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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) F5
管理番号 1165673 
判定請求番号 判定2007-600032
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2007-11-30 
種別 判定 
判定請求日 2007-04-12 
確定日 2007-10-09 
意匠に係る物品 商品表示具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1201056号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠に係る図面に示す「蟹用タグ」の意匠は、登録第1201056号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求人の申立て及び理由
請求人は、「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は、登録第1201056号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由を判定請求書の記載のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証の書証を提出した。その主張の要点は、以下のとおりである。
1.判定請求の必要性
請求人は、本件判定請求に係る登録意匠「商品表示具」(甲第1号証、以下、「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。被請求人が製造するイ号意匠(甲第2号証)の商品表示具は、本件登録意匠の意匠権を侵害する可能性があり、判定を求める。
2.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年8月7日(意願2003-22991号)に出願され、平成16年2月20日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1201056号の意匠であり、意匠に係る物品を「商品表示具」とし、部分意匠の意匠登録出願により登録を受けたものである。そして、本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けた部分(以下、「本件取付バンド部分」という。)の用途及び機能は、係合片の一方である挿入部の土台を兼ねたつまみ部と他方である係合穴部の基台を連結し、逆側に表示部を有する全体の中芯であって、蟹の爪や足等に取り付けるためのバンドたるものであり、本件取付バンド部分の意匠全体に占める位置、大きさ、範囲は、甲第1号証及び甲第3号証「本件登録意匠とイ号意匠の対比図」に示されるとおりであり、本件取付バンド部分の形態は、願書及び願書に添付した図面に記載されるとおりである(甲第1号証及び甲第3号証参照)。
3.イ号意匠
イ号意匠(甲第2号証)の商品表示具の本件登録意匠に相当する部分を、以下、「イ号相当部分」とし、イ号相当部分の用途及び機能は、係合片の一方である挿入部の土台を兼ねたつまみ部と他方である係合穴部の基台を連結し、逆側に表示部を有する全体の中芯であって、蟹の爪や足等に取り付けるためのバンドたるものであり、イ号相当部分の意匠全体に占める位置、大きさ、範囲は、甲第2号証及び甲第3号証に示されるとおりであり、イ号相当部分の形態は、甲第2号証「イ号意匠に係る図面」及び甲第3号証「本件登録意匠とイ号意匠の対比図」に記載されるとおりである。
4.本件登録意匠とイ号意匠との比較
<共通点>
(1)両意匠は意匠に係る物品が「商品表示具」で一致する。
(2)本件取付バンド部分とイ号相当部分の用途及び機能は一致する。
(3)本件取付バンド部分とイ号相当部分の位置、大きさ、範囲は一致する。
(4)本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態は、以下の点で一致する。
a)基本的構成態様において、正面視1箇所の円弧と2箇所の折れ曲がりを有する薄い帯板状であること、正面視最長辺(表示部を有する辺)において折り曲げるための切り欠きを有すること、正面視左側上端部につまみ部を有し右側下端部に係合穴部の基台を有すること、その他破線部分であるが構成が同じ(挿入部、表示部、係合穴部、バネ、支え等)であること。
b)具体的構成態様において、つまみ部形状が正面視円弧をなす薄板状であること、平面視縦長長方形であること、係合穴部の基台は正面視中芯と同じ厚さであること。
<差異点>
係合穴部基台が平面視、本件取付バンド部分は横長長方形を角丸にしたものであるのに対して、イ号相当部分は正方形である点。
5.本件登録意匠とイ号意匠との類否
両意匠の共通点は、(1)意匠に係る物品、(2)本件取付バンド部分とイ号相当部分の用途及び機能、(3)本件取付バンド部分とイ号相当部分の位置、大きさ、範囲、(4)本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態において、a)基本的構成態様の全てb)具体的構成態様は係合部基台形状以外の全て、において共通しており、両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
差異点は、具体的構成態様の一である係合部基台の形状のみが異なるのみであって、平面視においてもイ号物件のものは正方形という周知の形状であるから、特段看者の目を引くところとは言えず、両意匠の類否判断に与える影響は極めて微弱である。
以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否判断に与える影響は極めて微弱であって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。
6.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。
第2.被請求人の答弁
被請求人は、「イ号意匠図面に示す意匠は、登録第1201056号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない、との判定を求める。」と申し立て、その理由を答弁書の理由の記載のとおり主張し、証拠方法として、乙第1号証の書証並びに検乙第1号証(被請求人の製造した「蟹用タグ」現物)及び検乙第2号証(請求人実施の本件部分意匠「商品表示具」現物)を提出した。その理由の要点は、以下のとおりである。
〔A〕請求人の主張に対する認否
1.「本件登録意匠」の項
請求人が部分意匠として意匠登録を受けた本件登録意匠は、当該意匠に係る物品「商品表示具」を構成するプラグ差込み型結束バンド部分の更に、その分割部位である折曲バンド部の輪郭を実線で特定しようとした物品部分の一部に係るものであり、意匠法第2条1項にいう「物品の部分」の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものとはいえない。
2.「イ号意匠」の項
「イ号相当部分」と称している請求人の命名は何処が如何様に相当しているのか不明確である。
〔B〕被請求人の主張
1.本件登録意匠の基本的構成態様
(1)両端部に幅広な平板部を有し、左側上部の平板部は短く内側へ湾曲してつまみ部を形成し、かつ、下部右側の平板部はやや長い水平面を成しており、全体として、円弧つまみ部と、その下端に連なって略逆さ「へ」字形に曲がる右側の折れ曲がり部と、この折れ曲がり部から右下がりに傾斜した帯状部の右端から鈍角に右方へ水平に延びる前記平板部とによって屈曲形状の帯板を構成している。
(2)円弧つまみ部の内側面は、独鈷プラグ部の付根部分が固定一本化されるスペースを有し、他方、下部右端の平板部の上面も円筒ソケットの係合穴部が一体化されるスペースを有している。
2.本件登録意匠の具体的構成態様
(3)円弧つまみ部の下端内面には凹型に切り欠いて形成した薄肉ヒンジ部を有し、その溝底[ は溝幅全体が一様に薄くなっている。
(4)右下がりに傾斜した帯状部の略中間上面にはUカット状に切り欠き形成された薄肉ヒンジ部を有する。
(5)水平に延びる幅広な平板部の中央部には円筒ソケット型係合穴部に連通する貫通孔を有する。
3.本件登録意匠に係る物品の機能
(6)本件登録意匠に係る部分意匠バンドは、円弧つまみ部の下端内面に凹型に切り欠いて形成した薄肉ヒンジ部を有するので、独鈷プラグ(挿入部)の軸心の向きを調節しながら縦・斜め方向へ首振り回動する。
(7)本件部分意匠バンドは、右下がりに傾斜して延び出した帯状部中間部のUカット上に切り欠き形成された薄肉ヒンジ部において起き上がり回動する。
(8)本件部分意匠バンドを2ヵ所で屈曲する2軸ヒンジ機構として機能させ、独鈷プラグの軸心の向きを、係合穴部ソケット口の軸心に合わせて回動させ、独鈷プラグは係合穴部の中に挿嵌されて当該部分意匠バンドの端部同士は連結し、輪奈を形成して蟹の爪、足を結束する機能を発揮する。
4.本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は、前述の基本的構成態様(1)(2)を骨格として、具体的構成態様(3)(4)および(5)に特定する形状変化を付与し、この形状変化を施したことによって(6)?(8)の使用上の機能を発揮させ、これによって当該物品を購入する需要者の視覚に訴求する機能美を感得せしめる。
即ち、具体的構成態様(3)(4)(5)、および機能(6)(7)(8)に起因して派生される機能美は、当該物品「商品表示具」の市場において、需要者が購入を決意する際のバイイング・ポイントと成る。
5.イ号意匠の基本的構成態様
(1)本件登録意匠と比較されるべき蟹用タグの折曲バンド部位は、両端部に幅広な平板部を有し、左側上部の平板部は短く湾曲してつまみ部を形成し、かつ、下部右側の平板部はやや長い水平面を成しており、全体として、円弧つまみ部と、その下端に連なって略逆さ「へ」字形に曲がる右側の折れ曲がり部から右下がりに傾斜した帯状部の右端から鈍角に右方へ水平に延びる前記平板部とによって屈曲形状の帯板である。
(2)円弧つまみ部の内側面には、矢尻型の二股プラグ部のリブ状付根部分が一体成形され、下部右端の平板部の上面には、角筒型の有底受壷が一体成形される。
6.イ号意匠の具体的構成態様
(3)全体が黄色「カナリア色」に彩られている。
(4)略逆さ「へ」字形に曲がる帯状部の屈曲部に至る内側面には、補強リブが一体成形によって連設されて当該帯状部の屈撓を阻止している。
(5)右下がりに傾斜した帯状部の略中間上面にはUカット状に切り欠き形成された薄肉ヒンジ部を有する。
(6)水平に延びる幅広な平板部の中央部の上面には、当該平板部を横断するごとく立壁が突設され、かつ、当該平板の裏面は平坦な押圧面になっている。
7.イ号意匠の折曲バンドの機能
略逆さ「へ」字形に曲がる帯状部の屈曲部に至る内側面には補強リブが連設されて屈撓が阻止されているので、二股プラグの位置は安定に保持され、二股プラグを受壷の中に確実に差し込んで嵌合連結できる。
8.イ号意匠の視覚的美感
イ号意匠の折曲バンド部位は、1軸ヒンジ機構として確動的に折曲回動するので、円弧つまみ部先端のプラグと受壷とを特に合致させる努力をしなくとも、的確に回動し両者を嵌合連結させることができる。
してみれば、取引に際し需要者の目に触れ手に取られて観察される際に最も評価される点は、プラグと受壷との確実嵌合機能であり、かゝる使い勝手の良さであり、需要者が購入する際の重要な関心事となり、バイイング・ポイントとなる。
9.本件登録意匠とイ号意匠との比較及び類否関係
(1)意匠に係る物品
全体意匠である本件登録意匠に係る物品「商品表示具」も「蟹用タグ」として使用できるので、本件登録意匠に係る物品「商品表示具」を蟹の原産地表示用の物品として販売する場合には、「蟹用タグ」の用途と同一になり、需要者を共通にすることになるので、競合関係に立ち、イ号意匠に係る物品の用途を包含する。
(2)イ号意匠の蟹用タグの需要者
蟹用タグ(検乙第1号証の実施品現物)は『福井県機船底曳網漁業協同組合』の内部組織「越前・敦賀沖合底曳網組合」のメンバーにのみ販売しており、それ以外の蟹漁獲業者には販売していない。
したがって、イ号意匠の蟹用タグの需要者は、最広義に解釈しても、日本海で大型の底曳網船や小型の漁船でズワイ蟹・セイコ蟹を漁獲して生計を立てゝいる漁業者と云うべきである。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との構成上の差異
(3-1)本件登録意匠とイ号意匠である折曲バンド部位とは、基本的構成態様に共通性がある。
(3-2)具体的構成態様
イ.本件登録意匠にあっては、円弧つまみ部の下端内面に[ 状の溝底の薄肉ヒンジ部が形成してあるのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位は、円弧つまみ部の下端に連なって略逆さ「へ」字形に曲がる帯状部の屈曲部に至る内側面には、補強リブが一体成形してある。
ロ.本件登録意匠にあっては、水平に延びる幅広な平板部の中央部に、円筒ソケット型の係合穴部に連通する貫通孔が開設されているのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位は、水平に延びる幅広な平板部の中央部上面に、当該平板部を横断するごとく立壁が突設され、かつ、その平板部の裏面は平坦な押圧面になっている。
ハ.本件登録部分にあっては、色彩が付されていないのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位は、黄色「カナリア色」に着色されている(検乙第1号証参照)。
(4)本件登録意匠とイ号意匠の折曲バンド部位の機能の比較
ニ.本件登録意匠に係る部分意匠バンドは、円弧つまみ部の下端内側面に薄肉ヒンジ部を有するので、独鈷プラグを係合穴部に挿入連結させる際に、薄肉ヒンジ部の薄い溝底部分を適宜上下に屈撓させることにより独鈷プラグの軸芯の向きを調節しながら縦・斜め方向へ首振りさせて差し込むのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位は、円弧つまみ部の下端に略逆さ「へ」字形に曲がる帯状部に至る内側面に補強リブを連設して屈撓を阻止してあるので、二股プラグの向き位置は安定に保持され、二股プラグを受壷の中に確実に差し込んで嵌合連結させることができる。
ホ.本件登録意匠に係る部分意匠バンドは、2軸ヒンジ機構として機能するので、蟹の産地表示用タグとしてだけでなく、商品の種類・価格・ランク等の識別表示するためのタグとして広く使用することが可能であるのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位は、1軸ヒンジ機構として確動的に折曲回動するものであって、蟹の爪・足だけの結束に特化して蟹の産地表示用タグとして最適の機能を発揮できる。
ヘ.本件登録意匠に係る部分意匠バンドの水平に延びる幅広な平板部の中央部分には、円筒ソケット型の係合穴部に連通する貫通孔が開設されて、係合穴部に独鈷プラグの先端が突出するようになっているのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位の水平に延びる幅広な平板部の裏面は平坦であって、二股プラグが受壷の中に挿入嵌合しても、プラグ先端は裏面に突き出さず、同平板部の上面には幅方向に立壁が形成してあって、二股プラグが差し込まれてくると、この立壁が二股プラグの間に割り込んで当該プラグを股開きさせ抜止め作用を発揮する。
(5)本件登録意匠とイ号意匠の折曲バンド部位の美感上の差異
本件登録意匠は、前述してきた具体的構成態様(3)?(5)、および機能(6)(7)(8)に起因して派生される機能美は、当該物品「商品表示具」の取引の際において需要者の評価の対象とされる。
他方、イ号意匠の折曲バンド部位が取引に際して需要者の視覚を通じて感得される美感について、イ号意匠の折曲バンド部位が、1軸ヒンジ機構として確動的に折曲回動し、円弧つまみ部先端のプラグと受壷とを特に合致させる努力をしなくとも、的確に回動し両者を嵌合連結させることができることから、イ号意匠の折曲バンド部位が取引に際し需要者の目に触れ手に取られて観察される際に最も評価される点は、二股プラグと受壷との確実嵌合機能であり、かゝる使い勝手の良さであり、需要者が購入する際の重要な関心事となり、バイイング・ポイントと成る。
(6)本件登録意匠とイ号意匠の類否関係
蟹用タグを購入するズワイ蟹漁業者の最大の関心事は、タグの使い勝手であり、ローリング、ピッチングで激しく揺れる船上で、小さななタグを蟹の足へ如何に確実簡単かつ迅速に装着できるかという点を評価する。
そうすると、本件登録意匠に係る「商品表示具」は、円弧つまみ部を独鈷プラグの軸芯の向きを調節しながら、係合穴部ソケット口の軸芯に合わせて回動させ強く押して独鈷プラグを係合穴部に差し込んで嵌合連結させなければならず、荒波に揺れる船上では使い勝手が悪くズワイ蟹漁業者の満足を得難い(検乙第2号証参照)。
これに対し、イ号意匠の折曲バンド部位を結束機構部として含む「蟹用タグ」は、1軸ヒンジ機構として確動的に折曲回動することになり、プラグと受壷とを特に合致させる努力をしなくとも、的確に回動し両者を簡単に嵌合連結させることができ、プラグと受壷との確実嵌合機能、およびかゝる使い勝手の良さが、大きく蟹漁業者に評価され購入する際の重要な関心事を惹いて、バイイング・ポイントとなる。
してみれば、本件登録意匠とイ号意匠の折曲バンド部位は、需要者の視覚に訴求する機能美の性質が顕著に相違するので、相互に非類似である。
〔D〕結論
以上のとおり、イ号意匠図面(甲第2号証)に示される蟹用タグは、登録1201056号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、本件判定請求は、棄却されるべきである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年(2003年)8月7日の意匠登録出願に係り、平成16年2月20日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1201056号の意匠であって、願書及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品を「商品表示具」とし、その形態を、願書及び願書に添付した図面の記載のとおりとしたものであり、部分意匠として意匠登録を受けた部分を実線で表した取付バンド部分とし、本件取付バンド部分の位置、大きさ、範囲を、商品表示具の中央の芯となるバンド部分とし、本件取付バンド部分の用途及び機能を、バンド部分の両端のつまみ部と基板部の内側に設けられる各々プラグ部とソケット部とを嵌合させるように、バンド部分全長の略中間のヒンジ部を支点に屈曲させ、また、プラグ部とソケット部間に、補強リブ、バネ板、支え板を設け、さらに、逆側の下側に表示部を設けて、蟹の爪や足等に取り付けようとするものである。(別紙第1参照)
そして、本件取付バンド部分の形態は、基本的構成態様として、(a)全体の構成態様を、横長の薄い帯板状であって、その長さの約4分の1の左右両端寄りにそれぞれ折れ曲がり部を形成し、左側の折れ曲がり部の上側先端を、その下側よりも幅広の略矩形状とし、内側へ円弧状に湾曲してつまみ部とし、右側の折れ曲がり部より右側を、つまみ部と前後同幅の略矩形状に形成して基板部としたものである。
また、各部の具体的構成態様として、(b)左側の折れ曲がり部の角度を、直角よりやや広角とし、(c)右側の折れ曲がり部の角度を、左側の折れ曲がり部よりもさらに広角とし、(d)バンド部分全長の略中間に、上部を断面略逆台形の溝状に切り欠いて薄肉のヒンジ部とし、(e)つまみ部下側に、内面を断面略「コ」字形の溝状に切り欠いて薄肉のヒンジ部とし、(f)つまみ部を、略縦長矩形状とし、(g)基板部について、(g-1)平面視、四隅が隅丸の略横長矩形状とし、(g-2)基板部の下側を、中央よりやや外寄りの貫通孔の円形部分を除き平坦面としたものである。
2.イ号意匠
イ号意匠は、本件被請求人が製造する蟹用タグであって(甲第2号証)、その形態を、甲第2号証の「イ号意匠に係る図面」による、「イ号意匠」の全体意匠となる一組の図面6図、「イ号意匠参考正面写真」・「イ号意匠参考背面写真」及び「イ号相当部分を示す正面図」等一組の図面6図の記載のとおりとしたものであり(なお、形態の認定にあたっては、「イ号意匠参考正面写真」・「イ号意匠参考背面写真」は、その他の「イ号意匠」の全体意匠となる一組の図面及び「イ号相当部分を示す正面図」等一組の図面の記載に付されていない色彩が付加されたものであり、意匠の理解を助けるための「参考図」として参酌する。)、本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分と対比の対象となる部分(相当する部分)を、「イ号相当部分を示す正面図」等一組の図面6図に記載し、実線で表した取付バンド部分とし(以下、本件登録意匠の部分意匠として意匠登録を受けようとする部分に相当する部分を、「イ号相当部分」という。)、イ号相当部分の位置、大きさ、範囲を、蟹用タグの中央の芯となるバンド部分とし、イ号相当部分の用途及び機能を、バンド部分の両端のつまみ部と基板部の内側に設けられる各々プラグ部とソケット部とを嵌合させるように、バンド部分全長の略中間のヒンジ部を支点に屈曲させ、また、プラグ部とソケット部間に、補強リブ、バネ板、支え板を設け、さらに、逆側の下側に表示部を設けて、蟹の爪や足等に取り付けようとするものである。(別紙第2参照)
そして、イ号相当部分の形態は、基本的構成態様として、(a’)全体の構成態様を、横長の薄い帯板状であって、その長さの約4分の1の左右両端寄りにそれぞれ折れ曲がり部を形成し、左側の折れ曲がり部の上側先端を、その下側よりも幅広の略矩形状とし、内側へ円弧状に湾曲してつまみ部とし、右側の折れ曲がり部より右端寄りの右側を、つまみ部と前後同幅の略矩形状に形成して基板部としたものである。
また、各部の具体的構成態様として、(b’)左側の折れ曲がり部の角度を、直角よりやや広角とし、(c’)右側の折れ曲がり部の角度を、左側の折れ曲がり部よりもさらに広角とし、(d’)バンド部分全長の略中間に、上部を断面略半円弧形の溝状に切り欠いて薄肉のヒンジ部とし、(e’)つまみ部下側に、内面を断面略縦長「コ」字形の溝状に切り欠いて薄肉に形成し、(f’)つまみ部を、略縦長矩形状とし、(g’)基板部について、(g’-1)平面視、略正方形状とし、(g’-2)基板部の下側を、平坦面としたものである。
3.両意匠の対比
(1)本件登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品について
本件登録意匠が「商品表示具」とし、イ号意匠が「蟹用タグ」とするが、共に蟹の爪や足等に取り付けて、その種類や産地等を識別し表示するためのものであって、意匠に係る物品は一致する。
(2)本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態について
本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態について、以下に示すように、共通点及び相違点がある。
<共通点>
基本的構成態様として、(A)全体の構成態様を、横長の薄い帯板状であって、その長さの約4分の1の左右両端寄りにそれぞれ折れ曲がり部を形成し、左側の折れ曲がり部の上側先端を、その下側よりも幅広の略矩形状とし、内側へ円弧状に湾曲してつまみ部とし、右側の折れ曲がり部より右側の広範を、つまみ部と前後同幅の略矩形状に形成して基板部とした点。
また、各部の具体的構成態様として、(B)左側の折れ曲がり部の角度を、直角よりやや広角とし、(C)右側の折れ曲がり部の角度を、左側の折れ曲がり部よりもさらに広角とし、(D)バンド部分全長の略中間に、上部を溝状に切り欠いて薄肉のヒンジ部とし、(E)つまみ部下側に、内面を溝状に切り欠いて薄肉に形成し、(F)つまみ部を、略縦長矩形状とした点。
<差異点>
(ア)基板部について、(ア-1)平面視形状を、本件取付バンド部分は、四隅が隅丸の略横長矩形状としたのに対して、イ号相当部分は、四隅が角張った略正方形状とし、(ア-2)基板部の下側を、本件取付バンド部分は、貫通孔の円形部分を除き平坦面としたのに対して、イ号相当部分は、全面平坦面とし、(イ)つまみ部下側の溝状切り欠き部について、本件取付バンド部分は、縦幅が狭い極細幅のヒンジ部としたのに対して、イ号相当部分は、縦幅が本件取付バンド部分より幅広でヒンジ部とせず、(ウ)バンド部分全長の略中間の溝状の切り欠き形状を、本件取付バンド部分は、断面略逆台形としたのに対して、イ号相当部分は、断面略半円弧形とし、(エ)右側の折れ曲がり部から基板部との繋ぎ形状を、本件取付バンド部分は、折れ曲がり部から直ぐに基板部としたのに対して、イ号相当部分は、帯板状を折れ曲がり部から外方向に、折れ曲がり部の右側全長の約1/4延ばして、基板部と繋げた点。
なお、被請求人は、「本件登録意匠にあっては、円弧つまみ部の下端内面に[ 状の溝底の薄肉ヒンジ部が形成してあるのに対して、イ号意匠の折曲バンド部位は、円弧つまみ部の下端に連なって略逆さ「へ」字形に曲がる帯状部の屈曲部に至る内側面には、補強リブが一体成形してある。」旨主張する。しかし、補強リブは、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分に含まれるものではなく、かつ、共通点及び差異点については、上述したとおりであり、被請求人の主張は採用できない。
(3)本件取付バンド部分とイ号相当部分の用途及び機能について
両者は、意匠に係る物品が共に蟹の爪や足等に取り付けて、その種類や産地等を識別し表示するための商品表示具の、その中央の芯となるバンド部分であり、折れ曲がり部を形成し、バンド部分の両端をつまみ部と基板部としたものである。そして、つまみ部と基板部の内側に設けられる各々プラグ部とソケット部とを嵌合させるように、バンド部分全長の略中間のヒンジ部を支点に屈曲させ、また、プラグ部とソケット部間の左右の折れ曲がり部を中心とする内側には、共に、左側の折れ曲がり部側に補強リブとバネ板を、右側の折れ曲がり部側に補強リブと支え板を設け、さらに、バンド部分全長の略中間のヒンジ部と左側の折れ曲がり部とのバンド部分の下側に表示部を設けて、蟹の爪や足等に取り付けようとするものであるから、両者の使用の方法、使用の状態等に差異はなく、本件取付バンド部分とイ号相当部分の用途及び機能は一致する。
なお、被請求人は、本件取付バンド部分は、2軸ヒンジ機構であり、[ を成す薄肉ヒンジ部によりプラグの軸芯の向きを調整しながら縦・斜め方向へ首振りできるのに対して、イ号相当部分は、1軸ヒンジ機構で、円弧つまみ部の下端の内面側に補強リブを連接して屈撓を阻止し、プラグの向き位置は安定に保持される旨主張する。しかし、本件取付バンド部分のつまみ部下側の溝状切り欠き部の縦幅が極細幅で、つまみ部とつまみ部下側のバンド部分とが一体的に結合し、バンド部分全長の略中間のヒンジ部を支点に屈曲する際には、両者は共につまみ部と同時につまみ部下側のバンド部分をも押圧しながら屈曲させるものであり、本件取付バンド部分とイ号相当部分の用途及び機能に差異を生じさせるものではなく、被請求人の主張は採用できない。
(4)本件取付バンド部分とイ号相当部分の位置、大きさ、範囲について
両者は、共に商品表示具の中央の芯となる取付バンド部分であり、本件取付バンド部分とイ号相当部分の位置、大きさ、範囲は、ほぼ一致する。
4.両意匠の類否判断
そこで、本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態の共通点及び差異点を総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。
この種商品表示具は、蟹の爪や足等に取り付けて、その種類や産地等を識別し表示するためのものであって、蟹漁獲業者が漁獲した蟹に商品表示具を取り付ける場合があるとしても、商品表示具が販売業者や消費者向けに、蟹の種類や産地等を識別し易く表示するためのものであり、需要者は、蟹漁獲業者に限らず、販売業者を含めた者である。そして、当該需要者は、商品表示具の一般消費者に対する表示効果や装着時の態様を考慮するものであり、そうすると、この種商品表示具の取付バンド部分の意匠においては、意匠全体として通常観察される斜視状態から見た態様における視覚的効果が、意匠の要部として注意を惹くものと認められる。
そうとすると、共通点である(A)全体の構成態様は、全体の基本的構成態様に係り、全体にわたる造形の基調を成す骨格的な構成態様であり、かつ、本件登録意匠の出願前には見られない特徴的な構成態様であり、需要者の格別注意を惹くものである。さらに、具体的構成態様である共通点(B)左側の折れ曲がり部の角度及び共通点(C)右側の折れ曲がり部の角度の構成態様は、蟹に取り付けるために左右に折れ曲がり部を形成する主要な箇所であり、左右の折れ曲がり部の角度に変化を付けて屈曲する特有の態様を表し、需要者の注意を惹き、また、共通点(D)バンド部分全長の略中間のヒンジ部の構成態様は、用途及び機能に及ぼす影響は極めて強く、蟹に取り付ける際に、ヒンジ部を支点に屈曲させるもので、需要者に強い印象を与えて、需要者の注意を惹くところである。加えて、共通点(E)つまみ部下側の溝状切り欠き部と(F)つまみ部の構成態様が、本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態の共通感をより強めるものである。
したがって、共通点(A)ないし(F)の相まって奏する視覚的効果は、両意匠に意匠全体として強く共通した美感を起こさせるものである。
これに対して、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、両意匠の共通した美感を変更するものではない。
すなわち、差異点(ア)基台部について、(ア-1)平面視形状の差異は、両者の略横長矩形状と略正方形状とが、いずれもありふれた形状で、横の長さを変更する僅かな差に過ぎず、かつ、両者の四隅の態様も、局所的な箇所であり、需要者の注意を惹くものではない。また、(ア-2)基板部の下側の構成態様の差異について、本件取付バンド部分の貫通孔部分は、破線で描かれたもので、物品の部分について意匠登録を受けようとする部分には含まれない。そして、両者の平坦面の態様で対比すると、本件取付バンド部分の内部の円形部分は、取付バンド部分の全体から見れば、部分的な箇所であり、かつ、用途及び機能を考慮しても、円形部分の有無が、嵌合構造によるもので、いずれの基板部も、嵌合しようとするソケット部の土台を成すことにかわりはなく、用途及び機能が一致する。したがって、この基板部の下側の構成態様の差異は、需要者の注意を惹くものではない。
(イ)つまみ部下側の切り欠き部の構成態様の差異は、切り欠き部が局所的な箇所であり、目立つものではなく、かつ、両者は共につまみ部とつまみ部の下側のバンド部分とが一体的に結合し、つまみ部を押圧する際に、同時につまみ部下側のバンド部分をも押圧するものであり、使用の態様等に格別異なる印象を与えるものではなく、この切り欠き部の構成態様の差異は、需要者の注意を惹くものではない。
(ウ)バンド部分全長の略中間の溝状の切り欠き形状の差異は、凝視しても識別しにくい微細なものであって、共通点(D)バンド部分全長の略中間に、上部を溝状に切り欠いて薄肉のヒンジ部とする構成態様に希釈され、需要者の注意を惹くものではない。
(エ)右折れ曲がり部から基板部との繋ぎ形状の差異は、取付バンド部分の全体から見れば、部分的な箇所であり、需要者の注意を惹くものではない。
そして、それら差異点の相まって奏する視覚的な効果を勘案しても、両意匠の共通する美感を変更するものではない。
したがって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、本件取付バンド部分とイ号相当部分の用途及び機能が一致し、本件取付バンド部分とイ号相当部分の位置、大きさ、範囲がほぼ一致し、さらに、本件取付バンド部分とイ号相当部分の形態について、共通点が差異点を凌駕しており、意匠全体として美感が共通し、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものである。
5.むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2007-09-20 
出願番号 意願2003-22991(D2003-22991) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (F5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 真珠川崎 典子 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 杉山 太一
鍋田 和宣
登録日 2004-02-20 
登録番号 意匠登録第1201056号(D1201056) 
代理人 戸川 公二 
代理人 中出 朝夫 
代理人 鈴江 正二 

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