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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) H1
管理番号 1371769 
判定請求番号 判定2020-600032
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 判定 
判定請求日 2020-09-24 
確定日 2021-03-12 
意匠に係る物品 レセプタクル保護キャップ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1610616号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「レセプタクル保護キャップ」の意匠は、登録第1610616号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 手続の経緯
平成30年1月12日 意匠登録出願(意願2018?310)
平成30年7月13日 意匠権の設定登録
令和 2年9月24日付け 本件判定請求(本件判定請求人)
令和 3年1月 4日付け 答弁書の提出(本件判定被請求人)

第2 請求の趣旨及び理由
1 判定請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は、イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1610616号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、との判定を求め、要旨、以下のとおり主張した。
(当審注:判定請求人は、「判定請求の趣旨」において、イ号意匠及びその説明書に示す意匠を、登録第1610616号及びこれに類似する意匠との比較の対象としているので、以下、判定請求書において「イ号意匠」とある箇所を「イ号意匠及びその説明書に示す意匠」として、対比、判断する。)

2 請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人は、本件判定請求に係る登録意匠「レセプタクル保護キャップ」(甲第1号証ないし甲第3号証、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
本件判定請求人は、本件判定被請求人(株式会社エーイーティー)が現在販売している商品名「RCAショートピン EVO-RPB」なるレセプタクル保護キャップの意匠(イ号意匠及びその説明書)が、本件登録意匠の意匠権を侵害するものと考えており、このことを客観的に立証すべく、特許庁に判定を求めた。

(2) 本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成30年1月12日(意願2018-380)
登録 平成30年7月13日(意匠登録第1610616号)

(3) 本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「レセプタクル保護キャップ」とし、その形態の要旨を、次のとおりとする(甲第1号証ないし甲第3号証参照)。

(3-1)基本的な構成態様
基本的な構成態様は、以下のとおりである。
・本件登録意匠に係る物品は、略有底円柱状の本体と、本体と着脱可能な細長棒状のセンターピンと、から構成される。
・本体は、略有底円柱状の基部と、基部の平面側に接続される爪部と、からなる。
・基部は、平面の中心軸上に雌ネジを有する。
・センターピンは、下端(底面側の端)に雄ネジを有する。
・センターピンの雄ネジは、基部の雌ネジと螺合可能である。
・センターピンの半径は、爪部の半径より小さい。
・爪部の半径は、基部の半径より小さい。
・基部に装着されたセンターピンの中心軸は、基部及び爪部の中心軸と一致する。

(3-2)具体的な構成態様
具体的な構成態様は、以下のとおりである。
・爪部は、6本の垂直方向のスリットを有する。
・爪部は、底面側の半径が平面側の半径よりわずかに大きい略円錐状である。
・基部は、滑り止め用に、水平方向に2本の溝を有し、2本の溝の間の側面(正面と背面とを含む)の一部に、3つの垂直方向の平坦な面を有する。
・センターピンの半径と長さの比率は、略1:4である。
・爪部の最大半径と長さの比率は、略2:1である。
・基部の半径と長さの比率は、略1:3である。

(4) イ号意匠の説明
イ号意匠は、意匠に係る物品を「レセプタクル保護キャップ」とし、その形態の要旨を、次のとおりとする(イ号意匠及びその説明書参照)。

(4-1)基本的な構成態様
基本的な構成態様は、以下のとおりである。
・イ号意匠に係る物品は、略有底円柱状の本体と、本体と着脱可能な細長棒状のセンターピンと、から構成される。
・本体は、略有底円柱状の基部と、基部の平面側に接続される爪部と、からなる。
・基部は、平面の中心軸上に雌ネジを有する。
・センターピンは、下端(底面側の端)に雄ネジを有する。
・センターピンの雄ネジは、基部の雌ネジと螺合可能である。
・センターピンの半径は、爪部の半径より小さい。
・爪部の半径は、基部の半径より小さい。
・基部に装着されたセンターピンの中心軸は、基部及び爪部の中心軸と一致する。

(4-2)具体的な構成態様
具体的な構成態様は、以下のとおりである。
・爪部は、4本の垂直方向のスリットを有し、略円筒状である。
・基部は、滑り止め用に、側面(正面と背面とを含む)の全周に亘って垂直方向の細幅の溝を密に多数形成した形状を有する。
・センターピンは、上端(平面側の端)から下端(底面側の端)にかけて貫通するように孔を有する。
・基部に形成された雌ネジは、基部を貫通するようにネジ孔が形成される。
・センターピンの半径と長さの比率は、略1:4である。
・爪部の半径と長さの比率は、略2:1である。
・基部の半径と長さの比率は、略5:1である。

(5) 本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 両意匠の共通点
両意匠の共通点は、以下のとおりである。
(ア-1)両意匠は、意匠に係る物品が「レセプタクル保護キャップ」で一致する。
(ア-2)基本的な構成態様において、両意匠は、略有底円柱状の本体と、本体から着脱可能な細長棒状のセンターピンと、から構成され、本体は、略有底円柱状の基部と、基部の平面側に接続される爪部と、からなる点で共通する。
(ア-3)基本的な構成態様において、両意匠は、基部が、平面の中心軸上に雌ネジを有し、センターピンが、下端(底面側の端)に雄ネジを有し、センターピンの雄ネジは、基部の雌ネジと螺合可能である点で共通する。
(ア-4)基本的な構成態様において、両意匠は、センターピンの半径が爪部の半径より小さく、爪部の半径が基部の半径より小さい点で共通する。
(ア-5)基本的な構成態様において、両意匠は、基部に装着されたセンターピンの中心軸が、基部及び爪部の中心軸と一致する点で共通する。
(ア-6)具体的な構成態様において、両意匠は、爪部に垂直方向のスリットを有する点で共通する。

イ 両意匠の相違点
両意匠の相違点は、以下のとおりである。
(イ-1)爪部について、本件登録意匠は、スリットが6本であり、略円錐状であるのに対して、イ号意匠は、スリットが4本であり、略円筒状である点で相違する。
(イ-2)基部の滑り止めについて、本件登録意匠は、水平方向に2本の溝を有し、2本の溝の間の側面の一部に、3つの垂直方向の平坦な面を有するのに対して、イ号意匠は、側面の全周に亘って垂直方向の細幅の溝を密に多数形成した形状である点で相違する。
(イ-3)基部の相対的長さについて、本件登録意匠は、半径と長さの比率が略1:3であるのに対して、イ号意匠は、半径と長さの比率が略5:1である点で相違する。
(イ-4)基部のネジ孔について、本件登録意匠は、基部の長さが雌ネジの長さより長く、ネジ孔が基部を貫通しないのに対して、イ号意匠は、基部の長さが雌ネジの長さと等しく、ネジ孔が基部を貫通する点で相違する。
(イ-5)センターピンについて、本件登録意匠は、センターピンが中実であるのに対して、イ号意匠は、センターピンの上端と下端とにそれぞれ孔を有し、中空である点で相違する。

(6) イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(6-1)本件登録意匠に関する先行周辺公知意匠
本件登録意匠に関する先行周辺公知意匠(以下「公知意匠」という。)は、以下のとおりである。
公知意匠1(甲第4号証)
実全昭59-057887号公報

公知意匠2(甲第5号証の1-2)
ラックスマン株式会社
RCAショートピン LXJ-OT5
ウェブサイトからの抜粋
https://ontomo-shop.com/?pid=107808139
https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/749076.html

公知意匠3(甲第6号証の1-2)
ラックスマン株式会社
RCAショートピン・セット JPT-10
ラックスマン株式会社 カタログ「オーディオアクセサリー総合カタログ」
ウェブサイトからの抜粋
https://www.luxman.co.jp/asset/catalog/accessory_catalog_pl.pdf
https://www.luxman.co.jp/product/jpt-10

公知意匠4(甲第7号証)
株式会社小柳出電気商会
RCA端子ショートピンプラグ
ウェブサイトからの抜粋
https://shop.oyaide.com/products/p-4928.html#main

公知意匠5(甲第8号証)
関口機械販売株式会社
アコースティック・リバイブ ショートピン SIP-8Q
アコースティック・リバイブ カタログ
https://acousticrevive.jp/wp-content/uploads/2020/01/00d8fa2b4da5e3a3986512c05ea209b2.pdf

公知意匠6(甲第9号証)
関口機械販売株式会社
アコースティック・リバイブ リアリティエンハンサー RET-RCA
ウェブサイトからの抜粋
https://acousticrevive.jp/portfolio-item/reality-enhancer/

公知意匠7(甲第9号証)
関口機械販売株式会社
アコースティック・リバイブ リアリティエンハンサー RES-RCA
ウェブサイトからの抜粋
https://acousticrevive.jp/portfolio-item/reality-enhancer/

公知意匠8(甲第10号証)
株式会社オーディオテクニカ
ピンジャックプロテクター AT6063R
ウェブサイトからの抜粋
https://www.audio-technica.co.jp/product/AT6063R/

公知意匠9(甲第11号証)
株式会社オーディオテクニカ
メタルピンジャックプロテクター PG-JP6
ウェブサイトからの抜粋
https://www.audio-technica.co.jp/product/PG-JP6

公知意匠10(甲第12号証)
株式会社小柳出電気商会
電磁波吸収RCAキャップ MWA-RC
ウェブサイトからの抜粋
http://www.oyaide.com/ja/brand/oyaide/emi/mwa-rc

公知意匠11(甲第13号証)
意匠登録第1474573号公報

公知意匠12(甲第14号証)
意匠登録第1512172号公報

公知意匠13(甲第15号証)
意匠登録第1524502号公報

公知意匠14(甲第16号証)
意匠登録第1524503号公報

公知意匠15(甲第17号証)
AudioQuest
XLR-CAPS-OUT
ウェブサイトからの抜粋
https://dm-importaudio.jp/audioquest/lineup/detail2/index1254.html

公知意匠16(甲第18号証)
AudioQuest
XLR-CAPS-IN
ウェブサイトからの抜粋
https://dm-importaudio.jp/audioquest/lineup/detail2/index1253.html

公知意匠17(甲第19号証)
AudioQuest
RCA-CAPS
ウェブサイトからの抜粋
https://dm-importaudio.jp/audioquest/lineup/detail2/index1252.html

公知意匠18(甲第8号証)
関口機械販売株式会社
アコースティック・リバイブ 出力端子用防振プラグ IP-2Q
アコースティック・リバイブ カタログ
https://acousticrevive.jp/wp-content/uploads/2020/01/00d8fa2b4da5e3a3986512c05ea209b2.pdf

公知意匠19(甲第9号証)
関口機械販売株式会社
アコースティック・リバイブ リアリティエンハンサー RET-XLR
ウェブサイトからの抜粋
https://acousticrevive.jp/portfolio-item/reality-enhancer/

公知意匠20(甲第9号証)
関口機械販売株式会社
アコースティック・リバイブ リアリティエンハンサー RES-XLR
ウェブサイトからの抜粋
https://acousticrevive.jp/portfolio-item/reality-enhancer/

(6-2)本件登録意匠の要部
本件登録意匠に係る物品は、センターピンと本体とが着脱可能な保護キャップであり、未使用の音響機器などの入出力端子に被せて使用される。音響機器などに配置される未使用の入出力端子は、そのままにしておくと、塵や埃などが入り込み、音響機器などの寿命を縮める原因となる。また、未使用の入出力端子は、意図しない微細な信号を受信したり、振動を受けることにより、ノイズを発生させる要因となり得る。本件登録意匠に係る物品は、入出力端子への塵や埃などの侵入を防ぐことに加え、入出力端子を電気的にシールドし、入出力端子の振動を抑制することで、ノイズの発生を抑制する機能を有する。

ここで、従来は、入力端子と出力端子の形状などの違いにより、センターピンを有する入力端子用の保護キャップを出力端子に被せることができず、形状の異なる入力端子用の保護キャップと出力端子用の保護キャップとを別々に用意して使い分ける必要があった。

すなわち、入力端子用の保護キャップの場合、前述のノイズの発生を抑制するという目的に照らせば、入力端子を短絡させるセンターピンを有する保護キャップが望ましい。一方で、規格により定められた入力端子と出力端子との形状の相違などにより、センターピンを有する保護キャップを出力端子に被せることはできず、無理に被せると音響機器などを破損させる要因となり得る。したがって、従来は、入力端子と出力端子とで共用できる保護キャップは無く、端子の種類ごと(入力端子用、出力端子用)の保護キャップが製造・販売されていた(甲第4号証ないし甲第19号証参照)。

このような実情を踏まえて、本件判定請求人は、ノイズの発生を抑制するという目的を達成しつつ、入力端子と出力端子のいずれにも適用できる保護キャップを実現することを開発のコンセプトとし、本件登録意匠のデザインを創作したものである。

具体的には、本件登録意匠は、センターピンと本体(基部)とが容易に着脱可能な形態とすることで、入力端子と出力端子のいずれにも適用できる保護キャップを実現した。このセンターピンと本体(基部)とが容易に着脱可能な形態は、基部の平面の中心軸上に形成された雌ネジと、センターピンの下端に形成された雄ネジと、で実現される(甲第3号証参照)。

このように、本件登録意匠の基本的な構成態様である着脱可能なセンターピンを有する点は、正に本件登録意匠の要部であって、ノイズの発生を抑制するという機能上も重要な部分であることとも相俟って、本件登録意匠の形態を、従来には全く見られない極めて斬新なデザインとするものである。その結果、本件登録意匠は、市場において需要者から特徴ある形態として認識されている。

なお、保護キャップは、端子に被せて使用されるものであるので、被覆する対象物に相応した形態を採用することになるが、被覆する対象である入力端子と出力端子の形状は、規格により定まっている。したがって、従来は、保護キャップの基本的な構成態様については新規な創作がほとんどなされてこなかった。このことからも、本件登録意匠の基本的な構成態様の特徴は、公知意匠と比較して際立っている。

また、センターピンを有しない保護キャップであっても、入力端子用として販売されているものもあるが、前述のとおり、ノイズの発生を抑制するという目的に照らせば、入力端子に被せる保護キャップは、入力端子を短絡させるセンターピンを有するものが望ましい。

(6-3)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
ここで、意匠の類否を判断するにあたっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠には無い新規な創作部分の存否を参酌して、意匠に係る物品の取引者・需用者の注意を最も惹きやすい部分を把握し、両意匠がこの部分において構成態様を共通にするか否かを中心にして観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものである(判定2010-600056)。

(6-3-1)本件意匠登録における新規な創作部分
前述のとおり、本件登録意匠に係る物品の分野における公知意匠においては、センターピンを有する保護キャップ、あるいは、センターピンを有しない保護キャップが、ごく一般的に見られる(甲第20号証参照)。しかし、公知意匠においては、センターピンを着脱可能にした態様、並びに、センターピンと基部とがネジで接続される態様は無く、このような態様は新規な創作部分であり、本件登録意匠の特徴である。

(6-3-2)共通点の評価
本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が「レセプタクル保護キャップ」で一致し(共通点ア-1)、その基本的な構成態様を共通にする。つまり、センターピンが着脱可能であると需要者に強く印象付けられる点で共通する(共通点ア-2)。

また、本件登録意匠とイ号意匠とは、センターピンの下端に雄ネジが形成され、基部の平面に雌ネジが形成されることで、容易に着脱可能であるという利便性を考慮した形状である点においても共通する。そのため、両意匠からは、共通した印象がより一層強く生じる(共通点ア-3)。

したがって、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が一致し(共通点ア-1)、形態についての骨格的要素、すなわち、意匠の要部において共通する(共通点ア-2、共通点ア-3)。(共通点ア-2)と(共通点ア-3)とは、この種物品分野においては他に見られず、両意匠の特徴を表すものである。そのため、両意匠は、需要者に対して共通した使用感を与える。すなわち、(共通点ア-2)と(共通点ア-3)とは、両意匠の類否判断に大きな影響を与える。

(6-3-3)相違点の評価
爪部についての(相違点イ-1)に関しては、保護キャップを入出力端子に密着させる機能を有する爪部のスリットの本数の変更は、この種物品分野に限らず、ごく一般的によく知られた手法であって、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である(判定2011-600036)。また、爪部が、略円錐状ではなく略円筒状に形成されることは、公知意匠にも見られるものであって、イ号意匠の特徴とはなり得ない。そのため、(相違点イ-1)の差異は、局所的微差に止まり、前述の共通点に基づく類似性を凌ぐものではない。

基部の滑り止めについての(相違点イ-2)に関しては、基部に、滑り止め用として、水平方向の溝を形成することや、垂直方向の細幅の溝を密に多数形成することは、この種物品において、滑り止めの態様としてごく普通に見受けられる。そのため、(相違点イ-2)の差異は、両意匠の類否判断を左右する要素としては微弱である(判定2005-60022)。

基部の相対的長さについての(相違点イ-3)に関しては、公知意匠からも分かるとおり、この種物品の基部の長さは、適宜選択される。そのため、(相違点イ-3)の差異は、需要者の注意を喚起するものではなく、両意匠の類否判断を左右するほど格別特徴ある相違ではない。

基部のネジ孔についての(相違点イ-4)に関しては、意匠の類否判断は、意匠に係る物品の外観の全体にわたって、その観察する全体的、視覚的な判断である。そのため、(相違点イ-4)の差異は、基部のネジ孔というほとんど目立たない部位における差異であり、需要者はその部位に注目しない。

センターピンについての(相違点イ-5)に関しては、単に孔が有るか無いかだけの相違である。そのため、(相違点イ-5)の差異は、全体から生じる共通した印象に影響を与える程の形状の相違ではなく、両意匠の類否判断を左右する相違にはなり得ない。

(6-3-4)類否判断
両意匠の共通点と相違点とを総合し、意匠全体として検討すると、共通点は、基本的な構成態様をなすものであり、その態様自体が、この種物品分野では今までに無い本件登録意匠の独自の特徴である。そのため、イ号意匠は、本件登録意匠の特徴をそのまま表しているとの共通の印象を需要者に与える。このように、両意匠の共通点は、需要者に共通の美感を起こさせるから、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものといえる。

これに対して(相違点イ-1)ないし(相違点イ-5)は、適宜選択し得る個数や構成比率などに係るものであるが、公知意匠からも分かるとおり、この種物品分野においては、基本的な構成態様を変えずに個数や構成比率などを改変することは常時行われる。そのため、このような改変は、意匠的効果の変更にまでは至らず、需要者の注意を惹かないため、両意匠の類否判断を左右するものではない。

以上のとおり、両意匠の共通点は圧倒的で、類否判断を支配しているのに対し、相違点は微弱である。そのため、両意匠は、需要者に共通の美感を起こさせる。

(7) むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

7 証拠方法
(1) イ号意匠及びその説明書
(2) 意匠登録原簿謄本
(3) 甲第1号証 本件登録意匠公報の写し
(4) 甲第2号証 本件登録意匠における各部の名称を示す図面
(5) 甲第3号証 請求人のホームページの写し(https://www.audio-technica.co.jp/product/AT-RXP06)
(6) 甲第4号証 実全昭59-057887号公報
(7) 甲第5号証の1 AV Watch 「RCAショートピン LXJ-OT5」掲載記事(https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/749076.html)
(8) 甲第5号証の2 ONTOMO Shop 「RCAショートピン LXJ-OT5」販売ページ (https://ontomo-shop.com/?pid=107808139)
(9) 甲第6号証の1 ラックスマン株式会社 2016年5月発行「オーディオアクセサリー総合カタログ」 「RCAショートピン・セット JPT-10」掲載ページ(https://www.luxman.co.jp/asset/catalog/accessory_catalog_pl.pdf)
(10)甲第6号証の2 ラックスマン株式会社のホームページ 「RCAショートピン・セット JPT-10」掲載ページ(https://www.luxman.co.jp/product/jpt-10)
(11)甲第7号証 株式会社小柳出電気商会 オンラインショップ 「RCA端子ショートピンプラグ」販売ページ(https://shop.oyaide.com/products/p-4928.html#main)
(12)甲第8号証 関口機械販売株式会社 アコースティック・リバイブ カタログ 「ショートピン SIP-8Q」「出力端子用防振プラグ IP-2Q」掲載ページ(https://acousticrevive.jp/wp-content/uploads/2020/01/00d8fa2b4da5e3a3986512c05ea209b2.pdf)
(13)甲第9号証 関口機械販売株式会社 アコースティック・リバイブのホームページ 「リアリティエンハンサー RET-RCA」「リアリティエンハンサー RES-RCA」「リアリティエンハンサー RET-XLR」「リアリティエンハンサー RES-XLR」掲載ページ(https://acousticrevive.jp/portfolio-item/reality-enhancer/)
(14)甲第10号証 株式会社オーディオテクニカのホームページ 「ピンジャックプロテクター AT6063R」掲載ページ(https://www.audio-technica.co.jp/product/AT6063R/)
(15)甲第11号証 株式会社オーディオテクニカのホームページ 「メタルピンジャックプロテクター PG-JP6」掲載ページ(https://www.audio-technica.co.jp/product/PG-JP6)
(16)甲第12号証 株式会社小柳出電気商会のホームページ 「電磁波吸収RCAキャップ MWA-RC」掲載ページ(http://www.oyaide.com/ja/brand/oyaide/emi/mwa-rc)
(17)甲第13号証 意匠登録第1474573号公報
(18)甲第14号証 意匠登録第1512172号公報
(19)甲第15号証 意匠登録第1524502号公報
(20)甲第16号証 意匠登録第1524503号公報
(21)甲第17号証 AudioQuestのホームページ 「XLR-CAPS-OUT」掲載ページ(https://dm-importaudio.jp/audioquest/lineup/detail2/index1254.html)
(22)甲第18号証 AudioQuestのホームページ 「XLR-CAPS-IN」掲載ページ(https://dm-importaudio.jp/audioquest/lineup/detail2/index1253.html)
(23)甲第19号証 AudioQuestのホームページ 「RCA-CAPS」掲載ページ(https://dm-importaudio.jp/audioquest/lineup/detail2/index1252.html)
(24)甲第20号証 先行周辺公知意匠一覧

第3 被請求人の答弁
1 答弁の趣旨
イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1610616号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求め、要旨以下のとおり主張した。
(当審注:判定被請求人は、「答弁の趣旨」において、イ号意匠及びその説明書に示す意匠を、登録第1610616号意匠及びこれに類似する意匠との比較の対象としているので、以下、答弁書において「イ号意匠」とある箇所を「イ号意匠及びその説明書に示す意匠」として対比、判断する。)

2 答弁の理由
(1)判定請求書(6-3-1)「本件登録意匠における新規な創作部分」に対する反論
請求人は、「公知意匠においては、センターピンを着脱可能にした態様、並びに、センターピンと基部とがネジで接続される態様は無く、このような態様は新規な創作部分であり、本件登録意匠の特徴である。」(判定請求書第11頁第29行目?第31行目)と主張する。
しかしながら、請求人の主張は誤りである。

「センターピンを着脱可能にした態様、並びに、センターピンと基部とがネジで接続される態様」は、2015年10月24日付(同年11月27日最終更新)のブログ記事(http://audio-no-susume.com/review/rca-shrotpin/、乙第1号証の1及び2)、及び2017年5月26日付のブログ記事(https://community.phileweb.com/mypage/entry/4000/20170526/55860/、乙第2号証)にあるように、本件登録意匠の出願(2018年1月12日)前には既に、White Koala社及びヴィボー社が製造販売する「レセプタクル保護キャップ」で採用されている。
すなわち、「センターピンを着脱可能にした態様、並びに、センターピンと基部とがネジで接続される態様」は、本件登録意匠の出願前には既に公然知られた意匠の形態であり、「本件登録意匠における新規な創作部分」ではない。

(2)判定請求書(6-3-2)「共通点の評価」に対する反論
請求人は、「本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が『レセプタクル保護キャップ』で一致し(共通点ア-1)、その基本的な構成態様を共通にする。つまり、センターピンが着脱可能であると需要者に強く印象付けられる点で共通する(共通点ア-2)。
また、本件登録意匠とイ号意匠とは、センタービンの下端に雄ネジが形成され、基部の平面に雌ネジが形成されることで、容易に着脱可能であるという利便性を考慮した形状である点においても共通する。そのため、両意匠からは、共通した印象がより一層強く生じる(共通点ア-3)。
したがって、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品が一致し(共通点ア-1)、形態についての骨格的要素、すなわち、意匠の要部において共通する(共通点ア-2、共通点ア-3)。(共通点ア-2)と(共通点ア-3)とは、この種物品分野においては他に見られず、両意匠の特徴を表すものである。そのため、両意匠は、需要者に対して共通した使用感を与える。すなわち、(共通点ア-2)と(共通点ア-3)とは、両意匠の類否判断に大きな影響を与える。」(請求書第12頁第3行?第17行)と主張する。
しかしながら、請求人の主張は誤りである。

請求人が(共通点ア-2)と主張する「センターピンが着脱可能である」点、及び(共通点ア-3)と主張する「センタービンの下端に雄ネジが形成され、基部の平面に雌ネジが形成される」点は、上記7(1)で述べたように、いずれも本件登録意匠の出願前には既に公然知られた意匠の形態であり、この種の物品の意匠における形態としてはありふれたものであることから類否判断に及ぼす影響は小さいものである(判定2011-600036)。

(3)判定請求書(6-3-3)「相違点の評価」に対する反論
請求人は、「爪部についての(相違点イ-1)に関しては、保護キャップを入出力端子に密着させる機能を有する爪部のスリットの本数の変更は、この種物品分野に限らず、ごく一般的によく知られた手法であって、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である(判定2011-600036)。また、爪部が、略円錐状ではなく略円筒状に形成されることは、公知意匠にも見られるものであって、イ号意匠の特徴とはなり得ない。そのため、(相違点イ-1)の差異は、局所的微差に止まり、前述の共通点に基づく類似性を凌ぐものではない。
基部の滑り止めについての(相違点イ-2)に関しては、基部に、滑り止め用として、水平方向の溝を形成することや、垂直方向の細幅の溝を密に多数形成することは、この種物品において、滑り止めの態様としてごく普通に見受けられる。そのため、(相違点イ-2)の差異は、両意匠の類否判断を左右する要素としては微弱である(判定2005-60022)。
基部の相対的長さについての(相違点イ-3)に関しては、公知意匠からも分かるとおり、この種物品の基部の長さは、適宜選択される。そのため、相違点イ3の差異は、需要者の注意を喚起するものではなく、両意匠の類否判断を左右するほど格別特徴ある相違ではない。
基部のネジ孔についての(相違点イ-4)に関しては、意匠の類否判断は、意匠に係る物品の外観の全体にわたって、その観察する全体的、視覚的な判断である。そのため、(相違点イ-4)の差異は、基部のネジ孔というほとんど目立たない部位における差異であり、需要者はその部位に注目しない。
センターピンについての(相違点イ-5)に関しては、単に孔が有るか無いかだけの相違である。そのため、(相違点イ-5)の差異に全体から生じる共通した印象に影響を与える程の形状の相違ではなく、意匠の類否判断を左右する相違にはなり得ない。」(判定請求書第12頁第21行目?第13頁第17行目)と主張する。
しかしながら、請求人の主張は誤りである。

a(相違点イ-1)に関して
本件登録意匠では、爪部の一部のみが外部に露出し、その半分以上が基部の内部に埋没しているのに対し、イ号意匠では、爪部が基部の上にあって、全体が外部に露出している点で、両者は相違する(相違点イ-6)。
このような(相違点イ-6)は、需要者には全く異なる印象を与えるものであるから、類否判断に大きな影響を与える。
また、本件登録意匠の爪部は、爪部の半分以上が基部の内部に埋没していることから、基部の内壁に爪部が当たらないようにするため、イ号意匠のように、略円柱形にすることはできず、略円錐状にせざるを得ない。
さらに、本件登録意匠では、爪部を略円錐状にせざるを得ないことから、保護キャップを入出力端子に密着させる機能を発揮させるため、スリットの本数も、イ号意匠のように、4本では足りず、少なくとも6本とせざるを得ない。
そうすると、(相違点イ-6)のみならず、相違点1も類否判断に大きな影響を与える。

b(相違点イ-2)に関して
本件登録意匠では、溝の本数が2本であるのに対し、イ号意匠では数十本であり、本件登録意匠よりも数十倍多くなっている。
本件登録意匠とイ号意匠とでは、溝の本数のみならず、溝が形成されている方向さえも全く相違している。
そして、本件登録意匠とイ号意匠とでは、溝が形成されている方向が全く相違していることから、ともに滑り止め用であるとしても、その機能は全く相違している。
そうすると、(相違点イ-2)は、需要者には全く異なる印象を与えるものであるから、類否判断に大きな影響を与える。

c(相違点イ-3)に関して
本件登録意匠では、爪部よりも基部の方が長いのに対し、イ号意匠では、爪部の方が基部よりも長くなっている。
このような爪部の方が基部よりも長いといった態様は、この種物品分野では今までに無いイ号意匠の独自の特徴である。
そうすると、(相違点イ-3)は、需要者には全く異なる印象を与えるものであるから、類否判断に大きな影響を与える。

d(相違点イ-4)に関して
ネジ孔が貫通しているか否かは、需要者には全く異なる印象を与えるものであるから、(相違点イ-4)は、類否判断に大きな影響を与える。

e(相違点イ-5)に関して
センターピンが中空である態様は、この種物品分野では今までに無いイ号意匠の独自の特徴である。
そうすると、(相違点イ-5)は、需要者には全く異なる印象を与えるものであるから、類否判断に大きな影響を与える。

(4)判定請求書(6-3-4)「類否判断」について
請求人は、「両意匠の共通点と相違点とを総合し、意匠全体として検討すると、共通点は、基本的な構成態様をなすものであり、その態様自体が、この種物品分野では今までに無い本件登録意匠の独自の特徴である。そのため、イ号意匠は、本件登録意匠の特徴をそのまま表しているとの共通の印象を需要者に与える。このように、両意匠の共通点は、需要者に共通の美感を起こさせるから、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものといえる。
これに対して(相違点イ-1)ないし(相違点イ-5)は、適宜選択し得る個数や構成比率などに係るものであるが、公知意匠からも分かるとおり、二の種物品分野においては、基本的な構成態様を変えずに個数や構成比率などを改変することは常時行われる。そのため、このような改変は、意匠的効果の変更にまでは至らず、需要者の注意を惹かないため、両意匠の類否判断を左右するものではない。
以上のとおり、両意匠の共通点は圧倒的で、類否判断を支配しているのに対し、相違点は微弱である。そのため、両意匠は、需要者に共通の美感を起こさせる。」(判定請求書第12頁第21行目?第14頁第4行目)と主張する。
しかしながら、請求人の主張は誤りである。

請求人が両意匠の共通点と主張する「センターピンを着脱可能にした態様、並びに、センターピンと基部とがネジで接続される態様」は、上記7(2)で述べたように、本件登録意匠の出願前には既に公然知られた意匠の形態であり、この種の物品の意匠における形態としてはありふれたものであることから類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
そして、意匠の類否判断は、意匠全体を観察することを大原則としているところ、上記7(3)で述べたように、(相違点イ-1)ないし(相違点イ-6)がいずれも両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものであることからすれば、全体として需要者に異なつた美感を生じさせる非類似のものとするのが相当である(東京高判S58.5.16 昭和56 年(ネ)第3156 号 意匠権民事訴訟事件)。

(5)むすび
よって、イ号意匠及びその説明書に示す意匠は、登録第1610616号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので、答弁の趣旨どおり判定を求める。

8 証拠方法
(1)乙第1号証の1 「【音質向上グッズ】ピンが着脱できるから入出力両方使えて便利!RCAショートピン(White Koala)【レビュー】」http://audio-no-susume.com/review/rca-shrotpin/
(2)乙第1号証の2 「【音質向上グッズ】ピンが着脱できるから入出力両方使えて便利!RCAショートピン(White Koala)【レビュー】」のスクリーンショット
(3)乙第2号証 「入力端子のショートピンは良いね」https://community.phileweb.com/mypage/entry/4000/20170526/55860/

第4 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1610616号)は、その願書及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品を「レセプタクル保護キャップ」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)は、願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである。(請求人が提出した甲第1号証参照(別紙第1参照))。
なお、判定請求書において、「(甲第1号証ないし甲第3号証、「以下「本件登録意匠という。」(判定請求書第2頁第7行目)とあるが、証拠説明書によれば、甲第2号証(別紙第2参照)は、本件登録意匠における各部の名称を立証するために提出した証拠であり、甲第3号証(別紙第3参照)は本件登録意匠に係る商品の内容を立証するために提出した請求人のホームページの写しであるから、当該箇所は、「(甲第1号証、以下「本件登録意匠」という。)」であるとして、以下判断する。

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、「レセプタクル保護キャップ」であり、願書の意匠に係る物品の説明欄の記載によると、「本物品は、レセプタクル保護キャップ本体と着脱可能なセンターピンからなる。本物品は、オーディオ・ビジュアル機器の入出力端子(レセプタクル)に被せることで、埃やゴミなどから入出力端子を保護するとともに、センターピンが装着された状態ではオーディオ・ビジュアル機器の入力端子を短絡させることで入力端子への外来ノイズの侵入を防止する機能を有し、センターピンが取り外された状態ではオーディオ・ビジュアル機器の入力端子や出力端子を電気的にシールドする機能を有する。」とするものである。

(2)形態
ア 全体の構成
本件登録意匠は、レセプタクル保護キャップ本体(以下「本体部」という。)と本体部に着脱可能に螺合してなるセンターピンからなるものであり、本体部は、略有底細長円筒形状の「基部」と、基部上端開口部に嵌合してなる略円錐台筒形状に複数の縦スリットを形成した「爪部」とからなるものであって、個別の形状は、おおよそ以下のとおりである。

イ 本体部について
(ア)基部について
a 全体を、直径と長さの比を約1:3の略有底縦長円筒形状とするものであって、
b 外側周側面には、上端から約1/5の位置と下端から約1/5の位置の2箇所に、周面に沿ってそれぞれ水平の溝を設けて、全体を上段部、中段部及び下段部に3分割してなるものであり、
c 前記bの中段部には、おおよそ等間隔に、中段部の全高にわたる同形同大の垂直面を3つ形成してなるものである。
d そして、A-A断面図及びB-B断面図によれば、上部2箇所の段差には、後記(イ)の爪部を嵌合してなるものである。

(イ)爪部について
a 全体を、略円錐台筒形状とする爪部と、爪部の下部には、中央部に雌ネジを切ってなる略短円柱部を有するものであり、
b 爪部は、上端部から下方に6本の縦スリットを等間隔に配してなるものであり、
c 略短円柱部は、平面視中央に上下方向に貫通した円形孔を形成し、その内周面に雌ネジを形成するものである。

(ウ)センターピンについて
a 全体を、直径と長さの比を約1:6弱とする縦長の略円柱棒状体とするものであって、
b 上端部を半球状とし、下端寄り約1/4弱を占める範囲に雄ネジを形成するものである。

2 イ号意匠について
イ号意匠は、判定請求書と同時に提出されたイ号意匠及び説明書(別紙第4参照)で表れたとおりとしたものである。

(1)意匠に係る物品
イ号意匠の意匠に係る物品は、「レセプタクル保護キャップ」である。

(2)形態
本件登録意匠とイ号意匠(以下、本件登録意匠とイ号意匠を合わせて「両意匠」ともいう。)の形態の対比に際し、イ号意匠の図面の向きを本件登録意匠の図面の向きに合わせて、以下認定する。

ア 全体の構成について
イ号意匠は、本体部と本体部に着脱可能に螺合してなるセンターピンからなるものであり、本体部は、略円盤状の「基部」と、基部上面中央に嵌合してなる略円筒形状に複数の縦スリットを形成した「爪部」からなるものであって、個別の形状は、おおよそ以下のとおりである。

イ 本体部について
(ア)基部について
a 全体を、直径と長さの比を約7.5:1の略円盤状とするものであって、
b 外周側面には、浅い多数の縦溝を施してなるものである。

(イ)爪部について
a 全体を、縦型の略円筒形状とするものであって、
b 上端部から下方に4本の縦スリットを等間隔に配してなるものである。

(ウ)センターピンについて
a 全体を、直径と長さの比を約1:5とする略円筒状の縦長棒状体とするものであって、
b 上端を半球状とし、上端中央部に小円孔を設けてなるものであり、下端寄り約1/7を占める範囲に雄ネジを形成するものである。

3 本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、レセプタクル(音響機器の出入力端子)にかぶせて、音響機器本体への埃やゴミの侵入を防ぐとともに、外来ノイズの侵入を防止する機能を有する「レセプタクル保護キャップ」であるから共通する。

(2)両意匠の形態
ア 共通点
(共通点1)両意匠の全体形状について、ともに本体部と本体部に着脱可能に螺合したセンターピンからなるものである点、
(共通点2)爪部を本体部の上部に配し、当該爪部は、略短円筒形の上端部から下方に複数本の縦スリットを等間隔に配してなるものである点、
(共通点3)センターピンは、上端部を半球状に形成した棒状体であって、下端寄りに雄ネジを配してなるものである点が共通する。

イ 相違点
(相違点1)本体部の基部形状について、本件登録意匠が、全体を、直径と長さの比を約1:3とする略有底縦長円筒形状とするものであるのに対し、イ号意匠は直径と長さの比を約7.5:1とする略円盤状とするものである点、
(相違点2)本体部基部の外周側面形状について、上端から約1/5の位置と下端から約1/5の位置の2箇所に、それぞれ水平の溝を設けて、全体を上段部、中段部及び下段部に3分割してなるものであって、中段部には、おおよそ等間隔に、中段部の全高にわたる同形同大の垂直面を3つ形成してなるものであるのに対し、イ号意匠は、浅い多数の縦溝を施してなるものである点、
(相違点3)本体部爪部について、本願意匠は、全体を略円錐台筒形状とする爪部と、爪部の下部には、中央部に雌ネジを切ってなる略短円柱部を有するものであり、爪部は、上端部から下方に6本の縦スリットを等間隔に配してなるものであり、略短円柱部は、平面視中央に上下方向に貫通した円形孔を形成し、その内周面に雌ネジを形成するものであるのに対し、イ号意匠は、全体を略円筒形状とするものであって、上端部から下方に4本の縦スリットを等間隔に配してなるものである点、
(相違点4)センターピンの形状について、本願意匠が縦長の略円柱棒状体であるのに対し、イ号意匠は縦長の略円筒棒状体であって、上端中央部に小円孔を設けてなる点で相違する。

(3)両意匠の共通点及び相違点の評価
両意匠の意匠に係る物品は、「レセプタクル保護キャップ」であって、音響機器などの未使用の出入力端子に被せて使用するものであり、埃やゴミなどから入出力端子を保護するとともに、センターピンが装着された状態では、入力端子への外来ノイズの侵入を防止する機能を有し、センターピンが取り外された状態ではオーディオ・ビジュアル機器の入力端子や出力端子を電気的にシールドする機能を有するものであるから、この種物品分野の需要者は、音響機器の音質向上に関心のある技術者と、オーディオ機器を購入して使用する者といえる。
そうすると、この種物品分野における需要者は、そのレセプタク保護キャップを用いることによる効果にも関心を持って、全体の形状を観察するものといえるから、そのような観点から、以下、両意匠の類否判断を行う。

ア 両意匠の意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

イ 両意匠の形態の評価
(ア)両意匠の形態の共通点
(共通点1)及び(共通点3)については、両意匠の基本的な構成態様に係るものといえるが、この種物品分野において、これらの態様が、両意匠にのみ共通して見受けられる態様ではなく、被請求人が提出した、乙第1号証の1ないし乙第2号証によれば、これらの態様は本件登録意匠の出願前から見受けられるものであることを勘案すれば、これらの共通点が、両意匠の意匠全体の美感に及ぼす影響は小さい。
(共通点2)については、この種、音響機器のレセプタクルキャップに一般的に用いられる形状であり、請求人及び被請求人が提出した証拠にも見受けられる態様であるから、当該共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。

(イ)両意匠の形態の相違点
(相違点1)及び(相違点2)については、両意匠の全体形状及びその側面態様に係る相違点であるが、その大きさ及び基本的な形状が異なるものであり、当該相違点が両意匠の音響機器への着脱のしやすさや、音響機器からの突出度合いの大小による見映えにも影響を及ぼすものであることを勘案すれば、需要者は、当該相違点について関心を持って観察するといえるから、当該相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
(相違点3)については、どちらもこの種音響機器のレセプタクルキャップに係る分野において、両意匠のみに見受けられる格別な形状ではないから、当該相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(相違点4)については、両意匠は、外観上に大きな違いは認められないものの、本件登録意匠のように略円柱状の縦長棒状体とするものは、この出願前より公然知られるものであるところ、イ号意匠のように略円筒状の縦長中空棒状体とし、先端部に小円孔を設けるものは、イ号意匠にのみ見受けられる態様であること、また、当該センターピンの用途及び機能を考慮すれば、需要者は当該部分について関心を持って観察するといえるから、相違点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。

ウ 両意匠の類否判断
両意匠の形態における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察した場合、両意匠は、前記4(2)イの(相違点1)及び(相違点2)のとおり、全体の具体的な形状に大きな差異があり、また(相違点4)の具体的な形態においても差異を有するものである。
そうすると、両意匠は、センターピンを本体部に着脱自在に螺合する態様が共通することを考慮しても、意匠全体として見た場合には、相違点が相俟って生じる視覚的効果は、共通点のそれを超えて需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

(4)小括
したがって、これらの共通点と相違点を総合して判断すれば、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品は同一であるが、その形態において、需要者に異なる美感を起こさせるものであるから、両意匠は類似しない。

第6 むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。

別掲

判定日 2021-03-08 
出願番号 意願2018-380(D2018-380) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (H1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前畑 さおり 
特許庁審判長 内藤 弘樹
特許庁審判官 江塚 尚弘
木村 恭子
登録日 2018-07-13 
登録番号 意匠登録第1610616号(D1610616) 
代理人 西村 啓一 
代理人 雨宮 康仁 

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