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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする K6
管理番号 1096470 
審判番号 無効2003-35441
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2004-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-10-24 
確定日 2004-04-23 
意匠に係る物品 医療検査用細胞容器 
事件の表示 上記当事者間の登録第888620号「医療検査用細胞容器」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第888620号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として、要旨次のとおり主張し、その証拠として、甲第1号証ないし甲第4号証(枝番を含む。)を提出した。
すなわち、意匠登録第888620号の意匠(意匠に係る物品「医療検査用細胞容器」。以下、「本件登録意匠」という。)は、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である実開昭60-120358号公報(甲第2号証)に記載されている「極小組織片の採取容器」の意匠(以下、「甲号意匠」という。)に類似する意匠であり、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に該当する。
また、甲号意匠及び本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である特開昭51-118531号公報(甲第3号証)に記載されている「生物学的標本処理容器装置」の意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから、本件登録意匠は同法第3条第2項の規定にも該当するから、登録を受けるこができないものであるので、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
本件登録意匠と甲号意匠との類否を検討すると、共通する基本的構成態様において、両意匠は、長方形状容器本体の短辺側の一側部を略45度の下向き傾斜角度からなる傾斜面に形成して、採取した検体の記録部に形成し、該傾斜面の上端縁に細長穴を形成し、他側の側壁中央部に凹溝を形成し、容器本体底部に多数の透孔を設けた点が類似する。また、両意匠は、長方形状の蓋体の短辺側の一側に、前記容器本体の細長穴に挿入嵌合する傾斜突出片を、他側に容器本体の凹溝と嵌合する係合突出片を設け、また蓋体の係合突出片側の端縁を、容器本体より大きく突出させて、容器本体との離脱を容易にするための突出縁部を形成した点が共通し類似する。
両意匠において、容器本体の仕切板の有無による区画室の形成及び蓋体の透孔の配置形状は相違するが、この相違は、類否判断に与える影響は微弱である。
従って、これらの両意匠の差異点は、両意匠に共通する基本的及び具体的態様を凌駕して、両意匠を別異のものと認識させるに足りる意匠的特徴ということはできないので、本件登録意匠は甲号意匠に類似するものである。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めると答弁し、その理由として、要旨次のとおり主張した。
1.本件登録意匠と甲号意匠との類否
そもそも、本件登録意匠にかかる物品「医療検査用細胞容器」は、その内部に細胞(組織)を収容し、外部から薬液を流入させ、専用の器材でサンプルを作成するために用いられる容器であり、その用途・機能から基本的態様の多くは、創作者が自由に工夫できるものではない。
(1)本件登録意匠には、蓋体の裏面に容器本体の収容部の上部縁部と嵌合するリブが設けられているのに対し、甲号意匠にはそれが存在しない。
本件登録意匠は、医療検査用細胞容器の意匠ではあるが、この種の物品を構成する基本的構成態様の多くは周知に属する形状でありさしたる差違は生じないところ、本件登録意匠の蓋体の裏面に設けられた容器本体の各収容部の上部縁部と嵌合するリブは、看者の注意を引き、その目につきやすい部分であるから、かかる部分の差違は看者に両意匠について明確な差違感を与えるものである。
(2)本件登録意匠は、その容器本体の短辺側の一側を上面部から「底面部まで」下向き傾斜に形成し、先端が尖った形状になっているのに対し、甲号意匠は、短辺側の一側に上面部から下向き傾斜が形成されているが、容器本体の高さの約1/3ほどで傾斜はなくなり、その後は垂直に切り落とされた形状になっており、本件登録意匠の傾斜部先端を切り落としたような形状となっている点で両意匠は相違している。
(3)本件登録意匠の容器本体及び蓋体は、それぞれの角部に丸みを付与して全体的に柔らかい、やさしい印象を与えるとともに、例えば、小さい検体が容器本体の内部の角部に付着した場合にもピンセットで取り出しやすく配慮されている。
これに対し、甲号意匠は、容器本体及び蓋体のいずれも角張ったままで柔らかさや優しさの印象に乏しいとともに、小さい検体が容器本体の角部に付着した場合には、ピンセットで取り出すことが容易でないような印象を与える。
(4)本件登録意匠の蓋体に設けられた傾斜突出片は、く字状に屈曲した形状となっているのに対し、甲号意匠は、まっすぐな形状になっている点で両者は異なっている。
(5)本件登録意匠の取手片は、短辺の約半分の幅で、角に小さなアールを形成した方形になっているのに対し、甲号意匠は、略台形状の形状になっている。
(6)本件登録意匠の本体容器の傾斜側と反対短辺側の容器側面には、蓋体の係合突出片と係合するよう、その短辺側容器側面全体に亘って段差が設けられているのに対し、甲号意匠ではかかる構造が存在しない。
本来、係合突出片と係合するための係合溝は、係合突出片と同程度の幅があれば足りるのであって、本件登録意匠のように、単に係合突出片と係合する溝として構成するのではなく、これを一側面の全体に亘る段差として設けることは、創作者の独自の着想であって本件登録意匠に特徴的なものである。
(7)本件登録意匠の本体容器及び蓋体に設けられた透孔は、表面に均等に設けられているのに対し、甲号意匠においては、透孔を縦2、横3の六個の集団に大きく分けられ、それぞれの集団の中で5個×5列の透孔が設けられている点で両意匠は相違している。
(8)本件登録意匠では、容器本体及び蓋体の透孔は、いずれも内部から外部に向けられて拡大するテーパー状であるのに対し、甲号意匠の容器本体及び蓋体の透孔は、かかる構成を有していない点で異なっている。
(9)本件登録意匠の容器本体は、上面が開放された直方体であるのに対して、甲号意匠は、上面が開放された直方体の容器を六個の小部屋に区画された構成である点で異なっている。
以上のとおり、本件登録意匠と甲号意匠との間には、基本的態様に類似点はあるが、それらは「医療検査用細胞容器」という物品の用途・機能から必然的に要求される構成にすぎず、創作的な部分において、多くの特徴的な差違が、明瞭かつ意匠的な纏まりをもって、看者に即座に両意匠の差違感を生じさせるから、両意匠は明らかに非類似であって、明確に区別されるのである。
よって、本件登録意匠は、甲号意匠に類似する意匠とはいえず、意匠法3条1項3号に該当しない。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成4(1992)年3月30日に意匠登録出願され、その後平成5(1993)年10月28日に、意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第888620号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「医療検査用細胞容器」とし、形態は、願書に添付された図面の記載のとおりとしたものである(本件審決書に添付の別紙第1参照)。
2.甲号意匠
甲第2号証に示された甲号意匠は、日本国特許庁により発行{昭和60(1985)年8月14日公開}された公開実用新案公報に所載の、実用新案出願公開昭和60(1985)年第120358号の図面及びこれに関連する記載の内容によって表された「極小組織片の採収容器」の意匠であって、形態は、同公報の記載のとおりとしたものである(本件審決書に添付の別紙第2参照)。
3.本件登録意匠と甲号意匠の対比検討
[1]意匠に係る物品について
本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、本件登録意匠は「医療検査用細胞容器」とし、甲号意匠は「極小組織片の採収容器」とするものであるが、何れも、医療用のサンプルを作成するために用いられる容器の範疇に属するものであるから、両意匠は、意匠に係る物品が共通する。
[2]形態について
本件登録意匠と甲号意匠を、意匠全体として対比すると、形態については、主として、以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、基本的構成態様について、全体が、本体と蓋体から成るものであって、本体は、直方体の上面を開口した箱体状に形成して下面に透孔を多数穿設し、蓋体は、本体の上面と略同大の長方形板状に形成して上面に透孔を多数穿設した点が共通し、各部の具体的態様については、(1)本体短辺側の一方の側部(以下、「本体前端面」という。)を前下がりの略傾斜状に形成した点、(2)蓋体後端中央部を後方へ細幅に突出して取手片とした点、(3)本体及び蓋体の透孔を角孔状に形成して縦横の略格子状に配した点、(4)本体前部上縁中央に細穴状の挿入口を設けた点、(5)本体後部上縁中央に凹溝状の係止部を設けた点、(6)蓋体前端下部中央に、薄板状の挿入突出片を傾設した点、(7)蓋体後端下部中央に、薄板状の係合突出片を垂設した点が共通する。
一方、各部の具体的態様において、(1)区画の有無について、甲号意匠は、本体内側に井桁状の枠板で仕切った複数個の区画を設けているのに対し、本件登録意匠は、区画を設けていない点、(2)本体前端面について、本件登録意匠は、その全面を前下がりの傾斜状としているのに対し、甲号意匠は、その下端部分を垂直状としている他は前下がりの傾斜状としている点、(3)段差の有無について、本件登録意匠は、本体後端面の上下の略中央に、僅かな段差を本体幅一杯に設けているのに対し、甲号意匠は、段差を設けていない点、(4)取手片について、本件登録意匠は、方形状としているのに対し、甲号意匠は、台形状としている点、(5)挿入突出片について、本件登録意匠は、くの字状に屈曲しているのに対し、甲号意匠は、明確ではない点、(6)リブの有無について、本件登録意匠は、蓋体下部に本体と嵌合する細幅枠状のリブを設けているのに対し、甲号意匠は、リブを設けていない点、(7)透孔の断面について、本件登録意匠は、蓋体の透孔を台形状とし、本体の透孔を逆台形状としているのに対し、甲号意匠は、明確ではない点に差異がある。
4.本件登録意匠と甲号意匠の類否判断
両意匠の共通点及び差異点を総合して、両意匠を全体として検討する。
先ず、両意匠に共通するとした基本的構成態様については、従来より既に知られている態様といえるとしても、次に示すように、両意匠の差異点の何れも、類否判断に及ぼす影響が微弱程度にすぎないことを考慮すると、その基本的構成態様は、形態全体の基調を表象するものであって、また、両意匠に共通するとした各部の具体的態様の(1)ないし(7)については、形態上の特徴を表出するものであり、これらの共通する態様が相俟って、両意匠の醸し出す形態全体の印象を同じにする程の著しい共通感を奏するものであるから、類否判断に影響を及ぼすといわざるを得ない。
次に、差異点とした各部の具体的構成態様のうち、(1)の区画の有無については、一般に、箱体の内側を枠で仕切ることは、極普通になされるところであり、甲号意匠の態様も、極普通の井桁状の枠板で仕切って区画を設けた程度にすぎないものであり、また、本件登録意匠の態様も、仕切の無い極めてありふれた態様であって、機能的にはともかく、意匠上は、極普通になされる変更の範囲の差異にすぎないものであり、何れも格別看者の注意を引くとはいえず、その差異は、形態全体から観れば、共通するとした態様の共通感を凌駕するものとはいい難いから、類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない。(2)の本体前端面については、その下端部分のみに注目して比較した場合には異なるといえるとしても、本体前端面の一部分の差異にすぎないものであり、甲号意匠のその態様が、本体前端面を前下がりの略傾斜状に形成したという態様に代わる別異の態様を表すとはいえないものであって、それ程看者の注意を引くとはいえず、その差異は、形態全体から観れば、共通点に包含される部分的な差異にすぎず、類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎない。(3)の段差の有無については、本件登録意匠の段差が本体幅一杯に設けたものであるとしても、形態全体から観れば、その段差の程度は僅かなものであり、格別目立つとはいえないものであって、それ程看者の注意を引くとはいえず、その差異は、共通するとした態様の共通感を凌駕するものとはいい難いから、類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない。(4)の取手片については、両意匠の何れの形状も、取手片としては極普通の形状であり、取手片の両側という細幅な部分の差異であって、それ程看者の注意を引くとはいえず、その差異は、形態全体から観れば、共通点に包含される部分的な差異にすぎず、類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎない。(5)の挿入突出片については、甲号意匠の挿入突出片が屈曲しているかどうか明確ではないが、両意匠の何れも傾設している点では変わりないものであり、その部分を注視して漸く気付く程度のものであって、それ程看者の注意を引くとはいえず、その差異は、形態全体から観れば、微細な部分の差異にすぎず、類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎない。(6)のリブの有無については、一般に、蓋体の下部に本体と嵌合するリブを設けることは、極普通になされるところであり、本件登録意匠の態様も、極普通の細幅枠状のリブを設けた程度にすぎないものであり、機能的にはともかく、意匠上は、極普通になされる変更の範囲の差異にすぎないものであり、格別看者の注意を引くとはいえず、その差異は、形態全体から観れば、共通するとした態様の共通感を凌駕するものとはいい難いから、類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない。(7)の透孔の断面については、その部分を注視して漸く気付く程度のものであって、それ程看者の注意を引くとはいえず、その差異は、形態全体から観れば、微細な部分の差異にすぎず、類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎない。
なお、被請求人は、本体及び蓋体の角の態様及び透孔の配列態様において、本件登録意匠と甲号意匠には、差異がある旨主張するが、本体及び蓋体の角の態様については、両意匠とも極普通の態様で特徴がなく、また、透孔の配列態様については、その配列数に注視して漸く気付く程度の差異があるとしても、両意匠とも透孔を略格子状に配した点で共通するものであり、甲号意匠の透孔の配列も、区画の有無による至極当然の帰結であって、その共通点を逸脱するものでないから、それらの差異は殆ど評価できず、被請求人の主張は採用できない。
そうすると、前記の(1)ないし(7)の差異点は、何れも類否判断に及ぼす影響が微弱にすぎず、さらに、それらの差異点を纏めても、両意匠の醸し出す形態全体の印象を異にする程の格別な特徴を表出するとはいい難いから、類否判断に及ぼす影響がなお微弱の域を超えないといわざるを得ず、前記の共通点の奏する基調と特徴を凌駕して、類否判断を左右するとはいい難い。
したがって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、前記の共通点は、形態全体から観れば、両意匠に著しい共通感を生じて類否判断を左右するといわざるを得ないから、意匠全体として観察すると、両意匠は、類似するものというほかない。
第4.むすび
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号に規定した意匠に該当するものであり、同法同条同項の規定に違背して登録されたものであるから、その登録は、その余の点について審理するまでもなく、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2004-02-25 
結審通知日 2004-03-01 
審決日 2004-03-12 
出願番号 意願平4-9270 
審決分類 D 1 11・ 113- Z (K6)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内野 雅子 
特許庁審判長 伊勢 孝俊
特許庁審判官 永芳 太郎
鍋田 和宣
登録日 1993-10-28 
登録番号 意匠登録第888620号(D888620) 
代理人 斉藤 侑 
代理人 村林 隆一 
代理人 伊藤 文彦 
代理人 井上 裕史 

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