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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) F4
管理番号 1258140 
判定請求番号 判定2011-600032
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2012-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2011-07-12 
確定日 2012-06-15 
意匠に係る物品 包装用容器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1130594号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 (イ)号意匠((イ)号図面に示す「包装用容器」の意匠)は,登録第1130594号「包装用容器」の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求人の請求の趣旨及び理由
請求人は,「(イ)号図面に示す包装用容器の意匠は,第1130594号登録意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として概要以下のとおり主張した。

1.判定請求の必要性
請求人は,本件登録意匠に係る意匠権を有している。
被請求人は,当該(イ)号意匠に係る「包装用容器」を製造販売している。

2.本件登録意匠の手続の経緯
出願日 平成12年11月6日
出願番号 意願2000-31634
登録査定 平成13年10月16日
登録日 平成13年11月9日
登録番号 第1130594号
公報発行 平成14年1月7日

3.本件登録意匠
本件登録意匠は,別添登録第1130594号意匠公報から明らかな如く,物品「包装用容器」の態様に関するもので,その基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりである。

i)基本的構成態様
(1) 周壁が12面体の角筒型容器本体部と円筒型蓋部とから成る。
(2) 容器本体部は,透明外層部と透光性を有する内層部とから成り,内側の凹部形状が外側から透けて見える。
(3) 蓋部は,全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている。

ii)具体的構成態様
(1) 容器本体部の側壁に,「COSME DECORTE」,「AQ」,「Cream meliority」の文字が3段に表記されている。
(2) 蓋部の上面部周囲に,「COSME DECORTE」の文字が5組輪状に表記されていると共に,当該上面部の中央に「AQ」の文字が表記されている。
(3) 蓋部の表層面がグレーの色調を呈している。

4.(イ)号意匠
(イ)号意匠は,別紙(イ)号図面から明らかな如く,物品「包装用容器」の態様に関するもので,その基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりである。

i)基本的構成態様
(1) 周壁が12面体の角筒型容器本体部と円筒型蓋部とから成る。
(2) 容器本体部は,全体が透明で,内側の凹部形状が外側から透けて見える。
(3) 蓋部は,全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている。

ii)具体的構成態様
(1) 蓋部の表層面がゴールドの色調を呈している。

5.本件登録意匠と(イ)号意匠の対比
i)両意匠の共通点
(1) 両意匠は,物品「包装用容器」の態様に関するもので,意匠に係る物品において一致する。
(2) また,両意匠は,周壁が12面体の角筒型容器本体部と円筒型蓋部とから成る点において一致する。
(3) また,両意匠は,その容器本体部が透明乃至透光性を有し,内側の凹部形状が外側から透けて見える点で一致する。
(4) また,両意匠は,その蓋部全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている点で一致する。

ii)両意匠の差異点
(1) 本願意匠には文字が表記されているのに対し,(イ)号意匠には文字が表記されていない。
(2) 本願意匠の蓋部の表層面がグレーの色調を呈しているのに対し,(イ)号意匠の蓋部の表層面はゴールドの色調を呈している。

iii)本件登録意匠の要部
(1) 本件登録意匠の基本的構成態様における,「容器本体部が,12面体の角筒型であって,かつ透明乃至透光性を有し,内側の凹部形状が外側から透けて見える」態様は,看者の最も強く注意を惹くものであり,しかも斯かる態様は,この種物品において他には全く見られないところであるから,これが本件登録意匠の全体の基調を表出する要部となっているものである。
(2) 他方,本件登録意匠の基本的構成態様における,「全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている蓋部」自体は,この種物品において従来から普通一般に知られており,また,本件登録意匠の具体的構成態様における,「商品名等の文字の表記」もこの種物品において極普通に行われている汎用表記であって,特に看者の注意を惹く表記態様ではないため,何れも意匠の類否判断を左右する要素とはなり得ないものである。

iv)両意匠の類否
(1) 然るとき,両意匠は上記の如く,本件登録意匠の要部たる「容器本体部が12面体の角筒型であって,かつ透明乃至透光性を有し,内側の凹部形状が外側から透けて見える」態様で一致しているのみならず,基本的構成態様における「蓋部全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている」態様でも一致している。
すなわち,両意匠の全体的構成において,これらの一致している態様が本件登録意匠の要部,かつ基本的構成態様における一致である以上,当該一致している態様が両意匠に共通の印象を与えることは明らかであり,自ずと両意匠は同一の美感を与えるものとして類似の意匠たるを免れない。
(2) 尚,両意匠においては上記の如く,「文字」の有無や「蓋部の色調」に差異点が認められるものの,当該文字や色調に何ら独創性を見い出し得ない以上,到底看者の注意を惹くものではないから,当該差異点が両意匠の一致点から生じる美感の共通性を凌駕し,異なる美感を生じさせるものでないことは明らかである。

6.結び
以上説述したごとく,(イ)号意匠は本件登録意匠に類似するものであるから,請求の趣旨に記したとおりの速やかなる判定を求める次第である。


第2.被請求人の答弁の趣旨及び理由
被請求人は,答弁書を提出し,(イ)号図面に示す意匠は,意匠登録第1130594号の登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める,と申し立て,その理由を概要以下のとおり主張し,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第9号証(注:「乙第1号証」は,「乙1」と記し,その他の各号証も同様とする(以下,同じ。)。)を提出した。
(なお,以下,「〔 〕付き数字」は,使用文字の制限のため,丸付き数字を表す。)

1.本件登録意匠の先行意匠
請求人は,本件登録意匠の先行意匠を何ら示していないが,被請求人は,乙1?6を示す。
乙1,2,4は,いずれも本件登録意匠の出願時に公知であった物品「包装用容器」の意匠の公報であり,乙3は物品「包装用瓶」の意匠の公報である。なお,「包装用容器」と「包装用瓶」は,用途及び機能において類似するので,両物品は類似する。

乙1?3に示す先行意匠から,物品「包装用容器」について,容器本体と蓋体から構成され,蓋体と容器本体とが同程度の高さである形態が,すでに公知であり,ありふれた形態である。そして,容器本体の外形が多角形,さらには12角形である形態もすでに公知であり,ありふれた形態である。

そして,乙4に示す先行意匠から,物品「包装容器」について,円柱状の蓋体の形態が,すでに公知である。さらに,透明である容器本体の内部に底面が球面状で不透明の内側カップ部を有する容器本体の形態が,公知である。

乙5は,本件意匠登録出願の出願日前である1996年4月24日に韓国で公開された意匠公報であり,物品を「化粧用容器」とする意匠である。容器本体と蓋体から構成され,容器本体は,容器本体内側に湾曲する曲面をその外周側面に12面有する透明体であり,その容器本体の内部に砂による研磨等で半透明に加工された曲面状の収容部を有する。そのため,容器本体が12角形で透明である形態はすでに公知であり,ありふれた形状である。

乙6は,乙6の2枚目の右下に記載されているように,本件意匠登録出願の出願日前である1997年中に作成された株式会社齋藤容器のカタログであり,その力タログの中に食品用途の容器について意匠が開示されている。〔10〕及び〔13〕に示す先行意匠は,商品名の欄に「HF-140(12角)ツイスト」及び「マーヤ60(12角)ツイスト」とも記載されていることから,「容器」について,容器本体と蓋体から構成され,容器本体は,平面をその外周側面に12面有する透明体である。そのため,容器本体が12角形で透明である形態はすでに公知であり,ありふれた形状である。

2.本件登録意匠の要部
本件登録意匠の物品は,「包装用容器」であり,上記の先行意匠と同一である。そして,上記の先行意匠から,容器本体の外形が12角形である形態は,公知であるため,看者の注意を惹くものではない。さらに,請求人の『「全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている蓋部」自体は,この種物品において従来から普通一般に知られており,(中略)意匠の類否判断を左右する要素とはなり得ないものである。』(判定請求書第4頁3?8行目)との主張からも明らかなように,蓋体の形状もありふれたもので,看者の注意を惹くものではない。
そうすると,基本的構成態様A,Cは,物品「包装容器」について多くの先行意匠と共通する態様であり,他の意匠との類否判断に影響を及ぼすものではない。
しかしながら,基本的構成態様Bにおいて,容器本体が透明あることは,先行意匠にも見られる形態であるが,容器本体の内部に透光性を有する曲面状の収容部を有することは他にあまり例がなく本件登録意匠の特徴的な態様といえる。
そのため,本件登録意匠の要部は,容器本体が透明であり,かつ,その内部に透光性を有する曲面状の収容部を有する基本的構成態様Bであるといえる。
一方,基本的構成態様Dは,蓋体の色調の特定であるため要部とまではいえないまでも,他の意匠と類否を判断するために意匠全体を観察するときには無視できない構成態様である。また,具体的構成態様E?Kは,本件登録意匠の要部である基本的構成態様Bの構成と比較して,要部とまではいえないまでも,意匠全体を観察するときには,意匠の美観に大きな影響,又は,一定の影響を及ぼす構成態様である。なお,容器本体の側面3面に渡り「COSME DECORTE」,「∧Q」,「Cream meliority」の文字列が中央揃いに3段表記されている」態様について,請求人は具体的構成態様とするが,当該態様は,ブランド,品番等の専ら情報伝達のためだけに使用されており,模様とはいえないため,意匠の構成要素とまではいえないとも思われる。

3.本件登録意匠と(イ)号意匠の類否判断
両意匠を対比すると,いずれも内部に何か物を収納し,その収容した物が外部に出ないよう蓋体で封じる包装容器に係るものであり,意匠に係る物品が共通し,形態については,主として以下の共通点と差異点が認められる。
(i)共通点
〔1〕外形が12角形の容器本体と,容器本体の上方に位置する円柱状の蓋体とから成る点,〔2〕蓋体が,容器部の外径よりも小さい直径の円柱状である下部と,下部よりも高さが低く,下部よりも一回り小さい直径で同心円の円柱状である上部とを有する点において共通する。
(ii)差異点
〔3〕本件登録意匠は,容器本体が透明であり,その内部に透光性を有する曲面状の収容部を有するのに対して,(イ)号意匠は,容器本体が透明であり,その内部に透明である曲面状の収容部を有する点,〔4〕本件登録意匠は,蓋体が,光沢を有するシルバーの色調を有するのに対して,(イ)号意匠は,蓋体が,光沢を有するゴールドの色調を有する点,〔5〕本件登録意匠は,容器本体の側面下側に,容器本体の内部側に傾斜する傾斜面を有するのに対して,(イ)号意匠は,容器本体の側面が平面のまま下端に達している点,〔6〕本件登録意匠は,蓋体の上部と下部の高さの比が上部の高さ:下部の高さ=1:3であるのに対して,(イ)号意匠は,蓋体の上部と下部の高さの比が上部の高さ:下部の高さ=1:4である点,〔7〕本件登録意匠が,蓋体の上部と下部の直径の比が上部の直径:下部の直径=15:16であるのに対して,(イ)号意匠が,蓋体の上部と下部の直径の比が上部の直径:下部の直径=17:20である点,〔8〕本件登録意匠は,容器本体の上端と蓋体の下端で明確な段差を形成するのに対し,(イ)号意匠は,容器本体の上端と蓋体の下端とで段差をほとんど形成しない点,〔9〕本件登録意匠は,収容部がほぼ球状の曲面で立ち上がり,容器本体の側面のやや上側に到達する底面を有するのに対し,(イ)号意匠は,収容部がごく緩やかな曲面で広がり,容器本体の側面に近づくとほぼ垂直に立ち上がり,容器本体の上端に到達する底面を有する点に差異が認められる。〔10〕本件登録意匠は,容器本体の側面が平面で構成されているのに対し,(イ)号意匠は,容器本体の側面が容器本体内側にやや湾曲する曲面で構成されている点に差異が認められる。なお,容器本体の側面に文字列が表示されている態様について,本件登録意匠には表されているが,(イ)号意匠には表されていない差異が認められる。
(iii)類否判断
そこで,上記の共通点と差異点について,(イ)号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について,本件登録意匠の出願前に存する公知意匠を参酌し,新規な態様や看者の注意を最も惹き易い部分を把握した上で,共通点と差異点が意匠全体として注意を惹くものであるか等を以下に検討する。
まず,共通点が類否判断に及ぼす影響について比較して検討する。
〔1〕について,外形が12角形の容器本体と,容器本体の上方に位置する円柱状の蓋体とから成る包装容器は,この種の包装容器の形態全体の基本的構成態様として多くの先行意匠の組合せにより構成されるものであり,本件登録意匠の特徴的構成態様ではく,両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえない。
〔2〕について,請求人の『「全体が不透明で,かつその上面が同心円状に2段の段差面となっている蓋部」自体は,この種物品において従来から普通一般に知られており,(中略)意匠の類否判断を左右する要素とはなり得ないものである。』(判定請求書第4頁3?8行目)との主張からも,本件登録意匠の特徴的構成態様ではく,両意匠のみに共通する新規の構成態様とはいえない。
そうすると,これらの共通点に係る態様は,公知意匠等を参酌すれば,いずれも両意匠のみに共通する新規の態様とはいえず,本件登録意匠の特徴的態様ともいえないから,両意匠の類否判断を左右するものとなりえない。
次に,差異点が類否判断に及ぼす影響についても比較して検討する。
〔3〕について,本件登録意匠は,透明である容器本体の内部に透光性を有する曲面状の収容部を有しており,通常の流通段階で視認する方向といえる正面,右側面,左側面,背面,斜め上方から観察した場合に看者の注意を惹き易い,目立つ部位における差異であり,この透光性を有する曲面状の収容部は,他にあまり例がなく,本件登録意匠の特徴的な態様といえる。さらに,本件登録意匠は,収容部が透光性であり,すなわち,文字通り光が透けるだけであるため,その収容部に内容物を充填した際には内容物を視認することは困難であり,看者に内容部を間接的にしか見せず高級である印象を与える。一方,(イ)号意匠は,透明である容器本体の内部に透明である曲面状の収容部を有しており,その収容部に内容物を充填した際には内容物を容易に視認することができ,看者に内容物を直接的に見せることによりクリアである印象を与える。そのため,両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。なお,乙7に示した意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引きでは,「透明」と「透光性」とが,明確に区別されているのであるから,本件登録意匠の意匠権者は,出願段階においてこの区別を充分認識した上で,収容部を「透明」ではなく,「透光性」であると意図的に特定しているものであるといえる。
〔4〕について,蓋体の色調が,本件登録意匠の光沢を有するシルバーであるか,(イ)号意匠の光沢を有するゴールドであるかは,蓋体が意匠全体の大きな部分を占めており,また,手に取るために手を伸ばしたときに触れる部分であるため,看者の注意を惹き易い差異である。つまり,本件登録意匠の蓋体の光沢を有するシルバーは,シンプル,洗練,知性,未来,冷たさなどのイメージを看者に想起させるのに対して,(イ)号意匠の蓋体の光沢を有するゴールドは,豪華,高級,ステイタス,頂点,光などのイメージを看者に想起させるのであるから,両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。
〔5〕について,本件登録意匠が,容器本体の側面下側に,容器本体の内部側に傾斜する傾斜面を有することは,正面,右側面,左側面,背面から観察した場合の印象が,(イ)号意匠とは異なり,また,手に取るために手を伸ばしたときに触れる部分であるため,看者の注意を惹き易い差異であることから,その差異が両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
〔6〕について,本件登録意匠が,蓋体の上部と下部の高さの比が上部の高さ:下部の高さ=1:3であることは,斜め上方,正面,右側面,左側面,背面から観察した場合の印象が,(イ)号意匠とは異なることから,その差異が両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
〔7〕について,本件登録意匠が,蓋体の上部と下部の直径の比が上部の直径:下部の直径=15:16であることは,斜め上方,正面,右側面,左側面,背面から観察した場合の印象が(イ)号意匠とは異なり,スマートな印象を与えることから,その差異が両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
〔8〕について,本件登録意匠が,容器本体の上端と蓋体の下端で明確な段差を形成することで,意匠全体として蓋体の上部から階段状に容器本体に到達することから,斜め上方,正面,右側面,左側面,背面から観察した場合,落ち着いた印象を与える。一方,(イ)号意匠は,容器本体の上端と蓋体の下端との間に段差をほとんど有さず,意匠全体として蓋体の下部から一体感を持って容器本体に到達することから,同様に観察した場合,ゆったりとした印象を与える。また,手に取るために手を伸ばしたときに触れる部分であるため,看者の注意を惹き易い差異である。そのため,その差異が両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
〔9〕について,本件登録意匠は,収容部がほぼ球状の曲面で立ち上がり,容器本体の側面のやや上側に到達する底面を有することから,(イ)号意匠とは異なり,滑らかな印象を与える。そのため,その差異が両意匠の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
〔10〕について,容器本体の側面が平面で構成されているか,容器本体の側面が容器本体内側にやや湾曲する曲面で構成されているかは,容器本体が意匠全体の大きな部分を占めており視認し易く,また,手に取るために手を伸ばしたときに触れる部分であるため,看者の注意を惹き易い差異である。つまり,本件登録意匠の容器本体の側面は,平面で構成されているので,スッキリした,スマートなというイメージを看者に想起させるのに対して,(イ)号意匠の容器本体の側面は,柔らかい,しなやかなというイメージを看者に想起させるのであるから,両意匠の類否判断に与える影響を無視することはできない。
なお,容器本体の側面3面に亘って文字列が表示されている態様が,請求人が判定請求書で述べているように本件登録意匠の具体的構成態様とするならば,当然に看者の注意を惹くのであり,その構成を有さない(イ)号意匠との類否判断に少なからず影響を与えるものといえる。
そして,これらの共通点と差異点を総合すれば,共通点に係る態様が両意匠にのみ共通する特徴とはいえず,本件登録意匠の特徴的な態様は,差異点〔3〕及び〔4〕に顕著に表れているもので,(イ)号意匠には見られない以上,両意匠の類否判断に決定的な影響を及ぼすものとせざるを得ず,類否判断全体として,(イ)号意匠は,本件登録意匠に類似するものとはいえない。
したがって,本件登録意匠と(イ)号意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態については,(イ)号意匠は本件登録意匠の特徴的な態様を有さず,共通点よりも差異点に係る態様が相侯って生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響に対して支配的であるから,両意匠は,全体として美感が異なり,類似しない。

4.むすび
以上より,答弁の趣旨に記載したように,(イ)号意匠は,本件登録意匠の類似する範囲に属さない。


第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,2000年(平成12年)11月6日に意匠登録出願され,2001年(平成13年)11月9日に,意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1130594号の意匠であり,願書の記載並びに願書に添付した図面の記載及び写真に現されたものによれば,意匠に係る物品は,「包装用容器」であり,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され,同写真に現されたとおりのものである。(別紙第1参照)

2.(イ)号意匠
(イ)号意匠は,本件判定請求書に添付された(イ)号図面によって示されたものであって,(イ)号図面によれば,意匠に係る物品は,「包装用容器」であって,その形態は,(イ)号図面に現されたとおりものである。(別紙第2参照)

3.本件登録意匠と(イ)号意匠の対比
(1)本件登録意匠と(イ)号意匠の意匠に係る物品
いずれも「包装用容器」であって,両者は,一致する。

(2)本件登録意匠と(イ)号意匠の形態の対比
両意匠間には,主として,以下のとおりの共通点及び相違点がある。

(共通点)
基本的構成態様として,
共通点(A):全体が,略短柱状の容器であって,上側の略短円柱状の蓋体と,下側の略短12角柱状の容器本体からなるものである点,
共通点(B):質感について,蓋体が金属的質感を有しており,容器本体が透明であって内容物の入る凹部(以下,「収納部」という。)が外部から視認できる点。
具体的構成態様として,
共通点(C):前記共通点(B)との関連で,収納部の底面が緩やかな凹球面状であって,その下方に容器本体の底部の厚みがあり,また,それらが外部から視認できる点,
共通点(D):平面視において,蓋体の直径よりも容器本体の幅の方がわずかに大きく,12角柱状の容器本体の角張った突起部分などが容器本体の頂面として蓋体の外周からはみ出している構成態様である点,
共通点(E):蓋体の高さと,容器本体の高さを比較すると,蓋体の方が相当程度高さが低く構成されている点,
共通点(F):蓋体は,径が大きく高さの低い略短円柱状の蓋体下部の上に,径がやや小さく極高さの低い略円板状の蓋体上部を,同心円状に重ねてなるものであり,蓋体上部との高さと,蓋体下部の高さを比較すると,蓋体上部の方が非常に高さが低いものである点。

(相違点)
基本的構成態様について,
相違点(a):全体及び各部の比について詳細に見ると,本件登録意匠は,全高:全幅の比が約1:1であるのに対して,(イ)号意匠は,これが約1:1.3であり,また,蓋体の高さ:蓋体の直径について,本件登録意匠は,これが約1:2.5であるのに対して,(イ)号意匠は,これが約1:3.1であり,容器本体の高さ:容器本体の全幅の比について,本件登録意匠は,これが約1:1.7であるのに対して,(イ)号意匠は,これが約1:2.2であり,蓋体の高さ:容器本体の高さの比について,本件登録意匠は,これが約1:1.7であるのに対して,(イ)号意匠は,これが約1:1.6である点。
具体的構成態様について,
相違点(b):容器本体の態様について,本件登録意匠は,透明な容器本体に透光性を有する曲面状の収容部が別部材として陥合されているのに対して,(イ)号意匠は,透明な容器本体に曲面状の収容部が一体的に形成されているものであって,また,本件登録意匠は,収容部が,略半球状に膨出したように形成されているのに対して,(イ)号意匠は,収容部が,略円筒形状の内側面に,非常に緩やかな凹球面状の内底面を丸面状に滑らかに接合したかのように形成されているものである点
相違点(c):容器本体の12面の略縦長矩形状の各面を詳細に見ると,本件登録意匠は,各面が略平面で構成されているのに対して,(イ)号意匠は,容器本体内側に極わずかに湾曲する凹湾曲面で構成されている点,
相違点(d):容器本体の側周面下端の態様について,本件登録意匠は,容器本体の側周面下端部が角面状になっているのに対して,(イ)号意匠は,容器本体の側周面が角張っている点,
相違点(e):蓋体上部と同下部の構成態様を詳細に見ると,蓋体上部の高さ:同下部の高さの比について,本件登録意匠は,これが約1:3であるのに対して,(イ)号意匠は,これが約1:4であり,また,蓋体上部の直径と同下部の直径の比について,本件登録意匠は,これが約15:16(1:1.08)であるのに対して,(イ)号意匠は,これが約17:20(1:1.15)である点,
相違点(f):本件登録意匠は,色彩がないものであるのに対して,(イ)号意匠は,蓋体が,金色であり,また,本件登録意匠は,蓋体の頂面と側周面に文字等が表されているのに対して,(イ)号意匠は,文字等が表されていない点。

4.本件登録意匠と(イ)号意匠の類否判断
以上の一致点,共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

(1)共通点の評価
基本的構成態様に係る共通点(A)及び同(B)及び具体的構成態様に係る共通点(C)ないし(F)は,両意匠の形態全体に渡り,両意匠の基調を形成するものであって,かつ,この種物品分野における意匠の創作の実態を踏まえ,関連する先行公知意匠に照らすところ,共通点(F)に示す態様の蓋体に,共通点(D)及び同(E)に示す蓋体との構成及び態様の容器本体を組み合せて,共通点(A),同(B)及び同(C)の構成態様の包装用容器とした点は,本件登録意匠のみに見られる特徴的なものであり,(イ)号意匠がその共通性を有していることは,見る者に共通の印象を強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっている。
(なお,被請求人が提出した乙1?乙6において,上記に示すとおりに蓋体と容器本体を組み合わせた包装用容器に係る先行公知意匠は見られないし,当審が調査したところにおいても同様である。)

(2)相違点の評価
これに対して,基本的構成態様に係る相違点(a)及び具体的構成態様に係る相違点(b)ないし(f)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱にとどまるものであって,上記共通点が与える強い共通の印象を覆すほどのものではない。
すなわち,相違点(a)の全体及び各部の比の相違は,いずれも詳細に見て初めて気付く程度の微差であり,かつ,共通点(A),同(D)及び同(E)などとして述べた共通性が両意匠に存在することを前提とした上での相違であるから,意匠全体としてみた場合,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。
相違点(b)の容器本体の態様に係る相違のうち,本件登録意匠は,透明な容器本体に透光性を有する曲面状の収容部が別部材として陥合されているのに対して,(イ)号意匠は,透明な容器本体に曲面状の収容部が一体的に形成されている点は,構造上の問題であって,外部から視認できたとしても見る者の意匠として異なった印象を与えるものとはいえないし,また,本件登録意匠は,収容部が,略半球状に膨出したように形成されているのに対して,(イ)号意匠は,収容部が,略円筒形状の内側面に,非常に緩やかな凹球面状の内底面を丸面状に滑らかに接合したかのように形成されているものである相違も,収納部という他との比較でいえば,目に付きにくい部位に係る相違という他なく,さらに,前記共通点(B)及び同(D)として述べた共通性が両意匠に存在することを前提とした上での相違であるから,意匠全体としてみた場合,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。
相違点(c)の容器本体の12面の略縦長矩形状の各面の構成態様の相違は,詳細に見て初めて気付く程度の微差であり,本件登録意匠の構成態様も(イ)号意匠の構成態様もそれぞれありふれた態様であるから相違点として両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどないという他ない。
相違点(d)の容器本体の側周面下端の態様の相違も非常に目に付きにくい部位に係る相違であり,かつ,いずれの態様もありふれたものであり,さらに,意匠全体としてみた場合,前記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱という他ない。
相違点(e)の蓋体上部と同下部の比の相違は,いずれも相違点(a)よりもさらに詳細に見て初めて気付く程度の微差に過ぎず,むしろ,採り上げるまでもなく,共通点(F)に埋没している程度のものという他ない。
相違点(f)の色彩及び文字等の相違は,(イ)号意匠の色彩がこの種物品分野においてありふれた態様である以上,この色彩の有無の相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどないし,また,文字等の有無の相違も,本件登録意匠の文字等の態様は,模様とはいえない程度の,単に需要者に情報を提供する目的をもって付されたものであるから,この文字等の有無の相違が両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどない。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の印象を覆して,両意匠の類否判断を左右するほどではない。

(3)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が一致し,形態においても,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいというべきであるのに対して,相違点はいずれも微弱であって,相違点の印象は,共通点の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本件登録意匠は,(イ)号意匠に類似する。


5.むすび
以上のとおりであって,(イ)号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2012-06-07 
出願番号 意願2000-31634(D2000-31634) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (F4)
最終処分 成立  
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 斉藤 孝恵
橘 崇生
登録日 2001-11-09 
登録番号 意匠登録第1130594号(D1130594) 
代理人 高野 登志雄 
代理人 塚崎 幸司 
代理人 村田 秀人 
代理人 中嶋 俊夫 
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所 

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