及びフード部の開口部周縁にファーが設けられたものである。
本体部は,全体を略筒状とし,膝丈くらいまでのミディアム丈で,本体部の左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったもので,正面側が重なる前合わせで,合わせ部の内側が外側から見えない比翼仕立てであって,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖で,ファーを含めた袖口先端部が背面側のベルト部より下方まで延び,袖口に,ファーを含めた袖全体の長さの約1/6の長さのボリュームのあるファーを設けたもので,フード部は襟口付近から背面側に突出するように側面視略三角形状に設けられ,フード部の開口部周縁に沿ってボリュームのあるファーが設けられ,フード部,フード部のファー,袖口のファーはそれぞれ取り外して使用することができるものであり,全てを取り外した状態で使用することもできるものである。また,袖口のファーは取り外して襟に取り付けることができるものである。
そして,その色彩は,本体部と袖部及びフード部がオフホワイトで,フード部のファー,袖口のファーはいずれもベージュである。
変化の態様として,「ブローチを付け,ファーの付いたフードを付け,袖にファーを付けた状態」「ブローチを付けず,フードを付け,フードと袖のファーを外した状態」「ブローチを付け,フードを外し,袖にファーを付けた状態」「ブローチを付け,フードを外し,袖のファーを外した状態」「ブローチを付けず,袖のファーを外し,ネックにファーを付けた状態」が示されている。
(ウ)本件登録意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の対比
1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,両意匠は,いずれも「コート」であるから,意匠に係る物品は一致する。
2)形態における共通点
両意匠は,
(A)全体が本体部,フード部,及び袖部により構成されたもので,フード部の開口部周縁部,及び袖口にファーを設けた点,
(B)本体部は,全体を略筒状とし,膝丈くらいまでのミディアム丈で,左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったもので,正面側が重なる前合わせで,合わせ部の内側が外側から見えない比翼仕立てであって,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配したものである点,
(C)袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖で,ファーを含めた先端部が背面側のベルト部より下方まで延び,袖口に,ファーを含めた袖全体の長さの約1/6の長さのボリュームのあるファーを設けたものである点,
(D)フード部は,襟口付近から背面側に突出するように側面視略三角形状に設けられ,フード部の開口部周縁に沿ってボリュームのあるファーが設けられたものである点,
(E)フード部,フード部のファー,袖口のファーはそれぞれ取り外して使用することができるものであり,全てを取り外した状態で使用することもできるものであって,また,袖口のファーは取り外して襟に取り付けることができるものである点,
において主に共通する。
3)形態における差異点
本件登録意匠は,本体部と袖部及びフード部が紺色で,フード部のファー,袖口のファーはいずれも焦げ茶色であるのに対して,引用意匠は,本体部と袖部及びフード部がオフホワイトで,フード部のファー,袖口のファーはいずれもベージュであるから,両意匠には色彩について,主な差異が認められる。
(エ)両意匠の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は,一致する。以下,両意匠の形態の共通点及び差異点について評価し,両意匠の類否について判断する。
1)共通点
共通点(A)については,全体を本体部,フード部,袖部によって構成し,フード部の開口部周縁,袖口にファーを設けたもので,両意匠の形態の骨格を形成している。本体部,フード部及び袖部から成る構成そのものは,普通に見られる態様であって,それのみでは両意匠に強い共通感を与えるものとはいえないが,そのフード部の開口部周縁及び袖口にファーを設けた態様は,コート全体に統一感を生み,その点で両意匠の強い共通感を需要者に与えるものといえるから,両意匠の類否判断に影響を与えるものである。
次に,共通点(B)について,本体部が,全体を略筒状とし,膝丈くらいまでのミディアム丈で,左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったもので,正面側が重なる前合わせで,合わせ部の内側が外側から見えない比翼仕立てであって,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配した態様について,本体部の態様は,両意匠の骨格をなすものであるから,意匠の全体観察においては,その共通性が見る者に与える印象が強く,両意匠の類否判断に影響を与えるものである。
また,共通点(C)の袖部について,全体を細幅の略円筒形状とした長袖で,ファーを含めた袖口先端部が背面側のベルト部より下方まで延び,袖口に,ファーを含めた袖全体の長さの約1/6の長さのボリュームのあるファーを設けた態様については,ファーにボリュームを持たせた態様が特徴的といえるもので,両意匠に共通する印象を与えるものといえ,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
そして,共通点(D)についても,フード部は,襟口付近から背面側に突出するように側面視略三角形状に設けられ,フード部の開口部周縁に沿ってファーが設けられた態様は,見る者に両意匠が共通する印象を醸し出すもので,フード部の開口部周縁にボリュームのあるファーがある点が需要者の注意を惹く部分といえるもので,前記共通点(C)の袖部の態様と相まって両意匠の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
さらに,共通点(E)のフード部,フード部のファー,袖口のファーはそれぞれ取り外して使用することができるものである点についても,一つ一つは部分的な共通点ではあるが,フード部やファーを取り外して使用したりすることによって,変化する態様で使用するバリエーションが増えるものであるから,需要者の注意を惹く部分といえるもので,共通した印象が増すものといえるから,他の共通点とも相まって,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
そうすると,前記共通点(A)ないし(D)に係る態様は,それらが相乗して生じる視覚的な効果をも考慮すれば,基本的な造形や特徴における共通性が極めて高く,需要者に共通の美感を強く起こさせ,とりわけ,共通点(B)の本体部の態様,共通点(C)及び共通点(D)のファーの印象が両意匠の類否判断に与える影響は大きく,また,共通点(E)に係る態様は,それのみでは両意匠の類否判断に与える影響が大きいとはいえないが,共通点(A)ないし(D)と相まって需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,共通点(A)ないし(E)の共通点が両意匠の類否判断を決定付けるものである。
2)差異点
これに対し,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱に留まり,両意匠の共通する美感を凌駕するまでのものとはいえない。
すなわち,唯一の差異点である色彩の差異については,本体部,袖部及びフード部と,フード部及び袖口のファーを,彩度及び明度の差異を含めて,本件登録意匠のように色相を変更することも,引用意匠のように色相を変更せず同系色とすることも,この種のコートの分野においては,いずれもありふれた態様といえるもので,様々なカラーバリエーションがあることが普通であるから,その色彩の差異がさほど注意を惹くものとはいえず,実施において,同一商品の色違い(カラーバリエーション)との認識を与える程度の差異といえるもので,その差異が両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものとはいえない。
3)まとめ
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態においては,前記差異点を考慮しても,その視覚に訴える意匠的効果としては,とりわけ共通点(A)ないし(E)が両意匠の類否判断に与える影響が大きく,共通点が生じさせる効果が差異点のそれを凌駕し,意匠全体として需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,類似するものといえ,本件登録意匠は,本件意匠登録の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用意匠に類似する。

(2)引用意匠と,本件登録意匠の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書に記載された意匠について
(ア)意匠法第4条第2項について
平成11年法改正(平成11年法律第41号)前の意匠法の規定においては,意匠法第4条第2項は,「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して前条第一項第一号又は第二号に該当するに至った意匠について,その該当するに至った日から六月以内にその者が意匠登録出願をしたときも,前項と同様とする。」としていたが,平成11年法改正後の意匠法の規定においては,「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第3条第1項第1号又は第二号に該当するに至った意匠も,その該当するに至った日から六月以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については,前項と同様とする。」と改正された。
平成11年法改正前の意匠法の規定においては,「様々なバリエーションの意匠の各々が公表された場合には,それらの意匠について新規性喪失の例外規定の適用を申請して意匠登録出願を行ったとしても,」「新規性喪失の例外規定の適用を受けられるのは新規性を喪失した意匠と実質的に同一の意匠が出願された場合のみであり,自己の発表した他のバリエーションの意匠が出願された場合は,新規性を喪失した意匠に類似するもの又は新規性を喪失した意匠に基づいて容易に創作できたものであるとして,意匠登録を受けることができない場合が生じて」いた。そこで,「平成11年法律改正」では「新規性を喪失した意匠と同一の意匠が出願された場合だけでなく,それに類似する意匠及びそれに基づいて容易に創作することができた意匠が出願された場合にも,新規性喪失の例外規定を適用できることとした」ものである。(特許庁のホームページに掲載の「法令改正の解説『産業財産権法(工業所有権法)の解説【平成6年法?平成18年法】』」第9章:新規性喪失の例外規定の適用対象の拡大:意匠法第4条:103頁)
すなわち,平成11年の法律改正においては,自己の発表した他のバリエーションの意匠について「新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」に記載することができるようになったものである。自己の発表した他のバリエーションの意匠について,意匠法第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至った意匠がある場合は,同法第4条第2項の規定の適用を受けることができる意匠であるとして,新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書を提出することによりできるとしたものである。
そして,被請求人が言及している平成7年(行ケ)第159号「端子盤」事件の判決(知財高裁平成8年2月28日判決言渡・乙第10号証)は,新規性喪失の例外の適用申請された公開行為により公開された意匠と同一性の範囲内である意匠を複数回発表した場合においては,その都度新規性喪失の例外の適用申請をしていなかったとしても,新規性を喪失したものとみなされないとしたものであって,平成11年改正法による改正後においても,その趣旨は変わるものではなく,自己の発表した新規性喪失の例外適用を申請した公開行為により公開された意匠と同一性の範囲内とはいえないバリエーションの意匠を発表した場合についてまで,新規性喪失の例外の適用申請を省略できるとしたものではない。
よって,自己の発表した意匠と同一性の範囲内とはいえない,他のバリエーションの意匠について,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるためには,新規性喪失の例外の適用申請を行うことが必要であること,すなわち,それぞれのバリエーションの意匠それぞれについて,新規性喪失の例外適用の申請をする必要がある。
(イ)意匠法第4条第2項の適用を受けようとする意匠について
本件登録意匠は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして,平成27年1月30日に意匠登録出願されたものであり,同年2月26日付けで新規性の喪失の例外規定の適用を受けようとする証明書(甲第2号証:別紙第3参照)が提出されている。それによると,2014年8月1日に株式会社アルページュのインターネットサイトに掲載されたコートが写真で現されたものである旨,インターネットサイトを管理する会社の従業員によって証明されている。
その写真で現されたコートは,同社のブランド「Apuweiser-riche」の「5WAYコクーンコート」という商品名で,その意匠は,意匠に係る物品が「コート」と認められ,その形態については,以下のとおりである。
すなわち,全体が本体部,フード部,袖部により構成されたもので,袖部の両先下端部にはファーが設けられているが,フード部の開口部周縁にはファーが設けられていないものである。
本体部は,全体を略筒状とし,膝丈くらいまでのミディアム丈で,本体部の左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったもので,正面側が重なる前合わせで,合わせ部の内側が外側から見えない比翼仕立てであって,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,背面側のやや下方寄りに太幅帯状の飾りベルト部を配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖で,ファーを含めた袖口先端部が背面側のベルト部より下方まで延び,袖口に,ファーを含めた袖全体の長さの約1/6の長さのボリュームのあるファーを設けたもので,フード部は襟口付近から背面側に突出するように側面視略三角形状に設けられ,袖口のファー及びフード部は,それぞれ取り外して使用することができるものであり,全てを取り外した状態で使用することもできるものである。また,正面の合わせ部上部には,ブローチを取り付けることができるものである。
そして,その色彩は,本体部と袖部及びフード部が紺色で袖口のファーが焦げ茶色のものと,本体部と袖部及びフード部がライトブルーで袖口のファーがベージュのものの2種類のものが掲載されている。
変化の態様として,「ブローチを付け,フードを外し,袖にファーを付けた状態」「ブローチを付けず,フードを付け,袖にファーを付けた状態」「ブローチを付けず,フードを付け,袖にファーを付け,前を開けた状態」及び「袖のファーを外し,ネックにファーを付けた状態」が示されている。
(ウ)甲第2号証の意匠と引用意匠について
被請求人は,被請求人が公開し販売した引用意匠と同じ「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)の意匠について,意匠法第4条第2項の適用を受けようとするものであって,甲第2号証に記載された意匠と同一性の範囲のものであると主張している。
しかしながら,甲第2号証に示された意匠はフード部にファーが付いていないものであり,引用意匠には,袖口周りとフード部の開口部周縁との両方にファーが付けられているものでその形態が異なっている。また,引用意匠のフードの開口部周縁に設けられたファーは,ボリュームがあり目立つものである。フード部にファーがないものとあるものとでは,コートのフード部周囲のボリュームが異なり,印象が異なるもので,需要者である,この種のコートを購入する女性にとっては,ファーの有無は大きな違いと捉えられるものであって,甲第2号証の意匠と引用意匠とを見間違えることはないから,両者が同一の範囲のものであると認識されることはないものというべきである。
また,引用意匠は,袖口周りとフード部の両方にファーがあるものであり,それの付け外しによる変化する態様を含むものである。これに対して,上記(イ)で認定したとおり,甲第2号証の意匠は,フード部にファーがないものであることから,そこに示される変化する態様も限られる。
してみると,引用意匠と甲2号証の意匠は,変化する態様においても異なるものといえるから,引用意匠と甲第2号証の意匠とは,変化する態様も含めた形態が異なるものということができる。
したがって,引用意匠を含む甲第13号証の1及び甲第13号証の2の意匠が,甲第2号証の意匠と同一性の範囲であるとの被請求人の主張は認められない。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は,引用意匠が,本件登録意匠の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書に記載された意匠と,同一性の範囲内であると主張しているので,その点について以下に述べる。
(A)被請求人は,引用意匠と,甲第2号証の意匠について,甲第2号証に係る商品A及び引用意匠に係る商品Bとした上で,「商品Aのフードにファーを付けて商品Bとして販売したものであり,商品Aと商品Bは,実質同一の商品であり,新規性喪失の例外の規定の適用を受ける証明書には,商品Aと商品Bは,実質同一の商品であることから,最初の公開意匠である商品Aの意匠について,新規性喪失の適用を受けたものである。」と主張し,それが意匠法第4条第2項の適用の判断に影響を与える旨主張している。
まず,商品Bに係る引用意匠と商品Aに係る甲第2号証の意匠とは,変化する態様も含めた形態が異なることから,同一の意匠とはいえず,同じ商品名で掲載や展示がされていたとしても,また,本体部の左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったものと認識できたとしても,需要者は同じ商品と見間違えることがないことは,上記(ウ)で説示したとおりである。
また,一般的には,フード部にファーを付けたコートと,フード部にファーを付けていないコートは別々のものと概念されるものである。
(B)次に,引用意匠に係る商品Bと甲第2号証に係る商品Aが同一の商品であるか否かについて検討する。
本件においては,引用意匠に係る商品Bが甲第2号証に係る商品Aのフード部にファーを取り付けたものであることを認めるに足りる客観的な証拠は何も提出されていない。
被請求人は,甲2号証に記載の商品Aについて,フードにファーを取り付けたものが,そのインターネットのサイトの画像に掲載されていないのは,本件商品Aの販売時が,2014年8月1日という真夏であり,フードにファーを付けた商品の宣伝時期として早すぎるため,ファーを取り付けた状態の画像を営業上,単に,掲載しなかったに過ぎない。」と主張している。
しかしながら,被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2014年8月4日の記事(甲第47号証の3)には,袖口とフードの両方にファーの付いた「フェイクムートンコート」の写真が掲載され,予約販売が行われていたことが記載されており,そこからは,真夏であっても,フードにファーがついた商品を宣伝しているものと認められる以上,被請求人の「営業上,単に,掲載しなかったに過ぎない。」との主張は合理性を欠くものといえる。
また,甲第13号証の1及び甲第13号証の2によれば,引用意匠に係る商品Bの販売価格が63,720円であると認められるのに対し,甲2号証によれば,甲第2号証の意匠に係る商品Aの販売価格が56,160円であると認められるところ,このように両商品の販売価格が異なるものであることには,ファーの有無が影響を及ぼしているとも考え得るところである。
さらに,両商品の販売開始時期についても,引用意匠に係る商品Bの販売開始時期は,甲第36号証の2によれば,予約販売の開始が2014年10月24日であり,甲第2号証の2014年8月1日とは異なっている。
以上の事実に加えて,甲13号証の1には,「“限定ポイント”」及び「アプの大人気5WAYコートに袖とフードの両方にファーをつけました。」と記載され,すなわち,被請求人が商品Bの販売において,フードにファーを取り付けた点を新しいものと強調していたと認められることに鑑みれば,引用意匠に係る商品Bを甲2号証の商品Aと一連の商品として捉えられるとの被請求人の主張を直ちには認めることができない。
(C)さらに,被請求人は,平成29年4月28日付けの回答書において「本件登録意匠の商品開発は,2014年8月1日には完成している。本件登録意匠に係る『5WAYコクーンコート』は,一般向けの販売は秋口を予定していたが,特定の顧客に対してはその譲渡を行っている。その譲渡予定の『Arepege story限定コクーンコート』を,2014年7月1日(2014AW,職出月日7/1)に,被請求人(意匠権者)株式会社アルページュから取引先「日鉄住金物産」に発注している(間接事実6,乙第21号証)。」と主張している。
確かに,乙第21号証に記載のメーカー品番が「244-22350」と「AR-22350」であって,甲第13号証の1及び甲第13号証の2の「【Arpege story限定】コクーンコート」(メーカー品番:24422350)の品番とその末尾が22350で一致することから,被請求人が甲第2号証とほぼ同様の時期に,同様の品番のものを発注したということが推認できる。
また,乙第21号証には,フードにファーが設けられた図面が掲載されており,その上方に引用意匠の色彩とも共通する「オフ白」「ネイビー」及び「白」の色彩についての記載があることからすれば,被請求人は,引用意匠と同様にフード部にファーが設けられた商品を発注していたということも推認できる。
しかしながら,引用意匠に係る商品Bと乙第21号証の品番が同じであることから,乙第21号証で注文されている商品に引用意匠に係る商品Bが含まれるとしたとしても,甲第2号証において,商品Aの品番が不明である以上,乙第21号証で注文されている商品に商品Aが含まれるということはできない。
また,乙第21号証の記載中に「ファー取り外し」「フード取り外し」,毛皮について「カフス用とフードまわり用」の記載があるものの,上記のとおり,商品Aの品番が不明である上,乙第21号証の商品の具体的形態が概略のみ示されているので,それをもって,甲第2号証の商品Aと同じ商品か否かを判別することはできないから,乙21号証によっては,商品Aのフードにファーが取り付けられるものであり,そのような商品Aを被請求人が発注していたと認めるに足りない。
以上のとおりであるから,乙第21号証によっては,被請求人が主張する引用意匠に係る商品A(「5WAYコクーンコート」)が,本件登録意匠の出願前に特定の顧客に譲渡を行っているとの事実,及び引用意匠に係る商品Aのフードにファーが取り付けられるものであり,そのような商品Aを被請求人が発注していたとの事実を認めることはできないから,商品Aがフードにファーを取り外し可能なようにデザインされたものであって,商品Bと同一の商品であると認めることはできない。
(D)さらに,被請求人は,平成29年4月28日付けの回答書において「袖及びフードのファーについて説明すると,一般に,ファーはエレガンススタイルの要素を強めるものであるが,これを取り外しできるようにして,カジュアルスタイルにも対応できるようにした。また,フードについては,一般に,ファーの付かないシンプルなフードは,カジュアル要素を強めるので,カジュアルスタイルにも対応できるよう,ファーは取り外し可能にデザインにした。このような商品開発におけるデザインにおいて,コートの袖のみにファーをとり付け,フードにファーを付けないということはあり得ない。」と主張しているが,袖口やフード部にファーを取り付けたコートも,袖口のみにファーをとり付け,フード部にはファーを付けないコートもいずれも本件登録意匠の出願前より認められる態様であるところ,「コートの袖のみにファーをとり付け,フードにファーを付けない」態様が甲第2号証の態様であり,被請求人の商品として,実際に販売されてもいるものであるから,そのようなデザインがあり得ないということはできず,その主張を首肯することはできない。
(オ)まとめ
したがって,本件登録意匠に係る出願においてされた「新規性の喪失の例外の規定の適用」申請がされた意匠と引用意匠とが同一性の範囲内であることを根拠に,本件登録意匠の新規性,創作容易性の判断に際して,引用意匠が意匠法第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至らなかったとみなすことはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから,本件登録意匠は,引用意匠と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に該当することにより意匠登録を受けることができないものである。
したがって,無効理由3には理由がある。

5.無効理由4について
審判請求書によれば,本件登録意匠は,その出願前に公然知られた一又は複数の意匠に基づいて,いわゆる当業者が容易に創作できた意匠であり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである,というものである。
(1)創作容易-1
請求人は,本件登録意匠が,甲第3号証の1ないし3の意匠に,甲第4号証の意匠と甲第7号証の意匠のいずれかのフード周りのファーの意匠,甲第14号証の意匠と甲第10号証の意匠のいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,当業者にとってありふれた手法により,寄せ集めたにすぎない意匠である旨主張している。
しかしながら,甲第3号証の1ないし3に表された意匠は,膝上くらいまでの短めの丈で,本体部の左右の輪郭が直線的であるのに対し,本件登録意匠は,膝丈くらいまでのミディアム丈で,本体部の左右の輪郭が裾方向に向かってやや窄まったものである点で,両者の本体部の形態が大きく異なるもの(前記「2.無効理由1について」の(3)参照)である。このように本件登録意匠とは,本体部の形態が異なるものである甲第3号証の1ないし3の意匠に,甲第4号証の意匠と甲第7号証の意匠のいずれかのフード開口部周縁のファーの意匠と,甲第14号証の意匠と甲第10号証の意匠のいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したとしても,本件登録意匠の形態にはなり得ないのであるから,本件登録意匠は,公然知られた形態に基づいて当業者が容易に創作できた意匠であるとは認めることができない。
したがって,請求人の主張する創作容易-1には理由がない。
(2)創作容易-2
請求人は,本件登録意匠が,甲第11号証の意匠に,甲第3号証の1ないし3の意匠の飾りベルトの意匠,甲第4号証の意匠と甲第7号証の意匠のいずれかのフード部周りのファーの意匠,甲第14号証の意匠と甲第10号証の意匠のいずれかの袖口周りのファーの意匠を組み合わせて構成したものであり,甲第11号証の意匠に甲第3号証の1ないし3の意匠,甲第4号証の意匠又は甲第7号証の意匠,甲第14号証の意匠又は甲第10号証の意匠を当業者にとってありふれた手法により,寄せ集めたにすぎない意匠である旨主張している。
しかしながら,上記「3.無効理由2について」の(1)及び(2)で説示したとおり,甲第11号証には,商品のほぼ正面からの写真が掲載されているのみである。同(3)で説示したとおり,そこから認定された甲第11号証の意匠には,本件登録意匠との対比において重要な要素を占める背面形状やベルト部の有無,フード部の形状が視認できない。
してみると,本件登録意匠と甲第11号証の意匠とは,膝丈くらいまでのミディアム丈の前合わせで,正面側のウエスト付近よりやや下方寄りに左右対称に水平状に略横長長方形状のフラップを配し,袖部は,全体を細幅の略円筒形状とした長袖であって,袖部の両先端部にはボリュームのあるファーが設けられている点で,その正面から視認した状態の態様は共通するものと一応認定できる。
しかしながら,本件登録意匠と甲第11号証の意匠とは,甲第11号証の意匠の背面形状やベルト部の有無,フード部の形状が視認できない点で差異はあるものというほかない。
そして,この種のコートにおいて重要な要素を占めるフード部の大きさや形状及び背面形状が視認できない点で差異を有する甲第11号証の意匠に,甲第3号証の1ないし3の意匠の飾りベルトの意匠,甲第4号証の意匠と甲第7号証の意匠のいずれかのフード部周りのファーの形態,甲第14号証の意匠と甲第10号証の意匠のいずれかの袖口周りのファーの形態を組み合わせて構成しても,背面のベルトの位置や,フード部の形状及び大きさは,本件登録意匠と必ずしも同じになるとはいえないから,本件登録意匠の態様を直ちに導き出すことができるとはいえない。
以上のとおり,本件登録意匠は,請求人の主張及び証拠によっては,公然知られた形態に基づいて当業者が容易に創作できた意匠であるとは認めることができない。
したがって,請求人の主張する創作容易-2には理由がない。
(3)創作容易-3
請求人は,本件登録意匠が,甲第13号証の1及び甲第13号証の2,甲第36号証の1及び甲第36号証の2の意匠からその構成要素であるビジューブローチを取り除いたものと同一の形態であり,当該意匠(以下「当該意匠」という。)から構成要素(ビジューブローチ)を減じた構成とすることは,当業者にとってありふれた手法であるから,本件登録意匠は,当該意匠に基づいて,当業者が容易に創作することのできた意匠である旨主張している。
そこで,以下検討する。
甲第13号証の1及び甲第13号証の2,甲第36号証の1及び甲第36号証の2の意匠(別紙第2参照)の「コクーンコート」(メーカー品番:24422350)という商品に係る意匠である,無効理由3の引用意匠と本件登録意匠の形状が同一で色彩のみが異なるものであることは,前記「4.無効理由3について」のオフホワイトのコートと対比して記載したとおりである。
これらの証拠には,変化の態様を表した「DETAILアイテム詳細」に,「ブローチを付け,ファーの付いたフードを付け,袖にファーを付けた状態」「ブローチを付けず,フードを付け,フードと袖のファーを外した状態」「ブローチを付け,フードを外し,袖にファーを付けた状態」「ブローチを付け,フードを外し,袖のファーを外した状態」「ブローチを付けず,袖のファーを外し,ネックにファーを付けた状態」が示されている。
また,他のカラーバリエーションの白や紺のコートも掲載されており,本件登録意匠と同様の,本体部と袖部及びフード部が紺色で,フード部のファーと,袖口のファーがいずれも焦げ茶色のコートが含まれ,また,オフホワイトのコートは拡大図で表され,本件登録意匠と同様にフードやファーを取り外すことができる態様が示されている。
ブローチを付けたり,外したりすることは,この種のコートにおいては,ありふれた手法といえるものであって,格別の創作を要するものとはいえない。また,コートにおいてカラーバリエーションを有することは普通であり,本件登録意匠の出願前から本体部と袖部及びフード部が紺色で,フード部のファーと,袖口のファーがいずれも焦げ茶色のコートが既に公然と知られていたことからすると,変化の態様を示した当該意匠から取り外し可能なビジューブローチを取り除くことによって本件登録意匠の態様を容易に導き出すことができるものといえる。
引用意匠と本件登録意匠の形状が同一で色彩のみが異なるものであることは,前記「4.無効理由3について」のオフホワイトのコートと対比して記載したとおりであり,そして,ビジューブローチを外してその色彩を本体部とフードを紺色とし,袖口のファーとフードのファーを焦げ茶色とすることに特段の創作を要するものではないから,本件登録意匠は,当該意匠に基づいて,当業者が容易に創作することのできた意匠であるから,意匠法第3条第2項に該当し,意匠登録を受けることができないものである。
したがって,請求人の主張する創作容易-3には理由がある。
(4)小括
以上のとおりであるから,請求人の主張する創作容易-1及び創作容易-2には理由がないが,同創作容易-3の理由によって,本件登録意匠は,その出願前に当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠であり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
したがって,無効理由4には理由がある。


第7 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,その出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に該当し,意匠登録を受けることができないものであるにもかかわらず意匠登録を受けたものであり(無効理由3),また,本件登録意匠は,当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠であり,同条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから(無効理由4),本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
別掲



別紙第4


1.請求人が提出した証拠
請求人は,以下の甲第1号証ないし51号証を,審判請求書,弁駁書,回答書,口頭審理陳述要領書,口頭審理陳述要領書(2)の添付書類として提出した。

証拠方法
1)甲第1号証の1:意匠登録第1537464号の意匠公報の写し
2)甲第1号証の2:参考資料1?参考資料3の写し
3)甲第2号証 :新規性の喪失の例外証明書提出書(写し)
4)甲第3号証の1:「スタイルクルーズ」のウェブサイトの写し
5)甲第3号証の2:「スタイルクルーズ」のウェブサイト内の画像(拡大)の写し
6)甲第3号証の3:「DAILY BLOG」(IENA公式ブログ)のウェブサイトの写し
7)甲第4号証 :雑誌「AneCan」2013年12月号の表紙及び誌面の写し
8)甲第4号証の2:雑誌「AneCan」の写し(拡大)2013年12月号の誌面
9)甲第5号証 :「Sweet Happy Life」(ブログ)のウェブサイトの写し
10)甲第5号証の2:「Sweet Happy Life」(ブログ)のウェブサイトにおいて表示させたコメント欄の写し
11)甲第6号証 :「宇井愛美の晴れ,トキドキ,うい」(ブログ)のウェブサイトの写し(抜粋)
12)甲第7号証 :「eponge エポンジュ」(ブログ)のウェブサイトの写し
13)甲第8号証 :意匠権等侵害差止等請求事件(平成28年(ワ)第9003号)にて,被請求人が提出した「証拠説明書(1)」の写し
14)甲第9号証 :意匠権等侵害差止等請求事件(平成28年(ワ)第9003号)にて,被請求人が提出した証拠書類(甲第7号証の1)の写し
15)甲第10号証:意匠権等侵害差止等請求事件(平成28年(ワ)第9003号)にて,被請求人が提出した証拠書類(甲第8号証の1)の写し
16)甲第11号証:インターネットアーカイブWay Back Machineによる被請求人通販サイト「Arpege story」の記録の写し
17)甲第12号証:意匠権等侵害差止等請求事件(平成28年(ワ)第9003号)にて,被請求人が提出した「第1準備書面」の写し
18)甲第13号証 :意匠権等侵害差止等請求事件(平成28年(ワ)第9003号)にて,被請求人が提出した証拠書類(甲第7号証の2)の写し
19)甲第13号証の2:甲第13号証の1の一部(拡大)の写し
20)甲第14号証 :株式会社オンワード樫山の「Feroux」のウェブサイトの写し(抜粋)
21)甲第15号証の1:「BAYCREW’S GROUP DAILY BLOG」のウェブサイトの写し(抜粋)
22)甲第15号証の2:インターネットアーカイブWayback Machineによる「BAYCREWS GROUP DAILYBLOG」の記録の写し(抜粋)
23)甲第16号証の1:インターネットアーカイブWayback Machineによる「スタイルクルーズ」の記録の写し(抜粋)
24)甲第16号証の2:インターネットアーカイブWayback Machineによる「スタイルクルーズ」の商品紹介ページの記録の写し
25)甲第16号証の3:インターネットアーカイブWayback Machineによる「スタイルクルーズ」の商品紹介ページの記録の写し
26)甲第17号証:「MY ROOM」(ブログ)のウェブサイトの写し
27)請求人は,弁駁書と伴にこの他甲第18号証ないし甲第30号証を提出した。
28)甲第31号証の1:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche OfficalBlog」のウェブサイトにおいて2014年10月(30)の記事を表示させたものの写し(抜粋)
29)甲第31号証の2:「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Offical Blog」の2014年10月24日の記事の写し
30)請求人は,回答書と伴にこの他甲第32号証ないし甲第35号証を提出した。
31)甲第36号証の1:インターネットアーカイブWayback Machineによる被請求人商品「【Arpegestory限定】コクーンコート」の商品紹介のウェブサイトの記録の写し(抜粋)
32)甲第36号証の2:甲第32号証の1の一部(拡大)とDetailの画像(拡大)の写し
33)甲第37号証:意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引きの写し(抜粋)
34)甲第38号証:意匠審査基準(平成29年3月31日改訂前)の写し(抜粋)
35)甲第39号証:平成11年改正意匠法意匠審査の運用基準の写し
36)甲第40号証:被請求人が意匠権等侵害差止等請求事件(平成28年(ワ)第9003号において提出した証拠「甲11?甲18」(抜粋)
37)甲第41号証の1:被請求人のブランド「Arpege story」の公式ブログ「Arpege story Official Blog」のウェブサイトにおいて2014年11月(14)分の記事を表示させたものの写し(抜粋)
38)甲第41号証の2:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の「Arpege story」の公式ブログ「Arpege story Official Blog」の2014年11月17日の記事の写し(抜粋)
39)甲第42号証:日経メッセのウェブサイトのリテールテックJAPANの「日経の紙面から」の2014年7月11日のニュースの記事(https://messe.aikkei.co.jp/rt/news/128315.html)
40)甲第43号証:意匠の新規性喪失の例外規定(意匠法第4条第2項)についてのQ&A集の写し(抜粋)
41)甲第44号証:雑誌「美人百花」2014年12月号の表紙,裏表紙及び誌面(p.100,102,104,105,106)の写し
42)甲第45号証:インターネットアーカイブ Wayback Machineによる被請求人ブランド「Apuweiser-riche」の公式通販サイトの2014年分の保存記録と,2014年10月25日に公開されていたものとして記録されているものの写し
43)甲第46号証:雑誌「AneCan」2014年12月号の別冊付録の表紙,裏表紙及び誌面(P.02,05)の写し
44)甲第47号証の1:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2014年08月(25)分の記事のリストの写し(抜粋)
45)甲第47号証の2:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2014年8月1日の記事の写し(抜粋)
46)甲第47号証の3:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2014年8月4日の記事などの写し
47)甲第47号証の4:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2014年8月28日の記事の写し(抜粋)
48)甲第48号証の1:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2015年01月(23)分の記事のリストの一部の写し(抜粋)
49)甲第48号証の2:被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2015年1月28日の記事の写し(抜粋)
50)甲第49号証 :インターネットアーカイブWayback Machineによる被請求人ブランド「Apuweiser-riche」の公式通販サイトの2014年分の保存記録と,2014年8月18日に公開されていたものとして記録・提供されているものの写し(抜粋)など
51)甲第50号証 :インターネットアーカイブWayback Machineによる被請求人ブランド「Apuweiser-riche」の公式通販サイトの2014年分の保存記録において,2014年8月20日,9月22日,9月25日,10月19日に公開されていたものとして記録・提供されているものの写し(抜粋)など
52)甲第51号証 :被請求人のブランド「Apuweiser-riche」の公式ブログ「Apuweiser-riche Official Blog」の2014年11月(20)分の記事のリストと,2014年11月14日の記事の写し(抜粋)



2.被請求人が提出した証拠
被請求人は,以下の乙第1号証ないし24号証を,答弁書,回答書,答弁書(2),口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。

証拠方法
1)乙第1号証 意匠登録第1537464号の意匠公報 平成27年11月9日発行(写し)
2)乙第2号証 意願2015-001810のファイル記録(写し)
3)乙第3号証 平成18年(行ケ)第10004号「スポーツシャツ」 知財高裁 平成18年7月18日判決言渡(判決抜粋写し)
4)乙第4号証 平成19年(行ケ)第10036号「「三段焚斗付き紐丸冠瓦」 知財高裁 平成19年6月14日判決言渡(判決抜粋写し)
5)乙第5号証 「意匠」高田忠著,表紙,74頁,75頁及び奥付け(写し)
6)乙第6号証 昭和51年(ワ)第272号「保温着」 名古屋地裁 昭和58年6月24日判決言渡(判決抜粋写し)
7)乙第7号証 平成13年(行ケ)第275号「ギター」 東京高裁 平成13年11月13日判決言渡(判決抜粋写し)
8)乙第8号証 平成23年(行ケ)第10129号「照明器具用反射板」 知財高裁 平成23年11月21日判決言渡(判決抜粋写し)
9)乙第9号証 平成12年(行ヶ)第331号「おろし器」 東京高裁 平成12年11月28日判決言渡(判決抜粋写し)
10)乙第10号証 平成7年(行ヶ)第159号「端子盤」 東京高裁 平成8年2月28日判決言渡(判決抜粋写し)
11)乙第11号証 平成19年(ワ)第24626号「取鍋」 東京地裁 平成19年3月23日判決言渡(判決抜粋写し)
12)乙第12号証 平成4年(行ケ)・第227号「回転警告灯」 東京高裁 平成5年7月15日判決言渡(写し)
13)乙第13号証 平成21年(行ケ)第10036号「輪ゴム」 知財高裁 平成21年7月21日判決言渡(写し)
14)乙第14号証 不服2008-10803審決 平成21年7月21日審決(写し)
15)乙第15号証 特許庁「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」 10.形態が変化するものの場合(写し)
16)乙第16号証 特許庁「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」 1.分離する部分を有するものの場合(写し)
17)乙第17号証 平成20年(行ケ)第10402号「人形」 知財高裁 平成21年3月25日判決言渡(写し)
18)乙第18号証:間接事実1及び間接事実2の立証 小学館発行の「AneCan」2013年12月号68頁左上に記載の「ファー付きコート」及び230頁に記載の「ファー付きダウンコート」の意匠(写し)
19)乙第19号証:間接事実3の立証 角川春樹事務所発行の「美人百科」2011年9月号に記載の「ファー付きダウンコート」の意匠(写し)
20)乙第20号証:間接事実4の立証 角川春樹事務所発行の「美人百科」2012年2月号に記載のフード付きコート(写し)
21)乙第21号証:間接事実6の立証 品名「Arpege story限定コクーンコート」発注書(写し)意匠権者(株式会社アルページュ)の取引先「日鉄住金物産」への2014年7月1日付け発注書乙第21号証 品名「Arpege story限定コクーンコート」発注書(写し)
22)乙第22号証 平成28年(ワ)第9003号意匠権侵害差止等請求事件の訴状1頁から18頁(意匠権侵害差止請求の部分の写し)
23)乙第23号証 平成28年(ワ)第9003号意匠権侵害差止等請求事件の第4準備書面1頁から17頁(意匠権侵害差止請求の部分の写し)
24)乙第24号証:意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるための証明書の公開意匠について,請求人のサイトに掲載の意匠の特許庁提出前の電子化画像のプリント
審決日 2017-11-21 
出願番号 意願2015-1810(D2015-1810) 
審決分類 D 1 113・ 121- Z (B1)
D 1 113・ 113- Z (B1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木本 直美 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 斉藤 孝恵
正田 毅
登録日 2015-10-09 
登録番号 意匠登録第1537464号(D1537464) 
代理人 特許業務法人 武政国際特許商標事務所 
代理人 小出 俊實 
代理人 蔵田 昌俊 
代理人 吉田 親司 

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