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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) K7 |
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管理番号 | 1063014 |
判定請求番号 | 判定2002-60016 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2002-09-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2002-02-01 |
確定日 | 2002-07-29 |
意匠に係る物品 | 切削工具ホルダー |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1070965号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「切削工具ホルダー」の意匠は、登録第1070965号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求人の申立及び理由 請求人は、「イ号意匠(図面代用写真)並びにその説明書に示す意匠は、第1070965号登録意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号乃至第5号証を提出している。 1.本件登録意匠の説明 本件登録意匠は、甲第1号証の意匠公報に示すように、マシニングセンタ等の工作機械に使用されるエンドミルなどの切削工具を、コレットを介して装着する切削工具ホルダーに関するもので、平成9年5月16日に図面代用写真によって出願され、平成12年2月25日に登録(甲第2号証参照)されたものである。 本件登録意匠の切削工具ホルダーは、本件登録意匠の図面代用写真及びその説明書によく見られるように、ホルダー本体の構成が、(A)工作機械のスピンドルに装着されるナショナルテーパ面を有するシャンク部と、(B)このシャンク部の下方部に連続形成された把持用のフランジ部と、(B-1)前記把持用のフランジ部の中央外周面に形成したV溝と、(B-2)前記把持用のフランジ部に前記スピンドル端面に突出するキーと結合する対称形成された一対のキー溝と、(C)このフランジ部の反シャンク部側の端面からシャンク部と反対の方向に該シャンク部の軸線と一致して延設され、外周面に前記フランジ部から先端に行くに従い小さくなるテーパ面が形成された切削工具のシャンク部を保持するチャック筒とからなり、(D)前記チャック筒の外周と回転可能にかつチャック筒の軸方向に移動可能に係合され、内周面に前記フランジ部から先端に行くに従い径が小さくなるテーパ面を有する締付筒を備え、(E)前記締付筒は、前記フランジ部に近接した根元部分のみを前記フランジ部の外周部より僅かに小外径として、かつ下方部に行くにつれてなだらかな曲線面を介して細径部としたラッパ形状とし、(E-1)前記細径部の外周面のほぼ中央には全周に所定幅の凹凸部(ローレット)を形成し、(E-2)前記凹凸部(ローレット)形成位置より上方外周面には一定間隔で回動工具差し込み用の円形状凹みを形成してなり、(F)前記チャック筒の外周面と前記締付筒の内周面間に全周に亘り配設され、前記締付筒の回転により前記ニードルローラを自転させつつ螺旋公転して前記チャック筒を縮径又は復元させる前記チャック筒及び締付筒の軸線に対して周方向に適宜の角度傾斜させた多数のニードルローラを備えた構成である。 本件登録意匠は前記形状及び構成とすることで、被切削加工物の切削深さが深い場合であっても、締付筒の外周面が加工物に当接して邪魔になることがないため、一々切削工具を変更することなくロングサイズエンドミル加工及び重切削加工が可能となる切削工具ホルダーである。 2.イ号意匠の説明 イ号意匠は本件登録意匠と同様に、マシニングセンタ等の工作機械のスピンドルに装着して使用される高速回転用ホルダーであって、エンドミルなどの切削工具を、コレットを介して装着する切削工具ホルダーであり、甲第3号証に示すようにMEGA DOUBLE POWER CHUCK(メガ ダブルパワー チャック)の名のもとに「標準タイプ」の「型式 BBT40-MEGA16D-75」として製造販売されているものである。 イ号意匠は、イ号意匠(図面代用写真)並びにその説明書に示すように、ホルダー本体の構成が、(a)工作機械のスピンドルに装着されるナショナルテーパ面を有するシャンク部と、(b)このシャンク部の下方部に連続形成された把持用のフランジ部と、(b-1)前記把持用のフランジ部の中央外周面に形成したV溝と、(b-2)前記把持用のフランジ部に前記スピンドル端面に突出するキーと結合する対称形成された一対のキー溝と、(c)このフランジ部の反シャンク部側の端面からシャンク部と反対の方向に該シャンク部の軸線と一致して延設され、外周面に前記フランジ部から先端に行くに従い小さくなるテーパ面が形成された切削工具のシャンク部を保持するチャック筒とからなり、(d)前記チャック筒の外周と回転可能にかつチャック筒の軸方向に移動可能に係合され、内周面に前記フランジ部から先端に行くに従い径が小さくなるテーパ面を有する締付筒を備え、(e)前記締付筒は、前記フランジ部に近接した根元部分を前記フランジ部の外周径とほぼ同一径として、かつ下方部に行くにつれて緩やかな曲面を介して細径部としたラッパ形状とし、(e-1)前記細径部の外周面の中央上部には全周に所定幅の凹溝部を形成し、(f)前記チャック筒の外周面と前記締付筒の内周面間に全周に亘り配設され、前記締付筒の回転により前記ニードルローラを自転させつつ螺旋公転して前記チャック筒を縮径又は復元させる前記チャック筒及び締付筒の軸線に対して周方向に適宜の角度傾斜させた多数のニードルローラを備えた構成である。前記イ号意匠においても、前記形状及び構成とすることで、エンドミル加工及び重切削加工が可能となる機能を備える。 3.両意匠の対比 イ号意匠とその説明書に示す意匠が、本件登録意匠の範囲に属する点について説明する。 両意匠の対象とする切削工具ホルダーの基本的態様において、イ号意匠の工具ホルダー本体は、上述したように、(a)ナショナルテーパ面を有するシャンク部、(b)外周面にV溝及びキー溝を備えた把持用のフランジ部、(c)切削工具のシャンク部を保持するチャック筒、(d)内周面に前記フランジ部から先端に行くに従い径が小さくなるテーパ面を有する締付筒、(e)締付筒は、前記フランジ部に近接した根元部分を前記フランジ部の外周径とぼぼ同一径として、かつ下方部に行くにつれて緩やかな曲面を介して細径部としたラッパ形状とした構成を備えたものであって、上記構成は本件登録意匠の基本的態様である(A)〜(E)及び(F)の構成と全く同一と認められる。即ち、イ号意匠には本件登録意匠の特徴とする(e)項の締付筒が前記フランジ部に近接した根元部分を前記フランジ部の外周径とぼぼ同一径として、かつ下方部に行くにつれて緩やかな曲面を介して細径部としたラッパ形状とした形状を備えている。本件登録意匠の出願当時における従来の切削工具ホルダーにあっては、チャック筒に装着する締付筒の外径寸法をフランジ部の外径寸法より小さくしたラッパ形状とするという発想はなく、一般に製造販売された事実は全く存在しないものである。したがって、本件登録意匠の切削工具ホルダーにおいて、ホルダー本体に前記(E)項の形状の締付筒を装着した点は明らかに新規な創作として認められた上で、登録されたものであるといえる。さらに、前述のイ号意匠と本件登録意匠とを比較検討すると、締付筒の外観形状である(E)項と(e)項においては、フランジ部に近接した根元部分を前記フランジ部の外周径とぼぼ同一径として、かつ下方部に行くにつれて緩やかな曲面を介して細径部とした、全体がほぼラッパ形状とする基本的構成においては互いに類似する形状であると認められる。但し、本件登録意匠の締付筒の外周面には(E-1)項で示す前記細径部の外周面のほぼ中央には全周に所定幅の凹凸部(ローレット)及び(E-2)項で示す前記凹凸部(ローレット)の形成位置より上方外周面には一定間隔で回動工具差し込み用の円形状凹みを設けた形状が形成されている。しかしながら、前記(E-1)項及び(E-2)項で示すような回動工具用の形状は、甲第4号証,甲第5号証に示すように切削工具ホルダーにおける締付筒において極普通に見られるところであって、両意匠にのみ見られる特異な形状ではない。従来、締付筒において回動工具によって締め付けるためにすべり止め、係り止め部を形成する形状とすることは一般的に行なわれており、特に重要な問題ではないことに鑑みれば前記相違は微差に過ぎず、両者は明らかに類似する意匠であると判断せざるを得ないものである。意匠の類否判断において、意匠とは物品全体、又は少なくともまとまりのある部分の外観であることを考えれば、その形態を物理的に腑分けして類否の判断を行なう必要がなく、切削工具ホルダーの目的、使用態様、締付筒の機能に照らすと、締付筒の全体形状がホルダー本体のフランジ部の外形状より小さくラッパ状に形成されている点に看者の注意を引く部分があると推量できる。したがって、締付筒の外周形状が前記フランジ部より小外径のラッパ状に形成した形状である点に新規性が存在し、締付筒の外周面の形状に多少の相違が認められても、これらの相違点は、前記工具ホルダー本体の形状、締付筒が全体的にラッパ形状となっている基本的形態における共通点が存在する以上、両者は明らかに類似意匠であると思われる。 [証拠方法] 甲第1号証:本件登録意匠の意匠登録公報写し 甲第2号証:本件登録意匠第1070965号意匠登録原簿写し 甲第3号証:イ号意匠の商品カタログ写し 甲第4号証:内国カタログ「SHOWAスーパートライチャック」 甲第5号証:実開昭61-117607号公報 第2.被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の判定を求めると答弁し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証乃至乙第3号証を提出している。 1.イ号意匠は被請求人の登録意匠の実施品である。被請求人は、意匠登録第1121935号(以下、「被請求人の登録意匠」という。)を有しており(乙第1号証、別紙第三参照)、自らの意匠権の範囲内でイ号意匠を実施している。御庁において被請求人の登録意匠が、意匠登録第1070965号(本件登録意匠)と非類似の意匠であると判断されたことは、被請求人の登録意匠の意匠公報に、参考文献として本件登録意匠の登録番号が挙げられていることからも明白である。イ号意匠も同様に、本件登録意匠とは非類似の意匠であると判断されるべきである。 2.本件登録意匠及びイ号意匠の対比 (1)締付部の「ラッパ状」部分の形状について 請求人は、締付部が「ラッパ状」であることが本件登録意匠の要部であると主張する。しかし、そのようなラッパ状のものは本件登録意匠の出願日(平成9年5月16日)より前に公開された工具ホルダーの締付部に数多く見られたものであり(乙第2号証乃至乙第5号証)、要部たり得ない。請求人は本件登録意匠の締付部が「フランジ部に近接した根元部分のみを前記フランジ部の外周部より僅かに小外径として」いる旨主張する。しかし、これは事実に反する。本件登録意匠の締付部は、フランジ部に近い根元部分を前記フランジ部の外周部より大幅に小外径とし、根元部分以外の径を根元部分の径より僅かに小外径としたものである。これに対し、イ号意匠の締付部は、フランジ部に接する根元部分はフランジ部と全く同外径とし、根元部分以外の径は根元部分の径よりも、かなり小外径としている。このように、本件登録意匠の締付部は、フランジ部/締付部の根元部分/根元以外の部分、の3箇所における外径のプロポーションがイ号意匠と相違しており、むしろ公知の乙第3号証における締付部の形状に近いものである。かかる事実を考慮すれば、本件登録意匠の範囲は、締付部が「ラッパ状」のものでも極めて限定された形態にのみ及ぶものであり、上記のような相違点を有するイ号意匠にまで及ぶものではない。 (2)締付部の「凹凸部(ローレット)」及び「回動工具差し込み用の円形状凹み」について 請求人は、本件登録意匠の締付部の外周面の「凹凸部(ローレット)」及び締付部の外周面の「回動工具差し込み用の円形状凹み」は、甲第4号証、甲第5号証に示すように特異な形状ではない旨を主張する。しかし、甲第4号証及び甲第5号証に現れている凹凸部(ローレット)及び回動工具差し込み用の縦長の溝(円形状ではない)は、本件登録意匠のものとは形状、配置が異なり、共通するのは用途又は機能だけである。意匠の類否は各部の用途又は機能により判断するものではなく、外観に現れた形状、模様、色彩によって判断するものである。したがって、甲第4号証及び甲第5号証は、本件登録意匠の「凹凸部(ローレット)」及び「回動工具差し込み用の円形状凹み」が特異な形状ではないことを主張する根拠にはならない。これに対しイ号意匠には、本件登録意匠が有する「凹凸部(ローレット)」も「回動工具差し込み用の円形状凹み」も存在しないのであるから、この点でもイ号意匠は本件登録意匠と相違している。以上のようにイ号意匠の締付部は、凹凸部(ローレット)や回動工具差し込み用の凹みが全くない、完全に軸対称の回転体である≪特徴1≫。また、上記(1)で述べたようにイ号意匠の締付部の根元部分はフランジ部と全く同外径であり、このことが、フランジ部から締付部へと繋がるデザイン上の連続感を高め、フランジ部と締付部との高い「まとまり感」を現出している≪特徴2≫。そして、この ≪特徴1≫及び≪特徴2≫が相俟って、全体として極めてすっきりした外観を呈し、従来の意匠にない洗練された美感を起こさせるデザインとなっているのである。本件登録意匠の範囲は、このような特徴を有するイ号意匠に到底及ぶものではない。 (3)フランジ部と締付部の間の隙間について 請求人は、本件登録意匠の審査段階で提出した意見書(乙第6号証)において、本件登録意匠ではフランジ部と締付部の間にリング状の弾性体を介在させてあること、拒絶理由通知で引用された文献(甲第5号証)にはこのような弾性体は全く存在していないことを指摘し、これを理由の1つとして本件登録意匠を意匠登録すべき旨主張している。本件登録意匠はリング状の弾性体を有するため、締付部を締め付けても、フランジ部と締付部の間には必ず隙間が形成されるようになっている。これに対しイ号意匠は、上記のようなリング状の弾性体を備えていないし、そもそもイ号意匠は、請求人提出の甲第3号証の各頁に示されているように、締付部を締め付けることにより、締付部をフランジ部に密着させた状態を基本形態としている。このことは、被請求人がイ号意匠に関して「ナット端面密着」「ナットとボディの完全密着」など、締付部の端面とフランジ部との密着効果を強調していること(甲第3号証の表紙及び1〜2頁)からも明らかである。したがって、密着の様子を分かり易く示すために敢えて密着していない状態と対比させるような特別の場合(甲第3号証の2頁左上)以外は、締付部をわざわざ緩めた状態にすることはない。工具ホルダーのような生産財の販売は、カタログでの注文によるものがほとんどであるし、そのカタログで「密着」が強調されているのであるから、締付部を締め付けた形態は特に重視すべきである。また、工具ホルダーは使用時においても締付部が締め付けられるのであり、逆に締付部を緩めた状態で駆動機に取り付けて高速回転させれば、緩んだ締付部や工具が振り飛ばされて危険極まりない。締付部を緩めるとすれば、工具を着脱する際に一時的に緩めるだけである。 このような特別の場合にしか現れない一時的形態に過ぎないものは、イ号意匠の基本形態ではない。請求人が提出したイ号図面代用写真は、イ号意匠の締付部をわざわざ緩めた場合の形態を現しており、イ号意匠の形態を作為的に変更して撮影したものに他ならない。以上のようにイ号意匠は、フランジ部と締付部の間にリング状の弾性体を備えていないし、締付部を締め付けた基本形態において、フランジ部と締付部の間に隙間は存在しない点で本件登録意匠と異なる。イ号意匠におけるこれらの点は、むしろ請求人が本件登録意匠との非類似を主張した甲第5号証や、請求人が特許出願し本件登録意匠の出願前に公開された乙第2号証の形態に近いものである(因みに締付部を緩めればフランジ部との間に隙間ができる点も甲第5号証及び乙第2号証と同じである)。よってイ号意匠は、請求人自らの主張によっても本件登録意匠に類似しないと判断すべきである。 以上に鑑みれば、本件登録意匠の範囲は、請求人が主張するような広いものではない。締付部の根元部分と他の部分とのプロポーション、締付部の凹凸部(ローレット)及び回動工具差し込み用の円形状凹み、フランジ部と締付部の間のリング状の弾性体及びこれにより必ず形成される隙間などの重要な要素が、本件登録意匠の要部を形成していると解すべきである。これに対し、イ号意匠はこれら本件登録意匠の要部を備えていないから、本件登録意匠とは非類似の意匠というべきである。 [証拠方法] 乙第1号証:意匠登録第1121935号公報(被請求人の登録意匠) 乙第2号証:特開平8-118178号公報(抜粋) 乙第3号証:米国特許第4133545号公報(抜粋) 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成9年5月16日に出願(意願平9-54540号)され、平成11年12月6日に設定の登録がなされ、平成12年5月29日に意匠公報が発行された意匠登録第1070965号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「切削工具ホルダー」とし、その形態を願書添付の図面代用写真に現されたとおりとしたものである(別紙第一参照)。 2.イ号意匠 イ号意匠は、被請求人が製造・販売している商品名「メガパワーダブルチャック標準タイプ BBT40-MEGA16D-75」の意匠であり、判定請求書によれば、意匠に係る物品が「切削工具ホルダー」と認められ、その形態を判定請求書添付書類の別紙イ号意匠の写真に現されたとおりとしたものである(別紙第二参照)。 3.本件登録意匠とイ号意匠との対比 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、両者は、意匠に係る物品が一致し、その形態については、以下に示す共通点と差異点が認められる。 [共通点] (1)工作機械のスピンドルに装着される切削工具ホルダーであって、略頭切円錐形状のシャンク部、外周側面部に凹溝を1条施した円板形状のフランジ部及びチャック本体部を略円筒形状に成形したチャック部を中心軸を一致させて接合した全体の基本的な構成。 (2)シャンク部の態様について、軸方向中心部に円形貫通孔を穿設している点。 (3)フランジ部の態様について、フランジ部に施された凹溝よりも深いU字形状の切り欠き部を左右側面部に一対設けている点。 (4)フランジ部における凹溝の態様について、外周側面部に1条施した凹溝の断面視形状を略V字形状としている点。 (5)チャック部における工具取り付け部の態様について、工具ホルダー保持部をチャック部に嵌入し、工具取り付け部の開口部に面取りを施している点。 (6)チャック本体部の態様について、チャック本体部の外周側面部の中央やや上部に凹溝を1条施している点。 [差異点] (イ)チャック部の鍔部の態様について、本件登録意匠においては、鍔部とチャック本体部との接合部分を段差形状に成形した、チャック本体部よりやや大径の鍔部を、チャック本体のフランジ側部分に設けているのに対し、イ号意匠においては、鍔部とチャック本体部との接合部分を漏斗形状に成形した、フランジ外周部と一致する程大径の鍔部を、チャック本体のフランジ側部分に設けている点。 (ロ)チャック部とフランジ部との接合箇所の態様について、本件登録意匠においては、チャック部とフランジ部との接合箇所に隙間材を介在させ、両者の間には常に隙間が存在するのに対し、イ号意匠においては、そのような隙間材は存在せず、両者を密着させることが可能である点。 (ハ)チャック本体部に施されたローレットの有無について、本件登録意匠においては、チャック部の外周側面中央部分にローレットを1条施しているのに対し、イ号意匠においては、それを設けていない点。 (二)チャック本体部に施された円孔の有無について、本件登録意匠においては、チャック本体部に施されたローレットのやや上方部分に六つの円孔を等間隔に配設しているのに対し、イ号意匠においては、それを設けていない点。 (ホ)フランジ部に施された溝部の態様について、本件登録意匠においては、フランジ外周部の中央やや下側部分にV字形状溝を1条施しているのに対し、イ号意匠においては、フランジ外周部の中央部分に設けている点。 2.類否判断 上記の共通点及び差異点について検討すると、まず、共通点のうち(1)の態様については、両意匠の形態全体にかかわり、その基本的な骨格を構成するところのものであるが、工作機械のスピンドルに装着される切削工具ホルダーの分野において、例を挙げるまでもなく複数の従来例が存在することから、本件登録意匠の特徴と言うことはできない。次に、共通点(2)の態様については、各部の具体的な構成態様にかかるものであるが、甲第5号証及び乙第2号証乃至第4号証に見られるように当該物品分野において極普通に見られる態様であるから、両意匠の類否判断にさしたる影響を及ぼすものではない。また、共通点(3)乃至(5)の各態様についても、各部の具体的な構成態様にかかるものであるが、切削工具ホルダーの分野においては、従来から複数存在する形態であるから(例えば、登録第844402号の意匠に係る物品「ドリルチャック」の意匠、1990年11月16日特許庁受入の内国雑誌「応用機械工学」(発行者:株式会社大河出版)11号238頁に所載の「チャックホルダー」の意匠)、両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえない。さらに、共通点(6)に示す態様についても、1条の凹溝がチャック本体部の外周側面部の中央やや上部に存在すること自体は共通するとしても、その視覚的効果を考慮すると共通点として働く効果は弱く、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。したがって、これらの共通点が相俟った効果を考慮しても、共通点のみをもって両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすと断定をすることはできないものである。 次に差異点について検討するに、差異点(イ)の態様についてであるが、本件登録意匠は、鍔部の大きさをチャック本体部よりやや大径とし、鍔部とチャック本体部との接合部分の形状を一段の段差形状に成形した点に特徴があるが、イ号意匠は、鍔部がフランジ外周部と同一の大径とし、鍔部とチャック本体部との接合部分を漏斗形状に成形した点に特徴があり、これらの両意匠の特徴は大きく異なるものであるから、上記のように共通する態様に格別の特徴が認められない両意匠にあっては、両意匠を別異のものと看者に印象づけるに十分なものであり、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものといえる。また差異点(ロ)のチャック部とフランジ部との接合箇所の態様も、本件登録意匠は、チャック部とフランジ部との間には常に隙間が存在し、この各構成部は別体であると観察されるのに対し、イ号意匠は、チャック部とフランジ部とを密着させることが可能であり、本物品の使用時において、この各構成部が一体の形態であるかのように看取されるため、両意匠の印象は大きく異なるものであり、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと言うほかない。なお、差異点(ハ)及び(ニ)の態様は、この種物品分野においては、ローレット及び複数の円孔をチャック本体部分に施すことは極普通に見られる態様であり(例えば、甲第5号証、実開昭62-72004号公報に記載の第1図の「チャック」の意匠等)、注目されるほどの差異ではなく、差異点(ホ)の態様も、フランジ部の限られた部分にかかる僅かな差異に過ぎないから、いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。 したがって、上記の差異点(イ)及び(ロ)の観点からみて、両意匠の差異点が共通点を凌駕することは明らかであって、意匠全体として、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものとはいえない。 なお、請求人は、チャック部の態様につき、「イ号意匠と本件登録意匠とを比較検討すると、締付筒(チャック部)の外観形状においては、フランジ部に近接した根元部分をフランジ部の外周径とぼぼ同一径として、かつ下方部に行くにつれて緩やかな曲面を介して細径部とした、全体がほぼラッパ形状とする基本的構成においては互いに類似する形状であると認められる。」と主張するが、被請求人も主張するとおり、鍔部の大きさをフランジ部の外周径より明らかに小径とし、鍔部とチャック本体部との接合部分の形状を段差形状に成形した本件登録意匠のチャック部の態様は、鍔部の大きさをフランジ外周部と同一径とし、鍔部とチャック本体部との接合部分を漏斗形状に成形したイ号意匠のチャック部のものとは大きく相違するものであるから、この請求人の主張は、当を得ないものである。 第4.むすび 以上のとおりであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2002-07-17 |
出願番号 | 意願平9-54540 |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(K7)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 前畑 さおり |
特許庁審判長 |
藤木 和雄 |
特許庁審判官 |
江塚 尚弘 岩井 芳紀 |
登録日 | 2000-02-25 |
登録番号 | 意匠登録第1070965号(D1070965) |
代理人 | 門間 正一 |
代理人 | 稲葉 良幸 |