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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 M3
管理番号 1236429 
審判番号 不服2010-25237
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-09 
確定日 2011-03-18 
意匠に係る物品 盗難防止ネジ 
事件の表示 意願2009- 13301「盗難防止ネジ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,本意匠を意願2009-013299とする関連意匠の意匠登録出願として,2009年(平成21年) 6月11日に出願されたものであって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「盗難防止ネジ」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

すなわち,本願意匠は,(1)全体が,やや扁平な略半球体状の「ネジ頭部」と,「ネジ先」が「平先」で,外周面全面にネジ山が形成された略円筒形状の「ネジ軸部」によって構成されたネジであって,(2)規格に基づかず,該ネジを「専用工具」によってのみ,締め付け,緩めることができるように,横長な「直角凹陥部」を,ネジ頭部の凸面状の外周面の中腹中程の5箇所に,側面視同じ高さに,そして,平面視外周面上に等間隔で,すべて同形同大に,配置・形成したものであって,(3)直角凹陥部は,その垂直面と水平面が,それぞれ側面視・平面視において,略「弓形」状をなし,垂直面の最大高と水平面の最大奥行き(ネジの軸中心に対する放射方向の長さ)の比率は,略1:1であるものである。


第2 原査定における拒絶の理由

原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,本願意匠は,盗難防止ネジに係るものであるが,この種物品の分野において頭部等の外周面に種々の形状の凹陥部或いは孔を1個或いは複数個形成することは商習慣上普通に行われている(例えば,意匠1,意匠2,意匠3,意匠4)ところ,本願意匠は,日本国内において広く知られた丸木ねじ(例えば,意匠5)の頭部外周面上方横一列に,5カ所,意匠6に見られる様な所謂薬研彫り様の形状をした直角凹陥部を形成したにすぎないというものである。
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意匠1
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第1035842号の意匠 (別紙第2参照)
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意匠2
特許庁発行の公開実用新案公報記載
昭和62年実用新案出願公開第106015号 (別紙第3参照)
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意匠3
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2000-046027 (別紙第4参照)
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意匠4
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2000-329123 (別紙第5参照)
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意匠5
特許庁総合情報館が1998年 6月 3日に受け入れた工業調査会発行の
月刊誌「M&E」 1998年 6月 1日6号
第262頁所載
ねじの意匠 (別紙第6参照)
(特許庁意匠課公知資料番号第HA10012876号)
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意匠6
特許庁総合情報館が1989年 5月16日に受け入れたフィンランド共和国特許庁発行の
フィンランド意匠公報 1989年 4月17日
第7頁所載
ジャッキのナットの意匠 (別紙第7参照)
(特許庁意匠課公知資料番号第HH03013937号)
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第3 請求人の主張の要点

これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。


意匠1の凹部は,断面略コ状に形成されたものであり,意匠2のものは内側に切り込んだ断面コ状の溝孔である。また意匠3,4の凹部は,何れも内側に窪んだ半球状に形成されている。
一方,本願意匠の凹部は,立上面の高さと,水平面の奥行きとが略1:1の比率で形成され,立上面及び水平面が三日月状に形成されたものであり,当該凹部の具体的形状は,意匠1?4の何れにも開示されていない。
この種物品「盗難防止ネジ」の分野において,上記凹陥部或いは孔(凹部)の具体的形状や配置等は,意匠全体の美感は勿論,盗難の危険性という機能面にも影響する重要な要部である。従って,本願意匠の凹部の具体的形状や配置等は,商慣習上普通に行えるものではなく,その創作性が認められるべきである。

意匠5に開示されたねじの頭部に,意匠6に開示された直角凹陥部を形成すれば,本願意匠を容易に創作できるものと判断しているが,この意匠5に開示されたねじは,六角棒スパナ(六角棒レンチとも呼ばれる。)などの一般工具によって,当該頭部の頂上側から着脱操作されるものであり,頭部の底面の直径と,高さとの比率が略3:1の肉薄に形成されたものである。
一方,意匠6に開示された「ジャッキのナット」は,スパナやモンキーレンチなどの一般工具によって,当該ナットの側方から着脱操作するものであるため,直角凹陥部の立上面の高さと,水平面の奥行きを略4:1の比率に形成して,全体の高さが肉厚に形成されたものである。
従って,意匠5のような肉薄の頭部に,肉厚に形成された意匠6の直角凹陥部を,そのままの形状で置換することはできないのである。

意匠5に開示されたねじの頭部に,意匠6に開示された直角凹陥部を,そのまま置換しようとすれば,頭部の全体形状が砲弾型のような分厚い形状となってしまい,本願意匠のような肉薄の頭部の全体形状を形成することはできず,両意匠の美的外観は明らかに相違するものとなる。
しかも,砲弾型の分厚い形状ともなれば,スパナやモンキーレンチ等の一般工具によって頭部全体が掴まれ易くなり,この種物品の特徴である盗難防止という機能も損なわれてしまうのである。
更に,意匠5に開示された頭部全体を,意匠6のナットに置換したものを考えてみても,上記同様,頭部全体の形状が砲弾型のような分厚い形状となってしまい,やはり本願意匠の頭部のような肉薄の頭部を形成することはできないのである。
従って,日本国内において広く知られた丸木ねじ(例えば,意匠5)の頭部外周面上方横一列に,意匠6に見られる様な所謂薬研彫り様の形状をした直角凹陥部を形成すれば,本願意匠を容易に創作できるとした判断は過誤と言えるものである。

そもそも,意匠6の「直角凹陥部」を公知意匠として捉えて判断しているが,この意匠6の頭部外周面の形状は,誰が見ても「六角ナット」として捉えるのが普通である。

確かに,意匠法第3条第2項は,非類似の物品間のモチーフにでも適用され得るため,ともすれば,如何なる部分の形状であっても適用できそうではあるが,その適用されるモチーフは,あくまでも当業者が普通の見方によって社会的に広く知られた形状であるものと請求人は理解している。
しかしながら,意匠6の外周面に形成された「六角ナット」は,それ全体が一体不可分の形状であって,そのうちの一面の部分的モチーフだけを取り出して公知意匠として捉えることは普通の見方ではない。
しかも,立上面の高さと,水平面の奥行きが略1:1の比率に形成された本願意匠の凹部の形状は,意匠1?6の何れにも開示されていない本願意匠の独自の形状であり,且つ,この種物品の重要な要部である。
本願意匠は,このような立上面の高さと,水平面の奥行きを略1:1の比率に形成した三日月状の凹部を肉薄の頭部の外周面横一列に,5ヶ所,各々対峙しない位置に形成することによって,意匠全体として肉薄感のある「盗難防止ネジ」という新たな印象を看者に与えるものである。

そのため,例えば,本願意匠を自動車等のナンバープレートに装着するための盗難防止ネジとして用いた場合には,ナンバープレートに取り付けた本願意匠の頭部には,その外周面に従来の六角ボルト(ねじ)のような肉厚の部分が表出されないので,まるでナンバープレートをリベットで止めたような出っ張り感のない新たな印象を看者に与えることができる。
しかも,本願意匠の頭部外周面上方に形成された凹部は,僅かに凹んだ三日月状に形成されているので,まるで切子細工のような印象を看者に与えるものである。
このような印象は,自動車部品を取り付けた本願意匠の「盗難防止ネジ」を外部から見るだけで,当該自動車部品の取り外しが困難であることが一目瞭然であるため,本願意匠の盗難防止効果も十分期待できるのである。

以上の理由により,本願意匠は,いわゆる当業者が意匠1?6に基づいて容易に意匠の創作をできるものでなく,意匠法第3条第2項の規定には該当しないものである。


第4 当審の判断

請求人の主張を踏まえ,本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性,つまり,本願意匠が容易に創作することができたか否かについて,検討し,判断する。
意匠が容易に創作することができたか否かについての判断は,当該意匠の構成態様について,(A)それらの基礎となる構成,具体的態様などが本願出願前に公知・周知であり,そして,(B)それらの構成要素を,ほとんどそのままか,あるいは,当該分野においてよく見られるところの多少の改変を加えた程度で,(C)当該物品分野において周知の創作手法であるところの,単なる組合せ,構成要素の全部又は一部の単なる置換えなどがされたにすぎないものであるか否かによって行うことが必要であるので,この観点を踏まえて検討する。

1.まず,創作の基礎となる具体的態様として,本願意匠のネジの全体形状,すなわち,「全体が,やや扁平な略半球体状のネジ頭部と,ネジ先が平先で,外周面全面にネジ山が形成された略円筒形状のネジ軸部によって構成されたネジ」については,意匠5のねじの他,本願出願前の先行公知意匠例は,多く存在し,日本国内において広く知られたものと認められる。

2.次に,基礎となる構成,すなわち,「規格に基づかず,該ネジを専用工具によってのみ,締め付け,緩めることができるように,横長な直角凹陥部を,ネジ頭部の凸面状の外周面の中腹中程の5箇所に,側面視同じ高さに,そして,平面視外周面上に等間隔で,すべて同形同大に,配置・形成したもの」については,意匠1,意匠3及び意匠4,並びに,当審が探知したところの盗難防止ネジに係る先行公知意匠において,盗難防止のために,ネジ頭部に特殊な凹陥部等の形状を形成して,通常の工具では取り外しができないようにし,特殊な工具(専用工具)によってのみ着脱ができるというネジの意匠が数多く存在し,また,専用工具を装着する凹陥部等を,ネジ頭部の外周面に,数としては1箇所から5箇所の奇数箇所,ほぼ等間隔にあるいは不規則な位置に配置・形成したもの,同形同大にあるいは異形に形成したもの等,種々の構成態様のものが,本願出願前,ある程度見られるところであって,この点が本願意匠のみに特徴的な着想ではないことは明らかである。

3.そして,基礎となる具体的態様である本願意匠の直角凹陥部,すなわち,「その垂直面と水平面が,それぞれ側面視・平面視において,略「弓形」状をなし,垂直面の最大高と水平面の最大奥行き(ネジの軸中心に対する放射方向の長さ)の比率は,略1:1であるものである直角凹陥部」については,意匠6は,確かに,ネジやナットにおいて,直角凹陥部が形成されている公知例であるが,そこに示された各直角凹陥部は,垂直面の最大高と水辺面の最大奥行きは,大きく異なっていて,所謂薬研彫り様の形状ではない。
また,意匠6における直角凹陥部の水平面の外側は,傾斜面ではなくて垂直な円筒面であって,本願意匠の態様である「ネジ頭部の凸面状の外周面の中腹中程に直角凹陥部を設けた態様」とも異なっている。意匠6に示されるナットは,所謂「鍔付ナット」の類であって,鍔の上面の水平面が六角ナットの垂直面と交差して,いうところの直角凹陥部を形成しているにすぎず,これを本願意匠のネジ頭部の直角凹陥部の例示とすることはできないし,また,意匠6の直角凹陥部の周辺の形状を含めて考えれば,意匠6の直角凹陥部の長い垂直面の長さをほぼ水平面の奥行きと同じにして,本願意匠の直角凹陥部とすることが,当該分野においてよく見られるところの多少の改変を加えた程度であるということもできない。
そして,他にネジやナットの意匠において,本願意匠に示されるとおりの凸面状の外周面の中腹に設けられた直角凹陥部が周知または公知の態様であることを示す例示もなく,ネジやナットの分野において凹陥部を形成するに,所謂「薬研彫り」を行うことが周知の技法であるということもできない。


そうすると,この基礎となる具体的態様が存在せず,存在する公知の態様に多少の改変を加えた程度であるということもできない以上,盗難防止ネジの分野において,ネジ頭部の外周面の凹陥部を種々の形状に置き換える手法等が,よく行われているとしても,本願意匠は,容易に創作することができたものであるということはできない。


第5.むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた形状の結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときに該当しないので,原査定の拒絶の理由によって本願の登録を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2011-03-03 
出願番号 意願2009-13301(D2009-13301) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (M3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 裕和原田 雅美 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 太田 茂雄
市村 節子
登録日 2011-05-27 
登録番号 意匠登録第1417642号(D1417642) 
代理人 特許業務法人あーく特許事務所 

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