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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 B1
管理番号 1368190 
審判番号 不服2020-1866
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-10 
確定日 2020-12-01 
意匠に係る物品 上衣 
事件の表示 意願2018- 20562「上衣」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年(2018年)9月21日に出願された意匠登録出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成31年(2019年) 4月19日付け:原審拒絶理由の通知(1回目)
令和 1年(2019年) 5月20日 :意見書の提出
令和 1年(2019年) 8月14日付け:原審拒絶理由の通知(2回目)
令和 1年(2019年)10月 4日 :意見書の提出
令和 1年(2019年)12月17日付け:拒絶の査定
令和 2年(2020年) 2月10日 :審判請求書の提出
令和 2年(2020年) 6月25日 :面接の実施
令和 2年(2020年) 7月20日付け:当審拒絶理由の通知
令和 2年(2020年) 8月 3日 :意見書の提出
(当審注:「?日付け」は起案日を示す。)

第2 本願意匠
本願は、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であり、その意匠は、意匠に係る物品を「上衣」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであって(以下「本願意匠」という。)、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を、「薄赤色で表した部分以外の部分が意匠登録を受けようとする部分であり、薄赤色で表した部分は意匠登録を受けようとする部分ではない。」(以下「本願部分」という。)としたものである(別紙第1参照)。

第3 当審における拒絶の理由及び引用意匠
当審における拒絶の理由は、本願意匠が、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので、意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって、具体的には、概要以下のとおりである。

本願部分は、「上衣」としては一般的なメリヤス編みの編布を用い、意匠1図1にみられるように前身頃と後身頃を略同形とした袖付きの上衣を、意匠2のように表裏突出しない態様で縫合するために、広く知られた縫い目(意匠3)によって肩部分、胴部分及び袖ぐり部分を縫合し、襟部分と裾部分に本願物品分野においてごく普通に行われている縁布を被せ、たんに環縫い系の縫い目(意匠4)によって縫合し、前身頃と後身頃との端部が表と裏の状態で略同一な形状とすることで、意匠1にみられるように、出願前より公然知られた正面側及び背面側に加え、表側及び裏側のいずれであっても同様のものとして着用することができる上衣としたまでにすぎず、当業者であれば容易に創作をすることができたものと認められます。

意匠1(別紙第2参照)
特許庁発行の公表特許公報記載
特表2017-534778号
【発明の名称】衣類及びその製造方法
において願書及び各図面に示す上衣の意匠

意匠2(別紙第3参照)
特許庁発行の登録実用新案公報記載
実用新案登録第3049066号
【考案の名称】前後及び表裏兼用に着用可能な衣服
において願書及び各図に示す上衣の意匠

意匠3(別紙第4参照)
米国非営利法人インターネット・アーカイブ(The Internet Archive)が運営するインターネット・アーカイブ(Wayback Machine)により、2016年5月6日付けで保存・公開されている
「フラットシーム 両切りができる工業用環縫いミシン|工業用ミシンのペガサスミシン製造株式会社」第1/2頁の左上に表された「フラットシーム 両切り(当審注:「両切り」の表記は、「片切り」の誤記と考えられます。)」が示す編み目の意匠
(出力日:令和2年7月9日)
インターネット・アーカイブURL:
https://web.archive.org/web/20160506195457/https://www.pegasus.co.jp/ja/machine/seam/n324

意匠4(別紙第5参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2012-40323
【発明の名称】環縫いミシンによる縫い目構造及び環縫いミシン
において図14に表された縫製生地の意匠

第4 当審の判断
以下において、本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性、すなわち、本願意匠が当業者であれば容易に創作することができたか否かについて検討し、判断する。
1 本願意匠の認定
(1)本願意匠の意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は、「上衣」であり、願書の意匠に係る物品の説明欄には、「本物品は、正面側及び背面側のいずれであっても前側として着用することができる上衣である。本物品は、表側及び裏側が同様となるように型取及び縫製されたリバーシブル型の上衣とされているため、正面側及び背面側だけでなく、表側及び裏側のいずれであるかも気にせず着用することができる。なお、本物品の裾部分は、襟部分と同様に、身頃を構成する布に縁布を被せた状態で縫合されている。また、本物品は、伸縮性を有する編布で構成されており、具体的には、表側と裏側の編目が同じとなるメリヤス編みの編布で構成される。」と記載されている。

(2)本願部分の用途及び機能
本願部分は、袖付きの「上衣」のうち、袖ぐりの端部より先の袖部を除いた上衣の用途及び機能を構成するものである。

(3)本願部分の位置、大きさ及び範囲
本願部分は、袖付きの「上衣」のうち、袖ぐりの端部より先の袖部を除いた位置、大きさ及び範囲とするものである。

(4)本願部分の形態
本願部分の形態は、以下の(ア)ないし(エ)としたものと認められる(別紙第1参照)。
(ア)前身頃(正面側)と後身頃(背面側)をつなぎ合わせた構成とし、筒状の胴部の上端部(襟部分)に襟ぐりを有し、正面側(表側)の襟ぐりの形状と、背面側(後側)の襟ぐりの形状とを、円弧状の略同一形状とするもので、
(イ)前身頃と後身頃における肩部分の縫合部分と胴部分の縫合部分、そして袖ぐり部分の縫合部分を、表の状態と裏返した状態の両方の状態で表側、裏側のいずれへの突出も押さえた形状に縫合し、
(ウ)襟部分及び裾部分には前身頃及び後身頃を構成する布に縁布を被せた状態で縫合して、前身頃と後身頃との端部が表と裏の状態で略同一な形状とし、
(エ)前身頃、後身頃とも明るいグレーの無模様としたもの。

2 引用意匠の認定
当審における拒絶の理由に引用された、意匠1ないし意匠4は、概要以下のとおりである。
なお、意匠1ないし意匠4の出典などについては、前記第3に記載されたとおりである。
(1)意匠1(別紙第2参照)
【0094】の記載等から、意匠1は、正面側及び背面側に加え、表側及び裏側のいずれであっても正面として着用することができる上衣であって、その具体的手法として、【請求項1】には、「同じ形状とサイズである前記2枚のパネル(12,14(当審注:12は前身頃、14は後身頃に相当))は、それぞれ丸型かV型のいずれかから選択された同一外形又は異なる外形を有する」との記載があり、それを示す襟ぐりを丸型とする袖付きの上衣の前身頃の表裏、後身頃の表裏が表れた図2、他の実施形態が示され、図1には、襟ぐりを丸型とする袖付きの上衣が表されている。
また、詳細な説明【0067】【0071】等には、上衣の襟ぐり裾ぐりに縁布を被せ、上衣の前後、裏表を略同形又は略対称とする旨記載されている。
これらの記載及び実施形態として表された図から、意匠1は、襟ぐりを丸型とする袖付きの上衣であって、正面側と背面側の襟ぐりは丸型の同形で、襟ぐりと裾ぐりは縁布が被せられ、前後、表裏を略同形又は略対称とした形状としたものが想定される。

一方、【0094】の記載の後段には、「そして、着心地は変わらないままで、例えば少なくとも2枚の異なる生地及び/又は少なくとも2種類の異なる自分好みの変更を備える。上記により、有利なことに、衣類10を個々人に合わせて変更できるようになる。そして、例えば印刷又は他の技術を使用して、すべての面12a、12b、14a(14b)で、異なるイラスト/グラフィックパターン/文字の書込/色をつけたりする。このようにして、常に同じ快適さ及び耐久性を保ちつつ、考えられる着用可能な4種類のそれぞれ異なるパターンでは美的にも異なるので、衣類10は極めて用途が広い。」との記載があり、その他の記載内容から、意匠1は、上記形状に基づき、表地と裏地のすべての面を異なるイラストや色彩とし、多様なパターンで着用可能とすることを目的とした形態としたものと認められる。

(2)意匠2(別紙第3参照)
【請求項1】の「衿ぐりの縁縫いや前身頃と後身頃の逢着線、袖(そで)ぐりの縁縫い、前後の身頃と袖の逢着線を、表裏いずれも表として見ることができるように縫い代を突出させない態様で逢着したことを特徴とする。」との記載及び【0010】等の願書の記載、並びに実施態様を示す各図から、意匠2は、正面側の襟ぐりの形状と背面側の襟ぐりの形状が異なった袖無しの上衣であって、前後の身頃の肩部分、胴部分及び袖ぐり部分の逢着線の縫い代を突出させない態様で逢着した形状としたものが想定される。

一方、【0019】の考案の効果における「請求項1記載の本考案、前後及び表裏兼用に着用可能な衣服によれば、一着の衣服を衿ぐり形状、深さの異なる前後と表裏の四通りに使い分けることができる。そのため、例えばこれをアンダーシャツに応用する場合、従来は上着の衿形状の違いによって使い分けていたものを、後前に着用することによって対応することができる。」との記載、また、【0020】の「請求項2記載の考案によれば、前後衿ぐり形状の違いに加え、表地と裏地の意匠の違いを組合せ、異なるデザインの衣服として四通りに使い分けることができる。」との記載から、意匠2は、上記形状に基づき、表地と裏地を異なるデザインとすることで、4通りの異なる上衣として使用することを目的とした形態としたものと認められる。

(3)意匠3(別紙第4参照)
意匠3は、縫い代の突出が押さえられた「フラットシーム」の編み目の意匠である。

(4)意匠4(別紙第5参照)
意匠4は、環縫いミシンによる縫い目構造が表された縫製生地の意匠である。

3 本願意匠の創作非容易性について
本願意匠は、前記1(1)のとおり、正面側及び背面側のいずれであっても前側として着用することができる上衣であって、表側及び裏側が同様となるように型取及び縫製されたリバーシブル型の上衣とされているため、正面側及び背面側だけでなく、表側及び裏側のいずれであるかも気にせず着用することができるもので、裾部分は、襟部分と同様に、身頃を構成する布に縁布を被せた状態で縫合された、表側と裏側の編目が同じとなるメリヤス編みの編布で構成されたものである。
そして、本願部分の「用途及び機能」、「位置、大きさ及び範囲」、及び「形態」は、前記1(2)ないし(4)に記載のとおりである。

そこで、この意匠の創作非容易性について検討すると、上衣の物品分野において、(A)正面側及び背面側のいずれであっても前側として着用することができる上衣とすること、(B)表側及び裏側が同様となるように型取及び縫製をしたリバーシブル型の上衣とすること、また、そのため、(C)裾部分は、襟部分と同様に、身頃を構成する布に縁布を被せた状態で縫合すること、に加えて(D)表側と裏側の編目が同じとなるメリヤス編みの編布で構成とすること、さらには、(E)襟ぐりを円弧状(丸型)とする点、肩部分、胴部分及び袖ぐり部分の縫製態様、襟ぐり及び裾ぐりの縫製態様については、この出願前より公然知られた態様と、広く知られた縫製手法により形成することができるものと認められる。
しかしながら、本願部分は、(F)表側及び裏側のいずれであるかも気にせず着用することができることを目的とし、そのため、その態様を積極的に、前身頃、後身頃とも明るいグレーの無模様としたものである。
本願意匠が意匠法第3条第2項の意匠に該当するとして、当審の拒絶理由で引用した意匠1及び意匠2は、いずれも各身頃の前後、表裏を同じ色調の無模様とする旨の記載はなく、むしろ、異ならせることで多様なデザインの上衣とすることを目的としていることから、これら意匠1及び意匠2には、各身頃の前後、表裏すべての形状及び色調、模様を略同じとする意匠は表されていない。
そうすると、本願意匠の上記(F)の態様は、この種物品分野において独自の着想によって創出したといえ、一定の創作性を認める余地があるといえる。
したがって、本願意匠は、当業者がこれら公然知られた意匠に基づいて容易に創作をすることができたということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、意匠法第3条第2項が規定する、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものに該当しないので、当審の拒絶の理由によって本願の登録を拒絶すべきものとすることはできない。
また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

別掲

審決日 2020-11-09 
出願番号 意願2018-20562(D2018-20562) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (B1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 富永 亘 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 正田 毅
北代 真一
登録日 2020-12-09 
登録番号 意匠登録第1675767号(D1675767) 
代理人 木村 厚 
代理人 田中 秀明 
代理人 森 寿夫 
代理人 森 廣三郎 
代理人 特許業務法人森特許事務所 

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