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審決分類 審判    C4
管理番号 1256327 
審判番号 無効2011-880005
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-27 
確定日 2012-02-20 
意匠に係る物品 頭皮洗浄具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1071606号「頭皮洗浄具」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,「登録第1071606号意匠についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証の書証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
登録第1071606号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面に十分表されておらず,その形状を具体的に特定することができないから,意匠法第3条第1項柱書に規定する「意匠」(工業上利用することができる意匠)に該当せず,同柱書違反の無効理由を有するから,意匠法第48条第1項第1号の規定により,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「頭皮洗浄具」とし,その形状は,意匠公報(甲第1号証)に示すとおりである。
(2)被請求人が別件侵害訴訟で主張する本件登録意匠の構成
別件侵害訴訟(東京地裁 平成22年(ワ)第46849号意匠権侵害行為差止等請求事件)において,被請求人(原告)は,本件登録意匠の構成について,以下のとおり主張している(甲第2号証)。
「把持部」は,「基台部」及びこれと一体に繋がる「指掛部」からなり,平面視円形状とする基台部の上面を弧面状に膨出させ,把持部の背(正)面視形状を略「凸」字状として指掛部を内側に湾曲する薄い壁面状に立ち上げ,指掛部と基台部からなる把持部全体の右側面視(外方辺)を略逆「フ」字状とし,指掛部(内方辺)を正面側に向けて湾曲して設けたものである。指掛部は,基台部の背面側の中央寄りから側面視円弧状に設けられて平面視形状を背面側から正面側に向かって急激に広がる略しゃもじ状とした薄い支え部を有し,背面側の指掛部の側面部付け根付近に小型円形状孔部を形成したものである。
(3)請求人が主張する本件登録意匠の構成
これに対し,請求人(被告)は,別件侵害訴訟において,本件登録意匠の構成について,以下のとおり主張している(甲第3号証)。
「把持部」は,「基台部」及びこれと一体に繋がる「指掛部」からなり,平面視楕円状とする基台部の上面を,中央部が把持部全高の略1/2の高さに至るまでドーム状に盛り上がるように膨出させ,その正面側については,外縁部から中央部に至るまで連続的に盛り上がるように隆起させる一方,その背面側については,正面側とは対照的に,指掛部の左右両側に下方に大きく湾曲する凹曲面を形成することにより基台部外周との境界に稜線を形成するとともに基台部外周に帯状の外周面を形成し,把持部の背面視形状を略「凸」字状として指掛部を内側に湾曲する薄い壁面状に立ち上げ,指掛部と基台部からなる把持部全体の右側面視(外方辺)を略逆「フ」字状とし,指掛部(内方辺)を正面側に向けて湾曲して設けたものである。指掛部は,基台部の背面側の中央寄りから側面視円弧状に設けられて平面視形状を背面側から正面側に向かって急激に広がる略しゃもじ状として正面側端部に略直線状部を形成した薄い支え部を有し,背面側の指掛部の側面部付け根付近に小型円形状孔部を形成したものである。
(4)意匠法第3条第1項柱書違反
【構成態様1】は,その背面側において,基台部から指掛部に亘って「凹曲面」(以下,「本件凹曲面」という。)を備えた態様である。これは,請求人(被告)が別件侵害訴訟において主張する構成に対応している。これに対し,【構成態様2】は,背面側に本件凹曲面を備えておらず,正面側と背面側の形状が,稜線の有無を除いて,ほぼ同じように形成されている態様である。被請求人(原告)は,「指掛部に『大きく湾曲した凹曲面を形成』していない」「基台部の背面側には稜線があるのみで,基台部の背面側も正面側と同じように指掛部になだらかに接合している」と主張しており,本件凹曲面を有しないとしている。【構成態様1】及び【構成態様2】ともに,本件登録意匠の願書の記載及び願書に添付した図面の記載と整合的に理解することができる。
本件凹曲面は,基台部から指掛部に亘って形成され,本件登録意匠の背面側の大きな範囲を占めるだけでなく,形態的にも極めて特徴的であり,基台部と指掛部の接合関係(指掛部の立ち上がり具合)にも影響するから,その有無は本件登録意匠の要旨に大きな影響を及ぼすものである。また,本件凹曲面は,本件登録意匠の基台部がドーム状に大きく膨出しているからこそ形成し得るものであり,また目立つことになるから,本件凹曲面の意匠的意義は,基台部上面がドーム状に大きく膨出している点と切り離すことができない。そして,基台部上面がドーム状に大きく膨出している点は,本件凹曲面が存在するための必要不可欠の前提となるものである。したがって,本件凹曲面の有無は,基台部上面がドーム状に大きく膨出している点の評価にも大きな影響を与えるものである。さらに,本件凹曲面の有無によって,基台部の形状がその正面側と背面側とで異なるのか,それとも同じような態様であるのかが変わってくることになる。そして,本件凹曲面が存在する場合は,基台部全体もうねりのある動的な印象を与えることになる。このように,本件凹曲面の有無は,本件登録意匠の全体的印象だけでなく,各部の評価にも大きな影響を及ぼすものである。
以上のとおり,本件登録意匠は,願書の記載及び願書に添付した図面によっては,その形状を具体的に特定することができないから,意匠法第3条第1項柱書に規定する「意匠」(工業上利用することができる意匠)に該当せず,同柱書違反の無効理由を有するものである。
よって,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第1号の規定により,無効とされるべきである。
(5)上申書
請求人は,さらに平成23年11月11日付けの上申書を提出し,甲第5号証及び甲第6号証を提出し,本件登録意匠がその形状を具体的に特定することができないものであるとして,【構成態様3】及び【構成態様4】のような形状も想定し得るとしている。【構成態様3】は,本件凹曲面が【構成態様1】よりもさらに下方に抉れて,基台部上面に明確な窪み(基台部の外縁よりもさらに下方に凹曲した窪み)が形成される態様を表している。【構成態様3】をさらに3次元的に表示したものが甲第5号証である。また,本件登録意匠は,背面側における本件凹曲面の有無,その態様及び程度だけでなく,正面側の態様においても特定性を欠いているものである。この点については,甲第6号証に示すとおりである(以下,これを【構成態様4】という)。【構成態様4】では,基台部の正面側に,基台部の頂部から下方に向けて放射状に複数の凹条(図示例では2条の凹条)が形成されており,この結果,基台部の正面側全体が波打ち状ないし凹凸状に形成されている態様を表している。

3.証拠方法
・甲第1号証 意匠登録第1071606号公報(本件意匠公報)
・甲第2号証 別件侵害訴訟の訴状
・甲第3号証 別件侵害訴訟の被告第1準備書面
・甲第4号証 別件侵害訴訟の原告準備書面(1)
・甲第5号証 【構成態様3】をCD-ROMに電子データとして記録したもの
・甲第6号証 【構成態様4】をCD-ROMに電子データとして記録したもの

第2 被請求人の答弁及び理由
被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める旨の答弁をし,証拠として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1.答弁の理由
(1)意匠の特定について
意匠の具体的特定に当たっては,「その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて」具体的内容が導き出されるか否かが判断されなければならない。そして,「意匠として保護されるのは,願書の記載及び願書に添付した図面等を通じて把握される無体の財産としての物品に関する美的創作であるので,願書の記載及び願書に添付した図面等から,美的創作として出願された意匠の内容について,具体的な一の意匠として導き出すことができればよく,願書に添付した図面等についてみれば,必ずしも製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されていることが必要となるものではない」のである(意匠審査基準21.1.2参照)。さらに,万が一不明瞭な部分があったとしても,「その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて総合的に判断した場合に合理的に善解し得る」ものや「いずれが正しいか未決定のまま保留しても意匠の要旨の認定に影響を及ぼさない程度の微細な部分」については,「具体的な意匠と認められる」のである(意匠審査基準21.1.2参照)。
大阪地裁昭和46年12月22日判決(乙第2号証)も,図面の不一致に関する裁判例であるが,意匠の特定について,「符号しない箇所を当業者の常識をもって合理的に善解しうる余地があるか,上記不一致の箇所のいずれが正しいかを未決定のまま保留しても,それが全体の意匠の把握に大した影響を及ぼさない程度の微細な点である場合には可能な限り上記図面の記載と統一的,総合的に判断して創作者の意図した意匠の具体的構成の究明につとめるのが条理上自然な解釈態度である。」としている。
以上を要するに,意匠の特定とは,そもそも物品の美的外観たる意匠の内容として具体的な一つの意匠を導き出すことであり,そもそも高度な正確性が要求されているものではなく,その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて判断する必要があり,そのような前提のもとにおいて,具体的な一つの物品の美的外観たる意匠を導き出すことができれば足り,仮に微細な部分について不明瞭な部分があったとしても,なお具体的に特定された意匠と認められるのである。
(2)本件登録意匠の特定性について
本件登録意匠は,6面図のみから物品の美的外観としての一つの意匠を導き出すことができ,仮に製品設計図面のような正確さがなかったとしても,本件登録意匠の属する分野における通常の知識に基づいて,具体的に特定された意匠と認めることができることは明らかである。このことは,本件登録意匠が審査主義を採用する我が国の意匠制度の下,何ら拒絶理由を受けることなく登録査定を受け,かつ,職権主義の下において意匠法第3条柱書を前提とする意匠法第3条第2項を無効理由とする無効審判請求(無効2010-880002号)に対して,請求不成立との審決を受けていることからも,明らかである。
また,本件曲面について,請求人が審判請求書で示す【構成態様2】のほかに,仮に請求人が【構成態様1】として示すような凹曲面を強いて想定することができるとしても,かかる本件曲面の具体的態様といった微細な部分は,本件登録意匠の特定に影響を及ぼさないことは明らかである。言い換えれば,請求人の主張は,かかる具体的に特定される意匠の中の微細な点において殊更に想定を試みた形状の可能性についての言及にすぎない。
したがって,本件曲面の具体的態様は,本件登録意匠の要旨に影響を及ぼすものではなく,本件登録意匠は願書の記載及び願書に添付された図面から十分に特定されている。
(3)意匠法第3条第1項柱書等に関する裁判例について
過去の意匠法第3条第1項柱書違反に関する裁判例・審決例においては,主として6面図等図面相互間の矛盾,不一致に関するものについて意匠法第3条第1項柱書違反とされた例が存在するが,本件登録意匠には6面図相互間の矛盾,不一致等はなく,本件と事案を異にする。もっとも,そのような中にあっても,大阪地裁昭和63年12月22日判決(乙第3号証)が「侵害訴訟の場において登録意匠の内容ないしその類似範囲を検討する場合には,・・・願書及び添付図面の記載内容並びに当該意匠に係る物品の形状を総合的に勘案し,当該意匠の創作者が意図した意匠の具体的な構成がどのようなものであったかを当業者の立場から合理的,客観的に判断し,・・・具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうる場合には,・・・合理的に想定される意匠をもって当該登録意匠の内容をなすものと認めるのが想到である。」のように論じていることは,本件についても参考となる。本件については,図面相互の矛盾や不一致は存在しないが,仮に本件曲面の具体的態様について高度な正確性をもって特定できないものであったとしても,本件登録意匠に係る物品の性状を総合的に勘案し,当業者の立場から合理的,客観的に判断して,具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうるのであり,本件登録意匠の特定について何ら問題がないことは明らかである。
(4)結び
以上の次第により,本件登録意匠は,願書の記載及び願書に添付された図面から充分に具体的に特定されていることは明らかであり,意匠法第3条第1項柱書に違反しない。

2.証拠方法
・乙第1号証 無効2010-880002意匠審決公報
・乙第2号証 大阪地裁昭和46年12月22日判決
・乙第3号証 大阪地裁昭和63年12月22日判決

第3 当審の判断
当審は,本件登録意匠が願書の記載及び願書に添付された図面の記載から充分に具体的に特定されており,意匠法第3条第1項柱書が規定する「工業上利用することができる意匠」としての要件を満たしているので,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項柱書に違反して意匠登録を受けたものということはできないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1071606号の意匠)は,物品の部分について意匠登録を受けたものであり,平成11年2月1日に意匠登録出願され,平成12年3月3日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「頭皮洗浄具」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものであって,「実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である」としたものである(別紙第1参照)。
すなわち,本件登録意匠において意匠登録を受けようとする部分(以下,本項においては,この部分の意匠を「本件登録意匠」ということとする。)は,頭皮洗浄具の本体である「基台部」(以下,「基台部」という。)及びこれと一体的に形成された「把持部」(以下,「把持部」という。)により構成されるものであって,平面視略縦長楕円形状とし,上面を凸弧面状に膨出させた基台部の平面視,中央上端から略中央部に把持部を設けたものであって,その把持部は,正面視形状を略「T」字状として略双曲線状に湾曲する薄い壁面状に立ち上げ,把持部と基台部の側面視を略逆「フ」字状とし,背面側に凹湾曲状としたものであって,基台部の正面側の中央寄りから側面視円弧状に立設され,平面視形状を正面側(平面視中央上端)から背面側に向かって急激に広がる略倒立「しゃもじ」状とした薄い支え部を有し,正面側の把持部の側面部付け根付近に小型円形状孔部を形成したものである。

2.請求人が主張する無効理由について
請求人は,本件登録意匠は,願書の記載及び願書に添付した図面に十分表されておらず,その形状を具体的に特定することができないから,意匠法第3条第1項柱書に規定する「意匠」(工業上利用することができる意匠)に該当せず,同柱書違反の無効理由を有するから,意匠法第48条第1項第1号の規定により,その登録を無効とすべきであると主張するので,以下,検討する。
請求人は,本件登録意匠の基台部について「平面視楕円状とする基台部の上面を,中央部が把持部全高の略1/2の高さに至るまでドーム状に盛り上がるように膨出させ,その正面側については,外縁部から中央部に至るまで連続的に盛り上がるように隆起させる一方,その背面側については,正面側とは対照的に,指掛部の左右両側に下方に大きく湾曲する凹曲面を形成することにより基台部外周との境界に稜線を形成するとともに基台部外周に帯状の外周面を形成し」ていると主張し,【構成態様1】及び【構成態様2】を請求理由中に,【構成態様3】及び【構成態様4】を平成23年11月11日付けの上申書の甲第5号証及び甲第6号証としてCD-ROMに電子データとして記録したものを提出している。そして,「本件凹曲面の有無は,本件登録意匠の全体的印象だけでなく,各部の評価にも大きな影響を及ぼすものである。」として,本件登録意匠が,願書の記載及び願書に添付した図面によっては,その形状を具体的に特定することができないから,意匠法第3条第1項柱書に規定する「意匠」(工業上利用することができる意匠)に該当せず,無効理由を有するとしたものである。
基台部から把持部に連続する曲面について,断面図がないと確かにどのような曲面で面が繋がっているかが明瞭とはいえず,外形線の線図で表された正面図,背面図,右側面図,平面図及び底面図のみからでは,請求人が主張するように凹曲面が存在するとする余地が絶対にないものであるとは言い切れない。
しかしながら,請求人が主張する背面側の凹曲面(以下,「凹曲面」という。)の有無については,断面図が表されていなければ,外形線の線図で表された図面から考えて,【構成態様2】のように凹曲面がないとするのが自然であり,凹曲面を有するとするのであれば,むしろその立体形状が明瞭となるように断面図や参考図等を提出し,積極的に開示しなければ,その存在が分からないものであるところ,意匠登録出願に関する法令によれば,断面図や参考図等は,一組の図面だけでは,その意匠を十分表現することができないときに,意匠の理解を助けるために必要となる図面であるのであるから,本件登録意匠について断面図が提出されていないからといって,必ずしも意匠法第3条第1項柱書に規定する意匠に該当するものとはならず,直ちにその意匠登録を無効とすべきものとはならない。
仮に,意匠が当該図面上においてその形態が隅から隅まで明瞭でない場合であっても,意匠審査基準が「例えば,願書又は願書に添付した図面等に誤記や不明瞭な記載などの記載不備を有していても,それが以下のいずれかに該当する場合は,具体的な意匠と認められる。」として,「その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて総合的に判断した場合に合理的に善解し得る場合」と「いずれが正しいか未決定のまま保留しても意匠の要旨の認定に影響を及ぼさない程度の微細な部分についての記載不備である場合」(意匠審査基準21.1.2)を挙げているのは,そのような意匠表現の自然で合理的な考え方を示す一例であって,これを本件登録意匠に当てはめて考察するに,本件登録意匠は,特許庁におけるその出願経過において,方式審査での不備で指令をかけられることも,審査において拒絶の理由の通知を受けることもなく登録されたものであり,たとえ曲面部に凹曲面を有するかもしれない余地が残っていたとしても,それは,微細な部分についての記載不備といえ,いわゆる当業者の知識に基づいて総合的に判断した場合,合理的に善解すれば,本件登録意匠は,請求人が提出した凹曲面がない【構成態様2】のように考えられるものであって,意匠が具体的に表されていないものであるとまでは,いうことができないものである。
侵害事件における判決においても,大阪地裁昭和63年12月22日判決昭和59年(ワ)第6494号(乙第3号証)において「侵害訴訟の場において登録意匠の内容ないしその類似範囲を検討する場合には,・・・願書及び添付図面の記載内容並びに当該意匠に係る物品の形状を総合的に勘案し,当該意匠の創作者が意図した意匠の具体的な構成がどのようなものであったかを当業者の立場から合理的,客観的に判断し,・・・具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうる場合には,・・・合理的に想定される意匠をもって当該登録意匠の内容をなすものと認めるのが想到である。」と説示しているのは,同様な考え方を示すものである。
以上のとおりであって,請求人が主張するような本件登録意匠の具体的態様について,設計・製作図面やCADデータのような高度な正確性をもって特定できないものであったとしても,「意匠」としては,本件登録意匠に係る願書及び添付図面の記載内容を総合的に勘案し,当業者の立場から合理的,客観的に判断して,具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうるものといえ,本件登録意匠が具体的な意匠として特定しないものであるとはいうことができない。
本件登録意匠は,前記の当審の判断の1.本件登録意匠の項で述べたとおり,「平面視略縦長楕円形状とし,基台部の上面を凸弧面状に膨出させた,平面視,中央上端から略中央部に把持部を設けたもの」と認定できたところであるから,その不備等は軽微なものであるとして取り扱っても差し障りのない範囲のものといえる。
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当するものであるとするのが相当である。

3.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項柱書に規定する意匠に該当しないとする請求人の主張は採用することができず,意匠法第48条第1項第3号の規定に該当しないものであるから,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2011-12-22 
結審通知日 2011-12-27 
審決日 2012-01-11 
出願番号 意願平11-1899 
審決分類 D 1 113・ 14- Y (C4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 善民久保田 大輔 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 橘 崇生
瓜本 忠夫
登録日 2000-03-03 
登録番号 意匠登録第1071606号(D1071606) 
代理人 中村 勝彦 
代理人 加藤 実 
代理人 木村 俊之 
代理人 田中 克郎 
代理人 佐藤 力哉 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 鈴江 正二 

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