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審決分類 審判    E1
管理番号 1139446 
審判番号 無効2005-88006
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2006-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-08 
確定日 2006-06-23 
意匠に係る物品 人形用胴体 
事件の表示 上記当事者間の登録第1186782号「人形用胴体」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第一.請求人の申立及び理由
審判請求人(以下、「請求人」という。)は、登録第1186782号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の登録を無効とし、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として審判請求書の記載のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第16号証を提出した。その理由の要点は以下のとおりである。
一.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、その出願の日前に日本国内において公然知られた甲第1号証に示す意匠(以下、「甲号意匠」という。)と類似のものであって意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
二.本件登録意匠を無効とすべきである理由
1.本件登録意匠
平成14年10月7日に出願され、平成15年8月15日に設定の登録がなされた意匠登録第1186782号(意匠に係る物品「人形用胴体」)の意匠。
2.甲号意匠
甲号意匠は、甲第5号証によれば、1999年5月当時、又、甲第2号証ないし甲第4号証によれば、2000年12月10日の時点において、市販していた「人形用胴体」であり、その態様は甲第1号証(写真)のとおりである。
3.本件登録意匠と甲号意匠との対比
[両意匠の共通点]
両意匠は、意匠に係る物品を「人形用胴体」とする点で共通し、その態様における共通点は以下のとおりである。
A.基本的構成態様
人体の首、胴体、腕、脚に当たる首部、胴体部、腕部、脚部とから構成される点。
B.具体的構成態様
a.全体の態様
(1)流線的な肉付きを表現するための造形が施される点。
b.首部の態様
(2)胴体部と一体に形成され、首先から頭部連結部材が突出する点。
c.胴体部の態様
(3)人体の胸、腹、腰に当たる上胴部、中胴部、下胴部に分割される点。
(4)上胴部は、正面視略星形状に形成され、肩関節部分に側方に向かって開口する窪みが形成され、下縁端が正面視逆V字状に切り込まれる点、正面に鎖骨の出っ張りや乳房を表現する造形が施される点。
(5)中胴部は、略楕円柱状に形成される点。
(6)下胴部は、正面視T字状に形成され、股関節部分が臀部を残した状態で下方へ向かって窪んでいる点。
d.腕部の態様
(7)腕部は、人体の上腕、前腕、手、肘関節、手関節に当たる上腕部、前腕部、手部、肘関節部、手関節部とから構成される点。
(8)上腕部は、肩関節部分が半球状に形成される点、肩関節部との境界を示す線模様が現れる点。
e.脚部の態様
(9)脚部は、人体の大腿、下腿、足、膝関節、足関節に当たる大腿部、下腿部、足部、膝関節部、足関節部とから構成される点。
(10)大腿部は、股関節部分が半球状に形成され、膝関節部分の先端が水平に切断される点。
(11)下腿部は、膝関節部分が側面視先丸状に形成される点、膝関節部との境界を示す線模様が背面に現れる点。
(12)膝関節部は、正面視下向き五角形状の膝皿と、膝皿の後方に設けられた連結片とを有して、連結片の横片に対して下方に位置する部分は下腿部の膝関節部分に嵌め込まれる点。
[両意匠の差異点]
B.具体的構成態様
(ア)胴体部(首先から股下まで)と脚部(股下)と腕部の長さの比率について、本件登録意匠は、1:1.46:1.03であるのに対し、甲号意匠は、1:1.45:1.05(甲号意匠に係る物品の市販品を採寸して得た値)である点。
(イ)頭部連結部材について、本件登録意匠は、円柱状であるのに対し、甲号意匠は、槍先状である点。
(ウ)バスト(胸の一番高い部分)とウエスト(胴体の一番細い部分)とヒップ(腰の一番大きい部分)の幅の比率について、本件登録意匠は、1:0.54:0.93であるのに対し、甲号意匠は、1:0.57:0.94(甲号意匠に係る物品の市販品を採寸して得た値)である点。
(エ)上胴部について、甲号意匠は、背面にネジ止め用の開口が三つ形成されるのに対し、本件登録意匠は、このような開口が形成されない点。
(オ)中胴部について、甲号意匠は、背面にネジ止め用の開口が二つ形成されるのに対し、本件登録意匠は、このような開口が形成されない点。
(カ)下胴部について、甲号意匠は、背面にネジ止め用の開口が二つ形成されるのに対し、本件登録意匠は、このような開口が形成されない点。
(キ)上腕部の肘関節部分について、本件登録意匠は、正面視先丸状に形成されるのに対し、甲号意匠は、正面視先細楔状に形成される点。
(ク)上腕部について、本件登録意匠は、肘関節部寄りの位置を周回する線模様、上腕部と肩関節部、上腕部と肘関節部とを連結するピンの先端を示す小円状の線模様が現れるのに対して、甲号意匠は、このような線模様が現れない点。
(ケ)前腕部の肘関節部分について、本件登録意匠は、正面視先丸状に形成されるのに対して、甲号意匠は、正面視先丸楔状に形成される点。
(コ)前腕部について、本件登録意匠は、前腕部と肘関節部とを連結するピンの先端を示す小円状の線模様が現れるのに対して、甲号意匠は、このような線模様が現れない点。
(サ)手部の手関節部分について、本件登録意匠は、半球状に形成されるのに対して、甲号意匠は、半球状の手関節部が位置付けられる点。
(シ)手部について、本件登録意匠は、手関節部との境界を示す線模様、手部と手関節部とを連結するピンの先端を示す小円状の線模様が現れるのに対して、甲号意匠は、このような線模様が現れない点。
(ス)肘関節部について、本件登録意匠は、腕を伸ばした状態で肘表側に露出するのに対して、甲号意匠は、腕を伸ばした状態で肘裏側に露出する点。
(セ)大腿部について、甲号意匠は、背面にネジ止め用の開口が形成されるのに対し、本件登録意匠は、このような開口が形成されない点。
(ソ)下腿部について、本件登録意匠は、下腿部と膝関節部とを連結するピンの先端を示す小円状の線模様が現れるのに対して、甲号意匠は、このような線模様が現れない点。
(タ)足部の足関節部分について、本件登録意匠は、半球状に形成されるのに対して、甲号意匠は、先端が水平に切断される点。
(チ)足部について、本件登録意匠は、足関節部との境界を示す線模様、足部と足関節部とを連結するピンの先端を示す小円状の線模様が現れるのに対して、甲号意匠は、このような線模様が現れない点。
(ツ)膝関節部について、本件登録意匠は、正面視下向き縦長五角形状の膝皿と、背面視十字状の連結片と、側面視下向き半円状の側壁とからなるのに対して、甲号意匠は、正面視下向き横長五角形状の膝皿と、背面視H字状の連結片と、連結片から上下に伸びる一対の連結軸とからなる点。
4.両意匠の類否判断
(1)物品「人形用胴体」の要部について
「人形用胴体」は人形の部品であり、「頭部連結部材」に人形用頭部を連結して人形に組み立てられた状態で使用されるため、人形は、その特徴が最も現れる正面を看者に向けた状態で展示され、人形における看者の最も注意を惹く部分は正面となり、必然的に「人形用胴体」における看者の最も注意を惹く部分も正面になる。また、「人形用胴体」は、趣味性の高い玩具の分野に属するものであり、看者は自己の理想とするキャラクターのイメージに合った人形用胴体を選択・購入することからみて、看者の関心は、キャラクターのイメージに大きな影響を与えるプロポーションとスタイルに向けられる。
従って、両意匠の対比においては、主として、正面方向から見たプロポーションとスタイルを重視すべきである。
(2)本件登録意匠の特徴点
流線的な肉付きを表現するための造形を施し、胴体部の長さと腕部の長さとの比率差を小さくすると共に、胴体部の長さと脚部の長さとの比率差を大きくすることにより、成人女性をイメージさせるプロポーションとスタイルを構成している点が本件登録意匠の最も大きな特徴点である。
(3)両意匠の共通点及び差異点の評価
両意匠の共通点のうち、両意匠の基本的構成態様は、いずれもこの種意匠において普通に見られる態様であって、両意匠間にのみ見られるものではないが、意匠を形作る基本的な骨格であることから、両意匠が類似するものとする場合には、欠くことのできない基盤を両意匠が共有している。
次に、両意匠の具体的構成態様における共通点の(3)(4)(5)(6)胴体部の分割構成、(7)腕部の分割構成、(9)脚部の分割構成については、プロポーションやスタイルに影響を与える重要な要素であり、看者の注意を強く惹く部分であって両意匠の類否判断上極めて重視される点である。また、共通点の(1)流線的な肉付きを表現するための造形、(4)鎖骨の出っ張りや乳房を表現する造形については、看者に与えるイメージを左右する重要な要素であり、両意匠の類否判断上極めて重視される点である。その他の共通点は、いずれも看者の目に触れにくいか、あるいは「人形用胴体」における周知の態様であって看者の注意を惹かないものであるため、両意匠の類否判断上格別に評価すべきものではない。
一方、差異点(ア)の胴体部と脚部と腕部の長さの比率、差異点(ウ)のバストとウエストとヒップの幅の比率について、この程度の差は看者が意識的に測定しなければ分からないほどの微差であり、看者に対して両意匠のプロポーションやスタイルが同一又は酷似しているとの印象を与える。
差異点(キ)(ケ)(ス)の肘関節について、両者とも上腕部と前腕部とを跨ぐように肘関節部を位置付けるという構成であり、スタイルに影響を及ぼすものではない点で格別異なった印象を看者に与えるものとは認められない。
差異点(ツ)の膝関節について、看者の注意を惹く正面に両者とも五角形状の膝皿が現れるという点で格別異なった印象を看者に与えるものとは認められない。
差異点(ク)(コ)(シ)(ソ)の線模様の有無について、本件登録意匠に現れる各線模様は、通常、各部品は同一色(肌色)に統一されているので、看者がその部分に意識を集中しなければ気づかない程目立たなくなり(甲第13号証参照)、線模様の有無は両意匠の類否判断には殆ど影響を与えない。
(エ)(オ)(カ)(セ)について、甲号意匠のネジ止め用の開口はいずれも背面に形成されており、看者の注意を殆ど惹かない部分であり、かつ、使用説明書(甲第3号証参照)には、ネジ止め用の開口に対して円柱状のパーツを埋め込んで開口を目立たなくする方法が記載されておりこの方法を用いた場合には、ネジ止め用の開口は看者がその部分に意識を集中しなければ気づかない程に目立たなくなるため、ネジ止め用の開口の有無は両意匠の類否判断に殆ど影響を与えない。
その他の差異点、(イ)について、頭部連結部材は、「人形用胴体」を人形に組み立てる際に、頭部内に位置付けられるものであるため、看者の注意を惹かない部分であり、また、(サ)(タ)については、その部分に意識を集中した場合に気づく程度の差異にすぎず、いずれの差異点も両意匠の類否判断において、然程大きな評価を与えられるものとはいえない。
以上より、本件登録意匠は、甲号意匠が有する特徴点をそのまま有しているものであり、差異点は未だ部分的であって両意匠を別異の美感を有するものとするまでには至らないから、両意匠は意匠全体として看者に同様の美感を与えるものであり、類似するものといわざるを得ない。
5.従って、本件登録意匠は、甲号意匠の存在下にあっては意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、無効とすべきである。
第二.被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由として答弁書の記載のとおり主張し、参考資料1の書証を提出し、さらに、参考資料1の追加補充として、平成17年11月29日付上申書により資料を補充した。その要点は以下のとおりである。
1.本件登録意匠と甲号意匠との対比
本件登録意匠及び甲号意匠は、双方共に需要者が購入後に種々の頭部などを付けたりしてカスタマイズする人形用胴体であるため、需要者はこの人形用胴体を始終手に取って見るのが通常であるから、この種の人形用胴体は、正面にのみ注目するのではなく、背面や側面なども重要な要素であり、従って、本件登録意匠と甲号意匠の類否は、正面側からの類否に偏るのではなく、背面、側面、平面、底面などあらゆる方向から、人形用胴体全体としての類否を行うべきである。
(1)共通点
本件登録意匠と甲号意匠は、(1)物品面において共通し、(2)基本的構成態様として、首部、胴体部、腕部、脚部とから構成される点、(3)流線的な肉付きを表現するための造形が施される点、(4)首部に頭部連接部材を備える点、及び(5)上胴部の正面に、鎖骨や乳房を表現する造形が施される点において共通する。しかし、これらは、この種の人形用胴体として当然に備えられる構成であるか、成人女性の裸体を表現するにあたり、当然に施される造形である。
(2)差異点
(ア)胴体部と脚部と腕部の長さの比率及び(イ)バストとウエストとヒップの幅の比率について、請求人は、両者において微差の違いがあると主張する。しかし、甲号意匠の人形用胴体に係る市販品の実寸から得た値である旨主張するが、その点の証拠は何等提示されておらず、その比率を認めるには不十分である。また、本件登録意匠の比率は、何を対象として比率を求めたのか、すなわち、本件登録意匠に係る図面に開示の意匠に基づいて求められたのか、全く不明である。さらに言うなれば、このような比率は、この種の人形用胴体において特に特徴的な形態であるとは言い難いものであり、甲号意匠に特有の構成ではなく、かつ本件登録意匠においても特有の構成でもない。
また、(ウ)首部の頭部連結部材形態、胴体部の(エ)上胴部・(オ)中胴部・(カ)下胴部(腰部)各形態、腕部の(キ)上腕部・(ク)前腕部・(ケ)手部・(コ)肘関節部各形態、及び脚部の(サ)大腿部・(シ)下腿部・(ス)膝関節部・(セ)足部・(ソ)脚部各形態について、本件登録意匠には、甲号意匠に全く開示のない形態を有するか、本件登録意匠が、甲号意匠に備えている形態を有していないため、甲号意匠とは顕著に相違し、(タ)特に、甲号意匠の背面側には、9箇所のネジ孔及びネジの頭部分の形態を備えているのに対して、本件登録意匠の背面には、これらネジ孔及びネジの頭部分の形態は全く備えておらず、顕著に相違する形状が明瞭に現れている。
このような広範囲にわたり形態上に現れている顕著な差異は、需要者の注意を惹く重要な要素の一つとなることは否定し得ないものである。
2.結び
従って、甲号意匠には、本件登録意匠に特有の新規独創的な種々の構成要素を全く備えていない点、本件登録意匠には甲号意匠特有の構成要素を全く備えていない点に鑑みれば、両意匠全体同士を比較した場合、両意匠は全く構成・形態を異にし、その結果から生じ得る意匠全体のイメージ・美観を全く異にするもので、両意匠は非類似の意匠であるといわざるを得ない。
よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定に反して登録されたものではなく、意匠登録の要件を具備したものであるため、本件登録意匠が、該本件登録意匠に係る意匠登録出願前に刊行物に記載された甲第1号証に開示の意匠と類似するため、意匠法第48条第1項第1号により無効とされるべきものであるとする請求人の主張は全く当を得ていないと言わざるを得ない。
第三.請求人の弁駁
請求人は、上申書副本と共に送付した答弁書に対し、弁駁し、弁駁書の記載のとおり主張し、証拠方法として、甲第17号証ないし甲第22号証を提出した。その要点は、以下のとおりである。
1.本件登録意匠と甲号意匠との対比について
(1)人形用胴体の要部について
被請求人は、本件登録意匠と甲号意匠の類否は、正面側からの類否に偏るのではなく、背面などあらゆる方向から、人形用胴体全体としての類否を行うべきである旨主張しているが、当該物品を購入した需要者が自己の理想とするキャラクターに改造・製作した成人女性裸体人形に当該衣服を着用させた状態の人形においては、展示する際に最も特徴が現れる正面が看者側に向けられ、必然的に看者(需要者)の注意も背面形態よりも正面形態に注がれることになるから、購入時に当該物品に接する看者(需要者)が、当該物品を使用して改造・製作した成人女性裸体人形に衣服を着用させた状態の人形を想定する際に、当該物品の正面形態と同じレベルで背面形態にも注意を向けるとは到底考えられない。
さらに、通常当該物品は正面を看者(需要者)側に向けた状態で販売され、正面態形態が看者の最も関心を示す部分であることにほかならず、看者(需要者)の注意が背面形態よりも正面形態に注がれるといえる。
また、当該物品のプロポーションやスタイルについては、衣服を着用させたとしても隠すには限界があり、特にプロポーション(胴体部、腕部、脚部の長さの比率)については隠すことができないため、必然的に看者はプロポーションやスタイルに関心を集中させることになる。
(2)胴体部と脚部と腕部の長さの比率及びバストとウエストとヒップの幅の比率について
被請求人の、何を対象に比率を求めたのか全く不明である旨の主張に対し、請求人は、齟齬をきたしていた要因が、カメラのレンズによる被写体の歪み及び当該物品の姿勢の歪みに起因したことに鑑み、再度撮影した写真を甲第17号証として提出すると共に、本件登録意匠と甲号意匠との当該各比率が何を対象に求められたものであるかを明らかにした(甲第18号証及び甲第19号証参照)。
また、被請求人は、当該各比率について、この種の人形用胴体において特に特徴的な形態であるとは言い難いものである旨主張しているが、この点について何ら証拠が示されていないから、当該主張を認めることはできない。
(3)首部について
被請求人は、頭部連結部材の形態は需要者の物品(人形用胴体)選択の際、視覚に訴える特に重要な要素を占める部分である旨主張しているが、看者は、当該意匠に係る物品を使用して改造・製作した成人女性裸体人形に衣服を着用させた状態の人形を想定するため、この時、頭部が取り付けられた隠れた状態となる頭部連結部材に注意が向けられることは殆どないものと推測でき、頭部連結部材の形態が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に少ない。
(4)上胴部、中胴部、下胴部の形態及び脚部の形態について
甲第14号証に示す意匠と、甲第15号証に示す意匠とが関連意匠として登録されている事実からして、当該各部における形態の相違が両意匠の類否判断に殆ど影響を与えない。
(5)甲号意匠の背面に現れるネジ孔及び該ネジ孔から直視されるネジの頭部分について
甲号意匠に接する看者は、使用説明書(甲第2号証参照)に記載されたネジ孔に対して円柱状パーツを埋め込んでネジ孔を目立たなくする改造を施した成人女性裸体人形に衣服を着用させた状態の人形を想定し、当該改造を施した場合には、ネジ孔は看者がその部分に意識を集中しなければ気がつかない程に目立たなくなるため(甲第21号証)、看者にとってネジ孔の有無は両意匠の類否判断に殆ど影響を与えない。
(6)手部について
各指が僅かに掌側に曲げられた状態となっており、看者にとって掌側は非常に見え難く隠れた状態となっているため、両意匠の類否判断に殆ど影響を与えないといえる。
また、本件登録意匠の小径の円形模様について、ピンを露出させた状態の人形は周知(甲第22号証参照)であることから、本件登録意匠に係る意匠公報を見た看者が当該小径の円形模様を実際の商品(物品)では目に触れないものと推測することは自然である。
(7)その他の相違について
被請求人が主張する肩関節、肘関節、手関節、股関節、膝関節及び足関節における相違については、両意匠に接する看者の関心がプロポーションやスタイルに向けられ、また、当該各相違がプロポーションやスタイルに影響を及ぼすものでないことから、両意匠の類否判断に殆ど影響を与えない程度の差異といえる。
第四.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成14年10月7日の意匠登録出願に係り、平成15年8月15日に設定の登録がなされた意匠登録第1186782号であって、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品が「人形用胴体」で、その形態が願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。
2.甲号意匠
甲号意匠は、甲第5号証によれば、1999年5月当時、又、甲第2号証ないし甲第4号証によれば、2000年12月10日の時点において、市販していた「人形用胴体」であり、その形状が甲第1号証の写真に現されたとおりのものである。
なお、請求人は、弁駁書において、甲第1号証の「人形用胴体」を再度撮影した写真を甲第17号証として提出しているので、対比にあたり、これも参酌する。
3.本件登録意匠と甲号意匠との対比
そこで、本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が、共に「人形用胴体」で、一致し、形態について、以下に示すように、共通点及び差異点がある。
[両意匠の共通点]
A.基本的構成態様
(1)全体は、首部、胴体部、腕部、脚部とで構成し、(1-1)胴体部は、上胴部、中胴部、下胴部とに縦に三分割構成し、(1-2)首部は、上胴部と一体に形成し、その上面に頭部連結部材を設け、(1-3)腕部は、上腕部、前腕部、手部とで構成し、上胴部と上腕部とを肩関節部、上腕部と前腕部とを肘関節部、前腕部と手部とを手関節部とで、可動状に連結し、(1-4)脚部は、大腿部、下腿部、足部とで構成し、下胴部と大腿部とを股関節部、大腿部と下腿部とを膝関節部、下腿部と足部とを足関節部とで、可動状に連結した点。
(2)全体の外郭形状は、成人女性裸体に近似した流線的な肉付けを施した点。
B.具体的構成態様
(3)首部は、上胴部上面中央よりやや前屈み上方に突出させた略円柱状に形成し、その上端のやや斜め前下がり斜面上から、略小径円柱状の頭部連結部材を突出した点。
(4)胴体部について、(4-1)上胴部形状は、横幅を、肩部左右上面を最大横幅にして、下方に従い漸次やや幅狭に窄ませ、肩部両側を、正面視内側に緩やかな凹湾曲状に窪ませ、下方の胸郭部を緩やかに膨らませ、下端を、正背面の中央部を凹状に窪ませ、正面視を逆略山形状とした点、(4-2)中胴部形状は、略楕円柱状に形成した点、(4-3)下胴部形状は、正面視、略T字状に形成し、上端を緩やかな略円弧状に窪ませ、下部の股間に僅かな幅を残して、左右の股の付け根部分を大きく略円弧状に内側に窪ませ、背面視、上端を緩やかな略円弧状に窪ませ、左右側辺を略凸湾曲状にして、下方に向かって窄ませた点。
(5)腕部は、(5-1)上腕部形状を、略丸棒状とし、その上部の外側部分を球面状とし、(5-2)前腕部形状を、下方がやや先細りとなる略丸棒状とし、下端を、水平状に形成し、(5-3)手部の指部を下方方向に向け揃え、親指と人差し指間をやや広げ、さらに、(5-4)肩部の連結は、上腕部上部から上胴部肩部の内部に埋め込まれた肩関節部により、上腕部と前腕部の連結は、露出した丸味を帯びた肘関節部により、前腕部と手部の連結は、両者間の僅かな隙間に表れる手関節部により、それぞれ連結した点。
(6)脚部は、(6-1)大腿部形状を、下方がやや先細りとなる略丸棒状とし、やや上部寄りを最大横幅とする緩やかな凸湾曲面状に形成し、下端を、正面視水平状に形成し、(6-2)下腿部形状を、下方がやや先細りとなる略丸棒状とし、その周側面の前面側を、側面視略直線状とし、その他の側面を、上部寄りを最大横幅とする緩やかな凸湾曲面状に形成し、下腿部上端を、正面視半凹円弧状に窪ませ、下端を、略水平状に形成し、(6-3)足部形状を、前方に前下がりする先端に足指を一体状に揃えて形成し、さらに、(6-4)大腿部と下胴部の連結は、下胴部股付け根部の内部に埋め込まれた股関節部により、大腿部と下腿部の連結は、正面視略半楕円状(請求人は、正面視下向き五角形状とするが、両意匠とも角部が明確に表れない円弧状とするため、略半楕円状と認定する。)の膝皿部を形成した膝関節部により、下腿部と足部の連結は、両者間の僅かな隙間に表れる足関節部により、それぞれ連結した点。
[両意匠の差異点]
B.具体的構成態様
(ア)胴体部と脚部と腕部の長さの比率について(なお、各部の長さを示す位置については、甲第18号証及び第19号証を参酌するが、胴体部の長さには、首部を含めず、正面視首部から上胴部上面左右肩部先端までの横幅の各中間点を結ぶ仮想線と胴体部の縦中央仮想線との交点と下胴部下端までの長さとし、脚部は、大腿部最上端から足部下端までの長さとする。)、本件登録意匠は、約1:1.97:1.24であるのに対し、甲号意匠は、約1:1.80:1.22である点。
(イ)胴体部におけるバストとウエストとヒップの幅の比率について(なお、各横幅について、正面視、バストは胸郭部の最大横幅、ウエストは中胴部最小横幅、ヒップは下胴部最大横幅とする。)、本件登録意匠は、約1:0.52:0.93であるのに対し、甲号意匠は、約1:0.59:1である点。
(ウ)連結の態様について、(ウ-1)関節部の固定部分を、本件登録意匠は、上腕部正背面視の上下部、前腕部正背面視の上部、手部正背面視の上部、大腿部側面視の上部及び足部側面視の上部に、スプリングピンを使用して固着し、多数箇所に小円形ピンを表したのに対して、甲号意匠は、連結にそのようなピンを使用せず、外観にピンが現れない点、(ウ-2)肘関節部形状を、本件登録意匠は、肘表側に側面視縦小楕円形状に露出させたのに対して、甲号意匠は、肘裏側に略球形状に露出させた点、(ウ-3)膝関節部形状を、本件登録意匠は、正面側膝皿部を、前面凸湾曲面状薄板で、正面視縦長楕円形状の上部を水平に切り落としたものの、その後方に背面視略十字状板体の連結片を設け、その連結片上部を、大腿部の下端より突出する半円盤体状支持具で、左右両側より挟み込み、支持具側面中心に小半円形ピンを表したのに対して、甲号意匠は、膝皿部を、平面状薄板の、平面視略半円弧状に側面側に回り込ませ、正面視半楕円状としたものの、その裏側に、背面視、大腿部下端と下腿部上端の開口空間内に、上部を略球形状で、下部を径のやや小さくした略円筒状の、その上下に細幅縦長の切り込みを設けた連結具を設けた点、(ウ-4)肩関節部・手関節部・足関節部形状を、本件登録意匠は、上腕部上面、手部上部、足部上部に小矩形状に表したのに対して、甲号意匠は、肩関節部・足関節部が、各々上胴部・下腿部内に隠れ、手関節部が、上腕部下端と手部上端との隙間に前腕部下端面の径よりやや細径柱状に僅かに凹部を設けて表れ、小矩形状に外観に現れていない点、さらに、(ウ-5)胴体部及び大腿部の固定部分を、甲号意匠は、ネジ止めとし、上胴部背面視の上部中央と左右の下端寄りの計三箇所、中胴部背面視の中央左右寄りの計二箇所、背面側の上部左右寄りの計二箇所、下胴部背面視の上部左右寄りの計二箇所、両大腿部上部の臀部との付け根内側部分に計二箇所に、ネジ止めされた小円形凹部を設けたのに対して、本件登録意匠は、このようなネジ止め凹部を設けていない点。
(エ)首部の頭部連結部材形状について、本件登録意匠は、首部上端面より小径丸棒状軸部を突出させ、その先端寄りを、長さが軸部長さの約1/2強で、径が約2倍とする小径円柱状としたのに対して、甲号意匠は、小径丸棒状軸部の僅かに突出した先を、やや径を大きくした略小径円柱状とし、その円柱長さの約半分の先端部分を、やや先細りの、側面十字の位置の計4箇所に、切り欠き部を設けて、略槍先状とした点。
(オ)胴体部について、(オ-1)上胴部の背面形状を、本件登録意匠は、正面視形状と同一外形形状としたのに対して、甲号意匠は、肩部両側部分を直線状として窪みを形成せず、下端中央部の窪みを、略円弧状に形成し、正面視形状とは違いを持たせている点、(オ-2)中胴部形状を、本件登録意匠は、左右側面を略「く」の字状に、背面をやや略「く」の字状に、内側に窪ませ、くびれ部を形成したのに対して、甲号意匠は、全体を細い略楕円柱状とし、明瞭なくびれ部を形成していない点。
(カ)腕部について、(カ-1)上腕部形状を、本件登録意匠は、上部を、略丸棒径よりやや大径で、肩部方向にやや飛び出す略半球状に形成し、上腕部と上胴部との脇の下部分を幅狭とし、下部寄りに、側面を水平に周回する直線状分割部を表し、下部先端を、正面視円弧状の、外側側面に肘関節部を収めるための凹部を形成し、先丸状としたのに対して、甲号意匠は、上部を、略丸棒状を肩部方向に直角に屈曲させ、短い水平部を有して、先端略半球状に形成し、脇の下部分をやや幅広とし、下部先端を、正面視外側が下がる斜面状の、内側側面に肘関節部を収めるための凹部を形成し、楔状とした点、(カ-2)前腕部形状を、本件登録意匠は、略丸棒状のやや先細りのまま、上部先端を、正面視円弧状の、外側側面に肘関節部を収めるための凹部を形成し、先丸状としたのに対して、甲号意匠は、やや先細り略丸棒状の下方僅かに先太で、やや湾曲面に富み、上部先端を、正面視外側が上がる斜面状の、内側側面に肘関節部を収めるための凹部を形成し、楔状とした点。
(キ)脚部について、(キ-1)大腿部形状を、本件登録意匠は、上部を略半球状とし、その下の下胴部下端の股間部分の位置に当たる内腿部分を、浅い緩やかな凹弧状に窪ませたもので、正面視、下胴部の股付け根部の窪みに嵌るように、外側部に僅かな隙間があるものの、殆ど隙間無く当接し、さらに、背面視下部先端形状を、水平状としたのに対して、甲号意匠は、上部を、上面が緩やかな湾曲面状の、外側方向にやや高い斜面状で、周側面との角部を隅丸としてやや角張らせ、股間部分の位置に当たる内腿部分を、浅い略V字状に窪ませたもので、正面視、下胴部の股付け根部の窪みに嵌るように、周側面の内側部分を下胴部に当接させ、大腿部上面から、下胴部の股の付け根部分との間に、外側方向に向けて拡幅する大きな隙間を形成し、さらに、背面視下部先端形状を、略半円弧状に切り欠いた点、(キ-2)下腿部形状を、本件登録意匠は、略丸棒状のやや先細りのまま、前面側を、側面視直線状とし、上部先端形状を、側面視略円弧状に、背面視上端中央を略細幅縦長倒コ字状溝に形成したのに対して、甲号意匠は、やや先細り略丸棒状の下方僅かに先太として、足を僅かに覆い、前面側を、側面視極めて緩やかな凹弧状の略直線状とし、上部先端形状を、側面視後方を高くした略傾斜状に、背面視上端をほぼ横幅一杯に略凵状に切り欠いた点。
4.本件登録意匠と甲号意匠の類否判断
以上の本件登録意匠と甲号意匠の共通点及び差異点を比較検討して、両意匠の類否を意匠全体として判断する。
まず、人形用胴体の使用の目的、使用の状態等を考慮すると、この種人形用胴体は、需要者である看者が、手にとって人形用胴体に頭部を付けたり、各部材の交換、組立もでき、さらに、衣服を着せながらイメージするキャラクターを完成させていくものであって、また、胴体部、腕部、脚部等の各部が屈曲、回動可能な可動式の人形用胴体であり、人形用胴体の各部を動かしながら、その可動の範囲を確認することも、看者にとっては重要な要素となる。そして、衣服を着用させた状態の人形を想定しても、看者は、人形の正面のみの姿勢だけに関心を持つのではなく、人形の動きによる姿態や着衣のし易さ等も充分考慮しながら、人形用胴体に着目することになる。したがって、この種人形用胴体は、正面だけでなく、背面、側面等を含め全体を視認して、意匠を認識するものであると認められる。
そこで、両意匠の共通点についてみると、基本構成態様である(1)の全体の構成態様及び(2)の全体の外郭形状は、全体にわたるところの構成態様であるが、この種人形の分野が、特に人間の特徴に基づいた態様を追求するという制約ある分野であって、(1)について、人体の構造を倣うように、人体に当たる各部が関節部を介して連結して構成され、各部が可動状に変化することは、この種人形の分野において、例示するまでもなく、極普通に見られる態様である。また、胴体部の三分割構成も、例えば、雑誌「フィギュア王」(ワールドフォトプレス社1998年7月発行、no.13、ワールド・ムック162号)第90頁やや右寄り中央の変身サイボーグ一号の人形の意匠(別紙第3参照)、雑誌「ホビージャパン」(株式会社ホビージャパン1998年8月1日発行8月号No.350)広告欄の表示「ボークス フィギュアシーン無限!」の人形の意匠(別紙第4参照)、雑誌「ホビージャパン」(株式会社ホビージャパン1999年2月1日発行2月号No.356)第112頁上欄の表示「エクセレント」「ASF」の人形等の意匠(甲第20号証)、雑誌「ホビージャパン」(株式会社ホビージャパン1999年5月1日発行5月号No.359)第286頁右上の人形等の意匠(甲第5号証)のように、多数刊行物に掲載され、広く知られた態様となっているものであることから、格別の特徴を有するものではなく、また、(2)についても、成人女性裸体に近似した流線的な肉付けを施すことは、人体を倣うものとして、当然のことで、人間の形態を殆どそのまま忠実に表現したまでのものであり、結局、共通点(1)及び(2)は、格別の特徴を持つものではなく、看者の注意を惹くところではない。
また、具体的構成態様について、共通点(3)の首部形状は、胴体部と一体の首部部分は、人体の首の態様を殆どそのまま表現しながら、人形用頭部を取り付けるため上方に一寸延長したまでで、特徴とは言えず、また、その上端面から突出する頭部連結部材形状も、全体から見ると、局所的箇所であり、看者の注意を惹くところではない。
共通点(4)の胴体部の上胴部・中胴部・下胴部形状は、人体に基づいて、人間の形態をそのまま忠実に表現したものが殆どで、人形用胴体として特有の態様が表現される部分の形状を見ても、すなわち、(4-1)の上胴部の肩部両側は、肩部の穿設による点で共通するだけで、また、(4-1)の上胴部正背面視下端の窪み、(4-3)の下胴部正背面視上端の窪み、(4-3)の下胴部正面視股付け根部分の窪みの形成は、上記引用した雑誌「ホビージャパン」(株式会社ホビージャパン1998年8月1日発行8月号No.350)掲載の意匠や甲第20号証の意匠のように多数刊行物に掲載され、既に広く知られた態様であり、かつ、逆略山形状も略円弧状も、この種人形の分野において端部の形状としてありふれた形状であることから、結局、共通点(4)の胴体部形状は、格別特徴ある形状とは言えず、看者の注意を惹くところではない。
共通点(5)の腕部形状は、人間の腕部の形態を殆どそのまま表現したもので、人形用胴体として特有の態様が表現される部分の形状を見ても、すなわち、(5-2)前腕部の下端の水平状も、局所的箇所の態様にあって、この種人形の分野において普通に見られる形状であり(例えば、雑誌「ホビージャパン」1998年12月1日発行12月号119頁記載の腕部の意匠、甲第20号証等参照)、格別特異な形状を示すものとは言えず、さらに、(5-4)の上腕部と前腕部の連結を示す、肘関節部の露出した丸味を帯びた形状も、局所的箇所の態様における、この種人形の分野において普通に見られる構成態様であり(例えば、意匠登録第942255号、雑誌「ホビージャパン」1998年12月1日発行12月号119頁記載の腕部の意匠、甲第20号証等参照)、また、前腕部と手部の連結を示す手関節部形状も、僅かな隙間に設けられる局所的箇所であることから、結局、共通点(5)の腕部形状は、格別特徴ある形状ではなく、看者の注意を惹くところではない。
共通点(6)の脚部形状は、人間の脚部の形態を殆どそのまま表現したもので、人形用胴体として特有の態様が表現される部分の形状を見ても、すなわち、(6-1)大腿部下端と(6-2)下腿部上端の形状も、端部の局所的箇所の態様にあって、この種人形の分野において普通に見られる態様であり(例えば、上記引用の雑誌「ホビージャパン」株式会社ホビージャパン1998年8月1日発行8月号No.350、甲第20号証等参照)、格別特異な形状を示すものではなく、さらに、(6-4)の大腿部と下腿部の連結を示す、膝関節部の正面視略半楕円状形状も、局所的箇所の態様における、この種人形の分野において普通に見られる構成態様であり(甲第20号証等参照)、また、下腿部と足部の連結を示す足関節部形状も、僅かな隙間に設けられる局所的箇所であることから、結局、共通点(6)の脚部形状は、格別特徴ある形状ではなく、看者の注意を惹くところではない。
一方、両意匠の具体的構成態様の差異点についてみると、差異点(ア)と(イ)は、いずれの差異も測定しなければ分からない程の微差であり、その両意匠の比率は、共に人間の形態を表現しようして普通に行われる変更の範囲で、いずれの比率も格別特徴ある比率を示すものではなく、看者の注意を惹くところではない。
差異点(ウ)の連結部分は、交換や組立に直接拘わる部分で、人形用胴体の動くべき可動の状態を確認するためにも、看者が最も注視する部分である。そして、本件登録意匠は、(ウ-1)関節部の固定部分に、ピンを使用していることは、請求人が弁駁書で例示したように、固着の方法として既に広く知られた態様であるものの、そのピンがほぼ全体の多数箇所の外観に表れ、視覚的に目立つものである。さらに、(ウ-4)肩関節部・手関節部・足関節部形状が、上腕部上面、手部上部、足部上部に小矩形状に表れるもので、甲号意匠の、固定ピンと関節部小矩形状が外観に現れず、かつ、(ウ-5)胴体部及び大腿部の固定部分に、本件登録意匠には設けられない、ネジ止め凹部を数カ所設けた形状とでは、連結態様が異なるものと明確に認識され、これらの差異点は、看者の格別の注意を惹くものである。また、肘関節部形状(ウ-2)については、本件登録意匠の肘表側に側面視縦小楕円形状に露出させた形状と、甲号意匠の肘裏側に略球形状に露出させた形状とでは、共通点(5-4)の露出した丸味の共通性に止まらず、肘関節部が露出することによって、形状と位置に顕著な相違が視認でき、異なる可動状態を強く印象付けるものであり、看者の格別の注意を惹くところである。膝関節部形状(ウ-3)については、共通点(6-4)の正面視半楕円形状膝皿部で共通したとしても、特に連結態様が表れる背面側において、形状が全く異なり、異なる可動状態を強く印象付けるものであり、その差異は流線的な肉付けの中で顕著に目立ち、看者の格別の注意を惹くところである。
差異点(エ)の頭部連結部材形状の差異は、頭部連結部材部分の先端の僅かな凹凸の有無に過ぎず、全体に対して極めて局所的な箇所であり、看者の注意を惹くところではない。
差異点(オ)の胴体部について、(オ-1)上胴部の背面肩部形状の差異は、本件登録意匠の凹湾曲形状も緩やかなもので、通常の斜視状態から見て、明確な差となって視認できるものではなく、肩部両側端部も、局所的な箇所で、上腕部を挿入するための穿孔による僅かな差異に過ぎず、看者の注意を惹くところではない。しかし、(オ-2)中胴部形状の差異は、いずれの形状も、人間の中胴部の形態を殆どそのまま表現したもので、格別特徴ある形状ではなく、また、共通点である(4-2)略楕円柱状が、格別特徴ある形状と言えないにしても、本件登録意匠は、立体的な凹凸曲面を持つくびれ部を形成し、均衡ある骨格を強調したのに対して、甲号意匠は、やや単調となる楚々とした強固な輪郭を形成し、看者に視覚的な異なる印象を生じさせるものである。
差異点(カ)の腕部について、(カ-1)上腕部形状の差異は、上胴部肩部に連結する上部部分が、腕部の可動範囲に及ぼす箇所で、看者が注目するところで、本件登録意匠が、人体に近似し、脇の下部分を幅狭とし、肩部から上腕部へとなだらかとしたのに対して、甲号意匠が、水平部を有して、脇の下部をやや幅広とし、肩部から上腕部へとやや角張って独自の形状を形成しており、看者に異なる印象を与え、看者の格別の注意を強く惹くところであり、また、(カ-1)上腕部の下部と(カ-2)前腕部の上部による肘部分形状の差異は、本件登録意匠の分割部が、水平方向に回動する摺動面と考えられ、上腕部下部先端形状と前腕部上部先端形状との、肘関節部を収める凹部形状も、外側側面と内側側面とで、その形状も明らかに異なるもので、屈曲、回動可能な可動範囲が確認でき、実際の可動の状態も異なるものであるから、人体の通常の体型の差異を超えた顕著な差異となり、看者の格別の注意を惹くところである。さらに、(カ-2)の前腕部下部形状の差異は、いずれの形状も、人間の前腕部の形態を殆どそのまま表現したもので、格別特徴ある形状ではなく、また、共通点である(5-2)の先細り丸棒状が、格別特徴ある形状でないにしても、本件登録意匠が、略丸棒状のやや先細りのまま、やや湾曲面の変化に乏しく、やや骨太とするしっかりした骨格を強調した、やや硬い印象をもたらすのに対し、甲号意匠が、略丸棒状のやや先細りの下方僅かに先太とし、下方を細めに絞り込み、滑らかな凹凸曲面を付け、しなやかな印象を与えるもので、看者に視覚的な異なる印象を生じさせるものである。
差異点(キ)の脚部について、(キ-1)大腿部形状の差異は、下胴部股付け根部に連結する上部部分が、脚部の可動範囲に及ぼす箇所で、看者が注目するところで、本件登録意匠が、略半球状で、殆ど隙間を形成していないのに対して、甲号意匠が、緩やかな湾曲面状の斜面状とし、大きな隙間を形成するもので、正面視の状態で、その差異を明確に視認でき、看者に異なる印象を与え、看者の格別の注意を惹くところである。また、(キ-1)の大腿部の背面視下部と(キ-2)下腿部の上部による膝部分の形状の差異は、特に、膝部分の連結状態を表す膝裏部分の形状である、本件登録意匠の連結片を嵌め込む溝を形成するものと甲号意匠の内側に連結具を収める開口空間を形成するものとでは、全く形状を異にし、屈曲、回動可能な可動範囲を確認するための箇所で、実際の可動の状態も異なってくることから、看者の格別の注意を惹くところである。さらに、(キ-2)の下腿部下部形状の差異は、いずれの形状も、人間の下腿部の形態を殆どそのまま表現したもので、格別特徴ある形状ではなく、また、共通点である(6-2)の先細り丸棒状が、格別特徴ある形状でないにしても、本件登録意匠が、略丸棒状のやや先細りのまま、やや湾曲面の変化に乏しく、やや骨太とするしっかりした骨格を強調した、やや硬い印象をもたらすのに対し、甲号意匠が、やや先細り略丸棒状の下方僅かに先太とし、下方を細めに絞り込み、滑らかな凹凸曲面を付け、しなやかな印象を与えるもので、看者に視覚的な異なる印象を生じさせるものである。
したがって、共通点及び差異点を総合してみると、共通点における基本的構成態様(1)全体の構成態様、(2)全体の外郭形状、及び具体的構成態様(3)首部形状ないし(6)脚部形状は、両意匠の全体に係る構成態様であるが、いずれも、格別特徴ある形状ではなく、看者の注意を惹くところではない。これに対して、差異点である具体的構成態様のうち、特に、差異点(ウ)連結の態様、(カ)腕部の(カ-1)上腕部上部形状、(カ-1)上腕部下部と(カ-2)前腕部上部との肘部分形状及び(キ)脚部の(キ-1)大腿部上部形状、(キ-1)大腿部下部と(キ-2)下腿部上部との膝部分形状の差異は、いずれも人形用胴体の連結部分であって、露出しており、屈曲、回動可能な部分で、看者が注視するものである。そして、本件登録意匠の、流線的な肉付けの中で、(ウ-1)小円形ピンや(ウ-4)小矩形状関節部の、大きさが小さいものであっても、看者の目に留まりやすい腕部と脚部の連結部分に集中して設けられ、また、上腕部上部形状、肘関節部を含めた腕部の肘部分形状、大腿部上部形状及び膝関節部を含めた脚部の膝部分形状の差異を伴って、組立状態や可動状態を示唆する表現として、甲号意匠には見られない形状であって、看者に顕著に異なる印象を与えるものである。さらに、(オ-2)中胴部形状、(カ-2)の前腕部下部形状及び(キ-2)の下腿部下部形状の差異がもたらす異なる印象とが加わって、別異感が増幅され、両意匠は、異なる美感を起こさせるものと認められる。
したがって、本件登録意匠は、甲号意匠と、意匠に係る物品が一致するが、形状について、差異点が共通点を凌駕するものであって、美感が相違し、類似しない。
5.結び
以上のとおりであり、本件登録意匠は、甲号意匠に類似する意匠ではなく、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しない。
したがって、請求人の主張および証拠方法によっては、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2006-04-24 
結審通知日 2006-04-27 
審決日 2006-05-12 
出願番号 意願2002-27411(D2002-27411) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (E1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斉藤 孝恵 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 樋田 敏恵
杉山 太一
登録日 2003-08-15 
登録番号 意匠登録第1186782号(D1186782) 
代理人 安藤 順一 
代理人 上村 喜永 
代理人 岩木 謙二 

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