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審決分類 審判 無効  意9条先願 無効としない D2
審判 無効  2項容易に創作 無効としない D2
審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない D2
管理番号 1093305 
審判番号 無効2002-35417
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2004-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-10-01 
確定日 2004-02-16 
意匠に係る物品 美容椅子の脚 
事件の表示 上記当事者間の登録第1050210号「美容椅子の脚」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、意匠登録第1050210号の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1.意匠登録無効の理由の要点
意匠登録第1050210号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載の意匠である、甲第2号証と甲第3号証に示す意匠(以下、「公知例1」という。)、甲第4号証に示す刊行物第109頁掲載の意匠(以下、「公知例2」という。)及び甲第4号証に示す刊行物広告頁掲載の意匠(以下、「公知例3」という。)と類似するものであるから、その登録は、意匠法第3条第1項第3号の規定に違反する。
本件登録意匠は、その出願前に当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において公然知られた形態である、公知例1ないし公知例3に基づいて、容易に意匠の創作をすることができたものであり、その登録は、同法第3条第2項の規定に違反する。
本件登録意匠は、これに類似する先願登録意匠(以下、「先願例1」という。)が存在するので、その登録は、同法第9条第1項の規定に違反する。
したがって、同法第48条第1項第1号の規定により、本件登録意匠の登録は無効とされるべきである。
2.本件登録意匠の登録が無効とされるべき理由
(1)本件登録意匠と公知例1の類否
両意匠には、台座部の形状において相違点が認められる。
甲第6号証の意匠(意匠登録第894561号)と甲第7号証の意匠(意匠登録第894561号の類似第1号)とは台座部の形状に相違があるが互いに類似する意匠として登録されている事例から、理美容椅子昇降用脚に係る意匠において、台座部は当該意匠の要部ではないから、台座部の形状が広めに形成されているか否かは意匠の類否判断において重視されていないと考えることができる。したがって、本件登録意匠と公知例1においても、台座部に広い狭いの相違点はあるが、そのような相違点は、両意匠の要部に係る相違ではないので、両意匠が非類似であることの根拠にはならない。
また、当業者は台座部の据え付けに関する需要者の要望に応えるために台座部の狭いものと広いものとを製品化するのが一般的であるから、美容椅子の脚については、台座部が広いか狭いかということは、意匠の類否判断において重要な要素ではない。また、美容椅子の脚の需要者は、台座部位外の部分から、当該意匠についての美的印象を受け取っているのが実情であることからも、美容椅子の脚の意匠の類否判断においては、台座部の形状は要部ではない。特に、甲第8号証の判決例によれば台座部の形状には新たな創作的価値が認められていないから、公知例1ないし3及び先願例1についての類否判断において、台座部の形状は関与しない。
したがって、本件登録意匠と公知例1のように、台座部の形状において相違があっても、そのような相違は両意匠が有する共通点を凌駕するほどの相違ではなく、需要者が両意匠から受け取る外観上の印象を異ならしめることはないので、両意匠は類似の関係にある。
(2)本件登録意匠と公知例2の類否
全体として公知例1と公知例2はほぼ同様の形態といえる。
本件登録意匠と公知例2は類似の関係にある。
(3)本件登録意匠と公知例3の類否
両意匠には、台座部、ポンプカバー部、足踏みスイッチ部及び昇降用アーム部の相違点があるが、そのような相違点は、両意匠の共通点を凌駕するものとは言えず、需要者に与える美感・印象を異ならしめるものではないので、両意匠は類似の関係にある。
すなわち、台座部の相違は、本件登録意匠と公知例1の類否のところで述べたように、両意匠の外観から与えられる印象を異ならしめる程の相違ではない。
ポンプカバー部、足踏みスイッチ部及び昇降用アーム部の相違については、判決例(東京高判平成12年(行ケ)330号:甲第8号証)に挙げられている平成8年意匠登録願第3171号の意匠と意匠登録第1009382号の意匠(先願例1)における該部の相違点は、本件登録意匠と公知例3の相違点とほぼ同様であり、東京高等裁判所は、そのような相違があっても、そのような相違は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、両意匠の共通点を凌駕することはできず、結局、両意匠は全体として類似するものと言わざるを得ないと判断しているから、本件登録意匠と公知例3についても、該部の相違点をもって、両意匠は非類似と考えることはできない。
また、該部の共通点は、各部の特徴をよく表している部分であり、各部の共通感を強く惹起する。
(4)本件登録意匠と先願例1の類否
両意匠には、台座部、ポンプカバー部、足踏みスイッチ部及び昇降用アーム部の相違点があるが、そのような相違点は、両意匠の共通点を凌駕するものとは言えず、需要者に与える美感・印象を異ならしめるものではないので、両意匠は類似の関係にある。
(5)本件登録意匠の創作容易
本件登録意匠と公知例1ないし公知例3は、そこから与えられる外観上の印象が異なるものではなく、本件登録意匠の出願時において、当業者が本件登録意匠を公知例1ないし公知例3に基づいて容易に創作できたことは明らかである。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判請求は理由がない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第9号証の3を提出した。
1.答弁の理由の要点
本件登録意匠は公知例1ないし公知例3に類似するものではなく、本件意匠登録は意匠法第3条第1項第3号の規定に違反するものではない。
本件登録意匠は、公知例1ないし公知例3から容易に意匠の創作をすることができたものではなく、本件登録意匠は意匠法第3条第2項の規定に違反するものではない。
本件登録意匠は先願例1に類似するものではなく、本件意匠登録は意匠法第9条第1項の規定に違反するものではない。
よって、本件意匠登録は無効とされるべきでない。
2.本件意匠登録は無効とされるべきでない理由
(1)本件登録意匠と公知例1の類否
公知例1は、広い板状の台座部の中央から、ポンプカバー部を突設したデザインであるため、台座部は、看者に対して広さを印象付けることはあっても、高さを印象付けるものではなく、また、足踏みスイッチ部のみがポンプカバーの後端から後方に突出して設けられるという印象は少なく、大きな広がりを持つ板状の台座部の一部として板状の台座部と一体的に捉えられ、背が低く、どっしりした重厚な印象を看者に与えるものである。
これに対して、本件登録意匠にあっては、広い板状の台座部を備えるものではなく、ポンプカバー部と台座部とが一体として認識される。本件登録意匠の台座部は、充分な高さのある台座部であると共に、下方段部を介してポンプカバー部と一体に連なり、また、後端では足踏みスイッチと一体となって後方に突出したもので、下部後方突出部の全体が、あたかも、「舌を突き出しているように」、目立つものとなっており、その外周後両隅を大きな隅丸として、前端半円弧をなすポンプカバー部とのデザイン状の統一性を図ることにより、基台部全体に丸くかわいい印象を与えており、背高感や軽快感を惹起させるものである。このような形態の台座部は従来になく、「ありふれた形態」とすることはできない。
よって、本件登録意匠は、公知例1の台座部を小さくしたに過ぎないと言ったものではなく、公知例1の存在を前提に、その台座部の形状を変化させたものであることは事実であるが、その際に、新たな美感を創出すべく美的処理を施すことにより、ポンプカバー部、足踏みスイッチ部、台座部の三者が一体となって、公知例1とは正反対の背高で軽快感の強い印象を与える、全く異なる美感が生ずる新たな意匠を創作したものであり、本件登録意匠は、公知例1に類似しないものである。
請求人は、甲第6号証と甲第7号証との唯一1件の先願類似登録例を提示して類否の主張をするが、意匠の要部認定や意匠の類否の判断は、各意匠について具体的に行われるべきものであり、単純に、1件の先例があることを根拠に、全てこれに「右へなれい」すべきであると言ったものではない。美容椅子の脚にあっては、下端の台座部は最も見えやすい部分であり、しかも、台座を踏まないよう、使用に際しても注意が払われる箇所であり、台座部は意匠の要部である。そして、台座部について多くの形態のものが実施されていると言うことは、台座部が意匠の要部であり、デザイン状の重要なポイントの一つであることを示すものである。また、過去の登録例についても、台座部の形態の相違によって非類似として登録されている例、他方、台座部の形態が相違しても類似意匠として登録されている例、それぞれを挙げることができ、結論として言えることは、1件の登録例によって全てを同じと判断すべきであるとする請求人の主張は明らかな誤りであるということである。
請求人は、当業者は台座部の据え付けに関する需要者の要望に答えるために、台座部の狭いものと広いものとを製品化することが一般的であると主張するが、これが一般的であるとの証拠は何ら提出されておらず、単に主張するに止まるものである。また、「需要者の要望に答える」ために種々のデザインが創作されるものであり、請求人の主張は、まさに、台座部の部分で、意匠を創作する必要性があることを認めているに他ならない。
(2)本件登録意匠と、公知例2及び3、並びに先願例1との類否
本件登録意匠のポンプカバー部と、公知例2及び3、並びに先願例1のポンプカバー部とは明らかに相違する。また足踏みスイッチ部においても相違する。さらに全体の美感の点においても、公知例2及び3、並びに先願例1は、本件登録意匠のような、全体に背高感が強く、軽快感を看者に与えるものではない。よって、本件登録意匠は、公知例2及び3、並びに先願例1に類似しない。
(3)創作容易
本件登録意匠は、背高感、軽快感の強い美感を惹起させる美的創作がなされたものであり、意匠法第3条第2項の規定にも違反しないものである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成10年1月9日に意匠登録出願をし、平成11年6月18日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1050210号意匠であり、願書及び願書に添付の図面の記載によれば、意匠に係る物品を「美容椅子の脚」とし、その形態を、願書及び願書に添付の図面の記載のとおりとするものである(別紙第1参照)。
なお、その形態につき、右側面図を前側とし、正面図を側面側として認定する。
2.公知例1
公知例1として請求人が引用した意匠は、甲第2号証に示す意匠であって、平成9年11月に発行された刊行物「HairMode」広告頁に掲載の、「トレビBP300(N)A」と表示の写真に現された「美容椅子の脚」の意匠と「シェーヌBP300(N)A」と表示の写真に現された「美容椅子の脚」の意匠、及び、甲第3号証に示す意匠であって、平成9年11月に発行された刊行物「しんびよう」広告頁に掲載の、「トレビBP300(N)A」と表示の写真に現された「美容椅子の脚」の意匠と「シェーヌBP300(N)A」と表示の写真に現された「美容椅子の脚」の意匠であるが、これらの意匠は同一のものと認められるので、当審は、これらの意匠のうち、甲第2号証に示す意匠であって、平成9年11月に発行された刊行物「HairMode」広告頁に掲載の「トレビBP300(N)A」と表示の写真に現された被請求人の製造販売に係る「美容椅子の脚」の意匠を公知例1とする。その形態は、同写真に現されたとおりである(別紙第2参照)。
3.公知例2
公知例2は、甲第4号証に示す意匠であって、平成8年7月に発行された刊行物「HairMode」第109頁に掲載の写真に現された被請求人の製造販売に係る「美容椅子の脚」の意匠であり、その形態は、同写真に現されたとおりである(別紙第3参照)。
4.公知例3
公知例3は、甲第4号証に示す意匠であって、平成8年7月に発行された刊行物「HairMode」広告頁に掲載の写真に現された請求人の製造販売に係る「美容椅子の脚」の意匠であり、その形態は、同写真に現されたとおりである(別紙第4参照)。
5.先願例1
先願例1は、甲第5号証に示す意匠であって、平成7年4月7日に意匠登録出願をし、平成10年2月27日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1009382号意匠であり、願書及び願書に添付の図面の記載によれば、意匠に係る物品を「理美容用椅子昇降用脚」とし、その形態を、願書及び願書に添付の図面の記載のとおりとするものである(別紙第5参照)。
6.本件登録意匠と公知例1の対比検討
本件登録意匠と公知例1を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については、主として以下の共通点及び差異点がある。
すなわち、全体が、基台部と昇降用アーム部から構成されるものであって、基台部は、台座部、ポンプカバー部及び足踏みスイッチ部から成り、ポンプカバー部を、やや扁平で平面視隅丸の略縦長直方体状の略後半部上方に、前部中央に開口部を有する略直方体状の突出部(後部突出部)を段状に形成して、側面視「L」の字状を呈するカバー体とし、それを台座部上に突設し、ポンプカバー部後方の台座部上面側に足踏みスイッチ部を設けたものとし、昇降用アーム部は、外アームと、座板支持ブラケットを立設した内アームから成り、外アームをポンプカバー部の後部突出部開口部に回動自在に装着したものとした点で共通し、全体の態様のうち、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様については、両意匠ほぼ同様のものである。
一方、差異点として、本件登録意匠は、台座部を、ポンプカバー部の横幅より極僅かに広い横幅で、ポンプカバー部の縦幅より略5/4倍程度広い縦幅とした、やや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体(扁平で平面視隅丸の略縦長直方体状)とし、その上面略1/5を後部に残し前部略一杯にポンプカバー部を突設して、台座部とポンプカバー部との間に小段部を表したものとし、台座部の後部側を除く周側面はやや高い垂直面であり、後部側周側面は高さを後端に向かって漸次やや低くしたもので、その上部全体はポンプカバー部後下端に向かって内上がりのやや緩やかな弧状の斜面状であり、足踏みスイッチ部を、ポンプカバー部後方の台座部上面一杯に台座部を覆うように面一状に被着しているのに対して、公知例1は、台座部を、ポンプカバー部の縦幅及び横幅よりそれぞれ略2倍程度広い縦幅及び横幅とした、やや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の広い板体として、その上面略中央にポンプカバー部を突設したものとし、台座部の下部周側面は極小さな高さの垂直面で、その上部全体はポンプカバー部下端に向かって内上がりのやや緩やかな斜面状であり、足踏みスイッチ部を、下端外方に連接した薄板状フランジ部を有するものとして、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に突設している点がある。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、上記差異点は、被請求人も本件登録意匠は公知例1の存在を前提にその台座部の形状を変化させたものであることは事実であると述べているように、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様について両意匠ほぼ同様とした中での台座部及び足踏みスイッチ部の組み合わせ態様、さらには、それとポンプカバー部との組み合わせ態様に係る差異であるが、上記差異点に係る態様により、本件登録意匠は、周側面をやや高い垂直面とした台座部と小段部を介して上下に繋がるポンプカバー部とが高さが一体となって一つの塊状に印象づけられると共に、その塊の後下端後方に上面一杯を足踏みスイッチ部とした後部台座部が塊状に突出して、下部後方突出部を顕著に表し、下部後方突出部全体が足踏みスイッチと印象づけられるものであるのに対して、公知例1は、ポンプカバー部が広い板体の台座部の上面略中央から突出した一つの塊状に印象づけられ、その下端外方に広がる台座部は広さを印象づけるものであって、本件登録意匠のように台座部とポンプカバー部とが高さが一体となって一つの塊状に印象づけられることはなく、また、足踏みスイッチ部は、ポンプカバー部後方の台座部上面中央に突設したものであり、広い台座部の一部として台座部と一体的に捉えられるものであって、本件登録意匠のように下部後方突出部全体が足踏みスイッチと印象づけられるものではなく、そうすると、両意匠は上記差異点に係る態様に起因して意匠全体の印象が大きく異なるものといえ、この印象の差異は、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様について両意匠ほぼ同様とした点を勘案しても、両意匠の共通点の効果を凌ぎ、両意匠を別異のものと看者に印象づけるに十分なものというほかなく、上記差異点は、両意匠の類否判断を決するところである。
請求人は、台座部に相違があるが互いに類似する意匠として登録されている甲第6号証と甲第7号証の先行登録意匠の事例を参酌して本件登録意匠と公知例1の類否判断をしているが、先行登録意匠間の類否判断は、本件登録意匠と公知例1との類否判断に何ら影響を及ぼすことのない案件外の事項に過ぎない。すなわち、意匠の類否判断は、その対象とする意匠双方を対比することにより、意匠間に存在する共通点と差異点を捉え、それらの点が相互に関連し合いながら類否判断に及ぼす影響を総合的に検討することでなされるものであって、別件意匠間における共通点と差異点及びその評価判断が、直ちに、本件両意匠の類否判断の拠り所となるものではない。 そして、請求人は、台座部は意匠の要部ではないから、本件両意匠は台座部に広い狭いの相違点はあるが、そのような相違点は、両意匠の要部に係る相違ではないので、両意匠が非類似であることの根拠にはならないし、当業者は需要者の要望に応えるために台座部の狭いものと広いものとを製品化するのが一般的であるから、美容椅子の脚については、台座部が広いか狭いかということは、意匠の類否判断において重要な要素ではない旨主張する。
しかしながら、当業者は需要者の要望に応えるために台座部の狭いものと広いものとを製品化するのが一般的であるか否かはともかく、台座部自体は、美容椅子の脚において意匠を構成する構成部品として、意匠全体のうちの相当部分を占める部分であり、かつ、観察され易い部分でもあって、その態様は意匠全体の基調の形成に大きくかかわるところといえ、そして、美容椅子の脚において台座部を異なる形式、異なる態様のものに改変することは普通に見られるところ、台座部の態様、さらには、他の構成各部との組み合わせ態様は、造形上、多様な工夫の余地があるところといえ、また、そもそも、意匠の類否判断は、形態全体として観察してなされるべきものであり、以上の点を総合して判断すると、台座部の態様は、その如何によっては、美容椅子の脚において意匠の要部となり得るものであり、台座部が広いか狭いかということも、意匠の類否判断において重要な要素となり得るものであるといえる。
以上のとおりであって、差異点は共通点を凌ぎ両意匠の類否判断を決するところであり、意匠全体として、本件登録意匠は公知例1に類似するものとはいえない。
7.本件登録意匠と公知例2の対比検討
公知例2は、公知例1に対して、ポンプカバー部上部後方に突出する輪状のレバー部が配置されている形態であり、その他の形態は公知例1と同様である。
本件登録意匠と公知例2を対比すると、両意匠は、本件登録意匠と公知例1との共通点と差異点に、さらに、(イ)ポンプカバー部上部後方に突出する輪状のレバー部の有無の差異点が加わる。
本件登録意匠と公知例1の対比検討の項で判断したとおり、意匠全体として、本件登録意匠は公知例1に類似するものとはいえないから、さらに(イ)の差異点が加わった本件登録意匠と公知例2においても、台座部及び足踏みスイッチ部に関する差異点は共通点を凌ぎ両意匠の類否判断を決するところであり、意匠全体として、本件登録意匠は公知例2に類似するものとはいえない。
8.本件登録意匠と公知例3の対比検討
本件登録意匠と公知例3を対比すると、両意匠は、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様についても差異があり、本件登録意匠と公知例1との共通点と差異点に、さらに、主として、(ロ)ポンプカバー部における後部突出部前部の態様及び周側面略下端寄りの横方向に沿って形成した段部の態様、及び、(ハ)昇降用アーム部の内アーム後端付近の態様の差異点が加わる。
本件登録意匠と公知例1の対比検討の項で判断したとおり、意匠全体として、本件登録意匠は公知例1に類似するものとはいえないから、さらに(ロ)及び(ハ)の差異点が加わった本件登録意匠と公知例3においても、台座部及び足踏みスイッチ部に関する差異点は共通点を凌ぎ両意匠の類否判断を決するところであり、意匠全体として、本件登録意匠は公知例3に類似するものとはいえない。
9.本件登録意匠と先願例1の対比検討
本件登録意匠と先願例1を対比すると、両意匠は、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様についても差異があり、本件登録意匠と公知例1との共通点と差異点に、さらに、主として、(ニ)ポンプカバー部における後部突出部前部の態様及び周側面略下端寄りの横方向に沿って形成した段部の態様、及び、(ホ)昇降用アーム部の内アーム後端付近の態様の差異点が加わる。
本件登録意匠と公知例1の対比検討の項で判断したとおり、意匠全体として、本件登録意匠は公知例1に類似するものとはいえないから、さらに(ニ)及び(ホ)の差異点が加わった本件登録意匠と先願例1においても、台座部及び足踏みスイッチ部に関する差異点は共通点を凌ぎ両意匠の類否判断を決するところであり、意匠全体として、本件登録意匠は先願例1に類似するものとはいえない。
10.本件登録意匠の創作容易性について
請求人は、本件登録意匠と公知例1ないし公知例3は、そこから与えられる外観上の印象が異なるものではなく、本件登録意匠は、その出願前に当業者が日本国内において公然知られた形態である、公知例1ないし公知例3に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、その登録は、意匠法第3条第2項の規定に違反する旨主張するので、この点について検討する。なお、請求人は、本件登録意匠は、「公然知られた」形態に基づいて容易に創作をすることができたものと主張するが、本件登録意匠は、平成10年改正意匠法施行前の出願に係るものであるから、意匠法第3条第2項の規定に該当する意匠であるには、「公然知られた」形態に基づくことでは足りず、「広く知られた」形態に基づくことを要する。
公知例1ないし公知例3が広く知られた形態であるか否かはさておき、まず、公知例1及び公知例2は、6.本件登録意匠と公知例1の対比検討の項及び7.本件登録意匠と公知例2の対比検討の項で認定判断したとおり、全体の態様のうち、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様については、本件登録意匠とほぼ同様のものである。したがって、本件登録意匠は、その形態において、公知例1あるいは公知例2に包含の態様と同一性の範囲内の態様を含むものではあるが、その台座部と足踏みスイッチ部の組み合わせ態様、さらには、それとポンプカバー部との組み合わせ態様、すなわち、台座部を、ポンプカバー部の横幅より極僅かに広い横幅で、ポンプカバー部の縦幅より略5/4倍程度広い縦幅とした、やや厚みのある平面視略隅丸縦長長方形状の板体(扁平で平面視隅丸の略縦長直方体状)とし、その上面略1/5を後部に残し前部略一杯にポンプカバー部を突設して、台座部とポンプカバー部との間に小段部を表したものとし、台座部の後部側を除く周側面はやや高い垂直面であり、後部側周側面は高さを後端に向かって漸次やや低くしたもので、その上部全体はポンプカバー部後下端に向かって内上がりのやや緩やかな弧状の斜面状であり、足踏みスイッチ部を、ポンプカバー部後方の台座部上面一杯に台座部を覆うように面一状に被着した態様については、その態様を周知であるとする証拠が認められず、そして、この種美容椅子の脚の意匠において、台座部と足踏みスイッチ部の組み合わせ態様、さらには、それとポンプカバー部との組み合わせ態様については、造形上、多様な工夫の余地があるところであって、構成各部の態様を具体的に決定し、構成各部をどのように関連づけ、構成し、それらの結合により全体の形態についてどのように具体化するかの選択は多様にあると認められるところ、本件登録意匠は、そのような創作の過程を経て、一連の創意工夫の結果、構成各部の具体的な組み合わせにより、一定のまとまりを表出するに至ったものであり、この全体のまとまりを形成した点について、容易に創作をすることができたとする証拠が認められない。
次に、公知例3は、本件登録意匠とは、ポンプカバー部と昇降用アーム部との組み合わせ態様についても差異があり、したがって、本件登録意匠は、公知例3に包含の態様と同一性の範囲内の態様を含むものではなく、本件登録意匠は公知例3に基づいて容易に創作できたものとはいえない。
してみると、本件登録意匠について容易に創作をすることができたものとは、提出された証拠のみでは認めることができないから、本件登録意匠は、その出願前に日本国内において広く知られた形態に基づき当業者が容易に創作をすることができた意匠であるとすることはできない。
11.結び
以上のとおりであって、請求人の提出した証拠及び主張によっては、意匠法第3条第1項の規定、同条第2項の規定、あるいは、同法第9条第1項の規定に違反して登録されたものとして、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2003-03-25 
結審通知日 2003-04-01 
審決日 2003-04-23 
出願番号 意願平10-393 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (D2)
D 1 11・ 121- Y (D2)
D 1 11・ 4- Y (D2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 行久 
特許庁審判長 遠藤 京子
特許庁審判官 木村 恭子
伊藤 晴子
登録日 1999-06-18 
登録番号 意匠登録第1050210号(D1050210) 
代理人 後藤 秀継 
代理人 赤松 純子 
代理人 稲岡 耕作 
代理人 玉置 健 
代理人 川崎 実夫 
代理人 鮫島 武信 
代理人 亀井 弘勝 

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