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審決分類 |
審判 査定不服 2項容易に創作 取り消して登録 M2 |
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管理番号 | 1243117 |
審判番号 | 不服2010-21164 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-21 |
確定日 | 2011-09-06 |
意匠に係る物品 | スリーブ形成シート |
事件の表示 | 意願2009- 20086「スリーブ形成シート」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,2009年(平成21年)9月1日に意匠登録出願されたものであって,2010年(平成22年)6月17日付けで拒絶査定がされ,2010年(平成22年)9月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされたところ,当審において2011年(平成23年)4月28日付けで拒絶の理由が通知され(同年5月6日発送),その指定期間内である2011年(平成23年)6月14日に意見書が提出されたものである。 第2 本願意匠 本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品は,「スリーブ形成シート」であり,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」は,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりのものであって,「実線で示した部分が部分意匠として登録を受けようとする部分である。一点鎖線は部分意匠として登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である」としたものである。(別紙第1参照) すなわち,本願意匠は,防火中空壁に配線・配管材を貫通させるスリーブを形成する際に使用するスリーブ形成シートに係り,柔軟性を備えるためにガラスクロス等の不燃材料でシート状に形成され,幅方向の少なくとも一端に多数の固定片が形成されているものであって,その形態は,物品の全体形状は,正面視横長矩形状の薄いクロスのシート状体であって,その上下の横長細幅状の区域に縦の短い切れ込みを等間隔に多数本入れて複数の切れ込み片(固着片)を形成したものであり,各切れ込み片の頂部を正面視「富士山」状としたものについて,その物品の部分,すなわち,横長矩形状の紙片の上部及び下部を適宜除いた,中段部分の,切れ込み片部の一部とスリーブ本端部の一部について横長矩形状の区域を選択して,部分意匠としたものであって,使用の際には,防火中空壁に配線・配管材を貫通させるために設けられた貫通孔の内面に密着させながら長手方向を湾曲させて略円筒状にし,前記固定片を両面テープや接着剤等の貼着手段を用いてそれぞれ壁面に貼着して本物品を固定することによって,前記防火中空壁を貫通するスリーブを形成するものである。 第3 当審の拒絶の理由 当審の拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,本願意匠に対して示した理由と例示意匠は,以下のとおりである。 ---------------------- 本願意匠は,防火中空壁に配線・配管材を貫通させるスリーブを形成する際に使用する「スリーブ形成シート」に関し,その物品の部分について意匠登録を受けようとするものですが, (1)本願意匠に係る配管用スリーブの物品分野においては,管状又は筒状のスリーブの端部に切り込みを入れて複数の切り込み片を形成し,スリーブ装着時には,該切り込み片部を管体又は筒体の外側に折り曲げて壁面等に固着することは,本願出願前,普通に行われているところであり(例えば,実開昭63-45282 考案の名称「配管用スリーブ」の「第1図」及び「第2図」に記載された配管用スリーブの意匠。別紙第2参照。本審決において「例示意匠1」という。), (2)紙片の長手方向の上下両端部に一定間隔に切り込みを入れて切り込み片部を形成し,全体を丸めて管状体を形成することは,本願出願前に,周知の手法であり, また,(3)切り込み片を紙筒接着部として本体部の壁面等に接着することも,本願出願前にありふれた手法(例えば,特開2003-321023 発明の名称「紙パックの注ぎ口」の「図2」,「図3」等に記載された「紙筒(注ぎ口)」の意匠。別紙第3参照。本審決において「例示意匠2」という。)ですから, 本願意匠は,前記(1)の配管用スリーブに基づいて,単に切り込み片部を形成し,前記(2)の周知の手法,及び,前記(3)の切り込み片部を接着部とするありふれた手法と組み合わせて,「スリーブ形成シート」の意匠とし,その物品の部分,すなわち,横長矩形状の紙片の上部及び下部を適宜除いた,中段部分の,切り込みの一部とスリーブ本体部の一部について横長矩形状の区域を選択して,部分意匠としたまでに過ぎないものです。 したがって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然知られた(「周知」も含まれる。)形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたときに該当しますから,意匠登録を受けることができません。 ---------------------- 第4 請求人の主張の要点 これに対し,請求人は,意見書を提出し,要旨以下のとおり主張した。 拒絶の理由の(1)について,実開昭63-45282(以下,『引用文献1』という)に掲載の「配管用スリーブ」は,金属薄板からなるものであるが,図示されたデッキプレートからは床スラブに円柱状の開口を形成するものであり,切り込み片は床スラブ深さ位置,床スラブ形状の調整用に対応する形態を有するものであって,審判官合議体が引用文献1を「管状又は筒状のスリーブの端部に切り込みを入れて複数の切り込み片を形成し,スリーブ装着時には,該切り込み片部を管体又は筒体の外側に折り曲げて壁面等に固着すること」の例として挙げているが,全く根拠のないことを認定しているものである。当該事項は引用文献1には開示も示唆もされていない。請求人(出願人)の主張は,引用文献1の図1乃至図3から明らかである。 本願意匠のスリーブ形成シートは,防火中空壁に配線・配管材を貫通させるガラスクロス等の不燃材料で,柔軟性を持つスリーブであり,防火中空壁に配線・配管材を貫通させるのに使用される発明の実施物である。特に,シートで柔軟性を持つスリーブを形成し,その防火中空壁に対応させるという発明は,従来に存在していない技術である。 また,引用文献1の物品に関する技術等は,本願意匠に係る物品の性状を具備するものではなく,引用文献1等を如何に組み合わせても物品の構造自体が創造され得ないものであり,当然,引用文献1の物品に関する技術等に関する技術で開示された技術思想及びその実施物の技術を取り上げても,本願のスリーブ形成シートの形状を導くことはできない。 更に,本願意匠は当該スリーブ形成シートの部分意匠である。 特に,本願意匠は柔軟性を備えるスリーブ形成シートの部分意匠であり,防火中空壁に形成した配線・配管材を貫通させる貫通孔は特定の形状に限定されることなく,三角以上の多角形でも,楕円でも,長円でも,本願意匠の柔軟性のスリーブ形成シートが配設できる部品である。ところが,引用文献1等の物品の意匠を如何に組み合わせても物品の構造自体が創造され得ないものである。 したがって,引用文献1等の何れにも開示も,示唆もされていないことから,当該開示も,示唆もされていない技術に基づき,本願意匠に想到することは困難であり,創作性を欠くとの論拠が成立しないものである。 第5 当審の判断 請求人の主張を踏まえ,本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性,意匠の創作容易性について検討し,判断する。 容易に意匠の創作をすることができたというためには,本願意匠の創作にあたり,公然知られた(周知を含む。)「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」(形態)に基づくものであることを要するが,本願意匠の形態は,物品の全体形状が正面視横長矩形状の薄いクロスのシート状体であって,その上下の横長細幅状の区域に縦の短い切れ込みを等間隔に多数本入れて複数の切れ込み片(固着片)を形成したものであり,その物品の部分,すなわち,横長矩形状の紙片の上部及び下部を除いた中段部分の,切れ込み片部の一部とスリーブ本端部の一部について横長矩形状の区域を選択して,部分意匠としたものであるところ,一般にシート状体でその上下の横長細幅状の区域に切れ込み片部を形成したものが存在するところではあるが,例示意匠1は,デッキプレートの高さに対応するために,配管用スリーブの端部に多数の切り込み片を形成して折り曲げるものであり,また,例示意匠2は,切り込み片を紙筒接着部として本体部の壁面等に接着することが,本願出願前にありふれた手法を示すとしても物品分野も異なり,その具体的態様において本願意匠の態様と必ずしも一致するとはいえないものである。 そうすると,本願意匠に係る物品である配線・配管用スリーブにおける先行意匠に照らすところ,本願意匠の薄いクロスのシート状体をスリーブとした点,及び,切れ込み片部をスリーブに設け,スリーブを孔部に装着する際,切れ込み片部を孔部の外側に折り曲げて壁面に固着する点は,本願出願前に公然知られた態様であるということはできないし,容易に着想し得たということもできないものであって,本願意匠のみの新しい着想というべきであるから,当審の拒絶の理由において示した手法,例示意匠等をもって,本願意匠の構成態様は容易に導き出せたということはできない。 したがって,本願意匠は,当業者であれば,容易に創作することができたということはできない。 第6 むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,当審が示した理由によっては意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当しないものであり,その拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2011-08-19 |
出願番号 | 意願2009-20086(D2009-20086) |
審決分類 |
D
1
8・
121-
WY
(M2)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 松田 光太郎 |
特許庁審判長 |
瓜本 忠夫 |
特許庁審判官 |
杉山 太一 太田 茂雄 |
登録日 | 2011-09-16 |
登録番号 | 意匠登録第1425252号(D1425252) |
代理人 | 特許業務法人 Vesta国際特許事務所 |