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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない L4
審判 無効  2項容易に創作 無効としない L4
管理番号 1109724 
審判番号 無効2003-35524
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2005-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-12-24 
確定日 2005-01-06 
意匠に係る物品 インサート器具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1173638号「インサート器具」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立て及び請求の理由
請求人は、「意匠登録第1173638号の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。との審決を求める。」と申し立て、その理由として要旨以下に示すとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
1.理由の要点
意匠登録第1173638号の意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、甲第1号証に記載された意匠(以下、「甲第1号証意匠」という。)に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当し、意匠登録を受けることができないものであり、また、本件登録意匠は、甲第1号証、甲第4号証及び甲第7号証に記載された形状に基づいて、意匠の属する分野における通常の知識を有する者が容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
(1)意匠法第3条第1項第3号関係
両意匠は、その意匠に係る物品において共通する。また、その構成態様の共通点及び相違点については、次のとおりである。
(ア) 共通点
両意匠は、円筒形状のスリーブと、スリーブに接合する側のフランジ部を設けてその余を円筒形状とする部分と、前記円筒形状の径より小さい径の円筒又は円柱形状部分の下端部にスリーブとほぼ同程度に大きい径の底部を設けた部分からなり、インサート本体の円筒部の長さはスリーブの長さとほぼ同程度であり、インサート本体の径はスリーブの径より小さいインサート器具である点で共通している。
(イ) 相違点
両意匠は、
a.甲第1号証意匠には、スリーブの頂部にテーパ部が存在するのに対し、本件登録意匠には存在しない点、
b.本件登録意匠の円板状のフランジ部の径は、スリーブの径より大きいのに対し、甲第1号証意匠のナットのフランジ部の径は、スリーブの径より小さい点、
c.本件登録意匠のインサート本体の底部は、円すい台形状であり、同部に3か所の切込みが設けられているのに対し、甲第1号証意匠のボルトの頭部は、円板状である点、
で相違している。
(ウ)相違点の評価
a.スリーブの頂部にテーパ部が存在するか否かについては、甲第1号証意匠のテーパ部はありふれた面取りの域を出ないもので、意匠全体から見ると細部におけるものであり、看者の注意を強く引くものとはいえない。例えば、甲第1号証意匠には、類似意匠登録がなされており、その類似第2号(甲第3号証)のスリーブ頂部にはテーパ部が存在していない。
b.本件登録意匠のジョイントの円板状のフランジ部の径は、スリーブの径より大きいのに対し、甲第1号証意匠のナットのフランジ部の径はスリーブの径より小さい点についてみると、この点も意匠全体から見ると細部における相違であり、また、本件登録意匠のジョイントの円板状フランジ部分は厚みも薄く、その径もスリーブの径よりわずかに大きい程度であるから、看者の注意を引くものとはいえない。また、本件登録意匠のジョイントの形状は、この種物品分野においては筒体同士の接続の際に用いられる部品として従来から知られたもの(甲第4号証及び甲第5号証)であり、何ら目新しいものではないので、この観点からみてもこの相違は看者の注意を強く引くものとはいえない。
c.本件登録意匠のインサート本体の底部は円すい台形状であり、同部に3か所の切込みが設けられているものであるが、この形状は、金属製インサートとして公知のものであり(甲第6号証及び甲第7号証)、また、その形状からみて、公知のインサート金具(甲第8号証)を使用しているにすぎないとみられる。そうすると、「本件登録意匠のインサート本体の底部は円すい台形状であり、同部に3か所の切込みが設けられている」点は、インサート本体の形状としてありふれた態様のものであり、到底看者の注意を強く引くものとはいえない。
(エ)甲第1号証意匠の出願前の公知意匠との関係
インサート器具について、スリーブとインサート本体部からなる基本的構成は、甲第1号証意匠の出願時において公知であったものであり、例えば、甲第9号証及び甲第10号証が存在した。
甲第9号証は、インサートの雌ねじ部内に対してコンクリート打設時のノロの流入を防止するために使用されるものであって、そのために内部に薄膜を形成したことを特徴とするものであり、甲第1号証意匠のスリーブと用途が相違する。また、外形は、インサート本体の側に鍔状の突出部を形成したものであり、その肉厚も薄く、甲第1号証意匠のスリーブと形状が相違している。
甲第10号証意匠は、甲第1号証意匠と同様にスリーブとインサート本体からなるものではあるが、甲第1号証意匠のスリーブと形状が相違している。さらに、ボルトの内部は中空筒状に形成されており、この点において、甲第1号証意匠のインサート本体と形状が相違する。
したがって、公知意匠(甲第9号証及び甲第10号証)を検討しても、甲第1号証意匠の要部における形状の特徴の認定において、格別参酌すべき点は見あたらない。
すなわち、甲第1号証意匠の形状の、その出願時点における新規な特徴は、円筒形状のスリーブと、前記円筒形状の径より小さい径の円筒又は円柱形状部分の下端部にスリーブとほぼ同程度に大きい径の底部を設けたインサート本体部分からなり、インサート本体の長さはスリーブの長さとほぼ同程度であるという、全体形状のまとまりを構成する態様にあるというべきである。
(オ)共通点の評価
前記(ア)の共通点を有する両意匠は、甲第1号証意匠の出願時点における新規な形状特徴において共通するものということができる。
(カ)両意匠の類否
意匠の類否は、意匠に係る物品の取引者である看者にとって、強く注意を引く部分において構成態様を共通にするか否かにより決せられるものである。
本件登録意匠と甲第1号証意匠は、上記したとおり、甲第1号証意匠の出願時点における新規な形状特徴において共通する。そして、その共通点は、全体形状のまとまりを構成する態様におけるものであり、看者の注意を強く引く部分に関するものである。
一方、両意匠の相違点は、上記共通点による特徴を破壊することなく、部分的に公知の形状に置き換えたことにより生じているにすぎないので、看者の美的印象を別の個性あるものとして印象づけるに足る実質的な相違点とはなっていない。
また、甲第1号証意匠は、その出願時点で新規な特徴を有するがために意匠登録されたものであるから、その出願時点における意匠の類似範囲は、後の事実によって変動すべきものではない。
以上の観点からすれば、本件登録意匠は、甲第1号証意匠に類似するというべきである。
(2)意匠法第3条第2項関係
本件登録意匠は、甲第1号証意匠のインサート本体の形状を、単に、甲第7号証に記載された公知のインサート本体の形状に置き換えたまでのものであり、円筒形スリーブとインサート本体の接続については、単に、従来から同様の目的で使用されている公知の接続材(甲第4号証)を使用したにすぎないものであるから、その意匠登録出願前に、インサート器具の意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。
第2.被請求人の答弁及び答弁の理由
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由として要旨以下のとおり主張した。
1.答弁の理由の要旨
(1)意匠法第3条第1項第3号関係
(ア)共通点
両意匠の共通点は次のとおりである。
a.スリーブとインサート本体を有する点。
b.スリーブが円筒形状である点。
c.インサート本体の径がスリーブの径より小さい点。
d.意匠に係る物品がインサート器具である点。
(イ)相違点
a.甲第1号証意匠には、スリーブの頂部に円板状のボルトより厚いテーパ部が存在するのに対し、本件登録意匠には、そのようなテーパは存在しない点。
b.本件登録意匠のジョイントの円板状の上部の径は、スリーブの径より大きいのに対し、甲第1号証意匠のナットのフランジ部の径は、スリーブの径より小さい点。
c.本件登録意匠のインサート本体の底部は、円すい台形状であり、同部に3か所の切り込みが設けられているのに対し、甲第1号証意匠のボルトの頭部は、円板状である点。
d.本件登録意匠のインサート本体の長さは、スリーブの長さより長いのに対し、甲第1号証意匠のインサート本体の長さは、スリーブの長さとほぼ同じである点。
e.上記(ア)及び(イ)に反する請求人の主張(審判請求書p.3〜4)は誤りである。
(ウ)甲第1号証意匠と出願前の公知意匠との関係
請求人は、甲第1号証意匠の出願前公知意匠として甲第9号証及び甲第10号証を挙げている。その上で、公知意匠の形状には、スリーブとインサート本体部からなる基本的構成以外は、甲第1号証意匠の要部における形状の特徴の認定において、格別参酌すべき点はないと主張している。
しかし、請求人が、甲第1号証意匠の形状のその時点における新規な特徴として主張している「円筒形状のスリーブ」は、甲第9号証に既に開示されている。
この点、請求人は、内部に薄膜を形成した点及び外形でインサート本体の側に鍔状の突出部を形成している点を相違点として指摘している。
しかし、薄膜は、インサート器具の内部の形状で、使用状態において隠れてしまう部分であり、看る者の意匠的趣味に訴えるところはない部分である。また、鍔状の突出部は、意匠的に見れば円筒形状のスリーブに鍔状の突出部が付加されているにすぎないから、円筒形状のスリーブが開示されていることにかわりはない。
また、「前記円筒形状の径より小さい径の円筒又は円柱形状部分の下端部にスリーブとほぼ同程度に大きい径の底部を設けたインサート本体部分」は甲第9号証にほとんど開示されている。甲第1号証意匠と甲第9号証意匠の相違は下端部にある底部の径の大きさだけである。
さらに、「インサート本体の長さはスリーブの長さとほぼ同程度である」は、甲第9号証に開示されている。
以上のように、請求人が甲第1号証意匠の形状の、その出願時点における新規な特徴として主張する点は、そのほとんどが公知意匠に開示されている。
したがって、本件登録意匠と甲第1号証意匠の共通点が、甲第1号証意匠の形状の「新規な特徴」においても共通するとの請求人の主張は、その前提を欠き失当である。
(エ)甲第1号証意匠の要部
a.フランジ部の径がスリーブの径より小さい点。
b.ボルトの頭部が円板状である点。
c.スリーブとインサート本体の長さがほぼ同一の点。
(オ)両意匠の相違点の評価
a.前記(イ)で述べた両意匠の相違点のうち、b.は、前記(エ)a.が甲第1号証意匠の要部であることから看者の注意を強く引く部分である。
この点について、請求人は、「本件登録意匠のジョイントの形状は、甲第4号証や甲第5号証によって従来から知られている」旨主張しているが、甲第4号証や甲第5号証によって認識できるのは、スリーブとインサート本体の間に接続材があるという程度であり、本件登録意匠のジョイントの特徴である「ジョイント円板状の上部の径はスリーブの径より大きい」点を備えていないから、請求人の主張は失当である。
b.前記(イ)で述べた両意匠の相違点のうち、c.は、前記(エ)b.が甲第1号証意匠の要部であるから看者の注意を強く引く部分である。
c.前記(イ)で述べた両意匠の相違点のうち、d.は、前記(エ)c.が甲第1号証意匠の要部であるから看者の注意を強く引く部分である。
(カ)したがって、本件登録意匠は、甲第1号証意匠の要部において相違点があり、全体的に観察して両者は美観を異にする。
以上のことから、本件登録意匠と甲第1号証意匠は類似していない。
(2)意匠法第3条第2項関係
請求人は、「本件登録意匠は、甲第1号証意匠のインサート本体の形状を、単に甲第7号証に記載された公知のインサート本体の形状に置き換えたまでのものであり、円筒形のスリーブとインサート本体の接続については、単に、従来から同様の目的で使用されている公知の接続材(甲第4号証)を使用したにすぎないものであるから、その意匠登録出願前に、インサート器具の意匠に属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に意匠を創作することができたものである」旨主張しているが、前記(オ)a.で述べたように、本件登録意匠のジョイントの特徴である「ジョイント円板状の上部の径はスリーブの径より大きい」点を甲第4号証意匠は備えていない。
したがって、甲第1、甲第2、甲第7号証に基づいて容易に意匠の創作をすることができたという請求人の主張は失当である。
(3)結び
以上のことから、本件登録意匠は、甲第1号証意匠に記載された意匠に類似するものではないため、意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当せず、また、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものにも該当しないので、答弁の趣旨どおりの審決を求める。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿及び出願書類の記載によれば、平成14年9月24日の意匠登録出願に係り、平成15年3月20日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、意匠に係る物品を「インサート器具」とし、その形態を願書及び添付の図面の記載のとおりとしたものである(別紙第1参照)。
すなわち、その形態は、
(1)基本的構成態様において、全体が、円筒状のスリーブ部と、中央部に鍔部を有する円筒状のジョイント部と、内周に雌ねじを形成し、右端部に頭部を形成した円筒状のインサート部とからなるものであり、ジョイント部左側をスリーブ部内に装着し、右側をインサート部外周に装着したものである。
(2)各部の具体的な態様は、
(ア)スリーブ部につき、長さを径の約1.6倍とし、左端部に小さなテーパ面を形成している。
(イ)頭部を除くインサート本体部につき、スリーブ部と比較して、長さをほぼ同じ長さとし、径を一回り小径としている。
(ウ)インサート部の頭部は、その厚みがインサート本体部の長さの約4分の1強の略円錐台状に形成し、最大径をスリーブ部の径よりやや大径としたものであり、さらに、傾斜面右端部周縁に円弧状の切欠部を等間隔に3箇所形成し、端面中央に浅い円形凹部を形成したものである。
(エ)ジョイント部につき、鍔部の右側は、インサート本体部の約2分の1弱の長さを有し、鍔部の径は、スリーブ部の径よりわずかに大径である。
2.甲号意匠
甲号意匠は、請求人提出の甲第1号証(本件登録意匠の出願前、平成11年2月5日付で特許庁が発行した意匠公報)に記載の意匠登録第1031695号の意匠であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「インサート器具」とし、その形態は、同公報に記載されたとおりのものである(別紙第2参照)。
(なお、本件登録意匠と同じ条件で比較するため、甲号意匠の正面図の向きを90°左に回転させて認定する。)
すなわち、その形態は、
(1)基本的構成態様において、全体が、円筒状のスリーブ部と略円筒状のインサート部からなり、インサート部は、左寄りに鍔部を形成し、内周に雌ねじを形成したインサート筒部と左端部側外周に雄ねじ、右端部に頭部を形成したインサートボルト部とからなるものであり、インサート筒部の鍔部左側をスリーブ部内に装着し、右側内部にインサートボルト部を螺着したものである。
(2)各部の具体的な態様は、
(ア)スリーブ部につき、長さを径の約1.2倍とし、左端部にやや大きなテーパ面を形成している。
(イ)頭部を除くインサート部につき、スリーブ部と比較して、長さをほぼ同じ長さとし、インサート筒部の径を約2分の1とし、インサートボルト部の径をさらに一回り小径としている。
(ウ)インサートボルト部の頭部は、その厚みがインサート部の長さの約10分の1の円形板とし、その径をスリーブ部の径とほぼ同じとしたものである。
(エ)インサート筒部の鍔部の径は、スリーブ部の径よりやや小径である。
3.本件登録意匠と甲号意匠との類否判断について
(1)意匠に係る物品については、両意匠は、ともに共同溝やトンネル等のコンクリート構造物に電力ケーブル等を配設するブラケットを固定するために使用される「インサート器具」であるから一致している。
(2)形態については、両意匠の基本的構成態様において、円筒状のスリーブ部と、内周に雌ねじ、右端部に頭部を形成した略円筒状のインサート部を左右に接合し、その接合部分に鍔部を密着させている点が共通し、
各部の具体的な態様において、(a)スリーブの左端部にテーパ面を形成している点、(b)頭部を除くインサート本体部(甲号意匠においては、インサート部。)につき、スリーブ部と比較して、長さをほぼ同じ長さとし、径を小径としている点が共通している。
一方、両意匠には、以下の差異点が認められる。
まず、基本的構成態様において、本件登録意匠は、スリーブ部とインサート部を、中央部に鍔部を有するジョイント部を介して接合し、該ジョイント部右側をインサート部外周に装着しているのに対し、甲号意匠は、スリーブ部とインサート部を、その間にジョイント部を介さず接合し、該インサート部は、左寄りに鍔部を形成し、内周に雌ねじを形成したインサート筒部に、左端部側外周に雄ねじ、右端部に頭部を形成したインサートボルト部を螺着したものである点、
そして、具体的な態様において、(A)スリーブ部につき、本件登録意匠は、長さを径の約1.6倍とし、左端部に小さなテーパ面を形成しているのに対し、甲号意匠は、長さを径の約1.2倍とし、左端部にやや大きなテーパ面を形成している点、(B)頭部を除くインサート部につき、本件登録意匠は、スリーブ部と比較して、径を一回り小径としているのに対し、甲号意匠は、インサート筒部の径を約2分の1とし、インサートボルト部の径をさらに一回り小径としている点、(C)インサート部の頭部につき、本件登録意匠は、その厚みがインサート本体部の長さの約4分の1強の略円錐台状に形成し、最大径をスリーブ部の径よりやや大径としたものであり、さらに、傾斜面右端部周縁に円弧状の切欠部を等間隔に3箇所形成し、端面中央に浅い円形凹部を形成したものであるのに対し、甲号意匠は、その厚みがインサート部の長さの約10分の1の円形板とし、その径をスリーブ部の径とほぼ同じとしたものである点、(D)鍔部の径につき、本願登録意匠は、スリーブ部の径よりわずかに大径であるのに対し、甲号意匠は、スリーブ部の径よりやや小径である点に差異が認められる。
(3)そこで、本件登録意匠と甲号意匠を全体として観察し、共通点及び差異点の類否判断に与える影響について、総合的に考察する。
両意匠の基本的構成態様において、円筒状のスリーブ部と、内周に雌ねじ、右端部に頭部を形成した略円筒状のインサート部を左右に接合し、その接合部分に鍔部を密着させた共通する態様が認められるものの、両意匠の基本的構成態様において差異点とした態様、すなわち、本件登録意匠において、スリーブ部とインサート部を、中央部に鍔部を有するジョイント部を介して接合し、該ジョイント部右側をインサート部外周に装着した態様は、本件登録意匠の特徴を良く表しているところであり、一方、甲号意匠において、スリーブ部とインサート部を、その間にジョイント部を介さず接合し、該インサート部は、左寄りに鍔部を形成し、内周に雌ねじを形成したインサート筒部に、左端部側外周に雄ねじ、右端部に頭部を形成したインサートボルト部を螺着した態様は、甲号意匠の特徴を良く表しているところである。そして、具体的な態様においても、前記(2)の(A)ないし(D)に示すとおりの差異点が認められるところ、とりわけ、(B)に挙げる両意匠のスリーブ部の径に対するインサート部の径の大きさの差異及び(C)に挙げるインサート部の頭部の態様の差異が顕著であるから、基本的構成態様における差異と、具体的な態様における差異が相まって、異なる印象を与えるものであり、これらの差異点の類否判断に与える影響は大きいものと認められる。
一方、基本的構成態様において共通するとした態様、すなわち、円筒状のスリーブ部と、内周に雌ねじ、右端部に頭部を形成した略円筒状のインサート部を左右に接合し、その接合部分に鍔部を密着させた態様は、この種物品の分野において、普通に見られる態様であるから、何ら特徴とはなり得ず、その類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
次に具体的な態様において、前記(2)に示すとおり、共通するとした態様、すなわち、(a)スリーブの左端部にテーパ面を形成している点は、意匠全体としてみた場合、端部であり、そのテーパ面の大きさも小さいことから、部分的なところにおける態様と認められ、また、一般的な面取りの手法として、建築部材の端部にテーパ面を形成することは、ごくありふれた態様であるから、この共通点が両意匠の特徴とはなり得ず、(b)頭部を除くインサート本体部を、スリーブ部と比較して、長さをほぼ同じ長さとし、径を小径としている点は、この種物品の分野においては、インサート部の長さをスリーブ部とほぼ同じ長さとし、径を小径としたものが、ごく一般的に見受けられることから(例えば、特許庁発行の公開実用新案公報に記載の実開昭52-52323号の第1図の意匠。:甲第9号証)、ありふれた態様であって、意匠上格別特徴を有するものとはいえないから、これらの共通点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものといわざるを得ない。
以上を総合すれば、意匠全体として観察した場合、両意匠の基本的構成態様における差異点と具体的な態様における差異点が相まって、類否判断に大きな影響を与えるものであり、前記共通点を大きく凌駕し、看者に別異の印象を与えているものといえるから、これらの差異点は、両意匠の類否判断を左右するところと認められる。
そうすると、本件登録意匠と甲号意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、前述のとおり共通点があるものの、類否判断を左右する差異点があるから、本件登録意匠は、甲号意匠に類似しているものということはできない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に違反して登録されたものとすることはできない。
4.本件登録意匠の創作容易性の検討
請求人は、「本件登録意匠は、甲第1号証意匠のインサート本体の形状を、単に、甲第7号証に記載された公知のインサート本体の形状に置き換えたまでのものであり、円筒形スリーブとインサート本体の接続については、単に、従来から同様の目的で使用されている公知の接続材(甲第4号証)を使用したにすぎないものであるから、その意匠登録出願前に、インサート器具の意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである。」旨主張するので、この点について検討する。
(1)まず、「本件登録意匠は、甲第1号証意匠のインサート本体の形状を、単に、甲第7号証に記載された公知のインサート本体の形状に置き換えたまでのものである。」との主張について、本件登録意匠のスリーブ部の態様は、左端部にテーパ面を施した径よりやや長い円筒状とするものであるが、この態様とほぼ同様の態様が、甲第1号証意匠に見受けられるから、この態様は、本件登録意匠の出願前に、既に当業者間において公然知られていたものと認められる。また、本件登録意匠のインサート部の態様は、(ア)上端部に略円錐台状の頭部を形成した円筒状とし、さらに、該頭部の傾斜面上端部周縁に略円弧状の切欠部を等間隔に3箇所形成し、(イ)頭部の端面中央に浅い円形凹部を形成したものであるが、そのうち、(ア)の態様とほぼ同様の態様は、甲第7号証意匠(平成1年7月4日に特許庁が発行した意匠公報に記載の意匠登録第765476号の意匠。:別紙第3参照)のインサート部に見受けられ、また、(イ)の態様は、甲第8号証意匠(三門製品総合カタログ1994:別紙第4参照)のインサート部の頭部に見られる態様であるから、この態様は、本件登録意匠の出願前に、既に当業者間において公然知られていたものと認められる。
(2)つぎに、「円筒形スリーブとインサート本体の接続については、単に、従来から同様の目的で使用されている公知の接続材(甲第4号証)を使用したにすぎないものである。」との主張についてであるが、本件登録意匠のジョイント部と甲第4号証意匠(ジャパンライフ株式会社発行の1999年1月版製品カタログの「規格図M12」に示される図:別紙第5参照)の接続材(ジョイント部)の態様について、本件登録意匠のジョイント部の態様は、円筒状のジョイント部の中央にスリーブ部の径よりわずかに大径の円形の鍔部を形成し、その鍔部の左側をスリーブ部内に装着し、右側をインサート部外周に装着して外観に表れるものであるが、甲第4号証意匠のジョイント部の態様は、円筒状のジョイント部の中央にスリーブ部の径より小径の円形の鍔部を形成し、その鍔部の左右側を、それぞれスリーブ部及びインサート部の内部に装着して、右側はインサート部外周には表れないものであるから、本件登録意匠のジョイント部の態様は、甲第4号証意匠のジョイント部の態様とは異なるものである。さらに、スリーブ部に対する鍔部の径の大きさについても、両意匠は異なるものである点も勘案すると、本件登録意匠のジョイント部の態様は、その出願時において、日本国内、又は外国において公然知られた形状とはいえないものである。
そうすると、本件登録意匠は、(1)のスリーブ部とインサート部の態様において、公然知られた態様に基づいて容易に創作することができたものであるとしても、(2)のジョイント部の態様において、公然知られた形状といえないものであり、とりわけ、ジョイント部右側が外観に表れる態様が、軽視できない部分であるから、本件登録意匠は、甲第1号証意匠、甲第4号証意匠、甲第7号証意匠に基づいて容易に創作できたものとすることはできない。
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとすることはできない。
5.むすび
以上のとおりであって、請求人の主張する理由によって、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2004-11-10 
結審通知日 2004-11-12 
審決日 2004-11-24 
出願番号 意願2002-25964(D2002-25964) 
審決分類 D 1 11・ 121- Y (L4)
D 1 11・ 113- Y (L4)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 藤 正明
特許庁審判官 内藤 弘樹
西本 幸男
登録日 2003-03-20 
登録番号 意匠登録第1173638号(D1173638) 
代理人 朝倉 悟 

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