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審決分類 審判    K6
管理番号 1238200 
審判番号 無効2010-880008
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-16 
確定日 2011-05-20 
意匠に係る物品 浄水器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1384352号「浄水器」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は,登録第1384352号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,甲第1号証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,本件意匠の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(意匠登録第1056046号公報)に記載された意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するので,同法第3条第1項柱書きにより意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

2.本件の意匠登録を無効とすべき具体的理由
(1)本件登録意匠と甲第1号証との対比
本件登録意匠に係る物品及び甲第1号証の意匠の意匠に係る物品は浄水器であり,両意匠は同一の物品である。
形態について,以下の共通点,差異点がある。
(基本的構成態様の共通点)
(A)本体の正面,背面及び左右両側面は縦長の長方形で,かつ,本体の平面及び底面は横長の長方形である,直方体形状を有している点。
(B)本体の正面の中央よりやや上方に吐水口を有し,吐水口よりやや上方から上端付近に亘って,突条で縁取りされた窓を有している点。
(具体的構成態様の共通点)
(C)吐水口は本体正面から突出する管部と,該管部に接続された植木鉢形状をした口部と,該口部の上面に逆台形状のレバーとを有する点。
(D)本体は,両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割線を有している点。
(E)本体は,正面,背面及び両側面において,上縁部及び下縁部に横分割線を有している点。
(具体的構成態様の差異点)
(あ)本体の平面及び底面において,本件登録意匠に比べて,甲第1号証の意匠の方がやや正方形に近い横長長方形である点。
(い)本件登録意匠では本体の正面の左右両側の縁部の面取り部は丸みを帯びた曲面であるのに対して,甲第1号証の意匠では本体の正面の面取り部は平面である点。
(う)本件登録意匠では本体の背面に面取り部は有さないのに対して,甲第1号証の意匠では本体の背面の面取り部は丸みを帯びた曲面である点。
(え)本件登録意匠では,窓の形状がトラック形状であり,窓に目盛り線及び目盛り数字を有さないのに対して,甲第1号証の意匠では,窓の形状が円形状であり,窓は目盛り線及び目盛り数字を有している点。
(お)本件登録意匠では,吐水口のレバーは鉛直方向に近く立設しているのに対して,甲第1号証の意匠では,吐水口のレバーは水平方向に対して約30度で立設している点。
(か)本件登録意匠は,本体の底面の四隅に足を,本体の右側面に電源コードを,いずれも有していないのに対して,甲第1号証の意匠は,本体の底面の四隅に足を,本体の右側面に電源コードを,それぞれ有している点。

(2)本件登録意匠と甲第1号証の意匠の類否判断
両意匠の類否を検討すると,共通する基本的構成態様の共通点(A),(B)は,具体的構成態様の共通点(C)ないし(E)と共に,両意匠の基調を形成し,需要者に共通の美感を与えるものである。
差異点(あ)の縦横比率の異なる本体の平面については,両意匠に係る物品は,例えば台所などに据え置かれる浄水器であるから,正面が需要者はよく見られる部分であるので,類否判断に及ぼす影響は微弱である。
差異点(い)の面取り部の形状の差異については,左右両側の縁部が面取りされている共通点を凌駕するものでない。
差異点(う)の面取り部の有無については,背面は需要者は通常見られる部分ではないので,類否判断に及ぼす影響は微弱である。
差異点(え)の窓の形状の差異については,窓が突条で縁取りされ,少なくとも丸みを帯びた部分を有している共通点や窓が吐水口よりやや上方から上端付近まで占めている共通点を凌駕するものでない。
差異点(お)のレバーの角度について,吐水口の共通する形態を凌駕するものでない。
差異点(か)について,底面や背面は需要者は通常見られる部分ではないので,類否判断に及ぼす影響は微弱である。
また,これらの差異点を総合しても,両意匠の共通点を凌駕するものではないので。本件登録意匠は,本件登録意匠は,甲第1号証に記載の意匠に類似する意匠である。
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,要旨以下のとおり主張した。
両意匠は,意匠に係る物品が一致し,その形態についても,共通点(A)?(E)と,相違点(あ),(う)及び(か)とは,類否判断に及ぼす影響が小さいのに対して,需要者の目が最も注視される正面視形態及びレバー部分にあたる部分(相違点(い),(え)及び(お))は,本件登録意匠と公知意匠は明らかに異なる。そして,これら需要者が注意しやすい部分の違いにより,本件登録意匠は,窓の形状や略垂直に立ったレバー及び正面の左右両側の縁部の丸みを帯びた曲面面取り部から,全体として,なめらかに上に伸びたスリムで温和さを感じさせるのに対して,公知意匠は,目盛りの付いた丸窓や後ろ側へ倒れたレバー及び正面の左右両側の縁部の平面による面取り部から,がっちりとした機械的な硬質感を与えることとなっている。したがって,両意匠は,需要者に明らかに異なる美感の印象を与え,その印象は,共通性を凌駕するものである。すなわち,両意匠は全体として類似しないと結論されるものである。

第3.口頭審理
1.本件審判において,当審は,平成22年10月26日に口頭審理を行った。(平成22年10月26日付け口頭審理調書参照。)

2.請求人は,口頭審理において,請求の趣旨及び理由について,審判請求書記載のとおり陳述し,補足的に,平成22年10月12日付け口頭審理陳述要領書とともに甲第2号証?甲第8号証を提出し,同要領書に記載のとおり陳述した。

3.被請求人は,口頭審理において,答弁の趣旨および理由について,平成22年8月25日付け答弁書のとおり陳述し,補足的に,平成22年10月12日付け口頭審理陳述要領書とともに乙第1号証?乙第3号証を提出し,同要領書に記載のとおり陳述した。

4.当審は,口頭審理において,本件の審理を終結する旨を告知した。

第4.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成21年5月21日に意匠登録出願をし,平成22年3月5日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1384352号意匠であり,願書及び願書に添付の図面の記載によれば,意匠に係る物品を「浄水器」とし,その形態を,別紙第1に示すとおりとするものである。
すなわち,その形態は,(1)全体が縦長の略直方体形状を呈し,(2)本体正面の左右両側縁部は,丸みを帯びた弧状面とされ,(3)本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割線が形成され,(4)本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成され,(5)本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部(請求人がいうところの植木鉢形状部)と,その上面には縦長の逆台形状のレバーが形成され,そのレバーは水平方向に対して略60度程度の角度で手前側(右側面視左方)に傾斜して形成され,(6)吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,凸状で縁取りされたトラック形状の窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされたものである。

2.請求人が無効の理由として引用した意匠
請求人が無効の理由として引用した甲第1号証に表された意匠(以下,「引用意匠」と言う。)は,特許庁が,本件登録意匠の出願前,平成11年12月9日に発行した意匠公報に所載された意匠登録第1056046号(意匠に係る物品「浄水器」)の意匠である。 すなわち,その形態は,(1)全体が縦長の略直方体形状を呈し,(2)本体正面の左右両側縁部に,正面の略2分1の平面部を残し,その両側に略30度の角度で後方に傾斜するテーパー面が形成され,(3)本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割線が形成され,(4)本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成され,(5)本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には縦長の逆台形状のレバーが形成され,そのレバーは水平方向に対して略30度程度の角度で後方側(右側面視右方)に傾斜して形成され,(6)吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,凸状で縁取りされた円形状の窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされたものである。

3.本件登録意匠と引用意匠との対比
本件登録意匠も引用意匠も,ともに浄水器であるから,意匠に係る物品は一致し,また,形態については,主として以下の一致点と相違点がある。
本件登録意匠と引用意匠の主な一致点として,以下の点があげられる。すなわち,(い)全体が縦長の略直方体形状を呈している点,(ろ)本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割線が形成されている点,(は)本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成されている点,(に)本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には縦長の逆台形状のレバーが形成されている点,(ほ)吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,凸状で縁取りされた窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされた点がある。
しかしながら,主な相違点として,以下の点があげられる。すなわち,(イ)本体正面の両測縁部について,本件登録意匠は,本体正面の左右両測縁部は,丸みを帯びた弧状面であり,前面部は平坦面がほとんどを占めるのに対して,引用意匠は,本体正面の略2分1の平面部を残し,その両側に略30度の角度で後方に傾斜するテーパー面が形成されている点,(ロ)吐水口上面に形成されたレバーの角度について,本件登録意匠は,レバーが水平方向に対して略60度程度の角度で手前側に傾斜して形成されているので,立設されているともいえるのに対して,引用意匠は,レバーが水平方向に対して略30度程度の角度で後方側に傾斜して形成されている点,(ハ)本体正面の窓部について,本件登録意匠は,略トラック形状であるのに対して,引用意匠は,円形状である点,(ニ)窓部の目盛りについて,本件登録意匠の窓部には目盛りが付されていないのに対して,引用意匠の窓部には,中央部に縦の直線状に目盛りが付されている点,(ホ)本体の上下の縁部に形成された横分割線の端部からの幅について,本件登録意匠は,上下の分割線の端部からの幅が略同一であるのに,対して,引用意匠は,上部の幅が下部の幅の略2倍である点,(ヘ)下面部について,本件登録意匠は下面が平坦面であるのに対して,引用意匠は,四隅に小さな脚部が形成されている点,(ト)全体の比率について,本件登録意匠の縦:横:奥行きは約2.2:1.3:1であるのに対して,引用意匠は,約1.6:1.1:1である点,が相違する

4.本件登録意匠と引用意匠との類否
本件登録意匠と引用意匠との一致点のうち,(い),(ろ)及び(は)の点は,板材と板材とを接合して略直方体形状の浄水器を製作する際に,全体を容器として形成するために必要な合わせ面が線状に表されているのであって,略直方体浄水器としては,それほど顕著な特徴とはなり得ない。また,(に)の点は,浄水器であるから当然に吐水口が形成されるものであるし,吐水口として格別特徴のある形態のものでもなく,(ほ)の点は,浄水器の分野においては,内容物の残量の確認のために窓部を形成することは,普通に行われているところであり,この窓部を凸状縁部によって囲うこともまた広く行われていることであるから,格別顕著な特徴とはいえない。したがって,一致点は,いずれも両意匠に特有の格別な顕著な特徴ということはできない。
一方,(イ)の点は,浄水器の使用者が必ず目にする浄水器の正面部における両側縁部が弧状面か傾斜面かの相違であり,また,その相違が本体正面部の大きな部分を占めている相違であるから,類否判断に与える影響は大きいというべきである。なお,請求人は両意匠ともに,本体両側縁部に面取り部が形成されているという点で,一致する旨を主張するが,「面取り」部とは「建築部材の稜角を削るなどして,面を作ること。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」であるから,稜角部すなわち物の角部の造形処理のことであり,本件登録意匠は本体両側縁部に単なる「面取り」部が形成されているということができるのにのに対して,引用意匠の場合,面取り部とは言い難い幅の広い傾斜面であって,その態様の創作に当たっては,単なる「面取り」とは異なる観点から本体正面部両側部の造形を行ったということができる。(ロ)の点は,全体からみると小さな部分ではあるが,浄水器の使用時にはどの位置にレバーがあるを,確認して使用するものであるから,レバーが手前側に立設されているか,後方側に寝ているかは一定の相違があるということができ,類否判断への影響も一定程度あるということができる。(ハ)の点は,浄水器を使用する際には,内容物の残量を確認してから浄水器を使用するものであるから,浄水器の使用者が注目する部分における相違であって,この点における相違は,類否判断に及ぼす影響が大きいというべきである。(ニ),(ホ)及び(ヘ)の点については,浄水器の創作という観点からは,付随的な部分における相違であって,それほど大きな相違とはいえないものであり,類否判断に与える影響もまたそれほど大きいものとはいえない。(ト)の点は,本件登録意匠の方が,引用意匠に比べてややスリムなプロポーションであり,この点からもたらされる美感の相違もある程度,類否判断に影響があるということができる。
したがって,本件登録意匠と引用意匠とが一致するとした点は,格別特徴的な点ではないことから,重要視することはできないものであり,一方,相違するとした(イ),(ロ),(ハ),及び(ト)の相違点は,本件登録意匠の各部の特徴を具体的に表しているものであり,とりわけ(イ)及び(ハ)の相違点は顕著であって,両意匠は類似しないというほかない。
以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が一致するが,その形態については,両意匠の一致点は,類否判断に大きな影響を及ぼすものではないのに対し,相違点は,全体的に観察した場合,類否判断に及ぼす影響が大きいので,両意匠は類似するということはできない。

第5.結び
以上のとおり,請求人の提出した証拠および主張によっては,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するものとして,同条柱書に違反して登録されたものということはできないので,本件登録意匠の登録は,同法第48条第1項に該当し無効とすべきであるとすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2010-11-16 
出願番号 意願2009-11314(D2009-11314) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (K6)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 並木 文子 
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 樋田 敏恵
橘 崇生
登録日 2010-03-05 
登録番号 意匠登録第1384352号(D1384352) 
代理人 的場 照久 
代理人 廣幸 正樹 
代理人 宮崎 伊章 

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