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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) L5 |
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管理番号 | 1165671 |
判定請求番号 | 判定2007-600035 |
総通号数 | 95 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2007-11-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2007-04-17 |
確定日 | 2007-09-25 |
意匠に係る物品 | カーテンランナー |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1218001号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠は、登録第1218001号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求の趣旨及び理由 1.請求人は、イ号意匠は登録第1218001号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、と申し立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。 (1)両意匠の共通点 a)両意匠は、意匠に係る物品が「カーテンランナー」で一致し、「カーテンレール上を転動して走行可能なローラ部材を有するローラ部とカーテンを吊持するためのフック部とを備え、前記ローラ部が支持部によって回転可能に支持されるとともに、前記支持部と前記フック部とが連結部で連結されており、前記フック部が全体の長さの半分よりも若干大きい。」基本的な構成態様が同一である。 b)具体的な構成態様において、ローラ部が、円柱状ローラ部材とこのローラ部材を回転可能に軸支する軸部とで構成され、 フック部が、縦長リング状であり、開放部が形成されたフック部本体と、細い丸棒の線体で細長の∪字状に形成され、前記開放部を開閉可能に閉塞する開閉部材とを備え、 支持部が、平面形状が四角枠状の形態で前記ローラ部材の側面の中央部を横方向に囲い、前記ローラ部材の軸部を長辺の中央部で枢着する帯状支持部と、この帯状支持部の短辺の中央部から垂下し、前記ローラ部材の下方を∪字状の形態で囲う平板状の湾曲支持部とを備え、 連結部が、環状リングで下方への抜けが規制された状態で約半分の長さが前記装着孔部に回転可能に収容して装着され、僅かに露出した上端部と、装着孔部から垂下した下円柱部とを有する円柱状の支軸部と、この支軸部の下円柱部の下端部に形成された孔部とで構成された円柱状連結部を有している。 (2)両意匠の相違点 a)本件登録意匠は支軸部の孔部にフック部本体の上部の∪字状部が挿入されているのに対して、イ号意匠は支軸部とフック部とを連結する連結環を備えている。 b)本件登録意匠のフック部は丸棒体で形成され、上部が∪字状に湾曲し、一方の側部の中央部に開放部が形成されているのに対して、イ号意匠のフック部は両側面に平面が形成されているとともに、直線状の水平部を有し、一方の側部の上部に開放部が形成されている。 (3)本件登録意匠の要部 本件登録意匠に関する先行周辺意匠(公知資料)意匠登録第221583号の類似第2号公報(甲3号証)意匠をもとに、本件登録意匠の要点について述べれば、この種物品における意匠は、ローラ部を支持する支持部と、フック部とを円柱状連結部で連結して組み合わせた構成態様にあることは明らかで、本件登録意匠については、ローラ部を囲う支持部の形状と、縦長リング状で開閉部材を有するフック部の形状とが組み合わされて、本件登録意匠全体の基調を表出している。 (4)本件登録意匠とイ号意匠との類比の考察 そこで、本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに a)両意匠の共通点は、基本的な構成態様に係るものであり、ローラ部、支持部、円柱状連結部の形態は同一であり、フック部についても開閉部材を有する縦長リング状である点で共通する。特に、両意匠の共通点、すなわちローラ部、帯状支持部と湾曲支持部とで構成された支持部、円柱状連結部、およびフック部と開閉部材とで構成された縦長リング状のフック部の構成とその形態は、意匠の形態全体に対して視覚的に大きな割合を占めるから、両意匠の類否判断に支配的な役割を果たす。 b)両意匠の差異点a)については、イ号意匠の連結環はサイズが小さく全体に占める割合が小さいから、意匠全体に対して与える視覚的印象が弱く、差異点b)については、全体としてフック部の概略形状が共通するだけでなく、共通する意匠の構成とその態様による印象が大きいから、意匠全体としてみたとき、フック部の相違点も視覚的には弱い印象しか与えない。 c)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響は微弱なものであって、共通点を陵駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は小さい。 (5)むすび 従って、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。 2.被請求人の答弁に対する弁駁 請求人は、被請求人の答弁に対して、弁駁書に記載のとおり反駁し、甲第4号証を提出した。その要点は以下のとおりである。 (1)本件登録意匠の要部について 意匠の創作は、意匠全体の創作であり、意匠を構成する一部分に創作性があるものではない。このことは、公知の複数の部材の組合せにより、従来にない新規で創作性を備えた数多くの意匠が誕生することからも容易に理解できる。 従って、カーテンランナーを複数の構成部材に分解し、部材同士の構成態様から意匠全体の創作性を判断することはできない。多数の類似の意匠が混在している中で本件登録意匠が存在する場合であれば、需要者は対比する意匠の相違点について主に着目するかもしれないが、このような事情と異なり、本件登録意匠に係る物品は、当業界において全く存在しなかった意匠である。 本件登録意匠の出願日前は、ランナー部の連結環に需要者自らが選択した別売りのフックを付けていた。このフックはS字状フック(Sカン)であり、連結環に自由に付け替え可能であった。 しかし、前記S字状フックは、上部の∩字部を連結環に引っ掛け、下部の∪字部をカーテンの挿入孔に通して使用されていたのであって、S字状フックに挿通孔を形成し、この挿通孔に連結環を挿通していたのではない。本件登録意匠は、初めてランナー部に対してフック部を回動及び揺動可能に挿通した点に留意すべきである。また、本件登録意匠において、ランナー部とフック部とは、ほぼ同等の大きさであり、上下にバランスよく配置されている。 さらに、本件登録意匠は、ランナー部とフック部との組合せにより、意匠的に優れるだけでなく、カーテンの挿入孔に対する装着性を大きく改善し、使い勝手に極めて優れているという新たな意匠を生み出しているのである。すなわち、本件登録意匠は、ランナー部に対してフック部が相対的にあらゆる方向に自由に動作する形態と、カーテンの挿入孔に対する装着性を改善するためのフック部の開閉形態との組合せにより、従来の意匠に比べて使い勝手が遥かに優れ、今までにない新たな意匠を生み出しているのである。 このような点から、本件登録意匠の要部は、ランナー部とフック部との組合せにおいて、ランナー部に対してフック部を回動及び揺動可能にバランスよく組み合わせた形態にある。 (2)連結環の有無について ランナー部及びフック部に比べて、意匠全体に占める連結環の割合は小さい。特に、小さな連結環は空間的(容積的又は面積的)に大きなランナー部とフック部との間に挟まれて位置しており、意匠全体からみると連結環は埋没している。なお、需要者の最も目につきやすい側面図では支軸と連結環とが重複しており、連結環は支軸と同一視される。従って、連結環の形態について視覚的に看者の注意を引く程度は小さく、フック部に比べて小さい連結環が意匠の美観に与える影響は小さい。 さらに、機能的にみると、連結環の有無に拘わらず、ランナー部に対してフック部があらゆる方向に自由に動作する点に留意すべきである。すなわち、本件登録意匠では、フック部は支軸により水平方向に回動可能であるとともに支軸の装着孔への挿通により左右(又は前後)方向へも揺動可能であり、あらゆる方向に自由に向けることができる。一方、イ号意匠において連結環は左右(又は前後)方向へ揺動させる機能しかないから、支軸とフック部との間に連結環が介在していたとしてもフック部の動作及び機能は同じである。このように、本件登録意匠とイ号意匠とは機能的に同一である。 このような点から、イ号意匠は、本件登録意匠において意匠的又は機能的に重要でない部材(連結環)を単に付加したに過ぎない。前記のように、本件登録意匠の要部は、ランナー部とフック部とを組み合わせた形態にあり、本件登録意匠とイ号意匠との対比において、ランナー部の支軸の装着孔に連結環を介することなく直接フックが挿通されているか否かは、意匠の形態及び機能の点から重要ではなく、類似の範囲を越えてイ号意匠が新たな美観を奏することはなく、新たな意匠を生み出すものでもない。需要者は、イ号意匠が単に本件登録意匠を僅かに改変した意匠であると認識するに過ぎない。 (3)フック部の形態について イ号意匠はフック部全体としてみて上辺(水平部)の中央部に連結環が挿通し、水平部の扁平な自由端の端部から開閉桿が延びて開放部を閉じており、全体としては縦長の閉じた環状を呈している。すなわち、イ号意匠は、開閉桿が開放部を閉じた状態で販売されるのであり、この販売形態において、フック部は全体として縦長の環状を呈しているのである。また、開放部が縦長の環状のフック部の上部の直下にあるのか側部にあるのかという相違があったとしても、フック部を全体としてみれば、C字状であることに変わりはない。 さらに、カーテンの挿入口に対する装着性を試してみれば明らかなように、イ号意匠は水平部の直下に開放部が位置するため、本件登録意匠に係る物品に比べて、カーテンの挿入口に入れにくく、装着性が劣るのである。このように、イ号意匠は、フック部のうち、意匠的に大きな影響を与えない部位に開放部や扁平部を形成するなどの徽差に過ぎない改変を施しているに過ぎない。 前記のように、本件登録意匠の要部は、ランナー部とフック部とを組み合わせた形態にあり、本件登録意匠とイ号意匠との対比において、フック部の相違点は、意匠の形態及び機能の点から重要ではなく、需要者は、イ号意匠が単に本件登録意匠に係る物品のフック部を僅かに改変した意匠であると認識するに過ぎない。従って、フック部に相違点があったとしても、本件登録意匠の類似の範囲を越えてイ号意匠に新たな美観を付与することはなく、イ号意匠が新たな意匠を生み出すものでもない。 (4)結論 以上のように、本件登録意匠の要部は、ランナー部とフック部との組み合わせにおいて、ランナー部に対してフック部を回動及び揺動可能にバランス良く組み合わせた点にある。 一方、イ号意匠は、本件登録意匠と物品を同一とし、かつ本件登録意匠と基本的構成態様は略同一であるため、イ号意匠の要部もランナー部とフック部との同様の組み合わせにあることは明らかである。さらに、両意匠において、連結環の有無が意匠の要部に大きな影響を与えず、ランナー部及びフック部の形態の差異も微差であるため、両意匠の要部は共通し、かつ類似する。すなわち、両意匠を全体観察した場合において、両意匠で共通するランナー部とフック部との組み合わせが意匠の形態全体に対して視覚的に大きな割合を占めるのに対して、両意匠の差異点については視覚的に弱い印象しか与えない。 従って、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲にイ号意匠は属する。 第2.被請求人の答弁及びその理由 被請求人は、本判定は成り立たない、請求人が示すイ号意匠は、登録第1218001号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める、と答弁し、答弁書に記載のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。その要旨は、以下のとおりである。 (1)本件登録意匠の説明 本件登録意匠は、基本的な構成態様として、以下のランナー部とフックとからなっている。 a)カーテンレール上を走行する、ローラー、ローラー軸、およびローラー支持体、同支持部の台部の装着孔に挿入された支軸とからなるランナー部 b)前記支軸にある装着孔に挿通されているフック 1)ランナー部については、出願前公知のステージランナー(乙第1、第2号証)のランナー部と同一の形状を有している。このステージランナーは、遅くとも昭和59年にはエスエム工業株式会社によって製造販売された、古くからある基本的な形状のカーテン用ランナーであり、カーテンおよびカーテンレールの設置をなす内装業者等の需用者にとり広く知られたものとなっている。同ランナーの購入者は、支軸の装着孔に挿通された連結環に、購入者が選択したフックを付けて、そのフックによりカーテンを吊持するのである。 本件登録意匠は、この従来からあるステージランナーと、ランナー部の構成態様を共通にしている。そのため、本件登録意匠のランナー部には新規な創作部分といえるものはなく、需要者の注意を惹くものということはできない。 したがって、本件登録意匠の新規な創作部分といえるのは、連結環を廃して、支軸の装着孔に連結環に替えて直接フックが挿通されているという構成態様である。 2)また、前述のように通常ランナーにカーテンを吊持させるフックは、ランナーの購入者が別の部品として購入し、連結環に装着するものである。本件登録意匠では、連結環をなくして、フックが連結環の挿通されていた支軸に直接装着されているのであり、カーテンランナーの用途、使用態様に照らしても、支軸の装着孔に直接フックが挿通されているという構成は、需用者の注意を惹くところである。 更に、需用者は、カーテンを吊持するフックを自ら選定してきたのであり、その選定に際しては、カーテンの形状、重量その他の要素を考慮して決めることになる。したがって、フックにどのような形状のものを使用しているのかに、当然のことながら着目するのであり、フックの形状についても需用者の注意を惹くことになる。その上、カーテンランナーが実際に使用された場合、請求人カタログにも示されているように(例 乙第3号証)ランナー部はカーテンレールの内部に隠れており、実際に見える部分の大半はフックなのであり、その点からもフックの形状に需用者は注目することになる。 また、本件登録意匠全体においても、フックが占める長さにおける割合が大きく、実際にも目に付く部分となっている。 3)そして、本件登録意匠は、このフックにつき、いわゆる縦長のC字形状を有するCリンク(カラビナ)の形状を有するものを使用している。 このCリンクの形状について、請求人は本件登録意匠にかかる出願についての拒絶理由通知に対する平成16年5月14日付意見書(乙第4号証)において、「特に、全体の上下略半分を大きく占める下半分の縦長型のフック部では、側面視において上下にU字形コーナー部を有する特異な縦長の「C形」したフック、このフックの切開部に支点を異にして復帰すべく枢着した縦長U字形をなすドア状の開閉桿で形成された丸みを帯びた特異な形状をしている。このフック部は全体の下半分を占め、前記ローラー部の下部支軸に挿嵌結合することにより、上下対等のバランスで柔らかい雰囲気を醸し出す「カーテンランナー」の全体形状を形成しているものであります。」(同書P3)としている。 (2)イ号意匠の説明 イ号意匠は、以下のランナー部、連結環、フックとからなっている。 a)カーテンレール上を走行する、ローラー、ローラー軸、およびローラー支持体、同支持部の台部の装着孔に挿入された支軸とからなるランナー部 b)前記支軸の装着孔に挿通されている連結環 c)連結環が、穿設されている装着孔に挿通されているフック また、イ号意匠のフックは、断面扁平な棒体で概略J字状に形成され、かつ連結環が挿通される装着孔がJ字の上部にある他より更に扁平に加工されている水平部分に設けられている。 (3)本件登録意匠とイ号意匠との間の共通点 1)基本的構成態様における共通 本件登録意匠とイ号意匠は、ランナー部、およびフックを備えている点で共通する。 2)ランナー部における構成態様の共通 本件登録意匠とイ号意匠は、ランナー部の構成態様が共通する。 (4)本件登録意匠とイ号意匠との間の相違点 1)基本的構成態様における相違 ランナー部とフックがダイレクトに繋げられた構成となって本件登録意匠に対して、イ号意匠は、ランナー部が連結環を介してフックと繋がっているという形態をとっている点で本件登録意匠と基本的構成態様において相違している。 2)フックにおける構成態様の相違 本件登録意匠とイ号意匠のフックについては以下の相違がある。 本件登録意匠のフックは、丸棒体で上下にU字形コーナー部を有する縦長のC字状に形成された形態であり、それが直接支軸の装着孔に挿入されている。 これに対し、イ号意匠のフックは、断面扁平な棒体で概略J字状に形成され、かつ連結環が挿通される装着孔がJ字の上部にある他より更に扁平に加工されている水平部分に設けられている。 (5)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明 1)本件登録意匠の要部 前述した請求人の意見書(乙第4号証)での主張、および前記公知資料1?2により、本件登録意匠の要部は、i)ランナー部の支軸の装着孔に連結環を介することなく直接フックが挿通されている形態、ii)そのフックの形状が上下にU字形コーナー部を有する縦長のCリンクという形態にある。 2)本件登録意匠とイ号意匠の類否 前記(4)1)、2)の相違点はいずれも前述した本件登録意匠の要部に関するものである。そして、本件登録意匠では、ランナー部とフックがダイレクトに繋げられた構成となっており、これによりランナー部とフックが近接している。 このため、本件登録意匠は、ランナー部とフックとの間の一体的な堅固な印象を与える美感となっている。また、フックの形状が上下対称で縦長のC字状であるため、フックがスマートな美感を与えるものとなっている。 他方、イ号意匠の意匠においては、ランナー部に連結環を繋げたありふれた形状に、フックが繋げられたという構成となっている。連結環の存在により、ランナー部とフックが離間しており、フックがランナー部に対して自由に動作する軽快な印象を与える。また、フックそのものの形状も、J字状で上部は∩字状ではなく水平となって上下非対称であり、本件登録意匠よりも縦が短く横が広い形状である。このため、イ号意匠のフックは、ゆったりとした美観を与えるものとなっている。 以上のように、イ号意匠の意匠は、本件登録意匠の要部において顕著な相違点があり、美感を異にするので、本件登録意匠とは類似しない。 また、乙第1、第2号証のカーテンランナーにおけるリング部分は、乙第1号証第161頁所載の交叉ランナーの例に見られるように、用途に応じて置換される部分である。 従って、このリング部分を公知のCリンク(乙第5号証)に置換することは、本件登録意匠の出願時点で当業者にとって容易であるから、本件登録意匠は意匠法第3条第2項違反の無効理由を有している。 判定制度が権利無効の判断をしないものといえども、前述の公知意匠の事実から、本件登録意匠の類似範囲は極めて狭い範囲に解釈されるべきものである。 3)被請求人の実施する意匠についての補足 請求人により判定請求書に記載されたイ号意匠は、被請求人が販売する商品(乙第6号証)とは異なるものである。 イ号意匠は、請求人が前記意見書で主張したようにランナー部の平面形状が丸みを帯びた形状であるのに対し、被請求人が販売する商品は、ランナー部の平面形状が直線的なラインで構成された八角形をなしている。 また、イ号意匠のフックは、被請求人が販売する商品のフックより縦長に記載されている。 本件は、現在裁判所にて係争中の事件であるから、被請求人は、裁判所にて一回的解決を望むものである。 (6)むすび したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属もしないので、請求の趣旨どおりの判定を求める。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成15年9月11日に意匠登録出願をし、平成16年8月6日に意匠権の設定の登録がなされた、登録第1218001号の意匠であり、登録原簿及び願書の記載によれば、意匠に係る物品が「カーテンランナー」であり、形態については、願書に添付した図面に記載されたとおりのものである(別紙1参照)。そして、その要旨は以下のとおりである。 (1)全体の配置構成について、上から順に、概略倒短円柱状ローラー、支持部、連結部、及び、フック部からなるものであって、支持部については、ローラーの縦中央を横方向方形状に囲いその長辺側中央でローラー軸部を枢着する帯状の「上囲い部」と、上囲い部両短辺側それぞれ中央から垂下し、ローラー下半の外側を概略U字状に囲う平板状の「下囲い部」から構成されたものであり、連結部については、上側は支持部に狭持され上端部のみ僅かに露出し、露出した下側には係止用の円形貫通孔を横方向に設けたものである。 (2)ローラーについて、倒短円柱の両側中央にやや小径とした短円柱を相互対称状に突出させたものである。 (3)支持部について、1枚の方形状薄板を下端側で上に向け折り曲げ重ね合わせ、その内側を概略半円状に打ち抜き、上辺側帯状部を平面視方形状に拡開して「上囲い部」を形成し、残余を「下囲い部」としたものである。 (4)支持部の「下囲い部」について、両外側辺は下方に向け僅かに窄めた緩やかな凸弧状とし、水平状とした下辺折り曲げ部の中央付近には極く浅いコ字状切欠部を設けており、半円状とした内側打ち抜き部下端中央付近にやや深いコ字状切欠部を設けており、これら上下の切欠幅部分を前後それぞれ半円状に膨出させ短円筒状部を形成し、連結部に対する狭持部としている。 (5)連結部下側の露出部について、下囲い部下端中央の短円筒状狭持部とほぼ同径で縦幅が2倍強の円柱形状とし、前記横方向の貫通孔にフック上辺部を直接挿通している。 (6)フック部について、フック本体部を細棒状体からなる一方側部を開放したものとし、その開放側部を開閉桿により閉塞し、縦長環状構成としたものである。 (7)フック本体部形状について、上下両辺を半円弧状、側辺を直線状としたものである。 (8)開閉桿について、概略細長U字形とした線状体からなるもので、両上端を本体部上辺先端の両側に枢着し、内側にのみ回動可能なものとしている。 2.イ号意匠 イ号意匠は、甲第1号証の図面により示されたカーテンランナーの意匠であって、形態については同証の図面に表されたとおりのものである(別紙2参照)。 3.両意匠の対比 両意匠を対比するに、意匠に係る物品について共通し、形態については、主として以下の共通点と差異点、がある。 すなわち、共通点として、 (1)全体の配置構成について、上から順に、概略倒短円柱状ローラー、支持部、連結部、及び、フック部からなるものであって、支持部については、ローラーの縦中央を横方向方形状に囲いその長辺側中央でローラー軸部を枢着する帯状の「上囲い部」と、上囲い部両短辺側それぞれ中央から垂下し、ローラー下半の外側を概略U字状に囲う平板状の「下囲い部」から構成されたものであり、連結部については、上側は支持部に狭持され上端部のみ僅かに露出し、露出した下側には係止用の円形貫通孔を横方向に設けた点、 (2)ローラーについて、倒短円柱の両側中央にやや小径とした短円柱を相互対称状に突出させたものである点、 (3)支持部について、1枚の方形状薄板を下端側で上に向け折り曲げ重ね合わせ、その内側を概略半円状に打ち抜き、上辺側帯状部を平面視方形状に拡開して「上囲い部」を形成し、残余を「下囲い部」としたものである点、 (4)支持部の「下囲い部」について、両外側辺は下方に向け僅かに窄めた緩やかな凸弧状とし、水平状とした下辺折り曲げ部の中央付近には極く浅いコ字状切欠部を設けており、半円状とした内側打ち抜き部下端中央付近にやや深いコ字状切欠部を設けており、これら上下の切欠幅部分を前後それぞれ半円状に膨出させ短円筒状部を形成し、連結部に対する狭持部としている点、 (6)フック部について、フック本体部を細棒状体からなる一方側部を開放したものとし、その開放側部を開閉桿により閉塞し、縦長環状構成としたものである点、 (7)フック本体部形状について、下辺を半円弧状、側辺を直線状とし、側辺から下辺にかけてJ字状とした点、 (8)開閉桿について、概略細長U字形とした線状体からなるもので、両上端を本体部上辺先端の両側に枢着し、内側にのみ回動可能なものとした点、 が認められる。 次いで、主な差異点を摘示すると、 (ア)連結部とフックの接続部付近の態様について、本件登録意匠は、連結部下側の露出部形状を、下囲い部下端中央の短円筒状狭持部とほぼ同径で縦幅が2倍強の円柱形状とし、フック上辺部を連結部横方向の貫通孔に直接挿通しているのに対して、イ号意匠は、連結部下側の露出部の大きさを、本件登録意匠に対して太さ、長さ何れも約1/2ほどの小さい円柱形状とし、ここに設けられた横方向の貫通孔に、本件登録意匠には存在しない円形連結環を挿通し、同円形連結環は、フック本体部上辺中央に設けられた貫通孔にも挿通し、挿通した両者を連結している点、 (イ)フック本体部について、本件登録意匠は、上辺を半円弧状とし、側辺から上辺にかけて倒J字状としているのに対して、イ号意匠は、上辺を水平状とし、側辺から上辺にかけて倒L字状としている点、 が認められる。 4.共通点及び差異点の検討 そこで、上記共通点及び差異点について、意匠全体として観察し、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの結論(以下、単に「類否判断」という。)に及ぼす影響を、順次検討する。 先ず、本件登録意匠とイ号意匠との共通点と差異点の内容を検討する前に、本件登録意匠の特徴を理解する上で、請求人が甲第3号証として提出した意匠登録第221583号類似第2号公報に記載された意匠よりも、更に有効と認められる被請求人の提出した乙第2号証に記載された意匠、すなわち、本件登録意匠出願前1984年10月頃に発行したと認められる、「オートン/工事用レールカタログ」(エスエム工業株式会社発行)68頁所載の「ステージランナー」の意匠(以下、公知意匠1という。別紙3参照)と本件登録意匠を比較すると、公知意匠1には、フック部の存在を除き、本件登録意匠とイ号意匠とが共通するとした(1)ないし(4)の構成態様が表されているものと認められる。 したがって、共通点(1)ないし(4)における、ローラー及び支持部の構成態様については、本件登録意匠特有の特徴を構成するものでないから、本件登録意匠とイ号意匠の類否判断に直接大きな影響を及ぼすものとすることができない。なお、公知意匠1は、乙第1号証「エスエム総合カタログ」の3頁の記載、及び、162頁に掲載された図により、1980年頃には既に販売されており、乙第2号証が発行された1984年10月頃までは継続的に販売され、当業界において広く知られるに至っていたものと推認される。 次に、(1)におけるフック部の存在、すなわち、カーテンランナーにおいて、フック部を一体的に組み合わせた点について検討する。 本件登録意匠におけるフック部は、公知意匠1における円形連結環と、設けられた位置が共通し、横幅もほぼ共通するから、公知意匠1における円形連結環に対応するものとして解釈することが可能なものである。ところが、請求人は弁駁書(2頁、下から3行目以下の記載。)において「本件登録意匠の出願日前は、ランナー部の連結環に需要者自らが選択した別売りのフックを付けていた。このフックはS字状フック(Sカン)であり、連結環に自由に取付可能であった。」と主張し、なお、本件登録意匠の実施品とみられる意匠が掲載された甲第4号証の第9頁とする頁(弁駁書2頁、下から2行目の記載。)に記載された、「従来のSカンが不要」との記載内容とも整合し、また、この点については、被請求人の見解とも一致している。 これら一致した請求人の主張、及び、被請求人の見解を前提とするならば、本件登録意匠において(1)におけるフック部の存在、すなわち、カーテンランナーにおいて、従来着脱容易に取り付けられていたフック部を一体的に組み合わせた点は、本件登録意匠の特徴を構成することになる。ところが、これらを一体的に組み合わせたことの着想そのもの、ないし、これらを組合せた物品そのものが形態を離れて意匠法により保護されるわけでもないから、この点についてイ号意匠が共通するとしても、連結態様及びフック部の形態を検討せずに、これのみを取り上げて類否判断に及ぼす影響の大・小を論ずることはできない。 次に、連結部とフックの接続部付近の態様に関する(ア)の差異点について検討するが、この差異点における本件登録意匠の構成態様(5)、すなわち、連結部下側の露出部形状を「下囲い部下端中央の短円筒状狭持部とほぼ同径で縦幅が2倍強の円柱形状」とし、円形連結環を不要として廃し、フックを直接挿通するようにした点は、少なくとも公知意匠1に対して本件登録意匠の特徴を構成するものである。 一方、(ア)の差異点におけるイ号意匠の構成態様において、連結部下側の露出部の大きさを、本件登録意匠に対して「太さ、長さ何れも約1/2ほど」のかなり小さいものとした点、及び、本件登録意匠には存在しない円形連結環を有する点については、連結部下側の露出部の形状及び円形連結環の大きさに差異はあるものの、公知意匠1の構成を概ね踏襲したといえるものである。 このように、(ア)の差異点におけるイ号意匠の構成態様は、本件登録意匠の特徴を構成すると推認される構成態様を共有せず、本件登録意匠出願前に存在した公知意匠1の構成をほぼ踏襲しただけのものであり、なお、連結部下側露出部の大きさの差異は、フックが直接挿入可能か否かを決定する差異であり、これに加え、円形連結環の有無における差異は、フックの位置を支持部に対してやや離れた位置とし、連結部に対して異なるフック部の揺動の態様を生じさせる差異でもある。そして、(ア)の差異点は、これら機能・構造上の差異に止まらず、意匠全体として観察した場合、形態的にも細部とは言い難いものであるから、類否判断、すなわち、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属するか否かの判断に一定程度大きな影響を及ぼすとすべきものである。 次に、フック部に関する共通点(6)について検討するが、本件登録意匠出願前、カーテンランナーの下端側に取付られるフック部に関し、開放側部を開閉桿により閉塞し縦長環状とした構成のものが使用されていたする証拠は、被請求人からは示されておらず、また、当審の調査によっても発見することができなかったから、本件登録意匠の特徴を構成するものと推認される。 ところが、フック状のものの開放側部を係止物の離脱防止手段として開閉桿により閉塞することは、様々な用途に供せられる「なす環(ナスカン、茄子環)」あるいは「カラビナ」と称される連結具にみられる周知の構成である。カーテンランナーの分野において、「フック状のものの開放側部を開閉桿により閉塞する」構成の係止具を採用したものが従前見受けられなかったとしても、カーテンを連結するS字状フックと、「なす環」あるいは「カラビナ」と称せられる連結具は、単に吊り下げに用いられる用途・機能の共通性を有するだけでなく、製造会社が共通し同一カタログに同時掲載されることもあると認められることから、カーテンランナーにおける連結具としてこのような構成のものを採用した着想そのものについてはさほど高く評価すべきものとは認められず、また、形態を離れた着想そのものが意匠法により保護されるわけでもないから、フック部全体の構成態様を検討せず、共通点(6)のみを取り上げて類否判断に及ぼす影響の大・小を論ずることはできない。 次に、共通点(7)については後述することとし、共通点(8)について検討するが、共通点(8)における開閉桿の形状は、被請求人が提出した乙第5号証、特開平10-331833号公報の図1ないし図4の「カラビナ」に表されているだけでなく、当審の調査によれば、例えば、意匠登録第506300号公報に記載されたなす環に用いられた開閉桿に見られるように周知の形状と認められるから、類否判断上さほど大きな影響を及ぼすものとすることはできない。 次に、共通点(7)と(イ)の差異点を併せて検討するが、両意匠の共通点「下辺を半円弧状、側辺を直線状」とした点は、例えば、被請求人が提出した乙第5号証に見られるようにフックないし環状連結具における形態として周知のものであり、正面視J字状としたものの上辺を直線状としたか半円弧状としたかの差異は、係止具ないし環状連結具における基本的構成態様に含まれる構成要素に関する差異と認められる。そうすると、(イ)の差異点に係る構成態様は、(7)の共通点のみならず、フック部全体、すなわち(6)ないし(8)の共通点に係る構成態様が生じさせる視覚効果を凌駕し、類否判断に一定程度大きな影響を及ぼすものである。 5.判断 これら共通点及び差異点の、類否判断に及ぼす影響を総合して、判断する。 すなわち、前記のとおり、ローラー及び支持部に関する(フック部の存在を除く)(1)ないし(4)の共通点に係る構成態様については、これらを同時に併せ持った意匠が本件登録出願前知られていたことから、類否判断に直接大きな影響を及ぼすものとすることはできず、従来着脱容易に取付られてきたとされるフック部を一体的に組み合わせた着想そのもの、若しくは、これにより形成された物品そのものの共通性については、類否判断に直接大きな影響を及ぼすものとすることはできず、本件登録意匠の特徴を構成すると推認される(5)の構成態様、すなわち、(ア)の差異点における本件登録意匠の構成態様をイ号意匠は具備せず、また、同差異点においてイ号意匠が具有する従来のものを概ね踏襲した円形連結環の存在は、細部形状に関するものとは言い難いものであり、したがって、連結部とフックの接続部付近の態様における(ア)の差異点は、類否判断に一定程度大きな影響を及ぼすものであり、フック部における(イ)の差異点は、フック部における基本的構成態様に関する差異であるから(6)ないし(8)の共通点に係る構成態様が生じさせる共通感を凌駕し、類否判断に一定程度大きな影響を及ぼすものである。これらを総合すれば、共通点に係る構成態様それぞれ、及び、その総体がそれなりに一定の共通感を生じさせるとしても、差異点に係る構成態様の類否判断に及ぼす影響の方が優っており凌駕するとせざるを得ない。 このように、共通点に係る構成態様において類否判断にさほど大きな影響を及ぼすものは存在せず、また、共通点に係る構成態様の相まった効果を総合したとしても、これを(ア)及び(イ)の差異点に係る構成態様が凌駕し、別異のまとまりを形成するから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似しない。 なお、本審決は、本件登録意匠のフック部について、被請求人も是認することから請求人の主張を採用し、公知意匠1に取り付けられるとするS字状フックに対応ないし相当するものとして認定したが、前記のように、公知意匠1の円形連結環に相当するものとして解釈可能なものであり、仮に、そのように認定し対比したとしても、結論に影響を及ぼすものではない。 ところで、請求人は、フック部の大きさの共通点について主張するが、フック部の大きさについては、従来のS字状フックと同様にローラー部、支持部とともに、吊り下げるカーテンの重量、あるいは、カーテンとの連結手段等との関係において、自ずと合理的な大きさの範囲が定まり、その範囲において適宜選択されるものと認められ、両意匠において顕著な差異がある場合は別として、共通するからといって類否判断にさほど大きな影響を及ぼすものとすることができないから、認定しなかったものである。また、請求人が是認するフック本体部の周面形状に関する差異点を認定しなかったのは、前記認定のとおり、これを顕著に上回る大きな差異があることによるものである。 6.むすび 以上のとおりであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2007-09-12 |
出願番号 | 意願2003-31098(D2003-31098) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(L5)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 須田 紳、吉田 英生、瓜本 忠夫 |
特許庁審判長 |
藤 正明 |
特許庁審判官 |
市村 節子 山崎 裕造 |
登録日 | 2004-08-06 |
登録番号 | 意匠登録第1218001号(D1218001) |
代理人 | 永田 良昭 |
代理人 | 永田 元昭 |
代理人 | 鍬田 充生 |
代理人 | 大田 英司 |
代理人 | 西原 広徳 |