ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 H7 |
---|---|
管理番号 | 1190646 |
審判番号 | 無効2008-880012 |
総通号数 | 110 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2009-02-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-04-25 |
確定日 | 2008-12-17 |
意匠に係る物品 | 携帯用無線通信機 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1280100号「携帯用無線通信機」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.請求人の申し立て及び理由の要点 請求人は、「意匠登録第1280100号の登録を無効とする。」と申し立て、その理由として要旨以下のように主張し、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第8号証の書証を提出している。 1.無効理由の要点 意匠登録第1280100号に係る意匠(以下、本件登録意匠という。)は、その出願前に頒布された刊行物に記載された意匠(甲第2号証の意匠、以下、甲号意匠という。)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきである。 2.本件意匠登録を無効とすべき理由 (1)本件登録意匠は、意匠登録第1280100号(甲第1号証)の意匠公報に記載のとおりであり、意匠に係る物品は「携帯用無線通信機」で、甲号意匠は、本件登録意匠の出願前、平成15年8月4月に発行された意匠登録第1180876号に記載された「携帯用無線通信機」の意匠である。 (2)本件登録意匠と甲号意匠の対比 意匠に係る物品は、両意匠ともに「携帯用無線通信機」に関するものであり、同一の物品である。その形態については、以下の共通点と差異点が認められる。 <共通点> 基本的構成態様において、以下の点が共通する。 (A)本体形状を略直方体としていること (B)本体天面の左側のアンテナの形状は略円錐形状であること (C)正面視における本体天面の中央および右側に複数の凹凸が交互に設けられた略円筒形状のツマミ部材が設けられていること (D)本体正面の約1/2の範囲に相当する上段から中段に渡る範囲に、楕円形状面が設けられていること (E)楕円形状面の中央上方に、横長の略楕円形状の領域が設けられていること (F)楕円形状面の上段から下段に渡る範囲に、6個の横長円弧状切欠が、縦方向に並んで設けられていること (G)横長円弧状切欠の下方に、2個の小さい横長の略楕円形状の模様が、縦方向に並んで設けられていること、 (H)本体左側面の上段から中段に、縦長の略楕円形状および2個の楕円形状のボタン部材が設けられていること、 (I)本体右側面の上段から中段に、縦長の略楕円形状のカバー部材が設けられていること。 具体的態様において、以下の点が共通する。 (J)本体形状の上辺は、アンテナおよび中央のツマミ部材が設けられた面を高く、右側のツマミ部材が設けられた面をそれよりもやや低く設けていること、 (K)本体正面のほぼ全面に、上縁の角が丸められた縦長矩形隆起面が設けられていること、 (L)本体中央に向かって傾斜する緩やかな面が左右に夫々1個づつ設けられていること、 (M)楕円形状面の下段から本体下段に凹部が設けられていること、 (N)アンテナの上方のアンテナの長さの約1/6に相当する位置に、アンテナの円周に沿って3個の溝が設けられていること、 (O)本体左側面の縦長の略楕円形状のボタン部材の中に、極小さな円形の突起が多数設けられていること。 <差異点> 差異点イ:本件登録意匠は左側面視および右側面視において、縦長矩形隆起面が視認可能であるのに対し、甲号意匠は不可視であること、 差異点ロ:縦長矩形隆起面の中のほぼ全域に渡り、分銅形状隆起面が設けられているのに対し、甲号意匠は縦長狭矩形面であり、隆起していないこと、 差異点ハ:本件登録意匠の本体天面の中央および右側のツマミ部材の凹凸形状の数は6個であるのに対し、甲号意匠はその数が8個であること、 差異点ニ:本件登録意匠の楕円形状面は、それよりもやや大きな楕円形状の緩やかな隆起面に設けられているのに対し、甲号意匠に相当する意匠が存在しないこと。 (3)本件登録意匠と先行意匠との類否 両意匠の類否を検討すると、共通する基本的構成態様は、具体的態様の共通点と共に、両意匠の基調を形成している。 特に、共通点(D)の楕円形状面は、先行周辺意匠にも存在せず、本件登録意匠と甲号意匠にのみ共通する新規な意匠である。また、これにより、共通点(E)?(G)に係る意匠の形態的な一体感がより強いものとなっている。よって、共通点(D)およびこれに囲まれた共通点(E)?(F)は、創作的価値が高いものであると認められ、需要者の注意を引く程度が大きな意匠であるため、類否判断に与える影響は大きい。 これに対して、差異点イは、物品の本体形状おいては微細なものであるため、需要者の注意を引く程度は小さいものである。 けだし、本件登録意匠と甲号意匠の本体の縦方向の長さ(アンテナを除いた直方体のみの高さ)とその厚みの比は、どちらも概して1:3だからである。つまり、本件登録意匠は、本体の厚みに着目すると、甲号意匠と何ら差異が無いことになる。また、先行周辺意匠にも本件登録意匠と同様の意匠が設けられているからである。これらのことから、需要者が本件登録意匠に係る物品を把持したときに、本体の厚みおよびそこから生じる把持感について同種の他の物品と異なる印象を受けるものではない。よって、差異点ロおよび差異点ハは、需要者の・注意を引く程度は小さいものであるため、類否判断に与える影響は小さい。 差異点ロについては、分銅形状と表現したものの、極緩やかなくびれであり、本体正面の意匠を上下に二分するような極端なくびれではない。需要者によっては矩形と認識する程度のくびれである。また、同種のくびれは先行周辺意匠の甲第8号証にも存在するものである。よって、差異点ロは、需要者の注意を引く程度は小さいものであるため、類否判断に与える影響は小さい。 差異点ハについては、ツマミ部材自体が物品の機能を確保するために設けられているため、物品の特性から観て、視覚的印象に大きな影響を及ぼすものではない。また、ツマミ部材が意匠に占める割合は極めて小さいため、この観点からも、視覚的印象に大きな影響を及ぼすものではない。さらに、先行周辺意匠のツマミ部材の凹凸形状の数も同じである。よって、差異点へは、需要者の注意を引く程度は小さいものであるため、類否判断に与える影響は小さい。 差異点ニについては、上述したように、需要者の把持感に影響を与える程度の隆起ではないため、物品の形状に大きな影響を与えるものではない。これにより、需要者によっては、当該隆起があることさえ気が付かない程度のものである。よって、差異点ニは、需要者の注意を引く程度は小さいものであるため、類否判断に与える影響は小さい。 以上のことから、これらの差異点を総合しても、両意匠の共通感(A)?(O)を凌駕するものではないので、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものである。 3.むすび したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるため、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。 第2.被請求人の答弁及び理由の要点 被請求人は、「意匠登録第1280100号の登録を維持する、との審決を求める。」と答弁し、要旨以下のように反論している。 1.理由 請求人は、本件登録意匠と甲号意匠に係る共通点(D)が類否判断における影響が大きい旨、および差異点イ?ニが類否判断における影響が小さい旨を様々主張している。よって、被請求人は、これらの主張への反論を以下に展開する。 (1)共通点(D)の把握の誤り 請求人は、共通点(D)として「本体正面の約1/2の範囲に相当する上段から中段に渡る範囲に、楕円形状面が設けられていること」として、本件登録意匠と甲号意匠の共通点を主張する。 しかしながら、本件登録意匠の該当する面の意匠は、楕円形ではない。 すなわち、本件登録意匠の面の意匠は、その下端が極端にすぼまった形状であるため逆三角形に近似した形状であり、楕円形状を呈していない。よって、形状に係る意匠として認識したときに、明かな相違がある。 また、請求人が主張するように、当該意匠が需要者の注意を引く程度が大きい意匠であるならば、需要者はこれらの差異にも大きな注意を向けることになる。よって、双方の意匠の差異を明確に把握することにより、非類似の意匠であると認識するものである。 したがって、請求人が共通点(D)として把握した意匠は、むしろ差異点として類否判断に大きな影響を与える意匠であるため、当該意匠を本件登録意匠と甲号意匠の共通点であると把握したことは失当である。 (2)差異点イ?ニの把握の誤り 請求人は、差異点およびそれが類否判断に与える影響が小さい理由として、以下の旨を主張する。 (差異点イ)左右側面視における縦長矩形隆起面について、隆起自体は正面の意匠にも関連するものである。よって、需要者は、使用に際して隆起を自ずと視認するものである。 また、請求人は、把持感を挙げているが、意匠の類否は、物品の形状およびそれらの有機的な結合に基づいて判断されるべきである。よって、物品を手にしたときの感触(当然に需要者各人の手の状態により異なるであろう感触)は、判断の根拠とされるべきものではない。 したがって、請求人が差異点イとして把握した意匠は、むしろ類否判断に大きな影響を与える差異点であり、類否判断に与える影響が小さいものであると把握したことは失当である。 (差異点ロ)本件登録意匠の分銅形状隆起面について、当該分銅形状隆起面は、需要者が最も注目する本体の正面に設けられた意匠である。また、くびれが極端でないとしても、「くびれ」存在は容易に認識できるものであるため、甲号意匠のそれとは、異なる形状であることが顕著である。よって、需要者は、これらの差異を明確に視認するはずである。 なお、請求人は、同種のくびれが先行周辺意匠にあることを挙げているが、たまたま他の意匠に近似する意匠があるからといって、当該意匠が即ありふれた意匠となるわけではない。 したがって、請求人が差異点ロとして把握した意匠は、むしろ類否判断に大きな影響を与える差異点であり、類否判断に与える影響が小さいものであると把握したことは失当である。 (差異点ハ)本体天面の中央および右側のツマミ部材について、当該ツマミは、意匠に係る物品において必要不可欠な部材である(実際に当該ツマミを動かさなければ使用できない)ため、需要者が自ずと注意を払う部材である。よって、需要者は、これらの差異を明確に視認するはずである。 なお、請求人は、先行周辺意匠のツマミの凹凸形状の数を挙げているが、他の意匠に係るツマミの意匠はその数も形状も夫々異なるものであるため、本件登録意匠と甲号意匠の比較に影響を与えるものではない。 したがって、請求人が差異点ハとして把握した意匠は、類否判断に影響を与える影響が小さいとまでは断言できない差異点であり、類否判断に与える影響が小さいものであると把握したことは失当である。 (差異点ニ)楕円形状の隆起面の有無について、当該隆起面は、需要者が最も注目する本体の正面に設けられた意匠である。また、本体正面であることに加えて、そのほぼ中段の真中(物品の縦方向および横方向のほぼ中央)に設けられている。よって、需要者は、これらの差異を明確に視認するものである。 なお、把持感が意匠の類否判断に影響し得ないことは、上述したとおりである。 したがって、請求人が差異点ニとして把握した意匠は、むしろ類否判断に大きな影響を与える差異点であり、類否判断に与える影響が小さいものであると把握したことは失当である。 (3)まとめ 以上のことから、被請求人は、共通点(D)が共通点ではなく、類否判断に大きな影響を与える差異点であると共に、差異点イ?ニも類否判断に与える影響が大きいものであるため、本件登録意匠と甲号意匠とは非類似であると考える。 したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものではなく、同法第48条第1項第1号の規定に該当する無効理由はないものと思料する。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成17年8月19日の意匠登録出願に係り、平成18年7月21日に設定の登録がなされた意匠登録第1280100号の意匠であって、願書及び添付図面の記載によれば、意匠に係る物品が「携帯用無線通信機」であり、その形状は願書及び添付図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。 2.甲号意匠 甲号意匠(請求人が甲第2号証として提示した引用意匠)は、本件登録意匠の出願前である平成15年8月4日に発行された意匠公報意匠登録第1180876号に記載された意匠であって、当該公報によれば、意匠に係る物品が「携帯用無線通信機」であり、その形状は当該公報の説明及び図面に記載されたとおりのものである(別紙第2参照)。 3.両意匠の対比 両意匠は、意匠に係る物品がいずれも「携帯用無線通信機」であり、意匠に係る物品が共通する。 そして、その形状については、以下のような共通点、差異点がある。 (1)共通点 両意匠は、基本的構成態様において、(A)全体を、扁平縦長の略隅丸直方体のブロック状とし、(B)天面部にアンテナ及び2つのツマミ部材を横一列に設け、(C)左側面部に3つのボタンを縦一列に配し、(D)正面略3/5よりも上の部分に、スピーカーグリルを配した略半楕円形状の隆起部を設け、(E)正面隆起部の下方に、隆起部の下方から開始し、下端に向かって窄まる略帯状凹部を設けた構成態様において共通する。 そして、具体的態様において、(F)正面隆起部内上端に扁平な略ラグビーボール状面を、その下に6つの横長下向き円弧状のスピーカーグリルを、下部に2つの小さい横長の略楕円形状凸部をそれぞれ縦方向に並設し、(G)正面隆起部の上方から左右側面に連続し、両側面で細長い略U字状に湾曲して垂下する段状区画部を設け、(H)天面部において、アンテナおよび中央のツマミ部材が設けられた面を高く、右側のツマミ部材が設けられた面をそれよりもやや低く形成し、(I)天面部において、上端を略半円球状とし、上端部よりやや下がった位置に複数条の水平溝部を設けた略円筒棒状のアンテナを左側に、中央及び右側に2つの略短円筒状ツマミ部材を設け、(J)左側面部に1つの略縦長楕円状及び2つの略楕円形状のボタンを配した点において共通する。 (2)差異点 一方、両意匠は、基本的構成態様において、(a)正面における高さと横幅の比が、本件登録意匠は約5:2であるのに対し、甲号意匠は約4:2で、本件登録意匠の方が縦長である点、(b)本件登録意匠は正面隆起部の前方への盛り上がりが大きく、全体が凸球面状を形成しているのに対し、甲号意匠は、正面隆起部の盛り上がりが小さく、全体が略平坦面状を形成している点、において相違する。 そして、具体的構成態様において、(c)正面の略半楕円形状の隆起部について、本件登録意匠は、側部から下端にかけての外形を略V字状とし、そのやや内側を溝部としているのに対して、甲号意匠は、側部から下端にかけての外形は略U字状で溝部がない点、(d)正面隆起部の下方略帯状凹部について、本件登録意匠は窄まりが大きく下端で横幅の略1/3程度の幅であるのに対し、甲号意匠は窄まりが僅かで下端で横幅の約1/2程度の幅である点、(e)本件登録意匠は、正面隆起部の外周から下方の凹部の外側に連続する括れのある略細長逆U字状の細溝部が形成されているのに対して、甲号意匠は、細溝部がない点、(f)本件登録意匠は、正面外形のやや内側に、略縦長分銅形状の陵部を有する隆起面が形成されているのに対し、甲号意匠は、分銅形状の隆起面がない点、(g)正面隆起部の上方から両側部に連続する略U字状区画部について、本件登録意匠は両側面で正面隆起部より短く形成されているのに対し、甲号意匠は両側面で正面隆起部より長く形成されている点、(h)天面部のツマミ部材の滑り止めについて、本件登録意匠は、6つの凸状としたのに対し、甲号意匠は、8つの溝状とした点、(i)右側面部について、本件登録意匠は、1つの縦長略弾丸形状ボタンを設けているのに対し、甲号意匠は、当該部にボタンがない点、において相違する。 4.両意匠の類否判断 この種携帯用無線通信機は、手にとって使用され、近い距離で観察されるものであるから、意匠全体とともに、正面の態様を中心とした各部の具体的態様にも注目して観察されるものと認められる。 そうすると、基本的構成態様における共通点(A)は、両意匠の全体にわたる構成態様であるが、扁平縦長の略直方体のブロック状の構成態様は、この種携帯用無線通信機の意匠においては、例を挙げるまでもなく広く知られた構成態様であり、格別看者の注意を惹くものではない。共通点(B)、(C)は、目に付きやすい部位における共通点であるが、天面部横一列にアンテナ及びツマミ部材を、左側面部に複数のボタンを配した構成態様は、この種携帯用無線通信機の意匠においては、広く知られた構成態様であるから、いずれの共通点も格別看者の注意を惹くものではない。共通点(D)は、本体正面部に係るもので、目に付きやすい部位における共通点であるが、正面上方にスピーカーグリルを配した略半楕円形状の隆起部を設けることは両意匠のみに特異な態様とは言えず(例えば、<公知資料1(別紙第3参照)>特許庁意匠課が1998年に受け入れたカタログ「地域振興用陸上移動通信システム」1頁所載「トランシーバー」(意匠課公知資料番号第HN10011945号)、<公知資料2(別紙第3参照)>特許庁意匠課が2001年8月10日に受け入れたカタログ「Multimedia Systems」61頁所載「トランシーバー」の意匠(意匠課公知資料番号第HN13009898号)等。)、また、差異点(c)に見られるように、その具体的態様が異なることから、類否判断に与える影響は限定的である。共通点(E)は、目立つ部位における共通点ではあるが、概括的な共通性であり、差異点(d)に見られるように、その具体的態様が異なることから、類否判断に与える影響は限定的である。具体的構成態様における共通点(F)は、目立つ部位における共通点であり、類否判断に一定の影響を与えるものである。共通点(G)は、目立つ部位における共通点であるが、概括的な共通性であり、差異点(g)に見られるように、その具体的態様が異なることから、類否判断に与える影響は限定的である。共通点(H)、(I)、(J)は、意匠全体として観るとごく部分的な共通点であるため、いずれも類否判断に与える影響は限定的である。 一方、基本的構成態様における差異点(a)は、この種携帯用無線通信機の意匠においては、例を挙げるまでもなく広く知られた態様であるが、両意匠の全体にわたる構成態様であり、類否判断に一定の影響を与えるものである。差異点(b)も、目立つ部位における差異であり、類否判断に一定の影響を与えるものである。そして、具体的構成態様において、正面隆起部についての差異点(c)は、外形状の差異に加え、本件登録意匠においては溝部によって外形の略V字の形状が強調され、さらに、正面隆起部の下方略帯状凹部の窄まり(差異点(d))、括れのある略細長逆U字状の細溝部(差異点(e))、略縦長分銅形状の陵部を有する隆起面(差異点(f))により本件登録意匠は正面中央部の括れのある態様がより強調され、これらは目につきやすい正面部における差異で、看者の注意を惹くものであるから、これらの差異が類否判断に与える影響は大きい。正面隆起部から両側部に連続する区画部についての差異点(g)は、意匠全体として観るとごく部分的な差異であり、格別看者の注意を惹くものではなく、天面部のツマミ部材の滑り止めについての差異点(h)も、意匠全体として観るとごく部分的な差異であり、かつ、当該部を凸状とすることも、溝状とすることも、また、滑り止めの数を6つ又は8つとすることについてもいずれもこの種携帯用無線通信機においてありふれたもので、格別看者の注意を惹くものではないが、それぞれ両意匠に共通する態様(G)、(I)を弱める効果を有するものであるから、類否判断に一定の影響を与えるものである。 以上のように、両意匠は、基本的構成態様において共通する点が見られるものの、共通点(A)、(B)、(C)は、広く知られた、又は従前の意匠に見られる構成態様で、かつ、基本的構成態様には差異点(a)、(b)の差異も見られ、また、共通点(D)、(E)はいずれも概括的な共通性でしかなく、より具体的な態様の差異点(c)、(d)の視覚的効果が看取されるものである。 そして、具体的構成態様においても、類否判断に一定の影響を与える共通点(F)がみられるものの、(G)の共通点は、概括的な共通性で、より具体的な態様は異なるため、類否判断に与える影響は限定的であり、共通点(H)ないし(J)も、意匠全体として観るとごく部分的な共通点であるため、いずれの共通点も類否判断に与える影響は限定的であるのに対し、差異点(b)ないし(f)における本件登録意匠の、正面上方において、前方への盛り上がりが大きく、外形状が略V字状の隆起部を設け、隆起部の外周から下方の凹部の外側に連続する括れのある略細長逆U字状の細溝部を、正面外形のやや内側に外形が略縦長分銅形状の隆起面を設けた態様は、正面部の態様が曲面的で複雑な立体的構成であるとの印象を与え、甲号意匠は本件登録意匠に比し正面部における各構成において湾曲、凹凸の程度が少なく、平面的な印象を与えるもので、それらの差異は最も目立つ正面部における差異であるから、看者の注意を惹き、差異点は共通点を上回るものと認められる。 そうすると、両意匠は両意匠は基本的構成態様においてある程度差異が見られ、具体的構成態様においても正面部において目立つ差異が見られるものであるから、すべての差異点の相まった視覚的効果を勘案すると、両意匠は意匠全体として異なった美感を起こさせるものである。 したがって、両意匠は美感が異なり、類似しない。 4.むすび 以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件意匠登録を無効にすべきものとすることができない。 よって、結論のとおり審決する。 ![]() |
審理終結日 | 2008-10-20 |
結審通知日 | 2008-10-22 |
審決日 | 2008-11-05 |
出願番号 | 意願2005-24036(D2005-24036) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Y
(H7)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 恭子 |
特許庁審判長 |
梅澤 修 |
特許庁審判官 |
樋田 敏恵 並木 文子 |
登録日 | 2006-07-21 |
登録番号 | 意匠登録第1280100号(D1280100) |
代理人 | アイアット国際特許業務法人 |