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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 M3
管理番号 1195361 
審判番号 不服2008-29713
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-20 
確定日 2009-03-30 
意匠に係る物品 キャスター 
事件の表示 意願2007- 34131「キャスター」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 経緯
本願は,2007年 6月29日のドイツへの出願を基礎としたパリ条約による優先権の主張をして,2007年(平成19年)12月13日に意匠登録出願されたものであって,原審において2008年(平成20年) 3月12日付で拒絶の理由が通知され,2008年(平成20年) 6月20日付で意見書が提出されたが,2008年(平成20年) 8月14日付で拒絶査定がされたので,請求人は,これを不服として,2008年(平成20年)11月20日に審判請求をしたものである。


第2 本願意匠
本願の意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書および願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品は,「キャスター」であり,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」は,願書の記載および願書に添付した図面に表されたとおりのものである。(別紙第1参照)


第3 原審の引用意匠
原審で通知された拒絶の理由において,本願意匠に類似するとして引用された意匠(以下,「引用意匠」という。)は,本願出願前,日本国内または外国において頒布されたカタログであって,2003年(平成15年) 2月28日に特許庁意匠課が受け入れた「Design Castors」の第2頁に所載のキャスターの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HD15001320号)であって,その形態は,同カタログの図版に現されたとおりのものである。(別紙第2参照)


第4 請求人の主張の要点
請求人は,拒絶査定を不服として,請求の趣旨「原査定を取り消す,本願は登録をすべきものであるとの審決を求める。」との審判請求をし,請求の理由として要点以下のとおり主張し,引用意匠は,請求人の意匠であるので,引用意匠に係る意匠図面を提出し,引用の公知資料における意匠の具体的形状を提示するとし,証拠方法として甲第1号証「本願意匠と引用意匠の対比図面」を提出した。(別紙第3参照)

本願意匠と引用意匠は,意匠に係る物品は「キャスター」で同一であるが,当該物品は,斜め形状のみを視覚的に捉えて取引および使用されるものではなく,全体形状を捉えて取引・使用される物品である。しかしながら,原審における本願意匠と引用意匠との類否判断は,本願意匠の全体形状と,引用意匠の斜め上部から見た形状のみを対比している上,形態の共通点と差異点の認定,および,意匠全体から生じる視覚的印象の判断において誤りがある。
まず,原査定の類否の認定において,本願意匠と引用意匠は,車輪中心部から斜め45度に登るアームを有している点を共通点としているが誤りである。本願意匠のアームは,ほぼ45度の角度で伸びているが,引用意匠のアーム部は約70度の角度で伸びている点において相違する。引用意匠の公知資料からもアームが45度より高い角度で伸びていることは認められる。従って,本願意匠のアーム部およびシャフト支持部は,引用意匠の当該部分より,後方に位置し後方より車輪をカバーする。
また,本願意匠のアーム部は,車輪の後方上部より車輪中心部の下まで長く伸びており,先端2カ所において面取りした角を有するヘラ状の形状を成すのに対し,引用意匠のアーム部は,車輪上部より車輪中心部付近までの長さであり,本願意匠のものより短い点,アーム幅と同半径の半円形状の先端形状を有している点において相違する。本願意匠のアーム部は,全体における範囲,長さ,位置および形状が,引用意匠のアーム部とは相違する。本願意匠のアーム部内側がホイールキャップに入り込む形状を成すのに対し,引用意匠のアーム部はホイールキャップ上に接するような形状を成す点も異なる。
背面において,本願意匠は,アーム部とシャフト支持部が車輪上部から側面を広く覆いタイヤ部の露出が少ないのに対し,引用意匠は,背面において,車輪上部および側面を覆う部分が少なく,タイヤの露出が多い点において相違し,また,本願意匠のアーム部がホイールキャップ部を広い範囲で覆うことにより,本願意匠は,背面におけるホイールキャップ部の露出が僅かであるのに比して,引用意匠はホイールキャップ部の露出が大きい点において相違する。さらに,背面において,本願意匠のアーム部は,車輪最大幅と同幅の間隔にてシャフト支持部より直線的に伸び,内側においてホイールキャップ内に食い込み,車輪中心軸の下方において,ホイールキャップの樽形状に沿うよう終結するのに対し,引用意匠のアーム部は,車輪最大幅よりやや狭い幅でシャフト支持部より伸びて,車輪中心軸付近にて車輪幅(最大幅)と同幅の間隔にて終結している点においても相違する。全体として,本願意匠は,車輪部(タイヤおよびホイールキャップ部)の露出が少なく,下方が細くなる形状であるのに比し,引用意匠は,車輪中心軸付近を最大幅として全体的に丸みを有する形状を成す。
次に,本願意匠のホイールカバーおよびブレーキレバーは,車輪中心線より後方から伸び,車輪の前端から突出しないのに対して,引用意匠のホイールカバーおよびブレーキレバーは,車輪中心線より前方部に位置し,車輪前端部から突出する形状において相違する。全体として,本願意匠が後方および下方に重心のある印象を受けるのに比して,引用意匠は,前方および上部に重心のある印象を受ける。また,本願意匠は,ホイールカバーおよびブレーキレバー支持部とアームの接合面は極めて小さいのに対し,引用意匠は,ホイールカバーおよびブレーキレバー支持部が車輪上部側面を覆うよう広くとられている点においても相違する。さらに,両意匠におけるブレーキレバーの形状も異なる。本願意匠のブレーキレバーは,やや厚み・丸みを帯びて若干下がっているのに比し,引用意匠のそれは,上面が下がる形状にて,先端が鳥の嘴のように突出する形状を成す。
以上のとおり,本願意匠は,引用意匠とは,車輪を覆う部分および支持する部分の位置,大きさ,角度,範囲,形状,並びに,車輪部と支持部の接合形状が異なる。かかる差異点は,両意匠の共通点を凌駕するものであって,両意匠全体より生じる視覚的印象は異なるものであり,両意匠は相違する美感を生じる。


第5 当審の判断
引用意匠は,当該カタログが請求人の発行に係るものであるので,引用意匠が請求人の実施に係る意匠であると認められるが,甲第1号証の図面は参考としつつも,以下の判断は,引用意匠に係る図版から認定されるものによることを基本として行うこととする。

両意匠を対比すると,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態における共通点としては,基本的構成態様において,タイヤとホイールキャップよりなる車輪部,車輪部の両側を挟む左右対称形で薄板状のアーム部,車輪部の上部に先端側半分程度をシフトロックレバーとする略くさび形状のホイールカバー,および,下側ではアーム部を支え,前側面ではホイールカバーを配設し,上側ではキャスターを器物の底面に取り付けるための台座部の4つからなり,アーム部が背面側に傾斜し,ホイールカバーは車輪部上部でほぼ水平状をなしている点が共通し,具体的構成態様において,台座部の上部は薄い円板状をなしていて下部と分離している点,シフトロックレバーは,ホイールカバーと側面視上下に「二つ巴」状に一体化しており,シフトロックレバーの上面には滑り止めが正面視等間隔・略水平状に複数個設けられている点,ホイールカバーの下側と車輪部の間にシフトロックのための小突片が見えている点,ホイールキャップが正面視樽型に膨らんだ態様をしており,そのホイールキャップにアーム部が一部入り込んでいる点,アーム部の車軸に相当する部分に小円形が描かれている点等が共通している。

一方,両意匠の形態における主な差異点としては,基本的構成態様において,アーム部の傾斜角が,本願意匠は約45°であるのに対して,引用意匠は少なくとも60°以上であると推認される点,それに伴って台座部と車輪部の位置関係が,本願意匠は,台座部の背面後端部が車輪部の背面後端部より後方に位置しているのに対して,引用意匠は,台座部の背面後端部は,車輪部の背面後端部よりも前方に位置している点,ホイールカバーの配設部位と位置関係等について,本願意匠では,ホイールカバーが台座部の前側面の部位に配設されており,ホイールカバーの配設位置は水平方向において車軸より前方で,その先端は車輪部の先端より手前に位置しているものであって,ホイールカバーが車輪部を少しだけ覆っているものであるのに対して,引用意匠では,ホイールカバーが左右アーム部の上半分の位置に左右それぞれ配設されており,その先端は車輪部先端部よりもかなり前方に位置しているものであって,ホイールカバーが車輪部を相当程度覆っている点,引用意匠は,台座部の上面に台座部の直径より一回り程度大きくて四隅に加工の施された隅丸直方形状の取付板があるのに対して,本願意匠にはこれがない点等に差異があり,具体的構成態様において,台座部の形状が,本願意匠は略円柱状でアーム部との境界がなく,台座部の背面下部に背面視縦長の略長方形状の区画部がタイヤ幅とほぼ同じ幅で設けられているのに対して,引用意匠は略短円柱状でアーム部との境界があり,背面下部に区画部があるか否かが不明である(甲第1号証の図面によれば,ない。)点,ホイールカバーの側面において,引用意匠にはその先端部に極小円形の軸端面と中央部の上面付近に鋲がそれぞれ1箇所設けられている(引用意匠の図版には右側面のみが現れているが,左側面も同様と推認される。)点,シフトロックレバーとホイールカバーの境界について,「二つ巴」状の具体的形状が,本願意匠では,上側のシフトロックレバーとその下側に入り込んだホイールカバーの厚みがほぼ同等であるのに対して,引用意匠では,ホイールカバーの方が膨出するように厚く,シフトロックレバーの方は非常に薄くなっている点,シフトロックレバーの上面の形状について,本願意匠ではホイールカバーの上面と一体的な側面視同一弧状面を形成し,そこに正面視横筋状の小突起を滑り止めとして4条設けているのに対して,引用意匠では滑り止めが側面視大きな波形形状をなしており,ホイールカバーの上面と同一面を構成していない点,アーム部の具体的形状において,その側面視形状も両意匠で異なるが,本願意匠では車軸を挟んでその反対側にさらに延長部分が設けられて,ホイールキャップにこの部分も入り込んでいるのに対して,引用意匠ではこの延長部分が見られない点等に差異がある。

上述の共通点と差異点とを意匠全体として評価すると,共通点としてあげた基本的構成態様は,両意匠の形態の骨格をなすものではあるが,この種物品分野においては,両意匠より前からよく見られる極めてありふれた態様であり,これをもって,両意匠の類否判断を決定付けるものということはできない。また,具体的構成態様の共通点は,ありふれた態様,目につきにくい細部に係る差異等であって,これらを総合した効果を考慮しても,両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。

これに対して,差異点としてあげた本願意匠が台座部の下側のアーム部の傾斜角を約45°としたことによって,台座部の背面後端部は車輪部の背面後端部より後方に位置しており,台座部の前側面に略くさび形状のホイールカバーを配設したことによって,その配設位置は水平方向において車軸より前方であり,その先端は車輪部の先端より手前にしているものであって,ホイールカバーが車輪部を少しだけ覆っているものであって,車輪部の見える部分を大きくした配置・構成は,他には見られない特徴的な態様であって,全体として引用意匠とは明らかに異なる印象を与えており,これらの差異点が類否判断に及ぼす影響は非常に大きいものである。これに加えて,ホイールカバーの先端側半分程度に設けられたシフトロックレバーの上面の形状がホイールカバーの上面と一体的な側面視同一な弧状面を形成し,そこに正面視横筋状の小突起を滑り止めとして4条設けており,台座部の形状が略円柱状をなし,台座部の背面下部に背面視縦長の略長方形状の区画部が設けられており,アーム部には車軸を挟んでその反対側にさらに延長部分が設けられている点も,他では見られない特徴的なものであって,これらの差異点は類否判断に及ぼす影響をより大きいものにしている。

以上のように,両意匠の類否判断について,意匠全体として差異点が及ぼす影響は,共通点が及ぼす影響を凌駕しているという他ない。

したがって,本願意匠は,引用意匠と類似するということはできない。


第6 むすび
以上のとおりであって,原審の引用意匠をもって,本願意匠は意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するから,同法同条柱書の規定によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,さらに審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審決日 2009-03-16 
出願番号 意願2007-34131(D2007-34131) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (M3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橘 崇生 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 杉山 太一
鍋田 和宣
登録日 2009-04-24 
登録番号 意匠登録第1361046号(D1361046) 
代理人 小島 高城郎 

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