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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) D2
管理番号 1253452 
判定請求番号 判定2011-600045
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2012-04-27 
種別 判定 
判定請求日 2011-09-30 
確定日 2012-03-02 
意匠に係る物品 乗物用座席 
事件の表示 上記当事者間の登録第1251923号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「乗物用座席」の意匠は、登録第1251923号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求の趣旨及び理由
本件判定請求人は、「イ号図面並びにその説明書に示す意匠は登録第1251923号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する」との趣旨の判定を求め、その理由を判定請求書の「6 請求の理由」の欄に記載のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。
上記主張の要点は、以下のとおりである。

1.判定請求の必要性
本件判定被請求人(小糸工業株式会社)も、本件登録意匠の意匠権者であるが、本件判定被請求人は、本件登録意匠に類似する「乗物用座席」を単独で共有者の同意なく使用しないとの同意があるにも拘わらず、イ号意匠の乗物用座席(イ号物件)を単独で使用しようとしている。
本件判定請求人は、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するもので、本件登録意匠の意匠権を侵害するものであり、特許庁による判定を求めた。

2.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「乗物用座席」とし、その形態の要旨は次のとおりである。
1)基本的構成態様
厚みを有する2人分の座部と背ずりが左右に並ぶように一体に連
結され、各背ずりの上部に、両端部の向かい合う内面が前方(着座
者から見て前方。以下、「前方」は同様。)に行くに従い拡幅する略
三角錐状に迫り出したヘッドレスト部が設けられ、各ヘッドレスト
部の両端部のうち、座席外側に位置する方の側部に読書灯が設けら
れ、各読書灯の略上方に手摺りが設けられている。
2)具体的構成態様
各背ずりの上部は、両側端が上方向に若干狭くなった台形となり
、ヘッドレスト部に設けられた読書灯は、円形の取付枠の中に、略
円柱状の突出したレンズカバーが設けられ、各読書灯の略上方に、
半球状の手摺りが設けられている。

3.イ号意匠
イ号意匠は、「乗物用座席」であり、その形態の要旨は次のとおりである。
1)基本的構成態様
厚みを有する2人分の座部と背ずりが左右に並ぶように一体に連
結され、各背ずりの上部に、両端部の向かい合う内面が前方に行く
に従い拡幅する略三角錘状に迫り出したヘッドレスト部が設けられ
、各ヘッドレスト部の両端部のうち、座席外側に位置する方の側部
に読書灯が設けられ、各ヘッドレスト部のヘッドレスト部の正面部
に、横長矩形の枕が設けられ、各読書灯の略上方に手摺りが設けら
れている。
2)具体的構成態様
各背ずりの上部は、座席内側の側端部は垂直方向に延び、座席外
側の側端部は中央付近より上端側にかけて外側に若干拡がった上で
、上端が垂直方向に延びており、ヘッドレスト部に設けられた読書
灯は、長円形の取付枠の中に、略半球状の突出したレンズカバーが
設けられ、各読書灯の略上方に、先端が背ずりの内側に傾斜した手
摺りが設けられている。

4.本件登録意匠とイ号意匠との比較
(1)共通点
a)両意匠は、意匠に係る物品が「乗物用座席」で一致する。
b)基本的構成態様
厚みを有する2人分の座部と背ずりが左右に並ぶように一体に連
結され、各背ずりの上部に、両端部の向かい合う内面が前方に行く
に従い拡幅する略三角錐状に迫り出したヘッドレスト部が設けられ
、各ヘッドレスト部の両端部のうち、座席外側に位置する方の側部
に読書灯が設けられ、各読書灯の略上方に手摺りが設けられている。

(2)差異点
a)基本的構成態様において、各ヘッドレスト部の正面部に、横長矩
形の枕が設けられているが、本件登録意匠には、枕が設けられてい
ない。
b)具体的構成態様において、各背ずりの上部形状及び読書灯、手摺りの形態が若干異なる。

5.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由
(1)先行周辺意匠
公知資料1 意匠登録第1225936号(甲第2号証)
公知資料2 意匠登録第1230670号(甲第3号証)
公知資料3 意匠登録第438811号(甲第4号証)
公知資料4 意匠登録第438811号の類似1(甲第5号証)

(2)本件登録意匠の要部
先行周辺意匠をもとに、本件登録意匠の創作の要点について、この種の物品における意匠上の創作の主たる対象は、厚みを有する2人分の座部と背ずりが左右に並ぶように一体に連結され、その各背ずりの上部に、両端部の向かい合う内面が前方に行くに従い拡幅する略三角錐状に迫り出したヘッドレスト部が設けられ、各ヘッドレスト部の両端部のうち、座席外側に位置する方の側部に、略円形の取付枠の中に、略円形のレンズカバーが設けられ、各読書灯の略上方に、手摺りが設けられている点にある。
即ち、本件登録意匠の創作の要点は、乗客も頭部を抱え込むように、乗客の負担を少なくした安定的な座り心地をもたらすための厚みを有する背ずりの両端部の向かい合う内面が前方に行くに従い拡幅する略三角錐状にに迫り出したヘッドレスト部と、そのヘッドレスト部に配置された略円形の読書灯、手摺りの形態及び配置にある。

(3)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで、本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を、両意匠を対比した写真(甲第6号証)も考慮して、比較検討する。
a)まず、厚みを有する背ずりのヘッドレスト部が両端部の向かい合う内面が前方に行くに従い拡幅する略三角錐状に迫り出している形態は、厚みを有し、前方に迫り出したヘッドレスト部が乗客の頭部を抱え込んで安定させる空間を形成し、乗客の負担を少なくした安定的な座り心地をもたらすようにした機能を表現するものであり、座り心地のよさを求める需要者の注意を惹くものである。
また、各ヘッドレスト部の両端部のうち、目立ち易い座席外側に位置する方の側部に設けられる読書灯は、新聞、雑誌等を呼んだり、パソコン、携帯電話等の操作等に便利なものであり、各読書灯の略上方に設けられる手摺りも安全性の観点から需要者の注意を惹きつけるものである。
これらのヘッドレスト部の特徴的な形態と、読書灯及び手摺りの配置は、本件登録意匠の意匠登録出願前にこの種の乗物用座席の分野において見られないものである。
したがって、これらの部分の形態と配置が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きく、両意匠の印象は酷似する。
b)差異点のa)b)が類否判断に与える影響は微弱である。
まず、差異点a)の横長矩形の枕は、「乗物用座席」について特に特徴的なものではなく、「乗物用座席」においてありふれて使用されているものであるため、類否判断に及ぼす影響は僅かである。
また、差異点b)の各背ずりの上部形状は、本件登録意匠とイ号意匠共、ありふれてみられる形態であり、両意匠のみに見受けられる特徴的なものではなく、共通点の前方に迫り出したヘッドレスト部の乗客の頭部を抱え込む印象に差異を生じさせるものではないため、類否判断に及ぼす影響は僅かである。
読書灯の形態にしても、若干の差異はあるものの、全体としては円形である点が共通し、使用時、即ち点灯時には、需要者はその形態の差異を識別することは困難である。
さらに、手摺りも、その配置や大きさの共通性が、形態の差異を目立たなくしている。
このため、これらの差異点は、特別顕著な差異とは言えず、類否の判断に与える影響は微弱である。
c)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体として考察すると、差異点は、類否判断に与える影響はいずれも微弱なものであって、共通点を凌駕しているものとは言えず、それらが纏まっても両意匠の類否判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。

6.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

第2 判定被請求人の答弁の趣旨及び理由
判定被請求人は、「イ号図面並びにその説明書に示すイ号意匠は、意匠登録第1251923号に係る本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。」との趣旨の判定を求め、その理由を、判定請求答弁書の「7 答弁の理由」の欄に記載のとおり主張し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
上記主張の要点は、以下のとおりである。

1.本件登録意匠とイ号意匠との比較
本件登録意匠とイ号意匠との比較に関して、両意匠の具体的構成態様の差異は、以下のとおりである。
1)各背ずりの上部形状
正面視において、イ号意匠は、座席内側の側端部が垂直方向に延び、側端部同士が上端側にかけて幅狭の垂直線をなす隙間を境に互いに近接する一方、座席外側の側端部は、背ずり中央付近より上端側にかけて外側に拡がった上で、上端が垂直方向に延びているのに対して、本件登録意匠は、背ずりの中央付近より上端側にかけて両側端部間の横幅が漸次狭まる台形となり、それぞれ1人分の背ずりとして互いに離隔し独立している。
2)読書灯
イ号意匠は、涙型の正面壁を有するケースに、その正面壁よりドーム状に膨出する真円形のレンズカバーが設けられた形状であるのに対して、本願意匠は、真円形ドーナツ型の正面壁を有するケースより、真円形断面である円筒形の灯体が外側に突出し、灯体の正面に真円形のレンズカバーが設けられた形状である。
3)手摺り
イ号意匠は、先端部分が座席内側に向けて先窄まりとなる角形状に傾斜した形状であるのに対して、本件登録意匠は、先端部分が半球形に成形された形状となっている。

2.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由
(1)先行周辺意匠
公知資料5 車両技術225号 第104頁他 2003年3月発
行 社団法人日本鉄道車輌工業会発行 (乙第1号証)
公知資料6 JREA2003年3月号 巻頭カラー頁他 200
3年3月1日発行 社団法人日本鉄道技術協会発行
(乙第2号証)
公知資料7 意匠登録第902151号公報(乙第3号証)
公知資料8 意匠登録第548848号公報(乙第4号証)
公知資料9 意匠登録第583027号公報(乙第5号証)
公知資料10 意匠登録第406652号公報(乙第6号証)

(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
a)判定請求書における本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察に関する誤りについて。
先ず、甲第6号証中に記された意匠は、本件登録意匠、及びイ号図面に記載されたイ号意匠とは、それぞれ明らかに異なるものである。
次に、「厚みを有する背ずりのヘッドレスト部の両端部の向かい合う内面が前方へ行くに従い拡幅する略三角錐状に迫り出している形態」(判定請求書第5頁14行から15行目)は、先行周辺意匠に徴してみれば、既に周知に属するものであり、この種の乗物用座席の分野の意匠においては従来よりありふれた形態に過ぎない(公知資料5ないし10参照)。
ところで、背ずりのヘッドレスト部は、背ずりの上部形状そのものの一部であり、この種の乗物用座席に関して、ヘッドレスト部を含む背づりの上部形状について看者の注意を引く方向は、乗物用座席の性質、目的、用途、使用形態の何れから考えても通常は正面視といえ、判定請求人が強調する特に平面視で具現されるヘッドレスト部の形態は、一般に乗物用座席は上方からは覗き難い高さを有していることから考えても、看者の注意を特に引きつけるものではなく、背ずりの上部形状こそが、本来の基本的構成態様であるべきであり、その一部に過ぎないヘッドレスト部の形状は、背ずりの上部の具体的構成態様の一つとして捉えるべきである。
また、判定請求人は、「各ヘッドレスト部の両端部のうち、目立ち易い座席外側に位置する方の側部において、略円形の取付枠の中に、略円形のレンズカバーが設けられ、各読書灯の略上方に、手摺り部が設けられていると言った配置も共通し」(判定請求書第5頁20行から22行目)、「これらの部分の形態及び配置は、本件登録意匠の意匠登録出願前にこの種の乗物用座席の分野において見られないものである。」(判定請求書第5頁27行から28行目)としている。
しかしながら、「読書灯」についても、本件意匠登録出願時には既に市場に存在していたから、特に看者の注意を引くものではない(公知資料5の第104頁中の写真2及び第111頁左欄の第30行から同第33行目、公知資料6の巻頭カラー頁中の左下写真参照)。また、「手摺り」についても同様である(公知資料5の第104頁中の写真3、公知資料6の巻頭カラー頁中の左下写真参照)。
このような読書灯及び手摺りの形態及び配置は、座席の着座者あるいは他の乗客が使用する観点や安全性の観点より、既にある程度標準化されているものであり、類否判断を行う上では、大まかな形態及び配置の共通性に拘わることなく、如何に具体的構成態様における差異があるかが重要となる。
b)以上より、本件登録意匠とイ号意匠との類否を再考察すると、先ず、判定請求人が両意匠の共通点として強調する「厚みを有する背ずりのヘッドレスト部の両端部の向かい合う内面が前方へ行くに従い拡幅する略三角錐状に迫り出している形態」は、背ずりの上部の具体的構成態様の1つとして捉えるべきであり、そもそも意匠の創作の要点とはいい難い。かかる具体的構成態様は、この種の乗物用座席において従来よりありふれた形態であって両意匠のみの特徴とは言い得ず、類否判断を左右する主要部と認められない。
これに対して、看者の注意を最も惹きつける背ずりの正面視における上部形状は、両意匠の基本的構成態様とすべきものであるが、前記1.1)で補足したように、両意匠には大きな差異が認められる。
かかる差異によれば、イ号意匠は、左右の背ずりの各々が中心線を境に左右非対称となる従来に見られない独自の形状をなし、これらの座席内側の側端部が垂直線を境に互いに連続し、座席外側の側端部は上端側にかけて外側に拡がることにより、左右の背ずりの上部同士があたかも1つの長椅子の背ずりをなすような一体感を与える。
一方、本件登録意匠は、正面視において、各背ずりの上部は、背ずり中央付近より上端側にかけて両側端縁間の横幅が漸次狭まる従来よりありふれた左右対称の台形を基調とし、あくまでも2人分の背ずりが左右に分離独立した印象を与える。
このような両意匠における差異点は、各背ずりの上部における平面視のみならず前方向から見ての全体形状にも大きく影響し、イ号意匠が独自の特徴を形成しているものと認められることから、両意匠の類否判断を左右する顕著な差異といわざるを得ず、この差異点だけをもってしても両意匠は類似しているものと認めることはできない。
次に、前記背ずり上部の差異点以外にも、両意匠は、1.2)乃至3)で補足したように、読書灯及び手摺りの具体的構成態様についても大きな差異が認められる。
読書灯に関しては、本件登録意匠は、真円形ドーナツ型の正面壁を有するケースより円筒形の灯体が外側に突出する、この種の灯体としてありふれた形状であるのに対して、イ号意匠は、涙型の正面壁を有するケースに、その正面壁よりドーム状に膨出する真円形のレンズカバーが設けられた独自の形状をなしている。しかも、レンズカバーの内側の内部構造により、レンズカバー正面には、涙型のケース長手方向と一致する方向に延びる楕円形の模様が認められ、読書灯全体として猫目をイメージさせる外観となっている(イ号図面中の【読書灯の拡大正面図】参照)。かかる点は、ヘッドレスト部の側部における美感にも大きく影響し、イ号意匠では、前記形態上の基調の上にさらに独自の特徴を形成している。
また、手摺りに関しても、両意匠における具体的構成態様は、互いに全く異なるものであり、それ故に異なる美感を増長させることになる。
以上のような読書灯及び手摺りの具体的構成態様における差異点は、読書灯及び手摺りの大まかな形態及び配置において一致するという両意匠の既にある程度標準化された範囲内での共通性を凌駕する程の印象を看者に与えるものといえる。
c)以上の認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠には全体的にも部分的にも顕著な形状の差異があり、これらを総合すると、結局、両意匠を類似するものとできない。

3.結び
イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないので、答弁の趣旨のとおりの判定を求める。

第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、物品の部分について意匠登録を受けようとした平成16年(2004年)12月15日の意匠登録出願に係り、平成17年(2005年)8月12日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1251923号の意匠であり、願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「乗物用座席」とし、その形状を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであって(別紙第1参照)、実線で示された部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であり、一点鎖線は、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分の境界のみを示す線である。また、当該部分は、乗物用座席の左右に連結して並列する背ずりの上部のヘッドレスト部分であり、その並列するヘッドレスト部の外側寄りには読書灯と手摺りを配したものである。
そして、本件登録意匠の当該部分(以下、「本件当該部分」という。)の形状について、以下のとおりである。
1)基本的構成態様について
(a)左右に並列するヘッドレスト部を左右対称状とし、各ヘッドレスト部は、それぞれ略横長肉厚板状として、その左右両側に、上面と側面とでできる角部が稜線を形成するようにしながら前方に迫り出し、その迫り出し部分の向かい合う内面が、裾部で正面視略「八」の字状にして、前方へ行くに従い互いに拡幅する斜面状とする、略三角錐状の膨出部を形成し、さらに、各ヘッドレスト部の左右の膨出部のうち、並列するヘッドレスト部の外側(並列した状態で、中央の隣接する側と反対の左右両端方向の側をいう。)に位置する膨出部の内面のほぼ中央位置に、円形状の読書灯、及び、並列するヘッドレスト部の上面の外側寄りで背面寄りの位置に、略小円柱状に突出する手摺りを取り付けたものである。
2)各部の具体的構成態様について
(b)各ヘッドレスト部の上面は、それぞれ横方向へやや幅広帯状の中央が上方へと極僅かに膨らむ湾曲面状とし、その左右両側の膨出部を、平面視、外辺が外方向へ僅かに膨らむ円弧状で、内辺が内方向へ僅かに凹む円弧状とする先窄まり状として、それぞれの膨出部の中心軸方向が前方へ行くに従い互いに拡幅したものである。
(c)各ヘッドレスト部の左右両側面は、下部を僅かに垂直面状に立ち上げた後、正面視、上方へ行くに従いそれぞれ内方向へと僅かに傾けながら、平面視、背面側から前方へも、内方向へ僅かに傾く平坦面状の斜面とし、その並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端を、側面視、上方から下方に向かって順に、膨出部の先端を円弧状とし、さらに、滑らかに極僅かに外方向に膨らむ円弧状へと繋いで前屈みの傾斜としながら、ヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置より滑らかに僅かに凹む円弧状へと繋げて下端まで垂れ下げたものである。
(d)各ヘッドレスト部の前面は、左右両側の膨出部を除く中央部分を、上方から下方に向かって、前方へ極僅かに膨出する湾曲面状としながら、下部において逆方向へと滑らかに極僅かに凹む湾曲面状とし、左右両側の膨出部の内面を、外へと僅かに膨らむ湾曲面状としたものである。
(e)各ヘッドレスト部の背面は、後方へ極僅かに膨らむ湾曲面状としたものである。
(f)読書灯は、円形状の取付け枠の中心に短円柱状に突出したレンズカバーを設けたものである。
(g)手摺りの上部は、半球状としたものである。

2.イ号意匠
イ号意匠は、判定請求書に添付した図面「イ号図面」及び「イ号意匠の説明書」の記載により表されたものであり、意匠に係る物品を「乗物用座席」とし、その形状を図面「イ号図面」の記載及び「イ号意匠の説明書」に記載されたとおりとしたものであって(別紙第2参照)、イ号意匠の本件当該部分に相当する部分(以下、「イ号相当部分」という。)は、乗物用座席の左右に連結して並列する背ずりの上部、枕付きのヘッドレスト部分であり、その並列するヘッドレスト部の外側寄りには読書灯と手摺りを配したものである。
そして、イ号相当部分の形状について、以下のとおりである。
1)基本的構成態様について
(a’)左右に並列するヘッドレスト部を左右対称状とし、各ヘッドレスト部は、それぞれ略横長肉厚板状として、その左右両側に、上面と側面とでできる角部が稜線を形成するようにしながら前方に迫り出し、その迫り出し部分の向かい合う内面が前方へ行くに従い互いに拡幅する斜面状とする、略三角錐状の膨出部を形成し、その膨出部間に、膨出部で挟まれるように、上下にやや細幅の余白部を形成して、厚みがヘッドレスト部本体(なお、イ号相当部分のヘッドレスト部には枕部が含まれるものであるが、特に枕部を除いた状態のヘッドレスト部分を「ヘッドレスト部本体」という。)上部とほぼ同厚とする略横長隅丸肉厚板状の枕を取り付けたものであり、さらに、各ヘッドレスト部の左右の膨出部のうち、並列するヘッドレスト部の外側に位置する膨出部の内面のほぼ中央位置に、略円形状の読書灯、及び、並列するヘッドレスト部上面の外側寄りで背面寄りの位置に、柱状に突出する手摺りを取り付けたものある。
2)各部の具体的構成態様について
(b’)各ヘッドレスト部の上面は、それぞれ横方向へやや幅広帯状の中央が上方へと極僅かに膨らむ湾曲面状とし、並列するヘッドレスト部の外側に位置する膨出部を、平面視、内外辺とも外方向へ僅かに膨らむ円弧状とする先窄まり状とし、並列するヘッドレスト部の中央側に位置する膨出部を、外辺が前後方向に直線状で、内辺が前方に従い外方向へと傾く斜め直線状とする先窄まり状とし、それぞれ左右両側の膨出部の中心軸方向が前方へ行くに従い互いに拡幅したものである。
(c’)各ヘッドレスト部の左右両側面は、並列するヘッドレスト部の外側の側面を、外方向へ僅かに膨らむ湾曲面状として、平面視、背面側から前方へと外方向へ斜めに傾け、正面視、下端から僅かに外方向へ傾く斜め直線状に立ち上げながら、ヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置より垂直の直線状とし、その側面の前端を、側面視、上方から下方に向かって順に、膨出部の先端を円弧状とし、さらに、滑らかに極僅かに外方向に膨らむ円弧状へと繋いで前屈みの傾斜としながら、ヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置で内方向に僅かに凹む円弧状へと略「く」の字状に屈曲させ繋げて下端まで垂れ下げ、一方の並列するヘッドレスト部の中央側の側面を、上下方向へ垂直面状としたものである。
(d’)各ヘッドレスト部の前面は、左右両側の膨出部間に取り付けられた枕部を、垂直の平坦面状とし、並列するヘッドレスト部の外側に位置する膨出部の内面を、外へと僅かに膨らむ湾曲面状とし、一方の並列するヘッドレスト部の中央側に位置する膨出部の内面を、平坦面状の斜面としたものである。
(e’)各ヘッドレスト部の背面は、垂直面状としたものである。
(f’)読書灯は、取付け枠を円形状の下半部が先細りする涙型とし、その取付け枠の円形状とする中心位置に縦長略楕円半球面状に突出するレンズカバーを設けたものである。
(g’)手摺りの上部は、丸面状として、やや先窄まり状の先端を、左右両側の手摺りが互いに向き合う横方向へ、斜め上向きに曲げて、角状としたものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると、意匠に係る物品については、枕の有無の相違によって、用途及び機能が必ずしも全て一致するものとならないものの、枕の有無は、乗物用座席におけるもたれ掛かる人の頭部を受けるヘッドレスト部を表現する一態様であって、両意匠とも乗物用座席として使用されるものであることに何ら変わりはなく、両意匠の意匠に係る物品は類似するものである。
次に、本件当該部分とイ号相当部分(以下、「両意匠の部分」という。)の形状について、以下に示すように、主な共通点及び相違点が認められる。

(1)共通点
1)基本的構成態様について
(A)左右に並列するヘッドレスト部を左右対称状とし、各ヘッドレスト部は、それぞれ略横長肉厚板状として、その左右両側に、上面と側面とでできる角部が稜線を形成するようにしながら前方に迫り出し、その迫り出し部分の向かい合う内面が、前方へ行くに従い互いに拡幅する斜面状とする、略三角錐状の膨出部を形成し、さらに、各ヘッドレスト部の左右の膨出部のうち、並列するヘッドレスト部の外側に位置する膨出部の内面のほぼ中央位置に、略円形状の読書灯、及び、並列するヘッドレスト部上面の外側寄りで背面寄りの位置に、柱状に突出する手摺りを取り付けた点。
2)各部の具体的構成態様について
(B)各ヘッドレスト部の上面は、それぞれ横方向へやや幅広帯状の中央が上方へと極僅かに膨らむ湾曲面状とし、その左右両側の膨出部を、平面視、先窄まり状として、それぞれの膨出部の中心軸方向が前方へ行くに従い互いに拡幅する点。
(C)並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端を、側面視、上方から下方に向かって順に、膨出部の先端を円弧状とし、さらに、滑らかに極僅かに外方向に膨らむ円弧状へと繋いで前屈みの傾斜としながら、ヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置より僅かに凹む円弧状へと繋いで下端まで垂れ下げた点。

(2)相違点
1)基本的構成態様について
(ア)本件当該部分は、枕部を設けていないのに対して、イ号相当部分は、各ヘッドレスト部の前面の左右両側の膨出部間に、膨出部で挟まれるように、上下にやや細幅の余白部を形成して、厚みがヘッドレスト部本体上部とほぼ同厚とする略横長隅丸肉厚板状の枕部を設けた点。
2)各部の具体的構成態様について
(イ)左右両側の膨出部の迫り出し部分の向かい合う内面の裾部を、本件当該部分は、正面視略「八」の字状とするのに対して、イ号相当部分は、不明である点。
(ウ)各ヘッドレスト部の左右両側の膨出部上面を、本件当該部分は、平面視、外辺が外方向へ僅かに膨らむ円弧状で、内辺が内方向へ僅かに凹む円弧状とする先窄まり状としたのに対して、イ号相当部分は、並列するヘッドレスト部の外側に位置する膨出部を、平面視、内外辺とも外方向へ僅かに膨らむ円弧状とする先窄まり状とし、並列するヘッドレスト部の中央側に位置する膨出部を、外辺が前後方向に直線状で、内辺が前方へ行くに従い外方向へと傾く斜め直線状とする先窄まり状とした点。
(エ)各ヘッドレスト部の左右両側面を、本件当該部分は、下部を僅かに垂直面状に立ち上げた後、正面視、上方へ行くに従いそれぞれ内方向へと僅かに傾けながら、平面視、背面側から前方へも内方向へと僅かに傾く平坦面状の斜面とし、その並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端のヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置における上下の外方向に膨らむ円弧状と僅かに凹む円弧状との繋ぎ部分を、上部から下部へと滑らかに繋げたのに対して、イ号相当部分は、並列するヘッドレスト部の外側の側面を、外方向へ僅かに膨らむ湾曲面状として、平面視、背面側から前方へと外方向へ斜めに傾け、正面視、下端から僅かに外方向へ傾く斜め直線状に立ち上げながら、ヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置より垂直の直線状とし、一方の並列するヘッドレスト部の中央側の側面を、上下方向へ垂直面状とし、また、並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端のヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置における上下の繋ぎ部分を、上部の極僅かに外方向に膨らむ円弧状から下部の内方向に僅かに凹む円弧状へと略「く」の字状に屈曲させて繋げた点。
(オ)各ヘッドレスト部の前面につき、本件当該部分は、左右両側の膨出部を除く中央部分を、上方から下方に向かって、前方へ極僅かに膨らむ湾曲面状としながら、下部において逆方向へと滑らかに極僅かに凹む湾曲面状とし、左右両側の膨出部の内面を、外へと僅かに膨らむ湾曲面状としたのに対して、イ号相当部分は、左右両側の膨出部間に取り付けられた枕部を、垂直の平坦面状とし、並列するヘッドレスト部の外側に位置する膨出部の内面を、外へと僅かに膨らむ湾曲面状とし、一方の並列するヘッドレスト部の中央側に位置する膨出部の内面を、平坦面状の斜面とした点。
(カ)各ヘッドレスト部の背面を、本件当該部分は、後方へ極僅かに膨らむ湾曲面状としたのに対して、イ号相当部分は、垂直面状とした点。
(キ)読書灯を、本件当該部分は、円形状の取付け枠の中心に短円柱状に突出したレンズカバーを設けたのに対して、イ号相当部分は、取付け枠を円形状の下半部が先細りする涙型とし、その取付け枠の円形状とする中心位置に縦長略楕円半球面状に突出するレンズカバーを設けた点。
(ク)手摺りの上部を、本件当該部分は、半球状としたのに対して、イ号相当部分は、丸面状として、やや先窄まり状の先端を、左右両側の手摺りが互いに向き合う横方向へ、斜め上向きに曲げて、角状とした点。

4.両意匠の類否判断
上記の共通点及び相違点を総合して、両意匠の類否を意匠全体として評価・検討し、判断する。
この種乗物用座席は、乗物用の車輌に設置される座席であって、座り心地や安全性などに十分な配慮がなされるものであり、ましてや、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であるヘッドレスト部においては、もたれ掛かる人の頭部が直接当たる部分であり、需要者はヘッドレスト部の具体的な形状に十分に注意を注ぐものである。また、車輌への人の乗り降りや乗物の移動中における車内での人の移動又は座席への離着席やリクライニング機能の調整等の通常の使用の状態を考慮すれば、正面斜め上方からの斜視状態も含めて、斜め上方から見た斜視状態を中心として、意匠全体として観察されるものである。
そうすると、共通点について、共通点(A)の形状は、両意匠の部分の基本的構成態様を構成するものではあるが、イ号相当部分にあっては、枕部を除いた状態の形状を抽出したものであり、一方で、枕部に関連して、同じ基本的構成態様として、相違点(ア)ヘッドレスト部の前面の枕部の有無の相違が存在することから、共通点(A)の形状は、基本的構成態様の一部を構成するものである。そして、共通点(A)のイ号相当部分は、ヘッドレスト部の中から枕部が切り離されて捉えられているが、もともと、枕部は人の頭部を受けるヘッドレスト部の一態様として、ヘッドレスト部本体と枕部とで一体的に捉えられるべきものであるから、共通点(A)の形状の評価にあっては、ヘッドレスト部の中から枕部だけを切り離すことはできるものではなく、ヘッドレスト部本体と枕部とで一体的に捉えられるものとして、共通点(A)と相違点(ア)とを合わせて評価・検討することとする。
すなわち、共通点(A)の形状については、枕部を設けていないヘッドレスト部同士に限るのであれば、特に、左右両側に略三角錐状の膨出部を形成する形状が、もたれ掛る人の頭部を抱え込むようにして、人が座った場合の負担が少ない安定した座り心地を確保しようとするヘッドレスト部の備え持つ長所を端的に表現するものとして、視覚的に目立ってくるものとも言えるが、本件の場合、前述したように、イ号相当部分がヘッドレスト部本体と枕部とが一体的に捉えられるものであり、相違点(ア)において、本件当該部分が、枕部を設けていないのに対して、イ号相当部分は、各ヘッドレスト部の前面の左右両側の膨出部間に枕部を設けたものとなる。そして、もともとヘッドレスト部は、もたれ掛る人の頭部を当て、安定した座り心地へ向けての人の心理面に強く作用するところで、とりわけ、枕部は、略横長肉厚板状のヘッドレスト部に単に寄りかかれるだけのものではなく、別途新しい作用効果をもたらすために、ヘッドレスト部の前面に新たに加えられたものであり、人の頭部ないしは首部、肩部へと与える負担を大きく変化させるものであるから、ヘッドレスト部の主要な部分を構成するものである。また、イ号相当部分の枕部は、ヘッドレスト部の前面の左右両側の膨出部間のほとんど全面を覆い、その枕部の厚みもヘッドレスト部本体とほぼ同厚の十分な厚みを持つものであり、枕部が左右両側の膨出部で挟まれることによって、左右両側の膨出部の膨出感も相対的にかなり減殺され、斜め上方から見た斜視状態において、枕部は、ヘッドレスト部の前面の左右両側の膨出部間に大きく突出し、まさに眼前に迫って、視覚的に最も目立つものである。
そうした場合、枕部を設けていないものの本件当該部分と枕部を設けているもののイ号相当部分とでは、ヘッドレスト部の主要な部分において大きな相違を伴う上に、通常の使用の状態を考慮した場合にも、本件当該部分のヘッドレスト部の横長の一定の厚みを持った板状の左右両側の膨出部が目立って、頭部を抱え込むようにした柔和な突出感を醸し出してくるものとイ号相当部分のヘッドレスト部の左右両側の膨出部間に大きく突出した枕部が目立ち、ヘッドレスト部全体の堅固な凹凸感が強調されてくるものとでは、視覚的印象がまったく異なることになる。
したがって、相違点(ア)ヘッドレスト部の前面の枕部の有無の相違は、それだけで既に類否判断を決定付ける程のものであり、一方、共通点(A)の形状は、単に基本的構成態様の一部を構成するに過ぎないものとなって、相違点(ア)の中に減殺してしまい、共通点(A)の形状が類否判断に及ぼす影響は微弱なものとならざるを得ない。
また、共通点(B)各ヘッドレスト部の上面形状及び共通点(C)並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端形状は、共通点(B)各ヘッドレスト部の上面形状について、上面の左右両側の膨出部を、先窄まり状とし、それぞれの膨出部の中心軸方向が前方へ行くに従い互いに拡幅するものであり、共通点(C)並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端形状について、膨出部の先端を、上方から下方のほぼ中央位置まで、円弧状とし、さらに、滑らかに極僅かに外方向に膨らむ円弧状へと繋いで前屈みの傾斜としながら、ヘッドレスト部の高さ方向のほぼ中央位置より僅かに凹む円弧状としたものであるが、いずれも、共通点(A)における略三角錐状の膨出部の中における一部の具体的な形状に過ぎないし、なおさら、前記共通点(A)の項で評価・検討したように、相違点(ア)ヘッドレスト部の前面の枕部の有無の相違において、イ号相当部分の膨出部は、枕部によって、左右両側の膨出部の膨出感も、相対的にかなり減殺されることになり、枕部を設けていないものの本件当該部分と枕部を設けているもののイ号相当部分との視覚的印象がまったく異なることになる以上、共通点(B)各ヘッドレスト部の上面形状及び共通点(C)並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端形状が類否判断に及ぼす影響によって、相違点(ア)ヘッドレスト部の前面の枕部の有無の相違による類否判断に及ぼす影響が到底覆されるものではないことから、共通点(B)各ヘッドレスト部の上面形状及び共通点(C)並列するヘッドレスト部の外側の側面の前端形状が類否判断に及ぼす影響は微弱なものと言える。
次に、相違点について、(ア)を除き、以下のとおりである。
相違点(イ)膨出部内面の裾部正面視形状の相違及び相違点(ウ)各ヘッドレスト部の左右両側の膨出部の上面形状の相違は、相違点(イ)にしても、(ウ)にしても、いずれも、膨出部に係る具体的な形状の相違であって、いずれ膨出部は、枕部の有無によって、膨出部の類否判断へ及ぼす影響が大きく左右されるものであることは、繰り返し述べたとおりであり、枕部の有無による両意匠の部分の視覚的印象がまったく異なることになる以上、これらの相違点(イ)膨出部内面の裾部正面視形状の相違及び相違点(ウ)各ヘッドレスト部の左右両側の膨出部の上面形状の相違が類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
相違点(エ)各ヘッドレスト部の左右両側面の形状の相違は、特に並列するヘッドレスト部の中央側に、本件当該部分は、平坦面状の斜面が隣り合うことによって、正面視略縦長「V」字状の隙間ができ、イ号相当部分は、互いに上下方向に垂直面状として、縦方向に一律僅かな隙間ができるものであり、いずれも、この種乗物用座席の分野において従来より普通にみられる形状であって(例えば、本件当該部分につき、特開平9-58314号公報「発明の名称:車両用シート装置」図2記載の符号1「車両用シート装置」、意匠登録第583027号「座席」、イ号相当部分につき、意匠登録第300992号の類似5「車輌用椅子」、意匠登録第406652号「車輌用椅子」等参照。)、それだけではさほど注意を惹きつけることにはなりにくいものであるが、枕部の有無と合わせて見てみると、本件当該部分は、左右両側の膨出部が強調されて、頭部を抱え込むようにして、それぞれのヘッドレスト部がやや離間したような印象を与えることは否めないのに対して、イ号相当部分は、並列するヘッドレスト部の中央側の隙間が僅かなもので、かつ、左右両側の膨出部間に、膨出部で挟まれるように、枕部が設けられることによって、膨出部と枕部とがやや窮屈そうにしながら、左右に並列するヘッドレスト部がそれぞれ詰め寄せて一体的に連結したような印象を与えることになって、他の相違と相俟って、これらの印象の差が際立ち、両意匠の部分の相違感をより強調することになる。したがって、この相違点(エ)各ヘッドレスト部の左右両側面の形状の相違は、類否判断に一定程度の影響を及ぼすものである。
相違点(オ)各ヘッドレスト部の前面形状の相違は、本件当該部分の左右両側の膨出部を除く中央部分が、上方から下方に向かって、前方へ極僅かに膨らむ湾曲面状としながら、逆方向へと滑らかに極僅かに凹む湾曲面状として、柔らかな曲面体を表出するのに対して、イ号相当部分は、ヘッドレスト部の前面に設けられる枕部がヘッドレスト部本体から大きく飛び出し迫り出した上に、その枕部前面を垂直の平坦面状とし、段状の立体感のある平面体を表出するものであり、また、左右両側の膨出部の内面形状も、両者の椀曲面状か平坦面状かの相違もさることながら、本件当該部分は、膨出部が目立ち、膨出部の内面が膨出部の柔和な突出感を醸し出す一要素となるのに対して、イ号相当部分は、枕部が左右両側の膨出部で挟まれ、枕部が視覚的に目立ち、相対的に左右両側の膨出部の膨出感が減殺されて、膨出部の内面が膨出部を強調する要素とはなりにくいことから、両意匠の部分の各ヘッドレスト部の前面形状は視覚的印象が全く異なるものであり、この相違点(オ)各ヘッドレスト部の前面形状の相違が類否判断に及ぼす影響は大きいものである。
相違点(カ)各ヘッドレスト部の背面形状の相違は、斜め上方から見た斜視状態において、背面側に隠れて見えない部分である上、この種乗物用座席の分野において種々に見られるバリエーション定款の範囲の僅かな差に過ぎことから、殆ど需要者の注意を惹くものではない。
相違点(キ)読書灯の取付け枠とレンズカバーの形状の相違及び相違点(ク)手摺りの上部形状の相違は、読書灯及び手摺りだけを見れば、両意匠の部分の形状の相違は容易に識別できるものであって、一方で、基本的構成態様である共通点(A)の形状に対する評価・検討の項で述べたように、相違点(ア)の枕部の有無の相違によって、両意匠の部分の視覚的印象がまったく異なってくるものの中では、他の相違点、とりわけ、(エ)各ヘッドレスト部の左右両側面の形状の相違や(オ)各ヘッドレスト部の前面形状との相違も加味されて、ここでの相違点(キ)読書灯の取付け枠とレンズカバーの具体的な形状の相違及び相違点(ク)手摺りの上部の具体的な形状の相違が際立ってくるものであるから、相違点(キ)読書灯の取付け枠とレンズカバーの形状の相違及び相違点(ク)手摺りの上部形状の相違は、他の相違点と互いに相乗して相違感をより増幅させることになり、相違点(キ)読書灯の取付け枠とレンズカバーの形状の相違及び相違点(ク)手摺りの上部形状の相違が類否判断に及ぼす影響は、決して小さいものではない。
そして、共通点及び相違点を総合すると、共通点(A)?(C)の形状が類否判断に及ぼす影響は、いずれも微弱なものであり、一方の相違点(ア)ヘッドレスト部の前面の枕部の有無の相違は、類否判断を決定付ける程のものであって、加えて、他の相違点、とりわけ、相違点(エ)各ヘッドレスト部の左右両側面の形状、相違点(オ)各ヘッドレスト部の前面形状並びに相違点(キ)読書灯の取付け枠とレンズカバーの形状の相違及び相違点(ク)手摺りの上部形状の相違とが互いに相乗して相違感をより増幅させることになることから、これらの相違点の相俟って生じる視覚的効果は、両意匠の部分に強く異なる視覚的印象を与えることになって、総じて、意匠全体として両意匠に異なる美感を起こさせるものである。
以上のとおりであり、両意匠は、意匠に係る物品が類似するが、両意匠の部分の形状において、相違点が共通点を凌駕することとなって、意匠全体として両意匠に異なる美感を起こさせることになることから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似しないものである。

5.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2012-02-22 
出願番号 意願2004-38396(D2004-38396) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (D2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植山 陽子並木 文子 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 遠藤 行久
杉山 太一
登録日 2005-08-12 
登録番号 意匠登録第1251923号(D1251923) 
代理人 鈴木 秀昭 
代理人 名古屋国際特許業務法人 

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