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審決分類 審判    C4
管理番号 1226484 
審判番号 無効2010-880002
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-15 
確定日 2010-10-18 
意匠に係る物品 頭皮洗浄具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1071606号「頭皮洗浄具」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯
平成11年 2月 1日 意匠登録出願
平成12年 3月 3日 設定の登録(意匠登録第1071606号)
平成22年 3月15日 本件無効審判請求(請求人)
平成22年 4月28日 審判事件答弁書(被請求人)
平成22年 7月20日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年 7月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年 8月 3日 口頭審理
(口頭審理において,審判長は,両者に対して審理終結通知を告知した。)


第2 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は,意匠登録第1071606号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)を無効とする,との審決を求める,と申し立て,その理由として,概略以下の主張をし,証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証の書証を提出した。

(1)登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,米国意匠公報第381519号(甲第1号証)の意匠の指掛部を米国意匠公報第329752号(甲第2号証)の意匠のFIG.1?6の指掛部と置換し,その指掛部の外方辺を,米国意匠公報第288848号(甲第3号証)の意匠等によって示される周知の湾曲した形状としたものに過ぎない。したがって,本件登録意匠は,公知の形状に基づいて容易に創作できたものであるから,無効理由を有する。本件登録意匠は,その出願前に公然知られた意匠に基づいて容易に創作できたものであり,意匠法第3条第2項の規定により,意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。

(2)証拠方法
甲第1号証:米国意匠公報第381519号
甲第2号証:米国意匠公報第329752号
甲第3号証:米国意匠公報第288848号
甲第4号証:米国意匠公報第126041号
甲第5号証:米国意匠公報第269565号
甲第6号証:意匠登録1072096号公報
甲第7号証:本件登録意匠に基づく意匠権侵害差止等請求訴訟の平成21年10月20日付け訴状
甲第8号証:本件登録意匠に基づく意匠権侵害差止等請求訴訟の平成21年12月4日付け答弁書
甲第9号証:本件登録意匠に基づく意匠権侵害差止等請求訴訟の平成22年1月28日付け被告準備書面
甲第10号証:本件登録意匠に基づく意匠権侵害差止等請求訴訟の平成22年2月15日付け被告準備書面

(3)本件登録意匠と引用意匠との対比
本件登録意匠は,以下のとおり,その出願前に公知であった意匠に基づいて容易に創作できたものであるから,無効理由を有する(意匠法第3条第2項,意匠法第48条第1項第1号)。
米国意匠公報第381519号(甲第1号証)の「BRUSH HANDLE(ブラシの取っ手)」の意匠(以下,引用意匠1という。)は,基本的構成について,把持部は,基台部と指掛部からなり,基台部は,なだらかに上面が膨出した形状であって,指掛部は,基台部長手方向中心線上に偏心して配置されるとともに,基台部中心方向へオーバーハングしている点が,本件登録意匠と共通しているものであって,指掛部の壁体部の態様と具体的構成について差異点があるが,本件登録意匠は,当該差異点に係る構成要素を当業者にとってありふれた手法により他の公然知られた意匠に置き換えて構成したものに過ぎない。
本件登録意匠と引用意匠1の指掛部の壁体部の差異について,米国意匠公報第329752号(甲第2号証)の「SCRUB BRUSH(こするためのブラシ)」の意匠(以下,「引用意匠2」という。)のFIG.1?6に,基台部に対して垂直な板状の壁体部と,壁体部上面の板状の扁平部からなる指掛部を有するものが記載されており,この壁体部は,基台部と扁平部になだらかに接合している。
本件登録意匠と引用意匠1の基台部の長径と短径の比の差異については,基台部が楕円形を基調とする点で共通しており,基台部の長径・短径の比率を変更することは,ありふれた手法に過ぎない。
基台部周側の稜線と壁体部の小円孔に関する差異については,本件登録意匠の関連意匠である意匠登録1072096号(甲第6号証)の意匠に小円孔が存在しないことによって示されるように,微差に過ぎない。
本件登録意匠と引用意匠1の基台部の壁体部から扁平部にかけての外方辺の差異については,引用意匠2のFIG.1?6の指掛部は外方辺が直線状であるが,本件登録意匠の関連意匠である甲第6号証の意匠の指掛部の外方辺も直線状であることによって示されるように,この差異は,微差に過ぎないと考えられ,また,基台部上面の輪郭線と指掛部の壁体部の内方辺の接合の差異について,引用意匠2のFIG.1?6の内方辺は,凹湾曲しつつ情報は扁平部下面に,下方は基台部中央付近に連続している。
さらに,指掛部の外方辺を弓形に上方に湾曲しつつ立ち上げ,内方辺を凹湾曲しつつ上方は扁平部下面に,下方は基台部中央付近に連続させることは,甲第3号証の「HANDLE FOR A MASSAGE INSTRUMENT(マッサージ器具のためのハンドル)」の意匠(以下,「引用意匠3」という。),甲第4号証の「DESIGN FOR A TOILET BRUSH(トイレブラシのためのデザイン)」の意匠(以下,「引用意匠4」という。)及び甲第5号証の「SCRUB BRUSH(こするためのブラシ)」の意匠(以下,「引用意匠5」という。)にも記載されているように周知の形状である。
次に,指掛部の扁平部の差異については,引用意匠2のFIG.1?6に,根元より先端の幅が広がるように左右に張り出した略へら状の扁平部が記載されている。
このように,本件登録意匠における引用意匠1との差異点に係る構成要素は,公知の形状ないし微差と言うべきものに過ぎない。そして,ブラシ類において,指掛部の形状を適宜変更することは,引用意匠2において,前述のFIG.1?6の意匠とともに,指掛部等の形状が異なるFIG.7?11の意匠が記載されていることからも分かるように,当業者にとってありふれた手法である。

2. 被請求人の主張
被請求人は,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,概略以下のように主張をした。

(1)本件登録意匠について
本件登録意匠は,概ね,饅頭状に上面が盛り上がった本体の上部に,打ち寄せる波を想起させるようなハンドル部分を偏心配置した構成であって,全体としては,あたかも「うずくまるウサギ」を想起させるとの意見も出るような独特の全体形状であることを骨子とする意匠である。本体の「饅頭状」上面形状は「手のひらでつつみやすく」するための構成であり,ハンドル部分については,正面視で中央の薄い壁状部は,長手方向端部付近から中央部付近まで長く続く広幅の面部であって,該部位を「人差し指と中指の間にはさみ易く」するための構成であり,ハンドル部分の正面視上部が左右に庇状に拡がっているのは,該部位が横から差し込まれた指を上から支える役割を果たすためであり,ハンドル部分が側面視で「打ち寄せる波」状を呈しているのは,人差し指と中指を差し込んだ際に壁状部の後方が指股部分にフィットするように該部位を滑らかに凹湾曲させると共に,外方辺の輪郭についても弓形に湾曲させてより良い造形バランスとなるように工夫したからであり,その結果,全体として,「うずくまるウサギ」を想起させるコンパクトでシンプルな造形美となったものである。

(2)引用意匠1について
本体の平面視は,本件登録意匠とは,縦横比が大きく異なる長楕円形状で,その側面視形状は扁平板状であり,その先端に略扁平長円錐台形状の柱部を設け,柱部上端に,平面視は後端方向へ先細り状となる略紡錘形状で,側面視は略「く」字状に屈曲し,本体後端部上方位置まで延伸する棒状ハンドル部分を配置した意匠である。
すなわち,引用意匠1の意匠の本体は,饅頭状ではなく,ハンドル部分は本件登録意匠と共通するような「打ち寄せる波状」ではなく,全体形状も「うずくまるウサギ」を想起するようなコンパクトさもシンプルさも感じさせない意匠である。このように全く構成が異なる意匠からは,本件登録意匠独特の全体形状はおろか,その骨子さえも導き出すことは不可能である。

(3)引用意匠2について
引用意匠2は,平面視は先方がやや先細になる略長台形状で,側面視は扁平板状である本体部の先端から,柱状部が斜め後上方へ傾斜形成されており,該柱状部の水平断面は外方部分が広幅で内方部分が狭幅であり,断面部の平面視は略「凸」字状を呈し,該柱状部の表面に段差を呈するものとされている。そして柱状部の上端からは,扁平板状ハンドル部分が略水平に屈曲して本体後端上方まで延伸している。請求人は,この意匠の斜め後方状部へ向け傾斜形成された水平方向の断面が略「凸」字状を呈する柱状部」について,これを「壁体部」であると主張するが,該柱状部はその表面に段差を呈しており,該部位を本件登録意匠における「人差し指と中指の間にはさみ易くするための部位」と同様の構成であると見ることは不可能である。

(4)引用意匠3?引用意匠5について
引用意匠3の意匠は,各図を総合すれば,本体の前方部分が上方に膨出し且つ大径貫通穴が設けられ,膨出部分の上部が後方へ向かって薄い板状に延伸してハンドル部分を形成するとともに,ハンドル部分の付け根に略ダイヤルツマミ状を呈する円形凹部が存在している造形構成である点で本件登録意匠とは大差があり,引用意匠4は,意匠に係る物品が「TOILET BRUSH(便所ブラシ)」であり,平面視及び斜視図によれば,ハンドル部分全体が本体部と等幅・等厚の長方形板状であって,一枚の板を先端位置から折り返すように構成されたものである点で本件登録意匠とは大差があり,引用意匠5は,斜視図等を総合すれば,略「舌」状に形成されたハンドル部分は,基台部先端位置から立ち上がり,後方へ延伸するように形成されているのみならず,ハンドル部分全体が波打つような複合湾曲線を描いており,さらには,舌状部後方寄りの部分にも柱状部を配置している点で,本件登録意匠とは大差がある。

(5)むすび
以上のとおり,引用意匠1?引用意匠5は,いずれも本件登録意匠とは使用方法が全く異なる意匠であり,その結果,それぞれの造形構成も本件登録意匠とは掛け離れたものであり,またそれぞれの造形構成の一部である柱状部やハンドル部分のみを観察してみても本件登録意匠との共通性は皆無である。請求人がこれらの意匠において「指掛部」と称する部位は,本件登録意匠における「人差し指と中指の間に挟み易くする」部位と造形構成を全く異にするものであり,これらの意匠の各構成部位の置換や組み合わせにより本件登録意匠の造形構成を導くことは不可能であり,導けるとする「示唆」もない。


第3 口頭審理
本件審判について,当審は,平成22年8月3日に口頭審理を行った。(平成22年8月 3日付第1回口頭審理調書)

請求人は,平成22年3月15日付審判請求書及び平成22年7月21日付口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。また,口頭審理陳述要領書とともに,本件登録意匠の特徴が公知意匠にも見られるものに過ぎないことを立証する趣旨で,証拠として甲第11?14号証(枝番を含む。)の書証を提出した。
(証拠方法)
甲第11号証の1:TONG-FONG社のブラシ製品チラシ
甲第11号証の2:TONG-FONG社のORDER MODIFY
甲第12号証:TONG-FONG社の名刺
甲第13号証:TONG-FONG社の販売先向けのインボイス
甲第14号証:TONG-FONG社のブラシ(品番316,636)の写真

被請求人は,平成22年4月28日付審判事件答弁書及び平成22年7月20日付口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。また,口頭審理陳述要領書とともに,証拠として乙第1?5号証の書証及び検乙第1?4号証の検証物を提出した。
(証拠方法)
(書証)
乙第1号証:公知意匠等との対比図(訴状添付別紙5)
乙第2号証:基本的構成対比図(花王株式会社作成)
乙第3号証:甲2号意匠と近似する製品の掲示画面の写し。
乙第4号証:甲5号意匠と近似する製品の掲示画面の写し。
乙第5号証:甲各号と使用方法が近似する製品の掲示画面の写し。
(検証物)
検乙第1号証:本件登録意匠実施物(注:取扱説明書と共にブリスターパックに収納した状態のもの)
検乙第2号証:甲第2号証近似製品
検乙第3号証:甲第5号証近似製品
検乙第4号証:その他の甲号近似製品


第4 当審の判断
当審は,本件登録意匠が各引用意匠に基づいて容易に創作することができたものといえないので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項に違反して意匠登録を受けたものということはできないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1071606号の意匠)は,物品の部分について意匠登録を受けたものであり,平成11年2月1日に意匠登録出願され,平成12年3月3日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「頭皮洗浄具」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのもので,意匠登録を受けようとする部分が実線で示されたものである(別紙第1参照)。
すなわち,本件登録意匠において意匠登録を受けようとする部分(以下,本項においては,この部分の意匠を「本件登録意匠」ということとする。)は,頭皮洗浄具の「本体基台部」及びこれと一体に繋がる「把持部」であって,平面視略縦長楕円形状とする本体基台部の上面を弧面状に膨出させ,把持部の正面視形状を略「凸」字状として内側に湾曲する薄い壁面状に立ち上げ,把持部と本体基台部の側面視を略逆「フ」字状とし,把持部を背面側に湾曲して設けたものであって,把持部は,本体基台部の正面側の中央寄りから側面視円弧状に設けられ,平面視形状を正面側から後方に向かって急激に広がる略しゃもじ状とした薄い支え部を有し,正面側の把持部の側面部付け根付近に小型円形状孔部を形成したものである。

2.本件登録意匠の創作容易性について
(1)無効理由
請求人は,本件登録意匠が,引用意匠1(以下,本項においては,引用意匠1のうち本件登録意匠に対応する部分の意匠を「引用意匠1」ということとする。また,引用意匠2ないし5も同様とする。)の米国意匠公報第381519号(甲第1号証)(別紙第2参照)の意匠の把持部を引用意匠2の米国意匠公報第329752号(甲第2号証)(別紙第3参照)の意匠のFIG.1?6の把持部と置換し,把持部の外方辺を引用意匠3の米国意匠公報第288848号(甲第3号証)(別紙第4参照)の意匠,引用意匠4の米国意匠公報第126041号(甲第4号証)(別紙第5参照)の意匠,引用意匠5の米国意匠公報第269565号(甲第5号証)(別紙第6参照)の意匠等によって示される周知の湾曲した形状としたものに過ぎない,として,本件登録意匠が,その出願前に公然知られた意匠に基づいて容易に創作できたものであり,意匠法第3条第2項の規定により,意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである旨主張した。

(2)引用意匠1ないし5の具体的態様と本件登録意匠との関係について
(引用意匠1ないし5については,便宜上,図面の向きを本件登録意匠の図面と揃えて,以下,検討する。)
引用意匠1は,本体基台部が平面視略楕円形状である点,本体基台部と一体に繋がる把持部である点,上面を弧面状に膨出させた点,把持部の正面視形状を略「凸」字状とした点,把持部と本体基台部の側面視を略逆「フ」字状とした点,把持部を本体基台部の正面側の中央寄りから側面視円弧状に設けた点,は本件登録意匠と共通するが,本体基台部の平面視の縦横比,本体基台部の側面視形状,本体基台部と把持部の繋がり部の形状,把持部の全体形状に差異がある。
引用意匠2は,把持部の平面形状が正面側から後方に向かって広がる点は,本件登録意匠と共通するが,本体基台部の形状及び把持部の側面視形状に差異がある。
引用意匠3は,本体基台部が平面視略楕円形状である点,把持部を湾曲して立ち上げ,把持部を円弧状に本体基台部と繋げた点,円形状孔部を有する点は,本件登録意匠と共通するが,本体基台部の縦横比,把持部の形状,ダイヤル部の有無,本体基台部の形状,孔部の大きさに差異がある。
引用意匠4は,本体基台部から把持部が円弧状に繋がる点は,本件登録意匠と共通するが,把持部の形状及び本体基台部の形状に差異がある。
引用意匠5は,本体基台部から把持部が円弧状に繋がる点は,本件登録意匠と共通するが,把持部の形状及び本体基台部の形状に差異がある。

(3)創作容易性についての検討
そこで,本件登録意匠の形態について,創作容易性の観点から検討する。

当該意匠が意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当するというためには,基礎となる具体的創作態様が,それぞれ存在し,そして,それらがほとんどそのままか,あるいは,商習慣上よく見られるところの多少の改変を加えた程度で,よく見られる構成として単に組み合わせたか,あるいは,よく見られる構成の一部を置き換えたに過ぎないものであるといえることが必要であるので,この点を踏まえて検討する。

まず,各部分の具体的態様について検討すると,(a)本件登録意匠の本体基台部について,請求人は,引用意匠1について,「本件登録意匠の基台部の長径・短径の比率,周側の稜線と指掛部の具体的形状のみ異なる。」,「把持部は基台部と指掛部からなり,基台部は,なだらかに上面が膨出した形状であって,指掛部は基台部長手方向中心線上に偏心して配置され,指掛部は,基台部中心方向へオーバーハングしている点が,本件登録意匠と共通し,指掛部の壁体部の態様と具体的構成について差異点があるが,本件登録意匠は,当該差異点に係る構成要素を当業者にとってありふれた手法により他の公然知られた意匠に置き換えて構成したものに過ぎない。」としており,本件登録意匠と引用意匠1とは,平面視略楕円形状の本体基台部と一体に繋がる把持部を有し,把持部の正面視形状を略「凸」字状とし,把持部を本体基台部の正面側の中央寄りから設けた点には,共通点が認められる。しかしながら,この共通点は,概括的なもので,本件登録意匠と引用意匠1のみを特徴付ける態様とはいうことができない。本件登録意匠は,本体基台部の短径と長径の長さの比が1:1.14であるのに対して,引用意匠1は,これが1:2.2と異なるものであるし,本体基台部から把持部への繋ぎ部の形状も,本件登録意匠は,薄い壁状であるのに対して,引用意匠1は,繋ぎ部が略棒状で短く,大きく異なるものであるし,また,把持部の形状も,引用意匠1は,略「く」字状に屈曲した棒状であるのに対して,本件登録意匠は,切断面を略T字状とする薄板状であって,その態様は大きく異なっている。さらに,本体基台部の上面についても,本件登録意匠は,側面視した場合の本体基台部がはっきり弧面状に膨出しているのに対して,引用意匠1は,膨出がごくわずかで目立たず,異なることが明らかである。そうすると,たとえ把持部を他の意匠と置き換えたとしても,本件登録意匠の本体基台部の形状が,引用意匠1の本体基台部の形状とは異なっており,商習慣上普通になされる程度の変更の域をはるかに超えており,この点において独自の創作がなされているというべきであって,引用意匠1の本体基台部の形状から,本件登録意匠が容易に創作できたものということはできない。
次に,(b)本件登録意匠の把持部について,請求人は,引用意匠2のFIG.1?FIG.6に表された把持部は外方辺が直線状ではあるが,本件登録意匠の関連意匠である甲第6号証の意匠と比較して,その差は微差に過ぎない,また,把持部の内方辺は,凹湾曲しつつ上方は扁平部下面に,下方は本体基台部中央付近に連続している点,根元より先端の幅が広がるように左右に張り出した略へら状の扁平部が表されているので,本件登録意匠は,引用意匠1の把持部を引用意匠2のFIG.1?FIG.6に表された把持部に置換したまでであると主張しているが,本件登録意匠と引用意匠2とは,把持部の平面視形状を正面側から後方に向かって広がる態様としている点は共通するが,その長さと端部側の横幅が,本件登録意匠は,本体基台部の長さの約6割の長さで,端部側の横幅が広い略しゃもじ形状であるのに対して,引用意匠2は,約9割以上の長さで,端部側の横幅が狭い略へら形状であって異なり,また,本体基台部からの立ち上がりの角度が,本件登録意匠では,約90°に近く垂直状に立ち上がっているのに対して,引用意匠2は,約45°の角度で直線状に立ち上がっており,さらに,側面視形状も,本件登録意匠は,把持部扁平部の厚みは薄く背面側に略倒「し」字状に円弧状の切り欠き部が表されているのに対して,引用意匠2は,把持部扁平部の厚みが厚く,逆「つ」字状の上下が扁平な切り欠きが表されている点も異なっており,引用意匠1の把持部を引用意匠2の把持部に置き換えたとしても,把持部の形状が大きく異なっており,把持部の形状を本件登録意匠の把持部のように変更するような示唆がないのは明白であるから,本件登録意匠の把持部は新たな創作というべきであり,引用意匠1の基台部及び引用意匠2の把持部を組み合わせたとしても,本件登録意匠の形状を導き出すことはできない。
また,(c)本件登録意匠の把持部の湾曲について,請求人は,引用意匠3ないし5を挙げて,把持部を背面側に湾曲させることが周知の態様であると主張するが,引用意匠3ないし5のいずれの態様もそれぞれに異なり,本件登録意匠とも,その湾曲の度合いは異なるものである。様々な湾曲で表される把持部にあって,短い円弧状の本体基台部の上面膨出部から緩やかに把持部に繋がって湾曲している本件登録意匠の態様は,他に例をみないもので,その具体的態様に特徴があるものということができる。
すなわち,把持部を背面側に湾曲させることが周知であったとしても,湾曲の程度,把持部と本体基台部との連続形状,大きさ,それぞれのバランスなど,多様に想定できるものであるから,引用意匠1の本体基台部と引用意匠2の把持部を組み合わせ,把持部を背面側に湾曲させた形状から,本件登録意匠の形状を導き出すことは困難であると言わざるを得ず,本件登録意匠が意匠登録を受けようとする部分が,公然知られた引用意匠1ないし5によって,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,これらの結合に基づいて容易に意匠の創作をできたものとはいえないものであって,本件登録意匠は,前記の差異点に係る構成要素を当業者にとってありふれた手法により他の公然知られた意匠に置き換えて構成したものに過ぎないとの請求人の主張は,採用することができない。

そうすると,本件登録意匠の本体基台部と把持部の形状は,その出願前からそれぞれの基礎となる具体的創作態様が引用意匠1ないし5にほとんどそのまま存在するものともいえず,あるいは,引用意匠1ないし5に商習慣上の多少の改変を加えた程度のものであるとはいうことができない。また,本件登録意匠の本体基台部と把持部の構成がよく見られる構成として単に引用意匠1ないし5を組み合わせたものともいうことができず,本件登録意匠の本体基台部と把持部は一体に繋がっているものであって,この種の物品分野において,たとえ本体基台部が公然知られたものであったとしても,一体に繋がった把持部についてまで,そもそも置換可能ということができず,よく見られる構成の一部を置き換えたに過ぎないものであるともいうことができない。

したがって,請求人が主張する引用意匠1ないし5の存在によって,本件登録意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当し,本件意匠登録が意匠法第48条第1項1号の規定に該当するものとは認められない。

3.むすび
以上のとおりであって,請求人の主張する理由によっては,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に違反するにもかかわらず,登録されたものとすることはできず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2010-09-07 
出願番号 意願平11-1899 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (C4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 大輔高野 善民 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 斉藤 孝恵
関口 剛
登録日 2000-03-03 
登録番号 意匠登録第1071606号(D1071606) 
代理人 小林 裕紀 
代理人 西尾 政行 
代理人 上野 康成 
代理人 森田 拓生 
代理人 福迫 眞一 
代理人 伊藤 真 
代理人 加藤 実 
代理人 神吉 出 
代理人 辻本 一義 
代理人 辻本 希世士 

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