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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) L6
管理番号 1162287 
判定請求番号 判定2007-600031
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-04-12 
確定日 2007-07-26 
意匠に係る物品 建築用パネル 
事件の表示 上記当事者間の登録第1239429号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠は、登録第1239429号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求の趣旨及び理由
請求人は、イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、登録第1239429号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、と申し立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1.意匠に係る物品の点について
本件登録意匠及びイ号意匠に係る物品は、共に建築物ないし建造物の壁部材として用いられる、いわゆる「建築用パネル」であり、その用途及び機能は同一であって、意匠に係る物品が一致するものである。
2.両意匠の共通点について
本件登録意匠とイ号意匠は、基本的構成態様において、以下(1)ないし(3)の点において共通する。
(1)正面図において、複数の凹凸に形成されたリブ状体が長手方向に形成されてなる点。
(2)右側面図において、右側面部は、平滑に形成され、左側面部には、前記(1)で示す複数の凹凸に形成されたリブ状体が形成されてなる点。
(3)右側面図および断面形状において複数の中空部が縦方向に所定間隔で形成されてなる点。
次に、具体的構成態様についてみるに、下記の点において共通する。
(1)正面図において、複数の凹凸に形成されたリブ状体の山部は、左側面部に所定間隔で設けられてなる点。
(2)前記リブ状体は、略台形状に形成されてなる点。
(3)右側面図および断面形状において、設けられた複数の中空部は、縦長長方形状に形成されてなる点。
(4)右側面図において、上端部には、略矩形状の凸状突起体が設けられてなる点。
(5)右側面図において、下端部には、前記凸状突起体に嵌合し得る凹状体が設けられてなる点。
(6)各構成態様における各部の比率において、
a)中空部の横方向長さは、厚みの横方向長さ1に対して、約2分の1の長さである点。
b)リブ状体の山部高さは、厚みの横方向長さ1に対して、約5分の1の長さである点。
3.両意匠の差異点について
具体的構成態様において、下記の点において差異を有する。
(1)正面図の複数の凹凸に形成されたリブ状体の山部は、本件登録意匠では左側面部に所定間隔で20個設けられてなるのに対し、イ号意匠では左側面部に所定間隔で18個設けられている点。
(2)右側面図および断面形状において、設けられた複数の中空部は、本件登録意匠では10個設けられてなるのに対し、イ号意匠では7個設けられてなる点。
(3)各構成態様における各部の比率において、
a)本件登録意匠では、全高の縦方向長さ(上端部に設けられた凸状突起体を除く平端部から)1に対して、縦長長方形状の中空部の縦方向長さは約14分の1の長さであるが、イ号意匠では、全高の縦方向長さ(上端部に設けられた凸状突起体を除く平端部から)1に対して、縦長長方形状の中空部の縦方向長さは約9分の1の長さである点。
b)本件登録意匠では、前記中空部と中空部との間隔の長さは全高の縦方向長さ1に対して、約42分の1の長さであるが、イ号意匠では、前記中空部と中空部との間隔の長さは全高の縦方向長さ1に対して、約40分の1の長さである点。
c)本件登録意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、全高の縦方向長さ1に対して、約39分の1の長さであるが、イ号意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、全高の縦方向長さ1に対して、約37分の1の長さである点。
4.以上の共通点及び差異点を総合して両意匠を全体観察し、その類否について考察する。
前記に示す通り、基本的構成態様は同一であり、また具体的構成態様においても、各部材の寸法及び位置関係もほぼ同じであると共に、両商品は全体的なバランスにおいて共通の印象を与えるものである。
他方、請求人は、リブ状体の山部の個数の差異や中空部の個数の差異、さらには各部材の寸法が異なる部分がある点において必ずしも否定するものではない。
しかしながら、両意匠は、意匠に係る物品が一致すると共に、形態において、共通する基本的構成態様と具体的構成態様が相俟って、両意匠全体の共適する基調を決定づけており、差異点は全体として部分的差異あるいは軽微な差異であって、決して類否を左右するものではなく、全体として、共通点が差異点を凌駕し、圧倒的に類否感を誘発しているものである。
したがって、意匠全体として総合的に観察した場合、本件登録意匠及びイ号意匠から生ずる美感は共通し、イ号意匠は、本件登録意匠に同一又は類似の意匠であるとするのが相当であると信ずる。
なお、意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等も参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきであるので、本件登録意匠の出願前の公知意匠を示す参考文献を念のため提出する(甲第7号証及び甲第8号証)。
5.以上の次第で、イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は、本件登録意匠との差異点を考慮に入れたとしても、それらはいずれも部分的差異というべく、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しているとするのが相当である。
第2.被請求人の答弁及びその理由
被請求人は、イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は、登録第1239429号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める、と答弁し、答弁書に記載のとおり主張し、証拠方法については、本件判定請求人が提出した甲第7号証(周知意匠)及び甲第8号証(公知意匠)を、本件判定請求人の利益に援用するとした。その要旨は、以下のとおりである。
甲第7号証の「JIS」は日本工業標準調査会の審議を経て平成15年6月20日付で制定され、同日付を以て発行された刊行物であり、これに掲載された押出成形セメント板は、本件登録意匠出願前に定められた国家の規格品であり既に周知であったといえる。
先ず、甲第7号証に記載の意匠(以下、「周知意匠」という。)と本件登録意匠とを比較し、その後、本件登録意匠とイ号意匠との対比判断に及ぶ。
1.意匠に係る物品について
周知意匠に係る物品と、本件登録意匠に係る物品は双方共「建築用パネル」であり、その用途及び機能は全く同一である。すなわち、双方の意匠に係る物品は一致する。
2.両意匠の共通点について
先ず、基本的構成態様において、両意匠は共に、本件判定請求人が主張し、そして、本件判定被請求人がその構成を認める本件判定請求書2頁(1)1)記載の本件登録意匠の基本的構成態様と、周知意匠の基本的構成態様は全く共通する。
次に、具体的構成態様を観察すれば、次の点が共通する。
(1)複数の凹凸に形成されたリブ状体の山部は、夫々所定間隔を有して設けられている点。
(2)リブ状体は、略台形状に形成されている点。
(3)複数の中空部は、長手方向に対して周知意匠は横長長方形状に、本件登録意匠は縦長長方形状に形成されている点。
(4)周知意匠においては右端部、本件登録意匠においては上端部に略矩形状の凸状突起体が設けられている点。
(5)周知意匠においては左端部、本件登録意匠においては下端部に前記凸状突起体に嵌合し得る凹状体が設けられている点。
(6)各構成態様における各部の比率において
a)中空部の縦方向の長さ(本件登録意匠の横方向の長さ)1に対して、約2分の1程度の長さである点。
b)リブ状体の山部高さは、厚みの縦方向(本件登録意匠の横方向に相当)に対して約5分の1程度の長さである点。
3.両意匠の差異点について
両意匠は具体的構成態様において下記の点において相違点を有する。
(1)複数の凹凸に形成されたリブ状の山部は、周知意匠は所定間隔で10個設けられているのに対し、本件登録意匠は所定間隔で20個設けられている点。
(2)複数の中空部は周知意匠では8個設けられているのに対し、本件登録意匠では10個設けられている点。
(3)各構成態様における各部の比率
a)本件登録意匠の全高縦方向長さに相当する周知意匠の左右横方向の長さ(右端部に設けた凸状突起を除く平端部分から)1に対し、横方向長方形状の中空部の横方向の長さ(本件登録意匠の縦方向長さに相当)は約10分の1程度の長さであるが、本件登録意匠の縦長形状の中空部の縦方向長さは約14分の1の長さである点。
b)周知意匠では前記中空部と中空部との間隔の長さは横方向全長長さ1に対して約27分の1程度であるが、本件登録意匠では前記中空部と中空部との間隔の長さは全高の縦方向長さ1に対して約42分の1の長さである点。
c)周知意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、横方向全長の横方向長さ1に対して約27分の1程度の長さであるが、之に対する本件登録意匠の各リブ状体の間隔の長さは39分の1の長さである点。
4.以上の共通点及び差異点を総合して両意匠を全体観察し、その類否について考察する。
前述した通り、両者は基本的構成態様は全く同一であり、且つ、具体的構成態様において、各構成部分の寸法関係及び位置関係も略同一であると共に、両者はバランスの面において看者に全く共通した印象を付与するのである。但し、之は周知意匠に対する本件登録意匠の類似判断をしたときの観察であり、この観察と、本件登録意匠とイ号意匠との類否判断にはこの考え方は後述するように適用されるものではない。
又、前記両者の差異点が存在するとしても、この差異点は本件判定請求人も判定請求書6頁4行?10行に主張しているように、両意匠は意匠に係る物品が一致すると共に、形態においても共通する基本的構成態様と具体的構成態様が相俟って両意匠全体の共通する基調を決定づけており、前記差異する構成部分は全体として単なる部分的差異あるいは軽微な差異であって、決して類否を左右するものではなく、全体として共通点が差異点を凌駕し、圧倒的に類否感を誘発しているものである。
従って、意匠全体を総合的に観察した場合、周知意匠及び本件登録意匠から生じる美感は共通し、周知意匠と本件登録意匠とは同一又は少なくとも実質的に同一である。
5.而して、意匠の類否を決するにあたり、当該意匠に公知意匠に基く公知の形状は強く看者の注意を惹く部分でも、他の同様の物品と識別徴表でもないから、その公知の部分(周知の場合はもちろん)は意匠の類似範囲を画定するための要部とはならない。特に、本件においては本件登録意匠の前記共通した基本的構成態様及び具体的構成態様等はすべて国家の規格(JIS規格)によって定められており、従って、公知意匠(周知意匠)にない新規の部分で強く看者の注意を惹くと認められる部分が要部となり、その部分を全体との関係で検討するのが相当である(昭和59年(ヨ)142号判決)との判決例に徴しても、本件登録意匠に前記周知意匠と共通する構成部分が存在するときは、この共通する構成部分は看者の注意を誘発する部分ではないので、意匠の要部とはならないことは当然である。
尚、詳述すれば、意匠が類似するや否かの判断は物品の外観を全体的に観察して、看者の趣味的感情に差異を生じるか否かにより之を決することは当然である。即ち、意匠の類否判断は、各構成部分の公知性、周知性、新規性を参酌し、共通点及び相違点を対比した上で、各構成部分が視覚的に訴える度合の軽重を総合的に評価した結果として為されるべきであるところ、前記周知意匠と本件登録意匠との間に前記3.(3)記載の両意匠の差異点が存在するとしても、この差異は看者の視覚に訴える度合いを総合的に評価する場合、極めて軽微であり、意匠の評価判断上、全く無視される程度の差異に過ぎない。従って、該周知意匠と本件登録意匠とは同一又は実質的に同一であると断ぜざるを得ない。
而して、本件登録意匠中、前記周知意匠にない部分即ち、仮に前記3.(3)記載の部分が本件登録意匠に係る物品の形状上の新規の部分であると仮定しても、この部分は全く看者の注意を誘発しない部分であるから、この部分は本件登録意匠の要部ではないのであり、たとえ、この部分において両者が共通しているとしても、商品の混同を来す虞れは全くない。従って、そもそも本件登録意匠は意匠の要部を構成する部分が存在しないことになる。
6.又、本件登録意匠は、本件判定請求人の判定請求書2頁(1)1)2)に記載されている通りの構成を有し、且つ、イ号意匠も同判定請求書(2)1)2)に記載されている構成を有する。従って、イ号意匠と周知意匠とは同一又は実質的に同一の意匠となる。
而して、イ号意匠が周知意匠と同一又は実質的に同一であるときには、イ号意匠は本件登録意匠の範囲に属しないと判断するを相当とする。(東京地判平成9年4月25日知的裁集29巻2号402頁参照)
尚、念のために付加すれば、意匠の類否判断は前述したように看者の視覚に訴えてその度合の軽重を評価した結果として為されるべきであることから、特段の事情がない限り普通、看者が物品の外形を目視にて判断するのであり、幾何学的に詳細に計測してその詳細を評価することはない。従って、本件判定請求人の(2)2)におけるa)ないしd)記載の計測は殆ど目測に近いものであり、正確に幾何学的に寸法の細部を示したものではない。(又、本件においてはその必要もない。)
7.以上、要するに、イ号意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様と、本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様との前記共通点及び相違点が存在するも、該共通する構成部分は既述したように、本件登録意匠出願前、国家規格品として既に定められたJIS規格品と共通しており、既に周知となっている。従って、この周知に属する構成部分は本件登録意匠の構成から除外し、そして、残余の前記差異点に本件意匠の新規な部分として求めたとしても、この部分は意匠観察上、全く無視される部分であり、依って、イ号意匠は本件登録意匠の範囲に属しないことは誠に明白である。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成16年5月11日に意匠登録出願をし、平成17年3月25日に意匠権の設定の登録がなされた、登録第1239429号の意匠であり、登録原簿及び願書の記載によれば、意匠に係る物品が「建築用パネル」であり、形態については、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであり(別紙1参照)、その要旨は以下のとおりである。
(1)全体の概略ついて、
背面側を平面状とした同一断面形状が横方向に連続する横長帯板状のものであって、上端には凸条部を設け、下端には上端の凸条部と係合する凹溝を設け、前面側には横方向の凸条を、縦方向等間隔に多数設けて凹凸横縞形状を形成しており、更に、側・断面視矩形状とした横方向に貫通するほぼ同形の中空部を、縦一列に多数設けている。
(2)前面側の凹凸横縞形状について、
a)凸条表面は、前側平面、及び、上・下両平面から構成される何れも同形とした側面視概略凸コ字状とし、その間に形成される谷形状は、凸条表面と同幅・同形の反転した態様としている。
b)凸条の高さ(前後幅、以下同じ。)は、その縦幅と概ね同じとしている。
c)凸条の上・下両表面は、前方に向け僅かに窄めている。
d)凸条の数は、20本としている。
(3)中空部について、
a)数は10個とし、僅かに縦長(約1.3倍)としている。
b)前後幅は、これを囲うほぼ同じ厚みとした上・下の各隔壁部、背面側部の厚みの概ね2倍ほどとしている。
(4)上端の凸条部、及び、下端の凹溝について、
何れも断面を矩形状とし、前後幅よりも縦幅をやや狭いものとしている。
2.イ号意匠
イ号意匠は、甲第4号証のカタログ「メースガイドブック(第3版)」18頁に記載された製品番号「MNY60-7553」の「デザインパネル」の意匠であって、形態については同カタログに表されたとおりのものであり(別紙2参照)、その要旨は以下のとおりである。なお、請求人は、甲第3号証に示された製品番号「MNWJ-6060A」の意匠についても同時に判定を求めているが、その意匠については、寸法表示等によれば請求人の主張するとおり甲第4号証の意匠と同一の意匠と推認されるものの、細部形状にやや不明確な点があるから、甲第4号証記載の意匠をイ号意匠とする。
(1)全体の概略ついて、
背面側を平面状とした同一断面形状が横方向に連続する横長帯板状のものであって、上端には凸条部を設け、下端には上端の凸条部と係合する凹溝を設け、前面側には横方向の凸条を、縦方向等間隔に多数設けて凹凸横縞形状を形成しており、更に、側・断面視矩形状とした横方向に貫通するほぼ同形の中空部を、縦一列に多数設けている。
(2)前面側の凹凸横縞形状について、
a)凸条表面は、前側平面、及び、上・下両平面から構成される何れも同形とした側面視概略凸コ字状とし、その間に形成される谷形状は、凸条表面と同幅・同形の反転した態様としている。
b)凸条の高さは、その縦幅と概ね同じとしている。
c)凸条の上・下両表面は、相互ほぼ平行状としている。(なお、甲第6号証「対比図面」において、凸条上端と下端の寸法差を示す「0.5」の数字が記載されているが、その高さ幅「15」に対するものであり、その数値を前提としても勾配は僅か1/30にすぎず、パネル前面に対して直角状と看取されるものである。)
d)凸条の数は、18本としている。
(3)中空部について、
a)数は7個とし、かなり縦長(2倍弱)としている。
b)前後幅は、これを囲うほぼ同じ厚みとした上・下の各隔壁部、背面側部の厚みの概ね2倍ほどとしている。
(4)上端の凸条部、及び、下端の凹溝について、
何れも断面を矩形状とし、前後幅よりも縦幅をやや狭いものとしている。
3.両意匠の対比検討
両意匠を対比するに、意匠に係る物品について、両意匠は共に建築に供せられる板に関するものであるから共通し、形態については、主として以下の共通点と差異点、がある。
すなわち、共通点として、
(1)全体の概略ついて、
背面側を平面状とした同一断面形状が横方向に連続する横長帯板状のものであって、上端には凸条部を設け、下端には上端の凸条部と係合する凹溝を設け、前面側には横方向の凸条を、縦方向等間隔に多数設けて凹凸横縞形状を形成しており、更に、側・断面視矩形状とした横方向に貫通するほぼ同形の中空部を、縦一列に多数設けた点、
(2)前面側の凹凸横縞形状について、
a)凸条表面は、前側平面、及び、上・下両平面から構成される何れも同形とした側面視概略凸コ字状とし、その間に形成される谷形状は、凸条表面と同幅・同形の反転した態様とした点、
b)凸条の高さは、その縦幅と概ね同じとした点、
d)凸条の数は、約19本とした点、(本件登録意匠は20本、イ号意匠は18本とし、同一ではないが近似しており、共通感を生じさせる視覚的効果の方が優っていると認められるから、共通点に含めることとした。)
(3)中空部について、
b)前後幅は、これを囲うほぼ同じ厚みとした上・下の各隔壁部、背面側部の厚みの概ね2倍ほどとした点、
(4)上端の凸条部、及び、下端の凹溝について、
何れも断面を矩形状とし、前後幅よりも縦幅をやや狭いものとした点、がある。
次に、差異点として、
(2)前面側の凹凸横縞形状について、
c)凸条の上・下両表面について、本件登録意匠は、前方に向け僅かに窄めているのに対して、イ号意匠は、相互ほぼ平行状とした点、
(3)中空部について、
a)本件登録意匠は、数を10個とし、僅かに縦長(約1.3倍)としているのに対して、イ号意匠は、数を7個とし、かなり縦長(2倍弱)とした点、がある。
そこで、上記共通点及び差異点について、意匠全体として観察し、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの結論(以下、単に「類否判断」という。)に及ぼす影響を、順次検討する。なお、請求人は、甲第6号証の「対比図面」において、両意匠各部の寸法を記載しているが、本件登録意匠の願書及び添付図面何れにも寸法に関する記載がないから、両意匠ともほぼ同じ大きさであると仮定して検討を行うこととする。
先ず、本件登録意匠とイ号意匠が共通するとした前記(1)及び(4)の点について検討すると、請求人が提出した甲第7号証「JIS押出成形セメント板(ECP)JIS A5411」(発行日、平成15年6月20日)3頁に、「デザインパネル」と表示され記載された意匠(以下、単に「JISデザインパネル」という。別紙3参照)には、(1)及び(4)の構成態様が表されている。また、これらの構成態様については、この種意匠の分野において本件登録意匠出願前既に周知の構成態様であることが明らかで、本件登録意匠特有の特徴を構成するものではないから、類否判断に直接影響を及ぼすものとすることができない。
次に、前面側凹凸横縞形状に関する共通点(2)のa)及びb)について、以下検討する。
建築に供される板一般のみならず、壁板の分野(本件登録意匠は、意匠に係る物品を「建築用パネル」としているが、この種物品分野の通常の知識に基づけば、意匠法施行規則別表第1、「六四 建築用内外装材」における「壁板」、ないし、これに類する物品の区分に属するものと推認される。)において、前面側の凹凸横縞形状を、共通点(2)のa)としたもの、すなわち、「凸条表面は、前側平面、及び、上・下両平面から構成される何れも同形とした側面視概略凸コ字状とし、その間に形成される谷形状は、凸条表面と同幅・同形の反転した態様とし」たものは、前掲「JISデザインパネル」のみならず、例えば、特許庁発行の実開平4-51528号公報(参考文献1)第13図ないし第16図(別紙3参照)に表された各意匠、あるいは、同実開昭60-94509号公報(参考文献2)第4図に表された意匠(別紙4参照)に見られるように周知のものである。これに、(2)b)の点、すなわち、凸条の高さを「縦幅と概ね同じとした」点を加えたものも、例えば、特許庁発行の特開平10-140783号公報(参考文献3)図4の(b)、(c)、(d)に表された意匠(別紙4参照)、同特開平10-169040号公報(参考文献4)図1及び図6の(a)、(d)、(e)に表された意匠(別紙4参照)に見られるように、本件登録出願前既に周知の構成態様であったと認められる。なお、これら参考文献2ないし参考文献4に記載された意匠は、本件登録意匠と材質等は異なるものの、何れも実質的に壁板に関するものであるから、「意匠の分野」としては、共通するものである。したがって、(2)のa)及びb)の点について、本件登録意匠とイ号意匠が共通するとしても、本件登録意匠特有の特徴を構成するとすべき程のものでないから、類否判断に直接影響を及ぼすものとすることができない。
次に、共通点とした(2)のd)、すなわち、凸条の数に関する点について検討する。
前掲の各参考文献に記載された意匠に表された凸条の数について検討すると、参考文献4の図6の(a)には13本、その(d)には12本としたものが表されており、参考文献3の図4の(a)及び(b)には14本、その(c)及び(d)には16本としたものが表されており、参考文献2の第4図に表されたものには15本、また参考文献4の図1には17本としたものが表されているが、当審の調査によれば18本以上としたものは発見することができなかった。これを前提とするならば、凸条の数を18本以上である20本とした点は、本件登録意匠の特徴と一応認めざるを得ない。ところが、前掲の参考文献3及び参考文献4に記載された各図によれば、壁板の分野において、(2)のa)及びb)の構成態様を有する前面の凹凸横縞形状において、少なくとも12本から17本までの範囲において、凸条の数を適宜変更することは普通に行われていると解さざるを得ない。したがって、本件登録意匠が20本とした点に特徴があり、イ号意匠に対して共通感を生じさせる視覚的効果を有するとしても、該凸条の数を本件登録意匠とさほど差がない17本とした意匠が、本件登録意匠出願前この種意匠の分野において既に存在し、広く知られていたものと認められることから格別顕著な特徴とは言い難く、類否判断に及ぼす影響は、極く僅かとせざるを得ないものである。
そして、共通点(3)b)の点については、例えば、前掲参考文献1の第22図(別紙3参照)、参考文献2の第4図(別紙4参照)、あるいは甲第7号証3頁「JISデザインパネル」の図の下側所載、「タイルベースパネル」と表示された意匠(別紙3参照)に見られるようにありふれたものであり、本件登録意匠特有の特徴を構成するものではないから、類否判断に直接影響を及ぼすものとすることはできない。
次に、前記各差異点の、類否判断に及ぼす影響について検討する。
先ず、凸条の態様に関する差異点(2)c)について検討すると、凸条の上・下両表面について、本件登録意匠のように「前方に向け僅かに窄め」たもの、すなわち、側面視「台形状」としたものも、イ号意匠のように「相互ほぼ平行状」としたもの、すなわち、側面視「矩形状」としたものも、前掲参考文献3の図4に表された各意匠、及び、参考文献4の図6に表された各意匠(別紙4参照)相互を対比すれば明らかなように、一瞥して識別することのできる別異の類型に属するものである。そうすると、本件登録意匠における上・下両面の前方に窄めた態様が「僅か」であり、イ号意匠との差異における視覚効果はさほど顕著といえる程のものではないとしても、異なる類型を想起させる差異であるから、類否判断に僅かながら影響を及ぼすとせざる得ないものである。
そして、中空部の数における差異点(3)a)について、前掲「JISデザインパネル」は8個、参考文献2の第4図に表された意匠は9個であり、本件登録意匠は、これら何れの意匠よりも多く、イ号意匠は、これら何れの意匠よりも少なく、その差異は、数、及び、矩形の縦横比何れについても一見して明瞭に識別できる差異であり、類否判断に及ぼす影響は極く僅かとした凸条の数に関する共通点2)のd)の点よりもやや大きく、優っているものである。
4.判断
これら共通点及び差異点の、類否判断に及ぼす影響を総合すると、前記のとおり、本件登録意匠とイ号意匠が共通するとした、共通点(2)d)を除く、(1)、(2)のa)とb)、(3)のb)、(4)の構成態様は、何れも周知あるいはありふれたもので、類否判断に直接影響及ぼすものとすることはできず、類否判断に僅かであるが影響を及ぼすとした凸条の数に関する共通点(2)d)の構成態様についても、中空部に関する差異点(3)a)の方が優っているものであり、更に、差異点(2)c)もあるから、共通点全体よりも差異点全体の方が類否判断に及ぼす影響が優っているとせざるを得ない。また、本件登録意匠において、イ号意匠と共通するとした点全て総合したとしても、それぞれが持つ視覚効果の総和以上のもの、すなわち、同時に併せ持ったことによる特異な相乗的視覚的効果が生じ、かつ、イ号意匠がそれを共有しているとも認められない。
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠に類似せず、また、同一でないことは明らかであるから、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属する根拠を見いだすことができない。
5.結び
以上のとおりであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-07-20 
出願番号 意願2004-13787(D2004-13787) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (L6)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 藤 正明
特許庁審判官 山崎 裕造
市村 節子
登録日 2005-03-25 
登録番号 意匠登録第1239429号(D1239429) 
代理人 藤森 裕司 
代理人 林 孝吉 
代理人 飯島 紳行 

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