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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) B3
管理番号 1061432 
判定請求番号 判定2001-60146
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2002-08-30 
種別 判定 
判定請求日 2001-12-25 
確定日 2002-06-14 
意匠に係る物品 イヤリング用枠材 
事件の表示 上記当事者間の登録第0968839号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「イヤリング用枠材」の意匠は、登録第0968839号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第一 本件登録意匠
本件登録意匠は、平成6年5月26日の出願に係り、平成8年9月2日に設定の登録がなされた意匠登録第968839号意匠であり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「イヤリング用枠材」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。
第二 請求の趣旨
本件判定請求は、「イ号意匠は、登録第968839号意匠に類似する意匠の範囲に属する。」との判定を求めるものである。
第三 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、イ号意匠が、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属する理由を要旨以下のとおり主張し、甲第1号証及び甲第2号証を提出ている。
(1)本件登録意匠
a.全体形状
本件登録意匠は、「イヤリング用枠材」に関するものであり、次のような構成を有するものである。
本件登録意匠は、その正面図において、左右1対の円弧状部材を備えるとともに、上記1対の円弧状部材のそれぞれ一端を凹部が向き合う状態で連結した本体部分を有し、この1対の円弧状部材は他端において開閉するよう、上記連結部分で軸着されている。
また、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開閉する他端においては、その前面側(宝石の取付部が設けられている)の円弧状部材の端部にピアス用のピンが、対向する後面側の円弧状部材の端部に向けて突設されている。なお、このピアス用のピンの先端は上記後面側の円弧状部材の端部にはめ込まれるようになっている。
以上の1対の円弧状部材とピアス用のピンとで、全体としてほぼ真円になるよう構成されていて、1対の円弧状部材はほぼ等しい厚みを有し、他方、ピアス用のピンは円弧状部材の厚みよりかなり小さい厚みに形成されている。
b.円弧状部材の形状
各側面図において、上記円弧状部材はその外周が丸みを帯びた形状であり、1対の円弧状部材はそれぞれほぼ等しい幅に形成されている。また、前面側の円弧状部材の中ほどには、左側面図に示すように、後述する宝石の取付部が配置されている。そして、この宝石の取付部の両側においては、上記円弧状部材は最初は緩やかに、後半は短い範囲でほぼ半分の幅になるよう絞りがかけられている。
c.宝石の取付部
左側面図に示すように、前面側の円弧状部材の長さ方向の中ほどに配置された上記宝石の取付部は、6本の爪が外向きに広がるように円弧状部材に突設されている。上記6本爪はほぼ等間隔に配置され、その中央には参考図に示すようにダイヤモンドが取り付けられ、上記爪で抜け止めされる。
上記6本爪に囲まれた内側には、6本爪を構成するリング状の枠が配置されている。
(2)イ号意匠
a.全体形状
イ号意匠は、イ号図面の正面図において、左右1対の円弧状部材を備えるとともに、上記1対の円弧状部材のそれぞれ一端を凹部が向き合う状態で連結した本体部分を有し、この1対の円弧状部材は他端において開閉するよう、上記連結部分で軸着されている。
また、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開閉する他端においては、その前面側の円弧状部材の端部、および対向する後面側の円弧状部材の端部にはそれぞれ下向きに耳当て板が突設されている。 なお、イ号意匠においては、1対の円弧状部材の開閉する端部にはピアス用のピンは設けられていない。そして、以上の1対の円弧状部材を幅寄せし、全体としてほぼ円形より幅の狭い楕円形に近似した形状になるよう構成されていて、1対の円弧状部材はほぼ等しい厚みを有している。
b.円弧状部材の形状
イ号図面の各側面図において、上記円弧状部材はその外周が丸みを帯びた形状であり、1対の円弧状部材はそれぞれほぼ等しい幅に形成されている。
また、前面側の円弧状部材の中ほどには、イ号図面の左側面図に示すように、後述する宝石の取付部が配置されている。そして、この宝石の取付部の両側においては、上記円弧状部材は最初は緩やかに、後半は短い範囲でほぼ半分の幅になるよう絞りがかけられている。
c.宝石の取付部
前面側の円弧状部材の長さ方向の中ほどに配置された宝石の取付部は、6本の爪が外向きに広がるように円弧状部材に突設されている。上記6本爪はほぼ等間隔に配置され、その中央にダイヤモンドが取り付けられ、上記爪で抜け止めされている。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との比較
a.全体形状
本件登録意匠およびイ号意匠の全体形状はともに、その正面図において、左右1対の円弧状部材を備えるとともに、上記1対の円弧状部材のそれぞれ一端を凹部が向き合う状態で連結した本体部分を有し、この1対の円弧状部材は他端において開閉するよう、上記連結部分で軸着されている。そして、本願意匠においては1対の円弧状部材で全体としてほぼ真円になるよう構成されているのに対し、イ号意匠においては1対の円弧状部材を幅寄せし、全体としてほぼ円形より幅の狭い楕円形に近似した形状になるよう構成されている。
b.円弧状部材の形状
本件登録意匠およびイ号意匠の円弧状部材の形状はともに、その側面図において、外周が丸みを帯びた形状であり、1対の円弧状部材はそれぞれほぼ等しい幅に形成されている。
またいずれの意匠においても、前面側の円弧状部材の中ほどには、それぞれの左側面図に示すように、後述する宝石の取付部が配置されている。そして、この宝石の取付部の両側においては、上記円弧状部材は最初は緩やかに、後半は短い範囲でほぼ半分の幅になるよう絞りがかけられている。
c.宝石の取付部
本件登録意匠およびイ号意匠の宝石の取付部はともに、前面側の円弧状部材の長さ方向の中ほどに配置され、6本の爪が外向きに広がるように円弧状部材に突設されている。上記6本爪はほぼ等間隔に配置され、その中央には本件登録意匠においては参考図に示すようにダイヤモンドが取り付けられ、上記爪で抜け止めされるものであり、イ号意匠においてはすでにダイヤモンドが取り付けられている。
d.耳当て板
本件登録意匠においては、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開放端に耳当て板等は、何も形成されていない。
一方、イ号意匠は、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開放端において、その前面側の円弧状部材の端部、および対向する後面側の円弧状部材の端部にはそれぞれ下向きに耳当て板が突設されている。
e.ピアス用ピンの有無
本件登録意匠においては、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開放端に、その前面側の円弧状部材の端部にピアス用のピンが、対向する後面側の円弧状部材の端部に向けて突設されている。そして、1対の円弧状部材はほぼ等しい厚みを有し、他方、ピアス用のピンは円弧状部材の厚みよりかなり小さい厚みに形成されている。なお、イ号意匠においては、1対の円弧状部材の開閉端にはピアス用のピンは設けられていない。
(4)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由
a.全体形状
本件登録意匠およびイ号意匠はともに、その正面図において、左右1対の円弧状部材を備えるとともに、上記1対の円弧状部材のそれぞれ一端を凹部が向き合う状態で連結した本体部分を有し、この1対の円弧状部材は他端において開閉するよう、上記連結部分で軸着されている点において共通している。そのような全体形状において上述のように、本願意匠においては1対の円弧状部材で全体としてほぼ真円になるよう構成されているのに対し、イ号意匠においては1対の円弧状部材を幅寄せし、全体としてほぼ円形より幅の狭い楕円形に近似した形状になるよう構成されている。
しかしながら、このようなほぼ真円か、全体としてほぼ円形より幅の狭い楕円形に近似した形状にしたかの相違は、本件登録意匠とイ号意匠間の程度においてはいまだ、両者を非類似であるとするに足りる根拠とはなり得ないものと考える。
b.円弧状部材の形状
本件登録意匠およびイ号意匠の円弧状部材の形状はともに、その側面図において、外周が丸みを帯びた形状であり、1対の円弧状部材はそれぞれほぼ等しい幅に形成されている点において共通する。
またいずれの意匠においても、前面側(宝石の取付部が設けられている)の円弧状部材の中ほどには、後述する宝石の取付部が配置されている。そして、この宝石の取付部の両側においては、上記円弧状部材は最初は緩やかに、後半は短い範囲でほぼ半分の幅になるよう絞りがかけられている点においても共通する。
したがって、この円弧状部材の形状においては特筆すべき相違点は存しない。
c.宝石の取付部
本件登録意匠およびイ号意匠の宝石の取付部はともに、前面側(宝石の取付部が設けられている)の円弧状部材の長さ方向の中ほどに配置され、6本の爪が外向きに広がるように円弧状部材に突設されている。そしてこの上記6本爪はほぼ等間隔に配置され、その中央にはダイヤモンドが取り付けられる点において両者は共通している。
また、本件登録意匠においては、上記6本爪に囲まれた内側には、6本爪を構成するリング状の枠が配置されている。他方、イ号意匠においてはダイヤモンドが取り付けられた状態である。しかしながら、6本爪の内側の形状の如何は、ダイヤモンドを取り付けた時点で隠れてしまうこと等から見て、両者を非類似であるとするに足りる根拠とはなり得ないものと考える。
d.耳当て板の有無
本件登録意匠においては、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開放端に耳当て板等は、何も形成されていない一方、イ号意匠は、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開放端において、その前面側の円弧状部材の端部、および対向する後面側の円弧状部材の端部にそれぞれ下向きに垂下させた状態で耳当て板が突設されている。
ところで、本件請求人が所有する登録意匠第968845号と、この登録意匠第968845号を本意匠とする登録意匠第968845号の類似1とを比較して見ると、両者の相違点が類似1の意匠が円弧状部材の開放端に耳当て板を下向きに垂下させていることだけであることがわかる。すなわち、円弧状部材の開放端に耳当て板が形成されているか否かは、このようなイヤリング用枠材もしくはイヤリングにおいては両者を非類似であるとするに足りる根拠とはなり得ないのである。
e.ピアス用ピンの有無
本件登録意匠においては、本体部分を構成する上記1対の円弧状部材の開放端に、その前面側の円弧状部材の端部にピアス用のピンが、対向する後面側の円弧状部材の端部に向けて突設されている。一方、イ号意匠においては、1対の円弧状部材の開閉端にはピアス用のピンは設けられていない。
ピアス用のピンは極めて機能的な部材である。すなわち、ピアス用のピンは意匠の創作性を働かせるよりも、機能を重視してその形態が採用される。
また、ピアス用のピンは耳たぶの孔に装着した時点では見ることができない部材である。確かに、イヤリングやイヤリング用枠材は、その自体を手にとって見ることができる。しかしながらより重要なのは、手にとって見ることではなく、耳たぶに装着してどのように見えるか、という点なのである。
以上の点から判断すると、円弧状部材の開放端にピアス用のピンが突設されているか否かも、このようなイヤリング用枠材もしくはイヤリングにおいては両者を非類似であるとするに足りる根拠とはなり得ないのである。
f.「イヤリング用枠材」と「イヤリング」との関係
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「イヤリング用枠材」とするものであるのに対し、イ号意匠においては、意匠に係る物品を「イヤリング」とするものである。両者の違いについて検討すると、「イヤリング用枠材」が爪の部分に宝石類が装着されていないのに対し、「イヤリング」においてはすでに爪の部分に宝石類が装着されているという違いが見出せる。すなわち、「イヤリング用枠材」と「イヤリング」とは「爪の部分に宝石類が装着されているか否か」という部分においてのみ相違するのであるから、先ず両者は物品として類似していると認めることができる。
2.被請求人の答弁及びその理由
請求人は、「結論同旨の判決を求める。」と答弁し、その理由を、要旨以下のとおり主張している。
(1)イ号図面とロ号製品の相違
イ号図面は、正面図において左右対称の太身の同一幅で甲丸の右側半円弧体と、この右側半円弧体とその下部同士にて露出して見える軸を有する回動部で接続して上部を数ミリ開けた状態で真円リング体を形成する左側半円弧体と、この左側半円弧体の外側中央に厚肉の台座、宝石を掴持する6本の短い根太の爪とからなる宝石取付部と、左側右側両半円弧体の開放端にそれぞれ設けられた、垂れ下がり部位を有する耳当て板とからなるものである。
ロ号製品(実際の直径は12ミリ〜20程度)は、宝石取付部を同じ形態とするが、甲丸の右側半円弧体と左側半円弧体は非対称であり、上部を数ミリ開けた状態で右側半円弧体と左側半円弧体が形成するリング体は真円輪体とは言いがたい左右がずれてなるものであり、その耳当て板の高さは右側の方が高い部位に位置して相違する。すなわち左側半円弧体より右側半円弧体の方が大円で、その円弧は左側半円弧体が長く右側半円弧体が短い変形円輪体を形成してなるものである。これに対してイ号図面は真円リング体であり左右半円弧体のずれもないのであってロ号製品とは相違する。また、ロ号製品の左側半円弧体はその幅を同じにしてなるが、右側半円弧体は上方幅を左側半円弧体より狭い幅とするとともに下方に行くにしたがって幅広となる形状である。これに対してイ号図面は左右半円弧体は同一幅体からなるものでロ号製品とは相違する。さらに、ロ号製品の耳当て板の内側は波形状の凸凹に形成されているが、イ号図面の耳当て板の内側は波形でない平な形状となっているものでロ号製品とは相違する。
以上の理由から、イ号図面とロ号製品とは不一致のもので同一意匠でないことは明らかであり、被請求人の実施販売しているロ号製品と本判定請求書で対象とされているイ号図面とは相違する。
(2)イ号図面と本件意匠との比較
前記した理由により被請求人は本判定請求に対して答弁する立場にないと考えるが、本件意匠とイ号図面が類似と判定された場合に、イ号図面とロ号製品が類似であるとする請求人による何らかの被請求人に対する行為の恐れがあるとも考えられるので、イ号図面と本件意匠とが非類似であるとの、被請求人の意見を述べる。
1)本件意匠
本件意匠は、細身の左側半円弧体と、この左側半円弧体と対称の形状で該左側半円弧体と対をなして真円輪体を形成する、該左側半円弧体と下部を回動部により接続してなる右側半円弧体と、前記左側半円弧体の中央外側に薄い台座、宝石を掴持するストレートで細く長い6本の爪とからなる宝石取付部と、前記左右半円弧体の上部端が離れてこの間に渡るように細針金状部材で、前記両側半円対とともに前記真円輪体を形成する円孤形態のピアスピンとからなるものである。
その全体形態の風合は、全構成部品が細身のものであることから、「軽い」「しなやか」「すっきり」「弱さ」という印象を看者に与えるものであり、全体として整った細身の女性をイメージさせるものであり、その細身の爪および薄い台座はクイーン王冠をイメージさせるものである。しかるに本件意匠は全体的には、貴金属の持つ独特の質感とも伴ってクイーンのイメージ意匠を看者に感じさせるものである。
2)イ号図面と本件意匠との全体的な比較
イ号図面は、その全体形態の風合は、全構成部品が太身のものであることから、「重い」「力強い」「頼りになる」という印象を看者に与えるものであり、左右円弧体の非対称性から全体として整い感の少し崩れた力強い男性をイメージさせるものであり、その短く根太の爪および肉厚台座はキング王冠をイメージさせるものである。しかるに本件意匠は全体的には、貴金属の持つ独特の質感とも伴って少し整い感に欠けるキングのイメージ意匠を看者に感じさせるものである。
すなわち、整い感のあるクイーン的意匠である本件意匠と、少し整い感に欠けるキング的意匠であるイ号図面とは非類似であることは明らかであり、請求人の類似であるとする主張は通らない。
請求人が言う「全体形状」の比較を要約すると「本件意匠は一対の円弧状部材で全体としてほぼ真円を形成し、およびイ号図面はそれぞれ一対の円弧状部材で楕円に近似した形状を形成しており、このようなほぼ真円か、全体としてほぼ円形より幅の狭い楕円形に近似した形状にしたかの相違は、両者を非類似であるとするに足りる根拠とはなり得ないものと考える。」旨、述べている。この主張は、円弧状部材の太さ、爪と台座の形態、ピアスピンの有無、耳当て板の有無など他の構成部位を入れないで円弧状部材のみで全体形状の類似・非類似を主張しているものであり、到底意匠を全体的にとらえて比較しているとはいい難い。
実際こうした捉え方は判定理由全体に共通するものであり、個々の構成部分の比較のみを意匠的観点とは言い難い、どちらかというと特許的構成比較観点とも言うべき手法により行なっていることを特徴としており、それぞれの部分形態と全体形態が看者にどのような美感を感じさせるのかという意匠的比較を行っているとは思えないものである。
3)宝石を掴持する爪
爪の内側は見えなくとも外側は見たくなくても意匠の重要要素として丸見えである。また、例えばイ号図面のリングにロ号製品の爪と台座を設けたなら、全体の意匠の与えるイメージは華箸で頼りない細身のキングを想起させるであろうし、ロ号製品のリングにイ号図面の爪と台座を設けたなら、太ったクイーンを想起させるであろうことは容易にイメージできる。
そもそも、ジュエリーリングにおけるダイヤモンドを取付ける台座および爪の形態は高貴性、豪華さ、華やかさなどを演出する王冠をイメージさせるものであり、もっとも創作者がそのジュエリーのバランスやニュアンスを最も重視し看者も美感を感じる部位である。その形態により貴賓、華やかさ、豪華さ、堅固さ、しなやかさ、穏やかさ、やさしさ、鋭さなどなどを意匠に付与する重要部分であることは明らかである。「隠れてしまう」とするイヤリングの実形態を直視しているとはいい難い被請求人の主張は通らない。
4)ピアスピン
本件意匠図面を一見しても、ピアスピンが本件意匠を構成する重要な部分であることは疑いない。展示ケースに展示された本件意匠を見る看者は、ピアスピンを含めてその意匠を鑑賞し美感を感じるのであり、ピアスピンが円弧形態であるか、への字形態であるか、ストレート形態であるか、上方にあるいは下方に大きく湾曲した形態であるのか、波打っている形態であるのか、太さに変化のある形態であるのかなどにより感じる美感が大きく異なるものであることは明らかであり、看者はピアスピンを含めた形態全体で美感を感じるのであるから、請求人のピアスピンが意匠を構成しないとする主張は通らない。
本件意匠は、同じジュエリーの指輪においては一般的でよく知られた形態であり、イヤリング制作と同じ制作者達により創作されるものであるから、その形態をイヤリングにした場合の創作性は回動形態とピアスピンにあると推察することができる。したがって本件意匠においてはピアスピンが本件意匠を構成する重要な意匠的要部であるとことは疑いないものであり、この点でも請求人のピアスピンが意匠を構成しないとする主張は通らない。
5)耳当て板
耳当て板を設けることに創作性があるかどうかを特許的な比較をする場合においては、請求人の主張には理由があると考えるが、本判定請求事件での対象は本件意匠とイ号図面の「視覚を通じて美感を感じさせる」=意匠であるので、耳当て板の有無およびその有無の形態がそれぞれの意匠においてどのような美感を看者に与えるかという点で、その意匠の審美性や意匠的創作性を比較すべきであると考える。
しかるに、垂れ部分を有する耳当て板のイ号図面は、左右円弧体のそれぞれの開放端がそこで区切りをつけた行き止まり感のある印象を看者に強く与え、その耳当て板により引き締しまった感じを看者に感じさせるものであるが、耳当て板が無く且つピアスピンによる無端円を形成する本件意匠は区切感や締め付け感の弱い細い真円美性を看者に感じさせるものである。
すなわち、耳当て板のない本件意匠と、一見しても目に飛び込む形態部位である耳当て板を有するイ号図面とでは、著しい意匠的相違を感じさせるものであるので、請求人の類似であるとの主張はこの点でも通らない。
被請求人は、以上述べてきた理由により、本件意匠とイ号図面とは非類似であると考える。
第四 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成6年5月26日の出願に係り、平成8年9月2日に設定の登録がなされた意匠登録第968839号意匠であり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「イヤリング用枠材」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、イ図面及びイ号図面説明書に示されるとおりである(別紙第二参照)。
3.両意匠の対比
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品について、本件登録意匠は、「イヤリング用枠材」であるのに対し、イ号意匠は、宝石が装着された「イヤリング」であり、「イヤリング用枠材」と「イヤリング」とは、部品と完成品との関係にあり意匠に係る物品が異なる。したがって、本件判定については、ダイヤモンドを除いた、本件登録意匠に相当する部分について、「イ号意匠が、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属する」か否かの判定を行う。
そこで、両意匠の形態について検討するに、以下の共通点と差異点が認められる。
[共通点]
基本的構成態様において、正面視につき、全体が、左右1対の略半円弧状部材を向き合わせて下方で軸支し、上方で開閉自在の環状に構成し、その正面視左方に、宝石の取付台座部を設けている点、
また、具体的態様において、
(1)略半円弧状部材について、断面視につき、外周(甲部)が丸面状であり、左側面(前面)視につき、宝石の取付部の幅を、凹レンズ状に絞り、その余の環状のリング全体の幅を、ほぼ等しく形成している点、
(2)宝石の取付台座部について、6本の爪が外向きに広がるように円弧状部材に突設されており、その6本爪がほぼ等間隔に配置されている点、
[差異点]
一方、両意匠は、具体的態様において、
(イ)宝石の取付台座部について、本件登録意匠は、細い角棒6本が、外向きに広がるように円弧状部材に突設されているのに対し、イ号意匠は、下方が繋がったカップ状に6本の爪が突出した、いわゆる「王冠」様のものである点、
(ロ)ピアス用ピンについて、本件登録意匠は、円弧状部材の開放部の端部から弧状のピアス用のピンが、対向する円弧状部材の端部に向けて設けられているのに対し、イ号意匠は、ピアス用ピンが設けられていない点、
(ハ)耳当て部について、イ号意匠は、円弧状部材の開放部両端を緩やかな丸面状に形成し、その下部を、やや垂下して耳当て部を設けているのに対し、本件登録意匠は、そのような耳当て部を設けていない点、に差異がある。
そこで、前記の共通点と差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討するに、まず、両意匠の基本的構成態様の共通点について、宝石の取付台座部を設けている点を除く、全体が、左右1対の略半円弧状部材を向き合わせて下方で軸支し、上方で開閉自在の環状に構成したものは、この種の物品において、例えば、本件登録意匠の出願前、独立行政法人工業所有権総合情報館が、1996年6月29日に受入所蔵する外国雑誌「Jewelers’CIRCULAR-KEYSTONE」(1996年6月30日に発行)の6号164巻250頁に記載のイヤリングの意匠(公知資料番号HB05026263号)に見られるとおり、普通に知られた態様であり、両意匠に共通する基本的構成態様を、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができず、また、具体的態様の共通点(1)は、極ありふれた環状のリングの態様であり、その宝石の取り付け部を細幅にしたものあって、この種の物品においてさほど特異性がなく、また、具体的態様の共通点(2)の宝石の取付台座部の態様は、指輪に見られる極ありふれた態様のものであることを考慮すると、その類否判断に及ぼす影響は、さほど大きいものとはいえない。
一方、両意匠の差異点(イ)の宝石の取付台座部について、具体的態様の共通点(2)があるとしても、本件登録意匠のものは、細い角棒6本が、外向きに広がるように円弧状部材に突設されているのに対し、イ号意匠は、下方が繋がったカップ状に6本の爪が突出した、いわゆる「王冠」様のものであり、その類否判断に相当程度の影響を及ぼすものといえる。また、(ロ)のピアス用ピンについて、本件登録意匠は、円弧状部材の開放部の端部から弧状のピアス用のピンが、対向する円弧状部材の端部に向けて設けられている点であるが、イヤリングにおいて、ピアスとすることが、極一般的であるとしても、この種の物品において、ピアスであるか否かは両意匠を別異する意匠的効果を有し、また、イ号意匠は、ピアスの替わりに、差異点(ハ)に摘示の耳当て部を設けており、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
そうして、これらの差異点が相俟って、相乗効果を生じることを考慮すると、イ号意匠は、意匠全体として本件登録意匠にない意匠的効果を発揮し、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。
以上のとおりであって、その形態について、両意匠の差異点は、その類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対し、共通点は、その類否判断に及ぼす影響が、微弱なものであるから、結局、差異点が共通点を凌駕する両意匠は、類似するものということができない。
第五 むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲

判定日 2002-06-04 
出願番号 意願平6-15327 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (B3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 久美 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 晴子
西本 幸男
登録日 1996-09-02 
登録番号 意匠登録第968839号(D968839) 
代理人 土橋 博司 

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