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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) L3
管理番号 1028672 
判定請求番号 判定請求1999-60089
総通号数 16 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2001-04-27 
種別 判定 
判定請求日 1999-12-14 
確定日 2000-11-09 
意匠に係る物品 組立物置 
事件の表示 上記当事者間の登録第903425号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「組立物置」は、登録第903425号及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第一 請求の趣旨及び理由
請求人は、「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠(以下、「イ号意匠」という。)は、登録第903425号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として請求書記載のとおりの主張をするものであり、その理由の要旨は、以下のとおりである。
すなわち、請求人は、本件登録意匠、本件登録意匠の類似第1号意匠、及び、イ号意匠について、その意匠に係る物品及び形態を比較表に基づき対比検討した上で、意匠の類似判断をするには、視覚を通じて物品の外観につき審美的価値を重点的に保護するためその物品の外観を全体的に観察するとともに一般商取引において、取引者、需要者等を中心として物品のどの点が、一番、目に触れて美感を感ずるかどうかで決めるべきである。
してみると、両意匠は物品を共通にし、取引上では「正面開口部の左端に袖壁を固定し、右側に2枚の引違い戸を設けている点」が最も目をひき、これが組立物置における基本的な構成態様であり、他の具体的態様は本件登録第903425号の類似第1号意匠 に記載されたものと酷似しているので、イ号意匠は意匠としては創作性はあり得ない。
従って、上記の基本的な構成態様が本件登録意匠における支配的要素であるから、この点においてイ号意匠と本件登録意匠とは美感を共通にしているので、両意匠は誤認混同される虞がある。
よって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものである。
第二 答弁の趣旨及び理由
被請求人は、結論同旨の判定を求めると答弁し、その理由として、答弁書記載のとおり反論するものである。その反論の要旨は、以下のとおりである。
すなわち、意匠登録の要件として、その物品の属する分野における創作の流れの中にあって、どの部分が開発されて創作性を有するものとして認定されるに到ったかの点を最も重視すべきものであり、その創作性の高低を第一として判断されるべきものであり、その創作のポイントを外してしまっては何の価値もないものとなるからである。
請求人は、正面開口部の一端に袖壁を固定し、他側に2枚の引き違い戸を設けている点を挙げ、これが登録意匠の支配的要部であり、取引上目をひく点と主張する。
しかし、このような構成は、本件登録意匠の出願前より広く知られたものであり(登録第446490号、登録第470916号、登録第470920号、登録第470921号、登録第673380の類似1号、等)、支配的要部と位置付けることは当を得ない。
また、凹凸条溝群を所定の間隔をおいて複数配列してなる構成も広く知られているもの(登録第660114号、登録第660140号、登録第660144号、登録第660545号、等)であり、本件登録意匠の支配的要部とすることのできないものである。
判定を求めるに際して、本件登録意匠にその類似登録意匠をも加えて判定を求めたことは違法であり、この点について答弁の義務はない。
本件登録意匠とイ号意匠には、縦筋状の凹溝等の態様、屋根板の軒の態様、軒下の態様に差異がある。屋根板の軒の態様の差異は顕著であり、この屋根の形が相俟って異なることだけでも数多くの意匠権が設定されており、これらの点は、創作の要部として台頭するものである。
従って、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものとはいえない。
第三 請求人の弁駁
本件登録意匠と類似意匠とは前述のように旧意匠法第22条に「類似意匠権は、その類似意匠が類似する最先に意匠登録の意匠権と合体する」旨の規定が適用されるので、類似意匠の意匠権と本意匠権とは一体不可分として在ることを意味する。
従って、請求人の類似意匠登録第903425号の類似1において「縦方向に凹凸条溝を設けた一枚の鋼板性の戸を柚壁として右端に固定し、その左側に2枚の引違い戸を形成し、これを袖壁全面に重合して開放するようにした」点が支配的要素である。故に、本件類似意匠とイ号意匠とは判定請求書記載のとおり、正面は勿論平面、底面、左右側面の形状及び模様共に同一に表されているので、合体した請求人の本件登録意匠及びこれに類似する意匠とは視覚を通じて美感を共通にしているので、商品として流通界にあるときは需要者は両意匠につき誤認混同されることは必然的である。
第四 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成2年7月21日の意匠登録出願に係り、その願書及び願書添付図面によれば、意匠に係る物品が、「組立物置」であって、その形態が、その願書添付図面に示されるとおりのものである。(別紙第一参照)
本件登録意匠には、類似意匠の意匠登録(登録第903425号の類似1号)がある。
2.イ号意匠
イ号意匠は、「イ号意匠並びに説明書」に示されたとおりのもので、意匠に係る物品が「組立物置」であり、その形態が、「イ号図面」に示されるとおりのものである。(別紙第二参照)
3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共に「組立物置」であって共通し、その形態については、主として以下の共通点と差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、全体が、略直方体状の筐体であって、上面に背の低い屋根を被せ、正面を開口部とし、その開口部に引き違い戸を填め込んでいる点
具体的態様において、
(1)筐体について、その正面が略正方形状で、奥行きが正面の横幅よりもやや浅い点、
(2)正面について、屋根の際沿い部分、床部及び左右柱部分を除く、その内側の横幅を略3等分し、その一方の略3分の1の部分を固定した袖壁部とし、残余の略3分の2の部分を引き違い戸とし、開放時には、引き違い戸を袖壁の前に重なり合わせて、正面の略3分の2が開放するものとし、また、袖壁部の反対側の引き違い戸の略中央の柱部寄りに把手を設けている点、
(3)屋根際沿いで、左右の柱に挟まれた部分に横長帯状の鴨居部を設けている点、が共通している。
[差異点]
具体的態様において
(イ)屋根部について、本件登録意匠は、断面角丸L字状の長尺材を結合して上方視角丸方形状の枠体を構成し、その前側部分を筐体正面から僅かに前方に突出させて軒状に形成し、その枠体を側面視水平状に設け、その枠体の内側全体に後方下がりの片流れ状に屋根板を設けているのに対して、イ号意匠は、上方視方形状の枠体を構成し、その前側及び後側部分を筐体から僅かに外方に突出させて軒状に形成し、また、その枠体につき、前方の上端部分を細幅の前下がりの斜面状とし、その下端から下方に向け2倍強の幅の垂直面を形成し、その垂直面の上下中央に凹状溝を設け、背面側を凹状溝のない垂直面としたものであって、その枠体を、側方から見て、全体が後方下がりの斜め状に設け、その枠体の内側全体に屋根板を設けている点、
(ロ)壁面及び引き違い戸の態様について、イ号意匠は、正面の袖壁部、左右側面及び背面の壁面の略全体に間隔をあけて凹凸が縦筋状に表われているのに対して、本件登録意匠は、縦筋状が表れていない点、
(ハ)袖壁部と引き違い戸の配置について、本件登録意匠は、左側に袖壁部を設けているのに対して、イ号意匠は、右側に設けている点、
(ニ)鴨居について、本件登録意匠は、正面に数本の平行横筋条が表れているのに対して、イ号意匠は、平行横筋条が表わされていない点、
(ホ)把手につき、本件登録意匠は、縦長小長円状であるのに対して、イ号意匠は、方形の区画の内側に縦長略小方形状を表したものである点、
(ヘ)本件登録意匠は、筐体の背面側の左右端際に略円管状の樋が垂直状に取り付けられているのに対し、イ号意にはこれを設けていない点、に差異がある。
4.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断
そこで、上記の共通点及び差異点が両意匠の類否に及ぼす影響について以下に検討する。
先ず、基本的構成態様の共通点及び具体的態様の共通点(1)は、両意匠の骨格を構成し、その物品の大部分を占めるところの共通点であるが、この種の物品の態様として、既に、常套化し、普遍化したありふれた態様であり、また、具体的態様(1)のプロポーションの差異についても、本件登録意匠の出願前において、適宜選択される範囲の一般的なものであって、これらの点に本件登録意匠の特徴を見いだすことができず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
また、具体的態様の共通点(2)は、本件登録意匠の出願前において既にありふれた態様であったことが明らかであり(例えば、特許庁昭和52年4月5日発行の意匠公報記載の登録第446490号意匠、同昭和53年3月27日発行の登録第470916号意匠、同昭和53年3月27日発行の登録第470921号意匠、また、株式会社ダイケン発行のカタログ「ダイケンエクステリア総合カタログ」35頁記載のDM-B60Gの組立物置の意匠(特許庁公知資料番号第HC02014498号意匠参照)、本件登録意匠の特徴とすることはできず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
さらに、具体的態様の共通点(3)は、物置を含む家屋の構成において、引き違い戸を設けた場合に鴨居部を設けることは、極く一般的であって、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものというほかない。
そうすると、上記両意匠の共通点は、いずれも本件登録意匠の特徴的態様とすることができず、また、これらが相俟って相乗効果を発揮することを考慮しても、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。
一方、差異点について、(イ)の点、特に、本件登録意匠が、上方視角丸方形状の枠体を構成し、その枠体を側面視水平状に設け、その枠体の内側全体に後方下がりの片流れ状に屋根板を設けているのに対して、イ号意匠は、上方視方形状の枠体を構成し、その枠体を、側方から見て、全体が後方下がりの斜め状に設け、その枠体の内側全体に屋根板を設けている点は、外観から受ける水平屋根状と片流れの斜め屋根状の差異として、両者の屋根全体の基本的な構成の差異感を感得させ、さらに、枠体の態様の差異と相俟って、看者の注意を惹くところといえ、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
また、(ロ)の点は、イ号意匠に見られる凹凸の縦筋条を壁面に表すことが、本件登録意匠の出願前において既に 常套化した造形手法となっており、その具体的な態様においてもさほど特徴のないものであり、その影響は、微弱なものというべきである。
さらに、(ハ)の点は、視覚的には確かに差異として感得されるものであるが、この種物品においては、使い勝手の点から、対称的構成のものを企図することが広く行われていることを考慮すると創作として、その差異をさほど高く評価するべきものでなく、その影響は、微弱に止まるものである。(ニ)の点は、目立たない特徴のさほどない付加的模様の有無に過ぎず、全体からみれば微弱なもので、その類否に及ぼす影響は、微弱である。(ホ)の点は、注視される部分に係る差異ではあるが、全体的には微細な部分に係り、両態様共に特徴の弱いものであることを考慮すると、その影響は、微弱に止まるものである。(ヘ)の点は、付随的部分に係り、また、さほど大きな部分の態様の差異でもなく、その影響は、微弱なものといわざるを得ない。
してみると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、基本的構成態様及び具体的態様の共通点(1)乃至(3)があるが、これらの共通点は、いずれも本件登録意匠の特徴的態様とはいえず、また、これらが相俟って特異な相乗効果を発揮することを考慮しても、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ないものであり、一方、両意匠の差異点は、(ロ)乃至(ヘ)の差異点に格別の特異性を発揮するものは見あたらないものの、差異点(イ)は、前記のとおり、看者の注意を惹くところとなっており、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきものであり、また、差異点(ロ)乃至(ヘ)と相俟っての意匠的効果を合わせ考慮すると意匠全体としては、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
以上のとおりであって、差異点が共通点を凌駕するイ号意匠は、結局、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属するとはいえない。
なお、被請求人は、類似登録意匠をも加えて判定を求めたことの不当性を主張するが、請求人は、イ号意匠が登録類似意匠に類似する意匠の範囲に属するか否かの判定をも求めているのではなく、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属するか否かの判定のみを求めているもので、その判断に際して類似意匠の登録意匠を参酌することを求めているに過ぎず、何ら不当とはいえないものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲

判定日 2000-10-04 
出願番号 意願平2-24764 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (L3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 芳紀 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 栄子
鍋田 和宣
登録日 1994-04-22 
登録番号 意匠登録第903425号(D903425) 
代理人 板井 三郎 
代理人 北村 欣一 
代理人 長尾 貞吉 

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