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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) H3
管理番号 1200350 
判定請求番号 判定2009-600013
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2009-08-28 
種別 判定 
判定請求日 2009-03-16 
確定日 2009-07-23 
意匠に係る物品 電子回路用ノイズフィルタ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1204645号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面代用写真及びその説明書に示す「電子回路用ノイズフィルタ」の意匠は、登録第1204645号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は、「イ号意匠及びその説明書に示す意匠(以下「イ号意匠」という)は、意匠登録第1204645号意匠(以下「本件登録意匠」という)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める」と申し立て、その理由として判定請求書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として甲第1号証乃至甲第5号証の書証を提出したものである。
(1)判定請求の必要性
本件請求人は、本件登録意匠の意匠権者であり、本件被請求人は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するイ号意匠に係る電子回路用ノイズフィルターを、甲1号証のように、製品名称「TAC-10-683」として製造販売している。
(2)本件登録意匠とイ号意匠の比較説明
(A)両意匠の共通点
両意匠は、意匠に係る物品がいずれも「電子回路用ノイズフィルター」であり、一致している。
全体が略縦長直方体状に形成され、底板が略縦長矩形状の板状部材からなり、ケーシングの底部に取り付けられ、端子部がケーシングの長手方向両端部にそれぞれ3カ所ずつ設けられているという基本的構成態様が共通する。
具体的構成態様において、両意匠は、1)端子部を覆うカバーが、ケーシングから離脱せずに閉状態と開状態とに変化自在となっている点、2)底板の背面側の中央下寄りに、略矩形状のレール取付部が設けられ、レール取付部の略中央部にはバネ部が設けられ、下端付近には貫通孔が形成され、レール取付部の下端が底板の下端から突出するように装着され、貫通孔の一部が正面視において視認可能となっており、底板の下端が前記ケーシングから僅かに突出し、当該突出した部分の正面側には保護接地端子部が設けられている点、3)端子部がケーシングの長手方向両端部に形成された段部に設けられており、端子部を構成する取り付けネジの上面がケーシングの上面の高さより僅かに低くなっており、6カ所の端子を同時に視認しやすくなるという点において共通する。
(B)両意匠の差異点
本件登録意匠は、カバーがヒンジ部を軸として回動するのに対し、イ号意匠は、カバーがケーシングの長手方向に摺動するスライド式となっている。
(C)むすび
以上のように、本件登録意匠とイ号意匠とは基本的構成体が共通し、全体の形態は類似している。そして、具体的構成態様についても両意匠は大部分について共通する形態を有し、さらに本件登録意匠の従来にない新規な形状を表し看者の注意を惹く部分である要部はいずれもイ号意匠と共通している。このことから、本件登録意匠とイ号意匠とは需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通し、誤認混同を生じるものとなっている。
第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由
(A)答弁の趣旨
被請求人は、「イ号意匠図面代用写真並びにその説明書に示す意匠は、意匠登録第1204645号及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」、との判定を求め、答弁書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として乙1号証乃至乙3号証の書証を提出したものである。
(B)本件登録意匠とイ号意匠との類否
両意匠は意匠に係る物品が同一で、略縦長直方体である基本構成は共通する。具体的構成において、1)本件登録意匠の端子台を覆うカバーは、ヒンジ部を軸として回動して開閉する回転式カバーであるのに対し、イ号意匠のカバーはスライド式カバーで、看者において全く異なる美感を惹起する。2)イ号意匠には端子台カバーの外側先端に上向きのノブが設けられているのに対して、本件登録意匠にはノブが存在せず、相違している。3)イ号意匠の端子台カバーの上面にはスライド方向を示す矢印が表示されているのに対して、本件登録意匠には矢印が存在せず、相違している。4)本件登録意匠の端子台を覆うカバーは透明で、閉じた状態で端子台が見えるのに対して、イ号意匠のカバーは乳白色の半透明で、閉じた状態では端子台が隠されて上部からは内部がほとんど見えない形態であり、両者は大きく相違している。5)イ号意匠は、底板そのものの下端がケーシングの全幅方向に渡ってわずかに突出し、保護接地端子がケーシングから突出した底板に備えられている点で本件登録意匠とは大きく相違する。6)本件登録意匠の端子台の取り付けネジは間にワッシャーを介して締め付けた状態にあり、取り付け台座との間に隙間が形成されていないのに対し、イ号意匠は、締め付けていない取り付けネジが、ワッシャーが上部に保持されることによって、ネジ下端が取り付け台座のネジ穴から抜け出して大きく浮いた状態にあり、ネジ下端と取り付け台座との間にも圧着端子を入れるための隙間が形成されている点で全く異なった形態ということができる。
(C)むすび
以上のように、本件登録意匠とイ号意匠とは、基本的構成は略共通するが、具体的構成態様については、イ号意匠は、本件登録意匠には見られない特有の形態を有しており、全体観察による類否判断をすれば、本件登録意匠とイ号意匠とは、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が相違し、誤認混同を生じるものでないことは明らかであり、類似しない意匠ということができる。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年4月10日の意匠登録出願に係り、平成16年3月19日に設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付された図面によれば、意匠に係る物品を「電子回路用ノイズフィルター」とし、その形態は願書の記載及び願書に添付された図面に表された通りのものである。
2.イ号意匠
本件判定請求の対象とされるイ号意匠は、判定請求書に添付されたイ号意匠図面代用写真並びに説明書によれば、三相500V用のノイズフィルター(なお、請求の理由では、イ号意匠を製品名称「TAC-10-683」と記載し、イ号意匠写真では、「TAC-06-683-D」を現しているが、判定請求書の記載全体からみてDINレール取り付けタイプのものと認められるから、製品名を「TAC-06-683-D」とする。)であり、その形態は判定請求書に添付された図面代用写真に表された通りのものである。
3.両意匠の比較検討
両意匠は、意匠に係る物品がともに「ノイズフィルター」であることから物品が共通し、その形態には、主として以下の共通点と差異点が認められる。
すなわち、共通点として、(A)全体は略縦長直方体状とし、正面の上下両端に端子部を設けた点、(B)端子部は、それぞれ等間隔3カ所に同形同大の箱状の凹部を形成して端子を取り付けた点、(C)筐体正面中央の縦長矩形部の上下両端に端子部正面を覆うカバーを設けている点、(D)筐体の背面側に縦長矩形状の薄い背面板を設けた点、(E)背面の下方中央に、レール取り付け部の下端を筐体の底面よりも下方に突出して取り付け、その突出部に貫通孔を設けた点、(F)筐体の底面の後端であって右端寄りに、前方に突出して保護接地端子部を設けた点、が主として認められる。
一方、差異点としては、(a)筐体の縦横の長さ及び奥行きの比並びに形状について、本件登録意匠は、略2対1対0.8で、奥行きがやや浅い扁平な縦長の直方体状であるのに対し、イ号意匠は、略1.7対1対1で、平面、底面及び左右側面が正面側を短辺とした台形状の奥行きがやや深い略縦長直方体状である点、(b)端子部のカバーについて、本件登録意匠は、縦長矩形部の上下両端にそれぞれ左右両端を支点として開閉自在の透明なカバーとしているのに対し、イ号意匠は、縦長矩形部の裏面に収納自在であって、それぞれ縁の中央に摘みを有する透光性のカバーとしている点、(c)筐体の背面板が、本件登録意匠は、筐体の背面と略同形同幅であるのに対し、イ号意匠は、左右全幅を筐体底面よりも下方に僅かに突出している点、(d)レール取り付け部の態様について、本件登録意匠は、中央の左右に切り欠き部を有し、筐体底面より下方に突出し、平板状で、貫通孔が略倒P字状であるのに対し、イ号意匠は、中央の左右に切り欠き部を有さず、背面板の下端よりさらに下方に突出し、下端を前方に僅かに折り曲げ、貫通孔が略U字状である点、(e)保護接地端子部の態様が、本件登録意匠は、レール取り付け部の前方に僅かに突出した背面板に設けられており、円柱状であるのに対し、イ号意匠は、筐体底面よりも下方に筐体と同幅に突出した背面板の前方に設けられており、側面視略L字形状の小板体と共にその内側にネジ止めし、その左脇に小角柱状部を取り付けている点、が認められる。
そこで前記の共通点と差異点につき、イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について、以下に検討する。 まず、共通点(A)について、正面の上下両端に端子部を設けることは、この種ノイズフィルターの形態全体の基本的構成態様として多数見受けられ、両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえない。(B)については、端子部にそれぞれ等間隔3カ所に同形同大の箱状の凹部を形成して端子を取り付けた態様のものが、本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば、特許庁意匠課平成13年2月2日受け入れの岡谷電機産業株式会社発行のカタログ「3SUP-HP500-ER-6」第1頁所載のノイズフィルター(特許庁意匠課公知資料番号HN12015235号)、(別紙第3、参考意匠1参照)の意匠)、両意匠のみに共通する態様とはいえない。(C)については、端子部正面を覆うカバーを設けることも、本件登録意匠の出願前より、イ号意匠の他にも、例えば、意匠登録第1081112号の意匠が見受けられ、両意匠のみに共通する格別の態様ということはできない。(D)について、縦長矩形状の背面板は、この種のノイズフィルターにおいては一般的に用いられる形状で、その共通点が注意を惹く部分とはいえない。(E)について、背面下方にレール取り付け部の下端を、筐体底面よりも下方に突出して設けることは、付加的な部分における目立たない細部に係る共通点といえ、また取り付け部として貫通孔を設けることは、従来より、この種の物品分野において普通に見られる態様であって、格別看者の注意を惹く部分であるとはいえない。(F)について、保護接地端子部を取り付けることは、本件登録意匠の出願前より見受けられ(例えば、特許庁意匠課平成11年1月14日受け入れの雑誌「電子技術」2号41巻A-1頁所載の3SUP-HB75-ER-6のノイズフィルター(特許庁意匠課公知資料番号HA10026717号)、(別紙第3、参考意匠2参照)の意匠)、また、保護接地端子部は、背面板の下方という目立たない部分における細部に係る共通点といえるもので、両意匠のみに共通する格別の態様とはいえない。
そうすると、これらの共通点に係る態様は、いずれも両意匠のみに共通する新規の態様とはいえないから、共通点に係る態様を総合した場合に生じる意匠的な効果を考慮したとしても、両意匠の類否判断を左右するものとなりえない。
次に、差異点が類否判断に及ぼす影響についても比較して検討する。
差異点(a)について、本件登録意匠は、筐体の縦横の長さ及び奥行きの比並びに形状が、イ号意匠とは明らかに異なり、両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。(b)については、端子部のカバーについて、本件登録意匠は、縦長矩形部の上下両端にそれぞれ左右両端を支点として開閉自在の透明なカバーとしているのに対し、イ号意匠は、縦長矩形部の裏面に収納自在であって、それぞれ縁の中央に摘みを有する透光性のカバーとしていて、正面という看者の目に付きやすい場所における顕著な差異といえるものであって、イ号意匠の縦長矩形部の裏面に収納自在なカバーを設けたという特徴を、本件登録意匠は持っていないものであって、両意匠は明らかに別異の態様であると言わざるを得ない。(c)については、背面板の突出の有無は、正面からも比較的目に付きやすい部分であって、その差異が両意匠の類否判断に与える影響は看過できない。(d)について、レール取り付け部の態様における差異点は、本件登録意匠が、筐体底面より下方に突出した部位であるのに対し、イ号意匠では、左右全幅を筐体底面よりも下方に突出している背面板の、さらに下方に突出した部位であり、差異点(c)に係る態様と相乗じて生じる意匠的な効果は両意匠の類否判断に与える影響が大きい。(e)については、保護接地端子部の取り付け態様の差異であって前方に突出する部位でもあり、取り付け時に目に付きやすい部分であって、小角柱状部の有無と相俟って、両者の相違が類否判断に与える影響は無視することができない。
これらの差異点のうち、とりわけ(b)の端子部のカバーの態様は、その差異が看者の注意を強く惹くものであり、(a)の筐体の縦横の長さ及び奥行きの比並びに形状、(c)の背面板の突出の有無、及び(d)のレール取り付け部の態様における差異点と相俟って、両意匠の類否判断に及ぼす影響は無視することができず、これらの差異点が相乗的に本件登録意匠とイ号意匠との差異を明らかなものとし、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといえる。
そうして、これらの共通点と差異点を総合すれば、共通点に係る態様が両意匠の基本的な構成態様を表したものであり、その余の共通点とが相俟ったとしても両意匠にのみ共通する独自の特徴として大きく評価できない以上、その特徴は、差異点(b)に係る、端子部のカバーの態様における差異及び(a)、(c)、(d)の筐体及び背面板の態様における差異は、両意匠の類否判断に決定的な影響を及ぼすものとせざるを得ず、共通点が相俟った効果を考慮しても、差異点は共通点を凌駕し、両意匠の類否判断を決定付けるものといえるので、意匠全体として、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものとはいえない。
したがって、本件登録意匠とイ号意匠は、意匠に係る物品が共通するが、その形態については、共通点よりも差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから、両意匠は、全体として美感が異なり、類似しないものというべきである。
4.むすび
以上の通りであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2009-07-07 
出願番号 意願2003-10175(D2003-10175) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (H3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 恭子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 鍋田 和宣
並木 文子
登録日 2004-03-19 
登録番号 意匠登録第1204645号(D1204645) 
代理人 竹内 進 
代理人 牛木 護 
代理人 水野 恒雄 

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