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審決分類 審判    M2
管理番号 1379918 
審判番号 無効2020-880008
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-11-19 
確定日 2021-11-01 
意匠に係る物品 ヘアキャッチャー 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1670712号「ヘアキャッチャー」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
本件意匠登録第1670712号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとして,令和2年(2020年)5月25日に意匠登録出願(意願2020-010212)されたものであって,審査を経て同年10月2日に意匠権の設定の登録がなされ,同年10月19日に意匠公報が発行され,その後,当審において,概要,以下の手続を経たものである。

令和2年11月19日付け 審判請求書の提出
令和3年 2月 1日付け 審判事件答弁書の提出
同年 4月26日付け 審判事件弁駁書の提出
同年 6月23日付け 審理事項通知書の送付
同年 7月21日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 8月 4日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 8月18日 口頭審理


第2 請求の趣旨及び理由
請求人は,請求の趣旨を
「登録第1670712号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人 の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由を,要旨以下のとおり主張し,その主張事実を立証するため,後記5に掲げた甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。

1 本件意匠登録
意匠登録第1670712号
意匠に係る物品「ヘアキヤツチャー」(別紙参照)

2 手続の経緯
出 願 令和2年5月25日
登 録 令和2年10月2日
掲載公報発行 令和2年10月19日
(意匠登録第1670712号)

3 意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠(以下「甲1意匠」という。)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

4 本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の説明(要旨等)
本件登録意匠は,意匠登録第1670712号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を,「ヘアキャッチャー」とし,以下の基本的構成態様,具体的構成態様を具備したものである。
以下の基本的構成態様及び具体的構成態様は,争点を少なくし,もって審理の迅速化に資するため,請求人を原告,被請求人を被告とする侵害訴訟(事件番号:令和2年(ワ)第14629号意匠権侵害差止等請求事件。以下「侵害訴訟」という。)における被請求人(被告)主張に可能な限り沿ったものである(甲第2号証,甲第3号証)。なお,侵害訴訟における被告意匠の各部の名称と,本審判における本件登録意匠の各部の名称とは若干異なるが,実質的な機能・形状は同一である。

ア 基本的構成態様
平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その中心に位置する円形状の捕集部1と,捕集部1の外側に形成されて該捕集部1に向かう水流を生成する旋回流生成部2と,旋回流生成部2の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部3とで構成され,捕集部1は,平面視において円状に形成された底壁4と,底壁4の外周縁から上方に伸びる筒壁5とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,旋回流生成部2は,捕集部1の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,高さ方向においてフランジ部3より上方に突出しておらず,フランジ部3は,旋回流生成部2の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されていること。
旋回流生成部2に,捕集部1に向かう渦状模様が現出されていること。
捕集部1と旋回流生成部2に多数個の排水孔7・21が形成されていること。
正面視において,捕集部1の底壁4と筒壁5とを連結するコーナ一部9は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕集部1は,正面視において隅丸矩形状とされていること。

イ 具体的構成態様
旋回流生成部2が,捕集部1を中心とする等角度位置に配置された計4個の流生成壁10で構成されていること。
平面視において各流生成壁10が湾曲線(第1?第3湾曲線13A?13C)により区画されており,かつ,各流生成壁10が反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる三日月形状であること。
三日月形状の流生成壁10により,旋回流生成部2には渦状模様が現出されていること。
平面視において,各流生成壁10の反時計方向側の外周部に,堰16が形成されていること。
各堰16が,中心側から外周側に向かって漸次幅寸法が大きくなる外拡がりのテーパー状であり,各堰16の伸び方向は反時計方向に指向していること。
捕集部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されていること。
整流体6を囲むように捕集部1の底壁4には,複数個の排水孔7が開設されていること。
フランジ部3の12時と6時の位置に,爪11が流生成壁10の外縦壁15に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること。
フランジ部3の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部12が形成されていること。
フランジ部3の裏面の1時,4時,7時,および10時の位置に,ピン17が下方に向かって突設されていること。
フランジ部3の裏面に,易破断用の薄肉部18が形成されていること。

(2)甲1意匠の説明(要旨等)
甲1意匠は,本件登録意匠の出願前,平成30年12月25日に頒布された意匠公報であって,意匠に係る物品を,「ヘアキャッチャー」とし,その形態は,以下の基本的構成態様,具体的構成態様を具備したものである。
本件登録意匠と同様,以下の基本的構成態様及び具体的構成態様も,侵害訴訟における被請求人(被告)主張に可能な限り沿ったものである(甲第3号証,甲第4号証)。

ア 基本的構成態様
平面視において全体が円形状かつ有底の灰皿状に形成されており,その中心に位置する円形状の捕捉部51と,捕捉部51の外側に形成されて該捕捉部51に向かう水流を生成する渦流生成部52と,渦流生成部52の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部53とで構成され,捕捉部51は,平面視において円形状に形成された底壁54と,底壁54の外周縁から上方に伸びる筒壁55とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部52は,捕捉部51の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,高さ方向においてフランジ部53より上方に突出しておらず,フランジ部53は,渦流生成部52の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されていること。
渦流生成部52に,捕捉部51に向かう渦状模様が現出されていること。
捕捉部51と渦流生成部52に多数個の排水孔57・71が形成されていること。
正面視において,捕捉部51の底壁54と筒壁55とを連結するコーナー部59は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部51は,正面視において隅丸矩形状とされていること。

イ 具体的構成態様
渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成されていること。
平面視において各斜面体60が区画線62A・62Bにより区画されており,かつ,各斜面体60が反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる三日月形状であること。
フランジ部53の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部75が形成されていること。
フランジ部53の12時と6時の位置に,爪73が斜面体60の外周縦壁65に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること。
フランジ部53の裏面に易破断用の薄肉部77が形成されていること。
平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されていること。

(3)先行周辺意匠の摘示
本件意匠登録以前に,渦流生成部(流生成壁)が,高さ方向においてフランジ部より上方に突出しているものは,甲第5号証から甲第8号証まで存在し,本件登録意匠の出願前から公然知られている。

(4)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比
ア 本件登録意匠と甲第1号証の意匠の意匠に係る物品の対比
本件登録意匠と甲1意匠は,両者ともに「ヘアキャッチャー」であり,物品が同一である。

イ 本件登録意匠と甲1意匠の形態の共通点及び相違点の列挙
(ア)共通点
本件登録意匠と甲1意匠との閧における基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は以下のとおりである。なお,この点に関しては請求人及び被請求人間で争いがない(甲第3号証)。
a 基本的構成態様
(i)平面視において全体が円形状に形成されており,その中心に位置して排水中に合まれる毛髪等を捕捉する円形状の捕捉部(捕集部)と,捕捉部(捕集部)の外側に形成されて該捕捉部(捕集部)に向かう水流を生成する渦流生成部(旋回流生成部)と,渦流生成部(旋回流生成部)の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成され,捕捉部(捕集部)は,平面視において円形状に形成された底壁と,底壁の外周縁から上方に伸びる筒壁とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部(旋回流生成部)は,捕捉部(捕集部)の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,フランジ部は,渦流生成部(旋回流生成部)の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている点
(ii)渦流生成部(旋回流生成部)に,捕捉部(捕集部)に向かう渦状模様が現出されている点
(iii)捕捉部(捕集部)と渦流生成部(旋回流生成部)に多数個の排水孔が形成されている点
(iv)正面視において,捕捉部(捕集部)の底壁と筒壁とを連結するコーナー部は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部(捕集部)は,正面視において隅丸矩形状とされている点
(v)渦流生成部(旋回流生成部)が,フランジ部より上方に突出して形成されていない点
b 具体的構成態様
(i)渦流生成部(旋回流生成部)が,捕捉部(捕集部)を中心とする等角度位置に配置された複数個の斜面体(流生成壁)で構成されている点
(ii)フランジ部の12時と6時の位置に,爪が斜面体(流生成壁)の外周縦壁(外縦壁)に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されている点
(iii)フランジ部の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部が形成されている点
(iv)フランジ部の裏面に,易破断用の薄肉部が形成されている点

(イ)相違点
a 基本的構成態様
上記のとおり,基本的構成態様における相違点は存在しない。
b 具体的構成態様
(i)甲1意匠では,渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成されているのに対して,本件登録意匠では,旋回流生成部2が,捕集部1を中心とする等角度位置に配置された計4個の流生成壁10で構成されている点
(ii)本件登録意匠では,平面視において,各流生成壁10の反時計方向側の外周部に堰16が形成されているのに対して,甲1意匠では,そのような堰(部)が存在しない点
(iii)本件登録意匠では,捕集部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されているのに対して,甲1意匠では,そのような整流体6が存在しない点
(iv)本件登録意匠では,フランジ部3の裏面の1時,4時,7時,および10時の位置に,ピン17が下方に向かって突設されているのに対して,甲1意匠では,ピンが存在しない点
(v)甲1意匠では,平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されているのに対して,本件登録意匠では,「コ」字状の切り欠きが存在しない点

ウ 本件登録意匠と甲1意匠の形態の共通点及び相違点の評価
(ア)共通点から受ける美感が共通する
上記基本的構成態様における共通点(i),(ii)及び具体的構成態様における共通点(i)によれば,本件登録意匠及び甲1意匠はともに,斜面体(流生成壁)が捕捉部(捕集部)を中心に等角度位置に配置されている結果,渦流模様を現出するという美感が共通する。
また,上記基本的構成態様における共通点(iv)からすれば,本件登録意匠及び甲1意匠ともに,捕捉部(捕集部)の底壁と筒壁とを連結するコーナー部が隅丸矩形状に形成されており,全体として丸味を帯びた柔らかな美感を生じさせる。
以上の各共通点については,本件登録意匠及び甲1意匠の物品がヘアキャッチャーであり,渦流生成部(旋回流生成部)を流れた髪の毛等が,捕捉部(捕集部)にどの程度捕捉(捕集)されるか需要者において関心があることを踏まえると,需要者が着目する要部であるといえる。
さらに,前述したとおり,上記基本的構成態様における共通点(v)からすれば,渦流生成部が,高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない点が共通している。甲第5号証?甲第8号証における公知意匠からは,渦流生成部が,高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない公知意匠は存在せず,この点は,本件登録意匠及び甲1意匠の要部といえる。そして,かかる要部における共通点により,本件登録意匠及び甲1意匠はともに,平面的な美感を与えるものである。
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠は,捕捉部(捕集部),渦流生成部の要部が共通し,両者において捕捉部(捕集部)に向かう渦流模様,全体として丸味を帯びた形状及び平面的な形状という美感が共通する以上,両者が類似していることは明らかである。

(イ)相違点は共通する美感を凌駕しない
a 相違点(i)の評価
まず,上記相違点(i)に関し,斜面体(流生成壁)の数の相違は,本件登録意匠と甲1意匠とで美感を相違させるものではない。
すなわち,甲第5号証,甲第6号証,甲第8号証のように斜面体(流生成壁)の数が2個又は3個の場合には,渦の流れが捕捉部(捕集部)の外側を回るように,換言すれば円環状に形成されており,捕捉部(捕集部)に向かって流れ込むというイメージは看取されない。
他方で,本件登録意匠と甲1意匠のように,斜面体(鍠生成壁)が4個以上の場合には,各斜面体(流生成壁)の反時計回り側が捕捉部(捕集部)に向かっており,換言すれば内側に向かった渦の流れが現出される。
以上のとおり,公知意匠と本件登録意匠・甲1意匠とでは,渦の流れの現出の仕方に大きな違いがあり,4個以上の斜面体(流生成壁)を有する本件登録意匠と甲1意匠は,渦が内側に向かって流れ込むという美感が共通するものである。
なお,甲第7号証のヘアキャッチャーも4個の斜面体で構成されているが,前述したとおり,甲第7号証には渦流生成部が高さ方向においてフランジ部より上方に突出しているという顕著な特徴があり,本件登録意匠及び甲1意匠とは異なる構成態様である。
b 相違点(ii)の評価
上記相違点(ii)は堰(部)の有無であるが,前述したとおり,本件登録意匠と甲1意匠はともに,本件登録意匠における堰(部)の存在にかかわらず,各斜面体(流生成壁)の反時計回り側が捕捉部(捕集部)に向かっており,捕捉部(捕集部)に向かって,換言すれば内側に向かう渦の流れが現出される。
したがって,堰(部)の有無にかかわらず,本件登録意匠と甲1意匠は内側に向かう渦の流れという美感が共通している。
c 相違点(iii)?(v)の評価
上記相違点(iii)?(v)が,本件登録意匠と甲1意匠の美感に影響を与えないことは,請求人及び被請求人間において争いがない(甲第3号証)脚注1。
(脚注1:甲3の23頁において,被請求人(被告)は,相違点(i)?(iii)を要部として主張していない。同様に,甲3の25頁において,「これら共通点(具体的構成態様の共通点2,4)は,上述の相違点1?5により凌駕される」と主張し,甲3における相違点6?8,すなわち本審判における相違点(iii)?(v)を美感を左右する理由としていない。)。

エ 本件登録意匠と甲1意匠の意匠に係る物品及び形態の共通点及び相違点の評価に基づく類否の結論
以上のとおり,本件登録意匠と甲1意匠の主要な相違点(斜面体の数及び堰部の有無)を踏まえても,両者において捕捉部(捕集部)に向かう渦流模様,丸味を帯びた形状及び平面的な形状という美感が共通する以上,両者が類似していることは明らかである。

オ むすび
したがって,本件登録意匠と甲1意匠とは類似しているから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

5 請求人が提出した証拠
(1)甲第1号証 意匠登録第1620963号公報(写し)

(2)甲第2号証 本件登録意匠の説明図(写し)

(3)甲第3号証 答弁書(侵害訴訟における被請求人の主張内容)(写し)

(4)甲第4号証の1?7 甲1意匠の説明図(写し)

(5)甲第5号証 意匠登録第1554062号公報(写し)

(6)甲第6号証 意匠登録第1570084号公報(写し)

(7)甲第7号証 意匠登録第1531898号公報(写し)

(8)甲第8号証 意匠登録第1544259号公報(写し)


第3 答弁の趣旨及び理由
被請求人は,審判事件答弁書を提出し,答弁の趣旨を
「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と答弁し,その理由を,要旨以下のとおり主張し,その主張事実を立証するため,後記2に掲げた乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。

1 答弁の理由
(1)審判請求書の「第6 請求の理由」に対する認否
ア 「1 本件意匠登録」(審判請求書(以下単に「請求書」と記す。)第2頁)
認めるが,「(別紙参照)」の部分については,別紙が何を示すのか不明。

イ 「2 手続の経緯」(請求書第2頁)
認める。

ウ 「3 意匠登録無効の理由の要点」(請求書第2頁)
全て否認ないし争う。

エ 「4 本件意匠登録を無効とすべき理由」
(ア)「(1)本件意匠の説明(要旨等)」(請求書第2?4頁)
a「ア 基本的構成態様」(請求書第3頁)
請求人特定のうち,「有底の灰皿状」については認否を留保し,その余の請求人特定については認める。
「灰皿状」の表現で特定される形状は一義的でない。
被請求人特定の本件登録意匠の基本的構成態様については後述する。
b「イ 具体的構成態様」(請求書第3?4頁)
請求人特定のうち,「流生成壁10が三日月形状であること」,および「フランジ部3の12時と6時の位置に,爪11が流生成壁10の外縦壁15に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること」については否認ないし争い,その余の請求人特定については認める。
本件登録意匠の流生成壁10は三日月形状であるとは言えない。
本件登録意匠の平面図において,爪11は12時と6時には形成されていない(3時と9時の位置に形成されている)。
被請求人特定の本件登録意匠の具体的構成態様については後述する。
(イ)「(2)甲1意匠の説明(要旨等)」(請求書第4?5頁)
a「ア 基本的構成態様」(請求書第4?5頁)
「有底の灰皿状」については認否を留保し,その余の請求人特定については認める。
「灰皿状」の表現で特定される形状は一義的でない。
被請求人特定の甲1意匠の基本的構成態様については後述する。
b「イ 具体的構成態様」(請求書第5頁)
請求人特定のうち,「各斜面体60が区画線62A・62Bにより区画されていること」および「各斜面体60が三日月形状であること」については否認ないし争い,その余の請求人特定については認める。
各斜面体60は区画線62A・62B・62Cの3本の線で区画されているのであって,請求人特定のように,各斜面体60は区画線62A・62Bという2本の線では区画されていない。
被請求人特定の甲1意匠の具体的構成態様については後述する。
(ウ)「(3)先行周辺意匠の摘示」(請求書第5?6頁)
認める。
(エ)「(4)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比」(請求書第6?14頁)
a「ア 本件登録意匠と甲第1号証の意匠の意匠に係る物品の対比」(請求書第6頁)
認める。
b「イ 本件登録意匠と甲1意匠の形態の共通点及び相違点の列挙」(請求書第6?8頁)
(a)「(ア)共通点」(請求書第6?7頁)
具体的構成態様の(ii)を除いて認める。
(b)「(イ)相違点」(請求書第7?8頁)
認める。
c「ウ 本件登録意匠と甲1意匠の形態の共通点及び相違点の評価」(請求書第8?13頁)
(a)「(ア)共通点から受ける美感が共通する」(請求書第8?10頁) 請求書第8頁の「上記基本的構成態様における・・・渦流模様を現出するという美感が共通する。」は認める。
但し,基本的構成態様における共通点(i),(ii)に係る態様,および具体的構成態様における共通点(i)に係る態様は,いずれも甲1意匠の出願時における公知意匠にも見られるありふれた形態であって,甲1意匠の要部とはなり得ない。したがって,本件登録意匠と甲1意匠において渦状模様が現出するという美感が共通することが,両意匠の類否判断に与える影響は軽微である。具体的理由については後述する。
請求書第9頁の「また,上記基本的構成態様における・・・全体として丸味を帯びた柔らかな美感を生じさせる。」は認める。
但し,基本的構成態様における共通点(iv)に係る形態は,甲1意匠の出願時における公知意匠にも見られるありふれた形態であって,甲1意匠の要部とはなり得ず,したがって,本件意匠と甲1意匠において全体として丸味を帯びた柔らかな美感が共通することも,両意匠の類否判断に与える影響は軽微である。具体的理由については後述する。
請求書第9?10頁の「以上の各共通点については・・・両者が類似していることは明らかである。」については,全て否認ないし争う。具体的理由については後述する。
(b)「(イ)相違点は共通する美感を凌駕しない」(請求書第10?13頁)「a 相違点(i)の評価」(請求書第10?12頁)
「まず,上記相違点(i)に関し・・・捕捉部(捕集部)に向かって流れ込むというイメージは看取されない。」(請求書第10頁),「他方で,本件登録意匠と・・・換言すれば内側に向かった渦の流れが現出される。」(請求書第11頁),「以上のとおり,公知意匠と本件登録意匠・甲1意匠とでは,渦の流れの現出の仕方に大きな違いがあり,」(請求書第12頁),「なお,甲第7号証のヘアキャッチャーも4個の斜面体で構成されているが・・・異なる構成態様である。」(請求書第12頁)は否認ないし争う。
「本件登録意匠と甲1意匠は,渦が内側に向かって流れ込むという美感が共通するものである。」(請求書第12頁)は認める。但し,上述と同様に,本件登録意匠と甲1意匠において,渦が内側に向かって流れ込むという美感が共通することが,両意匠の類否判断に与える影響は軽微である。
具体的理由については後述する。
(c)「b 相違点(ii)の評価」(請求書第12頁)
認める。但し,渦が内側に向かって流れ込むという美感が共通することは,両意匠の類否判断に与える影響は軽微である。一方,堰(部)の有無は,両意匠の類否判断に多大な影響を与える。具体的理由については後述する。
(d)「c 相違点(iii)?(v)の評価」(請求書第13頁)
認める。
脚注1は否認ないし争う。審判被請求人は,訴状に対する答弁書(甲第3号証)において,斜面体の数が6個であることや堰部が存在することなどを被告意匠の要部として主張しており,甲第3号証において,相違点(i),(ii)に係る被告意匠の構成は被告意匠の要部であると明確に主張しているから,請求人主張は失当である。
d「エ 本件登録意匠と甲1意匠の意匠に係る物品及び形態の共通点及び相違点の評価に基づく類否の結論」(請求書第13頁)
全て否認ないし争う。
e「オ むすび」(請求書第13?14頁)
否認ないし争う。

オ 「5 侵害訴訟の係属」
認める。

(2)被請求人の主張
ア 本件登録意匠
(ア)各部材の詳細構成
本件登録意匠の形態は,乙第1号証の登録公報に開示されているとおりであるが,これを乙第2号証の1?7を用いて,詳細に示すと以下の如くとなる。
なお,下記の被請求人による本件登録意匠の特定においては,部材名称を請求人特定の甲1意匠の部材名称に合わせている。具体的には乙第1号証の登録公報における「捕集部」,「旋回流生成部」および「流生成壁」のそれぞれを,請求人特定の甲1意匠の部材名称に合わせて,「捕捉部」,「渦流生成部」,および「斜面体」としている。
a 全体形状
(a)本件登録意匠は,浴室の排水口に取り付けられて排水中に含まれる毛髪等を捕集するヘアキャッチャーである。
(b)乙第2号証の1に示すように,本件登録意匠は,平面視において全体が円形状に形成されており,その中心に位置して排水中に含まれる毛髪等を捕捉する円形状の捕捉部1と,捕捉部1の外側に形成されて該捕捉部1に向かう水流を生成する円環状の渦流生成部2と,渦流生成部2の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部3とで構成される。
(c)同号証の1,2に示すように,捕捉部1は,平面視において円状に形成された底壁4と,底壁4の周縁から上方に伸びる筒壁5とからなり,上方開口を有する椀状に形成されている。渦流生成部2は,捕捉部1の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている。渦流生成部2は,高さ方向においてフランジ部3よりも上方に突出していない。フランジ部3は,渦流生成部2の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている。
b 捕捉部1
(a)同号証の2に示すように,捕捉部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)には,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されており,この整流体6を囲むように捕捉部1の底壁4には,複数個の排水孔7が開設されている。
(b)同号証の3に示すように,底壁4には,整流体6を囲むように同心円状に計3列の排水孔群8(8A?8C)が形成されている。同心円状に配設された各排水孔群8A?8Cは,それぞれ12個の排水孔7で構成されており,底壁4には,計36個の排水孔7が形成されている。各排水孔群8A?8Cを構成する排水孔7は,隣り合う排水孔群8・8を構成する排水孔7に対して半ピッチずつ位置ずれされている。各排水孔7は平面視で円形に形成されている。
(c)同号証の2に示すように,捕捉部1の底壁4と筒壁5とを連結するコーナー部9は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部1は,正面視において隅丸矩形状とされている。
c 渦流生成部2
(a)同号証の1,6に示すように,渦流生成部2には,排水を捕捉部1に導く斜面体10が形成されている。本件登録意匠では,計4個の斜面体10が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置されている。
(b)同号証の4,5に示すように,平面視における斜面体10は,円形状の捕捉部1の筒壁5の一つの接点11を起点として正接円弧状に外周方向に向かって伸びる長辺の第1湾曲線12Aと,第1湾曲線12Aよりも反時計方向側に位置し,該接点11を起点として正接円弧状に外周方向に向かって伸びる短辺の第2湾曲線12Bと,捕捉部1の筒壁5と同心に形成されて,渦流生成部2の最外周部を区画する円弧状の第3湾曲線12Cとで区画されており,時計方向と反時計方向の両方向に向かって漸次幅寸法が小さくなる「鎌」状に形成されている。斜面体10の第2湾曲線12Bは,当該斜面体10に対して反時計方向側に隣り合う他の斜面体10の第1湾曲線12Aの一部と重複している。
(c)以上より,平面視における本件登録意匠の斜面体10は,上記の第1?第3湾曲線12A?12Cという曲線を基調とするものとなっている。
(d)また,本件登録意匠においては,時計方向側と反時計方向側の両方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる「鎌」状に形成された計4個の斜面体10が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置されているため,平面視において,本件登録意匠の渦流生成部2には「渦流模様」が現出されている。
(e)同号証の6に示すように,各斜面体10は,先の接点11が最下点となるように,反時計方向に向かって下り傾斜する傾斜壁13と,第2湾曲線12Bに沿って上方に伸びて,反時計方向側の隣り合う斜面体10との間を仕切る内縦壁14と,第3湾曲線12Cに沿って上方に伸びる外周縦壁15と,傾斜壁13との時計方向側の外周部に,部分的に上方に向かって膨出形成された堰部16とで構成される。すなわち,平面視において,各斜面体10の時計方向側の外周部には堰部16が形成されている。
(f)同号証の4,5に示すように,平面視における堰部16は,中心側から外周側に向かって漸次幅寸法が大きくなる外拡がりのテーパー状に形成されている。より詳しくは,堰部16は,平面視において,第1湾曲線12Aの捕捉部1の筒壁5との分岐点17(時計方向側に隣り合う斜面体10の接点11)よりも外周側寄りに位置する点を始点18として,該第1湾曲線12Aから分岐して,外周方向に向かって伸びる第4湾曲線12Dと,該始点18よりも外周側に位置する第1湾曲線12Aの一部と,第3湾曲線12Cの一部とで区画されており,第1湾曲線12Aに対する第4湾曲線12Dの周方向の対向間隔寸法は,中心側から外周側に向かって漸次大きくなるように設定されている。第4湾曲線12Dに沿って,傾斜壁13の上面からは逆流防止壁19が立設されている。以上より,平面視において,斜面体10の時計方向側の外周部には,細長の略三角形状であり,各外拡がりテーパー状の堰部16が現出される。また,斜め上方から見たとき,内縦壁14の上辺は,堰部16の形成箇所において上方に大きく跳ね上がる段付き状とされている(同号証の6参照)。
(g)堰部16は各斜面体10に設けられているため,本件登録意匠には計4個の堰部16が形成されている。各堰部16は,平面視において外周側から反時計方向側に向かって長く形成されているため,各堰部16の伸び方向は反時計方向に指向している。したがって,これら4つの堰部16により,本件登録意匠の渦流生成部2には,平面視において,反時計方向に指向する渦状模様が現出されている。また,これら堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様により,先の「鎌」状の斜面体10に由来する渦流生成部2の反時計方向に指向する渦状模様はより一層強調されており,当該渦状模様は,より明確なものとなっている。加えて,堰部16の存在により,隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されるため,この点でも本件登録意匠の渦流生成部2に現出される反時計方向の渦状模様は,より明確となる。
(h)同号証の5に示すように,傾斜壁13には,反時計方向側から時計方向側に向かって,第1?第5の計5つの排水孔列20(20A?20E)が形成されている。各排水孔列20A?20Eは,平面視において外周側から中心側に向かって列設された複数個の排水孔21で構成される。第1?第3排水孔列20A?20Cは,それぞれ4つの排水孔21で構成される。
第4排水孔列20Dは3つの排水孔21(後述の開口22が形成された傾斜壁13においては,2つの排水孔21)で構成され,第5排水孔列20Eは2つの排水孔21で構成される。各排水孔列20A?20Eを構成する排水孔21の径寸法は,外周側が大きく,中心側が小さくなるように設定されている。
(i)同号証の1に示すように,平面視において3時と9時の位置に存する斜面体10を構成する傾斜壁13には,長方形状の開口22が形成されている。
d フランジ部3
(a)同号証の1,2,および7に示すように,フランジ部3は,渦流生成部2の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されており,平面視において円環状に形成されている。
(b)フランジ部3の3時と9時の位置には,爪23が形成されている。爪23は,斜面体10の外周縦壁15に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されており,この爪23の周囲にはコ字状の切り欠き24が形成されている。
(c)フランジ部3の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部25が形成されている。
(d)同号証の2に示すように,フランジ部3の上下方向の肉厚寸法は,捕捉部1や渦流生成部2の肉厚寸法よりも小さく設定されている。また,正面視において,フランジ部3の上面は外周方向に向かって下り傾斜されている。
(e)同号証の7に示すように,フランジ部3の裏面の1時,4時,7時,および10時の位置には,ピン26が下方に向かって突設されている。
(f)フランジ部3の裏面には,易破断用の薄肉部27が形成されており,この薄肉部27を利用してフランジ部3の外周側の一部を円弧状に分離することで,フランジ部3の外周寸法を小さくすることができる。このとき,フランジ部3の一部とともに,爪23を分離することで,フランジ部3に開口22に由来する凹入部28を形成することができる。
(イ)本件登録意匠の基本的構成態様と具体的構成態様
以上を踏まえたうえで,本件登録意匠の基本的構成態様と具体的構成態様とを列挙すると以下の如くとなる。
a 基本的構成態様
平面視において全体が円形状に形成され,その中心に位置する円形状の捕捉部1と,捕捉部1の外側に形成されて該捕捉部1に向かう水流を生成する渦流生成部2と,渦流生成部2の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部3とで構成され,捕捉部1は,平面視において円状に形成された底壁4と,底壁4の外周縁から上方に伸びる筒壁5とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部2は,捕捉部1の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,フランジ部3は,渦流生成部2の上端外縁から水平外方向に張り出し形成されていること。
渦流生成部2は,高さ方向においてフランジ部3より上方に突出していないこと。
渦流生成部2に,捕捉部1に向かう渦状模様が現出されていること。
捕捉部1と渦流生成部2に多数個の排水孔7・21が形成されていること。
正面視において,捕捉部1の底壁4と筒壁5とを連結するコーナー部9は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部1は,正面視において隅丸矩形状とされていること。
b 具体的構成態様
渦流生成部2が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置された計4個の斜面体10で構成されていること。
平面視において各斜面体10が湾曲線(第1?第3湾曲線)により区画されており,平面視において各斜面体10が曲線を基調とするものとなっていること。また,平面視において,各斜面体10が時計方向側と反時計方向側のいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる「鎌」状に形成されていること。
4個の「鎌」状の斜面体10により,渦流生成部2には渦状模様が現出されていること。
平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に,堰部16が形成されていること。
各堰部16が,中心側から外周側に向かって漸次幅寸法が大きくなる外拡がりのテーパー状であり,しかも各堰部16の伸び方向は反時計方向に指向しているため,渦流生成部2には,これら4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様が現出されていること。
これら4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様により,先の「鎌」状の斜面体10に由来する渦流生成部2の反時計方向に指向する渦状模様がより一層強調されること,および堰部16で隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されることにより,渦流生成部2に形成される渦状模様が明確なものとなっていること。
捕捉部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されていること。
この整流体6を囲むように捕捉部1の底壁4には,複数個の排水孔7が開設されていること。
フランジ部3の3時と9時の位置に,爪23が斜面体10の外周縦壁15に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること。
フランジ部3の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部25が形成されていること。
フランジ部3の裏面の1時,4時,7時,および10時の位置に,ピン26が下方に向かって突設されていること。
フランジ部3の裏面に,易破断用の薄肉部27が形成されていること。

イ 甲1意匠
(ア)各部材の詳細構成
甲1意匠の形態を,甲第4号証の1?7を用いて,より詳細に示すと以下の如くなる。
a 全体形状
(a)甲1意匠は,浴室の排水口等に設置し,毛髪等を捕捉するためのものである。
(b)甲第4号証の1の平面図に示すように,甲1意匠は,平面視において全体が円形状に形成されており,その中心に位置して排水中に含まれる毛髪等を捕捉する円形状の捕捉部51と,捕捉部51の外側に形成されて該捕捉部51に向かう水流を生成する渦流生成部52と,渦流生成部52の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部53とで構成される。
(c)甲第4号証の1の平面図,および同号証の2の縦断側面図に示すように,捕捉部51は,平面視において円形状に形成された底壁54と,底壁54の外周縁から上方に伸びる筒壁55とからなり,上方開口を有する椀状に形成されている。渦流生成部52は,捕捉部51の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている。渦流生成部52は,高さ方向においてフランジ部53よりも上方に突出していない。フランジ部53は,渦流生成部52の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている。
b 捕捉部51
(a)同号証の3に示すように,捕捉部51の底壁54には,同心円状に計4列の排水孔群58(58A?58D)が形成されている。最中心部に形成された排水孔群58Aは,計6個の排水孔57で構成されており,他の排水孔群58B?58Dは,それぞれ12個の排水孔57で構成されており,底壁54には,計42個の排水孔57が形成されている。各排水孔群58A?58Dを構成する排水孔57は,隣り合う排水孔群58・58を構成する排水孔57に対して半ピッチずつ位置ずれされている。各排水孔57は平面視で円形に形成されている。
(b)同号証の2に示すように,捕捉部51の底壁54と筒壁55とを連結するコーナー部59は,正面視においてR状に湾曲されている。
c 渦流生成部52
(a)同号証の1に示すように,渦流生成部52には,排水を捕捉部51に導く斜面体60が複数個形成されている。本件意匠では,計6つの斜面体60が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置されている。
(b)同号証の4,5に示すように,平面視における各斜面体60は,捕捉部51から外周方向に向かって伸びる2つの区画線(第1区画線62A・第2区画線62B)と,渦流生成部52の最外周部を区画する湾曲線である区画線(第3区画線62C)とで区画されている。第1区画線62Aは,円状の捕捉部51の筒壁55の一つの接点61を起点として,該捕捉部51の外縁と一致する部分円弧状の第1線62Dと,第1線62Dに連続して外周方向に向かう略直線状の第2槹62Eと,第2線62Eの外端に形成された部分円弧状の第3線62Fとで構成されている。第2区画線62Bは,上記接点61から外周方向に向かう略直線状の第2線62Eと,第2線62Eの外端に形成された部分円弧状の第3線62Fとで構成されている。斜面体60の第2区画線62Bを構成する第2線62Eは,当該斜面体60に対して反時計方向側に隣り合う他の斜面体60の第1区画線62Aを構成する第2線62Eと重複している。第1区画線62Aと第2区画線62Bは,略直線状の第2線62Eが大部分を占めており,平面視における本件意匠の斜面体60は,上記の直線を基調とするものとなっている。また,このように斜面体60が,直線を基調とするものであるため,平面視における各斜面体60は略三角形状に形成されている。また,各斜面体60は,時計方向側と反時計方向側のいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなるものとされている。
(c)同号証の2,6に示すように,各斜面体60は,先の接点61が最下点となるように,反時計方向に向かって下り傾斜する傾斜壁63と,第2区画線62Bに沿って上方に伸びて,反時計方向側の隣り合う斜面体60との間を仕切る内縦壁64と,第3区画線62Cに沿って上方に伸びる外周縦壁65とで構成される。
(d)同号証の5に示すように,傾斜壁63には,反時計方向側から時計方向側に向かって,第1?第5の計5つの排水孔列70(70A?70E)が形成されている。各排水孔列70A?70Eは,平面視において外周側から中心側に向かって列設された複数個の排水孔71で構成される。第1,第2排水孔列70A・70Bは,それぞれ4つの排水孔71で構成され,第3排水孔列70Cは5つの排水孔71で構成される。第4排水孔列70Dは4つの排水孔71(後述の開口72が形成された傾斜壁63においては,3つの排水孔71)で構成され,第5排水孔列70Eは3つの排水孔71で構成される。第3,第4および第5の排水孔列70C?70Eを構成する排水孔71の径寸法は,外周側が大きく,中心側が小さくなるように設定されている。
(e)同号証の1の平面図に示すように,12時と6時の位置に存する渦流生成部52を構成する傾斜壁63には,長方形状の開口72が形成されている。
d フランジ部53
(a)フランジ部53は,渦流生成部52の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されており,円環状に形成されている。
(b)フランジ部53の12時と6時の位置には,爪73が形成されている。爪73は,斜面体60の外周縦壁65に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されており,この爪73の周囲にはコ字状の切り欠き74が形成されている。
(c)同号証の1の平面図に示すように,フランジ部53の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部75が形成されている。
(d)フランジ部53の裏面には,易破断用の薄肉部77が形成されており,この薄肉部77を利用してフランジ部53の外周側の一部を円環状に分離することで,フランジ部53の外周寸法を小さくすることができる。このとき,フランジ部53の一部とともに,爪73を分離することで,フランジ部73に開口72に由来する凹入部を形成することができる。
(e)平面視におけるフランジ部53の1時,4畤,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されている。
(イ)甲1意匠の基本的構成態様と具体的構成態様について以上を踏まえたうえで,甲1意匠の基本的構成態様と具体的構成態様とを列挙すると以下の如くとなる。
a 基本的構成態様
平面視において全体が円形状に形成されており,その中心に位置して排水中に含まれる毛髪等を捕捉する円形状の捕捉部51と,捕捉部51の外側に形成されて該捕捉部51に向かう水流を生成する渦流生成部52と,渦流生成部52の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部53とで構成され,捕捉部51は,平面視において円形状に形成された底壁54と,底壁54の外周縁から上方に伸びる筒壁55とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部52は,捕捉部51の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,フランジ部53は,渦流生成部52の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されていること(基本的構成態様1)。
渦流生成部52は,高さ方向においてフランジ部53より上方に突出していないこと(基本的構成態様2)。
渦流生成部52に,捕捉部51に向かう渦状模様が現出されていること(基本的構成態様3)。
捕捉部51と渦流生成部52に多数個の排水孔57・71が形成されていること(基本的構成態様4)。
正面視において,捕捉部51の底壁54と筒壁55とを連結するコーナー部59は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部51は,正面視において隅丸矩形状とされていること(基本的構成態様5)。
b 具体的構成態様
渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成されていること(具体的構成態様1)。平面視において各斜面体60が,略直線が大部分を占める区画線62A・62B,および湾曲線である区画線62Cにより区画されており,平面視において各斜面体60が,時計方向側と反時計方向側のいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる略三角形状に形成されていること(具体的構成態様2)。
6個の「略三角形状」の斜面体60により,渦流生成部52には渦状模様が現出されていること(具体的構成態様3)。
フランジ部53の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部75が形成されていること(具体的構成態様4)。
フランジ部53の12時と6時の位置に,爪73が斜面体60の外周縦壁65に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること(具体的構成態様5)。
フランジ部53の裏面に,易破断用の薄肉部77が形成されていること(具体的構成態様6)。
平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されていること(具体的構成態様7)。

ウ 甲1意匠と本件登録意匠との比較
(ア)物品について
甲1意匠と本件登録意匠とは,浴室の排水口に取り付けられて排水中に含まれる毛髪等を捕集するヘアキャッチャーである点で共通する。
(イ)基本的構成態様の共通点について
甲1意匠の基本的構成態様と本件登録意匠の基本的構成態様を比較すると,両意匠は以下の点で共通する。
a 平面視において全体が円形状に形成されており,その中心に位置して排水中に含まれる毛髪等を捕捉する円形状の捕捉部と,捕捉部の外側に形成されて該捕捉部に向かう水流を生成する渦流生成部と,渦流生成部の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成され,捕捉部は,平面視において円形状に形成された底壁と,底壁の外周縁から上方に伸びる筒壁とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部は,捕捉部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,フランジ部は,渦流生成部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている点(基本的構成態様に係る共通点1)。
b 渦流生成部は,高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない点(基本的構成態様に係る共通点2)。
c 渦流生成部に,捕捉部に向かう渦状模様が現出されている点(基本的構成態様に係る共通点3)。
d 捕捉部と渦流生成部に多数個の排水孔が形成されている点(基本的構成態様に係る共通点4)。
e 正面視において,捕捉部の底壁と筒壁とを連結するコーナー部は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部は,正面視において隅丸矩形状とされている点(基本的構成態様に係る共通点5)。
(ウ)具体的構成態様の共通点について
甲1意匠の具体的構成態様と本件登録意匠の具体的構成態様を比較すると,両意匠は以下の点で共通する。
a 渦流生成部が,捕捉部を中心とする等角度位置に配置された複数個の斜面体で構成されている点(具体的構成態様の共通点1)。
b フランジ部の向かい合う位置に,爪が斜面体の外周縦壁に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されている点(具体的構成態様の共通点2)。
c フランジ部の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部が形成されている点(具体的構成態様の共通点3)。
d フランジ部の裏面に,易破断用の薄肉部が形成されている点(具体的構成態様の共通点4)。
(エ)基本的構成態様における相違点について
上記のように,甲1意匠の基本的構成態様と本件登録意匠の基本的構成態様を比較すると,両意匠は基本的構成態様1?5の全てにおいて共通しており,基本的構成態様における相違点は存在しない。
(オ)具体的構成態様における相違点について
甲1意匠の具体的構成態様と本件登録意匠の具体的構成態様を比較すると,両意匠は以下の点で相違する。
a 甲1意匠では,渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成されているのに対して,本件登録意匠では,渦流生成部2が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置された計4個の斜面体10で構成されている点(相違点1)。
b 甲1意匠では,平面視において各斜面体60が略直線が大部分を占める区画線62A・62Bにより区画されており,各斜面体60が直線を基調とする略三角形状に形成されているのに対して,本件登録意匠では,平面視において各斜面体10が湾曲線(第1?第3湾曲線12A?12C)により区画されており,各斜面体10が曲線を基調とする「鎌」状に形成されている点(相違点2)。
c 本件登録意匠では,平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に堰部16が形成されているのに対して,甲1意匠では,そのような堰部が存在しない点(相違点3)。
d 本件登録意匠では,渦流生成部2には,4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様が現出されているのに対して,甲1意匠では,堰部が存在しない以上,当該堰部に由来する渦状模様が現出されていない点(相違点4)。
e 本件登録意匠では,これら4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様により,先の「鎌」状の斜面体10に由来する渦流生成部2の反時計方向に指向する渦状模様がより一層強調されること,および堰部16で隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されることにより,渦流生成部2に形成される渦状模様が明確なものとなっているのに対して,甲1意匠では,堰部が存在しない以上,上記のような渦流生成部における渦状模様の強調化や明確化が図られていない点(相違点5)。
f 本件登録意匠では,捕捉部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されているのに対して,甲1意匠では,整流体6が存在しない点(相違点6)。
g 本件登録意匠では,フランジ部3の裏面の1時,4時,7時,および10時の位置に,ピン26が下方に向かって突設されているのに対して,甲1意匠では,ピンが存在しない点(相違点7)。
h 甲1意匠では,平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されているのに対して,本件登録意匠では,「コ」字状の切り欠きが存在しない点(相違点8)。

エ 看者が注意を惹く構成について
(ア)甲1意匠および本件登録意匠の物品であるヘアキャッチャーの需要者は,一般消費者,或いはヘアキャッチャーを販売する卸売業者である。
(イ)甲1意匠および本件登録意匠の物品であるヘアキャッチャーは,浴室の排水口に取り付けられて排水中に含まれる毛髪等を捕集する用途に用いられるものであるため,その使用時においては,上方から,又は斜め上方から俯瞰して観察される外観が当該ヘアキャッチャーの利用者(看者)の注意を惹くものであると考えられる。そして,ヘアキャッチャーの上方から俯瞰して観察される外観は,甲1意匠や本件登録意匠の平面図に現出される構成であり,ヘアキャッチャーの斜め上方から俯瞰して観察される外観は,甲1意匠や本件登録意匠の斜視図に現出される構成である。
(ウ)加えて,この種のヘアキャッチャーの購入時には,その裏面の形状等にも一定の注意を払うものであると考える。ヘアキャッチャーの裏面の形状は,甲1意匠や本件登録意匠の底面図に現出される構成である。

オ 公知意匠
(ア)甲1意匠の出願時に既に公知であった意匠(公知意匠)に開示されている部分は,看者にとってありふれて見えるものとなるため,注意を惹かないし,重きが置かれない部分となり,要部となり得ない。そこで,甲1意匠の出願時(出願日:2018年(平成30年1月22日))のヘアキャッチャー,或いはヘアキャッチャーに類似する物品分野における公知意匠を列挙すると,以下の如くとなる。
a 乙第3号証の1(甲第5号証)
意匠登録第1554062号公報
公報発行日:2016年7月19日
意匠に係る物品:ヘアキャッチャー
b 乙第4号証の1(甲第6号証)
意匠登録第1570084号公報
公報発行日:2017年2月20日
意匠に係る物品:ヘアキャッチャー
c 乙第5号証の1(甲第7号証)
意匠登録第1531898号公報
公報発行日:2015年8月24日
意匠に係る物品:ヘアキャッチャー
d 乙第6号証の1(甲第8号証)
意匠登録第1544259号公報
公報発行日:2016年2月22日
意匠に係る物品:ヘアキャッチャー
e 乙第7号証
実開昭51-105866号(実願昭50-024575号)のマイクロフィルム
公開日:1976年8月24日
考案の名称:排水誘導具
f 乙第8号証
米国意匠第599,444号公報(USD599,444S)
登録日:2009年9月1日
物品の名称:ゴム製バスケットストレーナー
g 乙第9号証
米国意匠第597,181号公報(USD597,181)
登録日:2009年7月28日
物品の名称:ゴミ処理ストッパー

なお,請求人が提出した甲第5?8号証は,侵害訴訟において被告(被請求人)が提出した証拠のコピーであって,図面が不鮮明で証拠としては不適であるため,乙第3号証の1?乙第6号証の1として再提出する。
(イ)乙第3号証の1?乙第6号証の1(甲第5号証?甲第8号証)に係るヘアキャッチャー
a 乙第3号証の1?乙第6号証の1に係るヘアキャッチャー(以下,単に「乙第3?6号証のヘアキャッチャー」と記す。)は,平面視において全体が円形状に形成されており,その中心に位置して排水中に含まれる毛髪等を捕捉する円形状の捕捉部と,捕捉部の外側に形成されて該捕捉部に向かう水流を生成する渦流生成部と,渦流生成部の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成され,捕捉部は,平面視において円形状に形成された底壁と,底壁の外周縁から上方に伸びる筒壁とからなり,上方開口を有する椀状に形成され,渦流生成部は,捕捉部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成され,フランジ部は,渦流生成部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている(基本的構成態様1の全部,部材名称については,乙第3号証の2,3,乙第4号証の2,3,乙第5号証の2,3,および乙第6号証の2,3参照)。
b 乙3?6号証のヘアキャッチャーの渦流生成部には,捕捉部に向かう渦状模様が現出されている(基本的構成態様3の全部)。
c 乙3?6号証のヘアキャッチャーの捕捉部と渦流生成部に多数個の排水孔が形成されている(基本的構成態様4の全部)。
d 乙3?5号証のヘアキャッチャーでは,正面視において,捕捉部の底壁と筒壁とを連結するコーナー部は,正面視においてR状に湾曲されており,換言すれば,捕捉部は,正面視において隅丸矩形状とされている(基本的構成態様5の全部)。
e 乙3?6号証のヘアキャッチャーの渦流生成部は,捕捉部を中心とする等角度位置に配置された複数個の斜面体で構成されている。乙3号証のヘアキャッチャーの渦流生成部は3個の斜面体で構成され,乙4号証のヘアキャッチャーの渦流生成部は2個の斜面体で構成され,乙第5号証のヘアキャッチャーの渦流生成部は4個の斜面体で構成され,乙6号証のヘアキャッチャーの渦流生成部は2個の斜面体で構成されている(具体的構成態様1の一部)。
f 乙第3?6号証のヘアキャッチャーのフランジ部の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部が形成されている(具体的構成態様4の全部)。
(ウ)乙第7号証
a 同号証の排水誘導具は,平面視において全体が円形状に形成されている。同号証の排水誘導具は,水流を形成する渦流生成部(螺旋状山形)と,渦流生成部の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成されており,フランジ部は,渦流生成部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている(基本的構成態様1の一部)。
b 渦流生成部(螺旋状山形)は,高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない(基本的構成態様2)。
c 渦流生成部(螺旋状山形)には捕捉部に向かう渦状模様が現出されている(基本的構成態様3)。
d 渦流生成部(螺旋状山形)には多数個の排水孔が形成されている(基本的構成態様4)。
(エ)乙第8号証
a 同号証のゴム製バスケットストレーナーは,平面視において全体が円形状に形成されている。同号証のゴム製バスケットストレーナーは,水流を形成する渦流生成部と,渦流生成部の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成されており,フランジ部は,渦流生成部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている(基本的構成態様1の一部)。
b 渦流生成部は,高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない(基本的構成態様2)。
c 渦流生成部には渦状模様が現出されている(基本的構成態様3の一部)。
d 渦流生成部には多数個の排水孔が形成されている(基本的構成態様4)。
(オ)乙第9号証
a 同号証のゴミ処理ストッパーは,平面視において全体が円形状に形成されている。同号証のゴミ処理ストッパーは,水流を形成する渦流生成部と,渦流生成部の外側に形成されて排水口への装着を担う円環状のフランジ部とで構成されており,フランジ部は,渦流生成部の上端外縁から水平外方向に向かって張り出し形成されている(基本的構成態様1の一部)。
b 渦流生成部は,高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない(基本的構成態様2)。
c 渦流生成部には渦状模様が現出されている(基本的構成態様3の一部)。

カ 甲1意匠の要部
(ア)このように甲1意匠の基本的構成態様1?5の全ては,甲1意匠の出願時に公知であった乙第3?9号証の公知意匠にも見られるありふれた形態であるから,当該基本的構成態様1?5の全ては,看者の注意を最も惹きやすい部分であるとは言えず,甲1意匠の要部となり得ない。
(イ)同様に,甲1意匠の具体的構成態様4(フランジ部3の外周縁の12時,3時,6時,および9時の位置には,略円弧状の凹み部75が形成されていること)は,甲1意匠の出願時に公知であった乙3?6号証にも見られるありふれた形態であるから,当該具体的構成態様4も甲1意匠の要部となり得ない。
(ウ)他方,渦流生成部52に捕捉部51に向かう渦状模様が現出されていることは公知意匠に見られてありふれているといえるものの,当該渦状模様を現出させる渦流生成部52に係る具体的構成態様は,渦流生成部52が甲1意匠のうちの広い範囲を占めるものであること,甲1意匠に係るヘアキャッチャーの上方から俯瞰して観察したとき明確に視認できるものであることに鑑みれば,その形状の如何は看者の受ける印象に大いに影響を与えるものであると考える。
(エ)以上の点を考慮しつつ,甲1意匠について総合的に検討すると,その要部は基本的構成態様であるものの要部であるとはいえない構成(基本的構成態様1?5に係る構成)に,渦流生成部52を捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成し(具体的構成態様1),各斜面体60を略三角形状に形成し(具体的構成態様2),これら6個の略三角形状の斜面体60により,渦流生成部52に渦状模様を現出させたこと(具体的構成態様3)の全てを構成を備えた点にあると解する。
(オ)なお,フランジ部53の12時と6時の位置に,爪73が斜面体60の外周縦壁65に連続して外方向に向かって片持ち状に張り出し形成されていること(具体的構成態様5),フランジ部53の裏面に,易破断用の薄肉部77が形成されていること(具体的構成態様6),および平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されていること(具体的構成態様7)は,甲1意匠に占める割合は小さく,看者の受ける印象に与える影響は小さく,甲1意匠の要部となり得ない。

類否判断
(ア)両意匠の共通点の評価
a まず,上述のように基本的構成態様に係る共通点1?5に係る構成は,全て甲1意匠の出願時に公知であった乙第3?9号証の公知意匠にも見られるありふれた形態であるから,当該基本的構成態様に係る共通点1?5は,ヘアキャッチャーとしての両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点にすぎず,特徴的な形態ではない。したがって,これら基本的構成態様に係る共通点1?5に係る構成に需要者が注意を払う程度は小さく,これら共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
b 同様に,具体的構成態様に係る共通点1,および共通点3の構成は,甲1意匠の出願時に公知であった乙第3?6号証の公知意匠にも見られるありふれた形態である。したがって,この具体的構成態様に係る共通点1も,両意匠にのみに共通する特徴ではないから,需要者が注意を払う程度は小さく,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
c 具体的構成態様に係る共通点2,および共通点4の構成が物品全体に占める割合は極めて小さい。したがって,これら具体的構成態様に係る共通点2,および共通点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(イ)両意匠の差異点の評価
a 両意匠は,渦流を生じさせて髪の毛を捕捉するヘアキャッチャーであるから,渦流生成部の具体的な構成は渦流を生じさせるという機能を大きく左右する。加えて,平面視や上方視において,全体形状における渦流生成部の占める割合は極めて大きい。したがって,渦流生成部の具体的構成態様は,両意匠の全体の基調を顕著に表出し,類否判断を左右するものである。
b 具体的には,甲1意匠では,渦流生成部52が,捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成されているのに対して,本件登録意匠では,渦流生成部2が,捕捉部1を中心とする等角度位置に配置された計4個の斜面体10で構成されている点(相違点1),甲1意匠では,平面視において各斜面体60が略直線が大部分を占める区画線62A・62Bにより区画されており,各斜面体60が直線を基調とする略三角形状に形成されているのに対して,本件登録意匠では,平面視において各斜面体10が湾曲線(第1?第3湾曲線12A?12C)により区画されており,各斜面体10が曲線を基調とする「鎌」状に形成されている点(相違点2),本件登録意匠では,平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に堰部16が形成されているのに対して,甲1意匠では,そのような堰部が存在しない点(相違点3),本件登録意匠では,渦流生成部2には,4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様が現出されているのに対して,甲1意匠では,堰部が存在しない以上,当該堰部に由来する渦状模様が現出されていない点(相違点4),および本件登録意匠では,これら4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様により,先の「鎌」状の斜面体10に由来する渦流生成部2の反時計方向に指向する渦状模様がより一層強調されることと,堰部16で隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されることにより,渦流生成部2に形成される渦状模様が明確なものとなっているのに対して,甲1意匠では,堰部が存在しない以上,上記のような渦流生成部における渦状模様の強調化や明確化が図られていない点(相違点5)などの,両意匠の渦流生成部の具体的構成態様に係る相違点が,両意匠の全体の基調を顕著に表出し,類否判断を大きく左右するものである。
c 他方,本件登録意匠では,捕捉部1の底壁4の上面の中心部(平面視における中心部)に,擬宝珠状の整流体6が上方に向かって膨出形成されているのに対して,甲1意匠では,整流体6が存在しない点(相違点6),本件登録意匠では,フランジ部3の裏面の1時,4時,7時,および10時の位置に,ピン26が下方に向かって突設されているのに対して,甲1意匠では,ピンが存在しない点(相違点7),および甲1意匠では,平面視におけるフランジ部53の1時,4時,7時,および10時の位置には,「コ」字状の切り欠き80が形成されているのに対して,本件登録意匠では,「コ」字状の切り欠きが存在しない点(相違点8)などについては,これら相違点に係る構成が物品全体に占める割合は極めて小さく,したがって,これら相違点6,7,8が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(ウ)意匠の類否
a 前記のとおり,本件登録意匠は,甲1意匠の基本的構成態様1?5の構成は有しているが,具体的構成態様1?3の構成は有していない。そして,上記のように甲1意匠の要部は,基本的構成態様1?5の構成を有していることを前提として,具体的構成態様1?3の構成を備えていることであるから,本件登録意匠は,甲1意匠の要部のうち,具体的構成態様1?3の構成を有していない。
b これらのうち,本件登録意匠では4個の斜面体10で渦流生成部52が形成されているのに対して,甲1意匠では6個の斜面体60で渦流生成部2が形成されているという構成の違いにより,本件登録意匠では,平面視における一つ一つの斜面体10の渦流生成部2に占める面積は,甲1意匠のそれよりも大きくなっており,本件登録意匠は,甲1意匠に比べて,よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっている。
c また,甲1意匠では,平面視において各斜面体60が略直線が大部分を占める区画線62A・62Bにより区画されており,各斜面体60が直線を基調とする略三角形状に形成されているため,斜面体60の単独から付与される渦の流れのイメージは弱く,より繊細な渦のイメージを与えるものとなっているのに対して,本件登録意匠では,平面視において各斜面体10が湾曲線(第1?第3湾曲線12A?12C)により区画されており,各斜面体10が曲線を基調とする「鎌」状に形成されており,各斜面体10自体が反時計方向側に指向する「渦」を想起させる形状となっている。したがって,かかる渦流生成部を構成する各斜面体の形状の違いによっても,本件登録意匠は,甲1意匠に比べて,よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっている。
d さらに,本件登録意匠では,平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に堰部16が形成されており,渦流生成部2には,4個の堰部16に由来する半時計方向に指向する渦状模様が現出されており,これら4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様により,先の「鎌」状の斜面体10に由来する渦流生成部2の反時計方向に指向する渦状模様がより一層強調されるとともに,堰部16で隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されることにより,渦流生成部2に形成される渦状模様が明確なものとなっており,これによっても,本件登録意匠は,甲1意匠に比べて,よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっている。
e さらに,本件登録意匠では,斜め上方から見たとき,内縦壁14の上辺は,堰部16の形成箇所において上方に大きく跳ね上がる段付き状とされており,換言すれば内縦壁14の外周側の一部が,堰部16の分だけ上方に盛り上がっている。このように内縦壁14の上辺が段付き状とされていると,当該上辺が目に付く分だけ各斜面体10を構成する傾斜壁13の中心方向に向かう傾斜形状がより強調されて,個々の斜面体10の形状が強調されることとなるので,これによっても,本件登録意匠では,渦流生成部52の反時計方向に指向する渦流模様がより一層強調されて,よりダイナミックな渦の流れが印象付けられるようになっている。
f 以上のように,本件登録意匠では,甲1意匠の要部である具体的構成態様1?3の構成を有しておらず,しかも斜面体10に形成された堰部16の存在と相俟って,甲1意匠とは異なり,ダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっており,両意匠は看者に与える美感が全く異なるから,両意匠は非類似である。

ク 乙第7?9号証の物品は,ヘアキャッチャーと類似していること
(ア)乙第7号証
a 乙第10号証は,発明の名称を「ヘアキャッチャー」とする特許公報である。同号証の特許公報に係る特許権者は,甲第5?8号証(乙第3号証の1?乙第6号証の1)の意匠権者である「レック株式会社」である。渦状壁や斜面体の形状や個数などを勘案すると,同号証の特許公報の図面(特に図4)に開示されたヘアキャッチャーの構成は,甲第7号証(乙第5号証の1)に開示されたヘアキャッチャーの構成と略同一である。
b 乙第11号証は,乙第10号証に係る出願の審査において特許庁審査官から発送された拒絶理由通知であり,そこには,乙第10号証に係る出願発明に対する進歩性欠如の根拠として,乙第7号証が提示されている。
c 元より,乙第7号証の排水誘導具は,排出孔の上端部に装着されて,排水中に含まれる異物を収集するものであり,浴室の排水口に取り付けられて排水中に含まれる毛髪等を捕集する甲1意匠のヘアキャッチャーとは,用途において完全に一致する。
d 以上のような,乙第10号証に係るヘアキャッチャーの出願発明に対して進歩性否定の根拠として乙第7号証が提示されたという事実,および乙第7号証の排水誘導具と,ヘアキャッチャーとは用途において完全に一致しているという事実などに鑑みれば,同号証に係る排水誘導具は,ヘアキャッチャーと類似する物品であり,甲1意匠の公知意匠となり得るものである。
(イ)乙第8号証,乙第9号証
a 令和2年9月30日に発送された本件登録意匠の通知書(乙第12号証)には,以下のような記載がある。
「1.本願意匠の先行意匠調査に関係する情報を以下のようにお知らせいたします。
本願意匠を含む審査で先行意匠調査を行った日本意匠分類の範囲は以下のとおりです。・・・
M2-440,M2-449,M2-4900?M2-493,M2-60?M2-69,M2-70,M2-80?M2-84
・・・」
b 一方,米国特許意匠公報である乙第8号証(物品名:ゴム製バスケットストレーナー)には,米国意匠分類として「D23/261」と記載され,乙第9号証(物品名:ゴミ処理ストッパー)には,米国意匠分類として「D23/260」と記載されている。
c ここで,特許庁が発行する「米国意匠分類→(現行)日本意匠分類・D夕-ム対照表」を見てみると(乙第13号証参照),米国意匠分類の「D23/261」は,上記の乙第12号証の通知書において審査官が先行技術調査を行ったとする日本意匠分類のうちの「M2-449」,「M2-490」,「M2-491」,「M2-62」,「M2-70」に対応することが明記されている。
同様に,米国意匠分類の「D23/260」は,上記の乙第12号証の通知書において審査官が先行技術調査を行ったとする日本意匠分類のうちの「M2-449」,「M2-4900」,「M2-491」,「M2-62」,「M2-70」に対応することが明記されている(乙第13号証参照)。
d 以上より,乙第8号証のゴム製バスケットストレーナー,および乙第9号証のゴミ処理ストッパーが属する米国意匠分類は,いずれもヘアキャッチャーの意匠の審査において先行意匠調査の対象となる日本意匠分類に対応するものであり,換言すれば,乙第8号証のゴム製バスケットストレーナー,および乙第9号証のゴミ処理ストッパーは,いずれもヘアキャッチャーの先行意匠調査の対象となり得る分類に属するものであって,甲1意匠や本件登録意匠のヘアキャッチャーと類似する物品である。
e 以上より,先の乙第7号証と同様に,乙第8号証に係る意匠,および乙第9号証に係る意匠は,甲1意匠の公知意匠となり得るものである。

(3)請求人主張に対する反論
ア 公知意匠に開示された渦状模様について
(ア)請求人は,甲第5号証(乙第3号証の1),甲第6号証(乙第4号証の1),甲第8号証(乙第6号証の1)のように,斜面体の数が2個又は3個の場合には,渦の流れは現出されないと主張する(審判請求書第10?11頁)。
(イ)渦状模様の有無の判断手法
a ここで「渦状模様」について検討すると,一般的に「渦」とは,液体の中で,こまのように自転する部分を意味する(広辞苑第7版)。また,「渦巻」とは,渦を巻いている形や,渦を巻いている模様を意味する(デジタル大辞典)。加えて,一般的に看者が観察対象に「渦状模様」が現出されていると認めるのは,観察対象に旋回するにつれて中心に近づく曲線(以下「渦曲線」)が表出されている場合,或いは,観察対象に当該渦曲線に類する形状や当該渦曲線を想起させる形状が表出されており,全体として中心に引きずり込まれる印象が付与される場合であると思料する。
b 実際,下記に示す3種のデザインでは,各デザインの具体的な表現態様は全く異なるものの,いずれのデザインでも,旋回するにつれて中心に近づく曲線(以下,適宜「渦曲線」と記す)や,当該渦曲線に類する形状や当該渦曲線を想起させる形状が表出されており,全体として中心に引きずり込まれる印象が付与されているから,「渦状模様」が現出されていると認められる。
c 以上のように,渦状模様の有無は,観察対象に渦曲線が表出されていること,或いは,観察対象に当該渦曲線に類する形状や当該渦曲線を想起させる形状が表出されていることを前提として,中心に引きずり込まれる印象が付与されるか否かという観点から判断されるべきである。
(ウ)乙第3号証の1(甲第5号証)に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第3号証の1に係る意匠公報の平面図を見てみると(乙第3号証の2参照),同号証の1には,円形状の捕捉部100(凹状底部)と,捕捉部100の周囲に形成された円環形の渦流生成部101と,渦流生成部101の外周に形成されたフランジ部102とを備えるヘアキャッチャーが記載されている。
b 渦流生成部101には,3つの斜面体103と,3つの渦状壁104(渦状生成凸部)とが,捕捉部100を中心とする等角度位置に交互に配置されている。
c 平面視において,各斜面体103は,反時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる鎌状に形成されている。各渦状壁104は,反時計方向側の端部に向かって漸次輻寸法が小さくなる三日月状に形成されている。平面視において,これら斜面体103と渦状壁104の反時計方向側の先端105は,渦流生成部101の中心側に位置している。一方,平面視において,これら斜面体103と渦状壁104の時計方向側の後端106・107は,渦流生成部101の外周側に位置している。
d 以上より,乙第3号証の1のヘアキャッチャーの渦流生成部101には,反時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる形状を呈する3つの斜面体103と3つの渦状壁104とが,捕捉部100を中心とする等角度位置に交互に配置されており,しかも斜面体103と渦状壁104の時計方向側の後端106・107が外周側に位置するとともに,これら斜面体103と渦状壁104の反時計方向側の先端105が中心側に位置しているため,平面視において渦流生成部101には,反時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲線(渦曲線)を想起させる形状が表出されており,結果として反時計方向側に旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証の1のヘアキャッチャーの渦流生成部101には反時計方向の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。
(エ)乙第4号証の1(甲第6号証)に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第4号証の1(甲第6号証)に係る意匠公報の平面図を見てみると(乙第4号証の2参照),同号証の1には,円形状の捕捉部110(凹状底部)と,捕捉部110の周囲に形成された円環状の渦流生成部111と,渦流生成部111の外周に形成されたフランジ部112とを備えるヘアキャッチャーが記載されている。
b 渦流生成部111には,2つの斜面体113と,2つの渦状壁114とが,捕捉部110を中心とする等角度位置に交互に配置されている。
c 平面視において,各斜面体113は,反時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる先細り状に形成されている。各渦状壁114は,反時計方向側の端部に向かって漸次幅寸法が小さくなる先細り状に形成されている。平面視において,これら斜面体113と渦状壁114の反時計方向側の先端115は,渦流生成部111の中心側に位置している。一方,平面視において,これら斜面体113と渦状壁114の時計方向側の後端116・117は,渦流生成部111の外周側に位置している。
d 以上より,同号証の1のヘアキャッチャーの渦流生成部111には,反時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる形状を有する2つの斜面体113と渦状壁114とが,捕捉部110を中心とする等角度位置に交互に配置されており,しかも斜面体113と渦状壁114の時計方向側の後端116・117が外周側に位置するとともに,これら斜面体113と渦状壁114の反時計方向側の先端115が中心側に位置しているため,平面視において渦流生成部111には,反時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲線(渦曲線)を想起させる形状が表出されており,結果としで反時計方向側に旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証の1のヘアキャッチャーの渦流生成部111には反時計方向の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。
(オ)乙第5号証の1(甲第7号証)に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第5号証の1(甲第7号証)に係る意匠公報の平面図を見てみると(乙第5号証の2参照),同号証の1には,円形状の捕捉部120(凹状底部)と,捕捉部120の周囲に形成された円環状の渦流生成部121と,渦流生成部121の外周に形成されたフランジ部122とを備えるヘアキャッチャーが記載されている。
b 渦流生成部121には,4つの斜面体123と,4つの渦状壁124とが,捕捉部120を中心とする等角度位置に交互に配置されている。
c 平面視において,各斜面体123は,時計方向側の一端部123Aが外周側に位置し,反時計方向側の他端部123Bが中心側に位置する腰詫状に形成されており,その他端部123Bは捕捉部120に接している。各渦状壁124は,時計方向側の一端部124Aが外周側に位置し,反時計方向側の他端部124Bが中心側に位置する翼状に形成されており,その他端部124Bは捕捉部120に接している。
d 以上より,同号証の1のヘアキャッチャーの渦流生成部121には,腰鉈状の斜面体123と翼状の渦状壁124とが,鉈捉部120を中心とする等角度位置に交互に配置されており,しかも斜面体123の時計方向側の一端部123Aと,渦状壁124の時計方向側の一端部124Aのそれぞれが外周側に位置するとともに,斜面体123の反時計方向側の他端部123Bと,渦状壁124の反時計方向側の他端部124Bのそれぞれが中心側に位置しているため,平面視において渦鉈生成部121には,反時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲鉈(渦曲鉈)を想起させる形状が表出されており,鉈果として反時計方向側に旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証の1のヘアキャッチャーの渦鉈生成部121には反時計方向の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。
(カ)乙第6号証の1(甲第8号証)に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第6号証の1(甲第8号証)に係る意匠公報の平面図を見てみると(乙第6号証の2参照),同号証の1には,円形状の捕捉部130(凹状底部)と,捕捉部130の周囲に形成された円環状の渦鉈生成部131と,渦鉈生成部131の外周に形成されたフランジ部132とを備えるヘアキャッチャーが記載されている。
b 渦鉈生成部131には,2つの斜面体133と,2つの渦状壁134とが,鉈捉部130を中心とする等角度位置に交互に配置されている。
c 平面視において,各斜面体133は,時計方向側の一端部133Aが外周側に位置し,反時計方向側の鉈端部133Bが中心側に位置する腰鉈状に形成されている。各渦状壁134は,反時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる鎌状に形成されており,時計方向側の一端部134Aが外周側に位置し,反時計方向側の他端部134Bが中心側に位置している。
d 以上より,同号証の1のヘアキャッチャーの渦鉈生成部131には,腰鉈状の斜面体133と鉈状の渦状壁134とが,鉈捉部130を中心とする等角度位置に交互に配置されており,しかも斜面体133の時計方向側の一端部133Aと,渦状壁134の時計方向側の一端部134Aのそれぞれが外周側に位置するとともに,斜面体133の反時計方向側の鉈端部133Bと,渦状壁134の反時計方向側の他端側134Bのそれぞれが内周側に位置しているため,平面視において渦鉈生成部131には,反時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲鉈(渦曲鉈)を想起させる形状が表出されており,結果として反時計方向側へ旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証の1のヘアキャッチャーの渦鉈生成部131には反時計方向の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。
(キ)乙第7号証に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第7号証には,排水誘導具に関して以下のような記載がある。
(a)実用新案登録請求の範囲
「本体表面に中心部を除き複数の螺旋状山形を突設してなる,排水孔に装着するための排水誘導具。」
(b)考案の詳細な説明
「従来,排水孔には多数の通水孔を有する蓋を嵌合し,排水孔中に細い物等が流出しないようにしていたが,細い物等が流出しないかわりに排水の流れが円滑に行われない等の欠点があった。この考案は,排水の円滑な流れを増大させるようにした排水孔に装着するための排水誘導具を提供するものである。」
「第1図及び第2図に示すように,排出孔1の段部1‘には,排水誘導具2が装着されている。
排水誘導具2は中くぼみ状の円形皿形をしており,その表面,外縁から中心に向かいかつ中心には達しない複数の螺旋状山形3が突設形成され,前記山形以外の谷部分には複数の流水孔4が穿設されている。」
b 上述の明細書の記載より,同号証の排水誘導具2は,平面視において円形状に形成されている(第1図参照)。また,側方視において,排水誘導具2は,外周側が高く,中心側が低い「中くぼみ状の円形皿形」に形成されている(第2図参照)。螺旋状山形3が形成されている中央部の外縁には,排出孔1の段部1‘に係止されるフランジ部が水平外方向に張り出し形成されている(第1図,第2図参照)。
c 平面視において,螺旋状山形3は,その盤面中央を中心とする等角度位置に交互に配置されて,外周側から中心に向かって伸びる8本の腕で構成される。各腕の反時計方向側の基端側が外周側に位置するとともに,各腕の時計方向側の先端は中心側に位置している。したがって,平面視において,排水誘導具2には,時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲線(渦曲線)を想起させる形状が表出されており,結果として時計方向側に旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証の排水誘導具2には時計方向側の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。
(ク)乙第8号証に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第8号証(米国意匠第599,444号公報(USD599,444S))には,「ゴム製バスケットストレーナー:Rubberbasket strainer」に関して以下のような構成が開示されている。なお,「strainer」(ストレーナー)とは,液体から固形成分を取り除くための器具であり,一種の「異物収集具」である。
b FIG.2の平面図,およびFIG.5の正面図より,同号証のストレーナーは,上方に開口を有する有底容器のストレーナー本体と,ストレーナー本体の上端から外方向に張り出し形成されたフランジ部とを備える。FIG.2の平面図に示すように,ストレーナー本体は,平面視で円形状に形成されており,その中心部に形成された円筒部と,円筒部の外側に形成された渦流生成部とを備える。
c 渦流生成部は,中心に向かって下り傾斜するすり鉢状の傾斜壁と,傾斜壁に突設された8本の渦流壁とからなる。渦流壁は,円筒部を中心とする等角度位置に形成されており,渦流生成部には,これら渦流壁で区画された,計8個の斜面体が等角度位置に形成されている。各斜面体には,流水孔が開設されている。
d 各渦流壁は,反時計方向側の一端部が外周側に位置し,時計方向側の他端部が中心側に位置している。各斜面体は,時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる鉤状に形成されており,反時計方向側の一端部が外周側に位置し,時計方向側の他端部が中心側に位置している。
e 以上より,乙第8号証のストレーナーの渦流生成部には,鉤状の斜面体と渦流壁とが,円筒部を中心とする等角度位置に交互に配置されており,しかも斜面体の反時計方向側の一端部と,渦状壁の反時計方向側の一端部のそれぞれが外周側に位置するとともに,斜面体の時計方向側の他端部と,渦状壁の時計方向側の他端部のそれぞれが内周側に位置しているため,平面視において渦流生成部には,時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲線(渦曲線)を想起させる形状が表出されており,結果として時計方向側へ旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証のストレーナーの渦流生成部には時計方向側の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。
f なお,乙第8号証の要所を翻訳すると以下のごとくとなる。
(a)意匠に係る物品
ゴム製バスケットストレーナー
(b)請求項
記載されているような,ゴム製バスケットストレーナーの装飾デザイン
(c)説明
図1は上方斜視図である。
図2は上面図である。
図3は下方斜視図である。
図4は底面図である。
図5は正面図であり,本発明の背面図と同じである。
図6は左側面図であり,本発明の右側面図と同じである。
(ケ)乙第9号証に現出された渦状模様について
a 甲1意匠の出願前に公知であった乙第9号証(米国意匠第597,181号公報(USD597,181S))には,「ゴミ処理ストッパー:GARBAGE DISPOSAL STOPPER」に関して以下のような構成が開示されている。
b FIG.6の底面図(平面図),およびFIG.3の正面図より,同号証のストッパーは,上方に開口を有する有底容器のストッパー本体と,ストッパー本体の上端から外方向に張り出し形成されたフランジ部とを備える有底の灰皿状に形成されている。 FIG.6の底面図(平面図)に示すように,ストッパー本体は,平面視で円形状に形成されている。FIG.3の正面図に示すように,ストッパー本体は,下端(FIG.3では上端)に形成された膨出部と,膨出部の外側に形成された渦流生成部とを備える。
c 渦流生成部は,中心に向かって下り傾斜するすり鉢状の傾斜壁と,傾斜壁に突設された8本の渦流壁とからなる。渦流壁は,等角度位置に形成されており,渦流生成部には,これら渦流壁で区画された,計8個の斜面体が等角度位置に形成されている。
d 各渦流壁は,時計方向側の一端部が外周側に位置し,反時計方向側の他端部が中心側に位置している。各斜面体は,反時計方向側に向かって漸次幅寸法が小さくなる鉤状に形成されており,時計方向側の一端部が外周側に位置し,反時計方向側の他端部が中心側に位置している。
e 以上より,乙第9号証のストッパーの渦流生成部には,斜面体と渦流壁とが,その盤面中央を中心として等角度位置に交互に配置されており,しかも斜面体の時計方向側の一端部と,渦状壁の時計方向側の一端部のそれぞれが外周側に位置するとともに,斜面体の反時計方向側の他端部と,渦状壁の反時計方向側の他端部のそれぞれが内周側に位置しているため,平面視において渦流生成部には,反時計方向側に旋回するにつれて中心に近づく曲線(渦曲線)を想起させる形状が表出されており,結果として反時計方向側へ旋回するにつれて中心に引きずり込まれる印象が付与されるから,同号証のストッパーの渦流生成部には反時計方向側の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が表出されていると認められる。
f なお,乙第9号証の要所を翻訳すると以下のごとくとなる。
(a)意匠に係る物品
ごみ処理ストッパー
(b)請求項
記載されているような,ごみ処理ストッパーの装飾デザイン
(c)説明
図1は上方斜視図である。
図2は上面図である。
図3は正面図であり,背面図と同じである。
図4は左側面図であり,右側面図と同じである。
図5は下方斜視図である。
図6は底面図である。
(コ)公知意匠における渦状模様の有無について
a 以上のように,甲1意匠の出願時において公知であった乙第3号証の1?乙第6号証の1のそれぞれには,渦流生成部に渦状模様が現出されたヘアキャッチャーが開示されている。また,甲1意匠の出願時において公知であった乙第7号証?乙第9号証のそれぞれには,渦流生成部に渦状模様が現出された排水誘導具,ゴム製バスケットストレーナー,およびゴミ処理ストッパーなどの異物収集具が開示されている。なお,ヘアキャッチャーが「異物収集具」の一種であることは論を俟たない。
b 以上のように,ヘアキャッチャー,或いはヘアキャッチャーを含む異物収集具の分野において,甲1意匠の出願時に渦流生成部に渦状模様が現出された公知意匠は多数存在する。また,甲第5号証(乙第3号証の1),甲第6号証(乙第4号証の1),甲第8号証(乙第6号証の1)のように,渦流生成部に2個や3個の斜面体を備えるヘアキャッチャーであっても,渦流生成部には渦の流れは現出されている。したがって,甲第5号証(乙第3号証の1),甲第6号証(乙第4号証の1),甲第8号証(乙第6号証の1)のように,斜面体の数が2個又は3個の場合には,渦の流れは現出されない旨の請求人主張は失当である。
c なお,請求人は,審判請求書の第11頁に挙げた甲第5,6,8号証の平面図に記載した赤線矢印と,同請求書の第12頁に挙げた甲1意匠と本件登録意匠の平面図に記載した赤線矢印との比較に基づいて,甲第5,6,8号証では渦の流れは現出されず,甲1意匠と本件登録意匠では渦の流れが現出されると主張する。
しかし,同請求書の第11頁の甲第5,6,8号証の平面図では,斜面体の中心部を通るように赤線矢印を引いているのに対して,同請求書の第12頁の甲1意匠と本件登録意匠の平面図では,斜面体の反時計方向側の区画線に沿って赤線矢印を引いており,第11頁の平面図と第12頁の平面図とでは赤線矢印が示すものが全く異なる。しかも,甲第5,6,8号証では,それらを構成する斜面体に沿って行けば,確実に捕捉部に水が流れ込むように構成されているにも拘らず,審判請求書の第11頁の平面図では,不自然に赤線矢印は捕捉部の方向には指向しないように記載されており,実体と乖離している。
以上のように,審判請求書の第11頁の甲第5,6,8号証の平面図と,同請求書の第12頁の甲1意匠と本件登録意匠の平面図のそれぞれに記載した赤線矢印に基づく請求人主張は,赤線矢印に示すものが前者(甲第5,6,8号証の平面図)と後者(甲1意匠と本件登録意匠)とで異なっており,しかも前者の赤線矢印は,実体と乖離しているため,全て失当である。結局,請求人は,自己の主張に都合の良いように各平面図に赤線矢印を引くとともに,その赤線矢印に沿って主張を展開しており,請求人主張は客観性に乏しく失当である。

イ 「堰(部)」の有無と類否判断について
(ア)請求人は,堰(部)の有無にかかわらず,本件登録意匠と甲1意匠とは内側に向かう渦の流れという美感が共通していると主張する(審判請求書第13頁)。
(イ)しかし,例えば上述の第25頁に示した3種のデザインでは,各デザインの具体的な表現態様は全く異なるものの,いずれのデザインでも,渦曲線や,当該渦曲線に類する形状や当該渦曲線を想起させる形状が表出されており,全体として中心に引きずり込まれる印象が付与されているから,「渦状模様」が現出されていると認められることからも明らかなように,おしなべて「渦状模様」といっても,それが意味する,或いはそれに含まれる具体的な表現態様は千差万別である。したがって,対比される2つの意匠に現出される「渦状模様」が類似しているか否かは,各意匠に現出される「渦状模様」を構成する渦曲線の具体的態様,当該渦曲線に類する形状の具体的態様,或いは当該渦曲線を想起させる形状の具体的態様の対比に基づいて個別具体的に判断されるべきものであって,単純に「渦状模様」の有無という点のみに基づいて意匠の類否判断を行うことは不適である。本事案においては,渦流生成部に現出される渦曲線を想起させる形状の具体的態様の対比に基づいて,意匠の類否は判断されるべきであって,単純に渦流生成部における渦状模様の有無,換言すれば,内側に向かう渦の流れという美感が共通しているか否かという点のみに基づいて,甲1意匠と本件登録意匠の類否を判断することは不適である。
(ウ)ましてや,上述したように,本事案においては,甲1意匠の出願時の公知意匠の渦流生成部には既に渦状模様が現出されており,換言すれば渦流生成部に内側に向かう渦の流れという美感を印象付ける模様が現出された公知意匠が多数存在するから,渦流生成部における渦状模様の有無のみに基づいて,甲1意匠と本件登録意匠の類否を判断することは不適である。
(エ)本事案においては,本件登録意匠では4個の斜面体10で渦流生成部52が形成されているのに対して,甲1意匠では6個の斜面体60で渦流生成部2が形成されているという構成の違いにより,本件登録意匠では,平面視における一つ一つの斜面体10の渦流生成部2に占める面積は,甲1意匠のそれよりも大きくなっており,本件登録意匠は,甲1意匠に比べて,よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっているおり,渦流生成部における渦状模様が看者に与える美感は全く異なるものであるから,両意匠は非類似である。
(オ)さらに,本件登録意匠では,平面視において,各斜面体10の反時計方向側の外周部に堰部16が形成されており,渦流生成部2には,4個の堰部16に由来する半時計方向に指向する渦状模様が現出されており,これら4個の堰部16に由来する反時計方向に指向する渦状模様により,先の「鎌」状の斜面体10に由来する渦流生成部2の反時計方向に指向する渦状模様がより一層強調されるとともに,堰部16で隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されることにより,渦流生成部2に形成される渦状模様が明確なものとなっており,これによっても,本件登録意匠は,甲1意匠に比べて,よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっている。以上の点でも渦流生成部における渦状模様が看者に与える美感は全く異なるものとなっているから,両意匠は非類似である。
(カ)さらに,本件登録意匠では,斜め上方から見たとき,内縦壁14の上辺は,堰部16の形成箇所において上方に大きく跳ね上がる段付き状とされており,換言すれば内縦壁14の外周側の一部が,堰部16の分だけ上方に盛り上がっている。このように内縦壁14の上辺が段付き状とされていると,当該上辺が目に付く分だけ各斜面体10を構成する傾斜壁13の中心方向に向かう傾斜形状がより強調されて,個々の斜面体10の形状が強調されることとなるので,これによっても,本件登録意匠では,渦流生成部52の反時計方向に指向する渦流模様がより一層強調されて,よりダイナミックな渦の流れが印象付けられるようになっている。以上の点でも渦流生成部における渦状模様が看者に与える美感は全く異なるものとなっているから,両意匠は非類似である。

ウ 丸味を帯びた美感(丸味を帯びた形状)について
(ア)請求人は,本件登録意匠及び甲1意匠ともに,捕捉部の底壁と筒壁とを連結するコーナー部が隅丸矩形状に形成されており,全体として丸味を帯びた柔らかな美感を生じさせると主張する(審判請求書第9頁)。
(イ)しかし,公知意匠である乙第3?5号証(甲第5?7号証)のそれぞれの正面図には,捕捉部の底壁と筒壁とを連結するコーナー部が隅丸矩形状に形成された構成を有するヘアキャッチャーが開示されているから,これら乙第3?5号証(甲第5?7号証)のヘアキャッチャーにおいても,全体として丸味を帯びた柔らかな美感を生じさせるものと認められる。
(ウ)以上のように,捕捉部の底壁と筒壁とを連結するコーナー部が隅丸矩形状に形成された構成とすることは,ヘアキャッチャーの物品分野においてごく普通に見られる構成であるから,当該構成は甲1意匠の要部とならず,甲1意匠と本件登録意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。したがって,仮に当該構成から丸味を帯びた柔らかな美感が生じ,それが甲1意匠と本件登録意匠で共通したとしても,そのことが両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めで軽微である。

エ 平面的な美感(平面的な形状)について
(ア)請求人は,渦流生成部が高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない構成は,本件登録意匠及び甲1意匠の要部であり,本件登録意匠及び甲1意匠はともに,平面的な美感を与えるものであると主張する(審判請求書第10頁)。
(イ)しかし,公知意匠である乙第7?9号証には,渦流生成部が高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない構成を備える異物収集具が開示されているから,これら乙第7?9号証の異物収集具においても,平面的な美感を生じさせるものと認められる。
(ウ)以上のように,渦流生成部が高さ方向においてフランジ部より上方に突出していない構成とすることは,ヘアキャッチャーを含む異物収集具の物品分野においてごく普通に見られる形態であるから,当該構成は甲1意匠の要部とならず,甲1意匠と本件登録意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。したがって,仮に,当該構成から平面的な美感が生じ,それが甲1意匠と本件登録意匠で共通したとしても,そのことが両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて軽微である。

オ 本件登録意匠と甲1意匠の斜面体の形状について
(ア)本件登録意匠の斜面体の形状
a 本件登録意匠を構成する斜面体10の形状は,下記に示すとともに,乙第2号証の4,5に示した如くであり,円形状の捕捉部1の筒壁5の一つの接点11を起点として正接円弧状に外周方向に向かって伸びる長辺の第1湾曲線12Aと,第1湾曲線12Aよりも反時計方向側に位置し,該接点11を起点として正接円弧状に外周方向に向かって伸びる短辺の第2湾曲線12Bと,捕捉部1の筒壁5と同心に形成されて,渦流生成部2の最外周部を区画する円弧状の第3湾曲線12Cとで区画されている。
b かかる斜面体10の平面視における形状を,「○○状」のように特定することは容易ではないが,斜面体10が第1?第3湾曲線12A?12Cという3本の湾曲線で区画されていること,反時計方向側の端部における幅寸法の窄まり具合が,時計方向側の端部におけるそれ(幅寸法の窄まり具合)よりも急峻であること,および内側の第1湾曲線12Aが円弧状であることなどから,本答弁書においては,被請求人は,平面視における斜面体10の形状を「鎌状」と特定(表現)したものである。
c これに対して,請求人は,本件登録意匠を構成する斜面体10の形状を「三日月形状」と特定している。しかし,一般的に「三日月」とは,「陰暦で月の第三夜過ぎ頃に出る月。細く,眉の形をしている。」(広辞苑第7版)を意味する。また,一般的に,三日月状とは,曲率の異なる2つの部分円弧線で囲まれた形を意味し,2つの部分円弧線が交わる両頂点部分に行くに従って漸次幅狭となっていくような形状を意味すると解する。つまり,三日月形状というためには,2つの部分円弧線等のように2本の曲線で区画されていることが必要であると解するところ,本件登録意匠の斜面体10は,3本の湾曲線(第1?第3湾曲線12A?12C)で区画されているものであるため,当該斜面体10を三日月形状と特定することは不適である。
d 元より,上記に示すとともに,乙第2号証の4,5に示した本件登録意匠の斜面体10の形状は「三日月」とは全く異なるものであり,これを「三日月形状」であるとする請求人特定に首肯することはできない。
e 以上より,本件登録意匠を構成する流生成壁(斜面体)が三日月形状である旨の請求人特定(請求書第3頁)は失当である。
(イ)甲1意匠の斜面体の形状
a 甲1意匠を構成する斜面体60の形状は,次項に示すとともに,甲第4号証の4,5に示すように,捕捉部51から外周方向に向かって伸びる2つの区画線(第1区画線62A・第2区画線62B)と,渦流生成部52の最外周部を区画する円弧状の区画線(第3区画線62C)とで区画されている。
第1区画線62Aは,円状の捕捉部51の筒壁55の一つの接点61を起点として,該捕捉部51の外縁と一致する部分円弧状の第1線62Dと,第1線62Dに連続して外周方向に向かう略直線状の第2線62Eと,第2線62Eの外端に形成された部分円弧状の第3線62Fとで構成されている。第2区画線62Bは,上記接点61から外周方向に向かう略直線状の第2線62Eと,第2線62Eの外端に形成された部分円弧状の第3線62Fとで構成されている。第1区画線62Aと第2区画線62Bは,略直線状の第2線62Eが大部分を占めており,平面視における本件意匠の斜面体60は,上記の直線を基調とするものとなっている。
b かかる斜面体60の平面視における形状を,「○○状」のように特定することは容易ではないが,斜面体60を区画する3本の線のうちの2本の線(第1区画線62Aと第2区画線62B)が略直線であることから,本答弁書においては,被請求人は,平面視における斜面体60の形状を「三角形状」と特定(表現)したものである。
c これに対して,請求人は,甲1意匠を構成する斜面体60の形状を「三日月状」と特定している。しかし,上述と同様に,一般的に「三日月」とは,「陰暦で月の第三夜過ぎ頃に出る月。細く,眉の形をしている。」(広辞苑第7版)を意味する。また,一般的に,三日月状とは,曲率の異なる2つの部分円弧線で囲まれた形を意味し,2つの部分円弧線が交わる両頂点部分に行くに従って漸次幅狭となっていくような形状を意味すると解する。つまり,三日月状というためには,2つの部分円弧線等のように2本の曲線で区画されていることが必要であると解するところ,甲1意匠の斜面体60は,2本の略直線(第1区画線62Aと第2区画線62B)で区画されているものであるため,当該斜面体60を三日月状と特定することは不適である。
d 元より,上述するとともに,甲第4号証の4,5に示した甲1意匠の斜面体60の形状は「三日月」とは全く異なるものであり,これを「三日月形状」であるとする請求人特定に首肯することはできない。
(ウ)以上より,甲1意匠を構成する斜面体が三日月形状である旨の請求人特定(請求書第5頁)は失当である。

2 非請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証 意匠登録第1670712号公報(写し)

(2)乙第2号証の1 本件登録意匠の平面図(写し)
乙第2号証の2 本件登録意匠の縦断側面図(写し)
乙第2号証の3 本件登録意匠の補足部1の平面図(写し)
乙第2号証の4 本件登録意匠の平面図(一部)(写し)
乙第2号証の5 本件登録意匠を構成する斜面対10の平面図(写し)
乙第2号証の6 本件登録意匠の斜視図(写し)
乙第2号証の7 本件登録意匠の底面図(写し)

(3)乙第3号証の1 意匠登録第1554062号公報(写し)
乙第3号証の2 乙3の1の平面図に部材名称等を加筆したもの(写し)
乙第3号証の3 乙3の1の斜視図に部材名称等を加筆したもの(写し)

(4)乙第4号証の1 意匠登録第1570084号公報(写し)
乙第4号証の2 乙4の1の平面図に部材名称等を加筆したもの(写し)
乙第4号証の3 乙4の1の斜視図に部材名称等を加筆したもの(写し)

(5)乙第5号証の1 意匠登録第1531898号公報(写し)
乙第5号証の2 乙5の1の平面図に部材名称等を加筆したもの(写し)
乙第5号証の3 乙5の1の斜視図に部材名称等を加筆したもの(写し)

(6)乙第6号証の1 意匠登録第1544259号公報(写し)
乙第6号証の2 乙6の1の平面図に部材名称等を加筆したもの(写し)
乙第6号証の3 乙6の1の斜視図に部材名称等を加筆したもの(写し)

(7)乙第7号証 実開昭51-105866号(実願昭50-024575号)のマイクロフィルム(写し)

(8)乙第8号証 米国意匠第599,444号公報(写し)

(9)乙第9号証 米国意匠第597,181号公報(写し)

(10)乙第10号証 特許第6466118号公報(写し)

(11)乙第11号証 特願2014-191214の拒絶理由通知書(写し)

(12)乙第12号証 意願2020-010212(本件登録意匠)の審査において審査官から送付された通知書(写し)

(13)乙第13号証 米国意匠分類→(現行)日本意匠分類・Dターム対照表の抜粋(写し)


第4 弁駁の内容
請求人は,被請求人の答弁に対し審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し,要旨以下のとおり主張をし,その主張事実を立証するため,後記4に掲げた甲第9号証ないし甲第21号証を提出した。

1 構成態様の特定について
(1)本件登録意匠の構成態様について
ア 基本的構成態様
被請求人主張の本件登録意匠の基本的構成態様(審判事件答弁書9頁)は,請求人が審判請求書3頁において主張した基本的構成態様とほぼ同一であり,争いはない。
なお,被請求人は,本件登録意匠の基本的構成態様として,「有底の灰皿状」であることにつき,認否を留保しているが(審判事件答弁書3頁4行目以降),侵害訴訟においてはこれを認めており(甲9,甲10),本件審判事件においてのみ認否を留保する趣旨が不明である。

イ 具体的構成態様
被請求人主張に係る本件登録意匠の具体的構成態様(審判事件答弁書9頁以下)につき,請求人主張に係る本件登録意匠の具体的構成態様(審判請求書3頁)と異なる点に絞って主張する。
(ア)斜面体10が曲線を「基調」とするものであるか否か(審判事件答弁書9頁最終行目)
斜面体が曲線を「基調」としているか否かは評価であり,構成態様として特定することは妥当でない。
(イ)斜面体10が「鎌」状であるか否か(審判事件答弁書10頁2行目,同4行目,同13行目)
被請求人は,本件登録意匠における斜面体10の形状が「三日月形状」であることを否認した上で(審判事件答弁書3頁13行目),「鎌状」であると特定し,審判事件答弁書36頁以下においてその理由を展開する。
そして,被請求人は,斜面体10が「三日月形状」でない根拠として,「一般的に,三日月状とは,曲率の異なる2つの部分円弧線で囲まれた形を意味し,2つの部分円弧線が交わる両頂点部分に行くに従って漸次幅狭となっていくような形状を意味すると解する。」(審判事件答弁書37頁11行目以降)と主張する。
被請求人の主張する「一般」は知るところではないが,以下を見れば明らかなとおり,まさに一般的な「三日月」と本件登録意匠における斜面体は相似しており,該斜面体を「三日月状」と呼ぶことに何ら支障はない。この点は,本件登録意匠のみならず甲1意匠においても同様である。

そして,被請求人の主張する一般論である「2つの部分円弧線で囲まれた形」に三日月形状を限定すること自体根拠のない主張である。すなわち,「三日月」の定義は,被請求人の主張するとおり,「陰暦で月の第三夜過ぎ頃に出る月。細く,眉の形をしている。」(甲11:広辞苑第7版)とされる。したがって,三日月形状とは,眉状であればよいのであって,眉はその形によっては,3つの部分円弧線で囲まれることもあるのであって(甲12:@BAILAウェブサイト),被請求人のような限定をすることは理由がない。

また,被請求人は,本件登録意匠における斜面体10を「鎌状」と特定する根拠として,「斜面体1 0 が第1?第3湾曲線12A?12Cという3本の湾曲線で区画されていること」を挙げる(審判事件答弁書37頁2行目以降)。
しかしながら,「鎌」とは,「草・柴などを刈るのに用いる道具。三日月形の刃に木の柄をつけたもの。」(甲13:広辞苑第7版)とされる。かかる定義において,「第1?第3湾曲線12A?12Cという3本の湾曲線で区画されていること」という要素は全く内包されていない。そもそも「鎌」の形状は種々のものがあり得るのであって(甲14:Google画像検索結果),上記被請求人の定義を即座に当てはめることはおよそ困難である。
また,上記定義から明らかなとおり,「鎌状」と「三日月形状」とは一致するのであって,被請求人の主張は,請求人の主張に対する反論にすらなっていない。
なお,仮に被請求人主張のとおり「鎌状」と評するとしても,本件登録意匠と甲1意匠の美感に相違を生じさせるものではないことは後述する。
以上のとおり,被請求人の主張は,甲1意匠との対比を際立たせるべく,根拠のない定義を施した上で本件登録意匠を過度に限定して捉えており,およそ失当である。

(2)甲1意匠の構成態様について
ア 基本的構成態様
被請求人主張の甲1意匠の基本的構成態様(審判事件答弁書13頁)は,請求人が審判請求書4頁から5頁にかけて主張した基本的構成態様とほぼ同一であり,争いはない。
なお,被請求人は,甲1意匠の基本的構成態様として,「有底の灰皿状」であることにつき,認否を留保しているが(審判事件答弁書3頁19行目以降),侵害訴訟においてはこれを認めており(甲9,甲10),本件審判事件においてのみ認否を留保する趣旨が不明である。

イ 具体的構成態様
被請求人主張に係る甲1意匠の具体的構成態様(審判事件答弁書13頁以下)につき,請求人主張に係る甲1意匠の具体的構成態様(審判請求書5頁)と異なる点に絞って主張する。
(ア)区画線62A・62Bにおいて略直線が大部分を占めるか否か(審判事件答弁書14頁1行目)
甲1意匠における区画線62A・62Bは中心の捕捉部1に向かって,曲線を描いており,決して「直線を基調とする」ものにはなっていない。

(イ)斜面体60が「略三角形状」か否か(審判事件答弁書14頁4行目,同6行目)
被請求人は,甲1意匠における斜面体60の形状が「三日月形状」であることを否認した上で(審判事件答弁書25行目以降),「略三角形状」であると特定し,審判事件答弁書37頁以下においてその理由を展開する。
「三角」とはまさに「三つの角」をいうのであって,その形とは三つの内角を備えた多角形である。
しかしながら,甲1意匠は,被請求人自身が認めるとおり,円弧上の区画線62Cが存在する上,反時計回り及び時計回りいずれに向っても漸次幅寸法が小さくなる形状であって,「角」が存在しない。したがって,甲1意匠を「三角形状」というのは全く妥当でない。
仮に,被請求人が「三角形状」を「角」の存在しない曖昧な意味,すなわち,一直線上にない3つの点をつなぐ図形の形状としか捉えていないとすれば,本件登録意匠における斜面体もそのように言えるのであって,斜面体の形状に関して相違点は存在しないことになる。
なお,侵害訴訟においては,被請求人は,甲1意匠の斜面体の形状について「三角形状」と特定しているのに対し(甲10),本審判事件では「略三角形状」と恣意的に変更している。これは,被請求人の特定に全く信用性がないことの証左である。また,もし略三角形状と呼ぶのであれば,請求人の主張する「三日月形状」との違いを全く際立たせることができていない。
いずれにせよ,斜面体を「略三角形状」と評する被請求人の主張は失当である。

(3)共通点及び相違点の認定
ア 共通点
審判事件答弁書14頁から15頁にかけて被請求人が主張する,基本的構成態様及び具体的構成態様の「共通点」につき,異論はない。

イ 相違点
(ア)基本的構成態様について
審判事件答弁書15頁20行目以下で被請求人が主張するとおり,本件登録意匠と甲1意匠とで基本的構成態様における相違点は存在しない。
(イ)具体的構成態様について
審判請求書8頁において請求人が主張した具体的構成態様における相違点と,審判事件答弁書15頁から16頁にかけて被請求人が主張する具体的構成態様における相違点の主な違いは,斜面体の形状につき,「鎌状」又は「略三角形状」か「三日月形状」かの違いであり,この点については,本件登録意匠及び甲1意匠ともに「三日月形状」として特定すべきであること,斜面体の形状は実質的な相違点ではないことは前述した。

2 甲1意匠の要部及び美感判断
(1)被請求人の主張
被請求人は,甲1意匠の要部について,「渦流生成部52を捕捉部51を中心とする等角度位置に配置された計6個の斜面体60で構成し(具体的構成態様1),各斜面体60を略三角形状に形成し(具体的構成態様2),これら6個の略三角形状の斜面体60により,渦流生成部52に渦状模様を現出させたこと(具体的構成態様3)の全てを構成を備えた点にある」(審判事件答弁書20頁16行目以降)とした上で,これらの具体的構成態様が甲1意匠と本件登録意匠とで異なる以上,両者の美感は異なる(甲1意匠は繊細な渦のイメージを与え,本件登録意匠はダイナミックな渦のイメージを与える)と主張する(審判事件答弁書22頁14行目以降)。

(2)斜面体の形状は甲1意匠及び本件登録意匠ともに三日月形状である
以下は,本件登録意匠及び甲1意匠における斜面体のみを抽出したものであるが,一見して明らかなとおり,両者ともに時計方向及び反時計方向いずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなる三日月形状である。
被請求人は,甲1意匠は「直線」を基調とするものである一方,本件登録意匠は「曲線」を基調とするものであり,これに伴い両者で現出される渦状模様に相違がある旨主張するが,微妙な角度の差異を捉えるものに過ぎず,需要者においてこのような(いわば細かすぎる)相違点に意を払うとは到底考えられない。
審判請求書8頁以下でも主張したとおり,甲1意匠及び本件登録意匠とは,両者ともにフランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様が共通している以上,両者の美感が共通している。
なお,前述したとおり,被請求人の主張する「鎌状」からは具体的な構成態様が看取されるわけではなく,かつ「三日月形状」と内実において相違がない。また,甲1意匠における「略三角形状」も甲1意匠の斜面体の形態を的確にとらえていないか,実質的に本件登録意匠との相違を生じさせる特定にはなっていない。
以上は,甲1意匠と本件登録意匠の斜面体の形状には,実質的に相違がないことを表している。
したがって,甲1意匠及び本件登録意匠において,斜面体が,反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅寸法が小さくなることは被請求人においても争いはなく,これを「三日月形状」と呼ぶか「鎌状」又は「略三角形状」と呼称するかはもはや表現の相違でしかない。すなわち,前述したような「渦状模様」という美感を発生させるか否かという観点からは,請求人・被請求人の特定いずれであっても顕著な違いを生むものではなく,甲1意匠と本件登録意匠の斜面体の形状は,実質的な相違点ではない(ましてやダイナミックか繊細か等の美感の相違を生むものではない。)。

(3)斜面体の数の相違は美感を相違しない
ア 乙3(甲5)?乙6(甲8)
乙3(甲5)?乙6(甲8)に係る公知意匠は,斜面体の数が甲1意匠及び本件登録意匠と異なるものであって,渦の流れが捕捉部の外側を回るように,換言すれば円環状に形成されており,捕捉部に向かって流れ込むというイメージは看取されないという点については,審判請求書10頁以下で既に主張した。
なお,以下の図面は,請求人が独白に作成した図面であるが,斜面体の数が増大すればするほど,各斜面体の面積は小さくなることから,水は捕捉部に向かっていわば滝のように流れていく(甲15)。
公知意匠乙3?乙6は,斜面体の数が少ない結果,各斜面体の面積を大きく取ることとなり,水が斜面体を流れる時間が長くなる。その結果,中心部に向かう渦の流れは看取されなくなる。これを言い換えれば,斜面体の数を少なくしてもなお,渦状模様を現出させようとするには,水流を円環状にせざるを得ない。この点に関し,被請求人は,乙3?乙6に渦状模様が現出される旨縷々主張するが(審判事件答弁書26頁以下),請求人は,公知意匠において渦状模様が現出されない旨主張しているわけではないため(円環する渦が現出する旨主張している),反論の体をなしていない。
以上のとおり,斜面体の数が4個?6個に収まっている甲1意匠と本件登録意匠においては,フランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様が現出される結果,美感が共通するものである。

イ 乙7?乙9
(ア)乙7
乙7意匠に係る物品は,「排水誘導具」であって,髪の毛等を収集する「ヘアキャッチャー」ではない。したがって,物品が異なる意匠について,本件の美感判断に影響を与えることはない。なお,被請求人は,この点に関し,「元より,乙第7号証の排水誘導具は,排出孔の上端部に装着されて,排水中に合まれる異物を収集するもの」と主張するが(審判事件答弁書24頁1行目以降),「異物を収集する」という記載は乙7には一切記載されていない。
以上の点を措くとしても,乙7には,立体図面がないため当該意匠の詳細がそもそも不明である。また,「螺旋状山形3」とあるとおり,乙7意匠に係る具体的物品が,山形形状となって,フランジ部より上方に位置する可能性を否定できない。
以上のとおり,乙7意匠は,本件の美感判断に影響を与えない。
(イ)乙8
乙8に係る意匠も「ゴム製バスケットストレーナー」であり,髪の毛等を収集する「ヘアキャッチャー」ではない。「ストレーナー」(英語:straner)とは,漉し器,茶漉し,裏漉し,ふるい,ろ過器などを指す言葉である(甲16:weblio英和辞典)。したがって,物品が異なる意匠について,本件の美感判断に影響を与えることはない。なお,被請求人は,乙8意匠につき,具体的な用途等を主張することなく,「ヘアキャッチャー」の先行意匠調査の対象となり得る分類である旨主張するが(審判事件答弁書24頁10行目以降),意匠分類は審査の一応の基準に過ぎず,それ自体をもって直ちに物品の類似性が認められるものではないことは論を待たない(知財高裁令和2年11月4日判決(令和2年(行ケ)第10055号)。
また,乙8に係る意匠においては,周囲から入水した水流は,各渦流壁に従って直ちに中央部へ流れ込むのであって,斜面体に沿って周囲を流れながら,中心部に向かうという意味での渦状模様は形成され得ない。これは前述したとおり,斜面体の数が多いことに由来するものである。
以上のとおり,乙8意匠は,本件の美感判断に影響を与えない。
(ウ)乙9
乙9について,乙9の実施品が甲17のウェブサイト(Garbage Disposal Stopper in Black:黒色のゴミ処理ストッパー)に掲載されているが,もはや使用方法・使用用途が甲1意匠に係る物品と全く異なる。なお,被請求人は,乙9意匠につき,具体的な用途等を主張することなく,「ヘアキャッチャー」の先行意匠調査の対象となり得る分類である旨主張するが(審判事件答弁書24頁10行目以降),意匠分類は審査の一応の基準に過ぎず,それ自体をもって直ちに物品の類似性が認められるものではないことは論を待たない(知財高裁令和2年11月4日判決(令和2年(行ヶ)第10055号))。
以上の写真を見れば明らかなとおり,乙9に係る物品に関しては,水流の流れを示す模様が裏側となってシンクに装着されるものであって,本件意匠に係る物品と使用方法が異なる上,髪の毛を受け止めることもできないため使用用途も全く異なる。
したがって,乙9意匠は,本件の美感判断に影響を与えないことは明らかである。

関連意匠の登録
請求人は,甲1意匠の関連意匠として,(1)意願2020-011759及び(2)意願2020-011760を意匠出願していた(甲18,甲19。以下,総称して「関連意匠」という。)ところ,当該関連意匠につき,今般,登録査定がなされた(甲20,甲21)。
関連意匠は,甲1意匠と比較したとき,いわゆる斜面体の数が,4つ又は5つとなっている点が異なっている。
しかしながら,関連意匠は,甲1意匠の関連意匠として,すなわち甲1意匠と類似するものとして登録されており,これは,斜面体数が,甲1意匠の美感判断に影響を与えないことの証左である。
したがって,甲1意匠と本件登録意匠とて相違点とされている,斜面体の数(6つか4つか)については,甲1意匠と本件登録意匠との類似性を違える理由にはなり得ない。

(4)堰部の有無について
被請求人は,本件登録意匠における堰部16の存在により,「渦状模様がより一層強調されるとともに,堰部16で隣り合う斜面体10どうしの境界部が強調されることにより,渦流生成部2に形成される渦状模様が明確なものとなっており,これによっても,本件登録意匠は,甲1意匠に比べて,よりダイナミックな渦の流れを印象付けるものとなっている。」(審判事件答弁書35頁1行目以降)と主張する。
しかしながら,前述したとおり,堰部の有無にかかわらず,甲1意匠及び本件登録意匠において,フランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様が現出されることに変わりはない。むしろ堰部は,フランジ部から流入した水が時計回りに流れてしまわないよう,すなわち反時計回りで中心に向かうよう誘導する役割があり,中心に向かう渦の流れが共通していることを阻害するものではない。
また,被請求人の主張する,「堰部」の存在から「ダイナミック」な印象という論理の流れが不明確であり,論証に成功しているとは言い難い。
以上のとおり,堰部の有無は,甲1意匠と本件登録意匠とで美感を相違する理由とはならない。

3 結論
以上のとおり,甲1意匠及び本件登録意匠において,斜面体の形状に実質的な争いはなく,両者ともに少なくとも(1)フランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様が共通している以上,両者は類似していることは明らかである。
また,仮に上記(1)が公知意匠に現出されているとしても,(2)捕捉部のコーナー部が隅丸矩形状であって丸味を帯びた柔らかな形状であること及び(3)渦流生成部がフランジ部より上方に突出しておらず,平面的な形状であることの両者をも備えた公知意匠は存在しない以上,これらの(1)?(3)の構成が要部であり,かかる要部が共通する甲1意匠及び本件登録意匠とは類似しているものである。

4 請求人が提出した証拠
(1)甲第9号証 原告第1準備書面(写し)

(2)甲第10号証 被告第3準備書面(写し)

(3)甲第11号証 広辞苑第七版(写し)

(4)甲第12号証 BAILAウェブサイト(写し)

(5)甲第13号証 広辞苑第七版(写し)

(6)甲第14号証 Google画像検索結果(写し)

(7)甲第15号証 斜面体の数が10個のヘアキャッチャーの図(写し)

(8)甲第16号証 Weblio英語辞典(strainer)(写し)

(9)甲第17号証 Garbage Disposal in Black(黒色のごみ処理ストッパー)ウェブサイト(写し)

(10)甲第18号証 意匠登録【意願2020-011759】(写し)

(11)甲第19号証 意匠登録【意願2020-011760】(写し)

(12)甲第20号証 登録査定(写し)

(13)甲第21号証 登録査定(写し)


第5 口頭審理
本件審判について,当審は,令和3年6月23日付け審理事項通知書を通知し,請求人に対して下記(ア)及び(イ)について意見等を求めた。
「(ア)弁駁書第11頁,第13行?15行の記載について
弁駁書第11頁,第13行?15行に,「乙9について,乙9の実施品が甲17のウェブサイト(Garbage Disposal Stopper in Black:黒色のゴミ処理ストッパー)に掲載されている」との記載がありますが,甲17が乙9の実施品である事実を客観的に証明できる証拠を提出するなどして明らかにしてください。

(イ)弁駁書第14頁第26行?第29行の記載について
弁駁書第14頁,第26行?第29行に,「[2]捕捉部のコーナー部が隅丸矩形状であって丸味を帯びた柔らかな形状であること及び[3]渦流生成部がフランジ部より上方に突出しておらず,平面的な形状であることの両者をも備えた公知意匠は存在しない」との記載がありますが,当審合議体は,職権にて,下記公知意匠1及び公知意匠2の存在を確認しました。
この点について,意見等を述べてください。

公知意匠1(別紙第1参照)(当審注:当審決においては,別紙第6参照)
公開特許公報 特開2013-155524に表された「ヘアキャッチャー」の意匠

公知意匠2(別紙第2参照)(当審注:当審決においては,別紙第7参照)
特許庁意匠課公知資料番号第HC25015660号に表された「へキャッチャー」の意匠。」

これに対して,被請求人は,同年7月21日付け口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)を,請求人は,同年8月4日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)をそれぞれ提出し,同年8月18日に口頭審理を行った(令和3年8月18日付け口頭審理調書)。

1 被請求人の主張
被請求人は,被請求人陳述要領書に基づき,要旨,以下のとおり意見を述べ,その主張事実を立証するため,後記(5)に掲げた乙第14号証及び乙第15号証を提出した。

(1)甲1意匠の関連意匠が登録査定を受けたことについて
関連意匠の登録要件
(ア)本無効審判の請求人であるクレア株式会社は,本無効審判の引例意匠である甲1意匠(登録第1620963号)の意匠権者である。平成3年4月23日付の審判事件弁駁書によると,請求人が本無効審判に係る甲1意匠の関連意匠として,意願2020-011759号(甲18)及び意願2020-011760号(甲19)を意匠登録出願していたところ,これら関連意匠について,今般,登録査定がなされたとのことである(甲20,甲21)。
(イ)関連意匠に求められる客体的要件には,本意匠と類似することのほか,新規性(意匠法第3条第1項),創作非容易性(意匠法第3条第2項)は勿論のこと,先願(意匠法第9条第1項)の登録要件を満たすことが求められる。つまり,関連意匠であっても,それが意匠登録出願日よりも先に出願された他人の意匠登録出願との間では,当該先願(意匠法第9条第1項)の規定は適用されるのであり,関連意匠に係る意匠が,他人の先願に係る意匠登録出願に係る意匠と同一又は類似する場合には,意匠法第9条第1項の登録要件を満たさないものとして拒絶されることとなる。

イ 本件登録意匠と甲18,19意匠との関係
(ア)甲18,19より,これら関連意匠の出願日は,共に令和2年(2020年)6月12日である。一方,被請求人による本件登録意匠の出願日は,同年(令和2年(2020年))5月25日である。
(イ)そうすると,被請求人による本件登録意匠は,甲18意匠および甲19意匠(以下,両意匠を適宜「甲18意匠等」と記す。)よりも先に出願されたものであって,本件登録意匠は甲18意匠等の先願に該当する。

ウ 甲18意匠等と本件登録意匠とが非類似であること
(ア)上記のように,関連意匠である甲18意匠等の審査においても,先願(意匠法第9条第1項)の登録要件を満たすか否かは判断される。そして,甲18意匠等が登録査定を受けたということは,甲18意匠等が当該先願(意匠法第9条第1項)の登録要件を満たしていると,特許庁審査官が判断したということである。
(イ)より具体的には,甲18意匠等の先願として本件登録意匠が存在していたにもかかわらず,特許庁審査官が,甲18意匠等に登録査定を付与したということは,これら甲18意匠等は,本件登録意匠との関係で,先願(意匠法第9条第1項)の登録要件を満たしていると特許庁審査官が認めたということであって,端的に言えば,特許庁審査官は,甲18意匠と本件登録意匠とは非類似であり,また甲19意匠と本件登録意匠とは非類似であると判断したということである。
(ウ)実際,甲18意匠の審査において特許庁審査官が提出した通知書(乙第14号証)の「2.審査官が,本願意匠の新規性,創作非容易性等の判断の際に参考とした資料を以下のとおりお知らせ致します。」の欄には,本件登録意匠(意匠登録第1670712号)が明記されており,特許庁審査官が,本件登録意匠と甲18意匠とを比較したうえで,両意匠は非類似であると判断したことは明らかである。甲19意匠の通知書(乙第15号証)にも同様の記載が見受けられ,特許庁審査官が,本件登録意匠と甲19意匠とを比較したうえで,両意匠は非類似であると判断したことは明らかである。

エ 甲1意匠と本件登録意匠とが非類似であること
(ア)甲1意匠と甲18意匠とが類似していることは,甲18意匠が甲1意匠を本意匠とする関連意匠として登録査定を受けていることより明らかである。加えて,請求人は,甲1意匠を本意匠とする関連意匠として甲18意匠を出願しているから,請求人が甲18意匠は甲1意匠と類似すると考えていることは明らかであり,被請求人もこれ(甲18意匠が甲1意匠と類似すること)を認めるから,甲18意匠が甲1意匠と類似することは,当事者間で争いのない事実でもある。
(イ)一方,甲18意匠と本件登録意匠とが非類似であることも,上述のように,甲18意匠が意匠法第9条第1項の先願の登録要件を満たして登録査定を受けていることより明らかである。請求人も,本無効審判の手続きにおいて甲20号証の登録査定を提出し,甲18意匠が登録となった事実を示すことで,これ(甲18意匠と本件登録意匠とが非類似であること)を認めている。また,被請求人も甲18意匠と本件登録意匠とが非類似であることを認める。したがって,甲18意匠と本件登録意匠とが非類似であることも,当事者間で争いのない事実である。
(ウ)ここで甲18意匠と本件登録意匠とを比較すると,斜面体の数が共に4つである点で共通する。そうすると,上述のように甲18意匠が登録査定を受けた事実より,斜面体の数が4つであるという点で共通するにも拘らず,甲18意匠と本件登録意匠とは非類似であると判断されたということになる。
(エ)一方,甲1意匠と本件登録意匠とを比較すると,甲1意匠では斜面体の数が6つであるのに対して,本件登録意匠では斜面体の数が4つである点で相違する。
(オ)以上より,斜面体の数が同数(4つ)の甲18意匠と本件登録意匠とが非類似の関係にあるから,斜面体の数が4つと6つとで異なる本件登録意匠と甲1意匠とは,当然に非類似であるとの結論に容易に至る。
(カ)つまり,甲18意匠が登録査定を受けたということは,甲1意匠よりも本件登録意匠に相対的に近い位置に存する甲18意匠が本件登録意匠とは非類似であると判断されたということであるから,本件登録意匠からみて甲18意匠よりも相対的に遠い位置にある甲1意匠の類似範囲に本件登録意匠が含まれるということは論理的にあり得ず(下図参照),結局,甲1意匠と本件登録意匠とは非類似であるとの結論に容易に至る。
(キ)以上のように,甲1意匠の関連意匠である甲18意匠に登録査定が下されたという事実は,甲1意匠と本件登録意匠とが非類似であるということを客観的に裏付けるものである。
(ク)また,本無効審判において請求人は,甲18意匠が登録査定を受けたことを示すことで,甲1意匠よりも相対的に近い位置に存する甲18意匠が本件登録意匠とは非類似であるとしながら,他方で本件登録意匠からみて甲18意匠よりも相対的に遠い位置にある甲1意匠の類似範囲に本件登録意匠が含まれると主張しており,本無効審判における請求人の主張は重大な矛盾を包含するものとなっている。

(2)斜面体の形状について
ア 請求人は,本件登録意匠の斜面体の形状,および甲1意匠の斜面体の形状は,共に「三日月状」であると主張する(弁駁書第2頁第31?35行)。しかし,意匠の類否判断における本質は,仮に斜面体の形状の一点のみに着目したとしても,本件登録意匠の斜面体の形状と甲1意匠の斜面体の形状が相違しているか否かということや,両意匠の斜面体の形状の違いが,意匠の類否判断にどのように影響を与えているかということであって,両意匠の斜面体の形状を「三日月状」で表現できるか否かということではないはずである。

イ 請求人は,弁駁書第3頁に,一般的な「三日月形状」を挙げて,これが本件登録意匠の斜面体と相似していると主張する。しかし,仮に請求人が挙げる一般的な「三日月形状」が本件登録意匠の斜面体と相似するとしても,下記に示すように,請求人が第3頁に挙げた一般的な「三日月形状」が甲1意匠の斜面体と相似しているとは絶対に言うことはできない。

ウ また,請求人は「三日月形状とは,眉状であればよい」と主張するが(弁駁書第4頁第2?3行),請求人が弁駁書の第4頁に挙げた眉形状,或いは甲第12号証に挙げる眉形状に甲1意匠の斜面体が相似しているとも絶対に言うことはできない。

エ 結局,弁駁書における斜面体の形状に関する請求人の主張は,多くの三日月形状の中から,本件登録意匠と比較対象となり得る一つの三日月形状を選択し,これを一般的な「三日月形状」としで挙げたうえで,これを本件登録意匠と比較することで,本件登録意匠の斜面体を「三日月形状」と認定しているにすぎず,本件登録意匠の斜面体を「三日月形状」と認定したいがためだけの主張であって,客観的に本件登録意匠の斜面体と甲1意匠の斜面体の形状が相似しているか否かという,意匠の類否判断における本質的な議論とはかけ離れたものであって,失当である。

オ また,請求人は,被請求人による「三日月形状」の定義は根拠がないとし(弁駁書第3頁),さらに「「鎌状」と「三日月形状」とは一致する」としたうえで(弁駁書第4頁),本件登録意匠の斜面体は三日月形状であると主張し,さらに,甲1意匠の斜面体には角が存在しないから,三角形状というのは妥当でないと主張する(弁駁書第5頁)。しかし,弁駁書には甲1意匠の斜面体が三日月形状である旨の「結論」が記載されているだけであり(弁駁書の第2頁),請求人の主張の基礎となるはずの甲1意匠の斜面体の形状が「三日月形状」である旨の具体的根拠は皆無である。結局,弁駁書における斜面体の形状に係る請求人の主張は,被請求人による「三日月形状」や「鎌状」や「三角形状」の定義の否定にすぎず,被請求人主張に対する反論の体をなしていない。

カ 加えて,上記のように甲18意匠が登録査定を受けており,当該甲18意匠が本件登録意匠と非類似であると判断されているという客観的事実,およびこの種のヘアキャッチャーでは斜面体の形状が看者の注意を惹く部分であることに鑑みれば,甲18意匠に登録査定を下した特許庁審査官は,甲18意匠の斜面体の形状と本件登録意匠の斜面体の形状とは相似しないと判断したものと推測できる。
より具体的には,甲18意匠と本件登録意匠とは,共に渦流生成部を4分割するものであって,渦流生成部に占める各斜面体の割合は一致するものとなっており,しかも,最外周部を区画する円弧状の湾曲線(本件登録意匠の第3湾曲線12C)の長さ寸法は一致するものであるにも拘らず,特許庁審査官は甲18意匠と本件登録意匠の斜面体の形状は相似しないと判断したものと推測できる。
そうすると,甲1意匠のように,斜面体が渦流生成部を6分割するものであり,渦流生成部に占める各斜面体の割合や,最外周部を区画する円弧状の湾曲線の長さ寸法が本件登録意匠と明らかに異なるものである場合には,両意匠の斜面体の形状は相似しないとの結論に容易に至るはずである。

(3)審判請求書において,斜面体の形状(三日月形状)は両意匠の共通点として挙げられていないこと
ア 審判請求書の「(4)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比」の「イ 本件登録意匠と甲1意匠の形態の共通点及び相違点の列挙」(審判請求書第6頁)の欄の「(ア)共通点」の欄には,両意匠の斜面体が三日月形状であることは共通点として挙げられていない。また,審判請求書の「ウ 本件登録意匠と甲1意匠の形態の共通点及び相違点の評価」の欄(審判請求書第8頁以降)には,「三日月」や「三日月形状」といった言葉は一切出てこず,当該欄には両意匠の斜面体が三日月形状であることが美感に与える影響については全く触れられていない。

イ したがって,答弁書における被請求人の主張を否定することを目的として,弁駁書において請求人が両意匠の斜面体が三日月形状である旨の主張を展開することは許されると解するが,「甲1意匠及び本件登録意匠とは,両者ともにフランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様が共通している以上,両者の美感が共通している。」(弁駁書第7頁?第8頁)のように,斜面体が三日月形状であることを両意匠の美感が共通する根拠とすることは,両意匠の新たな共通点を認定したうえで,当該新たな共通点に基づいて新たな無効理由の根拠を追加するものであって,無効理由の要旨を変更するものであって許されないと解する(意匠法第52条で準用する特許法第131条の2第1項第1号)。

(4)弁駁書について
令和3年4月23日に請求人が提出した審判事件弁駁書の「第5 弁駁の内容」の請求人主張について,被請求人の意見を述べる。

ア 「1 構成態様の特定について」
(ア)「(1)本件登録意匠の構成態様について」(弁駁書第2頁?第4頁)
a「ア 「基本的構成態様」(弁駁書第2頁)
(a)侵害訴訟において,被請求人(被告)が,被告製品の基本的構成態様について「有底灰皿状」の表現を含めて特定したことは認める。
(b)但し,次項に示すように「灰皿」には種々の形状を備えるものが存在しており,「灰皿状」という表現は,形状を一義的に特定した表現や,形状を正確に特定した表現であるとは言えないため,本無効審判では基本的構成態様の「有底灰皿状」であることの認否を留保したものである。
b 「イ 具体的構成態様」(弁駁書第2頁?第4頁)
(a)(ア)における「斜面体が曲線を「基調」としているか否かは評価であり,構成態様として特定することは妥当でない。」に係る請求人主張については,全て否認ないし争う。
意匠の構成態様の特定に際して「基調」といった表現を用いることは許される。例えば,平成22年(ワ)第805号 意匠権侵害差止等請求事件(平成24年3月15日判決言渡)では,裁判所は,本件意匠の具体的構成態様を「暗調子の地の上に,明調子の,不規則に穏やかに蛇行する細線状の縦条模様が,表面側全体に多数配された,略縦縞模様を基調としている。」と,「基調」を含む表現で特定している。
(b)(イ)について
被請求人が,請求人による本件登録意匠の斜面体10の形状を三日月形状であるとの主張を否認したこと,当該斜面体10の形状を「鎌状」と特定したこと,および被請求人が斜面体10の形状が「三日月形状」でないことの根拠として,「一般的に,三日月状とは,曲率の異なる2つの部分円弧線で囲まれた形を意味し,2つの部分円弧線が交わる両頂点部分に行くに従って漸次幅狭となっていくような形状を意味すると解する。」と主張したことは認め,その余の請求人主張については否認ないし争う。具体的理由は,本書面の第5頁の「(2)斜面体の形状について」で述べたとおりである。
(イ)「(2) 甲1意匠の構成態様について」(弁駁書第4頁?第6頁)
a 「ア 基本的構成態様」(弁駁書第4頁?第5頁)上記の「ア(ア)で述べたものと同様であり,「灰皿」には種々の形状を備えるものが存在しており,「灰皿状」という表現は,形状を一義的に特定した表現や,形状を正確に特定した表現であるとは言えないため,本無効審判では基本的構成態様の「有底灰皿状」であることの認否を留保したものである。

b 「イ 具体的構成態様」(弁駁書第5頁?第6頁)
(a)(ア)について
全て否認ないし争う。
答弁書の第11頁第29行?第12頁第8行において詳述したように,甲1意匠の斜面体60を区画する第1?第3区画線のうち,第2区画線62Bは,上記接点61から外周方向に向かう略直線状の第2線62Eと,第2線62Eの外端に形成された部分円弧状の第3線62Fとで構成されており(甲第4号証の4,5参照),第2区画線62Bは,均一な曲率を有する1本の曲線からなるものとはなっていない。
これに対して,弁駁書第5頁において,請求人が甲1意匠の平面図に赤線で引いた第2区画線は,均一な曲率を有する一本の曲線で示されており,当該赤線は甲1意匠の斜面体の第2区画線を正確になぞったものとは言えない。また,当該赤線は不自然に異常に太く,この点でも第2区画線を正確になぞったものとは言えない。
以上より,弁駁書第5頁の平面図に記載された赤線に基づく「甲1意匠における区画線62A・62Bは中心の捕捉部1に向かって,曲線を描いている」旨の請求人の主張は,請求人自身が描いた不正確な線図を根拠とするものであり,曲解に基づく主張であって失当である。
(b)(イ)について
請求人主張に対しては,全て否認ないし争う。
本無効審判において,被請求人は,「斜面体60の平面視における形状を,「○○状」のように特定することは容易ではないが,」と断りを入れたうえで(答弁書の第38頁第2?第3行),甲1意匠の斜面体60の形状を「略三角形状」と,「略」を付して特定したのであって,「三角形」と断言したことはない。
また,甲1意匠の斜面体60の形状を「三日月状」と言うことはできないことは,本書面の第5頁の「(2)斜面体の形状について」で述べたとおりである。
なお,侵害訴訟において被告(被請求人)が提出した答弁書(甲第3号証)の第15頁の第31行,第17頁の第22行,第19頁の第21行,第22頁の第34行,第23頁の第23?24行,および第24頁の第2行,第18?第19行において,被告は,甲1意匠(侵害訴訟の本件登録意匠)の斜面体60は「略三角形状」であると明確に特定しており,当該答弁書において一度たりとも斜面体60を「三角形状」とは特定していない。
このように,侵害訴訟において被告(被請求人)は,その当初から甲1意匠(侵害訴訟の本件登録意匠)の斜面体60は「略三角形状」であると特定しているのであって,侵害訴訟の被告第3準備書面(甲10)における一つの「三角形状」の記載のみを根拠とする「本審判事件では「略三角形状」と恣意的に変更している。これは被請求人の特定には全く信用性がないことの証左である。」との請求人の主張(弁駁書第6頁第4?5行)は,まさに曲解に基づく主張であって失当である。
(ウ)「(3)共通点及び相違点の認定」(弁駁書第6頁)
甲1意匠の斜面体60の形状を「三日月状」と言うことはできないことは,本書面の第5頁の「(2)斜面体の形状について」で述べたとおりである。

イ 「2 甲1意匠の要部及び美感判断」(弁駁書第6頁?第14頁)
(ア)「(1)被請求人の主張」(弁駁書第6頁?第7頁)
認める。
(イ)「(2)斜面体の形状は甲1意匠及び本件登録意匠ともに三日月形状である」(弁駁書第7頁?第8頁)
全て否認ないし争う。
斜面体の形状については,本書面の第5頁の「(2)斜面体の形状について」で述べたとおりである。
また,ヘアキャッチャー,或いはヘアキャッチャーを含む異物取集具の分野において,渦流生成部に捕捉部に向かう渦状模様が現出するという形態は,甲1意匠の出願時に公知であった乙3?9号証にも見られるありふれた形態であって,甲1意匠の要部とならないことは,答弁書第17頁?第33頁において詳述したとおりである。
また,甲1意匠および本件登録意匠において,フランジ部の周囲から流入した水は,第2区画線に係る内縦壁に至ることなく,斜面体に沿って流れて捕捉部に落下するものもあり,フランジ部の周囲から流入した水の全てが第2区画線に係る内縦壁に沿って流れるということはない。多量の水が流入した場合には,内縦壁を乗り越えて反時計方向側に隣接する斜面体に至ることもある。したがって,請求人が弁駁書の第8頁の平面図に赤線で示した矢印線は,実際の水の流れを正確に示したものとは言えない。
ましてや,甲1意匠や本件登録意匠に接した一般需要者は,第1?第3区画線で区画される斜面体の形状や本件登録意匠の場合には堰部の形状といったような実在する形状の線図に基づいて渦状模様を視認するものであり,請求人が主張するような「流入した水が三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら,中心に向かう」というような水の流れをイメージし,当該イメージされた水の流れに基づいて渦状模様を認めるというように,想像力を駆使して模様の存在を認めるようなことは,常人は行わないものである。実際,答弁書第25頁に示したデザインでは,3種のいずれのデザインにおいても水の流れのイメージを要することなく渦状模様が認められる。以上より,請求人が主張する渦状模様の特定方法は,一般需要者が行う自然な特定方法であるとは言えない。
(ウ)「(3)斜面体の数の相違は美感を相違しない」(弁駁書第8頁?第13頁)
a「ア 乙3(甲5)?乙6(甲8)」(弁駁書第8頁?第9頁)
全て否認ないし争う。
乙3?乙6のヘアキャッチャーの渦流生成部には,反時計方向の渦状の流れ,すなわち「渦状模様」が現出されていると認められる。具体的理由は,答弁書の第25?第28頁で述べたとおりである。
また,一般需要者は実在する線図に基づいて渦状模様を視認するものであって,イメージした水の流れに基づいて渦状模様を認めるという請求人主張の特定方法が不自然であることは上述したとおりである。また,甲15においても,斜面体や斜面体を区画する区画線に基づけば,渦状模様は明確に視認できると解する。
また,斜面体の数が同数であっても非類似となり得ることは,本件登録意匠の存在下で甲18意匠が登録となったことで明らかであるから,斜面体の数が4個から6個であれば,渦状模様が現出されて美感が共通するという請求人の主張は,既に論理が破綻している。
b 「イ 乙7?乙9」(弁駁書第10頁?第12頁)
全て否認ないし争う。
乙7の排水誘導具,乙8のゴム製バスケットストレーナー,および乙9のゴミ処理ストッパーには,「渦状模様」が現出されていると認められる。具体的理由は,答弁書の第29?32頁で述べたとおりである。
一般需要者は実在する線図に基づいて渦状模様を視認するものであって,イメージした水の流れに基づいて渦状模様を認めるという請求人主張の特定方法が不自然であることは上述したとおりである。
なお,請求人は,知財高裁令和2年11月4日判決(令和2年(行ケ)第10055号)を注釈に挙げて(弁駁書第12頁),「意匠分類は審査の一応の基準に過ぎず,それ自体をもって直ちに物品の類似性が認められるものではないことは論を待たない。」と主張する(弁駁書第11頁?12頁)。
しかし,請求人が注釈に挙げる上記知財高裁判決は,商標の無効審決の取消訴訟の判決であって,請求人は意匠分類と商標の類似群コードとを混同しており,失当である。
c 「ウ 関連意匠の登録」(弁駁書第12頁?第13頁)
甲1意匠の関連意匠である甲18意匠に登録査定が下されたという事実は,甲1意匠と本件登録意匠とが非類似であるということを客観的に裏付けるものであることは,本書面の「(1)甲1意匠の関連意匠が登録査定を受けたことについて」で述べたとおりである。
(エ)「(4)堰部の有無について」
請求人の主張については全て否認ないし争う。
具体的理由は,答弁書第33頁の「堰(部)の有無と類否判断について」で詳述したとおりである。
また,一般需要者は実在する形状の線図に基づいて渦状模様を視認するものであって,イメージした水の流れに基づいて渦状模様を認めるという請求人主張の特定方法が不自然であることは上述したとおりである。

ウ 「3 結論」(弁駁書第14頁)
全て否認ないし争う。
審理事項通知書の公知意匠1,2は,いずれも[2],[3]の両者を同時に備えるものとなっている。

(5)非請求人が提出した証拠
ア 乙第14号証 甲第18号証に係る意匠の審査段階において特許庁審査官から出された通知書(写し)

イ 乙第15号証 甲第19号証に係る意匠の審査段階において特許庁審査官から出された通知書(写し)

2 請求人の主張
請求人は,請求人陳述要領書に基づき,要旨,以下のとおり意見を述べた。

(1)甲17と乙9の関係について
甲17の上部には,「Garbage Disposal Stopper in Black by DANCO」との記載があり,甲17商品の商品名が,「Garbage Disposal Stopper in Black」,製造元が「DANCO」と考えられる。
他方,乙9の物品は,「Garbage Disposal Stopper」,譲受人(Assignee)は,「Danco, Inc.,」とあるから,いずれも甲17の記載と一致している。
また,客観的に意匠同士を比較しても,平面図,底面図及び斜視図の形態が完全に一致している。
以上より,甲17商品は,乙9意匠の実施品であることは明らかである。
なお,乙9(甲17)は,そもそもシンクに対して,捕集部(捕捉部)に相当する部分が上側を向いて装着されるものであり,渦状模様の水流も発生しなければ,髪の毛(ヘアー)も収集できず,本件登録意匠及び甲1意匠と物品が全く異なることは弁駁書11頁以下で述べたとおりである。

(2)公知意匠1及び2について
ア 公知意匠1(特開2013-155524に表された図面。以下,特開2013-155524に表された図を,単に「図●」等という。)
特許庁提示に係る公知意匠1は,そもそも「フランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様」を備えておらず,甲1意匠及び本件登録意匠の美感の判断に影響を与えない。
すなわち,図3及び図6に表されるとおり,公知意匠1は,三日月状の斜面体が存在しない結果,流入路86から流入した水は,傾斜面88,90,92や旋回流路82等に沿って「円環状に」旋回し,最終的に捕捉部70へ流入する。この意味で,公知意匠1は甲6意匠に類似した意匠である。
他方で,本件登録意匠及び甲1意匠は,斜面体の形状が,反時計回り及び時計回りいずれに向かっても漸次幅狭な三日月状である結果,フランジ部から流入した水は,円環状ではなく,弧を描きながら中心に向かうという渦状模様を描くこととなる。
以上のとおり,公知意匠1と,甲1意匠及び本件登録意匠とでは,検出される渦状模様に顕著な差異があり,公知意匠1は,本件の美感判断に影響を与えない。
なお,特許庁は,令和3年6月23日付け「審理事項通知書」2頁において,「弁駁書第14頁,第26行?第29行に,『[2]捕捉部のコーナー部が隅丸矩形状であって丸味を帯びた柔らかな形状であること及び[3]渦流生成部がフランジ部より上方に突出しておらず,平面的な形状であることの両者をも備えた公知意匠は存在しない』との記載」に関連して公知意匠1に触れているが,公知意匠1においては,取手部100がフランジ部よりも上方に位置しており,「平面的な形状」であるという印象を需要者に与えない。

イ 公知意匠2
公知意匠2は現品がなく,その形態の詳細が明らかでないが,販売人が公知意匠1の出願人と同一であることから,公知意匠1の実施品であると考えられる。
したがって,請求人の意見は,上記公知意匠1と同一である。すなわち,公知意匠2の渦の流れは円環状であって,甲1意匠及び本件登録意匠の渦状模様とは異なる上,つまみ部がフランジ部より上部に位置する結果,平面的な印象も与えない。

(3)被請求人口頭審理陳述要領書に対する反論
関連意匠の登録査定がなされた点について
被請求人は,甲18意匠が登録されたことをもって,甲18意匠と本件登録意匠とが非類似であることを認めた旨主張するが,請求人は,甲18意匠と本件登録意匠が非類似であることを認めたことはない。
また,被請求人が作成した口頭審理陳述要領書4頁の図も,本件登録意匠と甲18意匠とが非類似であることを前提とした恣意的なものになっている。請求人の主張は,甲18意匠が,甲1意匠と類似するものとして,すなわち関連意匠として登録されたのであるから,甲1意匠≒甲18意匠≒本件登録意匠(≒は類似を示す。)というものである。
なお,被請求人は,甲18意匠のほうが,甲1意匠よりも,本件登録意匠に「相対的に近い位置に存する」(口頭審理陳述要領書5頁3行目)と主張するが,甲18意匠及び甲19意匠が甲1意匠の関連意匠として登録された以上,ヘアキャッチャーにおいて斜面体の数が美感を左右しないことは明らかであるから,甲18意匠及び甲19意匠の方がより本件登録意匠に近いという評価はできない。甲1意匠,甲18意匠及び甲19意匠は,いずれも本件登録意匠と類似するものである。

要旨変更である旨の指摘について
被請求人は,斜面体が三日月形状であると主張することは,無効理由の要旨変更に当たる旨(口頭審理陳述要領書7頁9行目以降)主張するが,およそ失当である。
特許庁審判便覧(第19版)51-16の1頁以下の「3 請求の要旨変更となる例」を見るに,本件のように新たな共通点を主張する点が,要旨変更に当たる旨の記載は一切認められない。
実質的にも,本件における請求人の主張は,甲1意匠と本件登録意匠が類似することに基づく新規性欠如という無効理由を変更するものではなく,かつ,主要事実を新たに追加するものでもない。単に,本件登録意匠と甲1意匠との共通点を「評価」として主張したにすぎないものであり,「権利を無効にする根拠となる事実」を変更したものではない。

3 審判長
審判長は,この口頭審理において甲第1号証ないし甲第21号証並びに乙第1号証ないし乙第15号証について取り調べ,本件審理は,終結するとした(令和3年8月18日付け「第1回口頭審理調書」)。


第6 当審の判断
1 本件登録意匠(別紙第1参照)
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「ヘアキャッチャー」であって,その用途及び機能は,浴室の排水口に装着し,排水中の毛髪等を捕集するものである。

(2)本件登録意匠の形態
本件登録意匠の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)は,その意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりであり,当審では,本件登録意匠の形態について以下のとおり認定する。

ア 全体の態様
(ア)全体の構成
平面視において略円形とし,中心に排水中の毛髪等を捕集する椀状の「捕集部」を有し,その外側には,旋回流を生成し,捕集部に向かって渦状に形成された「旋回流生成部」を備え,その外側には,排水口の縁部で支持されるリング状の「フランジ部」を張り出した構成とするものである。
(イ)平面視の態様
(イ-1)平面視,周側壁が円形に表れる「捕集部」の直径は,全体の直径の半分よりやや短い4.5/10,「旋回流生成部」の幅は,全体の直径の約2/10,「フランジ部」の幅は,同約1/10とするものである。
(イ-2)捕集部と旋回流生成部には,複数の排水孔が備わっている。
(ウ)正面視の態様
全体の高さは,全体の横幅の約1/3とするもので,上面の「フランジ部」の下には,フランジ部と略同幅分内側に,全体の高さの約1/6とする短い略垂直壁が左右対称に表れ,その壁面が全体の高さの上面から約3/5の高さまで旋回して「旋回流生成部」の外壁を形成し,全体の横幅の約1/2の横幅とする中央の「補集部」に繋がる態様とするものである。

イ 補集部の態様
(ア)捕集部は,正面視において,略垂直状の側壁と水平状の底壁,両者を繋ぐ大きなR状の湾曲壁(以下「捕集部R壁」という。)による構成とするもので,底壁中央には,平面視における全体の直径の約1/10の長さを直径とするドーム状の整流体が上方に向かって膨出形成されている。
(イ)排水孔の態様
略同径の小円形排水孔を捕集部底壁に3重の円環状に配したもので,ドーム状整流体の周囲に12個(第1円環孔),その外側に,第1円環孔と半ピッチずらした位置に12個(第2円環孔),さらにその外側に,第2円環孔と半ピッチずらした位置に12個(第3円環孔)の,合わせて36個とし,最外周の第3円環孔は,底壁の外周から一部捕集部R壁にかかって設けられている。

ウ 旋回流生成部の態様
(ア)旋回流生成部は,捕集部に向かって渦状に形成された4つの「旋回流生成壁」によって構成される。
(イ)旋回流生成壁の構成
(イ-1)4つの旋回流生成壁は,いずれも同形同大とするもので,平面視,円形に表れる捕集部周側壁からフランジ部の内周縁に略凸弧状に湾曲して伸びる略垂直状の壁面(以下「旋回壁」という。)が,等間隔に4つ配され,面が斜め上に向いた壁面(以下「斜面体」という。)が4つに分割されることによって構成される。
(イ-2)「旋回壁」の頂辺の1つは,平面視,円形に表れる捕集部周側壁の左斜め下約45度を始点として,捕集部周側壁の約1/4円弧まで沿った後,フランジ部内周縁の右斜め上約45度の位置まで略凸弧状に伸びる湾曲線とするもので,これを第1旋回壁の頂辺,捕集部周側壁の右斜め下約45度を始点とするものを第2旋回壁の頂辺,右斜め上約45度を始点とするものを第3旋回壁の頂辺,左斜め上約45度を始点とするものを第4旋回壁の頂辺とする。
平面視,右上の旋回流生成壁についてみると,「第1旋回壁」と「第4旋回壁の頂辺」,そして,両者が接するフランジ部内周縁の略1/4円弧を頂辺とする略垂直状の壁面(以下「フランジ壁」という。),及びこれらに囲まれた「斜面体」による3つの壁面によって構成される。
(ウ)斜面体の態様
(ウ-1)平面視における斜面体の構成
平面視における斜面体は,第1旋回壁のうち,捕集部周側壁の約1/4円弧まで沿った以降の,フランジ部内周縁まで略凸弧状に伸びる湾曲線部分の底辺をその一辺(以下「斜面体第1辺」という。)とし,これと第4旋回壁の頂辺(以下「斜面体第2辺」という。),そして,両者の間のフランジ壁の底辺(以下「斜面体第3辺」という。)による3辺によって構成される。
なお,いずれの頂点もR状の丸みを伴わない態様とするものである。
(ウ-2)3つの頂点の高さ
斜面体第1辺と斜面体第2辺による頂点(第1頂点)の高さは,捕集部の底から全体の高さの約2/5とするもので,斜面体第1辺と斜面体第3辺による頂点(第2頂点)の高さは,捕集部の底から全体の高さの約7/10とするもので,斜面体第3辺と斜面体第2辺による頂点(第3頂点)の高さは,全体の高さと略同じ(フランジ部の厚み分低い程度)とするものである。
(ウ-3)3辺の水平方向から見た態様及び斜面体の上面の態様
斜面体第1辺は,第1頂点からおおむね直線状に,ゆるやかな右上がりに第2頂点へと続くもので,斜面体第2辺は,全体を僅かに凸状に湾曲するものとし(B-B線断面図参照),右上がりに第1頂点と第3頂点を結ぶもので,斜面体第3辺は,全体を凸円弧状とし,ゆるやかに右上がりに第2頂点と第3頂点を結ぶもので,この斜面体第2辺及び斜面体第3辺が凸状に湾曲することから,斜面体の上面も中央がやや膨出した態様とするものである。
そして,斜面体第2辺は,全体の長さの約1/3第3頂点寄りに1段高い堰部を備えるものである。
(ウ-4)堰部の態様
堰部は,全体の高さの約1/12の高さを略垂直状に旋回壁の壁面と同一面に突出したもので,第3頂点までの上辺を,突出部先端から約1/3はゆるやかな右上がりの凸曲線とし,以降略水平状に表れるもので,平面視においては,突出部先端を頂点として,フランジ部内周の約1/24の長さ,第3頂点から内側の位置までを凸弧状の湾曲線で結んだ形状とするものである。
(ウ-5)排水孔の態様
斜面体第1辺寄りから斜面体第2辺寄りまで,5列の小円形排水孔が両辺の傾きに沿って,捕集部へ向かって旋回するように設けられ,第1辺寄りから順に,1列目から3列目までは4つの小円孔から,第4列目は3つの小円孔(平面視13時と9時部分は,爪部があるため2つのみ)から,第5列目は2つの小円孔から成るもので,いずれも捕集部側に向けて小円の径が小さくなっていくもので,フランジ部側の小円孔の径は,いずれも略同径とするものである。
(エ)旋回壁の構成及び形状
(エ-1)旋回壁の構成
旋回壁は,底辺の一部(一部は捕集部の周側壁と一体化)を斜面体第1辺とし,頂辺を平面視において左手側の旋回流生成壁を構成する斜面体第2辺が兼ね,右辺を斜面体第2頂点から左手側の旋回流生成壁を構成する斜面体第3頂点を結ぶやや右に倒れた直線状とするものである。
(エ-2)旋回壁の形状
旋回壁は,平面視,円形に表れる捕集部周側壁の約1/4円弧まで沿った以降,フランジ部内周縁まで略凸弧状に伸びる湾曲線とし,水平方向視では,おおむね直線状でゆるやかな右上がりとする底辺と,右上がりとしつつ全体が略凸弧状に湾曲し,第3頂点寄りに突出する堰部の一面が表れた頂辺と,やや右に倒れた全体の高さの約3/10とする直線部による右辺に囲まれた略垂直壁とするものである。
(オ)フランジ壁の構成及び形状
(オ-1)フランジ壁の構成
フランジ壁は,底辺を斜面体第3辺,頂辺をフランジ部内周縁の略1/4円弧,左辺を「旋回壁」の右辺と兼ねるやや右に倒れた直線部とし,右辺を堰部との接合部とするごく短い略直線部とするものである。
(オ-2)フランジ壁の形状
フランジ壁は,平面視,略1/4円弧とし,水平方向視では,右上がりとしつつ全体を凸円弧状とする底辺と,水平なフランジ部の内周縁の一部とする頂辺と,やや右に倒れた全体の高さの約3/10の直線部,そして極短い略直線部による右辺に囲まれた略垂直壁とするものである。

エ フランジ部の態様
(ア)平面視,外周縁の12時,3時,6時及び9時の位置に,小さな略半円状の切り欠きを備え,内周縁の3時及び9時の位置に上記切り欠きの幅より僅かに狭い長辺の略縦長矩形状孔部を有し,その内側(旋回流生成部側)の長辺には,爪部を片持ち状に張り出し,左記略縦長矩形状孔部に収まるように形成している。
(イ)正面視,フランジ部の下面は水平状に張り出しているが,上面は,外周縁に向かって斜め下方に傾斜する態様としている。
(ウ)底面視,フランジ部の幅の中央よりやや内側に円環状の細溝(以下「分離用円環溝」という。)を有し,その分離用円環溝の11時付近から10時付近に向けて,短い凸弧状の細溝,4時付近からフランジ部外周縁の5時付近に向けて,短い凸弧状の細溝が設けられている。
また,分離用円環溝の内周縁側,1時,4時,7時及び10時の位置に,小さなピンが設けられている。

2 無効理由の要点
請求人が主張する本件登録意匠の無効理由は,次のとおりのものと認められる。

本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に頒布された甲第1号証に記載された意匠(以下「甲1意匠」という。)と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

3 無効理由の判断
本件登録意匠が,甲1意匠と類似する意匠であるか否かについて検討する。

(1)甲1意匠(別紙第2参照)
甲1意匠は,審判請求書に添付された証拠説明書によれば,日本国特許庁が発行した意匠公報に掲載された意匠登録第1620963号「ヘアキャッチャー」の意匠であって,本件登録意匠の出願日以前の平成30年(2018年)12月25日に公開されている。

ア 甲1意匠の意匠に係る物品
甲1意匠の意匠に係る物品は,「ヘアキャッチャー」であって,その用途及び機能は,浴室の排水口等に設置し,毛髪等を捕捉するためのものである。

イ 甲1意匠の形態
甲1意匠の形態は,甲第1号証に記載されたとおりであり,当審では,甲1意匠の形態について以下のとおり認定する。

(ア)全体の態様
(a)全体の構成
平面視において略円形とし,中心に排水中の毛髪等を捕集する椀状の「捕集部」を有し,その外側には,旋回流を生成し,捕集部に向かって渦状に形成された「旋回流生成部」を備え,その外側には,排水口の縁部で支持されるリング状の「フランジ部」を張り出した構成とするものである。
(b)平面視の態様
(b-1)平面視,周側壁が円形に表れる「捕集部」の直径は,全体の直径の半分よりやや短い4.5/10,「旋回流生成部」の幅は,全体の直径の約2/10,「フランジ部」の幅は,同約1/10とするものである。
(b-2)捕集部と旋回流生成部には,複数の排水孔が備わっている。
(c)正面視の態様
全体の高さは,全体の横幅の約1/3とするもので,上面の「フランジ部」の下には,フランジ部と略同幅分内側に,全体の高さの約1/4とする略垂直壁が左右対称に表れ,その壁面が全体の高さの上面から約3/5の高さまで旋回して「旋回流生成部」の外壁を形成し,全体の横幅の約1/2の横幅とする中央の「補集部」に繋がる態様とするものである。

(イ)補集部の態様
(a)捕集部は,正面視において,略垂直状の側壁と水平状の底壁,両者を繋ぐ大きなR状の捕集部R壁による構成とするものである。
(b)排水孔の態様
略同径の小円形排水孔を捕集部底壁に4重の円環状に配したもので,最も内側に6個(第1円環孔),その外側に12個(第2円環孔),その外側に12個(第3円環孔),さらにその外側に12個(第4円環孔),第3円環孔のみ他と半ピッチずらして合わせて42個とし,最外周の第4円環孔は,底壁の外周から一部捕集部R壁にかかって設けられている。

(ウ)旋回流生成部の態様
(a)旋回流生成部は,捕集部に向かって渦状に形成された6つの「旋回流生成壁」によって構成される。
(b)旋回流生成壁の構成
(b-1)6つの旋回流生成壁は,いずれも同形同大とするもので,平面視,円形に表れる捕集部周側壁からフランジ部の内周縁に略直線状に伸びる略垂直状の壁面である「旋回壁」が,等間隔に6つ配され,面が斜め上に向いた壁面である「斜面体」が6つに分割されることによって構成される。
(b-2)「旋回壁」の頂辺の1つは,平面視,円形に表れる捕集部周側壁の水平に対して左側約0度(9時)を始点として,捕集部周側壁の約1/6円弧まで沿った後,フランジ部内周縁の同右斜め上約60度(1時)の位置まで略直線状に伸びるもので,これを第1旋回壁の頂辺,捕集部周側壁の同左斜め下約60度(7時)を始点とするものを第2旋回壁の頂辺,同右斜め下約60度(5時)を始点とするものを第3旋回壁の頂辺,同右側約0度(3時)を始点とするものを第4旋回壁の頂辺,同右斜め上約60度(1時)を始点とするものを第5旋回壁の頂辺,同左斜め上約60度(11時)を始点とするものを第6旋回壁の頂辺とする。
平面視,右上の旋回流生成壁についてみると,「第1旋回壁」と「第6旋回壁の頂辺」,そして,両者が接するフランジ部内周縁の略1/6円弧を頂辺とする略垂直状の壁面である「フランジ壁」及びこれらに囲まれた「斜面体」による3つの壁面によって構成される。
(c)斜面体の態様
(c-1)平面視における斜面体の構成
平面視における斜面体は,第1旋回壁のうち,捕集部周側壁の約1/6円弧まで沿った以降の,フランジ部内周縁まで略直線状に伸びる部分の底辺をその一辺である「斜面体第1辺」とし,これと第6旋回壁の頂辺である「斜面体第2辺」,そして,両者の間のフランジ壁の底辺である「斜面体第3辺」による3辺によって構成される。
なお,斜面体第1辺と斜面体第3辺による頂点は,ゆるやかなR状とするもので,他の2つの頂点はいずれもR状の丸みを伴わない態様とするものである。
(c-2)3つの頂点の高さ
斜面体第1辺と斜面体第2辺による頂点(第1頂点)の高さは,捕集部の底から全体の高さの約1/2とするもので,斜面体第1辺と斜面体第3辺による頂点(第2頂点)の高さは,捕集部の底から全体の高さの約3/4とするもので,斜面体第3辺と斜面体第2辺による頂点(第3頂点)の高さは,全体の高さと略同じ(フランジ部の厚み分低い程度)とするものである。
(c-3)3辺の水平方向から見た態様及び斜面体の壁面(上面)の態様
斜面体第1辺は,第1頂点付近がごく僅かに凹んだように見えるもののおおむね直線状に,ゆるやかな右上がりに第2頂点へと続くもので,斜面体第2辺は,全体がごく僅かに凸状に湾曲して(A-A線断面図参照),右上がりに第1頂点と第3頂点を結ぶもので,斜面体第3辺は,全体の約2/3から第2頂点寄りを右上がりの角度をやや上げた緩やかな凹曲線状とし,第2頂点と第3頂点を結ぶもので,この斜面体第2辺が僅かに凸状に湾曲している点と斜面体第3辺が緩やかな凹曲線状とすることから,斜面体の上面は,斜面体第2辺の第3頂点寄りでは,斜面体第3辺へ向けて下がった面とし,斜面体第3辺の第2頂点寄りから斜面体第2辺の第1頂点寄りに向かっても下がった面とする,僅かにうねった態様とするものである。
(c-4)排水孔の態様
斜面体第1辺寄りから斜面体第2辺寄りまで,5列の小円形排水孔が両辺の傾きに沿って,捕集部へ向かって旋回するように設けられ,第1辺寄りから順に,1列目から2列目までは4つの同じ大きさの最小径小円孔から成り,3列目から5列目は,捕集部側に向かって順に小円の径が小さくなる態様とし,小円孔の数を,3列目は5つ,4列目は4つ,5列目は3つとし,3列目と4列目のフランジ部側の小円孔を略同径,3列目と4列目のフランジ部側から4ないし2番目と,5列目の小円孔の3つを,それぞれ略同径とするもので,2列目で最小径となる捕集部側の小円孔は1列目及び2列目の小円孔よりも径が大きいものとしている。
(d)旋回壁の構成及び形状
(d-1)旋回壁の構成
旋回壁は,底辺の一部(一部は捕集部の周側壁と一体化)を斜面体第1辺とし,頂辺を平面視において左手側の旋回流生成壁を構成する斜面体第2辺が兼ね,右辺を第3頂点によるゆるやかなR状の略垂直壁とし,その高さを全体の高さの約1/4とするものである。
(d-2)旋回壁の形状
旋回壁は,平面視,捕集部周側壁の約1/6円弧まで沿った以降の,フランジ部内周縁までを略直線状に伸びるものとし,水平方向視では,おおむね直線状に,ゆるやかな右上がりとする底辺と,右上がりとしつつ全体がごく僅かに凸状に湾曲する頂辺と,全体の高さの約1/4のゆるやかなR状垂直壁とするフランジ壁部との接合部による右辺に囲まれた略垂直壁とするものである。
(e)フランジ壁の構成及び形状
(e-1)フランジ壁の構成
フランジ壁は,底辺を斜面体第3辺,頂辺をフランジ部内周縁の略1/6円弧,左辺を「旋回壁」の右辺と兼ねるゆるやかなR状略垂直壁とし,右側を斜面体第3頂点とするものである。
(e-2)フランジ壁の形状
フランジ壁は,平面視略1/6円弧とし,水平方向視では,全体の約2/3から斜面体第2頂点寄りを右上がりの角度をやや上げた緩やかな凹曲線状とする底辺と,水平なフランジ部内周縁の一部とする頂辺と,全体の高さの約1/4のゆるやかなR状垂直壁による左辺,そして右側は頂辺と底辺による頂点に囲まれた略垂直壁とするものである。

(エ)フランジ部の態様
(a)平面視,外周縁の12時,3時,6時及び9時の位置に,小さな略半円状の切り欠きを備え,内周縁の12時及び6時の位置に上記切り欠きの幅より僅かに狭い長辺の略縦長矩形状孔部を有し,その内側(旋回流生成部側)の長辺には,爪部を片持ち状に張り出し,左記略縦長矩形状孔部に収まるように形成している。
また,1時,4時,7時,10時の位置に,フランジ部の幅の略中央からコの字状の小さな切り欠きが形成されている。
(b)正面視,フランジ部の厚みは,同幅のまま水平状に張り出す態様としている。
(c)底面視,フランジ部の幅の中央よりやや内側に円環状の分離用円環溝を有し,その分離用円環溝の4時付近からフランジ部外周縁の5時付近に向けて,短い直線状の細溝が設けられている。

(2)本件登録意匠と甲1意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品,甲1意匠の意匠に係る物品は,いずれも「ヘアキャッチャー」であり,両意匠の意匠に係る物品は,共通する。

イ 形態
本件登録意匠と甲1意匠の形態には,以下の共通点と相違点が認められる。
(ア)共通点
(A)全体の態様
(a)全体の構成
平面視において略円形とし,中心に排水中の毛髪等を捕集する椀状の「捕集部」を有し,その外側には,旋回流を生成し,捕集部に向かって渦状に形成された「旋回流生成部」を備え,その外側には,排水口の縁部で支持されるリング状の「フランジ部」を張り出した構成とする点。
(b)平面視の態様
(b-1)平面視,周側壁が円形に表れる「捕集部」の直径は,全体の直径の半分よりやや短い4.5/10,「旋回流生成部」の幅は,全体の直径の約2/10,「フランジ部」の幅は,同約1/10とする点
(b-2)捕集部と旋回流生成部には,複数の排水孔が備わっている点。
(c)正面視の態様
全体の高さは,全体の横幅の約1/3とするもので,上面の「フランジ部」の下には,フランジ部と略同幅分内側に,短い垂直壁が左右対称に表れ,その壁面が全体の高さの上面から約3/5の高さまで旋回して「旋回流生成部」の外壁を形成し,全体の横幅の約1/2の横幅とする中央の「補集部」に繋がる態様とする点。

(B)補集部の態様
(a)捕集部は,正面視において,略垂直状の側壁と水平状の底壁,両者を繋ぐ大きなR状の捕集部R壁による構成とする点。
(b)排水孔の態様
略同径の小円形排水孔を捕集部底壁に複数の円環状に配したもので,最外周の円環孔は,底壁の外周から一部捕集部R壁にかかって設けられている点。

(C)旋回流生成部の態様
(a)旋回流生成部は,捕集部に向かって渦状に形成された複数の「旋回流生成壁」によって構成される点。
(b)旋回流生成壁の構成
(b-1)複数ある旋回流生成壁は,いずれも同形同大とするもので,平面視,円形に表れる捕集部周側壁からフランジ部の内周縁に大きく伸びる壁面である「旋回壁」が等間隔に複数配され,面が斜め上に向いた壁面である「斜面体」が複数に分割されることによって構成される点。
(b-2)平面視,右上の旋回流生成壁についてみると,旋回流生成壁は,「第1旋回壁」と右下の旋回流生成壁を構成する「旋回壁の頂辺」,そして,両者が接するフランジ部内周縁の円弧の一部を頂辺とする略垂直状の壁面である「フランジ壁」,及びこれらに囲まれた「斜面体」による3つの壁面によって構成される点。
(c)斜面体の態様
(c-1)平面視における斜面体の構成
平面視における斜面体は,捕集部周側壁の円弧の一部まで沿った以降,フランジ部内周縁まで伸びる部分の底辺を斜面体第1辺,これと平面視右隣の旋回流生成壁を構成する旋回壁の頂辺である斜面体第2辺,そして,両者の間のフランジ壁の底辺である斜面体第3辺による3辺によって構成される点。
(c-2)3つの頂点の高さ
斜面体第3辺と斜面体第2辺による頂点(第3頂点)の高さは,全体の高さと略同じ(フランジ部の厚み分低い程度)とするものである点。
(c-3)排水孔の態様
斜面体第1辺寄りから斜面体第2辺寄りまで,5列の小円形排水孔が両辺の傾きに沿って,捕集部へ向かって旋回するように設けられている点。
(d)旋回壁の構成
旋回壁は,略垂直壁とするもので,底辺の一部(一部は捕集部の周側壁と一体化)を斜面体第1辺とし,頂辺を平面視において左手側の旋回流生成壁を構成する斜面体第2辺が兼ねている点。
(e)フランジ壁の構成
フランジ壁は,底辺を斜面体第3辺,頂辺をフランジ部内周縁の円弧の一部,左辺は旋回壁との境界部,そして右側は頂辺と底辺による頂点に囲まれた略垂直壁とする点。

(D)フランジ部の態様
(a)平面視,外周縁の12時,3時,6時及び9時の位置に,小さな略半円状の切り欠きを備え,内周縁の3時及び9時,あるいは12時及び6時といった向かい合う一組の小さな略半円状の切り欠きの内周縁側に,略小円状切り欠きの幅より僅かに狭い長辺の略縦長矩形状孔部を有し,その内側(旋回流生成部側)の長辺には,略縦長矩形状の爪部が片持ち状に張り出し,左記略縦長矩形状孔部に収まるように形成されている点。
(b)底面視,フランジ部の幅の中央よりやや内側に円環状の「分離用円環溝」を有し,その分離用円環溝から,フランジ部外周縁に向けて,短い細溝が設けられている点。

(イ)相違点
(A)全体の態様
(a)正面視の態様
本件登録意匠は,正面視,上面のフランジ部の下には,フランジ部と略同幅分内側に,全体の高さの約1/6とする短い略垂直壁が左右対称に表れ,「旋回流生成部」の外壁の一部を形成しているのに対し,甲1意匠は,同箇所に,全体の高さの約1/4とする略垂直壁が左右対称に表れ,「旋回流生成部」の外壁の一部を形成する態様とする点。

(B)補集部の態様
(a)整流体の有無
本件登録意匠の捕集部は,底壁中央に,平面視における全体の直径の約1/10の長さを直径とするドーム状の整流体が上方に向かって膨出形成されているのに対し,甲1意匠の捕集部は,整流体を有していない点。
(b)排水孔の態様
本件登録意匠の排水孔は,捕集部底壁に3重の円環状に配したもので,ドーム状整流体の周囲に12個(第1円環孔),その外側に,第1円環孔と半ピッチずらした位置に12個(第2円環孔),さらにその外側に,第2円環孔と半ピッチずらした位置に12個(第3円環孔)の,合わせて36個としたものであるのに対し,甲1意匠の排水口は,捕集部底壁に4重の円環状に配したもので,最も内側に6個(第1円環孔),その外側に12個(第2円環孔),その外側に12個(第3円環孔),さらにその外側に12個(第4円環孔),第3円環孔のみ他と半ピッチずらして,合わせて42個としたものである点。

(C)旋回流生成部の態様
(a)本件登録意匠は,4つの「旋回流生成壁」によって構成されるのに対し,甲1意匠は,6つの「旋回流生成壁」によって構成される点。
(b)旋回流生成壁の構成
(b-1)本件登録意匠の旋回流生成壁は,平面視,円形に表れる捕集部周側壁からフランジ部の内周縁に伸びる「旋回壁」が,等間隔に4つ配され,面が斜め上に向いた「斜面体」が4つに分割されることによって構成されるのに対し,甲1意匠の旋回流生成壁は,平面視,円形に表れる捕集部周側壁からフランジ部の内周縁に伸びる「旋回壁」が,等間隔に6つ配され,面が斜め上に向いた壁面である「斜面体」が6つに分割されることによって構成される点。
(b-2)平面視,右上の旋回流生成壁についてみると,本件登録意匠の旋回流生成壁の「旋回壁」の頂辺の1つは,平面視,円形に表れる捕集部周側壁の左斜め下約45度を始点として,捕集部周側壁の約1/4円弧まで沿った後,フランジ部内周縁の右斜め上約45度の位置まで伸びるもので,甲1意匠の旋回流生成壁の「旋回壁」の頂辺の1つは,平面視,円形に表れる捕集部周側壁の水平に対して左側約0度(9時)を始点として,捕集部周側壁の約1/6円弧まで沿った後,フランジ部内周縁の同右斜め上約60度(1時)の位置まで伸びるものである点。
(c)斜面体の態様
(c-1)平面視における斜面体の構成
本件登録意匠の斜面体は,第1旋回壁のうち,捕集部周側壁の約1/4円弧まで沿った以降の,フランジ部内周縁まで略凸弧状に伸びる湾曲線部分の底辺を「斜面体第1辺」とし,これと第4旋回壁の頂辺である「斜面体第2辺」,そして,両者の間のフランジ壁の底辺である「斜面体第3辺」による3辺によって構成され,いずれの頂点もR状の丸みを伴わない態様とするものであるのに対し,甲1意匠の斜面体は,第1旋回壁のうち,捕集部周側壁の約1/6円弧まで沿った以降の,フランジ部内周縁まで略直線状に伸びる部分の底辺を「斜面体第1辺」とし,これと第6旋回壁の頂辺である「斜面体第2辺」,そして,両者の間のフランジ壁の底辺である「斜面体第3辺」による3辺によって構成され,斜面体第1辺と斜面体第3辺による頂点は,ゆるやかなR状とするもので,他の2つの頂点はいずれもR状の丸みを伴わない態様とするものである点。
(c-2)3つの頂点の高さ
本件登録意匠の斜面体第1辺と斜面体第2辺による第1頂点の高さは,捕集部の底から全体の高さの約2/5とするもので,斜面体第1辺と斜面体第3辺による第2頂点の高さは,捕集部の底から全体の高さの約7/10とするものであるのに対し,甲1意匠の第1頂点の高さは,捕集部の底から全体の高さの約1/2とするもので,第2頂点の高さは,捕集部の底から全体の高さの約3/4とするものである点。
(c-3)3辺の水平方向から見た態様及び斜面体の壁面(上面)の態様
本件登録意匠の斜面体第1辺は,第1頂点からおおむね直線状に,ゆるやかな右上がりに第2頂点へと続くもので,斜面体第2辺は,全体を僅かに凸状に湾曲するものとし,右上がりに第1頂点と第3頂点を結ぶもので,斜面体第3辺は,全体を凸円弧状とし,ゆるやかに右上がりに第2頂点と第3頂点を結ぶもので,この斜面体第2辺及び斜面体第3辺が凸状に湾曲することから,斜面体の上面も中央がやや膨出した態様とするものであるのに対し,甲1意匠の斜面体第1辺は,第1頂点付近がごく僅かに凹んだように見えるもののおおむね直線状に,ゆるやかな右上がりに第2頂点へと続くもので,斜面体第2辺は,全体がごく僅かに凸状に湾曲して(A-A線断面図参照),右上がりに第1頂点と第3頂点を結ぶもので,斜面体第3辺は,全体の約2/3から第2頂点寄りを右上がりの角度をやや上げた緩やかな凹曲線状とし,第2頂点と第3頂点を結ぶもので,この斜面体第2辺が僅かに凸状に湾曲している点と斜面体第3辺が緩やかな凹曲線状とすることから,斜面体の上面は,斜面体第2辺の第3頂点寄りでは,斜面体第3辺へ向けて下がった面とし,斜面体第3辺の第2頂点寄りから斜面体第2辺の第1頂点寄りに向かっても下がった面とする,僅かにうねった態様とするものである点。
(c-4)堰部の有無
本件登録意匠は,斜面体第2辺,すなわち旋回壁の頂辺全体の約1/3第3頂点寄りの位置に,全体の高さの約1/12の高さを略垂直状に旋回壁の壁面と同一面に突出したもので,第3頂点までの上辺を,突出部先端から約1/3はゆるやかな右上がりの凸曲線とし,以降略水平状に表れるもので,平面視においては,突出部先端を頂点として,フランジ部内周の約1/24の長さ,第3頂点から内側の位置までを凸弧状の湾曲線で結んだ形状とする堰部を有するのに対し,甲1意匠は,そのような堰部を有していない点。
(c-5)排水孔の態様
本件登録意匠の5列の排水孔は,斜面体第1辺寄りから順に,1列目から2列目までは4つの同じ大きさの最小径小円孔から成り,3列目から5列目は,捕集部側に向かって順に小円の径が小さくなる態様とし,小円孔の数を,3列目は5つ,4列目は4つ,5列目は3つとし,3列目と4列目のフランジ部側の小円孔を略同径,3列目と4列目のフランジ部側から4ないし2番目と,5列目の小円孔の3つを,それぞれ略同径とするもので,2列目で最小径となる捕集部側の小円孔は1列目及び2列目の小円孔よりも径が大きいものとしているのに対し,甲1意匠の5列の排水孔は,斜面体第1辺寄りから順に,1列目から2列目までは4つの同じ大きさの最小径小円孔から成り,3列目から5列目は,捕集部側に向かって順に小円の径が小さくなる態様とし,小円孔の数を,3列目は5つ,4列目は4つ,5列目は3つとし,3列目と4列目のフランジ部側の小円孔を略同径,3列目と4列目のフランジ部側から4ないし2番目と,5列目の小円孔の3つを,それぞれ略同径とするもので,2列目で最小径となる捕集部側の小円孔は1列目及び2列目の小円孔よりも径が大きいものとしている点。
(d)旋回壁の形状
本件登録意匠の旋回壁の形状は,平面視,捕集部周側壁の約1/4円弧まで沿った以降,フランジ部内周縁まで略凸弧状に伸びる湾曲線とし,水平方向視では,おおむね直線状でゆるやかな右上がりとする底辺と,右上がりとしつつ全体が全体が略凸弧状に湾曲し,第3頂点寄りに突出する堰部の一面が表れた頂辺と,やや右に倒れた全体の高さの約3/10とする直線部による右辺に囲まれた略垂直壁とするものであるのに対し,甲1意匠の旋回壁の形状は,平面視,捕集部周側壁の約1/6円弧まで沿った以降の,フランジ部内周縁まで略直線状に伸びるものとし,水平方向視では,おおむね直線状に,ゆるやかな右上がりとする底辺と,右上がりとしつつ全体がごく僅かに凸状に湾曲する頂辺と,全体の高さの約1/4のゆるやかなR状垂直壁とするフランジ壁部との接合部による右辺に囲まれた壁面とする点。
(e)フランジ壁の形状
本件登録意匠のフランジ壁の形状は,平面視略1/4円弧とし,水平方向視では,右上がりとしつつ全体を凸円弧状とする底辺と,水平なフランジ部の内周縁の一部とする頂辺と,やや右に倒れた全体の高さの約3/10の直線部,そして極短い直線部による右辺に囲まれた略垂直壁とするものであるのに対し,甲1意匠のフランジ壁の形状は,平面視略1/6円弧とし,水平方向視では,全体の約2/3から斜面体第2頂点寄りを右上がりの角度をやや上げた緩やかな凹曲線状とする底辺と,水平なフランジ部内周縁の一部とする頂辺と,全体の高さの約1/4のゆるやかなR状垂直壁による左辺,そして右側は頂辺と底辺による頂点に囲まれた略垂直壁とする点。

(D)フランジ部の態様
(a)コの字状切り欠きの有無
甲1意匠は,1時,4時,7時,10時の位置に,フランジ部の幅の略中央からコの字状の小さな切り欠きが形成されているが,本件登録意匠には,そのような切り欠きは形成されていない点。
(b)フランジ部の厚みの態様
本件登録意匠は,正面視,フランジ部の下面は水平状に張り出しているが,上面は,外周縁に向かって斜め下方に傾斜する態様としているのに対し,甲1意匠のフランジ部の厚みは,同幅のまま水平状に張り出す態様としている点。
(c)底面視における態様
(c-1)本件登録意匠は,底面視,分離用円環溝の11時付近から10時付近に向けて短い凸弧状の細溝,さらに,同4時付近から5時付近に向けて短い凸弧状の細溝の2本の細溝が設けられているのに対し,甲1意匠は,分離用円環溝の4時付近から5時付近に向けて,短い直線状の細溝1本が設けられている点。
(c-2)本件登録意匠は,分離用円環溝の内周縁側,1時,4時,7時及び10時の位置に,小さなピンが設けられているのに対し,甲1意匠にはそのようなピンは設けられていない点。

(3)本件登録意匠と甲1意匠の類否判断
ア 意匠に係る物品
前記(2)アのとおり,本件登録意匠と甲1号意匠の意匠(以下「両意匠」という。)に係る物品は,同一である。

イ 本件登録意匠と甲1号意匠の形態の共通点及び相違点の評価
本件登録意匠の意匠に係る物品である「ヘアキャッチャー」は,使用者,購入者が需要者であり,購入時においても,浴室の排水口に装着した使用時の状態を想定して観察することから,平面視等の上面側の態様を中心に形態を評価するとともに,機能的側面から,排水から旋回流を生成する旋回流生成部の態様,毛髪等を捕捉する捕集部の態様について着目するものとして評価し,かつそれ以外の形態も併せて,各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。

A 形態の共通点の評価
(ア)全体の態様における共通点(A)(a)ないし共通点(A)(c)は,いずれも両意匠の基調を形成するものであるが,本件登録意匠の出願前より当該物品分野において公然知られた態様(下記参考意匠1ないし参考意匠3参照)であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度のものにとどまる。
ただし,上記参考意匠1ないし参考意匠3は,いずれもフランジ部より上に旋回状突出部を有しており,このような旋回状突出部を有していない点については,両意匠にのみ有する独自の共通した美感として評価することができるか否か,検討が必要である。
その点,本件登録意匠の出願前より公然知られている下記参考意匠4及び参考意匠5には,両意匠と同様に旋回流を生成する構造としながら,フランジ部より上に旋回状突出部を有していない意匠が表れていることから,両意匠独自のものとまではいうことはできず,全体として,共通点(A)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度のものにとどまるものである。

(イ)補集部の態様における共通点(B)(a)及び共通点(B)(b)は,主に下面側に表れる態様であり,いずれも参考意匠3に表れており,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

(ウ)旋回流生成部の態様における共通点(C)について
(ウ-1)旋回流生成部における共通点(C)(a),及び旋回流生成壁の構成における共通点(C)(b-1)は,参考意匠1ないし参考意匠3に見られ,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。しかしながら,旋回流生成壁を「旋回壁」「フランジ壁」「斜面体」による3つの壁面によって構成した共通点(C)(b-3)は,両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼす。
(ウ-2)「斜面体」を3辺による構成とした共通点(C)(c-1)は,参考意匠2及び参考意匠3にもおおむね表れており,また,頂点の1つを全体の高さと略同じとする点も,上記2つの参考意匠に表れていることから,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。
(ウ-3)排水孔における共通点(C)(c-3)も,5列ではないものの,4列が両辺の傾きに沿って,捕集部へ向かって旋回するように設けられている点は,参考意匠3に表れており,類否判断に及ぼす影響は,小さい。
(ウ-4)旋回壁を略垂直壁とし,その頂辺を,左手側の旋回流生成壁を構成する斜面体第2辺が兼ねる共通点(C)(d)は,略垂直壁とする点は,参考意匠2に,底辺の一部を斜面体第1辺とし,頂辺を左手側の旋回流生成壁を構成する斜面体第2辺が兼ねる点は,参考意匠1ないし参考意匠3にも見られ,類否判断に及ぼす影響は,小さい。
(ウ-5)また,フランジ壁における共通点(C)(e)は,フランジ壁の形状自体は,高さの低い薄い壁面にすぎないものであり,旋回流生成壁を構成する壁面の1つとする共通点(C)(b-3)の評価に吸収されるものである。

(エ)フランジ部の態様における共通点(D)の中で,最も目に付く外周縁の略半円状の切り欠きを備える点は,同様な態様が,この種物品分野においてよく見られるもので,その他の態様も全体の中では部分的なものであったり,下面側(底面側)の目に付きにくい部分の態様であることから,共通点(D)(a)及び共通点(D)(b)が,類否判断に及ぼす影響は,小さい。

参考意匠1(別紙第3参照)
意匠登録第01544259号に掲載された「ヘアキャッチャー」の意匠

参考意匠2(別紙第4参照)
意匠登録第01554062号に掲載された「ヘアキャッチャー」の意匠

参考意匠3(別紙第5参照)
意匠登録第01570084号に掲載された「ヘアキャッチャー」の意匠

参考意匠4(別紙第6参照)
公開特許公報 特開2013-155524に表された「ヘアキャッチャー」の意匠

参考意匠5(別紙第7参照)
特許庁意匠課公知資料番号第HC25015660号に表された「へキャッチャー」の意匠。

B 形態の相違点の評価
これに対して,本件登録意匠と甲1意匠の形態の相違点については,以下のとおり評価される。
(ア)全体の態様の正面視における,「旋回流生成部」の外壁の一部を形成する短い略垂直壁の高さにける相違点(A)(a)は,設置時に隠れる下面側の僅かな相違にすぎず,両意匠の形態の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

(イ)捕集部における整流対の有無における相違点(B)(a),及び排水孔の態様における相違点(B)(b)は,需要者が着目する捕集部の態様に係るものであるが,相違点(B)(a)は,上面全体の中ではごく限られた小さな部分でしかなく,相違点(B)(b)も,複数の円環状に配した共通点(B)(b)に埋没する程度のものであり,これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,小さい。

(ウ)旋回流生成部の態様における相違点(C)について
(ウ-1)旋回流生成部における「旋回流生成壁」を4つで構成するか6つとするか,及び「旋回流生成壁」を形成する「旋回壁」の態様に関する相違点(C)(a),相違点(C)(b-1)及び(b-2)は,需要者が着目する旋回流生成部の態様に係るものであるが,限られた面積の中で旋回流を生成する壁が4つか6つかの相違点は,両意匠の美感に影響を与えるほどのものではなく,類否判断に及ぼす影響は,限定的なものにすぎない。
(ウ-2)一方,斜面体の態様は,旋回流生成部の態様の中心となるもので,平面視における構成の相違点(C)(c-1)の,特に斜面体第1辺と第2辺ともに略凸弧状に伸びる湾曲線とする本件登録意匠に対し,甲1意匠がこれらを直線状としている点,また,第2頂点に丸みを伴うか否か,頂点の高さにおける相違点(C)(c-2)及び3辺の水平方向から見た態様における相違点を合わせることで相違点(C)(c-3)のように,斜面体の上面も中央がやや膨出した態様とする本件登録意匠と,僅かにうねった態様とする甲1意匠とでは,需要者が受ける印象を大きく異ならせるものであり,これらの相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,非常に大きい。
(ウ-3)また,堰部の有無にける相違点(C)(c-4)は,堰部が斜面体第2辺に突出して設けられた旋回壁に沿った形状とするものではあるが,一定の大きさを備え,旋回の流れを強調する形状でもあることから,需要者に強い印象を与えるものといえ,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,大きい。
(ウ-4)一方で,排水口の態様における相違点(C)(c-5)は,その相違は微差なものにすぎず,類否判断に及ぼす影響は,小さい。
(ウ-5)旋回壁の形状に関する相違点(C)(d)のうち,各辺の態様については,これらが斜面体の構成要素であることから,上記(ウ-2)に記載のとおりである。一方,旋回壁の壁面の高さについては,斜面体を構成するものではないため,この点について検討すると,本件登録意匠の旋回壁は,水平方向視,おおむね直線状とする底辺と,全体が略凸弧状に湾曲する頂辺は,第3頂点寄りに突出する堰部も合わさり,右辺が全体の高さの約3/10であることから(甲1意匠の右辺は全体の高さの約1/4),全体的に斜面体までが深い,厚み(高さ)のある印象であるのに対し,甲1意匠の旋回壁は,おおむね直線状とする底辺と,頂辺は,ごく僅かに凸状に湾曲する程度であり,右辺の高さも本件登録意匠より低いことから,斜面体までが浅い,薄い印象とするものであり,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,一定程度有するものと認められる。
(ウー6)フランジ壁の形状における相違点(C)(e)は,底辺を凸円弧状とする本件登録意匠と,緩やかな凹曲線状とする甲1意匠とでは,フランジ壁のみに着目すれば底辺の形状の違いは大きいが,フランジ壁自体は,薄いもので,フランジ壁における共通点(C)(e)も考慮すれば,この相違点が類否判断に及ぼす影響は,限定的なものにすぎない。

(エ)フランジ部の態様における相違点(D)(a)ないし(D)(c-2)は,全体の中では部分的なものであったり,下面側(底面側)の目に付きにくい部分の態様であることから,これらの相違点が類否判断に及ぼす影響は,小さい。

ウ 請求人の主張について
請求人は,主に下記の点について主張する。

(ア)弁駁書等において,甲1意匠及び本件登録意匠とは,両者ともにフランジ部の周囲から流入した水が,三日月状の斜面体に沿って若干弧を描きながら流れ,中心に向かうという渦状模様が共通している以上,両者の美感が共通している。

(イ)当審の審理事項通知書で提示した公知意匠1(当審決では,参考意匠4)及び公知意匠2(当審決では,参考意匠5)について
公知意匠2は,公知意匠1の実施品であると考えられ,請求人の意見は,上記公知意匠1と同一であるとし,公知意匠1及び公知意匠2の渦の流れは円環状であって,甲1意匠及び本件登録意匠の渦状模様とは異なる上,つまみ部がフランジ部より上部に位置する結果,平面的な印象も与えない。

しかし,請求人の主張(ア)については,排水の流れを概括的に捕らえたにすぎず,旋回流生成部の具体的な態様の相違については,上記B(ウ-2)及び(ウ-3)に説示したとおりである。
そして,請求人の主張(イ)については,各図に表された太い矢印のとおり,旋回流生成部の態様は異なっているものの,排水が複数箇所から旋回して流入し,中央の捕集部に流れ込む構造,つまり旋回流を発生させる構造であることは明らかであり,また,つまみ部がフランジ部より上に突出してはいるものの,小さな部位にすぎず,従来から見られるような,当該物品の中心となる,旋回流を生成させる壁面が全周にわたって突出したものではない。

よって,請求人の主張は,いずれも採用することができない。

エ 小括
以上のとおり,本件登録意匠と甲1号意匠は,意匠に係る物品が類似であるが,形態において,共通点が類否判断に及ぼす影響は,上記A(ウ-1)に説示したとおり,旋回流生成壁を「旋回壁」「フランジ壁」「斜面体」による3つの壁面によって構成した共通点(C)(b-3)に,両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼすと評価できる点があるものの,その他の共通点は,いずれも小さい,あるいは一定程度のものにとどまるものである。
それに対し,相違点が類否判断に及ぼす影響は,上記B(ウ-1)に説示した,「旋回流生成壁」を4つで構成するか6つとするか,及び「旋回流生成壁」を形成する「旋回壁」の態様に関する相違点(C)(a)ないし(C)(b-2)のように,両意匠の形態の類否判断に及ぼす影響は,限定的なものにすぎない,あるいは小さいと評価される点もあるが,上記B(ウ-2)に説示した,斜面体の態様における相違点(C)(c-1)ないし(c-3)は,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,非常に大きいと評価でき,また,上記B(ウ-3)に説示した,堰部の有無にける相違点(C)(c-4)に,類否判断に及ぼす影響は,大きいと評価できる点があり,加えて,上記B(ウ-5)で説示した,旋回壁の形状に関する相違点(C)(d)のうち,旋回壁の壁面の高さについては,類否判断に及ぼす影響は,一定程度有するものと認められるものである。
これらの評価を総合し,意匠全体として観察した場合,両意匠は,共通点よりも相違点の方が,両意匠の形態の類否判断に及ぼす影響が大きく,共通点が需要者に与える美感を覆して本件登録意匠と甲1号意匠を別異のものと印象付けるものであるから,本件登録意匠は,甲1号意匠に類似するということはできない。
すなわち,本件登録意匠は,その意匠登録出願の出願前に,日本国特許庁が発行した意匠公報(甲第1号証)に掲載された甲1号意匠(意匠登録第1670712号「ヘアキャッチャー」の意匠)に類似しないので,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当せず,同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって,請求人が主張する本件登録意匠登録の無効理由には,理由がない。


第7 むすび
以上のとおりであって,請求人の主張する無効理由には理由がないので,本件登録意匠の登録は,意匠法第48条第1項の規定によって無効とすることはできない。

審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

別掲

審理終結日 2021-09-06 
結審通知日 2021-09-10 
審決日 2021-09-22 
出願番号 意願2020-10212(D2020-10212) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (M2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樫本 光司 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 正田 毅
北代 真一
登録日 2020-10-02 
登録番号 意匠登録第1670712号(D1670712) 
代理人 小林 幸夫 
代理人 麻生 淑紀 
代理人 都筑 康一 
代理人 河部 康弘 
代理人 森本 聡 
代理人 内田 真央 
代理人 神田 秀斗 
代理人 平山 博史 

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