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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) M3
管理番号 1241311 
判定請求番号 判定2010-600041
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2011-09-30 
種別 判定 
判定請求日 2010-07-13 
確定日 2011-03-29 
意匠に係る物品 家具用取手 
事件の表示 上記当事者間の登録第1329962号意匠「家具用取手」の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明に示す「家具用取手」の意匠は,登録第1329962号意匠に類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1.請求人の申立及び理由

本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,請求の趣旨を,イ号意匠は,登録第1329962号意匠に類似する意匠の範囲に属する,との判定を求めると申し立て,判定請求書,平成22年10月 1日付け口頭審理陳述要領書,及び,平成22年11月11日付け上申書において,その理由として,要旨以下のとおり主張し,別紙として,意匠登録第1329962号の意匠公報及び図面,並びに,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第10-6号証(枝番を含む。)(注:「甲第1号証」は,「甲1」と記し,その他も同様とする。以下,同じ。)を提出した。


1. 請求人は,登録第1329962号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。


2.イ号意匠について
本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)は,乙1の家具用取手,乙1の家具用取手が取り付けられた家具用扉,並びに,当該家具用扉が使用されたキッチン台及び洗面台の製造・販売を行っている(以下,乙1の意匠を「イ号意匠」という。)(当審注:判定請求書においては,甲1の意匠をイ号意匠としていたが,平成22年10月 1日付け口頭審理陳述要領書により,被請求人提出の乙1の意匠をイ号意匠とすることに了承。)。被請求人の製品力タロダによれば,イ号意匠は,製品番号 YTT02,取っ手コード(8)のラインタイプとし(甲3),同社キッチン,または洗面所ブランドである「STYLE F(スタイルF)」(甲3),「LEGACESS(レガセス)」(甲4),及び「TOTO洗面所カタログ,サクア」に掲載されているオクターブシリーズ(甲5)に使用されている。
これら製品カタログは,以下に記載するインターネット上の被請求人のホームページに掲載されている。
http://www.com-et.com/webcatalog/goods.htm


3.先行周辺意匠の摘示
本件登録意匠及びイ号意匠に関わる先行周辺意匠には,甲7-1ないし甲7-9に示すとおりのものがある。


4.本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠と本件登録意匠を比較すると,
i)取手部上部形状に比して明らかに小さな下部形状(具体的には,上面部に対し小口接着面の比率が明らかに小さい。)を形成し,
ii)取手部下部形状である,垂直壁下方を略直角三角形とし
iii)使用時において,扉板の上面小口奥行長さに対し取手部小口接着面の長さを略半分以下とし,扉板の上面小口略半分以上を,需要者に対し視認可能とした意匠は,本件登録意匠出願前には全く存在せず,本件登録意匠の特徴点であり,要部である。


5.本件登録意匠の要旨とイ号意匠の要旨との対比
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,両意匠は意匠に係る物品が一致する。
構成態様において,以下の共通点及び相違点がある。
(1)共通点
基本的構成態様について,
(A)家具の扉板の上面小口全体に取り付けられる,ライン取手であり,
(B)全体を,「取手部」と,扉板背面との接合部となる「背面取付板」により構成し,
具体的構成態様について,
(C)「取手部」形状は,水平面を成す「上面部」,上面部から正面側に垂直方向に垂下した「手掛け部」,上面部から背面側へ垂直に設けられた「垂直壁」により形成され,
(D)側面視において,外側形状を略縦長鍵状とし,
(E)縦横の長さ比である,垂直壁:上面部を略2:1とし,
(F)手掛け部:垂直壁の縦の長さ比を略1:4とし,
(G)「背面取付板」を,取手首下端背面側に,正面視において取手部の左右を除いた中央に設け,
(H)使用時の態様において,扉板の上面小口奥行長さに対し,取手部小口接着面の長さを略半分以下としている,点で一致する。

(2)相違点
具体的構成態様について,
(a) 側面視において,内側形状を,本件登録意匠は,略縦長ワ字状としているのに対し,イ号意匠は,上方左右両端をアール状とする略縦長ワ字状とし,
(b) 上面部:小口接着面の比率を,本件登録意匠は略1:1/2としているのに対し,イ号意匠は略1:2/5とし,
(c)正面視において,「手掛け部」形状を本件登録意匠は略横長長方形状としているのに対し,イ号意匠は下方左右両端角部を僅かにアール状とした略横長長方形状とし,
(d)側面視において,「垂直壁」形状を,本件登録意匠は略1/2上方を薄板状,略1/2下方を正面側を緩やかな弧状とする略直角三角形状としているのに対し,イ号意匠は略2/3上方を薄板状,略1/3下方を正面側を緩やかな弧状とする略直角三角形状とし,
(e)「背面取付板」形状を,本件登録意匠は逆台形状としているのに対しイ号意匠は長方形状としている,
(f)イ号意匠は,小口接着面のほぼ中央の長手方向に溝を設け,その溝内に,断面長方形のパッキンを取り付けているが,本件登録意匠の小口接着面には溝はなく,パッキンも取り付けられていない,点で相違する。

(当審注:(f)項は,平成22年10月 1日付け口頭審理陳述要領書によって,イ号意匠の要旨に関し,その具体的構成態様について,「n 小口接着面のほぼ中央の長手方向に溝を設け,その溝内に,断面長方形のパッキンを取り付けている。」を追加したことに伴い,追加されたものである。)


6.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
(1)以上の本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び相違点を比較検討すると,両意匠は意匠に係る物品が一致し,基本的構成態様の全て,かつ具体的構成態様についての共通点(C)?(H)が一致し,相違点については,上記(a)?(e)等があるのみである。

(2)そこで,相違点について検討すると,相違点(a)?(e)はいずれも類否判断を左右する観点とはなり得ない,微弱な相違点である。

(3)共通点(H)は,本件登録意匠は,取手の登録意匠であり,使用時の態様である,扉板に取り付けられた状態は,「使用状態参考図」に表されているに過ぎないが,「使用状態参考図」には,登録意匠がどの様に使用されるのかを明確にする役割があり,更に使用時の態様が従来にはない新規な態様である場合には,それを考慮して登録意匠の新規性を判断する必要があることから,類否判断を行う上で無視することのできない要素であることは言うまでもない。

(4)本件登録意匠の要部i)?iii)について,イ号意匠を検討すると,
要部i)及びii)について,本件登録意匠とイ号意匠は一致することから,本件登録意匠の要部を構成する形状において両意匠は一致することが認められ,需要者に対し共通の印象を強く与えるものと思料される。
加えて,両意匠は要部iii)においても一致する。当該観点は,上記(3)に記載したように,類否判断を行う上で無視することのできない要素であり,かつ本件登録意匠の要部i)の創作意図を顕著に表すものであることから,本件登録意匠の新規性,創作性を判断する上で重要な観点である。

してみれば,両意匠は,要部i)及びii)に加え,要部iii)においても一致し,需要者に対し,他のこの種物品の意匠とは異なる,共通の印象を強く与えるものと思料される。

(5)以上を意匠全体として総合的に判断すると,前記のとおり本件登録意匠とイ号意匠は,共通点(A)?(H)が認められ,かつ本件登録意匠の全ての要部においても共通することから,両意匠は看者に対し,共通の印象を強く与えるものと思料される。
一方相違点については,相違点(a)?(e)が認められるものの,前記のとおり,いずれも類否判断を左右する観点とは成り得ない,意匠全体から見れば微差にすぎない相違点である。


7.平成22年11月11日付け上申書の内容
各角部全て内面に弧状の丸みを設け,各角部肉厚を厚くしている意匠は,被請求人が従来から採用しているライン取手,及びイ号意匠以外にも散見され(甲10-1ないし甲10-6),被請求人の意匠,固有の特徴とは認められず,ありふれた形状であると言わざるを得ない。

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(請求人が提出した別紙及び証拠)
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・判定請求書に添付したもの
(1)別紙 本件登録意匠(意匠公報・図面)
・意匠登録第1329962号,意匠公報及び図面
(2)甲1 イ号意匠(図面)
・被請求人の製品である「家具用取手」の図面
(3)甲2 意匠比較図
・本件登録意匠とイ号意匠の図面を対比させ,各部の名称を示した図面
(4)甲3 被請求人の製品カタログ「STYLE F(スタイルF)」カラーコピー
・42頁にイ号意匠が掲載されている。
(5)甲4 被請求人の製品カタログ「LEGACESS(レガセス)」カラーコピー
・14頁にイ号意匠が掲載されている。
(6)甲5 被請求人の製品カタログ「TOTO洗面所カタログ,サクア」に掲載されているオクターブシリーズ内にイ号意匠が掲載されている。カラーコピー
(7)甲6 請求人の製品カタログ「サンヴァリエ<ピット>」カラーコピー
・本件登録意匠の実施品であるライン取手が掲載されている。
(8)甲7-1 意匠登録第366797号 意匠公報
・昭和48年(1973年)7月21日発行
(9)甲7-2 意匠登録第420426号 意匠公報)
・昭和51年(1976年)4月12日発行
(10)甲7-3 意匠登録第420426の類似1号 意匠公報
・昭和53年(1978年)2月28日発行
(11)甲7-4 意匠登録第1134631号 意匠公報
・「家具用扉」に取り付けられている家具用取手の意匠
平成14年(2002年)2月25日発行
(12)甲7-5 特開2006-26251号 特許公開公報
・各図に表された家具用取手のうち,ライン取手の意匠
平成18年(2006年)年2月2日発行
(13)甲7-6 意匠登録第1283332号 意匠公報
・「扉材」に取り付けられている家具用取手の意匠
平成18年(2006年)年10月10日発行
(14)甲7-7 意匠登録第427133号 意匠公報
・昭和51年(1976年)年7月12日発行
(15)甲7-8 意匠登録第1298603号 意匠公報
・「家具用扉」に取り付けられている家具用取手の意匠
平成19年(2007年)年4月16日発行
(16)甲7-9 株式会社シモダイラ発行の製品カタログ「STAG INTERIOR PARTS COLLECTTON」カラーコピー
・平成18年(2006年)11月初版
掲載の家具用取手(商品番号HK-99)の意匠
(17)甲8 甲7-6の意匠公報に記載されている「a-a’,b-b’部分拡大図」に着色を施した図面
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・平成22年10月 1日付け口頭審理陳述要領書に添付したもの
(18)甲9 イ号意匠の図面比較図
・(趣旨)請求人の提出したイ号意匠側面図(甲1)と被請求人の提出したイ号意匠側面図(乙1)を比較するため,両図面を重ね合わせた図面を提出する。
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・平成22年11月11日付け上申書に添付したもの
(19)甲10-1 意匠登録第582737号 意匠公報
(20)甲10-2 意匠登録第700621号 意匠公報
(21)甲10-3 特開平8-93280号 公開特許公報
(22)甲10-4 株式会社ノーリツのインターネット上のホームページに掲載されている,オンラインカタログ「システムキッチン エスタジオ カタログ 2010.II」に掲載されている,システムキッチンの写真
(23)甲10-5 Schuco International KG 社発行の製品カタログ
「The Aluminium Made-To-Measure Programme for Furniture」カラーコピー
(24)甲10-6 ZOBAL社のインターネット上のホームページに掲載されている,取手(Handle)の写真及び図面(URL:http://zobal.com.pl/de/produkty/uchwyty/)
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第2.被請求人の答弁

被請求人は,平成22年9月2日付け判定請求答弁書及び平成22年10月15日付け口頭審理陳述要領書を提出し,趣旨として,イ号意匠は,登録第1329962号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求めると答弁し,その理由として,要旨以下のように主張し,証拠方法として,乙1及び乙2を提出した。


1.本件登録意匠について
本件登録意匠の形態の認定についてみると,判定請求書の本件登録意匠の具体的構成態様における【J】及び【M】に記載の点は,下記のとおり訂正されるべきである。
すなわち,
【J】側面視において,「垂直壁」形状については,略1/3上方を薄板状,略2/3下方を正面側を緩やかな弧状とする略直角三角形状とし,
【M】扉に取り付けたときの使用時の態様(以下「使用時の態様」という)において,扉板の上面小口奥行き長さに対し,取手部小口接着面の長さを略1/2としている。
【J】及び【M】の項目以外の点については,請求人の本件登録意匠の認定のとおりである。


2.イ号意匠について
請求人は,イ号意匠の図面につき甲1を提出しているが,被請求人の製造販売する意匠は甲1の図面に記載されたものと異なるところがあるので,被請求人は,イ号意匠の図面につき乙1を提出する。


3.先行周辺意匠について
本件登録意匠及びイ号意匠に関する先行周辺意匠,およびこの種意匠に係る物品の創作水準を示す資料として,次の文献を示す。
公開特許公報(平成15年11月14日特許庁発行)
特開2003-321954 (乙2)
上記文献は,本件登録意匠の出願(平成19年6月20日)以前に公知となったものである。
上記文献は,引戸,ドア,引出等に装着される引手として,「被装着材の厚さ方向の一側面を支持する主支持部(甲2にいう「背面取付板」)と,該主支持部の幅方向一端側に連続形成された操作部(同「取手部」)とからなる引手本体と,該引手本体の前記主支持部の前記操作部との境目箇所から小突起状に形成され,前記被装着材に係止する副支持体(同「小口接着面」を有する部分)」とからなる引手が,本件登録意匠の出願前より既に知られていたことを示すものである(【発明の詳細な説明】の段落(以下単に「段落」という。)【0005】参照)。
この第5実施形態は,扉板の上面小口奥行長さに対し取手部小口接着面の長さが短く,装着後,扉板の上面小口部分が需要者に対し視認可能となっているものであるから,判定請求書において請求人のいう「扉板の上面小口奥行長さに対し,取手部小口接着面の長さを略半分以下とし,扉板の上面小口略半分以上を,需要者に対し視認可能とした」ものに該当することは明らかである。


4.本件登録意匠の要部について
(1)請求人の主張する要部について
請求人は,判定請求書において,「本件登録意匠は,上面部と小口接着面の比率が略1:1/2であり,取手部上部形状に比して明らかに小さな下部形状を形成している。小さな下部形状は,使用状態参考図に示されているように,扉板の上面小口の正面側一部を需要者が視認することを意図して創作されたものである。本件登録意匠が取手部上部形状に比して明らかに小さな下部形状を形成している点,すなわち,いわゆる「頭でっかち」な形状である点は,多くの先行意匠にはない,本件登録意匠の特徴と認められる。」と記載しているが,この点の請求人の主張については,先に述べた乙2の特開2003-321954の第5実施形態に関する記載内容から見れば,「取手部上部形状に比して明らかに小さな下部形状を形成している」ものは本件登録意匠の出願前に公知であるから,「多くの先行意匠にはない,本件登録意匠の特徴と認められる。」との請求人の主張は誤りである。

また,請求人は,判定請求書において,「垂直壁を薄板のみで形成した意匠として,甲7-9が存在する。当該意匠は,扉板の上面小口を需要者に対し視認可能とした点において本件登録意匠と共通するが,具体的な形状,及び使用時の態様が,本件登録意匠とは全く相違する。(中略)甲7-9は,扉板上面小口全体を需要者に対し視認可能としており,小口の奥行きに対し一部を取手部小口接着面で覆い,その他の部分を視認可能とする本件登録意匠とは全く相違する。」と記載している。しかしながら,この点の主張は納得しがたい。
甲7-9に示されたものには,短くても明確な小口接着面があり,小口接着面を有する突起部の上面側は,垂直壁との角部にアールが設けられており,その小口接着面を有する突起部の存在は,使用特に需要者に明確に認識されるものである。また,甲7-9に記載された図面の各部寸法を見ると,少なくとも扉板上面の1/6?1/5は小口接前面で覆われることとなる。したがって,請求人の「甲7-9は,扉板上面小口全体を需要者に対し視認可能としており」との主張は誤りである。

さらに,請求人は,判定請求書において,「使用時において,扉板の上面小口奥行長さに対し取手部小口接着面の長さを略半分以下とした意匠は,先行意匠には無く,これにより本件登録意匠は扉板の上面小口略半分以上を,需要者に対し視認可能としており,上面小口全面ではなく,上面小口の一部,略半分以上を需要者に対し視認可能とした意匠として,新規な意匠であることが認められる。」と記載するが,上記にいう「上面小口の一部,略半分以上を需要者に対し視認可能とした意匠」には,論理的に甲7-9及び乙2の図7に記載された意匠も含まれることは明らかなので,かかる請求人の主張は成り立たない。
したがってまた,判定請求書に記載された事項が「本件登録意匠の特徴点であり,要部」との主張も成り立たない。

(2)当業者の知見
本件登録意匠の出願時において,家具用扉板上面に装着するライン取手の形状考案に関しては,乙2に示されるように,「家具及び建具において,引戸,ドア,引出等に簡単且つ正確に装着することができる引手」(段落【0001】参照)を創作する際に,「被装着材の厚さ方向の一側面を支持する主支持部(甲2にいう「背面取付板」)と,該主支持部の幅方向一端側に連続形成された操作部(同「取手部」)とからなる引手本体と,該引手本体の前記主支持部の前記操作部との境目箇所から小突起状に形成され,前記被装着材に係止する副支持体(同「小口接着面」を有する部分)」(段落【0005】参照)とからなる引手とすることは既に知られていたところである。
さらにまた同文献によれば,被装着材に係止する副支持体(同「小口接着面」を有する部分)の異なる実施例として,図1(A),(B),図2,図5に示すような「扉板の上面小口の奥行全体を覆って接着される態様のもの」と,図7(C)に示すような「上面小口全面ではなく,上面小口の一部,略半分以上を需要者に対し視認可能とした態様のもの」の,双方の例が記載されている。
そして,乙2の公開日は本件登録意匠の出願日の3年以上前であることも考え合わせると,本件登録意匠の出願時において,家具の扉板の上面小口長手方向全体に取り付けられるライン取手の形状を創作するのに,ライン取手の意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)の知見からすれば,ライン取手の扉板の上面に対する取付態様として「扉板の上面小口の奥行全体を覆って接着される態様」及び「上面小口全面ではなく,上面小口の一部,略半分以上を需要者に対し視認可能とした態様」のいずれもが任意に選択しうるものであった,と考えるのが自然である。

(3)意匠に係る物品の使用の目的,使用の状態等から見た要部
本件意匠に係る物品は家具用取手であり,扉板などの引手であるので,物品の使用目的からすれば,需要者はまず第一に「取手部」の形状に着目するものと考えられる。
そして,家具用取手の「取手部」の形状には古くから種々のものが見られるし,また家具用取手の選択等に関しては各人の趣味感が強く働くように考えられるから,需要者は,「取手部」の具体的な形状の差異にも相当の注意を払って観察するものと考えられる。この観点から見れば,「取手部」の具体的形状は,需要者の注意を強く惹く意匠の要部であることは明らかである。
ちなみに,実際上も,「取手部」の形状については各社がそれぞれの特徴を持っており,「取手部」の形状を見ればいずれのメーカーの製品かほぼ識別可能な現状にある。

(4)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,両意匠は意匠に係る物品が一致する。

本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,甲7-9,乙2に見られるように,本件登録意匠の出願時において,家具の扉板の上面小口長手方向全体に取り付けられるライン取手の,扉板の上面に対する取付態様として,[扉板の上面小口の奥行全体を覆って接着される態様]のものと,「上面小口全面ではなく,上面小口の一部,略半分以上を需要者に対し視認可能とした態様」のもののいずれも普通に見られるところであるから,「上面小口の一部,略半分以上を需要者に対し視認可能とした態様」である点のみを意匠の要部とすることはできない。

一方,出願前公知意匠との関係における本件登録意匠の新規性の程度を考慮し,意匠の要部における相違点を総合すれば,本件登録意匠は取手部上方よりも下方の小口接着面側にボリューム感があって,極めて安定した印象を与えるのに対し,イ号意匠は取手部上方にボリューム感があって極めて頭でっかちな不安定な印象を与えるものである,というように,両意匠は,異なる視覚的印象を需要者に与えるものであるから,相互に類似しないものである。

5.平成22年10月15日付け口頭審理陳述要領書の内容
イ号意匠の創作意図等について,イ号意匠は,手掛け部を含む取手部上方の形状について被請求人が従来から採用している形状とする一方,副支持体(「小口接着面」を有する部分)については,使用時に指が入る空間を確保するために,甲7-9の意匠と同様に,できるだけ小さくしようとしたものである。
しかし,イ号意匠においては,使用中に取手部に触れる手の水気が露出した扉板上面に落ち,小口接着面と扉板の間を伝って扉内に侵入するおそれがあるという問題に対処するため,扉内への水気の侵入を防ぐパッキンを設けることとし,そのパッキンを取り付ける溝を形成する必要から,イ号意匠の副支持体(「小口接着面」を有する部分)は,甲7-9の意匠のものよりも若干長くなっている。
しかしながら,意匠全体としてみれば当該部分の長さは短いので,イ号意匠は取手部上方にボリューム感があって極めて頭でっかちな不安定な印象を与えるものとなっている。
次に,垂直壁の下方部を,正面側を緩やかな弧状とする略直角三角形状とした点(言い換えれば,前記副支持体と垂直壁の間に形成される角部の上面を,正面側を緩やかな弧状とした点)について説明すると,イ号意匠は,手掛け部を含む取手部上方の形状は被請求人が従来から採用している形状としたものであるが,被請求人が従来から採用しているライン取手では,手掛け部と上面部,上面部と垂直壁及び垂直壁と副支持体(「小口接着面」を有する部分)間の各角部全ての内面に弧状の丸みを設け,当該角部の肉厚を厚くしていた。これと同様に,イ号意匠においても,前記副支持体と垂直壁の間に形成される角部の内面にも弧状の丸みを設けて当該角部の肉厚を厚くし,そのことによって全体の形状に統一感を与え,従来の被請求人のライン取手の意匠との共通感を持たせている。
これらの創作に基づく特徴点,すなわち,取手部上方にボリューム感があって極めて頭でっかちな不安定な印象を与える点及び各角部全ての内面に弧状の丸みを設け,各角部の肉厚を厚くしている点は,本件登録意匠には存在しないイ号意匠固有の特徴であり,かつ,そのイ号意匠固有の特徴は,需要者の目にも一見して明らかなものである。

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(被請求人が提出した証拠)
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・判定請求答弁書に添付したもの
(1)乙1 イ号意匠図面
・(趣旨)被請求人の製造販売する意匠は,甲1の図面に記載されたものと異なるところがあるので,被請求人はイ号意匠の図面につき乙1を提出する。
(2)乙2 特開2003-321954号 特許公開公報
・(趣旨)本件登録意匠の要部を検討するため,本件登録意匠に関する先行周辺意匠等を示す文献として乙2を提出する。
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第3.口頭審理

当審は,本件判定請求について,2010年(平成22年)10月29日に口頭審理を行った。


第4.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠公報,意匠登録原簿,出願書類によれば,2007年(平成19年) 6月20日の出願に係り,2008年(平成20年) 4月11日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,意匠に係る物品を「家具用取手」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)


2.イ号意匠
イ号意匠は,被請求人が提出した判定請求答弁書に添付された乙1のイ号意匠の図面及びその説明に示されたとおりのものであって,意匠に係る物品を「家具用取手」とし,その形態を同図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第2参照)


3.本件登録意匠とイ号意匠の対比検討
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,両意匠は,意匠に係る物品が,家具用扉の上端小口面などに横長に取り付ける取手(いわゆる「ライン取手」)である点で,一致し,その形態については,主として以下に示すとおりの共通点及び相違点がある。(別紙第3参照)

(1)共通点
基本的構成態様として,
(A)全体が,側面視同形に連続する断面を有する,いわゆる倒「片長チャンネル材」を基本とした,やや長めの略棒状体であって,
(A-1)手をかける「取手本体部」と,家具用扉の背面側で,取手を固定する「取付部」からなるものであり,
(A-2)扉板への取付は,扉板の上端小口面の後方と扉板の背面側の「L」字状の部分に,取手本体部の下端部底面と取付部の正面側が接合されるものである点,
(B)取手本体部は,全体が側面視略「ワ」字状で,上方の内面に手を掛けて扉を操作する,溝状の「取手凹陥部」が形成されており,各部は略薄板状体で構成されている点,
(C)正面視,取付部の左右両端部は,取手本体部の該部よりやや内側に切り欠かれて構成されているものである点。

具体的構成態様として,
(D)取手本体部の構成について,
(D-1)やや短くて垂直な「手掛け片部」と,中間的な長さの水平な「上板部」,及び,長くて垂直な「後端壁板状部」からなり,
(D-2)それらの長さの比は,およそ0.5:1:2である点,
(E)取手本体部の外面(底面を除く。)について,手掛け片部の外面(前端面),上板部の外面(頂面)及び後端壁板状部の外面(背面)が,すべて平面であり,それらの境界は,丸面状に形成されているものである点,
(F)取手本体部の内面及び底面について,後端壁板状部の内面は,中間部から下端部にかけて,平面が漸次膨出されて,側面視急峻な凹弧状面を形成し,後端壁板状部の底面の略水平面と交差しており,
(F-1)後端壁板状部の下端部は,側面視,先端角度の大きい,凹弧状の略湾曲くさび形状をなしているものであり,
(F-2)後端壁板状部の下端部前端のラインは,手掛け片部の前端面の位置よりも側面視相当程度後退しているものである点,
(G)取付部は,縦幅の比率を上板部の横幅に対して1強とした略薄板状体であって,
(G-1)後端壁板状部とは背中合わせにして,後端壁板状部の最下端部と取付部の最上端部を接合して,垂下片状としたものであって,
(G-2)その上端部の背面側を略丸面状とし,下端部を略水平面状の小口面としたものである点。

(2)相違点
具体的構成態様として,
(ア)取手凹陥部について,本件登録意匠は,それを構成する手掛け片部,上板部及び後端壁板状部の上方部分(手掛け片部の高さとほぼ等しい部分)の内面が,それぞれがほぼ平面で,手掛け片部と上板部との境界,及び,上板部と後端壁板状部との境界は,それぞれ側面視ほぼ直角状であって,取手凹陥部が全体として角溝状であるのに対して,イ号意匠は,手掛け片部と上板部との境界,及び,上板部と後端壁板状部の上方部分との境界が,それぞれ側面視略「4分の1凹円弧状」であって,取手凹陥部が全体として側面視やや扁平な略丸溝状である点,
(イ)後端壁板状部の内面(取手凹陥部に係る部分を除く。)の具体的態様について,
(イ-1)本件登録意匠は,平面から側面視凹弧状面に切り替わる部位が,後端壁板状部のほぼ中央部分からであるのに対して,イ号意匠は,それが後端壁板状部の下端から約3分の1のところであり,また,
(イ-2)本件登録意匠は,後端壁板状部の下端部前端のラインの,前端面の位置からの後退の程度が,上板部の幅の約2分の1であるのに対して,イ号意匠は,これが約3分の2である点,
(ウ)後端壁板状部の底面部について,本件登録意匠は,平坦面であるのに対して,イ号意匠は,極浅い細幅溝部が連続して形成され,該部に薄い細幅パッキング材が取り付けてある点。


4.参酌すべき先行公知意匠
類否判断を行うにあたって,まず,前記の両意匠の構成態様に関連する先行公知意匠について,参酌すべきものを検討する。
とりわけ,請求人と被請求人との間に争いのある点,すなわち,具体的構成態様に係る,共通点(F-1)の後端壁板状部の下端部は,側面視,先端角度の大きい,凹弧状の略湾曲くさび形状をなしているものである点,及び,同(F-2)の後端壁板状部の下端部前端のラインは,手掛け片部の前端面の位置よりも側面視相当程度後退しているものである点について,特に着目することとする。

(1)甲7-4の意匠登録第1134631号の「家具用扉」の意匠(意匠公報発行日 2002年(平成14年) 2月25日)には,扉板の上端小口面に取り付けられたライン取手の意匠が表されており,具体的構成態様に係る共通点(D-1)及び同(E)について,また,基本的構成態様に係る共通点(B)について,参酌すべきものである。
また,具体的構成態様に係る相違点(ア)に関して,参酌すべきものである。

(2)甲7-5の特開2006-26251の公開特許公報(発明の名称 掛止具を有するキッチン台等の収納家具)(公開日 2006年(平成18年) 2月 2日)の【図9】?【図13】には,ライン取手の意匠が表されており,基本的構成態様に係る共通点(A-1)及び同(B)について,さらに,具体的構成態様に係る共通点(D-1)及び同(E)について,参酌すべきものである。

(3)甲7-6の意匠登録第1283332号の「扉材」の意匠(意匠公報発行日 2006年(平成18年)10月10日)は,扉板と手掛け部を有する取手に係る部分意匠であって,扉板の上端小口面に取り付けられたライン取手の意匠が表されており,その構成態様は,共通点(F-2)に関連するものではあるが,扉板の上端部が斜めに切り取られて,取手の後端壁板状部の斜面と面一に構成されているものであるから,そもそも創作意図が異なり,参酌すべきものとはいえない。

(4)甲7-8の意匠登録第1298603号の「家具用扉」の意匠(意匠公報発行日 2007年(平成19年) 4月16日)は,扉板の下端小口面に取り付けられたライン取手の意匠が表されており,取手の天地は異なるものの,共通点(F-1)及び同(F-2)のいずれも関連するものではある。しかし,その構成態様は,取手を取り付けるに,扉板の下端小口面を全部覆う別部材を介しているものであり,そもそも創作意図が異なるといわざるを得ない。すなわち,後端壁板状部の上端部は,側面視,凹弧状の略湾曲くさび形状をなしているものではあるが,該略湾曲くさび形状の先端角度は大きくはないし,また,その上端部前端のラインは,意匠全体の態様の中では,前記中間別部材の縁部に隠されてしまっているものであるから,後端壁板状部の上端部前端のラインが,手掛け片部の前端(面)の位置より側面視後退しているものではあるが,扉板の小口面を見せるという創作意図はもとより持たないものであり,その点で,本件両意匠との関連を深く見ることはできない。後退の程度も,下から手を伸ばして手掛けする使用の態様から手掛け片部が垂直面ではなく,前方に倒れている点を考慮に入れても,当該意匠全体として,扉板の板厚と比較すれば,極小さいものである。

(5)甲7-9の国内カタログ『STAG INTERIOR PARTS COLLECTION』(株式会社シモダイラ,発行 「平成18年11月 初版」(奥付記載のまま))の「nobs & Line handles|把手・ライン引手」の項に記載の「Pull type HK-99」のライン取手の意匠は,共通点(B),同(D-1)及び同(E)について,参酌すべきであり,また,共通点(F-2)にも関連がある。

(6)乙2の特開2003-321954の公開特許公報(発明の名称 引手)(公開日 2003年(平成15年)11月14日)の【図7】(A)?同(D)には,ライン取手の意匠が表されており,具体的構成態様に係る共通点(F-2)に関連する。

(7)甲10-1,甲10-2及び甲10-3には,ライン取手の意匠について,取手凹陥部の各種態様が示されている。


5.本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
以上の一致点,共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。


両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態についても,基本的構成態様及び各部の具体的構成態様に係る共通点(A)ないし(G)に掲げた各共通点は,形態全体にわたり,かつ,その骨格をなす態様であって,両意匠の形態の基調を形成するものである。とりわけ,先行公知意匠を参酌するところ,共通点(A),同(D),同(F)及び同(G)は,両意匠の特徴をよく表しており,見る者に対して,共通の印象を強く与えるものであって,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は支配的であるという他ない。


これに対して,具体的構成態様に係る各相違点は,以下のとおり,それぞれ微弱であって,相違点全体が関連して生じさせている視覚的効果を考慮したとしても,両意匠の類否判断を左右するほどではない。

すなわち,相違点(ア)の,取手凹陥部について,本件登録意匠は,全体として角溝状であるのに対して,イ号意匠は,全体として側面視やや扁平な略丸溝状である点は,使用の態様を考えれば,見る者の目に付きにくい部位に係り,かつ,両意匠のいずれの態様も極ありふれた態様であって,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,微弱という他ない。

相違点(イ)の,後端壁板状部の内面(取手凹陥部に係る部分を除く。)の具体的態様について,(イ-1)本件登録意匠は,平面から側面視凹弧状面に切り替わる部位が,後端壁板状部のほぼ中央部分からであるのに対して,イ号意匠は,それが後端壁板状部の下端から約3分の1のところであり,また,(イ-2)の,本件登録意匠は,後端壁板状部の下端部前端のラインの,前端面の位置からの後退の程度が,上板部の幅の約2分の1であるのに対して,イ号意匠は,これが約3分の2である点については,比率を詳細に見れば,このような相違があるが,前述のとおり,先行公知意匠を参酌するところ,共通点(F-1)の,後端壁板状部の下端部は,側面視,先端角度の大きい,凹弧状の略湾曲くさび形状をなしているものである点,及び,同(F-2)後端壁板状部の下端部前端のラインは,手掛け片部の前端面の位置よりも側面視相当程度後退しているものである点は,両意匠にのみ特徴的な態様であって,この点が共通することを前提とすれば,この相違点が,両意匠全体としての類否判断に及ぼす影響は,微弱という他ない。

相違点(ウ)の,後端壁板状部の底面部について,本件登録意匠は,平坦面であるのに対して,イ号意匠は,極浅い細幅溝部が連続して形成され,該部に薄い細幅パッキング材が取り付けてある点は,使用の態様において,隠れて見えなくなってしまうものであるし,それぞれがありふれた態様であるから,この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。


したがって,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品が一致し,その形態においても,両意匠の各相違点が類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱なものと判断せざるを得ず,相違点全体が関連して生じさせている視覚的効果を考慮したとしても,共通点が形成する強い共通の印象を覆して,それぞれが別異の意匠を形成しているとまでは言うことができず,両意匠においては,共通点の類否判断に及ぼす影響が相違点のそれを凌駕し,両意匠は,意匠全体として類似する。


6.むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。

よって,結論のとおり判定する。

別掲
判定日 2011-03-24 
出願番号 意願2007-16412(D2007-16412) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (M3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橘 崇生 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 斉藤 孝恵
遠藤 行久
登録日 2008-04-11 
登録番号 意匠登録第1329962号(D1329962) 
代理人 朝倉 悟 
代理人 日高 一樹 
代理人 渡邉 知子 
代理人 矢崎 和彦 
代理人 勝沼 宏仁 
代理人 黒瀬 雅志 

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