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審決分類 審判    C7
管理番号 1121255 
審判番号 無効2004-88028
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2005-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-21 
確定日 2005-07-20 
意匠に係る物品 儀式用飾り台 
事件の表示 上記当事者間の登録第1160565号「儀式用飾り台」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1160565号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び請求の理由
1.請求人は、意匠登録第1160565号(以下、本件登録意匠という)の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由を審判請求書の記載のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第12号証(枝番を含む)の書証を提出し、加えて証人尋問の申し出をしたものである。その主張の要点は以下のとおりである。
本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の2に記載された意匠と同一、又はこの意匠と類似する意匠である、更に、本件登録意匠の出願前に日本国内において公然知られた意匠と同一、又はこの意匠と類似する意匠であり、意匠法第3条第1項各号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。また、本件登録意匠は、支柱が平面図に表記されていないので、他の図面と一致せず、意匠法第3条第1項柱書きに規定する工業上利用することができる意匠に該当しないものであり、この点からも無効理由がある。
2.答弁に対する弁駁
請求人は、被請求人の答弁に対して、弁駁書に記載の通り反駁し、甲第13号証ないし甲第15号証の書証を提出した。
第2.被請求人の答弁及び答弁の理由
1.被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、とし、その理由として答弁書に記載のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第6号証の書証を提出した。その要点は以下のとおりである。
本件登録意匠は、甲第1号証の1〜3に示す意匠と同一であり、出願前に公知であって意匠法第3条第1項第2号に該当するものである。しかしながら、この出願前の展示された意匠及びカタログに掲載された意匠は、被請求人の意に反する公知であり、本件審判請求には理由がない。
平成12年7〜8月頃、被請求人は、脚を長くすれば、従来の儀式用飾り台に比べて、安定性が増すとともに、脚の曲線部を大きく見せることにより看者の視覚を通じて美観を起こさせるものであると考え、本件登録意匠を創作し、河野善丸氏にこの意匠について試作を依頼した。
河野善丸氏は、本件登録意匠を図面化して業者(株式会社萬洋)に試作を依頼した。そして平成12年の年末に、審判請求人の会社に在籍中であった河野善丸氏のもとに業者が完成した試作品を持参した。これにより本件登録意匠が審判請求人の目に触れたものである。このとき、河野善丸氏は乙第4号証の陳述書に記載の通り、被請求人の意匠登録を受ける権利を審判請求人に譲渡したものではない。
審判請求人は、本件登録意匠を模倣し、本件登録意匠と同一のものを上記業者に製造依頼した。そして、平成13年6月頃に、大分市のトキハデパートにおいて、本件登録意匠と同一のものを展示し、また、大分市のトキハデパートのカタログに本件登録意匠と同一のものを掲載した。すなわち、審判請求人は、なんら被請求人の同意を得ることなく、無断で本件登録意匠と同一の儀式用飾り台をカタログに掲載などして本件登録意匠を公知にしたものである。
本件登録意匠が平成13年6月頃に意に反した公知になった後、被請求人は、平成13年10月1日に意匠登録出願を行った。被請求人は意に反する公知から6ヶ月以内に本件登録意匠に係る出願を行っており、本件意匠登録は意匠法第4条第1項の規定の適用を受けることができるものである。よって、本件意匠登録は、出願前の展示された意匠及びカタログに掲載された意匠により、新規性が否定されることはない。
さらに、平成15年12月頃、河野善丸氏は審判請求人から出願から登録に要した費用で本件登録意匠を譲渡するように依頼されたが、その譲渡を断った経緯がある。
以上のように、本件登録意匠に関しては、公知となったとされる事実は、意匠登録を受ける権利を有する者の意に反しての結果であり、無効理由は存在しないこととなる。
審判請求人は、本件登録意匠の平面図には、支柱が記載されていないので、意匠法第3条第1項柱書きに規定する工業上利用できないものであると主張しているが、審判請求人の認定の通り、その断面が円形の3本の支柱が装飾台上に等角度間隔に固定配置されたものである。したがって支柱については当業者にとって自明の範囲にあり、本件登録意匠は明確であって、意匠法第3条第1項柱書きに違背するものではない。
以上のとおり、審判請求人の主張には請求の理由がなく、本件登録意匠の無効の審判は成り立たない。
2.弁駁に対する答弁
被請求人は、請求人の弁駁に対して、答弁書(以下、第2答弁書という)に記載の通り答弁し、乙第7号証ないし乙第11号証の書証を提出した。その要点は以下のとおりである。
本件登録意匠を創作したのは、被請求人であり、創作の経緯は第1回目の答弁書に記載のとおりである。
齋藤智氏は、当初から儀式用飾り台の意匠を創作する能力を有しておらず、また、本件意匠の意匠登録を受ける権利も有しない。
被請求人は、本件登録意匠創作時にこの意匠のスケッチをし、河野善丸は、自費で材料を準備し、被請求人がスケッチした本件登録意匠の粗試作品を作り上げた。そして、正式な図面を引き、この粗試作品と図面を株式会社萬用に渡し、より完成に近い見本品を製作するよう依頼し、この後、この業者から見本品の受け取りをした。そして、この見本品が請求人の目に留まり、意に反する公知となったものである。河野善丸は、被請求人が創作しスケッチした本件登録意匠を試作するなど補助的な手伝いを行っただけであり、創作者にはなり得ない。
また、河野善丸は、職務として本件登録意匠を創作したものではない。
請求人が提出した弁駁書には、虚偽の事実があり認められるものではなく、弁駁書での請求人の主張は、審判請求書の請求の理由にはまったく開示のなかったものである。
本件意匠は、平成16年11月29日提出の第1回目の答弁書に記載のとおり被請求人の意に反して公知になったものであるから、請求人の主張には請求の理由がなく、本件意匠登録の無効の審判は成り立たない。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成13年10月1日に出願され、平成14年10月25日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1160565号の意匠であって、登録原簿及び出願書面の記載によれば、意匠に係る物品は「儀式用飾り台」であって、その形態は願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙1参照)
2.甲号意匠
本件登録意匠に対して、審判請求人が無効とすべき理由に引用した意匠は、平成13年6月、大分県大分市府内町2丁目1番4号所在の株式会社トキハが発行したカタログ「2001TOKIWA SUMMER GIFT COLLECTION」186頁(甲第1号証の2)上段中央所載「186-023篭盛(回転燈付・三方台)(KT100)」、儀式用飾り台の意匠(以下、甲号意匠という)であって、その形態は当該写真版に現されたとおりのものである。(別紙2参照)
3.本件登録意匠と甲号意匠との比較検討と類否判断
そこで、本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠は意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点、及び、差異点ないし不明な点がある。
すなわち、両意匠は、主たる共通点として、
(1)水平円板状装飾台の下面の周縁付近に、2本が前側左右対称に表れるよう3本の脚を等間隔角度で配したものであって、上面中央には六角柱状回転燈、その前側であって左右脚部の上側延長位置に回転燈より僅かに高くした細棒状支柱を設けた点、
(2)前側左右の脚部につき、装飾台部の中心に対して放射状方向を向き該台部下面に垂直状に取付られた細幅板状のものであって、高さは、円板状装飾台の直径寸法より僅かに低いものとし、両側辺は、何れも下側を外方向に向け緩やかな凹弧状に反らした態様としたものである点、
(3)回転燈部につき、高さは円板状装飾台部の直径寸法の半分ほどとしたもので、周側の各面は4周に余地を残し縦長方形状区画部を設けた点、
(4)回転燈周側各面の4周の余地部につき、両側部は僅かな幅、上下はやや大きな幅とし、上下の両余地部には方形状の区画部に沿うように細幅状区画部を設け、下側余地部の下辺部は左右に前記両側余地部と同幅の余地を残して浅い概略幅広コ字状切欠部を設けた点、がある。
これに対して、甲号意匠の認識することができる範囲において、本件登録意匠との差異は認められないが、
(イ)後側の脚部について、本件登録意匠は前側左右の脚部と同形状をしているのに対して、甲号意匠は正面視において本件登録意匠と同様に細幅で表れているものの、側面視形状が不明であり、
(ロ)本件登録意匠は、装飾台部の上面回転燈の後ろ側中央には前側支柱の倍近い高さの細棒状支柱を有するのに対して、甲号意匠は、その部分が装飾台部に置かれたものにより隠れておりその存在の有無が不明である。
そこで、これらの共通点、甲号意匠における不明な点を総合し、類否判断に及ぼす影響を比較、検討する。
先ず、前記(1)ないし(3)の共通点に係る構成態様は、両意匠の特徴をよく表すと認められる訴求力の強い共通した視覚的まとまりを生じさせており、類否判断に大きな影響を及ぼすものであり、(4)の共通点に係る構成態様は、細部であるため類否判断に及ぼす影響は僅かであるが更に共通感を強めるものである。
これに対して、(イ)の点については、脚部を全て同形とすることは甲第6号証ないし甲第9号証にも見られるようにこの種意匠において普通のことと認められ、甲号意匠も正面視は本件登録意匠と同様に細幅で表れており、格別な理由がなければ本件登録意匠と同様に同形と推認されるが、たとえ多少異なる形状をしていたとしても、使用状態において視認しにくい部位に関するものであるから類否判断に及ぼす影響は僅かであり、(ロ)の点についても、本件登録意匠の後側支柱は細くかつ使用状態において殆ど視認されない部位に関するものであり、甲号意匠に同支柱が存在しないとしても、そのことによる差異は類否判断に及ぼす影響は僅かにすぎない。
このように、甲号意匠と本件登録意匠とは、甲号意匠に不明な点があるとしても類否判断に及ぼす影響は僅かな部位に関するものであり、共通する(1)ないし(3)の共通点に係る構成態様は、類否判断に大きな影響を及ぼすもので、更に共通感を強める(4)の共通点もあるから、本件登録意匠は、甲号意匠と同一とはいえないものの、少なくとも類似するものとせざるを得ない。
4.意匠法第4条第1項の適用について
被請求人は、甲号意匠が被請求人の意に反して公知になったものであり、意匠法第4条第1項の規定により新規性は失われていないと主張するから、本件登録意匠が同規定に該当するか否かについて検討する。
まず、被請求人は、平成12年7〜8月頃本件登録意匠を創作し、河野善丸氏に本件登録意匠の試作を依頼し、同じころ河野善丸氏は「本件意匠の図面試作」をした(乙第1号証参照)と主張する。その証拠として、被請求人が創作し意匠登録を受ける権利を有するとした河野善丸氏の陳述書(乙第4号証)を提出している。
しかしながら、本件登録意匠が意匠法第4条第1項に規定する意匠に該当し、甲号意匠の存在が新規性喪失の原因にはならないとするためには、本件登録意匠と甲号意匠とは必ずしも同一である必要はないから(平成10年改正意匠法)被請求人が本件登録意匠に関し意匠登録を受ける権利を有するか否かによって左右されるものではなく、本件登録意匠の出願日前に発行された刊行物に記載された甲号意匠(と同一の意匠)が、少なくともその刊行物が発行される以前に被請求人により創作されたことが明らかでなければならない。
そこで、この点について検討してみると、前述のごとく甲号意匠と本件登録意匠が同一であるか否か判断することができないが、甲号意匠と本件登録意匠が仮に同一であったとしても、被請求人のみが本件登録意匠の意匠登録を受ける権利を有していたする河野善丸氏の陳述書のみでは甲号意匠を被請求人が創作したと推認するには不十分であり、先ず、請求人の主張を前提とするならば、被請求人自らが平成12年7〜8月頃甲号意匠と同一の意匠を創作したことを示す何らかの有形の証拠(図面、模型等)が示されなければならない。すなわち、他人が知覚できる何らの表現もなされておらず単に頭の中に観念(アイデア )として存在していたとするだけでは論ずる対象にすらならないことは当然のことであるが、特に意匠の特性として構成比率の要素を含むものであるから、例えば言語のみで表現できる場合は例外であり、一般的に図面、模型(ひな形)等により示されない限り意匠創作がなされたものとすることができないからである。ところが、被請求人が平成12年7〜8月頃本件登録意匠すなわち甲号意匠を創作したことを示すもの(被請求人は第2答弁書でスケッチをしたとしているが、証拠として提出していない)のみならず、同じ頃河野善丸氏が作成したとする「本件意匠の図面試作」(第2答弁書においては粗試作品を作ったとしている)すら提出されていない。したがって、被請求人の提出した証拠では、被請求人が平成12年7〜8月頃本件登録意匠(すなわち甲号意匠)を創作したとする主張をそのまま採用することはできない。
また、これに加え、被請求人は、請求人(代表者)が試作品(第2答弁書においては「見本品」と称している)を模倣し本件登録意匠と同一のものを試作品制作会社に製造依頼した(答弁書6頁11行〜12行)としている。本件登録意匠と甲号意匠が仮に同一であったとしても、この試作品と甲号意匠が同一でなければ、それだけで本件登録意匠は意匠法第4条第1項の規定の適用を受けることができないが、試作品形態に関する資料が提出されていないから、製品化された甲号意匠とその試作品とが同一であるか否かも不明である。
このように、被請求人が本件登録意匠の意匠登録を受ける権利を有すると主張しても、甲号意匠が記載された刊行物の発行される以前に、被請求人が甲号意匠を創作をしたと判断することを可能とするものが何も無いため、本件登録意匠が意匠法第4条第1項の規定に該当する意匠であるとすることができない。
したがって、被請求人の提出した証拠の範囲では、甲号意匠の存在が本件登録意匠の新規性を失わせないとすることができない。
5.むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、この意匠登録出願前発行された刊行物に記載された甲号意匠に少なくとも類似するものであり、また、意匠法第4条第1項の規定に該当するとはいえないものであるから、同法第3条第1項第3号の意匠に該当し、その他の無効の理由を検討するまでもなく同法第1項の規定に違反して登録されたものであって、その登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定によって、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2005-05-20 
結審通知日 2005-05-25 
審決日 2005-06-08 
出願番号 意願2001-28703(D2001-28703) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (C7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 敦 
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 山崎 裕造
杉山 太一
登録日 2002-10-25 
登録番号 意匠登録第1160565号(D1160565) 
代理人 梅澤 健 
代理人 安倍 逸郎 
代理人 富崎 元成 

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