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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) B5
管理番号 1226494 
判定請求番号 判定2010-600038
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2010-12-24 
種別 判定 
判定請求日 2010-06-29 
確定日 2010-11-12 
意匠に係る物品 靴収納具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1201243号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面並びにその説明書に示す意匠は、登録第1201243号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求の趣旨及び理由

請求人は、イ号図面並びにその説明書に示す意匠は、登録第1201243号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める、と申し立て、その理由を、概要以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。

請求人は本件判定請求に係る登録第1201243号意匠(以下「本件登録意匠」とする。)の意匠権者であり、被請求人が現在製造販売しているイ号図面並びにその説明書に示す意匠(以下「イ号意匠」とする。)のシューズスタンド(イ号物件)が、本件登録意匠の意匠権を侵害するものと判断するので、判定を求める。
本件登録意匠とイ号意匠とは、共通点として、(あ)全体がプラスチック製であって、金型によって一体に成形されており、前後に延びる上段パネル部と下段パネル部、及び両パネル部の前端を連接する前端連接部を有する靴収納具である点、(い)上段パネル部は、前端連接部から後方に向かうに従い斜め上方に向かって延びる平らな板状に形成され、その後端は半円状に形成され、上段パネル部の上面には、多数の小突部からなるすべり止めが形成されると共に、前端に横方向に長い靴ストッパーが形成されている点、(う)前端連接部は、平面視において幅方向に広がる前端面と、この前端面両側から後方に延びる両側面と、両側面の後端から両パネル部の横幅まで両側に拡開する段部とを備えた凸形状に形成されていて、a)前端面は緩やかな湾曲面に形成され、b)両側面は、前端面の両端から凸円弧面を介して連続し、更に両側面の後端から凹円弧面を介して段部に連続しているもので、c)この前端連接部の両側面は手指の親指と人差し指とで挟み持つのにちょうど適する幅とされると共に、d)段部の両側から後方に、上段パネル部と下段パネル部とを連接して、繋ぎ部が形成され、e)前端連接部の背面には、前端面・両側面・段部及び繋ぎ部の裏面によって囲まれる空洞部が形成され、この空洞部は、隣接して配置された靴収納具の前端連接部の前端部が入り込み得ることにより、靴収納具の重ね置きを可能としている点、(え)下段パネル部は、前端連接部から後方に水平に延び、上段パネル部と同じ外形の平板状に形成されていて、後端は半円形に形成されている点、がある一方、相違点として、(ア)すべり止め用突部の形状が、本件登録意匠は丸形であるのに対し、イ号意匠はハ字状である点、(イ)横長に形成された靴ストッパーが、本件登録意匠は横長四角形であるのに対し、イ号意匠は円弧形である点、(ウ)前端連接部のスリットが、本件登録意匠では側面に上下4段に形成されているのに対し、イ号意匠では前端面から側面にかけて上下4段に形成されている点、がある。
そして両意匠の共通点は、全体の骨格をなす基本的構成と、看者の注意を強く惹く具体的構成に係るものであるのに対し、相違点は、いずれも細部における微差であり、両意匠は共通感が差異感を遙かに凌駕するので類似する。そして本件登録意匠の出願日前の公知意匠である、実開昭55-12862号公報記載の意匠(甲第3号証)、特開2004-24313号公報記載の意匠(甲第4号証)からも、両意匠が類似することが明らかで、イ号意匠は本件登録意匠に類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。

第2.被請求人の答弁

被請求人は、答弁書にかわる上申書を提出し、イ号図面並びにそのその説明書に示す意匠は、登録第1201243号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない、との判定を求める、と答弁し、その理由として概要以下のとおり主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。

本件登録意匠は、出願前公知の特開2004-24313号第3図、及び第4図に開示された意匠と基本的構成態様を共通にするものであり、この共通性の如何が本件両意匠の類否判断に与える影響は微弱であり、両意匠の類否は、その余の具体的構成の如何によって決せられるべきである。
そこであらためて両意匠の共通点と差異点を摘示すると、共通点として、前端連接部の平面視の輪郭形状を、段差のある略凸形状としている点があり、一方差異として、(1)滑り止め部の形状、(2)靴止め部(靴ストッパー)の形状(3)前端側開口部(前端連接部のスリット)の形状に差異がある。
そして共通点について、その略凸形状は、把持部というより、本件物品をスタッキング収納する際に入れ子状に嵌合する「逃げ代」部分と考えるのが素直で、してみればこの構成は、技術的必然形態ともいうべき極めてありふれた構成であり、しかもその共通性は、もっぱら平面視における輪郭形状の共通性に止まり、そして該部には、靴止め部(靴ストッパー)の形状、また開口部(スリット)等の形状に大差があることから、両意匠の輪郭形状の共通性をことさら過大視することは、概念的な判断である。従って、類否判断に与える影響は微弱である。
一方差異点について、(1)の点は、両意匠の滑り止め部の形状は全く異なり、しかもイ号意匠のパターンは、先行例を参酌しても、イ号意匠に特徴的なもので、配置面積の大きさに応じて両意匠の類否を左右するものである。また(2)の点は、本件登録意匠は、横長方形状の別体の板状部材によるものであって、スタッキング収納させる場合には、該部材を本体から取り外さねばならないのに対し、イ号意匠は、本体と一体にヒンジ結合された、半円状板材による可倒式のものであり、使用価値は截然として異なり、そしてこの構成は、公知例のないイ号意匠において新規な構成で、この種物品に新たな使用価値をもたらしてイ号意匠の要部となるもので、差異としての類否判断への影響は大きいというべきである。また(3)の点は、通気性の点で彼我同視し得ない差異で、使用価値の差は明らかである。しかもイ号意匠の構成は、公知例にみられない新規なもので、この差異も類否に及ぼす影響は大きいというべきである。
以上のとおり、両意匠には顕著な差異があり、請求人の主張には何れも理由がなく、イ号意匠が本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属さないことは明らかで、同趣旨の判定を求める。

第3.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年6月30日に意匠登録出願をし(意願2003-18649)、平成16年2月20日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1201243号意匠であり、意匠に係る物品を「靴収納具」とし、その形態を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとするものである。(別紙第1参照)

2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書に添付された「イ号図面並びに説明書」に示されたシューズスタンドの意匠であり、その形態は、「イ号意匠の図面」とする写真に現されたとおりである。(別紙第2参照)

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態について、以下の共通点と差異点が認められる。(なお各部の名称は、請求人が提出した「本件登録意匠における各部名称の説明」とする図面(別紙第3参照)に従う。)

(1)共通点
(A)全体が、前後に延びる上段パネル部と下段パネル部、及び両パネル部の前端を連接する前端連接部からなる靴収納具であって、全体が一体状に成形されたものである点、
(B)上段パネル部は、前端連接部から後方に向けて斜め上向きに延びる等幅で平らな板状に形成され、後端が半円状に形成され、縦横比率を略5対2程度とし、その上面略全体に、多数の同形の小突部を等間隔に規則配列した、すべり止めが形成され、下面を平滑面とし、そして上面の前端に、横幅を上段パネル部の横幅の略1/2とする、横方向に長い板状の靴ストッパーが形成されたものである点、
(C)下段パネル部は、上段パネル部とほぼ同じ輪郭形状に形成された、前端連接部から後方に水平に延びる平板状のもので、上・下面を平滑面とし、後端は半円状に形成されたものである点、
(D)前端連接部は、平面視において幅方向に広がる前端面と、この前端面両側から後方に延びる両側面と、両側面の後端から両パネル部の横幅まで両側に拡開する段部とを備えた鉛直面状を呈する凸形状に形成されて、これに幅狭の水平スリットが上下に4段、配されたものであり、前端面は緩やかな凸湾曲面に形成され、その両端から凸円弧面を介して両側面に連続し、更に両側面の後端から凹円弧面を介して段部に連続し、段部の両側から後方に、上段パネル部と下段パネル部両側縁を上下に連接する繋ぎ部が形成され、前端連接部の背面側に、前端面・両側面・段部及び繋ぎ部の裏面によって囲まれる空洞部が形成されたものであり、前端面の横幅を、上段パネル部(又は下段パネル部)の横幅の略3/4とし、前端面から繋ぎ部後端までの前後の長さを上段パネル部(又は下段パネル部)の前後の長さの略1/5程度としている点。

(2)差異点
(ア)すべり止めの形状について、本件登録意匠は、小突部が平面視円形状で、これが横4列、前後9段の縦横等間隔に配されたものであるのに対し、イ号意匠は小突部が平面視長円形状で、これを左右に逆ハ字状に並べて、横2列、前後9段の等間隔に配したものである点、
(イ)靴ストッパーの形状について、本件登録意匠は、上面視が、前端面に沿って前端面と同じ曲率に湾曲する、略横長矩形板状のものであって、上段パネル部に対して、側面視直角状に差し込まれたもので、着脱自在であるのに対し、イ号意匠は、上段パネル部に円弧状の切り込みが設けられて、この円弧状の部分が上向きに折立てられて形成された弓形板状のもので、起倒自在である点、
(ウ)前端連接部のスリットの形状について、本件登録意匠は、前端面両端の凸円弧面を中心として、左右に分離して、短いスリットとして配されたものであるが、イ号意匠は、前端面からその両端の凸円弧面を経て側面に至る全域に、途切れのない長いスリットとして配されたものである点。

4.類否判断

そこで上記の共通点と差異点が類否判断に及ぼす影響を、意匠全体として検討し、判断する。
まず共通点(A)ないし(D)は、上段パネル部、下段パネル部、及び前端連接部からなる全体の基本的な構成態様と、これを構成する各部の具体的な態様とを端的に表すもので、一体となって、靴収納具、又はシューズスタンドとしての全体の形態的まとまりを形成し、両意匠に極めて強い共通感をもたらしている。また同時に、本件登録意匠の形態上の特徴を最もよく表すところを形成している。従って、両意匠の共通点は、両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。
即ち、上記を詳述するに、共通点について、(A)ないし(C)のうち、全体が上段パネル部と下段パネル部、及びその前端を連接する前端連接部からなる構成である点、上段パネル部につき、前端連接部から後方に向けて斜め上向きに延びる、等幅で平らな板状に形成され、前端に横方向に長い靴ストッパーが形成されている点、下段パネル部につき、上段パネル部とほぼ同じ輪郭形状に形成され、前端連接部から後方に水平に延びる平板状となっている点は、本件登録意匠の出願前において、実開昭55-12862号第2図(甲第3号証)、実開昭60-142646号第4図、特開平9-56490号の第9図に認められる。(なお、請求人が甲第4号証として提出した、特開2004-24313号公報は、公開日を本件登録意匠の出願後の平成16年(2004年)1月29日とすることから、これに記載された【図3】【図4】等の図面が出願前に公然知られていたとはいえない。)また、上段パネル部、及び下段パネル部の縦横比率を略5対2程度とし、その後端を半円状とした点についても、上段パネル部、下段パネル部に該当する部分(靴載置部分)が板材ではなく線材で構成されたものであるとしても、同種の物品において、ほぼ同様の縦横比率とし、後端の態様としたものが、意匠登録第1170061号に認められるところである。従って、共通点(A)ないし(C)のうちの上記の構成態様については、この種の物品の新規な特徴として、ことさら重要視することはできない。
しかしながら、これらは、両意匠において、全体の骨格的なところを構成し、その余の共通点も加わり、組み合わさり一体となって、全体形態の共通性を看者に強く印象付け、両意匠に強い共通感をもたらすところとなっている。従って、共通点(A)ないし(C)は、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。
そして共通点(D)は、前端連接部の具体的な態様に係るもので、全体を鉛直面からなる凸形状とし、前端面を緩やかな凸湾曲面とし、その両端を凸円弧面として両側面に連続する態様とし、両側面の後端から凹円弧面を介して段部に連続し、段部の両側から後方に上段下段のパネル部に沿って繋ぎ部を形成した態様は、その各面各部の寸法比率の共通性と一体化して、両意匠に極めて強い共通感をもたらすところとなっている。しかもこの態様は、少なくとも当審において、本件登録意匠の出願前に認めることができず、本件登録意匠の特徴を強く表出するところを形成している。そしてこの共通点(D)は、更に共通点(A)ないし(C)と一体化して、意匠全体の形態的まとまりを、極めて独自性の強いものとしている。従って、共通点(D)が類否判断に及ぼす影響も、極めて大きいものである。
以上のとおり、共通点(A)ないし(D)は、一体となって、全体の形態的まとまりを形成し、同時にその形態的まとまりが、本件登録意匠の特徴を最もよくあらわすものであり、従って、両意匠の共通点は、類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。

これに対して両意匠の差異点が類否判断に及ぼす影響は、何れも軽微なものに止まる。
即ち、差異点(ア)は、両意匠共に、下段パネル部の上面を平坦面状とし、上段パネル部の上面略全体に、多数の同形の小突部を等間隔に規則配列してすべり止めを形成した、という共通する構成態様の中でみられる差異であり、また骨格構成に係わる差異ではないことから全体形状への影響は弱く、しかもすべり止めを形成する突部の態様として、平面視を円形状とするものも、長円形状とするものも、共に広く、普通にみられる態様であることを考慮すると、看者が取り立てて着目するとも考えられず、共通点(A)ないし(D)が形成する全体の形態的まとまりを変更するほどのものとはいえない。従ってその類否判断に及ぼす影響は微弱である。
差異点(イ)は、靴ストッパーのみを取り出して対比すればともかく、形態全体としては、上段パネル部の前端に、横方向に長く、板状の靴ストッパーを形成した、という共通する構成態様の中でみられる差異であり、靴ストッパーの横幅(上段パネル部、或いは前端連接部に対する横幅)もほぼ一致することから、差異としてさほど強い印象を与えず、共通点(A)ないし(D)の一体化した強い形態的まとまりを覆すほどのものとは到底いえない。従って、形態全体としては軽微な差異に止まる。
この点について被請求人は、イ号意匠の靴ストッパーは起倒自在で、その構造、や形状が、イ号意匠独自の特徴を形成している、と強く主張する。
しかしながら前述のとおり、両意匠は、形態全体のまとまり自体が強い独自性を持つことから、この中にあっては特徴部分として目立たず、またさほど大きく形成されたものでもなく、全体を圧して、両意匠を別異の意匠に特徴付けるまでのものとは到底いえず、類否への影響は、限定的なものに止まる。
そして差異点(ウ)は、前端に横方向に長スリットが形成された共通点の中での差異であり、該部に4段のスリットを水平に設けた点が両意匠に共通感を付加していることを考慮すると、差異として類否に及ぼす影響は微弱なものである。

即ち、両意匠の差異が類否判断に及ぼす影響は、いずれも軽微、或いは微弱なものというほかなく、その関連する視覚効果を考慮しても、共通点が形成する形態全体のまとまりを覆すには到底至らず、両意匠においては、共通点が類否判断に極めて大きな影響を及ぼし、差異点を凌駕するので、意匠全体として類似するものである。

5.結び
以上のとおりであって、両意匠は意匠全体として類似し、従ってイ号意匠は、本件登録意匠、及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2010-11-04 
出願番号 意願2003-18649(D2003-18649) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (B5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石坂 陽子正田 毅 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 太田 茂雄
市村 節子
登録日 2004-02-20 
登録番号 意匠登録第1201243号(D1201243) 
代理人 高崎 真行 
代理人 向江 正幸 
代理人 福迫 眞一 
代理人 川角 栄二 
代理人 福島 三雄 

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