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審決分類 |
審判 無効 1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする K1 |
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管理番号 | 1036762 |
審判番号 | 無効2000-35152 |
総通号数 | 18 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2001-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-03-21 |
確定日 | 2001-02-16 |
意匠に係る物品 | 研削研磨用ディスクの基板 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1056633号「研削研磨用ディスクの基板」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第1056633号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第一 請求人の申し立て及び理由 請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その理由として請求書の「(3)本件意匠登録を無効とすべき理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証乃至甲第3号証の書証を提出したものである。その主張の大要は、以下の通りである。 1.意匠法第3条第1項柱書きの規定違反について(無効理由1) 本件登録意匠は、下記に記載の通り、願書に添付した図面と、願書の意匠の説明からはその意匠を特定することはできない。 したがって、本件の意匠登録は、意匠法第3条第1項柱書きの規定に違反して意匠登録を受けたものであり、この意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号によって無効とすべきである。 本件登録意匠は、意匠に係る物品を、「研削研磨用ディスクの基板」とするものであり、その形態を、願書に添付した図面の「正面図」、「平面図」、「正面図中央縦断面図」と、願書の「背面図、左側面図、右側面図は正面図と同一にあらわれる。底面図は平面図と同一にあらわれる。」との意匠の説明によって特定する。ところが、上記図面の「正面図」、「平面図」、「正面図中央縦断面図」と、願書の意匠の説明からでは、以下の通り、その意匠を特定することはできない。 まず、上記図面の「正面図」と「正面図中央縦断面図」にあらわされた本件登録意匠の形態は、中央部分に軸孔を有する平坦部と、その外側が次第に円弧状に膨らみ、最外縁部が中央部分の平坦部とほぼ同じ高さに下る形状の山形部とからなるものである。そして、「正面図」と「正面図中央縦断面図」には、上記山形部の頂上を結ぶ線(参考資料1として提出する本件登録意匠の意匠公報に朱書きする線)がないので、上記山形部は正面中央にのみ存在し、軸孔の全周に存在しないことになるが、そうすると、願書の「背面図、左側面図、右側面図は正面図と同一にあらわれる。底面図は平面図と同一にあらわれる。」ということはあり得ない。すなわち、「正面図」と「正面図中央縦断面図」の通り、上記山形部が正面中央にのみ存在し、軸孔の全周に存在しない形態で、かつ願書の「背面図、左側面図、右側面図は正面図と同一にあらわれる。底面図は平面図と同一にあらわれる。」の意匠の説明を満足する形態などあり得ず、願書に添付した図面と、願書の意匠の説明からはその意匠を特定することはできない。 2.意匠法第3条第1項第2号又は3号の規定違反について(無効理由2) 本件の意匠登録は、意匠法第3条第1項第2号又は第3号の規定に違反して意匠登録を受けたものであり、この意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号によって無効とすべきである。(1)甲第1号証の意匠について 甲第1号証は、1997年7月にドイツで発行された研磨具の規格に関する文献「ZH 1/670」である。この文献の「21」の欄の「2」の項に、全体が円盤形で、中央部分に軸孔を有する平坦部と、その外側が次第に円弧状に膨らみ、最外縁部が中央部分の平坦部とほぼ同じ高さに下る形状の山形部とを備える形態の基板に、多数の研磨布紙をリング状に貼り合わせた研削研磨用ディスクが記載されている。 (2)甲第2号証の意匠について 甲第2号証は、ドイツの「GARRYSON-INSLEY」社が、1995年7月に発行したカタログであり、その6頁に掲載されている「TYPE‘A’-DSA No.3220」と「TYPE‘B’-DSA No.3219」には、全体が円盤形で、中央部分に軸孔を有する平坦部と、その外側が次第に円弧状に膨らみ、最外縁部が中央部分の平坦部とほぼ同じ高さに下る形状の山形部とを備える形態の基板に、多数の研磨布紙をリング状に貼り合わせた研削研磨用ディスクが記載されている。 第二 被請求人の答弁及びその理由 1.無効理由1について 被請求人は、「請求人の請求を棄却する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由として、答弁書の理由の項に記載のとおりの反論をした。その反論の大要は、以下のとおりである。 本件登録意匠が意匠法3条1項柱書に違反するとの主張について、本件登録意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面の記載により問題なくその意匠を特定することができる。したがって本件登録意匠が意匠法第3条第1項にいう「意匠」であり、有効であることは明白である。 この点請求人は、本件登録意匠の意匠公報に朱書きした線がないために山形部は正面中央のみに存在し、軸孔の全周には存在しないことになると主張し、その結果願書の「背面図、左側面図、右側面図は正面図と同一にあらわれる。」ことはあり得ないなどと主張する。 もとより意匠の特定は必要である。しかし、その趣旨は、当該意匠が登録されたものであることを公に知らしめることで意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発展に寄与するためである(意匠法第1条)。 したがって、登録意匠がどのようなものであるかは当該物品の取引者、需要者、デザイナーなどがその物品の形態を認識できる程度に特定されていれば足りる。 しかるに、本件意匠にかかる物品は「研削研磨用ディスクの基盤」であり右物品の取引者、需要者、デザイナーなどは意匠公報中の物品の名称とそれに続く説明、そして説明を視覚的にあらわした図面及び使用状態を示す説明図によって、きわめて容易に形態を特定できるのである。たとえ山形部の頂上を結ぶ線がないとしても、それはきわめて軽微な図面上の瑕疵に過ぎず、意匠登録を無効とするほどの瑕疵には到底あたらない。したがって、請求人の主張には根拠がない。 2.無効理由2について 甲第1号証には「July 1997」と記載されており、また甲第2号証には「July 1995」と記載されていることから、これらの印刷物が西暦1997年7月、1995年7月にそれぞれ印刷された刊行物であると認め得ないわけではない。しかしながら、この種のカタログ類が印刷後において頒布される態様は一定ではなく、必ずしも、その直後速やかに頒布されるとは限らないものであることからすれば、直ちにこれが本件登録意匠の出願日前に頒布された刊行物であると認めることはできないというべきである(昭和50年9月10日審決、昭和46年審判第804号事件参照)。 第三 当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成10年12月1日の意匠登録出願に係り、平成11年9月3日に設定の登録がなされた登録1056633号意匠であって、意匠に係る物品が「研削研磨用ディスク基板」であり、その形態が願書及び願書添付図面に示されるとおりのものである。(別紙第一参照) 2.無効理由1について まず、本件登録意匠が、意匠法3条1項柱書の規定に違反するかについて検討すると、確かに、本件登録意匠は、請求人が主張するとおり、願書添付の「正面図」と「正面図中央縦断面図」に着目すれば、ディスクの山形部の頂上を結ぶ線(請求人が参考資料1として提出する本件登録意匠の意匠公報に朱書きする線)が表れておらず、山形部が正面中央にのみ存在し、軸孔の全周に存在しない形態ともいえ、意匠を具体的に特定することができない。しかしながら、同添付図面の「使用状態を示す説明図」には、ディスクの基板の山形部の頂上を結ぶ線が表されており、また、本件登録意匠に係る物品においては、甲第1号証の「21」の欄の「2乃至3」の項、甲第2号証の「TYPE‘A’-DSA No.3220」及び「TYPE‘B’-DSA No.3219」に示されるとおり、その断面形状にこの種の物品の意匠の要部があることを考慮すると、山形部の頂上を結ぶ線がないとしても、その意匠を具体的に把握することができないとまではいえず、そのことによって、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。 2.無効理由2について (1)甲号意匠 甲第2号証は、ドイツ国のGARRYSON-INSLEY LIMITED,(SPRING ROAD,IBSTOCK,LEICESTERSHIRE,LE67 6LR所在)よって、1995年7月に発行されたカタログ「ABRASIVE FINISHING PRODUCUTS」であり、その6頁左上欄に「TYPE‘A’-DSA No.3220」として、研磨布紙を取り付けた状態の「研削研磨用ディスク」の写真版及びその断面図が掲載されている。そこで、当審においては、その「研削研磨用ディスク」の基板部を「甲号意匠」とする。(別紙第二参照) (2)本件登録意匠と甲号意匠の比較検討 両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点と差異点が認められる。 [共通点] 基本的構成態様において、全体が、中央部分に軸孔を有するドーナツ状の円板状であり、軸孔周縁部を環状の平坦面とし、断面視において、その平坦面の終端部から略円弧状に盛り上げて山形隆起部を形成し、その隆起部の頂上から徐々に外周縁部に向けて緩やかな斜面状に形成したものであり、その外周縁部高さ(位置)が、軸孔周縁部の位置よりやや僅かに高いもので、その断面の形状がいわゆる「ガルウイング」様を呈している点、また、具体的態様において、軸孔の径を外周径の略1/6とし、頂上部が、円形板の略中央に環状に隆起して現れている点、が共通している。 [差異点] 「TYPE‘A’-DSA No.3220」の「研削研磨用ディスク」の下方に示された断面図を子細にみると、(イ)ドーナツ状の円形板の厚みについて、甲号意匠は、本件登録意匠に比べて厚みがある点、また、(ロ)軸孔の大きさついて、本件登録意匠は、軸孔の径が外周径の1/5.5であるのに対して、甲号意匠は、1/6であり、本件登録意匠は、甲号意匠に比べて軸孔の径が大きい点に差異がある。 4.類否判断 そこで、上記共通点と差異点が、両意匠の類否の判断に及ぼす影響について検討する。 両意匠に共通する基本的構成態様の点は、すなわち、全体が、中央部分に軸孔を有するドーナツ状の円板状であり、軸孔周縁部を環状の平坦面とし、断面視において、その平坦面の終端部から略円弧状に盛り上げて山形隆起部を形成し、その隆起部の頂上から徐々に外周縁部に向けて緩やかな斜面状に形成したものであり、その外周縁部高さ(位置)が、軸孔周縁部の位置よりやや僅かに高いもので、その断面の形状がいわゆる「ガルウイング」様を呈している点は、両意匠の骨格を形成し、両意匠の大部分を占めるところであり、類否判断の支配的要素というべきであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。また、具体的態様において、軸孔の径を外周径の略1/6とし、頂部が、円形板の略中央に環状に隆起して現れている点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の類似感を惹起し、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。 一方、両意匠の差異点(イ)について、甲号意匠は、ドーナツ状の円形板の厚みが、本件登録意匠に比べて厚いものであるが、その厚みの差異は意匠全体から見れば僅かなものであり、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。また、差異点(ロ)の軸孔の大きさついて、この種の物品が、軸孔について、適宜の大きさを準備するものであることを考慮すると、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。 そうして、上記の差異点が相俟って、相乗効果を生じることを考慮しても、本願の意匠は、意匠全体として引用の意匠にない格別の特異性を発揮するまでには至っておらず、前記の各差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。 以上の通りであって、両意匠は、意匠に係る物品が共通しており、その形態について、両意匠の共通点は、類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、両意匠は類似するものといわざるを得ない。 第四 むすび 従って、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当し、意匠登録を受けることができない意匠であるにも拘わらず意匠登録を受けたものであり、その他の無効理由の存否に拘わらず、意匠法第48条第1項第1号の規定により、その登録は、無効とされるべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2000-11-21 |
結審通知日 | 2000-12-05 |
審決日 | 2000-12-19 |
出願番号 | 意願平10-34516 |
審決分類 |
D
1
11・
113-
Z
(K1)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 江塚 尚弘 |
特許庁審判長 |
吉田 親司 |
特許庁審判官 |
岩井 芳紀 伊藤 栄子 |
登録日 | 1999-09-03 |
登録番号 | 意匠登録第1056633号(D1056633) |
代理人 | 鎌田 文二 |
代理人 | 櫻井 光政 |
代理人 | 笹瀬 健児 |
代理人 | 鳥居 和久 |
代理人 | 東尾 正博 |