• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    K1
審判    K1
管理番号 1373820 
審判番号 無効2020-880002
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-04-27 
確定日 2021-04-05 
意匠に係る物品 螺子廻し具 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1459615号「螺子廻し具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 事案の概要

本件は,請求人が,被請求人が意匠権者である意匠登録第1459615号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照)についての登録を無効とすることを求める事案である。
本件登録意匠は,平成24年(2012年)1月10日に意匠登録出願(意願2012-1530)されたものであって,審査を経て同年12月14日に意匠権の設定の登録がなされ,平成25年1月21日に意匠公報が発行されたものであって,その後,当審において,以下の手続を経たものである。
令和2年 4月27日付け:審判請求書の提出
令和2年 7月 8日付け:答弁書の提出
令和2年 8月27日付け:審判事件弁駁書の提出
令和2年10月21日付け:書面審理通知書の送付

第2 請求人の主張の概要

1 審判請求書
請求人は,令和2年4月27日付けで審判請求書を提出し,「登録第1459615号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として以下のように主張するとともに,その主張事実を立証するため,証拠方法として甲第1号証から甲第4号証の書証を提出した。

(1)手続の経緯
出願 平成24年 1月10日
登録 平成24年12月14日

(2)意匠登録無効の理由の要点
(2-1)無効理由1
本件登録意匠は,登録第1166502号意匠(以下「引用意匠1」という。別紙第2参照)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(2-2)無効理由2
本件登録意匠は,引用意匠1及び登録第1095286号意匠の十字ねじ用食付刃部分の意匠(以下「引用意匠2」という。別紙第3参照)に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(3)本件意匠登録を無効とすべき理由
(3-1)無効理由1について
ア 本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠登録第1459615号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を「螺子廻し具」とするものであり,その形態は以下のとおりである。
[基本的構成態様]
A 略円筒状の軸の両端に十字ねじ用の食付刃が形成されたヘッド部を備えている。
B 一対の六角瘤状部と一つの周溝とからなるシャンク部が各ヘッド部に隣接して形成されている。
C シャンク部間に中間軸部を備えている。
[具体的態様]
a 各ヘッド部に形成された十字ねじ用の食付刃は,側面視十字状に4枚の羽根が形成され,各羽根の側壁の片面が平坦面として,他面が軸の周方向に向かって次第に湾曲する凹曲面として形成されている。
b 各シャンク部の一対の六角瘤状部は略同じ大きさであり,周溝は正面視凹弧状で六角瘤状部の幅より僅かに細幅である。
c 中間軸部は,ヘッド部の径より僅かに小径である。
d 全体の長さに対する各ヘッド部,各シャンク部,中間軸部の占める割合は,それぞれおよそ1/6,1/6,2/6である。



イ 引用意匠1(登録第1166502号意匠)の説明
引用意匠1は,意匠登録第1166502号(甲第1号証,別紙第2参照)の意匠公報(平成15年3月4日発行)に記載のとおり,意匠に係る物品を「ドライバービット」とするものであり,その形態は以下のとおりである。
[基本的構成態様]
A 略円筒状の軸の両端に十字ねじ用の食付刃が形成されたヘッド部を備えている。
B 一対の六角瘤状部と一つの周溝とからなるシャンク部が各ヘッド部に隣接して形成されている。
C シャンク部間に中間軸部を備えている。
[具体的態様]
a 各ヘッド部に形成された十字ねじ用の食付刃は,側面視十字状に4枚の羽根が形成され,各羽根の側壁は,両面ともに軸の周方向に向かって次第に湾曲する凹曲面として形成されている。
b 各シャンク部の一対の六角瘤状部は略同じ大きさであり,周溝は正面視凹弧状で六角瘤状部の幅より僅かに細幅である。
c 中間軸部は,ヘッド部の径より僅かに小径である。
d 全体の長さに対する各ヘッド部,各シャンク部,中間軸部の占める割合は,それぞれおよそ1/6,1/6,2/6である。



ウ 本件登録意匠と引用意匠1との対比
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「螺子廻し具」であり,引用意匠1の意匠に係る物品は「ドライバービット」であるが,何れも,インパクトドライバー,電動ドライバー,エアドライバー等の電動工具に着脱可能に取り付けて,各種ねじの締め付けや取り外し作業に用いられるものであるから,同一又は類似する物品である。
(イ)形態の共通点及び差異点
本件登録意匠と引用意匠1は,上記基本的構成態様AないしC及び上記具体的態様bないしdにおいて共通する一方,上記具体的態様aにおいてのみ差異がある。
(ウ)形態の共通点及び差異点の評価
本件登録意匠と引用意匠1との形態の共通点のうち,基本的構成態様AないしCは,両意匠の形態の骨格をなす部分であり,この種の物品において,本件登録意匠の出願前に,引用意匠1の他には見られない態様であって,本件登録意匠と引用意匠1とにのみ共通する形態であるから,類否判断に及ぼす影響は大である。
また,具体的態様bないしdにおける共通点は,各部の構成比率に係る共通点であるところ,上記基本的構成態様における共通性に加え,各部の構成比率が共通することにより,プロポーションが共通して両意匠間に強い類似性が看取されるものであるから,類否判断に及ぼす影響は大である。
他方,本件登録意匠と引用意匠1の差異点(具体的態様a)は,両端に形成された十字ねじ用の食付刃の態様に係るものであるところ,食付刃の形状は,物品全体の形態から見れば僅かな範囲におけるものであって目立ちにくいものではあるが,十字ねじを回す際の効果(ねじ溝に対して食い付きがよく回しやすいか等)に影響を及ぼすものであるから,看者の注視する部分であり,この種の物品にあっては,類否判断に際して一定程度の影響を及ぼすものということができる。
(エ)類否判断
上記のとおり,本件登録意匠と引用意匠1とは,意匠に係る物品が同一又は類似し,その形態において,類否判断に及ぼす影響が大きいということができる基本的構成態様AないしC及び具体的態様bないしdが共通しているのに対し,具体的態様aにおいてのみ差異があるにすぎない。そして,具体的態様aに係る十字ねじ用の食付刃の形態が,物品の機能に係る形態として,類否判断に一定程度の影響を及ぼすものであるとしても,両意匠の基本的構成態様及び具体的態様における多くの共通点から生じる美感の共通性を凌駕するものとまではいうことができない。
したがって,本件登録意匠は,引用意匠1と類似するものといわざるを得ない。
(オ)過去の審決例
上記主張は,この種の物品における過去の審決においても認められているところである。
すなわち,請求人が過去に行った意匠登録出願(平成11年意匠登録願第9509号「ドライバービット」に係る拒絶査定不服審判(不服2001-1391,甲第2号証)において,次のように判断されている(下線は請求人による。)。
「両意匠に共通する基本構成は,この種物品の意匠において普通に見られ,両意匠にのみ限られた形態上の特徴を表しているとはいえないとしても,両意匠の形態の大部分を占めるところであり,意匠全体の基調を成すところであって,類否判断を左右する支配的要素といえる。それに,共通点(1)から(3)の各部の構成比率の共通点が相俟って,両意匠に強い類似性をもたらしており,その類否判断及ぼす影響は大きいというべきである。
これに対し,差異点(イ)は,刃先を構成する稜線の差異であって,全体から見れば微細な部分に関するものであるため,使用時の機能的効果に差異があるとしても,視覚的効果における差異は微弱であり,類否に及ぼす影響は微弱といわざるを得ない。
また,(ロ)の切刃の位置関係についても,差異として認識されるものではあるが,全体から見れば未だに部分的な差異に止まり,共通点(1)及び(2)に基づく共通性を凌ぐものではない。
さらに,これらの差異点に係る各態様が相俟って表出する効果を勘案しても,各共通点から惹起される両意匠の類似性を凌ぐ視覚的効果を認めることはできない。以上のとおり,両意匠は意匠に係る物品が共通し,形態においても共通点の奏する効果が差異点の効果を凌駕しているから,両意匠は類似するものといわざるを得ない。」
この審決の判断手法に倣うならば,両端における十字ねじ用の食付刃の形態において差異があるにすぎない本件登録意匠と引用意匠1とにあっても,共通点から惹起される両意匠の類似性が差異点を凌駕するものであるから,両意匠は類似するというべきである。

エ 小括
以上のとおり,本件登録意匠は,引用意匠1に類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(3-2)無効理由2について
仮に,本件登録意匠が引用意匠1に類似しないとしても,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作できたものである。
ア 本件登録意匠と引用意匠1との差異点
本件登録意匠と引用意匠1とは,上記無効理由1で説明したとおり,両端に形成された十字ねじ用の食付刃の具体的態様において,本件登録意匠の食付刃が,十字状に形成された4枚の羽根の各羽根の側壁の片面が平坦面として,他面が周方向に向かって次第に湾曲する凹曲面として形成されているのに対し,引用意匠1の食付刃は,十字状に形成された4枚の各羽根の側壁の両面が周方向に向かって次第に湾曲する凹曲面として形成されている点において差異がある。

イ 本件登録意匠の十字ねじ用食付刃の形態
本件登録意匠の十字ねじ用食付刃の形態,すなわち,十字状に形成された4枚の羽根の各羽根の側壁の片面が平坦面として,他面が周方向に向かって次第に湾曲する凹曲面として形成された態様(本件登録意匠の具体的態様a)は,左端側の食付刃にあっては,意匠登録第1095286号(甲第3号証,別紙第3参照)の意匠公報(平成13年1月9日発行)に掲載された「ドライバービット」に係る意匠の十字ねじ用食付刃部分の形態(引用意匠2)と同一であり,右端側の食付刃にあっては,引用意匠2の食付刃を左右反転させた態様のものであるにすぎない。





ウ 食付刃の形状を変更することはありふれた手法である
「ドライバービット」は,インパクトドライバー等の電動工具に着脱可能に取り付け,先端に形成されたねじ用食付刃をねじの締付駆動部に差し込んで回転させることにより,各種ねじの締め付け作業や取り外し作業を行う用途に用いられる物品であるところ,ドライバービットのねじ用食付刃が差し込まれるねじの締付駆動部の形状は,十字穴,マイナス穴,六角穴など複数種類に及ぶことから,これらに対応すべく,ドライバービットのねじ用食付刃についても,種々の形状のものが本件登録意匠の出願前から提供されており,ねじ用食付刃部分の形状のみが異なるにすぎない態様のもの(ねじ用食付刃部分の形状を変更したもの)も提供されている。また,本件登録意匠のような両頭タイプのドライバービットにおいて,その両端にねじ用食付刃を左右対称に形成することも従来より行われている(甲第4号証)。
そうすると,「ドライバービット」の分野において,公知の両頭タイプのドライバービットの意匠のねじ用食付刃部分を他の公知のドライバービットのねじ用食付刃に変更するとともに,当該変更に際して両端で左右対称に形成することは,ありふれた手法であるといわざるを得ない。

エ 本件登録意匠の創作容易
上記のとおり,「ドライバービット」の分野において,公知の両頭タイプのドライバービットの意匠のねじ用食付刃部分を他の公知のドライバービットのねじ用食付刃に変更するとともに,当該変更に際して両端で左右対称に形成することは,ありふれた手法にすぎないから,引用意匠1のドライバービットの一端側の十字ねじ用食付刃部分を引用意匠2の十字ねじ用食付刃に変更するとともに,他端側の十字ねじ用食付刃部分を引用意匠2の十字ねじ用食付刃を左右反転させたものに変更して本件登録意匠を創作することは,極めて容易である。



オ 小括
以上のとおり,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(4)むすび
本件登録意匠は,引用意匠1と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
仮に本件登録意匠が引用意匠1に類似しないとしても,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(5)証拠方法
・甲第1号証 意匠登録第1166502号公報
・甲第2号証 不服2001-1391審決書
・甲第3号証 意匠登録第1095286号公報
・甲第4号証 株式会社新亀製作所「サンフラッグ総合カタログ」(2001年4月版)40?41頁

2 審判事件弁駁書
請求人は,被請求人の令和2年7月8日付け答弁書に対し,令和2年8月27日付けで審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し,要旨以下のように反論を行っている。

(1)無効理由1に係る答弁に対する反論
(1-1)本件登録意匠および引用意匠1の説明における誤り
被請求人は,審判請求書記載の本件登録意匠ならびに引用意匠1の説明が失当であるとして,答弁書において両意匠の説明を試みている。しかしながら,両意匠は,請求人が審判請求書において説明したとおりの態様のものであり,被請求人による両意匠の説明を受け入れる余地はない。しかも,被請求人による両意匠の説明には,少なくとも以下のとおりの誤りがある。

[本件登録意匠の説明における誤り]
ア テーパー狭径部の開始位置(基本的構成態様B)
本件登録意匠の保持部におけるテーパー狭径部が,「外側六角瘤状部の軸方向中央付近から」テーパー状に傾斜して狭径する旨の説明がなされている。
しかしながら,被請求人の説明によれば,テーパー狭径部は,「外側六角瘤状部」とは別個の部位として説明されているから,「外側六角瘤状部の軸方向中央付近から」ではなく,「外側六角瘤状部の端縁から」テーパー状に傾斜して狭径しているというべきである。

イ 十字ねじ用食付刃の湾曲面側の先端部位の態様(具体的構成態様a)
ヘッド部に形成された十字ねじ用の食付刃の一面が,「軸の周方向に向かって次第に湾曲しつつ先端部位を直線状にした直線-湾曲連続面」となっている旨の説明がなされている。
しかしながら,本件登録意匠の正面図からは,十字ねじ用の食付刃の一面が「軸の周方向に向かって次第に湾曲」していることが看取されるのみであり,本件登録意匠の願書の記載ならびにその他の添付図面にも,湾曲面側の先端部位が直線状であることを理解させる記載は一切ない。そうすると,本件登録意匠の「軸の周方向に向かって次第に湾曲」した食付刃の先端部位が直線状になっていることなど,到底理解することはできない。

ウ 外側六角瘤状部とテーパー狭径部の一体的な態様(具体的構成態様c)
保持部における外側六角瘤状部とテーパー狭径部について,両者が一体的な横倒した「袋ナット型」である旨の説明がなされている。
しかしながら,「袋ナット」は,六角ナットの片面に半球状のキャップを溶着してなるものであるところ(甲第5号証の1ないし3),一般的な袋ナットのキャップ部は凸弧状の曲面で構成されており,また,六角ナットとキャップとの溶着部分に生じた段差によって六角ナット部とキャップ部との間に連続性を看取することもできないから,本件登録意匠の外側六角瘤状部と外側六角瘤状部の端縁から直線的に傾斜するテーパー狭径部の一体的な態様が「袋ナット型」であると看取されることはない。本件登録意匠の外側六角瘤状部とテーパー狭径部の一体的な態様は,あくまで「外側六角瘤状部の軸方向端縁から軸方向中心に狭径する六角ナット型」のものと看取されるに止まるものである。

[引用意匠1の説明における誤り]
ア 外側六角瘤状部と内側六角瘤状部の軸方向長さ(具体的構成態様b)
外側六角瘤状部の軸方向長さが内側六角瘤状部の軸方向長さの約6/5程度であり,内側六角瘤状部よりも長い旨の説明がなされている。
しかしながら,外側六角瘤状部と内側六角瘤状部の軸方向長さは略同一であり,外側六角瘤状部の軸方向長さが内側六角瘤状部の軸方向長さよりも長いものと看取されることはない。

イ 狭径部の軸方向長さ(具体的構成態様c)
狭径部の軸方向長さが外側六角瘤状部の軸方向長さの約1/2である旨の説明がなされている。
しかしながら,狭径部の終点(ヘッド部の径と同じ径となる位置)は,被請求人が指摘する位置よりもヘッド部側にあり,狭径部の軸方向長さは外側六角瘤状部の軸方向長さの約1/1.2である。

ウ 周溝の深さ(具体的構成態様d)
正面視における周溝の湾曲が中間軸部の端縁の延長線上に至るまで凹んでいる旨の説明がなされている。
しかしながら,周溝の湾曲は中間軸部の端縁の延長線上よりも六角瘤状部端縁側の位置までしか凹んでおらず,中間軸部の端縁の延長線上に至るまでは凹んでいない。



(1-2)類否判断に係る主張に対する反論
被請求人による類否判断は,上述したとおりの誤りを含む本件登録意匠および引用意匠1の説明に基づくものであって,その前提において誤りがあるから,理由がない。
被請求人は,本件登録意匠が引用意匠1と類似しないことの根拠として,「保持部」の形態の差異,「ヘッド部」の形態の差異,「ヘッド部」の正逆回転態様の差異を挙げ,このうち,特に,両意匠の「保持部」の形態から生じる美感の差異が類否判断に及ぼす影響が大きい旨主張する。すなわち,本件登録意匠の保持部は,「テーパー狭径部が外側六角瘤状部の軸方向中央付近からテーパー状に傾斜して狭径することで一体的な袋ナット型」で,「狭径部,周溝,中央軸部と六角瘤状部の外径との凹凸の具体的形態」が「緩やか」であることから,「シャープな印象」を生じるのに対し,引用意匠1の保持部は,「外側六角瘤状部の軸方向端縁から軸方向中心に湾曲して狭径する単なる六角ナット型」で,「狭径部,周溝,中央軸部と六角瘤状部の外径との凹凸の具体的形態」が「急激」であるから,「朴訥とした印象」を生じるものであると主張する。
しかしながら,本件登録意匠の保持部における外側六角瘤状部とテーパー狭径部は,上述したように,「外側六角瘤状部の軸方向端縁から軸方向中心に狭径する六角ナット型」と看取されるにすぎない。そして,本件登録意匠及び引用意匠1の保持部における外側六角瘤状部は,いずれも「狭径部」(テーパー部)を介してヘッド部に接続されている点で共通するものであり,この「狭径部」(テーパー部)の形状が,直線状(本件登録意匠)であるか,湾曲状(引用意匠1)であるかという差異があるにすぎない。しかも,両意匠とも,狭径部と外側六角瘤状部の軸方向長さの比率にそれほど大きな差はなく(本件登録意匠は1:1,引用意匠1は1:1.2),テーパー傾斜角についても,本件登録意匠の狭径部が「緩やか」で,引用意匠1の狭径部が「急激」であると明瞭に看取されるものではない。
さらに,両意匠における「狭径部,周溝,中央軸部と六角瘤状部の外径との凹凸の具体的形態」についても,一見して違いが看取されるほど明瞭な差異が認められるものではない。
そうすると,両意匠の保持部から受ける印象は自ずと同様の印象とならざるを得ず,被請求人が主張するような異なる美感が生じるものではない。

また,被請求人は,先行意匠の審査例を複数挙げて,本件登録意匠の属する物品分野における意匠の類否判断にあっては,具体的態様の差異が重視されている旨主張するが,請求人も,具体的形態の差異を無視するものではない。
すなわち,上述のとおり,本件登録意匠と引用意匠1の保持部における具体的態様を対比しても,結局のところ僅かな差異があるにすぎないのであって,美感の差異を生じる程のものではない。そして,両意匠は,いずれもヘッド部を狭径した「スリムビット」に係るものであり,被請求人による左右ヘッド部,左右保持部,中央軸部の構成比率に従っても,本件登録意匠と引用意匠1との間に当該構成比率に大きな差はなく,むしろ,両意匠の全体のプロポーションにおける類似性は極めて高いものである。なお,被請求人が列挙する先行意匠の審査例は,いずれも対比する先行意匠間で看取される各々のプロポーションが大きく異なるものであって,本件登録意匠と引用意匠1との間に看取されるプロポーションの類似性と同程度の類似性が看取されるものではなく,本件類否判断の参考になるものではない。
加えて,本件登録意匠の左側ヘッド部の食付刃形状は,本件登録意匠の出願日前に公知となっている引用意匠2のヘッド部の食付刃形状と同一であるから,本件登録意匠の左側ヘッド部の食付刃形状自体に創作性は認められない。そして,本件登録意匠の右側ヘッド部の食付刃形状は,逆回転時のカムアウト低減に対応することを意図していたとしても,形態そのものは左側ヘッド部の食付刃形状を正面視において左右反転させたにすぎないから,右側ヘッド部の食付刃形状自体の創作性も低いといわざるを得ない。そうすると,本件登録意匠と引用意匠1との類否判断に際し,左右ヘッド部の食付刃の形態は,重視されるべきではない。
以上よりすれば,両意匠の具体的態様における差異を考慮しても,本件登録意匠と引用意匠1とは,類似するといわざるを得ない。

(1-3)小括
以上のとおりであるから,無効理由1に係る被請求人の答弁には理由がない。

(2)無効理由2に係る答弁に対する反論
被請求人は,(i)本件登録意匠と引用意匠1の各保持部における「狭径部」の形状の差異,(ii)本件登録意匠と引用意匠2の各ヘッド部の「湾曲面側先端部位」の形状の差異,(iii)引用意匠2のヘッド部を左右反転しても本件登録意匠のヘッド部とはならないこと,を理由として,本件登録意匠が引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作できたものではないと主張する。
しかしながら,かかる主張には理由がない。

(2-1)本件登録意匠と引用意匠1の各保持部における狭径部の差異について
本件登録意匠及び引用意匠1の各保持部における「狭径部」の形状の差異については,上記(1)において述べたとおりであるが,本件登録意匠及び引用意匠1の各保持部における「狭径部」は,いずれも外側六角瘤状部とヘッド部との間に介在し,外側六角瘤状部とヘッド部とを傾斜面で連続的に接続する部位であって,かかる傾斜面が,直線状(本件登録意匠)であるか,湾曲状(引用意匠1)であるかという差異があるにすぎない。しかも,両意匠ともに,狭径部と外側六角瘤状部の軸方向長さの比率に大きな差はなく(本件登録意匠は1:1,引用意匠1は1:1.2),傾斜角についても,僅かな幅にすぎない狭径部において,本件登録意匠の狭径部が「緩やか」で,引用意匠1の狭径部が「急激」であると明瞭に看取されるものではない。
そうすると,本件登録意匠と引用意匠1の各保持部における狭径部は,いずれも六角瘤状部とヘッド部とを連続的に接続するためのありふれた造形処理と理解されるにすぎないのであって,両意匠の各保持部における狭径部の形状に上記のような差異があるとしても,かかる差異は軽微な変更にすぎないと評価できるものである。

(2-2)本件登録意匠と引用意匠2の各ヘッド部の湾曲面側先端部位の形状の差異について
被請求人は,本件登録意匠のヘッド部の湾曲面の先端部位は「直線状」であるのに対し,引用意匠2のヘッド部の湾曲面は先端部位も含めて全体的に「湾曲」しているなどと主張する。
しかしながら,本件登録意匠のヘッド部における十字ねじ用食付刃の湾曲面側先端部位が「直線状」であることが本件登録意匠の願書の記載および添付図面からは理解できないことは,(1)(1-1)イにおいて述べたとおりである。仮に,本件登録意匠のヘッド部における十字ねじ用食付刃の湾曲面側先端部位が「直線状」であったとしても,本件登録意匠の左側ヘッド部における十字ねじ用食付刃の形状が引用意匠2のヘッド部における十字ねじ用食付刃の形状と同一であることは,図面上明らかであるから,本件登録意匠の左側ヘッド部における十字ねじ用食付刃の湾曲面側先端部位の形状が「直線状」であるならば,引用意匠2のヘッド部における十字ねじ用食付刃の湾曲面側先端部位も「直線状」であるといわなければならない。
なお,被請求人は,請求人が過去に製造販売していた「鬼ビット」の十字ねじ用食付刃の湾曲面側の先端部位が「直線状」ではなかったことから,逆回転のカムアウト低減が実現できず,当該「鬼ビット」に係る意匠権の年金納付を断念し,販売を停止したなどと主張するが,「鬼ビット」(乙第10号証)の仕様確認図(1999年5月12日作成)には,十字ねじ用食付刃の湾曲面側の先端部位が「直線状」であることが明記されており(甲第6号証),「鬼ビット」の十字ねじ用食付刃の湾曲面側の先端部位も,実際には「直線状」であることが確認できる。いずれにせよ,本件登録意匠の左側ヘッド部と引用意匠2のヘッド部とは,願書の記載ならびに添付図面からは形態上の差異が看取できないのであるから,十字ねじ用食付刃の湾曲面側先端部位が「直線状」であるか否かを主張したところで何ら意味がない。両意匠の願書の記載ならびに添付図面から理解される十字ねじ用食付刃の形状が同一であるという事実には変わりがないのである。

(2-3)引用意匠2のヘッド部を左右反転することについて
被請求人は,引用意匠2のヘッド部を左右反転させることについて,一般的な両頭ビットの場合には,同一方向に回転させるヘッド部を左右両端に配置することから,左側ヘッド部と右側ヘッド部とでは,上下が逆になった状態で配置されるのが通常である旨説明する。確かに,両頭ビットの左右両端に,同一方向に回転させることを意図して同じ形状のヘッド部を配置する場合には,左右ヘッド部は正面視において左右反転した上で上下が反転した態様となることは請求人も否定しない。
しかしながら,両頭ビットには,同一方向に回転させるヘッド部を左右両端に配置するものだけでなく,互いに逆方向に回転させるヘッド部を左右両端に配置するものも従来より存在する(甲第7号証,別紙第4参照)。そして,正回転時のねじの締め付け作業に適した形状とした一端側のヘッド部を,他端側において逆回転による取り外し作業に適したヘッド部としようとすれば,締め付け作業に適した形状とした一端側のヘッド部を単に左右反転させた態様とすればよいことは,当業者であれば極めて容易に考えられることであって,通常の造形手法に則ったものというより他ない。この点,本件登録意匠の出願日近辺の当業者における創作水準は,例えば,インパクトドライバーと同じく回転電動工具である電動ドリルに用いられるドリルバービットにおいて,両端に形成される螺旋刃を正回転用と逆回転用とで反転させた態様のものが販売されている例があることからも推認することができる(甲第8号証の1,別紙第5参照,及び甲第8号証の2,別紙第6参照)。
また,被請求人は,引用意匠2に係る物品はスリムビットではないから,スリムビットである引用意匠1のヘッド部を引用意匠2のヘッド部に置換することはないなどとも主張するが,引用意匠1,2に係る物品はともに「ドライバービット」であり,そのヘッド部は,ねじ頭部に形成された十字穴などの工具穴に差し込んでねじ等を回転させるという機能及び用途を同じくするものであるから,引用意匠2のヘッド部を引用意匠1のヘッド部と置換することに何ら困難性はない。

(2-4)小括
以上のとおりであるから,無効理由2に係る被請求人の答弁には理由がない。

(3)むすび
以上のとおり,無効理由1及び2に係る被請求人の答弁には何れも理由がないから,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号又は同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(4)証拠方法
・甲第5号証の1 宇都宮螺子株式会社HPにおける六角袋ナットの説明ページ
・甲第5号証の2 株式会社平井鉄工所HPにおける袋ナットの説明ページ
・甲第5号証の3 株式会社タケネHPにおける袋ナットの説明ページ
・甲第6号証 「鬼ビット」の仕様確認図(近江精機株式会社,1999年5月12日作成)
・甲第7号証 インターネットショッピングサイト「Amazon」における「アネックス(ANEX)なめたネジはずしビット(ANH23)」の紹介ページの抜粋
・甲第8号証の1 「アイクス・オンラインショップ」における「1/4”ドリルバービット(正転&逆転ドリル)」の紹介ページ
・甲第8号証の2 「アイクス・オンラインショップ」における「1/4”ドリルバービット(正転&逆転ドリル)」の紹介記事に掲載された動画の一部(再生時間6分22秒?24秒付近)のスクリーンショット画像

第3 被請求人の答弁及び理由

被請求人は,令和2年7月8日付けで答弁書を提出し,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由として以下のように主張するとともに,その主張事実を立証するため,証拠方法として乙第1号証から乙第11号証の書証を提出した。

1 理由
(1)無効理由1
ア はじめに
被請求人を意匠権者とする登録第1459615号(本件登録意匠)は,登録第1166502号(引用意匠1)と非類似であって,意匠法第3条第1項第3号を理由とする同法第48条第1項第1号の無効理由を有しない。

イ 本件登録意匠の説明
審判請求書記載の本件登録意匠の説明は失当である。引用意匠1との相違点を示すにあたり,以下のとおり本件登録意匠の説明をする。
[基本的構成態様]
A 正面視において,略円筒状の中間軸部の両端に,保持部を設け,各々の保持部の外方に上側を平坦部分とし,下側を湾曲部分とした正逆カムアウト低減型十字ねじ用の食付刃が形成されたヘッド部を配置している。
B 保持部は,中間軸部から軸方向外側に向けて,軸径から広径する広径部,内側六角瘤状部,内側に凸となる湾曲状の周溝,外側六角瘤状部,テーパー狭径部を有し,テーパー狭径部が外側六角瘤状部の軸方向中央付近からテーパー状に傾斜して狭径する。
C 正面視において,両端のヘッド部は,上下部分(平坦部分と湾曲部分)が相違するヘッド部に対し,他方端のヘッド部は一方端のヘッド部の上下部分と同じ上下部分となるヘッド部を備えている。

[具体的構成態様]
a ヘッド部に形成された十字ねじ用の食付刃は,側面視十字状に4枚の羽根が形成され,正面視において先端部位を直線状にした平坦面と軸の周方向に向かって次第に湾曲しつつ先端部位を直線状にした直線-湾曲連続面が形成されている。
b 保持部を構成する内側六角瘤状部,外側六角瘤状部の軸方向長さは,外側六角瘤状部が内側六角瘤状部の約4/5程度であり,内側六角瘤状部よりも短い。
c 内側六角瘤状部は軸方向両側縁から広径部と周溝に連続する横倒しした六角ナット型であるのに対し,外側六角瘤状部はテーパー狭径部の傾斜面が外側六角瘤状部の軸方向中央付近のやや外方からヘッド部に至るまで直線状に形成されることで両者が一体的な横倒しした袋ナット型である。テーパー狭径部の軸方向長さは外側六角瘤状部の軸方向長さと略同一である。
d 正面視における保持部の周溝の湾曲は中間軸部と内側六角瘤状部及び外側六角瘤状部との端縁との中間位置に至るまで凹んでいる。
e 軸方向長さに対するヘッド部(左側),保持部(左側),中央軸部,保持部(右側),ヘッド部(右側)の比率は,1対1.7対1.7対1.7対1である。

ウ 引用意匠1の説明
審判請求書記載の引用意匠1の説明は失当である。本件登録意匠との相違点を示すにあたり,以下のとおり引用意匠1の説明をする。
[基本的構成態様]
A 正面視において,略円筒状の中間軸部の両端に,保持部を設け,各々の保持部の外方に上側及び下側を湾曲部分とした十字ねじ用の食付刃が形成されたヘッド部を配置している。
B 保持部は,中間軸部から軸方向外側に向けて,軸径から広径する広径部,内側六角瘤状部,内側に凸となる湾曲状の周溝,外側六角瘤状部を有し,外側六角瘤状部の軸方向端縁から軸中心方向に湾曲した狭径部を有する。
C 正面視において,両端のヘッド部は,上側及び下側(湾曲部分と湾曲部分)が同じヘッド部であり,他方端のヘッド部は一方端のヘッド部と上下部分を反転させたヘッド部を備えている。

[具体的構成態様]
a ヘッド部に形成された十字ねじ用の食付刃は,側面視十字状に4枚の羽根が形成され,正面視において先端部位を含めて先端から互いに軸の周方向に向かって次第に湾曲する2つの湾曲面が形成されている。
b 保持部を構成する内側六角瘤状部,外側六角瘤状部の軸方向長さは,外側六角瘤状部内側六角瘤状部の約6/5程度であり,内側六角瘤状部よりも長い。
c 内側六角瘤状部は軸方向両側縁から広径部と周溝に連続する横倒しした六角ナット側であり,外側六角瘤状部も軸方向両側縁から周溝と狭径部に連続する横倒しした六角ナット側である。狭径部の軸方向長さは,外側六角瘤状部の軸方向長さの約1/2である。
d 正面視における周溝の湾曲は中間軸部の端縁の延長線上に至るまで凹んでいる。
e 軸方向長さに対するヘッド部(左側),保持部(左側),中央軸部,保持部(右側),ヘッド部(右側)の比率は,1対1.5対1.5対1.5対1である。

エ 審判請求書記載の基本的構成態様,具体的構成態様に対する主張
請求人が主張する審判請求書記載の構成態様は,いずれも本件登録意匠及び引用意匠を正確に示すものではない。
すなわち,本件登録意匠の保持部が外側六角瘤状部からテーパー狭径部への一体的形態を無視し,ヘッド部の形状,左右のヘッド部の上下部分位置関係についても無視したものである。これらの形態の違いは一見して引用意匠1との相違が明らかである。
各部分の名称は,略同一ヵ所を示すものは同じ名称を用いているが,「保持部」と「シャンク部」は特定する範囲を異にするために名称を変更している。すなわち,被請求人は一対の六角瘤状部と広径部とテーパー狭径部とを含めた部分を特徴として説明するため「保持部」とし,請求人が一対の六角瘤状部と周溝のみを「シャンク部」と称している。

オ 参考先行意匠の存在
請求人は,甲2・審決を提出しているが失当である。特に近年の参考先行意匠の以下の登録例を参照すると,本件物品の各構成における具体的な形態の相違点により登録要件(非類似かつ創作非容易性)が認定されている。

(あ)参考先行意匠1(乙第1号証 意匠登録919526号の類似の1)
参考先行意匠1として,引用意匠1の出願日(2002.1.18)より前の1995年2月17日に公報が発行された登録例を示す(乙1)。乙1・参考先行意匠1は,正面視において,中央軸部の両側に内側六角瘤状部,外側六角瘤状部を有し,その外方にヘッド部を有している。


請求人は,審判請求書(3)(3-1)ウ(ウ)において,請求人特定の基本的構成態様(中間軸,一対の六角瘤状部を有するシャンク部,ヘッド部)が引用意匠1より前には表れておらず,類否判断に多大な影響を与えると主張するが,極めて失当である。
引用意匠1は,参考先行意匠1がありながら審査を経て登録に至ったものである。引用意匠1はヘッド部の具体的構成,外側瘤状部が内側瘤状部より軸方向長さが若干長い等の保持部の具体的形態から,参考先行意匠1とは美観を共通せずに非類似,創作非容易との判断がなされたものである。
上記参考先行意匠1の存在を考慮すれば,引用意匠1の類似範囲も自ずと広いものとなり得ず,その美観は上記ヘッド部,外側瘤状部の軸方向長さ等の具体的形態に留まる。

(い)参考先行意匠2(乙第2号証 意匠登録1121307号)
参考先行意匠2として,引用意匠1の出願日(2002.1.18)より前の2001年9月17日に公報が発行されている登録例を示す(乙2)。乙2・参考先行意匠2は,正面視において,引用意匠1のヘッド部と近似した形態を有しているところ,引用意匠1との違いは円筒状の中央軸部ではなく,中央にも六角瘤状部が形成されている点である。乙2と引用意匠1との双方が登録に至っていることからすると,両者は非類似であり,創作非容易性が認められたことに他ならない。


引用意匠1と乙2・参考先行意匠2との登録例との関係からすると,中央軸部ではなく,両側の内側瘤状部間にも同様に六角ナット状の中央六角瘤状部の存在,外側瘤状部から急激に湾曲した狭径部を有するスリムビット型にした具体的形態において,両意匠に接した者が異なる美観を受けることを示したものである。
このように,引用意匠1と乙2・参考先行意匠2との関係を考慮すると,より具体的構成により類否判断がなされているだけでなく,引用意匠1の類似範囲も限定的であることが明白である。

(う)参考先行意匠3,4(乙第3号証 意匠登録第1084684号,及び乙第4号証 意匠登録第1086132号)
参考先行意匠3,4として,引用意匠1の出願日(2002.1.18)より前に公報が発行されている登録例を示す(乙3,4)。乙3・参考先行意匠3は2000年9月11日に,乙4・参考先行意匠4は2000年9月25日に公報が発行されている。


双方の参考先行意匠3,4とも,六角瘤状部とビット部との間に,スリムビットとなる狭径部を有するものである。これらの狭径部は六角瘤状部のビット側端から急激に傾斜した形態が表れている。なお,このスリムビットと呼ばれるものは両端にヘッド部を有するビットにおいて使用時に刃先やネジ頭(当審注:以下「ねじ頭」に統一して記載する。)を見やすくするために,ヘッド部近くから狭径するものである(乙9)。なお,ヘッド部から相当程度の長さの軸部を有している甲3・引用意匠2はスリムビットではない。
後述する本件登録意匠のテーパー狭径部のような外側六角瘤状部の軸方向中央付近からなだらかに傾斜し,ビット部の食付刃の基端付近にまで至る一体的な袋ナット型の形態に関する先行意匠は存在していない。

(え)参考先行意匠5,6(乙第5号証 意匠登録第319930号,及び乙第6号証 意匠登録第919526号)
参考先行意匠5,6として乙5,乙6を示す。乙5・参考先行意匠5と乙6・参考先行意匠6は,正面視において中央軸部の両端に六角瘤状部を有し,周溝を経て両側にヘッド部を有する点において共通している。乙5・参考先行意匠5は昭和46年(1971年)1月13日に意匠公報が発行され,その後に乙6・参考先行意匠6が平成5年(1993年)7月23日に出願され,登録に至っている。


上記からすると,乙5・参考先行意匠5に対し,乙6・参考先行意匠6に係る意匠は非類似であり,創作非容易性が認められたことに他ならない。中央軸部,六角瘤状部,周溝,ヘッド部が両端に配置された基本的形態を共通しているものの,六角瘤状部の軸方向長さの相違,中央軸部の軸径,ヘッド部の具体的形態の相違を鑑みて,両意匠に接した者が異なる美観を受けたことを示すものに他ならない。

(お)参考先行意匠7,8(乙第7号証 意匠登録第1085307号,及び乙第8号証 意匠登録第1092391号)
参考先行意匠7,8として乙7,乙8を示す。乙7・参考先行意匠7と乙8・参考先行意匠8とは,正面視において中央軸部の両端に六角瘤状部を有し,周溝を経て両側にヘッド部を有する点において共通しているが,中央の円柱体の両側に若干厚みの薄い円柱体が形成されている点で異なっている。


参考先行意匠7,8に係る意匠権は,いずれも請求人の親会社である株式会社タジマツールが平成11年(1990年)4月14日に出願したものであり,関連意匠ではなく,双方とも独立した意匠権として成立していることから非類似と判断されたものである。
中央に円柱体を配置した中央軸部,六角瘤状部,周溝,ヘッド部が両端に配置された基本的形態を共通しているものの,単に中央軸部の中央円柱体の両側に厚みの薄い円柱体が配置された具体的形態の相違を鑑みて,両意匠に接した者が異なる美観を受けたことを示すものに他ならない。

カ 対比
(ア)意匠に係る物品
請求人の主張を認める。

(イ)形態の共通点及び差異点
上記のとおり,基本的構成態様AないしC,具体的構成態様aないしeのいずれも相違する。
数多くの相違点が存在するが,特に,以下の相違点について主張する。
[相違点]
(i)正面視において,本件登録意匠の保持部は,テーパー狭径部が外側六角瘤状部の軸方向中央付近からテーパー状に傾斜して狭径することで一体的な袋ナット型であるのに対し,引用意匠1の保持部は外側六角瘤状部の軸方向端縁から軸中心方向に湾曲して狭径する単なる六角ナット型であること,及び,狭径部,周溝,中央軸部と六角瘤状部の外径との凹凸の具体的形態が本件登録意匠は緩やかなものであるに対し,引用意匠1は急激な形態であること(B,b,c,d,e)
(ii)正面視において,本件登録意匠はヘッド部の上下一方に平坦部分,他方に湾曲部分が形成されているが,引用意匠1は上側及び下側をいずれも湾曲部分とし,カムアウト低減型の先端部位に直線面が形成されていないこと(A,a)
(iii)正面視において,本件登録意匠は左側ヘッド部の上側を平坦部分,下側を湾曲部分とし,右側ヘッド部の上側も平坦部分,下側を湾曲部分とするように上下部分を同じくしているが,引用意匠1は単に上側と下側が同一形状のヘッド部を単に右側に配置したこと(C,f)

(ウ)差異点についての評価,類否の主張
(あ-1)保持部の形態の相違(総論)
本件登録意匠は,外側六角瘤状部の軸方向中央付近からテーパー状に傾斜してなだらかに狭径するテーパー狭径部を形成することで横倒しした袋ナット状の形態をしているが,引用意匠1は外側六角瘤状部の軸方向端縁から軸中心方向に湾曲して狭径した急激な狭径部としているため外側六角瘤状部は内側六角瘤状部と同じく横倒しした六角ナット状の形態である。
また,その他の具体的形態となる周溝の凹みやテーパー狭径部(狭径部)の外側六角瘤状部に対する長さからしても,本件登録意匠と引用意匠1との保持部は異なる美観を需要者に生じさせるものである。
下に本件登録意匠と引用意匠1の正面図を対比する。


上記形態の違いは,正面視においても明らかであるが,参考資料として以下の保持部とヘッド部のみの拡大図及び当該部分の参考斜視図を示す(破線は稜線を示すものである)。


(あ-2)本件登録意匠の保持部の形態と使用者が受ける美観
本件登録意匠の保持部は,正面視において,外側六角瘤状部の軸方向中央付近からテーパー状に傾斜するテーパー狭径部を有する。テーパー傾斜面の上端が外側六角瘤状部の中央付近やや外側から開始され,テーパー傾斜面の下端がヘッド部の食付刃後端の近くに至る。テーパー傾斜面の軸方向長さは外側六角瘤状部の軸方向長さを略同一と比較的長いため傾斜角度も比較的緩やかとなる。さらに外側六角瘤状部よりも内側六角瘤状部の軸方向長さが長く,周溝の凹みが六角瘤状部の外径と中間軸部の外径の中間付近でしかなく比較的浅い。
上記形態を有する本件登録意匠の保持部は,六角ナット型の内側六角瘤状部とテーパー狭径部と一体的となる袋ナット型の外側六角瘤状部であり,内側六角瘤状部より外側六角瘤状部の軸方向長さも短く,周溝の凹みが比較的浅く,テーパー狭径部のテーパー傾斜面の下端と同径のヘッド部を延出し,比較的緩やかな角度の同径斜面の下端付近にヘッド部の食付刃の基端が位置するまでに延長されている。
そのため,本件登録意匠のテーパー狭径部を含む保持部は,本件登録意匠に接する使用者に,ヘッド部に向かうに従って狭径したシャープな印象を生じさせる形態である。
また,本件登録意匠において保持部は両側に存在し,軸方向長さに対するヘッド部(左側),保持部(左側),中央軸部,保持部(右側),ヘッド部(右側)の比率は,1対1.7対1.7対1.7対1であるから,軸方向全体に対して保持部の比率は3.4/7.1と,約1/2となる。

(あ-3)引用意匠1の狭径部の形態と使用者が受ける美観
引用意匠1の狭径部は,内側六角瘤状部と同じ横倒しした六角ナット型の外側六角瘤状部の外側端から急激な曲部を描いて狭径しながら延出したものである。
正面視において,曲部となる狭径部の上端が外側六角瘤状部の外側端から開始され,下端はヘッド部の食付刃後端よりも外側六角瘤状部に近い形状である。狭径部の軸方向長さは外側六角瘤状部の軸方向長さの約1/2と比較的短いため,狭径部の湾曲も急勾配となる。さらに内側六角瘤状部よりも外側六角瘤状部の軸方向長さが長く,周溝の凹みが中間軸部の外径の延長線上に至るまで凹んでいる。
上記形態を有する引用意匠1は,六角ナット型の内側六角瘤状部と外側六角瘤状部とを有し,外側六角瘤状部の外端から湾曲して急激に狭径された狭径部を形成する。外側六角瘤状部は内側六角瘤状部よりも軸方向長さが長く,内側六角瘤状部と外側六角瘤状部との間の周溝の凹みは急激に凹んでいる。
そのため,引用意匠1の狭径部は,外縁が明瞭となった外側及び内側の六角ナット状の六角瘤状部が存在感をもち,狭径部及び周溝の凹みが急激であることから,本件登録意匠に接する使用者に,凹凸が明瞭に表れる朴訥な印象を生じさせる形態である。
なお,引用意匠1において保持部は両側に存在し,軸方向長さに対するヘッド部(左側),保持部(左側),中央軸部,保持部(右側),ヘッド部(右側)の比率は,1対1.5対1.5対1.5対1であるから,軸方向全体に対して保持部の比率は3/6.5となり,1/2より低い。

(あ-3)(当審注:「(あ-4)」の誤りであると認められる。)本件登録意匠と引用意匠1との保持部の評価
上記のとおり,ヘッド部に向かうに従って徐々に狭まれていくシャープな印象を有する本件登録意匠と,六角瘤状部の外縁が明確で凹凸が明瞭に表れる朴訥とした印象を有する引用意匠1とは,使用者にして異なる美観を生じさせるものである。
しかも,本件登録意匠及び引用意匠1において,保持部は両端に形成されており,軸方向全体に占める保持部の割合は概ね1/2であって,意匠全体に生じる美観の多くを形成している。
また,両端ビットにおいてヘッド部を狭径することは“スリムビット”と呼ばれ,刃先・ねじ頭を見やすいようにヘッド部の基端から狭めたもので,需要者に重視されている部位である(乙9)。当該保持部は需要者の視点からすると意匠的に重視される部位である。
よって,保持部の具体的形態からすると,本件登録意匠と,引用意匠1とは使用者に別個の美観を生じさせる特徴的な相違点を有する。

(い-1)ヘッド部の形態の相違
本件登録意匠は,正面視において,ヘッド部が平坦面に係る「平坦部分」と湾曲面に係る「湾曲部分」を有するに対し,引用意匠1はヘッド部が湾曲面を上下に配した2つの「湾曲部分」を有するものであって,その具体的形態から美観が共通しない。
本件登録意匠と引用意匠1とのヘッド部の形態の違いは,上記の違いに留まらず,機能的なカムアウト低減型の食付刃となっており,需要者が特に重視する形態であるため(乙9),以下のとおり詳細に説明する。

(い-2)本件登録意匠及び引用意匠1のヘッド部の詳細な形態の説明
本件登録意匠は,ヘッド部が平坦面に係る「平坦部分」と湾曲面に係る「湾曲部分」を有するところ,正面視において,「湾曲部分」の先端部位(ねじ頭に挿入される部位)が直線状となっている。
一般的にネジ(当審注:以下「ねじ」に統一して記載する。)を回転させるときに用いる部分は,正面視において上部分(本件登録意匠では平坦部分)の溝に力がかかり,逆回転において下部分(本件登録意匠では湾曲部分)の溝に力がかかる。本件登録意匠の左側ヘッド部では,上部分である「平坦部分」がヘッド部による正回転を行う場合に,ヘッド部がねじ頭から抜けるカムアウト現象(乙9)が生じないように,平坦面を“閉じる”ように正面視で直線状に形成している。
一方,上部分の「平坦面」に加え下部分も同じく「平坦面」とすると,羽の肉厚が足りず強度不足となる。
そこで,本件登録意匠は「湾曲部分」としつつねじ頭に挿入される先端部位のみを直線状にした“閉じた”状態とすることにより,逆回転のカムアウト現象が生じないようにしている。
一方,引用意匠1のヘッド部は,上下に湾曲面からなる「湾曲部分」を形成しているところ,各々の「湾曲部分」は先端部位を含んで全体が湾曲した状態である。
よって,引用意匠1のヘッド部は,単に上下に「湾曲部分」を形成しただけであり,使用者が重視するカムアウト低減型の食付刃としていないものである。

(い-3)当業者がカムアウト低減型ヘッド部に着目していること
上記に示す「湾曲部分」の先端部位が逆回転カムアウト低減型になっていることは,意匠全体からすると比較的細かな部位である。しかし,乙9に示すように,本物品の需要者,使用者からすると,具体的機能を伴うヘッド部の形態に着目することが多く,需要者の注意を惹き易い部分となる。
また,実際に請求人の親会社であるタジマツール社は,従前カムアウト低減型のヘッド部に着目し,参考先行意匠7,8(乙7,8)に係る意匠登録出願を行い,「鬼ビット」の名称で製造,販売していた(乙10)。しかし,当該「鬼ビット」は湾曲部分の先端部位が直線状の“閉じた”形態となっておらず,逆回転のカムアウト低減が達成できず,販売を停止し,上記意匠権の年金も納付を継続しなかった。
しかし,被請求人が本件登録意匠による逆回転のカムアウト低減型のヘッド部を開発したところ,請求人は被請求人製品のヘッド部の形態を模倣した「凄先ビット」を販売した(乙11)。本件審判は,被請求人が請求人に模倣行為に関する通知をしたために,請求人が対抗措置で行ったものである。
ヘッド部の食付刃の先端部位の形態は上記のとおり意匠全体からすると,細かな部位である。しかし,請求人が従前商品の「鬼ビット」から商品名を「凄先ビット」と変更してまで新商品として販売するなど,当業者は当該ヘッド部の食付刃の先端部位の形態に着目している。
この事情を踏まえると,細かな部分であっても当業者が特に注目する部位については意匠的特徴として判断すべきである。

(う)ヘッド部の正逆回転態様の相違
正面視において,本件登録意匠は,上下部分の異なるヘッド部が左右に配され,逆回転用のヘッドが設けられている。具体的には,左側ヘッド部の上部分(平坦部分)と右側ヘッド部の上部分(平坦部分)が一致し,左側ヘッドの下部分(湾曲部分)と右側ヘッド部の下部分(湾曲部分)とが一致する。引用意匠1は上下部分を同じ湾曲部分とするヘッド部を,右側ヘッド部に設けたに過ぎない。
引用意匠1のような,両端にヘッド部を備えたビットにおいて,一方のヘッド部を単に左右に付け替えたものは後述の参考意匠にあるとおり,複数存在する。
しかし,本件登録意匠のように上下部分の異なるヘッド部を左側と右側の上部分が一致し,同じく上部分と異なる形態の下部分が一致する意匠は少なくとも引用意匠1その他の参考先行意匠には表れていない。
これに加え,参考先行意匠7,8に示すように,両端にヘッド部を有するビットにおいて,両端のヘッド部は一方の回転方向に対応するものとするため,ヘッド部の上下の異なる形態であれば,左右のヘッド部で上下異なる形態となることが一般的である。すなわち,左側ヘッド部において上側に「平坦部分」,下側に「湾曲部分」を有する場合,右側ヘッド部は上側に「湾曲部分」,下側に「平坦部分」となる。本件登録意匠のような上下部分の形態が異なるヘッド部において,「平坦部分」が左右両方のヘッド部の上側に,「湾曲部分」が左右両方のヘッド部の下側に形成されていることは極めて少ない。
本件登録意匠は,両端のヘッド部の「平坦部分」がいずれも上部分に表れ,「湾曲部分」がいずれも下部分に表れる逆回転用のヘッドを用いていることも使用者が特徴的な美観を生じるものであって,引用意匠1と類似しない特徴的な形態となる。

(え)類否判断
参考先行意匠5ないし8に示すように,近年では本件登録意匠に係る物品では具体的形態をもって類否判断がなされている。
本件登録意匠は,上記(あ)ないし(う)の内容,特にテーパー狭径部と外側六角瘤状部とが一体的な袋ナット状となる保持部を中央軸部の両側に有し,内側瘤状部から外側瘤状部,ヘッド部にかけて徐々に先細り状となる具体的形態は需要者にシャープな印象を生ぜしめるものであって,特徴的な具体的形態である。
一方,引用意匠1は,中央軸部の両側に一対の六角ナット状の六角瘤状部を有し,狭径部を経て上下に湾曲部分を有するヘッド部を有している。外縁が明瞭となった外側及び内側の六角ナット状の六角瘤状部が存在感をもち,狭径部及び周溝の凹みが急激であることから,本件登録意匠に接する使用者に,凹凸が明瞭に表れる朴訥な印象を生じさせる形態である。
参考先行意匠1は中央軸部,一対の六角ナット状の六角瘤状部,ヘッド部を有する先登録の存在,参考先行意匠2はヘッド部,中央軸部,一対の六角瘤状部,ヘッド部を有する先登録の存在,参考先行意匠3,4は六角瘤状部の外端から急激に狭径した狭径部の先登録の存在,これらからすると,引用意匠1は一対の朴訥とした六角ナット状の六角瘤状部の外端から急激に狭径した狭径部を有する具体的形態をもって登録に至ったものと考えることが相当である。
さらに,上記参考先行意匠からすると,本件登録意匠に表れる両端ビットにおいて外側六角瘤状部の軸方向中央付近から傾斜するテーパー面を有するテーパー狭径部を有する形態は先行意匠に存在しないことを踏まえると,本件登録意匠の保持部は極めて特徴的な形態である。
当該保持部が本件登録意匠,引用意匠1の中央軸部の両端に形成され,全体の約1/2の長さを有するものであること,ヘッド部とともに保持部は需要者の注意の惹く部分であること,を考慮すると,本件登録意匠の保持部の印象と引用意匠1の保持部がシャープさ,朴訥さの異なる印象を生ぜしめることは,本件登録意匠と引用意匠1との物品全体の美観も異なるものと言わざるを得ない。
よって,上記保持部の形態に加えヘッド部の形態や左右のヘッド部の配置対応を考慮すると,本件登録意匠と引用意匠1とが類似するとの結論はあり得ないものと主張する。

キ 小括
上記から,本件登録意匠と引用意匠1とは非類似であり,意匠法第3条第1項第3号に該当せず,無効理由を有しない。

(2)無効理由2
ア はじめに
被請求人を意匠権者とする登録第1459615号(本件登録意匠)は,登録第1166502号(引用意匠1)と,意匠登録第1095286号(引用意匠2)とを組み合わせたとしても創作容易ではなく,意匠法第3条第2項を理由とする同法第48条第1項第1号の無効理由を有しない。

イ 本件登録意匠及び引用意匠1,2の説明
本件登録意匠及び引用意匠1については,上記と同様である。また,本件登録意匠のヘッド部と引用意匠2のヘッド部の形状も同一ではない。
引用意匠2のヘッド部の形態の相違については後述の通りである。

ウ 参考先行意匠の存在
上記参考先行意匠1ないし8と同じである。

エ 置き換え,組み合わせ容易性がないこと(総論)
本件登録意匠は,引用意匠1と異なり,少なくとも特徴的な保持部の形態を有している。請求人主張のように右側ヘッド部を引用意匠3(当審注:「引用意匠2」の誤りであると認められる。)のヘッド部に置き換えても,上記特徴的な右側保持部の形態から実質的に同一意匠を創作するものと評価することはできない。
また,上下部分が異なるヘッド部を反転させて他方端に配置することは一般的に汎用されている態様とは言い難い。しかも引用意匠2に係る物品はヘッド部の近傍を狭径するものではなく,スリムビットではない。引用意匠1に引用意匠2を置き換えることは,請求人主張の置き換えがありふれた手法ではなく,当業者に容易に創作できたとは言えない。

(i)本件登録意匠と引用意匠1の保持部のうちテーパー狭径部と狭径部との形状は明らかに相違する。
(ii)本件登録意匠のヘッド部の湾曲面と引用意匠2の湾曲面は異なる。
(iii)引用意匠2のヘッド部を一般的に左右反転しても本件登録意匠のヘッド部とはならない(上下反転していない状態とすることが一般的である)。

オ 相違点についての説明
(ア)保持部におけるテーパー狭径部と狭径部との相違(i)
上記「(1)カ(ウ)(あ)」の通りである。

(イ)本件登録意匠のヘッド部の「湾曲面」と引用意匠2の「湾曲面」との相違
本件登録意匠のヘッド部の「湾曲面」と引用意匠2のヘッド部の「湾曲面」とは同一ではない。本件登録意匠のヘッド部の「湾曲面」の先端部位は,正確には直線状となっており,直線-湾曲連続面を形成している。一方,引用意匠2のヘッド部の「湾曲面」が先端部位も含めて全体的に湾曲しており,逆回転のカムアウト低減型となっていない。
これを示すものとして,請求人が指摘する引用意匠2に係る意匠権は逆回転のカムアウト低減型になっていないために意匠権の年金を納付せず,実施品である「鬼ビット」の販売を停止している。
よって,本件登録意匠と引用意匠2のヘッド部は同一の形態ではない。

(ウ)引用意匠2のヘッドの反転について
請求人は,引用意匠2のヘッド部を左右反転させれば審判請求書(3)(3-2)エの図のとおりとなると主張しているが,失当である。
一般的に両端にヘッド部を有するビットである場合,同一方向に回転させるヘッド部を左右両端に配置する。そのため,反転させた場合,参考先行意匠7,8に示すように,左側ヘッド部の上側に「平坦部分」と下側に「湾曲部分」と異なる形態を有する場合,右側ヘッド部では上側に「湾曲部分」,下側に「平坦部分」が配置される形態となることが一般的である。
本件登録意匠のように,一方端では上方に「平坦部分」が形成され,他方端でも上方に「平坦部分」が形成されることは,少なくとも請求人が提出した資料には一切開示されておらず,一般的な態様ではなく,少なくとも当業者が容易に創作できたとは到底言えない。

カ 創作非容易性の評価
請求人の主張する創作非容易性とするには,引用意匠1に引用意匠2を置き換えることがありふれた手法であり,ありふれた結果が本件登録意匠と同一の意匠となることが必要である。
しかし,少なくとも本件登録意匠と引用意匠1とは保持部の形態がテーパー狭径部と狭径部との明確な違いがある。しかも,本件登録意匠の保持部のテーパー狭径部は,六角瘤状部の軸方向中央付近からテーパー傾斜面が形成され,緩やかに傾斜し食付刃の基端付近に至るものであって,参考先行意匠3,4に示すように先行意匠に表れない特徴的な形態である。
よって,引用意匠1に引用意匠2を置き換えたとしても,本件登録意匠と同一の意匠を創作することは不可能であり,請求人の主張は失当である。
これに加え,請求人が置き換えと主張する引用意匠2のヘッド部の形態は,本件登録意匠のヘッド部と同一ではない。しかも,請求人が主張するような左右反転して置き換えることも一般的な置き換え態様ではなく,ありふれたものではない。この置き換えは,ありふれた手法としての置き換えに該当しない。
なお,請求人の主張を前提としても,引用意匠1に引用意匠2の左側ヘッド部の反転,引用意匠1の右側ヘッド部の引用意匠2の置き換え,と複数のステップを踏まなければならない。このような複数のステップを踏まなければ達成できない状況からしても,引用意匠1,2から本件登録意匠を創作容易とすることはできないことは明らかである。

キ 小括
上記から,本件登録意匠は,引用意匠1に引用意匠2を加えたとしても容易に創作することはできないので,意匠法第3条第1項第2号に該当せず,無効理由を有しない。

(3)結論
上記から本件登録意匠は引用意匠1と非類似であり,引用意匠1に引用意匠2を加えたとしても容易に創作することはできない。
したがって,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号,同条第2項に反するとの無効理由は存在しない。
よって,本件審判は成り立たないと判断されるべきである。

(4)証拠方法(証拠説明書参照)
・乙第1号証 意匠登録第919526号の類似1公報
・乙第2号証 意匠登録第1121307号公報
・乙第3号証 意匠登録第1084684号公報
・乙第4号証 意匠登録第1086132号公報
・乙第5号証 意匠登録第319930号公報
・乙第6号証 意匠登録第919526号公報
・乙第7号証 意匠登録第1085307号公報
・乙第8号証 意匠登録第1092391号公報
・乙第9号証 「インパクトドライバー用ビットの種類と特徴のまとめ(当審注:「特長まとめ」の誤記と認められる。)」
・乙第10号証 株式会社タジマツールの製品「鬼ビット」の写真
・乙第11号証 株式会社タジマツールのホームページ

第4 書面審理

審判長は,令和2年10月21日付けで,請求人及び被請求人に対し,本件審判についての審理は,職権により書面審理によるものとする通知を行った。

第5 当審の判断

1 本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠登録第1459615号の意匠であり,意匠に係る物品を「螺子廻し具」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を,意匠登録公報に記載された図面に表されたとおりとしたものであって,具体的には,以下のとおりのものである(別紙第1参照)。
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,インパクトドライバー,電動ドライバー,エアドライバー等の電動回転工具に着脱可能に取り付けて,各種ねじの締め付けや取り外し作業に用いられる「螺子廻し具」である。

(2)本件登録意匠の形態
当審では本件登録意匠の形態について,以下のように認定した(以下の「当審作成の本件登録意匠の説明図」参照)。
なお,本件登録意匠の意匠公報に記載の右側面図は,正面図を基準とすると,左右反転させたものが正しい図であると認められるため,本件登録意匠の形態の認定にあたっては,意匠公報に記載の右側面図を左右反転させたものを右側面図であるとして認定し,意匠公報に記載された右側面図を左側面図であるとして認定を行った。



ア 全体は,回転工具のワンタッチスリーブ等にドライバービットの差し込む向きを変えることで,1本で2つのドライバーが使用可能な両頭ビットの構成としたものであって,
(ア)全体を,正面視において,ビット中央の軸部分(以下「中間軸部」という。)の左側に,シャンク(以下「左シャンク部」という。)を設け,この左シャンク部の左側に,その先端部に十字ねじ用食付刃を形成したヘッド部分(以下「左ヘッド部」という。)を配設し,中間軸部の右側に,シャンク部分(以下「右シャンク部」という。)を設け,この右シャンク部の右側に,その先端に十字ねじ用食付刃を形成したヘッド部分(以下「右ヘッド部」という。)を配設した形態に形成とし,
(イ)左ヘッド部,左シャンク部,中間軸部,右シャンク部及び右ヘッド部の軸方向の長さの比率を,約1:1:1.7:1:1としたものである。

イ 中間軸部は,軸部分にくびれを設け,ここに捻れを生じさせてドライバービットの使用時に発生する衝撃を吸収し,ヘッド部や螺子頭の破損を防ぐ効果をもつトーションビットの構成としたものであって,
(ア)中間軸部の軸部分を,左右のシャンク部より小径の略細長円柱状の形態とし,
(イ)中間軸部のシャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がる形態に形成したものである。

ウ 左シャンク部は,右十字刃部を使用する際に回転工具に装着する側のシャンクであって,
(ア)左シャンク部全体を,その略中央部分に,断面視略凹円弧状の周溝を1条形成した略六角柱状の形態とし,
(イ)左シャンク部の左ヘッド部側の部分,周溝の部分及び中間軸部側の部分の,軸方向の長さの比率を,約1.3:1:1.4としたものである。

エ 左ヘッド部は,作業時に左十字刃部やねじ頭が見やすいようにヘッド部の径を細く加工したスリムビットの構成としたものであって,
(ア)左ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略<状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略くの字状に形成した,左シャンク部より小径の先端側が漸次窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略横レの字状に切り欠いて,4つの突条部分(以下「羽根部」という。)からなる左十字刃部を,左側面視略十字状の形態に形成し,
(イ)左ヘッド部の左シャンク部との接合部分を,左シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態としたものであり,その境界部分には略凸円弧状の線が上下に連続して表れており,
(ウ)各羽根部を,羽根部の先端からみて左側の側面部分を略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて右側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成して,ねじを締める際にねじ穴からビット先端部が浮き上がるカムアウト現象を抑制することができる構成としたものである。

オ 右シャンク部は,左十字刃部を使用する際に回転工具に装着する側のシャンクであって,正面視において左シャンク部と左右対称の形態に形成したものである。

カ 右ヘッド部は,作業時に右十字刃部やねじ頭が見やすいようにヘッド部の径を細く加工したスリムビットの構成としたものであって,
(ア)右ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略>状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略逆くの字状に形成した,右シャンク部より小径の先端側が窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略逆横レの字状に切り欠いて,4つの羽根部からなる右十字刃部を右側面視略十字状の形態に形成し,
(イ)右ヘッド部の右シャンク部との接合部分を,右シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態としたものであり,その境界部分には略凸円弧状の線が上下に連続して表れており,
(ウ)各羽根部を,羽根部の先端からみて右側の側面部分を略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて左側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成して,ねじを緩める際のカムアウト現象を抑制することができる構成としたものである。

2 請求人が主張する無効の理由
請求人が,審判請求書で主張する意匠登録無効事由について検討すると,以下のとおりとなる。
(1)無効理由1
本件登録意匠は,登録第1166502号意匠(以下「引用意匠1」という。別紙第2参照)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(2-2)無効理由2
請求人は,審判請求書の「(2)意匠登録無効の理由の要点」において,無効の理由を「本件登録意匠は,引用意匠1及び登録第1095286号意匠の十字ねじ用食付刃部分の意匠(以下『引用意匠2』という。)に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。」と主張されたが,本件無効審判請求の無効理由は,(3)の「(3-2)無効理由2について」の記載内容からすると,「本件登録意匠は,引用意匠1(意匠登録第1166502号の意匠)及び引用意匠2(意匠登録第1095286号の意匠)のヘッド部の形態(十字刃部の形態を含む)に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。」と認められるものである。
したがって,引用意匠2を意匠登録第1095286号意匠の十字ねじ用食付刃部分の意匠ではなく意匠登録第1095286号の意匠であるとして,以下記載する。

3 引用意匠1(甲第1号証の意匠)
甲第1号証は,意匠公報発行日を平成15年(2003年)3月4日とする意匠登録第1166502号の意匠公報の写しであって,当該公報に記載された引用意匠1は,具体的には以下のとおりのものである(別紙第2参照)。
(1)引用意匠1の意匠に係る物品
引用意匠1の意匠に係る物品は,電動回転工具に着脱可能に取り付けて,各種ねじの締め付けや取り外し作業に用いられる「ドライバービット」である。

(2)引用意匠1の形態
当審では,引用意匠1の具体的な全体の形態について,以下のように認定した。

ア 全体は,回転工具のワンタッチスリーブ等にドライバービットの差し込む向きを変えることで,1本で2つのドライバーが使用可能な両頭ビットの構成としたものであって,
(ア)全体を,正面視において,中間軸部の左側に左シャンク部を設け,この左シャンク部の左側に,その先端部に左十字刃部を形成した左ヘッド部を配設し,中間軸部の右側に右シャンク部を設け,この右シャンク部の右側に,その先端部に右十字刃部を形成した右ヘッド部を配設した形態とし,
(イ)左ヘッド部,左シャンク部,中間軸部,右シャンク部及び右ヘッド部の軸方向の長さの比率を,約1:1:1.7:1:1としたものである。

イ 中間軸部は,トーションビットの構成としたものであって,
(ア)中間軸部の軸部分を,左右のシャンク部より小径の略細長円柱状の形態とし,
(イ)中間軸部のシャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がる形態に形成したものである。

ウ 左シャンク部は,右十字刃部を使用する際に回転工具に装着する側のシャンクであって,
(ア)左シャンク部全体を,その略中央部分に,断面視略凹円弧状の周溝を1条形成した略六角柱状の形態とし,
(イ)左シャンク部の左ヘッド部側の部分,周溝の部分及び中間軸部側の部分の,軸方向の長さの比率を,約1:1:1としたものである。

エ 左ヘッド部は,スリムビットの構成としたものであって,
(ア)左ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略<状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略くの字状に形成した,左シャンク部より小径の先端側が漸次窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略横レの字状に切り欠いて,4つの羽根部からなる左十字刃部を,左側面視略十字状の形態に形成し,
(イ)左ヘッド部の左シャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がる形態に形成し,
(ウ)各羽根部を,羽根部の先端からみて左右の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する凹曲面状とした,軸方向に対して上下対称な形態に形成したものである。

オ 右シャンク部は,左十字刃部を使用する際に回転工具に装着する側のシャンクであって,正面視において左シャンク部と左右対称の形態に形成したものである。

カ 右ヘッド部は,スリムビットの構成としたものであって,側面視において左ヘッド部と同一の形態に形成したものである。

4 引用意匠2(甲第3号証)の意匠
甲第3号証は,意匠公報発行日を平成13年(2001年)1月9日とする意匠登録第1095286号意匠公報の写しであって,当該公報に記載された引用意匠2は,具体的には以下のとおりのものである(別紙第3参照)。
(1)引用意匠2の意匠に係る物品
引用意匠2の意匠に係る物品は,電動回転工具に着脱可能に取り付けて,各種ねじの締め付けや取り外し作業に用いられる「ドライバービット」である。

(2)引用意匠2の形態
当審では,引用意匠2におけるヘッド部(十字刃部の形態を含む)の具体的な形態について,以下のように認定した。

ア ヘッド部は,スリムビットの構成としたものであって,
(ア)ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略<状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略くの字状に形成した,シャンク部より小径の先端側が漸次窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略横レの字状に切り欠いて,4つの羽根部からなる左十字刃部を,左側面視略十字状の形態に形成し,
(イ)ヘッド部のシャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態としたものであり,その境界部分には略凸円弧状の線が上下に連続して表れており,
(ウ)各羽根部を,羽根部の先端からみて左側の側面部分を略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて右側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成して,ねじを締める際のカムアウト現象を抑制することができる構成としたものである。

5 無効理由1及び2の検討
(1)無効理由1について
請求人が主張している本件無効審判請求の無効理由1は,本件登録意匠は,引用意匠1と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないというものである。
よって,請求人及び被請求人の主張を踏まえ,本件登録意匠と引用意匠1(以下「両意匠」という。)の類否判断を行い,両意匠が類似するか否かについて,以下検討する。
ア 両意匠の対比
(ア)意匠に係る物品の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は「螺子廻し具」であり,引用意匠1に係る物品は,「ドライバービット」であって,その表記は異なるが,いずれも電動回転工具に着脱可能に取り付けて,各種ねじの締め付けや取り外し作業に用いられるものであるから,両意匠の意匠に係る物品は,その用途及び機能が一致するものである。

(イ)形態の対比
本件登録意匠と引用意匠1を対比する(以下,対比のため,引用意匠1を本件登録意匠の図面の向きに合わせることとする。)と,両意匠の形態については,主に以下の共通点及び相違点がある。

a 形態の共通点
(共通点1)両意匠は,全体を,正面視において,中間軸部の左側に左シャンク部を設け,この左シャンク部の左側に,その先端部に左十字刃部を形成した左ヘッド部を配設し,中間軸部の右側に右シャンク部を設け,この右シャンク部の右側に,その先端部に右十字刃部を形成した右ヘッド部を配設した形態とし,左ヘッド部,左シャンク部,中間軸部,右シャンク部及び右ヘッド部の軸方向の長さの比率を,約1:1:1.7:1:1とした,正面視において左右対称の形態に形成した点が共通する。
(共通点2)両意匠は,中間軸部の軸部分を,左右のシャンク部より小径の略細長円柱状の形態とし,中間軸部のシャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がる形態とした点が共通する。
(共通点3)両意匠は,左右のシャンク部全体を,その略中央部分に断面視略凹円弧状の周溝を1条形成した略六角柱状の形態とした点が共通する。
(共通点4)両意匠は,左ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略<状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略くの字状に形成した,左シャンク部より小径の先端側が漸次窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略横レの字状に切り欠いて,4つの羽根部からなる左十字刃部を,左側面視略十字状の形態に形成した点が共通する。
(共通点5)両意匠は,右ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略>状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略逆くの字状に形成した,右シャンク部より小径の先端側が窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略逆横レの字状に切り欠いて,4つの羽根部からなる右十字刃部を右側面視略十字状の形態に形成した点が共通する。

b 形態の相違点
(相違点1)本件登録意匠の左ヘッド部における羽根部は,羽根部の先端からみて左側の側面部分を,略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて右側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成して,ねじを締める際のカムアウト現象を抑制する構成としたものであるのに対し,引用意匠1の左ヘッド部における羽根部は,羽根部の先端からみて左右の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する凹曲面状とした,軸方向に対して上下対称な形態に形成したものである点で,両意匠は相違する。
(相違点2)本件登録意匠の右ヘッド部における羽根部は,羽根部の先端からみて右側の側面部分を略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて左側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成して,ねじを緩める際のカムアウト現象を抑制することができる構成としたものであるのに対し,引用意匠1の右ヘッド部における羽根部は,羽根部の先端からみて左右の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する凹曲面状とした,軸方向に対して上下対称な形態に形成したものである点で,両意匠は相違する。
(相違点3)本件登録意匠の左右のヘッド部の左右のシャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態としたものであるのに対し,引用意匠1の左右のヘッド部の左右のシャンク部との接合部分は,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がる形態としたものである点で,両意匠は相違する。
(相違点4)本件登録意匠のシャンク部のヘッド部側の部分,周溝の部分及び中間軸部側の部分の軸方向の長さの比率を,約1.3:1:1.4としたものであるのに対し,引用意匠1の同比率を,約1:1:1としたものである点で,両意匠は相違する。

イ 両意匠の類否判断
(ア)意匠に係る物品について
両意匠の意匠に係る物品は,その用途及び機能が一致するから同一といえるものである。

(イ)形態について
本件登録意匠の意匠に係る物品の需要者である螺子廻し具の購入者は,ヘッド部に様々な十字刃部が形成された螺子廻し具の中から,ねじの大きさやねじ頭に形成された溝部の形態にあった適切なものを選択して購入するものであるから,この種物品の需要者は,螺子廻し具の各部の形態,特にヘッド部の十字刃部の形態を注視して観察するとともに,どのような十字刃部を持つヘッド部を螺子廻し具の左右端部に組み合わせているのかについても注視して観察している。
したがって,本件登録意匠と引用意匠1の類否判断に際しては,需要者は,螺子廻し具の各部の形態のみならず左右ヘッド部の十字刃部の具体的な形態やその組み合わせの態様についても強い関心を持って観察するとの前提に基づいて,両意匠の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価することとする。

a 共通点の評価
(共通点1)は,両意匠の全体の形態を概括的に捉えた場合の共通点にすぎないものであり,左ヘッド部,左シャンク部,中間軸部,右シャンク部及び右ヘッド部の軸方向の長さの比率についても,特段特徴のあるものでもないから,この(共通点1)が意匠全体の美感に与える影響は小さい。
(共通点2)の中間軸部の形態,(共通点3)の左右のシャンク部の形態,(共通点4)の十字刃部を除く左ヘッド部の形態,及び(共通点5)の十字刃部を除く右ヘッド部の形態は,引用意匠1及び引用意匠2を含め提出された証拠で示された意匠にあるように螺子廻し具の分野において既にみられるものであって,両意匠にのみに認められる格別の特徴のものとはいえないから,これらの(共通点2)ないし(共通点5)が意匠全体の美感に与える影響は小さい。

b 相違点の評価
(相違点1)は,左ヘッド部における羽根部の形態に係る相違であって,本件登録意匠が,羽根部の先端からみて左側の側面部分を略垂直な平坦面状の形態に形成し,ねじ締めの際にカムアウト現象を抑制する構成をもつ,ねじ締め用の螺子廻し具であるとの印象を与えるのに対し,引用意匠1は,螺子廻し具の軸方向に対して上下対称な形態に形成し,羽根部の強度を高めた構成をもつ,ねじを締めたりねじを緩めたりに使用する螺子廻し具であるとの印象を与えるから,この(相違点1)が意匠全体の美感に与える影響は大きい。
(相違点2)は,右ヘッド部における羽根部の形態に係る相違であって,本件登録意匠が,羽根部の先端からみて右側の側面部分を略垂直な平坦面状の形態に形成し,ねじを緩める際にカムアウト現象を抑制する構成をもつ,ねじを緩める用の螺子廻し具であるとの印象を与えるのに対し,引用意匠1は,螺子廻し具の軸方向に対して上下対称な形態に形成し,羽根部の強度を高めた構成をもつ,ねじを締めたり緩めたりに使用する螺子廻し具であるとの印象を与えるから,この(相違点2)が意匠全体の美感に与える影響は大きい。
(相違点3)は,左右のヘッド部の左右のシャンク部との接合部分の形態に係る相違であって,本件登録意匠の形態が,シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態からシャープな造形で接合したものとの印象を与えるのに対し,引用意匠1の形態は,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がる形態から柔らかな造形で接合したものとの印象を与えるから,接合部分の境界部分に表れる形状線の形態の相違も含めて,この(相違点3)は意匠全体の美感に一定程度の影響を及ぼす。
(相違点4)は,シャンク部のヘッド部側の部分,周溝の部分及び中間軸部側の部分の軸方向の長さの比率についての相違であるが,両意匠の構成比率の相違は僅かなものにすぎず,この(相違点4)が両意匠の美感に与える影響は小さい。

c 両意匠の形態の類否判断
両意匠の形態における共通点及び相違点の評価に基づき,意匠全体として総合的に観察した場合,両意匠は,上記のbのとおり,左右のヘッド部における羽根部の形態の相違点が意匠全体の美感に及ぼす影響は大きく,左右のヘッド部の左右のシャンク部との接合部分の形態の相違が,意匠全体の美感に一定程度の影響を及ぼすものであるのに対し,上記のaのとおり,全体の形態,中間軸部の形態,左右シャンク部の形態,左ヘッド部の形態及び羽根部を除く右ヘッド部の形態の共通点が意匠全体の美感に及ぼす影響はいずれも小さく,意匠全体として見た場合には,相違点が相まって生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕して看者に別異の印象を与え,両意匠に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠はその形態において類似しないものである。

ウ 小括1
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品は同一といえるが,その形態において類似しないから,本件登録意匠と引用意匠1は類似するということはできない。
したがって,本件登録意匠は,引用意匠1と類似しないものであって,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないとすることはできない。

(2)無効理由2について
請求人が主張している本件無効審判請求の無効理由2は,本件登録意匠は,引用意匠1,及び引用意匠2のヘッド部の形態に基づいて容易に創作された意匠であり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないというものである。
まず,意匠法第3条第2項の規定については,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内又は外国において公然知られた形態を基準として,容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであって,ある意匠が,当該意匠の当業者にとって公然知られた形態に基づいて,当該意匠の当業者であればありふれた手法により僅かな改変を施す等によって容易に創作をすることができたものであると判断できるのであれば,その意匠は,意匠登録を受けることができないこととなる。
上記を踏まえ,本件登録意匠の意匠法第3条第2項の該当性について,本件登録意匠が,公然知られた形態に基づいて,当業者であれば容易に創作をすることができたか否かについて,以下検討し,判断する。

ア 本件登録意匠の全体の基本的な形態について
本件登録意匠の出願前に,本件登録意匠の「螺子廻し具」の分野において,全体を,正面視において,中間軸部の左側に左シャンク部を設け,この左シャンク部の左側に,その先端部に左十字刃部を形成した左ヘッド部を配設し,中間軸部の右側に右シャンク部を設け,この右シャンク部の右側に,その先端部に右十字刃部を形成した右ヘッド部を配設した両頭ビットの形態とし,左ヘッド部,左シャンク部,中間軸部,右シャンク部及び右ヘッド部の軸方向の長さの比率を,約1:1:1.7:1:1としたものは,引用意匠1にみられるものであって,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態である。

イ 中間軸部の形態について
本件登録意匠の出願前に,本願登録意匠に係る物品の分野において,両頭ビットの螺子廻し具の中間軸部を,左右のシャンク部より小径の略細長円柱状の形態とし,シャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略ラッパ状に拡がるように形成したトーションビットの形態としたものは,引用意匠1にみられるものであって,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態である。

ウ 左右のシャンク部の形態について
本件登録意匠の出願前に,本願登録意匠の物品分野において,左右のシャンク部を,その略中央部分に,断面視略凹円弧状の周溝を1条形成した略六角柱状の形態としたものは,引用意匠1にみられるものであって,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態である。
また,左右のシャンク部の先端側の部分,周溝の部分及び中間軸側の部分の,軸方向の長さの比率を,約1.3:1:1.4となるようにして左右のシャンク部を構成した点については,シャンク部の大きさを回転工具のワンタッチスリーブ等の仕様に合わせて適宜変更して創作を行う本件登録意匠の当業者にとってみれば,各部位を上記比率となるようにして左右のシャンク部の形態を創作することに,特筆すべき創意は認められず,この左右のシャンク部の形態は,公然知られた引用意匠1の形態に基づいて容易に創作ができたものである。
そうすると,本件登録意匠の左右のシャンク部の形態は,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態に基づいて,当業者が容易に創作をすることができたものであるといえる。

エ 左ヘッド部の形態について
本件登録意匠の出願前に,本願登録意匠の物品分野において,左ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略<状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略くの字状に形成した,左シャンク部より小径の先端側が漸次窄まった略細長円柱状の形態とし,その先端側の周側面部分4カ所を正面視略横レの字状に切り欠いて,4つの羽根部からなる左十字刃部を,左側面視略十字状の形態に形成し,左シャンク部との接合部分を,左シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態とし,各羽根部を,羽根部の先端からみて左側の側面部分を略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて右側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成したものは,引用意匠2にみられるものであって,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態である。

オ 右十字刃部を除く右ヘッド部の形態について
本件登録意匠の出願前に,本願登録意匠の物品分野において,ヘッド部の軸部分を,その先端部付近を正面視略>状に形成し,さらにその先端中央部分を正面視略逆くの字状に形成した,先端側が窄まった略細長円柱状の形態とし,シャンク部との接合部分を,シャンク部に向かって略円錐台状に拡がる形態としたものは,引用意匠2にみられるものであって,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態である。

カ 右十字刃部の形態について
本件登録意匠の出願前に,本願登録意匠の物品分野において,右十字刃部を構成する各羽根部を,羽根部の先端からみて右側の側面部分を略垂直な平坦面状に形成し,羽根部の先端からみて左側の側面部分を,先端部分を略垂直な平坦面状とし,そこから中間軸側に向かって外側に漸次湾曲する略凹曲面状に形成したものは,引用意匠1及び引用意匠2をはじめとして本件登録意匠の出願前に存在せず,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態ではない。
次に,本件登録意匠に係る当業者が,右十字刃部の形態を,本件登録意匠の出願前に公然知られた引用意匠2の十字刃部の形態に基づき,容易に創作をすることができたものか否かを検討する。
上記の「第3 被請求人の答弁及び理由」の1(1)カ(ウ)の「(い-2)本件登録意匠及び引用意匠1のヘッド部の詳細な形態の説明」において,「一般的にねじを回転させるときに用いる部分は,正面視において上部分(本件登録意匠では平坦部分)の溝に力がかかり,逆回転において下部分(本件登録意匠では湾曲部分)の溝に力がかかる。本件登録意匠の左側ヘッド部では,上部分である『平坦部分』がヘッド部による正回転を行う場合に,ヘッド部がねじ頭から抜けるカムアウト現象(乙9)が生じないように,平坦面を“閉じる”ように正面視で直線状に形成している。一方,上部分の『平坦面』に加え下部分も同じく『平坦面』とすると,羽の肉厚が足りず強度不足となる。」との記載がされているところから,本件登録意匠の羽根部には,以下の特質があるといえる。
まず,ねじを締める場合は,ねじを木材などの部材に押し込みつつ回転させてねじ込む必要があり,ねじを緩める場合の,既に穴が形成されたねじ穴からねじを回転させて取り外すのに比較して,十字刃部の羽根部にかかる負荷が大きくカムアウト現象が生じやすい。このため,羽根部の強度が不足するとしても,ねじを締める際にねじ頭に形成された溝部と接する部分である,羽根部の先端からみて左側の側面部分全体を,ねじ頭の溝部と広い範囲で密着するように略垂直な平坦面状に形成し,カムアウトを抑制する形態としたものが,本件登録意匠の出願前から既に存在している。
一方,ねじを緩める場合は,ねじを締める場合より,十字刃部の羽根部にかかる負荷が小さくカムアウト現象が生じにくいし,長期間使用されたねじでは,ねじ頭に形成された溝部がつぶれて垂直な面が維持されていないことも多いことから,ねじを緩める際にねじ頭に形成された溝部と接する部分である,羽根部の先端からみて右側の側面部分全体を,あえてねじ頭の溝部と広い範囲で密着するように略垂直な平坦面状に形成することは,上記のような特質を持つ羽根部を創作する本件登録意匠の当業者にとってみれば,強度や効果の面からみて想定しにくいことであって,当業者が引用意匠2で示された形態に接したとしても,ねじを締める際に有効なカムアウト低減ビットの構成をもつ十字刃部の形態から,本件登録意匠のような,ねじを緩めるのに有効なカムアウト低減ビットの十字刃部を作出する契機となり得るものとはいえず,本件登録意匠のこの点の創作については,当業者の創意・工夫を要したものであるといえる。
そうすると,本件登録意匠の右十字刃部の形態は,本件登録意匠の出願前に公然知られたものではなく,本件登録意匠の出願前に公然知られた形態に基づいて,当業者が容易に創作をすることができたものでもないといえる。
なお,請求人は,甲第7号証並びに甲第8号証の1及び2を示して,「両頭ビットには,同一方向に回転させるヘッド部を左右両端に配置するものだけでなく,互いに逆方向に回転させるヘッド部を左右両端に配置するものも従来より存在する」と主張しているが,甲第7号証の意匠に係る物品は,なめたねじをはずすための工具に係る「なめたネジはずしビット」であり,甲第8号証の1及び2の意匠に係る物品は,穴をあけるための工具に係る「ドリルバービット」であるから,本件登録意匠のねじを締めたり緩めたりする工具に係る「螺子廻し具」とはその用途及び機能が大きく異なるものであり,本件登録意匠に係る当業者にとって,これら甲第7号証の意匠並びに甲第8号証の1及び2の意匠の形態は,公然知られた形態とはいえず,本件登録意匠の創作容易性の判断の基礎とすることはできないものである。

キ 小括2
上記のとおり,本件登録意匠における全体の構成,中間軸部の形態,左右のシャンク部の形態,左ヘッド部の形態,及び右十字刃部を除く右ヘッド部の形態が,本件登録意匠の出願前に公然知られたものであるか,当業者が公然知られた形態に基づいて容易に創作ができたものであるとしても,右ヘッド部の先端部分に形成された右十字刃部の形態は,本件登録意匠の出願前に公然知られたものではなく,また,この種物品分野において創作に当業者の創意・工夫を要したものであるといえるから,当業者が公然知られた形態に基づいて,容易に創作をすることができたとはいえないものである。
したがって,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2を示しても当業者が公然知られた形態に基づいて容易に本件登録意匠の創作をすることができたものではないから,意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものではない。

第6 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,上記無効理由1及び2には理由はなく,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反して登録されたものとはいうことはできないから,同法第48条第1項第1号の規定によりその意匠登録を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

別掲


審理終結日 2020-12-18 
結審通知日 2020-12-23 
審決日 2021-02-19 
出願番号 意願2012-1530(D2012-1530) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (K1)
D 1 113・ 121- Y (K1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柵山 英生 
特許庁審判長 木村 恭子
特許庁審判官 江塚 尚弘
渡邉 久美
登録日 2012-12-14 
登録番号 意匠登録第1459615号(D1459615) 
代理人 特許業務法人レガート知財事務所 
代理人 藤田 邦彦 
代理人 藤田 典彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ