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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) D7 |
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管理番号 | 1221392 |
判定請求番号 | 判定2010-600015 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2010-04-20 |
確定日 | 2010-08-12 |
意匠に係る物品 | 椅子用座 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1317461号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠は、登録第1317461号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求人の請求の趣旨及び理由 請求人は、「イ号図面並びにその説明書に示す意匠は、登録第1317461号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する」との判定を求め、その理由を、要点以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証の各書証を提出した。 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成19年(2007年)3月20日に出願され、平成19年(2007年)11月16日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1317461号(意匠に係る物品「椅子用座」)意匠である。〔別紙第1参照〕 2.イ号意匠 イ号意匠は、本件判定被請求人((株)三星電機製作所)が現在販売しているイ号物件(甲第1号証:イ号物件のHP掲載写真)の理美容椅子の椅子用座の意匠であり〔別紙第2参照〕、その形態の要旨は「イ号意匠ならびにその説明書」〔別紙第3参照〕のとおりである。 3.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由 (1)本件登録意匠の要部 この種物品における意匠上の創作の主たる対象は、背凭れ部の左右両側を手摺り部の後上左右部に載せるように取り付けられて、支持されている構成態様にあり、本件登録意匠については、先行周辺意匠(背凭れ部は、左右両側を手摺り部の下方に近い位置で、しかも両手摺り部の内側に取り付けられている。)(甲第3号証)には見られない形態からくる全体形状を形成し、座部及び手摺り部とのマッチングによる態様が本件登録意匠全体の基調を表出している。 (2)本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点の比較検討 両意匠は、基本的な構成態様及び具体的な構成態様を殆ど共通しており、特に、本件登録意匠の要部である背凭れ部の取り付け形態および座部と手摺り部の態様が全く共通しているのであって、両意匠の類否に大きな影響を与える。 これに対して、差異点a)座部と手摺り部の位置関係は、その位置からして見えにくく需要者が注目する差異とはいえず、また、差異点b)背凭れ部の上部両隅の形状も、量的な差異であって類否の判断に影響を与えるような差異とはいえない。さらに、差異点c)背凭れ部の下部の形状も、看者が立った状態である斜め上方から観察した場合、本件登録意匠の背凭れ部の下部の下方への膨らんだ曲線状とした形状は、その膨らみが押し消されてイ号意匠と大きな差異とはならない。 両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。 4.むすび したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。 第2.被請求人の答弁 被請求人は、「イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」との判定を求め、その理由を、要点以下のとおり主張し、証拠方法として、乙第1号証及び乙第5号証(なお、乙第4号証及び乙第5号証は枝番による。)の各書証を提出した。 1.両意匠の共通点及び差異点の検討 1)共通点 座部、手摺り部および背凭れ部で構成される基本的構成態様については、公知意匠1?5(甲第3号証、乙第2号証ないし乙第5号証)と共通している。 具体的構成態様の座部については、公知意匠1(甲第3号証)に同様の形状が存在し、また、座部が、平面視略正方形状で、側面視横長長方形状をなし、当該座部の前後部を手摺り部の前後縁から突出させる形態は、公知意匠3(乙第3号証)にも存在する。 また、手摺り部については、公知意匠1に同様の構成が存在する。 そして、背凭れ部について、背凭れ部の左右両側を手摺り部の後上左右部に載せるように取り付ける形態は、公知意匠4,5(乙第4号証の1ないし3,乙第5号証の1,2)に存在し、中央部を後方へ湾曲させた背凭れ部の形状は、公知意匠2,3(乙第2号証,乙第3号証)に存在する。また、背凭れ部と座部と手摺り部との間に形成された開口部については、公知意匠2?5に同様の構成が存在する。 したがって、両意匠の共通する構成態様は、本件登録意匠のみが持つ独自の態様とはいえず、類否判断において特徴としてことさら重視することはできない。 2)差異点 a)背凭れ部 本件登録意匠は、上縁が直線的で、両側が尖っているシャープな印象の上部と、波形湾曲状の下部からなる特徴的な形状をなし、一方、イ号意匠は、全体として丸味を帯びたソフトな印象の上部と、直線状の下部からなり、全体として、略半月形をなして、両意匠は少なくとも背凭れ部において、明らかに印象が異なる。 本件物件の椅子用座にあって、背凭れ部は、正面において訴求力を有し、椅子全体の印象を大きく支配する部位であり、椅子全体に独自の趣味感を与え、さらに、その下部の開口部の形態も明らかに異なる。 従って、この背凭れ部の相違のみを持ってしても、看者は、明らかに両意匠を異なるものとして認識し得るものであり、非類似である。 b)座部と手摺り部の位置関係 イ号意匠は、座部と手摺り部の間に隙間が無く、座部と手摺り部が密着して一体となって三方から囲んだ形状となり、手摺り部に対する座部前部の突出幅が小さいことと相俟って、一体的で均質な印象を与え、一方、本件登録意匠は、座部と手摺り部の間に隙間があり、座部と手摺り部が分断されて、手摺り部に対して座部前部が大きく突出していることと相俟って、一体感のない個々独立したものである。 したがって、この隙間の有無も、看者の印象を左右する重要な要素となる。 c)座面 本件登録意匠では、正面上方から見たときに、座面の中央部の膨らみが、背凭れ部下方の開口部の括れを強調し、看者に窮屈な印象を与え、これに比して、イ号意匠では、座面の中央部の凹みが、背凭れ部下方の開口部の高さを広く見せる効果をもたらす。 d)全体観察 背凭れ部の明らかな差異が、それのみで類否判断に極めて大きな影響を及ぼし、更に、座部と手摺り部の位置関係、座面の形状、その他手摺り部等の差異点が全体的差異を補強して、このため、両意匠の各差異点は、共通点を凌駕して、椅子用座としての形態的まとまりを別異なものとし、意匠全体として、両意匠の差異を決定付ける。 したがって、両意匠は、全体観察上、明らかに印象を異とし、彼此混同を生ずることはなく非類似である。 2.むすび イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので、答弁の趣旨のとおりの判定を請求する。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成19年(2007年)3月20日の意匠登録出願に係り、平成19年(2007年)11月16日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1317461号の意匠(登録第1317461号意匠)であって、願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「椅子用座」とし、その物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状」という。)を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである〔別紙第1参照〕。 すなわち、本件登録意匠の形状について、(a)全体は、それぞれやや肉厚の略方形状板体の座部、手摺り部及び背凭れ部とで構成され、座部の左右両側に、下端が座部の底面位置にほぼ揃えて上方へと立ち上げる手摺り部を設け、その左右両側の手摺り部の上面後端に、背凭れ部の下面両端が載るように背凭れ部を架け渡したものであり、さらに、各部の具体的形状について、(b)背凭れ部の(b-1)正面視、横幅が縦幅の約2倍強とする略隅丸長方形状の、左右両側辺を、それぞれ外方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状にして、上方へ従い互いに内側方向へとやや傾けて窄め、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状とし、上辺と左右両側辺にかけて略台形状とし、下辺を、中央部分の背凭れ部横幅の約半分強の広い範囲に渡って、下方にやや大きく凸弧状に膨出して、続く左右両端へとそれぞれ極緩やかな凹弧状に反転して滑らかに繋げた波形状とし、さらに、それら各辺を繋ぐ角部を、小隅丸とし、平面視、板体の中央部分が後方へと僅かに凹む緩やかな弧状とし、側面視、背凭れ部の左右両端が手摺り部の背面からほぼ面一状に上方へ延伸するように、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とし、(b-2)上面から左右両側面にかけての面形状を、平坦面状として、前後面との角部を小丸面状として角張らせ、(c)左右両側の手摺り部は、左右対称形とし、正面視上方へ従いそれぞれ外方向へと僅かに傾けて、手摺り部間の横幅を漸次拡幅し、各手摺り部の側面視、やや横長の略隅丸長方形状の、前辺及び後辺を、それぞれほぼ平行に、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とし、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状の前上がりの傾斜とし、前辺と上辺との角部を、大きな円弧状の丸味を形成して前辺と上辺とを滑らかに繋げ、さらに、各手摺り部の上面から前面にかけての面形状を、平坦面状とし、内外両側面との角部を小丸面状として角張らせ、(d)座部は、平面視略正方形状で、他の手摺り部及び背凭れ部よりやや肉厚とし、上面を、中央部分が上方に極僅かに膨らむ湾曲面状とし、前面を、前方に僅かに膨出する緩やかな湾曲面状として、手摺り部の前縁より前方へ突出させ、さらに、(e)手摺り部と座部との接合形状を、手摺り部と座部とが、僅かに離れて分離し、手摺り部と座部との間に隙間を形成し、その隙間より、手摺り部と座部とを固着させる2本の丸パイプが覗けるものとしたものである。 2.イ号意匠 イ号意匠は、被請求人が現在販売しているイ号物件(甲第1号証:イ号物件のホームページ掲載写真)の理美容用椅子(商品名855T-HR)の椅子用座の意匠であり〔別紙第2参照〕、その形状は、同ホームページに掲載された写真に現されたとおりとしたものである。ところで、請求人が審判請求書に添付した形態の要旨とする「イ号意匠ならびにその説明書」〔別紙第3参照〕については、甲第1号証によるイ号意匠と「イ号意匠ならびにその説明書」に記載された意匠とは、手摺り部の上面にあたる手載せ部分の面形状及び座部の上面形状等に必ずしも正確に一致しない点は認められるが、もとより「イ号意匠ならびにその説明書」は、イ号物件の理美容用椅子の椅子用座から図面を起こしたものであり、それらの一致しない点を除き概ね一致することから、イ号意匠の形状の認定に当たり参酌できるものである。また、被請求人が、判定請求答弁書に添付した「イ号意匠の写真ならびにその説明書」についても、イ号意匠と「イ号意匠の写真ならびにその説明書」に現された意匠とに特段の差異も認められないことから、イ号意匠の形状の認定に当たり参酌することとする。 すなわち、イ号意匠の形状について、(a’)全体は、それぞれやや肉厚の略方形状板体の座部、手摺り部及び背凭れ部とで構成され、座部の左右両側に、下端が座部の底面位置にほぼ揃えて上方へと立ち上げる手摺り部を設け、その左右両側の手摺り部の上面後端に、背凭れ部の下面両端が載るように背凭れ部を架け渡したものであり、さらに、各部の具体的形状について、(b’)背凭れ部の(b’-1)正面視、横幅が縦幅の約2倍強とする略隅丸長方形状の、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状とし、左右両側辺を、外方向に極僅かに膨出する極緩やかな弧状にして、上方へ従い互いに内側方向へとやや傾けて窄めながら、上辺との角部を、大きな円弧状として、上辺から両側辺にかけて滑らかに繋げて略横長円弧状とし、下辺を、下方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状として、左右両側辺との角部を、隅丸とし、平面視、板体の中央部分が後方へと僅かに凹む緩やかな弧状とし、側面視、背凭れ部の左右両端が手摺り部の背面からほぼ面一状に上方へ延伸するように、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とし、(b’-2)上面から左右両側面にかけての面形状を、外方向に膨出する丸面状とし、前後面との角部も、本件登録意匠よりも大きな丸面状として滑らかに繋げ、(c’)左右両側の手摺り部を、左右対称形とし、正面視上方へ従いそれぞれ外方向へと僅かに傾けて、手摺り部間の横幅を漸次拡幅し、各手摺り部の側面視、やや横長の略隅丸長方形状の、前辺及び後辺を、それぞれほぼ平行に、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とし、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状の前上がりの傾斜とし、前辺と上辺との角部を、大きな円弧状の丸味を形成して前辺と上辺とを滑らかに繋げ、さらに、各手摺り部の上面から前面にかけての面形状を、外方向に膨出する丸面状とし、内外両側面との角部も、本件登録意匠よりも大きな丸面状として滑らかに繋げ、(d’)座部は、平面視略正方形状で、他の手摺り部及び背凭れ部よりやや肉厚とし、上面が、湾曲面状か平坦面状か、正確には不明であるが、膨らみがあったとしても、上方への極僅かな膨らみの程度とできるだけであって、その中央よりやや前方寄りの位置に、横幅いっぱいに縫合線を設けて浅く凹む溝を形成し、前面を、前方に僅かに膨出する緩やかな湾曲面状として、手摺り部の前縁より前方へ突出させ、(e’)手摺り部と座部との接合形状を、手摺り部と座部との間に隙間を形成せず、手摺り部と座部とが密着したものである。 なお、手摺り部の(c’)上面から前面にかけての面形状について、請求人の提出した「イ号意匠ならびにその説明書」の図面(【参考斜視図】、【正面図】、【右側面図】、【平面図】、【正面図中央縦断面図】。左側面図は右側面図と対称に表れるため省略。)の記載、中でも【正面図】及び【平面図】を参酌すると、イ号意匠は、平坦面状として、内外両側面との角部を小丸面状として角張らせたものとも解されるが、請求人のイ号意匠とする甲第1号証のホームページに掲載された理美容用椅子(商品名「875T-HR」)における椅子用座の意匠は、その面形状について、上述の(c’)において認定したとおりであることは明らかであって、「イ号意匠ならびにその説明書」の図面の記載内容は、もとより「イ号意匠ならびにその説明書」は、イ号物件の理美容用椅子の椅子用座から図面を起こしたものであり、甲第1号証のホームページに掲載された理美容用椅子が、上段の前方右斜め上から見た状態の斜視図と下段の前方の正面側やや斜め上から見た状態の斜視図との二つ写真を現していること等もあって、現に販売されているイ号意匠から正投影図法により各図を厳密に一致するよう作成することに困難を伴うことを考慮すれば、一部に正確に一致しない点が在るとしても、それらの点を除いて概ね一致するものであり、甲第1号証による認定に影響を与える程のものではない。また、(d’)座部形状における縫合線についても、請求人の提出した「イ号意匠ならびにその説明書」の図面の記載、中でも【正面図】、【平面図】及び【正面図中央断面図】を参酌すると、縫合線が無いものと解されるが、やはりイ号意匠である甲第1号証によるホームページに掲載された理美容用椅子(商品名「875T-HR」)における椅子用座の意匠、特に下段の前方の正面側やや斜め上から見た状態の斜視図によれば、確かに素材が白地で、表面にできる陰等の濃淡の具合によって見え難いということがあっても、上述の(d’)において認定のとおりイ号意匠が縫合線を設けたものであることは十分認識できるものである。 3.本件登録意匠とイ号意匠の対比 両意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品について、共に椅子用座であって、同一であり、形状について、以下に示すように、主な共通点及び差異点が認められる。 (1)共通点 (A)全体は、それぞれやや肉厚の略方形状板体の座部、手摺り部及び背凭れ部とで構成され、座部の左右両側に、下端が座部の底面位置にほぼ揃えて上方へと立ち上げる手摺り部を設け、その左右両側の手摺り部の上面後端に、背凭れ部の下面両端が載るように背凭れ部を架け渡した点。 そして、各部の具体的形状について、 (B)座部を、平面視略正方形状で、他の手摺り部及び背凭れ部よりやや肉厚とし、前面を、前方に僅かに膨出する緩やかな湾曲面状として、手摺り部の前縁より前方へ突出させた点。 (C)左右両側の手摺り部を、左右対称形とし、正面視上方へ従いそれぞれ外方向へと僅かに傾けて、手摺り部間の横幅を漸次拡幅し、各手摺り部の側面視、やや横長の略隅丸長方形状の、前辺及び後辺を、それぞれほぼ平行に、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とし、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状の前上がりの傾斜とし、前辺と上辺との角部を、大きな円弧状の丸味を形成して前辺と上辺とを滑らかに繋げた点。 (D)背凭れ部を、正面視横幅が縦幅の約2倍強とする略隅丸長方形状とし、平面視、板体の中央部分が後方へと僅かに凹む緩やかな弧状とし、側面視、背凭れ部の左右両端が手摺り部の背面からほぼ面一状に上方へ延伸するように、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とした点。 (2)差異点 (ア)背凭れ部の(ア-1)正面視形状につき、本件登録意匠は、左右両側辺を、それぞれ外方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状にして、上方へ従い互いに内側方向へとやや傾けて窄め、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状とし、上辺と左右両側辺にかけて略台形状とし、下辺を、中央部分の背凭れ部横幅の約半分強の広い範囲に渡って、下方にやや大きく凸弧状に膨出して、続く左右両端へとそれぞれ極緩やかな凹弧状に反転して滑らかに繋げた波形状とし、さらに、それら各面を繋ぐ角部を、小隅丸としたのに対して、イ号意匠は、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状とし、左右両側辺を、外方向に極僅かに膨出する極緩やかな弧状にして、上方へ従い互いに内側方向へとやや傾けて窄めながら、上辺との角部を、大きな円弧状として、上辺から両側辺にかけて滑らかに繋げて略横長円弧状とし、下辺を、下方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状として、左右両側面との角部を、隅丸とし、(ア-2)上面から左右両側面にかけての面形状を、本件登録意匠は、平坦面状として、前後面との角部を小丸面状として角張らせたのに対して、イ号意匠は、外方向に膨出する丸面状とし、前後面との角部も、本件登録意匠よりも大きな丸面状として滑らかに繋げた点。 (イ)手摺り部の上面から前面にかけての面形状を、本件登録意匠は、平坦面状とし、内外側面との角部を小丸面状として角張らせたのに対して、イ号意匠は、外方向に膨出する丸面状とし、内外側面との角部も、本件登録意匠よりも大きな丸面状として滑らかに繋げた点。 (ウ)手摺り部と座部との接合形状を、本件登録意匠は、手摺り部と座部とが、僅かに離れて分離し、手摺り部と座部との間に隙間を形成し、その隙間より、手摺り部と座部とを固着させる2本の丸パイプが覗けるに対して、イ号意匠は、手摺り部と座部との間に隙間を形成せず、手摺り部と座部とが密着した点。 (エ)座部の上面を、本件登録意匠は、上面の中央部分が上方に極僅かに膨らむ湾曲面状としたのに対して、イ号意匠は、上面が湾曲面状か平坦面状か、正確には不明であるが、膨らみがあったとしても、上方への極僅かな膨らみの程度とできるだけであって、その中央よりやや前方寄りの位置に、横幅いっぱいに縫合線を設けて浅く凹む溝を形成した点。 4.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 この種の椅子用座は、理美容椅子として下部に脚部を取り付けて使用されるものであって、直接人が触れて腰掛け、座り心地や快適さはもとより、一定時間腰掛ける際の腰、背中などにかかる負担や作業のし易さ等も十分配慮し、かつ、理美容室の店舗空間をも演出することを考慮すれば、座部、背凭れ部、手摺り部等の各部の具体的形状も、需要者の注意を惹くものであり、通常の使用の状態で観察される前方右斜め上から見た斜視状態や前方の正面側やや斜め上から見た斜視状態を中心としながら、意匠全体として観察される形状の視覚的な効果が、類否判断にあたって重視されるものと認められる。 そこで、共通点及び差異点を総合して、両意匠の類否を意匠全体として以下検討する。 まず、共通点(A)全体形状について、座部、手摺り部及び背凭れ部は、人が腰掛けるための椅子用座を形作る必然的な構成要素とも言え、それらが組み合わされて椅子用座が成り立つものであって、それぞれやや肉厚の略方形状板体の座部、手摺り部及び背凭れ部とで構成して、座部の左右両側に、下端が座部の底面位置にほぼ揃えて上方へと立ち上げる手摺り部を設ける形状は、本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において広く公然知られたものであり(例えば、意匠登録第426439号「いす」の意匠、意匠登録第1256229号「美容用椅子」(乙第3号証)の意匠、〈1〉「ITOKI’88,89総合カタログ」142頁商品名「KN-703CLB」の椅子の意匠〔別紙第4参照〕、〈2〉タカラベルモント株式会社がインターネット〈URL:http://www.takarabelmont.co.jp/vintage/0505.html〉に掲載した「Vintage Chair 0505 -ビンテージチェア 0505-」(インターネットからの抽出日平成17年10月7日)商品名「SU-0505R」の美容用椅子の意匠〔別紙第4参照〕等参照。)、また、左右両側の手摺り部の上面後端に、背凭れ部の下面両端が載るように背凭れ部を架け渡す形状も、本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において、〈3〉乙第4号証の1及び〈4〉乙第5号証の1のホームページに掲載された理美容椅子の意匠の他にも、例えば、〈5〉独立行政法人工業所有権情報・研修館が平成16年10月21日に受け入れた外国図書「COIFFURE」1095巻39頁記載の理美容用椅子の意匠、〈6〉欧州共同体意匠公報(2006年7月4日発行)登録番号000489869-0003号の椅子の意匠、〈7〉欧州共同体意匠公報(2006年9月26日発行)登録番号000574397-0001号の椅子の意匠、〈8〉日本特許庁意匠課が2006年11月24日に受け入れたタカラベルモント株式会社が発行したカタログ「タカラベルモントの総合力をお役立てください 2003年1月現在 自動洗髪器/シャンプーユニット/シャンプーチェア/セットチェア/エクスチェア」4頁記載の商品名「Hana」の理美容用椅子の意匠〔〈3〉〈4〉について、別紙第5、〈5〉〈6〉について、別紙第6、〈7〉〈8〉について、別紙第7参照。〕等に示すように公然知られたものであるから、この全体形状は、両意匠のみの特徴的な形状とすることはできず、この形状のみをもってとりわけ需要者の注意を惹くものとすることはできない。 共通点(B)座部形状について、座部の平面視略隅丸正方形状や座部の厚みを他の手摺り部・背凭れ部よりやや肉厚とする形状及び座部の前面を、前方に僅かに膨出する緩やかな湾曲面状として、手摺り部の前縁より前方へ突出させる形状は、いずれも本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において極普通に見られる公然知られたものであり(座部の前面を緩やかな湾曲面状として前方へ突出させる形状について、例えば、甲第3号証の外国図書「LACOIFFUREDEPARIS」平成7年5月31日発行992巻91頁記載の椅子の意匠、意匠登録第707391号「いす」の意匠等参照。)、この座部形状は需要者の注意を惹くものではない。 共通点(C)手摺り部形状について、左右両側の手摺り部を、左右対称形とし、正面視上方へ従いそれぞれ外方向へと僅かに傾ける形状は、本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において広く公然知られたものであり(例えば、〈9〉独立行政法人工業所有権情報・研修館が平成18年11月13日に受け入れた外国図書「Ottagono」194巻117頁記載の椅子の意匠〔別紙第8参照〕等参照。)、また、各手摺り部の側面視を、やや横長の略隅丸長方形状の、前辺及び後辺を、それぞれほぼ平行に、上方へ従いやや後方に傾く傾斜とし、上辺を、上方に極僅かに膨出する極緩やかな弧状の前上がりの傾斜とし、前辺と上辺との角部を、大きな円弧状の丸味を形成して前辺と上辺とを滑らかに繋げる形状も、本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において公然知られたもの(例えば、意匠登録第297219号「理髪用いす」の意匠、〈10〉国際事務局意匠公報1997年4月30日発行2巻1112頁記載の登録番号第DM/039308号の椅子の意匠〔別紙第8参照〕、〈11〉日本国特許庁意匠課が2005年2月25日に受け入れた有限会社タップが発行したカタログ「GANMA Series Collection」A-1頁記載の椅子の意匠〔別紙第9参照〕等参照。)であることから、特徴的な形状ではなく、この手摺り部形状は、需要者の格別の注意を惹くものではない。 共通点(D)背凭れ部形状について、正面視横長の略隅丸長方形状の平面視中央部分が後方へと僅かに凹む緩やかな弧状とする形状は、本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において広く公然知られたものであり(例えば、意匠登録第1256229号「美容用椅子」の意匠(乙第3号証)等参照。)、また、側面視上方へ従いやや後方に傾く傾斜とすることも、主に座り心地や腰にかかる負担等への人間工学的な技術的手法によるもので、極普通に行われる程度の傾斜に過ぎず、この背凭れ部形状は、需要者の格別の注意を惹くものではない。 一方、差異点である(ア)背凭れ部の(ア-1)正面視形状の差異について、背凭れ部が椅子用座の上部の視覚的に目立ちやすい部位にあって、本件登録意匠が、上辺と左右両側辺にかけて略台形状とし、さらに、下辺を波形状として中央部分が左右両端部分の凹弧状から反転して下方にやや大きく凸弧状に膨出するもので、イ号意匠の上辺から両側辺にかけて滑らかに繋げて略横長円弧状とし、下辺も下方に極僅かに膨出するだけで、前方斜め斜視状態では背凭れ部が略三日月状に視認できるものとでは、背凭れ部の構成が異なるものと言え、ましてや、本件登録意匠の背凭れ部の正面視形状は、既に本件登録意匠の出願前にこの種椅子の分野において、例えば、〈12〉外国図書「LACOIFFUREDEPARIS」平成3年11月30日発行953巻A-2頁記載の椅子の意匠〔別紙第9参照〕や〈13〉外国図書「COIFFURE」平成14年3月22日受入1067巻82頁記載の理美容用椅子の意匠〔別紙第10参照〕に示すように、公然知られたものであり、格別特徴的な形状ともいい難く、両意匠の正面視形状を容易に一括りにできるものではなく、この正面視形状の差異は、需要者にとって背凭れ部の構成の差が明確に視認されて、類否判断に及ぼす影響が大きいものというべきである。 また、差異点(ア-2)背凭れ部の上面から左右両側面にかけての面形状の差異と差異点(イ)手摺り部の上面から前面にかけての面形状の差異は、それぞれいずれの形状もこの種椅子の分野において例示するまでもなく公然知られたものであるとしても、背凭れ部の上面から左右両側面にかけては直接手で触れる機会が多く、手摺り部にしても、手や肘が直接触れる部分であり、いずれも需要者の注視するところであり、本件登録意匠の背凭れ部及び手摺り部とも、平坦面状として、続く側面等との角部を角張らせたものと、イ号意匠の角張りの無い丸面状としたものとでは、その視覚的効果の差異を伴って、背凭れ部と手摺り部との面形状とを同様の面形状とすることによって、全体の統一したまとまりに影響を及ぼして、類否判断に及ぼす影響が小さいものとは言えない。 差異点(ウ)手摺り部と座部との接合形状の差異は、人が座部に腰を下ろして両脇の手摺り部で抱え込んで支える手摺り部と座部との組合せ構成に係わり、本件登録意匠は、手摺り部と座部とが僅かに離れたものであっても、手摺り部が正面視上方へ従いそれぞれ外方向へと僅かに傾くこともあって、前方の正面側やや斜め上から見た斜視状態から見ても、手摺り部と座部とが分離していることは容易に視認できるものであり、手摺り部と座部との一体性に欠け、一方のイ号意匠の手摺り部と座部とが分離せず、密着したものとなって、手摺り部と座部とが一体的なものとでは、単に隙間の有る無し以上に、手摺り部と座部との組合せ構成が大きく異なるものとの印象を需要者に与え、類否判断に及ぼす影響は大きい。 差異点(エ)座部の上面形状の差異について、上面の膨らみの差異は、この種椅子の分野において普通に見られる範囲の極僅かな差に過ぎず、類否判断に殆ど影響を与えるものではないが、縫合線による溝の有無の差異は、イ号意匠の縫合線による溝が座部の横幅いっぱいに形成し、座部の上面を前後に二分するものであって、縫合線による溝が無い本件登録意匠とでは需要者に与える印象が必ずしも共通するものではなく、他の差異点と相乗してより差異感を強調するものである。 そして、これらの共通点及び差異点を総合してみると、共通点である(A)全体形状は、この形状のみをもってとりわけ需要者の注意を惹くものではなく、(B)座部形状、(C)手摺り部形状及び(D)背凭れ部形状の具体的形状も、いずれも需要者の注意を惹くものではない。それに対して、差異点において、(エ)座部の上面形状における上面の膨らみの差異が、類否判断に殆ど影響を与えないものである他は、(ア)背もたれ部形状、(イ)手摺り部の上面から前面にかけての面形状、(ウ)手摺り部と座部との接合形状及び(エ)座部の上面形状における縫合線による溝の有無の差異は、いずれも類否判断に影響を及ぼすものであって、とりわけ、背もたれ部の(ア-1)正面視形状の差において、需要者にとって背凭れ部の構成の差が明確に視認されて、類否判断に及ぼす影響は大きく、また、(ウ)手摺り部と座部との接合形状の差異にしても、手摺り部と座部との組合せ構成が大きく異なるとの印象を需要者に与え、類否判断に及ぼす影響は大きいものがあり、これらの差異点だけをもっても、両意匠の類否判断を大きく左右するものである。加えて、差異点(ア-2)背凭れ部の上面から左右両側面にかけての面形状の差異と差異点(イ)手摺り部の上面から前面にかけての面形状の差異が、その視覚的効果の差異を伴って、全体の統一したまとまりに影響を及ぼし、差異点(エ)座部の上面形状の差異も、イ号意匠の縫合線による溝が座部の上面を前後に二分するもので、縫合線による溝が無い本件登録意匠との印象が必ずしも共通するものではない。そうして、差異点(ア)ないし(エ)の各部が組み合わされて相まって奏する視覚的効果は、既に共通点を凌いで、意匠全体として両意匠に異なる美感を起こさせるものである。 したがって、両意匠は、意匠に係る物品が同一としても、その形状において、差異点が共通点を凌駕し、意匠全体として両意匠に異なる美感を起こさせるものであるから、両意匠は類似しないものである。 5.むすび 以上のとおりであり、イ号意匠は、本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2010-08-04 |
出願番号 | 意願2007-7177(D2007-7177) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(D7)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久木 真子、並木 文子 |
特許庁審判長 |
遠藤 行久 |
特許庁審判官 |
市村 節子 杉山 太一 |
登録日 | 2007-11-16 |
登録番号 | 意匠登録第1317461号(D1317461) |
代理人 | 栗本 知子 |
代理人 | 松本 司 |
代理人 | 松浦 喜多男 |
代理人 | 田上 洋平 |
代理人 | 山本 優 |