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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) L2
管理番号 1268324 
判定請求番号 判定2012-600018
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2013-02-22 
種別 判定 
判定請求日 2012-06-29 
確定日 2013-01-18 
意匠に係る物品 花壇用ブロック 
事件の表示 上記当事者間の登録第1437062号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号説明書に示す「花壇用ブロック」の意匠は,登録第1437062号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号意匠は,登録第1437062号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,添付書類として,「イ号図面」及び「イ号説明書」,証拠方法として,甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1.判定請求の必要性
請求人は,平成24年2月22日に,本件判定被請求人(以下,「被請求人」という。)に対し,イ号物件が本件判定請求に係る本件登録意匠に係る意匠権を侵害することになる旨の通告書を送付した。これに対し,被請求人は,イ号物件に係る意匠は本件登録意匠を侵害するものでないと主張する回答書(甲第1号証)を送付したので,判定を求めるものである。

2.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
(1)両意匠の共通点
(A)両意匠は,意匠に係る物品が「花壇用ブロック」で一致している。
(B)基本的な構成態様において,正面視レンガ模様であり,レンガが目地に対して前方に突出している。
(C)具体的な構成態様において,レンガを上下方向に3段に積層している。
(2)両意匠の相違点
(a)レンガの配置が,本件登録意匠は中段に同一サイズのレンガ3個が並び上段及び下段にレンガ4個が並ぶのに対して,イ号意匠は上段及び下段に同一のサイズのレンガ3個が並び中段にレンガ4個が並ぶ。
(b)複数のブロックを併用する際に連接させるための形状が,本件登録意匠は上下方向に一様な切欠角部であるのに対して,イ号意匠は上下方向中央付近の嵌め込み部である。
(c)正面視においてレンガの角に存する微少な丸みが,本件登録意匠では目地と対比されて明視できるのに対して,イ号意匠は目地部分には丸みを持たせずにレンガ下地を露出させておりやや気付きづらい。

3.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
(1)本件登録意匠の要部について
意匠登録第445459号の先行周辺意匠(甲第2号証)をもとに,本件登録意匠の要部について述べる。
正面視レンガ模様でレンガの角部に特別な成形のない意匠(各レンガが正面視長方形の意匠)は,先行周辺意匠に限らず多数存在する。また,複数のブロックを併用する際に連接させるための形状も各種のものが存在し,本件登録意匠の係る形状はありふれたものの一つである。
してみれば,本件登録意匠の創作の要点は,レンガが目地に対して前方に突出している点である。側面視においてレンガが前方に張り出し,本件登録意匠の全体の基調を表出している。
(2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,
A)両意匠の共通点は,基本的な構成態様に係るものであり,特に,本件登録意匠の要部であるレンガが目地に対して前方に突出している点が共通しており,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えるものである。
B)両意匠の差異点の(a)については,複数のブロックを連接させた際には,両端の約2分の1の幅のレンガは連接したブロックのものと合わせて1つのレンガの如く視認されるものであることから,特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
差異点(b)については,ブロックを配置し土を入れて花壇を形成した際には隠れる部分の形状であることから,この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
差異点(c)については,形状においては類似しており,正面視においてはレンガ下地が視認されるか目地が視認されるかのみの相違であること,側面視においては本差異が視認されないことから,この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。

4.むすび
よって,請求の趣旨のとおりの判定を求める。

第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1.答弁の趣旨
被請求人は,「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は,意匠登録第1437062号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」,との判定を求めると答弁し,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第9号証,乙資料1及び乙資料2の書証を提出した。

2.答弁の理由の要点
イ号意匠が,本件登録意匠及びそれに類似する範囲に属するとの請求人の主張は,請求人独自の見解に基づくものであって,この種物品分野における先行意匠との関係で本件登録意匠の特徴とイ号意匠の態様を対比すると,イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
両意匠は,共に「花壇用ブロック」に係る意匠であり,その物品において共通しているが,形態において,本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,次の共通点と差異点がある。
(1)共通点
(ア)全体形状が,略1:2の比率の横長矩形状板体である。
(イ)背面側,底面側を除いた表面が,横長矩形状のレンガ風凹凸模様である。
(ウ)背面側,底面側を除いた表面は,横長矩形状のレンガ風凸部と目地からなる凹凸状の模様を呈している。
(2)差異点
(ア)レンガ風凸部の表面の態様について
本件登録意匠はすべて平坦な面であり,形状も均一であるのに対して,イ号意匠は火山岩風のかなり凹凸のあるあれた形状であり,その形状も不均一である。
(イ)レンガ風凸部の角部の態様について
本件登録意匠はすべて円弧状に丸くなっているのに対して,イ号意匠は,不規則な形状であるが,角張っている。
(ウ)レンガ風凸部の配置について
本件登録意匠は,上段及び下段には中央部に2個,その左右端部に略半分の大きさの凸部を配し,中段に3個配した態様であるのに対して,イ号意匠は,上段及び下段に3個並設し,中段には中央に2個,その左右端部に略半分の大きさの凸部を配した態様である。
(エ)左右端部の嵌合部の態様について
本件登録意匠は細幅で厚みの略半分を上下幅いっぱいに切り欠いたものであるのに対して,イ号意匠は側部中央部に一方に凸部,他方に凹部を設けたものである。
(オ)背面側の態様について
本件登録意匠は中央部に大きな凹陥面を設けているのに対して,イ号意匠は全体が平坦面である。

4.本件登録意匠とイ号意匠の類否について
(1)両意匠の「花壇用ブロック」の需要者・取引者
両意匠のような「花壇用ブロック」は,一般家庭の庭等に盛り土をして花壇を造るときに,その周側壁に使用する土留用のブロックである。
この製品は,ホームセンター等で販売され,一般消費者が自宅に花壇を造るときに,適宜購入して使用するほか,造園,建築業者が花壇を造成するときにも使用されるものである。
そのようなことから,この「花壇用ブロック」の需要者は,一般消費者,造園等の業者及び取引業者ということになる。
(2)本件登録意匠の要部について
本件登録意匠のように複数個のレンガや石を積み上げたような構成の板体状のブロックにおいて,その全体形状が本件登録意匠のように横長直方体状板体のものは,本件登録意匠の出願前から,公知の態様(乙第2号証の中央下ストレート錆の写真及び右側ストレートの写真,乙第3号証の中央下スリムOF,MIXの写真の写し)である。
次に,その表面に表された凹凸状模様にしても,極普通に見られるレンガを積層したような態様を現したものに過ぎず,また,このような態様のものを「花壇用ブロック」として使用することも,極ありふれたものである(乙第4号証,乙第5号証)。
この乙第4号証及び乙第5号証の意匠は,被請求人が製造販売した製品であり,乙第4号証の意匠は,販促のディスプレー状態の写真であるが,レンガ風のブロックであることが明確に示されており,また,乙第5号証の意匠は,上面部が笠木状のレンガが付加されているものの,同様のブロックであることから,本件登録意匠のようにレンガ風に構成された板体のブロックは「花壇用ブロック」としては何ら目新しいものではなく,本件登録意匠の特徴とは言えない。
さらに,本件登録意匠のようにレンガ風の凹凸状模様が,上下3段に,横3個分配置された態様は,極一般的なレンガ積みの壁面の一部をそのような構成に選択して切り取ったようなものであって,そのこと自体には創作的価値はなく,本件登録意匠も横に連接して,使用されることを前提にしていることからすれば,施工後において,通常のレンガ積みのように視覚的に見えることを想定して構成したものにすぎない。
また,本件のような上下3段に,横に3個分配置された態様は,本件登録意匠の意匠公報の参考文献に記載されたインターネット掲載画像(乙第6号証の土留めレンガ調45型の写真の写し)に同様の構成が表されていることからしても,本件登録意匠のこの構成態様には,何ら特徴はないと言わざるを得ない。
したがって,本件登録意匠の特徴は,その余の各部の具体的態様にあるものと言わざるを得ない。
すなわち,
(a)レンガ風の凸部は,角部にすべて円弧状の丸みがあり,表面が平坦面の均一的形状であり,かつ規則正しい配置になっている点。
(b)レンガ風凸部の配置が,上段及び下段には中央に2個,その左右端部に略半分の大きさの凸部を配し,中段に3個配した態様である点。
が,本件登録意匠の特徴的な態様と認められる。
(3)共通点の評価
共通点(ア)ないし(ウ)は,「花壇用ブロック」の形態としては,極めて普通に見られる態様であって,本件登録意匠の特徴的態様とは言えず,類否判断を左右する要部を形成するところではない。
また,これらの共通する態様を総合しても,この種物品分野の意匠において,本件登録意匠の特徴を表出した態様とは認められないので,これらの共通する態様が,類否判断を左右する要部に該当しない以上,両意匠が類似することにはならない。
(4)差異点の評価
(ア)レンガ風凸部の表面の態様,及び(イ)レンガ風凸部の角部の態様の差異について
意匠出願の図面は,意匠法施行規則第3条様式第6の備考8に,「立体を表す図面は,正投影図法により,各図同一縮尺で作成した正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図及び底面図をもって一組として記載する」旨,記載されているから,この一組の図面に表された意匠が,意匠登録を受けようとする意匠と解釈される。
してみると,本件登録意匠図面からは,本件登録意匠はすべて平坦な面であり,正面側の標準的なレンガ風凸部の形状も均一な形態と言わざるを得ない。
なお,写真で現わされた参考図は,6面図に表わされた意匠と,レンガ風凸部の形状に顕著な違いがあり,6面図に表わされた意匠の実施物とは到底言えない。
そうすると,本件登録意匠のレンガ風凸部は,平坦面であり,また,差異点(イ)で述べたように,角部がすべて円弧状で丸みが形成されており,この丸みも特に平面図,左右側面図から見ると,レンガ風凸部の大きさに比べて,大きめの円弧状の丸みと認識されるから,整然と配置されていることとが相俟って,表面に光沢のあるタイル状の凸部のような印象が感受される。
これに対して,イ号意匠は,角張った形状であり,その表面もかなり凹凸のある火山岩風の風合いを呈しており,本件登録意匠とは全く異なった形状である。
したがって,表面全体に表された凹凸状模様から感受される印象に顕著な違いがある両意匠は,需要者に与える趣味感も全く異なったものと言わざるを得ないから,この両意匠の差異は類否判断に重大な影響を与えるところである。
(ウ)レンガ風凸部の配置の差異について
本件登録意匠は,上段の態様が中央部に2個,その左右端部に略半分の大きさの凸部を配していることから,それを横に連接すると,乙資料2に示すように,横長レンガ風の凸部が2個並んだ隣は,半分の大きさのレンガ風の凸部が,目地を設けずに隣り合わせで2個並ぶこととなる。
この半分の大きさのレンガ風凸部の角部が角張っておれば,視覚的に横長レンガ風として視認されるが,本件登録意匠の態様は,大きめの円弧状の丸みのある隅丸長方形状であるから,視覚的に連続した1個の横長レンガ風凸部にはならない。
これに対して,イ号意匠は,正面側上段及び上面の態様が,施工後においても極一般的なレンガ風のパターンになり,本件登録意匠の態様とは,顕著な違いがあり,この差異も両意匠の類否に大きく影響するところである。
(エ)左右端部の嵌合部の態様の差異について
この種物品の態様としては,両意匠ともにありふれたものと認められるが,意匠の類否は,視覚を通じて起こさせる美感の異同により判断されることからすれば,視覚的に認識される形状の違いは,ありふれた態様であっても美感に影響を与えるので,無視することはできない。
ただ,ありふれた態様については,看者の注意を惹く度合いが,特徴的な態様に比べて相対的に低くなり,類否判断に与える影響も小さくなることはあり得るとしても,特徴的な部分が少ない両意匠においては,この差は,小さいとは言えず,類否判断に影響するところである。

5.まとめ
以上述べたとおり,その余の背面側における凹陥面の有無の差異も含め,両意匠の差異点を総合すると,イ号意匠は本件登録意匠との共通する態様を凌駕し,別異の創作に係る意匠と言わざるを得ないから,イ号意匠は,意匠全体として,本件登録意匠に類似しない。
よって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属さない。

第3 請求人の弁駁
請求人は,被請求人の答弁の趣旨及び理由に対し,要旨以下のとおりの主張をし,添付資料として,甲資料1ないし3の書証を提出した。
1.レンガが目地に対して前方に突出している点について
請求人は,レンガが目地に対して前方に突出している点が本件登録意匠の要部との見解に対して,被請求人は,「ブロックやタイル表面は目地より一段高く突出していることは,その突出の程度に多少の差があるとしても例示するまでもない周知の態様である」と主張する。
被請求人の主張にある「ブロックやタイル表面は目地より一段高く突出していること」が周知の態様であることは,請求人も認めるものである。しかし,本件登録意匠はその突出の程度が大きく,周知の態様に比して「多少の差がある」と表現される範囲を超えて相違する。
突出の程度は,甲1資料に示すとおり,レンガ状ブロックの厚みに対する突出している高さの比率は,本件登録意匠においてもイ号意匠においても約30%である。周知の態様においては,ブロックの表面を目地にできるだけ合わせるように構成されるので,この比率が10%を超えることはない。30%の大きな比率であることは,その突出が周知の態様に対する大きな相違であり,意匠の要部である。

2.レンガ風凸部の角部の丸みについて
被請求人は,「レンガ風の凸部は角部にすべて円弧状の丸みがあり」として,その丸みが「本件登録意匠の特徴」であると主張する。この点について,かかる円弧状の丸みが美観に与える影響は大きく,円弧状の丸みが本件登録意匠の特徴であることに同意する。
一方,被請求人は,答弁書においてイ号意匠が,この特徴を有していない旨の主張をしているが,妥当ではない。
甲資料2に示すように,イ号意匠にもレンガ風の凸部は角部に円弧状の丸みがある。また,丸みの程度も,本件登録意匠とイ号意匠とで近似している。角部の丸みにより,長方形の端部は,長方形の辺に当たる直線形状と円弧状の丸みである四半円とからなる。丸みの程度は甲資料2に示すように,長方形の短辺の長さに対する四半円の半径は,本件登録意匠では20%。イ号意匠では16%であり,近似した値である。

3.被請求人が認定していない共通点
ア レンガが目地に対して前方に突出している態様について
レンガが目地に対してレンガ状ブロックの厚みに対して30%もの高さで突出している態様は本件登録意匠の要部であり,本件登録意匠とイ号意匠に共通する態様であり,この共通点は,本件登録意匠とイ号意匠の基本的な構成態様に係るものであり,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
イ レンガ風凸部の角部の態様について
被請求人は,レンガ風凸部の角部の形状ではなく,周辺の目地部分を加えて,形状を捨象し色彩のみに着目している。しかし,形状に着目すれば,角部に円弧状の丸みを有する点で共通する。本件登録意匠は模様,色彩のない形状のみからなる意匠であり,類否判断に当たってはイ号意匠についても形状を見るべきである。してみれば,角部に円弧状の丸みを有するという共通点は,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

4.差異点について
ア レンガ風凸部の表面の模様について
「かなり凹凸のある荒れた形状であり,その形状も不均一である」との点は,被請求人の主観的な判断である。差異点が存在することは認めるが,本件登録意匠とイ号意匠とが類似でないとするまでの差異ではない。
イ レンガ風の凸部の角部の態様について
被請求人は,レンガ風の凸部の角部の形状ではなく,周辺の目地部分を加えて,形状を捨象し色彩のみに着目して主張している。これは,「レンガ風の凸部の角部の態様」ではない。レンガ風の凸部の角部の形状については類似である。
ウ 左右端部の嵌合部の態様,背面側の態様について
かかる差異点が存在することには同意する。しかし,本件登録意匠とイ号意匠とが類似でないとするまでの差異ではない。

5.類否判断について
ア 需要者・取引者について
被請求人は,「需要者は,一般消費者,造園等の業者及び取引業者ということになる」と主張する。「造園等の業者及び取引業者」が一般消費者よりも強い注意力で差異点を観察するということを主張したいと思われるが,妥当ではない。請求人は,ホームセンター等において一般消費者に向けて販売している。請求人と被請求人の販売する製品が競合する主たる需要者は一般消費者である。類否判断は,一般消費者を「需要者」として,需要者の視覚を通じて起こさせる美観に基づいて行うべきである。
イ 請求人の類否判断
以上,本件登録意匠とイ号意匠とは,レンガが目地に対してレンガ状ブロックの厚みに対して30%もの高さで突出している態様と,レンガ風凸部の角部に円弧状の丸みを有する点で共通し,そのうちのレンガ風凸部の角部に円弧状の丸みを有する点は,被請求人も「本件登録意匠の特徴」であると認めている。これら2つの点が本件登録意匠の特徴である以上,他の点において差異があるとしても両意匠の類否判断に与える影響は共通点に比して小さい。
被請求人は,上記2つの共通点の事実認定を誤り,これらの共通点を捨象して差異点が両意匠の類否判断に大きな影響を与える旨を主張している。類否判断において差異点を上回る共通点があることを見逃しており,被請求人の主張には正当性がない。

第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(登録第1437062号意匠)は,2011年(平成23年)9月16日に意匠登録出願され,2012年(平成24年)2月24日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「花壇用ブロック」とし,その形状,模様若しくは色彩またはこれらの結合(以下,「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)
すなわち,その形態は,
(1)基本的構成態様として,全体は,正面視において縦横比が約1:2の横長略長方形板状体であり,ブロックの正面部及び平面部には,レンガ風凸部が表され,ブロックの左右側面部には,ブロックを連接するための接合部が設けられ,
(2)具体的構成態様として,
ア ブロックの正面部及び平面部に表されたレンガ風凸部につき,
ア-1 表面は,いずれも平坦面状であって,
ア-2 正面部のレンガ風凸部は,それぞれが互い違いに,上下方向には3段,左右方向には,上段及び下段には,隅丸横長略長方形状のレンガ風凸部が2個並び,その両側に,縦幅に対し横幅がわずかに長い程度の正方形状に近い隅丸略正方形状(以下,単に「隅丸略正方形状」という。)のレンガ風凸部が1個ずつ配置され,中段には,隅丸横長略長方形状のレンガ風凸部が3個並び,それらの間には,やや深い目地が形成され,
ア-3 平面部のレンガ風凸部は,正面部の上段の各レンガ風凸部と直角状に一体に形成されたレンガ風凸部が左右方向に一列に4個配置され,当該レンガ風凸部は,正面側両角部が隅丸の横長略長方形状のレンガ風凸部が2個並び,その両側に,正面側両角部が隅丸であって,接合突設部の端面が表れた略長方形状のレンガ風凸部と,接合切欠部の端面が表れた略長方形状のレンガ風凸部が1個ずつ配置され,
イ ブロックを連接するための接合部につき,
イ-1 正面部の左辺奥側に,上下高いっぱいに接合突設部が段差状に形成され,当該接合突設部には,正面部に形成された水平な2本のやや深い目地が延設され,
イ-2 背面部の左辺手前側に,上下高いっぱいに接合切欠部が段差状に形成され,当該接合切欠部には,正面部に形成された水平な2本のやや深い目地が延設され,
ウ 背面部略中央に,周縁を額縁状の細幅傾斜面とした,やや大きな横長長方形状の凹部が設けられ,
エ 底面部を平坦面状としたものである。

2.イ号意匠
イ号意匠は,答弁書に添付された乙第1号証に記載されたものであり,その形態は,乙第1号証の写真に現されたとおりのものである。(別紙第2参照)
なお,この点に関し,被請求人は,答弁書において,被請求人が製造販売している製品のイ号意匠は,答弁書に添付した乙第1号証に記載されたとおりのものである旨主張し,その主張に対し,請求人は異存ないとしたものである。
そうすると,その形態は,
(1)基本的構成態様として,全体は,正面視において縦横比が約1:2の横長略長方形板状体であり,ブロックの正面部及び平面部には,レンガ風凸部が表され,ブロックの左右側面部には,ブロックを連接するための接合部が設けられ,
(2)具体的構成態様として,
(ア)ブロックの正面部及び平面部に表されたレンガ風凸部につき,
(ア-1) 表面は,いずれもやや荒れた凹凸面状であって,
(ア-2) 正面部のレンガ風凸部は,それぞれのレンガ風凸部を互い違いに,上下方向には3段,左右方向には,上段及び下段には,横長略長方形状のレンガ風凸部が3個並び,中段には,横長略長方形状のレンガ風凸部が2個並び,その両側に,縦幅に対し横幅がわずかに長い程度の正方形状に近い略正方形状(子細に見れば,横幅の異なる2個のレンガ風凸部が認められるが,その横幅の差異はわずかであることから,いずれも,以下,単に「略正方形状」という。)のレンガ風凸部が1個ずつ配置され,それらの間には,やや深い目地が形成され,
(ア-3) 平面部のレンガ風凸部は,正面部の上段の各レンガ風凸部と直角状に一体に形成された横長略長方形状のレンガ風凸部が,左右方向に一列に3個配置され,
(イ) ブロックを連接するための接合部につき,
(イ-1) 右側面部の上下略中央位置に背面部に接して,縦長略長方形状の嵌め込み凸部が形成され,
(イ-2) 左側面部の上下略中央位置に背面部に接して,縦長略長方形状の嵌め込み凹部が形成され,
(ウ) 背面部及び底面部を平坦面状としたものである。

3.両意匠の対比
両意匠を対比すると,両意匠の意匠に係る物品は,いずれも「花壇用ブロック」であって一致する。
そして,両意匠の形態については,主として以下の共通点と相違点が認められる。
(1)共通点
基本的構成態様として,全体は,正面視において縦横比が約1:2の横長略長方形板状体であり,ブロックの正面部及び平面部には,レンガ風凸部が表され,ブロックの左右側面部には,ブロックを連接するための接合部が設けられた点,が認められる。
また,具体的構成態様として,
A 正面部には,レンガ風凸部を互い違いに,上下方向に3段に配置して,それぞれのレンガ風凸部の間には,やや深い目地を形成した点,
B 平面部には,左右方向に一列に,正面部の上段の各レンガ風凸部と直角状に一体に形成されたレンガ風凸部を配置した点,
C 底面部を平坦面状とした点,
が認められる。
(2)相違点
具体的構成態様として,
a ブロックの正面部及び平面部に表されたレンガ風凸部において,
a-1 表面の態様につき,本件登録意匠は,いずれも平坦面状であるのに対して,イ号意匠は,いずれもやや荒れた凹凸面状である点,
a-2 正面部のレンガ風凸部につき,本件登録意匠は,上段及び下段には,隅丸横長略長方形状のレンガ風凸部を2個並べて,その両側に隅丸略正方形状のレンガ風凸部を1個ずつ配置し,中段には,隅丸横長略長方形状のレンガ風凸部を3個並べたのに対して,イ号意匠は,正面部の上段及び下段には,横長略長方形状のレンガ風凸部を3個並べ,中段には,横長略長方形状のレンガ風凸部を2個並べて,その両側に略正方形状のレンガ風凸部を1個ずつ配置した点,
a-3 平面部のレンガ風凸部につき,本件登録意匠は,正面側両角部が隅丸の横長略長方形状のレンガ風凸部を2個並べて,その両側に,正面側両角部が隅丸であって,接合突設部の端面が表れた略長方形状のレンガ風凸部と,接合切欠部の端面が表れた略長方形状のレンガ風凸部を1個ずつ配置したのに対して,イ号意匠は,横長略長方形状のレンガ風凸部を3個並べた点,
b ブロックを連接するための接合部につき,本件登録意匠は,正面部の左辺奥側に,上下高いっぱいに接合突設部を段差状に形成し,背面部の左辺手前側にも,上下高いっぱいに接合切欠部を段差状に形成し,それぞれの接合部には,正面部に形成された水平な2本のやや深い目地が延設されているのに対して,イ号意匠は,右側面部上下略中央位置で背面部に接して,縦長略長方形状の嵌め込み凸部を形成し,また,左側面部上下略中央位置で背面部に接して,縦長略長方形状の嵌め込み凹部を形成した点,
c 背面部につき,本件登録意匠は,背面部略中央に,周縁を額縁状の細幅傾斜面とした,やや大きな横長長方形状の凹部を設けたのに対して,イ号意匠は,背面部全面を平坦面状とした点,
が認められる。

4.本件登録意匠とイ号意匠との類否判断
以上の一致点,及び共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討し,判断する。
(1)両意匠の形態について
ア 共通点の評価
基本的構成態様の,全体を,縦横比が正面視において約1:2の横長略長方形板状体とし,ブロックの正面部及び平面部には,レンガ風凸部を表し,左右側面部には,ブロックを連接するための接合部を設けた点については,本件登録意匠の出願前に,例えば,参考意匠1(意匠登録第1357621号,意匠に係る物品:花壇用ブロック,別紙第3参照)に既に見受けられるところであって,両意匠のみに見られる特徴ある態様とは言えず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
次に,具体的構成態様Aの,正面部にレンガ風凸部を互い違いに上下方向に3段に配置して,それぞれのレンガ風凸部の間には,やや深い目地を形成した点については,本件登録意匠の出願前に,例えば,参考意匠2(乙第6号証:土留めレンガ調45型,別紙第4参照)に既に見受けられるところであって,両意匠のみに見られる特徴ある態様とは言えず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
なお,請求人は,要旨,レンガが目地に対して前方に突出した点が本件登録意匠の要部であり,本件登録意匠は,その突出の程度が大きく,周知の態様に比して「多少の差がある」と表現される範囲を超えて相違し,両意匠の類否の判断に大きな影響を与える旨主張する。
しかしながら,レンガが目地に対して前方に突出している態様,すなわち,目地をやや深く形成した態様は,各レンガ風凸部の間の狭い範囲における両意匠に共通する態様であって,また,この種物品においては,参考意匠2を始め,その他の例を挙げるまでもなく,様々な目地の深さのものが存在することが認められる。
そうすると,本件登録意匠の目地の深さ,すなわち,レンガが目地に対して前方に突出した点は,この種物品において格別特徴ある態様とは到底言えず,当該目地の深さが,本件登録意匠の要部であって,この共通点が両意匠の類否判断に大きな影響を与えるとの請求人の主張は,採用することができない。

また,具体的構成態様Bの,平面部に,左右方向に一列に,正面部の上段の各レンガ風凸部と直角状に一体に形成されたレンガ風凸部を配置した点についても,本件登録意匠の出願前に,例えば,参考意匠1(別紙第3参照)に既に見受けられるところであって,これもまた,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
そして,具体的構成態様Cの,底面部全体を平坦面状とした点についても,底面部は,使用時には隠れてしまう部分であることから,看者の注意を惹く部分とは言い難く,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であって,以上の共通点が相まって生じる視覚効果を勘案したとしても,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は,微弱なものと言わざるを得ない。

イ 相違点の評価
これに対して,両意匠の相違点に係る形態が生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。
すなわち,相違点a-1の,レンガ風凸部の表面の態様につき,本件登録意匠は平坦面としたのに対して,イ号意匠はやや荒れた凹凸面状とした点については,両意匠ともに,本件登録意匠の出願前から,例を挙げるまでもなく,普通に見受けられる態様ではあるが,両意匠の態様は視覚的に明らかに異なり,また,レンガ風凸部が,看者の注意を惹く,ブロックの正面部及び平面部全面を覆っていることから,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと言える。
次に,相違点a-2の,正面部のレンガ風凸部の態様につき,本件登録意匠が,個々のレンガ風凸部の四つの角部を隅丸状とした態様は,柔らかな印象を与え,この種物品においては,特徴的な態様と言えるのに対して,イ号意匠が,個々のレンガ風凸部の四つの角部を略直角状とした態様は,本件登録意匠の出願前より,例えば,参考意匠1(別紙第3参照)や参考意匠2(別紙第4参照)に既に見受けられるところであるが,本件登録意匠とは明らかに異なる堅い印象を与え,そして,当該レンガ風凸部が,看者の注意を惹く,ブロックの正面部全面を覆っていることから,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと言わざるを得ない。
なお,個々のレンガ風凸部の四つの角部の態様につき,請求人は,「甲資料2に示すように,イ号意匠にもレンガ風の凸部は角部に円弧状の丸みがある。また,丸みの程度も,本件登録意匠とイ号意匠とで近似している」旨,主張する。
しかしながら,請求人は,甲資料2で示したイ号意匠のレンガ風凸部の正面部中段右から2番目のレンガ風凸部の左上角部のみを抽出して対比したものであって,仮に,イ号意匠の当該角部及び他のいくつかの角部が,本件登録意匠のレンガ風凸部の角部の態様と近似したものがあったとしても,正面部におけるイ号意匠のレンガ風凸部の四つの角部は,全体の印象として,前記のとおり,いずれも略直角状を呈しているというべきであって,請求人のその旨の主張は採用することができない。

そして,正面部のレンガ風凸部の配置につき,上段,中段,下段の各レンガ風凸部の水平方向の配置の相違は,両意匠ともにレンガ風凸部を,全体として互い違いに配置したという共通する態様の中にあっては,類否判断に及ぼす影響は微弱なものと言える。
しかしながら,この種物品は,左右に複数連接して使用するものであることから,看者は,ブロック正面部の左右の接合部に接するレンガ風凸部の配置に注意を惹くものと認められる。
そうすると,本件登録意匠を複数連接した際の正面部のレンガ風凸部の具体的態様を想定すると,上段及び下段の左右両角に配置された隅丸略正方形状のレンガ風凸部は,被請求人が「連接した状態の説明図」(乙資料2,別紙第5参照)で主張するように,連接した隣の花壇用ブロックの隅丸略正方形状のレンガ風凸部と一体となって生じる形状は,その他の隅丸横長略長方形状のレンガ風凸部とは明らかに異なる特徴的な形状を呈することが推認できることから,本件登録意匠が,正面部上段及び下段の左右両角に隅丸略正方形状のレンガ風凸部を配置した態様は,この種物品においては,特徴的な態様と言える。
これに対して,イ号意匠を複数連接した際の正面部のレンガ風凸部の具体的態様を想定すると,イ号意匠のレンガ風凸部の配置は,例を挙げるまでもなく,普通に見受けられる態様であることを勘案すれば,この点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいと言わざるを得ない。
相違点a-3の,平面部の態様の相違につき,平面部という比較的狭い範囲に係る相違ではあるが,この種物品においては,正面部とともに,平面部も目に付きやすい,看者の注意を惹く部分と認められる。
そうすると,本件登録意匠が,正面側両角部が隅丸の横長略長方形状のレンガ風凸部を2個並べて,その両側に,正面側両角部が隅丸であって,接合突設部の端面が表れた略長方形状のレンガ風凸部と,接合切欠部の端面が表れた略長方形状のレンガ風凸部を1個ずつ配置した態様は,この種物品においては,特徴的な態様と言えるのに対して,イ号意匠の態様は,本件登録意匠の出願前より,例を挙げるまでもなく,普通に見受けられる態様であって,視覚的にも両意匠は明らかに異なる態様を呈していることから,この相違点も,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと言わざるを得ない。
相違点bの,接合部の相違については,この種物品は左右に連接して使用するものであることから,看者は,ブロックを連接するための接合部にも,注意を惹くものと認められる。
そうすると,本件登録意匠が,正面部の左辺奥側に,上下高いっぱいに接合突設部を段差状に形成し,背面部の左辺手前側にも,上下高いっぱいに接合切欠部を段差状に形成し,更に,それぞれの接合部に,正面部に形成された水平な2本のやや深い目地を延設した態様は,本件登録意匠の出願前には見受けられない,特徴的な態様と認められる。
これに対して,イ号意匠が,右側面部の上下略中央位置に背面部に接して,縦長略長方形状の嵌め込み凸部を形成し,左側面部の上下略中央位置に背面部に接して,縦長略長方形状の嵌め込み凹部を形成した態様は,この種物品においては,本件登録意匠の出願前に,例えば,参考意匠1(別紙第3参照)に既に見受けられる態様であって,特徴ある態様とは言えず,本件登録意匠とは視覚的にも明らかに異なる態様を呈していることから,この相違点も,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというべきである。
相違点cの,背面部の態様の相違につき,本件登録意匠が背面部略中央に,周縁を額縁状の細幅傾斜面とした,やや大きな横長長方形状の凹部を設けたのに対して,イ号意匠は,背面部全面を平坦面状とした点は,背面部という看者の注意を強く惹く部分とは言い難い部分に係る相違であり,いずれも,この種物品においては,例を挙げるまでもなく,普通に見受けられる態様ではあるが,本件登録意匠の態様は,ブロック本体の重量を軽減する効果を視覚的に訴えるものであり,また,両意匠は明らかに異なる態様を呈していることから,この相違点は,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと言える。
したがって,これらの相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は、それらが相乗して生じる意匠的な効果をも勘案すれば,大きなものと言わざるを得ない。

(2)小括
そうすると,これらの一致点,及び共通点と相違点を総合して判断すれば,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品が一致するが,形態について,共通点AないしCに係る態様が相乗して生じる意匠的効果を勘案したとしても,共通点が相違点を凌ぐものとは到底言えず,両意匠は,意匠全体として美感が大きく異なることから,類似するということはできない。

5.結び
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2013-01-07 
出願番号 意願2011-21246(D2011-21246) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (L2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 美奈子佐々木 朝康 
特許庁審判長 川崎 芳孝
特許庁審判官 橘 崇生
遠藤 行久
登録日 2012-02-24 
登録番号 意匠登録第1437062号(D1437062) 
代理人 梅澤 修 
代理人 金子 宏 
代理人 山本 哲也 

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