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審決分類 審判 判定   属する(申立成立) B9
管理番号 1362421 
判定請求番号 判定2019-600039
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 判定 
判定請求日 2019-12-17 
確定日 2020-06-02 
意匠に係る物品 スライドファスナー用スライダーの胴体 
事件の表示 上記当事者間の登録第1270572号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「スライドファスナー用スライダーの胴体」の意匠は、登録第1270572号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び理由

1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は、令和1年(2019年)12月17日に「イ号意匠は、本件登録意匠(意匠登録第1270572号)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張をした。

2 請求の理由

(1)判定請求の必要性
請求人は、意匠登録第1270572号(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
被請求人はイ号物件説明書(当審注:甲第3号証「陳述書(1)」のこと。)に記載のスライダー(以下「イ号意匠」という。)(当審注:別紙、イ号製品目録に記載の製品名「Non-Lock Slider」のこと。)を第三者に販売し、当該第三者による鞄等が販売されていることを請求人は確認した。
そこで、請求人は、第三者の立場にある特許庁による判定を求める次第である。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願日 : 平成17年12月 6日(意願2005-35958)
登録日 : 平成18年 3月24日(意匠登録第1270572号)

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「スライドファスナー用スライダーの胴体」とし、その形態の要旨を、次のとおりとする。

すなわち、
ア 基本的な構成態様は、本体部は正面図及び背面図の上方において幅広形状となり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らかな曲線によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.17:1となっている。引手部も、正面図及び背面図において、丸みを帯びた形状となっている。右側面図及びA-A断面図に示すとおり、本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結柱とを有している。この本体部の上面に引手部が設けられている。上翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。下翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部フランジ部を有している。平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板と下翼板を左右方向の中心で連結している。

イ 具体的な構成態様は、右側面図及びA-A断面図に示すとおり、連結柱は本体部の端部(右側面図及びA-A断面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連結している。右側面図において、連結柱の逆側の端部(右側面図及びA-A断面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ部の端部(右側面図及びA-A断面図の上側端部)との間には若干の間隙が設けられている。引手部の根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先端部は、右側面図及びA-A断面図において、幅が大きくなっている。平面図及び底面図で示すとおり、引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大きくなっている。引手部の根本部の端部が上翼板の端部から若干ずれて設けられ、引手部の先端部の端部が先細形状となっている。

ウ 上記説明で用いた各部分を図面の該当箇所で示しておく(参考図)。


(4)イ号意匠の説明
イ号意匠は、以下のような形状となっている。

すなわち、
ア 基本的な構成態様は、本体部は正面図及び背面図の上方において幅広形状となり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らかな曲線によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.21:1となっている。引手部も、正面図及び背面図において、丸みを帯びた形状となっている。右側面図に示すとおり、本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結柱とを有している。この本体部の上面に引手部が設けられている。上翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。下翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部フランジ部を有している。平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板と下翼板を左右方向の中心で連結している。

イ 具体的な構成態様は、右側面図に示すとおり、連結柱は本体部の端部(右側面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連結している。右側面図において、連結柱の逆側の端部(右側面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ部の端部(右側面図の上側端部)との間には若干の間隙が設けられている。引手部の根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先端部は、右側面図において、幅が大きくなっている。平面図及び底面図で示すとおり、引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大きくなっている。引手部の根本部の端部が上翼板の端部に合致し設けられ、引手部の先端部の端部が平らな形状となっている。

【イ号意匠】


(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明

ア 両意匠の共通点

(ア)両意匠は、意匠に係る物品が「スライダーの胴体」で一致している。

(イ)基本的な構成態様において、本体部は正面図及び背面図の上方において幅広形状となり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らかな曲線によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.2:1となっている(有効数字2桁で表現すれば、両者は共に同じ比率であり、肉眼で需要者が観察した際には、わずかな比率の差異を気づくことはできない。)。引手部も、正面図及び背面図において、丸みを帯びた形状となっている。右側面図に示すとおり、本体部は、上翼板と、下翼板と、これら上翼板と下翼板を互いに連結する連結柱とを有している。この本体部の上面に引手部が設けられている。上翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。下翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部フランジ部を有している。平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板と下翼板を左右方向の中心で連結している。

(ウ)具体的な構成態様において、右側面図に示すとおり、連結柱は本体部の端部(右側面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連結している。右側面図において、連結柱の逆側の端部(右側面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ部の端部(右側面図の上側端部)との間には若干の間隙が設けられている。引手部の根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先端部は、右側面図において、幅が大きくなっている。平面図及び底面図で示すとおり、引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大きくなっている。

ア 両意匠の差異点

(ア)本件登録意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部から若干ずれて設けられているのに対して、イ号意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部に合致している。

(イ)本件登録意匠では、引手部の先端部の端部が先細形状とはなっているのに対して、イ号意匠では、引手部の先端部の端部が平らな形状となっている。

(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明

ア 本件登録意匠に関する先行周辺意匠
甲第4号証(意匠登録第1067634号)
発行日:平成12年(2000年) 4月24日
甲第5号証(意匠登録第1193368号)
発行日:平成16年(2004年) 1月 6日
甲第6号証(意匠登録第1211912号)
発行日:平成16年(2004年) 7月20日

イ 本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠のように、従来の意匠においては、本体部の進行方向に沿った長さが、当該進行方向に直交する幅方向の長さと比較して、相当程度、長くなっており、細長い印象を与えるものとなっている。これに対して、本件登録意匠では、本体部の進行方向に沿った長さと当該進行方向に直交する幅方向の長さとの差が小さく、本体部の進行方向に沿った長さが進行方向に直交する幅方向の長さの1.2倍程度となり、全体として、丸みを帯びた印象を与えるものとなっている。この印象は、本体部の幅広形状及び幅狭形状とこれらを連結する遷移部分のいずれにおいても丸みを帯びた形状となり、引手部も丸みを帯びていることによって、より強調されている。
スライダーがバッグ等で利用される場合、スライダーのうち本体部の正面図における形状を需要者は最も目にすることになることも鑑みると、本件登録意匠では、本体部の幅広形状及び幅狭形状とこれらを連結する遷移部分のいずれにおいても丸みを帯びた形状となり、本体部の進行方向に沿った長さと当該進行方向に直交する幅方向の長さとの差が小さくなり、本体部の進行方向に沿った長さが進行方向に直交する幅方向の長さの1.2倍程度となる点は、需要者に対して最も印象を与える形状である。

ウ 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで、本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに、
(ア)両意匠の共通点は、特に、本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の差が小さくなり、本体部の進行方向に沿った長さが当該進行方向に直交する幅方向の長さの1.2倍程度になり、かつ本体部の幅広形状及び幅狭形状とこれらを連結する遷移部分のいずれにおいても丸みを帯びた形状となっている点である。
両意匠の各々において引手部が丸みを帯びていることも相まって、両意匠は、全体として丸みを帯びた印象を与えるものとなっている。
これらの形状は、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

(イ)両意匠の差異点の(5)アについては、わずかな差異であり、上記共通点が与える印象を考慮すれば、類否の判断に与える影響は微弱である。

(ウ)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。

(7)結語
以上の次第であるので、イ号意匠は本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

3 証拠方法

(1)甲第1号証 : 意匠登録第1270572号登録原簿謄本

(2)甲第2号証 : 意匠登録第1270572号公報

(3)甲第3号証 : 陳述書(1)

(4)甲第4号証 : 意匠登録第1067634号公報

(5)甲第5号証 : 意匠登録第1193368号公報

(6)甲第6号証 : 意匠登録第1211912号公報

第2 被請求人の答弁

1 答弁の趣旨
本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)は、令和2年4月6日に「イ号意匠は、本件登録意匠(意匠登録1270572号)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める。」と答弁し、その理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2 答弁の理由

(1)はじめに
被請求人は、被請求人がイ号意匠を第三者に販売していることを争う。
また、イ号意匠は、本件登録意匠と類似しておらず、本件登録意匠及びこれに類似する意匠(以下「本件登録意匠等」という。)の範囲に属しない。
以下に詳述する。

(2)イ号意匠の販売
被請求人製品とイ号意匠との同一性に関する証拠は請求人従業員の陳述書(甲3)のみであるところ、甲3・1頁に記載のURLで特定されるWebサイトに掲載されているスライダー(以下「Webサイト掲載スライダー」という。)の形態は以下のとおりであるから(すなわち、Webサイト掲載スライダーは、正面から観察した際に右上が欠けている。その他にもWebサイト掲載スライダーとイ号意匠には様々な差異がある。)、Webサイト掲載スライダーと甲3・2頁及び3頁に掲載されているイ号意匠は、明らかに別物である(乙1)。





















被請求人は、被請求人がイ号意匠を第三者に販売していることを争う。

(3)イ号意匠は本件登録意匠等の範囲に属しない

ア 本件登録意匠

(ア)総論
本件登録意匠は、同意匠の出願前に公然知られた意匠に類似し又はこれらの意匠に基づき容易に創作できたものである。したがって、そもそも本件登録意匠はその有効性が否定されるべきものである(なお、念のため付言するに、被請求人は、本判定手続において本件登録意匠の無効を主張するものではないが、本件登録意匠の要保護性の低さは、後述の本件登録意匠に係る意匠権(以下「本件登録意匠権」という。)の効力範囲の判断においても十分に斟酌されるべきものであると思料する。)。
また、それを措くとしても、本件登録意匠は、同意匠の出願前に出願・刊行等され公然知られた数多くの意匠に類似し、あるいはこれらの公知意匠の一部及びスライダーがその機能上当然又は一般的に有する形状を寄せ集めたものに過ぎず、本件登録意匠権の効力範囲は、以下のとおり、極めて狭いものである。

(イ)本体部の構成
A 本件登録意匠の本体部
請求人は、本件登録意匠の本体部の構成について、以下のとおり説明する。
・「本体部は正面図及び背面図の上方において幅広形状となり、下方において幅狭形状となり、両形状は遷移部分において滑らかな曲線によって連結され、いずれにおいても丸みを帯びた形状となっている。」(判定請求書・4頁)
・「本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の差は小さくなり、本体部の正面図及び背面図の上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.17:1となっている。」(判定請求書・4頁)
・「従来の意匠においては、本体部の進行方向に沿った長さが、当該進行方向に直交する幅方向の長さと比較して、相当程度、長くなっており、細長い印象を与えるものとなっている。これに対して、本件登録意匠では、本体部の進行方向に沿った長さと当該進行方向に直交する幅方向の長さとの差が小さく、本体部の進行方向に沿った長さが進行方向に直交する幅方向の長さの1.2倍程度となり、全体として、丸みを帯びた印象を与えるものとなっている。この印象は、本体部の幅広形状および幅狭形状とこれらを連結する遷移部分のいずれにおいても丸みを帯びた形状とな・・・ることによって、より強調されている。」(判定請求書・18頁以下)
本件登録意匠の上記構成は、いずれも、本件登録意匠の出願前に出願・刊行等され公知となった以下の各意匠により開示されており、看者の注意を引く意匠の要部とはならない。

(ウ)引手部の構成
A 本件登録意匠の引手部
請求人は、本件登録意匠の引手部の構成について、以下のとおり説明する。
・「引手部も、正面図及び背面図において 、丸みを帯びた形状となっている。」(判定請求書・4頁以下)
・「本体部の上面に引手部が設けられている。」(判定請求書・5頁)
・「引手部の根本部が本体部に連結されているが、根本部と逆側端部である先端部は、右側面図及びA-A断面図において、幅が大きくなっている。」(判定請求書・5頁)
・「平面図及び底面図で示すとおり、引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大きくなっている。」(判定請求書・5頁)
・「引手部の根本部の端部が上翼板の端部から若干ずれて設けられ、引手部の先端部の端部が先細形状となっている。」(判定請求書・5頁)
本件登録意匠の上記構成のうち、少なくとも「引手部の先端部の端部が先細形状となっている」以外の構成は、いずれも、本件登録意匠の出願前に出願・刊行等され公知となった以下の各意匠により開示されており、看者の注意を引く意匠の要部とはならない(さらに言えば、「本体部の上面に引手部が設けられている。」「引手部の根本部が本体部に連結されている。」といった形状は、本件登録意匠がスライダーである以上、機能上当然の形状である。また、「引手部の左右方向の幅は、連結柱の左右方向の幅と比較して若干大きくなっている。」といった形状も、スライダーにおいて、引手部と連結柱とでは一般に前者の方がスライダーの使用時に負荷が大きいから、前者の左右方向の幅が後者の左右方向の幅よりも若干大きくなるという形状は、機能上一般的な形状といえる。)。

(エ)上翼板、下翼板、連結柱の構成
A 本件登録意匠の上翼板、下翼板、連結柱
請求人は、本件登録意匠の上翼板、下翼板及び連結柱の構成について、以下のとおり説明する。
・「上翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、下方に突出した上部フランジ部を有している。」(判定請求書・5頁)、「下翼板は、右側面図において、連結柱と重複しない位置で、上方に突出した下部フランジ部を有している。」(判定請求書・5頁)、「右側面図において、連結柱の逆側の端部(右側面図及びA-A断面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ部の端部(右側面図及びA-A断面図の上側端部)との間には若干の間隔が設けられている。」(判定請求書・5頁)
・「平面図及び底面図で示すとおり、連結柱は、上翼板と下翼板を左右方向の中心で連結している。」(判定請求書・5頁)、「右側面図及びA-A断面図に示すとおり、連結柱は本体部の端部(右側面図及びA-A断面図の上側端部)で上翼板と下翼板とを連結している。」(判定請求書・5頁)
本件登録意匠の上記構成は、いずれも、本件登録意匠の出願前に出願・刊行等され公知となった以下の各意匠により開示されており、看者の注意を引く意匠の要部とはならない(さらに言えば、「連結柱は、上翼板と下翼板を左右方向の中心で連結している。」といった形状は、本件登録意匠がスライダーである以上、ファスナーを通させるスペースを確保するために機能上当然の形状である。また、スライダーのフランジ部はエレメントを外側から押挟み込んで噛み合わせる役割を有するのに対し、スライダーの連結柱はエレメントの間に挿入されてエレメントの噛み合わせを解除する役割を有するから、「右側面図において、連結柱の逆側の端部(右側面図及びA-A断面図の下側端部)と上部フランジ部及び下部フランジ部の端部(右側面図及びA-A断面図の上側端部)との間には若干の間隔が設けられている。」といった形状は機能上一般的な形状といえるし、また、かかる連結柱の役割を踏まえると、連結柱が本体部の端部付近で上翼板と下翼板とを連結する形状も機能上一般的な形状といえる。)。

イ 本件登録意匠とイ号意匠との差異点
本件登録意匠とイ号意匠とには、請求人が判定請求書において指摘している2点(下記(ア)(イ))を含め、少なくとも以下の差異点が存在する。

(ア)本件登録意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部からずれて設けられているのに対して、イ号意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部に合致している。これにより、本件登録意匠は、正面から観察した際に、引手部が中央にあることで本体部全体が円状に(丸く)映るのに対し、イ号意匠は、引手部が端に寄っていることで縦長に映る。

(イ)本件登録意匠では、引手部の先端部の端部が先細形状となっているのに対して、イ号意匠では、引手部の先端部の端部が平らな形状となっている。

(ウ)本件登録意匠では、正面図において、本体部の上部は円形状(ないし頭頂部の曲率が小さい)であるのに対して、イ号意匠では、本体部の上部は上下方向を長軸とする楕円形状(ないし頭頂部の曲率が大きい)である。

(エ)本件登録意匠では、正面図において、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.17:1であるのに対して、イ号意匠では、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.26:1である。

(オ)本件登録意匠では、右側面図において、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(スライダーの厚み)の比は約1.27:1であるのに対して、イ号意匠では、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(スライダーの厚み)の比は約1.03:1である(すなわち、本件登録意匠は、側面から観察した際に長方形に映るのに対して、イ号意匠は正方形に映る。)。

(カ)本件登録意匠では、底面図において、上下方向の長さ(スライダーの厚み)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.00:1であるのに対して、イ号意匠では、上下方向の長さ(スライダーの厚み)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.19:1である(すなわち、本件登録意匠は、底面から観察した際に正方形に映るのに対して、イ号意匠は長方形に映る。)。

(キ)本件登録意匠では、右側面図において、上下のフランジ部の下側端部が上翼板及び下翼板の下側端部とずれて設けられているのに対して、イ号意匠では、上翼板及び下翼板の下端と上下のフランジ部の下端が合致して設けられている。この差異により、本件登録意匠では、右側面から観察した際に、柔らかいイメージを生じさせるのに対して、イ号意匠では、硬い(角ばった)イメージを生じさせて、上記(オ)(カ)に記載の全体感を強調している。

(ク)本件登録意匠では、右側面図及び平面図において、下翼板の端部を45度傾斜させているのに対して、イ号意匠では、下翼板の端部が直角(90度)である。この差異により、本件登録意匠では、右側面及び平面から観察した際に、スライダーの厚みが薄く映るとともに、丸みを帯びた柔らかいイメージを生じさせるのに対して、イ号意匠では、スライダーの厚みが厚く映るとともに、硬い(角ばった)イメージを生じさせて、上記(オ)(カ)に記載の全体感を強調している。

(ケ)本件登録意匠では、右側面図において、引手部の傾斜が小さいのに対し、イ号意匠では、引手部の傾斜が大きい。この差異により、イ号意匠は、本件登録意匠と比較して、より積極的に大きくラベル(スライダーの引手部に挿入してスライダーを牽引する部材)を包み込む美観を生じさせる。

ウ 本件登録意匠とイ号意匠との差異点
本件登録意匠とイ号意匠とには、請求人が判定請求書において指摘している2点(下記(ア)(イ))を含め、少なくとも以下の差異点が存在する。

(ア)本件登録意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部からずれて設けられているのに対して、イ号意匠では、引手部の根本部の端部が上翼板の端部に合致している。これにより、本件登録意匠は、正面から観察した際に、引手部が中央にあることで本体部全体が円状に(丸く)映るのに対し、イ号意匠は、引手部が端に寄っていることで縦長に映る。

(イ)本件登録意匠では、引手部の先端部の端部が先細形状となっているのに対して、イ号意匠では、引手部の先端部の端部が平らな形状となっている。

(ウ)本件登録意匠では、正面図において、本体部の上部は円形状(ないし頭頂部の曲率が小さい)であるのに対して、イ号意匠では、本体部の上部は上下方向を長軸とする楕円形状(ないし頭頂部の曲率が大きい)である。

(エ)本件登録意匠では、正面図において、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.17:1であるのに対して、イ号意匠では、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.26:1である。

(オ)本件登録意匠では、右側面図において、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(スライダーの厚み)の比は約1.27:1であるのに対して、イ号意匠では、上下方向の長さ(進行方向の長さ)と左右方向の長さ(スライダーの厚み)の比は約1.03:1である(すなわち、本件登録意匠は、側面から観察した際に長方形に映るのに対して、イ号意匠は正方形に映る。)。

(カ)本件登録意匠では、底面図において、上下方向の長さ(スライダーの厚み)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.00:1であるのに対して、イ号意匠では、上下方向の長さ(スライダーの厚み)と左右方向の長さ(幅方向の長さ)の比は約1.19:1である(すなわち、本件登録意匠は、底面から観察した際に正方形に映るのに対して、イ号意匠は長方形に映る。)。

(キ)本件登録意匠では、右側面図において、上下のフランジ部の下側端部が上翼板及び下翼板の下側端部とずれて設けられているのに対して、イ号意匠では、上翼板及び下翼板の下端と上下のフランジ部の下端が合致して設けられている。この差異により、本件登録意匠では、右側面から観察した際に、柔らかいイメージを生じさせるのに対して、イ号意匠では、硬い(角ばった)イメージを生じさせて、上記(オ)(カ)に記載の全体感を強調している。

(ク)本件登録意匠では、右側面図及び平面図において、下翼板の端部を45度傾斜させているのに対して、イ号意匠では、下翼板の端部が直角(90度)である。この差異により、本件登録意匠では、右側面及び平面から観察した際に、スライダーの厚みが薄く映るとともに、丸みを帯びた柔らかいイメージを生じさせるのに対して、イ号意匠では、スライダーの厚みが厚く映るとともに、硬い(角ばった)イメージを生じさせて、上記(オ)(カ)に記載の全体感を強調している。

(ケ)本件登録意匠では、右側面図において、引手部の傾斜が小さいのに対し、イ号意匠では、引手部の傾斜が大きい。この差異により、イ号意匠は、本件登録意匠と比較して、より積極的に大きくラベル(スライダーの引手部に挿入してスライダーを牽引する部材)を包み込む美観を生じさせる。

エ イ号意匠が本件登録意匠等の範囲に属しない理由の説明

(ア)本件登録意匠の要部
本件登録意匠は、当該意匠の出願前に出願・刊行等され公知となった様々な意匠に開示され、看者にとってありふれて見える部分の寄せ集めであり(また、スライダーの機能上当然又は一般的な形状も含まれており)、要部を特定すること自体困難なものであるが、あえて特定するとすれば、引手部の位置(上記ウ(ア))及びスライダー全体の厚みのバランス(上記ウ(オ)(カ)(ケ))の組み合わせは、意匠全体の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成し、看者が意匠全体を観察した際に、看者の注意を惹くものと評価し得る。

(イ)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
本件登録意匠については、上記のとおり、数多くの類似公知意匠が存在する。したがって、万が一本件登録意匠につき有効性が認められたとしても、本件登録意匠権の効力範囲は極めて狭いものであって、本件登録意匠との間に僅かな差異があるだけであっても、当該スライダーは本件登録意匠等の範囲に属しないこととなる。
まして、上記ウのとおり、本件登録意匠とイ号意匠とには、本件登録意匠の要部に関しても、非要部に関しても、様々な差異点が存する。したがって、意匠全体を観察しても、細部を観察しても、いずれにしても、看者が本件登録意匠とイ号意匠とに同様の美観を得ることはあり得ず、両者は全く類似していない。
なお、念のため付言するに、請求人が本件登録意匠の要部であると主張する、正面から観察した際の本体部の形状についても、主に上記ウ(ア)(ウ)(エ)の差異点から、本件登録意匠とイ号意匠とは全く異なる美観を生じさせるものである(すなわち、本件登録意匠は円状に(丸く)映るのに対し、イ号意匠は縦長に映る。)。したがって、この点をもってしても、両者は全く類似していない。イ号意匠は、本件登録意匠よりも、新輝行カタログスライダー1により近い。

オ 結論
以上の次第であるので、イ号意匠は本件登録意匠等の範囲に属しないとの判定を求める。

第3 当審の判断

1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1270572号)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「スライドファスナー用スライダーの胴体」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり、具体的な形態は、以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)本件登録意匠の形態

ア 基本的構成態様
全体は、スライダー本体と引手用のフックからなるものである(以下、スライダー本体を「本体部」、引手用のフックを「フック部」という。)。
本体部は、正面視、略縦長円形の両側中央から下側をくびれ状に絞り込んだ平板(以下「平板部」という。)を2枚、正背に面を揃えて近接し、その内面上端に上面を平板部の外形に合わせて弧状に面取りした略直方体形の連結部材(以下「ブリッジ部」という。)を設けて接合したものであって、平板部の内面の左右縁の真ん中から下端寄りに沿って突条(以下「フランジ部」という。)を設けている。
フック部は、略縦長隅丸直方体形の両端を内側に湾曲してちょうど電話機における送受話器の様相を呈したものであって、本体部の正面上端よりやや下がった位置に上側の端面を固着し、下端よりやや上がった位置で下側を開放状とし、全体として前方に傾斜状としている。

イ 各部の態様

(ア)本体部

a 寸法比
(a)全体
正面視において、縦(高さ)及び横の長さの比率は、約6:5である。
右側面視において、縦(高さ)及び横の長さの比率は、約2.4:1である。
(b)平板部
右側面視において、平板部の縦(高さ)及び横の長さの比率は、約9:1で、フランジ部の突出幅は平板部の横幅の約4割弱である。
(c)ブリッジ部
右側面視において、ブリッジ部の縦(高さ)横及び奥行き(平面視における横幅)の長さの比率は、約2:1:1.1である。また、縦の長さは全高の約2/5で、横の長さは全幅の約1/2弱である。

b 形態
(a)正面視において、左右対称形で、上端から左右の中央付近までを略半円弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がっている。
(b)右側面視において、左右の平板部は、上下端を面取りした略縦長矩形で、左の平板部のみ左辺がごく僅かに弧状に膨出している。
フランジ部は、上下の角を弧状に面取りしている。
ブリッジ部は、下辺の左右端近くを斜め下方向に屈曲している。

(イ)フック部

a 寸法比及び傾斜角度
(a)正面視において、縦(高さ)及び横の長さの比率は、約7:2である。また、縦の長さは全高の約9/10で、横の長さは全幅の約1/3弱である。
(b)右側面視において、平板部と接する端面の縦の長さは、全高の約1/4弱である。また、傾斜角度(上端と下端を結んだ線の角度)は、約80度である。

b 形態
(a)正面視において、左右対称形の略縦長隅丸矩形で、真ん中から下に向かって若干窄まり状とし下端は略U字状に面取りしている。
(b)右側面視において、略縦長C字状としている。

2 イ号意匠
本件判定請求の対象であるイ号意匠は、判定請求書中、(4)イ号意匠の説明(第8頁)及び判定請求書と同時に提出された甲第3号証(別紙第2参照)の第3頁に記載の写真の写しにより示されたものであって、意匠に係る物品は「スライダー」であると認められ、その形態を、イ号意匠の写真の写しにより表されたとおりとしたものであり、具体的な形態は、以下のとおりである。
なお、答弁書において、甲第3号証の第1頁に記載のURLで特定されるWebサイトに掲載されるスライダー(同時に提出された乙第1号証に記載の写真の写し)とイ号意匠とは異なる旨主張しているが、当審においては、上記のとおり、甲第3号証の第3頁に記載の意匠をイ号意匠と認定し、本件登録意匠と比較検討するものとする。

(1)イ号意匠の形態

ア 基本的構成態様
全体は、本体部とフック部からなるものである。
本体部は、正面視、略縦長円形の両側中央から下側をくびれ状に絞り込んだ平板部を2枚、薄厚の平板部を背面側として正背に面を揃えて近接し、その内面上端に上面を平板部の外形に合わせて弧状に面取りした略直方体形のブリッジ部を設けて接合したものであって、平板部の内面の左右縁の真ん中から下端寄りに沿ってフランジ部を設けている。
フック部は、略縦長隅丸直方体形の両端を内側に湾曲して電話機における送受話器の様相を呈したものであって、本体部の正面上端に、上側の端面を固着し、下端よりやや上がった位置で下側を開放状とし、全体として前方に傾斜状としている。

イ 各部の態様

(ア)本体部

a 寸法比
(a)全体
正面視において、縦(高さ)及び横の長さの比率は、約6:5である。
右側面視において、縦(高さ)及び横の長さの比率は、約2.2:1である。
(b)平板部
右側面視において、正面側の平板部の縦(高さ)及び横の長さの比率は、約7:1で、フランジ部の突出幅は平板部の横幅の約6割強である。
背面側の平板部の縦(高さ)及び横の長さの比率は、約8:1で、フランジ部の突出幅は平板部の横幅の約6割弱である。
左右の平板部の横幅の比率は、約5:4で、フランジ部を含めた横幅の比率は、約2:1である。
(c)ブリッジ部
右側面視において、ブリッジ部の縦(高さ)横及び奥行き(平面視における横幅)の長さの比率は、約2:1:1.1である。また、縦の長さは全高の約2/5で、横の長さは全幅の約1/2弱である。

b 形態
(a)正面視において、左右対称形で、上端から左右の中央付近までを略半円弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がっている。
(b)右側面視において、左右の平板部は、上下端を面取りした略縦長矩形である。
フランジ部は、上下の角を弧状に面取りしている。

(イ)フック部

a 寸法比及び傾斜角度
(a)正面視において、縦(高さ)及び横の長さの比率は、約7:2である。また、縦の長さは全高の約9/10で、横の長さは全幅の約1/3弱である。
(b)右側面視において、平板部と接する端面の縦の長さは、全高の1/3強である。また、傾斜角度(上端と下端を結んだ線の角度)は、約80度である。

b 形態
(a)正面視において、左右対称形の略縦長隅丸矩形で、下端は略U字状に面取りしている。
(b)右側面視において、略縦長C字状としている。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠及びイ号意匠(以下「両意匠」という。)は、いずれもスライドファスナーの引手を除いたスライダーの胴体であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると、主として、以下の共通点と差異点がある。

ア 共通点

(ア)基本的構成態様
両意匠は、本体部とフック部からなるものであって、

a 本体部は、正面視、略縦長円形の両側中央から下側をくびれ状に絞り込んだ平板部を2枚、正背に面を揃えて近接し、その内面上端に上面を平板部の外形に合わせて弧状に面取りした略直方体形のブリッジ部を設けて接合したものであって、平板部の内面の左右縁の真ん中から下端寄りに沿ってフランジ部を設けている点。

b フック部は、略縦長隅丸直方体形の両端を内側に湾曲して、本体部の正面上方に、上側の端面を固着し、下端よりやや上がった位置で下側を開放状とし、全体として前方に傾斜状としている点。

(イ)各部の態様

a 本体部
(a)正面視において、左右対称形で、上端から左右の中央付近までを略半円弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がっている点。
(b)右側面視において、左右の平板部は、上下端を面取りした略縦長矩形で、フランジ部は上下の角を弧状に面取りしている点。

b フック部
(a)正面視において、左右対称形の略縦長隅丸矩形で、下端は略U字状に面取りしている点。
(b)右側面視において、略縦長C字状とし、本体部に対する傾斜角度を約80度としている点。

イ 差異点

(ア)基本的構成態様
本体部について、本件登録意匠は、平板部の厚みは2枚とも同じであるのに対し、イ号意匠は、正面側の平板部より背面側の平板部の方が薄厚である点。

(イ)各部の態様

a 本体部
(a)平板部
右側面視において、本件登録意匠は、左の平板部のみ左辺がごく僅かに弧状に膨出しているのに対し、イ号意匠は、左右の辺とも垂直状である点。
(b)ブリッジ部
右側面視において、本件登録意匠は、下辺の左右端近くを斜め下方向に屈曲しているのに対し、イ号意匠は、屈曲はみられない点。

b フック部
正面視において、本件登録意匠は、本体部よりやや下がった位置に設け、真ん中から下に向かって若干窄まり状としているのに対し、イ号意匠は、本体部の上端に設け、垂直状である点。

4 両意匠の類否判断
イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて、すなわち、両意匠が類似するか否かについて、検討する。

(1)両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、共に、スライダーの胴体であるから同一である。

(2)形態の共通点及び相違点の評価
両意匠は、バッグ等の開口部に使用するスライドファスナーの開閉に用いるスライダーの胴体であるから、服飾デザイナー、バッグ類の製造業者及び取引業者が主たる需要者といえるが、これらの需要者は、実際にバッグ類を購入し使用する者の視点から製品の外観に表れる部位についても注目するものといえるため、その中で最も目につきやすい正面視における態様について第一に評価し、かつそれ以外の形態も併せて、各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。

ア 共通点の評価
両意匠の共通点のうち、前記3 ア(ア)基本的構成態様について、すなわち、全体は、本体部とフック部からなり、本体部は、平板部を2枚、近接し、その内面上端にブリッジ部を設けて接合し、内面の左右縁の真ん中から下端寄りに沿ってフランジ部を設けたものとし、フック部は、略縦長隅丸直方体形の両端を内側に湾曲して、本体部の正面上方に、上側の面を固着し、下側を開放状とし、全体として前方に傾斜状とした態様は、両意匠のみならず、この種物品において、ファスナーを開閉する際に不可欠な構成態様といえるものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。しかしながら、前記(イ)各部の態様のうち、特に、a(a)本体部の正面視の態様、すなわち、上端から左右の中央付近までを略半円弧状としたあと、下に向かって凹弧状にくびれながら垂下し、全体がやや凸弧状に膨出した下辺の両端と隅丸状に繋がったものとした態様は、角や直線を排除した曲線のみの構成で、全体として丸みのある柔和な視覚的効果を醸成しており、また、上端から略半円孤状に広がる上半分の外形状が、円形を基調とする印象をもたらしている一方、その下に続く両側のくびれが織りなす曲線の変化が、両意匠に共通するアクセントとして、需要者に強い共通の美感を起こさせているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
そうすると、この種物品においては、共通点(ア)が両意匠の類否判断に与える影響は小さいとしても、共通点(イ)の本体部の正面部の態様が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであって、これらの共通点は、相まって、需要者に共通の印象を与えるものである。

イ 差異点の評価
両意匠の差異点のうち、前記3 イ(ア)基本的構成態様について、すなわち、本件登録意匠は、本体部の平板部の厚みが2枚とも同じであるのに対し、イ号意匠は、正面側の平板部より背面側の平板部の方が薄厚である点について、イ号意匠の2枚の平板部の厚みの差は、さほど大きいものではないことに加え、背面側の平板部は、使用状態において、ファスナーの裏側に隠れて外部から視認できないことを考慮すると、この厚みの差は、格別、需要者の注意を惹くとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、前記3 イ(イ)に掲げた各部の態様の相違についても、いずれも部分的な差異に止まり、微弱なものといわざるを得ないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
そして、これら差異点は、相まっても両意匠の類否判断を左右するほどの影響を与えるには至らないものである。

5 小括

したがって、前記の共通点と差異点を総合して判断すれば、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が同一で、形態についても、差異点が、両意匠の類否判断を左右するほどの影響を与えるには至らないものであるのに対して、共通点は、相まって、需要者に共通の印象を与えるものであるから、意匠全体として見た場合、両意匠は類似する。

第4 むすび

以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって、結論のとおり判定する。

別掲

判定日 2020-05-19 
出願番号 意願2005-35958(D2005-35958) 
審決分類 D 1 2・ 2- YA (B9)
最終処分 成立 
前審関与審査官 正田 毅 
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 内藤 弘樹
宮田 莊平
登録日 2006-03-24 
登録番号 意匠登録第1270572号(D1270572) 
代理人 大野 浩之 
代理人 長谷部 陽平 
代理人 鷲見 健人 
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