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審決分類 審判    C1
審判    C1
管理番号 1256328 
審判番号 無効2011-880003
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-04 
確定日 2012-04-12 
意匠に係る物品 タイルカーペット 
事件の表示 上記当事者間の登録第1289529号「タイルカーペット」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯及び両当事者が提出した証拠
1.手続の経緯概要
本件意匠登録第1289529号「タイルカーペット」の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,概要以下の(1)?(4)の手続を経た後,当審において,概要以下(5)の手続を経たものである。

(1)意匠登録出願
・2004年(平成16年)11月29日 意匠登録出願(意願2004- 36237)(意匠法第4条第2項(新規性の喪失の例外の規定)の適用申請を伴う)
・2005年(平成17年) 8月 9日 拒絶査定
(2)拒絶査定不服審判
・2005年(平成17年) 9月16日 審判請求(査定不服2005-17895)
・2006年(平成18年) 9月12日 審決(請求成立:取り消して登録)
(3)意匠登録
・2006年(平成18年)11月17日 意匠権の設定の登録(意匠登録第1289529号)
・2006年(平成18年)12月25日 意匠公報発行
(4)意匠登録無効審判(第1次:当事者は本件事件と同一。)
・2010年(平成22年) 9月30日 審判請求(無効2010-880013)
・2010年(平成22年)10月13日 予告登録
・2010年(平成22年)11月30日 審判事件答弁書
・2011年(平成23年) 1月26日 無効審判弁駁書
・2011年(平成23年) 5月12日 審決(請求不成立:無効としない)

(5)本件意匠登録無効審判請求事件
・2011年(平成23年) 4月 4日 本件審判請求
・2011年(平成23年) 4月21日 予告登録
・2011年(平成23年) 6月 6日 審判事件答弁書
・2011年(平成23年) 7月 7日 無効審判弁駁書
・2011年(平成23年) 8月 2日 審理事項通知書
・2011年(平成23年) 9月14日(9月12日差出) 口頭審理陳述要領書(請求人)
・2011年(平成23年) 9月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
・2011年(平成23年)10月12日 口頭審理開廷
・2011年(平成23年)10月12日 口頭審理陳述要領書補充書(請求人)
・2011年(平成23年)10月17日 審尋(請求人に対して)
・2011年(平成23年)10月28日 回答書(請求人)
・2011年(平成23年)11月 2日 上申書(被請求人)


2.請求人が提出した証拠等
(注:「甲第1号証」は,「甲1」と記し,その他の各号証も同様とする(以下,同じ。)。)
・審判事件請求書に添付
甲1 「SQ.PRO(2003-2006)」(カタログの写し)
立証趣旨 本件登録意匠がその出願前の頒布された刊行物記載の意匠と類似である事実等
甲2 「Canyon」(カタログの写し)
立証趣旨 本件登録意匠がその出願前公知であった意匠と類似である事実等
甲3 特許庁意匠課公知資料番号第HH15012167号
立証趣旨 本件登録意匠の出願前に公知であった意匠の模様・形状等
甲4 「SQ.PRO(2006-2009)」(カタログの写し)
立証趣旨 甲1の2006版に記載されたタイルカーペットの意匠の形状等

・無効審判弁駁書に添付。
甲5 「SQ.PRO(2003-2006)」(甲1)のうち34ページ目(カタログの写し)
立証趣旨 甲1が発刊されたのが,遅くとも2003年9月ころであった事実等
甲6 マニントン社「Canyon」の力タログ詳細資料
立証趣旨 甲2の外観及び裏表紙貼付の大判サンプルをめくることができる事実及び大判サンプルによって隠れた部分の外観等
甲7の1 拡大コピー(甲2の大判サンプルの下に隠れている裏表紙の記載を144%に拡大したもの)
立証趣旨 甲2裏表紙の記載内容等
甲7の2 翻訳文
立証趣旨 甲7の1の翻訳内容等
甲8の1 アメリカ合衆国著作権庁データベース
立証趣旨 「Canyon」が1999年6月21日,同庁において著作権登録がなされている事実等
甲8の2 翻訳文
立証趣旨 甲8の1の翻訳内容等
甲9の1 「MANNINGTON社」製造のタイルカーペット「Canyon」について
立証趣旨 甲2が「MANNIMGTON社」の製品であり,2003年(平成15年)ころまで販売されていた事実
甲9の2 翻訳文
立証趣旨 甲9の1添付の電子メールの翻訳内容
甲10 準備書面(2)
立証趣旨 被請求人の侵害訴訟における主張内容等(蛇行線模様を構成する線分の長さという相違点が類否判断に影響を及ぼすことがないことを被請求人も自認している事実)
甲11 審決
立証趣旨 無効審判請求(2010-880013)に対する審決の内容

・平成23年9月14日付け(9月12日差出)口頭審理陳述要領書に添付
別紙1 「カーペットタイルにおける柄表現のデザイン常識・技術常識について」
別紙2 (タイトルなし:当審注)

3.被請求人が提出した証拠等
(注:「乙第1号証」は,「乙1」と記し,その他の各号証も同様とする(以下,同じ。)。)
・審判事件答弁書に添付
乙1 「インテリアファブリック」
(http://r-homeworks.com/top_files/1216.pdf)

・平成23年9月28日付け口頭審理陳述要領書に添付
乙2 [マニントン社ウェブサイト]
乙3 [マニントン社ウェブサイト]「Canyon Point」
乙4 [マニントン社ウェブサイト]「Canyon Ridge」
乙5 「シンコール社・スクエアタイルカーペット・プロ見本帳」「ストーム」,「エグザス」


第2 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は,「登録第1289529号意匠の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,要旨以下のとおり主張した。

1.意匠登録無効の理由の要点
(1)本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された意匠と類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。(以下,「無効理由1」という。)
(2)本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公然知られた甲2の意匠と類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。(以下,「無効理由2」という。)
(3)本件登録意匠は,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合である甲1乃至甲3に基づいて容易に創作をすることができるものであり,同法第3条第2項の規定により意匠登録できないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。(以下,「無効理由3」という。)

2.本件意匠登録を無効とすべき理由
(1)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
(ア)甲1
文献名:SQ.PRO
発行者:シンコールカーペット株式会社
公知日:平成15年ころ
甲1は,本件登録意匠の出願前,平成15年ころまでに頒布された刊行物であり,同刊行物に記載されたタイルカーペットの意匠(製品名「アルテア」。以下,「先行意匠<1>」という。)。
(イ)甲2
甲2は,本件登録意匠の出願前,遅くとも請求人が甲2を輸入した平成13年7月31日(甲2受付印参照)までに公知となったタイルカーペットの意匠(製品名「Canyon」。以下,「先行意匠<2>」という。)である。
(ウ)甲3
甲3は,本件登録意匠の出願前,平成15年5月10日に頒布された「ドイツ意匠公報」第2301頁所載の「じゅうたんの意匠」(特許庁意匠課公知資料番号第HH1501267号。以下,「先行意匠<3>」という。)である。

(2)本件登録意匠と先行意匠との対比
(ア) 先行意匠<1>との類否
i 両意匠の共通点
本件登録意匠と先行意匠<1>は,共に意匠に係る物品をタイルカーペットとするものである。
そして,本件登録意匠と先行意匠<1>は,基本的構成態様において一致している。
ii 両意匠の差異点
他方,本件登録意匠と先行意匠<1>との間には,以下の点において微細な差異点が存在する。
[具体的構成態様]
(e)平面視において,本件登録意匠の波型の線模様は,一本ごとに短い複数の曲線を集めてなるのに対し,先行意匠<1>の線模様は上端から下端までつながった一本の線からなる。
(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠<1>は3色の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなる。
iii 両意匠の類否
(A)具体的構成態様のうち本件登録意匠(f)と先行意匠<1>(f1)の点における差異については,本件登録意匠が図面に代えてモノクロ写真を添付して出願されたものであり,色彩は意匠を構成していないことから,類否判断において差異として考慮する必要がない。
(B)そこで,本件登録意匠(e)と先行意匠<1>(e1)の点について検討する。
本件登録意匠の波形の線模様は,上端から下端までつながった一本の線からなる形状ではなく,一本ごとに短い複数の線分を集めてなっているのに対し,先行意匠<1>の波形の線模様は,上端から下端までがつながった一本の線からなっているという点で,本件登録意匠と先行意匠<1>との間には差異が存在する。
しかし,本件登録意匠の波形の線模様は,微視的には上下方向の短い線分を,わずかに左右位置にずらしながら上下に順に並べることで波形を形成するという視覚的効果により,離隔的には短い線分が1つの波形の曲線に見えるというものである。
したがって,波形の線模様が短い線分を集めたものであるか一本の線であるかの相違は,複数枚を組み合わせて床に敷いて使用するというタイルカーペットの分野における看者にとっては,全体に線状の不規則な波形の線模様を縦に表したという点で共通するものであり,その相違の存在は,タイルカーペットの表面全体に線状の不規則な波模様を縦に表したという共通の印象以上に美感に差異を与えるものではない。
この点,前記のとおり,本件登録意匠と先行意匠<1>との間において,(e)の点における差異は,両意匠の共通の印象以上に美感の違いを生じさせていない。
したがって,線模様が微視的にどのような構成をとっているかは微差に過ぎないのであり,(e)の点における差異は微差にすぎない。
(C)また,本件登録意匠と先行意匠<1>とは,波形の幅や波の出現頻度において差異が見られるが,かかる点も,その弧の大きさや出現頻度等に一般的な波形と異なる特徴的な点はなく,全体に線状の不規則な波形の線模様を縦に表したという共通の印象を与えるにとどまるものであって,同じく類似の範囲を出ないものである。
(D)以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠<1>との差異点は,いずれも微差にすぎない。
iv 小括
以上のように,本件登録意匠は先行意匠<1>と基本的構成態様を同じくするものであり,具体的構成態様において存在する差異も微差に過ぎないものであるから,甲1記載の先行意匠<1>と類似するものである。

(イ) 先行意匠<2>との類否
i 両意匠の共通点
(A)本件登録意匠と先行意匠<2>は,共に意匠に係る物品をタイルカーペットとするものである。
(B)本件登録意匠と先行意匠<2>とは,基本的構成態様のうち(a)乃至(c)の点において共通である。
加えて,(d)のうち,平面視において描かれている線模様が,一定の形状に描かれていないという点についても,両意匠は共通している。
(C)また,両意匠は,具体的構成態様のうち,(e)の点において共通である。
ii 両意匠の差異点
他方,本件登録意匠と先行意匠<2>との間には,以下の点において微細な差異点が存在する。
[具体的構成態様]
(d)平面視において描かれた線模様であって,一定の形状に描かれていない線模様が,本件登録意匠では一本ごとにその形状が異なっているのに対し,先行意匠<2>の線模様は,無秩序にその形状が異なっている。
(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠<2>は平面視において,濃淡の異なる茶色のパイルが無作為に植え込まれてなる。
(g)本件登録意匠の波形を構成する曲線と曲線との間はほぼ等間隔であるのに対し,先行意匠<2>の波形を構成する曲線と曲線との間隔は不等間隔である。
iii 両意匠の類否
(A)まず,(f)の点における差異については,本件登録意匠が図面に代えてモノクロ写真を添付して出願されたものであり,色彩は意匠を構成していないことから,類否判断において差異として考慮する必要がない。
(B)したがって,本件登録意匠と先行意匠<2>との差異点は,基本的構成態様における(d)の点及び(g)の点にある。
つまり,本件登録意匠と先行意匠<2>との間には,本件登録意匠においては,線分を集めてなる波形線模様が一本ごとに描かれているのに対し,先行意匠<2>は波形線模様を形成する線分と線分との間隔が縦方向及び横方向で不等間隔であり,描かれた線模様が無秩序に描かれているとの点でわずかに差異が存在している。
そして同じく,線模様を形成するそれぞれの線分の間隔がほぼ等間隔か不等間隔かという(g)の差異点も,両意匠の美感において離隔的には短い線分が1つの波形の曲線に見えるという視覚効果以上の差異を生じさせていない。
(C)以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠<2>に存在する差異は微差に過ぎない。
iv 以上のように,本件登録意匠は先行意匠<2>と基本的構成態様及び具体的構成態様をほとんど同じくするものであり,存在する差異も微差に過ぎないものであるから,本件登録意匠出願前に公知であった甲2の先行意匠<2>と類似するものである。

(3)意匠法第3条第1項第3号に関する主張のまとめ
以上の次第であるから,
(ア)本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された先行意匠<1>と類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(イ)本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公然知られた甲2の先行意匠<2>と類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

(4)創作容易性について
以上のとおり,本件登録意匠は先行意匠<1>及び同<2>と類似するものであるが,同時に,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公然知られた先行意匠<1>乃至同<3>を単純に組み合わせただけのものであり,当業者にとって容易に創作が可能なものである。
(ア)本件登録意匠と先行意匠<1>との差異点
前記のとおり,本件登録意匠と先行意匠<1>とは,基本的構成態様において共通であり,具体的構成態様において,以下の差異点が存在する。
[具体的構成態様]
(e)平面視において,本件登録意匠の波型の線模様は,一本ごとに短い複数の曲線を集めてなるのに対し,先行意匠の線模様は上端から下端までつながった一本の線からなる。
(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠<1>は3色の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなる。
(イ)本件登録意匠と先行意匠<2>との差異点
前記のとおり,本件登録意匠と先行意匠<2>とは,基本的構成態様(a)乃至(c)の点及び(d)のうち,平面視において,線模様が一定の形状に描かれていない点,並びに具体的構成態様(e)の点において共通であり,他方,以下の差異点が存在する。
[基本的構成態様]
(d)平面視において描かれた線模様であって,一定の形状に描かれていない線模様が,本件登録意匠では一本ごとにその形状が異なっているのに対し,先行意匠<2>の線模様は,無秩序にその形状が異なっている。
(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠<2>は平面視において,濃淡の異なる茶色のパイルが無作為に植え込まれてなる。
(g)本件登録意匠の波形を構成する曲線と曲線との間はほぼ等間隔であるのに対し,先行意匠<2>の波形を構成する曲線と曲線との間隔は不等間隔である。
(ウ)本件登録意匠と先行意匠<3>との比較
i 両意匠の共通点
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「タイルカーペット」とするものであり,先行意匠<3>は,「じゅうたん」とするものであるところ,両者は住宅等建築物においてその底面部すなわち床として使用されるもので,需要者の使用実態において同一の物品である。
そして,その構成態様において,基本的構成態様(b)(c)(d)の点で両者は共通する。
ii 両意匠の差異点
本件登録意匠と先行意匠<3>とは,次の点で微細な差異点が存在する。
[基本的構成態様]
(a)平面視及び底面視において,本件登録意匠は略正方形であるが,先行意匠<3>は横長の略長方形である。
[具体的構成態様]
(e)平面視において,本件登録意匠の波型の線模様は,一本ごとに短い複数の曲線を集めてなるのに対し,先行意匠<3>の線模様は上端から下端までつながった一本の線からなる。
(f)平面視において,本件登録意匠は濃淡の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなるのに対し,先行意匠<3>は線模様部分以外は一面が無地である。
(エ)本件登録意匠と先行意匠<1>乃至<3>の比較
i 本件登録意匠と先行意匠<1>乃至<3>との間の差異点のうち,
(f)の点における差異については,本件登録意匠が図面に代えてモノクロ写真を添付して出願されたものであり,色彩は意匠を構成していないことから,本件登録意匠の内容として判断する必要はない。
ii また,本件登録意匠及び先行意匠<1>・<2>と先行意匠<3>との間には,(a)の点,すなわち,平面視及び底面視において,本件登録意匠及び先行意匠<1>・<2>は略正方形であるが,先行意匠<3>は横長の略長方形であるという差異があるが,これは敷物の分野において,形状として共にありふれた形状であり,いずれも方形状の範囲なので,かかる差異を考慮する必要はない。
iii 本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>は,考慮する必要のない前記(a)を除き,基本的構成態様において,共通である。
そして,(a)乃至(d)の点については,カーペットの分野において本件意匠出願前からありふれた形態である。
iv 他方,本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>の間には,(e)の点,すなわち,平面視において,本件登録意匠の波形の線模様は,一本ごとに短い複数の曲線を集めてなるのに対し,先行意匠<1>・<3>の線模様は上端から下端までつながった一本の線からなるという点で差異がある。
v しかし,かかる差異点(e)は,他方で,本件登録意匠と先行意匠<2>において共通している。
vi また,前記のとおり,これ以外にも本件登録意匠と先行意匠<2>とは,基本的構成態様(a)乃至(c)の点及び(d)のうち,平面視において,線模様が一定の形状に描かれていない点において共通している。
vii しかし,本件登録意匠と先行意匠<3>との差異点である(d)の点については,前記のとおり,本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>と共通している。
viii 以上のとおり,本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>との差異点は本件登録意匠と先行意匠<2>において共通点であり,本件登録意匠と先行意匠<2>との差異点は本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>との共通点である。
(オ)創作容易
以上のように,本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>とは,描かれている線模様が,短い複数の線分を集めてなるものなのか,上端から下端まで一本のつながった線からなるものなのかという点において差異があり,本件登録意匠と先行意匠<2>とは,巨視的には線分を集めてなる波形の線模様が,一本ごとに描かれているか,無秩序に描かれているかの点に差異がある。
しかし他方で,本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>との差異は本件登録意匠と先行意匠<2>との共通点であり,本件登録意匠と先行意匠<2>との差異点は本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>との共通点である。
したがって,本件登録意匠と先行意匠<1>乃至<3>との差異は,先行意匠<1>乃至<3>を組み合わせることにより消滅する。
つまり,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公知であった先行意匠<1>・<3>の形状・模様のうち,上端から下端まで一本の線でつながった線からなる波形の線模様を,同じく本件登録意匠の出願前に公知であった先行意匠<2>の模様である,短い複数の線分を集めてなる波形の線模様に変えただけである。
したがって,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に公知であった先行意匠<1>と先行意匠<2>とを単純に組み合わせたものにすぎない。
そして,先行意匠<1>・<2>はタイルカーペットの意匠であり,先行意匠<3>はタイルカーペットと使用態様において共通する敷物であるじゅうたんの意匠であるから,本件登録意匠は,同一分野の公知意匠を単純に組み合わせただけのものであって,タイルカーペットの分野において,当業者が当該2つの意匠を組み合わせ,本件登録意匠を創作することは容易に可能である。

(カ)意匠法第3条第2項に関する主張のまとめ
以上の次第であるから,本件登録意匠は,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合である甲1乃至甲3に基づいて容易に創作をすることができるものであり,同法第3条第2項の規定により意匠登録できないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。


第3 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は,答弁書を提出し,答弁の趣旨を「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」と答弁し,その理由を要点,以下のとおり主張した。

1.甲1を先行意匠とする無効理由に対する反論
1-1 頒布時期について
請求人は,甲1が「公知日:平成15年ころ」(審判請求書4頁16行),「本件登録意匠の出願前,平成15年ころまでに頒布された刊行物であり」(審判請求書4頁17?18行)などと主張する。
しかし,甲1には発行時期の記載がなく,本件登録意匠の登録出願時(平成16年11月29日)より前に頒布された事実の立証はない。
甲1には「2003-2006」との記載があるが,この記載のみでは,これが頒布時期を示すものであるのか否かも含めて,甲1の正確な頒布時期が不明である。
従って,甲1のみから,これが「本件意匠登録出願前に頒布された」と認めることはできず,請求人の主張は,そもそも失当である。

1-2 本件登録意匠と甲1意匠が非類似であること
上記のとおり,甲1に記載の意匠は,本件意匠登録出願前に公然知られた,または,本件意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載されたものであると認めるに足りないが,念のため,本件登録意匠と甲1意匠が非類似であることを以下に述べる。
なお,甲1には,複数の意匠が記載されているものと理解できるところ,請求人がどの意匠が本件登録意匠と類似するものと主張するかは必ずしも明確ではない。そこで,以下では,「ALT-2351」と記載のある甲12枚目上段左側の部分拡大図及び2枚目下段左側の図に記載の意匠を「甲1意匠」と善解して反論する。

1-2-1 甲1意匠
甲1意匠の形態は,以下のとおりである。
(1)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側に模様があり,裏面側は表されていない。
(2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(2-1)異なる三色のパイルによって構成された直線状の細線が交互に配列された「直線模様」と,各直線状の細線を構成するパイルの高さに高低をつけることによって発生させた,左右に不規則に蛇行した「曲線状の陰影」を組み合わせた略「縦縞模様」を基調としたものであって,
(2-2)「直線模様」を構成する直線状の細線は表面全面に隙間なく配置されており,
(2-3)各直線状の細線は,縦方向に上端から下端まで連なった一本の略直線として構成されており,
(2-4)「曲線状の陰影」は,「直線模様」と混ざり合って本数の判別は不可能であり,
(2-5)「曲線状の陰影」の形状は,全体に曖昧であるが,上端から下端までつながった一本の曲線が平面視縦方向に配置されているものである。

なお,上記「曲線状の陰影」について付言すると,甲1の2枚目下段左側の図には曲線が見えるものの,上段左側の部分拡大図の各細線を構成するパイルの色は上下方向に全て同一であり色の変化がないこと,上段左側の部分拡大図を観察すると各細線を構成するパイルが垂直方向に高さが変えられていること,甲11枚目左側の図を参照すると光の当たり方によって曲線がほとんど見えなかったり,見え方が変化することから,ループ状のパイルに高低をつけるいわゆる「マルチレベルループ」という手法により陰影をつけていることが認められるのである(乙1[「インテリアファブリック」http://r-homeworks.com/top_files/1216.pdf]3枚目参照)。

1-2-2 本件登録意匠と甲1意匠の対比
(共通点)
本件登録意匠と甲1意匠は,
(A)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体である点
(B)表面側に略「縦縞模様」が配されている点
で共通する。
(相違点)
本件登録意匠と甲1意匠は,
(ア)本件登録意匠が模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているのに対し,甲1意匠の裏面側が表されていない点
(イ)本件登録意匠の「縦縞模様」が,暗調子の地の上に,明調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された構成となっているのに対し,甲1意匠の略「縦縞模様」は,異なる三色のパイルによって構成された直線状の細線が交互に配列された「直線模様」と,各直線状の細線を構成するパイルの高さに高低をつけることによって発生させた左右に不規則に蛇行した「曲線状の陰影」を組み合わせた構成となっている点
(ウ)本件登録意匠の縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として29本前後であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されているのに対し,甲1意匠の「直線模様」を構成する直線状の細線は表面全面に隙間なく配置されており,「曲線状の陰影」は,「直線模様」と混ざり合って本数の判別が困難である点
(エ)本件登録意匠の縦縞模様を構成する縦条模様は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしている構成となっているのに対し,甲1意匠の縦縞模様を構成する各直線状の細線は,縦方向に上端から下端まで連なった一本の略直線として構成されており,「曲線状の陰影」の形状は,全体に曖昧であるが,上端から下端までつながった一本の曲線が平面視縦方向に配置されているものである点
で相違する。
(共通点の評価)
本件登録意匠と甲1意匠の共通点(A)はタイルカーペットの分野で普遍的な構成であり,共通点(B)の略「縦縞模様」は,タイルカーペットの分野によくある構成態様であり,ともに両意匠の類否判断に与える影響は乏しい。
(相違点の評価)
本件登録意匠と甲1意匠は,相違点(イ),(ウ),(エ)からも明らかなとおり,表面側の略「縦縞模様」の具体的な構成態様が全く異なる。
すなわち,本件登録意匠は表面に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」のみから構成されるのに対し,甲1意匠は「直線模様」と「曲線状の陰影」の組み合わせから構成されており,略「縦縞模様」の基調となる具体的構成がそもそも異なる。
また,甲1意匠の模様は「直線模様」と「曲線状の陰影」の組み合わせからなるものであって,このうちの「曲線状の陰影」のみを取り出して印象を比較することは妥当ではないが,仮に本件登録意匠の「縦条模様」と甲1意匠の「曲線状の陰影」だけを比較すれば,本件登録意匠の「縦条模様」は暗調子の地の上に,同一高さ(「レベルループ」)のパイルの色を変えることで明調子の細線状の模様が描かれており,模様としてはっきりとしているのに対し,甲1意匠の「曲線状の陰影」はパイルの高低差(「マルチレベルループ」)によって生じる陰影であって,全体に曖昧で形状を明確に認識することが困難であるから,両者の形状・質感・印象は大きく異なる。
そして,甲1意匠の「曲線状の陰影」を模様の一種と考えて,本件登録意匠の「縦条模様」と比較したとしても,本件登録意匠の「縦条模様」は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしている構成となっているのに対し,甲1意匠の「曲線状の陰影」は,形状自体が全体に曖昧であるが,上端から下端までつながった一本の曲線が平面視縦方向に配置されているものである。従って,本件登録意匠の「縦条模様」が複雑で込み入った態様であるのに対し,甲1意匠の「曲線状の陰影」は単純で平板な態様である。
さらに,本件登録意匠の「縦条模様」が上記のような構成を備えることにより,タイルカーペットを縦縞模様の方向に複数組み合わせて用いる(いわゆる「流し貼り」)際にも,タイルカーペットの接合部分の違和感を減少させ,看者に対してより自然な印象を与えるという効果をもたらすのに対し,甲1意匠の「曲線状の陰影」は単純で平板な態様であるため,タイルカーペットを縦縞模様の方向に複数組み合わせると違和感が生じる。これは,甲12枚目左上部の「工法」欄に「市松貼りを標準施工とします。流し貼りは目地が目立つ恐れがあります。」と記載があるとおりである(「市松貼り」とは,甲12枚目左側図のように,タイルカーペットの縦縞模様が垂直方向になる向き,と水平方向になる向きに交互に並べること)。
タイルカーペットにおいては,模様の構成態様が創作の主体となるのであるから,単に略「縦縞模様」という大きな区分で共通するとしても,その模様の具体的な構成態様に係る上記の相違点は,両意匠の類否判断に極めて大きな影響を与えるものである。

(評価の小括)
以上の共通点及び相違点の評価を総合すれば,本件登録意匠と甲1意匠の共通点(A)・(B)はいずれもタイルカーペットの分野によくある構成態様であって,両意匠の類否判断に与える影響は乏しい。
一方で,相違点(イ),(ウ),(エ)は,タイルカーペットという模様の構成態様が創作の主体となる意匠においては,その類否判断に極めて大きな影響を与えるものである。
従って,両意匠が類似しないことは明白である。

1-2-3 請求人の主張の誤り
なお,請求人による甲1意匠の構成態様の主張(審判請求書4頁21行以下)は,甲1意匠の直線模様を無視し,これらを構成するパイルを「3色の異なるパイルが無作為に一面に植え込まれてなる」(f1)としている点に明白な誤りがある。3色のパイルが「無作為に」植え込まれているのではなく,直線を形成するように整然と配置されているのは,甲12枚目下段左側の図からも見てとれるところであり,また,上段左側の部分拡大図にも明白に示されているとおりである。

1-3 小括
以上のとおり,甲1は「本件意匠登録出願前に頒布された」先行意匠であると認めることはできず,請求人の主張は,そもそも失当である。
また,本件登録意匠と甲1意匠には顕著な相違があり,類似しない。
よって,甲1を先行意匠とする意匠法第48条第1項,同法第3条第1項第3号違反の無効理由は成り立たない。

2.甲2を先行意匠とする無効理由に対する反論
2-1 公知性について
2-1-1 日付けについて
請求人は,甲2が「本件登録意匠の出願前,遅くとも請求人が甲2を輸入した平成13年7月31日(甲2受付印参照)までに公知となった」(審判請求書5頁6?8行)と主張する。
しかし,甲2の1枚目には,「受付13.7.31」との押印がなされているようであるが,これが何を意味する日付であるのかは,甲2には何ら記載されていない。
また,仮にこの受付印が第三者ではなく請求人自身によって押印されたとすれば,請求人は遡って適宜の日付を押すことが可能であり,このような押印の証明力は極めて低いものと言わざるを得ない。
従って,甲2の1枚目の「受付13.7.31」という押印のみによって,「本件登録意匠の出願前,遅くとも・・・平成13年7月31日(甲2受付印参照)までに公知となった」との事実が立証されるとの請求人の主張は首肯できない。

請求人が,甲2が輸入された日付けを立証するのであれば,一片の押印ではなく,当該物品の輸入の際に作成された原資料(例えば,輸出者の作成した送り状,納品伝票,請求書,代金支払関連の書類,輸出入時に税関等が作成した資料)を提出するべきである。
なお,甲2が請求人主張どおりに輸入されていたのであれば,上記のような書類が作成されていることは当然であって,提出は容易なはずである。
甲2のみでは,公知性の立証が十分ではないと言わざるを得ない。

2-1-2 「輸入」という事実について
また,請求人は,甲2について「請求人が輸入した」と主張する。しかし,甲2には,「輸入した」という事実を示す記載が一切ない。従って,甲2は単なる請求人の社内サンプルにすぎない可能性も否定できず,甲2のみで「請求人が輸入した」との事実が立証されるとの請求人の主張も首肯できない。

2-1-3 公知性について
さらに,公然知られた意匠とは,不特定の者に秘密でないものとして現実にその内容が知られた意匠のことであるが,請求人の主張によれば,甲2は単に請求人によって受け入れされただけのものであって,これが不特定の者に秘密でないものとして内容が知られたことの立証は一切なされていない。

2-1-4 小括
以上のとおり,「本件登録意匠の出願前,遅くとも請求人が甲2を輸入した平成13年7月31日(甲2受付印参照)までに公知となった」との請求人の主張は,時期,輸入した事実,公知性といったあらゆる点で,何らの立証をともなうものではなく,甲2が「本件意匠登録出願前に公然知られた」先行意匠であると認めることはできない。
従って,請求人の主張は,そもそも失当である。

2-2 本件登録意匠と甲2意匠が非類似であること
上記のとおり,甲2記載の意匠は,本件意匠登録出願前に公然知られたと認めるに足りないが,念のため,本件登録意匠と甲2意匠が非類似であることを以下に述べる。
なお,甲2に記載されたもののうち,請求人がどの意匠が本件登録意匠と類似するものと主張しているかは必ずしも明確ではない。そこで,以下では,甲2の1枚目右側図奥の市松貼りされたタイルカーペット及び2枚目の意匠を「甲2意匠」と善解して反論する(甲2の1枚目右側図手前部分は一枚のロールカーペットであり,タイルカーペットを流し貼りしたものではない)。

2-2-1 甲2意匠
甲2意匠の形態は,以下のとおりである。
(1)全体形状は,平面視略正方形ないし不等辺の五角形の薄板状体であって,表面側に模様があり,裏面側は表されていない。
(2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(2-1)明度の異なる二色の地の上に,地の色より暗調子の縦方向の不連続の蛇行線が多数,表面側全体に配されたものであって,
(2-2)蛇行線は,縦方向に不規則な長さで,かつ,不規則な曲率で,明瞭な間隔をもって途切れながら,表面全面に不均一に分散し,その不規則性及び不連続性ゆえに蛇行線の本数を数えることは困難であり,
(2-3)蛇行線は,微視的には,長さが不規則な線分と点形状が縦方向に不規則に連なって構成されており,線分ないし点形状は,一部において大きく離間し,巨視的に見ると不連続で曲率も一致せず,略「皺」状模様をなしているものである。

2-2-2 本件登録意匠と甲2意匠の対比
(共通点)
本件登録意匠と甲2意匠は,
(A)表面側に模様がある点
(B)表面側の模様が縦方向の蛇行線である点
(C)蛇行線が,短い線分または点形状で構成されている点
で共通する。
(相違点)
本件登録意匠と甲2意匠は,
(ア)本件登録意匠が平面視正方形状であるのに対し,甲2意匠が平面視略正方形ないし不等辺五角形状である点
(イ)本件登録意匠が模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているのに対し,甲2意匠の裏面側が表されていない点
(ウ)本件登録意匠の「縦条模様」が暗調子の地の上に,明調子の線で描かれているのに対し,甲2意匠の蛇行線が明度の異なる二色の地の上に,地の色より暗調子の線で描かれている点
(エ)本件登録意匠の「縦条模様」は縦方向の上端から下端まで連続し,蛇行も緩やかであって,表面側全体が略「縦縞模様」を基調とするのに対し,甲2意匠の蛇行線は縦方向に不規則な長さで,かつ,不規則な曲率で,明瞭な間隔をもって途切れており,「縦縞模様」を基調とするものではないこと
(オ)本件登録意匠の縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として29本前後であって,全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されているのに対し,甲2意匠の蛇行線は,その不規則性及び不連続性のために本数を数えることができず,表面全面に不均一に分散していること
(力)本件登録意匠の「縦条模様」は略直線状の短い縦線が縦方向に断続的に連なって構成されるのに対し,甲2意匠の蛇行線は,長さが不規則な線分と点形状が混在し,これらが縦方向に不規則に連なって構成される点
(キ)本件登録意匠の「縦条模様」は,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしているものであるのに対し,甲2意匠の蛇行線は,巨視的に見ると不連続で,曲率も一致せず,略「皺」状模様をなしている点
で相違する。
(共通点の評価)
本件登録意匠と甲2意匠の共通点(A)・(B)は,タイルカーペットの分野によくある構成態様であり,ともに両意匠の類否判断に与える影響は乏しい。
共通点(C)は,蛇行線を描く場合に,看者により複雑な印象を与える構成であって,両意匠の類否判断に与える影響は一定程度存在する。
(相違点の評価)
相違点(ア)(イ)(ウ)は,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きくない。
相違点(カ)は,共通点(C)のように,蛇行線を短い線分または点形状で構成するとしても,その線分ないし点の形状,配置は様々な創作が可能であるところ,本件登録意匠と甲2意匠を比較すれば,本件登録意匠の縦条模様が縦方向の短い線分のみで構成されており,甲2意匠に比較すると,長さや左右配置の程度に統一感があるが,甲2意匠の蛇行線は,縦方向の線分のみならず点形状の構成要素も含まれ,また,長さや左右方向などが極めて不規則である。その結果,本件登録意匠は整然とした印象を与えるのに対し,甲2意匠は不規則で分散した印象を与えるものであって,両意匠の類否判断に与える影響は少なくない。
相違点(エ)(オ)及び(キ)は,タイルカーペットのような模様の構成態様が創作の主体となる意匠において,両意匠の類否判断を決定づける大きな相違というべきである。すなわち,本件登録意匠の「縦条模様」は縦方向の上端から下端まで連続し,蛇行も緩やかであって,1条の連続する略「小波」状模様をなしており,表面側全体が略「縦縞模様」を基調とする。これに対し,甲2意匠の蛇行線は不連続で,縦方向に不規則な長さで,かつ,不規則な曲率で明瞭な間隔をもって途切れており,そして,表面全面に不均一に分散しており,略「皺」状模様をなしており略「縦縞模様」とは言えない。従って,本件登録意匠と甲2意匠は,表面の模様がそもそも大幅に異なる。
よって,相違点(エ)(オ)及び(キ)が両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい。
(評価の小括)
以上の共通点及び相違点の評価を総合すれば,本件登録意匠と甲2意匠の共通点(A)・(B),相違点(ア),(イ)及び(ウ)は両意匠の類否判断に与える影響は乏しい。
本件登録意匠と甲2意匠は蛇行線が,短い線分または点形状で構成されているという共通点(C)があってこれを無視できないが,一方で,相違点(カ)のように,本件登録意匠と甲2意匠は,蛇行線を構成する線分または点形状の構成・配置に相違するところがあり,共通点(C)のみをもって本件登録意匠と甲2意匠が類似するとは言い難い。
そして,相違点(エ),(オ)及び(キ)のとおり,本件登録意匠と甲2意匠は,そもそも表面の模様が大きく異なる。本件登録意匠は略「縦縞模様」であるのに対し,甲2意匠は略「皺」状模様であって,この違いは類否判断において強く重視されるべきものである。
従って,上記共通点と相違点を総合的に判断すれば,両意匠が類似しないことは明白である。

2-3 小括
以上のとおり,甲2は「本件意匠登録出願前に公然知られた」先行意匠であると認めることはできず,請求人の主張は,そもそも失当である。
また,本件登録意匠と甲2意匠には顕著な相違があり,類似しない。
よって,甲2を先行意匠とする意匠法第48条第1項,同法第3条第1項第3号違反の無効理由は成り立たない。

3. 甲1ないし甲3の結合による無効理由について
3-1 公知性について
甲3に記載の意匠が本件意匠登録出願時に公知であることは争わないが,甲1ないし甲2に記載の意匠が本件意匠登録出願時に公知であったことは,上述のとおり争う。

3-2 請求人の主張の不当性について
意匠法第3条第2項の公知意匠の結合による創作容易というのは,ある公知な意匠を別の公知な意匠の一部に置き換えたり,付け加えたりする場合があてはまる。
請求人は,甲1ないし甲3の各意匠をいずれかの意匠に置換したり,付加したりするのではなく,意匠の具体的な構成態様の一要素(例えば,短い線分を集めて曲線を構成する態様)を適宜組み合わせることによって,本件登録意匠が創作容易であると主張している。このような,各意匠の構成態様の一要素のみを他の意匠に適用するような結合は,意匠法第3条第2項の想定するところではない(相違点の構成の組み合わせを検討する特許の進歩性判断とは異なる)。
意匠法第3条第2項の公知意匠の結合というのは,例えば,甲1の表面の模様を甲2の表面の模様に置換した場合が想定されているのであって,これはすなわち,甲1の表面の模様そのものである。
従って,いずれもタイルカーペットないしじゅうたんの表面を対象とする各意匠を如何に結合・置換しても,もともとのタイルカーベットないしじゅうたんの表面の模様以外の意匠となることはないのであって,請求人の主張は意匠法の創作容易性の判断を取り違えた,そもそも失当なものである。

さらに付言すると,請求人の主張は,本件登録意匠と甲1意匠,本件登録意匠と甲2意匠,本件登録意匠と甲3意匠との相違点は,他の意匠が備えている構成態様の一要素であるから,それを組み合わせることで創作容易であると主張している。
しかし,このような論法は,本件登録意匠とある公知意匠の共通点・相違点を挙げ,それぞれの重要性を評価し,総合的に類否判断を行うという手法を実質的に無視するものに等しい。すなわち,本件登録意匠とある公知意匠の相違点の構成態様の一要素を別のある公知意匠が備えているというだけで,創作容易とするのであれば,類否判断において,その相違点が与える本件登録意匠と公知意匠の美感・印象の差を検討する意味が失われるものである。
例えば,本件と同一の当事者間で行われた先の無効審判(無効2010-880013)の審決において,本件登録意匠と甲3意匠の相違点が類否判断に及ぼす影響は大きいので,両意匠は類似するということはできない,と評価された。
しかし,請求人は,本件登録意匠と甲3意匠の相違点にあたる構成態様が美感・印象に与える影響を何ら考慮することなく,他の何か一つの別の先行意匠が構成態様の一要素として備えていれば,上記評価が覆り,突如として,両意匠は類似し,本件登録意匠は創作容易と判断されるというのである。
意匠法第3条第1項第3号と同条第2項で創作容易性の判断基準がこれほど異なることはあり得ない。この点からも,請求人の意匠法第3条第2項の公知意匠の結合による創作容易の主張(意匠の置換・結合ではなく,意匠の構成態様の一要素の置換・結合という主張)が意匠の創作容易性の判断基準を無視した独自の主張であることが明らかである。

4.結語
以上のとおり,請求人の無効主張は,いずれも理由がないことはおよそ明らかである。


第4 請求人の弁駁の理由の要点
請求人は,被請求人の提出した2011年(平成23年)6月6日付け「審判事件答弁書」(以下,「答弁書」という。)に対して,2011年(平成23年)7月7日付けで「無効審判弁駁書」(以下,「弁駁書」という。)を提出し,弁駁の趣旨を「答弁の理由は成り立たない。登録第1289529号意匠の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」とし,要点以下のように主張した。

1.甲1の頒布時期(答弁書1-2-1について)
被請求人は,甲1の頒布時期について,本件意匠登録出願前に頒布された刊行物であるとの立証がないなどとしている。
しかし,甲1の「2003-2006」の記載が,2003年(平成15年)から2006年(平成18年)を指すものであることは一見して明らかである。
また,甲1の34頁には,「サンプル帳有効期限 発刊2003年9月?2006年9月」の記載が存在している(甲5)。
よって,甲1の頒布時期が,本件登録意匠の出願前の平成15年9月であることは明らかである。

2.甲2の公知性(1-3-1について)
甲2には,裏表紙部分に,先行意匠<2>の大判サンプルが貼付されている。
当該サンプルは,上半分程度が糊付けされているのみであり,糊付けされていない部分をめくることにより,甲2の裏表紙の記載内容を確認できる(甲6)。
そして,甲2の表紙のうち,当該サンプルに隠れている部分には,製品の仕様に関する説明に加え,当該カーペットが1999年に「Mannington Carpets Inc.」社によりその意匠がデザインされ,同社が著作権を有していること,「CANYON」が1999年7月にアメリカで製造されたことが明記されている(甲7)。
そして,かかる記載のとおり,「Canyon」は,1999年(平成11年)6月7日に公表され,同月21日,アメリカ合衆国著作権庁において著作権登録がなされている(甲8)。
また,請求人において,マニントン社と取引のある株式会社鈴木室内装飾(東京都千代田区猿楽町2-7-3 川崎パークビル5階。以下,「鈴木室内装飾」という。)に依頼し,マニントン社に対し甲2の販売期間を問い合わせた。
鈴木室内装飾においてマニントン社を担当している岩崎正人氏が,平成23年3月30日,マニントン社の商業部門海外戦略営業課長であるマイク・チャペル氏に電子メールにて問い合わせをしたところ,当該問い合わせは,チャペル氏から,さらにマニントン社の生産管理の担当者であるジョージ・ブーシャール氏に転送された。
そして同日,ブーシャール氏からチャペル氏の下へ,甲2は2003年(平成15年)ころより廃番となった旨の回答がなされた(甲9)。
したがって,マニントン社からの聴取によっても,甲2は,平成15年以前に販売されていた製品であることが確認された。
これは,甲2の受付印(平成13年7月31日)とも矛盾しない。
したがって,甲2は,遅くとも1999年(平成11年)7月直後には公知となっていた外国意匠であり,本件意匠登録出願前に公然知られた先行意匠であるごとに明らかである。

3.3(甲1ないし甲3の結合による無効理由について)について
ア 公知性について
甲1記載の先行意匠<1>及び甲2記載の先行意匠<2>が公知であったことは,前記のとおりである。

イ 3-2(請求人の主張の不当性について)について
被請求人は,意匠法3条2項創作容易性について,ある公知な意匠を別の公知な意匠の一部に置き換えたり,付け加えたりする場合があてはまる,各意匠の構成態様の一要素のみを他の意匠に適用するような結合は,意匠法3条2項の想定するところではない,などと主張している。
しかし,意匠法3条2項の趣旨は,意匠登録により排他的独占権が認められるのは,その意匠が従来の意匠と比べて新たな創作としての価値を有していることに基づいているのであり,誰にでも容易に創作できる程度の意匠に排他的な独占権を生じさせることに,意匠の実施に無用な制限が加わるばかりであって産業の発展に寄与する意匠法の目的にも反することから,創作容易な意匠については権利の成立を認めないことにしたものである。
したがって,法の想定する判断基準は,当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づき容易に創作が可能であるか否かである。被請求人の主張するような,「ある公知な意匠を別の公知な意匠の一部に置き換えたり,付け加えたりする場合」に限られるものではない。
これは,意匠法3条2煩が,「公然知られた意匠」ではなく,「公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」に基づいて創作容易か否かを規定していることからも明らかである。
被請求人の主張は,法の趣旨を無視して,意匠法3条2項の適用を極めて限定的に解釈するものであり,失当である。
また,被請求人は,請求人の主張する論法では,類否判断においてその相違点が与える本件登録意匠と公知意匠の美感・印象の差を検討する意味が失われるなどと主張している。
しかしそもそも,意匠法が3条1項とは別にあえて同条2項を規定しているのは,排他的独占権を与えるべき意匠の要件として,公知意匠との類否とは別に,創作非容易性を要件とする趣旨である。
したがって,公知意匠との類否判断と,創作容易性の判断が別異のものになるのは当然である。
むしろ,被請求人の主張を前提とすれば,意匠法3条2項があえて別の要件として創作非容易性を要求した趣旨が没却される。
被請求人の主張こそが独自の主張に基づくものであることは明らかである。
特に本件の場合,先行意匠<1>・<2>・<3>とは,それぞれが本件登録意匠と極めて類似するものである。
本件における請求人の主張は,被請求人の主張するように,単に意匠の構成態様の一要素の置換・結合を主張しているのではない。敷物という同一の物品分野において,それぞれが極めて類似する本件登録意匠及び先行意匠<1>・<2>・<3>について,本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>との差異は本件登録意匠と先行意匠<2>との共通点であり,本件登録意匠と先行意匠<2>との差異点は本件登録意匠と先行意匠<1>・<3>との共通点であるとの相互関係にあるものについて,先行意匠<1>・<3>と先行意匠<2>を組み合わせれば,容易に本件登録意匠を創作することが可能であると主張しているのである。
また,前記審決(甲9)では,前記審決相違点(エ)の点のみが,本件登録意匠に特徴的なものであるとされた。
しかし,前記のとおり,相違点(エ)は,先行意匠<2>と共通するものであり,本件登録意匠に特徴的なものではない。
そして,本件登録意匠は,先行意匠<1>・<3>と,先行意匠<2>が有する前記審決相違点(エ)とを組み合わせたものにすぎない。
したがって,本件登録意匠は容易に創作が可能な意匠であり,無効とされるべきである。


第5 口頭審理
当審は,本件審判について,2011年(平成23年)10月12日に口頭審理を行った。(平成23年10月12日付け「第1回口頭審理調書」)

1.平成23年9月14日付け(9月12日差出)口頭審理陳述要領書における請求人の主張(要点)
(1)先行意匠<1>の特定
甲1には,商品名「アルテア」の意匠が記載されており,そのうち本件登録意匠と類似するのは,「ウェーブパターン」と称された意匠である。甲1記載の意匠のうちこれに該当するのは「ALT-2351」,「ALT-2352」,「ALT-2353」,「ALT-2354」の4つであり,これらはそれぞれ色彩にのみ違いがあり,模様等に違いはない。
他方,本件登録意匠は,図面に代えてモノクロ写真を添付して出願されたものであり,色彩は意匠を構成していないことから,色彩は類否判断において差異として考慮する必要がない。
したがって,甲1のうち前記4つの意匠はいずれも本件登録意匠と類似するものであるが,便宜上,先行意匠<1>を,被請求人答弁書において被請求人が特定した「ALT-2351」に特定する。


2.平成23年9月28日付け口頭審理陳述要領書における被請求人の主張(要点)
(1)無効理由2(先行意匠<2>の公知性について)
1)甲6及び甲7
(i)請求人は,「甲2の表紙のうち,当該サンプルに隠れている部分には,製品の仕様に関する説明に加え,当該カーペットが1999年に『Manninguton Carpets Inc.』社によりその意匠がデザインされ,同社が著作権を有していること,『CANYON』が1999年7月にアメリカで製造されたことが明記されている。」(弁駁書6頁3行?8行)と主張する。
(ii)甲7の1には,「Made in U.S.A(大きな空白)7/99」という記載があり,請求人は,甲7の2においてこれを「この商品は1999年7月にアメリカ合衆国で製造された」と翻訳している。
しかし,甲7の1の「7/99」という記載が,「1999年7月製造」を示すものとは,一義的に解釈できない。また,「Made in U.S.A.」と「7/99」の間には台紙の半分以上の空白かおり,これらをつなげて翻訳することの妥当性には大いに疑義がある。
よって,「『CANYON』が1999年7月にアメリカで製造されたことが明記されている。」との請求人の主張は,あくまで一方的な翻訳を前提とした主張にすぎない。
(iii)また,甲7の2の翻訳では「このカーペット(キャニオン)は,1999年(その商標が登録されている)マニントンカーペットインク社によりその意匠がデザインされ著作権を保有している」とされているが,甲7の1の原文には,「このカーペット(キャニオン)」などと記載されておらず,単に「Carpet designs copyrited by Mannington Carpet Inc.・・・1999」と記載されているのみである。これがどのような意匠を指すものかは,この記載だけからでは明らかではなく,先行意匠<2>が1999年に公知となっていたことはこれだけでは認められるものではない。
さらに,仮に甲7の1の上記文章が,先行意匠<2>が1999年に著作されていたことを表すとしても,そのことから,直ちに先行意匠<2>が本件意匠権の出願前にすでに公知であったことまでは導かれない(1999年7月にアメリカで製造された事実が認められない点は上記(2)のとおりである)。

2)甲8
(i)また,請求人は,甲8をもって,「『Canyon』は,1999年(平成11年)6月7日に公表され,同月21日,アメリカ合衆国著作権庁において著作権登録がなされている」(弁駁書6頁9?11行)と主張する。
たしかに,甲8によれば「Canyon」というタイトルの著作権登録がなされているようであるが,登録されている著作物の内容が先行意匠<2>であることは甲8からは全く分からない。
(ii)一般に,タイルカーペットメーカーは,同一の「Canyon」というシリーズ名の下でも,複数年にわたって,複数種類の異なるデザインの商品を販売することがある(例えば請求人が甲4として提出した「カノン」という名称のシリーズを参照されたい)。したがって,「Canyon」というタイトルの著作権が登録されているからといって,登録された対象となる著作物が甲2のものであるかは判然としない。
また,同一又は類似の名称であっても,デザイン変更を行った商品や,全く異なるデザインの商品を発売することもある。例えば,マニントン社でも,現在,先行意匠<2>とは全く異なるデザインのタイルカーペットに「canyon rim」という「Canyon」と類似の名称を用いて販売している(乙2[マニントン社ウェブサイト])。
また,同社ではさらにカーペットではない樹脂製の床材にも,「Canyon Point」,「Canyon Ridge」(乙3,乙4[マニントン社ウェブサイト])という名称を用いて先行意匠<2>とは全く異なるデザインの商品を販売している。
したがって,一般論としても,タイルカーペットの名称と特定のデザインが必ず一対一で対応するというものではない。また,上記の一連のマニントン社製品からも明らかなとおり,マニントン社は,「Canyon」という名称を現在でも自社商品群に広く使用しており,とりわけマニントン社にとっての「Canyon」という名称は,直ちに先行意匠<2>と一義的に結びつくものとは限らないのである。
(iii)よって,「Canyon」という同一の名称でも複数のデザインが存在する可能性は高く,登録内容自体が記載されていない甲8をもって,先行意匠<2>の公知性を基礎づけることは困難である。

3)甲9
(i)請求人は,「マニントン社からの聴取によっても,甲2は,平成15年以前に販売されていた製品であることが確認された」(弁駁書6頁末行?7頁1行)と主張する。
(ii)しかし,まず,甲9の1のみでは,メールで回答を行っている当事者がマニントン社の責任ある立場の人物であることは認定しようがない。従って,そもそも甲9の1の証明力は相当低い。
(iii)さらに,甲9の1の(A)のメールでは,問い合わせ対象を「Canyon(Roll&Tile)」と記載しているだけで,先行意匠<2>についての問い合わせがなされたという事実は認められない(甲9の1(A)のメールには添付ファイルもない)。
タイルカーペットメーカーが,同一の「Canyon」というシリーズ名の下でも,複数年にわたって,複数種類の異なるデザインの商品を販売することかあり,名称のみで意匠が必ずしも一義的に特定されるわけではないことは上記3(3)でも述べたとおりである。
なお,甲9の1には,趣旨が不明確なまま甲2の写真が添付されているが,これが甲9の1(A)のメールに添付された旨の記載はない(むしろ,「『マニントン社』製造の『キャニオン』について」と日本語で記載されており,米国向けメールに添付したものとは考えがたい)。
(iv)また,甲9の1(A)の「これがいつ公開され(導入され),そしていつ製造中止になったのかをどうか教えてください」(下線付加)という問いかけに対し,甲9の1(C)では「『キャニオン』は2003年頃以来,製造中止になっており」(下線付加)との回答があるのみである。
結局,「いつ公開され(導入され)」という問いには答えがない。マニントン社の責任ある立場の人物であれば当然答えられる質問に対する回答が欠缺しており,甲9の1の回答内容そのものの信ぴょう性にも疑義がもたれるところでもある。
また,製造中止の時期についても「2003年頃」とされており,2002年なのか,2003年なのか,2004年なのか明確とは言えない。
さらに,製造中止になったという記載だけでは,その製品が単にサンプルとして特定対象者に対して製造されていたものか,製品として一般顧客向けに販売されていたものなのかも不明である。
(v)請求人は,「マニントン社からの聴取によっても,甲2は,平成15年以前に販売されていた製品であることが確認された」と主張するが,甲9の1の記載に基づかない主張と言わざるを得ない。

4)あるべき証拠の不存在
(i)もし,甲9の1のメール回答を行っている人物が,マニントン社の責任ある立場の人物であるとすれば,当該人物に接触できた請求人は,同人に依頼し,マニントン社が保管している甲2のアメリカ国内での販売を示すカタログ等の書証を入手することが可能であると言える。
しかし,請求人は,甲2のアメリカ国内での販売を示すカタログ等の書証を提出しておらず,その主体が不明確で回答内容も曖昧な甲9の1を提出しているのみである。
(ii)また,請求人は,被請求人が審判答弁書でも指摘した,甲2の輸入の際に作成された原資料(例えば,輸出者の作成した送り状,納品伝票,請求書,代金支払関連の書類,輸出入時に税関等が作成した資料)なども提出可能なはずである。
しかし,請求人は,これらの請求人の手元にあるべき資料についても提出を行っていない。
このようなあるべき書証が提出されず,どのようにも解釈可能な曖昧な証拠しか提出されないという事実は,先行意匠<2>の公知性を否定する方向に強く働く。

5)小括
したがって,請求人が主張する甲6ないし9号証はいずれも先行意匠<2>の公知性を立証するに十分ではなく,先行意匠<2>が「本件意匠登録出願前に公然知られた」先行意匠であると認めることは困難である。
よって,請求人の主張する無効理由2はそもそも失当である。


(2)無効理由3
1)公知性について
先行意匠<2>が本件意匠登録出願時に公知であったことは,上述第3のとおり争う。

2)デザイン常識・技術常識を踏まえた主張に対して
請求人は,口頭審理陳述要領書6頁26行以下において,デザイン常識・技術常識を踏まえたとする主張を行っている。
しかし,請求人の主張は,タイルカーペットのデザイン常識を誤った失当なものと言わざるを得ない。
まず,請求人は,「タイルカーペットにおける柄表現(曲線表現)の手法としては別紙1のA,B及びCの3タイプに大別できる」(口頭審理陳述要領書6頁28?29行)と述べる。
しかし,別紙1の※で請求人が自認するとおり,タイルカーペットでは,ループ形状,パイル長さ,パイル密度,糸の太さ,糸の加工など様々な手法を組み合わせることによって,様々な柄表現(曲線表現)が可能である。これらの点を無視して,表現AないしCのみを抽出し,区分することは網羅性もなく,どのようなデザイン常識を示すものなのか不明である。例えば,乙5(シンコール社・スクエアタイルカーペット・プロ見本帳)の「ストーム」や「エグザス」を見れば,細かな柄表現(曲線表現)がなされており,別紙1のような大まかな柄表現(曲線表現)に手法が限られるわけではないことが明白である。
すなわち,タイルカーペットのデザイン常識を踏まえて述べると,タイルカーペット意匠の創作者は,創作の意図に基づいて創作したタイルカーペットの意匠を適切に表現するために,適宜,染色方式,タフト方式,ループ形状,パイル長さ,パイル密度,糸の太さ,糸の加工などを組み合わせて用いることにより,様々な表現手法を選択することができる。そして,上記のような多様なデザイン技術の中から最も適切な組合せを選択し,これをタイルカーペットの意匠として表現することにもまた,意匠法によって保護されるべき創作的価値が存在するのである。
請求人は,先行意匠<3>の柄(曲線)を別紙1の表現Cの手法(先行意匠<2>の手法)で表現すれば本件登録意匠となるかのような主張を行う。しかし,本件登録意匠と先行意匠<2>の意匠そのものはもちろんのこと,表現手法においても同一とは言えず,そもそも,上記のような主張は失当であるが,それ以前に,タイルカーペットの意匠の創作者は,自ら創作した意匠を適切に表現できる表現手法を選択するのが通常であって,先行意匠<3>の意匠を創作した創作者が,線の形状も印象も大幅に異なるような表現C(表現Bであっても同様)のような技術手法を選ぶ必然性はないのである。


第6 口頭審理陳述要領書補充書
請求人は,平成23年10月12日付け口頭審理陳述要領書補充書を提出し,概要以下のとおり主張した。

1.「無効理由2(先行意匠<2>の公知性について)」について
(1)「2 甲6及び甲7」について
1)(1)について,被請求人は,甲7の1の「7/99」という記載が「1999年7月製造」を示すものとは一義的に解釈できないなどと主張している。
しかし,「Made in U.S.A」などと製造国が記載された部分に数字が記載されている場合,それは年月日を示すものであることは社会通念上是認されるところである。また,年月日をスラッシュで区切り,月・(日・)年の順番に表記するのはアメリカ合衆国における一般的な日付の表記方法である。
さらに,甲7の1には,他にも,当該カーペットが1999年にマニントン社によりデザインされ,著作権を有している旨の記載が存在しており,この記載と「7/99」は合致していることからも,「7/99」が1999年7月を示すものであることは明らかである。
2)(2)について,被請求人は,単に「Carpet designs copyrighted by Mannington Carpet Inc.・・・1999」とあるのみで,これがどのような意匠を指す物なのか明らかではないなどと主張している。
しかし,甲7の1は甲2のサンプル帳の記載内容であり,甲7の基本仕様が記載された欄において主語となっている「Carpet」が,同サンプル帳においてサンプルとなっている当該製品である「Canyon」以外のはずがない。Carpet「s」ではなく「Carpet」であることからも,当該サンプル帳外の製品を含めた何らかの製品(群)ではなく,「当該カーペット」を示すものであることは明らかである。

(2)「3 甲8」について
甲8の,「Carpet designs copyrighted by Mannington Carpet Inc.・・・1999」と甲8号証の著作権登録は登録時期が合致していること,甲7号証の1の「7/99」と,登録日である1999年6月7日とが矛盾しないことなどから,甲8号証の著作権登録は先行意匠<2>に係るものであることは明らかである。

(3)「4 甲9」について
1)甲9の1のメールには,マニントン社の電子署名が付された上で,「Senior Designling Coordinator」(生産管理者)の肩書きが署名に付されているのであるから,当該メールがマニントン社の,生産管理者の立場にあるジョージ・ブシャール氏から送信されたものであることは明白である。
したがって,甲9の証明力は高い。
2)被請求人は,甲9のメールの問い合わせ対象が,先行意匠<2>に係る「Canyon」について問い合わせがなされたという事実は認定できない旨主張する。
しかし,マニントン社に問い合わせを行った株式会社鈴木室内装飾は,マニントン社の製品の日本における取扱店であり,マニントン社にとっては取引のある顧客である。かかる顧客からの問い合わせに回答するに際して,問い合わせ対象が複数存在し特定できないのであれば,回答する前に問い合わせ対象を特定するのが通常である。今回,「Canyon(Roll&Tile)」との記載のみで回答が得られたのは,「Canyon(Roll&Tile)」という製品名で対象は十分特定されており,同名の製品がマニントン社においては先行意匠<2>以外に存在しないからである。被請求人の主張は全くの言いがかりであって失当である。
3)また,被請求人は,「Canyon」がいつ公開されたかという問いに対する答えが甲9の1(C)のメールに記載されていないことから,回答内容の信憑性に疑義がもたれるなどと主張している。
しかし,「Canyon」は1999年6月にアメリカ合衆国著作権庁において著作権登録がなされ(甲8),1999年7月に製造されたものであること(甲7)からすれば,製造開始から4年後の2003年に廃盤になったとのメールの回答は自然かつ合理的なものであり,信用性は高い。
なお,いつ製造が開始されたかについての問い合わせに回答がないのは,顧客である鈴木室内装飾からの問い合わせであったため,マニントン社側としては,鈴木室内装飾側で「Canyon」に対する需要があるものと解釈し,いつ廃番になったかだけを回答したものと推測されるのであり,何ら不自然な点はない。事実,ブーシャール氏は,特別注文として非常に似た商品を製造できる」旨の,問い合わせ外事項について回答している。
また,被請求人は,製造中止時期について2003年なのか2004年なのか明確と言えないなどと主張しているが,公知性の立証においては,本件登録意匠が創作される以前に公知であったことさえ明確となればよいのであり,製造中止時期が一義的に明らかである必要はない。
さらに,被請求人は,先行意匠<2>が単にサンプルとして特定対象者に対して製造されていたものか,製品として一般顧客向けに販売されていた商品なのか不明などと主張している。
しかし,製造を中止していることに照らせば,「Canyon」が単にサンプルとして製造されていたのではなく,商品として製造・販売されていたことは明白である。
また,わざわざ著作権登録をし(甲8),登録の1か月後に製造を開始し(甲7),甲2のようなサンプル帳を作成した製品が,単にサンプルとしてのみ特定顧客に対して製造されていたなどということはありえない。

(4)「5 あるべき証拠の不存在」について
先行意匠<2>の公知性の立証は,甲7乃至甲9で十分であり,他に証拠を提出する必要はない。

2.「無効理由3」について
(1)先行意匠<2>が本件登録意匠出願時に公知であったことは,前記第3にて詳細に主張したとおり。

(2)(5)について
被請求人は,タイルカーペットにおける柄表現(曲線表現)の手法に関する請求人の主張について,別紙1のような大まかな柄表現(曲線表現)に手法が限られるわけではないことは明白であると主張しているが,元々請求人は,「大別できる」としているとおり,タイルカーペットにおいて曲線を表現するための基本的な手法として3つの区分を主張しているのであり,失当である。
また,請求人の主張は,特に,先に審決で本件登録意匠の要部とされた前記の点については,Cの手法によりタイルカーペットで曲線を表現する場合に必然的に現れる事象であって独自なものではなく,かつ,原告意匠創作時においてCの手法は技術的に新規・独自ではないことを主張しているのである。
被請求人の主張するような,細かな手法の違いや,「先行意匠<3>の意匠を創作した創作者が,線の形状も印象も大幅に異なるような表現C(表現Bであっても同様)のような技術手法を選ぶ必然性はない」などという主張は,請求人の主張に対する反論となっておらず,失当である。


第7 当審の判断
1.本件登録意匠
本件審判事件に係る意匠登録第1289529号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,意匠法第4条第2項の規定の適用の申請を伴って,2004年(平成16年)11月29日に意匠登録出願されたものであって,2005年(平成17年) 8月 9日付けで拒絶査定を受けた後,2005年(平成17年) 9月16日に拒絶査定不服審判を請求したところ,これは不服2005-17895として審理され,2006年(平成18年) 9月12日付けで原査定を取り消し,意匠登録すべきものとする旨の審決がなされ,2006年(平成18年)11月17日に意匠権の設定の登録がなされたものであって,願書の記載及び願書に添付した写真に現されたものによれば,意匠に係る物品を「タイルカーペット」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を願書の記載及び願書に添付した写真に現されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

すなわち,その形態は,
(I-1)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側(平面図に表された側)の模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているものであり,
(I-2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(I-2-1)暗調子の地の上に,明調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであって,
(I-2-2)縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として29本前後であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,
(I-2-3)各縦条模様は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしているものである。


2.無効理由1及び先行意匠<1>
無効理由1は,本件登録意匠が,本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物である「甲1に記載された意匠」と類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきであるとするものであって,甲1は,文献名を『SQ.PRO スクエア タイルカーペット・プロ 2003-2006 Vol.8 SINCOL』とし,発行者を「シンコールカーペット株式会社」とする国内カタログであって,本件登録意匠の出願前,遅くとも2003年(平成15年)頃までに頒布された刊行物であり,「甲1に記載された意匠」とは,同刊行物に記載された,製品名「アルテア」の4つの意匠のうち,「ALT-2351(ウェーブ)」の「タイルカーペット」の意匠(以下,「先行意匠<1>」という。)であって,その形態は,甲1の第12頁の右側における見本のエリアの右上隅に現された部分的な見本片(以下,これを「<1>の部分見本」という。),その下側の「ウェーブパターン ALT-2351」と標記され,左辺と下辺に寸法の目盛りが付記された写真(以下,これを「<1>の縮小正面図」という。),並びに,同頁の左側における上部の仕様の記載及びその下側の写真の一部に示された床面に敷設した際の状態図(以下,これを「<1>の敷設状態図」という。)に現わされたとおりのものである。(別紙第2参照)
なお,先行意匠<1>の特定に関しては,被請求人の答弁書第3頁7行目から11行目,及び,請求人の平成23年9月14日付け(9月12日差出)口頭審理陳述要領書第2頁14行目から第3頁4行目に記載のとおりである。

すなわち,その形態は,
(II-1)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側の模様の付いた織物部と裏面側のベース部が張り合わされた構成となっているものであり,
(II-2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(II-2-1)3色の糸,これを明暗調子で表現すれば,暗調子,中間調子及びやや明調子の糸のパイルを,概略,「暗調子」(このパターンの場合,この暗調子の糸は隣のパターンと共有される。)-「中間調子」-「やや明調子」-「中間調子」-「暗調子」(このパターンの場合,この暗調子の糸は隣のパターンと共有される。)の糸の並びを一つのパターンとして横方向に連続して繰り返すように配置し,所定の糸のパイルのループの長さに変化(規則性の有無は不明。)を付けながら,上端から下端まで,縦方向に多数並べることによって,「縞の幅が極狭い略縦縞模様」を形成したものであって,
(II-2-2)表面の「縞の幅が極狭い略縦縞模様」は,糸のパイルのループのレベルが高い(周りよりループが長い)部分のパイルが潰れて周囲のパイルの上に立体的に盛り上がった部分が形成されることにより,その部分において当該模様に変化が生じているものであって,その結果として一定方向から光が当たると,タイルカーペット表面に「尾根状の陰影」が生じるものである。

なお,被請求人は,甲1の頒布時期について『請求人は,甲1が「公知日:平成15年ころ」(「審判請求書」第4頁16行目),「本件意匠の出願前,平成15年ころまでに頒布された刊行物であり」(「審判請求書」第4頁17行目から18行目)などと主張するが,甲1には発行時期の記載がなく,本件意匠登録出願時(平成16年11月29日)より前に頒布された事実の立証はなく,甲1には「2003-2006」との記載があるが,この記載のみでは,これが頒布時期を示すものであるのか否かも含めて,甲1の正確な頒布時期が不明であるから,甲1のみから,これが「本件意匠登録出願前に頒布された」と認めることはできず,請求人の主張は,そもそも失当である』旨,主張するが,当審が,本件第1回口頭審理(2011年(平成23年)10月12日開廷,平成23年10月12日付け「第1回口頭審理調書」参照。)において,請求人が持参した甲1の原本を確認したところ,カーペットなどの物品分野においてよく見られるところの見本片が添付されたバインダー形式の商品カタログであって,第三者である発行者が複数部印刷・制作し市場に出回った刊行物である点について不自然さはなく,また,「甲1の第34頁には,「サンプル帳有効期限 発刊2003年9月?2006年9月」の記載が存在している(甲5)」(平成23年7月7日付け「無効審判事件弁駁書」第2頁15行目から第3頁1行目)点から常識的に考えて,カタログ記載の時期(始期)よりは前に,あるいは,少なくとも同時期には頒布され,一般に公開されたショールームにおいて展示され,発行者の会社の営業活動に供されたものであると認められる。であるとすれば,本件登録意匠の出願日である2004年(平成16年)11月29日以前に,公知であったものとして,本件登録意匠の新規性創作容易性を判断する資料としての適格性を有するものであるから,「先行意匠<1>」は,前述において認定したとおりであって,被請求人の主張は採用することができない。

3.無効理由2及び先行意匠<2>
無効理由2は,本件登録意匠が,本件登録意匠の出願前に公然知られた「甲2の意匠」と類似するものであり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録ができないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきであるとするものであって,甲2は,請求人会社が,外国企業によって制作された「見本付き商品カタログ」を,国内向け販売用に仕立て直したものと認められ,「見本付き商品カタログ」のオリジナルとしては,表表紙にやや大きめであるが部分的な見本片(以下,これを「<2>の部分見本」という。)が貼り付けられ,表表紙の左上隅部には「Canyon」,「9 1/4” × 10 3/4”」,「MODULAR」の文字が,表表紙下端辺部には「CANYON」,「GOLDEN(GOLD)」,「LIFT SWATCH FOR SPECIFICATIONS」の文字が,背表紙には,「MANNINGTON」,「COMERCIAL」,「ECHOES ECHOES ECHOES」(これらの3語は,一部が重なっている。),「Natural」,「CANYON」などの文字が主として記載され,裏表紙には,床面に敷設した際の状態図(以下,これを「<2>の敷設状態図」という。)が現されているが,床面に現れた模様の態様から,この図のうちの左上の略直角三角形状の部分に,タイルカーペットの場合の敷設状態が現されており,裏表紙下端辺部には,「CANYON」の文字が記載されているものであって,請求人会社は,このオリジナルに,背表紙には,「サンゲツ」,「タイル・ロールカーペット」と記載された貼り紙をし,その2語の間に,青インクの丸判で「受付 13 7.31 マーケテイング」と押印し,その丸判の右下に「CP13-15」と手書きをし,裏表紙の上部に,会社名等の貼り紙,及び,「Canyon 45.7cm角タイルカーペット パイル:ループ ゲージ/inch: 1/10 全厚: 約8mm 素材:ANTRON LEGACY 参考上代: ¥14,500-/m2」など,商品の仕様,参考販売価格などが記載された貼り紙をしたものである。
「甲2の意匠」は,本件登録意匠の出願前,遅くとも請求人会社が受付印を押印した2001年(平成13年)7月31日までに公知となった甲2のサンプル付き商品カタログに現された,製品名「CANYON」とした「タイルカーペット」の意匠(以下,「先行意匠<2>」という。)であって,その形態を,<2>の部分見本及び<2>の敷設状態図の左上の部分に現されたとおりのものである。(別紙第3参照)

すなわち,その形態は,
(III-1)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側の模様の付いた織物部と裏面側のベース部が張り合わされた構成となっているものであり,
(III-2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(III-2-1)3色の糸,これらを明暗調子で表現すれば,1つの糸が暗調子で,残る2つの糸が中間調子(中間調子の2色の糸は,色相は異なるが,明度はほぼ同じである。)であって,それらの糸のパイルを使用して模様が構成されているものであって,中間調子の糸のパイルが,上端から下端まで,縦方向に多数並べられて(実際には中間調子の2色の糸のパイルが交互に配列されている。),「地模様」を形成しており,その中間調子の糸のパイルの間を縫うように,暗調子の糸のパイルが配置されており,暗調子の糸のパイルは,長さも位置もランダムであるが,中間調子の糸のパイルの間を割り込むように配置されているので,その上下端部は,細くなっており,全体としても,その上下端部も,左右に傾いたようになっているものであって,
(III-2-2)全体として,暗調子の線模様が不規則に,連続せず切れ切れに,縦方向に現されているものであって,やや大きい略「(」(左括弧)状の,または,略「)」(右括弧)字状の模様が縦方向に交互に配列されたように見え,部分的に「木目の節部」のような大きな略長楕円形状の「余白部」(中間調子の糸のパイルによる地模様のみ,という意味。)が複数見られるものである。

なお,被請求人は,甲2の公知性について『請求人は,甲2が「本件登録意匠の出願前,遅くとも請求人が甲2を輸入した平成13年7月31日(甲2受付印参照)までに公知となった」(審判請求書第5頁6行目から8行目)と主張する。しかし,甲2の1枚目には,「受付13.7.31」との押印がなされているようであるが,これが何を意味する日付であるのかは,甲2には何ら記載されていない。(中略)従って,甲2の1枚目の「受付13.7.31」という押印のみによって,「本件登録意匠の出願前,遅くとも・・・平成13年7月31日(甲2受付印参照)までに公知となった」との事実が立証されるとの請求人の主張は首肯できない』等(被請求人の平成23年6月6日付け答弁書第9頁3行目から第10頁18行目)と主張するが,当審が,本件第1回口頭審理(2011年(平成23年)10月12日開廷,平成23年10月12日付け「第1回口頭審理調書」参照。)において,請求人が持参した甲2の原本を確認したところ,カーペットなどの物品分野においてよく見られるところの見本片が貼付された見本付き商品カタログであって,外国企業が印刷・制作した見本付き商品カタログを,日本国内において販売することとして,当該カタログを国内向け販売用に仕立て直したものであり,その際,社内における事務手続上の処理として,日付の入った丸判を押印したものとして不自然さはなく,また,請求人が甲6,甲7の1及び甲7の2を提出して主張するように,「甲2の表紙のうち,当該サンプルに隠れている部分には,製品の仕様に関する説明に加え,当該カーペットが1999年に「Mannington Carpets Inc.」社によりその意匠がデザインされ,同社が著作権を有していること,「CANYON」が1999年7月にアメリカで製造されたことが明記されている(甲7)」(請求人の平成23年7月7日付け無効審判弁駁書第5頁24行目から第6頁2行目)点から判断して,1999年7月以降,外国企業(「Mannington Carpets Inc.」社)が印刷・制作し,また,この際,刊行物として公知になったことも認められる,甲2の見本付き商品カタログが日本に持ち込まれ,背表紙に押印された日付である2001年(平成13年)7月31日以降,請求会社において,販売価格の設定等の社内事務手続を経た後,国内販売向けに仕立て直しをされ,不特定の者が出入り可能なショールームにおける展示や営業活動に供されたものであると認められる。であるとすれば,本件登録意匠の出願日である2004年(平成16年)11月29日以前に,公知であったものとして,本件登録意匠の新規性創作容易性を判断する資料としての適格性を有するものであるから,「先行意匠<2>」は,前述において認定したとおりであって,被請求人の主張は採用することができない。

4.無効理由3
無効理由3は,本件登録意匠が,その属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合である甲1乃至甲3(「甲1に記載された意匠」,「甲2の意匠」及び「甲3の意匠」)に基づいて容易に創作をすることができるものであり,同法第3条第2項の規定により意匠登録できないものであるから,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきであるとするものであって,「甲1に記載された意匠」は,前述の2.において述べた先行意匠<1>であり,「甲2の意匠」は,前述の3.において述べた先行意匠<2>であり,「甲3の意匠」(以下,「先行意匠<3>」という。)は,以下のとおりである。

先行意匠<3>は,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願日前,2003年(平成15年)5月10日に頒布された『ドイツ意匠公報』第2301頁所載の「じゅうたん」の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH1501267号。なお,当審の調査によれば,当該意匠は,「意匠登録番号:401 07 669の製品番号:M 0446-blanco」の意匠である。)であって,その形態は,同公報の図版に現されたとおりのものである。(別紙第4参照)

すなわち,その形態は,
(IV-1)全体形状について,一部不明な点もあるが,図版上,平面視横長矩形状の区域(縦横比は約1:1.4)として表面側の模様が表されており,裏面側は表されていないものであり,
(IV-2)表面側の模様の具体的構成態様は,
(IV-2-1)明調子の地の上に,暗調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであって,
(IV-2-2)縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として32本であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,
(IV-2-3)各縦条模様は,連続する細線が左右に蛇行しており,「フリーハンドで描かれた線」のようになっているものである。


5.本件登録意匠と先行意匠<1>の類似性(無効理由1)
(1)本件登録意匠と先行意匠<1>の対比
(意匠に係る物品)
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「タイルカーペット」であり,先行意匠<1>の意匠に係る物品は,「タイルカーペット」であり,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。

(形態)
形態についての主な共通点と相違点は,以下のとおりである。
(共通点)
(A)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側(平面図に表された側)の模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているものである点,
(B)表面側の模様の構成態様として,調子の異なる糸を縦方向に配列して大略として縦縞模様を形成している点。
(相違点)
(ア)先行意匠<1>は,3色の糸,これを明暗調子で表現すれば,暗調子,中間調子及びやや明調子の糸のパイルを,概略,「暗調子」(このパターンの場合,この暗調子の糸は隣のパターンと共有される。)-「中間調子」-「やや明調子」-「中間調子」-「暗調子」(このパターンの場合,この暗調子の糸は隣のパターンと共有される。)の糸の並びを一つのパターンとして横方向に連続して繰り返すように配置し,所定の糸のパイルのループの長さに変化(規則性の有無は不明。)を付けながら,上端から下端まで,縦方向に多数並べることによって,「縞の幅が極狭い略縦縞模様」を形成したものであり,3色の糸の調子の差は本件登録意匠と比較すると大きくはないものであるのに対して,本件登録意匠は,調子の差が大きい暗調子と明調子の糸を使用しており,その配置について一定のパターンは,明示的には現れていない点,
(イ)本件登録意匠は,表面側の模様の具体的構成態様について,本件登録意匠が,暗調子の地の上に,明調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであり,縦縞模様を構成する縦条模様の本数が,全体として29本前後であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,各縦条模様について,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしているものであるのに対して,先行意匠<1>は,表面の「縞の幅が極狭い略縦縞模様」が,糸のパイルのループのレベルが高い(周りよりループが長い)部分のパイルが潰れて周囲のパイルの上に立体的に盛り上がった部分が形成されることにより,その部分において当該模様に変化が生じているものであって,その結果として一定方向から光が当たると,タイルカーペット表面に「尾根状の陰影」が生じているものである。

(2)本件登録意匠と先行意匠<1>の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。
(共通点の評価)
共通点(A)は,両意匠において一致する意匠に係る物品であるタイルカーペットとして例をあげるまでもなく,ありふれた態様に係るものであるし,共通点(B)も極めて概括的に見た場合の共通性に過ぎず,この種物品分野の意匠においては,採り上げるまでもない程度のものであるから,これらの点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を大きいということはできない。
(相違点の評価)
他方,広く繊維製品を含む,この種物品分野の意匠においては,模様の具体的構成態様が創作の主体になるという創作実態,及び,織物の組織の相違が模様そのものを異ならせている点を考慮すれば,相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,いずれもが共通点のそれを上回っているのというべきである。
すなわち,相違点(ア)は,表面側模様部の具体的構成態様について,模様を構成する糸の使用が,本件登録意匠は,明暗調子のコントラスト(差)が大きく,模様において明調子が目立つものであるのに対して,先行意匠<1>は,暗調子,中間調子及びやや明調子で,糸の明暗調子のコントラストが小さいものである点は,両意匠のいずれの態様もありふれた態様に過ぎないとはいえ,この種物品分野の意匠において,無視することはできない相違であり,両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるというべきである。
相違点(イ)は,本件登録意匠が,明調子の部分自体が不規則で緩やかに蛇行して細線状の縦条模様を描き出しているのに対して,先行意匠<1>は,各調子の糸自体は,縦方向に真っ直ぐ配置されているものであるから,この相違点は,見る者に両意匠が別異のものであるとの印象を強く与え,両意匠の類否判断を決定付けているといい得るものである。先行意匠<1>は,糸のパイルの長い部分が潰れて周囲のパイルの上に立体的に盛り上がった部分が形成され,その部分が尾根状の陰影が生じて,一定のモチーフのように見えることがあるとしても,それは光の方向,見る者の位置等の関係によって変化するものであり,そもそも前記相違点(ア)で述べたように模様自体が異なるものであるのであるから,この相違点も両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
(小括)
以上を総合すれば,共通点(A)及び同(B)が,この種物品分野の意匠における評価としては,ありふれた態様に係る共通点または両意匠を極めて概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであるのに対して,相違点(ア)及び同(イ)は,広く繊維製品を含む,この種物品分野の意匠においては,模様の具体的構成態様が創作の主体になるという創作実態を考慮して評価すれば,それぞれが両意匠の類否判断に影響を及ぼしており,そして,相違点全体とした見た場合,極めて大きな相違であって,見る者に対して,両意匠が別異のものであると印象を与えており,両意匠の類否判断を決定付けているという他ない。
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致するが,その形態については,両意匠の共通点が類否判断に及ぼす影響が大きいものではないのに対し,相違点は,それぞれに両意匠の類否判断に及ぼす影響を有し,相違点全体としては,見る者に対して両意匠が別異のものであるとの印象を与えており,本件登録意匠は,先行意匠<1>に類似するということはできない。


6.本件登録意匠と先行意匠<2>の類似性(無効理由2)
(意匠に係る物品)
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「タイルカーペット」であり,先行意匠<2>の意匠に係る物品は,「タイルカーペット」であり,両意匠の意匠に係る物品は,一致する。

(形態)
(共通点)
(A)全体形状は,平面視正方形状の薄板状体であって,表面側(平面図に表された側)の模様の付いた「織物部」と裏面側の「ベース部」が張り合わされた構成となっているものである点。
(相違点)
(ア)本件登録意匠は,表面側の模様の具体的構成態様が,暗調子の地の上に,明調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであって,縦縞模様を構成する縦条模様の本数は,全体として29本前後であって,略「縦縞模様」が全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,ものであるのに対して,先行意匠<2>は,表面側の模様の具体的構成態様が,1つの糸が暗調子で,残る2つの糸が中間調子である3色の糸のパイルを使用して模様が構成されているものであって,2つの中間調子の糸のパイルが,上端から下端まで,縦方向に多数並べられて,地模様を形成しており,その中間調子の糸のパイルの間を縫うように,暗調子の糸のパイルが配置されており,暗調子の糸のパイルは,長さも位置もランダムであるが,中間調子の糸のパイルの間を割り込むように配置されているので,その上下端部は,細くなっており,全体としても,その上下端部も,左右に傾いたようになっているものである点,
(イ)本件登録意匠は,各縦条模様が,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしているのに対して,先行意匠<2>は,全体として,暗調子の線模様が不規則に,連続せず切れ切れに,縦方向に現されているものであって,やや大きい略「(」(左括弧)状の,または,略「)」(右括弧)字状の模様が縦方向に交互に配列されたように見え,部分的に「木目の節部」のような大きな略長楕円形状の「余白部」(中間調子の糸のパイルによる地模様のみ,という意味。)が複数見られるものである点。

(2)本件登録意匠と先行意匠<2>の類否判断
(共通点の評価)
共通点(A)は,両意匠において一致する意匠に係る物品であるタイルカーペットとして例をあげるまでもなく,ありふれた態様に係るものであるから,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいということはできない。
(相違点の評価)
これに対して,広く繊維製品を含む,この種物品分野の意匠においては,模様の具体的構成態様が創作の主体になるという創作実態,及び,織物の組織の相違が模様そのものを異ならせている点を考慮すれば,相違点はいずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響は,共通点のそれを上回っているのというべきである。
すなわち,相違点(ア)は,本件登録意匠が,暗調子の地の上に,明調子の不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」が,多数,表面側全体に配された,略「縦縞模様」を基調としたものであるのに対して,先行意匠<2>は,地模様を形成する中間調子の糸のパイルの間に,暗調子の糸のパイルが,長さも位置もランダムに割り込むように配置されているのであり,この相違点は,見る者に両意匠が別異のものであるとの印象を与えているというに充分であって,両意匠の相違点を決定付けているものであるという他ない。
また,相違点(イ)は,相違点(ア)の表面側の織物の組織が異なる点を巨視的に見た場合の相違であって,両意匠の表面側の模様の構成の相違が更に一層際立っており,本件登録意匠が,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様が均質に配置されているのに対して,先行意匠<2>は,暗調子の線模様が不規則に,連続せず切れ切れに,縦方向に現されているものであって,部分的に「木目の節部」のような大きな略長楕円形状の「余白部」が複数見られるものであり,この相違も相違点(ア)とほぼ同等程度に,見る者に両意匠が別異のものであるとの印象を与えており,両意匠の相違点を決定付けているものであるという他ない。
(小括)
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致するが,その形態については,両意匠の共通点が類否判断に及ぼす影響を大きいということはできないものであるのに対し,相違点は,それぞれが,また,全体としても,見る者に両意匠が別異のものであるとの印象を与えているというに十分なものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく,本件登録意匠が先行意匠<2>に類似するということはできない。


7.先行意匠<1>ないし先行意匠<3>に基づく本件登録意匠の創作容易性(無効理由3)
本件登録意匠の意匠法第3条第2項の該当性,すなわち,本件登録意匠が,容易に創作することができたか否かについて,検討し判断する。
本件登録意匠が意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当するかどうかの判断は,本件登録意匠の構成態様について,すなわち,表面側の模様の構成態様が,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(公知または周知の意匠,及び,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとしての形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(公知または周知のモチーフ)。)を基準として,それらから,本件登録意匠に係る物品の属する分野における通常の知識を有する者(いわゆる「当業者」)が,その物品分野において周知の創作手法を用いたに過ぎないものであるかどうか(例えば,ほとんどそのままこの種物品に当てはめたかどうか,または,単なる組合せ,置換えなどがされたものであるであるか,更には,それらに通常よく行われるところの多少の改変を加えたものであるかどうか,など。)を検討することによって行うことが必要であるので,以下,この点を踏まえて,検討することとする。
また,本件登録意匠の意匠に係る物品であるタイルカーペットを含む繊維製品の分野における創作の実態を踏まえれば,当該分野における創作容易性の判断は,単なるモチーフの適用の有無だけでなく,繊維の色合い,質感などや織物の組織の具体的かつ詳細な態様についてまで十分に吟味した上で判断すべきであると考えられるので,以下,その点を踏まえて検討する。

(1)本件登録意匠
本件登録意匠の要旨は,別紙第1に現されたとおりのものであって,本章の「1.本件登録意匠」の項において認定したとおりのものである。
このうち,表面側の模様の構成態様を要素別に,箇条書きに要約すると以下のとおりである。

要素(i)模様の構成:暗調子の地の上に,明調子の模様が表されている。
要素(ii)模様の態様(1):明調子の模様は,不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」である。
要素(iii)模様の態様(2):縦条模様の数は29本で,表面側全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,基調として,略「縦縞模様」を形成している。
要素(iv)模様の態様(3):各縦条模様は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしている。

(2)本件登録意匠の模様の要素と先行意匠<1>ないし先行意匠<3>の関係
先行意匠<1>の要旨は,別紙第2(甲1)に現されたとおりのものであって,本章の「2.無効理由1及び先行意匠<1>」の項において認定したとおりのものであり,先行意匠<2>の要旨は,別紙第3(甲2)に現されたとおりのものであって,本章の「3.無効理由2及び先行意匠<2>」の項において認定したとおりのものであり,また,先行意匠<3>の要旨は,別紙第4(甲3)に現されたとおりのものであって,本章の「4.無効理由3」の項において認定したとおりのものであり,上記の本件登録意匠の模様の各要素が,各先行意匠の構成態様,この種物品分野における周知意匠,及び,周知のモチーフにおいて見られるものであり,当業者であれば容易に採用し得るものであるかどうかを,まず検討する。

要素(i)(模様の構成)の,暗調子の地の上に,明調子の模様が表されている点は,先行意匠<1>ないし先行意匠<3>も基本的には有している要素であり,この種物品分野の意匠において,例をあげるまでもなく,ありふれた構成であり,当業者であれば容易に採用し得るものである。

要素(ii)(模様の態様(1))の,明調子の模様は,不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」である点は,明暗調子が反転しているが,先行意匠<3>が有する要素であり,この種物品分野の意匠において,例をあげるまでもなく,ありふれた構成であり,当業者であれば容易に採用し得るものである。

要素(iii)(模様の態様(2))の,縦条模様の数は29本で,表面側全体にほぼ均質な態様で密な状態に配置されており,基調として,略「縦縞模様」を形成している点は,縦条模様の数が相違するものの,基調としては,先行意匠<3>が有する要素であり,この種物品分野の意匠において,例をあげるまでもなく,ありふれた構成であり,当業者であれば容易に採用し得るものである。

念のため,上記要素(ii)及び同(iii)について言及するに,先行意匠<1>及び同<2>には,「不規則に緩やかに蛇行する細線状の縦条模様」は,そもそも存在しない。先行意匠<1>は,糸のパイルのループのレベルが高い(周りよりループが長い)部分のパイルが潰れて周囲のパイルの上に立体的に盛り上がった部分が形成されることにより,その部分において当該模様に変化が生じているものであって,その結果として一定方向から光が当たると,タイルカーペット表面に「尾根状の陰影」が生じているものであるし,先行意匠<2>は,「暗調子の線模様が不規則に,連続せず切れ切れに,縦方向に現されている」(III-2-2)のであるから,触れるまでもないが,巨視的に見ても,「不規則に緩やかに蛇行する細線状の「縦条模様」」は存在しない。

要素(iv)(模様の態様(3))の,各縦条模様は,略直線状の短い縦線が,縦方向に断続的に連なって構成されており,該短い縦線は,小幅な振れ幅で左右に位置を変えつつ,巨視的に見ると1条の連続する略「小波」状模様をなしている点は,先行意匠<1>ないし先行意匠<3>のいずれにも存在しない要素である。また,この要素は,この種物品分野における周知意匠,及び,周知のモチーフにも存在するとはいえないものである。

次に,要素(iv)に見られる態様が,先行意匠<3>の『連続する細線が左右に蛇行しており,「フリーハンドで描かれた線」のようになっている縦条模様』(IV-2-3)から,この種物品分野における周知の創作手法や通常よく行われている多少の改変によって容易に創作しうるものかどうかについて検討するに,この種物品分野において,プリント柄の模様を各種組織の織物に転用することなどはよく行われているところであるが,その場合は模様そのものは実質的に同一であって,ただその表現手段である織物の組織の特徴が表れるものであるところ,要素(iv)でいう模様の態様と先行意匠<3>の模様とは具体的態様のレベルにおいて実質的に同一は到底いえない程の相違が存在し,先行意匠<3>の模様の態様から,要素(iv)の模様の態様が,この種物品分野における周知の創作手法や通常よく行われている多少の改変によって容易に創作しうるものとは到底いうことはできない。

(3)本件登録意匠の創作容易性(無効理由3)の判断
従って,本件登録意匠を構成する要素の一部である要素(i),同(ii)及び同(iii)は,先行意匠<1>ないし先行意匠<3>に依拠したものかどうかにかかわらず,当業者であれば容易に採用し得たものであるといえるが,要素(iv)については,先行意匠<1>ないし先行意匠<3>に存在せず,また,この種物品分野における周知意匠,及び,周知のモチーフにも存在するとはいえないものであるし,要素(iv)に見られる態様が,先行意匠<3>の「縦条模様」から,この種物品分野における周知の創作手法や通常よく行われている多少の改変によって容易に創作しうるものとは到底言うことはできないのであるから,本件登録意匠の表面側の模様の構成態様が,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願前に,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(公知または周知の意匠,及び,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとしての形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(公知または周知のモチーフ)。)を基準として,それらから,当業者が,その物品分野において周知の創作手法を用いたに過ぎないものであるということはできないのであって,本件登録意匠が,当業者であれば,容易に創作することができたということはできず,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当しない。


8.むすび
以上のとおりであって,無効理由1ないし3は,いずれも理由が無く,請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件意匠登録を無効とすることはできない。

また,審判に関する費用については,意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で更に準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2011-12-21 
結審通知日 2011-12-26 
審決日 2012-03-08 
出願番号 意願2004-36237(D2004-36237) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (C1)
D 1 113・ 113- Y (C1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川崎 芳孝斉藤 孝恵 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 遠藤 行久
杉山 太一
登録日 2006-11-17 
登録番号 意匠登録第1289529号(D1289529) 
代理人 松波 祥文 
代理人 石井 雄介 
代理人 水谷 博之 
代理人 岩坪 哲 
代理人 藏冨 恒彦 
代理人 速見 禎祥 

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