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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) F2
管理番号 1157243 
判定請求番号 判定2006-60042
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-06-29 
種別 判定 
判定請求日 2006-08-25 
確定日 2007-05-01 
意匠に係る物品 ルースリーフ綴じ具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1033214号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ルースリーフ綴じ具」の意匠は、登録第1033214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1. 請求の趣旨及び理由
判定請求人(以下、請求人という。)は、「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、登録第1033214号意匠(以下、本件登録意匠という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証(本件登録意匠公報写し)及び甲第2号証(イ号図面写し)を提出した。
その理由は、概ね次のとおりである。
1.本件登録意匠とイ号意匠の共通点
意匠に係る物品が「ルースリーフ綴じ具」で一致し、基本的な構成態様において、
A.両意匠ともに、細長いほぼ矩形の二重板構成の基部と、基部上に長手方向一定間隔で多数設けられたほぼ半円形のリング部と、基部の裏面に左右方向にスライド移動可能に設けられたリンク板とからなり、
B.リンク板の右端部は通常は基部の右端に接しており、このリンク板右端部には上方に凸となる突起が存在し、この突起を指で右方に引くことにより、リンク板右端部が基部右端から離れ、基部の二重板が短手方向に互いに平行にスライドして基部の幅が拡大し、この基部幅の拡大に伴い、各リング部が短手方向に二分割され、各対応するリング半体同士間に間隙が生じる。
具体的な構成態様において、
C.両意匠ともに、リンク板を右方に完全に引き出した状態で、リンク板の基部から突出する長さは、リングーリング間ピッチ2、3個分程度であり、
D.引き出されたリンク板部分には、長円を割ったような開口部が現れ、
E.突起の基端部となるリンク板右端部の厚さ及び幅は、リング閉状態時の基部と同程度あり、
F.また、突起の形状は上方の二つの角が丸み付けされたほぼ矩形板状であり、
G.突起の基部からの突出高さは、リング部の突出高さの約半分程度であり、突起の短手方向幅は基部よりも若干短くされ、
H.更に、リング部の半円形は、真円の半体の両端を平行にわずかに延長させた形状である。
2.本件登録意匠とイ号意匠の差異点
a)リング部の数が、本件登録意匠は26体であるのに対し、イ号意匠は30体である。
b)基部から引き出されたリンク板が、本件登録意匠は、基部の二重板のうちの上方の板に対応して上方に位置するのに対し、イ号意匠は、基部の二重板のうちの下方の板に対応して下方に位置する。
c)リング部を開放した状態で、本件登録意匠は、基部の左方端部に基部上下板がずれても段差が生じないのに対し、イ号意匠は、基部の左方端部に基部上下板がずれて段差が生じる。
d)短手方向に開いた状態のリング部の対応する半体の一方の半リング端に現れる微小突起が(他方の半リング端にはリング閉時に微小突起を受け入れる微小凹部がある)、本件登録意匠は、すべて短手方向上方の半リング端にあるのに対し、イ号意匠は、リング部一つおきに上下の半リング端で交互となる。
e)基部底面において、リンク板が、本件登録意匠では、短手方向上方側にて長手方向に延在しているのに対し、イ号意匠では、短手方向下方側にて延びている。また、本件登録意匠におけるリンク板は、長手方向に延在する部分の下辺に、台形状の段を複数有しているのに対し、イ号意匠におけるリンク板の長手延在部分には段がない。
f)本件登録意匠において、右側面拡大図(及び右側面図)に見られるように、上記突起の右側面(右側面から見た正面)に、突起外郭線の内側に突起外郭線とほぼ平行で突起とその基端部に連続する、矩形で上辺の両端の角が丸くされた線が見えるのに対し、このような線はイ号意匠にはない。
3.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
3-1.本件登録意匠の要部について
この種物品における意匠上の創作の主たる対象の一つは、リング部を閉じた状態の底面を除く全体形状にあり、この状態で物品が販売展示され、その際、底面は看者の目に触れない。また、リング部を開放した状態及びこれを開放可能とする機構部分にも特徴があり、本件登録意匠については、突起を含むリンク板、特にその引き出された状態や、二重板構造の基部が上下に平行にずれて拡幅した状態及びこれに伴って平行移動のみして互いに離隔した状態のリング半体は、他に全く見られない形態である。
3-2.本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
両意匠は、基本的な構成態様においてほぼ共通しており、両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるのに対し、差異点a)のリング数の違いは、単に適用されるノートサイズの規格が異なることに起因するものであり、この点に実質的な差異はない。差異点b)については、基部から突出したリンク板の位置が両意匠では上下反対であるとしても、基部に対するリンク板の突出態様が両意匠とも酷似しており、これに比べて上下の差異は特段顕著な相違とはいえず、類否の判断に与える影響は微弱である。差異点c)及びd)も特段顕著な相違とはいえず、類比の判断に与える影響は微弱である。差異点e)について、基部の底面は、バインダー側に固定され、看者の目に触れないため、類比判断に与える影響は少ない。差異点f)について、かかる突起内側の線は細線であり、実際上類比判断に与える影響は少ない。
以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。

第2.被請求人の答弁
判定被請求人(以下、被請求人という。)は、「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、登録第1033214号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める。」と答弁し、証拠として、乙第1号証を提出し、要旨以下のとおり主張した。
その理由は、概ね次のとおりである。
1.以下に示す(1)?(6)の点において、本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に重大な影響を与える差異点が存在する。
(1)基部上面に等間隔で閉口された3つの孔
本件登録意匠では二重板構造の基部上面に3つの孔が等間隔で閉口されている。これに対し、甲第2号証の平面図に示されるとおり、イ号意匠ではこれに相当する孔は存在しない。イ号意匠ではリング部を開いたときに、はじめて取付孔が現われる形態である。
ルースリーフ綴じ具の目的、用途、使用態様から、基部上面に等間隔で開口された3つの孔が看者の目に最も触れる部位に位置し、これらの存否が看者に全く異なる印象を与えることは明白である。
そして、ルースリーフ綴じ具の場合、看者が最終需要者(バインダーの利用者)である場合には、前記したような孔付きノートを差し込んだり固定したりするときに印象付けられる美観をもって一つの判断基準とすれば足りるが、ルースリーフ綴じ具を購入してバインダーを組み立てる製造業者あるいは取引業者が看者である場合には、固定手段の構成に関心を示すことは当然で、この場合には基部上面に等間隔に開口された3つの孔の存否が看者に異なる印象を与えることは明白である。
仮に3つの孔がルースリーフ綴じ具をバインダーに固定する際に利用されるものではなく、単なるアクセントを与えるデザイン的なものであったとしても、ルースリーフ綴じ具を購入してバインダーを組み立てる製造業者あるいは取引業者ならば、上記した判定被請求人と同様な視点から、基部上面に等間隔に開口された3つの孔を観察するはずである。
(2)基部底面の形状
請求人は、「この種物品における意匠上の創作の主たる対象の一つは、リング部を閉じた状態の底面を除く全体形状にあり、(省略)」と、さらには、「基部の底面は、バインダー側に固定され、看者の目には触れないため、類否判断に与える影響は少ない。」と主張しているが、本件登録意匠における意匠に係る物品はルースリーフ綴じ具であって、バインダーに固定された状態のルースリーフ綴じ具ではないから、基部の底面が看者の目に触れないということはない。前記したように看者の中には製造業者や取引業者が含まれることから、基部の底面が看者の目に触れないということはなく、基部底面の形状も類否判断に影響を与えるものである。
そして、イ号意匠の基部底面は直線を基調とした単純かつ簡素な形状をしている一方、本件登録意匠の基部底面は複雑な構成である。
(3)基部拡幅時のスライド方向
リング部を開こうとリンク板を引き出すと、本件登録意匠ではリンク板を基準に下方に、イ号意匠ではリンク板を基準に上方にスライドして基部が拡幅されるが、これは類否判断に重大な影響を与える差異点である。
例えば、右利きの人がバインダーに固定されていない本件登録意匠に係る綴じ具を開こうとした場合と、イ号意匠に係る綴じ具の場合の場合とでは、指や手の添え方が異なるから、この差異は看者に対し無視できない印象を与えるものである。
(4)リンク板右端部に立設する突起の形状
請求人は、両意匠の共通点として、「突起の形状は上方の二つの角が丸み付けされたほぼ矩形板状であり、突起の基部からの突出高さはリング部の突出高さの約半分程度であり、突起の短手方向幅は基部よりも若干短くされ、(省略)」と主張しているが、イ号意匠に係る突起の形状は、ほんのわずかに上方の二つの角が丸み付けされた程度のものであり、本件登録意匠と比較すると矩形と言って差し支えないものである。また、突起の短手方向幅については、イ号意匠が基部の6割程度、本件登録意匠が基部の8割程度と大きく異なる。
(5)リング板開放時に基部左端部に生ずる段差の有無
リング板開放時に基部左端部に生ずる段差の有無について、請求人は、特別顕著な相違とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱であると主張しているが、本件登録意匠ではリング板開放時に基部左端部に段差が生じないことから、看者は基部がスライドして拡幅したと言う印象を受けるのに対し、イ号意匠では、リング板開放時に基部左端部に段差が生じることから、看者は下側の基部から上側の基部が飛び出したと言う印象を受けるのであり、この相違は看者に異なる印象を与えるものである。
(6)本件登録意匠の要部認定
請求人は、本件登録意匠の要部について、「また、リング部を開放した状態及びこれを開放可能とする機構部分にも特徴があり、本件登録意匠については、突起を含むリンク板、特にその引き出された状態や、二重板構造の基部が上下に平行にずれて拡幅した状態及びこれに伴って平行移動のみして互いに隔離した状態のリング半体は、他に全く見られない形態である。」と主張しているが、乙第1号証(公開特許公報 特開平7-101192)に示すとおり、上記形態は、本件登録意匠に係る意匠登録出願日(平成9年5月2日)より遡ること約2年前の平成7年4月18日に出願公開されており、他にまったく見られない形態ではなく、ありふれたものである。そして、意匠法の第一義的な目的は、意匠の創作の保護にあるから、意匠の類否は新しい価値の創造があったか否かから判断すべきであり、周知・公知の形状、模様等に創作性を認めることはできないから、意匠の類否判断に際しては、上記形態は要部から除外されるべきである。

第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成9(1997)年5月2日に出願され、平成10(1998)年12月11日に意匠権設定の登録がなされた意匠登録第1033214号であって、願書及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「ルースリーフ綴じ具」とした意匠であって、その形態を願書及び同図面記載のとおりとしたものである(別紙第1参照)。

2.本件登録意匠の形態
本件登録意匠は、(A-1)上面長手方向に凹部を有する固定板と、固定板の該凹部上に重ねられた可動板とによる二重板構成の略細長矩形状基部と、該基部上面に長手方向(以後、リング列設方向を「長手方向」、これと直交する方向を「幅方向」という。)一定間隔で多数列設された略半円形リング部と、固定板の下側に長手方向にスライド移動可能に設けられたリンク板とからなり、(A-2)リング閉状態では、基部上面に固定板と可動板を分割する長手方向全長に延びる境界線が表れ、この境界線において、平面視で上方に位置する固定板と、同下方に位置する可動板とが基部上面で互いに面一状に接し、その基部上面の長手方向両縁部を基点に略半円形状リングが形成され、リンク板の右端部は基部右端に接し、リンク板をスライド移動させるための摘みとしての略板状突起が、リンク板右端部中央に上方へ突出状に表され、(A-3)リング開状態では、リンク板はスライド移動して右方に引き出され、固定板と共に基部上面を構成していた可動板が、接していた固定板から離間し、幅方向に平行スライドして拡幅し、可動板が収まっていた固定板上に凹部が現れると共に、略半円形リングが幅方向に二分割され、各対応するリング半体同士間に間隙が生じ、固定板と可動板のそれぞれにリング半体が表されるとした基本的構成態様のものであって、
具体的態様を、
(B)リンク板について、(B-1)右端部中央の略板状突起は、リング閉状態の基部と同幅及び厚さの上面視略縦長矩形状の摘み基端部上に形成し、該略板状突起の突出高さをリングの突出高さの約半分程度とし、その幅を基部幅よりも僅かに幅狭とし、さらに、該板状突起の基部側表面は僅かに凹面状に、反対の外側表面を僅かに凸球面状とし、(B-2)リンク板の本体形状について、底面視で、幅方向の上方側に長手方向への長い延在部を設け、該延在部下辺に台形状突出部を複数形成し、
(C)リングについて、(C-1)リングの略半円形は、真円の半体の両端(根元部)を平行にわずかに延長させた形状とし、根元側の太さを太くし、(C-2)その数を全体で26体とし、(C-3)リング開状態のリング半体は、固定板側の半リング体端部に微小突起が現れ(他方の半リング端にはリング閉時に微小突起を受け入れる微小凹部がある)、
(D)リング閉状態について、(D-1)基部幅に占める固定板と可動板の構成比率を約1:3とし、同長手方向における長さは同じで、共に帯状の横長長方形状とし、(D-2)基部上面の左右両端部をリングを設けない余地部とし、該部を両端部へ向かう下がり傾斜面状とし、左端部平面視形状をごく緩やかな弧状とし、長手方向に伸びる両縁角部を丸く面取りし、(D-4)基部上面の長手方向に3個の平面視二重丸状円孔を等間隔に設け、
(E)リング開状態について、(E-1)可動板は下方に拡幅され、(E-2)可動板が拡幅した後の固定板上に、長手方向全長に伸びる凹部が現れ、該凹部上に3個の小円孔と各々同形状の縦長区画部3個と短い横長区画部4個が現れ、(E-3)右方に引き出されたリンク板本体の突出長さはリング間のピッチ幅の約2、3個分で、基部側に長円を割ったような開口部が現れる、としたものである。

3.イ号意匠
イ号意匠は、「イ号図面」(甲第2号証)に示された「ルースリーフ綴じ具」の意匠であって、その形態を同図面記載のとおりとしたものである(別紙第2参照)。
なお、請求人は、判定請求書において、イ号意匠の説明を行っている。

4.イ号意匠の形態
イ号意匠は、基本的構成態様を本件登録意匠と同じとし、
(a)リンク板について、(a-1)略板状突起の幅、及び、表面形状、(a-2)リンク板の本体形状について、延在部の形成が下方側で、該延在部上辺に突出部が無く、
(b)リングについて、(b-1)リングの略半円形に平行部は無く、太さは均一であり、(b-2)その数を全体で30体とし、(b-3)リング開状態でのリング半体端部の微小突起は固定板側と可動板側に交互に現れ、
(c)リング閉状態において、(c-1)基部上面における固定板と可動板の境界線形状が横長の「凵」状であって、固定板形状も横長の「凵」状で、可動板はその内側に収まる大きさの、長手方向の長さが固定板よりも短い帯状横長長方形状で、(c-2)基部の左右両端余地部形状、長手方向両縁部の面取り形状、(c-3)基部上面部の円孔の有無、
(d)リング開状態において、(d-1)可動板の拡幅方向、(d-2)可動板が拡幅した後に現れる固定板の凹部形状(イ号意匠の基部上面を構成する固定板は横長の「凵」状であるため、可動板が拡幅した後に現れるイ号意匠の凹部は、その横長「凵」状部に囲まれた部分であり、左右両端部がもとの高さであるため、左右両端部に、請求人、被請求人が言うところの、段差が現れる。)以外は、その具体的態様を本件登録意匠と同じとしたものである。

5.本件登録意匠の要部について
意匠の類否を判断するにあたっては、両意匠の構成を全体的に観察した上、更に公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者、需要者が最も注意を惹く意匠の構成、すなわち要部がどこであるかを認定し、その要部に現れた意匠の形態が看者に異なった美感を与えるか否かによって判断すべきである。そして、この種物品においては、中でもリング開状態の態様は、まさにその点において様々な創作が成されてきたところであるから、取引者、需要者が最も注意を惹かれると言えよう。
そこで、まず、本件登録意匠における公知意匠にはない新規な創作部分の存否について検討すると、
(A-1)ないし(A-3)による基本的構成態様については、意匠全体の骨格を成すものであるが、この態様は、例えば、公開実用新案公報実開昭53-101819、公開特許公報特開平7-101192等に明らかなように、本件登録意匠の出願前に既に普通に知られているものである。
次に、具体的態様については、
(B)リンク板について、(B-1)略板状突起を、リング閉状態の基部と同幅及び厚さの上面視略縦長矩形状の摘み部上に形成し、その突出高さをリングの突出高さの約半分程度とし、その幅を基部幅よりも僅かに幅狭としたことについては、まず、このような幅と厚みの摘み基端部状のものを形成した例は、公開実用新案公報実開昭51-63418、同実開昭62-136371等に見られるものの略板状突起を設けていないので本件登録意匠とは相違し、また、リンク板右端部中央にリンク板幅よりも幅狭な略板状の上向き突起を設けたものは、例えば先の公開特許公報特開平7-101192等に見られるものの、本件登録意匠のように摘み基端部を形成してはいない。したがって、本件登録意匠の摘み部形態は、公知意匠にはない新規な創作部分と言えるものである。
しかし、(B-2)リンク板本体形状については、先の公開実用新案公報実開昭53-101819のリンク板本体に、その数は相違するものの、突ピンと称する凸部を設けてたものが既に見出せるが、通常このような機構部についてはファイル表紙体に取り付けられた使用時において隠れてしまうもので、意匠評価上さほど注目されるものではなく、
(C)リングについて、(C-1)その形状や、(C-2)数は、例を挙げるまでもなくありふれており、(C-3)リング半体端部の微小突起の形成位置については、もともと細部であるが、公開実用新案公報の実開昭52-37525に既に見られ、
(D)リング閉状態の態様について、(D-1)基部上面における固定板と可動板の態様については、例えば先の公開実用新案公報実開昭51-63418や、同実開昭53-101821等に明らかなように、従来より普通に見られる態様であり、(D-2)基部上面の左右両端部や長手方向両縁部の態様については、細部にわたる態様であるが、例えば公開特許公報特開平8-337088に端部を丸み付けした態様が表されており、(D-3)基部上面部の円孔形成は、先の公開実用新案公報実開昭51-63418に既に見られ、
(E)リング開状態の態様について、(E-1)可動板の下方への拡幅は、先の公開実用新案公報実開昭62-136371、同実開昭53-101821等に明らかなように従来より普通に見られ、(E-2)可動板拡幅後の固定板凹部形状は、(D-1)で示した固定板及び可動板の形状と表裏一体の関係で、先に指摘したとおりであり、(E-3)右方に引き出したリンク板本体については、注意を惹くことのない細部であるが、基部側に開口部が現れるものは、先の公開実用新案公報実開昭53-101819、公開特許公報特開平8-52975に既に見られることから、これらの態様には格別に新規な創作部分が見受けられるものではない。
すなわち、基本的構成態様や各具体的構成態様のうち、本件登録意匠の新規な創作部分は、リンク板摘み部形態にのみ認められるものである。しかし、この種物品において取引者、需要者が最も注意を惹くところについて検討すると、該摘み部は全体の中ではごく一部を占めるに止まり、一定程度の注意を惹くことはあっても、全体から切り離されて特別に注意を惹くという根拠もないから、取引者、需要者の注意を惹く本件登録意匠の要部は、新規な創作部分である摘みを、既に公知の態様であった基本的構成態様及び各具体的態様に組み合わせて表した、全体の態様にあると言える。

6.両意匠の対比
イ号意匠の、本件登録意匠との共通点および差異点は、「4.イ号意匠の形態」で示したとおりであり、本件登録意匠の具体的態様のうち、
(B)リンク板について、(B-1)略板状突起の幅と、基部側と外側の表面形状、(B-2)リンク板本体形状、
(C)リングについて、(C-1)リング略半円形の形状、太さ、(C-2)その数、(C-3)リング開状態での微小突起の形成位置、
(D)リング閉状態について、(D-1)基部上面の可動板と固定板の形状、(D-2)基部の左右両端余地部形状や、長手方向両縁部の面取り形状、(D-3)基部上面の円孔の有無、
(E)リング開状態について、(E-1)可動板の拡幅方向、(E-2)可動板が拡幅した後の固定板上に現れる凹部形状、(E-3)引き出されたリンク板本体に開口部が現れるか否かにおいて、イ号意匠は本件登録意匠と相違し、その他の各具体的態様と基本的構成態様は、両意匠共通である。

7.類否判断
本件登録意匠は、リンク板の摘み部形態がこれまでの公知意匠には見られない新規なものであるが、基端部を含めた摘み部全体の形態はリンク板を右方に引き出した時に初めて全容が明らかとなるものである。リング閉状態にあっては、摘み基端部は基部に段差無く接しているから全容は看取しづらく、上方に突出する板状突起部分はリング閉状態でも目に付きやすいとしても、摘み部全体の形態が目立つとは言えない。そして、この種物品においては、取引者、需要者の注意は、様々な創作が成されてきたリング開状態の態様に向けられるものであるから、本件登録意匠の要部は、基本的構成態様及び各具体的態様に該摘み部を組み合わせた全体の態様にあると言わざるを得ない。ところが、請求人は、本件登録意匠の要部について、「本件登録意匠については、突起を含むリンク板、特にその引き出された状態や、二重板構造の基部が上下に平行にずれて拡幅した状態及びこれに伴って平行移動のみして互いに離隔した状態のリング半体は、他に全く見られない形態である」としている。しかし、このような態様は前記したとおり、本件登録意匠の出願以前から普通に見られるので、本件登録意匠の要部とは到底言えない。
そこで、さらにイ号意匠を本件登録意匠と対比し、イ号意匠が本件登録意匠の要部を採用したものであるのか否か、そしてその結果、両意匠の美感も共通するのか否かについて検討する。
まず、(B)リンク板について、(B-1)略板状突起の幅や基部側と外側表面形状の差異については、注視して初めて明らかとなる局所的差異であり、共に略板状突起を摘み部上に基部幅よりも小さく設けていて共通しているので、イ号意匠の摘み部は本件登録意匠の摘み部に近似していると言わざるを得ない。
(B-2)リンク板本体形状の差異は、機構部に関し、ファイル表紙体に取り付けた状態で看取できるものではなく、取引者にはともかく、需要者へ向けた視覚効果は見出せないので、類否判断に及ぼす影響は微弱と言わざるを得ない。
(C)リングについて、(C-1)リング略半円形の形状、太さ、そして(C-2)その数、(C-3)リング開状態でのリング半体端部の微小突起の形成位置の差異は、共にありふれた態様であり、かつ、微細な部分の差異であるから、類否判断を左右するものではない。
(D)リング閉状態について、(D-2)基部左右両端部の余地部上面部形状や、左端部平面視形状、長手方向に伸びる両縁部の面取り形状の差異は、その部位が細部であると共に通常行われる端部処理の態様であるから、類否判断に影響を及ぼすことはないが、(D-1)基部上面における可動板と固定板の形状の差異、そして(D-3)基部上面の円孔の有無の差異については、大きな面積を占め、目に付きやすい基部上面に係るもので、これと表裏一体の、(E)リング開状態の(E-2)可動板拡幅後に現れる凹部形状の差異、すなわち、基部拡幅態様の差異と相まって、取引者、需要者の注意を惹くので、類否判断に大きな影響を及ぼすものと言える。
しかし、(E-1)可動板の拡幅方向の差異は、上下どちらに拡幅するものであっても、共に幅方向に平行スライドするので、視覚効果上は余り変わりはなく、(E-3)引き出されたリンク板本体の基部側に開口部が現れるか否かの差異は、局所的差異であって類否判断を左右するものではない。
以上を総合すると、両意匠は、リンク板の摘み部形態は確かに近似しているが、基部上面を構成する固定板と可動板のリング開放時の態様について、本件登録意匠が、基部上面の固定板と可動板の形状を、同じ長さの帯状の横長長方形状とし、拡幅時にはあたかも基部が幅方向に割れるかのような様相を示すのに対して、イ号意匠が、固定板は横長の略「凵」状で可動板はその中に収まる帯状の横長長方形状としているので、三方を固定板に囲まれ収まっていた可動板が、拡幅時には固定板から引き出されるかのような様相を示すので、このような両意匠の異なる基部拡幅の態様は、共に従来より見られる態様ではあるけれども、この部位は意匠全体の中で大きな面積を占め、目にも付きやすいことから顕著な差異となり、類否判断に大きな影響を及ぼすと言わざるを得ないものである。意匠全体の中では一部にとどまる摘み部形態の共通性だけでは、大きな面積を占める固定板と可動板の態様に係る差異点やその他の差異点を圧して類否判断を支配するところとは成し得ないものである。そして、この種物品ではどのように拡幅するのかは看者の関心事であり、要部を構成する大きな要素であるから、イ号意匠が本件登録意匠の要部をそのまま採用しているとも到底言えない。
以上のとおり、本件登録意匠の基本的構成態様及びほとんどの具体的態様はそれぞれ既に知られているが、唯一摘み部の形態は従来には見られない形態である。しかし、意匠全体の中では小さい部位で、本件登録意匠の要部の一部でしかないから、本件登録意匠の意匠的特徴は、新規な摘み部の形態と基本的構成態様及び各具体的態様が組み合わされて形成された態様にあり、それがこれまでにはない態様として評価され登録されたものであると解される。してみれば、イ号意匠の摘み部形態が本件登録意匠の摘み部形態に近似しているとしても、意匠全体の中で大きな範囲を占める固定板と可動板についての差異は大きく、意匠全体として美感が異なるので、イ号意匠を本件登録意匠に類似するものとすることはできない。

8.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-04-12 
出願番号 意願平9-53095 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (F2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 貴雄川崎 芳孝 
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 正田 毅
樋田 敏恵
登録日 1998-12-11 
登録番号 意匠登録第1033214号(D1033214) 
代理人 渡辺 良幸 
代理人 倉内 基弘 

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