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審決分類 審判    C3
管理番号 1365007 
審判番号 無効2019-880006
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-12-03 
確定日 2020-08-03 
意匠に係る物品 モップクリーナー 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1640284号「モップクリーナー」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 意匠登録第1640284号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件登録意匠、すなわち、本件意匠登録第1640284号の意匠(別紙第1参照)は、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして、平成31年(2019年)1月24日に意匠登録出願(意願2019-1318;以下「本願」という。)されたものであって、審査を経て令和1年(2019年)8月9日に意匠権の設定の登録がなされ、同年9月2日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

・本件審判請求 令和 1年12月 3日
・審判事件答弁書提出 令和 2年 2月21日
・当審による書面審理通知 令和 2年 5月25日付け
・当審による審理終結通知 令和 2年 5月28日付け


第2 請求人の申し立て及び理由
請求人は、請求の趣旨を
「登録第1640284号意匠の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由を、おおむね以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、後記3に掲げた甲第1号証ないし甲第2号証(枝番を含む)を提出した。

1 意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠(当審注:意匠登録第1640284号の意匠。審判請求書の甲第1号証(別紙第1参照)に記載された意匠。)は、甲第2号証の意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

2 本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は、意匠登録第1640284号の意匠公報(甲第1号証)に記載のとおり、意匠に係る物品を「モップクリーナー」とし、その形態は、以下のとおりである。
a 基本的構成態様
(a)円盤状の回転部が2つ取り付けられたヘッドと、当該ヘッドに取り付けられた上方に延びるネック、ロッド、及びグリップからなる略棒状のハンドルからなる。
(b)正面視において、ヘッドの横方向の長さとハンドルの全長の比率が、略1:3.2程度である。
b 各部の具体的態様
(c)底面視において、ヘッドの縦方向と横方向の長さ(最長部)の比率が、略1:2.2程度である。
(d)ヘッドは底面視において横長の長円形である。
(e)ヘッドの縁部の形状に付き、正面視において下縁から上方に向かって、厚みの略3分の1付近まで略60度の傾斜で面取りが施されており、さらにそこから略45度の傾斜で上縁に向かって面取りが施されている。
(f)ヘッドの平面側中央に、正面視左右対称の略山型の緩やかな凸部が、ヘッド部の横幅の略4分の1の幅で形成されている。
(g)ヘッドの底面側に取り付けられた2つの回転部の間に、中央付近から正面側に向かって、略かまぼこ状の薄い凸部が設けられている。
(h)正面視において、ハンドルを構成するネック、ロッド、グリップの縦方向の長さの比率が、略1:2.5:1である。
(i)ネックは下方から上方に向けて緩やかにすぼまっており、上端のロッドとの連結部には略45度の面取りが施されている。
(j)ロッドの径は、連結するネックとグリップの径よりも細く形成されている。
(k)グリップは、下端のロッドとの連結部に略45度の面取りが形成されており、左側面視において上方に向かって背面側に緩やかに弧状に傾斜した態様になっている。グリップの正面側には、下端部付近に略縦長矩形状のスライド式電源スイッチが設けられている。グリップの上端は正面側から背面側に向かって斜め上方向に略20度傾斜している。
(l)全体の色彩がグレー調である。
(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
ア 先行意匠1について(甲第2号証)
先行意匠1は、モップクリーナーに関するものであって、請求人である深▲セン▼市富創意科技実業有限公司が2017(平成29年)年4月27日付で中華人民共和国において出願し、登録となり2017年(平成29年)9月1日付で公告された、中華人民共和国意匠登録第ZL201730148513.1号の意匠である(当審注:この番号は出願番号であると認められる。)。当該意匠の登録公報の写し及び中国国家知識産権局の意匠データベースからダウンロードした書誌データを、それぞれ甲第2号証の1、甲第2号証の2として提出する。また、請求人が実際に製造、販売している当該登録意匠に係るモップクリーナーの実物写真を、甲第2号証の3として併せて提出する。
先行意匠1の形態は、以下のとおりである。
a 基本的構成態様
(A)円盤状の回転部が2つ取り付けられたヘッドと、当該ヘッドに取り付けられた上方に延びるネック、ロッド、及びグリップからなる略棒状のハンドルからなる。
(B)正面視において、ヘッドの横方向の長さとハンドルの全長の比率が、略1:3.2程度である。
b 各部の具体的態様
(C)底面視において、ヘッドの縦方向と横方向の長さ(最長部)の比率が、略1:2.2程度である。
(D)ヘッドは底面視において横長の長円形である。
(E)ヘッドの縁部の形状に付き、正面視において下縁から上方に向かって、厚みの略3分の1付近まで略60度の傾斜で面取りが施されており、さらにそこから略45度の傾斜で上縁に向かって面取りが施されている。
(F)ヘッドの平面側中央に、正面視左右対称の略山型の緩やかな凸部が、ヘッド部の横幅の略4分の1の幅で形成されている。
(G)ヘッドの底面側に取り付けられた2つの回転部の間に、中央付近から正面側に向かって、略かまぼこ状の薄い凸部が設けられている。
(H)正面視において、ハンドルを構成するネック、ロッド、グリップの縦方向の長さの比率が、略1:2.5:1である。
(I)ネックは下方から上方に向けて緩やかにすぼまっており、上端のロッドとの連結部には略45度の面取りが施されている。
(J)ロッドの径は、連結するネックとグリップの径よりも細く形成されている。
(K)グリップは、下端のロッドとの連結部に略45度の面取りが形成されており、左側面視において上方に向かって背面側に緩やかに弧状に傾斜した態様になっている。グリップの正面側には、下端部付近に略縦長矩形状のスライド式電源スイッチが設けられている。グリップの上端は正面側から背面側に向かって斜め上方向に略20度傾斜している。
(l)全体の色彩がゴールド調である。
イ 本件登録意匠の出願日と先行意匠1の公知日との関係
上述のとおり、先行意匠1は、平成29年9月1日付で公告されている。本件登録意匠の出願日は平成31年1月24日であることから、先行意匠1は先行公知意匠である。
(3)本件登録意匠と先行意匠1の対比及び類否
意匠に係る物品は、両意匠とも「モップクリーナー」に関するものであり、同一の物品である。
両意匠の形態は、上記(1)(a)?(k)及び(2)(A)?(K)の点において共通しており、両者は細部にいたるまで酷似しており実質的にほぼ同一とも言える範疇にある。一方、本件登録意匠の色彩はグレー調であるのに対し、先行意匠1はゴールド調である点において差異があるものの、この種物品の属する家庭用電化製品等の分野においては、様々なカラーバリエーションが展開されるのがごく一般的であって、このような色彩の差異は、意匠の要部とはなりえず、類否判断に与える影響は極めて微弱である。
このように、両意匠の形態は酷似しており、本件登録意匠は甲第2号証に記載の意匠と類似するものである。
(4)結び
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。

3 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第2号証(枝番を含む。全て写しである。)を、審判請求書の添付書類として提出した。
甲第1号証 登録第1640284号公報
甲第2号証の1 中華人民共和国意匠登録ZL20173014851
3.1号の登録公報
甲第2号証の2 中国国家知識産権局の意匠データベースからダウンロ
ードした、意匠登録ZL201730148513.
1号の書誌データ
甲第2号証の3 請求人が製造、販売する、中華人民共和国意匠登録第
ZL201730148513.1号の意匠に係るモ
ップクリーナーの実物写真


第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は、審判事件答弁書を提出し、答弁の趣旨を
「本件審判の請求は成り立たない、
審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を、おおむね以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、後記2に掲げた乙第1号証ないし乙第7号証(枝番を含む)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件登録意匠と先行意匠1が非類似であること
ア 本件登録意匠の構成態様
(ア)基本的構成態様
a 円盤状の回転部が2つ取り付けられたモップ本体、並びに、当該モップ本体に取り付けられ上方に延びる本体ネック、ロッド、グリップからなる略棒状のハンドルからなる。
b 底面視において、回転部に孔部が形成されている。
c モップ本体の横方向の長さとハンドルの全長の比率は、略1:3.5である。
(イ)具体的構成態様
d 底面視において、モップ本体の縦方向と横方向の長さの比率は、略1:2.2である。
e モップ本体は底面視において横長の長円形であり、モップ本体に形成された回転部はそれぞれ外周側に等間隔に形成された12個の楕円形の孔部を有している。また、回転部とモップ本体の間には、立壁部が形成されている。
f モップ本体の縁部の形状につき、モップ本体の外縁に沿って凸部が設けられており、凸部の下方には略60度の傾斜面が形成され、凸部の上方には略45度の傾斜面が形成されている。
g モップ本体の平面側中央に、正面視左右対称の略山型の緩やかな凸部が、モップ本体の横幅の略4分の1の幅で形成されている。
h モップ本体の底面側に取り付けられた2つの回転部の間に、中央付近から正面側に向かって、略かまぼこ状の薄い凸部が設けられている。
i 正面視と左側面視において、グリップ、ロッド(グリップロッド及び中継ロッド)及び本体ネックの縦方向の長さの比率は、略1:2.9:1.1である。
j 本体ネックは、下方から上方へ向けて緩やかにすぼまっており、上端のロッドとの連結部には略45度の面取りが施されている。
k ロッドの径は、連結する本体ネックとグリップの径よりも細く形成されている。
l グリップは、下端のロッドとの連結部に略45度の面取りが形成されており、左側面視において上方に向かって背面側に緩やかに弧状に傾斜した態様になっている。グリップの正面側には、下端部付近に略縦長矩形状のスライド式電源スイッチが設けられており、電源スイッチにおける突起部の頂部から上端までの上部長さと突起部の頂部から下端までの下部長さの比率は、略1.9:1である。グリップの側面視において、グリップの頂部の長さとグリップの下部の長さの比率は、略1:1.3(当審注:「略1.3:1」の誤記と認められる。以下、該当箇所につき修正する。)である。グリップの上端は正面側から背面側に向かって斜め上方向に丸みを帯びた略14度の傾斜面が設けられている。
イ 先行意匠1の構成態様
(ア)基本的構成態様
a′円盤状の回転部が2つ取り付けられたヘッド、並びに、当該ヘッドに取り付けられ上方に延びるネック、ロッド、及び、グリップからなる略棒状のハンドルからなる。
b′ヘッドの横方向の長さとハンドルの全長の比率は、略1:3.1である。
(イ)具体的構成態様
c′底面視において、ヘッドの縦方向と横方向の長さの比率は、略1:2.2である。
d′ヘッドは底面視において横長の長円形である。また、回転部とヘッドの間には、回転軸が形成されている。
e′ヘッドの縁部の形状につき、ヘッドの外縁に沿って凸部が設けられており、凸部の下方には略60度の傾斜面が形成され、凸部の上方には略45度の傾斜面が形成されている。
f′ヘッドの平面側中央に、正面視左右対称の略山型の緩やかな凸部が、ヘッドの横幅の略4分の1の幅で形成されている。
g′ヘッドの底面側に取り付けられた2つの回転部の間に、中央付近から正面側に向かって、略かまぼこ状の薄い凸部が設けられている。
h′正面視と左側面視において、ハンドルを構成するグリップ、ロッド、ネックの縦方向の長さの比率は、略1:2.5:0.9である。
i′ネックは、下方から上方へ向けて緩やかにすぼまっており、上端のロッドとの連結部には略45度の面取りが施されている。
j′ロッドの径は、連結するネックとグリップの径よりも細く形成されている。
k′グリップは、下端のロッドとの連結部に略45度の面取りが形成されており、左側面視において上方に向かって背面側に緩やかに弧状に傾斜した態様になっている。グリップの正面側には、下端部付近に略縦長矩形状のスライド式電源スイッチが設けられており、電源スイッチにおける突起部の頂部から上端までの上部長さと突起部の頂部から下端までの下部長さの比率は、略1:1である。グリップの側面視において、グリップの頂部の長さとグリップの下部の長さの比率は、略1:1.6(当審注:「略1.6:1」の誤記と認められる。以下、該当箇所につき修正する。)。グリップの上端は正面側から背面側に向かって斜め上方向に平面状の略20度の傾斜面が設けられている。
ウ 本件登録意匠と先行意匠1が類似しないこと
意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である(東京高判平成10年6月18日・判時1665号94頁〈自走式クレーン事件〉)。
(ア)本件登録意匠の要部
a 意匠に係る物品の用途、使用態様
(a)本件登録意匠に係る物品(以下「本物品」という。)であるモップクリーナー等の清掃用具一般は、研磨する、掃く、拭く、吸引する、吹き飛ばす等の方法により汚れやゴミ、埃等を除去する。雑巾やスポンジ等手腕で直接、清掃部位に力を伝えて清掃するタイプの清掃用具も存在するが、これでは手腕が清掃部位に触れてしまい衛生上好ましくなく、かつ、床の清掃のためにしゃがんだり、壁や窓の上部、天井の清掃のために踏み台に上がったりと、身体への負担や転倒等の危険がある姿勢で清掃することになる。そのため、清掃用具の多くが、棒状の柄の先端に、汚れ等を除去するための器具を備えた構造を採用している。
そして、先端の器具は、研磨材、ブラシ、箒草、綿布、紙布、粘着性ロールペーパー、または、バキュームやブロワーのノズルなど、汚れ等の種類やこれを除去する方法に合わせて多種多様な形状や素材が存在しており(乙1)、逆に言えば、先端の器具を確認することにより、その清掃用具の使用方法や、その清掃用具によって除去することができる汚れの種類、さらには、汚れの除去が容易か否かが明らかとなる(このことは、清掃用具一般のカタログに、底面部の写真が掲載されていることからも裏付けられる(乙2の1?13)。)。
また、この物品の看者である需要者は、当然当該清掃用具を使用して汚れ等を除去しようと考える者であるから、清掃能力が高いかどうか、どのような汚れ等を除去することができるのか等に関心を抱いている。そうすると、本物品の需要者は、本物品の全体的な形状のみならず、特に、先端の形状にも注目して、上記関心を満たすものかを検討するといえる。
このような、本物品の用途、使用態様及び需要者の関心からすると、本物品であるモップクリーナー等の清掃用具一般において、柄の先端の器具の形状や、当該形状から必然的に選択されることとなる素材は、物品の需要者にとって、必ず注目する部位であり、注意を惹く部分であるといえる。
(b)また、本物品は、モップ本体の回転部にモップパッドを取り付け、グリップの電源スイッチをON操作することにより、回転部が回転するモップクリーナーである(甲1・【意匠に係る物品の説明】)。より効率的に水拭きすることができる機能を発揮するために当該回転部が設けられているのであり、また、回転部にモップパッドを取り付けて使用するという本物品の性質上、本物品の購入者は必ず回転部を確認するのであり(このことは、本物品を説明するウェブサイト(乙3の1?3)や、取扱説明書(乙4)の、モップパッドの取付方法や手入れ方法等の項目に、回転部が表示されていることからも明らかである。なお、付言するに、本物品と同種製品を販売するウェブサイトにおいても回転部が表示されている(乙5の1?6))、本物品の回転部の形状や大きさ、動作につき、需要者としては必然的に着目することになる。
さらに、本物品は、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成するという形状が採用されており、本物品の需要者はこの形状に着目する。すなわち、本物品は、水で濡らしたモップパッドを回転部に貼り付けて使用するため、モップパッドが水を吸って重くなって回転部の動作が悪化し、清掃能力が低下することが懸念されるが、他方で、床等の面に圧着することによって汚れ等を除去するという使用方法上、孔部を設けることによって床等の面に接触する部位の面積を減少させることは、回転部の強度低下という点においても、清掃能力低下という点においても、本物品の機能上看過することができない影響を有している。このような回転部全体の軽量化と、強度と清掃能力の維持という相反する要請の調和の観点から、本件登録意匠は、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成するという形状が採用された。そして、本物品の清掃能力や強度という観点は、本物品の需要者にとって関心の高い事項であるから、本物品の需要者は回転部に形成された孔部に着目することは明らかである。
したがって、本件登録意匠の、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成した形状(構成態様b及びe)は、需要者の注意を惹く部分であるといえる。
b 孔部が形成されている形状(構成態様b及びe)が公知意匠にない新規な創作部分であること
本物品と同様、2つの回転部を備える清掃用具については公知意匠が存在する(乙6の1?12)。しかし、これらの公知意匠において、2つの回転部の形状が開示されているものの、本件登録意匠のように、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成した形状を備えている意匠は開示されていない。すなわち、本件登録意匠は、審査において、回転部に上記のような孔部が形成された形状(構成態様b及びe)をもって新規性が肯定されたといえる。したがって、本件登録意匠の、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成した形状(構成態様b及びe)は、本件登録意匠の出願時において公知意匠にない新規な創作部分である。
c よって、本件登録意匠の形状のうち、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成した形状(構成態様b及びe)は、本件登録意匠の要部である。
(イ)先行意匠1が上記要部を備えていないこと
先行意匠1は本件登録意匠の要部である構成態様b及びeに対応する部分を備えていない。これにより、両意匠が看者に対して異なる美観を与えるものであることは明らかである。
したがって、本件登録意匠と先行意匠1とは類似するものではない。
(ウ)両意匠が全体的な美感を共通にしないこと
本件登録意匠と先行意匠1とは、その要部においてのみならず、下記の点においても相違しているため、結局、両意匠を全体として観察した場合に、両意匠が看者に対して異なる美観を与える。
すなわち、本件登録意匠と先行意匠1とは、
a 本件登録意匠のモップ本体の横方向の長さとハンドルの全長の比率が、略1:3.5であるのに対し、先行意匠1のヘッドの横方向の長さとハンドルの全長の比率が、略1:3.1である点(基本的構成態様c及び基本的構成態様b′)
b 本件登録意匠のグリップの頂部の長さとグリップの下部の長さの比率が、略1.3:1であるのに対し、先行意匠1のグリップの頂部の長さとグリップの下部の長さの比率が、略1.6:1である点(具体的構成態様l及び具体的構成態様k′)
c 本件登録意匠のグリップの頂部は丸みを帯びているのに対し、先行意匠1のグリップの頂部には丸みのない平面が形成されている点(具体的構成態様l及び具体的構成態様k′)
d 本件登録意匠はモップ本体と回転部の間に立壁部が形成されているのに対し、先行意匠1はその間には立壁部が形成されておらず回転軸が形成されているのみである点(具体的構成態様e及び具体的構成態様d′)
において、相違点が認められる。
相違点a及びbについて、本件登録意匠は先行意匠1よりも長くかつ細いため、全体としてスリムな印象を与えるものとなっている。また、相違点cについて、一般に曲面に仕上げる方が平面に仕上げるよりも高い技術力を要する。そして、相違点dについて、立壁部の存在により、モップクリーナーの使用時において、モップ本体と回転部との間にゴミや物(電源コード、充電ケーブル、紐)等の異物が回転部に巻き込まれることを抑制するという機能が果たされ、需要者自身がモップクリーナーに絡まった異物を取り出さなくてはならないという課題を解決できる。
相違点a?d及び上記要部を総合すると、本件登録意匠は、その全体において身体に負担や転倒等の危険がない姿勢で使用できるサイズが採用されているとともに、さらに細部において技術力と創意を凝らした高級品であるという印象を需要者に与える。これに対し、先行意匠1は、全体的に平面的で簡素な構造が採用された汎用品であるという印象を需要者に与える。
したがって、両意匠が看者に対して異なる美観を与えることは明らかであり、本件登録意匠は先行意匠1と類似するものではない。
エ 小括
以上のとおり、本件登録意匠と先行意匠1とは、要部において相違しており、かつ、要部を含めた全体的な美感を総合してもこれらが看者に対して異なる美観を与えるものであり、両意匠は類似しないことは明らかである。
(2)結論
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものではなく、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当せず、無効とすべきではない。

2 被請求人が提出した証拠
被請求人は、以下の乙号証(乙第1号証は原本であり、その他は全て写しである。)を、審判事件答弁書の添付書類として提出した。
乙第1号証 Googleにて、「清掃用具」で画像検索した検索
結果画面
乙第2号証の1 HITACHIクリーナー総合カタログ(2019-
秋)
乙第2号証の2 HITACHIコードレススティッククリーナーカタ
ログ
乙第2号証の3 HITACHIお店用・業務用クリーナー総合カタロ
グ(2017)
乙第2号証の4 MITSUBISHI ELECTRIC掃除機総合
カタログ(家庭用 2019-1号)
乙第2号証の5 TOSHIBA クリーナー総合カタログ 2019
-3号
乙第2号証の6 Panasonic Rollanカタログ
乙第2号証の7 Panasonic 掃除機総合カタログ (201
9-秋)
乙第2号証の8 Panasonic 店舗・業務用掃除機総合カタロ

乙第2号証の9 IRIS OHYAMA クリーナー総合カタログ
(2018)
乙第2号証の10 エコバックス ディーボット600 カタログ
乙第2号証の11 エラゴラピード・パワープロ カタログ
乙第2号証の12 SHARP 掃除機総合カタログ (2019-冬)
乙第2号証の13 Dyson コードレスクリーナー製品カタログ
乙第3号証の1 コードレス回転モップ(本物品)のウェブサイトを印
刷した書面
乙第3号証の2 コードレス回転モップ ホワイト(本物品)のAma
zonでの販売ページを印刷した書面
乙第3号証の3 コードレス回転モップ レッド(本物品)のAmaz
onでの販売ページを印刷した書面
乙第4号証 コードレス回転モップクリーナーNeo取扱説明書
乙第5号証の1 Amazon上の「電気モップコードレス回転モップ
クリーナー…」と称する商品の販売ページ
乙第5号証の2 Amazon上の「HONORS電動モップクリーナ
ー…」と称する商品の販売ページ
乙第5号証の3 Amazon上の「ローリングクリーナー…」と称す
る商品の販売ページ
乙第5号証の4 Amazon上の「コードレス電動モップ…」と称す
る商品の販売ページ
乙第5号証の5 Amazon上の「電動お掃除ブラシ…」と称する商
品の販売ページ
乙第5号証の6 Amazon上の「livease/リヴィーズコー
ドレス回転式電動モップ…」と称する商品の販売ペー

乙第6号証の1 中華人民共和国意匠公報(CN304853375S
)及び翻訳文
乙第6号証の2 大韓民国意匠公報(KR30-0862743)及び
翻訳文
乙第6号証の3 大韓民国意匠公報(KR30-0554987)及び
翻訳文
乙第6号証の4 大韓民国意匠公報(KR30-0788812)及び
翻訳文
乙第6号証の5 大韓民国意匠公報(KR30-0924252)及び
翻訳文
乙第6号証の6 大韓民国意匠公報(KR30-0938406)及び
翻訳文
乙第6号証の7 大韓民国意匠公報(KR30-0962429)及び
翻訳文
乙第6号証の8 大韓民国意匠公報(KR30-0962430)及び
翻訳文
乙第6号証の9 日本国意匠公報(意匠登録0977970)
乙第6号証の10 日本国意匠公報(意匠登録1277764)
乙第6号証の11 日本国意匠公報(意匠登録1608100)
乙第6号証の12 日本国実用新案公報(実用新案登録3200321)
乙第7号証 本件登録意匠及び先行意匠1の対比資料


第4 書面審理及び審理終結
当審は、本件審判について、令和2年(2020年)5月25日付けで書面審理に付する旨の通知を両当事者に通知し、同年5月28日付けで審理を終結する旨を通知した。


第5 当審の判断
1 本件登録意匠(別紙第1参照)
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、甲第1号証(別紙第1参照)の記載によれば「モップクリーナー」であり、甲第1号証の【意匠に係る物品の説明】には、「本物品は、モップ本体の回転部にモップパッド(パッド)を取り付け、グリップの電源スイッチをON操作することにより、回転部が回転するモップクリーナーである。」と記載されており、「パッドを取り付けたモップクリーナーの各部名称を示す参考図」によれば、本件登録意匠の底面には2つの回転部が設けられ、グリップには電源スイッチが設けられている。
(2)本件登録意匠の形態
本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、以下のとおりである。なお、正面方向を前方、背面方向を後方ともいい、前方の端を前端、後方の端を後端といい、前方の面を前面、後方の面を後面という。
ア 全体の構成
正面から見て、略縦長棒状体であるハンドル部の下端に、平面視略トラック形状であるヘッド部が接合されて一体になったものであり、ハンドル部は上から順にグリップ、ロッド、ネックから成り、グリップには電源スイッチが設けられ、モップ部の底面には、2つの同形同大の薄い略円形板状の回転部が設けられている。
イ モップ部の態様
イ-1 平面から見た態様
モップ部の縦横比は約1:2.2であり、左辺及び右辺が半円弧状に形成されている。モップ部上面の前端から後端寄りにかけて、モップ部上面縦幅の約3/4の縦幅の隆起部が、左右方向中央部に設けられている。その隆起部の横幅は、モップ部の横幅の約1/4である。
イ-2 正面から見た態様
モップ部は、薄い略扁平台形状の下端部が斜めに面取りされたモップ本体部と、その下方に、2つの同形同大の略扁平円柱形の連結部を介して配された回転部から成り(連結部の径は回転部の径よりやや小さく、両者は同心円状に重なっている。)、モップ本体部の上面中央部には、上記隆起部が、左右対称の緩やかな凸部として表されている。その隆起部を除いたモップ部全体は薄く、その縦横比は約1:9である。また、モップ本体部の下面中央部には、後記略かまぼこ状の薄い凸部が円弧状に表れている。
モップ本体部の端部は、略扁平台形状の側部が約45度に傾斜しており、面取り部が約60度に傾斜している。隆起部を除いたモップ本体部の厚み:連結部の厚み:回転部の厚みの比は約4:1.5:0.5であり、モップ本体部を構成する側部の厚み:面取り部の厚みの比は約3:1である。
イ-3 底面から見た態様
回転部の径はヘッド部の縦幅と同じであって、ヘッド部の左辺及び右辺(共に半円弧状に形成されている)に合うように、2つの回転部が左右に配されている。2つの回転部はやや離れており、それらの中間に略かまぼこ状の薄い凸部が設けられて、その凸部は、縦幅がヘッド部の縦幅の約1/2であって、ヘッド部の中央部から前方寄りに位置している。
イ-4 回転部外周寄りの態様
回転部の外周寄りには、12個の同形同大の略長円形孔部が等間隔に形成されている。
ウ ハンドル部の態様
ウ-1 グリップの態様
グリップは正面視略円柱形状であって、左側面上端は前方に向かって約20度傾斜して上面が凸球面状に僅かに膨出しており、下端部には約45度の面取り部が形成されてロッドに連続している。
左側面から見て、上方にいくにつれて背面側に緩やかに反るように傾斜しており、その傾斜の程度は前端よりも後端の方が僅かに大きい。すなわち、グリップは上方にいくにつれて若干太くなっており、グリップの上端の径(傾斜部を除く):下端(面取り部を除く)の径の比は、約1.1:1である。正面視においても、グリップは上方にいくにつれて太くなっている。
電源スイッチは略縦長矩形状であってスライド式であり、グリップの下端寄り正面に配されている。電源スイッチの前面には、上下方向を約1.9:1に内分する位置に左側面視略三角形状の突起部が形成されている。
ウ-2 ロッドの態様
ロッドは略丸棒状であって、その径は、上下方向で一定しており、グリップやネックの径よりも小さい。
ウ-3 ネックの態様
ネックは、略縦長円錐台形状であって上方にいくにつれて径が次第に小さくなっており、上端部には約45度の面取り部が形成されてロッドに連続している。
左側面から見て、ネックの下端部は前後幅が小さくなっており、下端部の前後には、モップ部の上面から突出したジョイント(前後のジョイントをそれぞれ「前ジョイント」「後ジョイント」という。)が接している。前ジョイントは正面視略逆舌片状であり、後ジョイントは背面視略小判形状である。
エ 全体の構成比及び色彩
左側面視において、グリップの縦幅:ロッドの縦幅:ネックの縦幅(前後のジョイントに挟まれた下端部を含む)の比は、約1:2.9:1.2である。そして、全体の正面視縦横比について、縦(グリップ上端から回転部下端まで):横(モップ部の横幅)は、約3.6:1である。また、本件登録意匠の全体は灰色である。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の登録の無効理由は、本件登録意匠が、その意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において公然知られた意匠となった、甲第2号証(別紙第2参照)に記載された意匠、すなわち、2017年9月1日付けで中華人民共和国国家知識産権局が公告した、公告番号CN304265844の意匠(出願番号201730148513.1の意匠)に類似するので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないことから、本件登録意匠の登録が、同法第48条第1項第1号に該当し、同項柱書の規定によって、無効とされるべきであるとするものである。
なお、甲第2号証の1に記載された意匠と甲第2号証の2に記載された意匠は同じであり、甲第2号証の2第2頁?第7頁は、甲第2号証の1第2頁に記載された各図を拡大した図であると認められる。

3 無効理由の判断
本件登録意匠が、甲第2号証の意匠(当審注:以下「甲2意匠」という。)と類似する意匠であるか否かについて検討する。
(1)甲2意匠(別紙第2参照)
甲2意匠は2017年9月1日付けで中華人民共和国国家知識産権局が公告した意匠であり、その公告日は本件登録意匠の意匠登録出願の出願日(2019年1月24日)の前であって、公告日から出願日まで約17月経過していることから、甲2意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願の出願前に、日本国内又は外国において公然知られた意匠であるということができる。
ア 甲2意匠の意匠に係る物品
甲2意匠の意匠に係る物品は、甲第2号証(別紙第2参照)の記載によれば「電動モップ」であり、甲2意匠の底面に設けられた2つの略円形板は、回転部であると推認することができる。(被請求人は、前記第3の1(1)イ(ア)a′において、この略円形板が回転部であることを認めている。) また、甲2意匠のグリップには、電源スイッチが設けられていると推認することができる。(被請求人は、前記第3の1(1)イ(イ)k′)において、甲2意匠のグリップに電源スイッチが設けられていることを認めている。)
イ 甲2意匠の形態
甲2意匠の形態は、以下のとおりである。なお、正面方向を前方、背面方向を後方ともいい、前方の端を前端、後方の端を後端といい、前方の面を前面、後方の面を後面という。
(ア)全体の構成
正面から見て、略縦長棒状体であるハンドル部の下端に、平面視略トラック形状であるヘッド部が接合されて一体になったものであり、ハンドル部は上から順にグリップ、ロッド、ネックから成り、グリップには電源スイッチが設けられ、モップ部の底面には、2つの同形同大の薄い略円形板状の回転部が設けられている。
(イ)モップ部の態様
(イ-1)平面から見た態様
モップ部の縦横比は約1:2.2であり、左辺及び右辺が半円弧状に形成されている。モップ部上面の前端から後端寄りにかけて、モップ部上面縦幅の約4/5の縦幅の隆起部が、左右方向中央部に設けられている。その隆起部の横幅は、モップ部の横幅の約1/4である。
(イ-2)正面から見た態様
モップ部は、薄い略扁平台形状の下端部が斜めに面取りされたモップ本体部と、その下方に、2つの同形同大の略細軸状の連結部を介して配された回転部から成り(連結部は回転部の中心位置に配されている。)、モップ本体部の上面中央部には、上記隆起部が、左右対称の緩やかな凸部として表されている。その隆起部を除いたモップ部全体は薄く、その縦横比は約1:8である。また、モップ本体部の下面中央部には、後記略かまぼこ状の薄い凸部が円弧状に表れている。
モップ本体部の端部は、略扁平台形状の側部が約45度に傾斜しており、面取り部が約60度に傾斜している。隆起部を除いたモップ本体部の厚み:連結部の厚み:回転部の厚みの比は約3:0.7:1であり、モップ本体部を構成する側部の厚み:面取り部の厚みの比は約2:1である。
(イ-3)底面から見た態様
回転部の径はヘッド部の縦幅と同じであって、ヘッド部の左辺及び右辺(共に半円弧状に形成されている)に合うように、2つの回転部が左右に配されている。2つの回転部はやや離れており、それらの中間に略かまぼこ状の薄い凸部が設けられて、その凸部は、縦幅がヘッド部の縦幅の約1/2であって、ヘッド部の中央部から前方寄りに位置している。
(ウ)ハンドル部の態様
(ウ-1)グリップの態様
グリップは正面視略円柱形状であって、左側面上端は前方に向かって約20度傾斜しており、下端部には約45度の面取り部が形成されてロッドに連続している。
左側面から見て、上方にいくにつれて背面側に緩やかに反るように傾斜しており、その傾斜の程度は前端よりも後端の方が大きい。すなわち、グリップは上方にいくにつれて太くなっており、グリップの上端の径(傾斜部を除く):下端(面取り部を除く)の径の比は、約4:3である。正面視においても、グリップは上方にいくにつれて太くなっている。
電源スイッチは略縦長矩形状であってスライド式であり、グリップの下端寄り正面に配されている。電源スイッチの前面には、上下方向を約1:1に内分する位置に左側面視略三角形状の突起部が形成されている。
(ウ-2)ロッドの態様
ロッドは略丸棒状であって、その径は、上下方向で一定しており、グリップやネックの径よりも小さい。
(ウ-3)ネックの態様
ネックは、略縦長円錐台形状であって上方にいくにつれて径が次第に小さくなっており、上端部には約45度の面取り部が形成されてロッドに連続している。
左側面から見て、ネックの下端部は前後幅が小さくなっており、下端部の前後には、モップ部の上面から突出したジョイント(前後のジョイントをそれぞれ「前ジョイント」「後ジョイント」という。)が接している。前ジョイントは正面視略逆舌片状であり、後ジョイントは背面視略小判形状である。
(エ)全体の構成比及び色彩
左側面視において、グリップの縦幅:ロッドの縦幅:ネックの縦幅(前後のジョイントに挟まれた下端部を含む)の比は、約1:2.5:0.9である。そして、全体の正面視縦横比について、縦(グリップ上端から回転部下端まで):横(モップ部の横幅)は、約3.2:1である。また、甲2意匠の全体は銅色である。
(2)本件登録意匠と甲2意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は電動の「モップクリーナー」であり、甲2意匠の意匠に係る物品も「電動モップ」であって、共に底面には2つの回転部が設けられ、グリップには電源スイッチが設けられているから、本件登録意匠と甲2意匠(以下「両意匠」ともいう。)の意匠に係る物品は、回転部を回転させることによって清掃を行う用途を有し、電源スイッチによって操作できる機能を有する。したがって、両意匠の意匠に係る物品は同一である。
イ 本件登録意匠と甲2意匠の形態
本件登録意匠と甲2意匠の形態には、以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
(共通点1)全体の構成についての共通点
正面から見て、略縦長棒状体であるハンドル部の下端に、平面視略トラック形状であるヘッド部が接合されて一体になったものであり、ハンドル部は上から順にグリップ、ロッド、ネックから成り、グリップには電源スイッチが設けられ、モップ部の底面には、2つの同形同大の薄い略円形板状の回転部が設けられている。
(共通点2)モップ部の態様についての共通点
(共通点2-1)平面から見た態様
モップ部の縦横比は約1:2.2であり、左辺及び右辺が半円弧状に形成されている。モップ部上面の前端から後端寄りにかけて、隆起部が左右方向中央部に設けられている。その隆起部の横幅は、モップ部の横幅の約1/4である。
(共通点2-2)正面から見た態様
モップ部は、薄い略扁平台形状の下端部が斜めに面取りされたモップ本体部と、その下方に、2つの同形同大の連結部を介して配された回転部から成り、モップ本体部の上面中央部には、隆起部が、左右対称の緩やかな凸部として表されている。その隆起部を除いたモップ部全体は薄く、その縦横比は約1:8?約1:9である。また、モップ本体部の下面中央部には、略かまぼこ状の薄い凸部が円弧状に表れている。
モップ本体部の端部は、略扁平台形状の側部が約45度に傾斜しており、面取り部が約60度に傾斜している。隆起部を除いたモップ本体部の厚み、連結部の厚み及び回転部の厚みを比較すると、モップ本体部の厚みが最も大きく、モップ本体部を構成する側部の厚みは面取り部の厚みよりも大きい。
(共通点2-3)底面から見た態様
回転部の径はヘッド部の縦幅と同じであって、ヘッド部の左辺及び右辺(共に半円弧状に形成されている)に合うように、2つの回転部が左右に配されている。2つの回転部ややや離れており、それらの中間に略かまぼこ状の薄い凸部が設けられて、その凸部は、縦幅がヘッド部の縦幅の約1/2であって、ヘッド部の中央部から前方寄りに位置している。
(共通点3)ハンドル部の態様についての共通点
(共通点3-1)グリップの態様
グリップは正面視略円柱形状であって、左側面上端は前方に向かって約20度傾斜しており、下端部には約45度の面取り部が形成されてロッドに連続している。
左側面から見て、上方にいくにつれて背面側に緩やかに反るように傾斜しており、その傾斜の程度は前端よりも後端の方が大きい。すなわち、グリップは上方にいくにつれて太くなっており、正面視においても、グリップは上方にいくにつれて太くなっている。
電源スイッチは略縦長矩形状であってスライド式であり、グリップの下端寄り正面に配されている。電源スイッチの前面には、左側面視略三角形状の突起部が形成されている。
(共通点3-2)ロッドの態様
ロッドは略丸棒状であって、その径は、上下方向で一定しており、グリップやネックの径よりも小さい。
(共通点3-3)ネックの態様
ネックは、略縦長円錐台形状であって上方にいくにつれて径が次第に小さくなっており、上端部には約45度の面取り部が形成されてロッドに連続している。
左側面から見て、ネックの下端部は前後幅が小さくなっており、下端部の前後には、モップ部の上面から突出したジョイント(前後のジョイントをそれぞれ「前ジョイント」「後ジョイント」という。)が接している。前ジョイントは正面視略逆舌片状であり、後ジョイントは背面視略小判形状である。
(イ)相違点
(相違点1)モップ部の形状についての相違点
(相違点1-1)モップ部上面の隆起部の大きさ
本件登録意匠のモップ部上面の隆起部は、その平面視縦幅がモップ部上面縦幅の約3/4であるのに対して、甲2意匠では約4/5である。
(相違点1-2)モップ本体部と回転部の連結部の形状
モップ本体部と回転部の連結部の形状は、本件登録意匠では径が回転部よりやや小さい略扁平円柱形であるのに対して、甲2意匠では略細軸状である。
(相違点1-3)
隆起部を除いたモップ本体部の厚み:連結部の厚み:回転部の厚みの比は、約4:1.5:0.5であるか(本件登録意匠)、約3:0.7:1であるか(甲2意匠)で異なり、また、モップ本体部を構成する側部の厚み:面取り部の厚みの比は、約3:1であるか(本件登録意匠)、2:1であるか(甲2意匠)で異なる。
(相違点1-4)
本件登録意匠の回転部の外周寄りには、12個の同形同大の略長円形孔部が等間隔に形成されているが、甲2意匠の回転部にはそのような孔部はない。
(相違点2)グリップの形状についての相違点
本件登録意匠では、グリップ上面が凸球面状に僅かに膨出し、左側面から見てグリップ後端の傾斜が前端よりも僅かに大きい程度であって、グリップの上端の径:下端の径の比が約1.1:1であるのに対し、甲2意匠のグリップは上方にいくにつれて本件登録意匠よりも太くなっており、その比は約4:3である。
また、スライド式電源スイッチの前面に形成された左側面視略三角形状の突起部の位置が、上下方向を約1.9:1に内分する位置であるか(本件登録意匠)、約1:1であるか(甲2意匠)で相違する。
(相違点3)全体の構成比及び色彩についての相違点
左側面視において、グリップの縦幅:ロッドの縦幅:ネックの縦幅(前後のジョイントに挟まれた下端部を含む)の比が、約1:2.9:1.2であるか(本件登録意匠)、約1:2.5:0.9であるか(甲2意匠)で相違する。そして、全体の正面視縦横比が、約3.6:1であるか(本件登録意匠)、約3.2:1であるか(甲2意匠)で相違する。また、本件登録意匠の全体は灰色であるが、甲2意匠の全体は銅色である。
(3)本件登録意匠と甲2意匠の類否判断
本件登録意匠の意匠に係る物品である「モップクリーナー」の使用状態においては、物品の全体が露出しており、使用者は全方向から物品の各部を観察することとなり、特に、使用者が常に手に触れるグリップの形状や、使用時に床面上を移動するモップ部の形状に注意を払うこととなる。一方、使用時においては、モップ部底面は床面に接触して隠れているので、使用者はモップ部底面の形状に常に注意を払うとはいい難い。したがって、「モップクリーナー」の意匠の類否判断については、このような物品時の特性を前提として、需要者(使用者)の視点から、物品の各部の形状を評価することとする。
ア 意匠に係る物品
前記(2)アで認定したとおり、本件登録意匠と甲2意匠の意匠に係る物品は同一である。
イ 本件登録意匠と甲2意匠の形態の共通点の評価
まず、全体の構成についての共通点1、すなわち、略縦長棒状体であるハンドル部の下端に平面視略トラック形状であるヘッド部を接合させ、ハンドル部を上から順にグリップ、ロッド、ネックから構成し、グリップに電源スイッチを設けて、モップ部の底面に2つの同形同大の薄い略円形板状の回転部を設けた形態は、モップクリーナーの物品分野の意匠において本願の出願前に広く知られている(例えば、被請求人が乙第6号証の9として提出した意匠登録第977970号の意匠。別紙第3参照。)ことから、需要者は特にその形態に注視するとはいい難い。
しかしながら、モップ部の態様についての共通点2については、正面視縦横比が約1:8?約1:9である薄い略扁平台形状のモップ本体部は、その下端部が斜めに面取りされて、上面中央部と下面中央部に、左右対称の緩やかな凸部である隆起部と、円弧状に表れる略かまぼこ状の薄い凸部が形成されていることとあいまって、需要者に確たる美感を与えているというべきであり、また、ハンドル部の態様についての共通点3についても、グリップの左側面上端を前方に向かって約20度傾斜させ、左側面から見て上方にいくにつれて背面側に緩やかに反るように傾斜させてグリップを上方にいくにつれて太くした形態は、需要者に一定の美感を与えているというべきである。そして、モップ本体部の端部が約45度に傾斜した略扁平台形状側部と約60度に傾斜した面取り部から成り、グリップの下端部とネック部の上端部が約45度の面取り部からなる点は、需要者に対して規則的かつ統一的な視覚的印象を呈しているということができる。
したがって、共通点1が本件登録意匠と甲2意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものの、共通点2と共通点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。
ウ 本件登録意匠と甲2意匠の形態の相違点の評価
これに対して、本件登録意匠と甲2意匠の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
(ア)モップ部の形状についての相違点1について
まず、相違点1-2で指摘した、モップ本体部と回転部の連結部の形状が略扁平円柱形であるか(本件登録意匠)、略細軸状であるか(甲2意匠)の相違は、当該連結部がモップ本体部と回転部の間にあり、その厚みがモップ本体部よりも小さいことから意匠全体の中では目立たないこと、及び本件登録意匠のように径が回転部よりやや小さい略扁平円柱形である連結部を有する意匠がモップクリーナーの物品分野の意匠において本願の出願前に広く知られている(例えば、被請求人が乙第6号証の4として提出した大韓民国意匠公報に記載された登録番号30-0788812の意匠。別紙第4参照。)ことから、需要者は上記の相違に特に注視するとはいい難い。
次に、モップ部上面の隆起部の平面視縦幅がモップ部上面縦幅の約3/4であるか(本件登録意匠)、約4/5であるか(甲2意匠)の相違(相違点1-1)は僅かであって、隆起部を除いたモップ本体部の厚み:連結部の厚み:回転部の厚みの比の相違(約4:1.5:0.5か約3:0.7:1)と、モップ本体部を構成する側部の厚み:面取り部の厚みの比(約3:1か約2:1)の相違(相違点1-3)も、モップ本体部の厚みや側部の厚みが大きい共通点(共通点2-2)に埋没する相違であり、ずれも需要者の視覚的印象を異にする程の相違であるとはいい難い。
そして、本件登録意匠の回転部の外周寄りに12個の同形同大の略長円形孔部が等間隔に形成されているが、甲2意匠の回転部にはそのような孔部がない相違(相違点1-4)については、使用者がモップ部底面の形状に常に注意を払わないことを踏まえると、孔部が使用時には主に平面斜めの一方向から看取されるものにすぎないこと、及び孔部の形成自体は主として軽量化などの技術的課題を解決するために行われるものであって(例えば、請求人が提出した上記乙第6号証の4においても、回転部の内部に複数の孔部が形成され、軽量化が図られている。)、需要者が本件登録意匠の回転部の孔部の個数や形状に殊更注目するとはいい難ことから、孔部の有無の相違は需要者の視覚を通じて別異の美感を与える程の相違であるということはできない。
したがって、モップ部の形状についての相違点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(イ)グリップの形状についての相違点2について
本件登録意匠のグリップ後端の傾斜が前端よりも僅かに大きい程度であることにより、グリップの上端の径:下端の径の比が約1.1:1であるか(本件登録意匠)、約4:3であるか(甲2意匠)の相違が認められるが、この相違は、グリップを子細に観察して顕現する相違であるというべきであり、共に側面視と正面視(及び背面視)において上方にいくにつれて太くなっている共通点(共通点3-1)に埋没する相違であるということができる。また、本願登録意匠に見られるグリップ上面が凸球面状の膨出の程度も僅かであり、スライド式電源スイッチの突起部の位置が約1.9:1であるか(本件登録意匠)、約1:1であるか(甲2意匠)で相違する点も限られた面積における相違であって、両意匠を全体として観察した場合にいずれも目立たない相違であるといわざるを得ない。
したがって、グリップの形状についての相違点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(ウ)全体の構成比及び色彩についての相違点3について
左側面視におけるグリップの縦幅:ロッドの縦幅:ネックの縦幅の比が約1:2.9:1.2であるか(本件登録意匠)、約1:2.5:0.9であるか(甲2意匠)の相違、及び全体の正面視縦横比が、約3.6:1であるか(本件登録意匠)、約3.2:1であるか(甲2意匠)の相違は、モップクリーナーの物品分野の意匠において、正面視の縦横比は様々であり、グリップ、ロッド及びネックの縦幅にも様々なものが見受けられるところ、いずれの相違も需要者に別異の視覚的印象を与える程の比率の相違とはいい難い。そして、全体が灰色であるか(本件登録意匠)、銅色であるか(甲2意匠)の相違についても、どちらも単一色で一様に色彩が施されて複数の色による色模様は形成されていないこと、及びモップクリーナーの物品分野の意匠においては様々な色彩が見受けられるところ単に灰色や銅色を選択したにすぎないことから、需要者が特段その色彩自体に着目するとはいい難い。
したがって、全体の構成比及び色彩についての相違点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
エ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は、「回転部全体の軽量化と、強度と清掃能力の維持という相反する要請の調和の観点から、本件登録意匠は、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成するという形状が採用された。そして、本物品の清掃能力や強度という観点は、本物品の需要者にとって関心の高い事項であるから、本物品の需要者は回転部に形成された孔部に着目することは明らかである。したがって、本件登録意匠の、回転部の外周側に12個の楕円形の孔部を等間隔に形成した形状(構成態様b及びe)は、需要者の注意を惹く部分であるといえる。」と主張する。
しかし、本件登録意匠の12個の略長円形孔部は、被請求人のいうとおり軽量化という技術的課題を解決するために形成されたものであり、被請求人のいう「強度と清掃能力の維持」と軽量化との調和も技術的課題であるところ、そのような技術的課題を解決するために形成された孔部の個数や形状が、直ちに視覚を通じて美感を起こさせる意匠の形状特徴として重要であるということはできない。そして、軽量化を図るために孔部を形成すること自体は前記ウ(ア)で説示したとおりありふれているから、軽量化などの技術的課題を解決するために形成された孔部に着目するとの被請求人の主張を、本件登録意匠と甲2意匠の類否判断(需要者の視覚を通じて別異の美感を与えるか否かの判断)に係る主張として首肯することはできない。
したがって、本件登録意匠の孔部の形状が需要者の注意を惹く部分であるとの被請求人の主張を採用することはできない。
(イ)被請求人は、本件登録意匠と甲2意匠の相違点について、「d 本件登録意匠はモップ本体と回転部の間に立壁部が形成されているのに対し、先行意匠1はその間には立壁部が形成されておらず回転軸が形成されているのみである」と指摘し、「相違点dについて、立壁部の存在により、モップクリーナーの使用時において、モップ本体と回転部との間にゴミや物(電源コード、充電ケーブル、紐)等の異物が回転部に巻き込まれることを抑制するという機能が果たされ、需要者自身がモップクリーナーに絡まった異物を取り出さなくてはならないという課題を解決できる。」と主張する。
しかし、モップ本体部と回転部の連結部(被請求人のいう立壁部)が略扁平円柱形である意匠は、前記ウ(ア)で説示したとおりモップクリーナーの物品分野の意匠において本願の出願前に広く知られているから、需要者は本件登録意匠の連結部の形状に注目するとはいい難く、被請求人のいう相違点dは、本件登録意匠の甲2意匠に対する相違として特に評価することはできない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
オ 小括
以上のとおり、本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が同一であり、形態においても、共通点は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対して、相違点は、いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さく、これらがあいまって生じる視覚的効果を考慮しても、共通点が需要者に与える美感を覆して、両意匠を別異のものと印象付けるほどのものとはいえないから、本件登録意匠は、甲2意匠に類似するものと認められる。
そうすると、本件登録意匠は、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠に類似する意匠であるから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、同条同項の規定により意匠登録を受けることができないものであって、同法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
したがって、請求人が主張する無効理由については、理由がある。


第6 むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、同条同項の規定に違背して登録されたものであるから、その登録は、同法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2020-05-28 
結審通知日 2020-06-03 
審決日 2020-06-23 
出願番号 意願2019-1318(D2019-1318) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (C3)
最終処分 成立 
前審関与審査官 神谷 由紀高田 紗里 
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 渡邉 久美
小林 裕和
登録日 2019-08-09 
登録番号 意匠登録第1640284号(D1640284) 
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 
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