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審決分類 |
審判 K8 |
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管理番号 | 1231532 |
審判番号 | 無効2010-880006 |
総通号数 | 135 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2011-03-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2010-07-12 |
確定日 | 2011-01-11 |
意匠に係る物品 | 空気圧機器用消音器 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1380545号「空気圧機器用消音器」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 (1)本件意匠登録第1380545号の意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、平成21(2009)年7月6日に出願され、平成22(2010)年1月22日に意匠権の設定登録がされたものである。 (2)これに対し請求人は、平成22年7月12日に本件無効審判を請求し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件登録意匠の登録を無効とするとの審決を求めた。 (3)被請求人は、平成22年9月13日付けで審判事件答弁書及び証拠方法として乙第1号証を提出した。 (4)その後、請求人より平成22年10月20日付けで口頭審理陳述要領書と、証拠方法として甲第8号証及び甲第9号証が提出され、被請求人より平成22年10月21日付けで口頭審理陳述要領書が提出された。 (5)当審は、平成22年11月4日に口頭審理を実施した。 口頭審理において、請求人は、甲第8号証を証拠から削除し、甲第9号証を甲第8号証とする訂正をした。 また請求人は、平成22年10月20日付け口頭審理陳述要領書の、第5頁19行から第7頁7行まで([3]本件登録意匠と・・・付言しておく。)の新たな先行意匠4、5に基づく新規性違背の主張と、第8頁1行から9行まで(また、本件登録意匠と・・・付言しておく。)の意匠法第3条第2項に基づく新たな無効理由の主張を、削除した。 (6)なお、口頭審理において、当審は審理終結を告知した。 第2 本件登録意匠 本件登録意匠(別紙第1参照)は、意匠に係る物品は「空気圧機器用消音器」であり、その形態は、願書及び願書添付図面の記載のとおりであり、願書の【意匠の説明】において、「各図の表面部に表された略水平平行状細線、略垂直平行状細線、略傾斜平行状細線及び略円弧状細線はいずれも立体表面の形状を表す線である。前記ロッド及び前記吸音材はいずれも白色の樹脂製である。」と記載している。また、【意匠に係る物品の説明】において、「本物品は、流体圧アクチュエータ等の空気圧機器において圧力流体の排気音を低減する消音器である。本物品は、圧力流体の導入口となる円筒状のロッドと、前記ロッドに固着された有底円筒状且つ多孔質の吸音材とを有する(参考図1及び参考図2参照)。使用に際し、例えば、流体圧アクチュエータの流体排出ポート又は当該流体排出ポートに挿入されている管継手(図示せず)に前記ロッドを連結する。これにより、前記流体排出ポート又は前記管継手から導出された圧力流体は、前記吸音材を介して排出される。その際、前記圧力流体の排出音は前記吸音材に吸収される。」と記載している。 願書及び願書添付図面の記載によれば、本件登録意匠は、円筒状ロッドと有底円筒状の吸音材からなるものであり、その形態は、小径円柱部と大径円柱部が同軸上に配置された段付円柱形状を呈するが、円筒状ロッドは接続用の小径ロッドに大径で吸音材と同径のフランジが一体形成されたものであるため、小径円柱部は接続用小径ロッドであり、大径円柱部はロッドの一部のフランジと吸音材である。 大径円柱部の吸音材とフランジの境界には環状線が形成され、吸音材の先端部は直角に形成され、小径ロッドは、フランジ側に小幅な拡径部が形成され、中間部の周面に環状線が形成されているが、それはよく見ると極めて小さな段差であり、小径ロッドの先端部は直角に形成されている。 大径円柱部と小径円柱部の横寸法比は、約1:1.1であり、大径円柱部の吸音材とフランジ部の横寸法比は、約5:1であり、吸音材とロッド全体(フランジ部と小径ロッド部を合計した長さ。)の横寸法比は、約1:1.6であり、大径円柱部と小径円柱部の縦寸法(直径)比は、約2:1である。 そして、ロッド及び吸音材はいずれも白色の樹脂製である。 第3 請求人の主張 請求人は、「本件登録意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として、審判請求書の記載及び口頭審理陳述要領書は削除箇所を除いて記載のとおりの主張をし、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。 請求人の主張は、概ね次のとおりである。 (1)無効理由の要点 本件登録意匠は、その出願前に公然知られた意匠と同一又は類似する意匠である。また、本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似する意匠である。したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第1号、同項第2号又は同項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。 (2)本件意匠登録を無効とすべきである理由 本件登録意匠の基本的構成態様は、大径円柱部(消音材)と小径円柱部(ロッド)とを同軸上に配置した段付円柱形状となっていて、大径円柱部と小径円柱部とはほぼ同様の長さ寸法を備えており、本件登録意匠の基本的構成態様は、大径円柱部だけでなく小径円柱部にも存在感のある構成態様となっている。また、具体的構成態様として、大径円柱部と小径円柱部との外周面が滑らかに形成されている点が挙げられる。大径円柱部及び小径円柱部には環状の溝部や段部が認められるが、意匠の説明の欄に「前記ロッド及び前記吸音材はいずれも白色の樹脂製である。」と記載されることから、これらの溝部や段部については殆ど目立たないと考えられる。 甲第1号証で示す周辺意匠(審査段階において参照された参考文献に示された意匠)を本件登録意匠と比較すると、意匠全体に占める小径円柱部の存在感が異なるとともに、小径円柱部の外観が大きく異なることから、審査において周辺意匠と本件登録意匠とは非類似と判断され、登録されるに至ったものと考えられる。 しかしながら、本件登録意匠の出願前に株式会社コガネイから発行されたカタログの写しである甲第2?4号証には、空気圧機器用消音器であるマフラ(KM-J6)の意匠が記載されている。そして、その各先行意匠に係るマフラ(KM-J6)は、株式会社コガネイによって、本件登録意匠の出願前の平成7年3月において公然知られた意匠となっている。 以下、甲第4号証に記載されたマフラ(KM-J6)の意匠(線図)を先行意匠1とし、甲第2号証358頁と甲第3号証761頁に記載されたマフラ(KM-J6)の意匠(白黒写真)を先行意匠2とし、甲第2号証360頁と甲第3号証763頁に記載されたマフラ(KM-J6)の意匠(グレーに着色された線図)を先行意匠3とする。先行意匠3は先行意匠1と同一の形状を有している。 この各先行意匠の基本構成態様は、大径円柱部と小径円柱部とを同軸上に配置した段付円柱形状となっている。また、大径円柱部と小径円柱部とはほぼ同様の長さ寸法を備えており、その基本的構成態様は、本件登録意匠と同様に、大径円柱部だけでなく小径円柱部にも存在感のある構成態様となっている。具体的構成態様についても、本件登録意匠と同様に、大径円柱部と小径円柱部との外周面が滑らかに形成されている点が挙げられる。 したがって、本件登録意匠は、各先行意匠に対し、基本構成態様が同一であるだけでなく、具体的構成態様についても同一であることから、本件登録意匠は甲第2?4号証に記載の各先行意匠に同一又は類似するものである。 なお、本件登録意匠と各先行意匠とは、厳密に比較した場合、大径円柱部と小径円柱部との長さ寸法比に若干の差異点が認められる。本件登録意匠においては小径円柱部が大径円柱部に比べて若干長く形成される一方、各先行意匠においては小径円柱部が大径円柱部に比べて若干短く形成される点で相違している。しかしながら、各先行意匠の小径円柱部は、上述した他の周辺意匠に比べて大幅に長く形成されており、意匠全体に占める小径円柱部の存在感は十分に大きいことから、類否判断に与える影響は微弱であり、本件登録意匠と各先行意匠との共通感を凌駕するものではない。 (3)本件登録意匠と先行意匠1との比較 被請求人は、先行意匠1について、一方向から見た側面図によって表されるマフラの意匠であることから、「立体的に意匠を特定することができない。」とし、「当該図面には、φ12、φ6、41.5、23、17.5の数字が直線を伴って記載されているものの、意匠としての観点から検討すれば、これらはあくまで「文字」に過ぎず、立体形状の把握に資するものではない。」と主張し、「先行意匠としての適格性はない。」としている。 しかしながら、円の直径を「φ」を付して表現することや、図面上の数字が寸法を表現することは、JISハンドブック(参考資料1)の記載を確認するまでもなく図面を記載する際の常識である。 また被請求人は、本件登録意匠において、ロッドの一部を構成する「フランジ」が意匠を対比する上で注意を引く部分である旨の主張をしているが、被請求人も述べているように、隣接する「吸音材」と「フランジ」とは共に同径であり、「吸音材」に対して「フランジ」が凹凸とはなっておらず、しかも「吸音材」と「フランジ」とは同じ白色となっているため、需要者は、「大径円柱部」から「フランジ」を分離して認識することはなく、「フランジ」を含めて1つの纏まりある「大径円柱部」として認識するのである。本件登録意匠において「フランジ」が要部であるとの被請求人の主張は、失当である。 なお、先行意匠1における大径円柱部と小径円柱部との径寸法比は2:1であり、本件登録意匠における大径円柱部と小径円柱部との径寸法比は約1.9:1である。また、先行意匠1における大径円柱部と小径円柱部との長さ寸法比は約0.7:1であり、本件登録意匠における大径円柱部と小径円柱部との長さ寸法比は約1.1:1である。このように、両意匠を厳密に比較した場合には、大径円柱部と小径円柱部との長さ寸法比に若干の差異点が認められるが、先行意匠1においては意匠全体に占める小径円柱部の存在感が十分に大きいことから、寸法比の若干の差異は、本件登録意匠と先行意匠1との共通感を凌駕するものではない。 (4)本件登録意匠と先行意匠2との比較 先行意匠2と本件登録意匠を厳密に比較した場合には、先行意匠2は白及び黒で着色されるのに対し、本件登録意匠は白のみで着色されており、色彩について差異点が認められる。しかしながら、両意匠の根幹となる基本的構成態様は同一であることから、具体的構成態様である色彩が異なっていたとしても、本件登録意匠と先行意匠2との共通感を凌駕するものではない。 〈証拠方法〉 甲第1号証:審査段階における参考文献の写し 甲第2号証:株式会社コガネイから発行されたカタログの写し (カタログ名:制御機器総合力タログ2版) 甲第3号証:株式会社コガネイから発行されたカタログの写し (カタログ名:制御機器総合力タログVer.3) 甲第4号証:株式会社コガネイから発行されたカタログの写し (カタログ名:調質・補助・真空・フッ素樹脂機器総合力タログVer.4) 甲第5号証:日刊工業出版から発行された雑誌の写し (雑誌名:油空圧技術 第33巻 第1号) 甲第6号証:日刊工業出版から発行された雑誌の写し (雑誌名:油空圧技術 第33巻 第7号) 甲第7号証:本件登録意匠と先行意匠との比較図 甲第8号証:SMC株式会社から発行された会社沿革の写し 第4 被請求人の主張 被請求人は、「『本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。』との審決を求める。」と申し立て、その理由として、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書の記載のとおりの主張をし、証拠方法として、乙第1号証を提出している。 被請求人の主張は、概ね次のとおりである。 (イ)甲第2号証?甲第4号証及び甲第7号証中の図面に関する先行意匠は、一方向から見た平面的形状しか描出しておらず、立体的に「意匠」を特定することができず、類否判断に用いるための適格性を欠く。 (ロ)甲第7号証では、本件登録意匠でロッドの一部を構成する「フランジ」の名称が示されておらず、一方、先行意匠の写真に示されている黒色の楕円形状の部材(頂部部材ともいう。)についての言及がない。先行意匠の図面も同様である。甲第7号証中の各部の名称には妥当でないものが含まれ、請求人の恣意があると言わざるを得ない。 (ハ)請求人は、本件登録意匠のフランジの存在に言及していないが、当該フランジは、有底円筒状の吸音材と同径で該フランジと一体感ある美感を呈するために不可欠な部位で、フランジの形状及び位置は、本件意匠を先行意匠と対比する際に看過すべきものではない。 なお、本件登録意匠を機能の観点から敷衍すれば、吸音材をフランジと一体的構成とすることにより、吸音材の軸線方向とその鉛直方向を含めてフランジを除く全ゆる方向に圧力流体を排出可能とし、この構成は、それらの要素が有する技術的効果と相挨って、需要者の注意を引く部分である。 請求人のいう「溝部」(甲第7号証参照)は、吸音材とフランジとの境界を指し、「段部」はロッドの連結部の周回する線で示されていると推察するが、これらに対し、需要者は容易に識別可能である。 (ニ)本件登録意匠の基本的構成は、(i)大径円筒部(フランジ)と小径円筒部(外部機器への連結部)とを有するロッドと、前記フランジに当接して配置された有底円筒状の吸音材とを有し、(ii)吸音材、フランジ、連結部の順に同軸上に配置された形状であり、これによりフランジを含むロッドと吸音材との間で、白色の樹脂製としての構成と相挨って一体的美感を呈するもので、需要者に対して与える美感が著しく異なることは明らかである。 〈証拠方法〉 乙第1号証:比較図 第5 無効理由(新規性違背)についての当審の判断 1.甲第2号証から甲第4号証の刊行物に記載された意匠 (1)先行意匠1(甲第4号証第469頁)(別紙第2参照) 請求人が甲第4号証として提出した先行意匠1は、意匠に係る物品は「マフラ」であり、その形態は、以下のとおりである。 小径円柱部と大径円柱部が同軸上に配置された段付円柱形状を呈し、小径円柱部をなすロッド(当該カタログの関連する記載及び請求人の陳述によれば、「本体」とされる。)と、ロッドから延在し大径円柱部内を貫ぬき大径円柱部の頂部となって薄板状に露出する頂部部材と、頂部部材とロッドに挟まれた大径円柱部をなす吸音材(当該カタログの関連する記載及び請求人の陳述によれば、「エレメント」とされる。)によって形成されているものである。 ロッドは、吸音材側端部に小幅な拡径部が形成され、反対側端部の縁は極細幅に斜面状に面取りされており、頂部部材は、周面部全体が斜面状に面取りされている。 頂部部材を含む大径円柱部と小径円柱部の横寸法比は、約1:0.7であり、大径円柱部と小径円柱部の縦寸法(直径)比は、約2:1である。 先行意匠1は、一側面からの図によって表されたものであるが、この分野の通常の知識に基づけば、上記のように認定できる。 (2)先行意匠2(甲第2号証第358頁及び甲第3号証第761頁)(別紙第2参照) 請求人が甲第2号証及び甲第3号証として提出した先行意匠2は、意匠に係る物品は「マフラ」であり、両証拠による意匠は白黒写真によって現され、同一と認められ、その形態は、以下のとおりである。 極めて小さな写真によるもので、細部を特定することはできないが、小径円柱部と大径円柱部が同軸上に配置された段付円柱形状を呈し、小径円柱部をなす黒色のロッドと、大径円柱部の頂部をなす黒色円盤状の頂部部材と、それらに挟まれた大径円柱部をなす白色の吸音材によって形成されていることが分かる。 構成比を特定することはできないものの、大径円柱部の方が小径円柱部よりやや長く、直径比については大径円柱部は小径円柱部の2倍前後かと思われる。 (3)先行意匠3(甲第2号証第360頁及び甲第3号証第763頁)(別紙第2参照) 請求人が甲第2号証及び甲第3号証として提出した先行意匠3は、意匠に係る物品は「マフラ」であり、両証拠による意匠はグレーに着色された線図によって表され、同一と認められ、その形態は、表面がグレーに着色されている以外は、先行意匠1の形状と同一である。なお、図面周囲に描かれた数字等も、同一である。 2.対比・判断 (1)本件登録意匠と公知意匠 本件登録意匠と先行意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに本件登録意匠の出願前の公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、本件登録意匠と先行意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することを要する。よって、まず、この種物品における需要者の注意を惹きやすい部分を把握し、本件登録意匠と出願前の公知意匠とを、比較検討する。 この種意匠においては、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分とは、使用目的上、圧力流体の排出部にある吸音部が最も需要者の注意を惹くところといえるが、使用方法を左右する圧力流体の導入口である接続部も、注意を惹くといえる。 これを前提に請求人から提出された甲第1号証による公知意匠を見ると、それらは、吸音部である大径円柱部を有しているが、ある程度の長さの小径円筒状をなすロッドを有するものはなく、大径円柱部についても、先端面及び周面共に凹凸のない単純な円柱形で端部が略直角のものは示されていない。よって、本件登録意匠の基本的構成態様と各部の具体的構成態様とも、請求人が示した各公知意匠に見いだすことはできない。 しかし、それとは別の次の公知意匠が見られるところである。 公知意匠1(別紙第3参照)は、公開実用新案公報の実開昭61-157117号所載の第1図及び関連する明細書の記載によって表された消音器であって、その形態は、接続管(5)である小径円柱部と本体(1)である大径円柱部が同軸上に配置された段付円柱形状を呈する。大径円柱部は、周面に穴が空き、先端部形状が相違する。接続管は、周面に凹凸のない円筒管(管:くだ。気体・液体などの輸送に用いる長い中空円筒。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])である。 公知意匠2(別紙第3参照)は、公開実用新案公報の実開昭61-200407号所載の第1図から第4図及び関連する明細書の記載によって表された消音器であって、その形態は、配管接続部(4)である小径円柱部と消音器本体(5)である大径円柱部が同軸上に配置された段付円柱形状を呈する。大径円柱部は、フランジ状部があり先端部が直角であるが、周面に穴が空いている。配管接続部は、周面に凹凸のない円筒管であり、消音器本体は、配管接続部側の端部に外側円筒部をネジ止め接続するための外側円筒部用接続部が設けられ、外側円筒部との境界が環状線として表れているので、この部分が外観上フランジ状部に見えるようになっている。 公知意匠3(別紙第3参照)は、公開実用新案公報の実開昭64-48404号所載の第2図と第4図及び関連する明細書の記載によって表されたサイレンサであって、その形態は、ロッド部材(30)である小径円柱部と、ロッド部材に一体成形されているフランジ部(34)と本体(4)が外径が同一に形成されて大径円柱部となり、それらが同軸上に配置され段付円柱形状を呈する。大径円柱部は、長さが異なるものの本件登録意匠と一致した構成態様である。ロッド部材は、周面に環状溝を設けた円筒管であり、フランジ部と本体の境界が環状線として表れている。 以上に基づけば、この意匠分野にあっては、小径円柱部と大径円柱部が同軸上に配置された段付円柱形状は、一つの類型を示すと認められるが、需要者は、吸音部や接続部に注意を向けて意匠を観察するから、意匠全体の段付円柱形状が、直ちに意匠の類否を左右する要素となるとはいえない。そして、需要者が着目する吸音部や接続部については、以下のことが認められる。 本件登録意匠の吸音部の態様は、公知意匠3に見られ、接続部の態様は、略円筒状であるから、公知意匠1及び公知意匠2に見られるといえる。なお、本件登録意匠の接続部は、フランジ側に小幅な拡径部を設け、中間部分に僅かな段差を設けたものであり、厳密には公知意匠1及び公知意匠2のものとは相違する。しかしながら、一般に、接続管に小幅な拡径部や段差を設けたものはありふれている。よって、本件登録意匠の吸音部と接続部に独自の特徴はない。 しかしながら、本件登録意匠は、意匠全体の外観形態を作り出すに当たって、それら公知意匠1ないし公知意匠3の吸音部や接続部を単に組み合わせたとはいえず、公知意匠3の吸音部を短くし、公知意匠1や公知意匠2の円管による接続部を小幅な拡径部や段差を設けて改変しつつ、その長さも径も変更し、吸音部が目立った段付円柱形状を呈する吸音器の分野で、接続部の構成比率を増すことで、視覚的に訴求する効果を持たせた点に、新規な創作が認められるものである。その視覚効果は、意匠全体にわたるものであるから看者の注意を惹くので、要部をなすといえる。 以上を前提に、本件登録意匠と先行意匠1ないし先行意匠3について、意匠全体として観察すると共に、要部においても共通するかを、以下検討する。 (2)本件登録意匠と先行意匠1ないし先行意匠3 消音器における吸音部は、吸音効果の点で需要者の注意を強く惹くところであるから、まず吸音部について比較すると、本件登録意匠はフランジから先の円柱頂部面や周面がすべて吸音材となっているが、先行意匠1ないし先行意匠3は、円柱頂部面に吸音材ではない頂部部材が設けられている。このため各先行意匠では、圧力流体は頂部面から排出されず、周面のみの排出となる。吸音部の形状は、本件登録意匠は、頂部が直角に切りっぱなしとなった円柱形であるのに対し、各先行意匠は、頂部に周縁全体が斜面状に面取りされた最大径が吸音材と同径である頂部部材があり、頂部に頂部部材がはめ込まれた円柱形であるとの違いが観察される。需要者は、吸音部について注意深く観察するから、境界線を視認できる以上、吸音材とフランジの境界線、あるいは頂部部材と吸音材の境界線を無視して、外郭形状のみで意匠を捉えることはなく、本件登録意匠と各先行意匠に対し、相当な形状差を見て取るものといえる。 請求人は、本件登録意匠の吸音材はフランジと同径で同じ白色であるため、需要者は大径円柱部からフランジを分離して認識することはない旨主張するが、上記のとおりであって、吸音材がどの部分であるかは需要者の注意を強く惹くところであるが、境界部ないしは接合部が1条の線として表れているのであるから、需要者は外観上、吸音材部とその他の部位の境界を確認できるので、本件登録意匠のフランジの存在を把握できるし、頂部部材を把握できる各先行意匠との相違も、把握できるものである。 吸音部の相違は、類否判断に決定的な影響を及ぼすものというほかない。 一方、接続部については、本件登録意匠と先行意匠1及び先行意匠3は共に、吸音部側に小幅な拡径部を設けた円筒形であり、本件登録意匠の中間部の段差は、あまりに小さな段差であるため見分けるのが難しいから、接続部のみでいえば需要者は、ある程度の共通感を持つといえる。しかしながら、接続部に設けられた小幅な拡径部は、接続管の分野ではありふれており、意匠を特徴付ける態様とはいえない。また、各先行意匠の接続部の長さは、吸音部よりも短く、本件登録意匠とは相違する。 3.まとめ 以上を総合すれば、先行意匠1ないし先行意匠3とも、需要者の注意を強く惹く吸音部の態様が本件登録意匠とは相違するうえに、本件登録意匠の特徴をなす、フランジから先の大径円柱部全体を吸音材とした短めの円柱状吸音部に、太さがその半分の径の、吸音部より長くて存在感ある円管を接続部とした具体的な構成態様も、相違する。一方、共通する段付き円柱形状という基本的態様は、この意匠分野において一つの類型ともいえる態様であるから需要者の注意を惹かないが、吸音部を始めとした具体的構成態様が需要者の注意を惹くので、結局、本件登録意匠と各先行意匠は、これら相違点が相まって、異なる意匠的効果を形成し、意匠全体として、看者に異なる美感を起こさせているというほかない。 したがって、起こさせる美感が相違するので、先行意匠1ないし先行意匠3を、本件登録意匠に類似するものとすることはできない。また、同一のものとすることもできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第1号、同項第2号又は同項第3号に掲げる意匠に該当せず、請求人の提出した証拠及び主張によっては、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2010-12-01 |
出願番号 | 意願2009-15312(D2009-15312) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Y
(K8)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤澤 崇彦 |
特許庁審判長 |
関口 剛 |
特許庁審判官 |
樋田 敏恵 橘 崇生 |
登録日 | 2010-01-22 |
登録番号 | 意匠登録第1380545号(D1380545) |
代理人 | 筒井 章子 |
代理人 | 宮寺 利幸 |
代理人 | 千葉 剛宏 |
代理人 | 大内 秀治 |
代理人 | 筒井 大和 |
代理人 | 坂井 志郎 |
代理人 | 山野 明 |
代理人 | 小塚 善高 |
代理人 | 仲宗根 康晴 |