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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立成立) M1 |
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管理番号 | 1113159 |
判定請求番号 | 判定2004-60098 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2005-04-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2004-12-16 |
確定日 | 2005-03-16 |
意匠に係る物品 | 細巾レース地 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1039936号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「細巾レース地」の意匠は、登録第1039936号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求人の申立て及び理由の要点 請求人は、結論同旨の判定を求めると申し立て、要旨次のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証乃至甲第31号証(枝番を含む。)の書証を提出した。 (1)本件登録意匠の説明 ア 全体的構成について、長手方向に略同形の花柄が上下に互い違いに連続して配され、上下の花柄を区切るように、葉模様によって縁取られたなだらかな波線が描かれ、上段の花柄の花弁下端および下段の花柄の花弁上端はこの波線に接するように描かれている。外縁部は連続したなだらかな山部からなり、各山部に沿ってループ状の小突起が描かれ、その山部に沿って花柄模様と勾玉(ペイズリー)模様とが交互に描かれている。各花柄の花弁と外縁の山部とは当接せず、隙間が設けられている。 イ 花柄模様の構成について、各花柄は、5片の花芯と7枚の花弁とから構成され、縦横ほぼ同じ長さで正方形に収まるような上下左右にバランスの良い形状であり、各花芯の輪郭は明確である。花弁の外郭は太い糸で密に太線上に編まれ、その太線は花芯に近づくほど細かく、花芯から離れるほど太くなり、花弁の内側は、細かい糸で粗く編まれ、部分的に透過が設けられている。 ウ 葉模様の構成について、レース地を上下に区切る波線に沿って葉模様が絶え間なく描かれ、上段の花柄の下部および下段の花柄の上部を蔓のように取り囲んでいる。 エ 勾玉模様の構成について、勾玉は、左下部が太く、右下部が細くなっており、左下端は内側に巻かれ、円弧のカーブは急である。 (2)イ号意匠の説明 ア 全体的構成について、長手方向に略同形の花柄が上下に互い違いに連続して配され、外縁部は連続したなだらかな山部からなり、各山部に沿ってループ状の小突起が描かれ、その山部に沿って花柄模様と勾玉模様とが交互に描かれている。各花柄の花弁と外縁の山部とは当接しており、2つの勾玉の連結部から2種類の葉模様が飛び出すように描かれている。 イ 花柄模様の構成について、各花柄は、花芯部と7枚の花弁とから構成され、横幅は縦幅の約1.5倍で、横長形状となっており、花芯の輪郭・個数は明確に認識できない。花芯部は楕円形であり、花弁の外郭は太い糸で密に太線上に編まれ、花弁先端部を除きほぼ同じ幅である。 ウ 葉模様の構成について、葉模様は、蝶々型の2枚の葉模様と、左斜め上または左斜め下に向かって連結した5枚の葉模様の2種類からなり、両者の間には関連性、連続性はない。 エ 勾玉模様の構成について、勾玉は、太線の幅はほぼ一定で、円弧の左下端が内側に巻かれている。 (3)本件登録意匠とイ号意匠の非類似性 ア 本件登録意匠では、波線によって幅方向に切断可能であるから看者は上下に分断して意匠を捉え、かつ葉模様が蔓のように花柄模様を取り囲んでいるので、規則性、リズム感、まとまりの良さという美観が生じるのに対し、イ号意匠では、そのような波線は有しないから看者は上下一体として意匠を捉え、かつ葉模様と花柄模様との間に関連性がないことから看者は葉模様と花柄模様とを別個のものとして捉えるので、上記美観は生じない。 また、本件登録意匠では、花柄模様が上下外縁部とは間隔を持ちつつ、中央部の波線状の葉模様とは接しているので、看者は中央の波線状の葉模様に集まるように花柄模様が描かれている印象を受けるのに対し、イ号意匠では、上下外縁部と花弁とが接するように描かれており、中央部に波線状の葉模様もないので、看者は外縁部に広がるように花柄模様が描かれている印象を受ける。 イ 本件登録意匠では、各花柄が上下左右にバランスがよくレース地全体としても上下左右にバランスよく見え、花弁の外郭の太線が花芯から離れるほど太くなっているので各花柄が立体的に見え、各花芯の輪郭がはっきりしているので写実的な印象を受けるのに対し、イ号意匠では、各花柄が横長であるからレース地全体としても横長に見え、花弁の外郭の太線の太さが一定であることから各花柄は平面的に見え、各花芯の輪郭がぼかされているために非写実的な印象を受ける。 ウ 本件登録意匠では、勾玉模様と葉模様とが別個のものとして認識されるのに対し、イ号意匠では、勾玉模様と葉模様とが融和し、勾玉から葉模様が飛び出しているかのような美観を生じさせる。 エ 本件登録意匠の勾玉は、円弧の幅に広狭があり、円弧のカーブも急であるので、写実的かつ優美であるのに対し、イ号意匠では、勾玉というよりむしろ外縁部の装飾として認識される。 このように、両意匠には数々の相違点があり、両意匠の美観は顕著に異なるから、全く非類似の意匠というべきである。 (4)むすび 以上の通り、本件登録意匠とイ号意匠が非類似であることは明らかであり、イ号意匠は、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める。 第2 被請求人の答弁及び理由の要点 被請求人は、本件判定の請求は成り立たない、との判定を求める旨答弁し、その理由として要旨以下のとおり主張している。 被請求人(平成15年(ワ)第2311号の原告)は、答弁書別紙の「原告商品・被告商品対照目録」のとおりのレース地として本件登録意匠を実施し、請求人(平成15年(ワ)第2311号の被告)は、同紙のとおりのレース地(イ号)を製造販売している。上記レース地商品の意匠は酷似しており、市場において混同が生じることは明らかである。 すなわち、本件意匠の構成とイ号意匠の構成は、以下の通りまったく同一である。 A 細巾で長手方向に連続する白色の繊維によってレース編みされたレース地であって、編み目や糸の太さ(細、中太、太)、ふり幅の大きさや粗密によって模様が描かれている。なお網目の粗い部分においては、レース地は透過である。 B 両外縁部は、略等寸の等幅及び高さのなだらかな山部が連続しており、両外縁部の各山部は、幅方向に対称に形成されており、各山部には糸の輪によって形成されたループ状小突起(ピコ)が略等間隔で8個設けられている。 C 長手方向には、略同型の花柄が連続して配され、その花柄は一つ置きに反対の縁部に外側花弁先端が当接するように互い違いに(花柄中心点を通過する長手方向に連続した仮想線がジグザグ状になるよう)設けられている。 D 各花柄は、略円形の花芯部(内側に5片の花芯が描かれている)と該花芯部周囲に放射状(向日葵の花状)に6枚の花弁が描かれ、各花弁は外郭を太い糸で密に太線状に編み、内側を細い糸でこれより粗く編んで立体感を出し、また花弁先端部中央付近において若干内側に切り込まれており(花弁先端部では略m字状を呈する)、それぞれの花弁はレース地の幅寸法の2分の1よりも少し大きい大輪に描かれている。 E 花柄が当接していない外縁部の内側部分には、外縁の各山部の円弧に沿うように太線の勾玉模様(ペイズリー柄)が配されている。 F レース地の幅方向中央には、葉模様(外郭は太い糸、内側は中太の糸で形成し、さらにその内側は細い糸だけで透過性を出し、全体的に立体感が出されている。)が連設されて蔓状を呈する模様が曲線状に配され(葉模様曲線)、該葉模様曲線は、各花柄の幅方向の内側花弁に当接し、各花柄の隙間を縫う形で大きく蛇行するように長手方向に連続して設けられている。 G 連接する2つの花柄を含む領域で一つの図柄単位が出来ており、これが長手方向に繰り返されて全体意匠が構成されている(図柄のリピート)。 本件意匠の構成とイ号意匠について、強いて違いを指摘すれば、イ号意匠の葉模様の連接具合において途中に隙間があり、その点において本件意匠ほどの葉模様曲線としての連続性がない点において相違する。しかし、その程度の微差でもって本件意匠とイ号意匠が観者に対して異なる美観を与えるものとならないのは明らかであり、イ号意匠が本件意匠に類似することは明らかである。また、本判定請求で縷々指摘する相違点は、いずれも微差であり、異なる美観をもたらしているものと評価できるものではない。 第3 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠は、平成9年11月13日の意匠登録出願(平成9年意匠登録願第74745号)に係り、平成11年3月19日に設定の登録がなされた意匠登録第1039936号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「細巾レース地」とし、その形態は、願書に添付した図面代用見本のとおりのものである(本件判定書に添付の別紙第一参照)。 2 イ号意匠 イ号意匠は、判定請求書添付のイ号意匠の説明書の記載によれば、意匠に係る物品を「細巾レース地」とし、その形態を同説明書の記載及び判定請求書添付のイ号意匠の写真に示すとおりとしたものである(本件判定書に添付の別紙第二参照)。 3 本件登録意匠とイ号意匠の対比考察 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、両意匠とも細巾レース地に係るものであって、意匠に係る物品が一致し、その形態については、主として以下に示す共通点及び差異点が認められる。 以下、本件登録意匠の表面図の方向に、両意匠を揃えて認定する。(本件登録意匠の表面図に表された勾玉模様の方向に合致した方向で認定する。) [共通点] (1)全体が、細巾で左右方向に連続する織物地であって、大きい花柄模様を上下に互い違いに連続して配して、その中間には小さい複数の葉から成る葉模様を形成し、上下の縁部に略弧状の山部をそれぞれ連続して形成し、上下縁部に沿って花柄模様と勾玉模様を交互に表し、これら各模様の間を細かい編み目によって連結させた基本的な構成態様のものである。 各部の具体的な構成態様の共通点は以下の通りである。 (2)各花柄模様は、複数の小片が集まった花芯部と、花芯部から放射線状に広がる7つの花弁から成り、各花弁は外郭が密に太線状に表され、うち5つの花弁の太線状部分の先端は略M字状に形成されている。 (3)上下縁部の山部は、なだらかであって、その山部の位置は上下対称に表れており、山部の端部には、糸の輪によって形成されたループ状の小突起が略等間隔に複数個設けられている。 (4)勾玉模様は、上下縁部の山型形状に沿うように二つずつ連接して設けられており、右下端に内側に巻かれた頭部が形成され、左下端は、別の勾玉模様の右端及び花柄模様の花弁の右端に接している。 (5)上方の勾玉模様の下部(及び下方の勾玉模様の上部)には、比較的大きな編み目が形成されているが、それ以外の部分の編み目は細かく形成されている。 (6)葉模様を構成する各葉の内側略中央部に、粗い編み目がスリット状に形成されている。 [差異点] (イ)中央分離帯状の波線の有無について、本件登録意匠では、上下の花柄模様を区分するように、大きく蛇行する中央分離帯状の波線が明確に形成されているのに対して、イ号意匠では、そのような中央分離帯状の波線は見られない。 (ロ)葉模様の態様について、本件登録意匠では、(イ)の中央分離帯状の波線に沿って、各葉が絶え間なく連続して表されており、波線の山部では上向きに各葉が並び、波線の谷部では下向きに各葉が並んでいるのに対して、イ号意匠では、葉模様を構成する各葉の並びに不連続な箇所があり、また、各葉の向きも様々であって、本件登録意匠に見られるような統一性は見られない。 (ハ)各花柄模様の態様について、本件登録意匠では、各花柄模様全体の縦横の長さがほぼ同じであり、花芯部が略円形状に表され、各花弁の内側に粗い編み目が不規則的に表されているのに対して、イ号意匠では、各花柄模様全体は横長であって、花芯部も横長の略楕円形状であり、各花弁の内側には細かい格子状の編み目が表されている。 (ニ)勾玉模様の態様について、本件登録意匠の勾玉模様の略中央から頭部寄りにかけてしだいに太く表されているのに対して、イ号意匠では、勾玉模様の左右の太さは略同様であり、勾玉模様の円弧は本件登録意匠に比べてなだらかに表されている。 (ホ)勾玉模様と葉模様の位置関係について、本件登録意匠では、両者が近接している箇所が表されているのに対して、イ号意匠では、複数の葉が勾玉模様に接している箇所が表されている。 (へ)上下縁部寄りの隙間の有無について、本件登録意匠では、上下縁部と花柄模様及び勾玉模様との間に、粗い編み目の部分が形成されて、模様間に隙間が表されているのに対して、イ号意匠では、そのような隙間はなく、上下縁部と花柄模様及び勾玉模様とが近接している。 4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 前記の共通点及び差異点を総合して、両意匠を全体として検討すると、まず、両意匠に共通するとした(1)の基本的な構成態様については、本件登録意匠の出願前、この種物品の属する分野において、他にも見受けられる態様であって格別看者の注意を引くものとは言い難いから、類否判断に及ぼす影響は微弱にすぎず、また、具体的な構成態様の共通点(2)についても略同様の態様のものが他にも見受けられ(例えば、意匠登録第976655号。)、共通点(3)についても同様であり(例えば、意匠登録第976972号。)、(4)乃至(6)の共通点も特に看者の注意を惹く部分に関するものではないので、何れも類否判断に及ぼす影響は微弱であって、さらに、それらの共通点を纏めても、特段際立った特徴を奏するとは言い難いものであるので、類否判断に及ぼす影響はなお微弱の域を超えるものではない。 一方、前記差異点について検討すると、 (イ)の中央分離帯状の波線の有無の差異については、中央という視覚的に目立つ部位の構成態様に関するものであり、本件登録意匠の中央分離帯状の波線は極めて明確に形成されており、この有無の差異は、基本的な形態上の基調を別異のものとしていることから、類否判断に大きな影響を及ぼすものと言える。 (ロ)の葉模様の態様の差異についても、本件登録意匠に見られる各葉の連続した態様は、中央分離帯状の波線に各葉の葉柄が付いているか、又は各葉の側面形状がそのまま中央分離帯状の波線を形成しているものであり、すなわち、各葉の連続した並びが(イ)の中央分離帯状の波線を形成しているという造形上の特徴があって、この特徴が看者に特異な視覚的印象を与えるものである。一方、イ号意匠では、そのような特徴は見られないのであって、本件登録意匠とは明らかに異なった視覚的印象を看者に与えるものであるから、葉模様の態様の差異は類否判断に大きな影響を及ぼすものと言える。 なお、被請求人は、答弁書において、イ号意匠の葉模様の連接具合において途中に隙間があって本件登録意匠ほどの葉模様曲線としての連続性がない相違点を微差であるとし、両意匠が異なる美観を与えるものとはならない旨主張されているが、上述の通り、当該差異点は(イ)及び(ロ)で示した差異点に関するものであって、イ号意匠の葉模様において単に隙間が見られるとか、葉模様曲線としての連続性がない、という葉模様自体の差異に止まらず、葉模様の構成が、大きく蛇行する中央分離帯状の波線を形成するという本件登録意匠の特異な態様に関する差異であって、この態様が見られないイ号意匠とは明らかに視覚的印象を大きく異にする程の差異であると認められることから、被請求人の主張を採用することはできない。 (ハ)の各花柄模様の態様の差異については、各花柄模様の内部という限られた範囲に関する差異ではあるが、当該花柄模様自体の両意匠に占める割合が共に大きいこと、花柄模様は左右方向に連続して表れることを踏まえると、花柄模様全体の縦横比及び花芯の形状の差異は、それらが連続して表れるので看者に別異の視覚的印象を与えるものであるから、各花柄模様の態様の差異は類否判断に影響を及ぼすものと言える。 (ニ)の勾玉模様の態様の差異、及び(ホ)の勾玉模様と葉模様の位置関係の差異については、花柄模様の間という比較的目立つ勾玉模様及びその周辺に関する差異であって、とりわけ、複数の葉が勾玉模様に接している箇所が表されているイ号意匠の態様は、本件登録意匠には見られないのであって、勾玉模様に関する他の差異と相俟って、看者に別異の印象を与えるものであることから、類否判断に影響を及ぼすものと言える。 (へ)の上下縁部寄りの隙間の有無の差異についても、本件登録意匠に見られる隙間は、花柄模様と勾玉模様が浮き上がって明瞭に看取されるという視覚的効果をもたらすものであって、隙間の存在が各模様を引き立てる役目を果たしているのに対し、イ号意匠にはそのような隙間がなく、そのために各模様がべったりと相互に貼り付いているような印象を与えていることから、その差異が醸し出す印象の相違は明らかであって、類否判断に影響を与えると言える。 そうすると、前記(イ)ないし(へ)の差異点は、何れも、両意匠に共通するとした態様を翻す程の印象を看者に与えるものであり、その余の差異点と相俟って、両意匠の醸し出す形態全体の印象を異にする程の差異感を奏するものであるから、類否判断に影響を及ぼすと言わざるを得ない。 したがって、両意匠は、意匠に係る物品が一致しているが、形態において、差異点が両意匠の共通点を凌駕して類否判断を左右するという外ないから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似する意匠とは言えない。 5 むすび イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2005-03-04 |
出願番号 | 意願平9-74745 |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZA
(M1)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 遠藤 京子 |
特許庁審判長 |
伊勢 孝俊 |
特許庁審判官 |
小林 裕和 鍋田 和宣 |
登録日 | 1999-03-19 |
登録番号 | 意匠登録第1039936号(D1039936) |
代理人 | 伊原 友己 |
代理人 | 加古 尊温 |
代理人 | 拾井 美香 |