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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 H6
管理番号 1368171 
審判番号 不服2020-5742
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-28 
確定日 2020-11-04 
意匠に係る物品 ルーター 
事件の表示 意願2019- 7583「ルーター」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
平成31年(2019年) 4月 8日 意匠登録出願
令和 1年(2019年) 9月12日付け 拒絶理由通知書
令和 1年(2019年)11月 1日 意見書
令和 2年(2020年) 1月31日付け 拒絶査定
令和 2年(2020年) 4月28日 審判請求書

第2 本願意匠
本願意匠の意匠に係る物品は、本願の願書の記載によれば「ルーター」であり、本願意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりである(別紙第1参照)。

第3 原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は、本願意匠が、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものと認められるので、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠(先行の公知意匠に類似するため、同条同項の規定により意匠登録を受けることができない意匠)に該当するとしたものである。拒絶の理由に引用した意匠は、以下の意匠である(以下、「引用意匠」という。)。
引用意匠は、日本国特許庁が平成29年 7月18日に発行した意匠公報に記載された、意匠登録第1581503号 (意匠に係る物品、通信用中継器)の意匠(別紙第2参照)である。

第4 本願意匠と引用意匠の対比
1 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「ルーター」であり、引用意匠の意匠に係る物品は「通信用中継器」である。

2 本願意匠と引用意匠の形態
本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の形態を対比すると、主として、以下の共通点と相違点が認められる。
(1)形態の共通点
(A)全体の構成についての共通点
全体は、正面視において四隅を隅丸形状とした横長の略長方形状であって、正面側に全体より小さい同形の透明パネルを設けて、その中央に横長長方形の表示部を設けている。正面側及び背面側の周縁部(以下、それぞれ「正面側周縁部」「背面側周縁部」という。)は、一周を等幅としている。
(B)周縁部の傾斜についての共通点
正面側周縁部及び背面側周縁部は、それぞれ平坦状で傾斜面を構成している。
(C)各種操作部についての共通点
平面視片側に寄せて電源スイッチを設け、底面視中央に充電端末接続部を設けている。

(2)形態の相違点
(a)正面側周縁部及び背面側周縁部の相違点
(a-1)正面側周縁部及び背面側周縁部の幅の相違点
正面視及び背面視において、正面側周縁部及び背面側周縁部の幅の全体に占める割合が、引用意匠に比べて本願意匠の方が小さい。また、正面視及び背面視四隅の隅丸形状については、引用意匠よりも本願意匠の方が全体に占める曲部の割合が大きい。
(a-2)周縁部の厚みの相違点
側面視において、本願意匠では正面側周縁部と背面側周縁部がほぼ同じ厚みであるのに対して、引用意匠では、正面側周縁部に対して背面側周縁部が2倍程度の厚みであり、両意匠においては背面側周縁部の厚みに差がある。
(b)外周面の態様の相違点
平底面視及び側面視によれば、外周面の態様について、本願意匠は平坦状に形成されているのに対して、引用意匠においては緩やかな凸曲面状に形成されている。
(c)表示部の態様における相違点
正面視において、透明パネル内の上側余地部:表示部:下側余地部の縦幅の比は、本願意匠では約1:2.7:1であるのに対して、引用意匠では約1:5.4:1であるので、引用意匠の縦方向における表示部の占める割合は本願意匠のそれの約2倍である。また、透明パネル内の左側余地部:表示部:右側余地部の横幅の比は、本願意匠では約1:1.9:1であるのに対して、引用意匠では約1:2.6:1であるので、縦方向と同様に横方向においても透明パネルに占める表示部の割合は引用意匠の方が大きい。
(d)SIMカードカバーの有無についての相違点
本願意匠には平面部中央付近に略扁平トラック形状のSIMカードカバーが設けられているが、引用意匠にはSIMカードカバーは設けられていない。

第5 類否判断
1 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「ルーター」であり、引用意匠の意匠に係る物品は「通信用中継器」であって、共に通信ネットワークと通信機器を接続する機能を有し、携帯して用いられるモバイルルーターであるから、両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

2 ルーターの意匠の類否判断
モバイルルーターは、移動体通話網と通信端末機を接続する機能を有しており、机上への設置やカバン等に入れた状態で使用されるものである。そうすると、需要者がモバイルルーターを観察するに当たっては、手に取り操作をする際の握りやすさに注意を払うことになる。したがって、ルーターの意匠の類否判断においては、これらの態様を特に評価し、かつそれ以外の形状の評価も併せて、各評価を総合して意匠全体として類否を判断する。

3 両意匠の形態の共通点の評価
両意匠の形態の共通点で指摘した、(A)全体の構成についての共通点については、正面視において四隅を隅丸形状とした横長の略長方形状であって、正面側に全体より小さい同形の透明パネルを設けて、その中央に横長の長方形で表示部を設けた形態、及び正面側周縁部及び背面側周縁部の一周を等幅としている形態は、「ルーター」の物品分野において本願の出願前に広く知られており(参考意匠1及び参考意匠2)、ごく普通に見受けられるところであるために、需要者は当該形態に対して殊更注意を引くということはできない。また、(B)正面側周縁部に傾斜面を設けることもモバイルルーターの物品分野においては既に行われている(参考意匠2)ために、本願意匠と引用意匠のみが有する際立った特徴ということもできない。そして、(C)各種操作部については、電源スイッチが両意匠において片側に寄せてあることはモバイルルーターにおいては例を挙げるまでもなくありふれており、底面視中央に充電端末接続部を設けることもモバイルルーターの物品分野において広く行われているから、いずれも需要者が特に着目するところではない。したがって共通点(A)ないし(C)のいずれにおいても両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

参考意匠1(別紙第3参照)
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2014年10月14日に受け入れた 週刊アスキー 第26巻 通巻第999号 35頁所載 Wi-FiSTATION HW-02G
モバイルルーターの意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HA26005090号)

参考意匠2(別紙第4参照)
独立行政法人工業所有権情報・研修館が2014年3月24日に受け入れた 週刊アスキー 第25巻 通巻第952号 34頁所載 Wi-Fi WALKER
携帯用ルーターの意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HA25040001号)

4 両意匠の形態の相違点の評価
これに対して、両意匠の形態の相違点については、以下のとおり評価され、相違点を総合すると、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
まず、(a-1)における、正面側周縁部の幅の全体に占める割合の相違点は、同割合が小さい本願意匠と大きい引用意匠の相違が、正面側の形態について特に注意を払う需要者の目につくところであり、四隅の隅丸形状において引用意匠よりも本願意匠の方が全体に占める曲部の割合が大きい相違点とあいまって、異なった美感を需要者に強く与えているというべきである。また、背面側周縁部の幅の全体に占める割合の相違点も目立つものであるから、需要者に異なる美感を与えている。
そして、(a-2)周縁部の厚みの相違点は、本願意匠がおよそ同じ厚みで正面側と背面側に設けてあるのに対して、引用意匠においては正面側に対して背面側がおよそ2倍の厚みであるから、需要者に異なる視覚的印象を与えているというべきである。
また、平底面視及び側面視における外周面の態様について、本願意匠は平坦状に形成されているのに対して、引用意匠においては緩やかな凸曲面状に形成されている相違点(b)は、平底面視及び側面視において外周面の端部を注視した際に気づく程度の微細な相違であり、両意匠の類否判断に及ぼす視覚的影響は小さいものの、モバイルルーターの物品分野においては需要者が携帯して利用することを考慮すると、上記(a-2)の相違点とあいまって、異なる印象を需要者に与えている。
したがって、相違点(a-1)、(a-2)及び(b)は、いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいといわざるを得ない。
他方、(c)表示部の態様においては、正面視において透明パネル中央に設けられた表示部の正面視における全体に占める割合が異なっているが、表示部の大きさを変更すること自体は、筐体の形状に合わせて行われているところであり、加えて、本願意匠と引用意匠との縦比率には大きな相違が見られるものの横比率においては微細な相違という他にはなく、この相違点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
また、(d)のSIMカードカバーの有無についても、本願意匠に見られるSIMカードカバーは扁平であってそれほど目立つものではなく、両意匠を意匠全体で比較した際には、その有無が需要者に異なる印象を与えるとはいえないから、相違点(d)も両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。

5 両意匠の類否判断
以上のとおり、両意匠の形態の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は総じて小さいのに対して、両意匠の形態の相違点(a-1)、相違点(a-2)及び相違点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも大きく、形態の相違点(c)及び(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいとしても、形態の共通点を圧して、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
したがって、両意匠の意匠に係る物品は同一であるものの、両意匠の形態については、相違点は共通点を圧して両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすので、両意匠を全体として比較した際には両意匠を別異のものと印象付けるものであるから、本願意匠は引用意匠に類似しない。

第6 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は原査定の引用意匠に類似することを理由にして、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するということはできないから、同法同条同項の規定によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、当審において更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2020-10-14 
出願番号 意願2019-7583(D2019-7583) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (H6)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 宏幸 
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 濱本 文子
小林 裕和
登録日 2020-11-25 
登録番号 意匠登録第1674612号(D1674612) 
代理人 堅田 裕之 

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