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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) B4
管理番号 1277781 
判定請求番号 判定2012-600037
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2013-09-27 
種別 判定 
判定請求日 2012-10-04 
確定日 2013-08-09 
意匠に係る物品 ベルト付きバッグ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1405238号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠見本及びイ号意匠説明図面に示す「ウエストバッグ」の意匠は,登録第1405238号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由の要点
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号意匠見本及びイ号説明図面に示す意匠(当審注:以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1405238号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。」と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をし,証拠方法として,参考文献1ないし参考文献10を提出した。

1.判定請求の必要性
請求人は,被請求人から,平成24年4月20日付けで,請求人が製造・販売するイ号意匠が被請求人の特許第4929499号「拡張可能なポーチを有するベルト」の特許権,及び,意匠登録第1405238号「ベルト付きバッグ」の意匠権(当該特許に係る出願の分割出願を意匠へ出願変更したもの)を侵害している旨の警告書を受けた。
これに対して,請求人は,平成24年5月7日付けの書面(参考資料)で,弁理士の簡易鑑定書を添付して,上記特許権及び意匠権を侵害していない旨の回答をした。
被請求人は,その回答を検討した後,平成24年6月28日付けの書面で,彼らが意匠権などの侵害であると判断する理由を呈示して請求人に再び実施の停止を請求した。
請求人は,その理由の根拠を理解できなかったため,平成24年6月29日付けで当該根拠に関して質問状を送付した。
被請求人の代理人は,平成24年7月2日に請求人の代理人と面接し,上記質問状に対して書面で質問に対する見解書を提出したが,双方意見が対立したまま今日に至った。

2.本件登録意匠の説明
(1)本件登録意匠に係る物品は,スポーツなどの活動をする際に,一つの物品又は複数の物品を携行するために使用される,ベルト付きバッグである。
(2)このベルト付きバッグは,細長いバッグ部分と,バッグ部分の長手方向両端部に付設された2本のベルト部分とを有し,これらベルト部分の先側に,相互に連結可能な連結具を有する。一方のベルト部分は,矩形の枠の中間部に中棒を架設してなるスライド器具が有する2つの挿通孔を通り,ループ状に曲げ戻して,ベルト部分の先端部を上記中棒に連結させて長さの調節を可能とし,かつ上記ループ状のベルト部分に連結具を係止させている。他方のベルト部分の先端には単に連結具を連結している。
(3)バッグ部分は,バッグ部分の長手方向に対して直角な方向(以下「径方向」という)に大幅に伸縮可能な,薄く弾性のあるファブリックから構成される。
(4)バッグ部分の前面には,その長手方向に長いジッパーが設けられている。故に本物品のバッグ部分は長手方向への伸長が制限されているため,バッグが空のときもまた物品を保持するときにも,バッグ部分が着用者の身体の周囲にぴんと張って留まる。
(5)バッグ部分の後面には,空の状態において,[CD部分拡大図]に黒い太線として示すプリーツ(折り目)が,バッグ部分の長手方向に現れる。同図のE-E線方向の拡大断面図によると,バッグ部分の下側から上方へ内側の襞が延び,かつバッグ部分の上側から内側に襞の外側に重なる外側の襞が伸びており,この襞の下側に形成されるプリーツがCD部分拡大図に表れる。
(6)次に第1の使用状態として,[F-F線拡大断面参考図]に点線で示るように,比較的小さな物品がバッグ内に収納されたときは,バッグ全体が上下方向に拡張し,その結果,上記2つの襞も相互に分離する。このときのバッグ部分の背面形状は[使用状態を示すCD部分拡大参考図1]に示されている。
(7)次に第2の使用状態として,[G-G線拡大参考図]に点線で示すように,複数の大きな物品がバッグ内に収納されたときには,バッグ全体が上下方向及び水平方向に拡張し,その結果,上記2つの襞は完全に延びきる。このときのバッグ部分の背面形状は[使用状態を示すCD部分拡大参考図2]に示されている。

3.イ号意匠の要旨
(1)イ号意匠のウェストバッグは,請求書に添付する見本の通りであり,以下見本の説明図を用いて説明すると,細長くかつ長手方向の中間部の前壁部にジッパー付きの開口部を形成されており,柔軟な弾性材料で形成されたチューブ体と,このチューブ体のうち開口部と向かい合う後壁部の内面に縫い付けられた中敷きと,開口部の両側のチューブ体部分に装着した一対のスライド器具及び一対の連結用具とで構成されている。
すなわち開口部の片側に位置する各チューブ体部分は,矩形の枠の中間部に中棒を架設してなるスライド器具が有する2つの挿通孔を通り,ループ状に曲げ戻してその先端部を上記中棒に連結させて長さの調節を可能とし,そのループ状のチューブ体のベルト相当部分の長さを調節するとともにバッグ相当部分の端部を調節する機能を有する。
(2)上記チューブ本体は,帯状の布材から縫合する。まず,帯状の布材の幅方向中間部を後壁部形成代,後壁部形成箇所の両側に襞形成代,その襞形成代のさらに外側の両短部分を前壁形成代とする。襞形成代の幅方向両端部及び中間部にはそれぞれ折り目(プリーツ)を形成して,襞形成代がそれぞれ一対の襞を形成するように折畳み,各襞を後壁部の後面側に折り重ねる。これらの各襞は,後壁部の長手方向中間部では,チューブ対が拡開可能なマチ機構を構成するために相互に分離可能とし,長手方向中間部以外の箇所では縫い合わせる。次に後壁部の長手方向中間部に上述の中敷きを縫い付けた後に,残りの前壁形成代は,後壁部の前側に折り返し,これら折り返し部分の先部を,中敷きに対応する箇所では,ジッパー付きの開口部に形成し,残る箇所では相互に縫い合わせて前壁部とする。
(3)上記ウェストバッグの全長の略大部分は上記チューブ体が占める。
(4)本件のウェストバッグは,通常のウェストバッグのようにバッグ専用部分とベルト専用部分とが恒常的に区別されており,両者の境(バッグ専用部分がベルト専用部分に逢着された箇所)の位置は常に一定である。
(5)イ号意匠の2つのスライド器具は,両者の間のチューブ体部分を物品収納部として画定する機能を有する。そして各スライド器具を長手方向にスライドすることで,物品収納部の内部体積を拡張・縮小することを可能とする。

4.本件登録意匠とイ号意匠との比較説明と類似性(イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない理由)

(1)両意匠の共通点
(1-A)意匠に係る物品が,身体の胴部などに巻き付けるためのベルト型のバッグであり,先端部に相互に係合するための連結具を有しており,長手方向の中間部に存するバッグ相当部分の前面に,ファスナーである開口部を,またバッグ相当部分の後面に,内部容量の拡張を可能とするための襞をそれぞれ形成したこと。
(1-B)少なくともバッグ相当部分が弾性を有すること。
(1-C)空の状態でバッグ相当部分がベルト相当部分と略同一の幅であること。
(1-D)スライド器具を用いてベルト相当部分の長さを調整できること。

(2)両意匠の差異点
(2-A)本件登録意匠は,バッグの両端がベルトに連結しているのに対して,イ号意匠では,チューブ体がバッグ及びベルトを兼ねていること。
(a)この形態の相違は,本件登録意匠ではバッグとベルトとの境が固定的であるが,イ号意匠ではバッグ相当部分とベルト相当部分との恒常的かつ明瞭な境が存在しないという視覚状の差異を生ずる。その結果,本件登録意匠では細長いバッグ部分が一定長さの範囲で呈するコンパクト感,メリハリのある区切れ感(不連続性)を感じさせるのに対して,イ号意匠は,長手方向への収納場所の調整により余裕を以て物を収容可能なゆったり感,バッグ及びベルト兼用のチューブ対が切れ目なく連なる一体感(連続性)を感じさせるものとなっている。
(b)さらに上記構成の相違から,本件登録意匠は,弾性変形させない限り,バッグ相当部分の長さが一定であるのに対して,イ号意匠ではスライド器具をスライド操作させることでバッグ相当部分の長さを調整することができるという機能の相違がある。

(2-B)本件登録意匠は,物品を収納していない空の状態で背面側の2つの襞同士が重なり合っており,第1の使用状態で2つの襞が離れ,第2の使用状態で各襞が広がるというように2段階に展開するのに対して,イ号意匠は,空の状態において背面側の2つの襞同士が重なっておらず,空の状態から各襞が広がるに過ぎない。

(3)本件登録意匠の要旨の検討
(A)共通点(1-A)に関して
(a)身体の胴部などに巻き付けるためのベルト型のバッグの意匠において,開口部付きのバッグ相当部分の両側にベルト相当部分が存することは,この種物品において必然的構造であり,当該開口部をジッパーで開閉可能とすることも当たり前である。
(b)また,参考文献1の蛇腹部や参考文献2のプリーツから判る通り,バッグ相当部分の内部体積を拡開するための襞(襠相当部分)をバッグ部分に設けることは,ありふれている。株式会社小学館の出版する大辞泉によれば,襠に関して「衣服や袋物などの布幅にゆとりを持たせるために補う布。」と記載されており,これより袋類の内部体積を拡張するためにゆとり(襞)を設けることが一般常識であることが理解される。その襞をバッグ部分の背部に設けることも参考文献2の如く公知である。
(c)弾性変形可能なバッグの前面に開口部を設けることも参考文献2,参考文献4,参考文献8の如く普通の形態であり,それにより特別の審美的効果を生じない。

(B)共通点(1-B)に関して
バッグ部分が弾性を有することは,内部体積拡張用の襞を形成する技術に代えて(参考文献3参照),或いは当該技術とともに(参考文献2参照),小さなバッグに大きな物品を収納するために普通に行われる事柄である。

(C)共通点(1-C)に関して
空の状態においてバッグ部分がベルト部分と略同一の幅であるという意匠の構成要件は,参考文献3?8に開示されている。特に参考文献3は,ベルト長手方向に細長いバッグ部分の幅をベルト部分の幅を略同じにした点で本件登録意匠と全体の形状が似ている。従って意匠の類否判断において上記構成要件の評価は低くせざるを得ない。

(D)共通点(1-D)に関して
(a)ベルト部分にスライド器具を設けることで長さ調節を可能とすることは,参考文献10に示す通り,有り触れたことであり,かつ主として技術的作用効果を得るための工夫であるから,格別な美的効果を生じない。

(4)相違点の検討
(A)相違点2-A(本件登録意匠は,バッグの両端がベルトに連結しているのに対して,イ号意匠ではチューブ体がバッグ及びベルトを兼ねている)に関して
この相違点は,看者の印象を左右する大きなポイントである。その理由は次の通りである。
第1に,イ号意匠のチューブ体がバッグ及びベルトを兼ねるという特色は,物品の前面を含む広い角度から視認されるから,需要者にとって見易い部分の形態である。
第2に,利用者は,物品を収納するためにイ号意匠を購入するのだから,収納場所は利用者が最も関心を寄せる場所であり,収納空間がどの程度広くどれだけの容量を収納できるのかを確認するために,その場所をよく観察するに違いないからである。
第3に,上記イ号意匠の特色は新規な形態であるから(∵当該形態の特色により特許権を取得している),需要者の関心を強く喚起する。

(B)相違点1-B(本件登録意匠は,空の状態で背面側の2つの襞同士が重なり合っており,第1の使用状態で2つの襞が離れ,第2の使用状態で各襞が広がるというように2段階に展開するのに対して,イ号意匠は,空の状態において背面側の2つの襞同士が重なり合っていないこと)に関して
意匠登録願のEE線拡大断面図,FF線拡大断面図,GG線拡大断面図に2つの襞が重なっている状態から離れた状態,さらに各襞が展開する状態が記載されているが,意匠は,外部から観察される物品の形態であるから,断面形状自体は意匠の類否判断の対象ではない。しかしながら襞が2段階で展開する過程は,CD部分拡大図などの背面形状にも表れるので,意匠の類否判断に影響する。もっとも類否判断においては,需要者が見易い部分に重要度が置かれることを勘案する必要がある。

(C)意匠に係る物品の名称に関して
本件登録意匠に係る物品は,「ベルト付きバッグ」である。当該ベルトはバッグに付設されたものであるから,ベルト部分とバッグ部分とが別部材であることを強く意図した表現である。但し,用途に関しては共通している。

(5)相違点の検討を踏まえた類否の評価
(A)意匠の物品面の評価
周知のように2つの意匠が類似である条件は,両意匠の物品面が同一又は類似であり,かつ,両意匠の形態面が同一又は類似であることである。本件登録意匠に係る物品とイ号意匠に係る物品とは,バッグ部分を身体に装着させて物品を収納するという用途において同一であるから,両意匠の物品面は類似であると認められる。

(B)意匠の形態面の評価
判定請求人は,本件登録意匠の形態とイ号意匠の形態とは,類似していないと解釈する。その理由は次の通りである。
(a)先行意匠を参酌して認定される2つの意匠の要部は次の通りである。
本件登録意匠の要部は,バッグ部分がベルト部分と明瞭に区別できる構成(基本的構成)において,バッグ部分が,その背面の襞同士が分離した中間の形態を経て,さらに各襞が展開した最終の状態へ,径方向(長手方向と直行する方向)に対して2段階に亘って拡張することにある。
イ号意匠の要部は,チューブ本体がバッグ部分とベルト部分とを兼用し,スライド器具で収納個所を区画することにより,バッグ部分とベルト部分との恒常的な境がなく,スライド器具の移動により収納場所が長手方向に拡張することである。
(b)判断の基本となる判例
?略?
(c)全体観察の重要性とベルト付きバッグの流通時の形態
意匠の形態の類否は全体観察を原則とすべきである。意匠は物品の形態全体で物品の需要を喚起し,産業の発達に寄与するからである。この原則は,本件登録意匠の類否判断において重要な意味を有する。すなわち,ベルト付きバッグは細長いものであるから,店頭に陳列するときに長手方向に折り畳まれることが多い。本件登録意匠のファスナー付き開口部を有するバッグ部分,及び,イ号意匠のバッグ部分に相当するチューブ体部分のみが表側に表れるようにして,残りの部分を裏側に折り畳んで陳列すると,全体観察する場合に比べて両意匠の形態の印象は近似する。何故ならば,そのように折り畳んだ態様では,バッグ及びベルトを兼ねるチューブ体というイ号意匠の特徴を需要者が認識することができないからである。こうした態様で陳列された本件登録意匠及びイ号意匠の各物品を,意匠法をよく知らない一般人が見れば,例えば“品物を保持するバッグ状の収納部分の前面部分にファスナーを長手方向に配し,このバッグ部分をベルト状の全体構造の一部に設けた”ことが本件登録意匠の特徴(要部)であり,その特徴はイ号意匠において共通すると考えるかも知れない。しかしながら,意匠の類否判断は全体観察を基本とすべきだから,こうした解釈は誤りである。
(d)先行意匠との比較における本件登録意匠の要部の検討
(イ)本件登録意匠とイ号意匠との共通点(1-A)のうちベルト部分の先端部に連結具を有すること,バッグ相当部分の前面にファスナ付きの開口部を,後面に内部容積拡張用の襞を形成したこと,共通点(1-B)のバッグ相当部分が弾性を有すること,共通点(1-D)のスライド器具を用いてベルト相当部分の長さを調節できることは,それぞれ一定の機能を達成するために必然の構成であり,かつ,周知の形態であるから,意匠の要部となり得ない。
(ロ)共通点(1-C)の空の状態でバッグ相当部分がベルト相当部分と略同一の幅であることに関しても,前述の通り類似例が多数存在すること(参考文献3?8),及び,物品の特性に鑑みれば,ありふれた周知形状に過ぎないと解釈する。そもそもバッグを含む容器類の寸法・形状は,収納すべき物品の大きさ・量に応じて設計すべきものである。参考文献3?8のバッグ相当部分の幅がベルトの幅と略同一であるのは,被収納物品(ゴルフボールなど)の幅がたまたまベルトのそれと同程度以下であったに過ぎず,それぞれの用途から必然的に導かれることに過ぎない。一般の需要者の観点からも,用途に応じてベルト付きバッグのバッグ部分の幅を大きくしたり或いは小さくするのは普通のことであり,その幅が結果としてベルトのそれと同程度であったからといって,別段興味を惹かれるものではない。
(ハ)もっとも本件登録意匠の形態のうちでバッグ部分とベルト部分とが略同幅である形態(換言すれば全体として略一定という形態)の他には特徴が全くないのならば,当該形態を意匠の要部と認める余地もない訳ではない。
(ニ)本件登録意匠は,需要者の注意を強力に惹き付ける顕著な特徴がある。それは,前述の通り,襞同士が重なりあった初期の形態(C-D部分拡大断面図参照)から,襞同士が分離する中間形態(使用状態を示すC-D部分拡大参考図1参照)を経て,各襞が拡開する最終形態(意匠状態を示すC-D部分拡大参考図2参照)へと,2段に亘って拡開するということである。初期形態を見るに,“スリム過ぎて大きな物は入らないであろう”と需要者は予想するであろう。その予想を大きく超えて大容積を収納し得ることは需要者に鮮やかな印象を与える筈である(同様のことは,スライド器具の調節により物品の収納範囲を調節可能としたイ号意匠の特徴にも言える)。こうした機能を伴う美感(機能美)が本件登録意匠の本質である。こうした特徴があるのに,わざわざ,多数の先行意匠が存在する,ベルトと略同一幅のバッグの如き事項のみを取り出して,意匠の要部と認定する必要はない。
(e)上述の如く,本件登録意匠の特徴は,バッグ部分が襞同士の重複状態から分離状態へ,さらに分離した各襞が開く状態へ2段階に拡開する点に最も強く表れる。意匠の類否は全体観察を基調とするから,顕著に変化するところだけを観察するのは片手落ちである。そうすると本件登録意匠の要旨は,ベルト部分に対して明瞭に区分されたバッグ部分が2段階に亘って幅方向に拡開するという形態であると解釈すべきである。
(f)請求人が主張する上記本件登録意匠の要部が,一般的な意匠の評価方法に照らして適切か否かを検討する。評価のポイントは,外部から観察可能な形態(外観)かどうか,当該要部が需要者にとって見易いものか否か,意匠全体に占める割合が大きいか小さいか,物品の特性の基づき観察され易い部分か否かである
(イ)外部から観察可能な形態か否か。
上述の襞が2段階に展開する様子は,E-E線断面参考図→FF線拡大断面参考図→GG線拡大断面参考図に最も顕著に表れるが,それと同時に背面図にも表れるし(C-D部分拡大断面図,使用状態を示すC-D部分拡大参考図1,使用状態を示すC-D部分拡大参考図2参照),願書には添付されていないが,正面形状にも当然に表れる。従って襞が二段階に展開する様子は,単なる物品の内部構造ではなく,意匠の外観を構成するものである。
(ロ)襞が2段階に展開する様子は需要者にとって見易いものか。
上述の形態のうち各拡大断面図に描かれた形態は,内部構造なので需要者が観ることができないが,互い重なった襞同士が分離し,さらに各襞が拡開する様子は,バッグ部分の背面形状として観ることができる。本件登録意匠のベルト付きバッグは,前述の通り利用者が携行するためのものであり,商品を購入する際に利用者がベルト付きバッグを手にとってさまざまな角度から観察することが可能であるから,バッグ部分の背面が見易くないとは言えない。
(ハ)意匠に係る物品の特性から観察され易いか否か。
ベルト付きバッグの用途は,物品を収納することであるから,物品収納部であるバッグ部分は最も需要者に観察され易い場所である。観察のポイントは,使い勝手が良いか,物品を十分に収納できるかということであろう。本件登録意匠の場合,需要者は,普通のウエストバッグに比べて非常にスリムなバッグ部分を見て,“これは何に使う物だろう。財布も容易に入りそうにない。”などと疑問に感じるものと推測される。購入するかどうかを判断する前に,当該ベルト付きバッグを手にとってバッグ部分(特に襞部分)の構造・機能を確認する可能性が高い。実用品として購入する以上,実用的に役に立たないものを買うのは無駄だからである。従って本件登録意匠の襞部分は物品の特性から観察され易い部分である。
以上のことから,請求人が主張する要部は,本件登録意匠に係る物品の用途・機能から,意匠の構成要素として高く評価すべきものである。
(g)本件登録意匠の本質は,上記2段階の拡開により需要者の予測を超えてバッグ部分がダイナミックに拡幅することである。
(h)本件登録意匠の襞同士が重なった状態から襞同士が分離した状態を経て各襞が拡開するという2段階展開の作用のうち,分離した各襞が拡開するという点は,参考文献2により公知であり,普通の襠としての作用(衣服や袋類においてゆとりを持たせる)に過ぎない。従って,本件登録意匠の特徴が最も表出される基本的状態は襞同士が重なった状態となる。イ号意匠は襞同士が重なるという形態を有しないから,この点が本質的に相違する。
(i)さらに全体観察に戻ると,本件登録意匠はバッグ部分とベルト部分とが明瞭に区別されているのに対して,イ号意匠ではベルトとバッグとを兼ねるチューブ本体の一部を一対のスライド器具で区分して物品収納場所としている点において,形態面で決定的に異なる。この形態の相違により,前述の通り,本件登録意匠はメリハリのある区切れ感(不連続性)などの美感を,イ号意匠はバッグ及びベルト兼用のチューブ対が切れ目なく連なる一体感(連続性)などの美感を奏するのであり,美的印象が相反するものである。
(j)イ号意匠の形態は,単に形態が異なるというだけではなく,ウエストバッグの新しい使い方(スライド器具を動かして収納部の内部体積を変化させる)を提唱するものだから,独創性が極めて高く,従来品と一線を画するものである。いわゆるウエストバッグを全体形状で2つに分類すると,バッグ部分とベルト部分とが別部材として区別するタイプと,2つの部分を一つのチューブ体で兼用したタイプとしか存在せず,後者は,上記創作時点で利根川大地が発明したものしか存在しない。本件登録意匠は前者のタイプの一つに過ぎず,その本件登録意匠の創作範囲に対応すする類似範囲がイ号意匠を包摂すると解釈されることは,到底納得できるものはない。

5.むすび
以上の2つの相違点に鑑みて,本件登録意匠とイ号意匠とは類似しないものと解釈する。


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1.答弁の趣旨
被請求人は,「イ号意匠見本及びイ号説明図面に示す意匠は,登録第1405238号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める」と答弁し,その理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2.本件登録意匠について
(a)物品について
本件登録意匠に係る物品は「ベルト付きバッグ」であり,スポーツ等の活動をする際に物品を携行するために使用するものである。
(b)本件登録意匠の構成態様
(i)基本的構成態様
本件登録意匠は,ベルト部と中央部にベルト部の幅と略同じ幅のバッグ部を備え全体にベルトを構成している。
(ii)具体的構成態様
バッグ部の両端に左右のベルト部が接続され,それぞれのベルト部の端部には互いに連結する接合部が設けられ,また,ベルトの長さを調整する1箇所の調整部分を有する。バッグ部は,その正面部に,幅方向の中央部で,且つ長手方向に延びるジッパー付きの開口部を有し,その背面部にバッグ部の収容部が拡張可能なように,2つの襞が重なるようにして形成されている。
(c)本件登録意匠の要部
本件登録意匠の要部は,ベルト部と中央部のベルト部の幅と略同じ幅のバッグ部を備え全体にベルトを構成し,バッグ部は,その正面部に,幅方向の中央部で,且つ長手方向に延びるジッパー付きに開口部を有し,その背面部にバッグ部の収容部が拡張可能なように,2つの襞が形成されている点が従来にはない新規な構成態様であり,また,需要者が最も注視するところであり,この点が本件登録意匠の要部である。

3.イ号意匠について
(a)物品について
イ号意匠は,ウエストバッグであり,物品を携行するために使用されるものである。
(b)イ号意匠の構成態様
(i)基本的構成態様
イ号意匠は,ベルト相当部と中央部にベルト相当部の幅と略同じ幅のバッグ相当部を備え,全体としてベルトを構成している。
(ii)具体的構成態様
ベルト相当部とバッグ相当部が全体に一本のチューブ体により形成され,バッグ部相当部の両端に左右のベルト相当部が連続して接続される。また,ベルト相当部の両端には両端を連結するための連結具が設けられ,ベルト相当部の両端とバッグ相当部の間には,長さを調整する2つのスライド器具を有する。バッグ相当部は,その正面部に,幅方向の中央部で,且つ長手方向に延びるジッパー付きの開口部を有し,その背面部にバッグ部の収容部が拡張可能なように,2つの襞が上下に形成されている。

4.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(a)物品について
本件登録意匠もイ号意匠も,共に,物を収容するためのバッグ部を備えるベルトであって,意匠に係る物品は共通する。
(b)基本的構成態様について
本件登録意匠もイ号意匠も,共に,ベルト部途中凹部にベルト部の幅と略同じ幅のバッグ部を備え全体にベルトを構成している点で一致し,基本的構成態様は一致している。
(c)具体的構成態様
(i)一致点
本件登録意匠もイ号意匠も,共に,ベルト部は,その両端に連結具を備え,バッグ部は,その正面部に,幅方向の中央部で,且つ長手方向に延びるジッパー付きの開口部を有し,その背面部にバッグ部の収容部が拡張可能なように,2つの襞が形成されている点,で一致している。
(ii)差異点
(ア)本件登録意匠は,ベルト部はバッグ部に接続して設けられ,バッグ部とベルト部が区分されているのに対し,イ号意匠は,ベルト相当部とバッグ相当部が一本のチューブ体で形成されている。
(イ)バッグ部の背面に形成される2つの襞部は,本件登録意匠は一方が他方に重ねられる状態で折り込まれるのに対し,イ号意匠では,上下に分かれて折り込まれる。
(ウ)ベルトの長さ調整用の器具が,本件登録意匠では,1個であるのに対し,イ号意匠では左右1個ずつの2個である。
(d)イ号意匠の類似性
(i)本件登録意匠において,需要者の注意を引きやすい特徴部分(要部)は,「ベルト部とベルト部の幅と略同じ幅のバッグ部を備え,バッグ部は,その正面部に,幅方向の中央部で,且つ長手方向に延びるジッパー付きの開口部を有し,バッグ部は,その背面部にバッグ部の収容部が拡張可能なように,襞が形成されている点」にある。そして,この特徴部分については,イ号意匠も基本的構成態様及び具体的構成態様の一部として備えており,イ号意匠も需要者に対して本件登録意匠と共通の美感を生じさせている。
(ii)一方,具体的構成態様についての上述の差異点(ア)?(ウ)についてみると,差異点(ア)については,イ号意匠がベルト相当部とバッグ相当部が一本のチューブ体で形成されているか否かは,正確には断面図によらなければ,把握できないことであり,また,バッグ相当部は背面に襞が形成されていることから,バッグ相当部として認識できるのであるから,需要者がこれを見たとき,注意を引き易い部分とは言えない。
また,差異点(イ)については,需要者は,バッグ部を拡開するための襞の存在までは認識するとしても,襞の折り込み方法までは格別の注意を払うとは考えにくい。
また,差異点(ウ)については,いわゆるウエストバッグ類において,バッグの両側に長さ調整用器具を設けることは,請求人が提示する参考文献5にも見られるように格別新規な形態ではなく,この点も需要者が関心を持つ部分ではない。
(iii)以上からすれば,イ号意匠は,需要者が注意を引きやすい本件登録意匠の特徴を備えており,両者は共通の美感を生じさせており,他方で,両意匠の間である差異点は,いずれも需要者の注意を引き易い部分でなく,差異点から受ける印象は,両意匠の共通点から受ける印象を凌駕するものではない。
従って,本件登録意匠とイ号意匠とは,需要者の視覚を通じて起こされる全体的な美感を共通にしているものであるから,イ号意匠は本件登録意匠に類似しており,本件登録意匠の範囲に属するものである。


第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠(登録第1405238号意匠)は,平成20年(2008年)2月13日に特許出願され,その後意匠法第13条第1項の規定により平成22年(2010年)4月15日に意匠登録出願に変更され,平成22年(2010年)12月10日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「ベルト付きバッグ」とし,その形状,模様若しくは色彩またはこれらの結合(以下,「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)

2.イ号意匠
イ号意匠は,イ号意匠見本(別紙第2参照)及びイ号意匠説明図面(別紙第3参照)として現された,「ウエストバッグ」の意匠である。
なお,イ号意匠は,イ号意匠見本により現されたものであるが,本件登録意匠と対比するにあたり,本件登録意匠が,願書添付の図面によれば,形状のみ表されていることから,イ号意匠の形態については,イ号意匠説明図を参照しつつ,イ号意匠見本の形状のみを認定することとする。

3.両意匠の対比
(1)意匠に係る物品について
両意匠の意匠に係る物品は,表記は異なるものの,主として,使用者がスポーツ等の活動を行う際に物品を携行するために使用するものであり,共にベルト部の一部にファスナー付きで容積が拡開できる物品収納機能を持たせたという,用途及び機能が共通するものである。
(2)形状について
(ア)共通点
(A)正面視において,非収納状態でバッグ部とベルト部とを略同一幅の帯状としている点,
(B)ベルト部両端に連結具を設け,また,略矩形枠状の長さ調節器具を備えている点,
(C)長手方向の中間部に物品を収納するための布地を折り込んだバッグ部を設け,表面長手方向に横長のファスナーを設けている点,
において共通する。
(イ)相違点
(a)全体形状について
(a-1)正面視において,本件登録意匠は,バッグ部の両側に段差を設けてベルト部を接合しているのに対して,イ号意匠は,バッグ部とベルト部とを同一素材で段差なく一体に形成し,バッグ部とベルト部の区分けが明確でない点,
(a-2)平面視において,本件登録意匠は,収納機能を有するバッグ部が厚みをもち,バッグ部の両端に薄いベルト部が接合され,バッグ部とベルト部が明確に区分けされているのに対して,イ号意匠は,バッグ部及びベルト部が略同幅の厚みで一体に形成されて,バッグ部とベルト部の区分けが明確でない点,
(b)バッグ部について
(b-1)物品非収納状態において,バッグ部を背面方向から見たときに,本件登録意匠は,物品収納に際して拡開する布地を,【E-E線拡大断面図】に表されるように,ベルト部の幅より上下に広がったバッグ部の布地を三つ折りにして,下側布地を中央裏側に折り返し,上側布地をそれに被さるように中央裏側に折り返し,その折り返した上下辺がベルト部の上下辺と略同幅となるようにしていることにより,折り返した布地の重なり部分が,バッグ部の背面方向からは認識できず,下方方向にのみ隙間が形成されているため,拡開機能を有しないベルトの幅と同一の幅のバッグのように捉えられるのに対して,イ号意匠は,物品収納に際して拡開する布地を,裏面長手方向中央部に襠(まち)を設けて,内側に折り込んでベルト部と略同一の幅としていることにより,バッグの背面方向から見たときに,内側に折り込んだ布地がわずかに開口した横長の襠部分から内側にえぐれたように現れ,一見してバッグ部が拡開する機構を有していることが認識される点,
(b-2)物品収納状態において,バッグ部を背面方向から見たときに,本件登録意匠は,大きく上下奥行き方向に布地を拡開することにより,飴の包み紙のようにバッグ左右両端部が絞られた形状となるのに対して,イ号意匠は,横長の襠部分の内側に折り込まれた布地が外側に膨出して,焼き餅が裂けて外側に膨らんだような形状となる点,
(b-3)本件登録意匠は,バッグ部の両脇にゼッケン等をつるすことができる細い環材が備えられているのに対して,イ号意匠は,そのような環材が備えられていない点,
(c)ベルト部について
(c-1)本件登録意匠は,非収納状態でバッグと略同幅の空洞のない紐状であるのに対して,イ号意匠は,バッグ部と同じ材質で裏側を縫い合わせることにより空洞を設けたいわゆるチューブ状である点,
(c-2)本件登録意匠は,長さ調節用の略矩形枠状の器具が片側に一つ備えられているのに対して,イ号意匠は,両側に二つ備えられている点,
(c-3)ベルト部両端に設けられた連結具の雄雌の連結開放機構部において,本件登録意匠は,円弧状の切り欠き部と円弧状の膨出部で構成されているのに対して,イ号意匠は,略「つ」の字状の切り欠き部となだらかな弧状の膨出部で構成されている点,
において相違する。

4.本件登録意匠とイ号意匠との類否判断
以上の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,両意匠の類否を意匠全体として総合的に検討し,判断する。
(1)両意匠の形状について
(ア)共通点の評価
共通点(A)について,非収納状態でバッグ部とベルト部とを略同一幅の帯状としている点は,本件登録意匠の出願前には見られない特徴ではあるが,正面視したときにのみ看取される特徴であり,実際に手に取ったり,装着したときにいろいろな角度から観察されるこの種物品においては,一方向から見たときのみの共通点が類否判断に与える影響は限定的である。
なお,被請求人は「本件登録意匠もイ号意匠も,共に,ベルト部途中凹部にベルト部の幅と略同じ幅のバッグ部を備え全体にベルトを構成している点で一致し,基本的構成態様は一致している」点が需要者の注意を引き易い部分における特徴であり,両意匠は類似する旨主張するが,上記に述べたように様々な角度から観察される本物品にあっては,正面視のみにおける共通点により両意匠の類否判断を行うことは失当である。
共通点(B)については,この種物品にあっては,ベルトの長さを調節する機構を持たせることはごく普通に見られる態様であり,類否判断に与える影響は小さい。
共通点(C)については,収納物によりバッグ部の布地を拡張したりするために弾性素材を用いたり,襞を設けて拡開可能とすることは普通に見られる態様であり,収納部に横長のファスナー部を設けることも取り立てて特筆するほどの特徴とはいえず,類否判断に与える影響は小さい。

さらに上記(A)ないし(C)の共通点を総合しても,両意匠の類否判断に与える影響は限定的である。

(イ)相違点の評価
相違点(a-1)及び(a-2)については,特に本件登録意匠は,バッグ部とベルト部が素材や態様が異なるため明確に区分けされているのに対して,イ号意匠は,いわゆるチューブを形成する同一素材でバッグ部とベルト部が区分けなく構成されており,チューブ状のベルトにファスナーを設けた拡張可能な「ポケット」を設けたような印象を受け,需要者において両意匠を別異なものと印象づける大きな相違点となっており,類否判断に与える影響は極めて大きいといえる。
なお,被請求人は,「請求人は,『本件登録意匠はバッグ部分とベルト部分とが明瞭に区別されているのに対して,イ号意匠ではベルトとバッグとを兼ねるチューブ本体の一部を一対のスライド器具で区分して物品収納場所としている点において,形態面で決定的に異なる。』と主張している。しかしながら,イ号意匠においても,バッグ相当部分とベルト相当部分は,構造上,明確に区分されていることは既に指摘したとおりであり,また,請求人もこれを認めているところであり,異なることにはならない。」と主張するが,イ号意匠において,構造上バッグ相当部分とベルト相当部分が区分されているとしても,イ号意匠の外観に表れる形状においては,明確な区分けは存在せず,バッグ部とベルト部とが一体となったものと認識され,この点における被請求人の主張は採用することができない。
相違点(b)については,特に(b-1)及び(b-2)で挙げたように,バッグ部を拡張させるための襞の構成が大きく異なっており,そのため,背面から見たときに本件登録意匠は,重なった襞の下辺部がバッグ部及びベルト部の下側と一致するために襞の構成が看取されにくいのに対して,イ号意匠は,バッグ部裏面中央横方向に襠が形成され,拡張するための布地が内側に折り込まれていることが容易に看取され,両意匠の印象は大きく異なるものであり,また,物品収納状態での拡開したバッグ部の態様の相違は,需要者にとって,強く認識されるところであり,類否判断に与える影響は大きい。
なお,被請求人は「需要者は,バッグ部を拡開するための襞の存在までは認識するとしても,襞の折り込み方法までは格別の注意を払うとは考えにくい。」と主張するが,単なるベルトでなく,物品を収納できる機能を重視して購入をする需要者にとって,バッグ部の構造については十分な注意を払う部分であり,当該部位における構造の違いから生じる形状を十分認識するものであるから,この点における被請求人の主張は採用することができない。
相違点(b-3)については,細い環材の有無があるとしても,全体から見た場合バッグ部両端におけるわずかな構成の違いであって,類否判断に与える影響はごく小さいものである。
相違点(c)については,(c-1)両意匠におけるベルト部の素材や縫製方法の違いから生じる形状は,需要者が手に取ったり眺めたりしたときに大きな相違として認識され,類否判断に与える影響は大きいものである。(c-2)及び(c-3)については,この種物品において普通に採用される機構であって,その数が1つか2つかの相違や連結具におけるわずかな形状の相違はあまり目立たず,類否判断に与える影響はごく小さいものである。

以上,上記相違点を総合して捉えた場合,両意匠に別異なものと印象づけるような大きな影響を与えているといえる。

(2)小括
したがって,これらの共通点と相違点を総合して判断すれば,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品が共通するが,形状については,両意匠の共通点が類否判断に与える影響は限定的であるのに対して,相違点は両意匠を別異なものと印象づけるような大きな影響を与えるものであり,両意匠は類似するとはいえない。


第4 結び
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2013-08-01 
出願番号 意願2010-9527(D2010-9527) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (B4)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 裕和川上 佳 
特許庁審判長 原田 雅美
特許庁審判官 斉藤 孝恵
川崎 芳孝
登録日 2010-12-10 
登録番号 意匠登録第1405238号(D1405238) 
復代理人 佐々木 定雄 
復代理人 鶴谷 裕二 
代理人 伊東 忠彦 
代理人 今岡 憲 
代理人 伊東 忠重 
代理人 大貫 進介 

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