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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) G2 |
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管理番号 | 1162289 |
判定請求番号 | 判定2007-600045 |
総通号数 | 93 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2007-09-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2007-05-30 |
確定日 | 2007-07-25 |
意匠に係る物品 | オートバイ |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1072508号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「オートバイ」の意匠は、登録第1072508号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求人の申立及び理由 請求人は、イ号意匠並びにその説明書に示す意匠(以下、「イ号意匠」という。)は、登録第1072508号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第2号証および「本件登録意匠の名称説明図」、「本件登録意匠とイ号意匠との比較図」、「本件登録意匠とイ号意匠との対比表」、「レース仕様のイ号意匠の写真」、「信販売サイトに掲載のフロントカウル及び装着例」を提出した。 1.本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)基本的構成の共通点 基本的構成において、以下の共通点があげられる。 A.前輪と後輪が間隔を開けて前後に配置されている点 B.前輪の上には、後傾するフロントフォークに挟まれたフロントフェンダーがタイヤから上方にやや距離を置いて配置され、フロントフェンダーの上方には、前部ゼッケンプレートが配され、更にその上にハンドルが設けられている点 C.前部ゼッケンプレートの背後には、上面にキャップを有する燃料タンクとその両側にシュラウドが配置され、シュラウドの下方であって前後輪の間には、前方にエンジンシリンダーを横置したパワーユニットが配置されている点 D.後輪の上には、側部ゼッケンプレートが設けられて、側部ゼッケンプレートと前記シュラウドの上には、シートが配置され、更に、これにリアフェンダーが後方に延設されている点 (2)具体的構成の共通点 具体的構成において、以下の共通点があげられる。 a.ハンドル部は、フロントフォーク頂部を基点としてU字形状の部分が立ち上がり、その両側が水平方向に延び、その端部にグリップがあるという形態をしており、前記U字開口部上方には、水平に延びるパイプが橋設されている点 b.燃料タンク部は、シュラウドの間に位置し、側面視でシュラウドの上に矩形のタンク肩部が顔を出し、その上にキャップが見える形態となっている点 c.シート部は、上辺を緩やかな下に凸の弧状、下辺を浅い「く」字状とし、下辺前方は、シュラウド後方上辺に沿わせ、下辺後方は、側部ゼッケンプレートの上辺に沿わせている点 d.リヤフェンダー部は、始端が側部ゼッケンプレートに一体的に連続し、上面がシートの後方延長上に直線的に延び、側面視において、末端が鋭角の楔状をなし、後輪の後端上の近くでカットされている点 (3)両意匠の差異点 両意匠の差異点として以下の点があげられる。 (あ)ハンドル部において、イ号意匠には、管状部材が水平パイプに巻きつき、更に一組のバックミラーが装着されているのに対して、本件登録意匠には、これらがない点 (い)フロントフォークにおいて、本件登録意匠は、上辺を斜めにカットした扁平なカバーが同軸的に施されているが、イ号意匠は、円筒状カバーが同軸的に施され、上辺の斜めのカットはない点、また、イ号意匠のメタリックのパイプ部分の中段には、一組の円形の反射板が装着されているのに対して、本件登録意匠にはない点 (う)フロントフェンダーにおいては、本件登録意匠とイ号意匠とでは、側面視でその曲率を略同一としているが、本件登録意匠は、イ号意匠よりもフロントフォーク後方の厚みが厚く構成されており、また、本件登録意匠には、イ号意匠に設けられている中央の盛り上がり部分の上面に施された凹部がなく、さらに、イ号意匠は、地色を青色とし、その先端に黒色で流れ雲形の模様が施されているのに対して、本件登録意匠は、無模様一色である点 (え)本件登録意匠には、角丸四角形状の前部ゼッケンプレートがあるのに対して、イ号意匠にはこれがなく、縦に二連の円形ヘッドライトを嵌合した略扇形を基調とするフロントカウル及び一対のウィンカーが設けられている点 (お)シュラウドについては、切り欠きが、本件登録意匠では、後方下辺に1つであるのに対して、イ号意匠は、後方下辺に2つ あるのに加え、後方上辺の上方に暗調子の楔形の切り欠きがあり、また、イ号意匠は、その地色を青色とし黒色で前方を略三角、その後方に流れ雲形の脚をつけた模様が施されているのに対して、本件登録意匠は、無模様一色となっている点 (か)側部ゼッケンプレートは、本件登録意匠とイ号意匠は、ともに逆二等辺三角形を基調としている点で共通するが、本件登録意匠は、後方の鋭角交差部分をやや丸めているのに対して、イ号意匠は、その部分をなだらかにしており、更に、イ号意匠は、地色を薄い水色とし、外周縁を青色としているのに対して、本件登録意匠は無模様一色で構成されている点 (き)リアフェンダーは、両意匠ともその形状を略共通にしているが、イ号意匠には、その後端に保安部品であるテールランプ、ウィンカー及び反射板が垂下して設けられているのに対して、本件登録意匠にはこれらはなく、更に、イ号意匠は、地色を青色とし、上面に黒色で流れる雲形の模様が施されているが、本件登録意匠は、無模様一色となっている点 (く)マフラーは、本件登録意匠では起点から側部ゼッケンプレートまでカバーを被せ、前半は水玉模様の孔、後半にはスリット孔を設け、マフラー全体として後方へ緩やかに広がるラッパ型をなしているのに対して、イ号意匠にはマフラーカバーがない点 (け)スイングアームは、本件登録意匠が後輪の車軸を頂点とする二等辺三角形であるのに対して、イ号意匠は、車軸とパワーユニットを繋ぐ連結杆を底辺とし、U字フレームを斜辺とする変形直角三角形を呈している点 (こ)チェーンケースカバーは、本件登録意匠では、ナイフの切っ先のような形状を呈し、パワーユニットと後輪の車軸の間に設置されているのに対して、イ号意匠にはない点 (さ)スポークは、本件登録意匠が、120度開いた幅厚の3本の板状スポークであるのに対し、イ号意匠は、通常の線状スポークである点 (し)タイヤは、本件登録意匠が、略四角柱のイボ状の小突起を多数配したオフロード用のタイヤであるのに対して、イ号意匠は、中央に波形の溝とその両側に外方へ斜めの溝を長短交互に配したオンロード用のタイヤである点 2.類否判断 両意匠は、主たる構成部分を内容とする基本的構成においてAないしDを共通にするものであり、これらの共通部分は、意匠の美感の基調を決定する基本的構成である全体の輪郭及び主要部品の形態並びにその配置であるといえるので、意匠の類否に大きな影響を与え得るものである。 具体的構成としては、b.燃料タンクにおいて、形態及び配置位置を共通にするものであり、また、a.ハンドル部及びc.シートd.リヤフェンダーの形状においては、多少の相違はあるものの、その差異は、共通点に包含される軽微な差異であって、実質上共通するものである。そして、b.燃料タンク、c.シート、d.リヤフェンダーの形状は、側面から看取できる部分であり、全体から見て比較的大きな面積を占め、また重要者の目に付きやすい部分でもあるので、それらの形態の共通性は、美感の形成に与える影響は大きいといえる。 具体的構成の差異点について、 (あ)ハンドル部においては、水平パイプに管状部材が巻きついているかどうかは、付加的なものであり、重要者はこの部分に注目しないといえ、バックミラーの形態については、特に需要者が注意を向けるということなないといえる。 (い)については、需要者が注視して気付く程度のものであり、また、この種の物品においてフロントフォークカバーは、付加的なものであって、全体の美感に及ぼす影響は小さいといえる。更に、反射板の有無は、単なる円形であって、公知であり、全体に占める割合も小さいことから、重要者が注意を向けるところではないといえる。 (う)については、割合が小さく需要者の目を惹く部分とはいえず、形態全体からみれば、共通点に包含される軽微な差異であって、類否判断に与える影響は微弱にすぎない。 (え)ついては、本件登録意匠の前部ゼッケンプレートは、公知のものであり、類否判断に与える影響は小さいものと判断でき、イ号意匠の縦に2連の円形ヘッドライトを嵌合したフロントカウル及び一対のウィンカーは新規なものであって、類否判断に与える影響は小さくはないといえる。 (お)については、シュラウド全体から見れば、小さな部分における差異にすぎず、類否判断に与える影響は小さいといえる。 (か)については、両意匠とも基本の輪郭を逆二等辺三角形とし共通しているので、共通点に包含される部分的な差異であって、類否判断に及ぼす影響は小さいと判断される。 (き)については、保安部品を、装着義務のないレース用のオートバイで公道上を走行する際に取り付けることは当然に予定されていることであり、かつレース仕様から公道仕様へ変更すること又はその逆は、一般的に行われていることを考慮すると、これらの部品に需要者が注意を向けることは少ないといえ、更に、これらは、横長楕円、円形、長方形を基調とするありふれた形状で構成されているので、意匠全体に与える影響は小さいといえる。 (く)については、マフラー自体の形態は同じであり、その共通感は免れず、美感への大きな影響はないといえる。 (け)及び(こ)については、スイングアームは、機能部品であり、存在面積比率はわずかであり、美感に大きな影響を与えるものではなく、また、チェーンケースの有無も同様である。 (さ)については、取り替え部品の一種であるホイールの一部であるから、需要者の注目度が高いとはいえず、また、それぞれの形態が特徴的とはいえないので、美感に対して顕著には影響しない。 (し)については、用途によって頻繁に交換されるものであり、その相違が顕著に意匠全体の美感形成に影響を与えることはないといえる。 (う)、(お)、(か)、(き)の模様の差異については、この種の分野においては、付加的であり、形状に対して格別需要者の注意を惹くとはいえず、類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。 3.総合判断 以上のように、オートバイの正面に前部ゼッケンプレートを配するか、ヘッドライト付フロントカウルを配するかの差異が、両意匠の類否判断に与える影響は決して小さくはない。しかし、公道上で走行可能とするために、前部ゼッケンプレートに替えて、保安部品であるヘッドライトを嵌合したフロントカウルを装着することは、広く行われている。更に、この種オートバイにおいては、その用途上、正面の構成部分よりも側面の構成部分に多くの造形余地があることを加味すれば、購入時の需要者の注目度は、オートバイの正面よりも側面の方が高くなるといえる。 その上、イ号意匠のように、オートバイの正面に配されたフロントカウルが特徴的な形態を構成しているといえども、その大きさは意匠全体に対しては割合に小さく、また、その形態のみから生じる美感が、少なくとも面積的には圧倒的に大きな他の構成部分の共通性により醸成される美感を凌駕して、意匠全体の美感に対して決定的な影響を与えているとはいえず、前部ゼッケンプレートか、ヘッドライト付フロントカウルかの相違のみをもって、需要者に、両意匠が別異の態様であるとの印象を与えるものとはいい難い。 その他の具体的構成の差異点については、上述のようにいずれも両意匠の類否判断に与える影響度は小さいものであって、これらの差異点が具体的構成の共通性を凌駕して、両意匠全体の美感を異にする程の印象を呈しているとはいえない。 総合的にみて、両意匠は、その配置を構成している各々の形態及びそれらに側部ゼッケンプレートに一体的に連接するリアフェンダーの形態を加えた一連の纏まりある態様の共通性から醸し出される印象を同じにし、それらはオートバイの側面にあって、面積的に圧倒的な大きさを占め、需要者の注意を十分に惹き付けるものであるから、意匠の類否判断に大きな影響を与えていると判断できる。これらにより、基本的構成の共通性を加えた具体的構成の共通性によって、両意匠全体に共通の美感を呈していると判断できる。 よって、イ号意匠は、本件登録意匠の類似範囲に属する。 第2.被請求人について 本件判定請求書には、被請求人の記載がないが、これについて、請求人は、イ号意匠が日本に輸入されている事実が判明し、イ号意匠が輸入されたとき、直ちに各地の税関に対して輸入差止めの申立てを行い、その輸入差止めの認定手続きが開始されるよう手配しているところであり、その申立書の添付資料とするにあたり、特許庁の公的な判断を求めたものであると述べている。これによれば、輸入された事実はあるものの、その業者等が特定できず、今後日本に輸入される際には、税関で差止めるための手続き上判定請求を行なう必要に迫られていると解せられるので、被請求人の存在しないことに一定の合理性が認められる。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成11年3月30日に意匠登録出願をし、平成12年3月10日に意匠権の設定の登録がなされた登録意匠第1072508号の意匠であり、願書の記載及び願書に添付の図面代用写真に現されたところによれば、意匠に係る物品を「オートバイ」とし、その形態を、同図面代用写真に示すとおりとするものである(別紙1参照)。 2.イ号意匠 イ号意匠は、判定請求書の記載によれば、意匠に係る物品を「オートバイ」とし、その形態を、判定請求書に添付のイ号意匠の写真及びその説明書に現されたとおりとするものである(別紙2参照) 3.本件登録意匠とイ号意匠の対比 本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点及び差異点がある。 (1)基本的な構成態様の共通点 基本的構成において、以下の共通点があげられる。 A.前輪と後輪が間隔を開けて前後に配置されている点 B.前輪の上には、後傾するフロントフォークに挟まれたフロントフェンダーがタイヤからやや距離を置いて配置され、フロントフェンダーの上方には、前部ゼッケンプレートが配され、更にその上にハンドルが設けられている点 C.前部ゼッケンプレートの背後には、上面にキャップを有する燃料タンクとその両側にシュラウドが配置され、シュラウドの下方であって前後輪の間には、前方にエンジンシリンダーを横置したパワーユニットが配置されている点 D.後輪の上には、側部ゼッケンプレートが設けられて、側部ゼッケンプレートと前記シュラウドの上には、シートが配置され、更に、これにリアフェンダーが後方に延設されている点 (2)具体的な態様の共通点 具体的な態様において、以下の共通点があげられる。 a.ハンドル部は、フロントフォーク頂部を基点としてU字形状の部分が立ち上がり、その両側が水平方向に延び、その端部にグリップがあるという形態をしており、前記U字開口部上方には、水平に延びるパイプが橋設されている点 b.燃料タンク部は、シュラウドの間に位置し、側面視でシュラウドの上に矩形のタンク肩部が顔を出し、その上にキャップが見える形態となっている点 c.シート部は、下辺を浅い「く」字状とし、下辺前方は、シュラウド後方上辺に沿わせ、下辺後方は、側部ゼッケンプレートの上辺に沿わせている点 d.リヤフェンダー部は、始端が側部ゼッケンプレートに一体的に連続し、上面がシートの後方延長上に直線的に延び、側面視において、末端が鋭角の楔状をなし、後輪の後端上の近くでカットされている点 (3)両意匠の差異点 両意匠の差異点として以下の点があげられる。 (ア)全体の輪郭形状について、本件登録意匠の側面視は、フロントフォーク部の傾斜角度が急角度であり、また、シート部の上辺が下側に大きく凸弧状になっていることから、前輪の車軸からフロントフォーク、ハンドル、シュラウド、シート、スイングアーム、後輪の車軸に至る輪郭形状がハンドル部を頂点とする略三角形状を呈しているのに対して、イ号意匠の側面視は、フロントフォーク部の傾斜角度が本件登録意匠より大きな角度でありフロントフォーク部が立っており、また、シート部の上辺があまり下側に凸弧状となっていないことから、前輪の車軸からフロントフォーク、ハンドル、シュラウド、シート、スイングアーム、後輪の車軸に至る輪郭形状が略台形状である点 (イ)側面視におけるハンドル部と燃料タンク部との間隔について、本件登録意匠は、間隔がわずかであり、略長方形状であるのに対して、イ号意匠は大きな間隔であり、略三角形状である点 (ウ)フロントフォーク部について、本件登録意匠は、上辺を斜めにカットした扁平なカバーが形成されているが、イ号意匠は、円筒状カバーが形成され、中央部にやや太い部分を設けている点 (エ)フロントフォークのメタリック部分の中央部について、本件登録意匠には何も取り付けられていないのに対し、イ号意匠には一対の円形反射板が外向きの取り付けられている点 (オ)ハンドル部について、本件登録意匠はフロントフォークよりわずかに後方にハンドルが取付られているのに対して、イ号意匠は、わずかに前方にハンドルが取付られている点 (カ)ハンドル部について、本件登録意匠には、両グリップの内側にバックミラーが形成されていないのに対し、イ号意匠には、一対のバックミラーが形成されている点 (キ)フロントフェンダー部について、本件登録意匠とイ号意匠とでは、側面視でその曲率を略同一としているが、本件登録意匠は、イ号意匠よりもフロントフォーク後方が厚く形成されており、また、本件登録意匠には、イ号意匠に設けられている中央の盛り上がり部分の上面に施された凹部がなく、さらに、イ号意匠は、地色を橙色とし、その先端に黒色で流れ雲形の模様が施されているのに対して、本件登録意匠は、無模様一色である点 (ク)前部ゼッケンプレート部について、本件登録意匠は、隅丸四角形状のゼッケンプレートが取付けられているのに対し、イ号意匠は、前記ゼッケンプレートよりやや大きいフロントカウルが取付けられ、フロントカウルは正面視において、略扇形を基調とし、下方の輪郭に沿って略V字状の段差部が設けられ、略扇形の表面の中央には、下辺を円弧状とする縦長矩形の凹部が配され、その中に円形のヘッドライトが縦2連に設けられ、前記凹部の両側にはスリット孔を有する三角形状のルーバーが配され、また、段差部の上方の後方から水平バーが延び、その先端に一対の円形ウィンカーが設置されている点 (ケ)シュラウド部について、本件登録意匠では、切り欠きが後方下辺に1つであるのに対して、イ号意匠は、後方下辺に2つあるのに加え、上辺に暗調子の楔形の切り欠きがあり、また、イ号意匠は、その地色を青色とし黒色で前方を略三角、その後方に流れ雲形状の模様が施されているのに対して、本件登録意匠は、無模様一色となっている点 (コ)側部ゼッケンプレート部について、本件登録意匠とイ号意匠は、ともに逆二等辺三角形を基調としている点で共通するが、本件登録意匠は、後方の鋭角交差部分をやや丸めているのに対して、イ号意匠は、その部分をなだらかにしており、更に、イ号意匠は、地色を薄い水色とし、外周縁を青色としているのに対して、本件登録意匠は無模様一色で構成されている点 (サ)後輪と側部ゼッケンプレートとの間隔について、本件登録意匠は間隔がわずかであり略U字状フレームの頂部に連結されたシート下のコイル状サスペンションが見えていないのに対して、イ号意匠は、大きな間隔を有し、シート下のコイル状サスペンションが露出している点 (シ)リアフェンダーについて、両意匠ともその形状を略共通にしているが、本件登録意匠には保安用部品が取り付けられていないのに対し、イ号意匠には、後端部に保安部品であるテールランプ、ウィンカー及び反射板が斜め後方に設けられており、さらに、イ号意匠は、地色を青色とし、上面に黒色で流れる雲形の模様が施されているが、本件登録意匠は、無模様一色となっている点 (ス)マフラーについて、本件登録意匠は、起点から側部ゼッケンプレートまでカバーを被せ、前半は水玉模様状の孔、後半には傾斜したスリット孔を設け、マフラー全体として後方へ緩やかに広がるラッパ型をなしているのに対して、イ号意匠にはマフラーカバーがない点 (セ)スイングアームについて、本件登録意匠は、後輪の車軸を頂点とする二等辺三角形であるのに対して、イ号意匠は、車軸とパワーユニットを繋ぐ連結杆を底辺とし、U字フレームを斜辺とする変形直角三角形を呈している点 (ソ)チェーンケースについて、本件登録意匠は、ナイフの切っ先のような形状を呈し、パワーユニットの上辺とチェーンケースの上辺が、連続した直線状に形成され、後方に向かってやや傾斜させて後輪まで延伸させているのに対して、イ号意匠にはチェーンケースがなく、チェーンが露出している点 (タ)スポークについて、本件登録意匠が、120度開いた幅広の3つの板状スポークであるのに対し、イ号意匠は、通常の線状スポークである点、がある。 (チ)タイヤについて、本件登録意匠は略四角柱状のイボ状の小突起を多数配したオフロード用のタイヤであるのに対して、イ号意匠は、中央に波形の溝とその両側に外方へ斜めの溝を長短交互に配したオンロード用のタイヤである点 4.類否判断 そこで、上記の共通点と差異点について検討するに、共通点のうち、AないしDの基本的な構成態様の共通点及びaないしdの具体的な態様の共通点は、両意匠の形態の概観を構成し、形態全体の基調をなすものではあるが、これらの構成態様は、この種の物品分野において一般的な態様であって、格別な特徴を呈する態様ではないから、これらの共通点によってイ号意匠が本件登録意匠に類似するものであるとすることは妥当ではない。 これに対して、 差異点(ア)については、全体の輪郭に関することであるから、基本的な構成態様に関することであり、両意匠の骨格をなす部分についての差異であるから、類否判断に大きな影響を与えるものといわなければならない。 差異点(イ)については、わずかな間隔の差異ではあるものの、この点も全体の形状に大きく関わっている点であるから、類否判断に大きな影響を与えるものといわなければならない。 差異点(ウ)については、上辺を斜めにカットした扁平なカバーは本件登録意匠を特徴付ける部分であって、イ号意匠のカバーの方が特徴のない一般的なカバーであるから、局部的な差異によるわずかな特徴とはいえ、類否判断に一定程度の影響を与えるものということができる。 差異点(エ)については、小さい部品であり、かつ、単純な円形状であることから、格別特徴的であるとはいえず、類否判断の及ぼす影響はほとんどないというべきである。 差異点(オ)については、ハンドル部の取り付け位置の差異は、わずかに前後しているだけのものであり、全体としてみるとフロントフォークの延長上にハンドル部を取り付けたとみることができるので、微細な差異というほかなく、類否判断に与える影響は小さいというべきである。 差異点(カ)については、格別特徴的なバックミラーではなく、付加的な要素が強い部品であるから、その有無が全体の類否判断に与える影響はほとんどないというべきである。 差異点(キ)については、後方部が厚いフロントフェンダーは特徴的ではあるものの、厚い部分がフロントフォークの後方であることから、それほど目立つものではなく、局部的な差異といわざるを得ず、類否判断に与える影響はほとんどないということができる。また、模様の有無についても類否判断には影響を与えないといえる。 差異点(ク)については、フロントカウルが正面のいわば”顔”としての役割を果たしており、また、比較的大きな部品でもあり、かつ、略扇形のフロントカウルが新規な形態であることを考慮すると、本件登録意匠の特徴を顕著にあらわしている部分であるということができるから、その差異は類否判断に大きな影響を与えるものであるといわなければならない。 差異点(ケ)については、シュラウド全体は略菱形状であって、また下辺に大きな切り欠きがある点においても共通しているので、下辺の小さな切り欠きや上辺の楔形状切り欠きはわずかな差異というほかなく、類否判断に与える影響はほとんどないというべきである。また、模様の有無についても類否判断には影響を与えないといえる。 差異点(コ)については、両意匠ともゼッケンプレートが逆二等辺三角形状であり、後方の鋭角交差部分の丸みの差異は、局部的な差異というほかなく、類否判断に与える影響はほとんどないというべきである。 差異点(サ)については、全体のプロポーションに関わる点であり、すなわち、本件登録意匠が全体的に低く形成されているのに対して、イ号意匠が上下に高く形成されている効果をもたらすものであり、オートバイ本体の構造に関わるところであるから、類否判断に大きな影響を与えるものというべきである。 差異点(シ)については、保安部品は公道を走行する際に適宜取り付けるものであって、オートバイ本体に対して付加的な部品であり、また、格別特徴的な保安部品ではないことから、それほど目立つものではなく、類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。また、色彩及び模様については、この種の物品の分野では、形状に比べてあまり重要視しないものであるから、類否判断においても重要視できないものである。 差異点(ス)については、マフラーの形状自体は、ほぼ同一であるとはいえ、カバーに二種類の孔を形成した点は、カバーのないクロームメッキが露出したマフラーに比べた場合、単なるカバーの有無に止まらない視覚的効果があり、類否判断に一定程度の影響を与えるものということができる。 差異点(セ)については、両意匠ともに略三角形状であるから、類否判断に与える影響は極めて小さい。 差異点(ソ)については、チェーンケースの形状と、これをパワーユニット上辺を延伸した態様に設けた点に、一定の視覚的効果があるので、類否判断に一定程度の影響を与えるものということができる。 差異点(タ)については、オートバイ本体部ではない部分的な差異とはいえ、板状スポークと線状スポークとでは、わずかではあるものの、視覚的効果が異なるので、類否判断に一定程度の影響を与えるものということができる。 差異点(チ)については、注視した場合のみ認識できる程度の差異であるから、類否判断に与える影響はほとんどないというべきである。 5.総合的判断 上記の各部の類否判断を総合的に判断すると、両意匠の形態についての共通点は、前記のとおり、両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえないのに対して、差異点については、とりわけ、(ア)、(ク)及び(サ)の点は、基本的な構成態様に関わる差異であって、両意匠の類否判断に決定的ともいえる大きな影響を及ぼすものであり、さらに、類否判断に大きな影響を与える(イ)の点に差異が認められるところであり、他にも、類否判断に一定程度の影響を与えるものとした(ウ)、(ス)、(ソ)及び(タ)の点の差異が認められるところでもあって、これらの差異点が相俟った効果を考慮すると、差異点が共通点を大きく凌駕するものであるというほかない。 6.結び 以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものとはいえない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2007-07-12 |
出願番号 | 意願平11-8027 |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(G2)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川越 弘、綿貫 浩一 |
特許庁審判長 |
関口 剛 |
特許庁審判官 |
木本 直美 岩井 芳紀 |
登録日 | 2000-03-10 |
登録番号 | 意匠登録第1072508号(D1072508) |
代理人 | 加藤 恒久 |