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審決分類 審判    M2
管理番号 1265899 
審判番号 無効2012-880007
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-05-01 
確定日 2012-11-05 
意匠に係る物品 空調装置用膨張弁 
事件の表示 上記当事者間の登録第1431241号「空調装置用膨張弁」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1431241号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
本件無効審判請求人(以下,「請求人」という。)は,結論同旨の審決を求める,と申立て,その理由として,概要以下の主張をし,証拠方法として,甲第1号証(引用意匠),甲第2号証ないし甲第21号証(公知意匠参酌の参考登録意匠),甲第22号証(本件登録意匠),対比図(本件登録意匠と引用意匠),及び,意匠マップ1ないし3を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠(甲第22号証)は,甲第1号証の意匠(登録第1419281号意匠,以下「引用意匠」という。)と類似するものであるから,意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2.本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠
本件登録意匠は意匠登録第1431241号の意匠公報記載のとおりである。
すなわち,本件登録意匠は「空調装置用膨張弁」に係る意匠であり,「この物品は,自動車用空調装置等の冷凍サイクルに設けられ,導入された高温・高圧の液冷媒を急激に膨張させて低温・低圧の霧状の冷媒にして導出する膨張弁である。」

イ 引用意匠
(なお,本件登録意匠の作図方向に合わせて,引用意匠の「背面」を「正面」等として認定する。)
引用意匠は意匠登録第1419281号の意匠公報記載のとおりである。
すなわち,引用意匠は「膨張弁」に係る意匠であり,「この意匠に係る物品は,空調装置等の冷凍サイクルに用いられる膨張弁であって,コンデンサから送り込まれる高温・高圧の液状冷媒をオリフィスで急激に膨張させてエバポレータヘ供給する。本体上部にパワーエレメントが備わっており,エバポレータ出口側の冷媒の温度及び圧力に基づいてオリフィスを通過する冷媒の流量を制御する。」

ウ 対比
意匠に係る物品は,本件登録意匠が「空調装置用膨張弁」で,引用意匠が「膨張弁」であり,いずれも,自動車用空調装置等に配置して使用される膨張弁で共通する。
形態については,以下のとおり,両意匠は,(A)基本的構成態様,および(B)具体的構成態様において全て一致し,(C)具体的構成態様の詳細態様において,以下の共通点と差異点がある。

<共通点>
(A)基本的構成態様
全体は略縦長四角柱状で正面に5個,背面に4個の孔が配された本体部とその上端に設けられた円盤状の弁駆動部からなる。
(B)具体的構成態様
(あ)本体部は,正面および背面に設けられた大小の孔に沿うように左右側面が左右対称状に削り取られて凹凸状の側面を形成しており,上から順に,(a)正面上方大径孔の横の凸部,(b)正面中央の2個の中径孔の横の凸部,(c)背面下方大径孔の横の凸部,(d)正面下方大径孔の横の凸部,(e)底部の凸部を形成している。
(い)正面には,上方から下方に順に,(a)1個の上方大径孔が中央部に,(b)その下に,2個の中径孔が,相互にやや間隔を空けて,左右同じ高さに,(c)その下に,1個の小径孔が,中央部に,(d)その下に,1個の下方大径孔が,それぞれ左右対称状に配置され,いずれも真円形状である。
(う)背面には,上方から下方に順に,(a)1個の上方大径孔が中央部に,(b)その下に,2個の中径孔が,やや間隔を空けて,左右同じ高さに,(c)その下に,1個の下方大径孔が中央部に,それぞれ左右対称状に配置され,いずれも真円形状である。下方大径孔の径は上方大径孔の径より少し小さい。下方大径孔と背面下端との間には間隔が空いている。
(え)弁駆動部は,径が本体正面上端横幅よりやや大径で,頂面中央に円錐台状の突出部があり,下面に扁平逆円錐台状の縮径段部が形成されており,中心が本体の中央のやや正面寄りに位置している。
(お)本体底面には,中心にボルト孔のある円形のばね受けが設けられている。
(C)具体的構成態様の詳細な構成態様
(か)左右側面凹凸部について詳細に見た構成態様は,(b)正面中央の2個の中径孔の横の凸部は,中央部に垂直面を有し,全体が略倒台形状であり,(c)背面下方大径孔の横の凸部は,全体が円弧状であり,(d)正面下方大径孔の横の凸部は,全体が円弧状であり,(e)底部の凸部は,垂直面を形成している。
(き)正面及び背面の孔について詳細に見た構成態様は,(c)背面の下方大径孔は,側面凸部に接するように設けられ,(d)正面の下方大径孔は,側面凸部に接するように設けられている。

<差異点>
(ア)本件登録意匠の正面上方大径孔の横の凸部は,中央部に垂直面を有し,全体が略倒台形状であるのに対して,引用意匠の正面上方大径孔の横の凸部は,全体が円弧状である。
(イ)本件登録意匠の上方大径孔は,背面の孔は大きく側面に接するように設けられているが,正面の孔はやや小さく側面とやや離れて設けられているのに対し,引用意匠の上方大径孔は,正面および背面の孔が略同じ大きさで,側面に接するように設けられている。
(ウ)本件登録意匠の中央の2個の中径孔は,側面凸部の関係でみるとやや上方に設けられているのに対し,引用意匠の2個の中径孔は側面凸部の略中央に設けられている。
(エ)本件登録意匠は,左右側面に各凹凸面の切換箇所が実線で表されているのに対して,引用意匠は,実線で表されていない。

エ 使用方法等
意匠に係る物品は,本件登録意匠と引用意匠のいずれも,自動車用空調装置等に配置して使用される膨張弁であり,この種意匠の取引者・需要者は,自動車用空調装置等を製造する業者である。
この種意匠の形態は,全体が機能的に規定される部分が多いものである。したがって,冷媒を通過させる孔の構成態様のみならず,側面部の構成態様,および弁駆動部や底面態様等も,取引者・需要者の注意を惹くものである。すなわち,この種意匠の取引者・需要者は,意匠全体の基本的構成態様,および具体的構成態様の全体について注意を惹かれるものである。

オ 公知意匠等
(A)孔の構成態様について
本件登録意匠と引用意匠に係る物品はいずれも,自動車用空調装置等に配置して使用され,本体部の正面に5個,背面に4個の孔が配された膨張弁である。ところで,本件意匠登録の出願日である平成23年2月28日,および引用意匠の出願日である平成23年1月7日より前に頒布されていた刊行物(甲2ないし15)には,膨張弁につき,正面,背面のいずれかに,上から順に,1個の上方大径孔,2個の中径孔,1個の小径孔,1個の下方大径孔(なお,その径は上方大径孔よりも小さい。)の合計5個の孔が全体として左右対称状に配され,その反対面に,上から順に,1個の上方大径孔,2個の中径孔,1個の下方大径孔(なお,その径は上方大径孔よりも小さい。)の合計4個の孔が全体として左右対称状に配された意匠が図示されている。孔は,真円形状である。なお,片側合計5個の孔に1個の小径孔が付加されているが,甲16ないし18の意匠も,略同一の孔構成と認められる。
上記刊行物に記載された意匠では,各孔の径の比率や間隔は略同一であるが,詳細に見ると,本件登録意匠の上方大径孔のように,背面の孔は大きく,正面の孔はやや小さい意匠(甲2,6,7,16ないし18)が存在するとともに,引用意匠の上方大径孔のように,正面と背面の孔が同じ大きさの意匠(甲3ないし5,8ないし15)も存在する。なお,正面や背面に存在する孔の数は,膨張弁の機能に由来するものと解される。
(B)凹凸状の側面構成態様について
本件登録意匠および引用意匠に共通する,「本体部は,正面および背面に設けられた大小の孔に沿うように左右側面が削り取られて凹凸状の側面を形成」した構成態様の意匠は,側面の一部について凹凸状面を構成したものはあるが,大小の全部の孔に沿うように左右側面が削り取られて凹凸状の側面を形成した意匠は存在しない。
上方大径孔については,本件登録意匠のように,「背面の孔は大きく側面に接するように設けられているが,正面の孔はやや小さく側面とやや離れて設けられている」構成態様は,甲2号証の意匠に存在する。また,引用意匠のように,「正面および背面の孔が略同じ大きさで,側面に接するように設けられている」構成態様は,甲5号証の意匠に存在する。
両意匠に共通する,正面中央の2個の中径孔の横の凸部について,「中央部に垂直面を有し,全体が略倒台形状」とした構成態様は,甲6号証の意匠に存在する。
両意匠に共通する,正面および背面の下方大径孔の横の凸部を円弧状として連続させた構成態様は,やや近いもの(甲6,11)が存在するが,同一の構成態様の意匠は存在しない。

類否判断
以上認定した事実に基づいて,本件登録意匠と引用意匠の類否を判断する。
(A)両意匠の共通点について
両意匠の基本的構成態様,および具体的構成態様は,意匠全体の印象を基本的に決めるものであり,この種意匠の取引者・需要者が,最初に注意を引かれる態様である。
なお,両意匠の基本的構成態様,および具体的構成態様のうち孔の構成態様,すなわち,本体部の正面に,上から順に,上方大径孔,2個の中径孔,小径孔,下方大径孔(なお,その径は上方大径孔よりも小さい。)の5個の真円形状の孔が全体として左右対称状に配され,背面に,上から順に,上方大径孔,2個の中径孔,下方大径孔(なお,その径は上方大径孔よりも小さい。)の4個の真円形状の孔が全体として左右対称状に配置されている具体的構成態様は,本件意匠登録および引用意匠登録の出願前に多数の公知例がありありふれたもの(周知)であることを考慮すると,特に新規な態様として取引者・需要者の注意を引くものとはいえない。
これに対して,具体的構成態様のうち「本体部は,正面および背面に設けられた大小の孔に沿うように左右側面が削り取られて凹凸状の側面を形成しており,上から順に,(a)正面上方大径孔の横の凸部,(b)正面中央の2個の中径孔の横の凸部,(c)背面下方大径孔の横の凸部,(d)正面下方大径孔の横の凸部,(e)底部の凸部を形成している」構成態様は,部分的にみると一部の構成態様は公知であるが,大小の孔全部に沿って左右対称状に側面全体が削り取られて凹凸状の側面を形成した意匠は,本件意匠登録および引用意匠登録の出願前に公知ではなく,取引者・需要者の注意を引く形態といえる。
また,具体的構成態様の詳細な構成態様における共通点については,「(b)正面中央の2個の中径孔の横の凸部は,中央部に垂直面を有し,全体が略倒台形状」の態様は公知の態様であるが,(c)背面下方大径孔の横の凸部,および(d)正面下方大径孔の横の凸部を円弧状として2つ連続させた本体下半分の構成態様は,新規な創作性がある特徴的な形態であり,取引者・需要者の注意を引く部分である。
以上のとおり,この種意匠に係る物品(膨張弁)の使用の態様等をも総合的に考慮すると,両意匠の共通点である,基本的構成態様,および具体的構成態様は,意匠全体の意匠的効果に影響するもので取引者・需要者の注意を引き,また,「大小の全部の孔に沿って左右対称状に側面全体が削り取られて凹凸状の側面を形成した」構成態様,および「正面・背面の下方大径孔の横の凸部を円弧状として2つ連続させた」本体下半分の構成態様は,新規な創作性がある特徴的な形態であり取引者・需要者の注意を引くものである。
したがって,本件登録意匠と引用意匠は,特に,取引者・需要者の注意を引きやすい点である本体部全体の形態を含め,多くの特徴的な形態において共通しており,取引者・需要者に対して意匠全体として共通する美感を起こさせるものであり,両意匠は類似する。

(B)両意匠の差異点について
(ア)正面上方大径孔の横の凸部の形状の差異
両意匠の正面上方大径孔の横の凸部は,「略倒台形状」か「円弧状」であるかの差異がある。しかし,当該部分は意匠全体からみれば僅かな部分である。また,本件登録意匠の「倒台形状」の態様も引用意匠の「円弧状」の態様も公知の態様であり(甲2,および甲5),いずれの態様も格別新規な創作性がある態様ではなく,取引者・需要者の注意を引くものともいえない。したがって,両意匠の共通する美感を変更するまでの差異ではない。
(イ)上方大径孔の差異
上方大径孔の大きさの差異は,一ヵ所の僅かな差異であり,意匠全体から観ると一部分の差異でしかない。また,本件登録意匠の態様も引用意匠の態様も多数の公知例がありありふれた(周知)態様であり,いずれの態様も格別新規な創作性がある態様ではなく,取引者・需要者の注意を引くものともいえない。したがって,両意匠の共通する美感を変更するまでの差異ではない。
(ウ)中央の2個の中径孔の位置
両意匠は,中央2個の中径孔の位置がやや相違するが,ほんの僅かな位置の差でしかなく,意匠全体から見れば全く部分的な差異であり,両意匠の共通する美感を変更するまでのものではない。
(エ)左右側面の実線の有無
本件登録意匠は,左右側面に各凹凸面の切換箇所が実線で表されているのに対して,引用意匠は,実線で表されていない差異がある。しかし,本件登録意匠のこの実線は作図上記載されたもので,厳密には各面は滑らかに連続しておりこのような実線は表れないものである。このような実線を記載するのは,単に形状を理解しやすくするためのものであり,実際の形状の相違はほとんどないものである。登録意匠についてみると,このような実線を記載したもの(甲3,6,7,9,13,14,15,16)も,記載しないもの(甲2,4,5,8,10,11,12,)もある。(甲2(TGK),甲3(不二工機)を除き,TGKの登録意匠は記載し,不二工機の登録意匠は記載しない傾向がある。なお,甲17,18は一部記載していない。)

(C)類否判断まとめ
以上のとおり,本件登録意匠と引用意匠は,取引者・需要者の注意を引きやすい点である本体部全体の基本的構成態様および具体的構成態様をはじめ,特に新規な創作性がある特徴的構成態様である,「凹凸状の側面を形成した」構成態様,および「正面・背面の下方大径孔の横の凸部を円弧状として2つ連続させた」本体下半分の構成態様において共通性が顕著であり,取引者・需要者に対して意匠全体として共通する美感を起こさせるものである。これに対して,差異点は,いずれも部分的な差異でしかなく,これらを総合して考慮しても,両意匠の共通する美感を変更するまでのものではない。したがって,共通点は差異点を凌駕し,両意匠は類似する。

(4)むすび
以上のとおり,本件登録意匠は引用意匠に類似するものであるから,意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。



第2.被請求人の答弁及び理由の要点
本件無効審判被請求人(以下,「被請求人」という。)に対して,審判請求書の副本を送達し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,その期間を経過しても被請求人からは,何ら応答がなかったものである。



第3.当審の判断
1.経緯
・2011年(平成23年) 1月 7日 引用意匠に係る意匠登録出願(意願2011-185)・2011年(平成23年) 2月28日 本件登録意匠に係る意匠登録出願(意願2011-4422)・2011年(平成23年) 6月24日 引用意匠の設定の登録(意匠登録第1419281号)
・2011年(平成23年) 7月25日 引用意匠の意匠公報発行
・2011年(平成23年)12月 2日 本件登録意匠の設定の登録(意匠登録第1431241号)
・2012年(平成24年) 1月10日 本件登録意匠の意匠公報発行


2.本件登録意匠
本件登録意匠は,本意匠を意願2011-4420(意匠登録第1430930号)とする関連意匠の意匠登録出願として,2011年(平成23年) 2月28日に出願されたものであり,意願2011-4422として審査された後,2011年(平成23年)12月 2日に,本意匠を意匠登録第1430930号とする関連意匠の意匠登録として意匠権の設定の登録(意匠登録第1431241号)がされ,2012年(平成24年)1月10日に意匠公報が発行されたものであり,その意匠は,願書及び願書に添付された図面の記載によれば,意匠に係る物品を「空調装置用膨張弁」とし,その「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)」を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)


3.無効理由及び引用意匠
本件意匠登録無効請求の無効理由は,本件登録意匠が,本件登録意匠に係る意匠登録出願の意匠登録出願日よりも前の出願に係る甲第1号証の意匠(引用意匠:意匠登録第1419281号の意匠。)と類似するものであるから,意匠法第9条第1項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきであるというものである。

引用意匠は,2011年(平成23年) 1月 7日に意匠登録出願され,意願2011-185として審査された後,2011年(平成23年) 6月24日に設定の登録(意匠登録第1419281号)がされ,2011年(平成23年) 7月25日に意匠公報が発行されたものであり,その意匠は,願書及び願書に添付された図面の記載によれば,意匠に係る物品を「膨張弁」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第2参照)


4.本件登録意匠と引用意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「空調装置用膨張弁」であり,意匠に係る物品の説明には「この物品は,自動車用空調装置等の冷凍サイクルに設けられ,導入された高温・高圧の液冷媒を急激に膨張させて低温・低圧の霧状の冷媒にして導出する膨張弁である。」と記載され,引用意匠の意匠に係る物品は,「膨張弁」であり,意匠に係る物品の説明には,「この意匠に係る物品は,空調装置等の冷凍サイクルに用いられる膨張弁であって,コンデンサから送り込まれる高温・高圧の液状冷媒をオリフィスで急激に膨張させてエバポレータへ供給する。本体上部にパワーエレメントが備わっており,エバポレータ出口側の冷媒の温度及び圧力に基づいてオリフィスを通過する冷媒の流量を制御する。」と記載されており,両意匠の意匠に係る物品は,空調装置等の冷凍サイクルに用いられる膨張弁であって,共通する。

(2)形態
両意匠間には,以下の共通点及び相違点が,主としてある。
(以下,対比の便宜上,引用意匠の図面について図の表示と図中の向きを本件登録意匠の図面に合わせることとし,引用意匠の「背面図」を「正面図」とし,引用意匠の「正面図」を「背面図」とし,引用意匠の「右側面図」を「左側面図」とし,引用意匠の「平面図」を180°回転させ,その他は,これらに準じて表されているものとする。)(別紙第3及び別紙第4参照)

(共通点)
基本的構成態様として,
(A)全体は,正・背面視略円形状で,直径が概ね大・小と異なり,貫通した「孔部」と,正・背面視略円形状で,直径が概ね中・小と異なり,深さ等が異なる「穴部」を,複数個形成した略縦長四角柱状で左右対称形状の「本体部」と,その頂面部に設けられた円盤状の「弁駆動部」からなるものであって,
(B)本体部は,その正面には,全部で5個の孔部・穴部が形成され,その内訳は,「背面に貫通する大・小の孔部」が3個,「奥行きの中程くらいまでの深さがある中小の穴部」が2個であり,また,その背面には,全部で4個の孔部・穴部が形成され,その内訳は,「正面に貫通する大小の孔部」が3個,「奥行きの中程くらいまでの深さである中の穴部」が1個であって,それらの孔部・穴部は,正・背面の両面において,該部周辺に余白部を設けて,とりわけ,左右両側面には一定の幅の余白部を設けた態様で,かつ,孔部・穴部の開口部同士はお互いに接せず形成されているものであって,
(C)本体部の縦中央部には,略棒状体及びコイル状ばねが貫通したように配設されており,その一部が正面・背面の孔部・穴部から見えるものである点。

具体的構成態様として,
(D)略「鍋蓋」状の弁駆動部は,最大径が本体部の前後長にほぼ等しく,本体部頂面の背面寄りにやや突出した態様で取り付けられており,頂面中央に略円錐台状の突出部が形成され,下面側に扁平な略逆円錐台状の縮径段部が形成されており,
(E)孔部・穴部は,
正面において,上から,
上端のやや下側の中央に「大円形孔部」が1個形成され,
その下側の左右両端に「小円形孔部」が2個左右対称状に形成され,
さらにそのやや下側の中央に「正面小円形穴部」が1個形成され,
少し離れて下端寄りのやや上側の中央に「正面中円形穴部」が1個形成されており,
背面において,上から,
上端のやや下側の中央に「大円形孔部」が1個形成され,
その下側の左右両端に「小円形孔部」が2個左右対称状に形成され,
さらにそのやや下側の中央に「背面中円形穴部」が1個形成されているものであって,
(F)本体部の両側面形状について,
(F-1)本体部の側面形状は,正面から背面に引き抜いたように成形された凹凸形状としたものであって,全体として上端から下端に向かって縮幅している態様であって,
正面視弁駆動部に延設された両側部に,小さな凸部が,
大円形孔部の両側部に,大きな凸部が,
2個ある小円形孔部のそれぞれ外側部に,小さな凸部が,
正面小円形穴部の中程から正面中円形穴部の上端までの両側部に,大きな凸部が,
正面中円形穴部の両側部に,小さな凸部が,
全体の下端部付近の両側部に,小さな凹部が
それぞれ形成され,それらが延伸したような態様であり,
(F-2)それらの形状を詳細に見ると,正面視弁駆動部の直下から下端に向かって,
大円形孔部の上端までの両側部が,鉛直平面,
2個ある小円形孔部の外側部が,それぞれ略傾斜面,鉛直平面,略逆傾斜面,
正面小円形穴部の中程から正面中円形穴部の上端までの両側部が,大きな略凸円弧状面,
正面中円形穴部の両側部が,略凸円弧状面,略傾斜面,
正面中円形穴部の下端から全体の下端までの両側部が鉛直平面
をなし,それらが延伸したような態様であり,
また,これを背面視した場合の,各孔部・穴部との位置関係を見ると,弁駆動部の直下から,
大円形孔部の上端までの両側部が,鉛直平面,
2個ある小円形孔部の外側部が,それぞれ略傾斜面,鉛直平面,略逆傾斜面,
背面中円形穴部の両側部が,大きな略凸円弧状面,
背面中円形穴部の下端から全体の下端までの両側部が,略凸円弧状面,略傾斜面,鉛直平面
で構成されている態様であって,
(G)前記(C)の略棒状体は,正面において,大円形孔部から,背面において,大円形孔部と背面中円形穴部から,その一部が見えるものであり,同コイル状ばねは,正面中円形穴部から,その一部が見えるものであって,
(H)本体部の底面形状は,底面視略縦長矩形状の水平面で,前記略棒状体に対応する位置に,略円形状台座部の中央に六角形の凹部を形成したものであって,
(I)大円形孔部の正・背面両側の開口部周縁,正面中円形穴部の正面側の開口部周縁,及び,背面中円形孔部の正面側の開口部周縁は,扁平な略円錐台面状のザグリ形状が,2段又は1段形成され,その奥側が略円筒状をなしており,
(J)その他,左右対称に2個形成された小円形孔部の正面側の開口部付近は,背面側の開口部より拡径しており,正面小円形穴部の内壁には,ねじ切り部が形成されている点。

(相違点)
(ア)本件登録意匠は,本体部の側面形状について大円形孔部の側部を詳細に見ると,正・背面において上から,略逆傾斜面,略凸円弧状面,大きな鉛直平面,略凸円弧状面によって構成されているのに対して,引用意匠は,本体部の側面形状について大円形孔部の側部を詳細に見ると,上から,略凹円弧状面,大きな略凸円弧状面,略凹円弧状面によって構成されているものである点,
(イ)本件登録意匠は,大円形孔部の周辺の余白部の幅が,正面側は広く,背面側は狭いのに対して,引用意匠は,大円形孔部の周辺の余白部の幅が,正面側も背面側も同様に狭いものである点,
(ウ)本件登録意匠の正面中央の正面小円形穴部の位置が,2個の小円形孔部の両下端の仮想ラインからわずかに下側であるのに対して,引用意匠は,正面中央の正面小円形穴部の位置が,2個の小円形孔部の両下端の仮想ラインに入り込んでいるものである点,
(エ)側面図において,本件登録意匠は,本体部の側面形状の凹凸形状の切換箇所が実線で表されているのに対して,引用意匠は,本体部の側面形状の凹凸形状の切換箇所が実線で表されていない点。


5.本件登録意匠と引用意匠の類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して,両意匠の類否を意匠全体として検討し,判断する。

(1)共通点の評価
基本的構成態様に係る共通点(A)ないし(C)及び具体的構成態様に係る共通点(D)ないし(F)は,両意匠の形態全体にわたり,両意匠の形態の基調を形成し,共通の印象を見る者に強く与えるものであって,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすところとなっている。また,基本的構成態様に係る共通点(C)及び具体的態様に係る共通点(G)ないし(J)も,前記共通点が見る者に与える共通の印象をある程度強くするものになっている。
とりわけ,具体的構成態様に係る共通点(E)及び同(F)は,この種物品が多くの機能的制約等を強く受けるものであり,また,需要者・取引者が高い専門性をもってこの種物品の特性等に精通しているとしても,両意匠を見る者に極めて強い共通の印象を与えるものであって,意匠全体として見た場合,両意匠が酷似しているとの印象を与えるものといわざるを得ず,これらの共通点が相まって生じる視覚的効果は,両意匠の類否判断を決定付けているという他ない。

(2)相違点の評価
これに対して,相違点(ア)ないし(エ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱にとどまるものであって,上記共通点が与える強い共通の印象を覆すほどのものではない。
すなわち,相違点(ア)は,共通点(E)及び同(F)による強い共通性がある中での部分的なわずかの差に過ぎず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は,微弱という他ない。
相違点(イ)は,本体部正面において共通する円形孔部・穴部群の配置構成と本体部側面形状の共通性の中でみられる余白部の寸法差であり,両意匠の類否判断に影響を及ぼすほどの相違とはいえない。
相違点(ウ)の正面中央の正面小円形穴部の位置の相違も,詳細に見て初めて気付く程度の部分的なものに過ぎず,かつ,使用態様等に与える影響もほとんどなく,この相違は微差である。
相違点(エ)は,作図上の相違に過ぎず,通常この種物品が斜め上方から斜視されるものであることを考慮すれば,この本体部の側面形状の凹凸形状の切換箇所が実線で表されているかいなかの差はほとんどないというべきである。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の印象を覆して,両意匠の類否判断を左右するほどではない。

(3)小括
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,両意匠の相違点が類否判断に及ぼす影響はいずれも微弱なものと判断せざるを得ず,そして,それらが相まって生ずる視覚的効果を考慮してもなお,両意匠の共通点が生じている強い共通の印象を覆すほどのものではないから,両意匠の類否判断においては,共通点が両意匠全体の基調を形成しているというに十分で,両意匠の類否判断を決定付けているのに対して,相違点がこれを凌駕するには至らず,両意匠は,意匠全体として類似する。


6.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は引用意匠に類似し,引用意匠は,本件登録意匠に係る意匠登録出願の出願前に意匠登録出願された意匠であって意匠登録を受けた意匠であるから,本件登録意匠は,意匠法第9条第1項が規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当せず,同法同条同項の規定により,意匠登録を受けることができないにもかかわらず意匠登録を受けたものであり,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当し,同法同条同項柱書に基づいて,その登録を無効とすべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

別掲
審理終結日 2012-08-31 
結審通知日 2012-09-04 
審決日 2012-09-27 
出願番号 意願2011-4422(D2011-4422) 
審決分類 D 1 113・ 4- Z (M2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 朝康 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 樫本 光司
川崎 芳孝
登録日 2011-12-02 
登録番号 意匠登録第1431241号(D1431241) 
代理人 梅澤 修 
代理人 山本 哲也 

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