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審決分類 審判    E1
審判    E1
管理番号 1351488 
審判番号 無効2018-880002
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-07 
確定日 2019-05-07 
意匠に係る物品 鈴 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1267870号「鈴」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

本件意匠登録第1267870号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,平成17年(2005年)1月13日に意匠登録出願(意願2005-000704)されたものであって,同年6月3日付けで拒絶査定がなされ,同年7月8日に審判請求がなされ,平成18年1月31日付けで審決がなされ,平成18年2月24日に意匠権の設定の登録がされた後,同年4月10日に意匠公報が発行され,平成29年10月19日に判定請求がなされ,平成30年1月30日付けで判定がなされ,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

平成30年 2月 7日受付け 審判請求書提出
平成30年 7月25日付け 審判事件答弁書提出
平成30年 9月11日受付け 審判事件弁駁書提出
平成30年 12月 6日付け 審理事項通知書
平成31年 1月17日受付け 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成31年 1月29日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成31年 2月15日 第1回口頭審理

第2 請求人の申し立て及び理由

請求人は,「意匠登録第1267870号の意匠登録を無効とする,審判請求の費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」と請求し,その理由として,要旨以下のとおり主張し,その主張事実を立証するために,甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。

1 請求の理由
(1)手続の経緯
平成17年 1月13日出願
平成17年 4月22日拒絶理由通知発送
平成17年 6月 1日意見書提出
平成17年 6月11日拒絶査定
平成17年 7月 8日拒絶査定不服審判請求
平成18年 2月10日登録審決
平成18年 2月24日登録

(2)本件意匠に対する請求人の関係
本審判請求人は鈴を販売しているが,当該行為が意匠登録第1267870号の意匠権(以下,本件意匠権とも言う)を侵害している旨の警告を本件意匠権の意匠権者である披請求人から受けている。
さらに,上記鈴に対して披請求人から判定請求(判定2017-600047)されている。

(3)意匠登録無効理由の要点
本件意匠権に係る意匠(以下,本件意匠とも言う)と同一または類似する意匠が本件意匠権の出願前から公然知られていたため,本件意匠は意匠法第3条第1項第1号または同条同項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。
または,本件意匠は,本件意匠権の出願前に公然知られた形態に基づいて容易に創作できたものであり,本件意匠は意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

(4)本件登録意匠を無効とすべき理由
(4-1)本件意匠について
本件意匠の特徴は下記のようになっている。
本件意匠の物品は鈴である。意匠公報に示された本件意匠の形態は,頭部およびその頭部の下部に繋がった尾部で構成されている。正面図では,頭部は円形状になっており,尾部は先端が尖った三角形状になっている。頭部に比べて尾部が小さくなっている。平面図以外の図面を見ると,本件意匠の形態はかなり偏平されており,厚みは薄くなっている。
(4-2)判定請求書の記載
被請求人(意匠権者)は請求人に対して判定請求(判定2017-600047)している。その判定における判定請求書を甲第1号証として添付する。
また,上記判定請求書の証拠方法の甲第2号証の説明(第6頁13?17行目)に下記のようなことが記され,判定請求書に甲第2号証が添付されている。
「平成18年に文芸社から出版した「空からくう」に本品の原型が写真でのっており,長く続けた製作期間のこと,平成10年には巣鴨のとげ抜き地蔵尊で,販売されていたことなども記されてますので採用しました。」
上記記載から読み取れることは,(A)本品の原型の写真が「空からくう」に掲載されていること,(B)平成10年(1998年)に「本品の原型」が販売されていたことである。
(4-3)本品の原型
上記(A)から,上記判定請求時に「本品の原型」が示されていることがわかる。本審判請求書の甲第2号証として判定請求における甲第2号証を添付する。この甲第2号証は,刊行物の表紙と第118ページをコピーしたものである。それ以外に写真がないため,第118ページの写真に写っている物が「本品の原型」になる。判定請求書の説明上,「本品」は本件意匠以外に何もないことから,第118ページの写真に写っている物は本件意匠の原型となる。また,「本品」である本件意匠は鈴であることから,第118ページの写真に写る物品は鈴になる。
さらに,第118ページに掲載された写真は本件意匠と同一または類似の形態である。具体的には,円形状の頭部及びその頭部の下部に繋がったほぼ三角形状の尾部を備えている。尾部の先端は尖っており,頭部に比べて尾部が小さくなっている。さらに,光の反射領域が広いことから,かなり偏平されて厚みが薄くなっていることがわかる。
判定請求書とそれに添付された甲第2号証から,「本品の原型」の物品は本件意匠と同一であり,形態も同一または類似している。
(4-4)本品の原型の販売
上記(B)から平成10年に「本品の原型」が販売されていたことがわかる。この平成10年は本件意匠の出願日(平成17年1月13日)よりも前になる。
(4-5)証拠能力
上記判定請求書には,被請求人の印鑑が押されているため,本審判請求書に添付した甲第1号証と甲第2号証は高い証拠能力を有している。なお,上記内容が真実と異なるのであれば,被請求人が証拠を示して説明するべきである。
(4-6)判定のまとめ
以上から,本件意匠の出願以前から本件意匠に係る鈴または類似の鈴が日本国内で販売されていたため,本件意匠は意匠法第3条第1項第1号または同条同項第3号の規定に違反して登録されており,本件意匠権は無効理由を有する。
(4-7)刊行物について
上記判定請求書に記載された「空からくう」は下記の刊行物である。甲第3号証としてその刊行物の一部のコピーを添付する。
「発行日 2006年(平成18年)10月15日
著者 鶴巻 耕拙
発行所 株式会社文芸社」
(4-8)刊行物の写真
上記刊行物の第118ページに写真が掲載されている。上記刊行物に掲載された写真は,第118ページの写真以外にない。したがって,判定請求書で記載された「本品の原型の写真」が第118ページの写真以外にないことを確認できる。上記刊行物の第118ページの写真については上述しており,当該写真に写っている「本品の原型」は本件意匠と同一または類似である。
(4-9)刊行物の記載
上記刊行物の第113?118ページは,タイトルを「さんが」とした章である。当該章の最終ページの第118ページに「本品の原型」とされる写真が掲載されている。そして当該章に下記のことが記載されている。
「製作開始は古いが,1998年秋ここ,とげぬき地蔵尊で販売を始めた。・・・普通の鈴と比較されるから高く感じる。・・・全く新しく比較するものがないから,似ている鈴との比較になって高いと思われるのは当然だろう。」(第117ページ第6?13行目)
「最初苦戦した販売だが,自信があることは継続することだ,がまんして頑張ることだと自分に言い聞かせ続けてきたが,おかげさまでだんだん売れるようになり,8年経った今は良く売れるようになった。」(第117ページ第17?19行目)
上記刊行物の記載から,「さんが」と呼ばれる物が,(C)鈴であること,(D)1998年秋から8年継続して販売していたことがわかる。
(4-10)「さんが」の形態
上記刊行物の第113?118ページは「さんが」と呼ばれる物について記載されている。第118ページの写真に写っている物は,上記のように「本品の原型」であり,鈴である。上記(C)から「さんが」も鈴であり,上記刊行物の第113?118ページにおいて他の鈴が出てこない。第118ページの写真に写る物が「さんが」であり,「本品の原型」であることがわかる。この第118ページの写真については,上記判定請求からわかるように本件意匠に同一または類似の鈴である。
(4-11)「さんが」の販売
上記(D)から「さんが」は少なくとも1998年秋から販売されている。この記載は上記判定請求書の記載と一致する。すなわち,「さんが」と言う第118ページに掲載されている鈴は,本件意匠の出願日以前に販売されて公然知られている。
(4-12)刊行物のまとめ
上記刊行物の第118ページに掲載された「さんが」は,本件意匠と物品が同一であり,形態は本件意匠と同一または類似である。また,上記刊行物の記載から,「さんが」は本件意匠権の出願前である1998年秋に販売されている。
すなわち,本件意匠の出願前から本件意匠に係る鈴と同一または類似の鈴が日本国内で販売されていたため,本件意匠は意匠法第3条第1項第1号または同条同項第3号の規定に違反して登録されており,本件意匠権は無効理由を有する。
(4-13)甲第3号証の証拠能力
上記したように被請求人は判定請求書(判定2017-600047 当審注:審判請求書では,判定2017-600046と記載されているが,誤記と思われる。)に押印している。本審判請求書に添付した甲第3号証は,判定請求書に添付された甲第2号証の刊行物である。そのため,甲第3号証は高い証拠能力を有する。なお,上記内容が真実と異なるのであれば,被請求人が証拠を示して説明するべきである。
(4-14)意匠登録第1215666号
さらに,平成16年8月30日に意匠公報が発行された意匠登録第1215666号(甲第4号証)について検討する。
当該意匠に係る物品はネックレスである。本件意匠に係る物品は鈴である。いずれの物品も装飾品として使用することができ,用途及び機能が共通する。このことについては,いずれの意匠公報にもチェーンを用いた図があり,使用状態が一緒になっていることからもわかる。また,当該意匠の形態は,円形状の頭部と,先端が尖った尾部から構成されていて,勾玉形状になっている。また,厚みも薄くなっている。本件意匠の形態も円形状の頭部と先端が尖った尾部から構成されていて,厚みも薄くなっている。
このため,本件意匠は意匠登録出願前に日本国内で公然知られた意匠に類似しており,本件意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されており,本件意匠権は無効理由を有する。
または,甲第3号証の第114ページ第5行目に「形は勾玉からアレンジした。」と記載されている。すなわち,本件意匠は勾玉からアレンジされたものである。さらに,意匠登録第1215666号の意匠は頭部と尾部を備えた勾玉形状になっている。そのため,本件意匠は意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されており,本件意匠権は無効理由を有する。
(4-15)添付書類の簡単な説明
(a)甲第1号証は判定2017-600047の判定請求書である。
(b)甲第2号証は判定2017-600047の判定請求書に添付された甲第2号証である。
(c)甲第3号証は2006年に文芸社から出版された「空からくう」の表紙,中表紙,目次,第112?119ページ,奥付のコピーである。
(d)甲第4号証は意匠登録第1215666号公報である。

(5)結論 ,
以上のとおり,意匠登録第1267870号に係る意匠は意匠法第3条第1項第1号,同条同項第3号または同条第2項の規定により意匠登録を受けることができない意匠であり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

2 証拠方法
(1) 甲第1号証 判定請求書
(2) 甲第2号証 『空からくう』著者 鶴巻耕拙
2006年10月15日 株式会社文芸社
表紙と118頁
(3) 甲第3号証 『空からくう』著者 鶴巻耕拙
2006年10月15日 株式会社文芸社
表紙,中表紙,目次,112頁?119頁,1 38頁と奥付け
(4) 甲第4号証 日本国特許庁発行意匠公報「意匠登録第121 5666号」

第3 被請求人の答弁及びその理由

被請求人は,平成30年7月25日付けの審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)において,答弁の趣旨を「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」とし,その理由として,要旨以下のとおり主張した。

1 答弁の理由
(1)本件写真について
ア 請求人は,審判請求書の6(4)(4-1)ないし(4-13)において云々述べているが,その主張は,要するに,被請求人により執筆された刊行物「空からくう」(以下「本件刊行物」という。)の第118頁に掲載された写真(以下「本件写真」という。)に写っている鈴の意匠が,本件意匠の意匠登録出願(平成17年1月13日)前に公知であったことを前提として,本件意匠は,本件写真に写っている鈴の意匠と同一または類似するものであるから,意匠法第3条第1項第1号または同項第3号の規定に違反して登録されたものである,という趣旨であると思われる。
請求人は,上記主張の理由として,被請求人が請求した判定請求書(判定2017-600047号)の第6頁第13-17行目における「平成18年に文芸社から出版した「空からくう」に本品の原型が写真でのっており,長く続けた製作期間のこと,平成10年には巣鴨のとげ抜き地蔵尊で,販売されていたことなども記されてますので採用しました。」との記載,および本件刊行物の第113頁?第118頁の記載を挙げた上で,本件写真に写っている鈴が,平成10年から販売されていた旨,主張している。
イ しかしながら,これらの記載は,「本品の原型」すなわち「さんが」という商品名の鈴(以下「本件商品」という。)の一形態が本件写真に写っていること,および本件商品の販売が被請求人によって平成10年から開始されたことを示しているにすぎず,本件写真に写っている鈴そのものが,平成10年から(遅くとも,本件意匠の意匠登録出願前に)販売されていたことを示すものではない。
実際,本件写真に写っている鈴は,本件商品ではあるものの,本件商品には,平成10年の販売開始当初に販売されていた改良前商品と,改良前商品とは形態の異なる,本件意匠の意匠登録後に販売された改良後商品とがあり,本件写真に写っている鈴は,改良前商品ではなく,改良後商品である。これは,改良後商品の形態の方が,本件商品の基本概念である「理想の心」(本件刊行物の第113頁参照)をより的確に表現していると思われたため,本件刊行物に掲載する本件商品としては,改良後商品の方が相応しいと思われたからである。なお,被請求人が本件商品の販売開始後も本件商品の形態について改良を続けていたことについては,判定請求書の甲第1号証の第1頁第2行目にも,「30年近くこの造形を少しずつ変えて作り続けてきました。」と記載されている。
したがって,本件写真に写っている鈴は,本件意匠の意匠登録後に販売された改良後商品であって,本件意匠の出願前に販売されていたものではないことから,同鈴の意匠は,本件意匠の意匠登録出願前に公知であったとはいえない。
ウ なお,被請求人は,上記主張の証拠として提出すべく,改良前商品に関する資料(現物,図面等)を探してみたが,判定請求書の第6頁にも「病気による長期療養,死も覚悟して平成22年秋入院。この時,多くの資料を廃棄し,あまり残っていません。」と記載したように,当時の資料をほとんど処分してしまっているため,残念ながら,現時点では,改良前商品に関する資料を探し出すことができていない。
エ 以上より,本件写真に写っている鈴の意匠は,本件意匠の意匠登録出願前に公知ではないことから,請求人の主張はその前提を欠き,不当である。

(2)甲4意匠(意匠登録第1215666号 当審注:審判事件答弁書では,意匠登録第125666号と記載されているが,誤記と思われる。)について
ア 意匠法第3条第1項第3号
(ア)差異点
本件意匠と甲4意匠(のうち,ペンダントトップ部分)の形態を対比すると,少なくとも,以下の差異点がある。
差異点1:尾部の態様について,本件意匠は,太く短く形成され,その先端部が丸みを帯びているのに対し,甲4意匠は,細く長く形成され,その先端部が尖っている点。
差異点2:右側面視における開口の有無について,本件意匠は,開口が形成されていないのに対し,甲4意匠は,笛として機能させるための開口が上下に2つ形成されている点。
(イ)差異点の評価
差異点1の尾部の態様について,本件意匠は,太く短く形成され,その先端部が丸みを帯びていることから,全体にかわいらしい印象をもたらしているのに対し,甲4意匠は,細く長く形成され,その先端部が尖っていることから,全体にシャープな印象をもたらしているため,需要者に異なる視覚的印象を与え,この差異点1が両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。
差異点2の右側面視における開口の有無について,本件意匠は,開口が形成されていないことから,全体として丸みを帯びた印象をもたらしているのに対し,甲4意匠は,開口が上下に2つ形成されていることから,全体としてその分なめらかさが失われた印象をもたらしているため,需要者に異なる視覚的印象を与え,この差異点2が両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。
(ウ)小括
したがって,差異点1,2が類否判断に及ぼす影響は大きく,意匠全体として見ると,両意匠は類似するとはいえない。
よって,本件意匠は,意匠法第3条第1項第3号に違反して登録されたものではない。

イ 意匠法第3条第2項
確かに,甲第3号証(本件刊行物)の第114頁第5行目に「形は勾玉からアレンジした。」と記載されているように,被請求人は,本件意匠を,公知の勾玉をアレンジすることにより創作した。
しかしながら,その創作の程度は,本件意匠が上記差異点1に係る形態を有することからも明らかなように,公知の勾玉や甲4意匠から容易に創作することができたものではない。
よって,本件意匠は,意匠法第3条第2項に違反して登録されたものではない。

(3)結論
以上のとおり,本件意匠は意匠法第3条第1項第1号,同条同項第3号または同条第2項の規定により意匠登録を受けることができない意匠ではなく,同法第48条第1項第1号により無効とすべきものではない。

第4 請求人の弁駁及びその理由

請求人は,被請求人の答弁に対し審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し,要旨,以下のとおり主張をした。

1 理由
(1)審判事件答弁書の(1)に対して
被請求人は,本審判請求書に添付した甲第1?第3号証について,写真に写っている物品が本件意匠の鈴であることを認めつつも,鈴を改良しているので,平成10年から販売した鈴は改良前の鈴であり,本件意匠とは異なることを主張している。
しかし,被請求人は自己の主張に対する証拠を何ら提出していない。被請求人が証拠を提出しない以上,本審判請求書に添付した甲第1?3号証に示された事実を信用するしかない。または,被請求人は甲第2,3号証の写真に写る鈴を「本品の原型」と言っており,「原型」と言うからには写真に写る鈴が改良前の鈴と考えても何ら支障ない。したがって,平成10年から本件意匠と同一の鈴が販売されていたと考えるのが妥当である。

(2)審判事件答弁書の(2)に対して
(2-1)差異点1について
被請求人は,両意匠の尾部について,本件意匠が丸みを帯びて全体にかわいらしい印象になっているのに対し,甲第4号証がシャープな印象をもたらしていることを主張している。
しかし,判定2017-600047の「4.両意匠の類否判断」において,本件意匠の膨出部(尾部)の態様について,全体的に鋭角的でスリムな印象をもたらしていると判断されている。すなわち,上記判定で本件意匠は尾部の先端が尖っていることでシャープな意匠であることを判断しており,被請求人が主張する甲第4号証と同じである。
(2-2)差異点2について
被請求人は,甲第4号証の右側面図にある開口に注目し,本件意匠は開口が無いために全体として丸みを帯びているが,甲第4号証は開口によってなめらかさが失われていると主張している。
しかし,需要者が一番注目するのは正面図であり,被請求人が主張する右側面図ではない。甲第4号証の正面図において開口はほとんどわからない。 甲第4号証は,被請求人が主張するようななめらかさは失われていない。本件意匠と甲第4号証は,先の尖った尾部を備えた勾玉形状になっている。

(3)結論
以上のとおり,被請求人の主張は失当であり,意匠登録第1267870号に係る意匠は意匠法第3条第1項第1号,同条同項第3号または同条第2項の規定により意匠登録を受けることができない意匠であり,同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。

第5 第1回口頭審理

本件審判について,当審は,平成30年12月6日付け審理事項通知書を通知し,これに対して,請求人は,平成31年1月17日受付けにて口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)を提出し,被請求人は,同年1月29日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)を提出し,同年2月15日に第1回口頭審理を行った。

1 請求人の主張
請求人は,請求人陳述要領書に基づき,以下のとおり意見を述べた。

(1)無効理由1,無効理由2
審判請求と同時に提出した甲第1号証,甲第2号証,甲第3号証の3件の証拠については取り下げ,無効理由1と無効理由2を取り下げる。

(2)被請求人の審判事件答弁書の主張に対する意見
(2-1)審判事件答弁書に記載された被請求人の意見
甲4意匠に対して被請求人は2つの差異点を述べている。
差異点1:尾部の態様について,本件意匠は,太く短く形成され,その先端部が丸みを帯びているのに対し,甲4意匠は,細く長く形成され,その先端部が尖っている点。
差異点2:右側面視における開口の有無について,本件意匠は,開口が形成されていないのに対し,甲4意匠は,笛として機能させるために開口が上下に2つ形成されている点。
そして,被請求人は,差異点1について本件意匠は全体的にかわいらしい印象をもたらしているのに対して,甲4意匠はシャープな印象をもたらしていること,差異点2について甲4意匠がなめらかさを失われていることを述べている。
(2-2)差異点1について
本件意匠と甲4意匠の形態は,円形状の頭部と,その頭部から膨出した尾部からなり,その尾部の先端が尖っていて,勾玉形状になっている。さらに,両意匠の形態は,全体の厚みが薄くなっている。
周知の勾玉の尾部は太くされており,その先端は丸く,丸みを帯びた印象を与える(http://www.pref.yamanashi.jp/maizou-bnk/topics/201-300/0240.htmlなど参照)。そのため,勾玉形状の尾部の先端をシャープに尖らせると特徴ある形態になり,本件意匠と甲4意匠は周知の勾玉形状とは異なるシャープな印象を与えている。
さらに,被請求人は甲4意匠についてシャープな印象を与えるものと判断しているが,判定2017-600047の「4.両意匠の類否判断」において,本件意匠の尾部(膨出部)の態様について,全体的に鋭角的でスリムな印象をもたらしていると判断されている。すなわち,上記判定で本件意匠は尾部の先端が尖っていることでシャープな意匠であることを判断されており,被請求人が主張する甲第4号証と同じである。
また,本件意匠の出願経過において,登録実用新案公報第3059290 号の意匠(参考意匠)が本件意匠に対する拒絶の引例になっている。本件意匠は参考意匠によって拒絶査定になり,拒絶査定不服審判によって意匠登録が認められている。このような出願経過から,参考意匠は本件意匠の類似範囲に含まれるか否かの微妙な意匠であり,参考意匠が本件意匠の類似範囲に非常に近い意匠であると考えるのが妥当である。
参考意匠は,円形の頭部,その頭部から膨出された尾部を備え,尾部の先端は丸くなっている。さらに,頭部には円形の開口が備えられている。参考意匠と甲4意匠の違いを検討すると,その違いは尾部の形状と開口の位置である。甲4意匠の尾部の先端は尖っており,本件意匠と同様にシャープな印象を与えるものだが,参考意匠の尾部の先端は丸くなっている。甲4意匠は右側面からでないと開口は見えず,正面から見ると勾玉形状のままであるが,参考意匠の開口は側面(本件意匠の正面)から見ても正面(本件意匠の左側面)から見ても開口が見える。また,本件意匠は尾部の先端が尖っており,開口が無いため,正面から見ると勾玉形状である。
以上より,甲4意匠は参考意匠よりも本件意匠に類似しており,本件意匠と甲4意匠はいずれもシャープな印象を与える。本件意匠の類似範囲の付近にある参考意匠よりも甲4意匠が本件意匠に類似していることから,甲4意匠は本件意匠に類似すると考えることが妥当である。
(2-3)差異点2について
本件意匠と甲4意匠はいずれも勾玉形状であり,その勾玉形状がわかる方向は正面図の方向である。右側面図の方向からでは勾玉形状がわかりにくく,意匠の特徴がわからない。そのため,需要者が一番注目するのは正面図であり,被請求人が主張する右側面図ではない。両意匠の正面図を見ると,両意匠は勾玉形状であり,尾部の先端が尖っており,シャープな印象を与える意匠になっている。
さらに,甲4意匠の正面図において開口はほとんどわからない。甲第4号証は,被請求人が主張するようななめらかさは失われていない。両意匠は,先の尖った尾部を備えた勾玉形状になっている。

(3)まとめ
以上のように,審判請求書,弁駁書および本口頭審理陳述要領書に記載するように,本件意匠を無効とする旨の審決を求める。

2 被請求人の主張
被請求人は,被請求人陳述要領書に基づき,以下のとおり意見を述べた。

(1)無効理由3及び4に関する請求人の主張に対する意見
ア 差異点1について
請求人は,被請求人が審判事件答弁書で挙げた差異点1に対して,本件意匠と甲4意匠とは,尾部の先端が尖っている点で共通しており,その点で周知の勾玉形状とは異なるシャープな印象を与えることから,両意匠は類似する旨,主張する。
しかしながら,仮に,請求人が述べるとおり,本件意匠と甲4意匠とが尾部の先端が尖っている点で共通しているとしても,請求人の主張は,本件意匠と甲4意匠との他の差異点の存在を無視したものであり,著しく不当であるといわざるを得ない。
すなわち,審判事件答弁書においても述べたように,本件意匠と甲4意匠とは,尾部の形態の点で,単に,先端が丸まっているか否か尖っているかの点で異なっているのみならず,本件意匠の尾部は,太く短く形成されているのに対し,甲4意匠の尾部は,細く長く形成されている点でも,異なっているのである。より具体的に言えば,本件意匠の尾部は,太く短く形成されていることで,その先端部が頭部の横幅に対して約4分の1左方寄りの位置に位置しているのに対し,甲4意匠の尾部は,細く長く形成されていることで,その先端部が頭部の左端部と略一致する位置にまで達しているのである。
この差異点により,本件意匠は,全体にかわいらしい印象をもたらしているのに対し,甲4意匠は,全体にシャープな印象をもたらしているため,需要者に異なる視覚的印象を与えている。
なお,請求人は,本件意匠の尾部が,シャープな印象を与える理由として,判定2017-600047において,本件意匠の尾部の態様について,全体的に鋭角的でスリムな印象をもたらしていると判断されたことを挙げている。
しかしながら,同判定における判断は,甲4意匠とは異なる意匠(イ号意匠)との類否判断においてなされたものであり,本件意匠が,イ号意匠との類否においてスリム(シャープ)であるからといって,甲4意匠との類否においてもシャープであることにはならない。卑近な例で言えば,請求人の主張は,お相撲さんと比べてスリムであることを理由に,モデル体型の人と比べてもスリムである,と主張するに等しいといえる。
イ 差異点2について
請求人は,右側面視における差異点2について,需要者が一番注目するのは正面図であり,右側面図ではない旨,主張する。
しかしながら,需要者が本件意匠に係る物品「鈴」を購入する際などには,正面からしか「鈴」を見ないわけではなく,右側面を含む他の方向からも「鈴」を観察するのが通常であるといえる。
したがって,右側面視における差異点2についても,類否判断に及ぼす影響は無視できるものではない。
ウ 参考意匠について
請求人は,口頭審理陳述要領書において,新たな主張として,登録実用新案公報第3059290号の意匠(参考意匠)を挙げた上で,甲4意匠は参考意匠よりも本件意匠に類似していることを理由に,甲4意匠は本件意匠に類似する旨,述べている。
しかしながら,請求人の主張は,単に,尾部の形状(先端が尖っているか否か)と開口の位置(開口が見えるか否か)の点で,甲4意匠は参考意匠よりも本件意匠と類似していることを主張するものにすぎず,上記アと同様に,本件意匠と甲4意匠との差異点の存在を無視したものであるから,不当である。
エ 小括
以上より,本件意匠と甲4意匠とは非類似である。

(2)無効理由5に関する請求人の主張に対する意見
請求人は,本件意匠は勾玉からアレンジされたものであり,甲4意匠は頭部と尾部を備えた勾玉形状であるから,本件意匠は,甲4意匠に基づいて,当業者が容易に創作をすることができたものである旨,主張する。
しかしながら,すでに述べてきたように,本件意匠と甲4意匠の形態を対比すると,少なくとも,以下の差異点がある。
差異点1:尾部の態様について,本件意匠は,太く短く形成され,その先端部が丸みを帯びているのに対し,甲4意匠は,細く長く形成され,その先端部が尖っている点。
差異点2:右側面視における開口の有無について,本件意匠は,開口が形成されていないのに対し,甲4意匠は,笛として機能させるための開口が上下に2つ形成されている点。
本件意匠の形態のうち,差異点1及び2の形態については,これが表された公知意匠は存在せず,また,差異点1及び2の形態とすることが,「鈴」の物品分野において,本件意匠の出願前にありふれた手法であったともいえない。
したがって,本件意匠は,当業者が容易に創作をすることができたものではない。

(3)むすび
以上より,無効理由3ないし5に関する請求人の主張は,いずれも理由がない。

3 審判長
審判長は,この口頭審理において,甲第1号証ないし甲第4号証について取り調べ,本件の審理を終結した。

第6 当審の判断

1 本件登録意匠(別紙第1参照)
本件登録意匠の意匠に係る物品は「鈴」であり,本件登録意匠の形状,模様若しくは色彩又はそれらの結合(以下「形状,模様若しくは色彩又はそれらの結合」を「形態」という。)は,その意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりであり,願書の【意匠に係る物品の説明】には,「本物品は,内外を連通するスリット開口の無い外殻体に珠が封入された鈴である。」と記載され,また,【意匠の説明】には,「背面図は正面図と,右側面図は左側面図とそれぞれ対称に現れるため省略する。」と記載されている。

(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
願書の【意匠に係る物品の説明】によれば,本件登録意匠は開口部が無いもののゆれる事によって音を発する「鈴」であって,また,本件登録意匠の【使用状態を表す参考斜視図】に基づくと,鈴の上端部にチェーン接続用鐶を取付けて該鐶内に長めの輪状となったチェーンを通して使用することができ,本件登録意匠は,チェーンに取り付けられる装飾的な機能を有するペンダントトップの用途及び機能を有している。したがって,本件登録意匠は,「鈴」及び「ペンダントトップ」の用途及び機能を有している。

(2)本件登録意匠の形態
ア 全体について,平面視では横長略楕円形状,側面視では略逆水滴形状で,正面視では円形の下端部を下方に膨出させ,その膨出部を左方に僅かに湾曲させたものとしている。
具体的には,
イ 平面視において,横長略楕円形状の上下方向で最も長い軸(以下「上下軸」という。)と左右方向で最も長い軸(以下「左右軸」という。)の比率を,約2:3とし,上下軸と左右軸は横長略楕円形状の略中央で直交するものとし,
ウ 側面視において,上端部から上下方向の長さの約1/4を半円状とし,そこから下端については,左右両辺を僅かに内側に向けて緩やかな弧状に降下させ,該両辺が接する下端部を弧状とし,該半円状の直径と上下方向の長さの比率を,約1:2とし,
エ 正面視において,円形の円周約5/18にあたる下端部を内側に湾曲する凹弧状をなす左辺と緩やかな凸弧状をなす右辺によって延伸させ,両辺は左方寄りの箇所で接し,その先端部を弧状として膨出部としており,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率を,約3:4とし,
オ 底面視において,膨出部の先端部は,横長略楕円形状の左右方向の左方寄り約1/4,上下方向の約1/2の箇所に位置している。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由の要旨は,以下のとおりである。なお,以下の無効理由は,請求人が主張した無効理由3ないし無効理由5に相当し,請求人は無効理由1及び無効理由2を取り下げている。

(1)無効理由1
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由1は,本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において公然知られた甲第4号証の意匠と同一の意匠であるから,意匠法第3条第1項第1号に掲げる意匠に該当し,同項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきものとするものである。

(2)無効理由2
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由2は,本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において公然知られた甲第4号証の意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し,同項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきものとするものである。

(3)無効理由3
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由3は,本件登録意匠が,その意匠登録出願の出願前に,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が日本国内において公然知られた甲第4号証の形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,意匠法第3条第2号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,その登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきものとするものである。

4 甲第4号証(別紙第2参照)に表された意匠
甲第4号証に表された意匠は,日本国特許庁発行の意匠公報(意匠公報発行日:平成16年8月30日)に記載された意匠登録第1215666号(意匠に係る物品:「ネックレス」)における飾り部の意匠(以下「甲4意匠」という。)であって,その形態は,同公報の図面に記載されたとおりであり,願書の【意匠に係る物品の説明】には,「本物品のネックレスは,笛としての機能を併せ持ち,装飾品として身に付けながら,緊急時には飾り部における先鋭側の吹き口を吹いて音を出す。材質は金属製である。」と記載されている。

(1)甲4意匠の意匠に係る物品
甲4意匠の意匠に係る物品は,「ネックレスのペンダントトップ」である。甲4意匠は,緊急時には飾り部における先鋭側の吹き口を吹いて音を出す笛としての用途及び機能を有している。したがって,甲4意匠は,吹くことによって音を発する「笛」及び「ペンダントトップ」の用途及び機能を有している。

(2)甲4意匠の形態
ア 全体について,平面視では横長略楕円形状,側面視では略逆水滴形状,正面視では円形の下端部を下方に膨出させ,その膨出部を左方に僅かに湾曲させたものとしている。
具体的には,
イ 平面視において,横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を,約3:5とし,上下軸と左右軸は,左右軸上の左方寄り約7/25の箇所で直交し,ウ 側面視において,上端部から上下方向の長さの約1/10を半円状とし,そこから下端については,左右両辺を僅かに内側に向けて略直線状に降下させ,該両辺が接する下端部を弧状とし,該半円状の直径と上下方向の長さの比率を,約1:4とし,
エ 正面視において,円形の円周約3/7にあたる下端部を内側に大きく湾曲する凹弧状をなす左辺と僅かに垂下したあと緩やかな凸弧状をなす右辺によって延伸させ,両辺は左方寄りの箇所で接し,その先端部を弧状とし膨出部としており,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率を,約3:5とし,
オ 底面視において,膨出部の先端部は,横長略楕円形状の左右方向の左方先端に位置し,
カ 正面視にて円形頭頂部のチェーン接続用鐶,円形右側の僅かな凹部,右側面視にて側面上部の開口部と下部の吹き口が設けられている。

5 無効理由1の判断
本件登録意匠が,甲第4号証の意匠と同一の意匠であるか否かについて検討する。

(1)本件登録意匠と甲4意匠の対比
ア 意匠に係る物品の対比
本件登録意匠は,ゆれる事によって音を発する「鈴」及び「ペンダントトップ」の用途及び機能を有しており,甲4意匠は,吹くことによって音を発する「笛」及び「ペンダントトップ」の用途及び機能を有しており,いずれも音を発することが可能なペンダントトップとして使用されるものであるので,本件登録意匠及び甲4意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は,用途及び機能が共通する。

イ 形態の対比
(ア)形態の共通点
(共通点1)全体について,平面視では横長略楕円形状,側面視では略逆水滴形状,正面視では円形の下端部を下方に膨出させ,その膨出部を左方に僅かに湾曲させたものとしている点。
(イ)形態の相違点
(相違点1)本件登録意匠は,平面視において,横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を,約2:3とし,上下軸と左右軸は横長略楕円形状の略中央で直交しているのに対して,甲4意匠は,横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を,約3:5とし,上下軸と左右軸は,左右軸上の左方寄り約7/25の箇所で直交している点,
(相違点2)本件登録意匠は,側面視において,上端部から上下方向の長さの約1/4を半円状とし,そこから下端については,左右両辺を僅かに内側に向けて緩やかな弧状に降下させ,該両辺が接する下端部を弧状とし,該半円状の直径と上下方向の長さの比率を約1:2としているのに対して,甲4意匠は,上端部から上下方向の長さの約1/10を半円状とし,そこから下端については,左右両辺を僅かに内側に向けて略直線状に降下させ,該両辺が接する下端部を弧状とし,該半円状の直径と上下方向の長さの比率を,約1:4としている点,
(相違点3)本件登録意匠は,正面視において,円形の円周約5/18にあたる下端部を内側に湾曲する凹弧状をなす左辺と緩やかな凸弧状をなす右辺によって延伸させ,両辺は左方寄りの箇所で接し,その先端部を弧状として膨出部とし,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率を,約3:4としているのに対して,甲4意匠は,円形の円周約3/7にあたる下端部を内側に大きく湾曲する凹弧状をなす左辺と僅かに垂下したあと緩やかな凸弧状をなす右辺によって延伸させ,両辺は左方寄りの箇所で接し,その先端部を弧状として膨出部とし,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率を,約3:5としている点,
(相違点4)本件登録意匠は,底面視において,膨出部の先端部が横長略楕円形状の左右方向の左方寄り約1/4で,上下方向の中央の箇所に位置しているのに対して,甲4意匠は,横長略楕円形状の左右方向の左方先端に位置している点,
(相違点5)甲4意匠は,正面視にて円形頭頂部のチェーン接続用鐶,円形右側の僅かな凹部,右側面視にて側面上部の開口部と下部の吹き口が設けられているのに対して,本件登録意匠には設けられていない点。

(2)判断
ア 意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は,用途及び機能が共通するから,類似する。

イ 相違点の存在
両意匠には,相違点1ないし相違点5が存在する。

ウ 両意匠が同一か否かの判断
両意匠は,意匠に係る物品は類似するが,その形態においては,複数の相違点が存在するので,両意匠は同一ではない。

(3)小活
本件登録意匠は,出願前に日本国内又は外国において公然知られた甲第4号証の意匠登録第1215666号におけるネックレスのペンダントトップの意匠と同一の意匠ではないので,意匠法第3条第1項第1号に掲げる意匠に該当して同項の規定により意匠登録を受けることができないものとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由1には,理由がない。

6 無効理由2の判断
本件登録意匠が,甲4意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。

(1)本件登録意匠と甲4意匠の対比
ア 意匠に係る物品の対比
前記5(1)アのとおりである。

イ 形態の対比
(ア)形態の共通点の評価
前記5(1)イ(ア)のとおりである。
(イ)形態の相違点
前記5(1)イ(イ)のとおりである。

(2)判断
ア 意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は,用途及び機能が共通するから,類似する。

イ 形態の共通点及び相違点の評価
両意匠の意匠に係る物品は,ネックレスやチェーンに取り付けられる装飾的な要素を有するペンダントトップとしての用途及び機能を有していることから,需要者は,垂下された状態で使用されている状況及び使用者の動きにともなって揺れ動く状態を考慮して,両意匠に係る物品を観察するものであるということができる。
また,両意匠の意匠に係る物品は,音を出す機能を有していることから,需要者は,音を発するために使用する箇所に注目して,両意匠に係る物品を観察するものであるということができる。
したがって,装飾品としての特徴が最も表れる正面からの態様,及び全体の立体感や厚みが表れる平面からの態様,そして,音を出すために使用する箇所の態様が,需要者の注意を強く惹くところであるということができる。

(ア)形態の共通点の評価
共通点1は,全体の形状に係るものであるが,この種物品によく見られる態様を概括的に捉えたものであって,意匠全体の美感に与える影響は小さい。
(イ)形態の相違点の評価
相違点3である正面視からの形態については,本件登録意匠は,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率が約3:4であり,円形下端からの膨出部は,内側に湾曲する凹弧状をなす左辺と緩やかな凸弧状をなす右辺によって構成され,全体として丸くまとまった印象と与えているのに対して,甲4意匠は,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率が約3:5であり,円形下端からの膨出部は,内側に大きく湾曲する凹弧状をなす左辺と僅かに垂下したあと緩やかな凸弧状をなす右辺によって構成され,全体として細く膨出部が長い印象を与えており,需要者が注目をする正面からの態様に関する相違点であることから,意匠全体の美感に与える影響は大きい。
さらに,相違点4である,底面視における膨出部の先端部について,本願登録意匠は,横長略楕円形状の長手方向左方寄りの約1/4に位置しているのに対して,甲4意匠は,横長略楕円形状の長手方向左方の先端に位置しており,底面視された態様ではあるが,上記相違点3と相まって,甲4意匠の膨出部が本件登録意匠よりも長く湾曲している印象を需要者に与えるので,意匠全体の美感に一定の影響を与える。
また,相違点1である平面視からの形態については,本件登録意匠は横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を約2:3とし,上下軸と左右軸は横長略楕円形状の略中央で直交しており,前後に厚みのある左右相称の丸さが強調された楕円形状となっているのに対して,甲4意匠は横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を約3:5とし,上下軸と左右軸は左右軸上の左方寄り約7/25の箇所で直交しており,前後に薄く左側が太くなった変則的な略楕円形状となっており,需要者が注目をする平面からの態様に関する相違点であることから,意匠全体の美感に与える影響は大きい。
そして,相違点2である側面視からの形態については,本件登録意匠は上端部から上下方向の長さの約1/4を半円状とし,そこから下端については,左右両辺を僅かに内側に向けて緩やかな弧状に降下させ,該半円状の直径と上下方向の長さの比率を約1:2としており,上部の丸みから続く全体の横幅が目立つものとなっているのに対して,甲4意匠は上端部から上下方向の長さの約1/10を半円状とし,そこから下端については,左右両辺を僅かに内側に向けて略直線状に降下させ,該半円状の直径と上下方向の長さの比率を約1:4としており,細身の縦長の印象が強いものとなっており,側面視からの形態ではあるが,需要者が注目をする相違点1と相まって,意匠全体の美感に一定の影響を与える。
相違点5である,正面視における円形頭頂部のチェーン接続用鐶,円形右側の僅かな凹部,右側面視における側面上部の開口部と下部の吹き口の有無については,これらに係る形態そのものは,この種物品分野において一般的に見られるものではあり,開口部と吹き口は側面視して気づく程度のものではあるが,特に,正面視における円形右側の僅かな凹部,右側面視における側面上部の開口部及び下部の吹き口については,需要者が注意を払う音を出すために使用する箇所に関する相違点であることから,意匠全体の美感に一定の影響を与える。

ウ 両意匠の類否判断
両意匠の形態における共通点および相違点の評価に基づき,意匠全体として総合的に観察した場合,両意匠は,前記イの前文のとおり,正面からの態様,平面からの態様,及び音を出すために使用する箇所が需要者の注意を強く惹く部分であり,前記イ(イ)のとおり,正面視における円形及び膨出部の態様,平面視の態様,及び側面視における開口部及び吹き口について,美感には大きな差異があり,意匠の全体を概括的に捉えた共通点1があったとしても,需要者に別異の印象をもたらし,異なる美感を与えるものである。

エ 請求人の主張について
請求人は,本件登録意匠の出願経過に注目して,登録実用新案公報第3059290 号に係る意匠(以下「参考意匠」という。)(別紙第3参照)が,本件登録意匠の類似範囲に非常に近い意匠であると考えるのが妥当であるとし,参考意匠と甲4意匠を比較した場合,甲4意匠の尾部の先端は尖っており,本件登録意匠と同様にシャープな印象を与えるものだが,参考意匠の尾部の先端は丸くなっており,また,開口部については,甲4意匠は右側面からのみ確認できるが,参考意匠は正面及び左側面から確認(甲4意匠の方向にあわせて参考意匠の方向を認定するものとする)できることから,本件登録意匠の類似範囲の付近にある参考意匠よりも甲4意匠が本件登録意匠に類似しているので,甲4意匠は本件登録意匠に類似すると考えることが妥当であると主張している。
しかしながら,意匠の類否判断は,意匠法第24条第2項の規定されているとおり,すなわち,本件登録意匠と甲4意匠の2つの意匠について,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものであることから,参考意匠が本件登録意匠の類似範囲の付近にあることを前提にすることができず,また,仮に,甲4意匠が参考意匠に比べて本件登録意匠に近い関係であるとしても,そのことが直ちに甲4意匠が本件登録意匠に類似することを意味するものではないから,甲4意匠は本件登録意匠に類似するとする請求人の主張を採用することはできない。

(3)小活
以上のことから,本件登録意匠と甲4意匠は,意匠に係る物品が類似するものの,形態においては,相違点が意匠の類否判断に与える影響が大きいものであるから,本件登録意匠は,甲4意匠に類似しているとはいえず,意匠法第3条第1項第1号に掲げる意匠に該当して同項の規定に該当する意匠ということはできない。
したがって,請求人が主張する本件登録意匠の無効理由2には,理由がない。

7 無効理由3の判断
本件登録意匠が,甲4意匠に基づいて,当業者が容易に創作することができた意匠であるか否かについて,検討する。

(1)甲4意匠について
甲4意匠の認定は,前記4のとおりである。

(2)創作非容易性の判断
前記5(1)イ(イ)のとおり,本件登録意匠と甲4意匠の形態には異なる点があり,特に,正面視からの形態については,本件登録意匠は,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率が約3:4であり,円形下端からの膨出部は,内側に湾曲する凹弧状をなす左辺と緩やかな凸弧状をなす右辺によって構成されているのに対して,甲4意匠は,円形の直径と全体の左右方向中央の高さの比率が約3:5であり,円形下端からの膨出部は,内側に大きく湾曲する凹弧状をなす左辺と僅かに垂下したあと緩やかな凸弧状をなす右辺によって構成されており,甲4意匠の形態のみからでは当業者が容易に導きだすことはできない。
また,平面視からの形態についても,本件登録意匠は,横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を約2:3とし,上下軸と左右軸は横長略楕円形状の略中央で直交しており,前後に厚みのある左右相称の丸さが強調された楕円形状となっているが,横長略楕円形状の上下軸と左右軸の比率を約3:5とし,上下軸と左右軸は左右軸上の左方寄り約7/25の箇所で直交しており,前後に薄く左側が太くなった変則的な略楕円形状となっており,甲4意匠の形態のみからでは当業者が容易に導きだすことができない。
さらに,本件登録意匠は,正面視にて円形右側の僅かな凹部,右側面視にて側面上部の開口部と下部の吹き口は設けられていないのに対して,甲4意匠は,正面視にて円形右側の僅かな凹部,右側面視にて側面上部の開口部と下部の吹き口は設けられており,音を出すために使用する箇所について,本件登録意匠のように外観に表れない態様とすることを,当業者であれば格別の創意・工夫を要しないものということはできず,甲4に基づいて容易に創作したということはできない。

(3)小活
以上のとおり,本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に日本国内及び外国において公然知られた甲4意匠の形態に基づいて,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に創作をすることができたということはできないので,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件意匠登録の無効理由3には,理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであって,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由3にはいずれも理由がないので,本件登録意匠の登録は,意匠法第48条第1項の規定によって無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2019-03-28 
出願番号 意願2005-704(D2005-704) 
審決分類 D 1 113・ 111- Y (E1)
D 1 113・ 12- Y (E1)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 斉藤 孝恵 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 木本 直美
渡邉 久美
登録日 2006-02-24 
登録番号 意匠登録第1267870号(D1267870) 
代理人 楠本 高義 
代理人 三雲 悟志 
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