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審決分類 審判 判定   属する(申立成立) L1
管理番号 1364083 
判定請求番号 判定2020-600004
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 判定 
判定請求日 2020-02-14 
確定日 2020-07-09 
意匠に係る物品 仮設柱用抜け防止取付け金具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1592676号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「仮設柱用抜け防止取付け金具」の意匠は、登録第1592676号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求の趣旨及び理由の要点

1 請求の趣旨
本件判定請求人は、結論同旨の判定を求めると申し立て、その理由として、要旨以下のとおりの主張をした。

2 請求の理由

(1)判定請求の必要性
本件判定請求人(平和技研(株))は、本件判定請求に係る登録意匠(「仮設柱用抜け防止取付け金具」、意匠登録第1592676号、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
本件判定被請求人(馥ジャパン(株)及びKRH(株))が製造及び販売を行っているイ号意匠に係る仮設足場用連結構造体(イ号物件)は、本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので、本件判定請求人は、令和1年11月1日付でその旨の警告書(甲第1号証、甲第2号証)を本件判定被請求人に送付した。
これに対して、本件判定被請求人は、令和1年11月27日付の回答書(甲第3号証)において、「イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」旨主張したので、特許庁による判定を求める。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出 願 平成27年 9月 7日(意願2016-28083号)
登 録 平成29年11月17日(意匠登録第1592676号)

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「仮設柱用抜け防止取付け金具」とし、その形態の要旨を、次のとおりとする。なお、本件登録意匠の構成物品の各部の名称を示す図面(甲第4号証)を添付する。
すなわち、
ア 基本的な構成態様は、左右方向(水平方向)に配置された管材と、管材の左端部に設けられた角筒材と、角筒材に対して上下方向にスライド可能に保持された楔材からなる。角筒材は正面視した形状が略コ字状となるように、左側の高さ方向中央部に切欠きが形成されており、使用時に、仮設柱の側部に設けられた係止金具に装着される。係止金具は平面視して略コ字状に形成されており、角筒材と係止金具との隙間(平面視して角筒材の開口と係止金具の開口が重なる位置)に、上から楔材を嵌入することにより、角筒材と係止金具が固定される。
イ 具体的な構成態様は、角筒材に保持された状態の楔材の左右方向の幅が上方から下方に向かって徐々に狭くなるように楔材の右側面が傾斜し、さらに下部が右側に曲がって全体が「く」字状となっている。また、楔材の前後方向中央には、楔材の長手方向(上下方向)に沿って長尺の貫通孔が設けられている。楔材の頭部の形状は平面視して略正方形状である。角筒材の上部には、角筒材の左側の上連通部及び右側壁部と直交し、上連通部と右側壁部を水平方向(左右方向)に連結する保持金具が設けられ、この保持金具が貫通孔に遊嵌して楔材の脱落を防止している。楔材は上方にスライドさせた後、下端部を軸として上端側を右方向(管材方向)に倒し、管材の上面に載置することができる。また、角筒材の切欠きの左側上部には、係止金具の上部に一部嵌入する突出部が形成されている。さらに、角筒材の右側壁部の前後方向中央には、高さ方向(上下方向)に沿って切目部が存在し、高さ方向中央には、右側壁部から左側に向かって延設された一対の折り曲げ部が形成されている。
また、管材の直径は、角筒材の前後方向の輻よりもやや大きく、管材の一部が角筒材の前後方向両端からはみ出している。

(4)イ号意匠の説明
イ号意匠は、イ号物件「仮設足場用連結構造体」の意匠であり、その形態の要旨を、次のとおりとする(添付したイ号意匠説明書参照)。
すなわち、
ア 仮設足場用連結構造体10Aの基本的な構成態様は、左右方向(水平方向)に配置された管材Pと、管材Pの左端部に設けられた角筒材11と、角筒材11に対して上下方向にスライド可能に保持された楔材40からなる。角筒材11は正面視した形状が略コ字状となるように、左側の高さ方向中央部に切欠き12が形成されており、使用時に、仮設柱1の側部に設けられた係止金具5に装着される。係止金具5は平面視して略コ字状に形成されており、角筒材11と係止金具5との隙間(平面視して角筒材11の開口と係止金具5の開口が重なる位置)に、上から楔材40を嵌入することにより、角筒材11と係止金具5が固定される。
イ 具体的な構成態様は、角筒材11に保持された状態の楔材40の左右方向の幅が上方から下方に向かって徐々に狭くなるように楔材40の右側面が傾斜し、さらに下部が右側に曲がって全体が「く」字状となっている。また、楔材40の前後方向中央には、楔材40の長手方向(上下方向)に沿って長尺の貫通孔45が設けられている。楔材40の頭部の形状は、平面視して長方形状であり、左右方向の輻が前後方向の幅の1/2程度となっている。角筒材11の上部には、角筒材11の左側の上連通部25及び右側壁部15と直交し、上連通部25と右側壁部15を水平方向(左右方向)に連結する保持金具50が設けられ、この保持金具50が貫通孔45に遊嵌して楔材40の脱落を防止している。楔材40は上方にスライドさせた後、下端部を軸として上端側を右方向(管材P方向)に倒し、管材Pの上面に載置することができる。また、角筒材11の切欠き12の左側上部(上連通部25の下部)には、係止金具5の上部に一部嵌入する突出部24が形成されている。さらに、角筒材11の左側の上連通部25及び左側の下連通部35の前後方向中央には、それぞれ仮設柱1の円周面2に沿うように、上湾曲部23及び下湾曲部33が形成されている。また、管材Pの直径は、角筒材11の前後方向の幅とほぼ同等であるが、管材Pが連結される右側壁部15の前後方向両端部の一部が円弧状に湾曲し、角筒材11の前後からはみ出している。

(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 両意匠の共通点
(ア)両意匠は、意匠に係る物品が「仮設柱用抜け防止取付け金具」と「仮設足場用連結構造体」であり、その機能及び用途から、同一の物品である。
(イ)基本的な構成態様において、管材は断面円形のパイプで、角筒材は正面視した形状が略コ字状となるように、左側の高さ方向中央部に切欠きが形成されている。楔材は角筒材に対して上下方向にスライド可能に保持されており、角筒材と係止金具との隙間(平面視して角筒材の開口と係止金具の開口が重なる位置)に、上から楔材を嵌入することにより、角筒材と係止金具が固定される。
(ウ)具体的な構成態様において、楔材の左右方向の幅が上方から下方に向かって徐々に狭くなるように楔材の右側面が傾斜し、さらに下部が右側に曲がって全体が「く」字状となっている。また、楔材の前後方向中央には、楔材の長手方向(上下方向)に沿って長尺の貫通孔が設けられている。角筒材の上部には、角筒材の左側の上連通部及び右側壁部と直交し、上連通部と右側壁部を水平方向(左右方向)に連結する保持金具が設けられ、この保持金具が貫通孔に遊嵌して楔材の脱落を防止している。楔材は上方にスライドさせた後、下端部を軸として上端側を右方向(管材方向)に倒し、管材の上面に載置することができる。また、角筒材の切欠きの左側上部には、係止金具の上部に一部嵌入する突出部が形成されている。
イ 両意匠の差異点
(ア)楔材の頭部の形状が、本件登録意匠は、平面視して略正方形状であるのに対し、イ号意匠は、平面視して長方形状であり、左右方向の幅が前後方向の幅の1/2程度となっている。
(イ)本件登録意匠は、角筒材の右側壁部の前後方向中央に、高さ方向(上下方向)に沿って切目部が存在し、高さ方向中央には、右側壁部から左側に向かって延設された一対の折り曲げ部が形成されているのに対し、イ号意匠は、右側壁部が平板状で、切目部及び折り曲げ部が存在しない。
(ウ)イ号意匠は、角筒材の左側の上連通部及び左側の下連通部の前後方向中央に、それぞれ仮設柱の円周面に沿うように、上湾曲部及び下湾曲部が形成されているのに対し、本件登録意匠は、上連通部及び下連通部が平坦状である。
(エ)本件登録意匠は、管材の直径が、角筒材の前後方向の輻よりもやや大きく、管材の一部が角筒材の前後方向両端からはみ出しているのに対し、イ号意匠は、管材の直径が、角筒材の前後方向の幅とほぼ同等であり、管材が連結される右側壁部の前後方向両端部の一部が円弧状に湾曲し、角筒材の前後からはみ出している。

(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
ア 本件登録意匠に関する先行周辺意匠
甲第5号証 特開2004-324353号公報 図1?図7
甲第6号証 特開2012-62668号公報 図1?図7
甲第7号証 特開2015-48677号公報 図1?図7
イ 本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠をもとに、本件登録意匠の創作の要点について述べれば、この種の物品における意匠上の創作の主たる対象は、係止金具に角筒材を固定するための楔材、楔材の脱落を防止する保持金具及び角筒材を係止金具に装着するための突出部の構成態様にあることは明らかで、本件登録意匠については、先行周辺意匠に見られない、楔材の前後方向中央に、楔材の長手方向(上下方向)に沿って設けられ、楔材を左右方向に貫通する貫通孔の形状、角筒材の左側の上連通部と右側壁部を水平方向(左右方向)に連結し、貫通孔に遊嵌して楔材の脱落を防止するという機能上も重要な部分である保持金具の態様及び角筒材の切欠きの左側上部に形成され、角筒材を係止金具に装着する際に係止金具の上部に一部嵌入する突出部の形状が相俟って、本件登録意匠全体の基調を表出している。
なお、本件判定請求人が、甲第1号証及び甲第2号証において、本件登録意匠の特徴部分として楔材及び保持金具を挙げたところ、本件判定被請求人は、甲第3号証において、本件登録意匠の出願前に多数の同種形態の製品が存在する旨主張したが、何ら具体的な証拠は示されていない。また、同様に、楔材の貫通孔についても、本件判定被請求人は、本件登録意匠の拒絶引例並びに本件登録意匠に関連する特許第6251711号の拒絶引例の添付図面にも示された慣用されているありふれた形態であると主張した。しかし、本件判定被請求人が指摘した拒絶引例である甲第5号証及び甲第6号証における楔材の貫通孔は、本件登録意匠のように楔材を左右方向に貫通するものではなく、いずれも楔材を前後方向に貫通するものであり、本件登録意匠の保持金具に相当する構造も備えていない。また、甲第7号証における楔材には、下端部に楔材を左右方向に貫通する貫通孔が設けられているが、楔材が平面視して略コ字型に形成され、前後方向中央部に楔材の長手方向に沿って長溝部が形成されており、この長溝部に突出部を内嵌させることにより、楔材を上下方向に摺動自在に保持している。よって、甲第7号証には、本件登録意匠の特徴である、楔材を左右方向に貫通する長尺の貫通孔も、貫通孔を貫通して楔材を上下方向に摺動可能に保持する保持金具も備えていない。
ウ 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに、(ア)両意匠の共通点は、基本的な構成態様に加え、具体的な構成態様のうち、特に、本件登録意匠の要部である楔材の前後方向中央に、楔材の長手方向(上下方向)に沿って設けられた貫通孔の形状、角筒材の左側の上連通部と右側壁部を水平方向(左右方向)に連結し、貫通孔に遊嵌して楔材の脱落を防止する保持金具の態様、及び角筒材の切欠きの左側上部に形成され、角筒材を係止金具に装着する際に係止金具の上部に一部嵌入する突出部の形状が共通しており、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
(イ)両意匠の差異点の(5)イ(ア)については、楔材の頭部の形状の差異は、機能的にも装飾的にも特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱である。差異点の(5)イ(イ)の切目部は管材と重なって右側面からはほとんど見えず、左側面からも奥にあって見えづらく、また、角筒材における切目部の有無或いは切目部の位置の違いは特段顕著な相違とはいえず、本件登録意匠の要部でもないことから、類否の判断に与える影響は微弱である。同じく折り曲げ部も外周を角筒材で囲まれており、通常の使用状態では、その存在を確認することは困難であり、本件登録意匠の要部とはなり得ず、類否の判断に与える影響は微弱である。差異点の(5)イ(ウ)については、仮設柱との密着性を考慮して、当該箇所に湾曲部を形成することは、常套的な手法であり、その形状の差異は、特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱である。差異点の(5)イ(エ)については、管材の一部が角筒材の前後方向両端からはみ出しているのか、管材が連結される右側壁部の前後方向両端部の一部が円弧状に湾曲し、角筒材の前後からはみ出しているのか、左側面を見る限りは、区別することができず、ほぼ同一の形状と捉えられ、本件登録意匠の要部ではないことから、この点においても特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱である。
(ウ)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点が類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでに至らないものである。

(7)むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

3 証拠方法

(1)甲第1号証 馥ジャパン(株)宛て令和1年11月1日付警告書

(2)甲第2号証 KRH(株)宛て令和1年11月1日付警告書

(3)甲第3号証 本件判定請求人代理人宛て令和1年11月27日付回答書

(4)甲第4号証 本件登録意匠の構成物品の各部の名称を示す図面

(5)甲第5号証 特開2004-324353号公報

(6)甲第6号証 特開2012-62668号公報

(7)甲第7号証 特開2015-48677号公報

第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点

1 答弁の趣旨
被請求人は、イ号図面及びその説明書に示す意匠は、意匠登録第1592676号及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求めると申し立て、その理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2 答弁の理由

(1)判定請求書「2 請求の理由」に対する認否
ア 同「(1)判定請求の必要性」のうち、本件判定被請求人が製造及び販売を行っているイ号意匠に係る仮設足場用連結構造体(イ号物件)が本件登録意匠の意匠権を侵害するとの主張は争う。その余は、認める。
イ 同「(2)本件登録意匠の手続の経緯」は、認める。
ウ 同「(3)本件登録意匠の説明」は、認める。
エ 同「(4)イ号意匠の説明」アに記載された基本的な構成態様は、認める。同イに記載された具体的構成態様は概ね認めるが、本件登録意匠と対比するために重要な構成態様が欠落しているため、イ号の具体的構成態様については、後記(2)において詳述する。
オ 同「(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明」のうち、「ア 両意匠の共通点」は、認める。同「イ 両意匠の差異点」は、争う。
本件登録意匠とイ号意匠の相違点については、後記(4)において詳述する。
カ 同「(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明」は、全て争う。

(2)イ号意匠の構成態様
本件判定被請求人が製造及び販売する「仮設足場用連結構造体」(以下、「イ号物件」という。)は、被請求人KRH株式会社出願にかかる特開2019-167811号公報(乙第1号証。以下、「被請求人公報」という。)の実施品であり、その意匠の構成態様は以下のとおりである。
なお、以下の説明においてイ号意匠の各部の名称は、本件判定請求書において用いられた名称を踏襲するが、被請求人公報における構成部材との関連を明らかにするため、被請求人公報において用いられた部材の名称を()書きで付記する。
[基本的構成態様]
ア 管材(連結パイプ)と、管材(連結パイプ)の左端部に設けられた角筒材(連結部材)と、角筒材(連結部材)に対して上下方向にスライド可能に保持された楔材(くさび部材)からなる。
イ 角筒材(連結部材)は、正面視した形状が略コ字状となるように、左側の高さ方向中央部に切欠きが形成されており、使用時に、仮設柱(支柱)の側部に設けられた係止金具(くさび受け)に装着される。
[具体的構成態様]
ウ 楔材(くさび部材)の左右方向の幅は上方から下方に向かって徐々に狭くなるように楔材(くさび部材)の右側面が傾斜し、さらに下部が右側に曲がって全体が「く」字状となっている。
エ 楔材(くさび部材)の前後方向中央には、楔材の長手方向[上下方向]に沿って長尺の貫通孔(長溝部)が設けられている。
オ 角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)に設けられた上湾曲部(湾曲部)及び下湾曲部(湾曲部)の裏面が該長尺の貫通孔(長溝部)内に当接する。
カ 該長尺の貫通孔(長溝部)の溝縁部には傾斜面が形成されており、角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)に設けられた上湾曲部(湾曲部)及び下湾曲部(湾曲部)の裏面が該傾斜面に当接嵌入する。
キ 楔材(くさび部材)の頭部の形状は、平面視して長方形状であり、左右方向の幅が前後方向の幅の1/2程度となっている。
ク 角筒材(連結部材)の上部には、角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び右側壁部(連結パイプ固定部)と直交し、上連通部(上側部材)と右側壁部(連結パイプ固定部)を水平方向[左右方向]に連結する保持金具(受け止めバンド部)が設けられ、この保持金具(受け止めバンド部)が貫通孔(長溝部)に遊嵌して楔材(くさび部材)の脱落を防止している。
ケ 楔材(くさび部材)は上方にスライドさせた後、下端部を軸として上端側を右方向[管材(連結パイプ)方向]に倒し、管材(連結パイプ)の上面に載置することができる。
コ 楔材(くさび部材)の後面に凹状のパイプ受け部が形成されている。
サ 角筒材(連結部材)の切欠きの左側上部(上連通部の下部)には、係止金具(くさび受け)の上部に一部嵌入する突出部が形成されている。
シ 角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)の前後方向中央には、それぞれ仮設柱(支柱)の円周面に沿うように、上湾曲部(湾曲部)及び下湾曲部(湾曲部)が形成されている。
ス 角筒材(連結部材)に管材(連結パイプ)が固接される連結パイプ固定部が設けられ、管材(連結パイプ)が該連結パイプ固定部のパイプ用孔部に嵌挿され、管材(連結パイプ)の前端が内部に貫通されて、溶接によって固接されている(いわゆる「インロー付け・差し込み溶接」)。
セ 角筒材(連結部材)の前後方向の幅は、管材(連結パイプ)の直径とほぼ同等であるが、連結パイプ固定部の幅左右方向の幅より狭いため、左側側面視において連結パイプ固定部は角筒材(連結部材)の前後方向の幅からはみ出している。

(3)本件登録意匠とイ号意匠に係る物品
本件登録意匠に係る物品とイ号意匠に係る物品は、いずれも建築物の工事等に際して建築物の外周に設置される仮設足場用の支柱に対し、手すり等を構成する連結パイプを連結させて支柱間に架設させるための構造体であって、その機能及び用途は同一の物品である。

(4)本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点
本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点は次のとおり整理することができる。
[共通点]
A 基本的構成態様において、本件登録意匠とイ号意匠は、管材(連結パイプ)と、管材(連結パイプ)の左端部に設けられ、正面視した形状が略コ字状となるように、左側の高さ方向中央部に切欠きが形成されており、使用時に、仮設柱(支柱)の側部に設けられた係止金具(くさび受け)に装着される角筒材(連結部材)と、角筒材(連結部材)に対して上下方向にスライド可能に保持された楔材(くさび部材)からなる。
B 具体的構成態様において、本件登録意匠とイ号意匠は、楔材(くさび部材)の左右方向の幅は上方から下方に向かって徐々に狭くなるように楔材(くさび部材)の右側面が傾斜し、さらに下部が右側に曲がって全体が「く」字状となっており、楔材(くさび部材)の前後方向中央には、楔材の長手方向[上下方向]に沿って長尺の貫通孔(長溝部)が設けられている。
C 具体的構成態様において、本件登録意匠とイ号意匠は、角筒材(連結部材)の上部には、角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び右側壁部(連結パイプ固定部)と直交し、上連通部(上側部材)と右側壁部(連結パイプ固定部)を水平方向[左右方向]に連結する保持金具(受け止めバンド部)が設けられ、この保持金具(受け止めバンド部)が貫通孔(長溝部)に遊嵌して楔材(くさび部材)の脱落を防止している。
D 具体的構成態様において、本件登録意匠とイ号意匠は、角筒材(連結部材)の切欠きの左側上部(上連通部の下部)には、係止金具(くさび受け)の上部に一部嵌入する突出部が形成されている。
[差異点]
a 本件登録意匠は、角筒材の左側の上連通部及び下連通部は平坦状であるのに対し、イ号意匠の角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)の前後方向中央には、それぞれ仮設柱(支柱)の円周面に沿うように、上湾曲部(湾曲部)及び下湾曲部(湾曲部)が形成されている。
b 本件登録意匠は、楔材の前後方向中央に設けられた長尺の貫通孔の溝縁部は平坦状であるのに対し、イ号意匠は、楔材(くさび部材)の前後方向中央に設けられた長尺の貫通孔(長溝部)の溝縁部には傾斜面が形成されており、前記角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)に設けられた上湾曲部(湾曲部)及び下湾曲部(湾曲部)の裏面が該長尺の貫通孔(長溝部)内に嵌入し、該傾斜面に当接する。
c 本件登録意匠は、角筒材の右側壁部の前後方向中央に、高さ方向(上下方向)に沿って切目部が存在し、高さ方向中央に、右側壁部から左側に向かって延設された一対の折り曲げ部が形成されているのに対し、イ号意匠は、角筒材(連結部材)の右側に、管材(連結パイプ)を固接するための平坦状の連結パイプ固定部が設けられており、上記のような折り曲げ部はない。
d 本件登録意匠は、角筒材の右側壁部に管材が直接接合され(いわゆる「いも付け」)、また、角筒材の前後方向の幅より管材の直径がやや大きいため、管材の一部が角筒材の前後方向両端からはみ出しているのに対し、イ号意匠は、角筒材(連結部材)に設けられた管材(連結パイプ)を固接するための連結パイプ固定部のパイプ用孔に管材(連結パイプ)が嵌挿され、管材(連結パイプ)の前端が内部に貫通されて溶接固接され(いわゆる「インロー付け・差し込み溶接」)、また、角筒材(連結部材)の前後方向の幅より連結パイプ固定部の幅がやや大きいため、連結パイプ固定部の一部が角筒材(連結部材)の前後方向両端からはみ出している。
e 本件登録意匠は、楔材の頭部は本体から前後方向に突出して、平面視して略正方形に形成されているため、楔材を上方にスライドさせて、下端部を軸として上端側を右方向[管材方向]に倒し、管材の上面に載置したときに、管材と楔材の頭部が線状に当接し、楔材本体は管材から離間するのに対し、イ号意匠は、楔材(くさび部材)の前後方向の厚みは下方から上方に向かって徐々に広くなるように、平面視して長方形に形成され、また楔材(くさび部材)の右側[管材(連結パイプ)側]に凹状のパイプ受け部が形成されているため、楔材を上方にスライドさせて、下端部を軸として上端側を右方向[管材方向]に倒し、管材の上面に載置したときに、管材(連結パイプ)と楔材(くさび部材)本体が面状に当接する。

(5)本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
ア 意匠の類否判断手法について
登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされ(意匠法24条2項)、その判断に際しては、両意匠を全体的観察により対比し、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、更には登録意匠における公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、登録意匠について需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)を把握し、この特徴的部分を中心に両意匠を対比した上で、両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決するのが相当である。
したがって、登録意匠における公知意匠にない新規な創作部分のみではなく、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様をも参酌し、需要者の視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)を抽出したうえで、要部を中心として全体観察した場合に、両意匠が全体的な美感を共通にするか否かを判断するのが相当である。
また、本件において、意匠の類否判断における判断主体である「需要者」(意匠法24条2項)とは、本件登録意匠に係る物品とイ号意匠に係る物品が仮設足場用連結構造体であることから、該仮設足場用連結構造体の取引、流通を行う(なお、製造・加工を含む)、足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者(製造・加工業者を含む)等であるところ、これら「需要者」は、該仮設足場用連結構造体の目的・機能である、連結時の該仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に格別の関心を有しており、かかる目的・機能を実現するための物品の形態や外観に注意を惹かれるものである。
イ 上記共通点Aについて
(ア)管材(連結パイプ)と、仮設柱(支柱)に設けられた係止金具(くさび受け)に装着される角筒材(連結部材)と、角筒材(連結部材)に対して上下方向にスライド可能に保持された楔材(くさび部材)からなる仮設足場用連結構造体は、本件登録意匠出願に対する拒絶理由通知書において引用された特開2015-48677号公報(乙第3号証)の図2ないし図6、同拒絶理由通知に対する平成29年7月21日受付意見書において出願人(本件判定請求人)が引用した特許第5107957号公報(乙第4号証)の図4及び図6、同実開平4-68150号公報(乙第5号証)の図1及び図4、特開2000-179150号公報(乙第6号証)の図2及び図3等に開示された、いわゆる「ありふれたもの」である。
(イ)上記のことは、上記平成29年7月21日受付意見書(乙第7号証)において、出願人(本件判定請求人)自ら「本願意匠と引用意匠(注:上記特開2015-48677号公報(乙第3号証))とを比較すると、横方向に伸びる管材の端部に設けられた正面視して略コ字状の係止金具と、係止金具に上から挿入する楔とを有し、この係止金具が仮設足場の柱材に設けられた角筒材に装着し、挿入した楔によってこれらを係止する形態はあり触れたもので、両者の類似性を強調する部分ではない」と主張していることからも明らかである。
(ウ)よって、上記共通点Aは、需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)とならない。
ウ 上記共通点Bについて
(ア)楔材の下部が右側に曲がって全体が「く」字状となっているものは、特開2004-324353号公報の図5及び6(乙第8号証)、同実開平4-68150号公報(乙第5号証)の図4、特開2000-179150号公報(乙第6号証)の図2及び図7等の先行文献に開示されている。
また、楔材の長手方向[上下方向]に沿って長尺の貫通孔(長溝部)が設けられているものは、特開2012-62668号公報(乙第9号証)の図2、図3及び図4、特開2015-48677号公報(乙第3号証)の図4、特許第5107957号公報(乙第4号証)の図4及び図6、特開2004-324353号公報(乙第8号証)の図5及び6等の先行文献に開示されている。
(イ)もっとも、上記先行文献において開示されたものは、楔材の貫通孔(長溝部)は左右方向に設けられたものであり、同貫通孔(長溝部)が前後方向に設けられたものとは相違する。
しかしながら、楔材の貫通孔(長溝部)が前後方向に設けられた本件登録意匠においても、楔材は上方にスライドさせた後、下端部を軸として上端側を右方向[管材方向]に倒すものであって、上記先行文献に開示された貫通孔(長溝部)が左右方向に設けられた楔材の動的形態及び機能と同一である。
すなわち、該貫通孔が楔材の前後方向に設けられているか、左右方向に設けられているかによって、本件仮設足場用連結構造体の動的形態及び機能は何ら変わるものではない。
前述のとおり、本件仮設足場用連結構造体の「需要者」は足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等であるところ、これらの者は、その視覚を通じて連結時の本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観に注意を惹かれるものといえるから、該貫通孔(長溝部)が楔材の前後方向に設けられているか、楔材の左右方向に設けられているかについて特段注意を惹かれることはないというべきものである。
(ウ)よって、上記共通点Bは、需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)とならない。
エ 上記共通点Cについて
(ア)前述のとおり、楔材の長手方向[上下方向]に沿って長尺の貫通孔(長溝部)が設けられているものは先行文献に開示されているところ、さらに、特開2012-62668号公報(乙第9号証)の図2、図3及び図4、特許第5107957号公報(乙第4号証)の図4及び図6には、楔材を上方向にスライドした際に楔材が角筒材から脱落するのを防止するため、該貫通孔を前後方向に貫通して楔材を遊嵌するピンを角筒材の上部に設けたものが開示されている。
上記先行文献に開示された、角筒材の上部に設けられ楔材の貫通孔に遊嵌して楔材の脱落を防止するピンは、本件登録意匠において、角筒材の上部に設けられ、角筒材の左側の上連通部及び右側壁部と直交し、上連通部と右側壁部を水平方向[左右方向]に連結する保持金具と同一の機能を果たすものである。
(イ)また、本件登録意匠における保持金具は平板状の部材であり、何ら特徴のない外観である。
したがって、連結時の本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観に注意を惹かれる、足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等の「需要者」がその視覚を通じて特段注意を惹かれることはないというべきものである。
(ウ)よって、上記共通点Cは、需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)とならない。
オ 上記共通点Dについて
(ア)係止金具(くさび受け)の上部に設けられた上部開口に嵌入する突出部分を備えた仮設足場用取付金具は、意匠登録第1430273号公報(乙第10号証)の先行文献に開示されている。
(イ)そもそも、係止金具(くさび受け)の上部に上部開口が設けられている場合に、該上部開口に角筒材の切欠きの左側上部の一部を嵌入させるためには、角筒材の切欠きの左側上部の一部を該上部開口の形状と同一の形状にせざるを得ないのであり、造形的な自由度がないというべきである。
(ウ)また、本件登録意匠における突出部は、角筒材の切欠きの左側上部(上連通部の下部)から僅かに突き出た部分に過ぎず、本件登録意匠全体の中に占める割合は極めて小さく、視覚的印象に影響を及ぼすものではない。
(エ)よって、上記共通点Dは、需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)とならない。
カ 上記差異点a、bについて
(ア)本件登録意匠は、角筒材の左側の上連通部及び下連通部は平坦状であるため、角筒材を係止金具(くさび受け)に連結した場合、仮設柱(支柱)と角筒材は線状に当接するに過ぎず、確実にこれを保持しているとは言い難い。
これに対し、イ号意匠は、角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)の前後方向中央に仮設柱(支柱)の円周面に沿うように湾曲部を形成して仮設柱(支柱)と角筒材(連結部材)を面状に当接させると共に、楔材(くさび部材)の前後方向中央に設けられた長尺の貫通孔(長溝部)及び該貫通孔(長溝部)の溝縁部に設けられた傾斜面によって、該湾曲部の裏面を該貫通孔(長溝部)の内部に嵌入させ、楔着力を湾曲部全体に伝え、仮設柱(支柱)と角筒材(連結部材)との面接合をさらに高めて安定性を向上させる形態である。
イ号意匠が上記a及びbの形態を採用することによりイ号物件の安定性を高めていることについて、被請求人は、例えばイ号物件の販売チラシ(乙第11号証)において「ここがポイント!従来のフランジ式次世代足場とは違い、点ではなく面で接地しているため、揺れが少ない」と記載するなどして宣伝している。
(イ)前述のとおり、本件仮設足場用連結構造体の「需要者」は足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等であるところ、これらの者は、その視覚を通じて連結時の本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観に注意を惹かれるものといえるから、イ号意匠の上記a及びbの形態は、本件物品の特性上、注意を惹かれる部分であるといえる。
(ウ)イ号意匠の上記湾曲部について、請求人は、「当該箇所に湾曲部を形成することは、常套的な手法であり、その形状の差異は、特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱である」などと主張しているが、湾曲部を形成することが「常套的な手法」であることについて何ら具体的な根拠も示さないものであるだけでなく、そもそもイ号意匠において上記湾曲部を形成した目的、機能等をおよそ理解しないものであって、失当である。
キ 上記差異点cについて
(ア)本件登録意匠は、角筒材の右側壁部の前後方向中央に、高さ方向(上下方向)に沿って切目部が存在し、高さ方向中央に、右側壁部から左側に向かって延設された一対の折り曲げ部が形成されている。
(イ)上記折曲げ部の機能については、請求人が、本件登録意匠と同日に出願し、本件登録意匠と構成を同じくする特許第6251711号(以下「請求人別件特許権」という。乙第12号証)の請求項及びその出願経過から、該折曲げ部の先部を斜面として係止金具の突出片(後ろ板部)に線状に当接して、より大きな荷重を受けることを目的とするものであると理解される。
すなわち、請求人別件特許権の出願経過は次のとおりである。

2015年(平成27年) 9月 7日 特許出願
2017年(平成29年) 3月14日 拒絶理由通知書
同年 4月10日 手続補正書
同年 4月10日 意見書
同年 7月 4日 拒絶査定
同年 9月13日 審判請求書
同年 9月13日 手続補正書
同年 9月21日 審査前置移管
同年 11月14日 特許査定

請求人は、上記平成29年4月10日付意見書(乙第13号証)において「本願発明においては、係止金具12の側板の上端と側板部17、18の下端が線状に当接するので、より大きな荷重を受けることができます。」と主張したところ、「『係止金具12の側板の上端と側板部17、18の下端が線状に当接する』との構成は特許請求の範囲に記載されている事項でなく、この主張は本願の特許請求の範囲に基づく主張ではないので採用できない。」とする同年7月4日付拒絶査定(乙第14号証)を受けたため、同年9月13日付審判請求書(乙第15号証)において、請求項1に「前記角筒材の後ろ板部の中央には対となる折り曲げ部が形成され、該折り曲げ部の先部は斜面となって前記係止金具の突出片に当接可能となっている」との構成を追加することによって、特許査定を受けた。
すなわち、請求人別件特許権は、その折り曲げ部が係止金具の突出片に線状に当接することにより大きな荷重を受けることができるという構成に特許性が認められて特許査定を受けたものであるといえる。
(ウ)本件登録意匠における、角筒材の右側壁部の高さ方向中央に、右側壁部から左側に向かって延設された一対の折り曲げ部も、上記請求人別件特許権の折り曲げ部と同様の目的・機能を実現するものと理解される。
すなわち、本件登録意匠は、角筒材の内側に形成された該折曲げ部を係止金具の突出片に線状に当接させることによって、角筒材と係止金具の安定性を高める(上記意見書にいう「より大きな荷重を受けることができる」)ことを目的とした形態であるといえる。
(エ)他方、イ号意匠は、前述したとおり、イ号意匠は、角筒材(連結部材)の左側の上連通部(上側部材)及び下連通部(下側部材)の前後方向中央に仮設柱(支柱)の円周面に沿うように湾曲部を形成して仮設柱(支柱)と角筒材(連結部材)を面状に当接させると共に、楔材(くさび部材)の前後方向中央に設けられた長尺の貫通孔(長溝部)及び該貫通孔(長溝部)の溝縁部に設けられた傾斜面によって、該湾曲部の裏面を該貫通孔(長溝部)の内部に嵌入させ、楔着力を湾曲部全体に伝え、仮設柱(支柱)と角筒材(連結部材)との面接合をさらに高めて安定性を向上させる形態である。
(オ)したがって、本件登録意匠に係る物品とイ号意匠に係る物品は、いずれも仮設足場構造体の安定性を目的とするものであるが、当該目的を達成する手段が異なっており、したがってその手段を具現する具体的形態も異なるものである。
登録意匠実施品とKRH実施品(イ号製品)の各左側側面の比較写真(乙第16号証)を見比べた場合、曲げ部の有無によって全体美感から受ける印象は大きく相違する。
(カ)本件仮設足場用連結構造体の「需要者」である足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等は、その視覚を通じて連結時の本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観に注意を惹かれるものといえるから、上記cの本件登録意匠とイ号意匠の相違は、本件物品の特性上、需要者において注意を惹かれる差異点であるといえる。
(キ)また、折り曲げ部は、切目部(本件登録意匠公報左側面図、底面図を参照されたい。)を形成した後、該折曲げ部を係止金具の突出片に線状に当接させる角度を設けた上で、角筒材内側へ「両開き扉のように」押し広げて形成するものであって、その製造・加工は極めて複雑、煩雑なものであり、製造・加工業者においてはこの点も注意を惹かれる部分であるといえる。
(ク)本件登録意匠における上記折り曲げ部について、請求人は、「折り曲げ部も外周を角筒材で囲まれており、通常の使用状態では、その存在を確認することは困難であり、本件登録意匠の要部とはなり得ず、類否の判断に与える影響は微弱である」などと主張しているが、需要者が視覚観察を行う場合に観察されやすい部分か否かについては、意匠に係る物品の用途(使用目的、使用状態等)及び機能、その大きさ等に基づいて、意匠に係る物品が選択・購入される際に見えやすい部位か否か、需要者が関心を持って観察する部位か否か等によって判断されるものであって、通常の使用状態において確認することが出来るか否かをもって判断されるものではない。
現に、登録意匠実施品の左側側面写真とイ号製品の左側側面写真を見比べた場合、需要者が本件物品を選択・購入する際に、折り曲げ部の有無を確認することは容易である。
よって、請求人の上記主張は失当である。
ク 上記差異点dについて
(ア)本件登録意匠は、角筒材の右側壁部に管材を直接接合するもの(いわゆる「いも付け」)であるため、接合部は少なく、したがって接合強度は弱い。
これに対し、イ号意匠は、連結パイプ固定部のパイプ用孔に管材(連結パイプ)を嵌挿し、管材(連結パイプ)の前端を内部に貫通させて溶接固接するもの(いわゆる「インロー付け・差し込み溶接」。イ号製品パイプ接続部拡大写真(乙第2号証)を参照されたい。)であるから、管材(連結パイプの外周面に溶接でき、また、貫通面の前後両側で溶接可能であるため、接合強度は大幅に向上し、加工も容易である。
(イ)本件物品は、建築物の工事等に際して建築物の外周に設置される仮設足場用の支柱に対し、手すり等を構成する連結パイプを連結させて支柱間に架設させるための構造体であるから、その性質、用途から、本件仮設足場用連結構造体の「需要者」である足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等は、その視覚を通じて連結時の本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観に注意を惹かれるものといえるから、需要者は本件物品を購入する際に特に注意深く視覚観察する部分であり、上記相違は全体的な美感に重大な影響を及ぼすものである。
ケ 上記差異点eについて
(ア)本件登録意匠権の出願経過は次のとおりである。

2016年(平成28年)12月26日 意匠登録出願
2017年(平成29年) 6月14日 拒絶理由通知書
同年 7月21日 意見書
同年 9月26日 拒絶理由通知書
同年 10月 4日 手続補正書
同年 10月17日 登録査定

請求人は、特開2015-48677号(乙第3号証)を引例とする、上記平成29年6月14日付拒絶理由通知書(乙第17号証)に対する、同年7月21日付意見書(乙第7号証)において「楔12a、12bの上端部の形状において、本願意匠の楔12aは平面視して長方形となっていますが、引用意匠の楔12bは平面視して逆コ字状になっています」と主張し、楔の上端部の形状が長方形であることが公知意匠と異なることを強調している。
したがって、請求人において、本件登録意匠の楔の上端部の形状とイ号意匠の楔材(くさび部材)の上端部の形状の差異を無視ないし軽視することは禁反言というべきである。
(イ)本件登録意匠の楔材の頭部は本体から前後方向に突出して、平面視して略正方形に形成されているため、楔材を上方にスライドさせて、下端部を軸として上端側を右方向[管材方向]に倒し、管材の上面に載置したときに、管材と楔材の頭部が線状に当接し、楔材本体は管材から離間して管材と一体化しない。
これに対し、イ号意匠の楔材(くさび部材)の前後方向の厚みは下方から上方に向かって徐々に広くなるように、平面視して長方形に形成され、また楔材(くさび部材)の右側[管材(連結パイプ)側]に凹状のパイプ受け部が形成されているため、楔材を上方にスライドさせて、下端部を軸として上端側を右方向[管材方向]に倒し、管材の上面に載置したときに、管材(連結パイプ)と楔材(くさび部材)本体が面状に当接して管材と一体化する。
本件物品は、連結解除時において角筒材から引き抜いた楔材を管材と一体的に移動・保管・管理等を行うことのできる仮設足場用連結構造体であるから、本件物品の用途・使用状態等の観点から、角筒材から引き抜いた楔材がどのような態様で管材と一体的に付属するかは需要者において重要な関心を寄せる部分であるといえる。
特に、本件仮設足場用連結構造体を使用する者(足場を組み立てる者)にとって、設置時における楔材(くさび部材)の管材(連結パイプ)上からの脱落、角筒材(連結部材)への嵌入し易さ、設置のし易さ、運び易さ等は作業効率上重要な要素であり、これらの点ついても関心を惹かれるものといえる。

(6)まとめ
(ア)以上述べたとおり、上記共通点AないしDは、いずれも公知意匠に見られる形態であって新規な創作部分とはいえず、かつ、本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観ではないため、本件物品の需要者である足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等の視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)ではないから、これらが共通していることをもって本件登録意匠とイ号意匠は類似するとはいえない。
(イ)これに対し、上記相違点aないしeは、いずれも本件仮設足場用連結構造体の安定性の高さ、安全性の確保等に直接影響を及ぼす形態や外観であるため、本件物品の需要者である足場・仮設工事業者及び建築資材販売業者等の視覚を通じて注意を惹きやすい特徴的部分(要部)であるところ、これらは相違しているから、本件登録意匠とイ号意匠は類似しないといえる。
(ウ)よって、被請求人は、イ号図面並びにその説明書に示す「仮設足場用連結構造体」の意匠は、登録第1592676号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める。

3 証拠方法

(1)乙第1号証 特開2019-167811号公報

(2)乙第2号証 イ号製品パイプ接続部拡大写真

(3)乙第3号証 特開2015-48677号公報

(4)乙第4号証 特許第5107957号公報

(5)乙第5号証 実開平4-68150号公報

(6)乙第6号証 特開2000-179150号公報

(7)乙第7号証 平成29年7月21日受付意見書

(8)乙第8号証 特開2004-324353号公報

(9)乙第9号証 特開2012-62668号公報

(10)乙第10号証 意匠登録第1430273号公報

(11)乙第11号証 イ号製品販売カタログ

(12)乙第12号証 特許第6251711号公報

(13)乙第13号証 平成29年4月10日受付意見書

(14)乙第14号証 平成29年6月26日付拒絶査定

(15)乙第15号証 平成29年9月13日受付審判請求書

(16)乙第16号証 登録意匠実施品とKRH実施品(イ号製品)の各左側側面の比較写真

(17)乙第17号証 平成29年6月5日付拒絶理由通知書

第3 当審の判断

1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1592676号)は、平成27年(2015年)9月7日に意匠登録出願され、平成29年(2017年)11月17日に意匠権の設定の登録がなされ、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「仮設柱用抜け防止取付け金具」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであって、「薄墨を付した部分以外の部分が、意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである(以下、本件登録意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本件部分」という。)。(別紙第1参照)

本件部分の形態は、具体的には以下のとおりである。

(1)全体
全体は、横断面が略隅丸正方形の略縦長角筒形の筐体(以下、「本体部」という。)の右側面上下中央と管が直交するよう接合したものであって、本体部の筒内上から略矩形棒状の係止部材(以下「楔(くさび)部」という。)を先端が突き抜けるよう挿通したものである。

(2)具体的な態様
ア 本体部
(ア)正面視における縦(高さ)、横、奥行き(上面視における縦)の長さの比率は、略2.6:1:1.1である。
(イ)正背面及び左側面の各面を、上下に余地を残して全高の約3/5を略矩形状に切り欠いたものとし、
当該切欠きは、左側面の上下辺は水平で上辺中央に略逆扁平等脚台形の突出片を形成し、正背面は上辺が水平でその内側端部を僅かに上に凹ませたあと左側面側に若干傾斜状に垂下し下辺近くから弧状に湾曲して左側面の下辺に繋げたものとしている。
(ウ)右側面の上下端を全高の約1/6ずつ切欠き、
その中央やや上寄りを全高の半分ほどの高さで横幅が全幅の約1/4幅の略縦長長方形に開口し、
その左右端から略矩形状の突出片を左側面側に向かって形成し、上下端中央から縦にそれぞれ切り込みを形成し、
上端中央から上記開口と同幅の細帯状の舌片を上方に延出し正背面の外形に沿って略倒「コ」字状に屈曲し左側面の上端中央に若干突出状に接合して楔保持部としている。
イ 楔部
(ア)全体は、左右側面側の真ん中に縦長長円形の貫通孔を有する略縦長直方体形で、貫通孔内に楔保持部を挿通し、楔部を本体部から抜き差し可能に遊嵌している。
(イ)上面視における縦、横の長さと、高さの比率は、略1.2:1:5.3で、本体部との比較においては、上面は一回り小さい略同形で本体部の内壁に密接し、高さは約1.5倍で、貫通孔の高さは全体の約7/10で、横幅は約1/3で楔保持部と密接している。
(ウ)右側面の上端やや下側を略1/4弧状にえぐり取ったあと下端にかけてやや内傾した直線状に切り欠いたものとしている。
(エ)下端寄りを、正面視、略「く」字状に右側に屈曲し、
正背面の当該屈曲箇所から下を対称形にやや斜めに切欠き、下端を左右側方向に弧状に面取りしている。
ウ 管
(ア)本件部分の管の長さは、本体部正面の横幅とほぼ同じ長さで、直径は、本体部右側面の横幅よりやや広径とし、
(イ)先端を本体部に当接し固着している。

2 イ号意匠
本件判定請求の対象であるイ号意匠は、判定請求書と同時に提出されたイ号意匠説明書のイ号物件の写真の写しにより示されたものであって、意匠に係る物品は「仮設足場用連結構造体」であると認められ、その全体の形態を、イ号物件の写真の写しのうち【全体正面写真】に現されたものとし、本件部分と対比され、類否判断の対象になるイ号意匠の部分(以下「イ号部分」という。)は、【正面写真】、【平面写真】、【底面写真】、【左側面写真】により現わされたものであり、具体的な形態は、以下のとおりである。(別紙第2参照)
なお、イ号部分の認定に際し、適宜、【使用状態斜視図1】及び【使用状態斜視図2】を参酌するものとする。

イ号部分の形態は、具体的には以下のとおりである。

(1)全体
全体は、横断面が略隅丸正方形の略縦長角筒形の本体部の右側面上下中央やや上寄りと管が直交するよう接合したものであって、本体部の筒内上から略矩形棒状の楔部を先端が突き抜けるよう挿通したものである。

(2)具体的な態様
ア 本体部
(ア)全体は、正背面及び左側面を上面視、略「コ」字状に屈曲し、その正背面の右側端部を上下に余地を残して真ん中を細帯状に切り欠いて、右側面側から略矩形板(以下「管固定板」という。)を面一となるよう嵌め込んだものとしている。
(イ)正面視における縦(高さ)、横、奥行き(上面視における縦)の長さの比率は、略2.4:1:1.1である。
(ウ)正背面及び左側面の各面を、上下に余地を残して全高の約3/5を略矩形状に切り欠いたものとし、
当該切欠きは、左側面の上下辺は水平で上辺中央に略逆扁平等脚台形の突出片を形成し、正背面は上辺が水平でその内側端部を隅丸状とし左側面側に若干傾斜状に垂下し、下辺近くから弧状に湾曲して左側面の下辺に繋げたものとしている。
(エ)左側面において、切欠きを挟んだ上下の面の真ん中を、仮設柱の外形に合わせてやや弧状に凹ませている。
(オ)管固定板は、管の当接する箇所を管の径に合わせて円孔を形成し、左右端(上下中央やや上寄り)をやや弧状に膨出し、
上端中央から全幅の約1/4幅の細帯状の舌片を上方に延出し、正背面の外形に沿って略倒「コ」字状に屈曲し、左側面内側の上端中央に高さを揃えて接合し楔保持部としている。
イ 楔部
(ア)全体は、左右側面側の真ん中に縦長長円形で内周を弧状に面取りした貫通孔を有する略縦長隅丸直方体形で、貫通孔内に楔保持部を挿通し、楔部を本体部から抜き差し可能に遊嵌している。
(イ)上面視における縦、横の長さと、高さの比率は、略1.6:1:6.3で、本体部との比較においては、上面は、縦は内壁に接する長さで、横は全幅の半分強、高さは約1.5倍で、貫通孔の高さは全体の約8/10で、横幅は約3/7で楔保持部の8割程度の幅としている。
(ウ)正面視において、右端が下方に向かって内側に傾斜状とし、下端寄りを、略「く」字状に右側に屈曲し、
正背面の当該屈曲箇所から下を対称形にやや斜めに切欠き、
下端を左右側方向に弧状に面取りしている。
ウ 管
(ア)本件部分の管の長さは、本体部正面の横幅とほぼ同じ長さで、直径は、本体部右側面の横幅よりやや狭径とし、
(イ)先端を管固定板の円孔に挿通し固着したものであって、その接合(溶接)部分は略短円錐台形に形成している。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠は、土木や建築現場等で使用される仮設用柱の接合箇所に設けられる係止金具に装着する「仮設柱用抜け防止取付け金具」であり、イ号意匠も同様のものであるから、本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は一致する。

(2)本件部分とイ号部分の形態
本件部分とイ号部分(以下「両部分」という。)の形態を対比すると、主として、以下の共通点と相違点がある。
ア 共通点
(ア)全体
全体は、横断面が略隅丸正方形の略縦長角筒形の本体部の右側面と管が直交するよう接合したものであって、本体部の筒内上から略矩形棒状の楔部を先端が突き抜けるよう挿通したものである点。
具体的な態様として、
(イ)本体部
(イ-1)正背面及び左側面の各面を、上下に余地を残して全高の約3/5を略矩形状に切り欠いたものとし、当該切欠きは、左側面の上下辺は水平で上辺中央に略逆扁平等脚台形の突出片を形成し、正背面は上辺が水平でその内側端部から左側面側に若干傾斜状に垂下し下辺近くから弧状に湾曲して左側面の下辺に繋げたものとしている点。
(イ-2)右側面の上端中央から全幅の約1/4幅の細帯状の舌片を上方に延出し正背面の外形に沿って略倒「コ」字状に屈曲し左側面側中央に接合し楔保持部としている点。
(ウ)楔部
(ウ-1)全体は、左右側面側の真ん中に縦長長円形の貫通孔を有する略縦長隅丸直方体形で、貫通孔内に楔保持部を挿通し、楔部を本体部から抜き差し可能に遊嵌している点。
(ウ-2)本体部との比較において、高さを約1.5倍としている点。
(ウ-3)下端寄りを、正面視、略「く」字状に右側に屈曲し、正背面の当該屈曲箇所から下を対称形にやや斜めに切欠き、下端を左右側方向に弧状に面取りしている点。
イ 相違点
(ア)本体部
本件部分は、全体が一体状の略縦長角筒形で、右側面の中央やや上寄りを略縦長長方形に開口し、その左右端から略矩形状の突出片を左側面側に向かって形成し、上下端中央から縦にそれぞれ切り込みを形成したものであるのに対し、イ号部分は、正背面及び左側面を上面視、略「コ」字状に屈曲し、その正背面の右側端部を上下に余地を残して真ん中を細帯状に切欠き、右側面側から管固定板を面一となるよう嵌め込んだものであって、当該管固定板は、管の当接する箇所を管の径に合わせて円形に開口し、左右端をやや弧状に膨出している点。
また、左側面につき、本件部分は、切欠きを挟んだ上下の面は平坦な面であるのに対し、イ号部分は、上下の面の真ん中を、仮設柱の外形に合わせてやや弧状に凹ませている点。
(イ)楔部
上面について、本件部分は、本体部より一回り小さい略同形で本体部の内壁に密接しているのに対し、イ号部分は、縦は内壁に接する長さで横は全幅の半分強とし、右側面について、上端やや下側を略1/4弧状にえぐり取ったあと下端にかけてやや内傾した直線状に切り欠いたものとしているのに対し、イ号部分は、下方に向かって内側に傾斜状としている点。
また、イ号部分は、貫通孔の内周を弧状に面取りしているのに対し、本件部分は、面取りしていない点。
(ウ)管
本件部分は、本体部右側面の横幅よりやや広径で、両端が僅かにはみ出し、先端を本体部に当接し固着しているのに対し、イ号部分は、本体部右側面の横幅よりやや狭径で、先端を管固定板の円孔に挿通し固着している点。

4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断

(1)意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は同一である。

(2)形態の共通点及び相違点の評価
両部分は、建築現場等で使用される仮設用柱の係止金具に装着する「仮設柱用抜け防止取付け金具」であることから、当該物品分野の需要者は、建設作業等に従事する者に加え建築資材の製造業者及び取引業者が含まれる。したがって、まず、これら需要者にとって最も関心が高いといえる係止金具への係止態様について評価し、かつ、それ以外の形態も併せて、各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。

ア 共通点の評価
まず、(ア)全体について、すなわち、横断面が略隅丸正方形の略縦長角筒形の本体部の右側面と管が直交するよう接合し、本体部の筒内上から略矩形棒状の楔部を先端が突き抜けるよう挿通したものは、甲第7号証の意匠(別紙第3参照)に見られるように、本件登録意匠の出願前より公然知られているから、格別、需要者の注意を引くものとは言えず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、(イ)本体部について、(イ-1)正背面及び左側面の各面を、上下に余地を残して略矩形状に切り欠いたものは、甲第7号証の意匠に見られるように、本件登録意匠の出願前より公然知られているものであるが、当該切欠きの左側面の上下辺は水平で上辺中央に略逆扁平等脚台形の突出片を形成し、正背面は上辺が水平でその内側端部から左側面側に若干傾斜状に垂下し下辺近くから弧状に湾曲して左側面の下辺に繋げているものは、両部分のみの特徴といえ、需要者に共通の美感を起こさせるものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、(イ-2)右側面の上端中央から全幅の約1/4幅の細帯状の舌片を上方に延出し正背面の外形に沿って略倒「コ」字状に屈曲し左側面側中央に接合して楔保持部としている点については、後述(ウ)の楔部の貫通孔内に挿通し、楔部を抜き差し可能に遊嵌した態様とともに両部分の他には見られないものであり、かつ需要者にとって最も関心の高い係止金具への取り付け態様であることから、両部分のみに共通する態様として、需要者に強い共通の美感を起こさせており、両部分の類否判断に与える影響は極めて大きい。
また、(ウ)楔部について、まず、(ウ-2)及び(ウ-3)については、本件登録意匠の出願前より広く知られていることから(特開2004-324353の図5の20(楔)の意匠、乙第8号証)、格別、需要者の注意を引くものとは言えず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。しかしながら、(ウ-1)略縦長隅丸直方体形の左右側面側の真ん中に縦長長円形の貫通孔を有している態様について、前記(イ-2)のとおり、貫通孔内に楔保持部を挿通し楔部を本体部から抜き差し可能に遊嵌した態様は、両部分の他には見られず、需要者に強い共通の美感を起こさせているものであるから、両部分の類否判断に与える影響は極めて大きい。
そうすると、この種物品においては、共通点(ア)、共通点(ウ)のうち(ウ-2)及び(ウ-3)が両部分の類否判断に与える影響は小さいとしても、共通点(イ)及び共通点(ウ)の(ウ-1)の態様が、両部分の類否判断に与える影響は大きく、とりわけ共通点(イ)の(イ-2)及び上記(ウ-1)が両部分の類否判断に与える影響は極めて大きいものであるから、これらの共通点は、相まって、需要者に共通の印象を与えるものである。
イ 相違点の評価
まず、(ア)本体部について、すなわち、本件部分は、全体が一体状の略縦長角筒形であるのに対し、イ号部分は、正背面及び左側面を上面視、略「コ」字状に屈曲し右側面側から管固定板を嵌め込んで略縦長角筒形とし、管固定板の管の当接する箇所を管の径に合わせて円形に開口し、左右端をやや弧状に膨出している点については、本体部が一体状であるか否かにおける相違であるが、管が接合する面における相違であるから比較的目立つものといえ、両部分の類否判断に与える影響は一定程度あるものといえる。一方、左側面の上下の面の真ん中を、仮設柱の外形に合わせてやや弧状に凹ませているか否かについては、当該凹みは僅かであり、さほど目立つものではないことから、部分的な差異に止まり、微弱なものといわざるを得ないから、両部分の類否判断に与える影響は小さい。
次に、(イ)楔部について、両部分は、上面及び右側面の態様が相違し、貫通孔についても内周の面取りの有無において相違するものであるが、これらの態様は、楔部のみを比較するならともかく、両部分全体として比較した場合には、前記共通点に包摂される程度の部分的な相違に止まるものといわざるを得ず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
また、(ウ)管について、両部分は、本体部右側面の横幅に対する径が広径であるか狭径であるかの違いが見られるが、その差は僅かであることと、外観上、さほど目立つものではないこと、また、管の固着の態様が異なる点についても、外観からは、その違いはほとんど看取できないことから、いずれも微弱なものといわざるを得ず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
そうすると、これら相違点は、(ア)の本体部が一体状であるか否かにおいて類否判断に与える影響が一定程度あるとしても、相違点全体として両意匠の類否判断を決定付けているといい得るまでには至っていない。

5 小括

したがって、前記の共通点と相違点を総合して判断すれば、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が同一で、形態についても、相違点が、両部分の類否判断を左右するほどの影響を与えるには至らないものであるのに対して、共通点は、相まって、需要者に共通の印象を与えるものであるから、意匠全体として見た場合、両意匠は類似する。

第4 むすび

以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって、結論のとおり判定する。

別掲

判定日 2020-06-30 
出願番号 意願2016-28083(D2016-28083) 
審決分類 D 1 2・ 113- YA (L1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 住 康平 
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 宮田 莊平
内藤 弘樹
登録日 2017-11-17 
登録番号 意匠登録第1592676号(D1592676) 
代理人 加藤 大輝 
代理人 後藤 憲秋 
代理人 三木 浩太郎 
代理人 後藤 憲秋 
代理人 中前 富士男 
代理人 加藤 大輝 
代理人 三木 浩太郎 

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