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審決分類 |
審判 無効 意10条1号類似意匠 無効としない D2 |
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管理番号 | 1062998 |
審判番号 | 無効2001-35324 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2002-09-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-07-24 |
確定日 | 2002-07-24 |
意匠に係る物品 | 建築構造材用継手 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1001736号の類似第2号意匠「建築構造材用継手」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.本件登録意匠及び手続の経緯 本件登録意匠は、本意匠を、平成8年意匠登録願第33813号(登録第1001736号意匠)とする平成9年11月26日の類似意匠登録願に係り、平成11年11月19日に、意匠登録第1001736号の類似2号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。 第2.請求人の申し立て及び理由 請求人は、「登録第1001736号の類似2号の意匠登録はこれを無効とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として請求書の「6 請求の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。 その主張の大要は、以下の通りである。 1.利害関係 請求人は、合成樹脂製及びスチール製の各種形態の継手群その他の部品類と、好みの長さに切断して前記の継手により接続される合成樹脂接着被覆薄肉鋼管とにより、主として需要者自身の発想、設計による各種の立体構造物(例えば棚、椅子、テーブル等の家具類、藤棚、バラアーチ、植木鉢の台、可搬式のビニル温室、縁台などの屋外装置品、或いは産業用の台車、部品棚、安全柵、ローラコンベア、シューターラックなどの機器類を製作できる新素材商品を、Do it Your Self 商品(DIY商品)として、昭和40年代から登録商標「イレクター」(登録第777170号)を付して製造販売してきた。前記商品は、例えば実公昭36-1014号(考案の名称:組立骨子等における継手)をはじめとして、請求人が昭和30年代の後半から商品化を目指して研究開発を始め、昭和46年8月12日付け特許出願(特開昭48-26878号、発明の名称:合成樹脂を被覆した鋼管の製造方法)に係る発明の完成と共に製造販売を本格化したものである。 被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社及び件外のスぺーシア株式会社は、平成10年1月頃から、被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社が製造した、上記請求人の合成樹脂接着被覆薄肉鋼管とほぼ同じ構造、同じ外径、同様な地色の合成樹脂接着被覆薄肉鋼管と、径が同じであるがために必然的に請求人商品と互換性があり、対応する商品同士の寸法、形態、地色がそれぞれ見た目にほぼ同じ合成樹脂製およびスチール製の継手群その他の部品類とから成る商品を、スペーシア株式会社が「スぺーシア」の商標を付して、その上、販売方法や商品リスト、カタログの編集方式まで似た内容で販売しはじめた。 そこで請求人は、平成12年6月22日、被請求人積水樹脂株式会社とタキロン株式会社及び件外のスペーシア株式会社を被告とする不正競争防止法第2条第1項第1号等に基づく侵害行為の差止等、及び損害賠償請求の訴を東京地方裁判所へ提起し、現在は平成12年(ワ)第12838号として審理中である。 本件登録意匠に係る物品「建築構造材用継手」も、被請求人及び件外スペーシア株式会社が製造販売する前記合成樹脂製継手群に包含される一種類である。よって、審判請求人が本件審判を請求することについては重大な利害関係を有するのである。 2.本件登録意匠を無効とすべき理由 登録第1001736号の類似2号意匠(以下、本件登録意匠という。)は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された意匠(以下、引用意匠という。)と類似し、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにも拘らず、誤って類似意匠の意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により登録無効とすべきものである。 (1)本件登録意匠 a.本件登録意匠は、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」である。 b.本件登録意匠の基本的構成態様 Tの字の頭に相当する垂直方向の短円管に対して、Tの字の脚に相当する水平方向の短円管が、双方の管の中心線が直角に交わる形に一体的に接合されて成り、全体として略Tの字形態をなす。 c.本件登録意匠の具体的構成態様 (c-1)Tの字の頭に相当する垂直方向の短円管と、Tの字の脚に相当する水平方向の短円管の外径および内径がそれぞれ同一である。しかもTの字の頭に相当する短円管の垂直方向長さと、水平方向短円管の外径とが等しい。 (c-2)垂直方向の短円管は、その内径が同一のまま貫通しており、パイプを貫通状態に接続できる。Tの字の脚に相当する水平方向の短円管は、前記垂直方向短円管の管壁によりその奥端が閉鎖されている。よって水平方向のパイプは突き当たり状態に接続される。 (c-3)垂直方向と水平方向の短円管同士の接合部分は、同径の管の交差部に特有の45度方向の稜線を弧状に形成している。 (c-4)正面図、背面図の方向に見ると、垂直方向及び水平方向の短円管の外表面に、それぞれの中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部がTの字を横に寝かせた形に一連に形成されている。また、左側面図方向に見ると、垂直方向の短円管の外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が1本形成されている。更に、平面図、底面図の方向に見ると、水平方向の短円管の外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が1本形成されている。前記の各平面部の削り深さは、平面図やA-A断面図に見える短円管の管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して同0.5mm程度と極僅かである。 (2)引用意匠 A.甲第3号証は、請求人が、昭和40年代から登録商標「イレクター」を付して製造販売してきた商品の販売促進用として、主にホームセンター等にて頒布した、1979年(昭和54年)9月印刷の「イレクター仕様書」である。その7頁と8頁に記載された「(3)ジョイント一覧表」の中で8頁3段目中央に商品番号「J-65A」と表記されたジョイントの意匠、及び同9頁と10頁に「(4)ジョイントの寸法」を記載した中で9頁最下段の「J65-A・B」の図面に表されたジョイントの意匠、並びに同書4頁中段に記載された「回転部及びヒンジに使用」したジョイント「J-65A・B」の意匠をそれぞれ、引用意匠とする。 B.引用意匠の基本的構成態様 Tの字の頭に相当する水平方向の短円管に対して、Tの字の脚に相当する垂直方向の短円管が、双方の管の中心線が直角に交わる形に一体的に接合されて成り、全体として略Tの字形態をなす。 C.引用意匠の具体的構成態様 (C-1)Tの字の頭に相当する水平方向の短円管と、Tの字の脚に相当する垂直方向の短円管の外径および内径はそれぞれ同一である。しかもTの字の頭に相当する短円管の水平方向長さと、短円管の外径とは等しい(特に甲第3号証9頁最下段のジョイント「J-65A・B」の寸法を参照)。 (C-2)水平方向の短円管は、その内径が同一のまま貫通しており、水平方向のパイプは貫通状態に接続できる。Tの字の脚に相当する垂直方向の短円管は、前記水平方向の短円管の管壁によりその奥端が閉鎖されている。よって垂直方向のパイプは当該短円管へ突き当たり状態に接続される(同書9頁の図「J-65A・B」の図面を参照)。 (C-3)垂直方向と水平方向の短円管同士の接合部分は、同径の管の交差部に特有の45度方向の稜線を弧状に形成している。 (3)本件登録意匠と引用意匠との対比 引用意匠は、Tの字の頭に相当する短円管が水平方向に向き、Tの字の脚に相当する短円管が垂直方向に向いて記載されているため、本件登録意匠を記載した図面との関係では、丁度90度回転させたに等しい表現形式となっているため、引用意匠におけるTの字の頭に相当する短円管と、Tの字の脚に相当する短円管の構成態様をそのまま90度回転して、本件登録意匠と共通な表現形式を想定して以下の説明する。 [共通点] 1)両意匠の意匠に係る物品は、「建築構造材用継手」であり共通する。 2)両意匠の基本的構成態様bとBは一致して、「全体として略Tの字形態をなす。」ので、共通する。 3)両意匠の具体的構成態様(c-1)(c-2)(c-3)と(C-1)(C-2)(C-3)の内容は一致しており、共通する。 [相違点] 本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)は、「短円管の外表面に、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。」が、引用意匠の短円管の外表面には「平面部」が無いので、相違する。 (4)類否判断 上記相違点に掲記したとおり、本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)は、「垂直方向及び水平方向の短円管の外表面には、正面図、背面図の方向に見ると、中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。また、垂直方向の短円管を左側面図方向に見ると、垂直な中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。更に、水平な短円管を平面図、底面図の方向に見ると、やはり水平な中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が形成されている。前記の各平面部の削り深さは、平面図やA-A断面図に見える短円管の管壁の厚さ(願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して同0.5mm程度と極僅かである。」ところ、引用意匠にはそのような「平面部」がない。 しかし、この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響については、以下のことが考慮されるべきである。 1)特許庁に対する意匠登録出願は書面主義に支配されており、意匠は基本的に図面に記載して特許庁長官に提出する。したがって、本件登録意匠の上記「平面部」も短円管の外表面部に現れる稜線を、白色用紙に明瞭な形状線として記載しているので、そのような「平面部」を有しない引用意匠とは、図面上の対比において一見相違するようにも見える。 しかし、現実問題としては、上記(c-4)に掲記した通り、短円管の外表面に、その中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が、削り深さにして、短円管の筒壁の厚さ(3mm程度)に対して、0.5mm程度行われているに過ぎないから、短円管の管壁の厚さの変化も、良く目を凝らして見ないと見分けが付かないほどに微々たるものである。しかもTの字の頭に相当する垂直方向の短円管の外表面には直角3方向の位置に3本、そして、Tの字の脚に相当する短円管の外表面には直角4方向の位置に4本の平面部が、それぞれ願書添付図面(甲第2号証)の実測によれば、外径が27.5mmの管表面に、幅7mm、中心角にして27度程度に形成されているに過ぎないから、外観上、この「平面部」が意匠的工夫ないし創作として需要者に彼我の意匠を区別するに足る異なった美感を起こさせるものとは認め難い。 2)意匠の類否判断が、需要者の観察において誤認、混同を生ずるや否やにあるとの考え、所謂「混同説」に立てば、一例として甲第4号証に両意匠の実施品を並べた写真を示したように、前記「平面部」の存在を表す稜線は合成樹脂の地色に減殺されて殆ど目立たないから、需要者が一見しただけでは彼我の意匠の見分けがつかず、誤認、混同する虞が大である。 3)意匠の保護は、実は意匠の創作が保護されることに基づき、意匠の類否判断を創作性の有無に求める、いわゆる「創作説」の観点に立ち、本件登録意匠の「帯状をなす平面部」が意匠的工夫、創作の結果として、見る者に起こさせる美感ないし意匠的効果に寄与するかについても検討を進める。 この検討に際しては先ず、甲第3号証の頒布時期と、底に記載された引用意匠の基本的構成態様(上記B)、及び具体的構成態様(C-1)〜(C-3)による形状が全て、本件登録意匠の出願時から遡ること約18年も前から公知、周知の形状として需要者に知られた事実が重視されるべきである。 上記(3)の対比で説明したように、本件登録意匠の基本的構成態様b、及び具体的構成態様のうちの(c-1)〜(c-3)までが、上記したように引用意匠の公知、周知形状(Bと(C-1)〜(C-3)による形状)と一致して共通する。残る本件登録意匠の具体的構成態様(c-4)のみが僅かに引用意匠と相違するに過ぎないのである。 その上、本件登録意匠の意匠的工夫というべき「平面部」は、いちいち例証するまでもなく、ずいぶん古くより種々な技術分野において日常的に、丸棒や円管等の表面を必要に応じて削除などして形成してきたことであり、格別創作というほどに目新しいものでもない。 したがって、本件登録意匠に「平面部」が存在して、それが引用意匠との相違点であるとしても、意匠的工夫ないし創作として看者(需要者)に注目されたり、格別の印象を与えたり、異なった美感を起こさせる要因(意匠の要部)になるとは認められない。 4)以上要するに、両意匠の全体観察によれば、引用意匠の全体形状が本件登録意匠の出願日の遥か以前から公知、周知の形状であり、本件登録意匠の大部分の形状がそれと共通し、相違点である本件登録意匠の「平面部」が発揮する意匠的効果が、見る者に格別異なった美感を起こさせる要因というには程遠く、両意匠の前記共通点がもたらす美感を凌駕するものとは認められないので、前記の相違点は部分的な微差の域にとどまり、本件登録意匠は、引用意匠と美感を共通にして類似するものと認められる。 (5)むすび 以上に説明してきたように、本件登録意匠は、引用意匠と類似し、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにも拘わらず、誤って類似意匠の登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により、その意匠登録を無効とされるべきである。 第3.被請求人の答弁及び理由 被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その理由として答弁書の「7 答弁の理由」の項の記載のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証及び乙第31号証を提出している。 その主張の大要は、以下の通りである。 1.本件「意匠に係る物品」について 本件登録意匠の「意匠に係る物品」は一応「建築構造材用継手」となっているが、具体的には需要者の好みに応じて需要者自身が所要の長さに切断した断面円形パイプを種々の方向、種々の角度に接合することにより、棚、椅子、テーブル等を組み立てることができる Do it Your Self 商品(DIY商品)において、2本の断面円形パイプをT字型に接合する際に用いられる汎用性のある継ぎ手に関するものである。 2.請求人の主張に対する反論 a.請求人が本件登録意匠と引用意匠との共通点として挙げている「2つの短円管をT字型に接合してなる継手」という構成は、2本の断面円形パイプをT字型に接合する継手としてはきわめて自然、かつ必然的な構成といわなければならない。2本の断面円形パイプをT字型に接合する継手としては、必然的に2つの短円管をT字型に接合した形となり、その内径は接合するパイプの外形と略等しくかつ、引用意匠の具体的構成として、請求人が示す(C-1)(C-2)(C-3)の構成を採ることは機能上必然的な構成であると共に、請求人の継手は、昭和54年発売以来20年以上も販売されており、看者の注意を強く惹く意匠的特徴点を有しているものとは到底いえないものである。 これに対し、両者の相違点である「短円管の長手方向における中央前後対称位置に管外径の約1/4相当幅の帯状をなす一対の平坦面の有無」は、全体観察上看者の注意を強く惹き両者を充分弁別し得る顕著な相違点といえる。 b.上記被請求人の主張が妥当なものであることは、請求人の製造に係り、かつ、本件登録意匠出願前に公知となっていた各種継手の意匠と基本的形態において共通し、短円管の外周長手方向に形成された管外径の約1/4相当幅の複数の帯状をなす平坦面の有無において相違する継手の意匠につき、被請求人において本件登録意匠を除き以下に示す28件にものぼる意匠が登録されている事実により証明することができる。 第4.請求人の弁駁 請求人は、被請求人の答弁に対し、甲第6号証及び甲第7号証(検証物、本件登録意匠及び引用意匠の実施品)を提出し、大要以下の通り弁駁した。 請求人が挙示した甲第3号証の7頁上から2段目左端位置に示したジョイント「J-7」の意匠、同書8頁に示したジョイント「J59A、B、C、D」の意匠、更には同8頁のジョイント「J65-B」の意匠なども、やはり「2本の断面円形パイプをT字型に接合する継手」に係る意匠であることから明白なように、多種多様な意匠の構成態様が成立し得る。したがって、「請求人が示す(C-1)、(C-2)、(C-3)の構成を採ることは機能上必然的なものである」との反論にも理由がないことは明らかである。 被請求人は、上記の反論の妥当性を、28件掲げた意匠登録の事実で証明するとし、乙1号〜乙28号証を挙示し「帯状の平坦面の有無の差異が両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものであると判断された」と主張するが、総論として、拳示された乙1号の1〜乙28号証の1に係る意匠登録の事実は、本件審判とは事案を異にするものであり、また、各乙号証の意匠登録を正当な類否判断の結果と認めるには個別の検討を要するから、前記意匠登録の事実が直ちに本件登録意匠と引用意匠の類否判断に影響を与えるものではない。 被請求人は、「帯状の平坦部」が引用意匠とは異なる印象を与える根拠として乙30号証の対比写真を提出している。これは請求人の甲第4号証に対応するものである。そこで「見ればわかる」と考えて、請求人は甲第4号証に係る二つの物品について証拠申出の手続をとる次第である。 第5.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、本意匠を平成8年意匠登録願第33813号(登録1001736号意匠)とする平成9年11月26日の類似意匠登録願に係り、平成11年11月19日に、意匠登録第1001736号の類似2号として設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が、「建築構造材用継手」であり、その形態が、同添付図面に示すとおりである(別紙第一参照)。 2.甲号意匠 請求人が引用した意匠は、請求人(矢崎化工株式会社)が頒布した(1979年9月印刷)カタログ「ヤザキのプラスチックス ERECTOR イレクター仕様書」の7頁と8頁に記載された「(3)ジョイント一覧表」の中で8頁3段目中央に商品番号「J-65A」と表記されたジョイントの意匠、及び同9頁と10頁に「(4)ジョイントの寸法」を記載した中で9頁最下段の「J65-A・B」の図面に表されたジョイントの意匠、並びに同書4頁中段に記載された「回転部及びヒンジに使用」したジョイント「J-65A・B」の意匠であるが、当審は、同8頁3段目中央に商品番号「J-65A」と表記されたジョイントの意匠を甲号意匠とする。 3.両意匠の対比 先ず、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態について、以下の共通点及び差異点が認められる。 [共通点] 基本的構成態様において、円形パイプをTの字状に接合するための継手であり、全体が、円形パイプが貫通する短円筒状の管(貫通管部)に、それよりやや長い短円筒状の管(接合管部)が、双方の管の中心線が直角に交わる態様に接合されている点、 また、具体的態様において、 (1)貫通管部の長さ(高さ)が、接合管部の外周径にほぼ等しい点、 (2)貫通管部と接合管部の接合部(交差部)が、正面視略45度方向に稜線を形成している点、が共通している。 [差異点] 一方、両意匠は、具体的態様において、本件登録意匠は、貫通管部の外周面につき、その正面、背面及び左側面の中心線に沿う部位3箇所に、その全長にわたって、管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成し、また、接合管部の外周面につき、正面、背面、平面及び底面の中心線に沿う部位4箇所に、その全長にわたって、管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成したものであり、その帯状平面部が、正・背面視において、倒Tの字状に表れ、また、平・底面視において、貫通部の管端部のリング状から、帯状平面部が鍵穴状に連続しているのに対し、甲号意匠は、そのような平面部が形成されていない点に差異がある。 4.両意匠の類否判断 そこで、共通点及び差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響について検討する。 先ず、共通点について、両意匠に共通する基本的構成態様、すなわち、円形パイプをTの字状に接合するための継手であり、全体が、円形パイプが貫通する短円筒状の管(貫通管部)に、それよりやや長い短円筒状の管(接合管部)が、双方の管の中心線が直角に交わる態様に接合されている点は、この種物品分野において、2本の円形パイプをT字状に接合する際に普通に見られる形態であり、また、両意匠に共通する具体的態様の(2)の点も、円筒状の管の接合部に表れる必然的な稜線であり、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。また、具体的態様(1)の点は、請求人が、昭和40年代から登録商標「イレクター」を付して製造販売してきた商品の販売促進用として、主にホームセンター等に頒布した、1979年(昭和54年)9月印刷の「イレクター仕様書」の7頁と8頁に記載された「(3)ジョイント一覧表」の中で8頁3段目中央に商品番号「J-65A」と表記されたジョイントの意匠、及び同9頁と10頁に「(4)ジョイントの寸法」を記載した中で9頁最下段の「J65-A・B」の図面に表されたジョイントの意匠、並びに同書4頁中段に記載された「回転部及びヒンジに使用」したジョイント「J-65A・B」の意匠に見られるとおり、広く知られたありふれた形態であって(この点については、請求人も「甲第3号証の頒布時期と、そこに記載された引用意匠の基本的構成態様(上記B)、及び具体的構成態様(C-1)〜(C-3)による形状が全て、本件登録意匠の出願時から遡ること約18年も前から公知、周知の形状として需要者に知られた事実が重視されるべきである。」と認めるところである。)、看者の注意を惹くところと成り得ず、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。 一方、両意匠の差異点、すなわち、管外径の略1/4幅の帯状平面部の有無による差異であるが、この種の物品において、請求人が主張するとおり、「ずいぶん古くより種々な技術分野において日常的に、丸棒や円管等の表面を必要に応じて削除などして形成してきたことであり、格別創作というほどに目新しいものでもない」としても、本件登録意匠は、貫通管部の外周面の中心線に沿う部位3箇所に、その全長にわたって、帯状平面部を形成し、接合管部の外周面の中心線に沿う部位4箇所に、その全長にわたって、帯状平面部を形成したものであり、管の長手方向に平面部を単に形成した程度のものではなく、また、その帯状平面部が、正・背面視において、倒Tの字状に表れ、さらに、平・底面視において、貫通部の管端部のリング状から、帯状平面部が鍵穴状に連続して表れている点とも相俟って、本件登録意匠の特徴が発揮されており、両意匠を別異のものとする意匠的効果が認められものであり、その類否判断に及ぼす影響は、大きいというべきである。 ところで、請求人は、「本件登録意匠に平面部が存在して、それが引用意匠との相違点であるとしても、意匠的工夫ないし創作として看者(需要者)に注目されたり、格別の印象を与えたり、異なった美感を起こさせる要因(意匠の要部)になるとは認められない。」と主張するが、当業者を基準として創作の容易性の観点から比較する場合においてはともかく、一般需要者を基準としての意匠的効果としての印象(美感)の類否の観点から両意匠を比較する場合においては、前記管外径の略1/4幅の帯状をなす平面部の有無による差異から生じる印象の差異は、一般的には、決して小さいものでなく、共通点がこの差異を埋没させてしまうほどに強力な共通の印象をもたらすものでない限り、両意匠は意匠全体として異なった印象をもたらすものというべきである。 また、請求人は、「意匠の類否判断が、需要者の観察において誤認、混同を生ずるや否やにあるとの考え、所謂混同説に立てば、一例として甲第4号証に両意匠の実施品を並べた写真を示したように、前記平面部の存在を表す稜線は合成樹脂の地色に減殺されて殆ど目立たないから、需要者が一見しただけでは彼我の意匠の見分けがつかず、誤認、混同する虞が大である。」と主張するが、本件登録意匠の範囲は、「その願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定め」(意匠法第24条)られるものであり、請求人の主張を採用できない。 さらに、請求人は、「平面図、底面図の方向に見ると、水平方向の短円管の外表面の中心線に沿う位置の全長にわたり、管外径の約1/4相当幅の帯状をなす平面部が1本形成されている。前記の各平面部の削り深さは、平面図やA-A断面図に見える短円管の管壁の厚さ(甲第2号証に示した願書添付図面の実測で約3mm程度)に対して同0.5mm程度に極僅かである。」と主張するが、意匠の外観がもたらす美感は、実測による精密な数値より把握されるものというより、外観から受ける印象(美感)として把握されるべきものであり、請求人の主張をそのまま採用することはできない。 以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品は共通しているが、その形態について、両意匠における共通点は、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ないのに対し、差異点は、両意匠の類否判断に及ぼす影響が、大きいというべきものであり、差異点が共通点を凌駕する両意匠は、結局、類似するものということはできない。 その他、請求人は、甲号意匠の他に、請求人が頒布した「イレクター仕様書」(甲第3号証)の9頁と10頁に「(4)ジョイントの寸法」を記載した中で9頁最下段の「J-65A・B」の図面に表されたジョイントの意匠、及び同書4頁中段に記載された「回転部及びヒンジに使用」したジョイント「J-65A・B」の意匠についても、引用意匠としているが、両意匠は、甲号意匠と実質的に同一のものであり、本件登録意匠と、同様の理由により、類似するものということはできない。 5.まとめ したがって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第3号証に記載されたいずれの意匠とも類似しないものであるから、意匠法第10条第1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当しないとする理由はなく、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2002-05-14 |
結審通知日 | 2002-05-17 |
審決日 | 2002-06-12 |
出願番号 | 意願平9-76559 |
審決分類 |
D
1
11・
3-
Y
(D2)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上島 靖範 |
特許庁審判長 |
吉田 親司 |
特許庁審判官 |
伊藤 晴子 西本 幸男 |
登録日 | 1999-11-19 |
登録番号 | 意匠登録第1001736号の類似意匠登録第2号(D1001736/2) |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 山名 正彦 |
代理人 | 川瀬 幹夫 |
代理人 | 川瀬 幹夫 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 小谷 悦司 |