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審決分類 審判    D0
管理番号 1345952 
審判番号 無効2017-880006
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-06-29 
確定日 2018-10-29 
意匠に係る物品 ガスボンベ保管庫 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1572111号「ガスボンベ保管庫」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1572111号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、平成28年(2016年)7月6日に意匠登録出願(意願2016-14399)されたものであって、平成29年(2017年)1月31日付けで登録査定がなされ、同年2月17日に意匠権の設定の登録がされた後、同年3月21日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

・平成29年 6月29日付け 審判請求書提出
・平成29年11月 9日付け 審判事件答弁書提出
・平成30年 2月19日付け 審判事件弁駁書提出
・平成30年 5月 9日付け 審理事項通知書
・平成30年 6月 1日付け 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
・平成30年 6月15日付け 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
・平成30年 6月29日 口頭審理
・平成30年 7月 9日付け 上申書(被請求人)
・平成30年 7月12日付け 上申書(請求人)

第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、「登録第1572111号意匠の登録を無効とする。審判請求費用は、被請求人の負担とする。との審決を求める。」と請求し、その理由として、以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証ないし甲第20号証を提出した。

1.請求の理由
(1)本件意匠登録
意匠登録第1572111号
意匠に係る物品「ガスボンベ保管庫」

(2)手続きの経緯
本件意匠登録の手続きの経緯は、願書の謄本(甲第1号証)の記載によれば、以下のとおりである。

出 願 平成28年7月6日
(意願2016-014399)
登 録 平成29年2月17日
掲載公報発行 平成29年3月21日
(意匠登録第1572111号公報)

(3)無効理由の要点
1)理由1
本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物である甲第3号証に示す意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

2)理由2
本件登録意匠は、先行意匠、公知意匠1、公知意匠2及び公知意匠3に基づいて、通常の知識を有する者が、容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条2項の規定により、登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

(4) 本件意匠登録を無効とすべき理由1
1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は、意匠登録第1572111号の意匠公報(甲第2号証)に記載のとおり、意匠に係る物品を「ガスボンベ保管庫」とし、その形態について、
[基本的構成態様]
全体が、やや縦長の略直方体状の筐体であり、その四隅に断面視略横「L」字板状の柱を設け、その正背面の上方に横長略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方を開口部とし、その開口部に上下にスライドするシャッターを取付けたものであり、背面につき、正面と同様に、柱と梁を略「門」状に形成し、その内方を、3枚の縦長略長方形板状で背面壁を形成した基本的構成態様のものである。
[具体的態様]
その具体的態様において、
(A)筐体について、正背面に略「門」状に形成した左右の余地部とその間のシャッター部又は背面壁の幅の比が、略1:4:1であり、四隅の柱の角部を面取りし、正面上方の横長略長方形状の梁が柱の裏面に接合しており、床面を設けず、下面が開放されており、背面及び両側面の下端を、四隅の柱部下端から一段高く形成して、背面及び両側面の下端に換気口を形成した態様のものである点
(B)通気口部について、正背面の上方の余地部に、小孔を縦横に穿って略矩形状に形成した通気口を、4か所に等間隔の横一列に設け、同じ態様の通気口を、両側面の上方寄りに縦に3か所設け、下方寄りに縦に3か所設けたものである点
(C)天井部について、上方視天井部周縁に、縁枠を畔状に形成して、天井面を筐体の周側面から一段浅く凹陥状に形成したものであり、その後方寄り略1/3部位に、横一直線状に隆起部を形成し、その内方を溝状に開口して通気口としたものであり、天井部の両側面の上方に、側面視略楔形状の雨樋を取付けた態様のものである点
(D)シャッターを開いた状態の使用態様(シャッターを開けた状態の参考斜視図)について、背面壁の略中央に、ガスボンベ固定用の横長略長方形板状の横桟を横幅略一杯に設けた態様のものである点が認められる。

2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物である甲第3号証に示す意匠(以下「先行意匠」という。)に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができないものであり、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、その登録は無効とすべきものである。
本件登録意匠の無効理由となる先行意匠は、本件登録無効審判の請求人である株式会社ホクエイが、2014年4月30日に発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVol.15」の7頁の上から三段目に記載された「ボンベックBN-200(50キロ容器4本用)」として示される写真版及びその右方に記載の正面図、背面図、側面図に表わされた意匠であり、意匠に係る物品が「LPガス容器収納庫」に係る意匠である。

3)先行意匠の意匠的特徴
先行意匠は、本件登録無効審判の請求人である株式会社ホクエイが、2014年4月30日に発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVol.15」の7頁に記載された「ボンベックBN-200(50キロ容器4本用)」であるが、本製品は、意匠に係る物品が、「LPガス容器収納庫」に係る意匠であり、昭和63年に製造販売を開始してから、略30年に亘って好評を博し、市場占有率も高いロングライフデザインであり(甲第7号証、平成10年11月24日(株)石油産業新聞社発行のプロパン産業新聞の下欄に掲載の広告「ボンベックLPガス容器収納庫BN-200」)、その形態が、正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方の開口部に上下にスライドするシャッターを取付け、正面上方の余地部及び両側面の上方に通気口を設け、天井部及び筐体の背面及び両側面の下方に通気口を設け、筺体の天井部の両側に略襖形状の雨樋を設けた意匠的特徴を有するものである。

4)先行意匠の要旨
先行意匠は、意匠に係る物品が「LPガス容器収納庫」であり、その形態について、
[基本的構成態様]
全体が、やや縦長の略直方体状の筐体であり、その四隅に断面視略横「L」字板状の柱を設け、その正背面の上方に横長略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方を開口部とし、その開口部に上下にスライドするシャッターを取付けたものであり、背面につき、正面と同様に、柱と梁を略「門」状に形成し、その内方を、3枚の縦長略長方形板状で背面壁を形成した基本的構成態様のものである。
[具体的態様]
その具体的態様において、
(a)筺体について、正背面に略「門」状に形成した左右の余地部と、その間のシャッター部又は背面壁の幅の比が、略1:3:1であり、正面上方の横長略長方形状の梁が柱の表面に接合しており、床面を設けず、下面が開放されており、背面及び両側面の下端を、四隅の柱部下端から一段高く形成して、背面及び側面の下端に換気口を形成した態様のものである点
(b)通気口部について、正背面の上方の余地部に、溝孔を格子状に穿って略矩形状に形成した通気口を、6か所の横一列に設け、同じ態様の通気口を、側面の上方寄りに、横に3か所設けたものである点
(c)天井部について、上方視天井部周縁に、縁枠を畔状に形成して、天井面を筐体の周側面から一段浅く凹陥状に形成したものであり、その後方寄り略中央に、横一直線状に隆起部を形成し、その内包(当審注:「内方」の誤記と認められる。以下、当審において誤記修正。)を溝状に開口して通気口としたものであり、天井部の側面上方に、側面視略楔形状の雨樋を取付けた態様のものである点
(d)シャッターを開いた状態の使用態様について、背面壁の略中央に、ボンベ固定用の横長略長方形板状の横桟を横幅略一杯に設けた態様のものである点が認められる。

5)先行周辺意匠の摘示
本件登録意匠の出願前に、以下の意匠が公然知られている。
(a)公知意匠1 登録第1082812号意匠
平成12年8月21日特許庁発行の意匠公報記載
(b)公知意匠2 登録第1073271号意匠
平成12年6月5日特許庁発行の意匠公報記載
(c)公知意匠3 登録第1073272号意匠
平成12年6月5日特許庁発行の意匠公報記載

6)本件登録意匠と先行意匠の対比
両意匠は、意匠に係る物品が、本件登録意匠は、「ガスボンベ保管庫」であり、先行意匠は、「LPガス容器収納庫」であるが、両意匠の「意匠に係る物品」は共通しており、その形態については、以下の共通点と差異点が認められる。
[共通点]
両意匠は、基本的構成態様において、
(あ)全体が、やや縦長の略直方体状の筐体であり、その四隅に 断面視略横「L」宇板状の柱を設け、その正背面の上方に横長 略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方を開口部とし、その開口部に上下にスライドするシャッターを取付けたものであり、背面につき、正面と同様に、柱と梁を略「門」状に形成し、その内方の壁面を、3枚の縦長略長方形板状で背面壁を形成した基本的構成態様のものである点が共通している。
その具体的態様において、
(い)筐体について、床面を設けず、下面が開放されており、背面及び両側面の下端を、四隅の柱部下端から一段高く形成して、背面及び両側面の下端に換気口を形成した態様のものである点
(う)通気口部について、正面上方及び背面上方の余地部に、略矩形状の通気口部を横一列に形成し、両側面の上方に略矩形状の通気口部を形成している点
(え)天井部について、上方視天井部周縁に、縁枠を畔状に形成して、天井面を筐体の周側面から一段浅く凹陥状に形成したものであり、その後方寄り略中央に、横一直線状に隆起部を形成し、その内方を溝状に開口して通気口としたものであり、天井部の側面上方に、側面視略楔形状の雨樋を取付けた態様のものである点
(お)シャッターを開いた状態の使用態様について、背面壁の略中央に、ボンベ固定用の横長略長方形板状の梁を横幅略一杯に設けた態様のものである点が共通している。

[差異点]
本件登録意匠と先行意匠は、その具体的態様において、
(イ)筐体について、本件登録意匠は、正背面に略「門」状に形成した余地部とその間のシャッター部又は壁面壁の幅の比が、 略1:4:1であるのに対して、先行意匠は、略1:3:1であり、本件登録意匠は、柱の角部を面取りしており、正面上方の梁が、柱の裏面に接合しているのに対して、先行意匠は、面取りをせず、梁は柱の表面に接合している点
(ロ)通気口部について、本件登録意匠は、正背面の上方の余地部に、小孔を縦横に穿って略矩形状に形成した通気口を、4か所に等間隔の横一列に設け、同じ態様の通気口を、両側面の上方寄りに縦に3ヵ所設け、下方寄りに縦に3か所設けたものであるのに対して、先行意匠は、正背面の上方の余地部に、溝孔を格子状に穿って略矩形状に形成した通気口を、6か所の横一列に設け、同じ態様の通気口を、両側面の上方寄りに、横に3か所設けたものである点
(ハ)天井部について、本件登録意匠は、天井部の後方寄り略1/3部位に、横一直線状に隆起部を形成し、その内方を溝状に開口して通気口としたものであるのに対して、先行意匠は、通気口を兼ねる隆起部を略中央に形成したものである点に差異がある。

7)本件登録意匠と先行意匠の類否判断
意匠登録出願された意匠と先行意匠の類否判断、すなわち、「意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、そのためには、両意匠の基本的構成態様及び各部の具体的態様のそれぞれにおいて、形態上の共通点及び差異点を抽出した上、それらを、視覚的効果、使用態様、公知意匠にない新規な創作であるか否か等の観点から検討し、共通点が及ぼす美感の共通性と差異点に基づく美感の個別性とを比較考量し、総合的、全体的に類否を判断することが相当である。」(平成19年(行ケ)第10036号、「三段熨斗付き紐丸冠瓦」知財高裁平成19年6月14日判決言渡)ことから、本件登録意匠と先行意匠の類否判断は、前記類否判断の判示の手法にしたがって、両意匠の共通点と差異点について、両意匠の類否判断に及ぼす影響を総合的評価し、意匠全体としての類否を判断する。
[共通点の評価]
(あ)本件登録意匠と先行意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、全体が、やや縦長の略直方体状の筐体であり、その四隅に断面視略横「L」字板状の柱を設け、その正背面の上方に横長略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方を開口部とし、その開口部に上下にスライドするシャッターを取付けたものであり、背面につき、正面と同様に、柱と梁を略「門」状に形成し、その内方の壁面を、3枚の縦長略長方形板状で背面壁を形成した基本的構成態様のものである点は、本件登録意匠と先行意匠の形態全体の骨格を構成し、意匠の基調を成し、両意匠の意匠的特徴を表出する構成態様であり、類否判断に及ぼす影響は大きいと判断される。
その具体的態様の共通点において、
(い)筺体について、床面を設けず、下面が開放されており、背面及び両側面の下端を、四隅の柱の下端から一段高く形成して、背面及び両側面の下端に換気口を形成した態様は、「ガスボンベの保管庫」という物品の特性、すなわち、ガス漏れが生じた場合の換気性及び安全性の確保の必要性があることから、取引者、需要者が強い関心を寄せるところであり、類否判断に大きな影響を及ぼすところである。
(う)通気口部について、正面上方及び背面上方の余地部に、略矩形状の通気口部を横一列に形成し、両側面の上方に略矩形状の通気口部を形成した共通点は、筐体下方に設けた換気口と同様に、「ガスボンベの保管庫」という物品の特性、すなわち、ガス漏れが生じた場合の通気性及び安全性の確保の必要性から取引者、需要者が強い関心を寄せるところであり、類否判断に大きな影響を及ぼすところである。
(え)天井部について、上方視天井部周縁に、縁枠を畔状に形成して、天井面を筐体の周側面から一段浅く凹陥状に形成したものであり、その後方寄り略中央に、横一直線状に隆起部を形成し、その内方を溝状に開口して通気口としたものであり、天井部の側面上方に、側面視略楔形状の雨樋を形成した態様の共通点は、建物の外部、屋外等に設置され、風雨にさらされる「ガスボンベの保管庫」においては、筐体の天井に溜まる雨水の排水、また、雨水を受ける天井部の通気性の確保という二つの機能を充足させる特異性のある形態であり、排水性と通気性を充足して安全性を確保するという必要性から、取引者、需要者が強い関心を寄せるところであり、類否判断に大きな影響を及ぼすところである。
(お)シャッターを開いた状態の使用態様について、背面壁の略中央に、ボンベ固定用の横長略長方形板状の横桟を横幅略一杯に設けた共通点は、この種の物品の意匠において、ガスボンベを保管する際のガスボンベの転倒防止等の安全性の確保の必要性から、取引者、需要者の注意を強く惹き付けるところであり、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすところである。

[差異点の評価]
一方、両意匠の差異点について、
差異点(イ)の筐体について、本件登録意匠は、正背面に略「門」状に形成した余地部とその間のシャッター部又は壁面壁の幅の比が、略1:4:1であり、一方、先行意匠は、その比が、略1:3:1であり、左右の余地部に対して、シャッター部の幅が狭いものであるが、この種の物品においては、その構成比は、甲3号証に、「BNシリーズ容器配列参考図・重量・梱包数」として記載されているように、保管するガスボンベの配置及び個数により、適宜選択される単なる構成比の差異であり、そこに格別の創作はなく、類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
また、本件登録意匠は、四隅の柱の角部を面取りしたものであるが、それは、角部を小さな丸面状とした程度のありふれた造形手法であり、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
また、本件登録意匠は、正面上方の梁が、柱の裏面に接合しているのに対して、先行意匠は、梁は柱の表面に接合している点に差異があるが、両意匠は、やや縦長の略直方体状の箇体の四隅に断面視略横「L」字板状の柱を設け、その正背面の上方に横長略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成した態様が特徴的であり、その接合部の差異は、極部分的な差異であり、目立つものではなく、類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
差異点(ロ)の通気口部について、本件登録意匠の通気口は、小孔を縦横に穿って略矩形状に形成しものであるのに対して、先行意匠の通気口は、溝孔を格子状に穿って略矩形状に形成ものであるが、この種の物品の通気口の形状において、小孔を縦横に穿ったもの、溝孔を格子状に穿ったものは、先行公知意匠1ないし3に見られるように、いずれも、よく知られた態様であり、また、通気口の形状を略矩形状とすることは、周知の造形手法であり、類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
また、両意匠は通気口の配置において、本件登録意匠は、通気口を、正面上方の余地部の4か所に横一列に設けたものであり、他方、先行意匠は、6か所に横一列に設けたものであるが、いずれも、略矩形状の通気口を横一列に設けた点では共通しており、その個数及び配置の差異は、前記の共通点に包摂される程度のその数及び配置の差異であり、両意匠の差異としてさほど評価されるものではなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
差異点(ハ)の天井部について、本件登録意匠は、天井部の後方寄り略1/3部位に、横一直線状に隆起部を形成し、その内方を溝状に開口して通気口としたものであり、他方、先行意匠は、略中央に形成したものであるが、両意匠は、上方視天井部周縁に、縁枠を畔状に形成して、天井面を筐体の周側面から一段浅く凹陥状に形成し、その後方寄り略中央に、横一直線状に隆起部を形成し、その内方を溝状に開口して通気口とした態様が顕著に共通しており、その隆起部が、後方寄り略1/3の部位に設けたか、略中央に設けたかの位置の差異は僅かであり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
そして、前記の(イ)ないし(ハ)の差異点が相侯って生じる意匠的効果を考慮しても、両意匠の差異点は、類否判断に及ぼす影響は小さく、微弱なものである。
したがって、両意匠は意匠に係る物品が共通しており、意匠に係る形態の共通点は、本件登録意匠と先行意匠の意匠的特徴を表出しており、需要者、取引者の注意を強く惹く意匠的特徴(要部)を成しており、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすところである。
他方、両意匠の差異点は、いずれも、共通する基本的構成態様に包摂される部分的な差異であり、(イ)ないし(ハ)の差異点が相侯って生じる意匠的効果を考慮しても、両意匠の差異点は、類否判断に及ぼす影響は小さく、微弱なものであり、共通点が差異点を凌駕していることは明らかであって、両意匠は類似する意匠である。
以上のとおり、本件登録意匠は、甲第3号証に示す先行意匠と類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し、同条同項柱書きの規定に違反して意匠登録を受けたものである。

(5)本件登録意匠を無効とすべき理由2
本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証)の四隅の角部を丸く面取りし、正面上方の梁を柱の表面に接合したものであるが、角部を丸く面取りすることは、略直方体状の筐体の造形処理としてはありふれた周知の造形手法であり、また、梁を表面に接合するか、裏面に接合するかに、格別の創作はなく、筐体の上面の態様を単にありふれた造形処理により改変した程度のものであり、また、通気口について、その形状及び配置に差異があるが、本件登録意匠の通気口の形状は、公知意匠1ないし公知意匠3から、容易に想到するものであり、その配置の相違も、この種の物品において、甲第3号証の請求人のカタログに普通に見られるとおり、ありふれた手法による変更であり、この種の物品に関する通常の知識を有する当業者であれば、上記の通気口の態様を組み合わせることについて、格別の創意を要さず、容易に想到できるものであって、本件登録意匠は、出願前に公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条2項の規定により、意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録は無効とすべきものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、先行意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定により、意匠登録を受けることができない意匠であり、また、本件登録意匠は、先行意匠及び公知意匠1ないし公知意匠3に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であり、同法第3条2項の規定により、意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録は無効とすべきものである。よって、請求の趣旨のとおりの審決を求める。

2.証拠方法
(1)甲第1号証 本件登録意匠(登録第1572111号意匠)の願書の謄本の写し(以下同じ)

(2)甲第2号証 本件登録意匠が記載された意匠公報
平成29年3月21日特許庁発行の意匠公報
(3)甲第3号証 先行意匠
本件登録意匠の無効理由
株式会社ホクエイが、2014年4月30日に発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVol.15」の7頁に記載された「ボンベックBN-200(50キロ)」の意匠
(4)甲第4号証 公知意匠1
登録第1082812号意匠
平成12年8月13日特許庁発行の意匠公報に記載
(5)甲第5号証 公知意匠2
登録第1073271号意匠
平成12年6月5日特許庁発行の意匠公報に記載
(6)甲第6号証 公知意匠3
登録第1073272号意匠
平成12年6月5日特許庁発行の意匠公報に記載
(7)甲第7号証 平成10年11月24日(株)石油産業新聞社発行の「プロパン産業新聞」の下蘭に記載の広告「ボンベックLPガス容器収納庫BN-200」50キロ容器4本用」

第3 被請求人の答弁及びその理由
被請求人は、平成29年11月9日付けの審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)において、答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、その理由として、要旨以下のとおり主張した。

1.答弁の理由
審判請求に係る無効理由は2点あり、無効理由1は意匠法第3条第1項第3号に該当し、無効理由2は意匠法第3条第2項に該当する、というものである。
しかるに、上記無効理由1、2は共に、以下の理由により失当である。
(1)甲第3号証刊行物の先行意匠について
1)甲第3号証刊行物の頒布性の不備
まず、無効理由が成立しない理由として、審判請求書副本に添付された甲第3号証は頒布日が確認できないことが挙げられる。
請求人は甲第3号証の裏表紙下端に「2014.4.」との記載があり、この日付が頒布日と主張する。しかるに、上記数字「2014.4.」が頒布日を示すとは限らない。したがって、甲第3号証は頒布日が不明であるので、出願前頒布の刊行物たりえず、よってこれに記載された意匠は先行意匠たる適格を有しない。
なお、以下ではこの点を差しおいて、対比検討する。

2)甲第3号証刊行物の開示内容の不明確さ
請求人は甲第3号証刊行物のうち、製品記号BN-200の写真と図面の部分を先行意匠として提出している。
しかるに、先行意匠としての上記写真は非常に小さいもので、詳細を正確に把握するには困難なものである。写真の右側に掲げている図面(正面図、背面図、側面図)を参酌するとある程度構造を把握することができるが、請求人が主張するような細部にわたる比較ができるものではない。
意匠法第3条第1項第2号にいう「刊行物に記載された意匠」とは、その刊行物に直接記載されたもののみをいうのであって、それに補足して解説を付け足すことによって認識されるものではない。よって、以下の本件登録意匠との対比では、甲第3号証刊行物から読み取れる範囲の開示意匠(これが請求人のいう先行意匠)と対比する。

3)甲第3号証刊行物に記載された先行意匠のデザインの古さ
先行意匠は、請求人も主張するように、昭和63年に製造販売を開始したもので、本件登録意匠の出願日(平成28年)から遡ること約30年前の古いデザインのものである。
昭和63年当時の産業製品のデザインは実用一辺倒の無骨なものであり、隅が角ばっていたり、鉄板の重ね合せがそのまま見えていたり、鉄板を固定するボルトの頭もそのまま見えているのが普通であった。先行意匠もその当時のデザイン傾向そのままのデザインを用いたものであり、とうてい近年のスマートなデザインのものとは云いがたい。
このデザインの時代的古さは、本件登録意匠との関係において対比の基礎となるものである。

(2)本件登録意匠について
1)本件登録意匠のデザインの新しさ
本件登録意匠は、出願年である平成28年にデザインしたものである。平成28年ともなれば、昭和の終り頃とは全く異なり、産業製品においても一般消費物品と同様レベルの良質の美感や人に優しいメッセージを投影できるデザインが普通に求められる時代となっていた。
こうした時代背景に基づいてデザインされたのが、本件登録意匠であり、それはスッキリした人に優しいデザインをもつところに意匠的特徴があるものである。

2)本件登録意匠の全体イメージ
本件登録意匠のデザインコンセプトは、上向きに流れる線を意識したスッキリして見え、かつ人への優しさを具現したデザインにある。
そのデザインコンセプトを実現する個々のパートの意匠的特徴は、以下のとおりである。
(A)両サイドの柱を形作る縦線は上端まで伸び切っている。上部梁の両端縁は柱の縦線で区切られており、上部梁の下端縁が柱の頭部を横切っているのではない。
(B)横壁に設けた通気口は上部と下部に設けられているが、上部も下部も縦方向に3個ずつ並んでいる。この縦方向の各3個の並びと、それを合わせた6個の縦方向の並びは上下に伸びる縦線を意識させるものである。
(C)上部梁に形成された4ヵ所の通気口は、いずれも縦線状の開口で形成されたもので、縦線を意識させるものである。そのため、通気部の開口を覆いのないパンチング孔で構成しており、スッキリしたデザインを実現している。
(D)保管庫の四隅を面取りして丸みをつけ、その丸みが下から上端まで途切れることなく伸びているのも、スッキリしたデザインを実現するためである。

(3)無効理由1が失当である理由
無効埋由1は、出願前公知の甲第3号証刊行物に記載する意匠に類似するというものであるが、本件登録意匠はこれに類似するとは云えない。
上記した本件登録意匠と先行意匠との基本的なデザインコンセプトの違いを前提として、以下に対比し、相違点(非類似点)を明らかにする。
1)相違点1
上記(2)2)(A)で述べたように、本件登録意匠は、両サイドの柱を形作る縦線は上端まで伸び切っている。上部梁の両端縁は柱の縦線で区切られており、上部梁の下端縁が柱の頭部を横切っているのではない。この結果、本件登録意匠は上向きに伸びるデザインを意識させるものとなっている。
これに対し、先行意匠は、上部梁が格納庫の両端縁まで延びており、上部梁の下端縁が両側の柱の頭部を横切っている。このため、両側の柱が短く切られた頭打ちの印象をもたせている。
よって、先行意匠は上向きに伸びるデザインを看者に意識させないので、この点で非類似である。

2)相違点2
上記(2)2)(B)で述べたように、本件登録意匠は、横壁に設けた通気口は上部と下部に設けられているが、上部も下部も縦方向3個ずつに並んでいる。この縦方向の各3個の並びと、それを合わせた6個の縦方向の並びは上下に伸びる縦線を意識させるものである。
これに対し、先行意匠は、横壁には全く通気口が設けられていない。このため、通気口を縦方向に配置することによる上向きに伸びるデザインを演出できていない。
よって、先行意匠は上向きに伸びるデザインを看者に意識させないので、この点で非類似である。

3)相違点3
上記(2)2)(C)で述べたように、本件登録意匠は、上部梁に形成された4ヵ所の通気口は、いずれも縦線状の開口で形成され、通気部の開口がルーバーによる覆いのないパンチング孔で構成したものである。この縦線状の開口も上下に伸びる縦線を意識させるものであり、この意匠もスッキリしたデザインを実現するためである。
これに対し、先行意匠は、横線状の開口でしかも上部にルーバーが覆っているので、上に伸びるイメージは否定されており、煩雑な印象がある。このため、スッキリした印象を与えることはできない。
よって、先行意匠はスッキリとしたデザインを看者に意識させないので、この点で非類似である。

4)相違点4
上記(2)2)(D)で述べたように、本件登録意匠は、保管庫の四隅を面取りして丸みをつけ、その丸みが下から上端まで途切れることなく伸びているのも、スッキリしたデザインを実現するためである。
これに対し、先行意匠は、保管庫の四隅が角ばっており、旧来からある古いデザイン(ほとんど美感を考慮していない)のものである。
よって、先行意匠はスッキリとしたデザインを看者に意識させないので、この点で非類似である。

5)まとめ
請求人は、本件登録意匠との類似点として、保管庫の(ア)天井の形状とか、(イ)側壁下端の隙間とか、(ウ)庫内形状とかの共通点を縷々述べている。
しかしながら、これら(ア)から(ウ)の形状は、ガスボンベ保管庫が基本的にもつ必須の形状であり、しかも普通に人が見る部分でもないので、類否判断には影響を及ぼさない。
家具のテーブルに例えると、テーブルは4本の脚をもつのが普通であるが、4本の脚があるから互いに類似とは云わないことと同じである。これら物品に必須の形状以外の部分で一般需要者は類否判断をするのであって、その要素は既に述べた(A)柱が上に伸びる形状、(B)横壁の通気部の上に伸びるデザイン、(C)上部梁の通気口の縦向きデザイン、(D)保管庫四隅の丸みのついたデザイン等に存する。
そして、これら(A)?(D)の意匠的特徴に基づき、本件登録意匠はスッキリした人に優しいデザインをもつものであるから、古いデザインである先行意匠と類似していようはずがない。

(4)無効理由2が失当である理由
無効理由2は、出願前公知の先行意匠、公知意匠1、公知意匠2、及び公知意匠3に基づいて容易に創作できたというものであるが、本件登録意匠は容易に創作できたものではない。
その理由は、以下のとおりである。
1)無効理由2に関して、角部を丸く面取りすることは周知の造形手法と主張しているが、つぎの2点において失当である。
1-1)証拠をあげていない
請求人は、角部を丸く面取りすることは周知の造形手法と主張しているが、周知の手法と単に主張しているだけであって、周知手法と認定されるべき根拠を提出していない。
このような根拠のない主張は無効理由を構成しない。
1-2)ガス保管庫においては先例がない。
本件登録意匠に係る物品「ガスボンベ保管庫」において、角部に丸みをつけて美しい 外観をもたせた例は過去に存在しない。
つまり、角部が丸く優美なデザインのガスボンベ保管庫は本件登録意匠を嚆矢とするものである。
よって、本件登録意匠は、(ア)公知意匠の置換でもなく、(イ)公知意匠の寄せ集めでもなく、(ウ)公知意匠をそのまま表したものでもなく、(エ)商慣習上の転用に当るものでもない。
したがって、本件登録意匠は容易に創作することができたものではない。

2)請求人は、通気口の形状と配置について公知意匠1ないし公知意匠3から容易想到できると主張しているが、失当である。
公知意匠1はゴミ集積庫であり、公知意匠2、3は組立物置である。これらの物品は、団地やマンションなどの多勢の人々が住む場所とか、各家庭に設置されるものであるから、一般大衆の美意識に訴えることが商品価値を高めるものである。
しかるに、本件登録意匠に係る物品「ガスボンベ保管庫」は産業用物品であって、さほど一般大衆の美感に訴えることが要求されていなかったものである。このような時代背景の中で、ガスボンベ保管庫に優美さ等の美的感覚を取り入れたのは本件登録意匠を嚆矢とするものである。
したがって、公知意匠1?3に開示された通気口の形状をガスボンベ保管庫に転用する動機づけは弱いと云わざるをえない。

3)まとめ
本件登録意匠は、一般消費物品と同様レベルの良質の美感や人に優しいメッセージを投影できるデザインであって、上向きに伸びるイメージのスッキリした人に優しい意匠的特徴をもつものである。
これに対し、主引例である甲第3号証刊行物記載の先行意匠は実用一辺倒の無骨なものであり、隅が角ばっていたり、鉄板の重ね合せがそのまま見えていたり、鉄板を固定するボルトの頭もそのまま見えている古いデザインである。
したがって、このような古いデザインの先行意匠をベースとする限り、何点かの公知意匠を組合せたとしても、スマートなデザインの本件登録意匠の創作に貢献できるものではない。
よって、無効理由2は失当である。

(5)結語
以上のとおり、無効理由1、2は理由がないので、本件意匠登録を無効とすることはできない。

第4 請求人の弁駁及びその理由
請求人は、被請求人の答弁に対し審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し、以下のとおり主張をし、その主張事実を立証するため、甲第8号証の1ないし甲第17号証を提出した。

1.答弁書に対する弁駁
(1)答弁書1.答弁の理由の(1)甲第3号証刊行物の先行意匠についての弁駁
(a)甲第3号証刊行物の頒布性の不備への弁駁
被請求人は、「請求人は甲第3号証の裏表紙下端に『2014.4.4』(当審注:『2014.4』の誤記と認められる。)との記載があり、この日付が頒布日と主張する。しかるに、上記数字『2014.4』が頒布日を示すとは限らない。したがって、甲第3号証は頒布日が不明であるので、出願前頒布の刊行物たりえず、よってこれに記載された意匠は先行意匠たる適格を有しない。」(答弁書2頁16行から19行)と主張する。
しかしながら、甲第3号証(株式会社ホクエイのカタログ[LPガス容器収納庫ボンベックVo1.15])の裏表紙下端に記載された「2014.4 30、000(N)」は、印刷年月、発行部数、印刷会社の記号を示すものである。したがって、上記のカタログは、2014年4月において、既に、頒布されていることは明らかである。
請求人は、その間接事実として、本カタログを印刷した印刷会社である「中西印刷株式会社(N)」からの本カタログの印刷費用の「請求明細書」を提出する。この請求明細書によれば、暗調子に表された区分の欄から、商品名/規格「ボンベックVOL15」が、数量30、000部印刷されており、その費用として、金額855、000円か、2014年4月30日(発行日)に請求されていることが分かる(甲第9号証の1)。
また、甲第9号証の2によれば、同じカタログが、数量28、750部追加注文されており、その費用請求が、2014年5月31日になされている。前記第9号証の2は、「ボンベックVOL15<9社分>」と記載されているが、この<9社分>というのは通常のカタログに更に、ガス機器販売店の社名を印刷したものであり、2014年5月31日には、合わせて計58、750部に上るボンベックのカタログ「Vol.15」が印刷されているものであり、顧客及びガス機器関連販売店への配布が継続的に行われていたものである。
以上の通り、被請求人の「甲第3号証は頒布日が不明であるので、出願前頒布の刊行物たりえず、よってこれに記載された意匠は先行意匠たる適格を有しない。」との主張は、失当である。

(b)「甲第3号証刊行物の開示内容の不明確さ」への弁駁
被請求人は、「先行意匠としての上記写真は非常に小さいもので、詳細を正確に把握するには困難なものである。写真の右側に掲げている図面(正面図、背面図、側面図)を参酌するとある程度構造を把握することができるが、請求人が主張するような細部にわたる比較ができるのではない。意匠法第3条第1項第2号にいう『刊行物に記載された意匠』とは、その刊行物に直接記載されたもののみをいうのであって、それに補足して解説を付け足すことによって認識されるものではない。」(答弁書3頁文章1行から7行)と主張している。
しかしながら、本件登録意匠の無効理由とする甲第3号証(株式会社ホクエイが、2014年4月30日に発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVo1.15」)の7頁に記載された「ボンベックBN-200(50キロ容器4本用)」の意匠は、右斜め前方から撮影した写真版及びその正面図、背面図、側面図及び基礎伏図から、その形態は、本件登録意匠と引用意匠を対比するに際して、十分に特定され対比できるものである。
被請求人は、「意匠法第3条第1項第2号にいう『刊行物に記載された意匠』とは、その刊行物に直接記載されたもののみをいうのであって、それに補足して解説を付け足すことによって認識されるものではない。」と主張するが、「刊行物に記載された意匠としての物品の形状とは、そこに掲載されている物品の写真、図面を通じて認識される物品の形状をいうのであって、必ずしも認識の素材たる写真、図面そのままの形状をいうのではない。したがって、物品の形状を認識するに当たっては、当該図面以外にこれに関する説明文や当該物品を写した写真をも斟酌することは妨げないというべきである。」(甲第14号証、「王冠事件」平成2年(行ケ)第95号、東京高裁平成2年12月23日判決言渡)との判示を鑑みると、当を得ないものである。
また、引用意匠の形態を把握するに際して、引用意匠が記載された刊行物の記載事項の全体から要旨認定されるべきことは、「発光ダイオード付き商品陳列台事件」(甲第15号証、平成18年(行ケ)第10388号、知財高裁平成20年1月31日判決言渡)において、「確かに、引用意匠の斜視図を見たとき、明確に発光ダイオードであると認識できるものの個数は3個である。しかし、1列に並んだ3個の発光ダイオードの手前は見えにくいが、奥には3個の発光ダイオードと同様の輝きを持った物の存在が認識し得るとともに、当該カタログにおける引用意匠の写真の横には、『LED:7pcs』との記載があるのであって、斜視図とその物品の説明をも勘案すれば、7個の発光ダイオードを密着させて配置したものと認めるのが相当である。」との判示からも、被請求人の「その刊行物に直接記載されたもののみをいうのであって、それに補足して解説を付け足すことによって認識されるものではない。」との主張は、当を得ないものである。
ところで、請求人は、甲第3号に記載の引用意匠に係る図面が小さいとの指摘は受け入れる。そこで、請求人は、甲第3号証の意匠の写真版の右側に掲載されている「正面図」、「背面図」、「側面図」及び「基礎伏図」がより明確に表されている「図名BN200承認図1(図番BN-200-A)」、「図名BN200承認図2(図番BN-200-B)」、「図名BN200基礎伏図(図番BN-200-C)」及び「図名BN200内面図(図番BN-200-D)」(甲第8号証の1)を提出する。これらの承認図等は、施工業者の要請により、請求人のホームページから自由にダウンロードして、施工業者が自由に使用できる図面である。
また、請求人は、前記承認図等の図面から、その形態の把握を容易にするため、指示線及び寸法を取り除いた参考図面を甲第8号証の2として提出する。

(c)「甲第3号証刊行物に記載された先行意匠のデザインの古さ」への弁駁
被請求人は、「先行意匠は、請求人も主張するように、昭和63年に製造販売を開始したもので、本件登録意匠の出願日(平成28年)から遡ること約30年前の古いデザインのものである。昭和63年当時の産業デザインは実用一辺倒の無骨なものであり、隅が角張っていたり、鉄板の重ね合わせがそのまま見えていたり、鉄板を固定するボルトの頭もそのまま見えているのが普通であった。先行意匠もその当時のデザイン傾向そのままのデザインを用いたものであり、とうてい近年のスマートなデザインのものとは云いがたい。」(答弁書3頁10行から16行)と主張する。
しかしながら、無効理由の先行意匠の製造販売日が略30年遡ることは、本件登録意匠の無効理由を解消するものではなく、逆に、引用意匠の公知性・周知性を示すに他ならない。
被請求人は、請求人の製造販売に係る先行意匠が、古いデザインであると主張するが、現デザインのボンベックBN-200は、平成6年(1994年)から継続して販売されており、業界においてもトップクラスの出荷台数を誇る製品であり、いわゆる、ロングライフデザインの商品であり、多くの需要者から信頼され、好評を博している意匠である。
請求人は、その証左として、ガス機器関連の製造販売会社において、請求人のBN-200を含むLPガスボンベ収納庫が、カタログに掲載されて販売されていることを示す甲第16号証及び甲第17号証を提出する。
甲第16号証は、大阪府東大阪市箱殿町10番4号所在のI・T・O株式会社の総合カタログVol.3、2017年1月号であり、その37頁に容器収納庫ボンベックとしてBNー200が記載されている。
また、甲第17号証は、名古屋市中区新築二丁目9番11号所在の富士工器株式会社発行の製品カタログであり、そのサイトの製品リストBN-200をクリックするとBN-200の50K容器4本用の意匠が確認できる。
また、ガスボンベ容器収納庫に係るカタログ「ボンベック」が、略毎年更新され、2014年にVO1.15(甲第3号証)になっており、ガスボンベ容器収納庫に係る同カタログは今日においても、継続的に再版されていることからも明らかである。

(2)答弁書1.答弁の理由(3)無効理由1が失当である理由への弁駁
(a)相違点1について
被請求人は、「本件意匠は、両サイドの柱を形作る縦線は、上端まで伸び切っている。上部梁の両端縁は柱の縦線で区切られており、上部梁の下端縁が柱の頭部を横切っているのではない。この結果、本件登録意匠は上向きに伸びるデザインを意識させるものとなっている。これに対し、先行意匠は、上部梁が格納庫の両端縁までのびており、上部梁の下端縁が両側の頭部を横切っている。このため、両側の柱が短く切られた頭打ちの印象をもたせている。」(答弁書6頁7行から13行)と主張している。
しかしながら、本件登録意匠と先行意匠は、その基本的構成態様において、全体が、やや縦長の略直方体状の筐体であり、その四隅に断面視略横「L」宇板状の柱を設け、その正背面の上方に横長略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方を開口部とし、その開口部に上下にスライドするシャッターを取付けた態様が顕著に共通しているものでありその本件登録意匠と先行意匠の基本的構成態様が、両意匠の形態全体の骨格を構成し、意匠の基調を成し、両意匠の意匠的特徴を表出する構成態様であり、類否判断に及ぼす影響は大きいものである。
上記本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様の顕著な共通性に比して、被請求人が主張する上部梁の両端縁が、縦線で区切られているか、横線で区切られているかの差異は、ガスボンベ保管庫の上方の両角における僅かな差異であり、さほど目立つものでなく、この種の保管庫、収納庫及び組立物置等の意匠においては、両意匠の態様ともありふれた態様、造形手法であり、需要者の注意を惹くものではなく、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。

(b)相違点2について
被請求人は、「本件意匠は、横壁に設けた通気口は、上部と下部に設けられているが、上部も下部も縦方向に3個ずつ並んでいる。この縦方向の各3個の並びと、それを合わせた6個の縦方向の並びは上下に伸びる縦線を意識させるものである。これに対し、先行意匠は、横壁には全く通気口が設けられていない。」(答弁書7頁2行から7行)と主張しているが、先行意匠は、下記のとおり、横壁には、通気口が3個横一列に設けられており、被請求人の主張は、誤認に基づく主張である。
なお、被請求人は、「上部も下部も縦方向に3個ずつ並んでいる。この縦方向の各3個の並びと、それを合わせた6個の縦方向の並びは上下に伸びる縦線を意識させるものである。」と主張しているが、いずれも、略矩形状の通気口を上方に3個一列に設けた点では共通しており、その個数及び配置の差異は、前記の共通点に包摂される程度のその数及び配置の差異であり、両意匠の差異としてさほど評価されるものではなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。

(c)相違点3について
被請求人は、「本件登録意匠は、上部梁に形成された4力所の通気口は、いずれも縦線状の開口で形成されたもので、縦線を意識させるものである。そのため、通気口の開口部を覆いのないパンチング孔で構成しており、スッキリとしたデザインを実現するためである。これに対し、先行意匠は、横線状の開口でしかも上部にルーバーが覆っているので、上に伸びるイメージは否定されており、煩雑な印象がある。このため、スッキリとした印象を与えることはできない。」(答弁書7頁12行から20行)と主張する。
まず、被請求人は、相違点3を主張するに際して、「登録意匠適用製品」の写真を提出している。
しかしながら、本件登録意匠の範囲は、意匠法24条1項に「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載され、又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基づいて定めなければならない。」と規定されているとおり、願書に添付された図面、すなわち、本件登録意匠においては、願書に添付され、必要図とされる基本6面図、斜視図及びA-A線断面図から要旨認定されるべきものである。参考写真は、本件登録意匠の形態をではなく、意匠の理解を助けるためのものであり、必要があるときはその他の参考図を加えることができるものであるが、被請求人は、参考写真をその意匠登録出願時に提出しているものではなく、本件登録意匠の範囲には、明かに属さないものである。
ところで、被請求人は、本件登録意匠の上部梁に形成された4ヵ所の通気口は、いずれも縦線状の開口で形成されたもので、縦線を意識させるものであるのに対して、先行意匠は、横線状の開口でしかも上部にルーバーが覆っているので、上に伸びるイメージは否定されていると主張する。
しかしながら、本件登録意匠の通気口は、小孔を縦横に穿って略矩形状に形成した、いわゆるパンチング孔であり、縦線状のものではない。一方、先行意匠の通気口は、溝孔を格子状に穿って略矩形状に形成したルーバー状のものであるが、この種の物品の通気口の形状において、溝孔を格子状に穿ったものは、先行公知意匠1に見られるように、よく知られた態様であり、また、通気口の形状を略矩形状とすることは、周知の造形手法であり、類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
また、両意匠は通気口の配置において、本件登録意匠は、通気口を、正面上方の余地部の4か所に横一列に設けたものであり、他方、先行意匠は、6か所に横一列に設けたものであるが、いずれも、略矩形状の通気口を横一列に設けた点では共通しており、その個数及び配置の差異は、前記の共通点に包摂される程度のその数及び配置の差異であり、両意匠の差異としてさほど評価されるものではなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。

(d)相違点4について
被請求人は、「本件登録意匠は、保管庫の四隅を面取りして丸みをつけ、その丸みが下から上端まで途切れることなく伸びているのも、スッキリとしたデザインを実現するものである。これに対し、先行意匠は、保管庫の四隅が角張っており、旧来からある古いデザインのものである。」(答弁書9頁2行から6行)と主張する。
さらに、被請求人は、「請求人は、角部を丸くすることは周知の造形手法と主張しているが、周知の手法と主張しているだけであって、周知の手法と認定されるべき根拠を示していない。」(答弁書10頁23行から25行)、また、「本件登録意匠に係る物品『ガスボンベ保管庫』において、角部に丸みをつけて美しい外観をもたせた例は過去に存在しない。つまり、角部が丸く優美なデザインのガスボンベ保管庫は本件登録意匠を嚆矢とするものである。」(答弁書10頁27行から30行)とも主張しているが、いずれの主張も、誤認に基づく主張である。
請求人の「角部を丸く面取りすることは、略直方体状の筐体の造形処理としてはありふれた周知の造形手法である。」との主張は正当である。
請求人は、その間接事実として、ガスボンベ保管庫の筐体の四隅を丸く面取りすることがありふれた周知の手法であることを、甲第10号証ないし甲第13号証によって証明する。

甲第10号証
株式会社ホクエイが、2006年の8月に発行した「LPガス容器収納庫(平成18年10月価格改定版『ボンベック』Vol.11』の5頁下欄に掲載のボンベックDR-100(50キロ容器2本用)の意匠

甲第11号証
株式会社サンダイヤが発行したカタログ「サンタイヤボンベハウス」に記載された品番K-08の「ボンベハウス」(50キロボンベ6?8本用)(平成6年8月現在)の意匠

甲第12号証
中国工業株式会社が、1994年3月に発行したカタログ「BOMBE KEEPERボンベキーパー」に記載れた型式NC50WB(二枚戸)の意匠

甲第13号証
株式会社NKKが発行した「UTICハウスユニットシステム収納庫」に記載された「供給設備ユニット用UTIC-502K」の意匠

上記のとおり、ガスボンベ保管庫、LPガス容器収納庫、組立物置等の意匠の筐体の角部を丸面状にすることは、ありふれた周知の造形手法である。

(3)答弁書1.答弁の理由(4)無効理由2が失当である理由への弁駁
被請求人は、「(1)無効理由2に関して、角部を丸く面取りすることは周知の造形手法と主張しているが、次の2点において失当である。
1-1)証拠を上げていない。
請求人は、角部を丸く面取りすることは周知の造形手法と主張しているが、周知の手法と単に主張しているだけであって、周知手法と認定されるべき根拠を提出していない。このような根拠のない主張は無効理由を構成しない。
1-2)ガスボンベ保管庫においては先例がない
本件登録意匠に係る物品「ガスボンベ保管庫」において、角部に丸みを付けて美しい外観をもたせた例は、過去に存在しない。
つまり、角部が丸く優美なデザインのガスボンベ保管庫は本件登録意匠を嚆矢とするものである。
よって、本件登録意匠は、(ア)公知意匠の置換でもなく、(イ)公知意匠の寄せ集めでもなく、(ウ)公知意匠をそのまま表したものでもなく、(エ)商慣習上の転用に当たるものでもない。」(答弁書10頁20行から33行)と主張している。
しかしながら、本件登録意匠に係る物品「ガスボンベ保管庫」において、筐体の四隅の角部に丸みを付けた外観の例は、甲第10号証ないし甲第13号証に示すとおり、ありふれた周知の造形手法であり、被請求人の主張は失当である。
すなわち、本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証)の四隅の角部を丸く面取りする造形であるが、その造形手法は、甲第10号証ないし甲第13号証に示すとおり、ありふれた周知の造形手法であり、また、柱と上梁の構成において、上梁を表面に接合するか、裏面に接合するかの構成に格別の創作はなく、また、通気口について、その形状及び配置に差異があるが、本件登録意匠の通気口の形状は、公知意匠1ないし公知意匠3から、容易に想到するものであり、その配置の相違も、この種の物品において、甲第3号証の請求人のカタログに普通に見られる変更であって、この種の物品に関する通常の知識を有する当業者であれば、上記の通気口の態様を組み合わせることについて、格別の創作を要さず、容易に想到できるものであり、本件登録意匠は、出願前に公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠である。

(4)むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、先行意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定により、意匠登録を受けることができない意匠であり、また、本件登録意匠は、先行意匠及び公知意匠1ないし公知意匠3に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であり、同法第3条2項の規定により、意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録は無効とすべきものである。
よって、請求の趣旨のとおりの審決を求める。

2.証拠方法
(1)甲第8号証の1
引用意匠(甲第3号証)意匠の写真版の右側に掲載されている「正面図」、「背面図」、「側面図」及び基礎伏図がより明確に表されている「図名BN200承認図1(図番BN-200-A)」、「図名BN200承認図2(図番BN-200-B)」、「図名BN200基礎伏図(図番BN-200-C)」及び「図名BN200内面図(図番BN-200-D)」の写し(以下同じ)
(2)甲第8号証の2
甲第8号証の1の承認図等の図面から、指示線及び寸法を取り除いた参考図面
(3)甲第9号証の1
中西印刷株式会社(N)が2014年4月30日に、株式会社ホクエイ宛てに発行したカタログ「ボンベックVOL15」30、000部の印刷費用の「請求明細書」
(4)甲第9号証の2
中西印刷株式会社(N)が2014年5月31日に、株式会社ホクエイ宛て発行したカタログ「ボンベックVoL15」28、750部の印刷費用の「請求明細書」
(5)甲第10号証
株式会社ホクエイが、2006年の8月に発行した力タログ「LPガス容器収納庫 平成18年10月価格 改定版『ボンベックVol.11」
(6)甲第11号証
株式会社サンダイヤが平成6年8月に発行したカタログ「サンダイヤボンベハウス」
(7)甲第12号証
中国工業株式会社が、3月に発行した力タログ「BOMBE KEEPERボンベキーパー」
(8)甲第13号証
株式会社NKKが発行したカタログ「UTICハウスユニットシステム収納庫」
(9)甲第14号証
平成2年(行ケ)第95号(「王冠事件」東京高裁平成2月12月13日判決言渡)の判決書
(10)甲第15号証
平成18年(行ケ)第10388号(「発光ダイオード付き商品陳列台事件」知財高裁平成20年1月31日判決言渡)の判決書
(11)甲第16号証
株式会社I・T・Oが、2017年1月に発行した総合カタログVol.3
(12)甲第17号証
富士工器株式会社が、2005年に発行した総合力タログ(製品案内)

第5 口頭審理
本件審判について、当審は、平成30年5月9日付け審理事項通知書を通知し、これに対して、被請求人は、同年6月1日に口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書という。」)を提出し、請求人は、同年6月15日に口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)を提出し、同年6月29日に口頭審理を行った(平成30年6月29日付け口頭審理調書)。

1.被請求人の主張
被請求人は、被請求人陳述要領書に基づき、以下のとおり意見を述べた。

(1)答弁理由(1)甲第3号証刊行物への弁駁に対する意見
(a)甲第3号証刊行物の頒布性について
請求人が提出した請求明細書(甲第9号証の1)、(甲第9号証の2)の立証事実は争わない。

(b)甲第3号証刊行物の開示内容の不明確さへの弁駁に対する意見
被請求人は「必ずしも認識の素材たる写真、図面そのままの形状をいうのではない。」と主張しているが、被請求人の主張も同趣旨である。
被請求人は、甲第3号証記載の写真、図面を通じて認識される物品の形状が 不明瞭であると主張しているのである。よって、王冠事件判決(平成2年(行ケ)第95号)にも商品陳列台事件判決(平成18年(行ケ)第10388号)とも矛盾しない。
請求人はホームページからダウンロードできる承認図等(甲第8号証)を提出しているが、その立証趣旨は不明である。審判請求書に記載の甲第3号証の代りとして提出するというのか、甲第3号証の補足という位置付けなのか、その釈明はない。
また、甲第8号証図面がいつの時点からホームページからダウンロードが可能になったのかという説明もない。
ゆえに、請求人の主張は法律論になっていない。

(c)甲第3号証先行意匠のデザインの古さへの弁駁に対する陳述
被請求人は、先行意匠の古さを証拠に基づいて判断している。その証拠は審判請求書7頁中段の記載である。
引用意匠が周知性を有するとか、現物の製品が業界トップクラスの販売台数とかは、無効理由と直接関係しない。争点となる無効理由には、甲第3号証意匠から本件登録意匠を容易に創作できるかどうかだけが関係するのである。

(2)答弁理由(3)無効理由1が失当とする理由への弁駁に対する意見
(a)相違点1についての弁駁に対する意見
請求人は、全体の基本的構成が本件登録意匠と先行意匠との間で近く、その構成が類否判断に及ぼす影響が大きいと反論しているが、これは失当である。
物品「ガスボンベ保管庫」において、全体が略直方体の筐体であり、「門」状をなすなどは意匠的特徴を構成するはずがない。なぜならば、保管庫の前面の開口部にシャッターを取付けるならば、シャッターを案内するレールが左右に2本必要となって、その左右のレールを配置する以上、保管庫の全体形が「門」形とならざるをえないからである。このような技術的要請によって、「門」形は保管庫の基本構成となるのであり、意匠的特徴は、その上に付加されるものとなるのである。
したがって、本件登録意匠の意匠的特徴は、「両サイドの柱を形作る縦線は、上端まで伸び切っていること。上部梁の両端縁は柱の縦線で区切られており、上部梁の下端縁が柱の頭部を横切っているのではないこと。この結果、本件登録意匠は上向きに伸びるデザインを意識させるものとなっていること。」等に存するのである。

(b)相違点2についての弁駁に対する意見
甲第3号証に通気口が存在することは認めるが、非常に小さく不明瞭に示されたものである。それは類似判断に影響するとは考えられない。

(c)相違点3についての弁駁に対する意見
被請求人の提出した写真は判断の参考のためである。
本件登録意匠の図面にも通気口の開口部は表示されている。

(d)相違点4についての弁駁に対する意見
本件登録意匠における角部の丸い面取りは、本件登録意匠と先行意匠との間の相違点として明らかに存在する。甲第10号証から甲第13号証について、以下意見する。
(d-1)まず、甲第10号証から甲第13号証の4点の意匠は、いずれも前面開口部にシャッターがなく、保管庫の基本構成が「門」形でない点で、先行意匠としての適格を欠いている。
(d-2)上記に加え、以下の細部でも相違がある。
・甲第10号証には、角部の面取りは認められない。
・甲第11号証は、門形ではないながら、角部の面取りがある。
・甲第12号証は、保管庫の前面が全体的に湾曲して、そのつながりとして角部が丸められている。
・甲第13号証は、保管庫の前面にある観音開きの戸の取付け側が丸められているので、角部の丸みはない。
(d-3)まとめ
以上のしだいで、角部の面取りがあるのは甲第11号証の1点のみであり、しかも門形ではないので、上記証拠方法からは、前面開口部にシャッターを取付けたガスボンベ保管庫における角部の面取りは周知の造形手法とはいえない。

(3)答弁埋由(4)無効理由2が失当とする理由への弁駁に対する意見
上記(2)(d)で意見したとおり、角部を丸める技法は周知でないので、請求人弁駁は理由がない。

(4)「むすび」に対する陳述
請求人の主張は失当であり、本件登録意匠に無効理由は存しない。

2.請求人の主張
請求人は、請求人陳述要領書に基づき、以下のとおり意見を述べ、その主張事実を立証するため、甲第8号証の3及び甲第8号証の4並びに甲第18号証ないし甲第20号証を提出した。

(1)被請求人の口頭審理陳述要領書に記載の主張に対する弁駁
(a)甲第3号証(先行意匠)の開示内容について
被請求人は、請求人が、無効理由の先行意匠として提出した甲第3号証に記載の意匠の右側に掲載されている「正面図」、「背面図」、「側面図」及び「基礎伏図」がより明確に表されている「図名BN200承認図1(図番BN-200-A)」、「図名BN200承認図2(図番BN-200-B)」、「図名BN200基礎伏図 (図番BN-200-C)」及び「図名BN200内面図(図番BN-200-D)」 (甲第8号証の1)を提出したところ、被請求人は、「審判請求書に記載の甲第3号証の代わりとして提出するというのか、甲第3号証の補足という位置付けなのか、その釈明はない。」(口頭審理陳述要領書2頁5行から7行)と主張している。
しかしながら、請求人が、甲第8号証の1として提出した「図名BN200承認図1(図番BN-200-A)」、「図名BN200承認図2(図番BN-200-B)」、「図名BN200基礎伏図(図番BN-200-C)」及び「図名BN200内面図(図番BN-200-D)」は、先行意匠の正面視右側に記載の「正面図」、「背面図」、「側面図」及び「基礎伏図」とその形状及び寸法が一致しているもので、甲第3号証の原図であり、先行意匠(甲第3号証)の形態を補足するためのものである。
なお、請求人が、審判事件弁駁書において、甲第8号証の1として提出した前記の「図名BN200承認図1(図番BN-200-A)」、「図名BN-200承認図2(図番BN-200-B)」、「図名BN200基礎伏図(図番BN-200-C)」及び「図名BN200内面図(図番BN-200-D)」中、「図名BN-200承認図2(図番BN-200-B)」は、日付が2017.2.7であり、「図名BN200基礎伏図(図番BN-200-C)」は、日付が、2017.5.15であるため、本件登録意匠の出願日(2016.7.6)前である日付2012.9.27の「図名BN-200承認図2(図番BN-200-B)」を、甲第8号証の3として、日付2008.7.1「図名BN-200基礎伏図(図番BN-200-C)」を甲第8号証の4として提出する(差し替える)。
また、被請求人は、「甲第8号証図面がいつの時点からホームページからダウンロードが可能になったのかという説明もない。」(口頭審理陳述要領書2頁8行及び9行)と主張しているが、甲第8号証に記載の「図名BN200承認図1(図番BN-200-A)」、「図名BN200承認図2(図番BN-200-B)」、「図名BN200基礎伏図(図番BN-200-C)」及び「図名BN200内面図(図番BN-200-D)」は、本件「ガスボンベ収納庫」を設置する工事等において、施工業者の要望に応じて、請求人が、施工業者に対して提供しているものであり、広く一般的に知られているものである。
その証左として、請求人は、株式会社ホクエイ(請求人)が、自社ホームページにおいて公表しているBN-200A(甲第8号証の1)の更新記録を甲第18号証として提出する。

(b)甲第3号証(先行意匠)のデザインについて
被請求人は、「先行意匠の古さを証拠に基づいて判断している。その証拠は審判請求書7頁中段の記載である。」(口頭審理陳述要領書2頁12行及び13行)と主張している。
しかしながら、被請求人が言う「審判請求書7頁中段」の記載は、「3)先行意匠の特徴」についての記載であり、以下の通りである。(当審注:審判請求書の記載は省略。)
すなわち、無効理由である「先行意匠」の「意匠的特徴」について言及したものであり、先行意匠の商品としての歴史的背景、販売実績、また、略30年に亘って好評を博し、市場占有率も高いロングライフデザインであることを述べたものであり、先行意匠のデザインの古さについて述べたものではない。
敷衍すると、被請求人は、請求人の製造販売に係る先行意匠が、古いデザインであると主張するが、現デザインのボンベックBN-200は、平成6年(1994年)から継続して販売されており、業界においてもトップクラスの出荷台数を誇る製品であり、いわゆる、ロングライフデザインの商品であり、多くの需要者から信頼され、好評を博している意匠である。
請求人は、その証左として、ガス機器関連の製造販売会社において、請求人のBN-200を含むLPガスボンベ収納庫が、カタログに掲載されて販売されていることを示す甲第16号証(株式会社I・T・Oが、2017年1月に発行した総合カタログVOl.3)及び甲第17号証(富土工器株式会社が、2005年に発行した総合力夕口(製品案内))を提出している。
また、被請求人は、「引用意匠が周知性を有するとか、現物の製品が業界トップクラスの販売台数とかは、無効理由と直接関係しない。争点となる無効理由には、甲第3号証意匠から本件登録意匠を容易に創作できるかどうかだけが関係するのである。」(口頭審理陳述要領書2頁14行及び17行)と主張している。
しかしながら、もとより、請求人の前記「3)先行意匠の意匠的特徴」の記載は、先行意匠の周知性について言及したものでない。
なお、請求人は、下記に記載するとおり、「本件登録意匠を無効とすべき理由2」(審判請求書18頁下2行から19頁17行)として、本件登録意匠は、「容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条2項の規定により、意匠登録を受けることができないものであるので、無効理由を有することを主張している。(当審注:審判請求書の記載は省略。)

(c)無効理由1について
(c-1)相違点1について
被請求人は、「物品『ガスボンベ保管庫』において、全体が略直方体の筐体であり、「門」状をなすなどは意匠的特徴を構成するはずがない。なぜならば、保管庫の前面の開口部にシャッターを取り付けるならば、シャッターを案内するレールが左右に2本に必要となって、その左右のレールを配置する以上、保管庫の全体形が「門」形とならざるをえないからである。このような技術的要請によって、「門」形は保管庫の基本構成となるのであり、意匠的特徴は、その上に付加されるものである。したがって、本件登録意匠の意匠的特徴は、『両サイドの柱を形作る縦線は、上端まで伸び切っていること。上部梁の両端縁は柱の縦線で区切られており、上部梁の下端縁が柱の頭部を横切っているのではないこと。この結果、本件登録意匠は上向きに伸びるデザインを意識させるものとなっていること。』等に存するのである。」(口頭審理陳述要領書2頁23行から34行)と主張している。
しかしながら、被請求人の主張は、ガスボンベ保管庫の意匠において、「保管庫の前面の開口部にシャッターを取り付けるならば」と、ガスボンベ保管庫の前面のガスボンベ取り出し口(開口部)にシャッターを取り付けることを、その主張の前提としたものであるが、ガスボンベ保管庫の形態において、その前面のガスボンベの取り出し口(開口部)にシャッターを取り付けるという形態それ自体が、本件登録意匠と先行意匠の形態の特徴を顕著に表出しており、本件登録意匠と先行意匠の形態の共通性の判断に大きな影響を及ぼすものである。
また、被請求人は、「シャッターを案内するレールが左右に2本必要となって、その左右のレールを配置する以上、保管庫の全体形が「門」形とならざるをえないからである。このような技術的要請によって、「門」形は保管庫の基本構成となるのであり、意匠的特徴は、その上に付加されるものである。」と主張している。
しかしながら、請求人が提出している甲第11号証、すなわち、株式会社サンダイヤが発行したカタログ「サンダイヤボンベハウス」に記載された品番K-08Gの「ボンベハウス」の意匠は、全面(当審注:「前面」の誤記と認められる。)が、観音開きの扉であるが、その扉の外回り(周側)は、「門」形をなすものであり、ガスボンベ保管庫における「門」形は、シャッターを取り付けることによる、技術的要請に基づくものではなく、被請求人の主張は、失当である。
したがって、本件登録意匠と先行意匠は、その基本的構成態様において、全体が、やや縦長の略直方体状の筐体であり、その四隅に断面視略横「L」字板状の柱を設け、その正背面の上方に横長略長方形板状の梁を形成し、その正面視左右及び上方に、余地部を略「門」状に形成し、その内方を開口部とし、その開口部に上下にスライドするシャッターを取付けた態様が顕著に共通しているものであり、その本件登録意匠と先行意匠の基本的構成態様が、両意匠の形態全体の骨格を構成し、意匠の基調を成し、両意匠の意匠的特徴を表出する構成態様であり、類否判断に及ぼす影響は大きいものである。
また、被請求人は、「本件登録意匠は上向きに伸びるデザインを意識させるものとなっていることに存する。」と主張するが、上記本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様の顕著な共通性に比べて、被請求人が主張する上部梁の両端縁が、縦線で区切られているか、横線で区切られているかの差異は、ガスボンベ保管庫の上方の両角における僅かな差異であり、さほど目立つものでなく、この種の保管庫、収納庫及び組立物置等の意匠においては、両意匠の態様ともありふれた態様、造形手法であり、需要者の注意を惹くものではなく、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
(c-2)相違点2について
被請求人は、「甲第3号証に通気口が存在することは認めるが、非常に小さく不明瞭に示されたものである。それは、類否判断に影響するとは考えられない。」(口頭審理陳述要領書3頁2行及び3行)と主張している。
すなわち、被請求人は、甲第3号証に通気口が存在することを認め、「非常に小さく不明瞭に示されたものである。それは、類否判断に影響するものではない。」と主張している。
この点については、請求人も、「いずれも、略矩形状の通気口を上方に3個一列に設けた点では共通しており、その個数及び配置の差異は、前記の共通点に包摂される程度のその数及び配置の差異であり、両意匠の差異としてさほど評価されるものではなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。」(審判弁駁書10頁なお書4行から9行)(当審注:審判弁駁書10頁下から3行から11頁3行)と述べており、通気口の態様が、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではないとの被請求人の主張に異論はない。
(c-3)相違点3について
被請求人は、「被請求人の提出した写真は判断の参考のためである。本件登録意匠の図面にも通気ロの開口部は表示されている。」(口頭審理陳述要領書2頁5行から6行)(当審注:口頭審理陳述要領書3頁5行から6行の誤記と認められる。)と主張している。
即ち、被請求人が提出する写真(登録意匠適用製品の写真)は、本件登録意匠の形態の要旨ではなく、意匠の係る物品の理解を助けるためのものであり、本件登録意匠の範囲(願書添付図面)には属さないものであり、この点の認識について、請求人と被請求人の参考写真に関する理解は一致するものである。
してみると、相違点3の両意匠の通気口の配置において、本件登録意匠は、通気口を、正面上方の余地部の4か所に横一列に設けたものであり、他方、先行意匠は、6か所に横一列に設けたものであるが、いずれも、略矩形状の通気口を横一列に設けた点では共通しており、その個数及び配置の差異は、前記の共通点に包摂される程度のその数及び配置の差異であり、両意匠の差異としてさほど評価されるものではなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
また、本件登録意匠の通気口は、小孔を縦横に穿って略矩形状に形成した、いわゆるパンチング孔であり、縦線状のものではない。一方、先行意匠の通気口は、溝孔を格子状に穿って略矩形状に形成したルーバー状のものであるが、この種の物品の通気口の形状において、溝孔を格子状に穿ったものは、先行公知意匠1に見られるように、よく知られた態様であり、また、通気口の形状を略矩形状とすることは極普通であり、両意匠の通気口の差異が、類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
(c-4)相違点4について
被請求人は、「本件登録意匠における角部の丸い面取りは、本件登録意匠と先行意匠との間の相違点として明らかに存在する。」(口頭審理陳述要領書3頁8行及び9行)と主張している。
また、被請求人は、「甲第10号証から甲第13号証について、以下意見する。」(口頭審理陳述要領書3頁9行から10行)と主張し、「甲10から甲13の4点の意匠は、いずれも前面開口部にシャッターがなく、保管庫の基本構成が「門」形でない点で、先行意匠の適格を欠いている。」(口頭審理陳述要領書3頁11行から13行)と主張している。
しかしながら、請求人が提出している「甲第10号証から甲第13号証」は、この種の物品「ガスボンベ保管庫」において、その筐体の四隅の角部を丸く面取りすることが、ガスボンベ保管庫の略直方体状の筐体の造形処理としてはありふれた造形手法であることの間接証拠として提出しているものである。
したがって、筐体の前面にシャッターを取り付けているか否かは、請求人の主張に影響を及ぼすものではない。
そして、被請求人は、「甲第10号証には、角部の面取りは認められない。」(口頭審理陳述要領書3頁15行)と主張している。
しかしながら、甲第10号証は、株式会社ホクエイが、2006年の8月に発行した「LPガス容器収納庫(平成18年10月価格改定版『ボンベック』Vol.11』の5頁下欄に掲載のボンベックDR-100(50キロ容器2本用)の意匠であり、甲第10号証は、ボンベ収納庫において、前面の両側を丸めたデザインを採用した例を示したものである。
その証左として、請求人は、前記ボンベックDR-100の承認図(DR-100承認図(DR-100-A)、DR-100内面図(DR-100-B)、DR-100基礎伏図(DR-100-C)を甲第19号証として提出する。
また、DR-100に係る請求人の特許公開公報、特開平11-257600(発明の名称「プロパンガスボンベ収納庫の扉構造、平成11年9月21日公開」を甲第20号証として提出する。
また、被請求人は、「甲第11号証は、門形ではないながら、角部の面取りがある。」(口頭審理陳述要領書3頁16行)と主張している。
しかしながら、甲第11号証、すなわち、株式会社サンダイヤが発行したカタログ「サンダイヤボンベハウス」に記載された品番K-08Gの「ボンベハウス」(50キロボンベ6?8本用)(平成6年8月現在)の意匠は、全面(当審注:「前面」の誤記と認められる。)の開閉扉が、観音開きであるが、その観音開きの扉の外側(外周)は、「門」形のものであり、被請求人の主張は、失当である。
また、請求人が提出した甲第12号証、すなわち、中国工業株式会社が、1994年3月に発行したカタログ「BOMBE KEEPER ボンベキーパー」に記載された型式NC50WB(二枚戸)の意匠について、被請求人は、「甲第12号証は、保管庫の前面が全体的に湾曲して、そのつながりとして角部が丸められている。」(口頭審理陳述要領書3頁17行及び18行)と主張しているが、ガスボンベ収納庫の両側の角部を丸面状に形成しているものであり、この種の物品「ガスボンベ収納庫」の両側を丸くすることはありふれた造形手法である。
さらに、被請求人は、請求人が提出する甲第13号証、すなわち、株式会社NKKが発行した「UTICハウスユニットシステム収納庫」に記載された「供給設備ユニット用UTIC-502K」の意匠について、「甲第13号証は、保管庫の全面(当審注:「前面」の誤記と認められる。)にある観音開きの取り付け側が丸められているので、角部の丸みはない。」(口頭審理陳述要領書3頁19行及び20行)と主張している。
しかしながら、正面の観音開きの扉と側面が丸面状に連続するものであり、ガスボンベ保管庫の両側の角部を丸面状に形成しているものであり、この種の物品「ガスボンベ保管庫」の両側を丸くすることはありふれた造形手法である。
以上のとおり、本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証)の四隅の角部を丸く面取した形態であるが、その形態の造形手法は、甲第10号証ないし甲第13号証に示すとおり、この種の物品の意匠において普通に知られた造形手法であり、特異性がなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。

(2)無効理由2について
被請求人は、「上記(2)(d)で、意見したとおり、角部を丸める技法は周知でないので、請求人の弁駁は、理由がない。」(口頭審理陳述要領書3頁27行及び28行)と主張している。
しかしながら、本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証)に記載のガスボンベ保管庫の筐体の四隅の角部を丸く面取りしたものであるが、その造形手法は、甲第10号証ないし甲第13号証に示すとおり、普通に知られたありふれた手法であり、また、柱と上梁の構成において、上梁を表面に接合するか、裏面に接合するかの構成に格別の創作はなく、また、通気口について、その形状及び配置に差異があるが、本件登録意匠の通気口の形状は、先行公知意匠1ないし先行公知意匠3から、容易に想到するものであり、その配置の相違も、この種の物品において、甲第3号証の請求人のカタログに普通に見られる変更であって、この種の物品に関する通常の知識を有する当業者であれば、上記の通気口の態様を組み合わせることについて、格別の創作を要さず、容易に想到できるものであり、本件登録意匠は、出願前に公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠である。

(3)むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証)に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定により、意匠登録を受けることができない意匠であり、また、本件登録意匠は、先行意匠及び公知意匠1ないし公知意匠3に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であり、意匠法第3条2項の規定により、意匠登録を受けることができないものであるので、意匠法第48条第1項第1号の規定により、その登録は無効とすべきものである。
よって、請求の趣旨のとおりの審決を求める。

(4)証拠方法
1)甲第8号証の3
BN-200承認図2(BN-200-B)の写し(以下同じ)
日付(承認日:2012年9月27日)
2)甲第8号証の4
BN-200基礎伏図(BN-200-C)
日付(承認日:2008年7月1日)
3)甲第18号証
株式会社ホクエイのインターネットホームページにおける
BN-200-Aの更新記録
4)甲第19号証
DR-100承認図(DR-100-A)
DR-100内面図(DR-100-B)
DR-100基礎伏図(DR-100-C)
5)甲第20号証
公開特許公報 特開平11-257600
公開日:平成11年9月21日
発明の名称「プロパンガスボンベ収納庫の扉構造」
出願人:株式会社ホクエイ

3.審判長
審判長は、この口頭審理において甲第1号証ないし甲第20号証について取り調べ、本件の審理を、以後書面審理とした。

4.上申書
(1)被請求人側上申書
被請求人は、請求人の口頭審理陳述要領書に対して、平成30年7月9日付けで上申書を提出して、以下のとおり意見を述べた。

1)基本的構成態様について
(A)請求人は甲3号公知意匠が本件登録意匠に類似するとの理由付けとして、保管庫の基本形態が「門」形であり、この点で共通するとの主張を当初より行っており、口頭審理においても再度陳述した。しかし、この請求人主張は失当である。

(B)被請求人は、失当である理由を、当方陳述要領書2頁下段において、シャッターを設けた場合の技術的理由によって説明した。
この点をもう少し補足説明する。およそ何かの物を収容し保管する構造物(つまり、保管庫)であれば、開口部(そこを閉める部材がシャッターか扉かは関係なく)がなくてはならず、開口部の周囲には柱なり補強壁なりで作った強度部材が必要になる。そうでないと、構造物の形状を保てないし、開口を通じて物を出し入れする機能を果せないからである。
したがって、「門」形の形状は、およそ物を出し入れする保管庫であれば、当然に伴う形状と考えるべきである。このことは机が天板と脚で構成されるのと同様に当り前のことと思料する。
ゆえに、甲3号公知意匠と本件登録意匠の類否判断は、「門」をなす基本的形態以外の点を、つまり請求人が主張する相違点1?4の点を以って類否判断すべきである。
相違点1?4については、当方答弁書6?9頁に詳述している。

2)甲11号意匠の原本からみた内容について
(A)請求人は角部の面取りが周知の造形手法であるとして、その立証のために甲10号証から甲13号証を提出した。

(B)被請求人は、当方審理陳述書(当審注:「口頭審理陳述要領書」の誤記と認められる。)3頁において、甲10号証、12号証及び13号証は角部を面取りしたものでないと主張し、また甲11号証の1点のみによって周知性は立証できないはずと主張していた。
ところで、請求人陳述要領書の副本(原本)が送られてきたので、改めて精査したところ、同8頁及び同14頁に記載の甲11号写真には面取りがなされているのではなく樋状のカバーを面部に取付けていることが判明した。このことは、角部に1本の縦線が見えることで、そう判断できるものである。
本件登録意匠の角部は、前面から側面にかけて連続してつながる鋼板が角部において丸く湾曲しているものである。当然ながら縦線は見えず、非常にシンプルなスッキリしたデザインとなっている。
これに対し、甲11号意匠は、縦線があることによって煩雑な印象を与えるものであるから、デザインコンセプトが異なっている。
このような相違があることから、甲11号意匠は、本件登録意匠に類似しておらず、また角部の面取りを周知の造を手法と立証するものでもない。

3)詭弁と主張した理由について
(A)平成30年6月29日の口頭審理において、被請求人は「請求人の主張は詭弁」と述べたが、それは請求人口頭審理陳述書(当審注:「口頭審理陳述要領書」の誤記と認められる。)9頁下から6行?末行における「請求人は……通気口の態様が、両意匠の類否判断に影響を及ぼすものでないとの被請求人の主張に異論はない。」との主張に関するものである。ここでの請求人主張は、あたかも、被請求人が請求人主張に同意しているが如き主張になっている。

(B)被請求人がいう類否判断に影響を及ぼさないという理由は、甲3号意匠が不明瞭であって、形状が読み取れないという事実にある。これに対し、請求人は、形状が読み取れることを前提にしたうえで、形態上の相違は小さいと主張しているようである。このように、理由付けが全く違うにもかかわらず、結論部分のみを表面的に把えて、あたかも被請求人が自認しているが如き請求人主張は詭弁に当ると考えるしだいである。

(2)請求人側上申書
請求人は、被請求人の上申書に対して、平成30年7月12日付けで上申書を提出して、以下のとおり意見を述べた。

上記審判事件に関し、被請求人が平成30年7月9日に提出した上申書に記載された「5.陳述の要領(2)(当審注:本審決の(1)2))甲第11号証意匠の原本からみた内容について」に、重要な誤認及び誤った主張があるので以下のとおり上申する。
1)甲第11号証意匠の原本からみた内容について
被請求人は、平成30年7月9日に特許庁審判部審判課特許侵害業務室に提出した「上申書」において、「請求人陳述要領書の副本(原本)が送られてきたので、改めて精査したところ、同8頁および同14頁に記載の甲第11号証写真には面取りがなされているのではなく、樋状のカバーを面部に取付けていることが判明いたしました。このことは、角部に1本の縦線が見えることで、そう判断できるものである。」(上申書2頁14行から17行)と上申しているが、具体的な根拠(証拠)に基づくものではなく、単なる推測による誤った主張である。
請求人は、その証左として、甲第11号証について、請求人である株式会社ホクエイ製造部に所属する小原浩二氏の「サンダイヤボンベハウスK-08Gの角部構造について」を補足(参考資料)して、甲第11号証に記載のボンベ保管庫の構造について明らかにする。
すなわち、被請求人が、「樋状のカバーを面部に取付けていることが判明」としているのは偽りであり、当該部位は「コーナー柱」であり、角部にカバーを取付けた(被せた)ものではない。
したがって、本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証)の四隅の角部を丸く面取した形態であり、その形態の造形手法は、甲第11号証に示すとおり、この種の物品の意匠において普通に知られた造形手法であり、特異性がなく、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。

第6 当審の判断
1.本件登録意匠(甲第2号証の意匠)(別紙第1参照)
本件登録意匠の認定は、以下のとおりである。
(1)意匠に係る物品
意匠に係る物品は、「ガスボンベ保管庫」であり、庫内にプロパンガスボンベを複数本収容することができるガスボンベ専用の保管庫である。

(2)本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)
全体の構成として、
1)全体は、正背面方向に扁平な略縦長直方体形状の筐体で、その正面部及び背面部は、それぞれ門型(略倒「コ」字状)に縁部を残し(以下「門型縁部」という。)、正面部の縁部の内側には縦長長方形状で上下開閉式のスラットシャッター部を取り付け、背面部の縁部の内側は2本の縦線で3分割した縦長長方形状の壁面部としたものである。
具体的態様として、
2)縦(高さ)、横、奥行きの比率は、約1:0.9:0.3である。
3)平面部の態様において、略横長長方形状とし、左右端部近傍にそれぞれ縦に区切り線を設け、上下中央やや上側で、左右の区切り線の間に略横長細帯条部を1本設けたものである。
左右端部外縁に、それぞれ縦の長さよりやや短い縦長極細帯状に樋部を設けている。
4)正面部の態様において、門型縁部は、縦長矩形状の柱部と横長矩形状の梁部からなり、梁部を左右の柱部で挟み込んだものである。
梁部の上下中央やや上側に、複数の小孔を縦に近接して穿設したものを横に6列配置した略正方形状の通気口部を等間隔に4つ設けている。
柱部の横幅と梁部の高さの比率は、約1:1.2である。
左右の柱部の上端寄り内側端部に、小円部を縦に2個ずつ近接して設けている。
スラットシャッター部は、複数の横帯状のスラットを縦に連接してなるものであって、下から約1/3の高さの位置のやや左右端部寄りに2箇所、横長長方形状の手掛部を取り付けている。
上端部に、横の長さよりやや短い横長細帯状の突条部を設け(平面部の略横長細帯条部のこと。)、その手前に、高さがこの突条部の半分程度で、左右端部を傾斜状とした小突条部を設けている。
左右端部の上端部近傍に、それぞれ傾斜した板体状の樋部を設けている(平面部の樋部のこと。)。
5)背面部の態様において、門型縁部は、縦長矩形状の柱部と横長矩形状の梁部からなり、梁部を左右の柱部で挟み込んだものである。
柱部の横幅と梁部の高さはほぼ同じである。
梁部の上下中央やや下側に、複数の小孔を縦に近接して穿設したものを横に6列配置した略正方形状の通気口部を等間隔に4つ設けている。
下端部の中央寄り左右対称の位置に略横長矩形状の切欠部を2つ形成している。
壁面部は、3分割した3面のうち左右の面は同幅で、中央の面は、左右の面よりやや広幅である。
上端部に、横の長さよりやや短い横長細帯状の突条部を設け(平面部の略横長細帯条部のこと。)、その手前に、高さがこの突条部の半分程度で、左右端部を傾斜状とした小突条部を設けている。
左右端部の上端部近傍に、それぞれ傾斜した板体状の樋部を設けている(平面部の樋部のこと。)。
6)右側面部の態様において、略縦長長方形状とし、その左右端部を細長矩形状の柱部とし(この柱部は、それぞれ正背面部の柱部と一体のもので、縦長長方形板を湾曲させて筐体四隅に取り付けたものであって、横幅は、正背面部側の横幅の約3分の1の長さとしている。)、左右の柱部の間に縦長長方形状の側壁部を下端部にやや隙間を空けて取り付けている。
側壁部の左右中央部の上下端部近傍に、複数の小孔を横に近接して穿設したものを縦に6列配置した略正方形状の通気口部をそれぞれ3つずつ縦に近接して設けている。
上端部に、全長より幅狭で下辺を正面側にやや傾斜した略横長矩形状の樋部を取り付けている(平面部の樋部のこと。)。
上端部の左右端部に、正面部及び背面部の小突条部の側面部が小突起状に表れている。
上端部中央やや右寄りに、突条部の側面部が突起状に表れている。
7)底面部の態様において、四隅の角部を弧状とした略横長長方形状とし、その四隅に、略変形五角形状の脚部(柱部の底面部)を形成し、内部は、中空である。
左右端部外縁に、それぞれ縦の長さよりやや短い縦長極細帯状の樋部を設けている(平面部の樋部のこと。)。
8)左側面部の態様は、右側面部の態様と対称である。

2.無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由の要旨は、以下のとおりである。
(1)無効理由1
本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物である甲第3号証に示す意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件登録意匠は、先行意匠、公知意匠1、公知意匠2及び公知意匠3に基づいて、通常の知識を有する者が、容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条2項の規定により、登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

3.無効理由の判断
(1)無効理由1
本件登録意匠が、甲第3号証の意匠(以下「甲第3号意匠」という。)と類似する意匠であるか否かについて検討する。
なお、甲第3号意匠を認定するにあたり、請求人が、甲第3号意匠を拡大した図として提出した甲第8号証のうち、甲第3号意匠を拡大した図と認められるものについては、必要に応じてこれを参酌することとする。

1)証拠の説明
(ア)甲第3号意匠
(ア-1)甲第3号証は、審判請求書に添付された証拠説明書の記載によれば、株式会社ホクエイが、2014年4月30日に発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVol.15」の7頁に記載された「LPガス容器収納庫(ボンベックBN-200(50キロ容器4本用))」の意匠である。(別紙第2参照)
なお、当該カタログが頒布された日付については、裏表紙下端にある「2014.4」の記載および弁駁書に添付された証拠(当該カタログを印刷した印刷業者からの請求明細書、甲第9号証の1)に日付(2014.4.30)の記載があるところ、これらの日付の記載に基づいて、このカタログが、2014年4月に頒布されたとすることに、特に信用性を疑わせる事情は認められないから、当該カタログの公知日は、2014年4月30日と認定する。
また、当審において、甲第3号意匠は、左側に掲載される斜視図と右側上の正投影図(正面図、背面図、側面図)により表された意匠と認定し、斜視図には表されていない右側下の2図(基礎伏図)は、当該カタログの3頁の説明によれば、本収納庫を載置する際、必要となるコンクリート基礎の寸法を表したものと認められるから、除外するものとする。

(ア-2)意匠に係る物品
甲第3号意匠の意匠に係る物品は「LPガス容器収納庫」であり、庫内にプロパンガスボンベを複数本収容することができるガスボンベ専用の保管庫である。

(ア-3)形態
全体の構成として、
ア)全体は、正背面方向に扁平な略縦長直方体形状の筐体で、その正面部及び背面部は、それぞれ門型に縁部を残し、正面部の縁部の内側には縦長長方形状で上下開閉式のスラットシャッター部を取り付け、背面部の縁部の内側は2本の縦線で3分割した縦長長方形状の壁面部としたものである。
具体的態様として、
イ)縦(高さ)、横、奥行きの比率は、約1:0.8:0.3である。
ウ)平面部の態様は、図の開示がないため、不明である。
エ)正面部の態様において、門型縁部の上端部を横長矩形状の梁部とし、その左右端部の下側に縦長矩形状の柱部を取り付けたものである。
梁部の上端部でスラットシャッター部の直上に、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを縦に8列配置した略縦長長方形状のルーバー状の通気口部を、中央部、左端部、右端部に2つずつやや近接して6つ設けている。
柱部の横幅と梁部の高さの比率は、約1:0.85である。
スラットシャッター部は、複数の横帯状のスラットを縦に連接してなるものであって、下端部にやや隙間を空けており、また、下から約1/3弱の高さの位置のやや左右端部寄りに2箇所、横長長方形状の手掛部を取り付けている。
梁部の直上に、横長帯状の張り出し部を形成している。
上端部に、横の長さと同じ幅の突条部を設けている。
左右端部の上端部近傍に、それぞれ傾斜した板体状の樋部を設けている。
オ)背面部の態様において、門型縁部の上端部を横長矩形状の梁部とし、その左右端部の下側に縦長矩形状の柱部を取り付けたものである。
柱部の横幅と梁部の高さの比率は、約1:0.6である。
壁面部は、3分割した3面のうち左右の面は同幅で、中央の面の横幅は、左右の面の横幅の2倍強であり、中央の面には、大小2つの略隅丸縦長長方形状を同心形に重ねた線模様を表している。
梁部の上端部で壁面部の直上に、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを縦に7列配置した略縦長長方形状のルーバー状の通気口部を、中央部、左端部、右端部に2つずつやや近接して6つ設けている。
下端部の中央寄り左右対称の位置に略横長矩形状の切欠部を2つ形成している。
梁部の直上に、横長帯状部を形成している。
上端部に、横の長さと同じ幅の突条部を設けている(正面部の突条部のこと。)。
左右端部の上端部近傍に、それぞれ傾斜した板体状の樋部を設けている(正面部の樋部のこと。)。
カ)右側面部の態様において、略縦長長方形状とし、その左右端部を縦長矩形状の柱部とし(この柱部は、それぞれ正背面部の柱部と一体のもので、縦長長方形板を直角に折り曲げ、筐体四隅に取り付けたものであって、側面部側の横幅は、正背面部側の横幅の約2分の1強の長さとしている。)、左右の柱部の間に、柱部の横幅の長さと同じ横幅の縦長矩形状の側壁部を下端部にやや隙間を空けて取り付けている。
左右の柱部と側壁部の上端部近傍に、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを、左右の柱部は縦に5列配置し、側壁部は縦に6列配置した略縦長長方形状のルーバー状の通気口部を設けている。
左右の柱部の下端部の内側を、側壁部の下端部の高さに合わせて、それぞれ略逆L字状に切り欠いている。
左辺上端部をわずかに左側に突出させて張り出し部としている(正面部の張り出し部のこと。)。
上端部全体に、下辺を背面側に傾斜した略横長矩形状の樋部を取り付けている(正面部及び背面部の樋部のこと。)。
上端部中央に、突条部の側面部が突起状に表れている。
キ)底面部の態様は、図の開示がないため、底面視の態様は不明である。
ク)左側面部の態様は、図の開示がないため、左側面視の態様は不明である。

(イ)甲第8号証の1及び甲第8号証の3(別紙第3参照)
(イ-1)日付について
甲第8号証の1は、1頁目には、正面図、側面図、平面図が表されており(図名「BN-200承認図1」、図番「BN-200-A」)、2頁目には、背面図(図名「BN-200承認図2」、図番「BN-200-B」)が表されている。
ただし、背面図については、右下の日付が、2017.2.7となっており、本件登録意匠の出願日より後の日付となっている。これについて、請求人は、口頭審理陳述要領書において、「『図名BN-200承認図2(図番BN-200-B)』は、日付が2017.2.7(中略)であるため、本件登録意匠の出願日(2016.7.6)前である日付2012.9.27の『図名BN-200承認図2(図番BN-200-B)』を、甲第8号証の3として提出する(差し替える)。」旨の記載によって訂正し、甲第8号証の3を提出した。

(イー2)図の認定
弁駁書の記載によれば、甲第8号証の1及び甲第8号証の3に記載の図は、甲第3号意匠の右側上の正投影図をより明確に表した図とのことであるが、このうち、正面図、側面図、背面図の3図は、甲第3号証の右側上の正投影図をそのまま拡大した図ではないものの(側面図を一部透視図として表している。)、実質的に、甲第3号証の右側上の正投影図を拡大した図と同等のものと認めて差し支えないものであるから、甲第3号意匠を認定するにあたり、細部の形状等を特定するため、必要に応じて参酌する(側面図の一部透視図として表される内部構造については参酌しない。)。
一方、甲第8号証の1の図について、このうち平面図及び内面図3図は、甲第3号証にはない図であり、また、基礎正面図及び基礎平面図は、コンクリート基礎を表した図であるから、甲第3号意匠を認定するにあたり、これらの図については参酌しないものとする。

(イ-3)形態
正面図、側面図、背面図によって表される意匠は、甲第3号意匠の右側上の正投影図(正面図、側面図、背面図)と実質的に同一のものである。側面図については、右端部の一部を切り欠いて一部透視図として表している。

(ウ)甲第8号証の2(別紙第3参照)
甲第8号証の2は、弁駁書の記載によれば、甲第8号証の1の図から指示線及び寸法を取り除いた参考図面とのことであるが、甲第8号証の2に記載の図には、図の表記がなく、また、甲第8号証の1に記載の図とは縮尺が異なっている(甲第8号証の2に記載の図の方が大きい。)ものの、実質的に甲第8号証の1と実質的に同一の図と認められる。
そして、甲第8号証の2の図のうち、正面図、側面図、背面図の3図は、甲第3号証の右側上の正投影図をそのまま拡大した図ではないが(側面図を一部透視図として表している。)、実質的に、甲第3号証の右側上の正投影図を拡大した図と同等のものと認めて差し支えないものであるから、甲第3号意匠を認定するにあたり、細部の形状等を特定するため、必要に応じて参酌する(側面図の一部透視図として表される内部構造については参酌しない。)。
一方、甲第8号証の2の図のうち、平面図及び内面図3図は、甲第3号証にはない図であり、また、基礎正面図及び基礎平面図は、コンクリート基礎を表した図であるから、甲第3号意匠を認定するにあたり、これらの図については参酌しないものとする。

(エ)甲第8号証の4(別紙第3参照)
甲第8号証の4は、甲第8号証の1の3頁目(図名「BN-200基礎伏図」、図番「BN-200-C」)の日付が、2017.5.15となっており、本件登録意匠の出願日より後の日付となっているため、請求人が、口頭審理陳述要領書において、差し替えたものである。
しかしながら、基礎伏図は、甲第3号意匠の認定から除外するものであることは、上記(ア-1)のとおりであるから、甲第3号意匠を認定するにあたり、甲第8号証の4の図については参酌しないものとする。

2)本件登録意匠と甲第3号意匠の意匠に係る物品の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は、「ガスボンベ保管庫」であるのに対し、甲第3号意匠の意匠に係る物品は、「LPガス容器収納庫」である。

3)本件登録意匠と甲第3号意匠(以下「両意匠」ともいう。)の形態の対比
(ア)共通点
(A)全体の構成として、正背面方向に扁平な略縦長直方体形状の筐体とし、その正面部及び背面部は、それぞれ門型縁部を形成し、正面部の縁部の内側には縦長長方形状で上下開閉式のスラットシャッター部を取り付け、背面部の縁部の内側は2本の縦線で3分割した縦長長方形状の壁面部としたものである点。
具体的態様として、
(B)正背面部の門型縁部は、2本の柱部と梁部からなるものである点、
(C)正背面部の梁部及び右側面部の上端部寄りに、略矩形状の通気口部を複数設けている点、
(D)平面部に、略横長細帯条部を1本設けている点(甲第3号意匠の平面視の態様は不明ながら、正背面部及び右側面部の態様から、このように推認できるものである。)
(E)背面部及び右側面部の下端部に、それぞれ略横長矩形状の切欠部を形成している点、
(F)右側面部の上端部に、下辺を傾斜した略横長矩形状の樋部を取り付けている点、
(G)スラットシャッター部の下から約1/3弱の高さの位置に、2箇所、手掛部を設けている点。

(イ)差異点
主な差異点として、
(a)筐体四隅の柱部の態様において、本件登録意匠は、柱部の角部を弧状とし、側面部側の横幅は、正背面部側の横幅の約3分の1の長さとしているのに対し、甲第3号意匠は、柱部の角部を直角に折り曲げ、側面部側の横幅は、正背面部側の横幅の約2分の1強の長さとしている点、
(b)筐体の上端部の態様において、本件登録意匠は、正背面部側の端部に、それぞれ小突条部を設け、梁部の直上に、張り出し部は取り付けていないのに対し、甲第3号意匠は、正背面部側の端部に小突条部はなく、正面部の梁部の直上に、張り出し部を取り付けている点、
(c)正背面部の門型縁部の態様において、本件登録意匠は、梁部を左右の柱部で挟み込んだものであるのに対し、甲第3号意匠は、梁部の左右端部の下側に柱部を取り付けたものである点、
(d)背面部の壁面部の態様において、本件登録意匠は、3つの面は、ほぼ同幅(中央の面は、左右の面より若干広幅である。)で、無模様であるのに対し、甲第3号意匠は、中央の面の横幅は、左右の面の2倍強で、また、中央の面には、大小2つの略隅丸縦長長方形状を同心形に重ねた線模様を表している点、
(e)通気口部の態様
(e-1)正面部の態様において、
本件登録意匠は、梁部の上下中央やや上側に、複数の小孔を縦に近接して穿設したものを横に6列配置し略正方形状とした通気口部を等間隔に4つ設けているのに対し、甲第3号意匠は、梁部の上端部(スラットシャッター部の直上)に、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを縦に8列配置し略縦長長方形状としたルーバー状の通気口部を、中央部、左端部、右端部に2つずつやや近接して6つ設けている点、
(e-2)背面部の態様において、
本件登録意匠は、梁部の上下中央やや下側に、(e-1)と同じ通気口部を等間隔に4つ設けているのに対し、甲第3号意匠は、梁部の上端部(壁面部の直上)に、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを縦に7列配置し略縦長長方形状としたルーバー状の通気口部を、中央部、左端部、右端部に2つずつやや近接して6つ設けている点、
(e-3)右側面部の態様において、
本件登録意匠は、側壁部の左右中央部の上下端部近傍に複数の小孔を横に近接して穿設したものを縦に6列配置し略正方形状とした通気口部をそれぞれ3つずつ縦に近接して設けているのに対し、甲第3号意匠は、左右の柱部と側壁部の上端部近傍に、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを、左右の柱部は縦に5列配置し略縦長長方形状としたルーバー状の通気口と、側壁部は縦に6列配置し略縦長長方形状としたルーバー状の通気口部を設けている点。

(ウ)両意匠の類否判断
(α)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「ガスボンベ保管庫」であり、甲第3号意匠の意匠に係る物品は「LPガス容器収納庫」であるが、いずれも庫内にガスボンベを複数本収容することができるガスボンベ専用の保管庫であるから、両意匠の意匠に係る物品は、共通する。

(β)両意匠の類否判断について
本件登録意匠の「ガスボンベ保管庫」及び甲第3号意匠の「LPガス容器収納庫」は、通常、屋外に設置して使用されるものであって、スラットシャッター部の手掛部の位置から、人の背丈よりも高い比較的大型のものである。そのため、需要者は、使用時において底面部を除く各部の形態について観察することとなるが、特に、正面部及び側面部から看取される態様が注意を引きやすい部分といえる。
そして、ここにいう需要者とは、プロパンガス(LPガス)の取扱業者や、ガスボンベを搬入、設置、固定し、又は搬出する作業者であるから、これらの者の視点から、各部の形態を評価し、かつそれらを総合して意匠全体として形態を評価する。

(γ)形態の共通点の評価
まず、共通点Aのうち、全体の構成の共通点として挙げた(A)と、具体的態様の共通点として挙げた(B)及び(G)についてであるが、一般的な収納庫において、搬出入口を正面部中央に置き、その周囲を柱部と梁部で門型に構成して(門型縁部)、その搬出入口に手掛部を有するスラットシャッター部を取り付け、背面部側にも同じく門型縁部を設けてその内側を壁面部としたものは、本件登録意匠の出願前より普通に見受けられるものであるから(例えば、意匠登録第1137140号の意匠、参考意匠1、別紙第4参照)、両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであって、これらの点が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいものである。
次に、具体的態様の共通点として挙げた(C)及び(E)について、この種物品の分野において、庫内温度の上昇を抑制したり、ガス漏れした場合、ガスが庫内に充満する危険を回避するため空気を循環させる目的で、保管庫の上方に通気口部を設けたり下端部に切欠部を設けて開口したりすることは、機能上不可欠であるところ、両意匠の態様も、こうした物品の特性を満たすために設けられたものに過ぎず、また、(C)の通気口部を略矩形状とし、複数個並べている点、(E)の背面部及び右側面部の下端部に、それぞれ略横長矩形状の切欠部を形成している点は、いずれも両意匠のみに共通する態様ではないことから(例えば、意匠登録第1012265号の意匠、参考意匠2、別紙第5参照)、両意匠の類否判断に与える影響は小さいものである。
また、(D)について、需要者が、筐体を見上げた際、甲第3号意匠は、側面部から略横長細帯条部の端部を樋部越しに確認できるとしても、本件登録意匠は、当該突条は背面部寄りに設けられ、また、長さが筐体横幅より短く、正面側、側面側からは、ほとんど看取できないものであるから、需要者の注意をひく部分とはいえず、類否判断に与える影響は小さいものである。

そうすると、共通点(A)ないし共通点(G)は、いずれも両意匠の類否判断に与える影響は小さく、これらを総合して共通点があいまった効果を勘案しても、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいといわざるを得ない。

(δ)形態の差異点の評価
これに対して、両意匠の形態の差異点については、以下のとおり評価され、差異点を総合すると、上記共通点の影響を圧して両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

まず、(a)の筐体四隅の柱部の態様についてであるが、四隅の角部を弧状としたものであるか、直角に折り曲げたものであるかの相違は、需要者が一見して識別できる差異であって、筐体全体の視覚的印象を決定付けるものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。

次に、(b)の筐体の上端部の態様については、本件登録意匠は、上端部に張り出し部はなく、シンプルですっきりした縦のラインを形成しているのに対し、甲第3号意匠は、正面部の上端部を前方に若干張り出して張り出し部を形成しており、この張り出し部によって、上方への開放感は打ち消され、上から蓋をしたような印象をもたらしており、需要者の視覚的印象に与える影響は大きいものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きいといえる。一方、正背面部側の小突条部の有無については、高さのごく低いものであって、さほど目立つものではないので、両意匠の類否判断にほとんど影響を与えないものといえる。

また、(c)の正背面部の門型縁部の態様については、本件登録意匠は、左右の柱部は、梁部に遮られることなく筐体の上端部に達しており、上記(b)の態様と相まって、縦のラインを強調する効果をもたらしているのに対し、甲第3号意匠は、上端部(張り出し部の下側)に、筐体の横幅いっぱいに梁部を設けて、その下に柱部を取り付けているため、張り出し部とともに横のラインを強調する効果をもたらしており、需要者に、異なる視覚的印象を与えているものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きいといえる。

そして、(e)の通気口部の態様について、まず、通気口部の形態についてみると、本件登録意匠は、正面部、背面部、右側面部のいずれの通気口部も、複数の小孔を一列に近接して穿設したものを縦又は横に複数列配置し略正方形状としたものであるのに対し、甲第3号意匠は、いずれの通気口部も、横長細幅の略扁平かまぼこ状のスリットを縦に複数列配置し略縦長長方形状としたルーバー状であるから、一見して需要者が気付く差異である。そして、正面部、背面部、右側面部におけるそれぞれの通気口部の具体的な配置態様においても、正背面部については、本件登録意匠は、梁部の略上下中央に、等間隔に4つ設けているのに対し、甲第3号意匠は、梁部の上端部の中央部、左端部、右端部に2つずつやや近接して6つ設けており、また、右側面部については、本件登録意匠は、側壁部の左右中央部の上下端部近傍にそれぞれ3つずつ縦に近接して設けているのに対し、甲第3号意匠は、左右の柱部と側壁部の上端部近傍にそれぞれ1つずつ横に並べて設けているものであるから、その配置位置や数が異なっており、通気口部の形態の相違と相まって、需要者に異なる印象を与えるものといえ、両意匠の類否判断に与える影響は大きいといえる。

そうすると、差異点(a)ないし差異点(e)は、いずれも需要者の視覚的な印象に影響を与えるものであって、これらが相まって両意匠を別異のものと印象づけるものであるから、両意匠の共通点をしのぐものであるといわざるを得ない。

4)以上のとおり、本件登録意匠と甲第3号意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、共通点(A)ないし共通点(G)が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、差異点(a)ないし差異点(e)は、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、甲第3号意匠に類似しているとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由1には、理由がない。

(2)無効理由2
請求人は、前記第2の1.(3)2)に示すとおり、本件登録意匠は、「先行意匠、公知意匠1、公知意匠2及び公知意匠3に基づいて、通常の知識を有する者が、容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条2項の規定により、登録を受けることができないもの」と主張している。

具体的には、前記第2の1.(5)に示すとおり、本件登録意匠は、「先行意匠(甲第3号証)の四隅の角部を丸く面取りし、正面上方の梁を柱の表面に接合したものであるが、角部を丸く面取りすることは、略直方体状の筐体の造形処理としてはありふれた周知の造形手法であり、また、梁を表面に接合するか、裏面に接合するかに、格別の創作はなく、筐体の上面の態様を単にありふれた造形処理により改変した程度のものであり、また、通気口について、その形状及び配置に差異があるが、本件登録意匠の通気口の形状は、公知意匠1ないし公知意匠3から、容易に想到するものであり、その配置の相違も、この種の物品において、甲第3号証の請求人のカタログに普通に見られるとおり、ありふれた手法による変更であり、この種の物品に関する通常の知識を有する当業者であれば、上記の通気口の態様を組み合わせることについて、格別の創意を要さず、容易に想到できるものである」とするものである。

1)証拠の説明
(ア)先行意匠(甲第3号証の20の意匠、別紙第6参照)
先行意匠は、株式会社ホクエイが、2014年4月30日に発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVol.15」の7頁ないし11頁に掲載される合計20台の「LPガス容器収納庫」(ボンベックBN-100MT(50キロ容器2本用)、ボンベックBN-100(50キロ容器2本用)、ボンベックBN-200(50キロ容器4本用)、ボンベックBN-200D(50キロ容器4本用)、ボンベックBN-250(50キロ容器6本)、ボンベックBN-300MT(50キロ容器6本用)、ボンベックBN-300(50キロ容器8本用)、ボンベックBN-300D(50キロ容器6本用)、ボンベックBN-400(50キロ容器8本用)、ボンベックBN-400D(50キロ容器8本用)、ボンベックBN-500(50キロ容器10?12本用)、ボンベックBN-500W(50キロ容器10本用)、ボンベックBN-500D(50キロ容器10本用)、ボンベックBN-600(50キロ容器12本用)、ボンベックBN-600D(50キロ容器12本用)、ボンベックBN-800D(50キロ容器16本用)、ボンベックBN-800W(50キロ容器16本用)、ボンベックBN-950D(50キロ容器18本用)、ボンベックBN-950W(50キロ容器20本用)、ボンベックBN-1000D(50キロ容器20本用))の意匠である。
その形態は、いずれも、略直方体形状の筐体であり、正面部、背面部、側面部の上端部に近接した位置に、略縦長長方形状の通気口部を、横に並べて複数個、配置したものである。

(イ)甲第4号証の意匠(公知意匠1、別紙第7参照)
甲第4号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である平成12年(2000年)8月21日発行の意匠公報所載の意匠登録第1082812号の意匠(意匠に係る物品、ごみ集積庫)である。
その形態は、全体が、略横長直方体形状の筐体の上端部に筐体平面部より一回り大きい略横長長方形板状の屋根部を背面側にやや傾斜状に取付けたものであって、正面部の周囲に縁部を設け、その内部は略同幅に縦に4分割して、内側の2面が左右にスライドする扉としたものである。そして、正面部には、各面の左右中央、上端部寄りと上下中央に、複数の小孔を縦横に規則的に穿設し略縦長長方形状に形成した通気口部を1つずつ近接して設け、左右側面部には、左右端部寄りと中央寄りの4箇所の上端部寄りと上下中央に、複数の小孔を縦横に規則的に穿設し略縦長長方形状に形成した換気口部(通気口部と同等のものなので、以下、通気口部という。)を、1つずつ近接して設けたものである。

(ウ)甲第5号証の意匠(公知意匠2、別紙第8参照)
甲第5号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である平成12年(2000年)6月5日発行の意匠公報所載の意匠登録第1073271号の意匠(意匠に係る物品、組立物置)である。
その形態は、全体が、略横長直方体形状の筐体の上端部に筐体平面部よりやや大きい略横長長方形板状の屋根部を取付けたものであって、正面部の周囲に縁部を設け、その内部は略同幅に縦に4分割して、内側の2面が左右にスライドする扉としたものである。そして、正面部の扉の上端部から中央付近まで、幅いっぱいに複数の小孔を規則的に穿設し、そのうち横線状の無孔エリアを4箇所設けて通気口部とし、左右側面部は、同幅に縦に2分割して、正面側の面の上端部から中央やや上付近まで、幅いっぱいに複数の小孔を規則的に穿設し、そのうち横線状の無孔エリアを4箇所設けて通気口部としたものである。

(エ)甲第6号証の意匠(公知意匠3、別紙第9参照)
甲第6号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である平成12年(2000年)6月5日発行の意匠公報所載の意匠登録第1073272号の意匠(意匠に係る物品、組立物置)である。
その形態は、全体が、略横長直方体形状の筐体の上端部に筐体平面部よりやや大きい略横長長方形板状の屋根部を背面側にやや傾斜状に取付けたものであって、正面部の周囲に縁部を設け、その内部は略同幅に縦に4分割して、内側の2面が左右にスライドする扉としたものである。そして、正面部の外側の2面の上端部から中央やや上付近まで、幅いっぱいに複数の小孔を規則的に穿設して通気口部としたものである。

(オ)甲第10号証の意匠(別紙第10参照)
甲第10号証の意匠は、株式会社ホクエイが、2006年の8月に発行したカタログ「LPガス容器収納庫(平成18年10月価格改定版『ボンベック』Vol.11』の5頁下欄に掲載のボンベックDR-100(50キロ容器2本用)の意匠である。
その形態は、全体が、略縦長直方体形状の筐体の上端部に、略横長長方形板状の屋根部を取付けたものであって、正面部の左右に縁部を設け、その内側に、端面視略扁平U字状に前面に突出した両開き扉を設けたものである。筐体の正面部の左右の縁部の角部は、直角に屈曲している。

(カ)甲第11号証の意匠(別紙第11参照)
甲第11号証の意匠は、株式会社サンダイヤが、平成6年(1994年)7月に発行したカタログ「サンタイヤボンベハウス」に記載された品番K-08の「ボンベハウス」(50キロボンベ6?8本用)の意匠である。
その形態は、全体が、略縦長直方体形状の筐体の上端部に、上面を背面側にやや傾斜した横長長方形板状の架台部を設け、その上に、波板状の屋根部を正背面部側にやや張り出して取付けたものであって、正面部において、架台部の下を門型縁部(両端に柱部を設け、その内側に壁面部を配置し、左右の壁面部で梁部を挟み込んでいる。)とし、門型縁部の内側に左右にスライドする扉を設けたものである。筐体の側面側四隅(柱部)の角部は、面取りが施されている。
なお、柱部の角部について、被請求人は、上申書を提出し、甲第11号証の意匠は、「面取りがなされているのではなく樋状のカバーを面部に取り付けている」旨指摘するが、仮に、被請求人が主張するとおり、甲第11号証の意匠の柱部の角部に別部材をはめ込んでいたとしても、それが意匠創作上の特徴として表れていない限り、柱部の角部が同一部材であるか否かは、単なる構造上の問題であるから、当審においては、上記のとおり認定する。

(キ)甲第12号証の意匠(別紙第12参照)
甲第12号証の意匠は、中国工業株式会社が、1994年3月に発行したカタログ「BOMBE KEEPERボンベキーパー」に記載れた型式NC50WB(二枚戸)の意匠である。
その形態は、左右に角棒状の支柱部を設け、その上端部に正面側を傾斜状とした正面視、略横長矩形状の屋根部を取付け、屋根部の直下に換気用の空間を設け、その下側全体に端面視略扁平U字状の両開き扉を設けたものである。両開き扉の左右端部の角部は湾曲状に形成されている。

(ク)甲第13号証の意匠(別紙第13参照)
甲第13号証の意匠は、株式会社NKKが発行したカタログ「UTICハウスユニットシステム収納庫」に記載された「供給設備ユニット用UTIC-502K」の意匠である。
その形態は、アーチ状に湾曲させた支柱部に、略縦長直方体形状の筐体を設置し、その前側全体を両開き扉としたものである。両開き扉の左右端部の角部は湾曲状に形成されている。
なお、このカタログの発行日の記載は確認できない。

(ケ)甲第19号証の意匠(別紙第14参照)
甲第19号証の意匠は、甲第10号証の意匠が、前面の両側を丸めたものであることを立証するため、請求人が口頭審理陳述要領書において提出したもの(1頁目の右下の日付は、2001.10.22となっている。)であるが、このうち、正面図、側面図、背面図の3図は、甲第10号証の左側上の正投影図をそのまま拡大した図ではないものの(甲第10号証の正面図及び側面図を一部透視図として表している。)、実質的に、甲第10号証の左側上の正投影図を拡大した図と同等のものと認めて差し支えないものであるから、甲第10号意匠を認定するにあたり、細部の形状等を特定するため参酌する。
一方、甲第19号証の図のうち平面図及び内面図3図は、甲第10号証にはない図であり、また、基礎正面図及び基礎平面図は、コンクリート基礎を表した図であるから、甲第10号意匠を認定するにあたり、これらの図については参酌しないものとする。

2)創作容易性の判断
請求人の無効理由2についての主張は、本件登録意匠は、(A)筐体の側面側四隅の角部を弧状とすることは、ありふれた周知の造形手法であり、(B)正背面部の門型縁部の態様(梁を表面に接合するか、裏面に接合するか)は、ありふれた造形処理による改変であり、(C)通気口部の形態及び配置は、容易に想到できるものであるから、当業者であれば容易に意匠の創作をすることができたというものである。
したがって、これらの点について、本件登録意匠が当業者によって容易に創作できたものであるかについて検討し判断する。

(A)について、請求人は、弁駁書において、「ガスボンベ保管庫の筐体の四隅を丸く面取りすることがありふれた周知の手法であることを証明する。」とし、その証拠として、甲第10号証ないし甲第13号証を提出した。
本件登録意匠の筐体四隅の柱部の形態については、第6 1.(2)6)のとおり、それぞれ正背面部の柱部と側面部の柱部は一体のもので、縦長長方形板を湾曲させて筐体四隅に取り付けたものであるから、筐体の側面側四隅の角部は、弧状に面取りしたものとなっている。
一方、請求人が提出した甲第10号証ないし甲第13号証の意匠についてみると、
甲第10号証の意匠は、筐体の正面部の左右の縁部の角部は、直角に屈曲している。
甲第11号証の意匠は、筐体の側面側四隅(柱部)の角部は、面取りが施されている。
甲第12号証の意匠は、両開き扉の左右端部の角部は湾曲状に形成されている。
甲第13号証の意匠は、両開き扉の左右端部の角部は湾曲状に形成されている。
まず、甲第10号証の意匠は、筐体の正面部の左右の縁部の角部は、屈曲状であって、弧状には面取りされていない。
次に、甲第12号証及び甲第13号証の意匠は、支柱に取り付けられた扉の角部が湾曲状に形成されたものであり、筐体の側面側四隅の角部を弧状としたものではない。
一方、甲第11号証の意匠は、柱部の側面側四隅の角部は面取りが施されているものであるから、この点において本件登録意匠と共通するものである。しかしながら、甲第11号証の意匠は、筐体の上端部に、上面を背面側にやや傾斜した横長長方形板状の架台部を設けており、この架台部の側面側四隅の角部は、面取りが施されていないものであって、本件登録意匠のように、筐体の側面側四隅の角部全体を弧状としたものではない。
そうすると、(A)について、本件登録意匠のように、筐体の側面側四隅の角部を弧状としたものは、甲第10号証ないし甲第13号証の意匠のいずれにも見られないことから、これをもって、本件登録意匠の態様が、ありふれた周知の造形手法によって創作されたとする証拠にはなり得ず、当業者が容易に創作することができたということはできない。

(B)について、前記第6の3.(1)3)(ウ)(δ)形態の差異点の評価(c)にも示したとおり、本件登録意匠の左右の柱部は、梁部に遮られることなく筐体の上端部に達しているため、縦のラインを強調する効果をもたらしており、正面部における本件登録意匠の特徴を表しているものであるから、請求人が主張するような、単に「梁を表面に接合するか、裏面に接合するか」という程度のありふれた改変ではなく、従来見られない態様であることは明らかである。
そうすると、(B)について、本件登録意匠の態様は、その出願前から公然知られたものとはいえないことから、当業者が容易に創作することができたということはできない。

(C)について、請求人は、本件登録意匠の通気口部が、容易に想到できるものであり、その配置の相違も、ありふれた手法による変更であるとし、その証拠として、先行意匠(甲第3号証の20の意匠)および甲第4号証ないし甲第6号証を提出した。
本件登録意匠の通気口部の形態については、前記第6の1.(2)のとおり、正面部において、梁部の上下中央やや上側に、複数の小孔を縦に近接して穿設したものを横に6列配置した略正方形状の通気口部を等間隔に4つ設け、背面部において、梁部の上下中央やや下側に、複数の小孔を縦に近接して穿設したものを横に6列配置した略正方形状の通気口部を等間隔に4つ設け、右側面部において、側壁部の左右中央部の上下端部近傍に、複数の小孔を横に近接して穿設したものを縦に6列配置した略正方形状の通気口部をそれぞれ3つずつ縦に近接して設けたものである(左側面部の態様は、右側面部と対称である。)。
一方、請求人が提出した先行意匠(甲第3号証の20の意匠)及び甲第4号証ないし甲第6号証の意匠についてみると、
先行意匠(甲第3号証の20の意匠)は、株式会社ホクエイが発行したカタログ「LPガス容器収納庫ボンベックVol.15」の7頁から11頁に掲載される合計20台のLPガス容器収納庫であって、審判請求書の記載によれば、「通気口について、(中略)その配置の態様も、この種の物品において、甲第3号証の請求人のカタログに普通に見られるとおり、ありふれた手法による変更」であると主張するものである。そして、これらのLPガス容器収納庫の通気口部の配置は、いずれも、正面部、背面部、側面部の上端部に近接した位置に、横に並べて複数個、配置している。
甲第4号証の意匠は、正面部には、各面の左右中央、上端部寄りと上下中央に、複数の小孔を縦横に規則的に穿設し略縦長長方形状に形成した通気口部を1つずつ近接して設け、左右側面部には、左右端部寄りと中央寄りの4箇所の上端部寄りと上下中央に、複数の小孔を縦横に規則的に穿設し略縦長長方形状に形成した通気口部を、1つずつ近接して設けたものである。
甲第5号証の意匠は、正面部の扉の上端部から中央付近まで、幅いっぱいに複数の小孔を規則的に穿設し、そのうち横線状の無孔エリアを4箇所設けて通気口部とし、左右側面部は、同幅に縦に2分割して、正面側の面の上端部から中央やや上付近まで、幅いっぱいに複数の小孔を規則的に穿設し、そのうち横線状の無孔エリアを4箇所設けて通気口部としたものである。
甲第6号証の意匠は、正面部の外側の2面の上端部から中央やや上付近まで、幅いっぱいに複数の小孔を規則的に穿設して通気口部としたものである。
まず、本件登録意匠と甲第4号証ないし甲第6号証の意匠の通気口部の形態について比較すると、いずれも、複数の小孔を縦横に規則的に穿設して略矩形状に形成して通気口部としたものである点については、本件登録意匠と共通するが、通気口部の形状(外形状及び小孔の配列の仕方)、通気口部の大きさ、通気口部の配置される位置、通気口部の数において相違する。
次に、本件登録意匠と先行意匠(甲第3号証の20の意匠)の通気口部の配置について比較すると、本件登録意匠の正背面部の位置は梁部の略上下中央で、両側面部の位置は上下端部に縦に配置したものであるのに対し、先行意匠(甲第3号証の20の意匠)は、いずれも、正面部、背面部、側面部の上端部に近接した位置に、横に並べて配置したものであるから、本件登録意匠と先行意匠(甲第3号証の20の意匠)の配置は相違する。
そうすると、(C)について、本件登録意匠の態様は、先行意匠(甲第3号証の20の意匠)、甲第4号証の意匠(公知意匠1)、甲第5号証の意匠(公知意匠2)及び甲第6号証の意匠(公知意匠3)には見られないことから、当業者が容易に創作することができたということはできない。

以上のとおり、本件登録意匠は、先行意匠(甲第3号証の20の意匠)、甲第4号証の意匠(公知意匠1)、甲第5号証の意匠(公知意匠2)及び甲第6号証の意匠(公知意匠3)に基づいて、当業者が容易に創作することができたということはできない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由2には、理由がない。

(3)小括
上記のとおり、本件登録意匠と甲第3号意匠は、意匠に係る物品が共通するが、両意匠の形態においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さく、これに対して、両意匠の形態の差異点を総合すると両意匠に与える影響は大きく、共通点が需要者に与える美感を覆して両意匠を別異のものと印象づけるものであるから、本件登録意匠は甲第3号意匠に類似するということはできない。

また、本件登録意匠は、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるということはできない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1及び無効理由2に係る理由及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。
審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

審理終結日 2018-08-31 
結審通知日 2018-09-04 
審決日 2018-09-20 
出願番号 意願2016-14399(D2016-14399) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (D0)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松下 香苗 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 江塚 尚弘
内藤 弘樹
登録日 2017-02-17 
登録番号 意匠登録第1572111号(D1572111) 
代理人 特許業務法人山内特許事務所 
代理人 吉田 親司 
代理人 蔵田 昌俊 
代理人 小出 俊實 

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