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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) H6
管理番号 1358694 
判定請求番号 判定2019-600019
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 判定 
判定請求日 2019-07-26 
確定日 2020-01-07 
意匠に係る物品 データ記憶機 
事件の表示 上記当事者間の登録第1409214号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「データ記憶機」の意匠は,登録第1409214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 手続の経緯
平成22年 8月 3日 意匠登録出願(意願2010-18950)
平成23年 2月10日 意匠権の設定の登録(第1409214号)
令和 1年 7月26日 判定請求
令和 1年 9月 3日付け 審尋(判定請求人に対して)
令和 1年 9月26日 回答書提出
令和 1年11月 7日 答弁書提出


第2 判定請求人の請求の趣旨及び理由
1 請求の趣旨
請求人は,「イ号意匠は,登録第1409214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない」との判定を求め,その理由として,要旨以下のとおりの主張をした。

2 請求の理由
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「データ記憶機」とし,その形態の要旨を次のとおりとする(甲第1号証)。
ア 本件登録意匠の基本的構成態様
(ア)本件登録意匠は,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,正面部,天面部,背面部,底面部,右側面部,左側面部から構成されている。
(イ)正面部及び天面部は,側面視円弧状に湾曲した湾曲部(以下,天面側湾曲部と称する場合がある)により連設されている。
(ウ)正面部及び底面部は,側面視円弧状に湾曲した湾曲部(以下,底面側湾曲部と称する場合がある)により連設されている。
イ 本件登録意匠の具体的構成態様
(エ)側面視において,正面部,天面部と右側面部(左側面部)との間には,外縁に沿った1条の溝が形成されている。
(オ)正面部は,底面部前方端にまで入り込むように形成されている。
(カ)正面部における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ,開口部の上に縦筋が設けられている。
(キ)背面部に近接した天面部の後端には,横筋が形成されている。
(ク)右側面部及び左側面部に筋は設けられていない。

(2)イ号意匠の説明
イ号意匠は,意匠に係る物品を「データ記憶機」とし,その形態の要旨を次のとおりとする(甲第2号証)。
ア イ号意匠の基本的構成態様
(ア)イ号意匠は,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,正面部,天面部,背面部,底面部,右側面部,左側面部から構成されている。
(イ)正面部及び天面部は,側面視円弧状に湾曲した湾曲部(以下,天面側湾曲部と称する場合がある)により連設されている。
(ウ)正面部及び底面部は,側面視略直角に曲がった直角部(以下,底面側直角部と称する場合がある)により連設されている。
イ イ号意匠の具体的構成態様
(エ)側面視において,正面部,天面部と右側面部(左側面部)との間には,外縁に沿った溝が形成されているが,天面部と右側面部(左側面部)との間の溝部は,1条ではなく間欠的に形成されている。
(オ)正面部は,データ記憶機の下端まで延在しており,底面前方端には入り込んでいない。
(カ)正面部における下端よりもやや上の位置に開口部も縦筋も設けられていない。
(キ)背面部に近接した天面部の後端には,横筋が形成されていない。
(ク)右側面部及び左側面部にはそれぞれ,斜線状の筋が平行に設けられている。
(ケ)右側面部には,斜線状の筋に沿って複数の通気口が形成されている。

(3)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 両意匠の共通点
(ア)両意匠は,意匠に係る物品が「データ記憶機」で一致している。
(イ)基本的構成態様において,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,正面部,天面部,背面部,底面部,右側面部,左側面部から構成されている。
(ウ)基本的構成態様において,正面部及び天面部は,側面視円弧状に湾曲した天面側湾曲部により連設されている。
イ 両意匠の差異点
(ア)本件登録意匠では,正面部及び底面部が側面視円弧状に湾曲した底面側湾曲部により連設されているのに対して,イ号意匠では,正面部及び底面部が側面視略直角に曲がった底面側直角部により連設されている(以下,差異点1と称する場合がある)。
(イ)本件登録意匠では,天面部と右側面部(左側面部)との間に1条の溝が形成されているのに対して,イ号意匠では,天面部と右側面部(左側面部)との間に形成された溝が1条ではなく,間欠的に形成されている(以下,差異点2と称する場合がある)。
(ウ)本件登録意匠には,正面部における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ,開口部の上に縦筋が設けられているのに対して,イ号意匠にはそのような開口部や縦筋が設けられていない(以下,差異点3と称する場合がある)。
(エ)本件登録意匠には,背面部に近接した天面部の後端に横筋が形成されているのに対して,イ号意匠にはそのような横筋が形成されていない(以下,差異点4と称する場合がある)。
(オ)イ号意匠には,右側面部及び左側面部に斜線状の筋が形成されているのに対して,本件登録意匠にはそのような筋が形成されていない(以下,差異点5と称する場合がある)。
(カ)イ号意匠には,右側面部における斜線状の筋に沿って複数の通気口が形成されているのに対して,本件登録意匠にはそのような通気口が形成されていない(以下,差異点6と称する場合がある)。

(4)本件登録意匠及びイ号意匠が互いに非類似である理由の説明
ア 全体観察による類否の考察
データ記憶機の売り場には,通常,パッケージに梱包されたデータ記憶機が積み上げられており,その近傍には外観全体を把握し得るサンプルが置かれている(甲第3号証の1ないし6)。サンプルがあるときは,サンプルを手に取る等して物品全体の形態を吟味してから好みのデータ記憶機を購入するから,全体観察により類否判断をすべきである。したがって,差異点1:「本件登録意匠では,正面部及び底面部が側面い視円弧状に湾曲した底面側湾曲部により連設されているのに対して,イ号意匠では,正面部及び底面部が側面視略直角に曲がった底面側直角部により連設されている」,差異点2:「本件登録意匠では,天面部と右側面部(左側面部)との間に1条の溝が形成されているのに対して,イ号意匠では,天面部と右側面部(左側面部)との間に形成された溝が1条ではなく,間欠的に形成されている」,差異点3:「本件登録意匠には,正面部における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ,開口部の上に縦筋が設けられているのに対して,イ号意匠にはそのような開口部や縦筋が設けられていない」,差異点4:「本件登録意匠には,背面部に近接した天面部の後端に横筋が形成されているのに対して,イ号意匠にはそのような横筋が形成されていない」,差異点5:「イ号意匠には,右側面部及び左側面部に斜線状の筋が形成されているのに対して,本件登録意匠にはそのような筋が形成されていない」,差異点6:「イ号意匠には,右側面部における斜線状の筋に沿って複数の通気口が形成されているのに対して,本件登録意匠にはそのような通気口が形成されていない」点は,美観に大きな影響を与える。
特に,差異点1,2,5,6については,面積割合が最も大きい側面部における形態の差異であるから,両意匠の美観に大きな影響を与えることは明らかである。
また,イ号意匠及び本件登録意匠に係る製品のパッケージの正面には,データ記憶機の正面斜め上方から撮像されたデータ記憶機の写真が大きく表示されているから(甲第4号証の1),少なくともデータ記憶機の正面部,天面部及び側面部を看取した上で,需要者は商品選択を行う。したがって,データ記憶機の正面部,天面部及び側面部における形態の差異は,美観に大きな影響を与えるから,仮にパッケージを見て商品選択するとしても,上述の差異点1ないし6が両意匠の美観に大きな影響を与えることは明らかである。特に,差異点1,2,5,6については,パッケージの拡大写真に示すように(甲第4号証の2,第4号証の3),側面部の面積割合が最も大きいから,視覚上の効果は微弱ではなく,両意匠の美観に大きな影響を与えることは明らかである。
さらに,販売サイトに掲載されたイ号意匠及び本件登録意匠に係る製品の写真も,パッケージと同様に,正面斜め上方から撮像された写真が圧倒的であるから(甲第5号証の1,甲第5号証の2,甲第6号証の1,甲第6号証の2),仮にネット販売により商品を購入するとしても,上述の差異点1ないし6が美観に大きな影響を与えることは明らかである。特に,差異点1,2,5,6については,上述したように,視覚上の効果は微弱でないから,両意匠の美観に大きな影響を与えることは明らかである。
以上のように,実際の商取引において,判定請求人,判定被請求人の製品は,美観及び印象が全く異なり,需要者が彼此物品を混同することはあり得ないから,イ号意匠及び本件登録意匠が非類似であることは明らかである。
イ 創作者の立場からの類否の考察
甲第7号証によれば,本件登録意匠に対応する原告製品HD-LBシリーズは,2010年にグッドデザイン賞を受賞しているが,甲第7号証の「デザイナーのコメント」には「正面にデータと空気の入り口を特徴付ける穴を配置し機器の特徴としてデザインした」とあり,デザイナー自身が本件登録意匠の正面部に形成された縦筋及び開口部をデザイン上の特徴として認めている。
したがって,本件登録意匠の正面部に形成された開口部及び縦筋は,創作者が考えた意匠の要部であり,イ号意匠は,これらの開口部及び縦筋を正面部に備えていないから,本件登録意匠及びイ号意匠が非類似であることは明らかである。
ウ 先行意匠に基づく類否の考察
甲第8ないし10号証の意匠では,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,正面部,天面部,背面部,底面部,右側面部,左側面部から構成されており,正面部及び天面部は,側面視円弧状に湾曲した天面側湾曲部により連設されている。したがって,本件登録意匠及びイ号意匠の共通点はありふれた形態であり,先行意匠に照らして意匠の要部ではないから,本件登録意匠及びイ号意匠は互いに非類似である。

(5)むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠と非類似なので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

3 証拠方法
甲第1号証 意匠公報(意匠登録第1409214号)の六面図及び
一部の参考斜視図の写し
甲第2号証 イ号意匠の写真の写し
甲第3号証の1 データ記憶機の販売現場(ビックカメラ有楽町店)の写
真の写し
甲第3号証の2 データ記憶機の販売現場(LABI新橋)の写真の写し
甲第3号証の3 データ記憶機の販売現場(LABI新宿東口館)の写真
の写し
甲第3号証の4 データ記憶機の販売現場(ヤマダ電機 テックランドN
ew草加店)の写真の写し
甲第3号証の5 データ記憶機の販売現場(ビックカメラ池袋本店パソコ
ン館)の写真の写し
甲第3号証の6 データ記憶機の販売現場(横浜ヨドバシカメラ)の写真
の写し
甲第4号証の1 イ号意匠及び本件登録意匠に係る製品のパッケージの比
較写真の写し
甲第4号証の2 イ号意匠に係る製品のパッケージの拡大写真の写し
甲第4号証の3 本件登録意匠に係る製品のパッケージの拡大写真の写し
甲第5号証の1 本件登録意匠に係る製品の販売サイトの写し
甲第5号証の2 本件登録意匠に係る製品の販売サイトの写し
甲第6号証の1 イ号意匠に係る製品の販売サイトの写し
甲第6号証の2 イ号意匠に係る製品の販売サイトの写し
甲第7号証 2010年度グッドデザイン賞の紹介サイトの写し
甲第8号証 米国登録意匠第568,312号の写し
甲第9号証 中華民国登録意匠第111871号の写し
甲第10号証 中華人民共和国登録意匠第200630306273.
5号の写し
甲第11号証 意匠公報(意匠登録第1409214号)


第3 被請求人の答弁の趣旨及び理由
1 答弁の趣旨
被請求人は,「イ号意匠は,意匠登録第1409214号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する」と答弁し,その理由として,要旨以下のとおりの主張をした。

2 答弁の理由
(1)本件登録意匠とイ号意匠の形態
ア 本件登録意匠の形態
(ア)基本的構成態様
a 本件登録意匠は,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,本体,溝部及びプレート(一定の厚みの薄い1枚の板に見える形状の部分。以下に同じ。)から構成されている。
b 平面及び正面には,各面の全幅に渡りプレートが形成されている。
また,溝部は,プレートと本体の間に設けられている。
c プレートは略全面に渡って平坦であって,プレートの平面から正面へと繋がる角は,側面視円弧状に湾曲している。一方,プレートの平面から背面に繋がる角は直角に折れ曲がっている。
(イ)具体的構成態様
d プレートの正面側は,底面前方端にまで入り込むように形成されている。
e プレートの正面側の正面視における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ,開口部の上に縦筋が設けられている。
f プレートの平面側後方には,横筋が設けられている。
g 本体側面に筋は設けられていない。
h 幅(正面視の横幅):高さ(正面視の高さ):奥行き(側面視の横幅)のサイズ比は,約3:9:15である。
i 高さ全体に対して上方約15%が湾曲部として形成されている。
j 平面のプレートに沿って形成された溝部には,通気口がない。
k 本体側面に通気口は設けられていない。
l 本体側面のプレートと接しない辺(底面,背面と接する辺)に溝部は設けられていない。

イ イ号意匠の形態
(ア)基本的構成態様
a イ号意匠は,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,本体,溝部及びプレート(一定の厚みの薄い1枚の板に見える形状の部分。以下に同じ。)から構成されている。
b 平面及び正面には,各面の全幅に渡りプレートが形成されている。
また,溝部は,プレートと本体の間に設けられている。
c プレートは略全面に渡って平坦であって,プレートの平面から正面へと繋がる角は,側面視円弧状に湾曲している。一方,プレートの平面から背面に繋がる角は直角に折れ曲がっている。

(イ)具体的構成態様
d プレートは正面下端まで設けられていて,底面前方端には入り込んでおらず,正面下端は直角になっている。
e プレートの正面側に開口部及び縦筋は設けられていない。
f プレートの平面側に横筋は設けられていない。
g 本体側面には斜線状の筋が平行に設けられている。
h 幅(正面視の横幅):高さ(正面視の高さ):奥行き(側面視の横幅)のサイズ比は,約3:9:15である。
i 高さ全体に対して上方約15%が湾曲部として形成されている。
j 平面のプレートに沿って形成された溝部には,この溝部の長手方向に沿って並んだ複数の通気ロがある。
k 一方の本体側面には,斜線状の筋に沿って形成された複数の通気口がある。
l 本体側面のプレートと接しない辺(底面,背面と接する辺)に溝部が設けられている。

(2)両意匠の形態の共通点,差異点
ア 共通点
本件登録意匠とイ号意匠は,基本的構成態様における以下の点において共通している。
(ア)略扁平直方体状のデータ記憶機であって,本体,溝部及びプレート(一定の厚みの薄い1枚の板に見える形状の部分)から構成されている点
(イ)平面及び正面には,各面の全幅に渡りプレートが形成されている点,及び溝部はプレートと本体の間に設けられている点
(ウ)プレートは略全面に渡って平坦である点,プレートの平面から正面へと繋がる角が側面視円弧状に湾曲している点,及びプレートの平面から背面に繋がる角が直角に折れ曲がっている点
また,両意匠は,具体的構成態様における以下の点において共通している。
(エ)幅:高さ:奥行きのサイズ比が,約3:9:15である点
(オ)高さ全体に対して上方約15%が湾曲部として形成されている点も共通している。
イ 差異点
本件登録意匠とイ号意匠には,基本的構成態様において差異点はない。
具体的構成態様においては,以下の差異点かおる。
(カ)本件登録意匠ではプレートの正面側は,底面前方端にまで入り込むように形成されているのに対し,イ号意匠のプレートは正面下端まで設けられていて,底面前方端には入り込んでおらず,正面下端は直角になっている点
(キ)本件登録意匠にはプレートの正面側の正面視における下端よりもやや上の位置に開口部が設けられ,開口部の上に縦筋がそれぞれ設けられているのに対して,イ号意匠にはそのような開口部や縦筋が設けられていない点
(ク)本件登録意匠にはプレートの平面側後方に横筋が設けられているのに対して,イ号意匠にはそのような横筋が設けられていない点
(ケ)イ号意匠には本体側面に斜線状の筋が平行に設けられているのに対し,本件登録意匠にはそのような筋が設けられていない点
(コ)本件登録意匠の平面のプレートに沿って形成された溝部には,通気口がないのに対し,イ号意匠の平面のプレートに沿って形成された溝部には,この溝部の長手方向に沿って並んだ複数の通気口がある点
(サ)本件登録意匠の本体側面に通気口は設けられていないのに対し,イ号意匠の一方の本体側面には,斜線状の筋に沿って形成された複数の通気口がある点
(シ)本件登録意匠の本体側面のプレートと接しない辺(底面,背面と接する辺)には,溝部が設けられていないのに対し,イ号意匠の本体側面のプレートと接しない辺(底面,背面と接する辺)には溝部が設けられている点

(3)本件登録意匠とイ号意匠の形態の類似性
ア 本件登録意匠の要部
イ号意匠が,本件登録意匠に類似するか否かを考えるに当たっては,本件登録意匠の要部がいかなる点にあるかを把握した上で,イ号意匠が本件登録の要部に係る構成を備えているか否かを判断すべきであるが,本件登録意匠の要部は「略扁平直方体状であって本体,溝部及びプレート(一定の厚みの薄い1枚の板に見える形状の部分)から構成されている点」(基本的構成態様a),「平面及び正面には,各面の全幅に渡りプレートが形成され,溝部がプレートと本体の間に設けられている点」(基本的構成態様b),及び「プレートは略全面に渡って平坦である点,プレートの平面から正面へと繋がる角が側面視円弧状に湾曲している点,及びプレートの平面から背面に繋がる角は直角に折れ曲がっている点」(基本的構成態様c)を兼ね備えた形状にあるというべきである。これらを結合した形状のデータ記憶機は,本件登録意匠の出願前の公知意匠には存在しないし,かかる形態が需要者が本件登録意匠から最も大きな美感を感じる形態である。

イ 本件登録意匠とイ号意匠の類否
基本的構成態様aないしcを具備する公知意匠は本件登録意匠の出願前には存在せず,当該構成を兼ね備えた形状が本件登録意匠の要部であるが,基本的構成態様aないしcについては,本件登録意匠とイ号意匠は共通している。この基本的構成態様aないしcの共通点から,『全面に渡って略平坦で「のっぺり」感が強調されているプレートが,平面及び正面に設けられており,その平面及び正面の角は大きく円弧を描いている。』という共通の特徴ある美感が,本件登録意匠及びイ号意匠の両者から生じている。
加えて,具体的構成態様hの幅:高さ:奥行きのサイズ比が,約3:9:15である点,及び具体的構成態様iの高さ全体に対して上方約15%が湾曲部として形成されている点も共通している。このような全体のサイズ感と全体の中に占める湾曲部の範囲も共通しており,前記の要部に係る形態及び全体と湾曲部のサイズ感から,本件登録意匠とイ号意匠とからは共通の美的印象が生じる。
一方,具体的構成態様d,e,f,g,j,k,lにおける差異点はいずれも些細なものである。
差異点d及びeについては,この種の物品が卓上に設置されることを考えると,卓上に設置したときには,需要者(使用者)の目線は本物品を斜め上方から捉えることになり,物品の平面から正面につながる湾曲部を注視することになるが,その正面下端にまで注視するものではないから,正面下端における具体的構成態様d及びeの相違は些細なものである。
差異点fに関しては,プレート平面後方における小さな横筋の有無であって,平面から正面にかけての湾曲部を介した大きなプレートという共通点に埋没するものであって差異点として大きく評価できない。
差異点g及びkに関しては,イ号意匠の斜線状の筋は目立つものではなく,意匠の美感に影響を与えるほどのものではないし,本体側面における斜線状の筋にある通気ロも,斜線状の筋にそって配置されており,目につきにくい配置になっている。イ号意匠に施された斜線状の筋の有無が意匠の美感に影響を与えないことは,過去の特許庁の審査において,意匠登録第1470980号の意匠と,意匠登録第1471196号の意匠が関連意匠として登録されていることからも分かる。これらの意匠は,平面,左側面,及び底面の一部における斜線状の筋の有無に差異があるが,両意匠は,意匠登録第1470980号意匠を本意匠,意匠登録第1471196号の意匠を関連意匠として意匠登録されている(乙第2号証の1,乙第2号証の2)。
差異点jに関しても,需要者が全く注目しない細部に係る相違であるので,意匠の類否判断において全く評価できない。需要者が通気口の位置や形態にまで関心を示すとは考えられないし,通気ロは,データ記憶機内の温度の上昇抑制のために必要不可欠な構造であるが目立たないように配置されるものであって,イ号意匠において設けられている通気口の箇所及び形状は,特段,美感を生じさせる特徴的なものではなく,需要者の注意を惹く部分には含まれない。また,平面のプレートに沿って形成された溝部にある通気ロは,目につきにくい溝部内に存在しているものである(むしろ通気口を隠すために溝部内に配置されているとも思える。)。したがって,請求人が主張する通気口の有無という差異は,意匠の美感に影響を与える差異とはいえない。
また,差異点lに関しては,データ記憶機の販売時及び使用時において,需要者の目につきにくく,重要視されない差異点であるので,意匠の美感に影響を与えない。

ウ 小括
以上のとおり,イ号意匠は本件登録意匠とその要部を含めて多くの共通点を有しており,全体として共通の『全面に渡って略平坦で「のっぺり」感が強調されているプレートが,平面及び正面に設けられており,その平面及び正面の角は大きく円弧を描いている。』という美感を起こさせるものである。それに対して,両意匠が有する具体的構成態様における差異点はいずれも些細な差異であって,両意匠が有する前記した共通の美感に影響を与えるものではない。
よって,本件登録意匠とイ号意匠の形態が類似していることは明らかで ある。

(4)請求人の主張に対する反論
ア 全体観察に関する主張について
請求人は,データ記憶機の売り場において,パッケージに梱包されたデータ記憶機が積み上げられており,その近傍にはサンプルが置かれていて,物品全体の形態を吟味するから,全体観察により類否判断を行うべきと主張しており,本件登録意匠の要部に関しては,何ら具体的な主張をしていない。
意匠の類否判断においては全体観察が行われること自体は被請求人としても否定するものではないが,全体観察とともに,または全体観察以上に,当該意匠において需要者の注意を特に引く要部を認定して,要部観察に基づいた類否判断が行われることは当然であるし,意匠権侵害訴訟においては,イ号意匠が登録意匠の要部に係る構成を備えているか否かによって,類否判断がなされるのが通常である。
よって,本件登録意匠の要部認定を行い,その上,イ号意匠が当該要部に係る形態を有しているか否かの判断を抜きに,両意匠の類否を論じることはできず,かかる点を捨象して,両意匠の類否を論じる請求人の主張は明らかに失当なものである。
なお,前述したように,イ号意匠は本件登録意匠の要部に係る形態を有しているほか,全体の寸法割合も共通しているため,両意匠からは共通の美感が生じており,本件登録意匠の要部以外の形態を含めて検討したとしても,両意匠の形態が類似することは明らかである。

イ 請求人が主張する差異点の評価
請求人は,差異点1,2,5,6について,面積割合が最も大きい側面部における形態の差異であるから,両意匠の美観に大きな影響を与えると主張している。
しかしながら,かかる請求人の主張は,意匠の類否判断の基本を無視した主張というほかなく,失当である。物品の中で大きな割合を占めようが,需要者になんら注目されない部位については,類否判断において大きなウェイトを占めることがないことは当然である。需要者は本物品の顔ともいうべき平面及び正面における形状を重視するのであって側面における形状は,設置状態においても重視される部分ではない。
請求人が主張する差異点1は,正面下方において本件登録意匠は湾曲しているが,イ号意匠では湾曲せず直角という相違であるが,本物品の需要者の使用状況において,本物品を見下ろす需要者としては卓上の設置状態では正面下方はあまり注視しない。また,本件登録意匠の要部に係る平面から正面にかけてのプレートののっぺらとした湾曲形状が共通していることのほうが需要者の注意を強く惹くといえるから,そちらの美感の共通性が大きく,差異点1を要部に係る上記共通点以上に評価することはできない。
請求人が主張する差異点2は,天面部と側面部との溝形状の相違であるが,そのような溝に注目する需要者は皆無であろう。使用状態,目に付く位置,どの判断基準から考えても,溝の具体的形状を意匠の類否判断において大きく評価することなどできない。
請求人が主張する差異点5は,側面における斜線状の筋の有無の相違であ
るが,これについては,前述したように,イ号意匠の斜線状の筋は目立つものではなく,意匠の美感に影響を与えるほどのものではないことと,意匠登録第1470980号の意匠と,意匠登録第1471196号の意匠とが,側面の斜線の有無の相違はあるが互いに類似として関連関係で登録されていることからも,差異点5が大きく評価できないことは明らかである。
請求人が主張する差異点6は,斜線状の筋に沿って設けられた通気口の有無であるが,これも全く目立たず,全く評価できない些細なものである。

ウ パッケージに掲載の写真について
請求人は,イ号意匠及び本件登録意匠に係る製品のパッケージの正面には,データ記憶機の正面斜め上方から撮像されたデータ記憶機の写真が大きく表示されていることから(甲第4号証の1),少なくともデータ記憶機の正面部,天面部及び側面部における形態の差異は,美感に大きな影響を与える,側面部の面積割合が最も大きいから美観に大きな影響を与える旨を主張している。
しかしながら,甲第4号証の1の上方の写真(本件登録意匠に係る製品のパッケージの写真)は,明らかに,正面及び平面がメインで撮影されており,真正面から写真を撮影しても奥行き等がイメージできないため,やや側面を写しているのみであって,わざわざ側面を注視するような撮影方法ではない。
一方,甲第4号証の1の下方の写真(イ号意匠に係る製品のパッケージの写真)は,側面及び正面をメインに撮影されているものであるが,側面は暗くて具体的形状を把握できないため,側面の具体的なデザインはほぼ無視された撮影方法である(甲第4号証の2では拡大写真を提出しているが,明度を限りなく上げて側面の表面形状を明確にしようと恣意的に行われていることが明らかであって,このようなものは証拠としては不当である)。すなわち,甲第4号証の1の下方の写真においても,正面ののっぺり感と正面上方の湾曲部を強調した撮影となっており,側面は奥行きを示すために参考までに示されているにすぎない(側面は意匠上の効果を狙って撮影されていない)。
このような甲第4号証の1の撮影方法から考えても,請求人の主張は不当であって,当該証拠からは,両意匠に係る形態は,正面及び平面,当該両面が接する湾曲部,当該両面ののっぺら形状が需要者に重視される撮影方法と言わざるを得ない。

エ 甲5の撮影方法に関する主張について
請求人は,甲第5号証の1,2,甲第6号証の1,2においても,正面斜め上方から撮像された写真が圧倒的であって,側面における差異点1,2,5,6は視覚上の効果は微弱でないから,両意匠の美観に大きな影響を与えると主張する。
しかしながら,甲第5号証の1,2,甲第6号証の1,2においても,前記甲第4号証の1と同じような角度から撮影されており,これは側面視を重視した撮影方法ではなく,両意匠に係る形態は,正面及び平面,当該両面が接する湾曲部,当該両面ののっぺら形状が需要者に重視される撮影方法である。

オ グッドデザイン賞のデザイナーコメントについて
請求人は,甲第7号証の「デザイナーのコメント」には「正面にデータと空気の入り口を特徴付ける穴を配置し機器の特徴としてデザインした」との記載を引用して,デザイナー自身が本件登録意匠の正面に形成された縦筋及び開口部をデザイン上の特徴と認めているとし,開口部及び縦筋は創作者が考えた要部であって,当該部がないイ号意匠とは非類似と主張する。
しかしながら,甲第7号証でいう「データの入りロ」という記載は誤記であって,本件登録意匠の開口部は空気の入り口としての役割を果たすのみである。
意匠の類否判断においては,デザイナー(創作者)のコメントよりも,それを見た取引者や需要者の他人が見た美感を重視すべきであるが,甲第7号証では,「審査委員の評価」という記載もあり,そこでは,「造形的には,シンプルであるが一つのコーナーを大きなアールを取ることで,このシリーズの特徴となり,バランスのよいデザインとしてまとまっている。」との評価されている。意匠の類否判断ではこの評価を重視すべきであるが,かかるコメントは,平面から正面へとつながる大きな湾曲部を特徴と捉えたコメントであり,かかるコメントを踏まえて考えると,本件登録意匠とイ号意匠が類似することはより一層明確になるといえる。

カ 甲8ないし10の意匠について
請求人は,甲第8号証ないし甲第10号証の意匠において,略扁平直方体状のデータ記憶機であって,正面部,天面部,背面部,底面部,右側面部,左側面部から構成されており,正面部及び天面部は,側面視円弧状に湾曲した天面側湾曲部により連設されているという請求人のいう共通点に係る形態が開示されているため,前記形態はありふれていると主張する。
しかしながら,甲第8号証の意匠は,4つの角全てに均等に僅かな湾曲を設けた構成からなるものであり,本件登録意匠の基本的構成態様cの構成(プレートの平面から正面へと繋がる角を円弧状に湾曲させ,プレートの平面から背面に繋がる角が直角に折れ曲がった構成)を具備するものではない。
また,甲第8号証の意匠の正面及び右側面には,別部材からなるパーツがはめ込まれており,甲第8号証の意匠が「データ記憶機の側面以外の面がプレートで構成され」ているということはできないため,甲第8号証の意匠は本件登録意匠の基本的構成態様a及びbを具備するものでもない。米国の意匠制度においては,図面の作成に際し,陰影線を記載することになっており,異なる部材の境界部に陰影線を表す方法が採用されている。この点,甲第8号証の公報の正面図の中央には,2本の線が表されているが,この2本の線の間の部分は別部材であり,おそらくはライトであると推察される。また,右側面図の中央にも2本の湾曲線が表されているが,この2本の湾曲線の間の部分も別部材からなる。この2本の湾曲線の間の部材には2つの矢印からなる円形矢印模様が表されており,この部材がいかなる機能を有しているかは不明であるが,ボタン又はライトである可能性が高く,いずれにしても,この別部材の部分も含めて1つのプレートを形成しているということはできない。
このように,甲第8号証の意匠には,正面中央にライトらしき縦筋と右側面中央に円弧状の別部材が設けられており,本件登録意匠のように,プレートの主たる部分に何もないのっぺりとした印象がない。また,4つの角が全て湾曲している点についても,本件登録意匠の特徴の一つである平面から背面にかけての角は直角に折れ曲がっているという点を有していない。
したがって,甲第8号証の意匠が,本件登録意匠の基本的構成態様aないしcが要部になることを否定する根拠になるものでないことは明らかである。
甲第9号証の意匠については,側面(公報では正面及び背面)に溝部が形成されているか不明であるし,また,平面から正面(公報では左側面)は全域に筋が入っており,全面に渡って設けられた平坦なプレートと言えるものではない。よって,本件登録意匠の要部がありふれたものとできる公知資料ではない。
甲第10号証の意匠についても,側面(公報では正面及び背面)に溝部が形成されているか不明であるし,また,正面(公報では右側面)は円形ボタンのようなものが大きく設けられ,正面左右には全域にわたり筋が入っているため,全面に渡って設けられた平坦なプレートと言えるものではない。よって,本件登録意匠の要部がありふれたものとできる公知資料ではない。
このように,請求人提出の公知資料から考えても,本件登録意匠の要部である『「略扁平直方体状であって本体,溝部及びプレート(一定の厚みの薄い1枚の板に見える形状の部分)から構成されている点」(基本的構成態様a),「平面及び正面には,各面の全幅に渡りプレートが形成され,溝部がプレートと本体の間に設けられている点」(基本的構成態様b),及び「プレートは略全面に渡って平坦である点,プレートの平面から正面へと繋がる角が側面視円弧状に湾曲している点,及びプレートの平面から背面に繋がる角は直角に折れ曲がっている点」(基本的構成態様c)を兼ね備えた形状』はやはり新規であって,客観的にみても本件登録意匠の特徴に係る要部である。また,本件登録意匠からは『全面に渡って略平坦で「のっぺり」感が強調されているプレートが,平面及び正面に設けられており,その平面及び正面の角は大きく円弧を描いている。』という美感が生じる。

(5)結語
以上のとおり,イ号意匠は,本件登録意匠の要部に係る形態を有するものであり,また,共通点から共通の美的印象が生じる。また,両意匠の相違点については,いずれも些細な違いであって,相違点を大きく評価することはできない。需要者は両意匠の共通点から生じる共通の美的印象を強く認識するため,両意匠は類似している。
よって,イ号意匠は本件登録意匠の意匠権の範囲に属する。

3 証拠方法
乙第1号証 大阪地裁平成30年(ワ)第6029号の弁論準備手続
期日調書
乙第2号証の1 意匠登録第1470980号の意匠公報
乙第2号証の2 意匠登録第1471196号の意匠公報


第4 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は,その願書及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「データ記憶機」とし,その形態(形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合)は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。

本件登録意匠のデータ記憶機に係る形態は,具体的には以下のとおりである。
(1)本体は,略偏平直方体状とし,幅,高さ及び奥行きのそれぞれの長さの比率を約1対3対5としたものである。
(2)後方の上側及び下側を直角の角部とし,前方の上側及び下側の角部を湾曲面にしたものであり,前方上側の湾曲面は,前方下側の湾曲面よりも少し大きく,本体の高さの約7分の1を占めるものである。
(3)本体の段差を設けた上辺と前辺と少し底辺に回り込んだ所に,本体幅よりも僅かに幅の狭い表面板状部(プレート部)を貼り合わせたような形態で,その結果,側面視で,本体側面とプレート部との間に1条の溝が表れているものである。
(4)プレート部は,上面の後方から前面の下方にかけて,一つながりの平滑なものである。
(5)前面は,下端寄りにてプレート部が上下に分かれており,下側プレート部の上端中央に浅くて幅の広い切り欠き部を設けて,上側プレート部との間を開口部とし,上側プレート部の下端中央には縦筋状の切り欠き部を設けたものである。
(6)上面は,平面視でプレート部の後端寄りに横溝を設けたものである。
(7)左右両側面は,前記段差以外の全面を平滑なパネル状としたものである。
(8)背面は,端子用の接続部や電源スイッチを設けていないものである。
(9)底面は,前面から回り込んだプレート部と左右両側面から折れ込んだパネル状部分との隙間が,縦長T字状の溝として表れているものである。
(10)色彩を施していない形状のみのものである。

2 イ号意匠
イ号意匠は,判定請求書の記載及び甲第2号証によれば,意匠に係る物品を「データ記憶機」とし,その形態は,甲第2号証の写真に現されたとおりとしたものである(別紙第2参照)。

イ号意匠のデータ記憶機に係る形態は,具体的には以下のとおりである。
(1)本体は,略偏平直方体状とし,幅,高さ及び奥行きのそれぞれの長さの比率を約1対3対5としたものである。
(2)後方の上側,下側及び前方の下側を直角の角部とし,前方の上側の角部のみを湾曲面にしたものであり,湾曲面は,本体の高さの約10分の1を占めるものである。
(3)上面及び前面は,上面の後端から前面の下端まで,平滑な一つながりの表面板状部(プレート部)としたものである。
(4)左右両側面は,周囲に溝を設けるように前面,背面,上面及び底面の縁との間に少し間隔を空けて,パネル状としたものであり,パネル状部分の全面に多数の凹凸の筋を斜めに設けると共に,右側面パネル状部分の後方上部に多数の小四角形の通気口を千鳥状に配したものである。
(5)側面視で,上方の溝に,複数の凹部を一定の間隔を空けて設けたものである。
(6)背面は,下半部に上から順に端子用の接続部,電源スイッチ,端子用の接続部を設けたものである。
(7)底面は,全体にわたり複数の小四角形の凹部が,一定の間隔を空けてI字状に表れているものである。
(8)本体は,濃灰色であり,背面に設けた上側の端子用接続部は,青色としたものである。

3 両意匠の対比
以下,本件登録意匠とイ号意匠を併せて「両意匠」という。
(1)意匠に係る物品
意匠に係る物品は,両意匠共に「データ記憶機」である。

(2)形態
ア 共通点
共通点1:本体は,略偏平直方体状としたものである。
共通点2:本体の幅,高さ及び奥行きのそれぞれの長さの比率を,約1対3対5としたものである。
共通点3:前方上側の角部は,湾曲面としたものである。
共通点4:上面の後方から前面の下方にかけて,平滑な一つながりのプレート部として表れているものである。
共通点5:左右両側面は,パネル状としたものである。
共通点6:側面視でパネル状部分と上面及び前面のプレート部との間に1条の溝が表れているものである。
共通点7:後方の上側及び下側を,直角の角部としたものである。

イ 相違点
相違点1:前方上側の湾曲面の大きさについて,本件登録意匠は,本体の高さの約7分の1を占めたものであるのに対して,イ号意匠は,本体の高さの約10分の1を占めたものである。
相違点2:前面について,本件登録意匠は,下端寄りにてプレート部が上下に分かれており,下側プレート部の上端中央に浅くて幅の広い切り欠き部を設けて,上側プレート部との間を開口部とし,上側プレート部の下端中央には縦筋状の切り欠き部を設けたものであるのに対して,イ号意匠は,何も設けていない1枚の平滑なプレート部としたものである。
相違点3:前方下側の角部について,本件登録意匠は,湾曲面としたものであるのに対して,イ号意匠は,直角の角部としたものである。
相違点4:側面視における溝について,本件登録意匠は,パネル状部分と上面,前面及び少し底面に回り込んだ所のプレート部との間に1条の溝を設けたものであるのに対して,イ号意匠は,パネル状部分の四周に1条の溝を設けたものであり,上側の溝には,複数の凹部を一定の間隔を空けて設けたものである。
相違点5:パネル状部分について,本件登録意匠は,平滑な面としたものであるのに対して,イ号意匠は,全面に多数の凹凸の筋を斜めに設けると共に,右側面には後方上部に多数の小四角形の通気口を千鳥状に配したものである。
相違点6:上面について,本件登録意匠は,プレート部の後端寄りに横溝を設けたものであるのに対して,イ号意匠は,何も設けていない1枚の平滑なプレート部としたものである。
相違点7:背面について,本件登録意匠は,端子用の接続部や電源スイッチを設けていないものであるのに対して,イ号意匠は,下半部に上から順に端子用の接続部,電源スイッチ,端子用の接続部を設けたものである。
相違点8:底面について,本件登録意匠は,全体にわたり縦長T字状の溝が表れているものであるのに対して,イ号意匠は,全体にわたり複数の小四角形の凹部が,一定の間隔を空けてI字状に表れているものである。
相違点9:色彩について,本件登録意匠は,色彩を施していない形状のみのものであるのに対して,イ号意匠は,本体を濃灰色とし,背面に設けた上側の端子用接続部については,青色としたものである。

4 類否判断
(1)意匠に係る物品の類否判断
意匠に係る物品については,両意匠共に「データ記憶機」であり,その使用目的及び使用状態が一致しているから,同一である。

(2)形態の共通点及び相違点の評価
ア 共通点の評価
共通点1は,本体の形態を概括したものに過ぎないし,この物品分野において本体を略偏平直方体状とした形態はありふれたものであるから,共通点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
共通点2は,本体の幅,高さ及び奥行きのそれぞれの長さの比率に係るものであるが,この物品分野において,本体を略偏平直方体としたものには,種々の比率のものがあることを踏まえると,両意匠の当該長さの比率に顕著な特徴があるとはいえないから,共通点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
共通点3は,前方上側の角部を湾曲面とした点であるが,当該部分が,前方上側という目に付きやすい部分の特徴であるとしても,当該角部を湾曲面としたものは,この物品分野において従来から見受けられる形態(参考意匠1ないし3。別紙3ないし5参照。)であり,両意匠のみの特徴とはいえないから,共通点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度にとどまる。
共通点4は,上面の後方から前面の下方にかけて平滑な一つながりのプレート部とした点であるが,上面及び前面を全体的に見れば,上面においては横溝を設けたか否かの相違(相違点6),前面においては開口部や切り欠き部を設けたか否かの相違(相違点2)に伴い,上面及び前面を全面的に一つながりのプレート部としたか否かの点で相違するものであるから,共通点4は,正面斜め上方から限定的な範囲を見た場合の共通点に過ぎず,共通点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度にとどまる。
共通点5は,左右両側面を大まかに捉えたものに過ぎないから,共通点5が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
共通点6は,側面視でパネル状部分と上面及び前面のプレート部との間に1条の溝が表れている点であるが,これは,溝の一部分を見ている場合の共通点に過ぎず,全体的に見れば,相違点4として挙げたように,溝の態様は大きく異なるものであるから,共通点6が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
共通点7は,後方の上側及び下側の角部を直角とした点であるが,直角の角部はありふれているから,共通点7が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

イ 相違点の評価
相違点1は,前方上側の湾曲面の大きさの相違であるが,大差のない相違であるから,相違点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点2は,プレート部の前面部分における相違であり,プレート部の前面を1枚の平滑な面としたものであるか否かは,一見して気が付く相違であるし,開口部や切り欠き部の有無の相違は,操作性に関わる相違との印象をもたらすものであるから,相違点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点3は,前方下側の角部を湾曲面としたか否かの相違であるが,底面に回り込む部分の相違であるとしても,前面下端寄りの開口部や切り欠き部の有無の相違と共に目に入ってくる部分の相違であるから,相違点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点4は,側面視における溝の相違であるが,パネル状部分と上面,前面及び少し底面に回り込んだ所のプレート部との間に1条の溝を設けた本件登録意匠については,パネル状部分が側面を全体的に覆い,上面及び前面のプレート部が本体から飛び出しているように感じさせ,パネル状部分の四周に1条の溝を設けたイ号意匠については,ごく細い額状の枠体の中に,それより一回り小さなパネルが嵌め込まれているように感じさせ,両意匠は本体の側面視の形態が大きく異なるとの印象をもたらし,イ号意匠の上側の溝に一定間隔で設けた複数の凹部の有無の相違も加わって,相違点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点5は,左右両側面のパネル状部分における相違であるが,斜めの凹凸筋を設けたか否かの相違は,パネル状部分の全面に及ぶものであるから,一見して気が付く相違であり,通気口の有無の相違も加わって,相違点5が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
相違点6は,上面に横溝を設けたか否かの相違であるが,本件登録意匠に設けた横溝に特段評価する程の特徴は認められないから,相違点6が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点7及び相違点8は,通常の使用状態において目に触れにくい背面及び目に触れることのない底面の相違であり,相違点7及び相違点8が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
相違点9は,色彩に係るものであるが,この物品分野においては軽微な相違といえるから,相違点9が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

(3)両意匠の類否判断
両意匠について意匠全体として総合的に観察した場合,両意匠は,意匠に係る物品は同一であるが,その形態については,上述の共通点及び相違点の評価に基づけば,共通点1ないし7を備えた形態は,両意匠に一定の共通感をもたらしているとしても,前面を1枚のプレート部としたか否かの相違及び前面における開口部や切り欠き部の有無の相違(相違点2),並びに前方下側の角部を湾曲面としたか否かの相違(相違点3)が相まって,前面の形態について異なる印象をもたらし,側面視の形態についても,溝の相違(相違点4)及びパネル状部分の相違(相違点5)が相まって異なる印象をもたらすものであり,この前面及び側面視の形態の相違が合わさって,需要者に異なる美感を起こさせるものである。
したがって,両意匠は,類似するものではない。

なお,請求人及び被請求人は,グッドデザイン賞におけるデザイナーや審査委員のコメントを引用して,両意匠の特徴を評価するが,判定はこれらのコメントに拘束されるものではない。
また,被請求人は,乙号証として過去の登録意匠(乙第2号証の1及び2)を例示して,イ号意匠の左右両側面における斜線状に設けた筋状部の有無の相違は,意匠の美感に影響を与えるものではない旨主張するが,これらの乙号証の意匠は,本判定の両意匠とは,形態が異なるものであり,前提が異なるから,採用することができない。

5 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2019-12-20 
出願番号 意願2010-18950(D2010-18950) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (H6)
最終処分 成立 
前審関与審査官 坂田 麻智 
特許庁審判長 木村 恭子
特許庁審判官 正田 毅
橘 崇生
登録日 2011-02-10 
登録番号 意匠登録第1409214号(D1409214) 
代理人 山田 威一郎 
代理人 柴田 和彦 
代理人 鈴木 行大 
代理人 井出 真 
代理人 須澤 洋 
代理人 松井 宏記 
代理人 水野 勝文 
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